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球状角膜に複数回全層角膜移植を行った1 例

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):586.591,2024c球状角膜に複数回全層角膜移植を行った1例田邉ゆき*1吉川大和*1長嶋泰志*2奥村峻大*3向井規子*4田尻健介*1喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2高槻病院眼科*3高槻赤十字病院眼科*4市立ひらかた病院眼科CACaseofKeratoglobusthatRequiredMultiplePenetratingKeratoplastySurgeriesYukiTanabe1),YamatoYoshikawa1),TaishiNagashima2),TakahiroOkumura3),NorikoMukai4),KensukeTajiri1)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)CHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospital,4)CDepartmentofOphthalmology,TakatsukiDepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospitalC緒言:球状角膜の急性水腫後眼に対して,全層角膜移植(PKP)を複数回施行したC1例を経験したので報告する.症例:69歳,男性.円錐角膜の診断で近医にてハードコンタクトレンズ(HCL)を処方されていたが脱落,紛失を繰り返していた.2017年C5月に左眼の急な視力低下を主訴に大阪医科薬科大学病院(以下,当院)眼科を受診した.HCLによる矯正視力は右眼(0.15Cp×HCL),左眼(0.02×HCL)で,両眼の角膜全体の菲薄化と高度突出を認め,球状角膜と診断した.2017年C7月に左眼CPKPを施行した.ホスト角膜は周辺部で約C200Cμmまで菲薄化し,ドナー角膜との縫合に難渋した.その後移植片に浮腫が出現し移植片機能不全となりC2019年C8月に再度左眼CPKPを施行した.ホスト角膜の創部の瘢痕形成により,既存移植片除去後の形状が保持されており,縫合は比較的容易であった.結論:球状角膜に対する初回のCPKPは,ドナーとホストの角膜厚の不一致とホスト角膜の脆弱性から縫合に難渋するが,再移植の際にはホスト角膜の創部の瘢痕形成により縫合は容易である可能性が示唆された.本症例に対するCPKPの再移植までの期間は,他の疾患に対するCPKPより短く,頻回のCPKPは最良な治療とはいえないが,治療方針に難渋し,少しでも視機能改善を期待するのならばCPKPも選択肢の一つになると考えた.CPurpose:Toreportacaseinwhichpenetratingkeratoplasty(PKP)wasperformedmultipletimesinaneyewithCkeratoglobusCdueCtoCacuteCcornealCedema.CCasereport:AC69-year-oldCmaleCwhoChadCbeenCdiagnosedCwithCkeratoconusandwasusinghardcontactlense(HCL)wasreferredtoourhospitalafterbecomingawareofasud-denClossCofCvisionCinChisCleftCeye.CHeCwasCdiagnosedCwithCkeratoglobusCwithCthinningCandChighCprotrusionCofCtheCentirecorneainbotheyes.Inhislefteye,acuteedemaandstromaopacitywasobservedandtheHCL.ttingwaspoor,soPKPwasperformed.Sincethehostcorneahadthinnedtoapproximately200μmattheperipheryandwasfragile,itwasdi.culttosuturethedonorcornealgraft,andat2-yearspostoperative,edemaappearedinthecor-nealgraft.Hewasdiagnosedwithgraftrejectionandtreatmentwitheyedropswasinitiated,however,therewasnoCimprovementCandCPKPCwasConce-againCperformed.CScarCformationCatCtheCwoundCofCtheChostCcorneaCpreservedCtheshapeoftheexistinggraftandsuturingwasrelativelyeasy.Conclusion:Inthispresentcase,althoughtheini-tialPKPwasdi.cultduetokeratoglobusproducingadiscrepancyinthickness,aswellasfragility,inthehostcor-nea,theeaseofsuturingthedonorgraftintherepeatPKPmayhavebeenduetoscarformationattheperipheralwoundsiteofthehostcornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):586.591,C2024〕Keywords:球状角膜,全層角膜移植,円錐角膜,角膜移植片機能不全.keratoglobus,penetratingkeratoplasty,keratoconus,cornealgraftdysfunction.C〔別刷請求先〕田邉ゆき:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiTanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC586(114)図1初診時前眼部写真と前眼部OCTと角膜形状解析(上段:右眼,下段:左眼)a,b:前眼部写真.両眼とも角膜は球状に突出し,全体的にびまん性に菲薄化し,周辺部に最菲薄部を認めた.左眼は鼻下側に急性水腫による角膜実質混濁も認めた.Cc,d:前眼部COCT.両眼角膜の球状突出を認め,左眼では急性水腫によるCDescemet膜の断裂や実質内の浮腫(黄色矢印)を認めた.Ce,f:角膜形状解析.右眼中心角膜厚C214Cμm,最菲薄部厚はC130Cμm,左眼中心角膜厚C325Cμm,最菲薄部厚はC173Cμmであった.左眼は浮腫による角膜厚増大を認めた.はじめに球状角膜は,両眼性の角膜の菲薄化と前方への突出をきたすきわめてまれな疾患で,1947年にCVerryによって初めて報告された1,2).先天性と後天性のいずれの症例も存在するが,前者では青色強膜,Ehlers-Danlos症候群のような結合組織に異常がある場合が多いとされている2,3).類縁疾患である円錐角膜では角膜中央下方の菲薄化を認めるが,球状角膜では角膜全体の菲薄化が特徴である.治療として眼鏡での視力矯正が困難となるとハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)での矯正がまず行われるが,高度な角膜変形によりCHCLでの矯正が困難になりやすい.HCLが装用できない症例については外科的治療が考慮される.近年円錐角膜では角膜クロスリンキングや有水晶体眼内レンズ挿入術などが行われるようになってきたが,球状角膜はその希少さからか治療法は現在確立しておらず,また周辺部にも角膜菲薄が及んでいることから通常の全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)もむずかしいとされる4).今回,筆者らは,球状角膜の急性水腫後眼に対してCPKPをC2回行い,再移植の際にはホスト角膜の創部の瘢痕形成により縫合が容易であった症例を経験したので,その臨床経過を報告する.CI症例患者:69歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧と大腿骨骨折.家族歴:特記事項なし.現病歴:10歳半ばころより視力低下を自覚されていた.20歳半ば頃に円錐角膜と診断され,HCLによる視力矯正が近医で行われていたが,脱落,紛失を繰り返していた.2017年C5月,左眼の急激な視力低下を主訴に,大阪医科薬科大学病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:HCLによる矯正視力は右眼(0.15CpC×HCL),左眼(0.02C×HCL)で,細隙灯顕微鏡所見では両眼とも角膜は球状に突出し,全体的にびまん性に菲薄化しており,周辺に最菲薄部を認めた.左眼は鼻下側に急性水腫による角膜実質混濁も認めた(図1a,b).前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では両眼とも角膜の球状突出を認め,左眼では急性水腫によるCDescemet膜の断裂や実質内の浮腫を認めた(図1c,d).角膜形状解析では右眼中心角膜厚C214Cμm,左眼中心角膜厚C325Cμmで,左眼は浮腫による角膜厚増大も認めた(図1e,f).経過:急性水腫発症後C2カ月が経過したが視力は(0.02C×CL),十分な視力改善が得られなかったため,手術加療を行うこととなった.2017年C7月に左眼CPKPおよび白内障同時手術を施行した.ドナー角膜は角膜内皮密度C2,404cells/Cmm2であったが,術前から角膜浮腫を認めていた.ドナー角膜は径C7.5Cmm,ホスト角膜はトレパンでC8Cmm切開後,手術開始時角膜切除直後手術終了時1回目2回目図2上段:1回目の手術,下段:2回目の手術1回目の手術ではトレパン後のホスト角膜は脆弱で,形状保持が困難であった.2回目の手術時,ホスト角膜は創部の瘢痕形成により,形状保持が良好で縫合は初回と比較して容易であった.図31回目手術後約6カ月後の前眼部写真と角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a,b:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.c:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.Cd:角膜内皮細胞密度C588Ccells/mmC2とやや少なかった.abd図42回目手術後約6カ月後の前眼部写真と前眼部OCTと角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.Cb:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.c:前眼部COCT.接合部においてホスト角膜と移植片に角膜厚の大きな差は認めなかった.d:角膜内皮細胞密度C1,405Ccells/mmC2ホスト角膜周辺部の突出した形状の改善を図るため,ドナー角膜との半径較差を意識しつつ,縫合しうる範囲で慎重にマニュアルで拡大した.トレパン後のホスト角膜は脆弱で,かつドナー角膜厚との差が大きかったため,上皮面を合わせて17針縫合したが,角膜厚差のため縫合は容易ではなかった(図2上段).術翌日,前房は浅く,針穴からの前房水漏出を認めた.0.3%ガチフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C1日C6回,ブロムフェナク点眼C1日C1回を開始した.術後C9日目には角膜は清明で,前房形成も良好で前房水の漏出はなく退院となった.術後C14日目の角膜内皮細胞密度C1,398cells/mmC2,眼圧は右眼C8mmHg,左眼C14mmHgであり,術後半年では,矯正視力(0.2C×Sph.3.0D)角膜内皮細胞密度C588Ccells/mmC2とやや少ないが,角膜は清明であった(図3).その後C2019年C1月頃より左眼霧視を自覚した.細隙灯顕微鏡検査で,左眼はびまん性の角膜上皮浮腫,および実質浮腫を認め,左眼の眼圧はC22CmmHgと上昇していた.0.1%リン酸ベタメタゾン点眼の点眼回数を増加であった.し,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液を追加するなど点眼加療を行ったが,症状の改善を認めなかった.角膜移植片機能不全と診断しC2019年C7月に再度左眼CPKPを施行した.ドナー角膜は透明で,角膜内皮細胞密度C2,237Ccells/Cmm2であった.ドナー角膜は径C7.75Cmmで作製し,ホスト角膜はトレパンを使用せず,既存グラフトをスパーテルで鈍的にはずした.ホスト角膜は創部の瘢痕形成により,形状保持が良好で縫合は前回と比較して容易であった(図2下段).0.3%ガチフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C1日C6回を開始した.術後C1週間で前房形成は良好であり,移植片も清明であった.角膜形状解析では中心部角膜厚はC512Cμmで明らかな浮腫は認めなかった.術後半年後では,矯正視力は(0.3C×sph.1.50D(cyl.3.50DAx80°),角膜内皮細胞密度C1,405Ccells/mmC2,角膜は清明で拒絶反応を認めず,眼圧コントロールも良好であった.前眼部COCTでは,ホスト角膜厚は増大しており移植片接合部でのホストとドナー間の角膜厚差は認めなかった(図4).2022年C4月図52回目手術後約2年6カ月後の前眼部写真と前眼部OCTと角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.Cb:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.Cc:前眼部COCT.ホスト角膜や移植片に大きな形状の変化はなかった.Cd:角膜内皮細胞密度C443Ccells/mmC2とやや少なかった.には矯正視力(0.4C×sph+1.00D(cyl.10.00DAx65°),角膜内皮細胞密度C443Ccells/mmC2と内皮細胞数は減少していた(図5).CII考按球状角膜は角膜形状異常の一つで非常にまれな疾患である5).球状角膜の特徴は,角膜直径は正常であり,前房隅角,眼圧には異常を認めないが,角膜形状では全体が菲薄化し,特に角膜輪部C2.3Cmmの部でもっとも薄く,前方へ突出を認める.類縁疾患として円錐角膜やペルーシド角膜変性が知られている5,6).本症例では,円錐角膜と診断されていたが,角膜全体の菲薄化と球状突出を認め,角膜径も正常であったことより球状角膜と診断した.球状角膜の治療として眼鏡での視力矯正が困難となるとHCLでの矯正がまず行われるが,本症例のように進行例においてはCHCLの装用もむずかしい.また,本症例では急性水腫も生じていたため外科的治療を考慮する必要があった.しかし,球状角膜に対する有効な外科的治療法は確立されておらず,通常のCPKPでは,ドナーとホスト角膜厚不一致や角膜周辺部まで菲薄部が及ぶため手術難度は高いとされる.また,角膜輪部を含むような拡大CPKPを行うことがあるが,術後の拒絶反応のリスクが増えるとされる7,8).他の手術方法としては,結膜の後方切開で,ホスト角膜上皮のみを除き,そこに表層移植片をのせて,強膜周辺部で縫合するClamellarkeratoplastyが報告された9).また,ホスト角膜周辺部を半層切開して移植片を挿入するCtuck-in法や,それらの半層切開や移植片作製にフェムトセカンドレーザーを用いたCtuck-in法も報告されているが,いずれの術式も急性水腫がある場合は行えない10).本症例では,急性水腫発症後のため,前述のClamellarCker-atoplastyやCtuck-in法は行えず,また拒絶反応の面から拡大PKPではなく通常のCPKPを選択した.初回はドナーとホストの角膜厚の不一致とホスト角膜の脆弱性により縫合には難渋した.移植片機能不全後は角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)なども選択肢として考えたが,前方突出があるため移植片の接着不良になる可能性があったため再移植の際もCPKPを選択した.再移植の際には,初回手術のトレパンによってできたホスト角膜の創部が肥厚していたため,縫合は容易であった.角膜実質は損傷を受けると,角膜実質細胞が創傷部に移動し線維芽細胞や筋線維芽細胞へと形質転換して組織の修復を行うことが知られている11,12).本症例においても,初回移植から再移植までの間に,角膜実質の組織修復がなされ,瘢痕形成によりホスト角膜が肥厚したと考えられる.ホスト角膜の肥厚により,ドナー角膜との間にあった角膜厚の不一致がなくなり,手術が容易になったと考えられた.今回の球状角膜に対するCPKPの再移植までの期間は,円錐角膜を初めとした他の疾患に対するCPKP再手術までの期間より短く,移植片機能不全のことも考慮すれば完璧な治療であるとはいえない.視機能改善を望むのであれば,今回の症例のようにC2回目のCPKPでは初回時より縫合が容易であったことを考慮にいれると治療の選択肢になると考えた.2回目の手術の約C2年C6カ月後では,矯正視力低下は認めないが乱視の増加と角膜内皮細胞の減少を認めている.このような経過から,すべての球状角膜の症例においてCPKPを推奨はできないが,熟慮したうえで治療の選択肢の一つになるのではないかと考えた.本症例は,角膜カンファレンスC2021ポスターで発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)VerreyF:KeratoglobeCaigu.COphthalmologicaC114:284-288,C19472)WallangCBS,CDasS:Keratoglobus.CEyeC27:1004-1012,C20133)NelsonME,TalbotJF:KeratoglobusinRubinstein-Taybisyndrome.BrJOphthalmolC73:385-387,C19894)気賀沢一輝:解離性大動脈瘤破裂を合併した球状角膜のC1例.臨眼49:1887-1891,C19955)藤田美穂,堀純子,小原澤英彰ほか:視神経萎縮を伴った片眼性の球状角膜のC1例.眼臨99:668-671,C20056)戸張幾生:球状角膜.臨眼20:1303-1314,C19667)JonesCDH,CKirknessCM:ACnewCsurgicalCtechniqueCforCkeratoglobus-tectonicClamellarCkeratoplastyCfollowedCbyCsecondaryCpenetratingCkeratoplasty.CCorneaC20:885-887,C20018)CowdenJW,CopelandRAJr,SchneiderMS:Largediam-etertherapeuticpenetratingkeratoplasties.RefractCorne-alSurgC5:244-248,C19899)VajpayeeCRB,CBhartiyaCP,CSharmaN:CentralClamellarCkeratoplastyCwithCperipheralCintralamellartuck:aCnewCsurgicalCtechniqueCforCkeratoglobus.CCorneaC21:657-660,C200210)AlioCDelCBarrioCJL,CAl-ShymaliCO,CAlioJL:FemtosecondClaser-assistedCtuck-inCpenetratingCkeratoplastyCforCadvancedCkeratoglobusCwithCendothelialCdamage.CCorneaC36:1145-1149,C201711)YeungV,BoychevN,FarhatWetal:Extracellularvesi-clesCinCcornealC.brosis/scarring.CIntCJCMolCSciC23:5921,C202212)MedeirosCS,MarinoGK,SanthiagoMRetal:Thecorne-albasementmembranesandstromal.brosis.InvestOph-thtalmolVisSciC59:4044-4053,C2018***

