《第28回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(2):201.205,2024c広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の各象限ごとの検討山本学平山公美子居明香本田聡河野剛也本田茂大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学CInvestigationofEachQuadrantoftheRetinalNonperfusionAreausingWide-FieldOpticCoherenceTomographyAngiographyManabuYamamoto,KumikoHirayama,AkikaKyo,SatoshiHonda,TakeyaKohnoandShigeruHondaCDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:広角フルオレセイン蛍光造影(FA)と広角光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いて糖尿病網膜症(DR)の無灌流領域(NPA)の評価を各象限ごとに比較検討した.対象および方法:2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科で広角CFAと広角COCTAを撮影したC38例C76眼.広角CFAの撮影にはCOptos200Tx(Optos社,撮影画角200°)を,広角OCTAはCOCT-S1(キヤノン)を使用した.NPAの検討は,眼底を上下内外のC4象限に分け,FAを基準にCNPAの一致率を検討した.結果:各象限の所見一致率は上下内外それぞれ,80.6%,96.2%,96.8%,81.8%で下方,内側に高い傾向にあったが有意差はなかった(p=0.076).OCTAでのCNPAの感度はC72.7%,100%,100%,73.3%で有意差を認め(p<0.01),特異度はC100%,87.5%,85.7%,88.9%で有意差はなかった(p=0.737).結論:各象限ごとでCNPAの検出に違いがみられた.OCTAの特性を理解し活用することで,日常診療におけるCFAの機会の減少やより確実なCDRの評価につながると考えた.CPurpose:Tocompareandevaluatenon-perfusionareas(NPA)ofdiabeticretinopathy(DR)usingwide-.eld(WF)fundus.uoresceinangiography(FA)(WF-FA)andWFopticalcoherencetomographyangiography(WF-OCTA)ineachfundusquadrant.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved76eyesof38patientswhounder-wentWF-FAandWF-OCTAimaging.TheOptos200TxUltra-Wide.eldRetinalImagingDevice(OptosPlc)wasusedCforWF-FA(200°CangleCofview)C,CandCtheCXephilioOCT-S1(CanonInc.)wide-.eldCretinal-imagingCdeviceCwasusedforWF-OCTA.ForNPAexamination,thefunduswasdividedintofourquadrants(upper,lower,inner,andouter)C,andtheagreementrateofNPAwasexaminedbasedonFA.Results:Fortheupper,lower,inner,andouterCquadrants,CtheCagreementCratesCwere80.6%,96.2%,96.8%,Cand81.8%,respectively(p=0.076)C,withnosigni.cantdi.erencebetweenthelowerandinnerquadrants.ThesensitivityofNPAinOCTAwas72.7%,100%,100%,and73.3%,respectively,withasigni.cantdi.erence(p<0.01)C,andthespeci.citywas100%,87.5%,85.7%,and88.9%,respectively,withnosigni.cantdi.erences(p=0.737)C.CConclusion:Althoughthereweredi.erencesintheCdetectionCofCNPACinCeachCquadrant,CunderstandingCandCutilizingCtheCcharacteristicsCofCOCTACmayCleadCtoCaCmorereliableevaluationofDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):201.205,C2024〕Keywords:糖尿病網膜症,フルオレセイン蛍光造影,光干渉断層血管撮影.diabeticretinopathy,.uoresceinan-giography,opticcoherencetomographyangiography.CはじめにFA)が広く行われてきた.撮影には眼底カメラ型のものか糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は糖尿病患者ら最近ではレーザー光を使用した広角に撮影できる広角CFAにおける重大な眼合併症であり,その病期分類の評価には従も登場し,その有用性は確立している1.4).