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軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった 侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):722.727,2024c軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1例山下翔太*1,2佐々由季生*3永浜布美子*3飯野忠史*4江内田寛*2*1独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科*2佐賀大学医学部眼科学講座*3地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館眼科*4地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館血液内科CACaseofOrbitalApexSyndromeCausedbyInvasiveAspergillosiswithaGoodClinicalCourseaftertheDiagnosisofaSlightVisualFieldDefectShotaYamashita1,2),YukioSassa3),FumikoNagahama3),TadafumiIino3)andHiroshiEnaida2)1)DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Saga-kenMedicalcentreKoseikan,4)DepartmentofHematology,Saga-kenMedicalcentreKoseikanC目的:軽微な視野障害を契機に副鼻腔侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端症候群の診断に至り,良好な転機が得られたC1例を経験したので報告する.症例:58歳,女性.急性骨髄性白血病に対する寛解導入後の地固め療法で入院中,発熱に続き左歯痛,左.部疼痛・知覚鈍麻が出現.霧視も出現したため,眼科へ紹介となった.初診時の矯正視力は両眼ともC1.0と良好だったが,静的視野検査では左眼に傍中心暗点を認めた.画像上は副鼻腔炎を認め,抗真菌薬加療を行われていたが,数日で視力・視野障害が進行.再検したCMRIで側頭葉への炎症波及を認め,深在性真菌症疑いで内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,摘出組織からアスペルギルス症の診断となった.術後は視力・視野は速やかに改善,2年以上経過後も生存し,視力と視野は維持されている.結論:免疫不全患者で急速に進行する視力障害では侵襲性副鼻腔真菌症を考慮し,早期の診断治療につなげることが予後に重要である.CPurpose:Toreportacaseinwhichaslightvisual.elddefectwasobservedastheearlysymptomofinvasiveaspergillosis,alife-threateninginfectioninimmunocompromisedhosts.CaseReport:A58-year-oldfemalepatientwasadmittedtotreatacutemyeloidleukemia.Shehadfeverfollowedbybuccalpainandparesthesiaonherleftside,andat20-dayspostfever,visualdiscomfortoccurred.Althoughasmallparacentralscotomawasdetectedinherlefteye,hervisualacuity(VA)was20/20.MagneticresonanceimagingandserologicalexaminationsrevealedsinusitisCwithCanCaspergillosisCantigenemia.CDespiteCpharmaceuticalCtreatments,CherCleft-eyeCVACwasCa.ectedCinCaCcoupleCofCdays.CEndoscopicCparanasalCsurgeryCwasCimmediatelyCperformed,CandCherCVACandCvisualC.eldCimprovedCwithin1-weekpostsurgeryandhasbeenmaintainedfor2years.Conclusion:Aninvasivefungalinfectionshouldbeconsideredinimmunocompromisedpatientswithrapidlyprogressivevisualimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):722.727,C2024〕Keywords:副鼻腔侵襲性アスペルギルス症,侵襲性真菌症,眼窩先端症候群急性骨髄性白血病,傍中心暗点.in-vasiveaspergillosis,invasivefungaldisease,orbitalapexsyndrome,acutemyeloidleukemia(AML),paracentralCscotoma.Cはじめにある.