《原著》あたらしい眼科30(1):117.121,2013c視神経乳頭を含んで光線力学的療法を施行したポリープ状脈絡膜血管症の1例矢野香*1張野正誉*1富永明子*1越智亮介*1山岡青女*2喜田照代*3*1淀川キリスト教病院眼科*2福岡青州会病院眼科*3大阪医科大学付属病院眼科ACaseofPeripapillaryPolypoidalChoroidalVasculopathyTreatedwithPhotodynamicTherapyIncludingOpticDiscKaoriYano1),SeiyoHarino1),AkikoTominaga1),RyosukeOchi1),SeijyoYamaoka2)andTeruyoKida3)1)DepartmentofOphthalmolgy,YodogawaChristianHospital,2)3)DepartmentofOphthalmolgy,OsakaMedicalUniversityDepartmentofOphthalmolgy,FukuokaSeisyuukaiHospital,目的:傍乳頭部のポリープ状脈絡膜血管症に対し,視神経乳頭を含んだ領域に光線力学的療法を施行した症例の報告.症例:69歳の男性が1カ月前からの左眼の変視にて来院した.所見:矯正視力は左眼0.3,右眼1.0で,左眼視神経乳頭近傍に橙赤色隆起病巣,網膜下出血,硬性白斑を認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影にて視神経乳頭近傍にポリープ状病巣による過蛍光部位を認め,ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.光線力学的療法を施行し,治療3カ月後矯正視力1.0に回復し,また視神経症の発症も認めなかった.治療から24カ月後において,再発を認めなかった.結論:視神経乳頭を含む光線力学的療法を行い,合併症なく経過良好である1例を経験した.Purpose:Toreportacaseofperipapillarypolypoidalchoroidalvasculopathy(PCV)treatedwithphotodynamictherapy(PDT)includingtheopticdisc.Patient:A69-year-oldmalehadmetamorphopsiaofhislefteye,ofonemonth’sduration.Best-correctedvisualacuity(BCVA)ofhislefteyewas0.3;righteyewas1.0.HehadperipapillaryPCVwithretinalhemorrhageandhardexudates.Indocyaninegreenangiographyshowedhyperfluorescenceneartheopticdisc.BCVAimprovedto1.0at3monthsafterPDTtreatment;therewerenosignsofopticneuropathy.Weobservednosignsofrecurrenceat24months.Conclusion:NocomplicationsappearedinacaseofPCVtreatedwithPDTincludingopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):117.121,2013〕Keywords:ポリープ状脈絡膜血管症,傍乳頭病変,光線力学的療法.polypoidalchoroidalvasculopathy,peripapillarylesion,photodynamictherapy.はじめに光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)はわが国で2004年5月に認可されて以降,中心窩下に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)やポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を有する加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療として用いられている.現在,PDTの照射範囲はフルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)で最大病変径(GLD)を決定し,それに500μmを加えた治療スポットにレーザーを照射することがガイドラインで推奨されている.最大病変径が5,400μm以下,治療スポットの鼻側縁端は視神経乳頭の側頭側縁端から200μm以上離れた位置とすることが標準的であるが,視神経乳頭に病変が近い場合は,照射範囲が乳頭にかかってどこに照射するか迷うこともある.これまで,視神経乳頭を含んで照射するのは禁忌とされていたが,Bernsteinらは,視神経乳頭を含んでPDTを施行した加齢黄斑変性の7例2)について,またSchmidt-Erfurthらは傍視神経乳頭部血管腫に対し視神経乳頭内の中心動脈を含まずPDTを施行し視神経障害を認めなかった例を報告し〔別刷請求先〕矢野香:〒540-0008大阪市中央区大手前1丁目5番34号大手前病院眼科Reprintrequests:KaoriYano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OtemaeHospital,1-5-34Otemae,Cyuo-ku,OsakaCity540-0008,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(117)117ている3).