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眼窩脂肪容積の増大と続発緑内障をきたした再発性多発性軟骨炎の1例

2016年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科33(7):1066〜1069,2016©眼窩脂肪容積の増大と続発緑内障をきたした再発性多発性軟骨炎の1例石崎典彦*1小嶌祥太*2高井七重*2勝村ちひろ*2小林崇俊*2植木麻理*2杉山哲也*3菅澤淳*2池田恒彦*2萩森伸一*4槇野茂樹*5*1八尾徳州会総合病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室*3中野眼科医院*4大阪医科大学耳鼻咽喉科学教室*5大阪医科大学内科学I教室ACaseofRelapsingPolychondritiswithIncreasedOrbitalFatandSecondaryGlaucomaNorihikoIshizaki1),ShotaKojima2),NanaeTakai2),ChihiroKatsumura2),TakatoshiKobayashi2),MariUeki2),TetsuyaSugiyama3),JunSugasawa2),TsunehikoIkeda2),Shin-ichiHaginomori4)andShigekiMakino5)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,3)NakanoEyeClinic,4)DepartmentofOtolaryngology,OsakaMedicalCollege,5)DepartmentofInternalMedicine(I),OsakaMedicalCollege目的:眼球突出,強膜炎をきたし,続発緑内障を合併した再発性多発性軟骨炎(RP)の症例を経験したので報告する.症例:54歳,男性.両耳介の発赤,腫脹,両眼の充血,眼球突出を認めた.眼圧は右眼18mmHg,左眼33mmHgで,強膜炎および続発緑内障と診断した.さらに,眼所見,耳介軟骨炎と軟骨生検からRPと診断された.保存的治療にても40mmHg以上の高眼圧となったため,線維柱帯切除術および水晶体再建術を施行した.術後の眼圧は20mmHg以下に安定した.眼球突出の精査目的に施行した頭部MRIでは,眼窩脂肪容積の増大を認めた.結論:RPでは眼窩脂肪容積の増大や続発緑内障にも注意が必要と考えられた.Purpose:Toreportacaseofrelapsingpolychondritis(RP)complicatedwithsecondaryglaucomaandexophthalmos.Case:A54-year-oldmalepresentedwithrednessandswellingofbothauricles,andinjectionandproptosisinbotheyes.Uponexamination,hisintraocularpressure(IOP)was18mmHgODand33mmHgOS;hewassubsequentlydiagnosedwithscleritisandsecondaryglaucoma.Inadditiontotheocularfindings,chondritisofbothauriclesandassociatedpathologicalfindingsledtothediagnosisofRP.Despiteconservativetreatment,hisIOPelevatedtomorethan40mmHg.Trabeculectomycombinedwithcataractsurgerywasthereforeperformedonbotheyes;postoperativeIOPthendeclinedtolessthan20mmHg.Subsequentorbitalmagneticresonanceimaging(MRI)performedtoexamineexophthalmosrevealedbilateralincreaseoforbitalfatvolume.Conclusion:OurfindingsshowthatsecondaryglaucomaandexophthalmoscandevelopincasesofRP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1066〜1069,2016〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,続発緑内障,眼窩脂肪,眼球突出,強膜炎.relapsingpolychondritis,secondaryglaucoma,orbitalfat,exophthalmos,scleritis.はじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は自己免疫が関与する全身の軟骨および類系組織の炎症性疾患と考えられている.眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓などに再発性の炎症および組織の変形,破壊を生じ,多彩な局所症状,全身症状を呈する.発症率は3.5人/100万人とまれな疾患であり,発症の男女比はなく,40~60歳代に発症のピークを有するが,10〜80歳代まで発症する1).RPは高頻度に眼合併症を認め,結膜炎,上強膜炎,強膜炎,角膜炎,虹彩炎,脈絡膜炎,網膜静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎,外眼筋麻痺,眼瞼浮腫などの合併が知られている1~3).今回,筆者らは強膜炎,眼窩脂肪容積の増大,続発緑内障を合併したRPの1例を経験したので報告する.I症例と経過患者:54歳,男性.主訴:両眼の充血.既往歴:30歳頃にC型肝炎に対してインターフェロン療法を受けた.49歳時に顔面挫創に対してデブリードマン,植皮を受けた.高血圧に対して内服加療している.現病歴:中国に滞在中の2008年10月頃より両耳介の発赤,腫脹,11月頃より両眼の充血を自覚した.ウイルス性結膜炎として,ステロイド,ガンシクロビル点眼が行われたが軽快せず,12月に帰国した際に近医の眼科を受診した.両眼の強膜炎と右眼30mmHg,左眼50mmHgの眼圧上昇を指摘され,アセタゾラミド(ダイアモックス®)の内服,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(リンデロン0.1%®),チモロールマレイン酸塩持続性点眼液(チモプトールXE0.5%®)が投薬されたうえで,精査加療目的に大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科へ紹介受診となった.当科初診時所見:視力は右眼1.5(矯正不能),左眼0.2(1.0×sph−1.00D).眼圧は右眼18mmHg,左眼33mmHg.前眼部は両眼に結膜および上強膜,強膜のびまん性の充血,左眼に角膜浮腫,前房内フレアを認めた(図1).中間透光体は両眼に軽度の白内障を認めた.眼底は視神経乳頭に緑内障性変化を認めなかった.隅角は両眼ともShafferIV,周辺虹彩前癒着を認めなかった.ヘルテル眼球突出計で右眼20.5mm,左眼21.0mm(base105mm)と両側の眼球突出を認めた.両耳介の発赤,腫脹を認めた.臨床検査所見:CRP0.29mg/dl(基準値<0.25mg/dl),IgG1,246mg/dl(基準値870~1,700mg/dl),IgA247mg/dl(基準値110~410mg/dl),IgM28mg/dl(基準値35~220mg/dl),血清補体価(CH50)68.4U/ml(基準値32.0~48.0U/ml),C3111mg/dl(基準値65~135mg/dl),C432.3mg/dl(基準値13.0~35.0mg/dl)であり,CRP,IgG,血清補体価が高値であった.経過:強膜炎および炎症に伴う続発緑内障と診断し,前医の投薬は継続とした.耳介の発赤,腫脹を認めたため,当院耳鼻咽喉科を受診し,耳介軟骨生検が施行された.両側の耳介軟骨炎およびその病理所見,眼症状からDamianiら4)の診断基準によりRPと診断された.眼炎症所見が軽快しないため,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液は継続し,0.05%水溶性シクロスポリン点眼液を開始した.アセタゾラミドの内服,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液,ブリンゾラミド点眼液(エイゾプト®),ジピベフリン塩酸塩点眼液(ピバレフリン0.1%®)の点眼により眼圧は10〜20mmHg台で経過した.当院の膠原病内科により2009年1月からプレドニゾロン(プレドニン®)55mg/日の投与を開始し,以後漸減した.耳介の発赤,腫脹は軽快したが,両眼充血はやや改善したのみであった.10月受診時に左眼矯正視力0.5に低下し,動的視野検査で左眼の下鼻側に視野欠損を認めた.