診断にはCCTやCMRIなどの画像検査が有用だが,真侵襲性アスペルギルス症はアスペルギルス症のうち組織浸菌性副鼻腔炎に特有の石灰化などの特徴的所見がみられない潤を伴う急速進行性の病型とされる1).肺アスペルギルス症場合もあり,画像のみでは確定診断に至らない場合もある.がもっとも一般的だが,副鼻腔や皮膚病変から始まる場合も副鼻腔侵襲性アスペルギルス症の症状として,一般的には〔別刷請求先〕山下翔太:〒843-0393佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿甲C4279-3独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科Reprintrequests:ShotaYamashita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,4279-3Shimojuku-kou,Ureshinomachi,Ureshino,Saga843-0393,JAPANC722(118)悪臭のある鼻漏や.部痛,.部腫脹を初発とすることが多く,病変が眼窩内へ進展すると眼窩周囲の疼痛や視機能障害を生じる2).さらに頭蓋内に進展すると種々の脳神経障害や脳梗塞,意識障害などを起こす.診断が遅れると死に至る疾患であり,血液悪性疾患やステロイドの長期内服,糖尿病など免疫不全患者において発症のリスクが高い1,2).一方,眼窩先端症候群は感染症,腫瘍,外傷などさまざまな要因で生じ,視神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,外転神経の機能障害をきたす.視力低下・複視・眼球突出や眼瞼下垂などの症状を呈する3).その症状から,早期より眼窩先端症候群を考慮する症例はあるものの原因が多彩であり,とくに侵襲性アスペルギルス症によるものはまれなため,診断に難渋した症例や,治療が行われ救命につながった場合でも失明に至った症例が散見される4).今回,筆者らは軽微な視野異常を契機に,副鼻腔侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の診断に至り,外科的治療と抗真菌薬治療で生命予後のみならず,視機能の面でも良好な転機を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:胃潰瘍,急性骨髄性白血病.現病歴:急性骨髄性白血病に対して寛解導入後の地固め療法目的にC20XX年C7月C16日に血液内科に入院となった.血球減少期に発熱があり,セフェピムやメロペネムなどの抗菌薬治療が開始された.発熱C4日後から左歯痛,左.部知覚鈍麻が出現した.血液検査でCbDグルカンは陰性で,追加で評価されたアスペルギルス抗原は陽性であったが,感染巣は不明であった.発熱の原因としてアスペルギルス感染症が予想され,発熱C7日後からCCPFG(カスポファンギン)50mg/dayの投与を開始した.その後も症状は改善に乏しく,発熱11日目から鼻閉,霧視が出現したため精査目的で当科へ紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼(1.0×+2.25D),左眼(1.0C×+1.50D).眼圧は右眼C11mmHg,左眼C16mmHg.眼位・眼球運動に明らかな異常所見はなく,相対性求心性瞳孔反応欠損は左眼でわずかに陽性であった.フリッカ値は左眼で15CHz前後に低下していた.前眼部,中間透光体,眼底には白内障以外に特記所見を認めなかった(図1a,b).静的視野検査(Humphrey視野計:HFA)では左内下方に傍中心暗点を認めた(図1c).視野異常の原因検索目的で頭部CCT・眼窩部CMRIが評価され,CTでは左上顎洞・左篩骨洞に粘膜肥厚を認め,MRIでも副鼻腔炎を疑う粘膜肥厚と左下直筋の肥厚を認めたが,真菌症を示す石灰化などの特異的な所見は認めなかった(図2a,b).1週間後の再診時の左眼の視力は(0.2×+2.50D)と著明な低下を認め,眼底には大きな変化はみられなかったがCHFAでは中心C30°に広く拡大した視野障害を認めた(図3).頭部CMRIを再検したところ,左側頭葉に炎症の波及がみられた(図4a).深在性副鼻腔真菌症を疑い,再来C2日後,耳鼻科で内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,病理結果から侵襲性アスペルギルス症の診断となった(図4b).術後はCCPFGの投与が継続されていたが,画像所見では改善に乏しく,副鼻腔手術C1週間後よりアムホテリシンCB100Cmg/日の点滴に変更となった.