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非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じた Vogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):728.732,2024c非小細胞肺癌に対する化学免疫療法中に生じたVogt-小柳-原田病様汎ぶどう膜炎の1例黒木洋平山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座CACaseofVogt-Koyanagi-Harada-LikePanuveitisDuringChemoimmunotherapyforPrimaryLungCancerYoheiKuroki,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicineC目的:肺癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)加療中に両眼に生じたCVogt-小柳-原田病(VKH)様ぶどう膜炎のC1例の経過を報告する.症例:75歳,男性.非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,ICI加療開始C4カ月後に眼痛が出現し,佐賀大学附属病院眼科に紹介となった.両眼漿液性網膜.離(SRD),脈絡膜肥厚を認め,フルオレセイン蛍光造影検査でCSRDと一致する多発点状蛍光漏出,視神経乳頭の過蛍光,インドシアニングリーン蛍光造影検査で中期から後期にCdarkspotを認めた.ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎と診断し,呼吸器内科と協議してCICIの休薬を行い,トリアムシノロン後部CTenon.下注射(STTA)のみでCSRDは消失した.経過中生じた薬剤性肺障害に対してプレドニゾロン内服をC6.5カ月行い,現在まで再発は認めていない.結論:本症例では一般的なCVKHと異なり,単回CSTTAとCICIの中止のみで眼炎症は軽快した.しかし,ICI中止の判断はむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofVogt-Koyanagi-Harada(VKH)-likeCuveitisCthatCappearedCduringCimmuneCcheckpointinhibitor(ICI)therapyforlungcancer.CaseReport:A75-year-oldmalewasreferredtotheDepart-mentofOphthalmology,SagaUniversity,duetoocularpain4monthsafterthestartofICItherapyforlungcan-cer.CSerousCretinaldetachment(SRD)andCchoroidalCthickeningCwereCobserved.CFluoresceinCangiographyCshowedC.uorescenceCleakageCconsistentCwithCSRD.CIndocyanineCgreenCangiographyCshowedCmidCtoClateCdarkCspots.CTheCpatientCwasCdiagnosedCasCVKH-likeCuveitisCrelatedCtoCICI,CandCICICwasCdiscontinuedCafterCconsultationCwithCtheCdepartmentCofCpulmonology.CMoreover,CsubtenonCtriamcinoloneacetonide(STTA)injectionCwasCperformedCandCSRDresolved.Prednisolonewasadministeredfor6.5monthstoaddressdrug-inducedlungdisease,withnouveitisrecurrenceCobserved.CConclusion:InCthisCcase,CocularCin.ammationCwasCrelievedCviaCdiscontinuationCofCICICandCSTTAinjection.SincedecidingtodiscontinueICIiscomplex,cooperationwithotherdepartmentsisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):728.732,C2024〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,ぶどう膜炎,免疫チェックポイント阻害薬,免疫関連有害事象.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,uveitis,immunecheckpointinhibitor,immune-relatedadverseevents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)はCcytotoxicCTClymphocyte-associatedCantigenC4(CTLA-4),programmedCcelldeath-1(PD-1),pro-grammedCcellCdeath-ligand1(PD-L1)といった免疫チェックポイント分子を阻害し,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化し,抗腫瘍効果を発揮する薬剤である1).ICIを用いた癌免疫治療法は,日本ではC2014年に悪性黒色腫で保険適用されて以降,さまざまな癌種の治療に使用され,高い奏効率と全生存期間延長を示している2).しかし,この新しい治療法は,全身の正常な臓器で自己免疫反応を引き起こすため,さまざまな全身性の免疫〔別刷請求先〕黒木洋平:〒849-8501佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YoheiKuroki,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityFacultyofMedicine,5-1-1Nabeshima,Saga849-8501,JAPANC728(124)図1初診時画像所見a:右眼広角眼底写真.Cb:左眼広角眼底写真.両眼ともに脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(SRD),視神経乳頭発赤・浮腫を認めた.Cc:右眼広角CSS-OCT.Cd:左眼広角CSS-OCT.脈絡膜厚は右眼C943Cμm,左眼C964Cμmと肥厚を認めた.関連有害事象(immune-relatedCadverseevents:irAE)が40.60%で発生すると報告されている.眼科関連のCirAEは1.3%で発生し,そのなかにはドライアイ,重症筋無力症,視神経障害,ぶどう膜炎が含まれ,使用開始後数週間.数カ月以内に発生する可能性がある.既報ではもっとも一般的な副作用はドライアイ(57%)で,続いてぶどう膜炎(14%)であると報告されているが,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koy-anagi-Haradadisease:VKH)様汎ぶどう膜炎の報告例はごく少数である3,4).今回,非小細胞肺癌に対してCICI加療中に,VKH様ぶどう膜炎を生じたC1例を経験したので経過を報告する.CI症例患者:75歳,男性.