そこで今回,筆者らはポリープ状病巣が視神経乳頭に近く,視神経乳頭を含む領域をPDTの照射範囲に設定し治療を行ったが,明らかな視神経障害は認めず経過良好であった1例を経験したので報告する.I症例患者:69歳,男性.主訴:左眼変視.現病歴:2008年9月初旬頃より左眼の変視を自覚し,2007年10月14日近医を受診したところ,黄斑部近傍の出血を指摘され淀川キリスト教病院紹介となった.既往歴:痛風があり内服治療中.嗜好歴:40年間1日20本の喫煙.初診時所見:視力は右眼0.6(1.0×sph+0.5D(cyl.1.25DAx130°),左眼0.2(0.3×sph+1.25D(cyl.1.0DAx70°).眼圧は右眼17mmHg,左眼14mmHg.前眼部は著変なく,中間透光体に両眼軽度皮質白内障を認めた.眼底(図1)は右眼は著変なし,左眼に視神経乳頭の耳側上方に橙赤色隆起病巣,黄斑の上方と下方に網膜下出血,その出血の上方に硬性白斑を認めた.FAの後期像にて視神経乳頭耳側から上方に接する過蛍光と蛍光漏出を認めた(図2).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)にて過蛍光部位をポリープ状病巣と判断し,傍視神経乳頭部のPCVと診断した(図2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて橙赤色隆起病巣に一致するポリープ状病巣の急峻な隆起とその周囲の滲出性網膜.離を認めた(図3).経過:中心窩外のポリープ状脈絡膜血管症で,レーザー光凝固の適応も考えられたが,乳頭に接している病変で,乳頭や乳頭黄斑線維束の障害が危惧されたことと,PCVに対するPDTの有効性がほぼ確立されていたことから,PDTの施行を考慮した.そして,患者本人と家族に,ガイドラインとは異なる照射方法であることと,視神経への影響から視野へ障害がでる可能性があること,視力の低下が起こる可能性があることを丁寧に説明し,十分なインフォームド・コンセントを得た.2008年11月17日PCVに対しPDTを施行した.abcd図1初診時の眼底写真とPDT治療後の眼底写真a:初診時.橙赤色の隆起性の病巣と眼底出血を認める.b:PDT3カ月後.橙赤色病巣の縮小を認めるが,硬性白斑が増加した.c:PDT6カ月後.病巣の消失,出血の消失を認める.d:PDT18カ月後.再発を認めない.118あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(118)ababcd図2蛍光眼底造影写真所見a:初診時FA後期8分.b:初診時IA後期15分.視神経乳頭に接して過蛍光を認めた.c:PDT3カ月後FA後期10分.d:PDT3カ月後IA後期8分.過蛍光部位の消失を認めた.出血によるブロックも減少した.abdec図3光干渉断層計所見a:初診時.ポリープ病巣(灰色矢印)および滲出性網膜.離(SRD:白色矢印)を認めた.b:PDT1カ月後.c:PDT3カ月後.PEDおよびSRDの消失を認めた.d:PDT6カ月後.e:PDT18カ月後.(119)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013119図4PDTデザイン病変に500μmのマージンをとりPDTスポットサイズ(白色矢印)を決定した.GLD3,641μm.PDTスポットサイズ4,600μm.ガイドラインに沿って,ベルテポルフィンを6mg/m2(体表面積)を10分間かけて静脈投与し,薬剤投与から15分後に83秒間レーザー光を照射した.最大病変部直径(GLD)は3,641μmであり,500μmのマージンをとり治療スポットサイズをFAでの漏出部位にて決定した(図4).治療スポットサイズは直径4,600μmであり,視神経乳頭を75%含んでの照射となった.PDT1カ月後に左眼矯正視力は0.5に,3カ月後には視力は1.0と回復した.眼底所見ではPDT3カ月後,硬性白斑は依然認めたが,網膜下出血の減少,橙赤色隆起病巣の縮小を認め,6カ月後には橙赤色隆起病巣の消失および,網膜下出血も消失した.18カ月後も再発を認めなかった.IAにて,PDT3カ月後には治療前に認めていたポリープ状病巣の過蛍光は消失した.また,OCT(図3)にてPDT3カ月後,滲出性網膜.離の消失およびポリープ状病巣の平坦化を認め,6カ月後には消失した.18カ月後も再発なく経過した.PDT後24カ月経過した現在も左眼矯正視力1.0を維持し,再治療を必要としていない.今回視神経を含みレーザー照射を行ったため,視神経症発症の可能性を考慮し,PDT後視力改善を認めた段階で視神経に対する評価として,PDT17カ月後にGoldmann視野検査(Goldmannperimeter:GP)を行った(図5).ポリープ状病巣に一致して相対暗点を認めるが,視神経症で一般的に認める中心暗点やMariotte盲点の拡大といった異常所見は認めなかった.