アセタゾラミドの内服,トラボプロスト点眼液(トラバタンズ®),チモロールマレイン酸塩持続性点眼液,ブリンゾラミド点眼液の点眼下でも両眼圧が40mmHg以上と高値であったので,12月両眼に対して線維柱帯切除術+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行した.術後は両眼ともに浅前房の傾向,眼内レンズが前方移動する傾向があったが,レーザー切糸やニードリングを行い,濾過胞の形成は良好で眼圧は20mmHg以下で安定した.2015年2月現在,矯正視力は右眼1.2,左眼0.4,眼圧は眼圧下降薬の投与なく,両眼ともに16mmHg,視野は右眼が正常,左眼が下方の視野に欠損を認めており,経過観察中である.初診時より眼球突出を認めていたため,2010年2月に血液検査を施行したが,甲状腺ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,甲状腺関連自己抗体に異常を認めなかった.また,眼窩部の磁気共鳴画像法(magneticresonanceimaging:MRI)では外眼筋の肥厚は認めず,T1,T2強調画像で高信号を示す組織が眼窩内に充満していた(図2,3).T1強調画像で高信号であった部分は,short-TIInversionRecovery(STIR)法で一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていた(図4).II考察RPに眼症状は51%2)〜65%3)合併する.眼症状としてもっとも多いものとしては,結膜炎,上強膜炎,強膜炎があげられる2,3).上強膜炎,強膜炎はBradleyら2)が本症の14.3%,McAdamら3)が35.2%に認めたと報告しており,本症例でも眼科へ受診する動機となった症状だった.RPの眼球突出については,McAdamら3)が2.9%に認めたと報告しているが,画像診断,病理診断の報告は渉猟した限りではこれまでになかった.本症例の眼窩内の組織は,MRISTIR法でT1強調画像で高信号であった部分に一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていたことから,脂肪が主体と考えられた.甲状腺眼症で推測されているように5),本症例でも眼窩内の炎症に続いて,眼窩脂肪組織内に水分の貯留が起こり,眼窩脂肪容積が増大している可能性が考えられた.Crovatoら6)はRPに甲状腺疾患が合併し,眼球突出を認めた症例を報告しているが,本症例では,甲状腺疾患は血液検査から否定的であり,RPに眼窩脂肪容積の増大が合併したと考えられた.本症例の初診時の眼圧上昇の機序としては,以下の2つの可能性が考えられた.第一は強膜炎から線維柱帯炎および上強膜静脈圧の上昇による機序であり,Jabsら7)はびまん性強膜炎の12.1%に高眼圧を認めたと報告している.第二は眼窩脂肪容積が増大したことによる眼窩内圧および上強膜静脈圧の上昇による機序であり,Ohtsukaら8)は一般集団に比して,甲状腺眼症において開放隅角緑内障,高眼圧が多いことを報告している.また,Devら9)は甲状腺眼症に対して眼窩減圧術を行うと眼圧が下がることを報告している.これらの報告から眼窩内組織の増大は眼圧上昇をきたすと推測される.一方で初診後1年が経過して,再度眼圧が上昇したのはステロイド内服,点眼に伴う続発緑内障が合併した可能性を否定できない.本症例は,強膜炎および眼圧上昇により眼科を受診し,耳鼻咽喉科,膠原病内科での精査によりRPの確定診断となった.両眼の強膜炎に加えて耳介の発赤,腫脹を認める場合は,RPを考慮する必要がある.また,RPでは従来報告されてきた合併症に加え,眼窩脂肪容積の増大や続発緑内障にも注意が必要である.本論文の要旨は第21回緑内障学会(福岡)で発表した.文献1)GergelyPJr,PoórG:Relapsingpolychondritis.BestResClinRhematol18:723-738,20042)BradleyLI,LiesengangTJ,MichetCJ:Ocularandsystemicfindingsinrelapsingchondritis.Ophthalmology93:681-689,19863)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:Prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19764)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.reportoftencases.TheLaryngoscope89:929-946,19795)陳栄家,鹿児島武志,石井康雄ほか:甲状腺眼症における眼窩内脂肪組織の病理組織学的検討.日眼会誌94:846-855,19906)CrovatoF,NigroA,MarchiRDetal:Exophthalmosinrelapsingpolychondritis.ArchDermatol116:383-384,19807)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleritis:clincalfeaturesandtreatmentresults.AmJOphthalmol130:469-476,20008)OhtsukaK,NakamuraY:Open-angleglaucomaassociatedwithGravesdisease.AmJOphthalmol129:613-617,20009)DevS,DamjiKF,DeBackerCMetal:Decreaseinintraocularpressureafterorbitaldecompressionforthyroidorbitopathy.CanJOphthalmol33:314-319,1998図1初診時前眼部写真左:右眼,右:左眼.両眼ともに結膜,強膜に充血を認めた.図2頭部MRI:T1強調画像(水平断)高信号を示す組織が眼窩内に充満し,眼球突出を認めた.図3頭部MRI:T2強調画像(冠状断)高信号を示す組織が眼窩内に充満していた.図4頭部MRI:STIR(冠状断)眼窩内のT1強調画像で高信号であった部分は一部等信号な部分を認めたが,全体的に抑制されていた.〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0190160-61810/あ160910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(141)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610671068あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(142)(143)あたらしい眼科Vol.33,No.7,20161069

再発性多発性軟骨炎の1 例

2010年12月31日 金曜日

1714(82あ)たらしい眼科Vol.27,No.12,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(12):1714.1716,2010cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis)は,全身の軟骨組織を冒す自己免疫疾患で,II型コラーゲンに対する自己免疫が発症に関与しているといわれている.1976年にMcAdamら1)が両側耳介軟骨炎,非びらん性血清反応陰性多発関節炎,鼻軟骨炎,眼の炎症症状,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害が6大症状とする診断基準を報告した.今回25年間虹彩炎・強膜炎などの眼症状をくり返した症例で,再発性多発性軟骨炎と診断されたまれな1例を経験したので報告する.I症例患者:51歳の男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:4歳時にアデノイド摘出.家族歴:父:筋萎縮性側索硬化症(ALS).母:Sjogren症〔別刷請求先〕能谷紘子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学病院眼科Reprintrequests:HirokoNotani,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN再発性多発性軟骨炎の1例能谷紘子*1島川眞知子*1豊口光子*1菅波由花*1上村文*1幸野敬子*2堀貞夫*1*1東京女子医科大学病院眼科*2幸野メディカルクリニック眼科ACaseofRelapsingPolychondritisHirokoNotani1),MachikoShimakawa1),MitsukoToyoguchi1),YukaSuganami1),AyaUemura1),KeikoKono2)andSadaoHori1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TokyoWomen’sMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KonoMedicalClinic長期に遷延していたぶどう膜炎の原因検索において,再発性多発性軟骨炎と診断された1例を経験した.