《原著》あたらしい眼科36(1):111.114,2019c春季カタルにおける長期予後の解析三島彩加佐伯有祐内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofLong-termPrognosisofVernalKeratoconjunctivitisAyakaMishima,YusukeSaekiandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:春季カタル(VKC)の臨床経過と長期予後の解析.対象および方法:2005年C4月から福岡大学病院眼科を初診しC5年以上経過したCVKC症例計C21例(男性C18例,女性C3例,平均年齢C9.0歳)40眼に対して診療録をもとに使用薬剤と再発の有無を後方視的に解析した.結果:初診時に抗アレルギー点眼薬がC40眼(100%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬はC40眼(100%),ステロイド内服薬はC6眼(15.0%)に使用されていた.経過中にトリアムシノロン眼瞼皮下注射がC24眼(60.0%)に行われた.初回治療後,VKCの再発を認めた症例はC34眼(85.0%)であった.再発をきたしたC34眼の予後をCKaplan-Meier法で解析したところ,治療開始C2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至った.22眼(64.7%)の症例がC16歳までに治癒に到達していた.再発症例の最終悪化時の年齢は平均でC13.6歳であった.一方,10眼(29.4%)が現在も治癒せず,治療継続中である.結論:免疫抑制点眼薬を使用することにより,VKCの早期治癒が可能になった.再発を繰り返す症例もその多くは青年前期には治癒することが示された.CPurpose:ThisCstudyCreportedCtheCclinicalCcourseCandClong-termCprognosisCofCvernalCkeratoconjunctivitis(VKC).Casesandmethods:Weretrospectivelyanalyzed40eyesof21patientswithVKC(18males,3females;averageage:9.0years)whowerefollowedformorethan5yearsattheEyeCenterofFukuokaUniversityHospi-talCafterCApril,C2005,CbasedConCmedicalCrecords.CResults:AtC.rstCadmission,C40eyes(100%)wereCtreatedCwithCanti-allergicCeyeCdropsCandCimmunosuppressiveCeyedrops;33eyes(82.5%)wereCalsoCtreatedCwithCcorticosteroidCeyedrops;6eyes(15.0%)receivedCoralCcorticosteroids.CSubcutaneousCeyelidCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonideCwasCgivenCinC24eyes(60.0%)duringCtheCcourse.CAfterCinitialCtreatment,C34eyes(85.0%)showedCrecurrenceCofCVKC.Amongtheeyeswithrecurrence,thecumulativecureratewas23.5%after2years,reaching52.9%after5years’Ctreatment.CCompleteCremissionCwasCachievedCinC22eyes(64.7%)by16yearsCofCage.CAverageCageCatClastCrecurrenceinthesecaseswas13.6yearsold.Incontrast,10eyes(29.4%)showedcontinuousrecurrencewithoutremission.CConclusion:VKCCcouldCbeCtreatedCearlierCbyCusingCimmunosuppressiveCeyeCdrops.CItCwasCshownCthatCmostcasesofVKCwithrecurrencecouldbecuredinpre-adolescence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(1):111.114,C2019〕Keywords:春季カタル,免疫抑制点眼薬,タクロリムス,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,immu-nosuppressiveeyedrops,tacrolimus,atopicdermatitis.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期に発症し,寛解・増悪を繰り返す結膜増殖性アレルギー疾患である.病型ではおもに眼瞼に巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型と,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型とに大別される.治療は抗アレルギー点眼薬単独では管理が困難なことが多く,副腎皮質ステロイドの全身もしくは局所投与,近年では免疫抑制点眼薬の有用性が報告されている1).免疫抑制点眼薬はステロイド投与に伴うステロイド白内障2)やステロイド緑内障に関する報告はない.ステロイド緑内障は,とくに幼少期においては合併する可能性が高いと報告され3),VKCの罹患期間と重なることが多く,ステロイド点眼薬の長期使用に付随する重要な問題である.