直像鏡と眼底カメラを用いた円錐角膜検出における 網膜徹照法の有効性

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1481.1485,2023c直像鏡と眼底カメラを用いた円錐角膜検出における網膜徹照法の有効性山口昌大*1山口達夫*2,3,4石田誠夫*4糸井素純*5平塚義宗*1*1順天堂大学医学部眼科学講座*2新橋眼科*3聖路加国際病院眼科*4石田眼科*5道玄坂糸井眼科医院CE.ectivenessofRetinalScatteringImageswithanOphthalmoscopeandaFundusCamerainKeratoconusDetectionMasahiroYamaguchi1),TatsuoYamaguchi2,3,4)C,NobuoIshida4),MotozumiItoi5)andYoshimuneHiratsuka1)1)DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversity,2)ShinbashiEyeClinic,3)StLuke’sInternationalHospital,4)IshidaEyeclinic,5)DougenzakaItoiEyeClinicC目的:眼底直像鏡を用いた網膜徹照法が円錐角膜(KC)の突出部を黒い陰影(ODS)として検出できることは知られていたが,映像として示された報告はなかった.筆者らは眼底カメラを用い,撮影法を工夫することによりCODSを記録できた.今回,Amsler-Krumeich分類(AK分類)の重症度と,直像鏡,眼底カメラ,前眼部光干渉断層計(OCT)の計測結果を比較し,検出限界を検討した.対象および方法:順天堂大学附属順天堂医院眼科およびコンタクトレンズ科,新橋眼科,石田眼科を受診し,角膜混濁,白内障,硝子体混濁を認めないCKCを対象に,前眼部COCT,直像鏡や眼底カメラでの網膜徹照像を比較し,AK分類の重症度別の検出率,角膜形状を測定した.結果:対象は25例45眼(男性C18例,女性C7例).AK分類はCStage1.4がそれぞれC24眼,9眼,5眼,1眼だった.片眼が円錐角膜だが,僚眼が角膜前面形状に異常を認めないCformefrustekeratoconus(FFK)6眼も対象とした.直像鏡での検出率はCFFK83%,Stage1がC83%,2以上はC100%だった.眼底カメラでの検出率はCFFK50%,Stage1がC76%,2以上はC100%だった.網膜徹照法によるCODSの形状は前眼部COCTの角膜形状と類似しなかった.結論:眼底カメラを用いた網膜徹照法はCODSを映像として記録することができた.直像鏡を用いた網膜徹照法は前面突出のない極初期のCKCを検出できる症例があった.角膜形状解析装置を保有しない眼科施設が直像鏡による網膜徹照法でCKCを初期に検出できる可能性が示唆された.CPurpose:Itisknownthattheretinalscatteringmethodusinganophthalmoscopecandetecttheprotrusionofkeratoconus(KC)asanannulardarkshadow(ADS)C,however,therehavebeennoreportsshowingavisualimage.WeCwereCableCtoCrecordCADSCbyCusingCaCfundusCcameraCwithCanCinnovativeCmethod.CInCthisCstudy,CweCcomparedCtheCseverityCofCADSCaccordingCtoCtheAmsler-Krumeich(AK)classi.cationCwithCtheCresultsCofCmeasurementCbyCophthalmoscope,funduscamera,andanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AS-OCT)C,andexaminedthedetectionlimit.SubjectsandMethods:KCpatientswithoutcornealopacity,cataract,orvitreousopacitywhovisit-edCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCandCContactCLensCofCJuntendoCUniversity,CShinbashiCEyeCClinic,CandCIshidaCEyeClinicwereexaminedbycomparingretinalscatteringimageswithanophthalmoscopeandafunduscameratotheAS-OCTcornealshape.ThedetectionratebyseverityofAKclassi.cationandcornealshapeweremeasured.Results:Thisstudyinvolved45eyesof25patients(18malesand7females);i.e.,24eyes,9eyes,5eyes,and1eyeCwithCStageC1,C2,C3,CandC4CAKCclassi.cation,Crespectively.CSixCeyesCwithCformeCfrustekeratoconus(FFK)C,CinCwhichC1CeyeChadCkeratoconusCbutCtheCcontralateralCeyeChadCnoCmorphologicalCchange,CwereCalsoCincluded.CTheCdetectionrateoftheophthalmoscopewas83%forFFK,83%forStage1,and100%forStage2andabove.ThedetectionCrateCofCtheCfundusCcameraCwas50%CforCFFK,75%CforCStageC1,Cand100%CforCStageC2CandCabove.CTheCshapeCofCtheCADSCwasCfoundCtoCnotCbeClikeCtheCAS-OCTCcornealCshape.CConclusions:UsingCanCophthalmoscope,CretinalscatteringimageswereabletorecordtheADSasavisualimageanddetectveryearlystageKCwithout〔別刷請求先〕山口昌大:〒113-8421東京都文京区本郷C2-1-1順天堂大学眼科学教室Reprintrequests:MasahiroYamaguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversity,2-1-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8421,JAPANCanteriorprotrusioninsomecases,thussuggestingthateyeclinicswithoutcornealtomographyimagingcandetectKCatanearlystagewithanophthalmoscope.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(11):1481.1485,C2023〕Keywords:円錐角膜,直像鏡,眼底写真,網膜徹照法,前眼部光干渉断層計.keratoconus,ophthalmoscope,fun-duscamera,retinalscatteringmethod,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめに円錐角膜(keratoconus:KC)は,両眼性進行疾患で,角膜中央部から傍中央部が菲薄化し前方突出することにより強度の近視性乱視と不正乱視が出現する.軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが,中等度以上になると強い乱視のために眼鏡矯正視力が不良になり,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)などによる矯正が必要になる.さらに進行すると手術加療が必要となることがある.角膜クロスリンキング(cornealcollagenCcross-linking:CXL)は進行抑制および視力改善効果を認めるため1),早期介入が予後に影響する.診断や病状進行を早期に,正確に判断し,手術加療が必要な状態になる前に予防していくことが,臨床上重要となる.現在の診療現場では,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などの角膜形状解析装置,角膜生体力学特性装置などを用いて,確定診断,進行判定を行っている2.7).しかし,これらの機械は高価で特殊な機器であり,一般眼科診療所,僻地医療,発展途上国で保有することはむずかしい.また,角膜形状解析装置のない施設は,角膜乱視があっても矯正視力が良好で,Vogt線条,Fleischerringなどの細隙灯顕微鏡所見を認めないと,円錐角膜と診断されずに放置されるリスクが存在する.実際,視力低下を自覚してから円錐角膜と診断されるまでには,4年ほどの時間差がある(糸井,2011)8).したがって,初期CKCをより簡便に,鋭敏に,かつ安価に検出できる検査法が普及すれば,早期発見,早期治療が可能となる.直像鏡の網膜徹照法は,KC突出部の黒い陰影(oilCdropsign:ODS)として検出できると報告されている9.11).しかし,直像鏡による網膜徹照法は画像として記録できず,客観的,定量的評価がむずかしい,という問題があった.筆者らは,眼底カメラを用いた網膜徹照法がCODSを記録できることを発見した(図1).直像鏡はスリット光,眼底カメラはリング光を眼底に投射している.それぞれに生じる徹照の異常は,光学的に異なる原理である.今回,眼底カメラを用いた徹照法による円錐角膜の画像を提示するとともに,Amsler-Krumeich分類(AK分類)の重症度と,直像鏡や眼底カメラで記録したCODSとを比較し,重症度別の検出限界および形状の相同性を検討したので報告する.CI対象および方法順天堂大学附属順天堂医院の眼科およびコンタクトレンズ科,石田眼科医院,および新橋眼科を受診した患者で,前眼部COCTでCKCと診断できた症例を対象とした.網膜徹照光を遮る可能性がある,角膜混濁,白内障,硝子体混濁などの症例は除外した.順天堂大学倫理委員会の承認および,本人同意を得て検査を施行できたC25例C45眼(男性C18例,女性7例)を対象とした.検者はC2名,それぞれC16年,53年の図1正常眼(a)と円錐角膜(b)の網膜徹照像正常眼は瞳孔領に黒い陰影は認めない.円錐角膜は瞳孔領に不整形の黒い陰影(oilCdropsign:ODS)を認める.表1Amsler-Krumeich重症度分類別の症例数表2重症度別の網膜徹照法の検出率所見眼数CStage1角膜の突出による近視/乱視度数<5CD角膜屈折力4C8D以下Vogt線条,瘢痕なし24眼CStage2近視/乱視度数5D.8CD角膜屈折力<5C3D瘢痕なし角膜厚>4C00Cum9眼CStage3近視/乱視度数8D.1C0D角膜屈折力>5C3D瘢痕なし角膜厚C200-400Cum5眼CStage4近視/乱視度数測定不可角膜屈折力>5C5D瘢痕あり角膜厚<2C00Cum1眼CFFK片眼円錐角膜の僚眼角膜形状の異常なし6眼CStage1がC24眼ともっとも多かった.片眼円錐の僚眼で,角膜前面形状に異常を認めなかったCFFK6眼を含んだ.FFK:formefrustekeratoconus.臨床経験をもつ角膜専門医であり,患者が円錐角膜であることをCODS検査前に認知していた.直像鏡は診察室を暗室,患者からC50Ccm離れ,視度C±0Dの条件下で,瞳孔領を照らし,ODSの有無を調査した.眼底写真は,順天堂医院がCVX-10(コーワ),新橋眼科,石田眼科医院がCTRC-NW6S(トプコン)を使用した.暗室条件下で,被験者を顎台に固定,虹彩にピントを合わせるために眼底カメラを検者側に目一杯引き,足りなければ患者に3Ccm程度下がってもらい,撮影した.前眼部COCTはCCASIA(トーメーコーポレーション)を使用し,中心角膜厚,角膜屈折力(Kmin,Kmax),前面角膜形状(axialpower)を測定した.AK分類の重症度別に,直像鏡および眼底カメラを用いた網膜徹照法の検出率を評価した.CII結果患者の年齢はC15.46歳,平均年齢はC35.5C±12.5歳,中心角膜厚はC462.6C±91.1um,角膜屈折力はKminC46.1±6.3D,Kmax48.9±7.3Dだった.重症度分類はCAK分類を用い,Stage1がC24眼,Stage2がC9眼,Stage3がC5眼,CStage4がC1眼だった.また,片眼円錐角膜の僚眼で角膜形状変化を認めないCformeCfrustekeratoconus(FFK)症例C6眼を含んだ(表1).直像鏡,眼底カメラともにCStage2以上の進行症例はC100%検出することができた.Stage1は直像鏡,眼底カメラと重症度眼数直像鏡陽性検出率眼底カメラ陽性検出率CFFKC6C583%C350%CStage1C24C2083%C1876%CStage2C9C9100%C9100%CStage3C5C5100%C5100%CStage4C1C1100%C1100%全体C45C4089%C3680%直像鏡,眼底カメラともにCStage2以上の進行症例はC100%検出している.Stage1以下の初期症例は直像鏡,眼底カメラの検出率が低下したが,FFKは直像鏡でC83%,眼底カメラはC50%検出した.もに検出率が低下し,直像鏡がC20/24(83%),眼底カメラがC18/24(76%)だった.FFKはさらに低下し,直像鏡が5/6(83%),眼底カメラがC3/6(50%)だった(表2).前眼部COCTのCaxialpower(keratometric)前面における突出部とCODSの形状を比較したが,一致は認めなかった.ODSが陰性だったCStage1のC4例は,角膜形状の平均値がCKmin43.7D,Kmax45.7D,角膜乱視C1.8Dだった.いずれも前眼部COCTで角膜中央下方の前後面に突出を認め,ODS陽性症例と角膜形状の違いは認めなかった.眼底カメラでCODSを撮影できたCFFK症例を提示する(図2).24歳,女性.14歳からソフトコンタクトレンズを使用し,18歳で視力低下を指摘され,円錐角膜の精査目的に順天堂大学附属順天堂医院コンタクト科を紹介受診となった.HCLを処方し,両眼の矯正視力は(1.2)と良好である.細隙灯顕微鏡所見は両眼ともに明らかな突出は認めず,Vogt線条,Fleischerringなどの円錐角膜特有の所見は認めなかった.前眼部COCTの角膜形状,眼底カメラの前眼部写真を図2に示す.右眼はCAmsler-Krumeich分類のCStage1,下方に限局する突出があり,Kmin42.0D,Kmax42.9D,最菲薄部角膜厚はC496Cumだった.直像鏡,眼底カメラのいずれでもCODSは瞳孔中心に検出したが,前眼部COCTの角膜前面形状パターンとは一致しなかった.左眼は角膜形状異常がないCFFK,Kmin42.2D,Kmax43.5D,最菲薄部角膜厚はC516umだった.ODSは瞳孔中央から上方に認めるが,角膜前面形状パターンとは一致しなかった.CIII考察円錐角膜は進行を認めた場合,角膜クロスリンキング(CXL)の進行抑制効果が報告されている1).さらに重度になると急性角膜水腫(Descemet膜破裂)を起こして一過性の角膜浮腫と視力低下をきたすことがある.急性角膜水腫の多くは数カ月で自然治癒するが,一部は角膜に瘢痕形成を残右眼左眼図2ODSを撮影できたFFK症例(24歳,女性)右眼はAmsler-Krumeich分類Stage1,下方に限局する突出があり,Kmin42.0D,Kmax42.9D,最菲薄部角膜厚はC496Cumだった.ODSは瞳孔中心に認めるが,角膜突出部とは一致しなかった.左眼は角膜前面形状に異常がないFFK症例,Kmin42.2D,Kmax43.5D,最菲薄部角膜厚は516umだった.角膜後面にわずかな突出を認める.ODSは瞳孔中央から上方に認めるが,角膜形状と一致しなかった.ODS:oildropsign,FFK:formefrustekeratoconus.す.急性水腫後の瘢痕形成も含めて,HCLによる視力矯正が困難,あるいは装用困難な症例は,深部表層角膜移植や全層角膜移植が行われる.円錐角膜は角膜移植の予後が良好とされているが,拒絶反応,内皮機能不全,縫合糸感染,創離開,再突出などの合併症が生じる可能性がある.術後C15年でC66%の症例は矯正視力C0.5以上と良好であるが,18.9%は0.1以下と報告されている12).したがって,早期発見,早期治療は円錐角膜患者の予後に大きく寄与する.角膜形状解析装置の開発は,円錐角膜の早期検出の歴史でもある.角膜形状解析装置(topographicCmodelingCsystem:TMS)は,ビデオカメラを用いて撮影したマイヤー像をコンピューターに取り込み,得られた画像から自動的にリング間の距離を測定し角膜屈折力を算出し,カラーコードマップを作製し,角膜屈折力をパターンとして視覚的に表示する.角膜前涙液層に反射する光をマイヤー像として利用するため,マイヤー像が正確に描出できるかが結果を左右される2).その後,光学断面を撮影して角膜の高さ情報を取得し,角膜前後面の解析が可能な装置が出現した.スリット光を使用したスリットスキャン式角膜形状解析装置,光干渉断層計を使用した光干渉式角膜形状解析装置である.これらの機器によって円錐角膜の早期診断は飛躍的に改善した2.7).直像鏡を用いた網膜徹照法はこれらの角膜形状解析装置の開発以前から,とくに欧米で臨床的に用いられていたが,画像として記録できる報告はなく,また,ODSの機序は報告されていない.網膜からの徹照光は淡いため,角膜実質の微細な変化が光の屈折による陰影として検出できるためと考えられるが,ODSと角膜突出部は必ずしも一致しないため,原理は不明である.Stage2以上の進行症例は直像鏡,眼底カメラともにC100%検出することができた.Stage1は直像鏡,眼底カメラともに検出率が低下するが,直像鏡のほうが眼底カメラより検出率は高かった(83%Cvs67%).極初期と考えられるCFFKはさらに低下するが,直像鏡が眼底カメラより検出できた(83%Cvs50%).直像鏡はスリット光,眼底カメラはリング光を眼底に投射している.それぞれに生じる徹照の異常は,光学的に異なる原理で生じている.この光学的な違いが結果に反映した可能がある.さらに,直像鏡は眼底カメラより光量が弱く,機械を介さずに検者が直接識別でき,淡い陰影を鋭敏に判断できるため,検出率が上がったと考える.初期円錐角膜と考えられているCFFKと正常眼た.この結果は,角膜形状解析装置を保有しない施設においの比較における感度,特異度はそれぞれ,ペンタカムや前眼て,直像鏡を用いた網膜徹照法が円錐角膜を早期検出するこ部COCTを用いた後面エレベーション値でC51.C91%,C55.とができ,その結果,早期治療が実現できる可能性が示唆さ97%,高次収差値でC55.C100%,C64.C97%と報告されていれた.る13).施設によってバラツキがあり,初期円錐角膜の検出方法に関するコンセンサスを得るに至っていない.筆者らの報利益相反:利益相反公表基準に該当なし告はCFFKがC6例と少数であるため,感度や特異度を算出するのはむずかしい.今後,症例数を増やして算出する必要がある.文献直像鏡は安価で持ち運びができるため,一般眼科施設だけ1)CWittig-SilvaCC,CChanCE,CIslamCFMCetal:CACrandomized,Cでなく,眼科のない僻地医療や発展途上国でも使用が可能でcontrolledCtrialCofCcornealCcollagenCcross-linkingCinCpro-ある.直像鏡を用いたCODSの検出に関して,イランからgressivekeratoconus:Cthree-yearCresults.COphthalmologyC300例の報告がある11).円錐角膜と診断された症例に関して121:C812-821,C2014ODS以外に,細隙灯顕微鏡所見,前眼部形状解析など多岐2)CMaedaCN,CKlyceCSD,CSmolekCMKCetal:CAutomatedCkera-toconusCscreeningCwithCcornealCtopographyCanalysis.Cの項目を診療録からレトロスペクティブに検出している.本InvestOphthalmolVisSciC35:C2749-2757,C1994報告と比較して検出率はC41%と低い.しかし,角膜混濁症3)CKanellopoulosCAJ,CAsimellisG:COCTCcornealCepithelialC例C112眼を含んでいる.CODSは中間透光体の混濁が存在すtopographicCasymmetryCasCaCsensitiveCdiagnosticCtoolCforCると検出できなくなる.これらを除外すると,少なくともearlyCandCadvancingCkeratoconus.CClinCOphthalmolC8:C2277-2287,C201460%は検出できていることになる.しかし,重症度ごとの4)CGallettiJD,RuisenorVazquezPR,MinguezNetal:CorC-比較や,CFFKなどの初期症例における検出率の検討はされnealCasymmetryCanalysisCbyCpentacamCscheimp.ugCていない.今回,筆者らは重症度分類別に比較し,CStageC1tomographyCforCkeratoconusdiagnosis:[C1]C.CJCRefractCやCFFKの極初期も割合は低いが検出できることを初めて報SurgC31:C116-123,C20155)CAmbrosioRJr,LopesBT,Faria-CorreiaFetal:IntegraC-告することができた.tionofScheimp.ug-basedcornealtomographyandbiome-今回,軽度から重度のすべてのステージで検討を行ったchanicalCassessmentsCforCenhancingCectasiaCdetection.CJが,CStage2以上の進行例は全例検出できた一方で,CFFKなRefractSurgC33:C434-443,C2017どの極初期症例の検出には限界があった.また,網膜徹照法6)CKohCS,CAmbrosioCRCJr,CInoueCRCetal:CDetectionCofCsub-clinicalcornealectasiausingcornealtomographicandbio-の問題点は,角膜,中間透光体,網膜などに混濁が存在するmechanicalCassessmentsCinCaCJapaneseCpopulation.CJと,光が干渉してしまい検出できない.瞳孔径に依存するたRefractSurgC35:C383-390,C2019め,高齢者,明所,縮瞳が強い症例などは検出できないこと7)CMaenoS,KohS,InoueRetal:Fourieranalysisonirreg-がある.本検討はC23例C45眼,FCFK6眼の少数報告である.ularcornealastigmatismusingopticalcoherencetomogra-phyinvariousseveritystagesofkeratoconus.AmJOph-また,形状異常を伴わない高度乱視症例との比較検討は,今thalmolC243:C55-65,C2022回行っていない.高度乱視症例が偽陽性になる可能性が考え8)糸井素純,久江勝,津田倫子ほか:ソフトコンタクトレられるため,今後,症例数を増やして検討したい.また,前ンズ長期装用者にみられた円錐角膜の角膜形状と患者背景.眼部COCTで円錐角膜と診断した症例を検査しているため,日コレ誌52:C250-257,C20109)CPathmanathanCT,CFalconCMG,CReckA:COphthalmoscopicC検者が事前に円錐角膜であることを知っていることから,情signofearlykeratoconus.BrJOphthalmolC78:C510,C1994報バイアスが生じた可能性がある.C10)CNarteyIN:COphthalmoscopicCsignCofCearlyCkeratoconus.CBrJOphthalmolC79:C396,C1995IV結論11)CNaderanM,JahanradA,FarjadniaM:Clinicalbiomicros-copyandretinoscopy.ndingsofkeratoconusinaMiddle直像鏡を用いた網膜徹照法により円錐角膜を診断し,眼底Easternpopulation.ClinExpOptomC101:C46-51,C2018カメラを用いて黒い陰影(CODS)を画像として記録できるこ12)CPramanikS,MuschDC,SutphinJEetal:Extendedlong-とを初めて報告した.直像鏡および眼底カメラを用いた網膜termCoutcomesCofCpenetratingCkeratoplastyCforCkeratoco-徹照法は角膜形状異常がない極初期のCFFKの検出率は低下nus.OphthalmologyC113:C1633-1638,C200613)CSantodomingo-RubidoCJ,CCarracedoCG,CSuzakiCACetal:したが,細隙灯顕微鏡で異常所見を認めないCStage1は,直Keratoconus:CAnCupdatedCreview.CContCLensCAnteriorC像鏡がC83%,眼底カメラはC67%を検出することが可能であEyeC45:C101559,C2022ることがわかった.CStage2以上は全例検出することができ(1C15)あたらしい眼科Vol.40,No.11,2C023C1485