症例は51歳の男性.25歳頃より,両眼のぶどう膜炎,両耳介の変形,鼻根部の発赤・腫脹・疼痛をくり返していたが精査をされなかった.50歳時に右眼視力低下を主訴に東京女子医科大学眼科を初診し,視力は右眼(0.3),左眼(0.8),両眼に眼球突出,輪部に沿った全周の著明な強膜菲薄化と角膜混濁があり,右眼には,フィブリン塊を伴う虹彩炎,虹彩後癒着を認めた.耳介軟骨炎,鼻軟骨炎,ぶどう膜炎,気管軟骨炎,感音性難聴を認め,再発性多発性軟骨炎と診断した.再発性多発性軟骨炎は全身の軟骨組織を冒すまれな自己免疫疾患で,耳介軟骨や鼻中隔軟骨,気管軟骨,眼球,関節などに多彩な症状を呈する.生命予後は不良であり,眼合併症による視機能低下を予防するためにも早期診断,治療が重要である.Wereportararecaseofchronicuveitisassociatedwithrelapsingpolychondritis.Thepatient,a51-year-oldmalewitha25-yearhistoryofbilateralrecurrentuveitis,hadbilateralauriculardeformityaccompaniedbyrecurrentnasalinflammation,butnofurtherinvestigationhadbeenconducted.Heconsultedourclinicwithchiefcomplaintofdecreasedvision.Hiscorrectedvisualacuitywas0.3ODand0.8OS.Exophthalmos,scleralthinningandcornealopacitywereobservedbilaterally.Inaddition,iritiswithfibrinformationandposteriorsynechiawaspresentintherighteye.Ocularfindings,togetherwithassociatedsystemicfindingsofchondritisofauricles,nasalcartilage,bronchusandsensorineuraldeafness,ledtothediagnosisofrelapsingpolychondritis.Arareautoimmunediseaseaffectingcartilagetissuessuchasauricularcartilage,nasalseptalcartilage,trachealcartilages,theeyeballandarticulation,relapsingpolychondritisshouldbediagnosedandtreatedassoonaspossible.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(12):1714.1716,2010〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,ぶどう膜炎,強膜炎,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎.relapsingpolychondritis,uveitis,scleritis,chondritisofauricles,nasalcartilage.(83)あたらしい眼科Vol.27,No.12,20101715候群疑い,子宮癌,狭心症.現病歴:25歳頃より,両眼のぶどう膜炎を発症し,約3カ月に一度の割合で,再燃していた.同時期より両耳介の変形,鼻根部の発赤・腫脹・疼痛をくり返し,45歳頃には突発性難聴と診断され,ステロイド治療を受けた.25年間特に精査をされずに近医でステロイドの内服,局所投与で加療されていた.50歳時に転院をきっかけに,Wegener肉芽腫などの膠原病が疑われ,精査目的に東京女子医科大学眼科初診となった.初診時所見:1)眼所見:矯正視力は右眼0.08(0.3×.3.50D(cyl.1.25DAx20°),左眼0.30(0.8×.1.75D(cyl.2.00DAx140°)で,眼圧は右眼4mmHg,左眼10mmHgであった.Hertel眼球突出計で両眼ともに19mmと眼球突出がみられた.前眼部では両眼とも輪部から後方約6mm幅で全周にわたってぶどう膜が透見されて,強膜菲薄化が著明であった(図1).角膜周辺部には全周に硬化性角膜炎を示唆する実質混濁があり(図2),以前に強膜炎が持続していたことが推測された.右眼前房内炎症細胞2+あり,前房内下方に多くのフィブリン塊,さらに5時方向に虹彩後癒着を認めた.両眼とも虹彩紋理が粗になっていた.中間透光体に中等度白内障を認め,右眼虹彩後癒着のため散瞳不良であり,両眼にびまん性の硝子体混濁で透見困難であったが,眼底には明らかな出血,滲出斑,血管炎などはなかった.その他の所見として,両耳介の変形(図3),鞍鼻(図4)を認め,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎が疑われた.2)臨床検査所見:血液検査で白血球10,700/mm3,CRP(C反応性蛋白)10.41mg/dl,赤沈1時間値92mm,2時間値117mm,Ig(免疫グロブリン)G:2,264mg/dl,IgA:556mg/dl,IgE:210mg/dl,C3:145mg/dlと高値であったが,抗核抗体や抗白血球細胞質抗体(PR3-ANCA,MPOANCA)は陰性であった.その他の血液,生化学所見に特記すべき異常は認めなかった.3)頭部CT(コンピュータ断層撮影)所見:前頭洞,篩骨洞の粘膜肥厚を認め副鼻腔炎が示唆された.4)胸部CT所見:両側気管支の石灰化,内腔狭窄を認めた.5)気管支鏡検査所見:喉頭軟骨,輪状軟骨,主気管・気管支軟骨の浮腫を認めた.6)耳鼻科的所見:聴力検査で両側感音性難聴であり,耳介軟骨炎,鼻軟骨炎を認めた.Wegener肉芽腫に典型的な膿性,血性鼻汁,鼻中隔穿孔などの所見は認めず,特異的なANCAも陰性であり,当初疑ったWegener肉芽腫は否定的であった.以上より両耳介軟骨炎,鼻軟骨炎(鞍鼻),ぶどう膜炎,気管軟骨炎,難聴を認めることにより再発性多発性軟骨炎と診断された.図1前眼部両眼ともに19mmと両眼球突出が著明であり,前眼部は両眼ともに輪部から約6mmにわたり全周にぶどう膜が透見されて,強膜菲薄化が著明である.(図1~4は患者の同意のもにと写真を掲載)図2右眼周辺角膜実質混濁両眼ともに角膜輪部から約1mm幅で角膜実質混濁を認め,硬化性角膜炎を疑う.図4鞍鼻鼻背部が陥凹しており,鞍鼻を呈している.図3左耳介の変形左耳介の腫脹・変形.右耳介も同様の変形を認めた.1716あたらしい眼科Vol.27,No.12,2010(84)経過:内科で両側気管軟骨炎に対してプレドニゾロン(プレドニンR)60mg内服治療を開始した.ぶどう膜炎・強膜炎に対して,局所ステロイド治療,トロピカミド・フェニレフリン点眼液(ミドリンPR),0.05%シクロスポリン点眼薬を開始した.虹彩炎の再燃をくり返し,点眼加療にて改善を認めたが,強膜菲薄化,眼球突出,硝子体混濁に改善はみられなかった.現在白内障の進行により,徐々に視力低下をきたしているが,強膜の状態などから慎重に手術を検討予定である.全身状態はステロイド療法でやや緩解はしたが,依然として,気道軟骨炎,関節痛,耳漏などに加え,最近は帯状疱疹や呼吸器真菌症を併発し,今後とも他科での加療が必要である.II考按本症例は両側耳介軟骨炎,鼻軟骨炎,ぶどう膜炎,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害を認めた.1976年にMcAdamが報告した再発性多発軟骨炎の診断基準を,1979年にDamianiら2)が改定し,両側耳介軟骨炎,非びらん性血清反応陰性多発関節炎,鼻軟骨炎,眼の炎症症状,気道軟骨炎,蝸牛・前庭機能障害の6項目中,3項目以上あれば診断基準を満たすと改定した.本症例は5項目が当てはまり,再発性多発性軟骨炎の確定診断に至った.再発性多発性軟骨炎は,全身の軟骨組織やムコ多糖類を多く含む組織を冒すまれな自己免疫疾患である.II型コラーゲンに対する自己免疫が発症に関与しているともいわれている3).耳介軟骨や鼻中隔軟骨,気管軟骨,眼球,多関節などに多彩な症状を呈する特徴がある.海外では,本症は50~70%に眼症状が合併すると報告されている1)が,わが国では,谷村ら4)が眼科領域の報告14例をまとめたところ,上強膜炎は8例(57%),ぶどう膜炎は6例(43%),視神経乳頭炎は5例(36%),角膜浸潤は4例(29%)に合併していた.欧米では前房蓄膿がみられたという報告5)があるが,ぶどう膜炎や強膜炎の病型や頻度はまだ明らかではない.そのほかにまれではあるが重篤な後部強膜炎,網膜静脈炎,漿液性網膜.離,視神経萎縮などの報告がある4,6).