《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(7):833.836,2024cブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の処方パターンと短期効果藤嶋さくら*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CPrescriptionPatternofBrimonidine/RipasudilFixedCombinationEyeDropsSakuraFujishima1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(以下,BRFC)の処方パターンを調査し,変更症例では短期的な眼圧下降効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:BRFCが新規に投与されたC176例を対象とした.処方パターンを追加症例,変更症例,変更追加症例に分けた.変更症例では変更前の点眼薬を調査し,変更前点眼薬別に変更前後の眼圧を比較し,副作用,中止例を検討した.結果:変更症例はC151例,変更追加症例はC15例,追加症例はC10例だった.変更症例の変更前点眼薬はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例,ブリモニジン点眼薬C35例などだった.眼圧は両点眼薬症例ともに変更前後に変化はなかった.副作用はC3.3%,中止例はC2.6%で出現した.結論:BRFCは多剤併用の原発開放隅角緑内障症例で同成分同士からの変更として使用されることが多かった.変更症例の変更後の眼圧下降と安全性は良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheCpatternsCofCprescribingCbrimonidine/ripasudilC.xedCcombination(BRFC)eyedropsandshort-termintraocularpressure(IOP)-loweringsafetyande.cacyinglaucomaandocularhypertensioncases.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved176patientsinwhomBRFCwasnewlyadminis-tered.WecategorizedthepatternsofprescribingascasesinwhichBRFCwasaddedtopreviousmedications,cas-esCthatCswitchedCtoBRFC(changed)C,CandCchanged/added.CIOPCbeforeCandCafterCtheCchangeCforCeachCeyeCdropCchangedCwasCcompared,CandCtheCsideCe.ectsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:ThereCwereC151CcasesCofCchanges,C15CcasesCofCchanged/added,CandC10CcasesCofCadded.CInCtheCchangedCcases,CthereCwereCbrimonidineCplusCripasudilCinC113,CbrimonidineCinC35,CandCothers.CNoCdi.erenceCinCIOPCwasCobservedCbetweenCbeforeCandCafterCtheCchange.Sidee.ectsoccurredin3.3%ofthecases,and2.6%ofthecasesdroppedout.Conclusions:Our.ndingsrevealedthatBRFCwasusedwithhighfrequencyinPOAGpatientstakingmultiplemedicationsasamodi.cationofthesameingredients,andthatthesafetyande.cacyofIOPloweringwassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(7):833.836,C2024〕Keywords:ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,処方パターン,眼圧,副作用.brimonidine/ripasudile.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,adversereaction.Cはじめに緑内障薬物治療において多剤併用になるとアドヒアランスは低下しやすい1).そこでアドヒアランス向上のために配合点眼薬が開発された.従来から日本で使用可能だった配合点眼薬はすべてCb遮断薬を含有していたが,Cb遮断点眼薬を含有しないブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬がC2020年C6月より使用可能になり,呼吸器系疾患や循環器系疾患を有する症例でも配合点眼薬を使用できるようになった.そして今回Cb遮断薬を含有しないC2種類目の配合点眼薬がC2022年C12月より使用可能となった.このブリモニジン/リパスジル配合点眼薬はブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬を含有している.日本で行われた治験や健常人における検討で〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(87)C833ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,臨床現場でどのような症例にブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例についてその処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2022年C12月.2023年C2月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/リパスジル配合点眼薬(グラアルファC1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者176例C176眼(男性C100例,女性C76例)を対象とした.平均年齢はC66.9C±12.5歳(平均C±標準偏差)(32.91歳)(範囲)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C127例,続発緑内障C27例(落屑緑内障C11例,ぶどう膜炎C10例,血管新生緑内障C3例,糖尿病網膜症C2例,ステロイド緑内障C1例),正常眼圧緑内障C17例,原発閉塞隅角緑内障C3例,小児緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.投与前眼圧は投与前C2回の平均眼圧,投与後眼圧は投与後はじめての来院時の眼圧として解析した.投与前眼圧はC17.4C±6.9CmmHg(10.0.54.5mmHg)であった.投与前の使用薬剤数はC4.5C±1.2剤(0.8剤)だった.投与後眼圧は投与C2.3C±0.9カ月後(1.4カ月後)に測定された.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.追加群,変更追加群では投薬前後の眼圧を比較し,副作用と中止症例を調査した.変更群では変更した点眼薬を調査し,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬から変更した症例についてはそれぞれ変更前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果全症例のうち追加群はC10例(5.7%),変更群はC151例(85.8%),変更追加群はC15例(8.5%)であった.追加群は原発開放隅角緑内障C5例,続発緑内障C4例(落屑緑内障C2例,ぶどう膜炎C2例),正常眼圧緑内障C1例であった.追加前眼圧はC21.2C±9.1CmmHg(15.0.46.0CmmHg),追加後眼圧はC17.8C±6.1CmmHg(10.0.32.0CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.06).追加前の使用薬剤数はC2.9C±0.9剤(1.4剤)であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C10例,続発緑内障C3例,原発閉塞隅角緑内障C1例,高眼圧症C1例であった.変更追加前眼圧はC24.8C±8.1CmmHg(11.0.42.0CmmHg),変更追加後眼圧はC22.0C±13.5CmmHg(10.0.56.0CmmHg)で,眼圧は変更追加後に有意に下降した(p<0.05).