主訴:右眼結膜充血,右眼痛.既往歴:身体疾患の既往なし.現病歴:20XX年C1月C28日,非小細胞肺癌(stageIVA)に対して,佐賀大学附属病院(以下,当院)呼吸器内科にてカルボプラチン+ペメトレキセドに加えて,ICIであるイピリムマブ(抗CCTLA-4抗体)+ニボルマブ(抗CPD-1抗体)での加療を開始された.その後,3月C12日にイピリムマブ+ニボルマブC2クール目,4月C23日にイピリムマブ+ニボルマブC3クール目を施行された.5月C27日に右眼結膜充血,右眼眼痛が出現し,5月C29日に近医眼科を受診した.頭痛,感冒症状,めまいや耳鳴りなどの症状は認めなかった.右眼の前房炎症所見,両眼眼底周辺部の脈絡膜皺襞を伴う漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)を認めたため,当院眼科へ紹介となった.初診時所見:初診時視力は右眼C0.08(0.5C×sph+2.50D),左眼C0.3(0.7C×sph+3.00D(cyl.1.75DAx90°),眼圧は右眼C8CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部所見は両眼に全周の結膜充血,浅前房化,毛様体.離を認め,右眼前房細胞2+,左眼前房細胞+であった.両眼ともに有水晶体眼であった.眼底検査では両眼に脈絡膜皺襞を伴うCSRD,視神経乳頭発赤・浮腫を認めた(図1).また,脈絡膜厚は右眼943μm,左眼C964μmであり著明な脈絡膜肥厚を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では両眼に顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では中期から後期にCdarkspotが散見された(図2).血液検査ではぶどう膜炎の原因となるような,ウイルス感染や膠原病などの所見は認めず,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)はCDR4,DR9が陽性であった.腰椎穿刺は施行しなかった.臨床経過:ICIを用いた免疫療法開始C4カ月後から眼症状が出現しており,irAEの可能性が考えられ,呼吸器内科と協議し精査もかねてCICIは初診日より休薬とした.また,ICI休薬に加えて,初診日に両眼のトリアムシノロンアセトニドC20Cmg後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)を施行した.ステロイドパルス療法,ステロイド点眼は施行しなかった.ICI休薬C2週後の矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.6であったが,両眼の前眼部炎症所見は消失し,SRDは減少していた.ICI休薬C6週後の図2初診時蛍光眼底検査a:右眼フルオレセイン蛍光検査(FA).b:左眼CFA.顆粒状の過蛍光,SRDに一致した蛍光貯留,視神経乳頭過蛍光を認めた.c:右眼インドシアニングリーン蛍光検査(IA).d:左眼IA.中期から後期にCdarkspotが散見された.図3治療開始後のOCT経過a:右眼初診日(免疫療法開始C16週後).b:左眼初診日.Cc:右眼休薬C2週後.Cd:左眼休薬C2週後.Ce:右眼休薬C6週後.Cf:左眼休薬C6週後.初診日より免疫チェックポイント阻害薬は休薬とし,両眼にトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射を施行.経時的にCSRDは減少し,休薬C6週後にはCSRDは消失した.矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.6で両眼ともにCSRDの消失を認めた(図3).ICI休薬C14週後にCICIに起因すると考えられる薬剤性肺障害を認め,呼吸器内科でプレドニゾロン(PSL)25Cmg/日内服が開始となった.その後,肺障害の改善に伴いCPSLは漸減され,ICI休薬C41週後にCPSL内服は終了となった.ICI休薬C1年後には夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めたが,矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.7まで改善した(図4).その後もステロイド点眼やCSTTAの追加は行わず,眼炎症の再燃はなく現在まで経過している.経過中に脱色素斑や毛髪の白毛化は認めなかった.肺癌については,休薬C10カ月後から原発巣の増大を認めたが,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎,薬剤性肺障害が出現しており,ICIは再開しなかった.休薬C12カ月後よりアルブミン懸濁型パクリタキセル療法を開始したが,肺内転移巣の増大を認めた.その後,全身状態が増悪したが,患者がCbestCsupportivecareを希望したため,休薬C20カ月後より在宅療法となった.図4休薬1年後の眼底写真a:右眼パノラマ眼底写真.Cb:左眼パノラマ眼底写真.Cc:右眼COCT.Cd:左眼COCT.休薬C1年後に夕焼け状眼底,Dalen-Fuchs斑を認めた.CII考按本報告では,非小細胞肺癌に対するCICIを用いた免疫療法中にCVKH様汎ぶどう膜炎を発症した症例を提示し,ICI中止とCSTTAのみで眼炎症が軽快したことと,その管理における複数診療科の連携の重要性について報告した.VKH様ぶどう膜炎の発症メカニズムは,いまだ不明なことが多い.ICIは,免疫反応の制御に関与する特定の分子を標的とする.CTLA-4はCT細胞の活性化を抑制する.PD-1は活性化CT細胞に発現し,そのリガンドCPD-L1は抗原提示細胞や癌細胞に発現してCPD-1と結合することで,PD-1を発現するCT細胞を抑制している.ICIはこれらの免疫抑制分子をブロックすることにより,T細胞媒介免疫プロセスを増強することで癌細胞に対する免疫応答を強化する1).抗CTLA-4抗体にはCTh1様CCD4+T細胞増加作用があり4),抗CPD-1/PD-L1抗体と比較してぶどう膜炎を引き起こすリスクが高く,抗CPD-1抗体単剤療法と比較すると抗CTLA-4抗体併用療法では,ぶどう膜炎発症のオッズ比が4.77からC17.1に増加することが報告されている5).一般的にCVKHの発症機構は,自己抗原であるメラノサイト関連抗原のCtyrosinaseに感作され,活性化したCCD4+Tリンパ球が中心的な働きをしている6).ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の発症は,明確な機序は不明であるが,本症例ではICIの抗CPD-1抗体,抗CCTLA-4抗体の併用により,T細胞媒介免疫プロセスが増強されたことで,炎症惹起につながったと考えられる.また発症要因として,VKH様ぶどう膜炎でもCHLA-DR4(127)が発症に関与している可能性が示唆されている7.12).HLAは,白血球の相互作用を媒介する細胞表面分子のセットである主要組織適合性複合体をコードする遺伝子座である.HLAは免疫機能だけでなく,VKHを含む複数の自己免疫疾患の病因においても重要な役割を果たし,VKHではCHLA-DR4,とくにCHLA-DRB1と密接に関連していると報告されている6,13).本症例ではCHLA-DR4,DR9が陽性であった.また,既報でもCHLA検査を施行されたC8症例のうちC6症例でCHLA-DR4陽性の報告を認めた7.12).しかし,ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の報告は少なく,HLAとの関連は現時点では不明である.VKH様汎ぶどう膜炎の定型化された治療指針は確立されていない.