円錐角膜眼に対するミニスクレラルレンズ処方の有効性の検討

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1399.1402,2022c円錐角膜眼に対するミニスクレラルレンズ処方の有効性の検討荻瑳彩*1西田知也*1片岡嵩博*1片岡麻由香*1磯谷尚輝*1小島隆司*1,2吉田陽子*1中村友昭*1*1名古屋アイクリニック*2慶應義塾大学医学部眼科学教室CEvaluationoftheClinicalOutcomesofMini-ScleralLensWearinEyeswithKeratoconusSayaOgi1),TomoyaNishida1),TakahiroKataoka1),MayukaKataoka1),NaokiIsogai1),TakashiKojima1,2)C,YokoYoshida1)andTomoakiNakamura1)1)NagoyaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:円錐角膜眼に処方したミニスクレラルレンズの有効性の検討.方法:対象は円錐角膜眼に強膜レンズであるミニスクレラルレンズ(MSL)を処方したC23例C30眼.処方に至った経緯と処方成功率(処方後C3カ月以上装用と定義)を検討した.次に眼鏡とCMSL矯正視力を比較した.さらにC23例中のハードコンタクトレンズ(HCL)装用者C10例C13眼のCHCLとCMSLの矯正視力(logMAR)を比較した.結果:MSL処方経緯はCHCL装用困難がもっとも多く(63%),処方成功率はC93%であった.MSL矯正視力(0.01C±0.15)は眼鏡矯正視力(0.7C±0.53)より有意に良好であった(p<0.0001).HCLとCMSLの平均矯正視力はC0.02C±0.16,0.02C±0.15であり有意差はなかった(p=0.9721).結論:HCL装用困難な円錐角膜眼に対してCMSLは良好な矯正視力を得ることが可能で,有用な屈折矯正方法と思われる.CPurpose:Toevaluatetheclinicaloutcomesofmini-sclerallens(MSL)wearineyeswithkeratoconus.Meth-ods:ThisCstudyCinvolvedC30CeyesCofC23CkeratoconusCpatientsC.ttedCwithCanCMSL.CCorrectedCvisualacuity(VA)CwascomparedbetweenMSLwearandspectacleuse.Foreyes(n=13)wearingarigidgaspermeablecontactlens(RGP-CL)C,CcorrectedCVACwasCcomparedCbetweenCRGP-CLCuseCandCMSLCuse.CDataConCpatientCbackgroundCandCMSL-wearsuccess-rate(de.nedas3monthsofMSLwearwithoutcomplications)wasanalyzed.Results:AmongthereasonsforMSLprescription,hardCL-weardiscomfortwashighest(63%)C,andtheMSLsuccess-ratewas93%.MeancorrectedVA(logMAR)wassigni.cantlybetterintheMSL-useeyes(logMAR,0.01±0.15)thaninthespectacle-useeyes(0.7C±0.53)(p<0.0001)C.Nosigni.cantdi.erenceinmeancorrectedVAwasfoundbetweentheRGP-CL-useeyes(0.02C±0.16)andCMSL-useeyes(0.02C±0.15)(p=0.9721)C.CConclusion:ForCkeratoconusCeyesCwithRGP-CLintolerance,MSLusecanprovidegoodcorrectedVAandbeausefulmethodforrefractivecorrec-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(10):1399.1402,C2022〕Keywords:強膜レンズ,ミニスクレラルレンズ,円錐角膜.sclerallens,mini-sclerallens,keratoconus.はじめに円錐角膜(keratoconus:KC)は非炎症性の角膜脆弱性疾患であり,進行性の角膜菲薄化と角膜不正乱視を特徴とする.KCによる視力低下が進むと眼鏡矯正が困難となる場合が多く,その場合の矯正方法はハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が第一選択となる.しかしCHCLは屈折矯正効果は高いが,異物感や痛みなどを感じやすいというデメリットもある.KCの重症度が上がり角膜の突出や不正乱視が強くなると,異物感や痛みを強く感じやすく,さらにCHCLのフィッティング不良を生じることも多い.場合によってはCHCL装用困難となる場合も少なくない.強膜レンズはCHCLと比較して大きなレンズ径が特徴であり,強膜部分で支持するコンタクトレンズである.内部を人工涙液で満たし,レンズ内面までを架空角膜と想定することで,さまざまな不正角膜に対応できる矯正方法である1.6)(図1).さらに兎眼や重度のドライアイなどの眼表面障害の治療にも用いられる1,7.11).装用感の面ではCHCLと異なり,敏感な角膜にレンズが触れないため異物感や痛みを感じにくい.〔別刷請求先〕荻瑳彩:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14COLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックReprintrequests:SaayaOgi,NagoyaEyeClinic,COLLECTMARKKanayama2F,24-14Namiyose-cho,Atsuta-ku,Nagoya,Aichi456-0003,JAPANCレンズ(屈折率:1.442)図1ミニスクレラルレンズ装用時のレンズ,角膜および涙液の関係涙液層と角膜は屈折率が近いため,不正のある角膜が涙液で満たされることで,涙液層がレンズと接する面が仮想角膜表面と考えることが可能である.この効果によってミニスクレラルレンズの不正乱視が矯正される.強膜レンズをCKCに処方した場合は,異物感が少なく装用感がよいと報告されている12).不正乱視の矯正効果もあるため,KCやその他の角膜病変の不正乱視を合併する患者にとって有用な矯正方法であるとの報告がある12,13).さらに,膜レンズを処方することで角膜移植を行わなくても過ごせる患者がある程度存在するという報告もあり,強膜レンズの有用性は高いと考えられる14).強膜レンズは大きさによってミニスクレラルレンズ(minisclerallens:MSL)とフルスクレラルレンズ(fullsclerallens:FSL)に分類され,FSLのCPros-theticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceCEcosystem(PROSE)については小島らがCKC眼に有効であると報告している.しかし,日本のCMSLの既報では,不正乱視眼への安定した矯正効果があることが報告されている15)が,少数例の報告でまとまった報告は筆者らの知る限りない.今回筆者らはCKC患者に処方したCMSL装用者の矯正視力および処方経緯,処方成功率を後方視的に検討した.CI対象および方法対象はC2018年C3月.2020年C7月に名古屋アイクリニックのCKC外来を受診し,角膜専門医にCKCと診断され,MSLのCi-sight(GPSpecialist社)を処方し,3カ月以上経過観察が可能であった症例C23例C30眼(男性C22名,女性C1名,平均年齢C34.1C±11.2歳)である.平均角膜屈折力C55.80C±8.55D,平均角膜乱視C4.61C±2.72D.KCの重症度はCStage1がC5眼,Stage2がC11眼,Stage3がC2眼,Stage4がC12眼である(表1).i-sightのベースカーブ規格はC10段階(No.1.10)あり,円錐角膜の重症度に基づきメーカー推奨に応じてCStage1ならCNo.4もしくは5,Stage2はCNo.3もしくは4,Stage3はNo.2もしくはC3,Stage4はCNo.1もしくはC2を選択した.レンズ後面と角膜前面の距離がC400Cμm程度のレンズを最終決定とした.度数はトライアルレンズにてベースカーブ決定表1患者背景項目結果症例数23例30眼年齢C34.2±11.1歳性別男性C22名女性C1名平均角膜屈折力C55.57±8.50D平均角膜乱視C4.60±2.67D円錐角膜重症度Stage15眼Stage21C1眼Stage32眼Stage41C2眼後にオーバーレフを測定し,レフの値を参考に度数決定を行った.検討方法は,①眼鏡矯正視力とCMCL矯正視力を比較した.②CMSLを処方したC23例中,HCL装用者でありCHCL矯正視力が測定可能であったC10例C13眼において,HCL矯正視力とCMSL矯正視力を比較した.MSL視力は処方直後の視力を使用した.③CMSL処方に至った経緯を検討した.④使用後約C3カ月時点でのアンケート結果を検討.アンケート内容はCMSL装用時の乾燥感,痛み,異物感についてCVisualCanalogscaleを行い,0がなし,10が耐えられないほどひどいとしてC10段階評価をし,さらに満足度について大変満足,満足,どちらでもない,やや不満,不満のC5段階で評価した.⑤C3カ月以上問題なく装用できる状態を処方成功と定義し,処方成功率を求めた.なお,統計学的解析はCWilcoxon検定を用い有意水準を5%未満とした.i-sightは厚生労働省未承認のコンタクトレンズであるため,患者に起こりうる危険性を含め十分にインフォームド・コンセントを行った後に処方した.今回の研究は院内倫理委員会の承認後に調査を行った.臨床研究法を遵守し,世界医師会ヘルシンキ宣言(1964年C6月)に則り行われた.後ろ向き研究のため,同意書に代わってオプトアウト法が院内倫理委員会に承認された.CII結果患者背景は,アレルギー性結膜炎C6例,アトピー性皮膚炎5例,喘息C4例,春季カタルC3例であった.手術歴は角膜内リングがC1例であった.処方したCMSL(i-sight)の規格は平均度数.8.33±3.99D,レンズナンバーはCNo.1が5眼,No.2が5眼,No.3が9眼,No.4が8眼,No.5が1眼,No.6が2眼,サイズはすべてC16.4Cmmであった.また,11例(37%)が初回CMSL処方後に度数などの規格を変更した.眼鏡矯正視力(logMAR)0.67C±0.53(小数視力C0.4),MSL矯正視力C0.01C±0.15(1.0)であり,MSL矯正視力が有意に良好であった(p<0.0001)(図2a).HCL装用者であったC10例C13眼のCHCL矯正視力はC0.02C±0.16(1.0),MCL矯正視力はC0.02C±0.15(1.0)であり,有意差は認めなかった(p=0.9721)(図2b).HCL矯正視力と比較したCMCL矯正視力の視力変化は,1段階向上がC1眼,2段階向上がC4眼,変化なしがC3眼,1段階低下がC4眼,2段階低下がC1眼であった.MCL処方に至った経緯はC63%(19眼)がCHCL装用困難,27%(8眼)が別の快適なレンズを試したい,3%(1眼)がスポーツ時にはずれにくいコンタクトレンズを希望するため,その他がC7%(2眼)であった.HCL装用困難の理由としては,53%(10眼)が装用中の痛み,16%(3眼)がフィッティング不良,11%(2眼)が乾燥感,11%(2眼)がはずれやすい,5%(1眼)が異物感,5%(1眼)が視力不良という内訳であった.アンケートの結果は,19例が過去にCHCL,2例がソフトコンタクトレンズ(SCL),1例がCFSLを使用していた.アンケート内容のうちのCMSL装用時の乾燥感,痛み,異物感についてCVisualCanalogscaleの結果は,乾燥感の平均点数はC1.5点,痛みは平均C0.7点,異物感は平均C0.8点であった.MCLの満足度は,大変満足C4例,満足C16例,どちらでもないC2例,未回答C1例であった.処方成功率はC93%であり,角膜障害や角膜感染を引き起こした症例はなかった.CIII考按今回の結果では,眼鏡矯正視力よりCMSL矯正視力のほうが優れていた.レンズと角膜の間の涙液レンズによって不正乱視が矯正され,MSL矯正視力が良好になったと考えられる.HCLとCMSLの矯正視力には有意差はなかったが,logMAR視力評価でC1段階向上がC1眼,2段階向上がC4眼,変化なしがC3眼,1段階低下がC4眼,2段階低下がC1眼と個人差を認めた.この視機能の結果はCKCに対してCPROSEを処方した既報と同等と思われた12).MSLで矯正視力がCHCLより改善した症例は,HCLのフィッティング不良が改善された症例であった.HCLはレンズ面で角膜頂点を押さえることで角膜不正乱視が改善され,よって視力が向上するという特徴をもつが,MSLにはその特性がない.角膜を変形させる特性がない分,HCLよりも視機能は劣る場合があると考えられる12).MSL矯正視力がCHCL矯正視力よりも低下した症例の原因でもあると考えられる.今後多数例でどのようなケースでCHCL視力より低下するのかの検討が必要である.強膜レンズの問題点として,過去の報告では強度の角膜不正乱視による矯正視力不良,費用の問題が指摘されている5,12).今回の検討の対象となったCKC患者の重症度はCStage3がC2眼,Stage4がC12眼であり,危惧されていた重症例の角膜不正乱視に対しての処方にも成功した.a2.01.51.00.50.0-0.5b0.20.0-0.2logMARlogMARHCL矯正MSL矯正図2眼鏡矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力の比較および,ハードコンタクトレンズ矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力の比較ミニスクレラルレンズ矯正視力は眼鏡矯正視力より有意に良好であった(Ca).ハードコンタクトレンズ矯正視力とミニスクレラルレンズ矯正視力とでは有意差はなかった(b).***:p<0.0001ns:有意差なし.アンケート結果では,乾燥感の平均点数はC1.5点,痛みは平均C0.7点,異物感は平均C0.8点であり,乾燥感や異物感,痛みもほぼ認めなかった.処方成功率も高く,満足と回答した症例はC23例中C20例であった.HCL装用時に問題となるフィッティング不良やドライアイ,痛み,はずれやすいなどの問題もCMSLの場合はほぼ取り除かれるため,処方成功率も満足度も高いと考えられる.MSL装用中の大きな合併症はなく,安全に処方が可能であることも示唆された.乾燥感の平均点のみ他の項目よりも点数が高かったのは,涙液が角膜面を覆っているため,眼表面から感じるドライアイについては改善が見込めるが,MSLは眼瞼との接触面積も大きく,瞼結膜との摩擦でドライアイ症状を呈しているからと思われた.しかし,乾燥感のスコアはC1.5と低く,問題となることは少ないと考えられる.今回,HCLを使用していたときの装用感についてはアンケートを行っていないため比較できないが,今後CHCLからCMSLへ変更したときに症状がどのように変化するか調査が必要である.小島らの報告にあるように,強膜レンズの欠点としてレンズ装用時に起こる霧視があげられる12).分泌物が多い患者では,レンズと角膜の間の涙液層にデブリスが貯留し霧視を起こす.装用時間が長いほど起こりやすい.とくにアレルギー性疾患を有する患者はこの症状が起こりやすいといわれており12),その場合はC1日に数回ほどCMSLをはずして装用し直す必要がある.HCL処方も同様であるが,MSL処方においてもアレルギー性結膜炎のコントロールが重要となる.点眼薬などで治療を続けながらの装用が必要である.今回の研究の限界としては,研究の対象者はCMSLを処方した患者のみを検討した点である.実際にはCMSLを試すのみで処方に至らないケースも多く存在する.重症のCKCでは形状によってはCMSL矯正視力が期待よりも向上せず,処方に至らない場合もあるため,見きわめが重要である.今後は前向き研究で,試すのみで処方に至らなかった症例も含めて検討をすることで,どのような患者にCMCLが適するのか明確になると思われる.今回の検討でCMSLはCKC眼に対して良好な装用感と矯正視力を得ることが可能で,とくにCHCL装用困難なCKC眼に対して有用な屈折矯正方法であることが示唆された.謝辞:本論文執筆にあたり,英訳のご協力をいただいた鈴木奈央様に深謝いたします.文献1)JacobsCDS,CRosenthalP:BostonCscleralClensCprostheticCdeviceCforCtreatmentCofCsevereCdryCeyeCinCchronicCgraft-versus-hostdisease.CorneaC26:1195-1199,C20072)RosenthalP,CotterJM,BaumJ:TreatmentofpersistentcornealCepithelialCdefectCwithCextendedCwearCofCaC.uid-ventilatedCgas-permeableCscleralCcontactClens.CAmCJCOph-thalmolC130:33-41,C20003)SegaICO,CBarkanaCY,CHourovitzCDCetal:ScleralCcontactClensesCmayChelpCwhereCotherCmodalitiesCfail.CCorneaC22:C308-310,C2003C4)HeurCM,CBachCD,CTheophanousCCCetal:ProstheticCreplacementCofCtheCocularCsurfaceCecosystemCscleralClensCtherapyforpatientswithocularsymptomsofchronicSte-vens-JohnsonCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC158:49-54,C20145)SchornackCMM,CPateISV:ScleralClensesCinCtheCmanage-mentofkeratoconus.EyeContactLensC36:39-44,C20106)吉野健一:円錐角膜や強度不正乱視に対する強膜レンズ.あたらしい眼科33:50-60,C20107)WeynsM,KoppenC,TassignonMJ:Scleralcontactlens-esCasCanCalternativeCtoCtarsorrhaphyCforCtheClong-termCmanagementCofCcombinedCexposureCandCneurotrophicCkeratopathy.CorneaC32:359-361,C20138)PortelinhaCJ,CPassarinhoCMP,CCostaJM:Neuro-ophthal-mologicalapproachtofacialnervepalsy.SaudiJOphthal-molC29:39-47,C20159)ChahalCJS,CHeurCM,CChiuGB:ProstheticCreplacementCofCtheCocularCsurfaceCecosystemCscleralClensCtherapyCforCexposureCkeratopathy.CEyeCContactCLensC43:240-244,C201710)TakahideCK,CParkerCPM,CWuCMCetal:UseCofC.uid-ventilated,Cgas-permeableCscleralClensCforCmanagementCofCsevereCkeratoconjunctivitisCsiccaCsecondaryCtoCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CBiolCBloodCMarrowCTransplantC13:1016-1021,C200711)YeP,SunA,WeissmanBA:Roleofmini-scleralgas-perC-meableClensesCinCtheCtreatmentCofCcornealCdisorders.CEyeCContactLensC33:111-113,C200712)小島隆司,片岡嵩博,磯谷尚輝ほか:円錐角膜に対して強膜レンズCProstheticCReplacementCofCtheCOcularCSurfaceCEcosystem(PROSE)を処方した症例の検討.日コレ誌C59:128-132,C201713)OttenCHM,CvanCderCLindenCBJJJ,CVisserES:ClinicalCper-formanceCofCaCnewCbitangentialCmini-scleralClens.COptomCVisSciC95:515-522,C201814)KoppenCC,CKrepsCEO,CAnthonissenCLCetCalCScleralClensesCreducetheneedforcornealtransplantsinseverekerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C201815)松原正男,武田桜子:KCなどの患者におけるミニスクレラルレンズ処方の検討.日コレ誌53:267-273,C2011***

