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円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績

2014年3月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科31(3):427.432,2014c円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術の水晶体関連術式別治療成績青山裕加*1村田博史*1相原一*2*1東京大学医学部眼科学教室*2四谷しらと眼科Medium-TermOutcomesofTrabeculectomyAloneforPhakicEyesorPseudophakicEyes,versusCombinedTrabeculectomyforCataractYukaAoyama1),HiroshiMurata1)andMakotoAihara2)1)DepartmentofOphthalmology,theUniversityofTokyo,2)YotsuyaShiratoEyeClinic2009年9月から1年間東京大学医学部附属病院にて同一術者により円蓋部基底輪部切開線維柱帯切除術を施行された122眼を対象として,有水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(TLE群),偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独(IOL群),白内障手術・線維柱帯切除術同時手術(同時手術群)に分類し眼圧下降効果,術後の合併症や処置の頻度を後ろ向きに検討した.4眼は6カ月の間に再手術となった.入院中および退院後の処置・合併症の頻度に3群間で差は認めなかった.TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前21.4±8.5,23.0±6.5,23.3±7.3mmHgから術後6カ月で9.3±4.3,11.7±4.6,12.0±3.7mmHgと有意に低下した.再手術4眼を含めた122眼で経過中,眼圧12mmHg以下が2回連続得られなかったとき,または再手術となったときを死亡と定義したときの生命表解析では,全体,TLE群,IOL群,同時手術群の生存率は71.2%,87.5%,58.7%,54.1%であった.Weretrospectivelyexaminedthe6-monthoutcomesoffornix-basedtrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonandanalyzedthedifferenceinoutcomesamongsurgicalmethods.Includedwere122eyesthathadundergonetrabeculectomyperformedbyasinglesurgeonfromSeptember2009toSeptember2010atTokyoUniversityHospital.Postoperativecomplicationsandprocedureswereanalyzedaccordingtosurgicalmethods,includingtrabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomyforcataract.Lifetableanalyseswerethenmadeaccordingtothesecriteriaoffailure:IOPwasover12mmHgaftertwoconsecutivemeasurements,oranothersurgerywasneeded.Within6months,4eyeswerere-operated.Duringandafterhospitalization,theincidenceofcomplicationsoradditionalproceduresdidnotdifferamongthethreegroups.Cumulativesurvivalratesat6monthsafterallsurgeries,trabeculectomyforphakiceyes,trabeculectomyforpseudophakiceyes,andcombinedtrabeculectomycaseswere71.2%,87.5%,58.7%,and54.1%,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(3):427.432,2014〕Keywords:線維柱帯切除術,緑内障,濾過胞,合併症,円蓋部基底.trabeculectomy,glaucoma,bleb,complication,fornix-basedconjunctivalflap.はじめに緑内障に対する眼圧下降手術はさまざまな手法が行われている.なかでもマイトマイシンC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は眼圧下降効果が高い手術の一つとして,10年以上前から数多くの国で行われてきた.しかし,この手術にはいまだ多くの合併症がみられており,その合併症は緑内障の病型,手術歴のみならず,術式の術者による相違,術後管理の相違などさまざまな因子に関連していると考えられる.そこでTLEを施行するにあたり,合併症が少なく,眼圧下降効果の高い条件を探ることが重要である.今回筆者らは,TLEの手術成績を検討するにあたり,単〔別刷請求先〕相原一:〒160-0004東京都新宿区四谷1-1-2四谷しらと眼科Reprintrequests:MakotoAihara,M.D.,Ph.D.,YotsuyaShiratoEyeClinic,1-1-2Yotsuya,Shinjuku,Tokyo160-0004,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(123)427 独術者による同一手技を用い,また同一施設での術後管理を行うことで周術期の条件を一定にしたうえで,100以上の連続した日本人眼における有水晶体眼,偽水晶体眼に対するTLE単独手術およびTLEと白内障同時手術後の成績を後ろ向きに比較検討したので報告する.I方法2009年9月.2010年9月までに東京大学医学部附属病院にて,同一術者(MA)により円蓋部基底結膜切開線維柱帯切除術(FB-TLE)を施行され,同病院で通常2週間の入院および外来通院による術後管理を行った連続症例107例122眼の術後成績を6カ月間後ろ向きに検討した.