一般的にCVKHではステロイドパルス療法が治療の第一選択となるが,本症例ではステロイドの免疫抑制作用によってCICIの悪性腫瘍に対する免疫応答の増強効果低下が懸念されたため,ICIの中止とともにCSTTAでの眼局所ステロイド治療を選択した.irAEとしてのぶどう膜炎に対する治療方針は米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインで,炎症所見の重症度ごとにCGrade分類されており,Gradeに応じて治療方針が異なる3).本症例は汎ぶどう膜炎を認め,CGrade3に当てはまり,ICIの休薬および眼内または眼窩内ステロイド局所投与またはCPSL内服が推奨された.経過中に薬剤性肺障害に対してCPSL内服を要したが,眼炎症の再燃は認めなかった.既報ではCVKH様汎ぶどう膜炎に対して,本症例と同様にCICIの中止およびCSTTA単独で初期治療を行ったものがC2例報告されているが,SRDの再燃またはSRD改善不良のため,ステロイドパルス療法を施行されあたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C731た7,8).しかし,VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIの中止およびステロイド内服での治療を行ったC3例の報告ではすべてで内服開始後速やかに炎症鎮静化を認め,炎症の再燃はなく,ステロイドパルス療法施行例との治療経過,視力予後に差は認めなかった9,10,14).VKH様汎ぶどう膜炎に対してCICIを中止しなかった症例報告では,ステロイド全身投与を行い,一時炎症軽快を認めたが,ステロイド中止後に炎症が再燃した15).本症例の経過および既報から,ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は,ICI中止に加えて適切なステロイド治療を行うことで炎症鎮静化,再発抑制が可能となる可能性が示唆された.また,ICI継続により炎症再燃を認めた症例があるため,ICIの中止はとくに重要である.ICIに伴うCVKH様汎ぶどう膜炎は報告例が少なく,定型化された治療指針はないが,一般的なCVKHと比較してCICIを中止することで軽度のステロイド治療で炎症の鎮静化が得られる可能性が考えられる.しかし,irAEとしてのCVKH様ぶどう膜炎と一般的なCVKHの臨床所見に明確な差異が認められなかったとの報告があるため7.12,14,15),irAEと関連がなく一般的なCVKHを偶発的に発症している可能性も考慮しておく必要がある.そのためCICI中止後も眼炎症の改善が得られない場合は,一般的なCVKHと同様にステロイドパルス療法の検討も必要と考えられる.さらに,ASCOガイドラインではCGrade3以上のぶどう膜炎でステロイド全身投与に反応が乏しい場合はメトトレキサート(MTX)の使用を推奨されているが3),VKH様ぶどう膜炎に対してCMTXでの加療を行われた報告は認めておらず,その有効性は明らかではない.CIII結論ICI使用に伴うCVKH様ぶどう膜炎の治療では,ICIの中止が重要である.しかし,眼科医のみでCICIの中止の判断を行うことはむずかしく,対応には他科との連携した介入が重要である.また,通常のCVKHと比較して軽度のステロイド治療で炎症が沈静化する可能性があり,今後の症例の蓄積および治療法の定型化が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HeCX,CXuC:ImmuneCcheckpointCsignalingCandCcancerCimmunotherapy.CellResC30:660-669,C20202)各務博:免疫チェックポイント阻害薬の現状と展望.肺癌C59:217-223,C20193)SchneiderCBJ,CNaidooCJ,CSantomassoCBDCetal:Manage-mentofimmune-relatedadverseeventsinpatientstreat-edCwithCimmuneCcheckpointCinhibitortherapy:ASCOCGuidelineUpdate.JClinOncolC39:4073-4126,C20214)WeiCSC,CLevineCJH,CCogdillCAPCetal:DistinctCcellularCmechanismsunderlieanti-CTLA-4andanti-PD-1check-pointblockade.CellC170:1120-1133,C20175)BomzeCD,CMeirsonCT,CHasanCAliCOCetal:OcularCadverseCeventsCinducedCbyCimmuneCcheckpointinhibitors:aCcom-prehensiveCpharmacovigilanceCanalysis.COculCImmunolCIn.ammC30:191-197,C20226)望月學:眼内炎症と恒常性維持.日眼会誌C113:344-378,C20097)KikuchiCR,CKawagoeCT,CHottaK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCfollowingCnivolumabCadministrationCtreatedCwithCsteroidCpulsetherapy:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:252,C20208)MinamiK,EgawaM,KajitaKetal:AcaseofVogt-Koy-anagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCinducedCbyCnivolumabCandCipilimumabCcombinationCtherapy.CCaseCRepCOphthal-molC12:952-960,C20219)EnomotoCH,CKatoCK,CSugawaraCACetal:CaseCwithCmeta-staticCcutaneousCmalignantCmelanomaCthatCdevelopedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCuveitisCfollowingCpembroli-zumabtreatment.DocOphthalmolC142:353-360,C202110)YoshidaCS,CShiraishiCK,CMitoCTCetal:Vogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCinducedCbyCimmuneCcheckpointCinhibitorsinapatientwithmelanoma.ClinExpDermatolC45:908-911,C202011)UshioCR,CYamamotoCM,CMiyasakaCACetal:Nivolumab-inducedCVogt-Koyanagi-Harada-likeCsyndromeCandCadre-nocorticalCinsu.ciencyCwithClong-termCsurvivalCinCaCpatientCwithCnon-small-cellClungCcancer.CInternCMedC60:C3593-3598,C202112)BricoutCM,CPetreCA,CAmini-AdleCMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likesyndromecomplicatingpembrolizumabtreatmentCforCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC40:C77-82,C201713)ShiinaCT,CInokoCH,CKulskiJK:AnCupdateCofCtheCHLACgenomicCregion,ClocusCinformationCandCdiseaseCassocia-tions:2004.TissueAntigensC64:631-649,C200414)GodseCR,CMcgettiganCS,CSchuchterCLMCetal:Vogt-Koy-anagi-Harada-likeCsyndromeCinCtheCsettingCofCcombinedCanti-PD1/anti-CTLA4Ctherapy.CClinCExpCDermatolC46:C1111-1112,C202115)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor)C,CforCmetastaticCcutaneousCmalignantCmelanoma.CClinCCaseRepC5:694-700,C2017***

ぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症した アテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):217.222,2024cぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症したアテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1例曽谷拓之石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofImmune-RelatedAdverseEventduetoAtezolizumabwithSimultaneousUveitisandLimbicEncephalitisHiroyukiSotani,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ導入C2週間後に,ぶどう膜炎と辺縁系脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.症例:50歳,男性.肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブが導入された.2週間後,発熱・嘔吐,意識レベル低下を呈し,辺縁系脳炎と診断された.ステロイドパルス療法が施行され,翌日には意識レベルは改善するも,3日後視野異常を自覚し眼科を受診した.矯正視力は右眼C0.2・左眼C0.3,前眼部・中間透光体に異常認めず,両眼底には網膜血管炎と漿液性網膜.離を認めた.アテゾリズマブによるぶどう膜炎と辺縁系脳炎の同時発症と考え,ステロイド治療を継続した.初診からC1年後,血管炎や漿液性網膜.離は改善するも,網膜外層障害は残存しており視力は改善していない.結論:免疫チェックポイント阻害薬はCT細胞の活性化により腫瘍細胞を攻撃し癌を退縮する.活性化CT細胞が他の抗原提示正常細胞を攻撃した場合には,炎症を惹起する.アテゾリズマブはまだ新しい薬剤であり,今後も非典型的なぶどう膜炎には注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofsimultaneousuveitisandlimbicencephalitisthatdeveloped2-weeksafterintro-ductionCofCatezolizumab.CCase:AC50-year-oldCmaleCdevelopedCfever,Cvomiting,CandCdecreasedClevelCofCconscious-nessC2CweeksCafterCreceivingCatezolizumabCforCstageCIVClungCadenocarcinoma,CandCwasCdiagnosedCwithClimbicCencephalitis.CSteroidCpulseCtherapyCwasCadministered,CandCtheChisClevelCofCconsciousnessCimprovedCtheCnextCday.CHowever,C3CdaysClater,CheCsoughtCophthalmologicalCconsultationCdueCtoCabnormalitiesCinChisCvisualC.eld.CSlit-lampCexaminationrevealedbilateralretinalvasculitisandserousretinaldetachment.Thepatientwasconsideredtohavesimultaneousuveitisandlimbalencephalitiscausedbyatezolizumab,andsteroidtherapywascontinued.At1yearaftertheinitialdiagnosis,thevasculitisandserousretinaldetachmenthadimproved,yettheextraretinaldamageremainedandhisvisualacuitydidnotimprove.Conclusion:Sinceatezolizumabisstillanewagent,itshouldbeusedwithstrictcautionincasesofatypicaluveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):217.222,C2024〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,アテゾリズマブ,ぶどう膜炎,辺縁系脳炎免疫関連有害事象.im-munecheckpointinhibitor,atezolizumab,uveitis,limbicencephalitis,immune-relatedAdverseEvents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)には抗CPD-1抗体,抗CPD-L1(programmeddeath-ligand1)抗体,抗CCTLA-4抗体のC3種類が存在する.アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬の一種であり,PD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.現在わが国では肺癌・乳癌・肝細胞癌の一部に適応がある比較的新しい薬剤であるが,その一方で使用により従来の殺細胞性抗腫瘍薬や分子標的薬ではみられなかった免疫関連の副作用として,眼障害,内分泌障害,間質性肺疾患,消化器系障害,脳神経系障害,肝胆膵障害など,さまざまな副作用が報告されている1,2).眼障害は全体の約C1%に生じると〔別刷請求先〕曽谷拓之:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiSotani,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1a初診時眼底写真アーケード血管周囲の滲出性変化と黄斑部の漿液性網膜.離を認める.