しかし,FAは来からフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:造影剤を使用し,アナフィラキシーショックなどの合併症リ〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町C1-4-3大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3,Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANC表1症例の内訳特徴症例数;例(眼)38(76)性別(例)男性C26,女性C12年齢;平均(範囲)60.7(C32.C87)高血圧;例(%)28(74)高脂血症;例(%)11(29)HbA1c(%);Median(Range)7.7(C4.9.C11.6)インスリン使用歴;例(%)15(39%)糖尿病網膜症重症度;眼(%)網膜症なし2(3%)軽症増殖前網膜症11(14%)中等度増殖前網膜症22(29%)重症増殖前網膜症20(26%)増殖網膜症21(28%)スクもあるため,眼底の経過観察のために頻回に行うことは躊躇される5).FAがCDRの詳細な眼底評価検査としてゴールドスタンダードであることは論をまたないが,DRの国際重症度分類では眼底観察所見が主体であり,FA所見が採用されていないことも日常診療での判断に制約を与えているともいえる.近年,眼底の断層像撮影が可能な光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)の,動的シグナルを抽出し眼底の血流を同定する光干渉断層血管撮影(opticcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場し,無侵襲に網膜血流を評価できるようになってきた6).当初COCTAは画角が小さいことが欠点であったが,最近では撮影技術の向上により,広角でCOCTAを撮影できる装置も市販化されてきた.OCTAでの血流シグナルの同定はいまださまざまな問題点もあるが,DRにおいてはCOCTAを活用する報告も多くなってきている7.9).今回筆者らは,DRの活動性評価に重要な所見である無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)について,広角COCTAを用いてCFAと比較評価し,所見の一致率や病期分類の妥当性を検討したので報告する.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大阪公立大学医学系研究等倫理審査委員会の承認のもと,オプトアウトによる後ろ向き観察研究である.対象はC2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科を受診し,広角CFAおよび広角COCTAを同時期に行ったCDR症例C38例C76眼である.表1に症例の内訳を示す.男性C26例,女性C12例,平均年齢は60.7歳(32.87歳)であった.広角CFAの撮影にはCOptos200TX(Optos社,撮影画角約C200°)を,広角COCTAにはOCT-S1(キヤノン,撮影画角約C80°)を用いた.FAとOCTAの撮影時期はC1週間以内のものを採用した.FAの画像には造影後C1分後以降の静脈相のものを使用した.また,OCTAの画像の検出にはCdefaultのCOCTAモード(20C×23mm)で撮像し,denoise処理を行ったCsuper.cialCperiphery(網膜内層用モード)で解析したものを採用した.NPAの検討方法は,眼底を上下内外のC4象限に分け,各象限ごとにCNPAの有無を比較した(図1).NPAは長径がC1乳頭径以上のものをCNPAありとし,二人の専門医(M.Y.,A.K.)でCNPAあり,NPAなし,判定不能のC3段階で評価した.判定不能の基準は,FA,OCTAともに網膜血管の陰影が追えていることを目安とし,各象限ごとの範囲内にC50%以上判定できない領域がある場合を判定不能とした.検討項目は,FAとCOCTAで判定が可能であった割合,FA所見を基準としたCOCTAによるCNPAの検査精度(全体および各象限ごと),NPAの程度のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行うと仮定した場合の一致率(NPAがC1.2象限:局所光凝固,3象限以上:汎網膜光凝固)を検討した.統計学的手法として,各機器の診断可能であった割合にはCMcNemar’stestを,各象限同士のCFAとCOCTAでの判定可能率および所見の一致率にはCChi-squaredtestを,レーザー網膜光凝固術の一致率にはCChi-squaredtestを用いた.統計解析の有意水準はCp=0.05とし,多重比較の補正にはBonferroni法を用いた.統計解析ソフトはCSPSSCver24.0(IBM社)を使用した.CII結果76眼C304カ所の象限中,NPAの判定不能であった箇所を除いた総数は広角CFAではC281カ所(92.4%),広角COCTAではC238カ所(78.3%)で,両者で判定可能であったものは225カ所(全体のC74.0%,広角CFAで判定できたもののうち80.1%)であった.このC225カ所を両機器のCNPA判定比較に採用した.また,広角CFAで判定不能とされたC23カ所では,13カ所(56.5%)が広角COCTAでCNPAの判定が可能であった.