気管軟骨病変が進行すると,肺炎や気管閉塞による窒息が生じることがあり,本症の5年生存率は70~80%といわれている7).また,慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患を合併することもあり症状はさらに多彩,複雑になる.本症の治療で主体をなすのは現在のところはステロイドの全身投与であり,ステロイド使用中の再燃例では,アザチオプリンやシクロフォスファミドなどの免疫抑制薬を併用することがある8).本症例は眼症状が初発であり,25年間ぶどう膜炎をくり返した.すでに強膜の菲薄化が著明であり,眼球穿孔も危惧された.これは,強膜に軟骨の主成分であるムコ多糖類が存在しているため,強膜のくり返す炎症の後に菲薄化が生じたと考えられる9).本症例のようにぶどう膜炎に対してステロイド内服・点眼を漫然と続けており,精査されずに,診断がついていないこともまれではない.実際に,眼症状・耳痛・呼吸苦で各診療科を受診していても,生前には診断がついていないままで,窒息による心肺停止に至った1例の報告もある10).さらに,本症例は,ステロイド内服治療が開始された後に,肺真菌症や顔部帯状疱疹など,ステロイドの副作用と考えられる合併症を起こしている.そのため,他科と連携して,注意深く治療・経過観察していかなければならない.まれではあるものの,予後不良であるので,強膜炎,ぶどう膜炎をくり返す症例では,眼症状だけでなく,耳や鼻などの多臓器所見にも注意深い観察が必要で,原因疾患として本症も念頭におき,早期診断・早期治療をすることが重要である.文献1)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19762)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,19793)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondritis.NEnglJMed299:1203-1207,19784)谷村真知子,横山勝彦,安部ひろみほか:後部強膜炎を合併した再発性多発軟骨炎の1例.臨眼61:1299-1303,20075)AndersonNG,Garcia-Valenzuela,MartinDF:Hypopyonuveitisandrelapsingpolychondritis.Ophthalmology111:1251-1254,20046)田邊智子,山本禎子,上領勝ほか:硝子体手術によりぶどう膜炎が軽快した再発性多発性軟骨炎の1例.臨眼61:215-219,20077)岡見豊一,松永裕史,白数純也ほか:多彩な眼症状を示した再発性多発性軟骨炎の症例.臨眼57:867-871,20038)渡邉紘章,平松哲夫,松本修一:視力障害を主訴とした再発性多発性軟骨炎の1例.内科98:939-941,20069)田中才一:眼症状を初発とし診断に苦慮した再発性多発性軟骨炎の一症例.眼臨紀1:662-666,200810)山口充,間藤卓,福島憲治ほか:窒息による心肺停止で搬入された再発性多発性軟骨炎の1例,日救急医会誌19:972-978,2008***

片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1558あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)558(142)0910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):558563,2010cはじめに再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であるが,多彩な眼症状をきたす.眼症状の合併は約5060%と高率とされているが,虚血性視神経症の報告は少ない1,2).今回,筆者らは片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎を経験したので報告する.I症例患者:56歳,男性.主訴:左眼霧視.現病歴:2005年6月17日夕方より左眼霧視を自覚し近医眼科受診し,左眼視神経乳頭腫脹を指摘され,近医脳外科でMRI(磁気共鳴画像)などの精査を受けるも異常所見なく,6月27日金沢大学附属病院(以下,当院)眼科受診.眼症状出現前後から微熱,顎関節痛・両肩関節痛および両膝関節痛を認め,近医内科でリウマチと診断されていた.眼症状出現以降,眼痛は認めなかった.家族歴:特記すべきことなし.〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学(眼科学)Reprintrequests:ShinjiOhkubo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualSciences,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicine,13-1Takara-machi,Kanazawa920-8641,JAPAN片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎中野愛*1大久保真司*1東出朋巳*1杉山和久*1川野充弘*2*1金沢大学医薬保健学域医学類視覚科学(眼科学)*2金沢大学附属病院リウマチ・膠原病内科RelapsingPolychondritiswithUnilateralAnteriorIschemicOpticNeuropathyAiNakano1),ShinjiOhkubo1),TomomiHigashide1),KazuhisaSugiyama1)andMitsuhiroKawano2)1)DepartmentofOphthalmology&VisualSciences,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,2)DivisionofRheumatology,DepartmentofInternalMedicine,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience片眼の虚血性視神経症で発症した再発性多発性軟骨炎を経験したので報告する.症例は56歳,男性で,左眼乳頭の発赤・腫脹,フルオレセイン蛍光造影で視野に対応する乳頭の楔状充盈欠損を認め前部虚血性視神経症と診断,その後に耳介の発赤・腫脹が出現し,耳介軟骨炎と関節炎と眼炎症の所見を認めたことから再発性多発性軟骨炎と診断した.ステロイド治療で視神経乳頭浮腫および全身状態は改善し,現時点で再燃は認めていない.左眼の視神経乳頭浮腫が消退後に視神経乳頭陥凹拡大を認めた.再発性多発性軟骨炎は血管炎を伴うこと,視神経乳頭陥凹を認めたことや非動脈炎性虚血性視神経症のリスクファクターを有しないことから,動脈炎による前部虚血性視神経症と考えられた.動脈炎性前部虚血性視神経症の原因の大部分は巨細胞性動脈炎であるが,比較的若い年齢で動脈炎性虚血性視神経症を認めた場合は再発性多発性軟骨炎も鑑別疾患として考慮する必要がある.Weobservedacaseofrelapsingpolychondritiswithunilateralanteriorischemicopticneuropathy(AION).Thepatient,a56-year-oldmale,haddevelopedAIONinthelefteyeandsubsequentlyexperiencedbilateralswell-ingandrednessinhisauricles.Healsoshowedchondritisoftheauricles,inammatorypolyarthritisandocularinammation,resultinginadiagnosisofrelapsingpolychondritis.Steroidtherapyinducedimprovementintheopticdiscedemaandconstitutionalcondition;thedisorderhasnotrecurred.Fluoresceinangiographydisclosedseg-mentsofabsentllingofthedisc.Whentheopticdiscedemaresolved,opticdisccuppingenlargementwasnoted.Vasculitiscanoccurinrelapsingpolychondritis.Inthiscase,thoughopticdisccuppingenlargementwasobserved,noriskfactorsfordevelopmentofnon-arteriticAIONwerenoted.Wethereforefeelthatthiscasecouldbearterit-icAION.However,arteriticAIONisalmostalwaysduetogiantcellarteritis,weshoweddierentiaterelapsingpolychondritisincasesofrelativelyyoungindividualswithAION.