対象眼は,薬物およびTLE以外の外科的治療を含めた最大限の治療を行っても緑内障性視神経症の進行を抑制できず,さらなる眼圧下降が必要と判断された緑内障眼とした.除外基準は,TLE,線維柱帯切開術,毛様体光凝固術など眼圧下降目的の手術を結膜上耳側または鼻側に行ったことがあるなどで,同部位結膜が瘢痕化している症例は除外した.ただし,他の部位からの線維柱帯切開術やビスコカロストミー,レーザー線維柱帯形成術,隅角癒着解離術,レーザー虹彩切開術を行った眼は検討に含めた.また,結膜瘢痕の有無にかかわらず白内障術後および硝子体手術後の眼も除外しなかった.すべての患者には,手術および術後の処置を行う前に説明を行ったうえ,同意を得た.また,本研究はヘルシンキ宣言に従っており,東京大学医学部附属病院の倫理委員会の承認を得てUMIN000006522として登録された.1.術後評価最大矯正視力,Goldmann圧平眼圧測定,細隙灯顕微鏡および眼底鏡診察により確認された合併症,必要とされた術後処置について,10.14日間程度の入院期間中は毎日,退院後は術後3週間.1カ月ごとに6カ月まで評価を行った.2.手術方法手術は同一術者によるFB-TLEにて行った.鼻上側から円蓋部基底結膜切開で開始し,結膜は輪部に沿って5.6mm幅切開し,4.5mmの放射状切開を加え,そこからTenon.下麻酔を行った.凝固止血を行った後,3×3mmの強膜フラップを作製し,0.05%MMC(協和発酵キリン)をM.Q.A.(イナミ)に1.5分間浸み込ませ,balancedsaltsolution(BSS)100mlで洗浄した.1×1mmの強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った後,10-0ナイロン糸(CU-8,日本アルコン)4針で強膜フラップを縫合した.房水流出が多すぎる場合には追加縫合も行った.結膜創に対しては10-0ナイロン糸(1475,マニー)で連続縫合を行った.さらに房水漏出がみられる場合には,追加縫合を行った.白内障同時手術の場合には,上耳側より角膜切開し,粘弾性物質としてはビスコートR(日本アルコン)とヒーロンR(AMO428あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014Japan)を使用した.術後点眼は0.1%ベタメタゾンとレボフロキサシンを使用し,同時手術の場合には,トロピカミド・フェニレフリン合剤とジクロフェナクナトリウムも併用した.3.術後管理入院中は目標眼圧を10mmHg以下とし,レーザー切糸術にて眼圧を調整した.レーザー切糸を3本施行したのちも濾過胞形成不良で眼圧が10mmHg以上となっている場合には,30G針でニードリングを行った.浅前房を伴う過剰濾過の場合には,前房内に空気もしくはオペガンR(参天製薬)を注入,あるいは経結膜強膜弁縫合を行った.浅前房を伴う脈絡膜.離が出現した場合または低眼圧網膜症が明らかな場合にも,経結膜強膜弁縫合を行った.低眼圧や房水漏出の際に圧迫眼帯や点眼内服による処置は一切行わなかった.退院後に濾過胞形成が不良になった場合には可及的速やかにレーザー切糸術もしくはニードリングを行った.ステロイドおよび抗生物質点眼は術後最低3カ月使用した.4.データ解析FB-TLE後の生存率について,以下の2つの基準で,Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1として,退院後の眼圧が眼圧下降薬剤使用の有無にかかわらず,12mmHgを2回連続で上回ったとき,あるいはさらなる濾過胞再建術もしくは別創への線維柱帯切除術が必要になった場合を死亡と定義した.半数の症例で投薬下ベースライン術前眼圧が20mmHg以下であり,術後の眼圧を10mmHg台前半に下げることが目標であるため,この数値を目標として設定した.基準2では15mmHgを基準眼圧として解析を行った.過去の報告では15mmHgを基準としているものが多く,この数値は本研究の結果とこれまでの報告を比較するために設定した.術前と術後の眼圧はpairedt-testで比較した.3群の眼圧下降率はANOVAで比較した.3群の合併症と処置の頻度についてはFisher’sexacttestで比較した.Kaplan-Meier法による生存率の比較は,log-ranktestを用いて行った.p値は0.05未満であった場合に有意と定義した.II結果1.患者背景本研究期間の適応症例は連続107例122眼であった.術後6カ月間の経過観察中に1眼は検査データ不足,4眼は他院紹介後の経過不明で5カ月目にドロップアウトとなり,4眼は術後6カ月の間に再度眼圧下降手術が必要になった.表1に患者背景と術式の内訳を示す.また,術前の平均眼圧は22.1±7.7mmHgであり,TLE群,IOL群,同時手術群の3群の術前眼圧に有意差はなかった(p=0.3ANOVA).3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意(124) 表1患者背景と緑内障病型対象眼全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)眼(右:左)59:6328:2814:2017:140:1性別(男:女)74:4834:2221:1318:131:0年齢(歳)64.0±13.056.3±12.170.9±10.870.5±8.959緑内障病型眼原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障10眼を含む)67(57+10)4013140落屑緑内障237970炎症性緑内障165740Posner-Schlossman症候群2101ぶどう膜炎後に続発する緑内障8350血管新生緑内障6123原発閉塞隅角緑内障80440混合型緑内障31020発達緑内障11000外傷による緑内障21001ステロイド緑内障21100TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間の比較では,左右(p=0.5),性別(p=1.0),病型(p=0.07)では有意差はなく(Fisher’sexacttest),年齢で有意差が認められた(p<0.01ANOVA).