円錐角膜に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後 経過の比較

2021年5月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科38(5):584.587,2021c円錐角膜に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過の比較關口(色川)真理奈水野未稀内野裕一榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CComparisonofthePostoperativeCoursebetweenPenetratingKeratoplastyandDeepAnteriorLamellarKeratoplastyforKeratoconusMarina(Irokawa)Sekiguchi,MikiMizuno,YuichiUchino,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC目的:円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植の術後経過について比較検討する.対象:2008年3月.2017年C1月に行った円錐角膜患者に対する全層角膜移植と深層層状角膜移植のうち,術後C2年以上経過を追跡できたC20症例(全層角膜移植群C11名C11眼,深層層状角膜移植群C9名C10眼)を対象とした.縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合にのみ抜糸とした.結果:術後C3年までの眼鏡矯正視力(logMAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度について,両群間に差はなかった.結論:円錐角膜患者に対する全層角膜移植群および深層層状角膜移植群のC3年までの術後経過は両群に差はなかった.CPurpose:ToCcompareCtheCpostoperativeCcourseCbetweenpenetratingCkeratoplasty(PK)andCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)forCkeratoconus.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC20CkeratoconusCpatientswhounderwentPK(PKGroup,11eyesof11patients)orDALK(DALKGroup,10eyesof9patients)atKeioCUniversityCHospital,CTokyo,CJapanCfromCMarchC2008CtoCJanuaryC2017,CandCwhoCcouldCbeCfollowedCforCmoreCthanC2-yearsCpostoperative.CInCallCpatients,CpostoperativeCbestCspectacle-correctedCvisualacuity(BSCVA;Log-MAR),CsphericalCpower,astigmatism,CsphericalCequivalent(SE),CcornealCtopography,CandCcornealCendothelialCcelldensity(ECD)wereretrospectivelyexamined,andthencomparedbetweenthetwogroups.Results:BetweenthePKGroupandDALKGroup,nodi.erencesinBSCVA,sphericalpower,astigmatism,SE,cornealtopography,andcornealCECDCwereCobservedCoverCtheC3-year-postoperativeCperiod.CConclusions:TheCpostoperativeCcourseCofCPKCandDALKforkeratoconuswasfoundtobesimilarforupto3-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(5):584.587,C2021〕Keywords:円錐角膜,全層角膜移植,深層層状角膜移植.keratoconus,penetratingkeratoplasty,deepanteriorlamellarkeratoplasty.Cはじめに円錐角膜に対する移植術として,全層角膜移植(penetrat-ingkeratoplasty:PK)または深層層状角膜移植(deepante-riorClamellarkeratoplasty:DALK)が選択される.DALKはCPKのようなCopenskysurgeryはなく,内皮型拒絶反応のリスクがないことで1),術後の長期免疫抑制が不要となる.近年,円錐角膜に対する角膜移植は障害された組織のみを置き換える選択的層状角膜移植が主流となってきている2).日本国内における円錐角膜に対する術式の違いによる経過報告はいまだ少なく,今回筆者らはCPKとCDALKのC2年の術後経過を比較検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2008年C3月.2017年C1月に慶應義塾大学病院でPKあるいはCDALKを受けた円錐角膜患者のうち,少なくとも術後C2年の経過観察ができた症例とし,PK群はC11名〔別刷請求先〕關口真理奈:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MarinaSekiguchi,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35ShinanomachiShinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC584(104)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(104)C5840910-1810/21/\100/頁/JCOPY11眼(男性C10名,女性C1名,平均年齢C41.9C±17.2歳),DALK群は9名10眼(男性4名,女性5名,平均年齢43.5C±19.2歳)であった.平均年齢については,2群間に有意差はなかった.急性水腫の既往がある症例C2眼と内皮細胞密度が測定できない瘢痕性混濁がある症例C3眼,複数回の円錐角膜手術(有水晶体眼内レンズ挿入,角膜内リング挿入,角膜クロスリンキング)の既往がある症例C1眼はCPKを第一選択とし,DALKを予定していたが術中CPKへ変更した症例C4眼はCPK群とした.また,術後C2年以内に角膜感染をきたし,その後視力が改善しなかった症例,エキシマレーザーによる屈折矯正手術や翼状片に対する手術を施行した症例は対象から除外した.手術はC13眼(PK群C7眼,DALK群C6眼)では,ドナー角膜径C7.75Cmm,レシピエント角膜径C7.5Cmmとした.PK群のC1眼は高度円錐角膜であったためドナー角膜径C8.25Cmm,レシピエント角膜径C8.0Cmmとし,また眼軸長C25Cmm以上の症例C7眼(PK群C3眼,DALK群C4眼)ではドナー角膜径,レシピエント角膜径ともにC7.5Cmmとした.ドナー角膜径はPK群C7.70C±0.14Cmm,DALK群C7.65C±0.12Cmm(p=0.38),またレシピエント角膜径はCPK群C7.57C±0.22Cmm,DALK群7.5Cmm(p=0.35)であり,2群間に有意差はなかった.DALK群のCDescemet膜はすべて粘弾性物質を注入し.離した3).縫合法は両群ともにC10C.0ナイロン糸を用いたC24針連続縫合とし,縫合糸は緩み,断裂,感染があった場合のみ抜糸とした.術後,抗菌薬点眼はC1日C5回より開始し,上皮化が得られればC3カ月程度で減量しC6カ月程度で終了とした.ステロイド点眼はベタメタゾンC1日C5回より開始し,術後C3カ月程度より徐々に漸減,またはフルメトロンへ変更とした.また,活動性のアトピー性皮膚炎に合併した症例C2眼では強角膜炎の予防目的に術後ステロイド全身投与を行った.各群の術後半年,1年,2年,3年における術後経過をCt検定により比較検討した.評価項目は,眼鏡矯正視力(log-MAR換算視力),球面度数,乱視度数,等価球面度数,角膜形状,角膜内皮細胞密度とした.屈折度数はすべて自覚評価とした.角膜形状解析にはCTMS-2NまたはC5(トーメーコーポレーション)を用いCaveragekeratometry(AveK),CsurfaceCregularityindex(SRI),surfaceCasymmetryCindex(SAI)について評価した.合併症についても,その種類と頻度について比較検討した.なお本研究は慶應義塾大学病院倫理審査委員会の承認を得たうえで調査を開始した(承認番号:20190130).CII結果1.眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)術前のClogMAR換算視力はCPK群C1.46C±1.10,DALK群0.99±0.56(p=0.25)でC2群間に有意差はなかった.術後C2年のClogMAR換算視力はCPK群C0.009C±0.15,DALK群C0.13C±0.29(p=0.25),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.003C±0.080,DALK群C0.15C±0.32(p=0.19)であり両群間に有意差はなかった(表1).術後C2年においてハードコンタクトレンズを装用した症例はCPK群でC5眼,DALK群でC1眼であり,いずれもClogMAR換算視力はC.0.080±0であった.C2.球面度数,乱視度数,等価球面度数術前の球面度数はCPK群C.7.71±5.95D,DALK群C.11.93C±7.70D(p=0.61),術後C2年の球面度数はCPK群C0.25C±5.13D,DALK群C1.42C±4.31D(p=0.61),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C0.58C±5.22D,DALK群C0.36±4.56D(p=0.93)であり両群間に有意差はなかった.術前の乱視度数は測定が可能であった症例においてCPK群C.1.00±2.66D,DALK群C.2.04±2.11D(p=0.50),術後C2年の乱視度数はCPK群C.4.32±2.62D,DALK群C.3.94±1.61D(p=0.71),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはPK群C.4.92±3.49D,DALK群C.4.08±1.78D(p=0.56)であり両群間に有意差はなかった(表2).術前の等価球面度数は測定が可能であった症例においてPK群C.8.21±6.38D,DALK群C.12.95±7.28D(p=0.27),術後C2年の等価球面度数はCPK群C.1.91±4.79D,DALK群C.0.56±4.48(p=0.54),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C.1.88±4.68D,DALK群C.1.68±4.88D(p=0.94)であり両群間に有意差はなかった(表2).C3.角.膜.形.状角膜形状解析では,術前のCSRI,SAI,AveKにおいて両群間に有意差はなく,術後C2年のCAveKはCPK群C43.68C±5.14D,DALK群C44.05C±5.16D(p=0.88),SRIはPK群1.49C±0.56D,DALK群C1.56C±0.86D(p=0.84),SAIはCPK群C1.84±1.11D,DALK群C1.60C±1.03D(p=0.64)であり両群間に有意差はなかった.術後C3年の経過を追跡できた症例においてもC2群間に有意差はなかった(表3).C4.角膜内皮細胞密度術前の角膜内皮細胞密度はCPK群C2,750C±375Ccell/mm2,DALK群C2,527C±228Ccell/mm2(p=0.16),術後C2年の角膜内皮細胞密度はCPK群C1,678C±736Ccell/mm2,DALK群C2,100C±605Ccell/mm2(p=0.20),術後C3年の経過を追跡できた症例に関してはCPK群C1,487C±658Ccell/mm2,DALK群C1,868C±554Ccell/mm2(p=0.29)であり両群間に有意差はなかった(図1).C5.合併症術後C3年以内の合併症はCPK群にて高眼圧症C2眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,DALK群では高眼圧症C3眼(そのうち手術加療が必要となった症例はC1眼)を認めた.それ以降の合併症(105)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C585表1眼鏡矯正視力(logMAR換算視力)の比較表2等価球面度数,乱視度数の比較PK群DALK群p値PK群DALK群p値視力(logMAR)等価球面度数術前C1.46±1.10(11)C0.99±0.56(10)C0.25術前C.8.21±6.38D(6)C.12.95±7.28D(7)C0.27術後2年C0.009±0.15(11)C0.13±0.29(10)C0.25術後2年C.1.91±4.79D(11)C.0.56±4.45D(9)C0.54術後3年C0.003±0.08(10)C0.15±0.32(10)C0.19術後3年C.1.88±4.68D(9)C.1.68±4.88D(9)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角乱視度数膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).術前C.1.00±2.66D(6)C.2.04±2.11D(7)C0.50術後2年C.4.32±2.62D(11)C.3.94±1.61D(9)C0.71術後3年C.4.92±3.49D(9)C.4.08±1.78D(9)C0.56表3角膜形状解析の比較()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角PK群DALK群p値膜移植.2群間に有意差はなかった(t-test).CAveK術前C46.03±6.75(11)C46.14±4.36(9)C0.97術後2年C43.68±5.14(11)C44.05±5.16(9)C0.88C3,500術後3年C43.04±5.35(8)C44.55±6.41(8)C0.64Cn=8PK群SRIC3,000術前C2.73±0.76(11)C2.88±0.60(9)C0.65術後2年C1.49±0.56(11)C1.56±0.86(9)C0.84C術後3年C1.33±0.50(8)C1.70±0.83(8)C0.34CSAIC術前C4.15±1.84(C11)C3.91±1.01(C9)C0.73術後2年C1.84±1.11(C11)C1.60±1.03(C9)C0.64術後3年C1.58±0.79(C8)C1.62±0.84(C8)C0.94()内は眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.AveK:averagekeratometry,SRI:surfaceregular-角膜内皮細胞密度(cell/mm2)2,5002,0001,5001,000n=10ityindex,SAI:surfaceCasymmetryindex.2群間に有意差はなかった(t-test).表4合併症PK群DALK群高眼圧症C2C3真菌性角膜潰瘍C1C0縫合糸感染0(1)0(1)ヘルペス角膜炎C00(2)拒絶反応0(1)C0()内は術後C3年以降の眼数を表す.PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.としては,PK群にて縫合糸感染C1眼,拒絶反応C1眼,DALK群ではヘルペス角膜炎C2眼,縫合糸感染C1眼を認めた(表4).CIII考按今回,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後成績を比較した.海外の報告では,円錐角膜に対するCPKとCDALKの術後半年からC5年にかけての追跡で,術後視力の中央値はPK群のほうが良好であったが統計学的には有意な差がなかった4.6).国内の植松らの報告では,術後C12カ月では術後500術前術後半年1年2年3年図1角膜内皮細胞密度の経時的変化PK:全層角膜移植,DALK:深層層状角膜移植.経時的に角膜内皮細胞密度の減少が認められたが,2群間に有意差はなかった(t-test).視力はCPK群で有意に良好であったが,術後C24カ月程度では両群で有意差を認めなかった7).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたCPK群C11眼,DALK群C10眼で,術後視力に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C10眼,DALK群C10眼で比較しても,術後視力に有意差はなかった.両群の術後視力に有意差はないもののCPK群において視力が良好であったのは,DALK群においてCDescemet膜露出が不十分な症例が含まれていたことなどが要因として考えられる8).術後等価球面度数は,両群間で差がないという報告と4,7,9),DALK群のほうがより近視が強いという報告がある5,6).本検討では,術後半年,1年,2年における経過を比較できたPK群C11眼,DALK群C9眼で,術後等価球面度数に有意差はなかった.また,術後C3年まで経過を追えたCPK群C9眼,DALK群C9眼で比較しても,等価球面度数に有意差はなか(106)った.角膜形状解析に関しては,SRIのみCPK群で有意に高値であったとの報告がある7).本検討ではCAveK,SRI,SAIいずれの項目においても両群に有意差はなかった.術後拒絶反応に関しては,海外のCWatsonらの報告では,PKではC28%の症例において術後に拒絶反応を認め,DALKではC8%の症例で拒絶反応を認めたが,実質型拒絶反応または上皮型拒絶反応のみで内皮型拒絶反応は認められなかった5).国内では,PKにおいて,植松らの報告ではC6.3%,安達らの報告ではC4.8%の症例において術後に拒絶反応を認めたが,DALKでは軽度の拒絶反応のみであった7,9,10).本検討では,PK群のC11眼中C1眼(9.1%)に内皮型拒絶反応を認め,DALK群では認めなかった.これらの結果からCDALKは術後の内皮型拒絶反応のリスクを減らすと考えられた.PKはCDALKと比較して,術後角膜内皮細胞密度が有意に低く,最終角膜内皮細胞減少率が有意に高いとの報告ある7,9).しかし,本検討では術後の角膜内皮細胞密度は両群間に有意差はなかった.円錐角膜は若年者に多く,残存した角膜周辺の角膜内皮機能が保たれている可能性が示唆された.DALKによる術後経過はCPKと同等であり,内皮型拒絶反応のリスクなしに有効な治療効果が期待できる.今後症例数と経過観察期間を増やし,さらなる術後長期予後について検討していく必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CIshiokaCMCetal:RandomizedCclinicalCtrialCofCdeepClamellarCkeratoplastyCvsCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC134:159-165,C20022)島﨑潤:これで完璧角膜移植.p10-13,南山堂,20093)ShimmuraCS,CShimazakiCJ,COmotoCMCetal:DeepClamellarCkeratoplastyCinCkeratoconusCpatientsCusingCviscoadptiveCviscoelastics.CorneaC24:178-181,C20054)CohenAW,GoinsKM,SutphinJEetal:Penetratingker-atoplastyCversusCdeepCanteriorClamellarCkeratoplastyCforCtheCtreatmentCofCkeratoconus.CIntCOphthalmolC30:675-681,C20105)WatsonSL,RamsayA,DartJKetal:ComparisonofdeeplamellarCkeratoplastyCandCpenetratingCkeratoplastyCinCpatientsCwithCkeratoconus.COphthalmologyC111:1676-1682,C20046)JonesCMN,CArmitageCWJ,CAyli.eCWCetal:Penetratinganddeepanteriorlamellarkeratoplastyforkeratoconus:CaCcomparisonCofCgraftCoutcomesCinCtheCUnitedCKingdom.CInvestOphthalmolVisSciC50:5625-5629,C20097)植松恵,横倉俊二,大家義則ほか:円錐角膜に対する全層角膜移植と深層表層角膜移植の術後経過の比較.臨眼C65:1413-1417,C20118)NavidA,ScottH,JamesCMetal:QualityofvisionandgraftCthicknessCinCdeepCanteriorClamellarCandCpenetratingCcornealallografts.AmJOphthalmolC143:228-235,C20079)安達さやか,市橋慶之,川北哲也ほか:深層層状角膜移植術と全層角膜移植術の長期成績比較.臨眼67:85-89,C201310)谷本誠治,長谷部治之,増本真紀子ほか:円錐角膜に対する深層角膜移植術の成績.臨眼54:789-793,C2000***(107)あたらしい眼科Vol.38,No.5,2021C587

円錐角膜眼におけるIOLMaster700の2種類の角膜屈折力を用いた予測屈折誤差の比較

2021年4月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(4):459.463,2021c円錐角膜眼におけるIOLMaster700の2種類の角膜屈折力を用いた予測屈折誤差の比較浅井優奈*1小島隆司*2玉置明野*1橋爪良太*1酒井幸弘*3加賀達志*1市川一夫*3*1独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科*2慶応義塾大学医学部眼科学教室*3医療法人いさな会中京眼科ComparisonofPostoperativeRefractivePredictionErrorbetweenKeratometric(K)ValueandTotalKeratometry(TK)ValueofKeratoconusYunaAsai1),TakashiKojima2),AkenoTamaoki1),RyotaHashizume1),YukihiroSakai3),TatushiKaga1)CKazuoIchikawa3)Cand1)JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,2)CKeioUniversitySchoolofMedicine,3)ChukyoEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,目的:円錐角膜眼のCKeratometric(K)値とCTotalKratometry(TK)値の予測屈折誤差の比較.対象および方法:対象は,白内障術前検査にCIOLMaster700を用いた円錐角膜C13例C17眼(平均年齢C64.5C±14.5歳)と,コントロール群として正常角膜眼C140例C140眼(平均年齢C73.7C±27.6歳)である.Amsler-Krumeich分類はCStage1がC10眼,StageC2がC6眼,Stage4がC1眼であった.術前のCK値とCTK値を比較した.さらに眼内レンズ度数計算式にCSRK/T式とCBar-rettUniversalII式を用い,それぞれにCK値を代入したCSRK/T群,Barrett群,TK値を代入して求めた数値をCSRK/T(TK)群,BarrettTK群とし,4式間で術後C3カ月の予測屈折誤差の絶対値(MAE)を比較した.結果:円錐角膜の平均角膜屈折力は,TK値(46.54C±2.41CD)が有意にCK値(46.66C±2.48CD)より小さかったが(p=0.0158),MAEはSRK/T群がC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群がC0.83C±0.64D,Barrett群がC0.78C±0.67D,BarrettTK群がC0.79C±0.65CDで有意差はなかった(p=0.9980).正常角膜の平均角膜屈折力はCK値がC44.52C±1.44CD,TK値がC44.51C±1.44CDで有意差はなかった(p=0.3440).MAEはCSRK/T群がC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群がC0.35C±0.33CD,Barrett群がC0.28C±0.23CD,BarrettTK群がC0.27C±0.23CDで有意差はなかった(p=0.2959).結論:円錐角膜では,正常眼と異なりCTK値はCK値より小さく本来の角膜屈折力をより反映していると思われたが,予測屈折誤差の改善は得られなかった.CPurpose:Tocomparethepostoperativerefractivepredictionerrorwhenthekeratometric(K)valueortotalkeratometry(TK)valueCisCappliedCforCintraocularClensCcalculationCinCeyesCwithCkeratoconus.CPatientsandMeth-ods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC17CkeratoconusCeyesCofC13patients(meanage:64.5C±14.5years)whoCunderwentIOLMaster700examinationbeforecataractsurgeryand140normal-corneaeyesof140patients(meanage:73.7C±27.6years)asCaCcontrol.COfCtheC17CkeratoconusCeyes,CAmsler-KrumeichCclassi.cationCrevealedCthatCthereCwereC10CStageC1Ceyes,C6CStageC2Ceyes,CandC1CStageC4Ceye.CPreoperativeCKCandCTKCvaluesCwereCcomparedCbetweenCtheCkeratoconusCandCcontrolCeyes.CMoreover,CaCcomparisonCofCmeanCabsoluteerror(MAE)ofCrefractionCwasconductedbetweentheSRK/Tgroup(SRK/TformulausingKvalue)C,theBarrettgroup(BarrettUniversalIIformulaCusingCKvalue)C,CtheSRK/T(TK)group(SRK/TCformulaCusingTK)C,CandCtheCBarrettCTKgroup(BarrettCUniversalCIICformulaCusingCTKvalue)atC3-monthsCpostoperative.CResults:InCtheCkeratoconusCgroupCeyes,CtheCmeanCTKvalue(46.54C±2.41D)wasCsigni.cantlyClowerCthanCtheCKvalue(46.66C±2.48D)(p=0.0158)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMAECbetweenCtheCfourgroups[SRK/T:0.79C±0.63D;SRK/T(TK):0.83C±0.64D;Barrett:0.78C±0.67D;Barrett(TK):0.79C±0.65D](p=0.9980)C.CInCtheCnormalCcorneaCcontrolCeyes,CtheCmeanCKCvalueandTKvaluewas44.52±1.44DCandC44.51±1.44D,respectively,andtherewasnosigni.cantdi.erence(p=0.3440)C.Therewasalsonosigni.cantdi.erenceinMAEofrefractivepredictionbetweenthefourgroups[SRK/T〔別刷請求先〕浅井優奈:〒457-8510愛知県名古屋市南区三条C1-1-10独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院眼科Reprintrequests:YunaAsai,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospitalDepartmentofOphthalmology,1-1-10Sanjo,Minami-ku,Nagoyacity,Aichi457-8510,JAPANCgroup:0.33C±0.28D;SRK/T(TK)group:0.35C±0.33D;Barrettgroup:0.28C±0.23D;Barrett(TK)group:0.27C±0.23D](p=0.2959)C.CConclusions:Inthekeratoconuseyes,theTKvaluewassmallerthantheKvalue,sotheTKCvalueCmayCbeCcloserCtoCtheCtrueCcornealCrefractiveCpowerCthanCtheCKCvalue.CHowever,CthereCwasCnoCimprove-mentinMAEofrefractiveprediction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(4):459.463,C2021〕Keywords:TK,角膜全屈折力,円錐角膜,予測屈折誤差.totalkeratometry,keratoconus,refractivepredictionerror.Cはじめにこれまで,IOLMaster700(CarlCZeissMeditec社)は角膜前面の曲率半径をCtelecentric方式によって測定し,換算屈折率C1.3375による推計値である角膜全屈折力を眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算に用いてきた.バージョンアップによって角膜前面曲率半径は従来どおりCf2.5CmmのC6点の角膜反射をCtelecentric方式にて楕円近似して測定し,f2.0mmとCf3.0Cmmを加えたC18点の前面反射とCsweptsourceCopticalCcoherencetomography(SS-OCT)による角膜厚から後面曲率半径を計算し,補正された角膜全屈折力であるCTotalKeratometry(TK)が測定可能となった.近年,Scheimp.ug法を用いた前眼部画像解析装置や前眼部光干渉断層計により,角膜後面を実測して角膜全屈折力を算出したCtotalCcornealCrefractivepower(TCRP.Pentacam,Oculus社)やCReal(CASIA,トーメーコーポレーション)が測定可能となり,ShajariらはCPentacamのCTCRPとCIOLMaster700のCTKを比較し,TKは角膜後面を実測したこれらの角膜全屈折力よりCKeratometoricとの差が小さく補正された値である可能性があることを指摘している1).角膜後面形状の重要性については,複数の報告2,3)があり,Tamaokiらは角膜前面形状から後面異常を予測できない後部円錐角膜症例にて,IOL度数計算における角膜後面の形状評価の重要性を報告している2).また,KochらはCDualScheimp.ugCAnalyzer(GALILEI,CZiemerCOphthalmicCSys-tems社)を用いて,角膜後面の乱視を無視すると角膜全体の推定が不正確になる可能性を報告している3).円錐角膜は角膜前面に対して角膜後面の突出が強く,角膜中心より下方にCsteepな領域がある場合が多い.不正乱視によって角膜屈折力に測定誤差が生じ,IOL度数計算に影響する.また,SRK/T式などの理論式ではピタゴラスの定理を用いて前房深度を算出しているためCsteepな角膜では前房深度が深く見積もられる評価誤差を生じ,IOL度数計算に影響を及ぼす.LaHoodら4)は,正常角膜眼を対象としてトーリックCIOLの計算に推奨されている角膜後面屈折力を推計したCGogginノモグラムとCIOLMaster700のCTKによる残余角膜乱視を比較し,乱視軸別の評価では差はあるものの,全体では差がなかったと報告している.しかし,角膜形状異常眼に対するTKの有用性については不明である.本研究では,IOL度数計算において正常眼と比較し予測屈折誤差が大きいことが報告5,6)されている円錐角膜眼について,術前のCK値とCTK値の白内障術後予測屈折誤差を比較し,TK値の有用性を評価することを目的とした.CI対象および方法本研究はCJCHO中京病院倫理委員会の承認をうけ(承認番号C2019030),ヘルシンキ宣言に則り後方視的に検討を行った.対象は,2018年C2月.2019年C8月に水晶体再建術を施行した円錐角膜眼C13例C17眼(男性C5名,女性C8名,平均年齢C64.5±14.5歳)である.円錐角膜眼のCAmsler-Krumeich分類は,Stage1がC10眼,Stage2がC6眼,Stage4がC1眼であった.IOLはCAN6KA(興和)10眼,SN6AT3-6(アルコン)5眼,SN60WF(アルコン)1眼,NS60YG(ニデック)1眼であった.IOL度数計算式はCSRK/T式,BarrettCUniver-salII式にIOLCMaster700で測定したK値を代入したSRK/T群,Barrett群,同じくCTK値を代入したCSRK/T(TK)群,BarrettTK群のC4式間で比較した.また,正常角膜眼C140例C140眼(男性C65名,女性C75名,平均年齢C73.7±27.6歳)をコントロール群とした.正常角膜眼は,角膜疾患および屈折矯正手術を含む眼手術歴がない症例とし,術中術後に合併症がなく術後C3カ月時に矯正視力がC0.7以上であった症例を対象とした.IOLは,AN6KAとした.各CIOLの最適化CA定数はCAN6KAがC119.1,SN6ATxは119.3,SN60WFはC119.1,NS60YGはC119.45で,Barrett式の定数CLFはCA定数から算出された値を使用した.CIOLMaster700で測定した円錐角膜と正常眼の角膜屈折力CK値とCTK値を比較した.また,4群間の予測屈折値と術後3カ月時の自覚屈折値の等価球面度数の差(自覚C.予測)を予測屈折誤差として比較した.統計解析は,正規性の検定にCShapiro-Wilk検定,角膜屈折力の比較には対応のあるCt検定,予測屈折誤差の比較にはKruskal-Wallis検定またはCOne-wayANOVA検定を使用し,post-hoctestにはCDunn’smultiplecomparisonstestを用いた.統計解析ソフトは,GraphPadPrism(version6.0)を用いた.CII結果1.円錐角膜眼TKが測定不能であったC3眼(Stage2がC2眼,Stage4が1眼)を除いたC14眼の円錐角膜眼の平均角膜屈折力は,K値がC46.66C±2.48D,TK値はC46.54C±2.41Dで,有意にCTK値が小さかった(p=0.0158)(図1).また,黄斑上膜を合併し術後矯正視力が(0.03)であったC1眼を除いた円錐角膜C13眼のC4式による予測屈折誤差の絶対値平均(meanCabsoluteerror:MAE)は,SRK/T群でC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群C0.83C±0.64D,Barrett群はC0.78C±0.67D,BarrettTK群はC0.79C±0.65Dで,4式間に有意差は認められなかった(p=0.9980)(図2a).また,術後予測屈折誤差の算術平均0.0427)とCSRK/T(TK)群(p=0.0317)より有意に遠視化した(図4b).CIII考按本研究の結果,コントロール群の正常角膜眼のCMAEはSRK/T群でC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群はC0.35C±0.33D,Barrett群はC0.28C±0.23D,BarrettTK群はC0.27C±0.23D,であり円錐角膜眼のCMAEはCSRK/T群でC0.79C±0.63D,SRK/T(TK)群C0.83C±0.64D,Barrett群はC0.78C±0.67D,CBarrettTK群はC0.79C±0.65Dであった.すべての計算式において,MAEは円錐角膜眼のほうが大きい結果となった.また,円錐角膜眼の予測屈折誤差の絶対値の中央値(medianabsoluteerror:Med.AE)はCSRK/T群でC0.62D,Barrett群でC1.03Dであり,既報よりもわずかに小さい値であるが,(meanerror:ME)は,SRK/T群はC.0.23±1.01D,SRK/予測屈折誤差:絶対値平均(D)3210NSn=13SRK/TSRK/TBarrettBarrettT(TK)群はC.0.29D±1.03Dで近視化し,Barrett群はC0.55D±0.88D,BarrettTK群は0.45C±0.94Dで遠視化の傾向を認めた(p=0.0567)(図2b).2.正常角膜眼正常角膜眼の平均角膜屈折力は,K値がC44.52C±1.44D,TK値はC44.51C±1.44Dで有意差は認められなかった(p=0.3440)(図3).MAEは,SRK/T群ではC0.33C±0.28D,SRK/T(TK)群はC0.35C±0.33D,Barrett群はC0.28C±0.23D,BarrettTK群はC0.27C±0.23Dで4群間に有意差は認められなかった(p=0.2959)(図4a).MEは,SRK/T群はC.0.09±0.42D,SRK/T(TK)群はC.0.07±0.48D,Barrett群はC0.04C±0.36D,CBarrettTK群はC0.01C±0.35Dで4群間に有意差を認めた(p=0.0081).多重比較の結果,Barrett群は,SRK/T群(p=(TK)TK図2a円錐角膜眼における4群間の予測屈折誤差(絶対値平均)4群間に有意な差は認められなかった(p=0.9980:Kruskal-Wallis検定).ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.CNSn=1352*n=14予測屈折誤差:算術平均(D)3-2SRK/TBarrettBarrett角膜屈折力(D)484644210-1K値TK値図1円錐角膜眼における2種類の平(TK)TK均角膜屈折力の比較K値:CKeratometric,CTK値:CTotal図2b円錐角膜眼における4群間の予測屈折Keratometry.CK値はCTK値よりも有誤差(算術平均)意に大きかった(*Cp=0.0158:Ct検定).4群間に有意な差は認められなかった(COne-ボックスプロットの上端は第三四分wayCANOVA:Cp=0.0567).ボックスプロッ位,下端第一四分位,中央ラインは第トの上端は第三四分位,下端第一四分位,中二四分位を示す.C央ラインは第二四分位を示す.CNSn=140NSn=1402.050481.5絶対値算術予測屈折誤差(D)角膜屈折力(D)4644421.00.50.040K値TK値SRK/TSRK/TBarrettBarrett図3正常眼における2種類の平均角膜屈折力の比較K値:Keratometric,TK値:TotalKeratometry.K値とCTK値に有意な差は認められなかった(t検定:p=0.3440).各シンボルはC5.95%タイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.(TK)TK図4a正常眼における予測屈折誤差(絶対値平均)4群間に有意な差は認められなかった(Kruskal-Wallis検定:p=0.2959).各シンボルはC5.95パーセンタイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.算術平均予測屈折誤差(D)3210-1-2*n=140SRK/TSRK/TBarrettBarrettBarrett式において遠視化する傾向は一致していた7).角膜屈折力について,Srivannaboonらは正常眼においてIOLMaster700で測定したCKとCTKに有意差はなく,どの計算式を用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している8).本研究においても正常眼のCK値とCTK値は差がなく,TK値を用いても予測屈折誤差の改善は得られず,この結果は既報と一致していた.また,Hasegawaらは,正常角膜眼においては,CASIAによる角膜全屈折力であるRealの値を用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告し9),ShirayamaらもCIOLMaster700で測定したKeratometricとCGALILEI(ZiemerOphthalmicSystems社)で測定したCtotalCcornealpowerを比較し,totalCcornealpowerを用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している10).同様に,Saviniらは,GALILEIで測定したCsimulatedKを用いてもCtotalCcornealpowerを用いても術後屈折誤差の改善は得られなかったと報告している11,12).従来のCIOL度数計算式は換算屈折率による全角膜屈折力で構築されており,角膜後面を実測した角膜屈折力を用いる場合,正常角膜においても両者の屈折力には差があり,本来定数の最適化が必要となる.円錐角膜眼の角膜屈折力について,K値はCTK値よりも有意に大きかったものの,K値とCTK値の差はC0.13C±0.18Dと小さかった.本研究ではCStage1の症例が半数以上であることが要因として考えられる.また,TK測定不能眼がC3眼,測定可能であったが信号品質が低い眼がC4眼あった.Srivannaboonらは正常角膜眼について,K値とCTK値はともに高い再現性を示し,有意な差はなかったと報告している8).円錐角膜眼に対する再現性について,SzalaiらはCASIAとCPentacamを用いて円錐角膜眼は正常眼よりも低(TK)TK図4b正常眼における予測屈折誤差(算術平均)KruskalWallis検定:p=0.0081.SRK/T群,SRK/T(TK)群の算術平均は,Barrett群よりも有意に小さかった(*Dunn’sCmultipleCcomparisonstest:SRK/TCvsCBarrettCp=0.0427,SRK/T(TK)CvsBarrettp=0.0317).各シンボルはC5.95パーセンタイルを示す.ボックスプロットの上端は第三四分位,下端第一四分位,中央ラインは第二四分位を示す.かったと報告13)しているが,TK値についての再現性は不明であり,症例数を増やして検討する必要があるとしている.予測屈折誤差について,本研究ではC4式間の絶対値平均に有意差は認められなかった.予測屈折誤差の算術平均は,正常眼,円錐角膜眼ともにCSRK/T群,SRK/T(TK)群は近視化し,Barrett群およびCBarrettTK群は遠視化した.Kamiyaらは,円錐角膜眼ではCSRK/T式はCHaigis式,Hof-ferQ式より予測屈折誤差が少ないと報告している14).Saviniらは円錐角膜眼において,SRK/T式はCHaigis式,CHo.erQ式,BarrettCUniversalII式より予測屈折誤差が少なく,Stage3以上の円錐角膜眼は,どの式を用いても予測屈折誤差が大きいと報告している7).また両者ともすべての式について遠視化したと報告している.円錐角膜は,角膜前面に対して角膜後面の突出が強いこと,steepな領域が角膜中心より下方にある場合が多いことにより角膜全屈折力は過大評価され遠視化を引き起こす可能性がある.また,SRK/Tはピタゴラスの定理を用いて角膜曲率半径より前房深度を算出しており,曲率半径が小さい場合,前房深度は深く見積もられ,近視化を引き起こす可能性がある.本研究でCSRK/T群が近視化の傾向が認められたのは術後前房深度予測の差が影響していると考えられるが,Barrett式は開示されていないため詳細は不明である.また本研究では,円錐角膜群はK値よりCTK値が有意に小さく本来の角膜屈折力を反映していると思われたが,予測屈折誤差は正常角膜群と比較し有意に大きく,TK値を用いても改善しなかった.理由の一つとして円錐角膜眼でのCK値とCTK値の差は統計的な有意差はあるものの平均C0.13Dであり,計算式が内包する円錐角膜眼における誤差の要因に対し,貢献度が低いことが考えられる.また,本研究は全体の半数以上が円錐角膜眼のAmsler-Krumeich分類CStage1の症例であり,K値とCTK値の差(0.13DC±0.18)が小さかったということも考えられる.本研究の限界点として,軽度円錐角膜が大半を占めていること,症例数が少ないことがあげられる.Saviniらは,軽度円錐角膜における水晶体再建術は安全かつ効果的であり精度も良好であると報告しており7,12),Kamiyaらは,Scheimp-.ug法により後面を実測したCPentacamのCTCRPを用いた円錐角膜症例の術後屈折誤差はCK値を用いた場合に比較し近視化し,C±0.5D以内の誤差の割合はCK値を用いた場合よりも向上したと報告している14).CIOLMaster700のCTKは,正常角膜においてCK値との差が少なく,同じ定数を用いたCIOL度数計算式を使用可能であることが特徴と考えられるが,本研究では円錐角膜眼においてCTKを用いたことによる術後の屈折誤差の改善は得られなかった.進行した円錐角膜など形状異常眼の予測屈折誤差の低減は依然課題として残されており,多数例での検討が必要である.文献1)ShajariCM,CSonntagCR,CRamsauerM:EvaluationCofCtotalCcornealpowermeasurementswithanewopticalbiometer.CJCataractRefractSurgC46:675-681,C20202)TamaokiCA,CKojimaCT,CHasegawaCACetal:IntraocularClensCpowerCcalculationCinCcasesCwithCposteriorCkeratoco-nus.JCataractRefractSurgC41:2190-2195,C20153)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofpos-teriorCcornealCastigmatismCtoCtotalCcornealCastigmatism.CJCataractRefractSurgC38:2080-2087,C20124)LaHoodCBR,CGogginCM,CBeheregarayCSCetal:ComparingCtotalCkeratometryCmeasurementConCtheCIOLMasterRCwithCGogginnomogramadjustedanteriorkeratometry.JRefractSurgC34:521-526,C20185)KamiyaCK,CKonoCY,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCsimulatedkeratometryandtotalrefractivepowerforker-atoconusaccordingtothestageofAmsler-KrumeichClas-si.cation.CSciRepC8:12436,C20186)GhiasianCL,CAbolfathzadehCN,CMana.CNCetal:IntraocularClenspowercalculationinkeratoconus;Areviewoflitera-ture.JCurrOphthalmolC31:127-134,C20197)SaviniG,AbbateR,Ho.erKJetal:IntraocularlenspowercalculationCinCeyesCwithCkeratoconus.CJCCataractCRefractCSurgC45:576-581,C20198)SrivannaboonCS,CChirapapaisanC:ComparisonCofCrefrac-tiveCoutcomesCusingCconventionalCkeratometryCorCtotalCkeratometryCforCIOLCpowerCcalculationCinCcataractCsur-gery.GraefesArchClinExpOphthalmolC257:2677-2682,C20199)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularClenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C201810)ShirayamaCM,CWangCL,CKochCDDCetal:ComparisonCofCaccuracyCofCintraocularClensCcalculationsCusingCautomatedCKeratometry,CaCPlacido-basedCcornealCtopographer,CandCaCcombinedCPlacido-basedCandCdualCScheimp.ugCcornealCtopographer.CorneaC29:1136-1138,C201011)SaviniG,NegishiK,Ho.erKJetal:Refractiveoutcomesofintraocularlenspowercalculationusingdi.erentcorne-alCpowerCmeasurementsCwithCaCnewCopticalCbiometer.CJCataractRefractSurgC44:701-708,C201812)SaviniCG,CHo.erCKJ,CLomorielloCDSCetal:SimulatedCkera-tometryversustotalcornealpowerbyraytracing:Acom-parisonCinCpredictionCaccuracyCofCintraocularClensCpower.CCorneaC36:1368-1372,C201713)SzalaiE,BertaA,HassanZetal:Reliabilityandrepeat-abilityCofCswept-sourceCFourier-domainCopticalCcoherenceCtomographyCandCScheimp.ugCimagingCinCkeratoconus.CJCataractRefractSurgC38:485-494,C201214)KamiyaK,IijimaK,ShojiNetal:Predictabilityofintra-ocularClensCpowerCcalculationCforCcataractCwithCkeratoco-nus:Amulticenterstudy.SciRepC8:1312,C2018***