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):558563,2010〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,虚血性視神経症,視神経乳頭陥凹拡大,動脈炎,ステロイド治療.relapsingpolychondritis,ischemicopticneuropathy,opticdisccuppingenlargement,arteritis,steroidtherapy.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010559(143)既往歴:2002年3月心筋梗塞.初診時所見:視力は右眼0.2(1.5×2.75D(cyl1.5DAx70°),左眼0.1p(1.2×2.0D(cyl1.75DAx90°)で,眼圧は右眼18mmHg,左眼14mmHg.対光反射は右眼正常,左眼減弱,相対的入力瞳孔反応(relativeaerentpupil-larydefect:RAPD)は左眼で陽性,中心フリッカ値は右眼42Hz,左眼30Hz.前眼部は両眼の浅在性の上強膜血管の拡張と蛇行を認め,拡張と蛇行した血管は可動性がみられたため上強膜炎と判断した.中間透光体は異常なし.眼底は右眼正常で,左眼は乳頭発赤を認め,視神経乳頭の境界不明瞭であった(図1A,B).蛍光眼底造影:インドシアニングリーン蛍光造影では両眼の視神経乳頭周囲に脈絡膜循環不全および充盈欠損が認められ,フルオレセイン蛍光造影では左眼の早期で乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延(図1C)および乳頭上下での楔状充盈欠損がみられ(図1D),後期では視神経乳頭の他の部分が過蛍光を図1初診時の眼底写真とフルオレセイン蛍光造影A:眼底写真(右眼).特に異常所見なし.B:眼底写真(左眼).視神経乳頭発赤認め,境界不明瞭.C:左眼フルオレセイン蛍光造影(注入19秒後).乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延(矢頭で囲まれた部位)を認めた.D:左眼フルオレセイン蛍光造影(注入1分10秒後).乳頭上下での楔状充盈欠損(点線で囲まれた部位)を認めた.図2Goldmann視野検査A:初診時(2005年6月27日)左眼.求心性視野狭窄および水平半盲様の下方の視野欠損を認めた.B:2005年10月3日左眼.初診時と比較して下方の視野は広がり改善しているが,初診時に検出されていない上方の弓状暗点(矢印)が認められた.AB———————————————————————-Page3560あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(144)示した.視野検査:Humphrey視野検査では左眼は全体的な感度低下を認め,Goldmann視野検査では左眼は求心性視野狭窄および水平半盲様の下方の視野欠損を認めた(図2A).右眼では異常は認められなかった.Bモード,UBM(超音波生体顕微鏡):強膜肥厚など異常所見なし.造影MRI(2005/7/11施行):視神経および強膜の信号強度の異常および造影効果を認めず,視神経炎や強膜炎は否定的であった(図3A,B).本症例では以上のように初診時検査で,眼底所見で左眼乳頭の発赤,腫脹がみられ,フルオレセイン蛍光造影早期で左眼乳頭周囲の脈絡膜の充盈遅延および乳頭の楔状充盈欠損,後期で左眼乳頭の楔状充盈欠損部以外の部位の過蛍光を認め,左眼視野に上方の楔状充盈欠損部に対応する下方の水平半盲様の視野欠損を認めたため,左眼の前部虚血性視神経症と診断した.(またMRI,Bモード,UBMの所見から強膜炎や視神経炎の存在は否定的であった.)臨床検査結果:WBC(白血球)11,800/μl(正常値3,3008,800/μl),RBC(赤血球)399×104/μl(4.35.5×104/μl),Hb(ヘモグロビン)12.4g/dl(13.517.0g/dl),Ht(ヘマトクリット)37.5%(39.751.0%),Plts(血小板)36.1×104(1335×104/μl),血沈114mm/1時間(10mm以下),CRP(C反応性蛋白)9.1mg/dl(<0.3mg/dl),抗核抗体<20倍(20倍未満),抗SS-A抗体<10倍(10倍未満),抗SS-B抗体<15倍(15倍未満),抗カルジオリピン抗体<10.0U/ml(10.0U/ml未満),MPO-ANCA(抗好中球細胞質抗体)<10EU(10EU未満),リウマチ因子134IU/ml(<20IU/ml),Na(ナトリウム)139mEq/l(138146mEq/l),K(カリウム)4.8mEq/l(3.65.0mEq/l),Cl(塩素)101mEq/l(99108mEq/l),UA(尿酸)8.2mg/dl(3.47.9mg/dl),Cr(クレアチニン)1.49mg/dl(0.501.30mg/dl),g-GTP(gグルタミル・トランスペプチターゼ)171IU/l(1148IU/l),AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)44IU/l(1048IU/l),ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)100IU/l(350IU/l).治療および経過:7月4日全身精査目的に当院リウマチ内科入院.7月7日から左耳介に疼痛を伴う発赤・腫脹・疼痛が出現し(図4),7月9日からは右耳介にも同様の症状が出現した.両耳介軟骨炎,炎症性多発関節炎,眼症状から再発性多発性軟骨炎と診断し,全身の炎症と左眼の虚血性視神経症の治療のため7月14日からメチルプレドニゾロン500mg点滴静注を3日間施行,7月17日からはプレドニゾロンを30mg内服として,プレドニゾロン漸減投与している(図5).ステロイド投与後,炎症反応(CRPや血沈)は低下し,AB3MRI(2005年7月11日施行)A:造影脂肪抑制T1強調像.アーチファクトにより左眼窩内の脂肪が抑制されていないが,視神経腫大や強膜肥厚はみられない.また,視神経および強膜に造影効果はみられない.B:脂肪抑制T2強調像.アーチファクトにより左眼窩内の脂肪が抑制されていないが,視神経には高信号はみられない.図4耳介の写真左耳介の発赤,腫脹を認めた.耳介下端で軟骨組織のない部位(耳垂)には発赤や腫脹の所見は認めていない.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010561(145)7月19日には耳介の発赤や上強膜炎は消失した.左眼視神経乳頭の発赤・腫脹も7月21日には消失したが,乳頭蒼白となった(図6).10月3日の視野検査では初診時と比較して改善しているが,下方視野欠損と初診時に検出されていない上方の弓状暗点が認められた(図2B).これらの視野変化は初診時のフルオレセイン蛍光造影での視神経乳頭の上下の楔状充盈欠損とほぼ対応している(図1C).ステロイド内服漸減で炎症の再燃なくコントロールされているが,その後の視野検査では改善なく,左眼の下方視野欠損と上方の弓状暗点は残存している.II考按再発性多発性軟骨炎は全身の軟骨組織と軟骨と共通の成分を有する眼や心弁膜などに慢性・再発性の炎症および破壊を特徴とする疾患である.再発性多発性軟骨炎の診断基準はMcAdamら2)が提唱したものをDamianiら3)が適応を拡大解釈したものを用いる場合が多い(表1).本症例では軟骨生検は実施していないが,耳介軟骨炎,関節炎と眼炎症の所見を認めていることからDamianiらの基準を満たし再発性多発性軟骨炎と診断した.再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であるが,多彩な眼症状をきたす.再発性多発性軟骨炎の眼症状の合併は約5060%と高率とされている1,2).強膜炎・上強膜炎の合併の頻度が最も高く,ほかに結膜炎や虹彩炎の割合も高いが視神経症の報告は少なく1,2),視神経炎は12例,虚血性視神経は4症例のみである4).再発性多発性軟骨炎の病因は不明だが,軟骨組織に対する表1再発性多発性軟骨炎の診断基準McAdamの診断基準1)両耳介の再発性軟骨炎2)非びらん性血清反応陰性多発性関節炎3)鼻軟骨炎4)眼の炎症5)気道における軟骨炎6)蝸牛あるいは前庭障害,聴力障害,耳鳴り,めまいこのうち3項目以上満たし軟骨生検で組織学的所見を認める.Damiani&Levineの改正基準1)McAdamの基準を少なくとも3項目あるいは2)少なくとも1項目の基準項目と軟骨炎症を示す病理組織像3)少なくとも解剖学的に隔たった2カ所に軟骨炎があり,ステロイドに反応すること図62005年7月21日の左眼底写真2005年7月21日には左眼視神経乳頭の発赤,腫脹は消失したが,乳頭蒼白化を認めた.図7HRTIIA:2005年7月12日左眼.視神経乳頭面積は1.76mm2,視神経乳頭陥凹面積は0.68mm2.B:2006年9月19日左眼.