差が認められた(p<0.01ANOVA).平均入院期間は同一入院期間中に両眼手術した症例が6眼,白内障手術と隅角癒着解離術を施行したのち,同一入院期間中にTLEを施行した症例2眼を含み,14.1±4.1日であった.2.合併症および処置入院期間中および退院後.術後6カ月に出現した合併症および行った処置については表2と表3に示した.入院中,結膜縫合部位より漏出を認めたものが15/122(12.3%)眼,そのうち6眼は数日で自然に消失した.浅前房は21/122(17.2%)眼に認め,20/122(16.4%)眼に対して経結膜強膜弁縫合を行い,5/122(4.1%)眼は経結膜強膜弁縫合の前に前房内空気もしくはオペガンR置換を施行した.脈絡膜.離は35/122(28.7%)眼に出現した.そのうち浅前房を伴う過剰濾過を認めたものは経結膜強膜弁縫合を施行し,徐々に消失した.残りは一過性の低眼圧による脈絡膜.離であったため,その後の眼圧上昇に伴って消失した.数週間で脈絡膜.離は全例で消失した.低眼圧黄斑症は入院中は2/122(1.6%)眼,退院後から術後6カ月までの期間では2/122(1.6%)眼で認められたが,数カ月以内に全例改善した.3群間で合併症の発症に有意差は認めなかった.脈絡膜.離の排液を必要とした症例はなかった.ニードリングに関しては,入院中は15眼に対して26回,退院後から術後6カ月までの期間では42眼に対して合計101回施行したが,3群間に有意差は認めなかった(p=0.1ANOVA).3.眼圧下降効果Kaplan-Meier法による解析を行った.基準1では,全群での6カ月生存率は71.2±4.1%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,87.5±4.4%,58.7±8.5%,54.1±9.1%であり,TLE群は他2群に比較して有意に生存率が高い結果となった(p<0.01log-ranktest).基準2では,全群での6カ月生存率は82.7±3.4%であった.TLE群,IOL群,同時手術群の生存率はそれぞれ,89.3±4.1%,73.9±7.5%,80.1±7.3%であり,3群の生存率に有意差は認められなかった(p>0.2log-ranktest)(図1).再手術を必要とした4眼を除いた全症例で,術前平均眼圧22.1±7.7mmHgから術後6カ月平均眼圧10.6±4.4mmHgへ,平均48.8±22.0%の眼圧下降率を認めた.必要薬剤は術前3.3±0.7種類から術後0.4±0.8種類へと有意に減少した(p<0.001pairedt-test).TLE群,IOL群,同時手術群の眼圧はそれぞれ,術前20.9±8.4mmHg,23.1±6.8mmHg,23.2±7.5mmHgから術後9.2±4.3mmHg,11.7±4.4mmHg,12.0±3.7mmHgへと有意に下降した.3群間の眼圧下降率に有意差は認めなかった(p=0.2ANOVA)(図2).III考察本研究におけるTLE術後6カ月での累積生存率は目標眼圧を12mmHgとすると71.2%であり,目標眼圧を15mmHgとすると82.7%であった.本研究は一定期間の連続(125)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014429 表2入院中の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出15(12.3%)4(7.1%)5(14.7%)6(19.4%)0創部追加縫合11for9eyes2for2eyes4for3eyes5for4eyes0浅前房21(17.2%)10(17.9%)5(14.7%)6(19.4%)0脈絡膜.離35(28.7%)12(21.4%)10(29.4%)13(41.9%)0前房内出血14(11.5%)6(10.7%)6(17.6%)2(6.5%)0退院時低眼圧(IOP≦5mmHg)3721127低眼圧黄斑症2(1.6%)2(3.6%)000レーザー切糸率†60±31%49±31%57±28%85±17%50%ニードリング回数26for15eyes5for4eyes10for6eyes11for5eyes0経結膜強膜弁縫合20(16.4%)9(16.1%)5(14.7%)6(19.4%)0Air注入5(4.1%)3(5.4%)1(2.9%)1(3.2%)0TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.†切糸数/総縫合数の各眼平均値.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).表3退院後の処置および合併症全群(n=122)TLE群(n=56)IOL群(n=34)同時手術群(n=31)TLE+IOLsuture(n=1)房水漏出脈絡膜.離低眼圧黄斑症濾過胞感染9(7.4%)8(6.6%)2(1.6%)04(7.1%)2(3.6%)1(1.8%)03(8.8%)1(2.9%)002(6.5%)5(16.1%)1(3.2%)00000ニードリング回数再手術101for42eyes4(3.3%)35for14eyes2(3.6%)41for15eyes1(2.9%)25for13eyes1(3.2%)00TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.TLE群,IOL群,同時手術群の3群間に有意差なし(p>0.05Fisher’sexacttest).TLE対象症例に対して白内障同時手術も行った症例も含むため,連続症例への後ろ向き試験としたが,TLE施行症例としては前向き試験と同様の評価をしているため,過去の前向き試験と比較してみた.前向き試験は3報しかなく,そのうちWuDunnらはほとんど原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)を対象にしたMMC併用輪部基底結膜切開TLE単独術後の6カ月生存率は,目標眼圧を15mmHgとすると88%,12mmHgとすると77%であったと報告し1),Mostafaeiは開放隅角緑内障の患者に対するMMC併用TLE術後の6カ月生存率は目標眼圧を6.22mmHgとすると88.9%だったと報告している2).