《原著》あたらしい眼科42(1):111.118,2025c結膜乳頭腫における臨床所見,病理組織学的所見および遺伝子発現の検討児玉俊夫*1岡亮太郎*1奥野周蔵*1北畑真美*1川口秀樹*1上甲武志*1水野洋輔*2大城由美*2*1松山赤十字病院眼科*2松山赤十字病院病理診断科CAReviewoftheClinicalManifestation,PathologicalFindings,andGeneExpressioninCasesofConjunctivalPapillomaToshioKodama1),RyotaroOka1),ShuzoOkuno1),MamiKitahata1),HidekiKawaguchi1),TakeshiJoko1),YosukeMizuno2)andYumiOshiro2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofPathology,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:松山赤十字病院眼科で診断された結膜乳頭腫の報告.方法:過去C20年間,病理組織学的に確定した結膜乳頭腫C54例に対して発生頻度,年齢分布,性別,発生部位,再発の臨床所見と病理組織所見およびヒト乳頭腫ウイルス(HPV)DNA発現を検討した.結果:結膜腫瘍における結膜乳頭腫の発生頻度はC8.1%であった.年齢別頻度はC30歳台に多く,男性は女性のC2倍以上の発症がみられた.おもな発生部位は涙丘および下眼瞼鼻側結膜で涙液の流出経路に一致していた.病理組織所見として外向性乳頭腫が大多数を占めていたが,内反性乳頭腫がC1例みられた.病理組織学的にはウイルス感染を示唆するコイロサイトーシスがみられ,HPVの代替マーカーであるCp16の発現がC9例中C7例(78%)に認められた.遺伝子学的検討ではC9例中C6例(67%)にCHPV低リスク型CDNAの発現が認められた.術後再発した症例はC5例で頻回に再発した症例がC2例存在した.結論:病理組織所見および遺伝子発現より結膜乳頭腫の発症にはCHPV感染が関与している可能性がある.CPurpose:Toinvestigatetheclinicalmanifestation,pathological.ndings,andgeneexpressionincasesofcon-junctivalCpapilloma.CSubjectsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC54CpatientsCpathologicallyCdiagnosedCwithCconjunctivalCpapillomaCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CMatsuyamaCRedCCrossCHospitalCoverCtheCpastC20Cyears.CCasesCwereCevaluatedCinCregardCtoCfrequency,Cage,Csex,Clocalization,Crecurrencerate,pathological.ndings,andhumanpapillomavirus(HPV)DNAanalysis.Results:Frequencyofpap-illomaCinCtheCconjunctivalCtumorsCwas8.1%.CInCtheCageCdistribution,CpapillomaCwasCmoreCfrequentlyCfoundCinCpatientsaged30-39years.Theincidentrateofpapillomainmaleswasapproximatelytwicemorefrequentthaninfemales.Conjunctivalpapillomawasmainlyarisinginthecaruncleandintheconjunctivaonmedialtarsusofthelowereyelid,consistentwiththelacrimaldrainagepassages.Pathologically,thevastmajorityofthepapillomawastheexophytictype,yetwedidexperienceararecaseofinvertedpapilloma.Inourcases,thehistological.ndingoftheviralinfectionwaskoilocytosis.Expressionofp16asasurrogatemarkerforHPVwasdetectedin7outof9cases(78%)C.Geneexpressionanalysisrevealedlow-risktypeHPVDNAin6outof9cases(67%)C.Therewere5casesofpapillomarecurrencepostsurgery,and2caseswerecomplicatedbymultiplerecurrences.Conclusions:CBasedConChistopathologicalCandCgeneCexpressionC.ndings,CHPVCmayCplayCanCimportantCroleCinCtheCdevelopmentCofCconjunctivalpapilloma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(1):111.118,C2025〕Keywords:結膜乳頭腫,ヒト乳頭腫ウイルス,外向性乳頭腫,内反性乳頭腫,p16.conjunctivalpapilloma,hu-manpapillomavirus,exophyticpapilloma,invertedpapilloma,p16.C〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPANCはじめに結膜乳頭腫は肉眼的にはヘアピンのようなループ状の血管を中心として透明な手指状に突出した良性腫瘍である.光学顕微鏡レベルでは線維性血管性間質が芯となり,樹枝状に伸びた腫瘍細胞が乳頭状に成長している.結膜腫瘍における結膜乳頭腫の発生頻度としてCShieldsらの報告によると結膜腫瘍C5,002例中,乳頭腫はC68例で発生頻度はC1.4%を占めるにとどまり,比較的頻度の低い腫瘍といえる1).一方,わが国における結膜乳頭腫の発生頻度は末岡らの報告では結膜腫瘍69例中結膜乳頭腫はC8例(11.9%)2),河田の報告ではC174例中C9例(5.2%)3)と幅があるが,結膜乳頭腫は米国より発生頻度がやや高いといえる.以前,筆者らは,再発を繰り返す結膜乳頭腫においてヒト乳頭腫ウイルス(humanpapillomavirus:HPV)11型が検出されたC1例を報告した4).結膜乳頭腫は多発性腫瘍として発症することが多く,手術後も再発しやすいことが知られている.そのため手術するたびに何度も再発する結膜乳頭腫に対して治療に苦慮する症例が少なからず存在している.実際,結膜乳頭腫の術後再発はC6.27%と幅があるが,良性腫瘍としては再発率の高い腫瘍の一つである5).今回,筆者らは過去C20年間に摘出手術を行って病理組織学的に確定診断が得られた結膜乳頭腫C54例について臨床所見,病理組織的所見およびCHPVの遺伝子発現について後方視的研究を行ったので報告する.CI対象と方法対象は松山赤十字病院眼科(以下,当科)においてC2004年4月1日.2024年3月31日の20年間に病理組織学的に確定診断のついた結膜乳頭腫C54例である.臨床症状の検討項目として,結膜乳頭腫の発生頻度,年齢分布,性別,発生部位,再発の頻度について調べた.再発とは肉眼的に腫瘍を全摘出してC1カ月以上の観察期間において再び腫瘍が生じた場合とした.さらに結膜乳頭腫が単発性に発生したかあるいは多発性に発生したか,腫瘍が片眼性のみの発生か両眼同時に発生したかについても検討した.2021年以降の症例では,性感染症の既往がないかなど結膜乳頭腫の疾病背景について問診項目を追加した.病理組織学的検討を行うために,摘出腫瘍はホルマリン固定,アルコール脱水,パラフィン包埋を行って薄切切片を作製,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った.2021年以降に摘出し,腫瘍の摘出量が多かったC9例については,パラフィン薄切切片を用いてCHPVのウイルス蛋白発現とHPVの代替マーカーであるCp166)の発現について免疫組織化学法により検討した.