視神経乳頭陥凹面積は0.75mm2.cuparea0.75mm22006/9/19discarea1.76mm2cuparea0.68mm2cup/discarearatio0.382005/7/12BANHByNNIS$31NHE%0図5入院後の経過2005年7月14日16日にステロイドパルス(メチルプレドニゾロン500mg点滴静注×3日間)施行後,7月17日からプレドニゾロン内服を漸減投与.ステロイド投与後,血沈,CRPは低下し,現在まで再燃は認めていない.———————————————————————-Page5562あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(146)系統的疾患であり,ステロイドが有効であることなどから自己免疫疾患と考えられている.再発性多発性軟骨炎では,血清中に抗II型コラーゲン抗体あるいは抗IX,XI型コラーゲン抗体が存在することが認められている5).その他,軟骨成分のmatrilin-1に対する免疫応答が認めるとの報告もある6).したがって,II型あるいはIX,XI型コラーゲン,matrilin-1に対する自己免疫応答が病因に関与していると思われる.II型コラーゲンは硝子体や関節軟骨などを構成する硝子軟骨に局在し,IX型コラーゲンは硝子体,角膜,硝子軟骨に存在し,XI型コラーゲンは硝子軟骨に分布する7).また,matrilin-1は成人では耳介,鼻,気管,肋軟骨に限って認められる抗原である6).II型コラーゲンやXI型コラーゲンは眼組織の硝子体や角膜にも存在することから,再発性多発性軟骨炎における眼球組織の障害に関与している可能性が考えられる.本症例のように再発性多発性軟骨炎に虚血性視神経症を合併した症例の報告は,海外でのHermanら8)とKillianら9)による報告での2症例と国内での竹内ら10)と三国ら11)による症例報告の2例の合計4例のみである.そのなかでフルオレセイン蛍光造影の記載があるのは竹内らの症例報告の1例のみである.虚血性視神経症は視神経の梗塞であり,動脈炎性虚血性視神経症と非動脈炎性虚血性視神経症に大別される.動脈炎性虚血性視神経症は,巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)などで眼動脈およびその分枝である後毛様体動脈,網膜中心動脈に動脈炎が起き,血管内腔の炎症性閉塞の結果,循環障害から視神経の梗塞に至る病態である12).非動脈炎性虚血性視神経症は小乳頭などの視神経乳頭の解剖学的危険因子および高血圧や糖尿病などの視神経の循環障害を起こしうるさまざまな因子が複合的に関与し,発症するものである13).本症例ではHeidelbergRetinaTomograph-II(HRT-II)で測定した左眼視神経乳頭面積が1.76mm3(正常範囲1.632.43mm3)(図7A)と小乳頭ではなく,糖尿病や高血圧の既往はなく,非動脈炎性虚血性視神経症をきたすリスクは低いと思われる.非動脈炎性虚血性視神経症では視神経乳頭浮腫消退後の視神経乳頭陥凹拡大は程度も軽くて頻度も13%と報告されている14)が,動脈炎性前部虚血性視神経症では大部分の症例で視神経乳頭浮腫が消退後,緑内障と類似した視神経乳頭陥凹拡大を認めることを特徴としている13).本症例でもステロイド治療前の2005年7月12日にHRT-IIで測定した左眼視神経乳頭陥凹面積は0.68mm2,視神経乳頭浮腫消退後の2006年9月19日では0.75mm2と乳頭陥凹面積の拡大を認めており(図7A,B),また再発性多発性軟骨炎の約1割の症例に全身性血管炎の合併を認めるとされている15)こと,血沈が114mm/1時間と高値を示したことから,本症例では動脈炎により前部虚血性視神経症となった可能性が考えられる.本症例では糖尿病や高血圧などの基礎疾患はないが,眼症状出現以前に心筋梗塞をきたしており,全身性血管炎の関与も疑われる.強膜炎が後部に及ぶ場合,視神経周囲炎をきたし,二次的血流障害をきたすことも考えうる16,17)が,本症例ではBモードやMRIにて強膜炎は否定的であり考えにくい.本症例や過去の報告における再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症と巨細胞性動脈炎での前部虚血性視神経症と比較すると,発症時に血沈亢進,CRP上昇を認めることが多いことは共通するが,好発年齢は,巨細胞性動脈炎が7080歳代と高齢である18)のに対して,再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症は本症例が発症時56歳で過去の報告でも4163歳と比較的若い点が異なる(非動脈炎性虚血性視神経症の好発年齢は5070歳代である).また,予後については,巨細胞性動脈炎での前部虚血性視神経症は視力障害が重篤な場合が多く,0.01以下の症例が少なくないが,再発性多発性軟骨炎での前部虚血性視神経症は,本症例のように軽度のものから失明に至る重篤な場合とさまざまである.筆者らは虚血性視神経症を合併した再発性多発性軟骨炎を経験した.原因としては,動脈炎性虚血性視神経症と考えられる.再発性多発性軟骨炎は比較的まれな疾患であり,日本では動脈炎性虚血性視神経症もまれであるが,比較的若い年齢の虚血性視神経症を認めた場合は再発性多発性軟骨炎も鑑別疾患として考慮する必要がある.文献1)IssakBL,LiesegangTJ,MichetCJJr:Ocularandsys-temicndinginrelapsingpolychondritis.Ophthalmology93:681-689,19862)McAdamLP,O’HanlanMA,BluestoneRetal:Relapsingpolychondritis:prospectivestudyof23patientsandareviewoftheliterature.Medicine55:193-215,19763)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis-reportoftencases.Laryngoscope89:929-946,19794)HirunwiwatkulP,TrobeJD:Opticneuropathyassociatedwithperiostitisinrelapsingpolychondritis.JNeurooph-thalmol27:16-21,20075)AlsalamehS,MollenhauerJ,ScheupleinFetal:Preferen-tialcellularandhumoralimmunereactivitiestonativeanddenaturedcollagentypesIXandXIinapatientwithfatalrelapsingpolychondritis.JRheumatol20:1419-1424,19936)BucknerJH,WuJJ,ReifeRAetal:Autoreactivityagainstmatrilin-1inapatientwithrelapsingpolychondri-tis.ArthritisRheum43:939-943,20007)塩沢俊一:コラーゲン.膠原病学改訂2版,p211-231,丸善株式会社,20058)HermanJH,DennisMV:Immunopathologicstudiesinrelapsingpolychondritis.JClinInvest52:549-558,1973———————————————————————-Page6あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010563(147)9)KillianPJ,SusacJ,LawlessOJ:Opticneuropathyinrelapsingpolychondritis.JAMA239:49-50,197810)竹内文友,大原孝和,宇治幸隆:虚血性視神経症を伴った反復性多発軟骨炎の1例.眼臨75:1383-1386,198111)三国信啓,戸田裕隆,愛川裕子ほか:再発性多発性軟骨炎に発症した急性閉塞隅角緑内障及び虚血性視神経症の1例.眼臨84:1671,199012)HenkindP,CharlesNC,PearsonJ:Histopathologyofischemicopticneuropathy.AmJOphthalmol69:78-90,197013)HayrehSS:Ischemicopticneuropathy.ProgRetinEyeRes28:34-62,200914)TrobeJB,GlaserJS,CassadyJC:Opticatrophy.Dieren-tialdiagnosisbyfundusobservationalone.ArchOphthal-mol98:1040-1045,198015)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,199816)林恵子,藤江和貴,善本三和子ほか:後部強膜炎に合併したと考えられた視神経周囲炎の4例.臨眼60:279-284,200617)OhtsukaK,HashimotoM,MiuraMetal:Posteriorscleri-tiswithopticperineuritisandinternalophthalmoplegia.BrJOphthalmol81:514,199718)HayrehSS,PodhajskyPA,ZimmermanB:Ocularmani-festationsofgiantcellarteritis.AmJOphthalmol125:509-520,1998***