同時期に当科を再来した際は,左眼視力はC0.3(0.8×+1.50D)まで改善しており,視野検査でも明らかな改善を認めた(図5a).その後は症状の増悪などなく経過していたが,副鼻腔手術C1カ月後より左の眼瞼下垂が出現した.その後のCMRIで左の海綿静脈洞部に感染性動脈瘤が疑われ,脳神経外科にて左浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス+左内頸動脈遮断術が施行された.術後C6日目からけいれん,見当識障害・発語障害が出現し,保存的加療でC10日目までにけいれん,見当識障害は改善したものの失語症は残存した.全身状態の悪化のために眼科受診は中断されていたが,約2年後の再来時には,左眼視力はC0.3(1.2CpC×sph+1.75D(cyl.0.50DAx40°)と良好で,HFAもほぼ正常であった(図5b).CII考察本症例は発熱と.部から側頭部の疼痛および知覚鈍麻に続き,急激な視力低下・視野障害を生じ,診断に至った侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端部症候群である.良好な生命予後,視機能維持が得られた要因について,既報を参照しながら検討した.真菌感染症の早期の診断のため,非侵襲的であり広く行われているのが生化学検査である.Cb-Dグルカンが一般的には使用されるが,侵襲性アスペルギルス症においては陽性率がC77%との報告があり,診断に至らない場合もある5).一方で,好中球減少患者における侵襲性真菌症では,発熱に続くもっとも早期の検査所見としてCb-Dグルカンの有用性をあげているものもみられる6).同報告では,侵襲性真菌症の診断がつくまでの日数の中央値がC7.5日であったのに対し,Cb-Dグルカンは発熱から中央値C0.5日,CT上の変化は中央値C4日で陽性となっていた6).また,血清アスペルギルス抗原も広く使用されており,侵襲性アスペルギルス症において感度C71%,特異度C89%と良好な成績であったとの報告もある7).さらに感度を高めるため両者の併用を推奨する論文もみられ,今回の症例でも両者を併用しており,Cb-Dグルカンは陰性であったもののアスペルギルス抗原が陽性であったため,早期の抗真菌薬投与を行っている8).CTを用いた診断の有効性について検討した論文では,侵abc左眼右眼図1初診時検査所見(20XX/8/7)Ca:眼底写真.眼底には視神経乳頭を含め明らかな異常所見を認めなかった.Cb:光干渉断層写真(OCT).左眼の内下方にわずかな神経線維層の菲薄化を認める以外に大きな変化はみられなかった.Cc:HFA.右眼はほぼ正常所見であったが,左眼に傍中心暗点を認めた.襲性真菌性副鼻腔炎と診断のついた患者C43人のうち,11.6腔内視鏡での観察を行い,感染が疑わしい際は生検まで施行%の症例ではCCTでまったく副鼻腔所見がなく,39.5%ではし,早期に診断をつける方法の有用性を示している.この方軽微な変化にとどまり,真菌感染症に特異的な石灰化像の所法で,同施設における生命予後は約C50.69.8%まで改善し見もなかったとされており,CTのみでは診断がむずかしいたとされているが,これほどの密な対応を行っても罹患後のことを示している9).同報告では易感染性のある患者で発熱生命予後はC70%に届かず,この疾患の生命予後の悪さが伺や.部痛などがみられた場合は全例でC24.48時間ごとの鼻える9).ab図2頭部CT,MRI所見(20XX/8/8)Ca:頭部CCT画像.眼科初診後に施行した頭部CCTでは,左上顎洞,左篩骨洞に粘膜肥厚を認めたが,石灰化の所見などはみられなかった.Cb:頭部CMRI画像.同日施行した頭部CMRIでも副鼻腔炎を疑う左副鼻腔の粘膜肥厚や左下直筋の肥厚を認める程度であった.侵襲性副鼻腔真菌症の生命予後に関連する因子として,Monroeらは頭蓋内進展の有無をあげているが,年齢や免疫不全の原因疾患は有意差がなかった10).Piromchaiらは急性侵襲性副鼻腔真菌症C59例の解析において,症状出現から治療開始までの期間が予後に関連していた(p=0.045)としており,とくにC14日以内の生存確率の減少が著しいことから,14日を良好な生命予後のための治療開始のカットオフポイントとしている11).また,Turnerらは急性侵襲性真菌症として報告されたC398症例で多変量解析を行った結果として,年齢が高く(OR:1.018,p=0.005),頭蓋内への波及(OR:1.892,p=0.03)がある患者で予後が不良であった12).この解析で扱った患者のC2割は何らかの眼窩部への進展の症状を認めていたが,直接的な生命予後とは結びついておらず,眼図3再診時HFA所見(20XX/8/13)初診からC6日後には,中心C30°まで広汎に視野障害が進行していた.図4頭部MRI再検時の所見および病理検査所見a:頭部CMRI画像.視野障害進行後(20XX/8/13)に再検された際には,左側頭葉に炎症の波及がみられた.Cb:病理所見.手術時に左蝶形骨洞より摘出された病変からは壊死組織とともにアスペルギルスを疑う真菌が認められ,侵襲性アスペルギルス症の診断となった.ab図5:耳鼻科手術2週後および2年後の左眼HFA所見a:耳鼻科手術C2週後に施行したCHFA所見.