図1b初診時広角眼底写真周辺部の血管にも滲出性変化を認める.され,そのなかでもおもな疾患はドライアイ(1.24%),ぶどう膜炎(約C1%)とされる3).今回アテゾリズマブ導入C2週間後に両眼後部ぶどう膜炎と自己免疫性脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳,男性.主訴:両視野異常.現病歴:肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブを導入,15日後に発熱・嘔吐を主訴に緊急入院した.その翌日意識レベル低下と強直間代性けいれんが出現したため頭部造影MRIを施行され,辺縁系脳炎が疑われた.アテゾリズマブを中止し,ステロイドパルスC1,000CmgをC3日間施行され意識レベルは改善したが,両中心暗点の自覚症状があり同日眼科受診となった.既往歴:肺腺癌CStageIV(cT4N3M1a)に対し以下の抗癌剤治療を施行していた.C1stline:カルボプラチン(CBDCA)/パクリタキセル(PTX)/ベバシズマブ(Bev)/ニボルマブ(抗CPD-1抗体)4コース.C2ndlineドセタキセル(DOC)+ラムシルマブ(RAM)4コース.3rdlineアテゾリズマブ(抗CPD-L1抗体).初診時所見:初診時の視力は右眼C0.15(0.2C×sph.1.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼C0.09(0.3C×sph.1.25D(cylC.2.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHg,図1c初診時動的視野検査両眼に中心比較暗点を認める.図1d初診時OCT画像漿液性網膜.離と黄斑から鼻側の一部にCEZ/IZの欠損と外顆粒層の高反射病変を認める.IR画像では特異な所見は認めない.対光反射は両眼迅速かつ十分,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.前眼部・中間透光体には軽度白内障を認める以外異常はなく両眼眼底に滲出性変化を伴う網膜血管炎所見と漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を認めた(図1a,b).動的視野検査(Goldmannperimetry:GP)では両眼に中心比較暗点を認めた(図1c).また,光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼にCSRDと黄斑から鼻側にかけて視細胞外層障害を認めた(図1d).なお,全身状態を考慮し蛍光眼底造影検査は施行されなかった.経過:内科では頭部造影CMRI(図2a)や髄液検査などを施行された結果,免疫関連有害事象(immune-relatedAdverseEvents:irAE)による自己免疫性脳炎と診断,眼科では視神経疾患,腫瘍関連網膜症や他のぶどう膜炎を疑う所見は認めずCICI使用歴があることからCirAEによる後部ぶどう膜炎と診断された.眼科初診後(発症C10日後),さらにステロイドパルスC1,000Cmg3日間をC1クール施行された.パルスC2クール後にはCSRDは消失(図3),矯正視力は右眼0.3),左眼(0.2)であった.また,頭部造影CMRIでも自己免疫性脳炎は軽快(図2b)し,ステロイドC35Cmgから漸減を開始された.その後アテゾリズマブ中止からC2カ月後C4thlineカルボプラチン(CBDCA)/ペメトレキセド(PEM)を導入時点で矯正視力は両眼(0.4),発症C6カ月後にはステロイド内服を終了,GPでは中心比較暗点の改善を認めた(図図2頭部造影MRIT2WI・FLAIR像a:両側海馬全体が腫脹し高信号を示す.辺縁系脳炎が疑われる.Cb:腫脹は同程度だが信号の減弱を認める.図3ステロイドパルス療法2クール後(発症C10日後)の所見EZ/IZの不整欠損の残存はあるが漿液性網膜.離は改善を認める.4),7カ月後よりC5thlineテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)が導入された.1年後時点で矯正視力は両眼(0.4),視細胞外層障害が残存した(図5).なお,患者は最終受診C1カ月後に進行性癌により死亡している.CII考按アテゾリズマブはCPD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.活性化CT細胞上に発現するCPD-1(programmeddeath-1)が,癌細胞や抗原提示細胞が発現するリガンドであるPD-L1に結合することによりCT細胞活性化を抑制し,癌細胞の免疫逃避が起こる.抗CPD-L1抗体は,PD-L1に結合することによりCT細胞上のCPD-1との相互作用を阻害し,その結果抑制シグナル伝達をブロックしCT細胞の活性化を維持する3).免疫系の主要な調節因子を対象とした治療であり効果がある反面,免疫学的副作用リスクも上昇する.irAEとしてのぶどう膜炎の機序は現在解明されていないが,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞の表面にはCPD-L1受容体が発現しておりCT細胞上のCPD-1受容体との相互作用を遮断すると,RPE細胞に対する細胞毒性とCTh1反応が持続し,ぶどう膜炎を引き起こすとされる4,5).また,PD-L1シグナル伝達の欠如により,PD-1陽性CT細胞が炎症を起こした血管壁に浸潤し,インターフェロン-c,インターロイキン-17,インターロイキン-21などのエフェクターサイトカインを産生することがわかっておLR図4アテゾリズマブ中止から1年後の動的視野検査両眼とも暗点の残存は認めるも改善は認めている.図5発症から1年後のOCT所見両眼に視細胞外層の不整が残存している.り,その結果生じるリンパ球の蓄積が,フルオレセイン血管造影でみられる関連する静脈炎を説明する可能性がある6,7).Dowらのレビューによると報告された免疫チェックポイント阻害薬関連ぶどう膜炎C241眼のうち,37.7%(91)が前部ぶどう膜炎,0.01%(2)が中間部ぶどう膜炎,25.7%(62)が後部ぶどう膜炎,34.0%(82)が汎ぶどう膜炎を発症し,アテゾリズマブは他のCICIと比較して後部ぶどう膜炎の発生率が有意に増加していた(80.0%対C23.7%,p<0.001)8).さらに,アテゾリズマブを服用している患者のC15眼のうちC10眼は,網膜血管炎または静脈炎を伴い,しばしば網膜外層の破壊を伴う急性黄斑神経網膜症(AMN)または傍中枢性急性中部黄斑症(PAMM)に似た所見を示したとされる6,8).また他にもアテゾリズマブによる眼副作用では,前部ぶどう膜炎9)や,Vogt・小柳・原田病様ぶどう膜炎を呈した報告がある10)(表1).抗CCTLA-4抗体や抗CPD-1抗体使用後の両眼後部ぶどう膜炎と網膜.離をきたした症例11)はあるが,アテゾリズマブによる同様の症状を呈した報告は筆者らの知る限りでは本症例が最初の報告である.ただし今回C1stlineに抗CPD-1抗体のニボルマブを使用しており,ニボルマブによる遅発性irAEの可能性も考えられる11.13).