片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例

2009年1月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)1090910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(1):109112,2009cはじめに再発性多発性軟骨炎(relapsingpolychondritis:RP)は全身のムコ多糖やプロテオグリカンを多く含む組織(眼組織,鼻軟骨,耳介軟骨,内耳,喉頭気管支軟骨,関節軟骨,心弁膜,全身血管,腎臓など)に再発性の炎症およびそれに伴う組織の変形,破壊を生じる原因不明の炎症性疾患で,多彩な局所症状や全身症状を合併する.眼組織においては本疾患の5060%で炎症,変性や機能異常などの多彩な症状を呈し,全病期においては耳介軟骨炎,関節炎についで高い発症率である.本疾患の発症率は3.5人/100万人1)とまれであるが,眼組織において日常経験するあらゆる炎症所見に関係している可能性があり,適切な治療を行ううえで早期に本疾患を疑うことは重要であると考えられる.今回筆者らは片眼の虹彩炎〔別刷請求先〕内田真理子:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野25番地公立南丹病院眼科Reprintrequests:MarikoUchida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NantanGeneralHospital,25YagiUeno,Yagi-cho,Nantan629-0197,JAPAN片眼の高眼圧を伴う虹彩炎が初発症状であった再発性多発性軟骨炎の1例内田真理子*1伴由利子*1吉田祐介*1土代操*1山本敏也*2*1公立南丹病院眼科*2同耳鼻咽喉科ACaseofRelapsingPolychondritisOccurredbyUnilateralIritiswithOcularHypertentionMarikoUchida1),YurikoBan1),YusukeYoshida1),MisaoDoshiro1)andToshiyaYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofOtolaryngology,NantanGeneralHospital70歳,男性,右眼視力低下を自覚,右眼虹彩炎と高眼圧があり,Posner-Schlossman症候群を疑われた.その後両上強膜炎および右耳介軟骨炎を発症し,プレドニゾロンの内服治療(30mg/日)に反応した.診断基準である,典型的な多発する炎症,ステロイド反応性の2項目を満たしたことにより再発性多発性軟骨炎と診断した.高眼圧の発症から診断までは約半年であった.初期の血液検査ではCRP(C反応性蛋白)値の上昇など,急性炎症の存在を示したが,抗Ⅱ型コラーゲン抗体の測定はステロイド治療の開始後に行われたため陰性であった.以後再発,寛解をくり返し,症状増悪時にはステロイドの増量が必要であった.ステロイドの減量をめざし,コルヒチン1mg/日またはシクロスポリン300mg/日内服を併用したが改善せず,現在もプレドニゾロン15mg/日内服を継続している.症状はほぼ軽快しているが,今後ステロイド内服に伴う眼合併症および全身合併症にも注意をしていく必要がある.A70-year-oldmalewithinitialsymptomsofvisualacuityloss,iritisandocularhypertensioninhisrighteyewassuspectedofhavingPosner-Schlossmansyndrome.Subsequently,hesueredepiscleritisinbotheyesandauricularchondritisintheleftear;theyrespondedwelltooralprednisolone30mg/d.Hewasdiagnosedwithrelapsingpolychondritis,inviewofthetypicalepisodeofcartilaginoustissueinammationanditsresponsetocor-ticosteroidtherapy.Itwasalmost6monthsfromtherstsymptomstoourdiagnosis.Laboratoryevaluationinitial-lyrevealedacuteinammatorychanges;circulatingautoantibodiestotypeIIcollagenwerenegativewhiletakingprednisolone15mg/d.Relapseagainoccurred,atwhichpointwehadtoincreasetheprednisolone.Wetriedadmin-isteringcolchicine1mg/dorcyclosporine-A300mg/dincombinationwithprednisolone,buttheyhadnorecogniz-ableeect.Thepatientisnowtakingprednisolone15mg/dandsymptomshavealmostcleared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(1):109112,2009〕Keywords:再発性多発性軟骨炎,高眼圧,上強膜炎,虹彩炎,耳介軟骨炎,ステロイド療法,抗Ⅱ型コラーゲン抗体.relapsingpolychondritis,ocularhighpertentsion,episcleritis,iritis,auricularchondritis,corticosteroidtherapy,circulatingautoantibodiestotypeⅡcollagen.———————————————————————-Page2110あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(110)に伴う高眼圧の発症後に両上強膜炎を呈した後,右耳介軟骨炎を合併し,本疾患の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:70歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2005年1月6日,上記主訴にて近医を受診したところ,右眼眼圧46mmHgと上昇があり,軽度の虹彩炎を伴いPosner-Scholssman症候群の診断となった.眼圧は眼圧下降薬点眼にて20mmHg前後にコントロールされたが,経過中両上強膜炎を発症し2005年3月12日精査目的で当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.1(1.0×+2.5D(cyl1.25DAx90°),左眼0.15(0.7×+3.0D(cyl1.0DAx60°).眼圧はマレイン酸チモロール(チモプトールR)両眼2回/日,塩酸ドルゾラミド(トルソプトR)両眼3回/日点眼下にて,右眼20mmHg,左眼22mmHgであった.両眼とも角膜は透明で耳側上強膜に充血があり,前房内炎症はcell(+)であった.水晶体には中等度の白内障があったが,硝子体混濁や眼底には異常はなかった.隅角所見は両眼ともShaer分類grade2,右眼は3時-6時,左眼は8時-10時にかけ周辺虹彩前癒着の散在を認めたが結節は認めなかった.血液検査は白血球4,880/μlと正常値であったが,CRP(C反応性蛋白)4.1mg/dl,補体価58.7U,a1-globulin3.8%,a2-globulin9.7%,b-globulin11.1%,g-globulin25.4%,赤沈(60分値)52mmとそれぞれ上昇があり急性炎症を示す結果であった.リウマチ因子,抗核抗体や抗DNA抗体は陰性であった.その他ヘモグロビン12.6g/dl,MCV(平均赤血球容積)96.7,MCH(平均赤血球血色素量)32.3pg,MCHC(平均赤血球血色素濃度)33.4%と正球性正色素性貧血があった.II経過リン酸ベタメタゾンナトリウム(リンデロンR)両眼4回/日点眼にて約1カ月で両上強膜炎がほぼ軽快した.2005年5月右耳介の発赤腫脹を自覚(図1),耳鼻科にて右耳介軟骨炎と診断され,プレドニゾロン内服(30mg/日)を開始され,15mg/日まで漸減しながら約3カ月で寛解した.