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緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告

2020年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(1):100?103,2020?緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告中道晶子*1高橋嘉子*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科QuestionnaireSurveyontheEaseofUseofEyeDropContainersinGlaucomaPatientsAkikoNakamichi1),YoshikoTakahashi1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterはじめに緑内障患者の多くは長期にわたり点眼治療を受けている.点眼容器は形状や硬さなどにより使用感が異なり,継続には患者への負担が少ない使用感の良い容器が求められる.さらに高齢者では筋肉や靭帯の柔軟性の低下,また筋肉の減少などにより運動能力が低下している1).そのため,若年者と比べて点眼の一連の動作が困難となり,点眼容器の使用感がアドヒアランスに影響する可能性があると考えられる.2007年に緑内障患者を対象に実施された点眼容器のアンケート調査報告2)では,もっとも使いやすい容器は参天製薬のデタントール?点眼液であった.この点眼薬には,使用感を追求して同社が開発した「ディンプルボトル?」(以下,DB)という名称の容器が用いられている.その後他社も開発を進め新しい点眼容器が次々に登場した.今回はそれらを含めた現状での点眼容器を評価するために調査を実施した.I対象および方法2017年10月?2018年2月に井上眼科病院に入院した患〔別刷請求先〕中道晶子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:AkikoNakamichi,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN100(100)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY者で,DBとそれ以外の点眼容器を含む3種類以上の点眼薬を使用している緑内障患者を対象にした(明らかな手指の障害を有する患者は含まず).使用中の点眼薬すべてについてアンケート調査を行った.調査項目は「持ちやすさ」「押しやすさ」「キャップ開閉のしやすさ」「液の出かた」「残量の見やすさ」の5項目で,0?5のスコアで回答を求めた.また,点眼容器に関する意見・要望を記載してもらった.得られた回答を点眼容器の形状で集計し,各項目のスコアを比較(Kruskal-Wallis検定)した.また,全症例より75歳以上を抽出し,同様に各項目のスコアを比較した.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.なお,本調査は井上眼科病院倫理委員会の承認を受け,患者に本調査の主旨を説明し,同意を得たうえで施行した.II結果対象は44名(男性18名,女性26名,49?88歳,平均年齢68.8±9.5歳)で,75歳以上は12名であった.使用中の点眼薬は延べ237剤で,薬剤の種類は46剤で,点眼容器の形状を分類したところ15種類となった.1人の患者が同じ形状の点眼容器を使用していた場合は緑内障点眼薬の回答を優先し,10名以上の回答があった7種類の点眼容器(図1)で比較した.スコアの平均を表1に示す.全体では「持ちやすさ」(p<0.001)で参天製薬(DB)と千寿製薬(平型容器)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に高かった.「押しやすさ」(p<0.001),「液の出かた」(p<0.05),「残量の見やすさ」(p<0.05)でノバルティスファーマ[旧アルコンファーマ](ラウンド型)と参天製薬(DB以外)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に低かった(図2).75歳以上では「持ちやすさ」(p<0.05),「押しやすさ」(p<0.05),「キャップ開閉のしやすさ」(p<0.05)で参天製薬(DB)と千寿製薬(平型容器)のスコアが他の点眼容器に比べて有意に高かった(図3).点眼容器に関する患者からの意見・要望を表2に示す.図1比較検討した容器の形状表1スコアの平均n持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさ液の出かた残量の見やすさ44参天製薬(ディンプルボトル?)444.4±0.8**4.1±1.13.8±0.93.6±1.13.4±1.2アルコンファーマ(ラウンド型)393.1±1.32.7±1.3**3.6±0.92.8±1.3*2.4±1.6*千寿製薬(平型容器)384.3±0.8**3.8±1.24.1±0.93.6±1.22.7±1.6日本点眼薬研究所(テーパー容器)223.6±1.23.8±1.03.6±1.03.5±0.93.2±1.3参天製薬(ディンプルボトル?