抗体は,抗CHPVマウスモノクロナール抗体CK1H8(フナコシ)と抗Cp16マウスモノクロナール抗体CES6H6(ロシェ・ダイアグノスティックス)を使用した.さらにCHPVの遺伝子発現については,9例の腫瘍より摘出した組織の一部はエスアールエル社が提供する細胞培養液に浸漬して測定まで冷凍保存された.そのうえで腫瘍よりDNAを抽出し,液相(核酸)ハイブリダイゼーション法によりCHPV低リスク型の発現について検討した.低リスク型とはCHPV6,11,42,43,44型のC5種類のうちいずれかの発現を示すものである.免疫組織化学検査はピーシーエルジャパン社で,HPV-DNA検査はエスアールエル社で施行された.本研究は松山赤十字病院医療倫理委員会の承認を受けて行った(No.1030).CII結果1.結膜腫瘍における結膜乳頭腫の発生頻度過去C20年で当科において病理組織学的診断を得た結膜腫瘍はC666例で,結膜乳頭腫はC54例であることより結膜乳頭腫の発生頻度はC8.1%であった.なお,同じ扁平上皮由来で眼表面扁平上皮新生物(ocularCsurfaceCsquamousCneopla-sia:OSSN)の症例数は結膜上皮内癌C8例,角結膜扁平上皮癌C20例で,結膜腫瘍C666例のうちCOSSNの発症頻度はC4.2%であった.他の結膜悪性腫瘍として悪性リンパ腫C46例,悪性黒色腫C7例,転移性悪性腫瘍C5例を認めた.C2.年齢分布結膜乳頭腫の発症はC12.90歳までにみられた.年齢別発頻度をみるとC30歳台がC13例ともっとも多く,平均年齢はC48.4±19.0(平均C±標準偏差)歳であった(図1).C3.性別性別による発生頻度は男性C38例,女性はC16例と,男性では女性の約C2.4倍もの発生がみられた(図1).C4.発生部位初診時における発生部位は,右眼はC22例,左眼はC28例でやや左眼が多かった.両眼性はC4例で全体のC7.4%を占めていた.図2で結膜における発生部位を比較すると,上眼瞼結膜鼻側C8病変,上眼瞼結膜耳側C3病変,角膜輪部を中心とした角結膜C3病変,球結膜鼻側C5病変,下眼瞼結膜鼻側C27病変,下眼瞼結膜耳側C3病変および涙丘C19病変であった.涙丘と下眼瞼結膜鼻側に発生した乳頭腫はC46病変で結膜全体のC67.6%を占めていた.腫瘍がC2カ所以上に多発したものはC7例で全体のC13.0%を占めていた.なお,眼瞼結膜例には下涙点由来で下眼瞼結膜に及んだC3例を含む.C5.病理組織学的所見大多数の症例では非角化性の重層扁平上皮に乳頭状の増殖がみられ,その下に血管結合組織芯を伴い,細い有茎組織で結膜とつながっていた(図3).強い細胞異型性や核分裂像はみられず,悪性所見は認めなかった.上記とは異なる特異な(人)14121086420~19~29~39~49~59~69~79~89(歳)■男性□女性図1結膜乳頭腫の性別・年齢別発症頻度結膜乳頭腫の発症はC30歳台がもっとも多く,性別による発症頻度は男性が女性のC2.4倍と性差を認めた.所見を示した症例については以下に示す.腫瘍基底部の形態で比較すると,角結膜にまたがって発症していたC3症例では上皮肥厚がみられ基底部が広基性を示し無茎で,上皮層には角化組織は認めなかった(図4b).腫瘍の生育パターンで比較すると,図3で示すようにC54例中C50例は腫瘍が結膜上皮から外側に向かって乳頭状の突起を示すexophyticCpapilloma,すなわち外向性乳頭腫であった.しかし,1例は基底膜が正常構造を保っているものの腫瘍が結膜上皮下に陥入して内方に向かって成長するCinvertedpapil-loma,すなわち内反性乳頭腫であった(図5).乳頭状に増殖した腫瘍細胞のうち,図6で示すような扁平上皮表層に核腫大や核周囲に空胞を生じるコイロサイトーシス(koilocyto-sis)がみられたのはC3例であった.C6.HPVの局在と遺伝子発現HPVウイルス蛋白の発現はC9例とも陰性であった(図7b).p16の局在は乳頭腫細胞に発現しており(図7c),その発現頻度はC9例中C7例(77.7%)であった(表1).