白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例

2018年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(4):542.545,2018c白内障術後単焦点眼内レンズ挿入眼に多焦点ハードコンタクトレンズを処方した円錐角膜の1例大口泰治*1塩谷浩*1,2堀切紘子*1石龍鉄樹*1*1福島県立医科大学医学部眼科学講座*2しおや眼科CPrescriptionofMultifocalHardContactLensforKeratoconusPatientwithSingle-FocusIntraocularLensafterCataractSurgeryYasuharuOguchi1),HiroshiShioya1,2),HirokoHorikiri1)andTetsujuSekiryu1)1)DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,2)ShioyaEyeClinic白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalhardcontactlens:MF-HCL)を処方し,良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験した.症例はC73歳,女性で,28歳時に両眼の円錐角膜と診断された.両眼とも単焦点CHCLによる視力は右眼がC1.0C×HCL(n.c.),左眼がC1.0×HCL(n.c.)と良好であった.73歳時に右眼白内障が進行したため白内障手術(単焦点CIOL挿入術)を施行した.HCLのセンタリングが良好であったため右眼にCMF-HCLを処方した.MF-HCL装用下での右眼の遠方視力はC0.9,近方視力はC0.7となり,患者は眼鏡を併用することなく日常生活を送ることできた.HCLのフィッティングが良好な円錐角膜患者は,白内障術後にCMF-HCLを装用することで良好な遠方および近方視力を獲得できる可能性がある.CWeCrecentlyCencounteredCaCpatientCwithCkeratoconusCwhoCwasCprescribedCmultifocalChardCcontactClensCaftermonofocalCintraocularClensCinCcataractCsurgeryCandCachievedCexcellentCdistanceCandCnearCvisualCacuity(VA).CTheC73-year-oldJapanesefemalehadbeendiagnosedwithkeratoconusat28yearsofage.HercorrectedVAwas1.0intherightandlefteyeswithhardcontactlenses.At73yearsofage,shehadcataractsurgeryonherrighteye.Sincecontactlensrestingpositionalmostcenteredonthecornea,weprescribedmultifocalhardcontactlensaftersurgery.HercorrecteddistanceVAwas0.9andnearVAwas0.7;therefore,shedidn’tneedglassesindailylife.KeratoconusCpatientsCwithCmultifocalChardCcontactClensCrestingCinCaCcentralCpositionCmayChaveCtheCopportunityCtoCachieveexcellentdistanceandnearVAaftercataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(4):542.545,C2018〕Keywords:円錐角膜,眼内レンズ,多焦点ハードコンタクトレンズ,老視.keratoconus,intraocularlens,multi-focalhardcontactlens,presbyopia.Cはじめに円錐角膜はC10歳代で発症し角膜の菲薄化と突出を特徴とする疾患で,数千人に一人の割合で発症し視力低下を引き起こす.その屈折矯正および治療法は眼鏡による矯正,コンタクトレンズ(contactlens:CL)による矯正,全層角膜移植,角膜クロスリンキングなどがあるが,屈折矯正には主としてハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が用いられる.HCLが使用されるようになって約C60年を経た今日でも,加齢に伴って老視や白内障が生じる状況となった円錐角膜患者への対応は課題として残っている.眼鏡による屈折矯正効果が不良のために若年時からCHCLを使用している円錐角膜患者は,老視や白内障術後のように調節が失われた状態になってもCHCLの使用を続けることが必要であり,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,HCLの装用だけで遠方および近方を見る生活ができることが理想である.今回筆者らは白内障術時に単焦点眼内レンズ(intraocularlens:〔別刷請求先〕大口泰治:〒960-1295福島県福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuharuOguchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyFukushimaMedicalUniversitySchoolofMedicine,1Hikariga-oka,FukushimaCity,Fukushima960-1295,JAPAN542(124)IOL)挿入眼となった円錐角膜患者に対し,多焦点ハードコンタクトレンズ(multifocalChardCcontactClens:MF-HCL)を処方し,眼鏡を併用させることなく良好な遠方および近方視力を得ることができたC1例を経験したので報告する.CI症例〔症例〕73歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:28歳時に近医にて円錐角膜と診断され,HCLを処方され経過観察中であった.49歳時に当院眼科へ紹介され初診した.初診時所見:細隙灯検査では両眼の角膜下方に混濁を伴う軽度突出があり,円錐角膜と診断した.他覚的屈折値は右眼C.6.25D(cyl.5.50DCAx162°,左眼C.8.25D(cyl.2.75DAx133°で,自覚的屈折値は右眼C0.03(0.7C×.6.50D),左眼0.02(0.2C×.8.00D(cyl.1.00DCAx130°)と矯正視力は不良であった.HCLは旭化成アイミー・アイミーCOC2(Dk値(D:di.usioncoe.cient,k:solubilitycoe.cient,酸素透過係数):21.2C×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.60Cmm/+0.75D/9.0Cmm)(ベースカーブ/度数/サイズ),左眼は(7.60Cmm/+1.50D/9.0mm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなった.59歳時にはレンズの種類を変更してサンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCII(Dk値:C12.1×10.11Ccm2/sec)を右眼は(7.40Cmm/+0.75D/8.8Cmm),左眼は(7.45Cmm/+1.00D/8.8Cmm)の規格で処方し,視力は右眼C1.0C×HCL,左眼C1.0C×HCLとなり,装用を継続していた.60歳代から白内障のため右眼は視力が徐々に低下し,73歳時には右眼の視力はC0.3C×HCL(n.c.)となったため,白内障手術を施行することになった.経過:白内障手術を施行するにあたり,円錐角膜であるため,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,AS-OCTCSS-1000CCASIA(TOMEY製)を用い中央C9点の角膜曲率半径の平均値からCK値を計算(平均CK値:6.65mm)し,眼軸長:23.57CmmからCSRK/T式を用いて挿入する単焦点IOL度数(+19.00D,VivinexCiSertCXY1CR,HOYA,予想屈折度数.2.00D)を決定した1)(図1).水晶体超音波乳化吸引術およびCIOL挿入術を施行し,術後C2カ月の右眼の他覚的屈折値は.3.50D(cyl.5.00DAx78°で,視力は0.6(betterC×.3.50D(cyl.5.00DAx80°)であった.最良の近方の見え方が得られる最小の矯正度数は単焦点CIOL挿入眼であることから,球面度数はC.0.50D,すなわち(C.0.50D(cyl.5.00DCAx80°)程度になると考えられた.裸眼では針の穴に糸を通せたが,遠くはぼやける状態であった.角膜形状はAS-OCTで術前と変化なかったため,角膜不正乱視により網膜像は不鮮明であり,遠方の見え方に合わせた完全矯正の単焦点CHCLでは近方が見えなくなることが考えられたため,図1AS.OCTによる角膜形状解析下方で突出した角膜を認める.右眼にCMF-HCL(サンコンタクトレンズ製のサンコンマイルドCiアシストタイプ・Dk値:95.1CcmC2/sec)を処方した.処方規格の決定にあたっては,ベースカーブは術前に使用していたCHCLと同じC7.40Cmmとし,サイズはCAS-OCTでCK値がC50Dと中等度の円錐角膜であったが,HCLが角膜中央に位置し,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態を得られるように,術前に使用していたCHCLより大きいC9.0Cmmで処方した.球面度数は塩谷ら4.6)の白内障術後単焦点IOL挿入眼への遠近両用SCLの処方方法を参考にし,単焦点CHCLで遠方矯正に適当と考えられる度数よりC1.00Dプラス側にし,処方規格は(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)〔ベースカーブ/度数加入度数(ADD)/サイズ〕となった.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DCAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであった.手術を行っていない左眼の遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(.0.50D)であり,両眼開放下で遠方視力はC1.0C×HCL,近方視力はC0.7C×HCLとなり,遠方および近方の見え方に患者の満足が得られ,MF-HCLの処方は有用であると考えられた.CII考按一般的に円錐角膜へのCHCLの処方は,眼鏡では矯正できない強い不正乱視の患者の屈折を矯正し,不自由なく日常生活を送ることができようにすることが目的であり,円錐角膜の老視や円錐角膜の白内障術後の単焦点CIOL挿入眼にMF-HCLを応用した報告は過去にない.従来,円錐角膜の老視や単焦点CIOL挿入眼の調節補助はCHCL装用下でのモノビジョンや眼鏡により行われていた2)が,本報告は円錐角膜がCMF-HCLの適応となりうることを示すと同時に,白内障ab図2MF.HCLのフィッティングa:やや鼻側よりだがこの位置で安定している.Cb:フルオレセインで下方突出角膜にフィットしている.C術後に単焦点CIOL挿入眼となった円錐角膜患者も適応となりうることを示している.近年,MF-HCLは新製品が開発され急速に進歩しているものの,患者の満足を得るためにはCMF-HCLの各製品の光学的機能を効果的に活用するように処方時に工夫が必要3)なのが現状である.そのためCHCLのフィッティングを適正にすること自体がむずかしい円錐角膜へのMF-HCLの処方は,一般に適応にはならないと考えられる.また,単焦点CIOL挿入眼へのCMF-CLの処方は,理論的には加入度数は不足であり,多焦点ソフトコンタクトレンズでの報告はあるが4.6),MF-HCLではいまだ一般的ではない.本症例では手術時年齢がC73歳であり,白内障術前の両眼単焦点CHCL装用時にも近方視時に支障があるばかりか,白内障術後の両眼単焦点CHCL装用眼時にはよりいっそう術後明視域の問題が生じると思われることから,高齢の円錐角膜の特殊性を考慮し,眼鏡を併用する煩わしさを避けるためには,単焦点CIOL+MF-HCLが患者の生活スタイルを維持するために最良の方法であると判断し,手術治療を計画した.また,術後屈折度数をCHCL装脱時に手元が見える屈折として.2.00Dに設定した.術後の右眼の裸眼遠方視力はC0.6となり,HCLや眼鏡の視力補正用具を使用することなく針の穴を通せる近方視も得られたが,術後C2カ月に角膜乱視を矯正して遠方の見え方の質をよりよくするためCHCLを処方することにした.MF-HCL(サンコンマイルドCiアシストタイプ.Dk値:95.1CcmC2/sec)のテストレンズ(7.40Cmm/C.3.00CDCADD+0.50D/9.0Cmm)のフィッティングは,レンズがやや鼻側に偏位していたが上下方向では角膜中央に位置しており,視線の移動でレンズの中心光学部と周辺光学部を通して見ることが可能な状態と判断した(図2).追加矯正を行い0.6(0.9C×HCL(+3.00D)となったため,加入度数は+0.50Dのままとし,球面度数を自覚屈折値よりC1.00Dプラス側の値に設定し,(7.40Cmm/+1.00DCADD+0.50D/9.0Cmm)の規格で処方した.遠方視力はC0.9C×HCL(1.0C×HCL(+0.25DCcyl.0.75DAx70°),近方視力はC0.7C×HCLであったことと患者の自覚的満足の状況から判断しCMF-HCLの装用が近方視に有利に働いたものと考えられた.有水晶体眼に対するCMF-SCL処方では,遠方の見え方の質を落とさないために非優位眼の球面度数をプラス側に設定し加入度数を最小限にする3),単焦点CIOL挿入眼では遠方視力を低下させずに高い加入度数を選択できるという報告がある4.6).本症例は,手術を行った右眼は非優位眼であったため,球面度数を遠方に適正と考えられる度数よりもプラス側に設定し,低い加入度数を選択したことで,近用光学部により生じる遠方視の質への影響を最小限にしながら,優位眼の左眼の遠方の見え方を生かしたモディファイド・モノビジョン法での処方を試みたが,結果的には遠方に適正矯正となった状況で遠方および近方ともに良好な視力を得ることができたものと思われた.有水晶体眼の円錐角膜であれば単焦点HCLのみ使用のモノビジョン法での対応は可能であるが,ほとんど調節力がない単焦点CIOL挿入眼の円錐角膜であれば,単焦点CHCLによるモノビジョン法での対応はむずかしく,MF-HCLの処方が有用であると考えられた.円錐角膜を有する白内障症例は不正乱視と調節への対応が課題である.術後眼鏡を使用するならば,①トーリックIOL,あるいは②角膜内リング+単焦点CIOLでの対応が可能と考えられる.また,③角膜内リング+多焦点IOL,あるいは④多焦点トーリックCIOLによる治療を行うことで術後眼鏡を使用することなく不正乱視と調節への同時対応が可能と考えられる.現在,トーリックCIOLにハイパワーの円柱度数に対応した製品が登場したことで円錐角膜でも術後良好な視力を得られるようになってきている7,8).また,角膜内リングと多焦点CIOLの組み合わせにより良好な裸眼視力を得ることができた症例が報告がされている9,10).さらに遠近両用トーリックCIOLで遠方・中間・近方視力ともに裸眼で良好な視力を得られたという報告もされている11).①による対応では調節への対応ができず術後眼鏡が必要となる.②③④による対応は筆者らの施設では角膜内リングや多焦点トーリックCIOLの手術経験がないため選択できず,AS-OCTで角膜厚がC400Cμmを下回る部分があり角膜内リングの適応ではなかった12).本症例では視力低下を引き起こす白内障を生じる前のC28.60歳時まではCHCLにより不正乱視を矯正でき良好な矯正視力を得ていたため,不正乱視に関してはCHCLで対応する予定とし,筆者らは有水晶体眼の円錐角膜でCMF-HCLの処方を経験しており,IOL挿入眼でも可能であると考えて単焦点CIOL+MF-HCLでの対応を行った.IOLは一度眼内に挿入すると変更が困難である.それに比較してCHCLは,何度でも処方変更の可能なリスクの少ない方法であり,規格を変更することで,より良好な視機能を得ることが可能であり,円錐角膜の角膜不正乱視の矯正にはCHCL装用は有用である.本報告は,今後増加してくる円錐角膜患者の老視や白内障術後CIOL挿入眼などの調節力が低下あるいは失われた眼に対してのCMF-HCLの処方は,角膜不正乱視の矯正とともに調節補助が可能であり,眼鏡を併用する煩わしさがなく,遠方および近方の両方に良好な視力を提供することができる症例が存在することを示している.今まで報告されている円錐角膜白内障症例への対応で①.④による治療は報告されているが7.11),単焦点CIOL+MF-HCLの報告はない.角膜内リング12)や多焦点トーリックCIOLの手術はまだ限られた施設での対応であり一般的でなく,どこの施設でも容易に扱うことのできるCMF-HCLを用いた本報告は,今後の新たな対応法として多くの施設で応用でき有用と考えられた.文献1)林研:【眼内レンズ度数決定の極意】特殊角膜における眼内レンズ度数決定円錐角膜,角膜移植後.あたらしい眼科C30:593-599,C20132)中山千里,百武洋子,東原尚代ほか:円錐角膜の老視対策としてのモノビジョン.日コレ誌C56:285-288,C20143)塩谷浩:【眼鏡とコンタクトレンズの実際的処方】実際的コンタクトレンズ処方コンタクトレンズの処方多焦点コンタクトレンズの処方.あたらしい眼科C32(臨増):C158-161,C20154)塩谷浩:私の処方私の治療(第C21回)眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.C57:C191-194,C20155)塩谷浩,梶田雅義:眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.57:164-167,C20156)塩谷浩:【完全攻略・多焦点コンタクトレンズ】ソフト系多焦点コンタクトレンズの応用(白内障術後).あたらしい眼科33:1145-1149,C20167)HashemiCH,CHeidarianCS,CSeyedianCMACetCal:EvaluationCoftheresultsofusingtoricIOLinthecataractsurgeryofkeratoconusCPatients.CEyeCContactCLensC41:354-358,C20158)ZvornicaninCJ,CCabricCE,CJusufovicCVCetCal:UseCofCtheCtoricCintraocularClensCforCkeratoconusCtreatment.CActaCInformMedC22:139-141,C20149)AlfonsoCJF,CLisaCC,CFernandez-VegaCCuetoCLCetCal:CSequentialintrastromalcornealringsegmentandmonofo-calintraocularlensimplantationforkeratoconusandcata-ract:Long-termCfollow-up.CJCCataractCRefractCSurgC43:C246-254,C201710)MontanoCM,CLopez-DorantesCKP,CRamirez-MirandaCACetal:MultifocaltoricintraocularlensimplantationforformefrusteCandCstableCkeratoconus.CJCRefractCSurgC30:282-285,C201411)FaridehD,AzadS,FeizollahNetal:ClinicaloutcomesofnewCtoricCtrifocalCdi.ractiveCintraocularClensCinCpatientswithcataractandstablekeratoconus:Sixmonthsfollow-up.Medicine(Baltimore)C96:e6340,C201712)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nusCwithCintracornealCrings.CJCCataractCRefractCSurgC26:C1117-1122,C2000***