日本人ではKitazawaらが発達緑内障,血管新生緑内障,炎症性緑内障,POAGについて検討しており,MMC併用群の6カ月生存率は目標眼圧を20mmHgとすると100%だったと報告している3).後2報は目標眼圧が高く,本研究と比較することは意味がない.WuDunnらの研究は同様な目標眼圧での報告で,目標眼圧を15mmHgとすると前報88%と本報82.7%,12mmHgとすると77%と71.2%と筆者らがやや劣る.高い術前眼圧は生存率を下げる有意な危険因子との報告4)もあるが,WuDunnらの術前眼圧は21.9±6.6mmHg,今回の対象患者の術前眼圧は22.1±7.7mmHgと同等であった.しかし,前報はTLE単独手術で,POAGが84.4%,白人72%,アジア人は1症例2%と,本報告と術式と病型,人種間に差があるため単純には比較できないが,今回の結果は大きく劣るものではないと考える.続いて有水晶体眼と眼内レンズ眼でのTLE単独手術について考察する.Takiharaらは,結膜上方切開によるPEAを施行後の眼内レンズ眼に対するTLE術後と,有水晶体眼に対するTLE単独手術後を後ろ向きに比較し,眼内レンズ眼では有水晶体眼に比べて成功率が低く,PEAの既往を予後不良因子と報告している5).一方でShingletonらが後ろ向きに調査した報告では,濾過胞を作製する結膜部位に手術を行った既往のある眼内レンズ眼に対するTLE術後の成績を,手術の既往のない眼に対して行ったTLE術後の成績と比較430あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(126) AB1.001.000.800.80累積生存率TLE群IOL群同時手術群*p>0.01(log-ranktest)*累積生存率0.600.400.600.40*0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)CD1.001.000123456観察期間(カ月)累積生存率TLE群IOL群同時手術群3群間に有意義なし(p>0.2(log-ranktest))0.800.600.400.800.600.40累積生存率0.200.200.000.000123456観察期間(カ月)0123456観察期間(カ月)図16カ月累積生存率A:基準1による全群,B:基準1による術式別生存率,C:基準2による全群,D:基準2による術式別生存率.全群TLE群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00IOL群同時手術群35302520151053530252015105眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)00図2術前後眼圧変化TLE群:線維柱帯切除術単独,IOL群:偽水晶体眼に対する線維柱帯切除術単独,同時手術群:白内障手術・線維柱帯切除術同時手術.し,2群間で最終眼圧,眼圧下降薬,最大矯正視力に有意差15mmHgを基準とした累積生存率が同等であったことから,はなかったとしている6).Supawavejらは,有水晶体眼に対Supawavejらの結果に矛盾しない.さらに開放隅角緑内障するTLEと角膜切開からのPEA後のTLEを後ろ向きに比眼において有水晶体眼と眼内レンズ眼で比較すると,眼内レ較しているが,眼圧下降効果について同等であったと報告しンズ眼のほうが有意に房水中の炎症性サイトカイン濃度が高ている7).この報告は長期成績であるため単純には比較できいとのInoueらの報告8)もあり,白内障手術がTLEの予後ないが,本研究ではTLE群とIOL群は眼圧下降効果およびに何らかの影響を与えていると考えられる.(127)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014431 つぎにTLE群と同時手術群の比較を検討する.有水晶体眼に対してTLE単独手術を施行した場合,その後に白内障が進行し,手術が必要となる場合がある.Donosoらは,TLE施行後の眼に対してPEA手術を行った場合の眼圧への影響と,TLE白内障同時手術を施行した場合の眼圧への影響について後ろ向きに比較しており,2群間の生存率に有意差はなかったと報告している9).この結果は本研究の結果と異ならない.すでにPEAが濾過胞に与える影響についての検討はこれまで多くなされている.PEA後に濾過胞のある眼では眼圧が上がると報告するものもあれば10,11),白内障手術は濾過胞のある眼の眼圧コントロールに影響しないと報告するものもある12).また,PEAを施行する時期によって濾過胞に与える影響が異なるとする報告もある.Awai-Kasaokaらは,TLE施行後にPEAを行いTLE失敗となった眼について予後不良因子を検討し,TLE術後1年以内にPEAを行うことが予後不良因子だと報告している13).また,Siriwardenaらが術後の前房内炎症を調べた報告によれば,TLE術後眼よりもPEA術後眼で前房内炎症が長く続くため,PEAを施行する時期によってTLE成功率が左右されうるとしている14).本研究では6カ月のフォロー期間中に白内障が進行し手術を必要とした症例はなかったため,この検討は今後の検討課題の一つである.術後合併症としての房水漏出,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は2週間の退院後も認められたが,いずれも縫合処置によりただちに改善した.合併症は避けられないが即時に対処することにより改善が得られることが判明した.また,短期的には濾過胞感染は生じていない.術後処置として,ニードリングの回数が多いが,1眼について2.4回の処置を行っており癒着傾向が強い症例では反復した処置を要することがわかり,今後の術式改善が必要と考えられる.この研究期間中の術式では術後ニードリングの際に細胞増殖抑制薬は使用していないが,現在MMC併用ニードリングによる術後処置の改善を検討している.病型別では炎症性緑内障と閉塞隅角緑内障の半数以上で,1眼につき2回以上の処置を必要としたことが判明している(他誌投稿中).今回の結果は,12mmHgを目標眼圧とするとTLE群の中期成績はIOL群や同時手術群に比較して良い結果となったが,15mmHgを目標眼圧としたときの中期成績には差はなく,また術後の合併症や処置にも差はみられなかった.今回は脱落も含め半年の経過での検討だったが,さらなる長期経過を検討する予定である.