各象限ごとの両機器の比較では,全象限で広角CFAのほうが広角COCTAより判定できた割合は高く(p<0.001,CMcNemar’stest),象限ごとの判定可能率は下側で低い傾向はあったが有意差はみられなかった(p=0.18,Chi-squaredtest)(図2).広角CFA所見を基準とした場合のCNPAの検査精度を表2に示す.所見の一致率は下側,鼻側で高く,上側,耳側で低い傾向にあった(p<0.01,Chi-squaredtest).とくに上側では感度は低いが特異度は高く,外側では感度・特異度とも低い傾向にあった.NPAの象限数のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行った場合,広角COCTAで非適応はC10眼(17.9%),局所網膜光凝固術はC18眼(32.1%),汎網膜光凝固術はC28眼図1FAとOCTAでの各象限の区分け黄斑部を中心とし,上側,下側,内側,外側のC4象限に分けて,各象限ごとに無灌流領域を比較した.糖尿病網膜症の診療におけるCFAの役割は,網膜症の病期判定できた割合を判定し,治療適応の可否を決定することが主体である.網膜症の病期ごとに比較した検討では,軽症よりも重症網膜症でCFAの重要性が高いという報告もある.重症であればあるほど頻度は厭わず網膜症を詳細に評価することが望ましくなる一方で,FAでは造影剤を使用するため,頻回な評価は困難である.OCTAでは,非侵襲的に網膜や脈絡膜の循環動態を観察でき,臨床上はCFAより簡便に施行できるのがメリットである7).今回の検討では,広角CFAでの診断可能率がC92.4%,広角COCTAではC78.2%であり,OCTAで割合が劣るものの,非侵襲,頻回の評価が可能なことは使用に足るものと思われる.広角CFA・OCTAで検出率の違いが生じた原因として,検出方法の違いがあげられる.今回使用したCOCTAでは,約1分程度の固視が必要であり,固視が不十分であるとCcomb-ingnoiseといわれる横縞様の水平のずれが生じてしまい,評価が困難となる.今回の検討でも,OCTAで評価不能であったもののほとんどはこのCcombingnoiseによるものであった.一方,FAでは固視不良であっても撮影可能であり,新生児や乳幼児であっても撮影可能との報告もある4,10).これが診断可能な割合の大きな原因となっているが,現行の診断機器ではCOCTAの検出技術上はむずかしい.しかし,さらなる機器の発展により克服できる可能性は十分にある.逆に,FAで評価不能であったもののうち,56.5%でCOCTA評価が可能であった.この理由の一つとして光源波長の違いがある.FAで使用されている波長はC488Cnmであるのに対表2広角FA所見を基準とした広角OCTAによるNPAの一致表3広角OCTAでのNPAの象限数によるレーザー適応判定と率と検査精度広角FAとの一致率一致率86.7%81.4%95.9%94.8%76.3%感度84.8%71.1%97.1%97.8%66.7%特異度90.0%100.0%92.9%84.6%84.4%陽性的中率93.8%100.0%97.1%95.7%78.3%陰性的中率76.6%65.6%92.9%91.7%75.0%偽陽性率10.0%0.0%7.1%15.4%15.6%偽陰性率15.2%28.9%2.9%2.2%33.3%陽性尤度比C8.48C∞C13.60C6.36C4.27陰性尤度比C0.17C0.29C0.03C0.03C0.40では,鼻側から進行しやすく周辺部へと進むものが多いこと,前述のように下側の最周辺部は検出しにくいことから,撮影画角が狭いCOCTAとの一致率は下側・鼻側で高い傾向にあったと考えられる12.14).Zengらの広角COCTAの画角に広角CFAを合わせて検討した研究では,FAとCOCTAで検出できたCNPAの面積には差はみられなかったと報告している15).この研究での画角はC81°C×68°とほぼCOCT-S1と同等のものであり,画角が同一であった場合は両者ともほぼ同一の検出率であるかもしれない.ただし,この報告では全例でCFAとCOCTAの撮影が可能であったとされているので,前述した硝子体出血などの画像構築に支障をきたす病態があると両者に違いが生じる可能性はあり,対象の違いは考慮する必要がある.さらに,富安らは,広角CFAを使用しC7.7%で最周辺部のみにCNPAを認める症例があるとしており,画角が狭いCOCTAではこのような所見を検出できていなかった可能性がある2).OCTAでも,撮影枚数を増やしパノラマ画像を作製することも可能であり,簡便さとのトレードオフになるが,眼底所見で疑わしい場合にはそのような工夫も必要かもしれない.NPAのみを判断基準とした網膜光凝固術の治療適応基準では,OCTAで非適応となったものはCFAでも非適応であり,汎網膜光凝固術が適応となったものはCFAでも適応となっていた.あくまでCNPAに限定した適応基準であり,実臨床では総合的に判断する必要はあるものの,OCTAを活用することでCFAの施行回数を少なくすることはできると考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドラインにも示されているように,NPAの出現を早期に判断して汎網膜光凝固術を行うほうが網膜症の重症化を予防できるとされているため,頻回に検査ができることはCOCTAでの利点である1,16).今回の結果をふまえ,軽症非増殖網膜症以上の進行や前回よりも悪化がみられた場合には,FA施行の前にCOCTAを撮影することで,FAの機会を少なくしつつ網膜光凝固の適応を適切な時期に考慮できると思われる.今後もさらなる症例の蓄積,解析を行い,より精密な評価が必要と考えられる.