Intrastromal Corneal Ring Segments(ICRS)術後合併症の2例

2015年11月30日 月曜日

図2症例2A:症例2の初診時スリット写真.細隙灯顕微鏡所見では,11時方向のICRSの断端の破損をみとめた.B:症例2のスリット写真.1時から2時のsegment部に上皮の欠損を認めた.周囲に軽度のin.ltrationを認める.C:症例2のスリット写真.フルオレセイン染色でsegment部に上皮の欠損を認める.表1ICRS術後の角膜感染症症例年術前病名眼数発症期間臨床所見原因菌Shanzlinetal10)1997近視15日(.)St.epidRuckhoferetal11)2001近視121日(.)(.)Bourcieretal12)2003近視13カ月(.)ClosetridiumSt.epidKwitkoetal13)2004円錐角膜1?Segment脱出ClosetridiumSt.epidHo.ing-Limaetal14)2004円錐角膜7(.)St.aureus他6種近視114日.22カ月(.)St.aureusShehadeh-Masha’ouretal15)2004LASIK後keratectasia13日(.)St.epidGalvisetal16)2007円錐角膜14カ月(.)St.aureusHashemietal17)2008円錐角膜140日Segmentの断端露出,潰瘍St.aureusIbanez-Alperteetal18)2010円錐角膜140日Segmentの脱出,潰瘍(.)Ferreretal19)2010?4???Coskunsevenetal20)2011円錐角膜1???本症例症例12014円錐角膜117カ月Segmentの断端露出,角膜炎(.)月9日再診時,上皮欠損は治癒しその後再発を認めていない.II考按ICRSは1988年1月に米国FDA(食品医薬品局)より許可され,現在Intacs(Additiontechnology,INC),Ferrara(FerraraOphthalmics,Ltd),Keraring(Mediphacos)が商品化されており,最近ではKCへの応用の報告が多い.ICRSの合併症として術中は1)前房への穿孔,2)上皮側への穿孔,などがあり,術後では1)segment周囲の混濁,2)感染症,3)角膜の菲薄化,4)segmentの脱出,5)乱視の発生,6)夜間の視力低下,7)複視,8)グレア,9)ヘイズ,などが報告されている19,21)が,これらの合併症のなかでも一番重篤なものは角膜感染症である.今回の症例1では外傷の既往はなく,受診の約2カ月前より異物感と疼痛を自覚していたことより,segmentの断端が徐々に脱出し,その部位に浮腫を生じその後,感染が発症したものと考えられた.原因菌は検出されなかったが,抗菌薬の治療により急速に治癒したことにより,細菌感染による角膜炎であったと思われた.術後感染症の既報告を表1にまとめた8,10.20).術後感染を起こした16例で手術から発症までの期間をみてみると,術後3日.22カ月とかなり長期間にわたり発症している.今回の症例1では術後17カ月と遅発性に発症した.術後2週以内に発症した症例は7例認められるが,これは(94)術中に感染した可能性が高いと考えられる.術後1カ月以上経過した遅発性の症例は13例と多く認められたが,その原因としては,1)角膜上皮内偽.胞(pseudocyst)の存在,2)角膜の創傷治癒の遅延,3)角膜厚の薄さ,4)segmentを挿入する部位の縫合,などが考えられている16).1)と2)の角膜上皮内偽.胞(pseudocyst)と創傷治癒の遅さであるが,radialkeratectomyを施行後15年経過した症例で創傷部に感染を起こした症例が報告されており22),切開部の創傷治癒の遅延23)に伴うepithelialpseudocystが原因24)と考えられている.Radialkeratotomy後のepithelialpseudocystは大きなcystでは細隙灯顕微鏡でも観察することはできるが,小さなものでは観察することがむずかしく,組織学的な観察で明確になる所見である.また,常に同じ場所で観察されるとは限らず,経過とともに他の部位に出現することもある.Koenigら25),Yamaguchiら26)は含水率74%のソフトコンタクトレンズ(Polymethylmethaerylate+HydrophyleicPoly-N-2-Vinylpyrolidone)をサルの角膜実質の層間に挿入し9カ月後に組織学的に観察しているが,挿入したソフトコンタクトレンズより前方の実質のkeratocyteの数は減少し,また上皮層は上皮細胞の丈が低く,また上皮層の厚みが薄くなっていることから,その部位への前房水からの栄養物質の到達が低下している可能性を報告している.ICRSのsegmentはメチルメタクリレートであり,seg-mentの上皮側はソフトコンタクトレンズよりもさらに栄養物質の供給が乏しいと考えられる.感染の既報告例の全16例中,上皮の欠損やsegmentの露出または脱出は5例に認められている.以上のことより長期的な栄養障害による上皮欠損やハードコンタクトレンズに装用に伴う摩擦による外的な障害,そのほか,pseudocystをきっかけに感染を生じたり,また実質層からsegmentが移動しgapeを生じ,萎縮した実質をsegmentが突き破ったりし,このようなさまざまなことをきっかけに感染症が発症したものと思われる.症例2では乱視矯正のためにハードコンタクトレンズを2年5カ月間装用していたが,定期的な経過観察中に上皮層の欠損を観察したのは初めてであった.角膜上皮欠損を起こす直前に角膜を観察していないためepithelialpseudocystが存在していたかは不明であるが,ハードコンタクトレンズによる上皮層の外的障害,segmentの前方の上皮層の菲薄化,また上皮内のpseudocystの関与が考えられた.3)の角膜の厚さが薄いことであるが,報告された16症例12例がKCである.薄くなった角膜にトンネルを作製するわけであり,segmentの上皮側は近視の症例より薄いことは明らかである.そのために,segmentの脱出の可能性は近視の症例よりもKCで高いものと考えられる.4)のsegment挿入部の縫合の存在であるが,segmentの断端がsegmentの挿入部の切開線に近いこと,また角膜のトンネル内をsegmentが容易に移動することが可能であり,外傷や眼をこすったりする外的な衝撃により,segmentが縫合部から脱出し,その部位から感染症を発症する可能性も考えられる.感染の原因菌であるが,今回の症例では原因菌を検出できなかったが,9報告中3報告で菌は検出されていない.菌の検出ができた報告例ではStaphylococcusaureusが早期から晩期までもっとも多く認められている.その他Staphylococ-cusepidermidisは術後早期の症例に検出されている.検出された菌では結膜.の常在菌が多いことより,これらの結果は治療の際の抗菌薬の選択に有益な情報と思われる.ICRSはわが国ではまだ一般的な術式ではないが,femto-secondlaser9)の開発に伴い,KCを中心に今後手術件数が増加すると思われる.本報告の2症例の結果より,術前に患者に角膜上皮欠損が生じることや,segmentの脱出や感染などが起こる可能性などの合併症を説明することは大切なことである.またICRSを受けた患者を診る際,術後長期にわたり合併症を起こすことを念頭に,定期的に慎重な観察が必要であると考える.III結論他院で,KCにICRS挿入術を受けた患者で,術後1年5カ月後にsegmentの脱出と感染性角膜炎を発症した症例と,近視矯正のためにICRSを受け,術後6年1カ月後にseg-ment直上の上皮に欠損を生じた2症例を経験した.術後に起こりうる合併症とそれに伴う自覚症状を患者に術前に教育することは大切なことであると考える.また,術後長期にわたり合併症が起こりうることより,定期的に慎重な観察が必要であると思われる.文献1)FlemingJF,ReynoldsAE,KilmerLetal:Theintrastro-malcornealring─twocasesinrabbits.JRefractSurg3:227-232,19872)NoseW,NevesRA,SchanzlinDJetal:Intrastromalcor-nealring─one-yearresultsof.rstimplantsinhumans:apreliminarynonfunctionaleyestudy.RefractCornealSurg9:452-458,19933)山口達夫:眼科診療Q&A第33号屈折矯正手術-ケラトリング.眼科33:1207ノ8-1207ノ9,20044)DurrieDS,VandeGardeTL:Intacsafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurg2:236-238,20005)ColinJ,CochenerB,SavaryG:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20006)SiganosCS,KymionisGD,AstyrakakisNetal:Manage-mentofcornealectasiaafterlaserinsitukeratomileusis(95)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151607withINTACS.JRefractSurg18:43-46,20027)RuckhoferJ,StoiberJ,TwaMDetal:Correctionofastigmatismwithshortarc-lengthintrastromalcornealringsegments:preliminaryresults.Ophthalmology110:516-524,20038)SchanzlinDJ,AbbottRL,AsbellPAetal:Two-yearout-comesofintrastromalcornealringsegmentsforthecor-rectionofmyopia.Ophthalmology108:1688-1694,20019)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:One-yearresultsofintrastromalcornealringsegmentimplantation(KeraRing)usingfemtosecondlaserinpatientswithkera-toconus.AmJOphthalmol145:775-779,200810)SchanzlinDJ,AsbellPA,BurrisTEetal:Theintrastro-malcornealringsegments.PhaseIIresultsforthecorrec-tionofmyopia.Ophthalmology104:1067-1078,199711)RuckhoferJ,StoiberJ,AlznerEetal:OneyearresultsofEuropeanMulticenterStudyofintrastromalcornealringsegments.Part1:refractiveoutcomes.JCataractRefractSurg27:277-286,200112)BourcierT,BorderieV,LarocheL:Latebacterialkerati-tisafterimplantationofintrastromalcornealringseg-ments.JCataractRefractSurg29:407-409,200313)KwitkoS,SeveroNS:Ferraraintracornealringsegmentsforkeratoconus.JCataractRefractSurg30:812-820,200414)Ho.ing-LimaAL,BrancoBC,RomanoACetal:Cornealinfectionsafterimplantationofintracornealringsegments.Cornea23:547-549,200415)Shehadeh-Masha’ourR,ModiN,BarbaraAetal:Kerati-tisafterimplantationofintrastromalcornealringseg-ments.JCataractRefractSurg30:1802-1804,200416)GalvisV,TelloA,DelgadoJetal:Latebacterialkeratitisafterintracornealringsegments(Ferrararing)insertionforkeratoconus.Cornea26:1282-1284,200717)HashemiH,Gha.ariR,MohammadiMetal:MicrobialkeratitisafterINTACSimplantationwithloosesuture.JRefractSurg24:551-552,200818)Ibanez-AlperteJ,Perez-GarciaD,CristobalJAetal:Keratitisafterimplantationofintrastromalcornealringswithspontaneousextrusionofthesegment.CaseRepOphthalmol13:42-46,201019)FerrerC,AlioJL,MontanesAUetal:Causesofintra-stromalcornealringsegmentexplantation:clinicopatho-logiccorrelationanalysis.JCataractRefractSurg36:970-977,201020)CoskunsevenE,KymionisGD,TsiklisNSetal:Complica-tionsofintrastromalcornealringsegmentimplantationusingafemtosecondlaserforchannelcreation:asurveyof850eyeswithkeratoconus.ActaOphthalmol89:54-57,201121)Al-AmryM,AlkatanHM:Histopathologic.ndingsintwocaseswithhistoryofintrastromalcornealringseg-mentsinsertion.MiddleEastAfrJOphthalmol18:317-319,201122)HeidemannDG,DunnSP,ChowCY:Early-versuslate-onsetinfectiouskeratitisafterradialandastigmatickera-totomy:clinicalspectruminareferralpractice.JCataractRefractSurg25:1615-1619,199923)JesterJV,VillasenorRA,SchanzlinDJetal:Variationsincornealwoundhealingafterradialkeratotomy:possi-bleinsightsintomechanismsofclinicalcomplicationsandrefractivee.ects.Cornea11:191-199,199224)JesterJV,VillasenorRA,MiyashiroJ:Epithelialinclusioncystsfollowingradialkeratotomy.ArchOphthalmol101:611-615,198325)KoenigSB,HamanoT,YamaguchiTetal:Refractivekeratoplastywithhydrogelimplantsinprimates.Ophthal-micSurg15:225-229,198426)YamaguchiT,KoenigSB,HamanoTetal:Electronmicroscopicstudyofintrastromalhydrogelimplantsinprimates.Ophthalmology91:1170-1175,1984***(96)