本稿の要旨は第23回日本緑内障学会(2012)にて発表した.文献1)WuDunnD,CantorLB,Palanca-CapistranoAMetal:Aprospectiverandomizedtrialcomparingintraoperative5-fluorouracilvsmitomycinCinprimarytrabeculectomy.AmJOphthalmol134:521-528,20022)MostafaeiA:AugmentingtrabeculectomyinglaucomawithsubconjunctivalmitomycinCversussubconjunctival5-fluorouracil:arandomizedclinicaltrial.ClinOphthalmol5:491-494,20113)KitazawaY,KawaseK,MatsushitaHetal:Trabeculectomywithmitomycin.Acomparativestudywithfluorouracil.ArchOphthalmol109:1693-1698,19914)AgrawalP,ShahP,HuVetal:ReGAE9:baselinefactorsforsuccessfollowingaugmentedtrabeculectomywithmitomycinCinAfrican-Caribbeanpatients.ClinExperimentOphthalmol41:36-42,20135)TakiharaY,InataniM,SetoTetal:Trabeculectomywithmitomycinforopen-angleglaucomainphakicvspseudophakiceyesafterphacoemulsification.ArchOphthalmol129:152-157,20116)ShingletonBJ,AlfanoC,O’DonoghueMWetal:Efficacyofglaucomafiltrationsurgeryinpseudophakicpatientswithorwithoutconjunctivalscarring.JCataractRefractSurg30:2504-2509,20047)SupawavejC,Nouri-MahdaviK,LawSKetal:ComparisonofresultsofinitialtrabeculectomywithmitomycinCafterpriorclear-cornealphacoemulsificationtooutcomesinphakiceyes.JGlaucoma22:52-59,20138)InoueT,KawajiT,InataniMetal:Simultaneousincreasesinmultipleproinflammatorycytokinesintheaqueoushumorinpseudophakicglaucomatouseyes.JCataractRefractSurg38:1389-1397,20129)DonosoR,RodriguezA:Combinedversussequentialphacotrabeculectomywithintraoperative5-fluorouracil.JCataractRefractSurg26:71-74,200010)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification:aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,200511)WangX,ZhangH,LiSetal:Theeffectsofphacoemulsificationonintraocularpressureandultrasoundbiomicroscopicimageoffilteringblebineyeswithcataractandfunctioningfilteringblebs.Eye(Lond)23:112-116,200912)InalA,BayraktarS,InalBetal:Intraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemulsificationineyeswithprevioustrabeculectomy:acontrolledstudy.ActaOphthalmolScand83:554-560,200513)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:Impactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycin-C.JCataractRefractSurg38:419-424,201214)SiriwardenaD,KotechaA,MinassianDetal:Anteriorchamberflareaftertrabeculectomyandafterphacoemulsification.BrJOphthalmol84:1056-1057,2000利益相反:利益相反公表基準に該当なし432あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(128)

円蓋部基底結膜弁線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期眼圧コントロール率