低リスク型CHPVDNAの発現はC9例中C6例(66.7%)であった(表1).C7.再発手術後再発を生じなかった症例はC49例(90.7%)で再発例はC5例(9.3%)であった.そのうちC3例では再発までの期間はC7.17カ月で,いずれもC1回の追加切除ですみ,2回目の再発は生じなかった.再発例のうちC3回以上の複数回手術を必要としたのはC2例であった.12歳,女性の場合はC4回で,再発までの期間はC3.20カ月であった.26歳,男性ではC10回再発したが(図8),再発までの期間は最初の手術からC1回目の再発まで受診が途絶えたこともあり,20カ月と長期間右眼左眼角結膜角結膜23涙丘涙丘図2初診時における結膜乳頭腫の発生部位結膜乳頭腫の発生部位を比較すると,上眼瞼結膜鼻側C8カ所,上眼瞼結膜耳側C3カ所,角結膜C3カ所,球結膜鼻側C5カ所,下眼瞼結膜鼻側C27カ所,下眼瞼結膜耳側C3カ所および涙丘C19カ所であった.涙丘と下眼瞼結膜鼻側に発生した乳頭腫はC46カ所と結膜全体のC67.6%を占めていた.であった.以後C1カ月ごとに通院してC1.2カ月の間隔で腫瘍がたとえ小さくてもその都度切除した.病理組織学的検査ではすべて結膜乳頭腫と診断された.これらのC2症例では,再発のたびに腫瘍摘出術を行って最終の手術からC12歳,女性ではC2年C8カ月,26歳,男性ではC2年C2カ月間再発は認めていない.C8.性感染症との関連2021年以降ではC13例中,既往歴に外陰部や肛門周囲に尖圭コンジロームを有する症例がC3例あった.33歳,女性は外陰部の腟尖圭コンジローム切除を受けており,34歳,男性では肛門の尖圭コンジローム切除,22歳,男性では陰茎の尖圭コンジローマに対して焼灼治療の既往があった.10回の切除,再発をくり返したC26歳,男性では,本人の同意図334歳,女性にみられた外向性結膜乳頭腫の前眼部写真と病理組織学的所見a:右上下眼瞼結膜鼻側に多発性の乳頭腫を認めた.Cb:重層扁平上皮に乳頭状の増殖がみられ,血管結合組織芯(→)を伴い,細い有茎組織を有す樹枝状に伸びた組織がみられた.バーはC100Cμm.図482歳,男性にみられた広基性結膜乳頭腫の前眼部写真と病理組織学的所見a:右眼の角膜輪部を中心として角結膜部にまたがって生じる乳頭腫を認めた.Cb:上皮肥厚がみられ,腫瘍の基底部は広基性で無茎であった.バーはC50Cμm.を得たうえで視診を行ったところ,外陰部および肛門周囲に乳頭腫病変は認めなかった.CIII考按本報告では結膜腫瘍における結膜乳頭腫の発症頻度はC8.1%であった.多数例を検討したCShieldsらの報告では結膜乳頭腫の発症頻度はC1.4%と比較的頻度の低い腫瘍といえるが1),わが国では本報告を含め,結膜乳頭腫の発症頻度はC5.2.11.9%2,3)と米国における結膜乳頭腫の頻度を上回っており,人種差が結膜乳頭腫の発症に関与している可能性がある.発生部位は涙丘と下眼瞼結膜鼻側がC46病変で結膜全体の67.6%と全体の約C2/3を占めていた.これらの部位は涙液の流出経路に一致し,涙液の流れが結膜乳頭腫の発症に関与している可能性がある.Kalikiらの報告によると結膜乳頭腫の発症年齢はC21.60歳で,平均年齢はC43歳と比較的若い年齢層にピークを示し,男性は女性よりC2倍弱の発症がみられていた7).本報告でも結膜乳頭腫の発症はC31.39歳にピークがみられ,女性C16例に対して男性C37例と男性における発症は女性の約C2.4倍であった.このように結膜乳頭腫は比較的若い男性に多く発症するという特徴があるが,この年齢層は尖圭コンジロームの好発年齢でもある.尖圭コンジロームはCHPV6型,11型,16型が感染することにより,外陰部や肛門周囲に乳頭状の丘疹が多発する性感染症の一種である8).そのため以前よりHPV感染と結膜乳頭腫の発症との関連性が考えられているが,Kalikiらの報告では結膜乳頭腫と外陰部の尖圭コンジロームの合併はC4%で.結膜乳頭腫と性感染症との関連は薄いと報告している7).本報告では結膜乳頭腫と外陰部の尖圭コンジロームの合併はC54例中C3例,5.5%であるが,以前は性感染症の既往について問診を行っておらず,結膜乳頭腫患者に対しては性感染症の可能性について詳細な問診を行うことが勧められる.