視野障害は著明に改善していた.b:2年後に再来となった際のCHFA所見.視野障害は改善を維持していた.窩部への進展を認めた場合でも,眼球摘出および眼窩内容除去術を行うかどうかは,状況を見きわめる必要がある12).一方で副鼻腔手術(OR:0.357,p=0.02)は生命予後を改善し,内視鏡を用いた手術(OR:0.486,p=0.005)でも改善効果が統計学的に示されている12).侵襲性副鼻腔真菌症と診断されたC55症例の解析では,45%に眼筋麻痺,36%に視力低下,33%に眼球突出を認めたと報告されており,眼症状の頻度は高い13).そのうち診断初期に視力評価を行えたC34例C68眼において,16眼(24%)は光覚なしであった.また,最終的な視力評価を行えたC32例61眼ではC18眼(30%)で光覚なし(眼球内容除去・眼球摘出を行ったC9例を含む),8眼(13%)で矯正視力C0.3以下であったと報告されており,実に半数近くの症例で視力に強い悪影響を及ぼしていた13).視力予後良好因子を解析した報告は少ないが,Hirabayashiらは内視鏡下副鼻腔手術を受けた患者は受けられなかった患者と比較し,logMAR視力で平均C7.8ライン視力がよかったと報告しており,手術は視機能維持にも有用と考えられる13).しかし,症状出現から手術までの期間については言及されておらず,視機能に対する早期手術療法の有用性については,さらなる解析が待たれる.筆者らの経験した症例では,副鼻腔感染を疑わせる歯痛,頭痛の出現からC3日,.部疼痛,知覚鈍麻出現からC1日でCPFGの投与が開始されており,そのC13日後に手術となっている.眼症状を契機とした場合には,軽微な視野障害が判明してからはC8日,視野障害が進行し視力がC0.2まで悪化してからはC2日で手術と速やかに対応できた.一方で,前述のように綿密に副鼻腔内視鏡検査を行う場合でも診断に難渋したとの報告もある.今回の症例は眼窩先端部への侵襲により自覚症状が出現しやすく,真菌抗原血症の感染源同定にもつながり,病巣コントロールとしての内視鏡下副鼻腔手術を早期に施行できたため,頭蓋内進展があったにもかかわらず良好な生命予後および視力予後を得られたものと考えられる.侵襲性副鼻腔真菌症は予後不良な疾患であり,眼窩先端症候群を生じた場合は視機能維持も困難な症例が多い.眼症状の頻度が高い疾患であり,眼科が初診となる場合もあるため,病期や進展部位によって症状が多彩であることを理解し,とくに免疫不全の病歴のある患者において,自覚症状がある場合には視力がよくても視野検査,フリッカ視野計測などまで行って視神経への影響を検索することが疾患を見落とさないC1つのポイントと思われる.そして他科と協力し早期の診断・治療につなげることが生命予後のみならず視機能維持のためにも非常に重要である.文献1)ChakrabartiCA,CDenningCDW,CFergusonCBJCetal:Fungalrhinosinusitis:aCcategorizationCandCde.nitionalCschemaCaddressingCcurrentCcontroversies.CLaryngoscopeC119:C1809-1818,C20092)大國毅,朝倉光司,本間朝ほか:副鼻腔真菌症症例の検討.耳鼻臨床101:21-28,C20083)YehCS,CForoozanR:OrbitalCapexCsyndrome.CCurrCOpinCOphthalmolC15:490-498,C20044)越塚慶一,花澤豊行,中村寛子ほか:眼窩先端症候群を伴った浸潤型副鼻腔真菌症のC2症例.頭頸部外科C25:325-332,C20155)KarageorgopoulosCDE,CVouloumanouCEK,CNtzioraCFCetal:b-D-glucanassayforthediagnosisofinvasivefungalinfections:aCmeta-analysis.CClinCInfectCDisC52:750-770,C20116)SennL,RobinsonJO,SchmidtSetal:1,3-Beta-D-glucanantigenemiaCforCearlyCdiagnosisCofCinvasiveCfungalCinfec-tionsCinCneutropenicCpatientsCwithCacuteCleukemia.CClinCInfectDisC46:878-885,C20087)Pfei.erCCD,CFineCJP,CSafdarN:DiagnosisCofCinvasiveCaspergillosisusingagalactomannanassay:ameta-analy-sis.ClinInfectDisC42:1417-1427,C20068)DichtlCK,CForsterCJ,COrmannsCSCetal:ComparisonCofCb-D-glucanandgalactomannaninserumfordetectionofinvasiveaspergillosis:retrospectiveCanalysisCwithCfocusConearlydiagnosis.JFungi(Basel)C6:253,C20209)SilveiraCMLC,CAnselmo-LimaCWT,CFariaCFMCetal:CImpactofearlydetectionofacuteinvasivefungalrhinosi-nusitisCinCimmunocompromisedCpatients.CBMCCInfectCDisC19:310,C201910)MonroeMM,McLeanM,SautterNetal:Invasivefungalrhinosinusitis:aC15-yearCexperienceCwithC29Cpatients.CLaryngoscopeC123:1583-1587,C201311)PiromchaiCP,CThanaviratananichS:ImpactCofCtreatmentCtimeConCtheCsurvivalCofCpatientsCsu.eringCfromCinvasiveCfungalCrhinosinusitis.CClinCMedCInsightsCEarCNoseCThroatC7:31-34,C201412)TurnerJH,SoudryE,NayakJVetal:SurvivaloutcomesinCacuteCinvasiveCfungalsinusitis:aCsystematicCreviewCandquantitativesynthesisofpublishedevidence.Laryngo-scopeC123:1112-1118,C201313)HirabayashiKE,IdowuOO,Kalin-HajduEetal:Invasivefungalsinusitis:riskCfactorsCforCvisualCacuityCoutcomesCandCmortality.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:535-542,C2019C***

Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例

2016年4月30日 土曜日

《第4回日本視野学会原著》あたらしい眼科33(4):573〜576,2016©Humphrey10-2プログラムで明らかになった後頭葉脳梗塞による傍中心暗点の1例田中波*1横田聡*1,2友松洋子*1友松威*1高村佳弘*1稲谷大*1*1福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学*2京都大学大学院医学研究科眼科学ParacentralScotomaduetoOccipitalLobeCerebralInfarctionDetectedbyHumphrey10-2ProgramNamiTanaka1),SatoshiYokota1,2),YokoTomomatsu1),TakeshiTomomatsu1),YoshihiroTakamura1)andMasaruInatani1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukui,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine緑内障ではHumphrey視野計(HFA)24°内検査(24-2)では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10°内検査(10-2)では視野異常を認めることがあり,黄斑局所の評価として有用性が知られている.今回筆者らはHFA24-2では不明瞭だったが,HFA10-2で同名1/4盲を認めた後頭葉脳梗塞の症例を報告する.症例は66歳,男性,突然の傍中心暗点を自覚し福井大学医学部附属病院眼科を受診した.眼病歴はなく,視野検査以外では有意な所見は認めなかったがHFA24-2で非特異的な傍中心暗点を同側右側に認めたため後頭葉の虚血性変化を疑い,頭部MRI,HFA10-2を行ったところ,左後頭葉鳥距溝付近に虚血性変化を認め,右下同名1/4盲を認めたことから後頭葉梗塞の診断に至った.一次視覚野において,網膜の黄斑領域からの投射は比較的広い範囲を占める.そのため後頭葉病変のサイズに対して,黄斑部の視野障害が広くないことがある.