円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例

2015年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科32(6):889.893,2015c円錐角膜の白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した4症例力石洋平*1満川忠宏*1大澤亮子*2湯口琢磨*2大城三和子*3海谷忠良*1*1海谷眼科*2みどり台海谷眼科*3かけ川海谷眼科EfficacyofToricIntraocularLensImplantationforPatientswithKeratoconusYoheiChikaraishi1),TadahiroMitsukawa1),RyokoOsawa2),TakumaYuguchi2),MiwakoOshiro3)andTadayoshiKaiya1)1)KaiyaEyeClinic,2)MidoridaiKaiyaEyeClinic,3)KakegawaKaiyaEyeClinic円錐角膜患者4症例5眼の白内障手術にトーリック眼内レンズ挿入を行った.使用した眼内レンズはAcrysofRIQTORIC(Alcon社)でT4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.視力は全例改善し,他覚的円柱度数は4例4眼において改善した.一方,自覚的円柱度数は不変3眼,改善1眼,悪化1眼とばらつきがみられた.進行の止まった円錐角膜患者の白内障手術にはトーリック眼内レンズが有効である可能性が示唆された.Purpose:ToinvestigatetheefficacyofToricintraocularlens(IOL)implantationinpatientswithkeratoconus.SubjectsandMethods:ToricIOLswereimplantedin5eyesof4cataractpatientswithkeratoconuscorneas.TheimplantedIOLswereAcrySofRIQToricT4(1eye),T7(1eye),andT9(3eyes)IOLs(Alcon,FortWorth,TX),respectively.Results:Visualacuitywasimprovedinall5IOLimplantedeyes.Objectivecylindricalpowerdecreasedin4eyes,however,subjectivecylindricalpowerwasfoundtohaveworsenedin1eye,beunchangedin3eyes,andtohaveimprovedin1eye.Conclusions:ToricIOLimplantationisapossibleusefulsurgicalmodalityforthetreatmentofcataracteyesinpatientswithkeratoconus.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(6):889.893,2015〕Keywords:白内障手術,円錐角膜,トーリック眼内レンズ.cataractsurgery,keratoconus,toricIOL.はじめに円錐角膜は角膜中央部が進行性に菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.これによって強い近視と乱視をきたし著しい視機能の障害をきたす.その治療には眼鏡による矯正,コンタクトレンズ装用,全層角膜移植などがあるが,近年角膜クロスリンキングなどの報告もある1).円錐角膜の白内障患者に対しては眼内レンズ挿入術が行われている.トーリック眼内レンズは白内障手術の際に強い乱視の矯正を目的に開発され,近年その効果について報告されている2,3).トーリック眼内レンズの適応については1.4Dの角膜正乱視が適応であり,円錐角膜などの角膜不正乱視は慎重適応であり,わが国での使用報告はほとんどされていない.今回,円錐角膜の乱視矯正と視機能に関してのトーリック眼内レンズの使用について文献的考察を含めて,その有用性について検討したので報告する.I対象および方法対象は海谷眼科(以下,当院)で角膜形状解析装置(TMS5,TOMEY)のKeratoconusScreeningにてKlyce/MaedaandSmolek/Klyceに異常値を示した4症例5眼,平均年齢44.6±14.0歳(男性2名,女性2名)の白内障手術施行例である.眼内レンズの選択はオートレフケラトメータで測定した術前のケラト値や軸,眼軸長などをトーリックカリキュレータに入力し,算出された結果を参考に術者が最終決定した.術前のマーキング方法は座位にて6時マーク法を用い,30ゲージ(G)針にて周辺部角膜に上皮擦過を行い,手術時にはトーリック軸マーカーを6時の擦過痕と一致させ,挿入軸のマーキングを行った.使用レンズは,AcrysofRIQ〔別刷請求先〕力石洋平:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207番地琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:YoheiChikaraishi,DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicine,207Uehara,Nishiharacho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)889 TORIC(Alcon社)T4が1眼,T7が1眼,T9が3眼であった.患者には全例術前にトーリック眼内レンズについての十分な説明を行い,その使用について了承を得た.術前と術後1カ月の時点での視力,屈折,円柱度数について検討した.〔症例1〕71歳,女性.平成23年4月28日に近医より左眼の緑内障と白内障の治療目的に当院紹介された.全身的にはアレルギー疾患などの既往はない.眼圧は右眼13mmHg,左眼30mmHg.進行した視野狭窄(湖崎IV度)を認めた.細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図1)で平均K値49.4Dの中等度の円錐角膜を認めた.まず緑内障の治療のために点眼治療を開始した.眼圧は点眼でコントロールされたため,平成23年6月2日に左眼に対して超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT4)の移植・挿入術を行った.術前ケラト値は.4.0D,146°,挿入軸は20°であった.術前視力0.15(0.2×sph.4.00D)は術後1カ月で0.4(矯正不能)となった.〔症例2〕34歳,男性.図1症例1.中等度の円錐角膜を認める近医より右白内障手術の依頼により平成24年10月17日当院,紹介受診した.アトピー性皮膚炎を合併していた.右眼視力は0.4(0.5×sph+0.75D(cyl.3.00DAx95°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の軽度前方突出を認め,TMS(図2)で平均K値44.9Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常は認めなかった.前.と皮質に強い白内障による混濁を認めた.平成24年11月12日,右眼超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT7)の挿入術を行った.術前ケラト値は.0.50D,95°,挿入軸は97°であった.術後1カ月の視力は0.15(1.2×sph.2.0D(cyl.1.75DAx120°)と向上した.〔症例3〕32歳,男性.平成24年7月25日に近医より白内障の手術目的にて紹介され受診した.既往歴に気管支喘息があり,ステロイドを吸引していた.右眼視力は0.1(0.7×sph.3.75D(cyl.3.00DAx55°).細隙灯顕微鏡検査にて角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図3)で平均K値47.5Dの軽度の円錐角膜と診断された.眼圧,眼底に異常を認めなかった.後.下混濁が強く,本人の視力低下の自覚も強いため,平成25年8月8日,右超音波白内障手術と眼内レンズ(AcrysofRIQTORICSN6AT9)の挿入術を行った.術前ケラト値は.6.25D,46°,挿入軸は156°であった.術後視力は0.4(0.9×sph.6.50D(cyl.3.00DAx180°)と向上した.〔症例4〕43歳,女性.平成24年4月26日,両眼の白内障と円錐角膜の診断で近医より治療目的にて当科紹介受診.全身的にはアレルギー疾患などの既往歴はなかった.視力は右眼0.08(0.3×sph.4.00D(cyl.1.00DAx65°),左眼0.2(0.4×sph.4.25D)であった.眼圧,眼底に異常を認めなかった.細隙灯顕微鏡検査にて左右とも角膜中央部やや下方の前方突出を認め,TMS(図4,5)では右眼には平均K値52.0Dの進行した,また左眼には平均K値48.5Dの中等度の円錐角膜の所見を認図2症例2.軽度の円錐角膜を認める図3症例3.軽度の円錐角膜を認める890あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(126) 図4症例4の右眼.進行した円錐角膜を認める図5症例4の左眼.中等度の円錐角膜を認める1.201.0-20.8-4T9T7T9T9T4T9T9T9T7T4術後術後術後-6-80.60.40.2-100.0-120.00.20.40.60.8-12-10-8-6-4-20術前術前図6矯正視力の変化図7他覚円柱度数T4T9II結果0-2全症例の結果についてまとめてみる.T7T9T91.矯正視力.矯正視力の変化を術前と術後で比較した(図-46).すべての症例で矯正視力の改善がみられた.また,症例-62を除いて裸眼視力の改善も認めた.-82.術前後の他覚円柱度数の変化(ニデック社製オートレ-10図8自覚円柱度数めた.白内障は軽度であったため,まずコンタクトレンズによる治療を開始したが装用時痛があるため中止し,平成24年7月23日に左眼の白内障手術を,ついで平成25年8月26日に右眼の白内障手術を行った.左右眼とも眼内レンズはAcrysofRIQTORICSN6AT9を使用した.術前ケラト値は右眼.10.75D,10°,挿入軸は93°であり,左眼.6.00,174°,挿入軸は82°であった.術後1カ月後の視力は右眼0.4(0.5×sph+1.00D(cyl.9.00DAx180°)で左眼0.6(矯正不能)であった.フラクトメータでの測定値).図7に手術前後の他覚円柱度数の変化を示した.T4を挿入した症例1で軽度の悪化を認めているが,その他の症例は全例改善を認めた.3.術前後の自覚円柱度数の変化(最良矯正視力に必要な円柱度数).図8に自覚円柱度数の術前後での変化を示した.進行した円錐角膜の症例4の右眼では自覚円柱度数の明らかな悪化を認めた.症例1から3までの中等度以下の円錐角膜症例では不変あるいは改善を示した.III考按円錐角膜は思春期に発症し,進行性に角膜中央部が菲薄化し,円錐状に突出する疾患である.発症に性差はなく,30歳代以降にその進行は停止する.比較的まれな疾患であり,発症率は年間1.3.25人/100,000人であり,また8.8.229人/100,000人の有病率と報告されている4).しかしながら,-10-8-6-4-20術前(127)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015891 近年の角膜画像解析機器の進歩によりその有病率は増加している可能がある.今回の症例においても症例1から4までは前医で診断されておらず,軽度な円錐角膜はその多くが見逃されている可能性が示された.また,病期の進行によって角膜の変形とともに生じる近視と不正乱視のために最終的に高度の視機能障害をきたすことが知られている.治療には初期にはまず眼鏡による屈折矯正が試みられるが,近視,乱視の進行とともにコンタクトレンズの装用が,さらに角膜移植が最終的に実施される.近年クロスリンキングによる治療の報告が相ついでいるが,現時点ではその長期予後を含め不明な点が少なからずあり,今後一般臨床へと普及するには多施設での大規模な前向き研究が必要であるとされている4).また,角膜移植は8年の経過観察中に約12%の患者に実施されており,大部分の本症患者は眼鏡あるいはコンタクトレンズでの屈折矯正が行われているものと考えられる4).本疾患は青壮年期にはほぼ進行は停止し,多くの本症患者は角膜移植を経ずにいずれ白内障の発症,進行とともに屈折矯正を兼ねた白内障手術が適応とされることが推定される.円錐角膜患者の白内障手術に用いる眼内レンズとその手術成績に関する報告として,Watsonらは1996.2010年における円錐角膜患者で白内障手術を球面眼内レンズを挿入した64症例,92眼について報告している5).彼らはその後ろ向き研究で,角膜移植未施行群で,ダウン症候群を除いた平均K値が48Dまでの軽症群(35眼),平均K値が48.55Dまでの中等症群(40眼)と平均K値が55D以上の進行群(17眼)に分類してその結果を報告している.軽症群では術後球面度数の平均は0.0Dであったが屈折誤差は+5.2..3.0Dと幅広く分布し,中等症群では平均術後球面度数は.0.3Dで,屈折誤差は軽症群と同様に+3.2..3.8Dまで広く分布したと述べている.この2群間に有意差はなかった.しかしながら進行群で,実測(measured)K値を用いた8眼では術後球面度数は平均+6.8Dでその範囲は+0.2.+17Dであった.また,標準(standard)K値を用いた9眼では術後平均球面度数は+0.6Dでその範囲は+6.2..5.8Dの範囲であったと報告している.彼らは円錐角膜患者の生体計測にはさまざまな因子が関与し,精度の高い屈折値は特に進行した症例では予測することは困難であると結論している.一方,近年,白内障手術の際に乱視矯正用にトーリック眼内レンズが普及している.円錐角膜は近視性の不正乱視をきたすことから,この乱視軽減を目的とした使用の可能性が示唆される.しかしながら,円錐角膜患者はすでに述べたように頻度が少なく,トーリック眼内レンズを用いた白内障手術の報告は少ない.Sauderらは2例の報告を行っている6).1例(66歳,女性)は白内障手術の際にトーリック眼内レンズを挿入し,他の1例(68歳,女性)は無水晶体眼にトーリック眼内レンズを毛様溝に縫着している.2例とも乱視の軽減と視力の向上を得ている.Navasらも同様に2例のトーリック眼内レンズを円錐角膜患者の白内障手術に用いている7).症例1は55歳,男性で,症例2は46歳,男性であった.両者とも著しい裸眼視力の向上と,乱視の軽減を認めている.さらに最近,Nanavatyらは円錐角膜9症例12眼(平均年齢63.4±3.5歳)における白内障手術にトーリック眼内レンズを挿入し,術後裸眼視力の改善と,近視の減少,乱視の減少を報告している8).彼らは術後裸眼視力は75%で0.5以上,近視の量は術前.4.80±5.60Dから術後0.3±0.5Dへ,また乱視の絶対量は3.00±1.00Dから0.7±0.80Dへと改善したことを報告した.今回の筆者らの結果では,視力に関しては裸眼視力では症例2で軽度の低下を認めたが他のすべての症例で向上した.また,症例2においても矯正視力は1.2と改善した.ほぼ全例における術後視力の向上はもともと軽度以上の白内障が存在しており,この結果は妥当と考えられた.また症例4の右眼を除いては中等度以下の円錐角膜であり,これまでの報告と同様に良好な結果となった.一方,症例4の右眼は進行した円錐角膜であり,十分な視力の改善が得られなかった.Watsonらも進行した円錐角膜患者では白内障手術によっても視力の改善の予測が困難であると報告しており5),またNanavatyらもトーリック眼内レンズの適応をgrade1.2と比較的軽度の円錐角膜に限定して手術を行っており8),進行した円錐角膜ではもともとの屈折予測が困難であることからトーリック眼内レンズに限らず一般の球面レンズの度数計算,さらに視力の改善は困難である可能性が改めて示された.このような症例はWatsonらの勧めるようにstandardK値を用いて,眼内レンズを挿入するか,角膜移植と同時に白内障手術を行うか,あるいは角膜移植後に時期をおいてから白内障手術を行うほうがよいのか,その治療手段の選択には今後の検討が必要である.自覚と他覚での円柱度数に相違が大きくなっている症例は円錐角膜による高度の乱視によって検査結果にばらつきがみられることが大きな要因と考えられる.今回引用したトーリック眼内レンズの報告の経過観察期間は1年以内であり,その長期予後については明らかでない.今後,その長期予後,さらに角膜移植が適応となった場合の対応について検討する必要があると考えられる.円錐角膜を伴う白内障症例についてトーリック眼内レンズを挿入した症例を経験した.術後矯正視力の改善,乱視の軽減が認められた.円錐角膜の重症度分類における軽度.中等度例に関してはトーリック眼内レンズによる正乱視の矯正が有効であると考えられ,今後のトーリック眼内レンズの適応拡大も期待される.また,進行した高度な円錐角膜ではトーリック眼内レンズだけでは十分矯正できないため,このような症例に対しては角膜移植を含め,慎重に適応を考慮する必要がある.892あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(128) 文献1)加藤直子:角膜クロスリンキング.日本の眼科83:13301334,20122)寺田和世,三木恵美子,松田智子:トーリック眼内レンズの術後成績.IOL&RS25:242-246,20113)鳥山佑一,今井章,金児由美ほか:トーリック眼内レンズの術後短期成績.眼臨紀4:846-850,20114)VariraniJ,BasuS:Keratoconus:currentperspectives.ClinOphthalmol7:2019-2030,20135)WatsonMP,AnandS,BhogalMetal:Cataractsurgeryoutcomeineyeswithkeratoconus.BrJOphthalmol98:361-364,20146)SauderG,JonasJB:Treatmentofkeratoconusbytoricfoldableintraocularlenses.EurJOphthalmol13:577579,20037)NavasA,SuarezR:One-yearfollow-upoftoricintraocularlensimplantationinformefrustekeratoconus.JCataractRefractSurg35:2024-2027,20098)NanavatyMA,LakeDB,DayaSM.Outcomeofpseudophakictoricintraocularlensimplantationinkeratoconiceyeswithcataract.JRefractSurg28:884-889,2012***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015893

円錐角膜に原因不明の網膜ジストロフィが合併した1例

2012年6月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科29(6):863.868,2012c円錐角膜に原因不明の網膜ジストロフィが合併した1例山添克弥横田怜二堀田順子堀田一樹亀田総合病院眼科ACaseofKeratoconuswithRetinalDystrophyKatsuyaYamazoe,ReijiYokota,JunkoHottaandKazukiHottaDepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter円錐角膜に網膜ジストロフィが合併した症例を経験した.症例は53歳,男性.30年前に円錐角膜を指摘された.2年前より両眼視力低下を自覚し,精査目的で当科紹介受診.細隙灯顕微鏡所見,角膜形状解析の結果より円錐角膜と診断した.両眼底には,後極に限局した境界不鮮明な網膜色素上皮萎縮がみられ,フルオレセイン蛍光眼底造影では後極病変に一致したwindowdefectを示した.全視野刺激網膜電図で錐体系,杆体系ともに軽度の振幅低下,brightflashでa波の保たれた陰性型を示した.多局所網膜電図では中心部で高度の感度低下を示した.遺伝子検査は施行していないが,原因不明の網膜ジストロフィと診断した.円錐角膜では網膜変性疾患の合併を考慮する必要がある.角膜移植適応例で,術前に眼底評価がむずかしい症例では,網膜電図を施行し,網膜変性疾患の有無を評価しておく必要がある.Wereportacaseofkeratoconuswithretinaldystrophy.Thepatient,a53-year-oldmale,wasreferredtouswithcomplaintofblurredvisioninbotheyes.Hewasdiagnosedaskeratoconus,whichhadbeenpointedout30yearsearlier,byslit-lampbiomicroscopeexaminationandcornealtopography.Botheyesshowedatrophyoftheretinalpigmentepitheliumattheposteriorpole,withcorrespondingwindowdefectonfluoresceinangiography.Full-fieldelectroretinography(ERG)discloseddiminishedrodandconeresponse.MultifocalERGshowedamplitudedecreaseinthecentralarea.Althoughgenetictestingwasnotperformed,wediagnosedatypicalretinaldystrophy.Thiscasesuggeststhatretinaldystrophymaybepresentinkeratoconus.Incaseswhichkeratoplastyisplanned,particularlyiffundusassessmentisdifficult,ERGshouldbeperformedpreoperatively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(6):863.868,2012〕Keywords:円錐角膜,網膜ジストロフィ,網膜電図.keratoconus,retinaldystrophy,electroretinogram.はじめに円錐角膜は角膜菲薄化とそれに伴う前方偏位を特徴とする非炎症性角膜拡張症で,さまざまな関連疾患が知られている1).アトピー性皮膚炎やDown症候群,Marfan症候群などの全身疾患や,春季カタルや無虹彩症,網膜変性疾患などの眼疾患がみられる1).円錐角膜に合併した網膜変性疾患の報告として網膜色素変性症は散見される2,3)が,黄斑ジストロフィの報告は非常に少なく,筆者らの渉猟する限り錐体ジストロフィ4,5),錐体杆体ジストロフィ6)の3症例のみである.今回筆者らは円錐角膜患者に原因不明の網膜ジストロフィを合併した症例を経験したので報告する.I症例患者:53歳,男性.主訴:両眼視力低下.現病歴:30年前に某大学付属病院で円錐角膜の診断を受け,4年間通院したが,その後自己中断していた.2年前より両眼視力低下を自覚して近医を受診し,眼底異常を指摘されたが詳細は不明.2006年9月当院膠原病内科より視力低下自覚の精査目的で眼科紹介受診した.既往歴:肺癌(腺癌),慢性関節リウマチ(クロロキン使用歴はない).家族歴:特記事項なし(近親婚なし).初診時所見:視力は右眼(0.09×.2.0D(cyl.3.0DAx〔別刷請求先〕山添克弥:〒296-8602鴨川市東町929亀田総合病院眼科Reprintrequests:KatsuyaYamazoe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter,929Higashi-cho,Kamogawa-shi296-8602,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(141)863 30°),左眼(0.03×cyl.8.0DAx180°).眼圧は右眼11mmHg,左眼8mmHg.両眼角膜の実質深部の線条,左眼角膜中央部の突出,菲薄化がみられた(図1).中間透光体には異常はみられなかった.眼底は両眼とも黄斑部からやや耳側にかけて4乳頭径大円形の黄色に色調変化した網膜色素上皮萎縮がみられた(図2).周辺部に色素沈着や血管狭細化などの明らかな異常はみられなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)では,後極病変に一右眼左眼図1前眼部写真両眼角膜の実質深部の線条,左眼角膜中央部の突出,菲薄化がみられた.図2眼底写真(左:右眼,右:左眼)両眼黄斑部からやや耳側にかけて4乳頭径大円形の粗.な色調変化した網膜色素上皮萎縮がみられた.864あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(142) 致したwindowdefectを示した(図3).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では黄斑部網膜に網膜色素上皮層および神経網膜層の菲薄化がみられた(図4).角膜形状解析(TMS-4)で右眼は上耳側,左眼は中央よりやや下耳側に急峻な曲率部分を認め,Fourier解析で角膜中央の非球面性と非対称性の増加を認めた.Keratoconusscreeningsystemでは,KCI(keratoconusindex)は右眼58.2%,左眼92.2%,KSI(keratoconusseverityindex)は右眼50.2%,左眼76.1%であった(図5).Goldmann視野検査で中心10.25°に病変部に一致した比較暗点を認めた.全01:0601:34図3蛍光眼底造影写真(左:右眼,右:左眼)後極病変に一致した範囲でwindowdefectによる過蛍光がみられた.図4OCT像(左:右眼,右:左眼)黄斑部網膜に軽度菲薄化がみられた.図5角膜形状解析(TMS-4)右眼(左)は上耳側に急峻な部分を認める.左眼(右)は中央よりやや下耳側に急峻な部分を認める.(143)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012865 視野刺激網膜電図(electroretinogram:ERG)で錐体系,杆体系ともに軽度の振幅低下を示した.Blightflashでa波の保たれた陰性型を示し,長時間刺激ERGでoff反応は保たれていたが,on反応は極端に減弱していた(図6).多局所ERGで全体に高度の感度低下を示した(図7).色覚検査はパネルD-15を含め識別不能であった.以上から,円錐角膜SingleflashRodConeFlickerOn-Off図6全視野刺激ERG錐体系,杆体系ともに軽度の振幅低下を示すのみであった.Blightflashではa波の保たれた陰性型を示し,広範ではあるが網膜内層機能に限局した障害が疑われた.RL正常本症例に合併した網膜ジストロフィを疑った.II考察円錐角膜の診断は,細隙灯顕微鏡と角膜形状解析から行われる.典型例では,細隙灯顕微鏡検査では視軸よりやや下方を頂点とする角膜の円錐形の突出および角膜実質の菲薄化がみられ,角膜形状解析では局所の急峻化,非対称性を呈する1).本症例の右眼はKeratoconusscreeningsystemでは典型的な円錐角膜形状を示していると言い難いが,左眼の細隙灯顕微鏡,角膜形状解析の所見から円錐角膜症例と診断した.また,円錐角膜は,思春期に発症することが多く,一般的には緩徐な進行で,30.40代までには進行が停止すると考えられている.本症例はすでに53歳であることから,数年前から進行した視力低下の原因が円錐角膜の進行に伴うものとは考えにくく,中間透光体や眼底疾患の関与を疑った.水晶体や硝子体に明らかな混濁はなかったが,検眼鏡的に黄斑部に限局した萎縮性病変(網膜色素上皮萎縮)がみられた.全視野刺激ERGでは錐体系および杆体系応答の軽度低下,多局所ERGでは周辺部の錐体機能は保たれていたものの黄斑部全体に広範な振幅低下がみられた.また,全視野刺激ERGで陰性型を示し,長時間刺激ERGでoff反応は保たれていたが,on反応は極端に減弱していたことから,広範な網膜内層障害が生じていると考えられた.錐体系および杆200nV080ms200nV080ms図7多局所ERG(左:右眼,右:左眼)全体に高度の感度低下を認めたが,最周辺部の一部は比較的振幅が保たれ,周辺部錐体機能の維持が確認できる.866あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(144) 体系応答がある程度保たれ,骨小体様色素沈着や血管の狭細化,視神経乳頭の蒼白化といった網膜色素変性に特徴的な眼底所見もみられないことから,中心型を含む網膜色素変性症や錐体ジストロフィ,錐体杆体ジストロフィなどの定型的網膜変性疾患は否定的であった.また,比較的黄斑周囲に限局した疾患のうち中心性輪紋状脈絡膜萎縮は,多局所ERGで中心窩を避けた応答密度の低下を示し,病後期には後極部病変(特に脈絡膜萎縮)の境界が鮮明となることから7),本症例とは異なる.また,萎縮型加齢黄斑変性では,本症例のようにERGで陰性型を示すことはない.リウマチ関節炎に対して使用されることがあるクロロキンは体内蓄積に伴い網膜症を起こすことが知られている8)が,本症例では服用歴がない.肺癌の既往があり,癌関連網膜症も鑑別診断として考えられるが,夜盲や網膜色素変性様の眼底所見,極端に応答の低下したERG所見などはみられなかった.また,卵黄状黄斑ジストロフィやStargardt病,若年網膜分離症などの定型的黄斑ジストロフィは原因遺伝子がほぼ単一で,遺伝子検査が診断に有用である.本症例の遺伝子検査は施行していないが,これら定型的黄斑ジストロフィとは明らかに臨床像が異なる.他に,陰性型のERGを示す先天停在性夜盲,網膜血管閉塞性疾患とも明らかに臨床像が異なる.また,患者の希望で血縁者の検査協力も得られていないが問診上,高度視力低下のある親族はいない.若年性,両眼対称性の萎縮型黄斑変性で陰性型のERGを示し以上の疾患を除外できることより,遺伝的裏付けはないが,原因不明の網膜ジストロフィと推測した.円錐角膜に合併する網膜疾患として,網膜色素変性2,3)やLeber先天盲9),黄斑コロボーマ(黄斑形成不全,無形成)10)などが報告されている.円錐角膜に合併した黄斑ジストロフィとして,錐体ジストロフィ4,5),錐体杆体ジストロフィ6)が報告されている.これらの疾患は,これまで多数の原因遺伝子が報告されており,遺伝子異常の点から円錐角膜との関連を考察する.錐体ジストロフィ,錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子とされるCRX遺伝子11,12)は,Leber先天盲もひき起こすとされる13).Leber先天盲の原因遺伝子は,ほかにRPE65,GUCY2D,AIPL1,CRB1,RPGRIP1などがあり,視細胞や色素上皮細胞の機能や構造の維持に関与する13).McMahonら14)は遺伝子診断されたLeber先天盲16例を検討し,円錐角膜を伴っていた5例にはCRB1またはCRX遺伝子の異常がみられたと報告している.これらの遺伝子は,網膜色素変性の原因遺伝子でもあり15),円錐角膜発症に関与する可能性が示唆される.Wilhelmus4)は円錐角膜と進行性錐体ジストロフィの合併例の報告で,角膜と網膜の変化を起こす原因は,細胞外マトリックス再構築を制限する遺伝子の異常であると推察している.本症例においても,網膜と角膜の両者に影響を与える遺伝子異常が関与している可能性があるが,両者に共通の遺伝子異常は見つかっていない.一方,Foglaら6)による円錐角膜に対する角膜移植後に錐体杆体ジストロフィと診断された症例の報告では,術前には屈折異常,角膜混濁のため眼底評価が困難であったとしている.Moschoら3)も,円錐角膜223眼の全視野刺激網膜電図を検討し,6眼で消失型または明らかな異常b波がみられ,その6眼のうち角膜移植を施行した2眼はいずれも視力は改善しなかったと報告している.本症例では角膜混濁はみられず眼底評価は比較的容易であったが,角膜移植を必要とする症例ではときに高度角膜混濁などのため眼底評価がむずかしい.網膜電図は中間透光体の混濁に左右されず,術前の電気生理学的評価が術後の予後を予測するために有用であると思われた.今回筆者らは,円錐角膜を伴った非定型的な網膜ジストロフィを経験した.陰性波から網膜内層の広範な機能障害の可能性を考慮すると,今後広範な網膜変性疾患へ進展する可能性もあり経過を観察していく必要がある.極端に視力不良の円錐角膜では合併する網膜変性疾患の可能性を念頭に置くべきである.角膜移植の適応判断の一助に網膜電図やOCTなど網膜病変の評価をしておく必要がある.文献1)許斐健二,島﨑潤:円錐角膜総論.あたらしい眼科27:419-425,20102)尾崎憲子,原彰,多田知子:網膜色素変性症に円錐角膜が合併した1症例.眼臨88:347-352,19943)MoschosM,DroutsasD,PanagakisEetal:Keratoconusandtapetoretinaldegeneration.Cornea15:473-476,19964)WilhelmusKR:Keratoconusandprogressiveconedystrophy.Ophthalmologica209:278-279,19955)YehS,SmithJA:Managementofacutehydropswithperforationinapatientwithkeratoconusandconedystrophy:casereportandliteraturereview.Cornea27:10621065,20086)FoglaR,IyerGK:Keratoconusassociatedwithcone-roddystrophy:acasereport.Cornea21:331-332,20027)湯沢美都子,若菜恵一,松井瑞夫:中心性輪紋状脈絡膜萎縮症の病像の検討.臨眼37:453-459,19838)HobbsHE,SorsbyA,FreedmanA:Retinopathyfollowingchloroquinetherapy.Lancet3:478-480,19599)HeherKL,TraboulsiEI,MaumeneeIH:ThenaturalhistoryofLeber’scongenitalamaurosis:age-relatedfindingsin35patients.Ophthalmology99:241-245,199210)FreedmanJ,GombosGM:Bilateralmacularcoloboma,keratoconus,andretinitispigmentosa.AnnOphthalmol3:644-645,197211)FreundCL,Gregory-EvansCY,FurukawaTetal:Coneroddystrophyduetomutationinanovelphotoreceptor-specifichomeoboxgene(CRX)essentialformaintenanceofthephotoreceptor.Cell91:543-553,1997(145)あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012867 12)KitiratschkyVB,NagyD,ZabelTetal:Coneandcone-14)McMahonTT,KimLS,FishmanGAetal:CRB1generoddystrophysegregatinginthesamepedigreeduetomutationsareassociatedwithkeratoconusinpatientsthesamenovelCRXgenemutation.BrJOphthalmolwithLebercongenitalamaurosis.InvestOphthalmolVis92:1086-1091,2008Sci50:3185-3187,200913)池田康博:Leber先天盲(Leber先天黒内障).あたらしい15)堀田喜裕,中西啓:網膜色素変性とUsher症候群の遺伝眼科28:921-925,2011子診断.あたらしい眼科28:907-912,2011***868あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012(146)

