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先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例 の検討

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):685.688,2023c先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の検討大野智子*1松村望*1後藤聡*2近藤紋加*1渕野恭子*1熊谷築*1浅野みづ季*1水木信久*3*1神奈川県立こども医療センター眼科*2聖マリアンナ医科大学眼科学教室*3横浜市立大学医学部眼科学教室CAStudyofPatientswithCongenitalNasolacrimalDuctObstructionwhowereTreatedafteranUnsuccessfulProbingatAnotherHospitalTomokoOhno1),NozomiMatsumura1),SatoshiGoto2),AyakaKondo1),YasukoFuchino1),KizukuKumagai1),MizukiAsano1)andNobuhisaMizuki3)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildrenMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC目的:先天鼻涙管閉塞症に対する他院におけるプロービング不成功例の神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)での治療と転帰について検討する.対象および方法:2011年C6月.2021年C11月に当科を紹介初診した,先天鼻涙管閉塞の診断で他院でのプロービングが不成功であったC3歳未満の患児を対象とし,患者背景,当科での治療と転帰を後ろ向き検討した.結果:対象はC112例C124側(平均C11.6C±5.4カ月),男児C69,女児C43例,患側は右C59側,左65側(両側C12例)であった.涙点閉鎖,欠損を除くC119側の治療と転帰は,自然治癒C48側(40%),局所麻酔下再プロービングC50側(42%)中,成功はC48/50側(96%),全身麻酔下涙道内視鏡再プロービングC17側(14%)中,成功は17/17側(100%),経過観察中C4側(3%)であった.局所麻酔下再プロービング不成功C2例は涙道内視鏡プロービングにて全例治癒した.結論:再プロービングの成功率は高く,プロービング不成功例は専門施設への紹介が望ましいと考えられた.CInthisretrospectivestudy,weevaluatedthebackground,treatment,andoutcomesofpatientswithcongenitalnasolacrimalCductCobstructionCwhoCwereCreferredCtoCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCKanagawaCChildren’sCMedicalCenterbetweenJune2011andNovember2021aftertheoutcomeofaprobeperformedattheotherhos-pitalwasunsuccessfully.Thisstudyinvolved124nasolacrimalducts(59rightsideand65leftside)of112children(69boysand43girls,meanage:11.6months).Thetreatmentandoutcomerecordsof119sides,excludingpunc-talclosureanddefects,showedthat48sides(40%)healedspontaneously,that50sides(42%)wereprobedunderlocalanesthesia,andthat48/50(96%)weresuccessful.Of17sides(14%)thatunderwentdacryoendoscopyundergeneralanesthesia,17/17(100%)weresuccessful,and4sides(3%)wereunderfollow-up.In2casesinwhichre-probingunderlocalanesthesiawasunsuccessful,thepatientsweresuccessfullytreatedbydacryoendoscopicprob-ing.The.ndingsinthisretrospectivestudyshowthatthesuccessrateofre-probingwashigh,andthatifaprob-ingisunsuccessful,thepatientshouldbereferredtoaspecializedfacility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):685.688,C2023〕Keywords:先天鼻涙管閉塞,再プロービング,涙道内視鏡.congenitalnasolacrimalductobstruction,re-prob-ing,dacryoendoscopy.Cはじめに乳児のC82.9%がC1歳までに保存的な経過観察で治癒したと先天鼻涙管閉塞症は自然治癒率の高い疾患であり,日本のの報告がある1).