本症例では両側の網膜血管炎をきたし,初診時CSD-OCT表1アテゾリズマブによる眼副作用報告と自験例との比較年齢・性別(疾患)眼所見(両眼)C/全身症状発症までの投与期間治療経過本症例50歳,男性(肺腺癌)中心比較暗点網膜血管炎・SRD/発熱・嘔吐・意識障害・強直間代性けいれん15日ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間2クール後,経口ステロイド漸減・ステロイドパルス療法C2クール後CSRD消失・発症C6カ月後暗点改善,ステロイドオフ64歳,男性9)(非小細胞肺癌)Descemet膜皺襞角膜後面色素沈着前房細胞C2+(SUNWorkingGroup基準)/全身症状なし3週間ステロイド点眼C3時間ごと/日および散瞳薬C2回/日で開始・C14日後色素沈着減少,前房細胞・Descemet膜皺襞消失・1カ月後前部ぶどう膜炎完全消失局所ステロイド漸減76歳,女性10)(非小細胞肺癌)前房内フィブリン視神経乳頭腫脹多発性CSRD波状CRPE脈絡膜肥厚/全身症状なし17カ月ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間後,経口・局所ステロイド漸減・開始C5日後前房内炎症消失・2カ月後CSRD完全消失・3カ月後ステロイドオフ上,黄斑部に漿液性網膜.離・黄斑から鼻側にかけて一部外顆粒層の高反射病変ならびにCellipsoidzone(EZ)とCinter-digitationzone(IZ)の不整欠損を認めた.また,眼底写真や自発蛍光画像,近赤外眼底撮影(IR)画像ではCAMNやPAMMを特徴づける有意な所見は認めなかった14).Ramto-hulらは,抗CPD-L1抗体の最初の投与から約C2週間後に発熱・インフルエンザ様症状とともに両側傍中心暗点をきたすAMN様病変で構造的・機能的障害が残存するものを「抗PD-L1抗体関連網膜症」とよんでおり6),本症例も明らかな確定所見は得られないが類似した経過をたどっており,その一部である可能性も示唆される.CIII結論眼科領域のCirAEは他臓器に対し頻度が少なく,見逃される可能性がある.免疫チェックポイント阻害薬は比較的新規の薬剤であり,今後も適応拡大が予想される.内科医との連携は重要であり,眼科的CirAE発生には注意を要する.文献1)只野裕己,鳥越俊彦:免疫チェックポイント阻害剤の免疫性副作用.JpnJClinImmunolC40:102-108,C20172)ChampiatCS,CLambotteCO,CBarreauCECetal:ManagementCofCimmuneCcheckpointCblockadeCdysimmunetoxicities:aCcollaborativeCpositionCpaper.CAnnCOncolC27:559-574,C20163)DalvinLA,ShieldsCL,Orlo.Metal:Checkpointinhibi-torimmunetherapy:systemicindicationsandophthalmicsidee.ect.RetinaC38:1063-1078,C20184)ZhouR,CaspiRR:Ocularimmuneprivilege.F1000BiolRepC2:1-3,C20105)ParikhCRA,CChaonCBC,CBerkenstockMK:OcularCcompli-222あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024cationsCofCcheckpointCinhibitorsCandCimmunotherapeuticagents:aCcaseCseries.COculCImmunolCIn.ammC29:1-6,C20206)RamtohulP,FreundKB:Clinicalandmorphologicalchar-acteristicsCofCanti-programmedCdeathCligandC1-associatedretinopathy:expandingCtheCspectrumCofCacuteCmacularCneuroretinopathy.OphthalmolRetinaC4:446-450,C20207)ZhangH,WatanabeR,BerryGJetal:Immunoinhibitorycheckpointde.ciencyinmediumandlargevesselvasculi-tis.ProcNatlAcadSciUSAC114:E970-E979,C20178)DowER,YungM,TsuiE:Immunecheckpointinhibitor-associateduveitis:reviewCofCtreatmentsCandCoutcomes.COculImmunolIn.ammC29:203-211,C20219)MitoT,TakedaS,MotonoNetal:Atezolizumab-inducedbilateralanterioruveitis:acasereport.AmJOphthalmolCaseRepC24:101205,C202110)SuwaCS,CTomitaCR,CKataokaCKCetal:DevelopmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCduringCtreat-mentCbyCanti-programmedCdeathCligand-1CantibodyCforCnon-smallcelllungcancer:acasereport.OculImmunolIn.ammC30:1-5,C202111)PengCL,CMAOCQQ,CJiangCBCetal:BilateralCposteriorCuve-itisCandCretinalCdetachmentduringCimmunotherapy:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CFrontCOncolC10:1-8,C202012)RichardsonCDR,CEllisCB,CMehmiICetal:BilateralCuveitisCassociatedwithnivolumabtherapyformetastaticmelano-ma:acasereport.IntJOphthalmolC10:1183-1186,C201713)MiyamotoCR,CNakashizukaCH,CTanakaCKCetal:BilateralCmultipleCserousCretinalCdetachmentsCafterCtreatmentCwithnivolumab:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:1-7,C202014)HufendiekCK,CGamulescuCMA,CHufendiekCKCetal:CClassi.cationandcharacterizationofacutemacularneuro-retinopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.IntOphthalmolC38:2403-2416,C2018(112)

ニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例

2019年3月31日 日曜日