円錐角膜眼におけるEnhanced Ectasia Displayの有用性

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(135)1039《原著》あたらしい眼科28(7):1039?1042,2011cはじめに円錐角膜は,角膜中央部が進行性に菲薄化して前方突出し,不正乱視や近視化により視機能低下をきたす疾患である1).診断には細隙灯顕微鏡や角膜曲率半径測定などのほかに,角膜形状解析が重要である.現在,円錐角膜診断における角膜形状解析検査は,プラチド式により角膜前面曲率半径を測定し,その結果をもとに算出された指数を用いて行うものが一般的である2,3).プラチド式による角膜形状解析は,感度・特異度ともに高く優れた診断方法であるが,この方法にはいくつか問題点も存在する.まず円錐角膜の早期変化をとらえるのに重要な角膜後面形状の情報を得ることができない.また曲率マップは測定軸に依存するため,測定軸のずれによって正常眼でも円錐角膜眼と診断されることがある.曲率マップは,角膜屈折度数を評価するうえでわかりやすく多〔別刷請求先〕石井梨絵:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RieIshii,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN円錐角膜眼におけるEnhancedEctasiaDisplayの有用性石井梨絵*1,4神谷和孝*1五十嵐章史*1清水公也*1宇津見義一*2熊埜御堂隆*3*1北里大学医学部眼科学教室*2宇津見眼科*3クマノミドー眼科*4北里大学北里研究所メディカルセンター病院EvaluationofCornealElevation:UsefulnessofEnhancedEctasiaDisplayinKeratoconusEyesRieIshii1,4),KazutakaKamiya1),AkihitoIgarashi1),KimiyaShimizu1),YoshikazuUtsumi2)andTakashiKumanomido3)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)UtsumiEyeClinic,3)KumanomidoEyeClinic,4)KitasatoUniversityKitasatoInstituteMedicalCenterHospital円錐角膜の診断は角膜形状解析による曲率に基づくものが主体で高さ情報については不明な点が多い.今回二つの異なる参照面を用いて円錐角膜眼の高さ情報を定量的に検討した.円錐角膜眼44例80眼および正常眼42例83眼を対象とし,Scheimpflug型前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)のEnhancedectasiadisplayを用いて角膜前面・後面頂点における通常のbestfitsphere(BFS)とenhancedBFS(角膜最菲薄部より4mm径を除外)におけるelevation量をそれぞれ算出し,その差をelevation変化量として評価した.正常眼の角膜前面頂点におけるelevation変化量は2.5±2.1μmであったが,円錐角膜眼では14.3±13.8μm,と有意な増加を示した(Mann-WhitneyUtest,p<0.001).また,正常眼の角膜後面頂点におけるそれは12.3±6.8μmであったが,円錐角膜眼では60.7±39.1μmと有意な増加を示した(p<0.001).角膜高さ情報は円錐角膜のスクリーニングに有用となる可能性が示唆された.Weusedtwodifferentbest-fit-sphere(BFS)tocomparethecornealelevationvalueinnormalandkeratoconuseyes.Wemeasured80eyesof44keratoconuspatiantsand83eyesof42normalswithPentacamTMandevaluatedthemusingEnhancedectasiadisplaythatcalculatedthedifferencebetweenelevationwithnormalBFSandthatwithenhancedBFS(exceptinga4mmdiameterfromcornea’sthinnestpoint)ontheanteriortheposteriorapices.Theelevationchangevaluesofthenormalgroupwere2.5±2.1μmand12.3±6.8μm,andthoseofthekeratoconusgroupwere14.3±13.8μmand60.7±39.1μm,respectively,ontheanteriorapexandtheposteriorapex.Therewerestatisticallysignificantdifferencesbetweenthenormalandkeratoconusgroupsonboththeanteriorapex(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)andtheposteriorapex(p<0.001).Keratoconuseyeshavehigheranteriorandposteriorelevationchangevalues.Enhancedectasiadisplaymaybehelpfulindetectingkeratoconus,whenusedwithvideokeratography.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1039?1042,2011〕Keywords:円錐角膜,高さ情報,角膜形状解析装置.ペンタカム,keratoconus,elevation,cornealtopography,PentacamTM.1040あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(136)くの臨床医にとって見なれたものであるが,測定軸により変化する相対的なものであり,必ずしも角膜の物理的な性質を示すとは限らない.角膜前後面形状解析装置では,従来の曲率マップ測定以外にも角膜の高さ情報を評価することが可能である.実際には,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM,Oculus社)やスリットスキャン式前眼部解析装置(OrbscanTM)といった装置で測定することが可能である4,5).高さ情報は,形状解析から算出された参照面(bestfitsphere:BFS)を基準として用い,測定された角膜面とBFSとの差異を高さ(elevation)として表示する.曲率マップは円錐角膜に伴う角膜の歪みを顕在化し,高さ情報は円錐角膜に伴う角膜の突出を描出可能である.現在,円錐角膜の診断は曲率マップによるものが主体で,角膜の高さ情報については十分に検討されておらず,不明な点が多い.そこで今回筆者らはPentacamTMを用いて高さ情報を算出し,円錐角膜の特徴的な変化をより鋭敏にとらえるために二つの異なる参照面を用いて,円錐角膜眼と正常眼における角膜頂点でのelevation変化量を定量的に検討したので報告する.I対象および方法細隙灯顕微鏡検査および角膜形状解析により円錐角膜と診断された症例44名80眼(男性34名62眼・女性10名18眼,年齢37.0±11.0歳)および屈折異常以外に眼科的疾患を有さない正常被験者42名83眼(男性25名50眼・女性17名33眼,年齢35.2±10.1歳)を対象とした.それぞれの症例において,Scheimpflug式前眼部解析装置(PentacamTM)を使用し,角膜前面・後面における角膜面と参照面との差をelevation量として求めた.Enhancedectasiadisplay6,7)を用いて,参照面として角膜形状解析で得られた通常のBFSと角膜最菲薄部を中心として直径4mmの部分をBFS算出の際に除外して求めたenhancedBFSを使用した.これらの二つの参照面を用いて得られた同一眼におけるelevation量の差をelevation変化量として求め,角膜前面頂点および角膜後面頂点での値を円錐角膜眼と正常眼で比較した.角膜混濁例や角膜上皮障害が顕著な症例,角膜移植などの手術加療を行っている症例は除外した.正常眼と円錐角膜眼の結果の比較にはMann-WhitneyUtestを用いた.結果は平均値±標準偏差で表し,p<0.05を有意差ありとした.II結果角膜前面頂点における正常眼の平均elevation変化量は2.5±2.1μmで,円錐角膜眼では14.3±13.8μmであり,円錐角膜眼のほうが有意に高値であった(Mann-WhitneyUtest,p<0.001)(図1).角膜後面頂点における正常眼の平均elevation変化量は12.3±6.8μmで,円錐角膜眼では60.7±39.1μmとこちらも円錐角膜眼で有意に高値であった(p<0.001)(図2).III考按今回の検討では,円錐角膜眼は正常眼に比べelevation変化量が有意に高値を示した.これまでにも,通常のBFSのみを用いて得られた高さ情報で円錐角膜眼のほうが正常眼に比べ高値を示すことが報告されている.Raoら8)は,OrbscanIITMを用いて角膜前面および後面のelevation量を測定したところ,プラチド式角膜形状解析による円錐角膜の診断基準を満たした症例の前面と後面におけるelevation量は対象群と比較して有意に高値であり,角膜屈折矯正手術前のスクリーニングとして,プラチド式角膜形状解析で円錐角膜疑いとなった症例でOrbscanIITMを測定し,後面elevation量40μm以上の場合は角膜屈折矯正手術を行わないという方法を提案している.Schlegelら9)は円錐角膜疑い眼と正常眼でOrbscanIITMを測定したところ,角膜頂点から1mm径における角膜後面の最大elevation量は,円錐角膜疑い眼で正常眼に比べ有意に高値であったと報告している.今回の筆者らの報告では,elevation変化量を用いているため,これらの報告とは高さ情報の評価方法が少し異なっているが,これらの結果は角膜の高さ情報が円錐角膜眼における早期の角膜変化をとらえるのに有用であることを示唆している.現在,円錐角膜の診断は先述したプラチド式による角膜形状解析が有正常眼円錐角膜眼2.53302520151050Elevation変化量(μm)14.34図1角膜前面のelevation変化量の比較角膜前面では正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).正常眼円錐角膜眼12.3512010080604020060.74Elevation変化量(μm)図2角膜後面のelevation変化量の比較角膜後面において正常眼に比較して円錐角膜眼ではelevation変化量は有意に高値となった(Mann-WhitneyU検定,p<0.001).(137)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111041用で,この方法で診断可能な症例がほとんどである.しかし,臨床的に問題とならないようなごく早期の円錐角膜もしくは円錐角膜疑い(formefrustekeratoconus)の一部では角膜の形状変化が軽微なため,屈折矯正術施行前に検査を行っても診断がむずかしい場合がある.実際に屈折矯正術後にkeratectasiaを発症した症例の多くが術前に円錐角膜とは診断されておらず,formefrustekeratoconusを診断することは,医原性の重篤な合併症を防止するために重要である.Elevation変化量の算出に用いているenhancedBFSは,角膜菲薄部を中心に前方に角膜が突出するという円錐角膜の特徴をより顕在化させるために考案されたもので,正常眼の場合には通常のBFSとさほど変わりはない.しかし円錐角膜眼では,突出部分を除いて算出されたenhancedBFSは,通常のBFSに比べてフラットになるため,角膜の突出をより強調することができる(図3).このため通常のBFSとenhancedBFSとの差であるelevation変化量は,通常のBFSだけを用いた場合より早期の段階で円錐角膜に特徴的な変化を検出しやすく,円錐角膜眼における高さ情報の評価方法として有用な指標となる可能性がある.ここでenhancedBFSを用いたelevation量ではなくelevation変化量を用いるのは,elevation量ではカットオフポイントの設定がむずかしく乱視などの影響により感度および特異度の低下が懸念されるからである.今回の結果では角膜前面に比べて,角膜後面のほうが高値をとる傾向にあった.プラチド式による角膜形状解析では,角膜前面の曲率半径をもとに角膜の歪みをとらえているが,円錐角膜の変化は角膜全体に起こっており,角膜前面だけでなく角膜後面の情報も早期の円錐角膜診断に有用と考えられる.これまでも円錐角膜眼における角膜後面の変化を評価するために角膜後面由来の曲率を測定したり,高次収差を測定したりする方法が考案されてきた10?12).それらによると,角膜後面でも角膜前面と同様に円錐角膜眼では正常眼に比べ有意に角膜曲率や高次収差が増加すると報告されている.今回用いたPentacamTMは短時間で角膜前面,後面の情報を測定することができ,後面形状変化を検出可能である.Mihaltzら13)はPentacamTMを用いて,円錐角膜眼の角膜前面および後面のelevation量,中心角膜厚,最小角膜厚,乱視度数,平均K(角膜屈折)値,角膜中心と角膜最菲薄部との距離という円錐角膜検出の指標についてROC曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve)を用いて比べたところ,後面elevation量が最も感度および特異度に優れていたと報告している.このように角膜高さ情報は円錐角膜評価に有用と考えられるが,現段階ではまだ一般的な指標や基準値が定まっておらず,結果の解釈がむずかしいという側面がある.また機器により測定方法が違うため,異なった測定機器で得られた値を単純に比較することはできない14).今後は基準値や評価方法を明確にし,さらに疾患の重症度との関連や他の評価法との関連を検討していくことが必要と思われる.PentacamTMでは,高さ情報だけでなく角膜厚の詳細な情報も測定可能である.従来は超音波パキメトリーを用いて中心角膜厚を測定しており,角膜全体の厚みを評価することはむずかしかった.しかし,現在では角膜全体の厚みのプロフィールを短時間で測定することが可能で,角膜最菲薄部の位置を評価することもできる.Ambrosioら15)は,PentacamTMを用いて角膜厚の情報と角膜体積の情報を元に角膜最菲薄部を基準として角膜周辺部へ向かって角膜厚増加率と角膜体積増加率を算出し,正常眼と円錐角膜眼を比較したところ,円錐角膜眼において有意に高値であったと報告している.高さ情報や角膜厚といった新しい角膜評価法は,従来の曲率マップを用いた円錐角膜診断法と併用することで,円錐角膜の早期診断に有用となると考えられる.今回用いたEnhancedectasiadisplayというプログラムはPentacamTMにて使用でき,elevation変化量と角膜厚の情報を同時に評価することが可能である.さらに近年,円錐角膜眼でのORAを用いた角膜生体力学特性の定量的評価も報告されており16),これらの併用によって円錐角膜の診断精度の向上が期待される.今回の検討で,角膜高さ情報の指標の一つであるelevation変化量は円錐角膜眼において正常眼より有意に増加することが明らかとなった.Enhancedectasiadisplayは円錐角膜の診断に有用である可能性が示唆された.文献1)SherwinT,BrookesNH:Morphologicalchangesinkeratoconus:pathologyorpathogenesis.ClinExperimentOphthalmol32:211-217,20042)MaedaN,KlyceSD,SmolekMKetal:Automatedkeratoconusscreeningwithcornealtopographyanalysis.InvestOphthalmolVisSci35:2749-2757,19943)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Comparisonofmethodsfordetectingkeratoconususingvideokeratography.Arch正常眼円錐角膜眼:BFS:EnhancedBFS図3EnhancedBFSとBFSの違い図のピンクの線がenhancedBFSを示し,黄色の線が通常のBFSを示している.正常眼ではBFSとenhancedBFSであまり違いはないが,円錐角膜眼ではBFSに比べてenhancedBFSはよりフラットになるため,突出した角膜の高さをより描出しやすくなっている.1042あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(138)Ophthalmol113:870-874,19954)LimL,WeiRH,ChenWKetal:EvaluationofkeratoconusinAsians:roleofOrbscanIIandTomeyTMS-2cornealtopography.AmJOphthalmol143:390-400,20075)NilforoushanMR,SpealerM,MarmorMetal:ComparativeevaluationofrefractivesurgerycandidateswithPlacidotopography,OrbscanII,Pentacam,andwavefrontanalysis.JCataractRefractSurg34:623-631,20086)BelinMW,KhachikianSS:Keratoconus:Itishardtodefine,but….AmJOphthalmol143:500-503,20077)BelinMW,KhachikianSS:Highlightsofophthalmology.Elevationbasedtopographyscreeningforrefractivesurgery,JaypeeHighlightsMedicalPublishers,Inc,Panama,20088)RaoSN,RavivT,MajmudarPAetal:RoleofOrbscanIIinscreeningkeratoconussuspectsbeforerefractivecornealsurgery.Ophthalmology109:1642-1646,20029)SchlegelZ,Hoang-XuanT,GatinelD:Comparisonofandcorrelationbetweenanteriorandposteriorcornealelevationmapsinnormaleyesandkeratoconus-suspecteyes.JCataractRefractSurg34:789-795,200810)TomidokoroA,OshikaT,AmanoSetal:Changesinanteriorandposteriorcornealcurvaturesinkeratoconus.Ophthalmology107:1328-1332,200011)ChenM,YoonG:Posteriorcornealaberrationsandtheircompensationeffectsanteriorcornealaberrationsinkeratoconiceyes.InvestOphthalmolVisSci49:5645-5652,200812)NakagawaT,MaedaN,KosakiRetal:Higher-orderaberrationsduetotheposteriorcornealsurfaceinpatientswithkeratoconus.InvestOphthalmolVisSci50:2660-2665,200913)MihaltzK,KovacsI,TakacsAetal:Elevationofkeratometric,andelevationparametersofkeratoconiccorneaswithpentacam.Cornea28:976-980,200914)QuislingS,SjobergS,ZimmermanBetal:ComparisonofPentacamandOrbscanIIzonposteriorcurvaturetopographymeasurementsinkeratoconuseyes.Ophthalmology113:1629-1632,200615)AmbrosioRJr,AlonsoRS,LuzAetal:Corneal-thickinessspatialprofileandcorneal-volumedistribution:Tomographicindicestodetectkeratoconus.JCataractRefractSurg32:1851-1859,200616)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyzerTMによる円錐角膜の角膜生体力学特性の測定.IOL&RS22:212-215,2008***