結膜乳頭腫では線維性血管性間質を芯として結膜上皮の表面から外側に向かって手指状に突出した腫瘍であることが組織学的特徴で,結膜乳頭腫の大部分はCexophyticpapilloma,すなわち外向性乳頭腫である.一方,invertedpapilloma,図538歳,女性にみられた内反性乳頭腫の病理組織学的所見a:約C20年前に近医で数回右眼の結膜腫瘍を切除されたが再発した.当科初診時には右眼の涙丘部に隆起の低い乳頭腫(.)を認めた.Cb:弱拡大顕微鏡写真.腫瘍が結膜上皮下に陥入し,乳頭腫が内方に向かって伸びていた.バーはC200Cμm.Cc:強拡大顕微鏡写真.非角化性の陥入する腫瘍細胞塊がみられた.バーはC5Cμm.いわゆる内反性乳頭腫は結膜下組織に陥入する乳頭腫で結膜における発症はきわめてまれであり,本報告では内反性乳頭腫はわずかC1例であった.RambergらはC2019年までの論文を調べたところ,結膜内反性乳頭腫はわずかC11例で,結膜におけるその発症は非常にまれとしている9).Elnerらは内反性乳頭腫が鼻腔,副鼻腔と涙.に発生して眼窩に浸潤したC10例では,乳頭腫から扁平上皮癌あるいは移行上皮癌に悪性転化したと報告しており,眼窩内容除去術を行ってもC8例で再発し,さらにC3例で頭蓋内浸潤を生じたため,予後は悪かったと報告している10).内反性乳頭腫では悪性化をきたすと考えられるため,注意深い経過観察が望ましい.一般にCHPVは粘膜の損傷部位から侵入して上皮の基底細胞に感染し,上皮細胞の過増殖により乳頭腫が形成されると考えられている.皮膚においては有棘細胞層でウイルスDNAが複製され,角化層が形成されるとウイルスのCDNA複製が増加する11).その際,ウイルスの増殖に伴って肥厚した重層扁平上皮層において核腫大や核周囲の空胞化を生じるコイロサイトーシスという現象がみられる12).すなわちHPVが感染した細胞の核においてウイルス粒子の複製を行結膜乳頭腫においてコイロサイトーシスが認められたことうために空胞が生じるものである.尖圭コンジロームでも病はCHPVの感染を示唆するものであるが,結膜乳頭腫の病因理組織学的特徴としてコイロサイトーシスがあげられる8).としてCHPVの関与があるかどうか,摘出腫瘍を用いて免疫図6再発を繰り返した26歳,男性にみられたコイロサイトーシスa:弱拡大顕微鏡写真.外向性結膜乳頭腫が認められた.バーは100Cμm.Cb:強拡大顕微鏡写真.乳頭状に増殖する腫瘍細胞のうち扁平上皮層に核の腫大や核周囲に空胞を生じるコイロサイトーシスがみられた.バーはC20Cμm.図7再発を繰り返した26歳,男性にみられたHPV蛋白とp16の免疫組織化学所見a:HE染色.バーはC100Cμm.Cb:HPV蛋白の局在は認めなかった.バーはC100Cμm.Cc:HPVの代替マーカーであるCp16は乳頭腫細胞に発現していた.バーはC100Cμm.表1ヒト乳頭腫ウイルスの遺伝子発現症例年齢・性別初発発生部位再発回数Cp16低リスク型CHPVDNAC12345678926歳,男性34歳,女性46歳,男性54歳,男性59歳,男性62歳,男性65歳,男性70歳,男性76歳,男性下眼瞼結膜,球結膜涙丘C上下眼瞼結膜C上下眼瞼結膜C涙丘C眼球結膜C上眼瞼結膜C下眼瞼結膜C涙丘C眼球結膜C100000C0C000++++..+++++..+.+++HPVの代替マーカーであるCp16の発現はC9例中C7例に認められた.低リスク型CHPVの遺伝子発現はC9例中C6例で認められた.なお,免疫組織および遺伝子検査を行ったC9例には両眼性に乳頭腫が発生した症例は認めなかった.組織化学的および遺伝子学的に検討した.HPV蛋白質の発現では,HPVの感染は証明できなかったため,p16の免疫組織染色を行った.p16はサイクリン依存性キナーゼインヒビターで細胞周期において中心的役割を果たす癌抑制遺伝子蛋白質である.HPVの初期遺伝子はCE1.E7まであるが,そのうちCE6蛋白質は癌遺伝子であるCp53と結合し,E7は癌抑制遺伝子であるCRbと結合してそれぞれ不活化させると代償的にCp16蛋白質が過剰に発現される11).