これまでわが国でCVKCの長期予後についての報告はほとんどみられず,海外でも治療〔別刷請求先〕三島彩加:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakaMishima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,Jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC薬の長期使用成績4,5)以外ではこれまでほとんど報告されていない6).そこで今回筆者らは免疫抑制点眼薬を主たる治療として長期間経過観察を行ったCVKC症例の臨床経過ならびに予後を解析したので報告する.CI対象および方法2005年C4月から福岡大学病院眼科外来を初診し,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)の定義にもとづいてVKCと診断され加療された症例のうち,診療録においてC5年以上経過観察を行ったC21例C40眼(男性C18例,女性C3例)を対象とした.そのうち,両眼例は男性C16例,女性C3例で,片眼例は男性C2例,女性C0例であった.初診時平均年齢はC8.0±2.7歳(平均C±標準偏差,5.17歳)であった.検討項目としては,各症例の性別,初診時年齢,初診時の病型(眼瞼型,輪部型,混合型),初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,初診時の角膜上皮障害所見,初診時の治療内容,そして再発の有無と再発までの期間,最終悪化時の年齢を後方視的に解析した.臨床所見の重症度はアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン7)をもとに,所見がないもの,軽度なもの,中等度なもの,高度なものとC4段階に分類した.治療の経過中に初診時と同等の結膜所見や新たな角膜病変の出現が認められた時点で再発あり,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,治癒に至るまでの期間と治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C18例(85.7%),女性C3例(14.3%)でC6:1と男性が多かった.全C40眼の初診時の所見について,病型では眼瞼型がC37眼(92.5%)ともっとも多く,混合型はC3眼(7.5%),輪部型はC0眼(0.0%)であった.眼瞼結膜巨大乳頭所見では軽度がC26眼(65.0%),中等度がC10眼(25.0%),高度がC4眼(10.0%)と半数以上が軽度であった.角膜上皮障害所見はなしがC11眼(27.5%),軽度がC12眼(30.0%),中等度がC9眼(22.5%),高度がC8眼(20.0%)と軽度の症例がもっとも多かったが,各重症度の割合には大きな差はみられなかった.初診時の年齢はC7.9歳がC20眼(50.0%)ともっとも多かった(図1).全症例の初診時治療については,抗アレルギー点眼薬が40眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC33眼(82.5%),免疫抑制点眼薬がC40眼(100%),ステロイド内服薬がC6眼(15.0%)に投与され,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC24眼(60.0%)であった.再発を認めた症例(再発群)はC34眼(85.0%),再発を認めず初回治療のみで治癒した症例(非再発群)はC6眼(15.0%)であった.非再発群においては,眼瞼結膜巨大乳頭所見は軽度がC2眼(33.3%),中等度がC2眼(33.3%),高度がC2眼(33.3%)であり,角膜上皮障害所見はなしがC2眼(33.3%),軽度がC0眼(0.0%),中等度がC1眼(16.7%),高度がC3眼(50.0%)であった.年齢分布はどの年代においても大きな差はみられなかった(図2).治療薬は,抗アレルギー点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC6眼(100.0%),免疫抑制点眼薬がC6眼(100.0%),ステロイド内服薬がC0眼(0.0%),そして,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射を施行したのがC2眼(33.3%)であった(表1).再発群については,眼瞼結膜巨大乳頭所見は,軽度の症例がC24眼(70.6%)と多く,中等度はC8眼(23.5%),高度がC2眼(5.9%)であった.角膜上皮障害所見はなしがC9眼(26.4%),軽度がC12眼(35.3%),中等度がC8眼(23.5%),高度がC5眼(14.7%)とすべての病型に差はみられなかった.年齢の分布はC34眼中C18眼とC7.9歳にもっとも多かった(図3).治療は抗アレルギー点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド点眼薬がC27眼(79.4%),免疫抑制点眼薬がC34眼(100.0%),ステロイド内服薬がC6眼(17.6%)で,トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射はC22眼(64.7%)に行われた(表1).再発群において,1年以上再発を認めなかった時点で治癒と定義し,経過期間と累積治癒率の推移をCKaplan-Meier法で解析した(図4).2年でC23.5%,5年でC52.9%の症例が治癒に至っていた.しかし,29.4%が現在も治癒に至らず寛解・増悪を繰り返していた.16歳までC22眼(64.7%)が最終増悪を終えて,以後再発を認めずに治癒に至っていた.最終悪化時の年齢分布を図5に示した.平均はC13.6歳であった.CIII考按重症アレルギー性結膜疾患やCVKCに対するタクロリムス点眼液の治療効果については,これまで高い治療効果が報告されている4,8.10).今回の検討でも初回治療でC15.0%の症例が再燃せずに治癒しており,タクロリムス点眼液による効果と考える.