《第52回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科36(3):399.402,2019cニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例永田篤大高康博名古屋第二赤十字病院眼科CCaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedonInitialSymptomsofOcularandOralFindingsafterOneNivolumabInjectionAtsushiNagataandYasuhiroOtakaCDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブによるさまざまな免疫関連有害事象は報告されているがCSte-vens.Johnson症候群(SJS)の眼科的な報告は少ない.舌癌治療のためニボルマブを使用し,最初に眼表面と口腔粘膜にCSJS所見を呈し発見に至ったC1例につき報告する.症例:53歳,女性.既往に舌癌切除術施行も頸部リンパ節転移.2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め,近医にて細菌性結膜炎と診断された.2日後に口腔内のびらんを認めヘルペス性口内炎を疑われ入院し,翌日より両眼眼痛と視力低下を認め当科初診.両眼の角膜びらん,結膜充血と瞼結膜の偽膜形成,口腔内の水疱,びらんを認めた.全身の皮膚所見は認めなかった.SJSと考え誘因薬剤を調査したところ,1月中旬にニボルマブを使用していたことが判明し同薬剤が発症に関与していると考えた.結論:適応拡大に伴いニボルマブ使用が急速に増えることが予想され,われわれ眼科医はCSJSが起こる可能性を念頭において診察する必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatCinitiallyCpresentedCocularC.ndingsCafterCnivolumabinjection.Case:A53-year-oldfemalehadahistoryoftonguecancersurgicalremoval,recurrenceandcervicalClymphCnodeCmetastasis.CSheCinitiallyCpresentedCeyeredness;anCeyeCpractitionerCsuspectedCbacterialCcon-junctivitis.Oralerosionsappearedintwodays;herpeticoralstomatitiswassuspectedandthepatientwashospi-talizedinourhospital.Thefollowingday,sheexhibitedbilateralconjunctivalinjection,pseudomembranesandcor-nealerosions.Oralmultiplemucouserosionsweresimultaneouslypresented,withnoskineruption.WediagnosedSJS,basedontheclinical.ndings.Possiblerelevanceofnivolumabusage12daysbeforeSJSoccurrencewascon-sidered.Positivereactionstolymphocytestimulationtestwereobservedforloxoprofen.Conclusion:Theoncologi-calCuseCofCimmuneCcheckpointCinhibitorsCsuchCasCnivolumabCisCbecomingCmoreCwidespread.CWeCophthalmologistsCmustbeopentoearlyrecognitionofnivolumab-inducedSJS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):399.402,C2019〕Keywords:Stevens-Johnson症候群,ニボルマブ,免疫関連有害事象,免疫チェックポイント阻害薬,抗CPD-1抗体.Stevens-Johnsonsyndrome,nivolumab,immunerelatedadverseevents,immunecheckpointinhibitor,anti-PD-1antibody.Cはじめに近年,癌治療において免疫チェックポイント阻害薬とよばれる新たな作用機序の治療薬が登場し,殺細胞性抗癌薬や分子標的薬に抵抗性を示す癌においても優れた治療効果を発揮している.抗CcytotoxicT-lymphocyte-associatedprotein4C(CTLA-4)抗体のイピリムマブ(ヤーボイCR),抗CprogrammedcellCdeath1(PD-1)抗体のニボルマブ(オプジーボCR)は現在国内で使用可能で,2014年C7月にニボルマブが悪性黒色腫に対して承認され,その後はさまざまな癌に適応拡大され使用量も急激に増えている.現在ニボルマブによるCStevens-〔別刷請求先〕永田篤:〒466-8650名古屋市昭和区妙見町C2-9名古屋第二赤十字病院眼科Reprintrequests:AtsushiNagata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospital,2-9Myoken-cho,Showa-ku,Nagoya-shi,Aichi466-8650,JAPANCJohnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)の国内での有害事象報告はC29,000例近くの使用に対してC25例あるが,眼科領域での臨床報告は少ない1).今回眼所見を契機に診断に至ったニボルマブが関与したと考えられたCSJS症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.CI症例患者:53歳,女性.既往歴:2017年C2月舌癌切除術を施行するも術後再発を認め,5月から化学療法,10.12月にかけて化学療法と放射線療法を行った.現病歴:2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め近医を受診し,結膜炎の診断にてニューキノロン点眼薬を処方された.同時に口腔内の痛み,顔面の腫脹も自覚していた.2日後に口腔粘膜に多発したびらんを認め,舌癌治療の当院口腔外科でヘルペス性口内炎を疑われ入院にて治療を開始した.翌日より両眼眼痛と視力障害を認め口腔外科より眼科診察依頼を受けた.初診時所見:視力は右眼C0.04(矯正不能),左眼C0.06(0.2C×cyl.2.0DAx20°),両眼の球結膜充血が著明で瞼結膜には偽膜の形成,角膜には広範囲にびらんを認めた(図1).また口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には白苔所見を認めた(図2).全身検査所見ではCWBC7,300/μl,CRP5.31Cmg/dlとCCRPの軽度上昇,また体温はC38.9℃であ図1初診時前眼部写真両眼の球結膜の著明な充血,瞼結膜の偽膜形成,角膜の広範囲のびらんを認めた.った.全身皮膚には異常所見は認めなかったが,これらの所見からCSJSを疑い皮膚科に紹介した.全身には皮疹は認めなかったが結膜,口唇,口腔粘膜所見と発熱所見よりCSJSと診断された.経過:同日よりメチルプレドニゾロンC500Cmgの点滴静注をC3日間施行した.眼科的にはリン酸ベタメタゾン点眼,モキシフロキサシン点眼をC2時間ごとで開始し,また偽膜除去を毎日行った.同時に眼所見発症前後の治療,服薬歴を調査した.2018年C1月中旬に舌癌の再発に対してニボルマブ150Cmg点滴静注を施行されたが,点滴後の体調不良を訴え1回の使用のみで中断された.下旬に両結膜充血にて近医にてニューキノロン点眼が処方され,翌日喉,耳に疼痛を感じ市販感冒薬ルルRを服薬した.翌々日にヘルペス性口内炎を疑われアシクロビル点滴治療が行われていた.それ以外には癌性疼痛除去のためロキソプロフェンナトリウム錠,レバミピド錠が頓用で使用されていた.ニボルマブ注射以降にはこれらの薬剤の使用歴はなかったがいつまで使用したかは不明であった.リンパ球刺激試験を行い(表1),ロキソプロフェンとアセトアミノフェン錠が陽性を示した.