すなわちCp16はCHPVの代替マーカーとして,p16の発現が陽性であれば間接的ではあるがCHPV感染が生じていると考えることができる6).そのため中咽頭癌の病期診断においてCHPV関与の有無を判断するCp16免疫組織染色は必須の検査とされている6,13).本報告でもCHPVのCp16の発現が乳頭腫細胞にみられ,HPV感染が生じていると考えることができる.なお,本報告でCHPVの発現が認められなかったのは,腫瘍摘出を行った時点ではCHPVの増殖は活発ではないことが考えられる.本報告では免疫組織学的にCHPV感染が示唆されるため,腫瘍よりCDNAを抽出してCHPVの遺伝子発現がみられるかどうか検討した.HPVウイルスゲノムの発現については本報告では低リスク型CHPVの発現はC9例中C6例,66.7%であった.Sjoらによると結膜乳頭腫におけるCHPVウイルスゲノムの発現率はC106例中C86例とC81%を示していた.なお,型別では低リスク型であるC6型はC80例,11型はC5例であった14).ただし,正常結膜からはCHPVのウイルスゲノムは検出されていない14).なお,現在子宮頸癌の原因ウイルスと考えられている高リスク型C16,18型が結膜乳頭腫より検出されたという報告は知られていないが,結膜の扁平上皮癌からはCHPV16型が検出されたという報告がある15).以上より低リスク型CHPV感染が結膜乳頭腫発症の危険因子である可能性は高い.結膜乳頭腫の治療の原則は手術切除である.再発の頻度と図8初回手術後,複数回再発した26歳,男性の前眼部写真a:初診時の前眼部写真.左涙丘部と鼻側の球結膜および下眼瞼結膜に多発性の乳頭腫が認められた.Cb:初回の結膜乳頭腫切除後,20カ月間受診が途絶えていたが,腫瘍再発のために当科を紹介された.左眼の上下眼瞼結膜に広範囲にわたって腫瘍がみられたために腫瘍切除時に結膜再建として羊膜移植を行った.Cc:1,2カ月ごとに経過観察を行っていたが,小腫瘍の再発を繰り返し,そのたびに腫瘍切除を行った.Cd:最終の手術からC2年C2月後には腫瘍の再発は認めなかった.して術後の観察期間によるが,KalikiらはC3%と報告している7)一方で,Vermaらの総説ではC6.27%の手術症例で再発を生じているが,自然寛解することも珍しくないと報告している5).本報告でも手術後C4回再発したC12歳,女性とC10回再発したC26歳,男性の症例ではいずれも最終の手術からそれぞれC2年C8カ月とC2年C2カ月間再発を認めず,自然寛解したと考えている.一方,HuangらはC23%の結膜乳頭腫で再発しているが,繰り返す結膜乳頭腫の再発は扁平上皮癌をもたらすと報告している16).結膜乳頭腫切除においては腫瘍の取り残しを防ぐために正常結膜を含めた拡大切除が必要である.腫瘍切除においてCTheotokaらは手術時における注意点として,腫瘍切除の際はウイルスの散布を最小限にするために「no-touchCwideresection」を勧めている.そのうえで腫瘍切除時には乳頭腫の上皮細胞を死滅させるために冷凍凝固,それもCdouble-freezeCthawtechniqueを推奨している17).HPVが感染した結膜上皮から完全にCHPVを除去することは不可能であることから,腫瘍の拡大切除が推奨されるが,術後過度の瘢痕化などの後遺症を引き起こさないよう注意が必要である.扁平上皮癌などCOSSCでは外科的切除後の再発に対して,局所化学療法としてインターフェロン,5-.uorouracil(5-FU),mitomycinC(MMC)の点眼投与が用いられ,いずれも腫瘍再発抑制効果が報告されている17).最近でもSripawadkulらは結膜乳頭腫切除後,インターフェロンあるいはC5-FU点眼を行うと再発はC0であったのに対して,単純切除+冷凍凝固法では再発がC11%にみられたと報告している18).しかし,結膜乳頭腫に対していずれの薬剤も保険適用外であり,インターフェロンに関しては必ずしも結膜乳頭腫の再発を抑制できるとは限らないという報告19)もある.一方,5-FUよりCMMC点眼治療のほうが副作用の発現が低いといわれているが,OSSNに対するC0.04%CMMCの長期点眼による副作用としてC30%にアレルギー性結膜炎,14%に涙点狭窄による流涙が報告されており,角膜輪部幹細胞障害による不可逆的な角膜再発性びらんによる重篤な報告例が含まれている20).