しかし,なかには改善せず,眼脂,流涙が〔別刷請求先〕大野智子:〒232-8555神奈川県横浜市南区六ッ川C2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科Reprintrequests:TomokoOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaChildrenMedicalCenter.2-138-4Mutsukawa,Minami-ku,Yokohama-shi,Kanagawa232-8555,JAPANCバスタオル抑制帯バックロック図1当科における体動抑制の方法患児にトリクロリールシロップC0.8Cml/kgを内服させ,入眠後にバスタオルで包み,体動制御用の抑制帯およびバックロックにて固定,オキシブプロカイン塩酸塩点眼(ベノキシール)を行い,看護師1.2名で患児の顔を制御して行う.続く場合がある.プロービングは以前より存在する治療であるが,盲目的な手技であり,治療がむずかしいケースも存在する.初回プロービング不成功例への再プロービングについて,過去の報告は存在するが少ない.今回,筆者らは先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の神奈川県立こども医療センター眼科(以下,当科)での治療と転帰を調査した.CI対象および方法2011年C6月.2021年C11月に当科を紹介初診した患児で,先天奇形症候群,顔面奇形を除外した先天鼻涙管閉塞の診断で他院でのプロービングが不成功であったC3歳未満の患児112例C124側を対象とし,患者背景,他院での不成功の理由,当科での治療と転帰を後ろ向き検討した.当科での治療は,生後C3.6カ月未満は原則経過観察,生後C6カ月以降は家族の希望を確認し,経過観察もしくは局所麻酔下盲目的プロービングを施行,また局所麻酔下では困難な症例はC2歳前後を目安に全身麻酔下涙道内視鏡によるプロービングを施行した.局所麻酔下再プロービングは,外来処置室にて患児にトリクロリールシロップC0.8Cml/kgを内服,催眠させ,その後,バスタオルで体をくるみ,体動制御用の抑制帯,バックロックにて固定,オキシブプロカイン塩酸塩点眼(ベノキシール)を行い,看護師1.2名で患児の顔を制御した状態で涙道を専門とする医師が施行した(図1).まず,顕微鏡下にて拡張針で涙点を拡張し,涙道洗浄を施行した後,04-05ボーマンブジーにてプロービングを施行し,最後に再度涙道洗浄を行い,通水を確認した.術後レボフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%フルメトロン点眼C1日C2回をC1週間行い,1カ月後症状の確認と色素残留試験を施行し,治癒を判定した.全身麻酔下涙道内視鏡による再プロービングは,手術室にて,涙道内視鏡を使用しプロービングを行い,その後涙管チューブ(ラクリファーストshorttype)を挿入し,再度涙道内視鏡にて涙道内を確認した.術後レボフロキサシン点眼C1日C4回,リンデロン点眼C1日C2回を約C1週間施行したのち,リンデロン点眼をC0.1%フルメトロンに変更し,眼圧に注意しながら術後C1カ月間使用した.術後C1カ月後に涙管チューブを抜去した.CII結果対象はC112例C124側で平均月齢はC11.6C±5.4カ月であった.男児C69,女児C43例,患側は右眼C59,左眼C65側,うちC12例は両側であり,性別と患側に有意差はなかった.前医でのプロービング回数は平均C1.6C±1.1回で,最多C8回であった.紹介状の情報に基づく前医でのプロービング不成功の理由は,①涙小管の狭窄,涙点閉鎖などの涙点・涙小管C12例(10%),②開通困難などの涙.鼻涙管C89例(72%),③体動制御困難C8例(6%),④不明・その他C15例(12%)であった.当科での治療と転帰は,涙点閉鎖,欠損を除く先天鼻涙管閉塞である全C119側で調査をした(表1).自然治癒は48側(40%)(11.0C±5.2カ月),局所麻酔下再プロービング(9.6C±3.3カ月)はC50側(42%)に施行し,成功はC48/50側(96%),全身麻酔下涙道内視鏡による再プロービングおよび涙管チューブ挿入(16.9C±6.0カ月)はC17側(14%)に施行し,成功は17/17側(100%),経過観察中はC4側(3%)(18.3C±8.4カ月)であった.局所麻酔下再プロービング不成功C2例は後日,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングを施行した.1例目はC2歳表1当科における治療と転帰n(眼数)平均月齢成功率自然治癒局麻ブジー全麻涙道内視鏡経過観察中48(40%)C50(42%)C17(14%)C4(3%)C11.0±5.2C9.6±3.316.9±6.018.3±8.4C-48/50(C96%)17/17(C100%)-表2過去の報告と当科での再プロービング成功率の比較ChaDS(2C010)HungCH(2C015)本報告月齢6.7C1カ月0.6C0カ月3.2C0カ月麻酔方法局所麻酔局所麻酔局所麻酔初回プロービングの病院同一同一他院初回プロービングの成功率80%81%CN.S.