ステロイド治療後は徐々に充血,偽膜は改善し,発症後約C1カ月後には視力右眼C0.6(0.9)左眼C0.5(1.0)にまで改善し,角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった(図3).口唇,口腔内も著明に改善した.ステロイド内服はCPSL30Cmgから開始し漸減され発症C1カ月半後に中止となった.CII考按ニボルマブをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬ではその作用機序により自己免疫機能が増強されてさまざまな免疫関連有害事象(immune-relatedadverseevents:irAE)が発症することは避けられず,多臓器でCirAEが報告されている2,3).もっとも頻繁に,かつ比較的早期に観察されるirAEは皮膚障害で,多くは軽症であるが重症型としてCSJS図2初診時口唇,口腔内所見口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には著明な白苔所見を認めた.表1リンパ球刺激試験薬剤名測定値(c.p.m)SI(%)レバミピドC136C99ロキソプロフェンC1,257C917アセトアミノフェンC1,577C1,151コントロールC137判定基準S.I.%180以下:陰性,181以上:陽性.SI:stimulationindex(刺激指数)図3発症1カ月後前眼部写真角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった.や中毒性表皮壊死症(toxicCepidermalnecrosis:TEN)も報告されている2).また,Goldingerらは抗CPD-1抗体治療の皮膚病変の副作用として,22%に軽度の発疹から重度のCSJS発疹が出現したと報告している4).抗CPD-1抗体治療によるSJSやCTENの報告は数例の報告があり,それらは抗CPD1抗体単独使用または放射線治療との併用で起こったと報告されている5.7).今回の症例では眼所見が初発所見で,直後に口腔内所見が出現し全身皮膚所見は認めなかったが,その特徴的な眼所見,口腔粘膜所見と発熱からCSJSと考え,ニボルマブ投与後C12日後の発症であることからニボルマブの関与によるSJSを強く疑った.リンパ球刺激試験ではロキソプロフェンとアセトアミノフェンが陽性を示したが,近医眼科での結膜炎所見とその翌日に喉,耳の自覚症状があったことからこの時点を発症と考えると,総合感冒薬ルルCR(アセトアミノフェン含有)はそれ以降に使用した薬剤であり,発症前に使用している薬剤はロキソプロフェンとニボルマブのみであった.ロキソプロフェンはリンパ球刺激試験で陽性を示し,以前からCSJSの原因薬剤として抗菌薬と下熱鎮痛薬は原因薬の代表であり8),今回の原因薬剤としての関与は否定はできない.ニボルマブの作用機序は,T細胞上に発現したCPD-1と癌細胞上に発現したリガンドであるCPD-L1の相互作用でCT細胞の活動性が抑制されているのをブロックする抗体でCT細胞の活性化につなげるメカニズムであり9),ロキソプロフェンに反応して活性化したCTリンパ球がさらにニボルマブにより反応した可能性も考えられた.今回の症例では全身の皮膚に所見を認めずCSJSの診断基準は認めていないが8),ニボルマブではないが皮膚所見を伴わず粘膜病変のみを呈したCSJSの報告も散見されている10,11).一方,免疫チェックポイント阻害薬の眼科的副作用の報告として,LaurenらはC1990.2017年の文献をCPubMedを使用して眼科的副作用病名をキーワードに検索した.そのキーワードにはCSJSは含まれていなかったが,ぶどう膜炎(1%)とドライアイ(1.24%)がもっとも多かったと報告している12).免疫チェックポイント阻害薬によるCSJSの報告は癌関連や皮膚科のジャーナルでの報告が大多数で5.7),われわれ眼科医が眼科的副作用の観点からは認識しにくい傾向があると思われた.今後ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の使用が急激に増えることが予想され,使用早期の眼所見としてCSJSも常に念頭に置いて診察し早期発見,治療に努めることが重要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)小野薬品工業:オプジーボ副作用発現状況全体集計(集計期間:2014/07/04.2018/01/15)2)MichotCJM,CBigenwaldCC,CChampiatCSCetal:Immune-relatedCadverseCeventsCwithCimmuneCcheckpointCblock-age:acomprehensivereview.EurJCancerC54:139-148,C20163)門野岳史:免疫チェックポイント阻害剤による免疫関連副作用の実際.日本臨床免疫学会会誌40:83-89,C20174)GoldingerSM,StiegerP,MeierBetal:Cytotoxiccutane-ousCadverseCdrugCreactionsCduringCanti-PD-1Ctherapy.CClinCancerResC22:4023-4029,C20165)NayarCN,CBriscoreCK,CFernandezPP:ToxicCepidermalCnecrolysis-likeCreactionCwithCsevereCsatelliteCcellCnecrosisCassociatedCwithCnivolumabCinCaCpatientCwithCipilimumabCrefractoryCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC39:149e52,C20166)ItoJ,FujimotoD,NakamuraA:AprepitantforrefractorynivolumabCinducedCpruritus.CLungCCancerC109:58-61,C20177)SalatiCM,CPi.eriCM,CBaldessariCCCetal:Stevens-JohnsonCsyndromeCduringCnivolumabCtreatmentCofCNSCLC.CAnnCOncolC29:283-284,C20188)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会:重症多形滲出性紅斑・スティーブンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日眼会誌121:42-86,C20169)OkazakiCT,CHonjoT:PD-1CandCPD-1ligands:fromCdis-coveryCtoCclinicalCapplication.CIntCImmunolC19:813-824,C200710)LatschCK,CGirschickCH,CAbele-HornM:Stevens-JohnsonCsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiolC56:1696-1699,C200711)鈴木智浩,大口剛司,北尾仁奈ほか:眼所見から診断されたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C33:C451-454,C201612)LaurenAD,CarolLS,MarlanaOetal:Checkpointinhibi-torCimmuneCtherapyCsystemicCindicationsCandCophthalmicCsidee.ects.RetinaC38:1063-1078,C2018***