さらに点眼時の眼痛をはじめ,薬剤毒性による角膜上皮障害,重篤な副作用を伴うために良性腫瘍である結膜乳頭腫に対して全例に術後治療として用いるべきではなく,慎重な経過観察が重要としている20).再発を繰り返した26歳の男性については再発予防としてCMMC点眼治療の有用性と副作用を説明したところ,MMC点眼による後療法は希望されず,再発ごとに腫瘍切除を行った.結膜乳頭腫における腫瘍の再発という問題は再発性呼吸器乳頭腫症においても切実な問題となっている21).再発性呼吸器乳頭腫症は結膜乳頭腫と同じく低リスク型であるCHPV6,11型ウイルスが感染して発症する疾患で大半は喉頭乳頭腫症が占めている.外科手術後に喉頭乳頭腫症に対する治療として,最近ではパルス色素レーザーや光線力学療法が導入されてきたがやはり再発頻度は高いといわれている21).オーストラリアでは子宮頸癌予防に有効なCHPVワクチン投与が若年型喉頭乳頭腫の新たな発症を減少させたという報告があり22),HPVワクチン投与が結膜乳頭腫に対して再発予防になる可能性を秘めているために,その実用化を含めて新しい治療法の開発が期待される.謝辞:今回,免疫組織化学的検討において結膜乳頭腫のおけるCHPVとCp16の局在を示す顕微鏡写真を提供していただいたピーシーエルジャパン社に感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShieldsCL,AlsetAE,BoalNSetal:ConjunctivaltumorsinC5002Ccases.CcomparativeCanalysisCofCbenignCversusCmalignantcounterparts.The2016JamesD.AllenLecture.CAmJOphthalmolC173:106-133,C20172)末岡健太郎,嘉島信忠,笠井健一郎ほか:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科における過去C9年間の眼窩,眼瞼,結膜腫瘍の検討,臨眼68:463-470,C20143)河田美貴子:がん研究会有明病院における眼部腫瘍性疾患の臨床病理学的検討,臨眼70:555-561,C20164)児玉俊夫,鳥山浩二,廣畑俊哉ほか:再発を繰り返す結膜乳頭腫においてヒト乳頭腫ウイルスC11型が検出された一例,松山赤十字医誌46:31-36,C20215)VermaV,ShenD,SievingPCetal:TheroleofinfectiousagentCinCtheCetiologyCofCocularCadnexalCneoplasia.CSurvCOphthalmolC53:312-331,C20086)El-NaggarCAK,CWestraWH:p16CexpressionCasCaCsurro-gateCmarkerCforCHPV-relatedCoropharyngealcarcinoma;Caguideforinterpretativerelevanceandconsistency.HeadNeckC34:459-461,C20127)KalikiS,ArepalliS,ShieldsCLetal:Conjunctivalpapillo-ma:featuresandoutcomesbasedonageatinitialexami-nation.JAMAOphthalmolC131:585-593,C20138)AnicCGM,CLeeCJ-H,CStockwellCHCetal:IncidenceCandChumanpapillomavirus(HPV)typeCdistributionCofCgenitalCwartsinamultinationalcohortofmen:TheHPVinmenstudy.JInfectDisC204:1886-1892,C20119)RambergI,SjoNC,BondeJHetal:Invertedpapillomaoftheconjunctiva.BMJOpenOphthC4:e000193,C201910)ElnerCVM,CBurnstineCMA,CGoodmanCMLCetal:InvertedCpapillomasCthatCinvadeCtheCorbit.CArchCOphthalmolC113:C1178-1183,C199511)温川恭至,清野透:ヒトパピローマウイルスによる発がんの分子機構.