再プロービングの成功率61%64%94%11カ月男児(初診時生後C3カ月前医でのプロービング回数C1回)で,左鼻涙管下端の開口部の閉塞と鼻涙管遠位半分の.brosis様の所見であった.2例目はC1歳C11カ月女児(初診時C1歳C3カ月前医でのプロービング回数C2回)で,左鼻涙管開口部の膜状閉塞があり,いずれも涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入にて治癒した.CIII考察先天鼻涙管閉塞症のプロービング不成功後の自然治癒について,林らは,初回早期プロービングの不成功後,生後C12カ月でC51.2%(42/82側),18カ月でC78.0%(64/82側),生後C24カ月でC86.6%(71/82側)が自然治癒したと報告している2).当科でのプロービング不成功後の自然治癒率はC40%であったが,生後C18カ月を待たずに再プロービングを施行しているため,さらに長期に経過観察を行えば,自然治癒となり得た症例が存在している可能性が考えられた.先天鼻涙管閉塞症の盲目的再プロービングの治療成績について,過去の報告では,海外ではおもに全身麻酔下で行われており,また,プロービングに加えてステント留置を実施し,その際に鼻内視鏡を使用するなどの施行方法が報告によって異なっていたが,再プロービング成功率はC75.85%であった3.6).また,本報告の方法と同様の局所麻酔下でブジーのみ使用下で施行された盲目的再プロービングの過去の報告2編7,8)を調査し,本報告の成績と比較した(表2).局所麻酔下再プロービング成功率はCChaらの報告ではC61%,Hungらの報告ではC64%であったのに対し,当科での成功率はC94%であり,他の二つの報告と比較すると成功率が高かった.過去の二つの報告では初回プロービングと再プロービングは同一の病院で施行したのに対して,本報告は初回と再プロービングは異なる施設であることから,体動制御などが初回と異なる環境で,熟練した術者が施行することが,高い成功率が得られた要因と考えられた.先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン9)では,CQ5の推奨文で「初回盲目的プロービング不成功例に対し,再度の盲目的プロービング(麻酔の如何は問わず)は行わないことを提案する」と示されているが,経験豊富な術者に代わる,体動抑制がより確実な状態で行うなどのより良い条件下であれば,再度の盲目的プロービングの施行価値はある可能性が考えられた.全身麻酔下涙道内視鏡を使用した再プロービングの過去の報告で,FujimotoらはC21側(平均月齢C13C±8カ月)に施行し,術後C1年でC93.3%(14/15側)成功したと報告している10).当科での涙道内視鏡再プロービングの成功率はC100%であり,Fujimotoらの報告と同様に高率であった.また,当科での局所麻酔下再プロービング不成功例C2例に対しても涙道内視鏡再プロービングにより治癒しており,同一術者と同一施設であっても,局所麻酔下再プロービング不成功例に対して,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入は有用であった.麻酔方法の違い,涙道内視鏡を使用した可視化のプロービング,涙管チューブ挿入などが成功の要因と考えられた.本研究はレトロスペクティブ研究であり,今後,ランダム化比較試験などのバイアスの少ない比較試験を行うことで,さらなる正確な比較が可能であると考えられる.今回,先天鼻涙管閉塞に対する他院におけるプロービング不成功例の当科での治療と転帰を調査した.その結果,専門施設において,確実な体動抑制と経験豊富な術者に代わることで,局所麻酔下盲目的再プロービングが有効であった.また,局所麻酔下盲目的プロービング不成功例に対し,全身麻酔下涙道内視鏡プロービングおよび涙管チューブ挿入が有用であり,プロービング不成功例は専門施設への紹介が望ましいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KakizakiCH,CTakahashiCY,CKinoshitaCSCetal:TheCrateCofCsymptomaticimprovementofcongenitalnasolacrimalductobstructionCinCJapaneseCinfantsCtreatedCwithCconservativeCmanagementduringthe1styearofage.ClinOphthalmolC2:291-294,C20082)林憲吾,嘉鳥信忠,小松裕和ほか:先天鼻涙管閉塞の自然治癒率および月齢C18カ月以降の晩期プロービングの成功率.日眼会誌C118:91-97,C20053)ValchevaCKP,CMurgovaCSV,CKrivoshiiskaEK:SuccessCrateCofCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruc-tioninchildren.FoliaMed(Plovdiv)C61:97-103,C20194)BeatoJ,MotaA,GoncalvesNetal:FactorspredictiveofsuccessCinCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruction.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC54:123-127,C20175)BachA,VannerEA,WarmanR:E.cacyofo.ce-basednasolacrimalCductCprobing.CJCPediatrCOphthalmolCStrabis-musC56:50-54,C20196)SinghM,SharmaM,KaurMetal:Nasalendoscopicfea-turesandoutcomesofnasalendoscopyguidedbicanalicu-larintubationforcomplexpersistentcongenitalnasolacri-malCductCobstructions.CIndianCJCOphthalmolC67:1137-1142,C20197)ChaDS,LeeH,ParkMSetal:ClinicaloutcomesofinitialandCrepeatedCnasolacrimalCductCo.ce-basedCprobingCforCcongenitalCnasolacrimalCductCobstruction.CKoreanCJCOph-thalmolC24:261-266,C20108)HungCCH,CChenCYC,CLinCSLCetal:NasolacrimalCductCprobingCunderCtopicalCanesthesiaCforCcongenitalCnasolacri-malCductCobstructionCinCTaiwan.CPediatrCNeonatolC56:C402-407,C20159)先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン作成委員会:先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン.日本眼科学会雑誌.日眼会誌C126:11-41,C202210)FujimotoM,OginoK,MatsuyamaHetal:SuccessratesofCdacryoendoscopy-guidedCprobingCforCrecalcitrantCcon-genitalCnasolacrimalCductCobstruction.CJpnCJCOphthalmolC60:274-279,C2016***

先天鼻涙管閉塞の自然治癒について

2013年11月30日 土曜日

《第1回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科30(11):1615.1617,2013c先天鼻涙管閉塞の自然治癒について手島靖夫笠岡政孝岩田健作大野克彦鶴丸修士山川良治久留米大学医学部眼科学講座SpontaneousResolutionofCongenitalNasolacrimalObstructionYasuoTeshima,MasatakaKasaoka,KensakuIwata,YoshihikoOhno,NaoshiTsurumaruandRyojiYamakawaDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,KurumeUniversity目的:先天鼻涙管閉塞が自然治癒する時期を明らかにする.対象および方法:久留米大学病院眼科を受診した先天鼻涙管閉塞168例のうち,自然治癒した症例について検討した.おもな検討項目は,性別,初診時の月齢,自然治癒の時期,涙.炎の有無,皮膚症状の有無とした.結果:先天鼻涙管閉塞が自然治癒した症例は68例79側で男児が44例,女児が24例であった.初診時の月齢は平均5.4カ月で,自然治癒が確認できた時期は平均8.2カ月であった.涙.炎の発生は48側,びらんなどの皮膚症状が14側あったが,自然治癒した.結論:先天鼻涙管閉塞は生後9カ月前後で自然治癒する場合が多いと考えられた.Purpose:Toestimatetheageatspontaneousresolutionofcongenitalnasolacrimalductobstruction(CNLDO).Materialsandmethods:Thisstudyincluded168childrenwithCNLDOwhowerereferredtoKurumeUniversityHospital.Outcomemeasuresweresex,ageatinitialpresentation,ageatspontaneousresolutionofCNLDO,presenceofdacryocystitisandpresenceofdermatitis.Results:SpontaneousresolutionofCNLDOwasseenin79sidesof68children(44males,24females).Themeanageatinitialpresentationwas5.4months.Themeanageatspontaneousresolutionwas8.2months.Dacryocystitiswasobserervedin48sides.Dermatitiswasnotedin14sides.Conclusion:CNLDOspontaneouslyresolvesby9monthsofageinmostcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(11):1615.1617,2013〕Keywords:先天鼻涙管閉塞,自然緩解,年齢,涙.