本症例のように脳神経系の器質的障害による視野障害でも,とくに黄斑局所の視野障害においてはHFA10-2により視野障害の部位が明確にできる場合がある.TheHumphreyFieldAnalyzer(HFA)10-2program(10-2)iswellknowntobeusefulinevaluatingparafovealscotomainpreperimetricglaucoma,butisnotmuchusedintheneuroophthalmologyarea.Wereportthecaseofaparacentralhomonymousscotomacausedbycalcarinesulcusinfarctionthatwasnotfoundby24-2,butwasdetectedby10-2.A66-year-oldmalenoticedsuddenonsetofaparacentralscotoma3daysaftersurgeryforrectalcancer.Hehadnohistoryofeyedisease.HFA24-2showednon-homonymousparacentralscotoma.Magneticresonanceimaging(MRI)revealedischemicchangenearthecalcarinesulcus.HFA10-2showedright-inferiorhomonymousscotoma,whichwethereforediagnosedasoccipitallobeinfarction.Intheprimaryvisualcortex,nervesfromthemacularareaprojecttoarelativelywideareaofthecortex;visualfielddefectsinthisareaarethereforerelativelysmall.Inthecaseofcalcarinesulcuslesions,therefore,HFA10-2canbeusefulindetectingparafovealscotoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):573〜576,2016〕Keywords:Humphrey10-2プログラム,Humphrey視野検査,傍中心暗点,後頭葉脳梗塞,一次視覚野.Humphrey10-2program,HumphreyFieldAnalyzer(HFA),paracentralscotoma,occipitallobeinfarction,primaryvisualcortex.はじめにHumphrey視野検査(HumphreyFieldAnalyzer:HFA,カールツァイスメディテック社)はさまざまなプログラムが設定可能で,中心30-2プログラム(30-2),中心24-2プログラム(24-2)ではそれぞれ中心視野30°,24°以内の6°間隔の検査点を測定する.HFA30-2の利点は辺縁部の暗点を見逃しにくいこと,HFA24-2の利点はHFA30-2に比べて測定時間が短いことである.ただしこれらの場合,中心視野10°以内はわずか12点しか測定されない.これに対しHFA10-2では10°以内の視野を2°間隔で68点測定するので中心部の詳細な検査が行える.緑内障性視野障害の90%以上が固視点から30°以内の暗点として始まる1,2)ので,緑内障の閾値検査では現在HFA30-2もしくはHFA24-2がおもに用いられている.しかし,HFA30-2やHFA24-2では異常のないpreperimetricglaucomaの患者でもHFA10-2で初めて眼底所見に対応した視野異常を認め,初期緑内障と診断されることがある.そのためHFA30-2やHFA24-2では視野障害が認められない場合でも,視神経乳頭や網膜神経線維層に緑内障性変化がみられる場合はHFA10-2での再検査が重要であることは緑内障分野では認識されている3,4).一方,視野1°当たりに割り当てられる皮質面積は偏心度すなわち中心窩からの相対的な位置と,ニューロンの視覚処理経路上での階層位置の両方に依存しており,中心視野の処理にはより多くの皮質が割り当てられている5〜9).そのため比較的広い後頭葉の脳梗塞であっても,それが中心近くの視野であれば,対応する網膜の障害面積は狭く視野障害の範囲は小さい場合がある.今回筆者らは,画像で確認すると明らかな後頭葉脳梗塞であるにもかかわらず,網膜の黄斑領域に対応している位置だったため視野障害が小さくなり,HFA24-2では視野異常が不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,最終的に後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った一症例を経験したので報告する.I症例症例:66歳,男性.家族歴・既往歴:家族歴に特記事項なし.40歳時,虫垂炎手術,眼病歴なし.現病歴:2014年8月直腸癌に対し福井大学医学部附属病院消化器外科で腹腔鏡下直腸切除術を行った.術後3日目午後12時30分頃,術後に行われる起き上がりのリハビリ中に,突然視野の右側が光り,その後両眼の傍中心暗点を自覚した.改善しないため術後4日目当院眼科紹介初診となった.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.0(n.c.),relativeafferentpupillarydefect陰性,眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgであった.中心フリッカー値は右眼40.7Hz,左眼41.8Hz,患者にとって初めての視野検査であったHFA24-2で右眼は上耳側の傍中心暗点,左眼は下鼻側の傍中心暗点を認めた(図1).その他,中間透光体は軽度白内障を認めるのみで,眼底にも有意な所見は認めなかった(図2).両側ともに傍中心暗点を認めたがHFA24-2では視野障害の範囲が明確ではなかったため,中心視野の障害程度を詳細に確認するために後日改めてHFA10-2にて再検査を行った.また,急性発症の両眼性病変であり,暗点の位置は左右眼で上下が異なるものの,同側右側に認めたため,左後頭葉の血管性病変を疑いmagneticresonanceimaging(MRI)を施行した.その結果,HFA10-2では右下同名1/4盲を認め(図3),MRIでは,急性期脳梗塞および閉塞解除後のluxuryperfusionが反映されていることを確認した(図4).臨床経過とも一致し,急性期の左後頭葉鳥距溝脳梗塞と診断した.視野障害の他には脳神経・感覚・運動・協調運動・言語に異常は認めなかった.II考按今回筆者らは,HFA24-2の視野検査では不明瞭だったが,HFA10-2で明らかな右下同名1/4盲を認め,後頭葉鳥距溝脳梗塞の早期診断に至った1症例を経験した.本症例では視野障害の範囲が大きくなかったため6°間隔の視野検査では視野障害の範囲を特定することがむずかしかったが,2°間隔であれば明確にすることができた.これと同様なことは初期緑内障でも報告されており,HFA24-2では見つからない視野障害がHFA10-2では眼底所見と一致して発見されることがある3,4).つまり,後頭葉脳梗塞でも視野障害が広くなければ自動視野計の計測点の隙間に入り見逃してしまうことがあり,本症例と同様の報告が遠藤らによってすでになされている10).また,本症例の特徴としては画像上明らかな梗塞にもかかわらず,固視点近くの視野であったために視野障害が狭い範囲であったことがあげられる.これは大脳での皮質の面積と網膜の面積との関連から論じられる.中心視野は大脳皮質の比較的広い面積に投射され,一方,周辺視野はそれに対して狭くなる11~13).中心窩近くの網膜から投射を受けているところであれば,梗塞が比較的広い範囲であっても,視野障害は小さくなり,中心6°以内の測定点の間に収まってしまう場合がある.本症例も,左後頭葉鳥距溝の脳梗塞であり障害を受けた皮質の面積に比較して,網膜に相当する部分は狭かった.一方,患者にとって初めての視野検査であり,固視不良が20%を超えていた.それにより,HFA24-2では左右で上下に分かれた暗点となって検出された.HFA10-2では同様の固視不良であったが,測定点の密度が高いことにより真の暗点の広さに近い結果が得られ,診断に至った.固視点近傍の感度低下では固視不良をきたすことがあり,その点からもHFA10-2は暗点検出に有用であった.したがって,脳神経学的領域でも初期緑内障の場合と同様にHFA24-2で明確でない場合であっても,視野障害をきたしうる脳の器質的障害の疑いがあればHFA10-2の情報が診断に有用である.今回の症例は他の脳神経症状の合併がなかったため,診断に至るには初診時の問診や検査結果から脳血管障害を疑うことが必要であった.自覚症状が中心暗点のみの場合,眼科的疾患をまず考慮し患者は眼科を受診するが,傍中心暗点の場合は視力低下を起こさず,不定愁訴として見逃されがちである.HFA10-2にて中心視野の障害範囲を明確にしたうえで,その視野障害が同名性であれば脳血管障害を疑い,早急に頭部の画像検査を行うことが見逃しを防ぐために重要である.また,その場合,視野障害の範囲がごく小さいものであっても,中心視野であれば比較的梗塞の範囲は広い可能性があることを留意すべきである.本症例は他科入院中に視野障害が出現し当科に紹介されたため,急性期で脳梗塞の診断がつき治療介入を速やかに開始することができた.早期発見が良好な予後,新規病変の予防につながる.急性期後頭葉脳梗塞による狭い視野障害の症例を経験した.鳥距溝の限局的な脳梗塞である場合,傍中心暗点以外の神経学的所見がはっきり現れない場合があるうえ,その暗点も中心視野に近いほど梗塞巣の大きさに比較して小さな暗点になり検出がむずかしくなる.発症様式や症状から本症例のような疾患を疑い速やかに適切な検査を行うことで,脳の器質的障害の早期発見から早期治療につなげることができる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WernerEB,BeraskowJ:Peripheralnasalfielddefectsinglaucoma.Ophthalmology86:1875-1878,19792)CaprioliJ,SpaethGL:Staticthresholdexaminationoftheperipheralnasalvisualfieldinglaucoma.ArchOphthalmol103:1150-1154,19853)HoodDC,RazaAS,deMoraesCGetal:Glaucomatousdamageofthemacula.ProgRetinEyeRes32:1-21,20134)HangaiM,IkedaHO,AkagiTetal:Paracentralscotomainglaucomadetectedby10-2butnotby24-2perimetry.JpnJOphthalmol58:188-196,20145)DanielPM,WhitteridgeD:Therepresentationofthevisualfieldonthecerebralcortexinmonkeys.JPhysiol159:203-221,19616)PolimeniJR,BalasubramanianM,SchwartzEL:Multiareavisuotopicmapcomplexesinmacaquestriateandextra-striatecortex.VisionRes46:3336-3359,20067)SchiraMM,TylerCW,Speharetal:Modelingmagnificationandanisotropyintheprimatefovealconfluence.PLoSComputBiol6:e1000651,20108)SchiraMM,WadeAR,TylerCW:Two-dimensionalmappingofthecentralandparafovealvisualfieldtohumanvisualcortex.JNeurophysiol97:4284-4295,20079)HolmesG:FerrierLecture:TheOrganizationoftheVisualCortexinMan.ProceedingsoftheRoyalSocietyB:BiologicalSciences132:348-361,194510)EndouH,IkedaF,ChumanH:ハンフリー10-2プログラムが診断に有用であった同名性孤立暗点を生じた二例.日本視能訓練士協会誌34:185-189,200511)HortonJC,HoytWF:Therepresentationofthevisualfieldinhumanstriatecortex.ArevisionoftheclassicHolmesmap.ArchOphthalmol109:816-824,199112)GrayLG,GalettaSL,SiegalTetal:Thecentralvisualfieldinhomonymoushemianopia.Evidenceforunilateralfovealrepresentation.ArchNeurol54:312-317,199713)WongAM,SharpeJA:Representationofthevisualfieldinthehumanoccipitalcortex:amagneticresonanceimagingandperimetriccorrelation.ArchOphthalmol117:208-217,1999〔別刷請求先〕田中波:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学Reprintrequests:NamiTanaka,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalScience,UniversityofFukui,23-3Shimoaizuki,Matsuoka,Eiheiji,Yoshida,Fukui910-1193,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(91)573574あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(92)図1初診時視野検査HFA24−2右眼中心右上,左眼中心右下に感度低下を認めた.右眼:中心窩閾値37dB,固視不良7/16,偽陽性0%,偽陰性7%,左眼:(以下同順)34dB,2/15,0%,1%.図2初診時眼底写真および光干渉断層計両眼とも中心窩付近に特記すべき異常所見を認めなかった.図3視野検査結果HFA10-2両眼とも右下視野に同名性の暗点を認めた.〔右眼:中心窩閾値39dB,固視不良8/19,偽陽性2%,偽陰性6%,左眼:(以下同順)37dB,3/16,1%,0%〕図4MRI画像a:Diffusion-weightedimaging:左後頭葉の鳥距溝付近に異常高信号域を認めた.b:T2強調画像fluidattenuatedinversionrecovery:同部位に高信号を認めた.c:Apparentdiffusioncoefficientmap:同部位が低値であった.d:Arteriald:Spinlabeling法:同部位に高信号を認めた.a,b,cより急性期鳥距溝脳梗塞と診断された.また,c,dより閉塞解除後のluxuryperfusionの反映を認めた.(93)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016575576あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(94)