《原著》あたらしい眼科37(2):226?229,2020c低加入度数分節型眼内レンズ挿入眼における全距離視力木下雄人*1織田公貴*1森洋斉*1子島良平*1南慶一郎*1宮田和典*1大鹿哲郎*2*1宮田眼科病院*2筑波大学医学医療系眼科All-DistanceVisualAcuityafterImplantationofaSegmentedIntraocularLenswith+1.5DAddPowerKatsuhitoKinoshita1),KimitakaOda1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andTetsuroOshika2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTsukuba目的:+1.5D加入の分節型眼内レンズ(IOL)挿入眼における全距離視力を前向きに検討した.方法:対象は,加齢性白内障により両眼に+1.5D加入の分節型眼内レンズ(LS-313MF15,Oculentis)を挿入した10例20眼(平均年齢:67.6±7.5歳).挿入後1,3,12カ月時に,遠方矯正下における全距離視力を単眼,両眼で測定した.結果:自覚屈折等価球面度数は,術後1カ月で?0.21±0.27D,12カ月で?0.10±0.12Dであった.術後1カ月時の全距離視力は,単眼視では遠方から0.7mまで平均0.95以上と安定し,より近方において有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).両眼視も同様に,0.5mまで視力0.76?1.11と安定し,0.3mで低下した(p<0.026).術後12カ月時も同様であったが,0.5mでの単眼視力は術後1?3カ月間で低下する傾向がみられた(p=0.051).結論:全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.All-distancevisualacuity(VA)afterimplantationofsegmentedintraocularlens(IOL)with+1.5diopter(D)addpowerwasprospectivelyevaluated.SegmentedIOLs(LS-313MF15,Oculentis)wereimplantedin20age-relatedcataracteyesof10patients(meanage:67.6±7.5years),anddistance-correctedall-distanceVAsweremeasuredat1-,3-,and12-monthspostoperativelyusingtheall-distancevisiontesterundermonocularandbinoc-ularvision.Themeanmanifestrefractionsphericalequivalentat1-and12-monthspostoperativelywas?0.21±0.27Dand?0.10±0.12D,respectively.At1-monthpostoperatively,themeanmonocularall-distanceVAwas0.95orbetterfromfarto0.7meters(m),anddecreasedatnearerdistances(p<0.042).Binocularly,thestableVA(0.76-1.11)wasobtaineduntil0.5m,andtheVAat0.3mwaslowerthanatotherdistances(p<0.026).Therewasnodi?erenceat12monthspostoperatively.InthemonocularVAsat0.5m,therewasaslightdecreasefrom1-to3-months(p=0.051).Theall-distanceVAresultsdemonstratedthattheuseofthelowaddpowersegmentedIOLallowedforpreferableuncorrectedVAsuntil0.7mand0.5mundermonocularandbinocularvision,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(2):226?229,2020〕Keywords:低加入度数分節型眼内レンズ,全距離視力,両眼視.low-add-powersegmentedintraocularlens,all-distancevisualacuity,binocularvision.はじめに白内障手術時に挿入される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)として,乱視を矯正するトーリックIOL,遠方視力に加えて近方視力も提供可能な多焦点IOL,そして,焦点深度を拡張することで視距離が広くなった焦点深度拡張型(extend-eddepthoffocus:EDOF)IOLが臨床使用可能となり,術後に眼鏡が不要,あるいは,使用頻度が低くても支障ない術後生活を提供することが可能となっている1?3).しかしながら,近方視力への加入度数が大きいほど,多焦点IOL挿入後のコントラスト感度の低下,グレア,ハローなどの光障害〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,MD,PhD,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN226(112)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYが重度となる.