炎,皮膚炎,涙道ブジー.congenitalnasolacrimalobstruction,spontaneousresolution,age,dacryocystitis,dermatitis,probing.はじめに先天鼻涙管閉塞は1歳までに90%以上が自然治癒する疾患と言われている1.3).近年は積極的なprobingは行わずに,できるだけ経過観察で自然治癒を待つことを勧められることが多い4)が,日本人での自然治癒の時期の多数例での報告は少ない2,3).患児家族の負担や長期に続く炎症により増悪することなどを考えて,早期にprobingをするべきとの意見5)もあるので,自然治癒する時期がいつごろなのかを明らかにする必要がある.今回,久留米大学眼科の涙道外来で経過観察中に自然治癒した先天鼻涙管閉塞の患児を,retrospectiveに検討したので報告する.I対象および方法2001年1月から2012年3月までに久留米大学眼科外来を受診した先天鼻涙管閉塞の患児は168例で,患側は198側であった.このうち自然治癒したと考えられた症例で,性別,患側,出生週数,出生時体重,初診時の月齢,自然治癒の時期,涙.炎の有無,皮膚症状の有無についてretrospectiveに検討した.なお自然治癒は,金属ブジーによるprobingを行わずに通水が確認できるようになったもの,他院でprobingを行ったものの2カ月以上治癒しなかったがその後probingを追加せずに通水が確認できたものとした.先天鼻涙管閉塞と診断した場合,家族に自然治癒の可能性,治療方法(probing),治療による合併症,治療しない場合の合併症などを説明したうえで,自然治癒を待つか,〔別刷請求先〕手島靖夫:〒830-0011久留米市旭町67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuoTeshima,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,KurumeUniversity,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(123)1615 probingを行うかは家族に判断を委ね同意を得た.積極的にprobingの施行はしなかったものの,涙道通水試験を兼ねた涙道洗浄は毎回行った.外来での管理は,基本的に4週間に一度受診することとし,涙道洗浄は点眼麻酔下に,一段の涙洗針を用いてゆっくりと涙.まで進め,確実に洗浄を行った.II結果保存的療法を選択した症例は全198側中127側であった.そのなかで自然治癒した症例は68例79側であり,62%が自然治癒した.68例のうち性別の内訳は男児44例,女児24例であった.両側が11例あり,右側は28例,左側は29例であった.出生週数は聴取できた50例で,28週の未熟児から41週,平均は39.1±2週であった.出生時の体重を聴取できたものは35例で,1,130gの未熟児から3,800g,平均2,993±490gであった.これらのなかで,眼科疾患以外の先天異常を有したものは,Down症候群が1例,心房中隔欠損症が1例あった.妊娠・出産の異常としては,未熟児が3例,妊娠糖尿,妊娠中毒がそれぞれ1例あった.鼻涙管閉塞以外の涙道異常の合併は3例にみられた.涙点閉鎖2例,副涙点が1例であった.9876例数5初診時の月齢は生後1週間から16カ月で,平均は生後5.9±3.6カ月であった(図1).自然治癒した時期は平均で生後8.2±3.4カ月であった.自然治癒した時期の分布を図2に示す.生後0から3カ月の間に自然治癒したものが7側9%,生後4.6カ月で治癒したものが18側23%,7.9カ月で治癒したものが28側35%,10.12カ月で治癒したものが19側24%であり,1歳を超えて治癒したものが7側で9%であった.保存的治療を選択した症例では,1歳になる前に91%の症例が自然治癒していた.また,治癒までの経過観察期間は平均3カ月間であった.涙道洗浄の際に,眼脂の訴えはないものの,涙.内に膿貯留を認めたものも含めて,涙.炎であると判断したものは48側(61%)であった.皮膚症状は,眼脂の付着部や涙でぬれる部分が発赤したり,眼瞼周囲がびらんになったりしたものと定義した.軽い発赤から出血を伴うびらんまで程度はさまざまであったが,14側(18%)に認めた.これには涙.炎による皮膚の膨隆,皮膚の自壊は含んでいない.これらは閉塞が治癒すると消失した.III考按今回,保存的療法を選択した症例群で自然治癒が得られたものは62%にすぎなかった.しかし,当初は保存的治療を希望されたものの,受診後2,3カ月でやはりprobingを希望された症例も少なくないことから,もう少し長い期間にわたりprobingを施行しなければ,自然治癒率が上昇していた可能性はある.自然治癒した症例の91%は1歳以内に治癒が生じており,これは過去の報告と一致している1.3).そして,その時期は生後8カ月以降で数が増え,生後9カ月をピークとした分布がみられた.表1は自然治癒が得られた群を自然治癒群,probingを施行した群を加療群とし,出生週数,出生時体重,涙.炎の有無,皮膚症状の有無,初診時の月齢について比較検討したも43210月齢図1初診時の月齢01234567891011121歳生後1週間から16カ月で,平均は生後5.9±3.6カ月であった.のである.出生週数・体重,涙.炎の有無,皮膚症状の有無14は,両群間に有意差がなく,自然治癒に影響する因子ではないと思われた.ただ,初診時の月齢は自然治癒群のほうが有12意に低かった.