非適応10(C17.9)C100局所網膜光凝固術18(C32.1)C66.7汎網膜光凝固術28(C50.0)C100C文献1)瓶井資,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20202)富安胤,平原修,野崎実ほか:超広角蛍光眼底造影による糖尿病網膜症の評価.日眼会誌C119:807-811,C20153)FalavarjaniGK,TsuiI,SaddaSR:Ultra-wide-.eldimag-ingCinCdiabeticCretinopathy.CVisionCResC139:187-190,C20174)MagnusdottirCV,CVehmeijerCWB,CEliasdottirCTSCetal:CFundusCimagingCinCnewbornCchildrenCwithCwide-.eldCscanninglaserophthalmoscope.ActaOphthalmolC95:842-844,C20175)大矢佳,中村裕,安藤伸:フルオレセイン蛍光眼底造影における副作用の危険因子と安全対策.日眼会誌C122:95-102,C20186)石羽澤明:OCTアンギオグラフィーのすべて糖尿病網膜症への応用.眼科グラフィックC5:335-339,C20167)HorieS,Ohno-MatsuiK:ProgressofimagingindiabeticretinopathyC─CfromCtheCpastCtoCtheCpresent.CDiagnostics(Basel):12,C1684,C20228)ZhangCQ,CRezaeiCKA,CSarafCSSCetal:Ultra-wideCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCdiabeticCretinopa-thy.QuantImagingMedSurgC8:743-753,C20189)SawadaCO,CIchiyamaCY,CObataCSCetal:ComparisonCbetweenCwide-angleCOCTCangiographyCandCultra-wideC.eldC.uoresceinCangiographyCforCdetectingCnon-perfusionCareasandretinalneovascularizationineyeswithdiabeticretinopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:C1275-1280,C201810)KothariCN,CPinelesCS,CSarrafCDCetal:Clinic-basedCultra-wideC.eldCretinalCimagingCinCaCpediatricCpopulation.CIntJRetinaVitreousC5:21,C201911)CoscasCF,CGlacet-BernardCA,CMiereCACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCretinalCveinCocclu-sion:evaluationCofCsuper.cialCandCdeepCcapillaryCplexa.CAmJOphthalmolC161:160-171Ce161-e162,C201612)JacobaCMP,AshrafM,CavalleranoJDetal:AssociationofmaximizingvisibleretinalareabymanualeyelidliftingwithCgradingCofCdiabeticCretinopathyCseverityCandCdetec-tionCofCpredominantlyCperipheralClesionsCwhenCusingCultra-wide.eldimaging.JAMAOphthalmolC140:421-425,C202213)FluoresceinCangiographicCriskCfactorsCforCprogressionCofCdiabeticCretinopathy.CETDRSCreportCnumberC13.CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchCGroup.COphthalmologyC98:834-840,C199114)JungCEE,CLinCM,CRyuCCCetal:AssociationCofCtheCpatternCofCretinalCcapillaryCnon-perfusionCandCvascularCleakageCthalmolC15:1798-1805,C2022CwithCretinalCneovascularizationCinCproliferativeCdiabetic16)JapaneseCSocietyCofCOphthalmicCDiabetologyCSotSoDRT,Cretinopathy.JCurrOphthalmolC33:56-61,C2021CSatoY,KojimaharaNetal:Multicenterrandomizedclini-15)ZengQZ,LiSY,YaoYOetal:Comparisonof24C×20CmmCcalCtrialCofCretinalCphotocoagulationCforCpreproliferative(2)swept-sourceOCTAand.uoresceinangiographyfordiabeticretinopathy.JpnJOphthalmolC56:52-59,C2012Ctheevaluationoflesionsindiabeticretinopathy.IntJOph-***