そのため,近年,それらの合併症が軽減される低加入度数の多焦点IOL1,3)やEDOFIOL4)が注目されている.レンティスコンフォートLS-313MF15(Oculentis)は,わが国で承認された低加入度数分節型IOLである.親水性アクリル製,支持部はplate形状で,6mm径の光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている(図1).低加入度数の領域が含まれているため,単焦点IOLより広い明視域,最小限のコントラスト感度の低下,光障害の低減が期待できる.Vou-notrypidisらの評価では,遠方,中間距離(80cm)で良好な視力が得られ,光障害の自覚は少なく(9.1%),さらに,両眼defocuscurveでは,0.20logMAR以上の視力が±1.0Dの範囲で得られている5).しかし,遠方から近方30cmまでの全距離視力と,生活視力に匹敵する両眼全距離視力は評価されていない.そこで本レンズ挿入眼における単眼視,両眼視での全距離視力を前向きに評価した.I対象および方法本レンズの多施設臨床試験(65例120眼,経過観察52週間)が2016年9月より行われた6).宮田眼科病院はその一施設として,当院の施設内審査委員会(InstitutionalReviewBoard:IRB)承認後,文書によるインフォームド・コンセントを取得し,ヘルシンキ宣言に則り実施した.対象は,超音波有水晶体乳化吸引術による白内障摘出後,水晶体?内にIOLを挿入固定でき,術後矯正視力0.7以上が期待できる10例20眼とした.IOL度数は,両眼とも正視となるように決定した.進行性の糖尿病,コントロール不良の緑内障,活動性のぶどう膜炎,虹彩血管新生,斜視など両眼視機能が異常な症例は除外した.当院における多焦点およびEDOFIOL挿入後の検査に準じて,本IOL挿入後1,3,12カ月時に,遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を単眼で測定した.また,遠方矯正下で,全距離視力計(AS-15,興和)を用いて,0.3m,0.5m,0.7m,1m,2m,3m,5mでの視力を,単眼,両眼で測定した.全距離視力の経時変化はSche?eの対比較を用いて評価した.p<0.05を統計的に有意差ありとした.II結果対象の年齢は55?82歳(平均:67.6±7.5歳)で,平均眼軸長は23.5±0.8mmであった.単眼視力は全例で測定した.遠方(5m)での裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数を表1に示す.裸眼視力は経時的な変化はなかった(p=0.11,Freedmantest)が,術後3カ月の自覚屈折等価球面度数は1カ月に比べて有意に大きかった(p=0.001,Holm多重比較).また,左右眼の自覚屈折等価球面度数差は,術後1カ月時は0.01±0.34D,術後12カ月時は0.00±0.23Dであった.単眼視の遠方矯正下における全距離視力を図2に示す.術後1カ月時は,遠方から0.7mまで平均?0.02logMAR(小数:1.04)以上と安定し,それより近方では他の距離より有意に低下した(p<0.042,Sche?eの対比較).術後3カ月時は,遠方から0.7mまで平均0.01logMAR(小数視力:0.98)以上,それより近方では有意に低下した(p<0.0059).術後12カ月時も同様に,遠方から0.7mまで平均0.02logMAR(小数視力:0.95)以上,0.5mと0.3mで低下した(p<0.0037).また,0.5m視力は,術後1カ月と術後3カ月の間で低下傾向がみられた(p=0.052).図3に,挿入後1,3,12カ月時の遠方矯正下における両眼視時の全距離視力を示す.各観測時に測定できたのは,それぞれ8,10,7例であった.術後1カ月時は,遠方から0.5mまで平均?0.03logMAR(小数視力:1.07)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0026).術IOL度数1.5D加入図1レンティスコンフォートLS?313MF15光学部はIOL度数の屈折力となる部分と,扇状の+1.5D加入された下方部分とに分節されている.表1挿入後1,3,12カ月時の裸眼視力,矯正視力,自覚屈折等価球面度数裸眼視力,logMAR(平均小数)矯正視力,logMAR(平均小数)自覚屈折等価球面度数1カ月?0.03±0.16(1.08)?0.13±0.08(1.36)?0.21±0.27D3カ月?0.04±0.15(1.09)?0.12±0.09(1.31)0.01±0.27D12カ月?0.07±0.17(1.16)?0.13±0.08(1.36)?0.10±0.12D-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0-0.200.000.200.400.600.801.000.00.51.02.0距離(m)3.05.0図2術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における単眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mと0.5mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).図3術後1,3,12カ月(1M,3M,12M)時における両眼視時の遠方矯正下全距離視力0.3mの視力はそれより遠方での視力より有意に低下した(*,p<0.001,Sche?eの対比較).後3カ月時も,遠方から0.5mまで平均?0.05logMAR(小数視力:0.89)以上が得られ,0.3mのみで他の距離より有意に低下した(p<0.0058).術後12カ月も同様であった(p<0.005).III考按単眼視の全距離視力の結果から,本IOLの挿入により遠方から0.7mまで良好な視力を得ることが可能であることが示唆された.