一方それらを除く約C9割の症例は再発を繰り返した.今回の検討では初診時の眼瞼結膜巨大乳頭所見,角膜上皮障害所見とCVKCの再発の関与に有意な結果が認められなかった.初診時の臨床所見の重症度だけではCVKCの再発傾向についての予測は困難であるといえる.今回の検討には含まれなかったが,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の全身既往歴や点眼コンプライアンスなどの要因について,今後はさらに検討を行う必要があると考えられる.重症CVKC症例に対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の有用性については,小沢ら11)が報告しており,いわゆるリリーバーとして重症例に行われた.202016161212症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)症例数(眼)8844006歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上6歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)年齢(歳)図1初診時全症例の年齢分布図2非再発群の初診時年齢分布7.9歳にもっとも多くみられた.各年齢群の差は少なかった.表1非再発群・再発群の初診時治療20初診時治療非再発群再発群C16(n=6眼)(n=34眼)128抗アレルギー点眼6(100%)34(100%)ステロイド点眼6(100%)27(79.4%)免疫抑制薬点眼6(100%)34(100%)ステロイド内服0(0.0%)6(17.6%)C4トリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射2(33.3%)22(64.7%)C06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図3再発群の初診時年齢分布7.9歳に多くみられた.C20161284図4再発群における治療期間と累積治癒率の推移Kaplan-Meier法で解析した.70.6%の症例が観察期間中に治癒に至っていた.アレルギー性結膜炎についてはC10歳代にピークがあり加齢とともに減少すると報告されている12).しかし,これまでにCVKCの眼炎症が収束して治癒する明確な年齢は報告されていなかった.今回の検討でC16歳までに約C6割の症例が以後再発を認めずに治癒に至り,16歳以上の多くの症例ではそれ以降に再発がみられないことがわかった.その一方で,約C2割の症例は治癒に至らないことも判明した.今回はアトピー性皮膚炎などの全身疾患についての検討は行っていないが,アトピー性皮膚炎合併例における免疫学的な特殊性などがCVKCの治癒に至るかどうか,あるいは成人型のアトピー性角結膜炎に移行するものなどについて,その病態を今後さ(113)06歳以下7~9歳10~12歳13~15歳16~18歳18歳以上年齢(歳)図5再発群の最終再発時年齢分布最終再発時年齢の平均はC13.6歳であった.らに詳細に検討する必要性があるといえる.文献1)南場研一:春季カタルに対する免疫抑制点眼薬治療.あたらしい眼科C30:57-61,C20132)小川月彦,貝田智子,雨宮次生:ステロイド白内障発症要因の検討.臨眼C51:489-492,C19973)OhjiCM,CKinoshitaCS,COhmiCECetal:MarkedCintraocularCpressureCresponseCtoCinstillationCofCcorticosteroidsCinCchil-dren.AmJOphthalmolC112:450-454,C19914)Al-AmriAM:Long-termCfollow-upCofCtacrolimusCoint-mentCforCtreatmentCofCatopicCkeratoconjunctivitis.CAmJOphthalmolC157:280-286,C20145)PucciCN,CCaputoCR,CMoriCFCetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.CIntCJCImmunopatholCPharmacolC23:C865-871,C20106)BoniniCS,CBoniniCS,CLambiaseCACetal:VernalCkeratocon-junctivitisrevisited:aCcaseCseriesCofC195patientsCwithClong-termfollowup.OphthalmologyC107:1157-1163,C20007)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20108)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmicCsuspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20109)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対する0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C201310)品川真有子,南場研一,北市信義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼C71:343-348,C201711)小沢昌彦,山口晃生,淵上あきほか:春季カタルに対するトリアムシノロンアセトニド眼瞼皮下注射の治療成績.臨眼C61:739-743,C200712)日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:アレルギー性結膜疾患の疫学.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班実績集.p12-20,日本眼科医会,1995***