また,限界フリッカー値(cirticalfusionfrequency:CFF)は右36Hz,左37Hzと左右差なく正常範囲内であった.120あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013図5PDT17カ月後のGoldmann視野検査病変に一致して相対暗点を認めるが,中心暗点やMariotte盲点の拡大はない.II考按PCVには視神経乳頭近傍に発生するものと黄斑部に発生するものがある.わが国では黄斑部に生じるものが多いが,欧米では視神経乳頭近傍に生じるものが多い1,4,5).本症例は,ポリープ状病巣が視神経乳頭に接しており,PDTガイドラインに沿って治療スポットサイズを決定すると,必ず視神経乳頭が含まれるため,やむをえず視神経乳頭を含んだ照射となった.ガイドラインでは乳頭を含んでPDTを施行することは認められていないが,Bernsteinらは視神経乳頭を含んでPDTを施行した加齢黄斑変性の7例について,全例でPDT後の視神経障害を認めず,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)は陰性,視野障害は認めなかったと報告している2).また,Schmidt-Erfurthらは傍視神経乳頭部血管腫に対し視神経乳頭内の中心動脈を含まずPDTを施行し視神経障害を認めなかった例を報告している3).また,視神経乳頭近傍の病変に対するPDTの照射方法として筆者らのとった照射方法以外に,以下のような報告がある.Rosenblattらは,傍視神経乳頭部に脈絡膜新生血管を認める加齢黄斑変性の5眼に対し視神経乳頭から125μm離して,すべての病変が照射されるように照射野を3つのパートに分け,各エリアに30秒(18J/cm2)照射する方法で視神経への照射を回避し,平均10カ月の経過観察期間内に視神経傷害を認めなかったと報告している6).また,Wachtlinらは巨大脈絡膜血管腫に対し,腫瘍中心の周りにPDTスポットを一定速度で回転させ,視神経を照射野に含めず,また照射野すべてに均等にPDTを行うことができたと報告している7).(120)本症例でも視神経への障害の判定のために施行したGP・CFFで異常を認めなかった.GPの暗点は,視神経の異常ではなく,初めにPCVがあった部位に相当すると考えられた.しかし,わずかな異常が検査結果に現れなかった可能性もあるので,今回は施行できなかったが,視神経に対する退行性変性の有無を観察するため,OCTで視神経線維厚もしくはGCC(ganglioncellcomplex)の測定も有用であると思われる.今回の症例は,一度のPDTで再発することなく良好な視力を得たが,もし再発した場合には,何回も繰り返し視神経を含んでPDTを行うことは推奨できない.今回の症例では承認前で使用することができなかった抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬であるラニビズマブ(ルセンティスR)は2009年4月より使用可能となっている.今回視神経乳頭への照射で視神経への障害は認められなかったが,今後同様の症例があった場合,初回治療はルセンティスRを選択するほうがよいかもしれない.投稿にあたり,貴重なご意見を賜りました市立豊中病院眼科,佐柳香織先生に厚く御礼申し上げます.文献1)YannuzziLA,CiardellaA,SpaideRFetal:Theexpandingclinicalspectrumofidiopaticpolypoidalchoroidalvasculopathy.ArchOphthalmol115:478-485,19972)BernsteinPS,HornRS:Verteporfinphotodynamictherapyinvolvingtheopticnerveforperipapillarychoroidalneovascularization.Retina28:81-84,20083)Schmidt-ErfurthUM,KusserowC,BarbazettoIAetal:Benefitsandcomplicationsofphotodynamictherapyofpapillarycapillaryhemangiomas.Ophthalmology109:1256-1266,20024)ShoK,TakahashiK,YamadaHetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:incidence,demographicfeatures,andclinicalcharacteristics.ArchOphthalmol121:1392-1396,20035)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20076)RosenblattBJ,ShahGK,BlinderK:Photodynamictherapywithverteporfinforperipapillarychoroidalneovascularization.Retina25:33-37,20057)WachtlinJ,SpyridakiM,StrouxA:TherapyforperipapillarylocatedandlargechoroidalhaemangiomawithPDT‘paint-brushtechnique’.KlinMonblAugenheilkd226:933-938,2009***(121)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013121