この時点で,上強膜炎およびステロイド投与に反応する耳介軟骨炎の合併を認めたことから,RPにおけるDamianiらの改革診断基準2)を満たし本症の診断となった.プレドニゾロン内服を10mg/日に漸減したところ両上強膜炎が再燃,プレドニゾロン20mg/日内服へ増量したが,再度10mg/日に自己判断で減量し,上強膜炎が悪化した(図2).そのため,プレドニゾロン15mg/日内服を継続して約1カ月で左眼症状はほぼ軽快した.抗Ⅱ型コラーゲン抗体検査は本人の承諾がなく未施行であったが,この時点で承諾を得られ調べたところ陰性であった.眼圧下降薬点眼下にて両眼圧が20mmHgを超えることもあり,ステロイド緑内障の発症を危惧しプレドニゾロン内服減量を目的にコルヒチン(コルヒチンR)1mg/日内服併用やシクロスポリン(ネオーラルR)300mg/日内服併用を試みたが,症状は改善せず,ステロイドの減量はむずかしかった.その後も強膜炎および耳介軟骨炎の再燃がみられ,さらに2007年9月左耳の耳鳴りを自覚,左内耳障害を疑い耳鼻咽喉科にてコハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(サクシゾンR)を500mg/日より経静脈的に漸減投与され(500mg/日×3日,400mg/日×2日,300mg/日×2日,200mg/日×図1右耳介軟骨炎2005年5月,右耳介の発赤,腫脹がある.図2右上強膜炎再燃時2005年12月,上強膜全体に強い充血がみられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009111(111)2日,100mg×3日),上強膜炎および耳鳴りともに軽快した.現在もプレドニゾロン内服(15mg/日)を続けている.現在までのところ関節炎や呼吸器症状はない.眼圧は眼圧下降薬点眼下にて正常範囲内にあり視野異常はないが,両眼ともに皮質白内障に進行している.以上の経過を図3に示す.III考按RPは1923年にJaksch-Wartenhorstにより報告されて以来現在までに約1,000例ほど報告されてきている1).本疾患の原因は明らかではないが,自己免疫疾患の合併率が30%と高率でありムコ多糖類を多く含む組織を選択的に障害することや,急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇を認めること3),ステロイドや各種の免疫抑制薬に有効性を認めることから免疫異常が原因であると考えられている.好発年齢は4060歳だが新生児から90歳代まで報告がある4).性差はなく,遺伝性は報告されていない.初発症状で高率なのが鼻軟骨炎の約20%,眼症状の19%,呼吸器症状の14%である.全病期において最も発症率が高いのは耳軟骨炎の95%,ついで多いのは関節炎の5080%となっており,眼疾患や鼻軟骨炎も約5060%とそれらについで高率に発症する.気道閉塞,肺炎,心弁膜症,腎障害などにより1986年では10年生存率が55%であったが,早期にステロイド治療などを開始されるようになったため1998年で8年生存率は94%となっている.眼症状として最も多いのが結膜炎,上強膜炎,強膜炎で鼻軟骨炎や関節炎と平行して再燃,寛解をくり返すことが多い.強膜炎の3.1%が本症と診断されたという報告もある5).その他ぶどう膜炎(25%),角膜炎(10%),網脈絡膜炎(10%),静脈分枝閉塞症,虚血性視神経症,眼瞼浮腫,眼窩偽腫瘍,外眼筋炎などが報告されており,全眼組織が本疾患で炎症を生じる可能性がある6).本疾患の診断は1976年にMcAdamらが提案した診断基準を,DamianiとLevineら2)が1979年に拡大したものが多く用いられている.診断においては,合併する局所症状の組み合わせが基準となるため,発症から診断までの期間は長く68%の症例で1年以上を要し,平均は2.9年ほどである.検査所見では赤沈値の亢進,CRP上昇やポリクローナルなグロブリン値上昇などの急性炎症の所見以外に正球性正色素性貧血を認めることが多い.その他急性期の約30%に抗Ⅱ型コラーゲン抗体3)が陽性になるため診断確定の補助となる.またCRPは症状の増悪,軽快に平行して変動することが多く本疾患の活動性の指標になりうる.しかし,抗Ⅱ型コラーゲン抗体は慢性関節リウマチやMeniere病でも陽性となるため本疾患特異的な抗体ではない7).本症例においては,片眼の軽度虹彩炎と眼圧上昇という非典型的な初発症状で発症したが,3カ月後に上強膜炎を,5カ月後には耳介軟骨炎を発症し,約6カ月と平均に比べ比較的早期に診断が可能であった.図3発症より現在までの経過上強膜炎耳介軟骨炎内右右右耳介耳介耳り———————————————————————-Page4112あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009(112)本症例は発症12カ月の時点で抗Ⅱ型コラーゲン抗体の上昇がなかったが,すでにステロイド内服を開始していたことや急性期でなかったことが一因であると思われる.また,CRP値は耳介軟骨炎の増悪に一致して上昇する傾向を認めたが,上強膜炎とは関連性がなかった.治療法としてのガイドラインはないが,抗炎症薬,免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬に有効性が報告されている.軽微な局所症状のみであれば非ステロイド系抗炎症薬8)の内服,より重症と判断される場合はダプソン9)やステロイド(0.51mg/kgより開始)の全身投与,ステロイドパルス療法の施行,その他シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン10),メソトレキセートやコルヒチン8)などの単独投与またはステロイドとの併用の有効性が報告されている.症状が強い場合シクロホスファミドやアザチオプリンを第一選択とする場合もある11).また,アザチオプリンやメソトレキセート内服併用がステロイド減量に有効だったとの報告もある12).眼局所に対してはステロイド結膜下注射なども有効である.本症例ではプレドニゾロンに反応したが,減量すると増悪や再発を起こした.コルヒチン併用,シクロスポリン併用については明らかな効果がなかった.本症例は,片眼の虹彩炎および高眼圧にて発症したが,後に上強膜炎および耳介軟骨炎を合併しRPの診断となった.現在のところ発症時の主症状が高眼圧であった報告はほかに認めないが,高眼圧を伴う軽度の虹彩炎であっても本疾患を疑う必要性があると思われる.本症例の治療においてはプレドニゾロン内服を減量すると増悪するため維持量を継続せざるをえず,ステロイド内服によるステロイド緑内障および全身合併症にも注意をしていくことが重要である.文献1)GergelyP,PoorG:Relapsingpolychondritis.BestPractResClinRheumatol18:723-738,20042)DamianiJM,LevineHL:Relapsingpolychondritis.Oph-thalmology93:681-689,19863)FoidartJM,AbeS,MartinGRetal:AntibodiestotypeIIcollageninrelapsingpolychondrites.NEnglJMed299:1203-1207,19784)ArundellFW,HaserickJR:Familialchronicatrophicpolychondritis.ArchDermatol82:439-440,19605)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis.AmJOphthalmol130:469-476,20006)PeeboBB,MarkusP,FrennessonC:Relapsingpolychon-dritis:ararediseasewithvaryingsymptoms.ActaOph-thalmolScand82:472-475,20047)垣本毅一,真弓武仁:抗Ⅱ型コラーゲン自己抗体.日本臨牀63:643-645,20058)MarkKA,FranksAGJr:Colchicineandindomethacinforthetreatmentofrelapsingpolychondritis.JAmAcadDermatol46:S22-24,20029)MartinJ,RoenigkHHJr,LynchWetal:Relapsingpoly-chondritiswithdapsone.ArchDermatol112:1272-1274,197610)OrmerodAD,ClarkLJ:Relapsingpolychondritistreat-mentwithcyclosporineA.BrJDermatol127:300-301,199211)LetkoE,ZarakisP,BaltatzisSetal:Relapsingpoly-chondritis:Aclinicalreview.SeminArthritisRheum31:384-395,200212)TrenthamDE,LeCH:Relapsingpolychondritis.AnnInternMed129:114-122,1998***