ウイルス58:141-154,C200812)KrawczykCE,CSuprynowiczCFA,CLiuCXCetal:Koilocytosis.Cacooperativeinteractionbetweenthehumanpapillomavi-rusCE5CandCE6Concoproteins.CAmCJCPatholC173:682-688,C200813)安藤瑞生:ここが変わった!頭頸部癌ガイドラインC2022中咽頭癌.耳喉頭頸94:928-931,C202214)SjoNC,vonBuchwaldC,CassonnetPetal:Humanpap-illomavirusinnormalconjunctivaltissueandinconjuncti-valpapilloma:typesandfrequenciesinalargeseries.BrJOphthalmolC91:1014-1015,C200615)Gri.nCH,CMudharCHS,CRundleP:HumanCpapillomavirusCtypeC16CcausesCaCde.nedCsubsetCofCconjunctivalCinCsituCsquamouscellcarcinomas.ModPatholC33:74-90,C202016)HuangYM,HuangYY,YangHYetal:ConjunctivalpapC-illoma:clinicalCfeatures,Coutcome,CandCfactorsCrelatedCtoCrecurrence.TaiwanJOphthalmolC8:15-18,C201817)TheotokaD,MorkinMI,GalorAal:Updateondiagnosisandmanagementofconjunctivalpapilloma.EyeVisionC6:C18-35,C201918)SripawadkulCW,CTheotokaCD,CZeinCMCetal:ConjunctivalCpapillomaCtreatmentoutcomes:aC12-year-retrospectivestudy.Eye(Lond)C37:977-982,C202319)GalorCA,CGargCN,CNanjiCACetal:HumanCpapillomavirusCinfectionCdoesCnotCpredictCresponseCtoCinterferonCtherapyCinCocularCsurfaceCsquamousCneoplasia.COphthalmologyC122:2210-2215,C201520)KhongJJ,MueckeJ:ComplicationsofmitomycinCther-apyCinC100CeyesCwithCocularCsurfaceCneoplasia.CBrCJCOph-thalmolC90:819-822,C200621)GoonCP,CSonnexCC,CJaniCPCetal:RecurrentCrespiratorypapillomatosis:anCoverviewCofCcurrentCthinkingCandCtreatment.CEurCArchCOtorhinolaryngolC265:147-151,C200822)NovakovicCD,CChengCATL,CZurynskiCYCetal:ACprospec-tiveCstudyCofCtheCincidenceCofCjuvenile-onsetCrecurrentCrespiratoryCpapillomatosisCafterCimplementationCofCaCnationalHPVvaccinationprogram.JInfecDisC217:208-212,C2018C***