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c松下恭子*1内藤知子*1島村智子*1齋藤美幸*1高橋真紀子*2大月洋*1*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2笠岡第一病院眼科RelationbetweenEarlyPostoperativeIOPandIOPControlwithFornix-basedConjunctivalFlapinMitomycinCTrabeculectomyKyokoMatsushita1),TomokoNaito1),TomokoShimamura1),MiyukiSaito1),MakikoTakahashi2)HiroshiOotsuki1)and1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital目的:円蓋部基底線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期予後との関連を検討する.方法:2005年7月から2008年11月の間に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)症例を対象とした.眼圧コントロール率は術後1カ月以降に2回連続して眼圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点を死亡としてKaplan-Meier生命表法で検討した.結果:54例62眼が対象となった.術前眼圧は22.2±10.0mmHgに対し,最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHg,眼圧14mmHg以下へのコントロール率は術後1年,2年とも88.1%であった.術後早期の眼圧と予後の検討では,14日目の眼圧が9mmHg以上の群(n=27)は術後1年以降のコントロール率が77.3%であるが,9mmHg未満の群(n=35)は96.6%と有意に高かった(p=0.01,log-rank検定).結論:広義POAGの円蓋部基底線維柱帯切除術では14日目の眼圧を9mmHg未満に管理すると良好な眼圧コントロールが得られる可能性がある.Purpose:Toevaluateshort-andmiddle-termoutcomesoffornix-basedtrabeculectomies.Method:Westudiedprimaryopen-angleglaucoma(POAG)patientsundergoingtrabeculectomybetween2005and2008.Failurewasdefinedastwointraocularpressure(IOP)readingsover14mmHg,additionalmedicationorsecondsurgery.Results:Westudied62eyes(29males,25females;meanage:70.8±9.1years;meanfollow-up:16.8±10.6months).MeanpreoperativeIOPwas22.2±10.0mmHg;88.1%oftheeyeswere14mmHgorlessat1year.Ofthe35eyesthathadIOPof9mmHgorlessafter14days,96.6%were14mmHgorlessat1year.Incomparison,ofthe27eyeswithIOPover9mmHgafter14days,77.3%were14mmHgorlessat1year(logranktest,p=0.01).Conclusion:TrabeculectomyisveryusefulforPOAGtoachieveanIOPof9mmHgat14days.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1641.1644,2011〕Keywords:円蓋部基底,線維柱帯切除術,眼圧管理,広義原発開放隅角緑内障.fornix-based,trabeculectomy,controlofintraocularpressure,primaryopen-angleglaucoma.はじめに近年主流になっているマイトマイシンC併用線維柱帯切除術は,術中に強膜弁をタイトに縫合し,術後の適切な時期にレーザー切糸術を行いながら目標とする眼圧レベルまで調整する1.4)ことにより,手術が完結する.すなわち,術後管理の優劣がその成功を大きく左右するといっても過言ではない.しかし,目標眼圧を維持するために,どのように眼圧を調整していけばよいかという,術後管理についての報告は少なく6.8),術者の経験によるところが大きいのが現状である.また,過去の報告6.8)は輪部基底線維柱帯切除術後のもので,円蓋部基底線維柱帯切除術後の眼圧定量化に関する報告はない.〔別刷請求先〕松下恭子:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Reprintrequests:KyokoMatsushita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama-shi,Okayama700-8558,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(129)1641 今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.2005年7月から2008年11月に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義POAG54例62眼を対象とした.原則,眼科手術既往のある症例は除外したが,小切開白内障手術既往(22眼)のみ対象に含めた.術者は3名,術式・術後管理は統一して行った.術式を図1に示す.角膜輪部に7-0バイクリル糸で制御糸をかけたのち,円蓋部基底にて結膜を切開した.強膜を横4mm×縦3.5mmで切開,約1/2層の厚みで第一強膜弁を作製し,その内部にさらに第二強膜弁を約4/5層の厚みで作製した後に切除して,線維柱帯部から円蓋部側の強膜切開線に達する強膜弁下のトンネルを作製した.0.04%マイトマイシンCを浸した吸血スポンジ(MQAR)を結膜下および強膜弁の上下に3分塗布した後,生理食塩水100mlで洗浄した.その後,白内障同時手術例では強膜弁下前方から前房内に穿孔し,超音波白内障手術を施行,眼内レンズを挿入して前房内の粘弾性物質を洗浄した.強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った.強膜弁は10-0ナイロン糸にて4.7糸縫合,結膜は放射状切開部を連続縫合,輪部は半返し縫合を行った.房水を強膜弁後方から流出させ,びまん性の濾過胞を形成するため,レーザー切糸は基本的に円蓋部側から順に行っているが,押してみた際の濾過胞の広がり方や,術中の糸の圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点とした.