これはある程度経過観察したものの自然治癒10例数8表1自然治癒群と加療群の比較6自然治癒群加療群n=79n=11942出生週数39.1週38.8週出生時体重2,993g2,941g0涙.炎の発症率61%72%月齢皮膚症状の発症率18%27%図2自然治癒した時期の分布初診時月齢5.4カ月8.0カ月*平均で生後8.2±3.4カ月であった.Man-WhitneyのU検定*:p<0.001.01234567891011121歳1616あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(124) が得られないために,probing目的に紹介された症例が多かったためと思われる.通水試験時に逆流物に膿が含まれているものを涙.炎ありとしたところ涙.炎は48側,60%以上の症例にみられた.1例は涙.炎が強く,小児科入院で抗生物質点滴注射での加療を行ったが,生後1カ月未満であったため,probing,涙.鼻腔吻合術は行わなかった.このように,涙.炎があるためにprobingを急いだという症例はなかったが,涙.洗浄時に排膿が多い例では受診間隔を短くして管理した.圧をかけながら涙.洗浄することによって加療する方法もある6)が,涙.洗浄の翌日から症状が消失したという症例はなかったので,今回はその方法による治癒はないと考えた.皮膚症状が14側,18%にみられたが,これは保護者が自然治癒を望まない理由になるので,管理が必要であると思われる.皮膚症状の成因は,涙.炎による眼脂を保護者が強く拭いて眼瞼周囲が発赤する場合と,流涙が続くため外眼角から耳の間の皮膚が発赤する場合があると思われる.前者の場合は,涙道洗浄によって涙.炎を改善させることで皮膚症状も改善することが多いので,涙.洗浄は必須の手技と思われる.後者の場合は,仰臥位の多い4.6カ月時まではよくみられるが,座位がとれるようになれば少なくなると説明し,また涙を強く拭きとらないように指導し,経過観察を行った.ただし,出血を伴うような場合に,抗生剤軟膏塗布を併用した症例もあった.では,一体いつ頃probingすべきなのだろうか.Katowitzらはprobingの初回成功率は6カ月以内では98%で,6カ月以降1歳以内では96%,それ以降は77%以下にまで成功率が落ち,チューブ留置や涙.鼻腔吻合術になったとしている7).また大野木は生後3.6カ月を目安に行い,96%の成功率を得ている5).また,安全に患児を固定できるのは6カ月まで8)などの意見がある.患児の固定にはいろいろな方法があるが,現在ではよい固定具もあるので,固定を理由に6カ月以内に施行する必要はないと考えている.むしろ,3カ月程度では,まだ涙点は小さく,涙道も細い.そのうえ内眼角は未発達で,贅皮は涙点を探すことの邪魔になりやすいうえに,しっかり顎を固定していても皮膚と骨の癒合が緩いので,涙.壁に当てたブジーは,鼻涙管方向に向ける際に,皮膚によってずらされやすい.つまり,安全に施行できるとは言い難いと思われる.実際,probingを施行したものの通過が得られないということで紹介される症例のなかには,総涙小管近傍の変形,異常を認め,仮道形成があったと思われる例が散見される.今回検討した,自然治癒症例の91%は1歳以内に治癒していた.しかし治癒の時期は9.10カ月にピークがあり,それを過ぎると減少していた.そのため,先天鼻涙管閉塞に対するprobingは10カ月以降に施行するのがよいと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MacEwenCJ,YoungJD:Epiphoraduringthefirstyearoflife.Eye5:596-600,19912)NodaS,HayasakaS,SetogawaT:CongenitalnasolacrimalductobstructioninJapaneseinfants:itsincidenceandtreatmentwithmassage.JPediatrOphthalmolStrabismus28:20-22,19913)KakizakiH,TakahashiY,KinoshitaSetal:TherateofsymptomaticimprovementofcongenitalnasolacrimalductobstructioninJapaneseinfantstreatedwithconservativemanagementduringthe1styearofage.ClinOphthalmol2:291-294,20084)TakahashiY,KakizakiH,ChanWOetal:Managementofcongenitalnasolacrimalductobstruction.ActaOphthalmol88:506-513,20105)大野木淳二:先天性鼻涙管閉塞の臨床報告.眼科手術24:101-103,20116)小出美穂子:直一段針による水圧式先天性鼻涙管閉塞穿破法.眼臨98:1085-1087,20047)KatowitzJA,WelshMG:Timingofinitialprobingandirrigationincongenitalnasolacrimalductobstruction.Ophthalmology94:698-705,19878)永原幸:先天性鼻涙管閉塞,涙.炎.眼科52:10071018,2010***(125)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131617