以外)143.4±0.92.8±1.3**3.6±1.32.4±1.1*2.2±1.5*興和創薬(眼圧降下薬の容器)123.4±1.43.5±1.03.5±1.03.5±1.02.8±1.3ファイザー(ソフトボトル)123.8±0.93.6±1.03.3±1.13.3±0.93.2±1.17512参天製薬(ディンプルボトル?)124.1±0.9*4.2±1.0*3.9±1.1*3.9±1.14.1±1.0アルコンファーマ(ラウンド型)112.6±1.12.3±1.23.4±0.82.6±1.12.2±1.8千寿製薬(平型容器)104.6±0.7*3.8±1.2*4.2±0.9*3.6±1.12.7±2.3参天製薬(ディンプルボトル?以外)73.1±0.72.3±1.12.9±1.52.6±1.31.8±1.3日本点眼薬研究所(テーパー容器)43.3±0.52.5±0.62.8±0.52.8±0.52.7±0.6興和創薬(眼圧降下薬の容器)33.0±03.0±02.7±0.63.0±03.5±2.1ファイザー(ソフトボトル)33.3±0.63.0±03.3±0.63.0±03.5±0.7(**p<0.001,*p<0.05,Kruskal-Wallis検定)持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)**日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)**ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345012345012345液の出かた残量の見やすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)◆ファイザー(ソフトボトル)*興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345図2全体(**p<0.001,*p<0.05)012345持ちやすさ押しやすさキャップ開閉のしやすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)*千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345液の出かた残量の見やすさアルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)アルコンファーマ(ラウンド型)参天製薬(ディンプルボトル?以外)ファイザー(ソフトボトル)興和創薬(眼圧降下薬の容器)日本点眼薬研究所(テーバー容器)千寿製薬(平型容器)参天製薬(ディンプルボトル?)012345012345図375歳以上(*p<0.05)表2点眼容器に関する患者からの意見・要望・点眼容器の形が色々あって区別しやすいが製薬会社が同じ点眼容器は区別できない・キャップにはかどがついていて欲しい・薬液がどろどろしていると出にくい・キャップ,本体とも小さいと持ちづらい・薬液がどろどろしていると残量が見づらい・開封時のフィルムがわかりづらい・薬液に色がついていると残量がわかりやすい・開封時,フィルムがむきにくい・薬液と点眼容器の色が同じだと残量がわからないIII考按DBは患者の使いやすさを検証して開発された点眼容器である3).側面のくぼみと柔らかさにより,持ちやすく,弱い力でも容易に点眼できるのが特徴である.全体,75歳以上ともに5項目すべてにおいて良好な結果が得られた.また,参天製薬のDBと旧型容器の比較でも,全体と75歳以上ともに5項目すべてDBのスコアが高かった.点眼容器改良により使用感が向上していた.DBと並びスコアが高かったのが千寿製薬の平型容器であった.この容器も使用性の向上を目的として開発された容器であり,把持部面積の大きい扁平型をしている.点眼容器の改良が患者の使用感向上に寄与したとの過去の報告4)があり,今回の調査でも良好な評価が得られた.両点眼容器は「持ちやすさ」で全体と75歳以上のどちらのスコアも有意に高かったが,「押しやすさ」「キャップ開閉のしやすさ」では全体に差がなかった.この結果の差異は年齢による把持力の差が要因と考えた.患者からの意見に,薬液がどろどろしていると出にくく残量が見づらいとあった.また,薬液に色がついているものは残量がわかりやすいとある一方で,色がついていても薬液と点眼容器の色が同じだとわからないとあった.「液の出かた」では薬液の粘度,「残量の見やすさ」では薬液や点眼容器の色調が評価に影響する可能性があり,この2項目は点眼容器ではなく個々の薬剤でも比較検討すべきであった.本調査参加44名中9名で形状の違いが薬剤を識別する手段の一つとなっていた.各製薬会社で使用感を追究し開発したことによりさまざまな形状の点眼容器があるが,同じ製薬会社の点眼容器は形状が同じものが多い.キャップの色で識別している患者もいるが,誤認のリスクがある5).また,色覚が低下した患者では識別が困難となる.識別手段の工夫は,個々の患者への対応となるため,医療者の配慮が必要となる.結論として,DBと平型容器は使いやすい点眼容器であり,改良によって使用感が向上していた.文献1)小長谷百絵,林みつる,いとうたけひこほか:高齢者にとっての点眼容器の使いやすさに関する研究.人間工学51:441-448,20152)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,20073)東良之:医療過誤防止と情報色情報による識別性の向上?参天製薬の医療用点眼容器ディンプルボトルの場合?.医薬品情報学6:227-230,20054)鎌尾知行,溝上志朗,浪口孝治ほか:点眼容器の形状と色調が緑内障患者の使用性に与える影響.あたらしい眼科35:258-262,20185)高橋嘉子,井上結美子,柴田久子ほか:緑内障点眼薬識別法とリスク要因.あたらしい眼科29:988-992,2012◆**