統計解析はJMP8.0(SAS,東京)を用いて解析し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象となった症例は54例62眼であった.男性29例35眼,女性25例27眼,平均年齢は70.8±9.1歳(平均±標準偏差)(50.89歳),平均経過観察期間は16.8±10.6カ月(2.43カ月)であった.白内障同時手術は29例31眼に行った.強膜弁の平均縫合数は6.8±1.6本,術後2週間以内での平均切糸数は2.8±2.3本であった.平均眼圧は術前22.2±10.0mmHgから術後1年9.6±2.3mmHg(n=36),2年11.2±2.4mmHg(n=15),最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHgと有意に下降した(対応のあるt検定p<0.0001)(図2).全症例の眼圧コントロール率の結果を示す.KaplanMeier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後1年,2年とも88.1%であった(図3).術後1カ月目以降の生存群と死亡群の眼圧経過は,それぞれ1カ月目8.5±3.0mmHg,13.0±4.9mmHg(p=0.01),3カ月目8.4±2.0mmHg,14.2±3.4mmHg(p<0.0001),6カ月目8.9±2.3mmHg,14.3±2.6mmHg(p=0.002)といずれの時期も生存群の眼圧が有意に低かった(Mann-Whitneyの検定)(図4).353025討した.エンドポイントは術後1カ月以降に2回連続して眼54mm0術前369121518212427303642(月)眼圧(mmHg)効き具合で,切糸する糸を選択した.眼圧測定はGoldmann20applanationtonometerで行い,術後抗菌薬点眼とステロイ15ド点眼は1.3カ月間投与した.10眼圧コントロール率はKaplan-Meier生命表法を用いて検3.5mmn=62593623155図2平均眼圧経過死亡症例は除く.1.00.10.20.30.40.50.60.70.80.9①結膜切開②強膜弁作製③トンネル作製4~7糸連続半返し生存率061218243036424854(月)④強角膜片・虹彩切除⑤強膜弁縫合⑥結膜縫合図1当科の術式図3眼圧コントロール率1642あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(130) 死亡群死亡群400.99mmHg未満(n=35)350.8300.79mmHg以上(n=27)生存群0.6眼圧(mmHg)生存率250.50.40.320150.2100.15061218243036424854(月)0術前1369121518212427303642(月)図6術14日目の眼圧値とコントロール成績死亡群n=74221生存群55553421145図4生存群と死亡群の平均眼圧経過1.015:生存群(n=55):死亡群(n=7)死亡群(n=7)0.110生存群(n=55)5術後00.11.003日7日14日1カ月3カ月術前図5生存群と死亡群の術後早期眼圧経過図7術前後の視力変化2520眼圧(mmHg)生存群と死亡群の早期眼圧経過は,それぞれ3日目13.7±6.3mmHg,13.9±6.8mmHg(p=0.95),7日目10.1±4.1mmHg,9.9±4.0mmHg(p=0.72),14日目8.4±4.0mmHg,9.4±1.3mmHg(p=0.09)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定)(図5).術後早期の眼圧と中期予後との関係を検討するために,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けてKaplan-Meier生命表で比較したところ,9mmHg未満の群では術後1年以降の生存率が96.6%であったのに対し,9mmHg以上の群では77.3%となり,両群間に有意差がみられた(log-rank検定p=0.01)(図6).また,白内障同時手術での生存群と単独手術での生存群の平均眼圧経過は,それぞれ術前20.4±6.5mmHg,25.4±13.6mmHg(p=0.16),1カ月目8.2±2.7mmHg,8.9±3.4mmHg(p=0.64),3カ月目8.1±2.2mmHg,8.8±1.8mmHg(p=0.23),6カ月目8.8±2.6mmHg,9.1±1.8mmHg(p=0.42)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定).強膜弁の縫合数は生存群と死亡群でそれぞれ6.9±1.6本,6.1±1.6本(p=0.32),術後に切糸を始めた時期は2.8±4.0日,1.6±0.8日(p=0.50),術後14日以内の切糸数は2.7±2.5本,3.5±1.1本(p=0.57)で両群に有意差はなかった(Mann-Whitneyの検定).術前後の視力については,2段階以上の改善を認めたものが7眼(11.3%),不変であったものが50眼(80.6%),2段(131)階以上の悪化を認めたものが5眼(8.1%)であった(図7).術後早期合併症は,脈絡膜.離14眼(22.6%),浅前房11眼(17.7%),縫合不全3眼(4.8%)であった.強膜弁再縫合を行ったのは1眼(1.6%)のみであった.生存群と死亡群に分けた合併症の頻度は,脈絡膜.離13眼(23.6%),1眼(14.3%)(p=0.57),浅前房10眼(18.2%),1眼(14.3%)(p=0.79),縫合不全2眼(3.6%),1眼(14.3%)(p=0.21)で両群に有意差はみられなかった(Fisherの正確検定).III考按緑内障に対する濾過手術として線維柱帯切除術は広く行われている術式であるが,代謝拮抗薬マイトマイシンCの併用によって術後成績は格段に向上した.術中に強膜弁をタイトに縫合し,順次レーザー切糸して眼圧を調整していくが,このタイミングが遅すぎると,濾過胞は瘢痕化して眼圧は下がらないし,逆に早すぎると,持続的な低眼圧となり,遷延性の脈絡膜.離や黄斑症など,視力予後を脅かす深刻な合併症の誘因となる.今回,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討した.忍田ら5)は術後1週間の平均眼圧が15mmHg未満で長期予後が良好と報告している.