本IOLの近方加入度数+1.5Dは,眼鏡面では約1.0mの近方焦点に相当する.また,本IOL挿入6カ月後に行われた単眼視下の焦点深度の評価では,視力0.8以上が67cmの視距離まで得られることが示されている6).これらの知見は,本検討の結果と一致する.両眼視になると,両眼加算の効果により全距離視力は向上し,0.5mまで良好な視力を得ることが可能であった.本IOL挿入眼の両眼視の焦点深度の評価では,?0.8D加入まで0.2logMAR(小数視力:0.63)が得られると報告されており5),今回の結果と類似していた.遠方矯正下の単焦点IOL挿入眼では,近方では視力が低下する.非球面IOLのZ9000(Johnson&JohnsonSurgicalVision)を挿入した21眼の全距離視力の検討では,遠方視力は視距離1.0mまで維持されているが,0.7m以下の距離では有意に視力低下する7).一方,本IOLでは0.7mまで良好な視力が得られており,+1.5Dの近方加入度数により明視域が広くなったと考えられた.わが国で使用できるEDOFIOLとしてSymfonyZXR00V(Johnson&JohnsonSurgicalVision)があげられる.回折型の光学径により遠方と近方加入度数+1.75Dを有し,近方加入度数は0.69m近方焦点に相当する.遠方矯正下の単眼視力では,遠方から0.5mまで0.9以上の視力が得られている3).また,焦点深度においても約3.0Dの範囲で視力1.0以上が可能となっている.さらに,低加入度数(+2.5D)の多焦点IOLであるSV25T0(Alcon)の臨床試験の結果では,術後1年時の遠方矯正下の5m,1m,0.5m,0.4mでの平均両眼視力は,それぞれ?0.17,0.01,0.08,0.19logMAR(小数視力:1.48,0.98,0.83,0.65)であった8).焦点深度は,正視付近約1.5Dの範囲で視力1.0以上が得られ,?2.0Dにもう一つのピークを有している.これらのIOLと比較すると,本IOLは,加入度数が+1.5Dと一番小さいことを反映し,視距離は単焦点IOLより広いが,EDOFIOLや低加入度数多焦点IOLよりも狭かった.本IOLが使用できるようになったことで,術後の明視域においても選択肢が増え,患者の要望に合わせた老視矯正が提供するものと考えられた.限られた症例数であるが,0.5mにおいて,経時的な単眼視視力の低下傾向がみられ,この傾向は症例数が多くなると顕著になると危惧される.遠方では視力低下がみられないこと,自覚屈折値は安定していることからIOLの偏位による影響は考えにくい.多焦点IOLでは,軽度な後発白内障(posteriorcapsuleopaci?cation:PCO)でも近方視力が低下することが知られている9).国内臨床試験では,術後1年間における後?混濁の発症率は9眼(7.5%)であった6).図1のように本IOLの支持部はplate形状であるためPCOの発生率はopenloopの支持部のIOLより高いと推察される.PCOの影響を調べるために,定量的な評価が望まれる.全距離視力の結果から,低加入度数分節型IOLを用いることで,単眼で遠方から0.7m,両眼で遠方から0.5mまで良好な裸眼視力を得られることが示唆された.得られる明視域は,単焦点IOLより広く,低加入度多焦点IOL,EDOFIOLより狭いことから,患者の希望する明視域に対して,より多くの選択肢が提供できると期待される.文献1)AlioJL,Plaza-PucheAB,Fernandez-BuenagaRetal:Multifocalintraocularlenses:Anoverview.SurvOphthal-mol62:611-634,20172)BreyerDRH,KaymakH,AxTetal:Multifocalintraocu-larlensesandextendeddepthoffocusintraocularlenses.AsiaPacJOphthalmol(Phila)6:339-349,20173)平沢学,太田友香,大木伸一ほか:エシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型多焦点眼内レンズの術後視機能.あたらしい眼科36:291-294,20194)PedrottiE,BruniE,BonacciEetal:Comparativeanaly-sisoftheclinicaloutcomeswithamonofocalandanextend-edrangeofvisionintraocularlens.JRefractSurg32:436-442,20165)VounotrypidisE,DienerR,WertheimerCetal:Bifocalnondi?ractiveintraocularlensforenhanceddepthoffocusincorrectingpresbyopia:Clinicalevaluation.JCataractRefractSurg43:627-632,20176)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRep11:13117,20197)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20108)ビッセン宮島先生,林研,平沢学ほか:着色非球面+2.5D近方加入多焦点眼内レンズSN6AD2(SV25T0)の臨床試験成績.日眼会誌119:511-520,20159)ElgoharyMA,BeckingsaleAB:E?ectofposteriorcapsu-laropaci?cationonvisualfunctioninpatientswithmono-focalandmultifocalintraocularlenses.Eye(Lond)22:613-619,2008◆**