また,Haraら6)は術後9.14日の平均眼圧が8mmHg,清水ら7)は術後4週間目の眼圧が7.12mmHgで長期予後が良好と報告している.しかし,これらの報告での術式は輪部基底線維柱帯切除術であたらしい眼科Vol.28,No.11,20111643 あり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらあり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらは円蓋部基底結膜弁と輪部基底結膜弁で術後眼圧に差はないが,円蓋部基底結膜弁では術後早期の管理に注意が必要であると述べている.線維柱帯切除術後の限局した無血管濾過胞は,その後の晩期濾過胞漏出や濾過胞関連感染症の原因となりやすいが,円蓋部基底結膜弁による線維柱帯切除術は後方に瘢痕を形成しにくく,びまん性に広がる血管に富んだ壁の厚い濾過胞を形成する傾向があることが報告されている9).輪部基底結膜弁による線維柱帯切除術に比較して,上述のような晩期合併症のリスクが減少する可能性があると考え,岡山大学眼科では基本的に初回手術は全例円蓋部基底線維柱帯切除術を選択しているが,後方の結膜の瘢痕で濾過胞がせき止められる輪部基底結膜弁と後方までびまん性に濾過胞が広がる円蓋部基底結膜弁とでは術後経過が異なるかもしれない.そのため,今回筆者らは広義POAGの初回手術例のみを対象として検討を行った.目標眼圧の設定においては,岩田10)が提唱した「初期は19mmHg以下,中期は16mmHg以下,後期は14mmHg以下」を指標の一つとしているが,線維柱帯切除術が必要となる症例はほとんどが後期症例であったため,今回は14mmHg以下へのコントロール率を用いて成績比較した.輪部基底線維柱帯切除術でHaraら6)が術後9.14日の平均眼圧が8mmHgの場合長期予後良好という報告より,筆者らも実際の臨床の場では,術後2週目に眼圧8mmHg前後でびまん性の濾過胞が形成されている状態を目標として管理してきた.生存群と死亡群の術後早期の眼圧経過をみたところ,術3日目から14日目まで両群で有意差は認めないものの,14日目で生存群の平均眼圧は8.4±4.0mmHgに対し,死亡群では9.4±1.3mmHg(p=0.09)で,14日目の眼圧が9mmHgを境に成績が左右されている傾向がみてとれた.そこで,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けて検討を行い,術後14日目の時点で眼圧が9mmHg未満の群では有意に成績が良好という結果となった.一方,生存群と死亡群の間で脈絡膜.離,浅前房,縫合不全など,術後早期合併症の頻度にも差は認めなかったので,術後14日目で9mmHg未満を目指して管理することによる術後早期合併症の大幅な増加はみられないものと思われた.また,生存群の術後眼圧経過において白内障手術の併用群と非併用群との間には統計学的な有意差はなかった.広義POAGの初回手術症例で,最終的に目標眼圧を14mmHg以下にする場合には,術後14日目で眼圧が9mmHg未満になることを目標に管理していけばよいと考える.ただし,最終的には,個々の症例の条件(年齢,結膜の状態)や施設での手術方法(結膜切開法,強膜弁の形・大きさ・厚み,強膜開窓部の大きさ,縫合糸の締め方)によっても左右されるので,臨機応変に対応していくことが必要と思われる.文献1)ShlomoM,IsaacA,JosephGetal:Tightscleraflaptrabeculectomywithpostoperativelasersuturelysis.AmJOphthalmol109:303-309,19902)KarlSP,RobertJD,PaulAWetal:LateargonlasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology100:1268-1271,19933)SinghJ,BellRWD,AdamsAetal:Enhancementofposttrabeculectomyblebformationbylasersuturelysis.BrJOphthalmol80:624-627,19964)AsamotoA,MichaelEY,MatsushitaMetal:Aretrospectivestudyoftheeffectsoflasersuturelysisonthelong-termresultoftrabeculectomy.OphthalmicSurg26:223-227,19955)忍田太紀,山崎芳夫:マイトマイシンンC併用線維柱帯切除術における術後眼圧定量化の指標.臨眼54:785-788,20006)HaraT,AraieM,ShiratoSetal:Conditionsforbalancebetweenlowernormalpressurecontrolandhypotonyinmitomycintrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol236:420-425,19987)清水美穂,丸山幾代,八鍬のぞみほか:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの術後成績に影響を及ぼす臨床因子.あたらしい眼科17:867-870,20008)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:Comparisonoffornix-andlimbus-basedconjunctivalflapsinmitomycinCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglaucomapatients.JpnJOphthalmol50:338-344,20069)AgbejaAM,DuttonGN:Conjunctivalincisionsfortrabeculectomyandtheirrelationshiptothetypeofblebformation─apreliminarystudy.Eye1:738-743,198710)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,1992***1644あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(132)