変更追加前の使用薬剤数はC2.9C±1.9剤(0.5剤)であった.変更追加後の副作用はC2例(眼瞼炎,眼瞼腫脹+結膜充血)で出現した.中止症例はC4例で,眼圧下降不十分C2例,副作用C2例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬C113例(74.8%)(以下CA群),ブリモニジン点眼薬C35例(23.2%)(以下CB群),リパスジル点眼薬C3例(2.0%)(以下,C群)であった(表1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群5.1C±0.7剤,B群C3.8C±0.5剤,C群C3.0C±1.0剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C4.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本,変更後CA群C3.2C±0.6本,B群C2.9C±0.4本,C群C2.3C±0.6本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C7.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回,変更後CA群C5.4C±0.9回,B群C5.1C±0.7回,C群C4.0C±1.0回であった.変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.眼圧はCA群では変更前C16.2C±6.3mmHg,変更後C15.4C±4.0mmHgで,変更前後で同等だった(p=0.19).B群では変更前C16.6C±3.5CmmHg,変更後C16.2C±4.6CmmHgで,変更前後で同等だった(p=0.51)(図1).C群は症例数が少ないため眼圧の解析はできなかった.投与後に副作用は全体ではC5例(3.3%)で出現した.その内訳はCA群では結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例,B群では眼瞼腫脹2例,C群ではなかった.中止症例はC4例(2.6%)であった.その内訳は変更CA群では結膜充血C1例,B群では眼瞼腫脹C2例,C群では眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬4)やブリモニジン/チモロール配合点眼薬5)の処方パターンの報告では,変更群が各々C87.7%,93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬では,ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド配合点眼薬からの変更51.2%,ブリンゾラミド点眼薬からの変更C24.0%,ブリモニ834あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(88)表1変更症例の患者背景A群:ブリモニジン+リパスジル点眼薬B群:ブリモニジン点眼薬C群:リパスジル点眼薬症例113例35例3例性別男性C62例,女性C51例男性C19例,女性C16例男性C3例,女性C0例平均年齢C66.4±12.1歳(C39.C88歳)C66.6±13.0歳(C32.C87歳)C71.3±10.6歳(C60.C81歳)病型POAG8C7例NTG1C3例続発緑内障1C1例PACG1例小児緑内障1例POAG2C4例続発緑内障7例NTG3例PACG1例続発緑内障2例POAG1例前投薬数C5.1±0.7剤(3.C8剤)C3.8±0.5剤(2.C4剤)C3.0±1.0剤(2.C4剤)変更別使用薬剤CFP+CAI/b+a2+ROCK6C0例CFP+経口CCAI+CAI/b+a2+ROCK1C5例点眼CCAI+FP/b+a2+ROCK1C4例CFP+点眼CCAI+a2+ROCK8例CFP+a1+CAI/b+a2+ROCK5例CFP/b+a2+ROCK3例その他8例CFP+CAI/b+a22C1例点眼CCAI+FP/b+a26例CFP/b+a22例その他6例CFP/b+ROCK1例CFP+CAI/b+ROCK1例CFP+ROCK1例投与前眼圧C16.2±6.3CmmHg(1C0.C54.5mmHg)C16.6±3.5CmmHg(1C2.C27.5mmHg)C15.5±2.5CmmHg(1C4.C23mmHg)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.FP:FP作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1遮断薬,Ca2:a2作動薬,ROCK:ROCK阻害薬.A群B群202018181616眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)1414121216.6±3.5101016.2±4.615.4±4.0886416.2±6.36420変更前p=0.1924変更後20変更前変更後p=0.5109図1変更症例の眼圧変化ジン点眼薬からの変更C11.6%だった4).一方,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬では,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬C18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった5).同成分同士の変更がブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬C51.2%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(74.8%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.A群では変更後に使用点眼薬数はC1本,1日の点眼回数はC2回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更群と,ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬への変更群の比較を行った結果,変更C4,8週間後の眼圧下降幅は点眼C2時間後,7時間後ともに同等だった2)と報告されている.ブリモニジン/リパスジル点眼薬とブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬の眼圧下降効果は同等と考えられる.日本で行われた治験では,ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更では眼圧は変更C8週間にわたり有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅(89)あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024C835はC3.4CmmHg,眼圧下降率はC16.5%であった2).一方,今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/リパスジル配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更前後で同等で,眼圧下降幅はC0.3C±2.5mmHg,眼圧下降率はC2.0C±13.1%であった.眼圧下降幅別に検討すると眼圧が変更後にC2.0CmmHg以上上昇C1例(2.9%),2.0CmmHg以内C30例(85.7%),2.0mmHg以上下降C4例(11.4%)だった.眼圧下降が不良だったのは,変更前薬剤数が治験2)ではC1剤だったが,今回はC3.8±0.5剤と多剤併用だったことが原因と考えた.また,健常人を対象とした,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬のクロスオーバー投与試験によると3),ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の眼圧下降の差は投与C1日目の点眼C1時間後C2.0C±0.3CmmHg,点眼C2時間後C1.4C±0.4CmmHg,点眼6時間後1.2C±0.5CmmHg,投与C8日目の点眼C1時間後C1.6C±0.5CmmHg,点眼C2時間後C1.2C±0.6CmmHgだった.今回の調査では日本で行われた治験2)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がCB群はC3.8C±0.5剤と多剤併用であったためと考えられる.今回変更群では変更後に副作用が5例(3.3%)で出現した.その内訳は眼瞼腫脹C2例,結膜充血C1例,刺激感C1例,視力低下+眼痛+掻痒感C1例だった.副作用に関しては今回の調査と治験2)の結果を比較すると治験では結膜充血が多かったが,それ以外はほぼ同等であった.中止症例は今回はC2.6%で,治験2)では有害事象による中止症例はブリモニジン点眼薬からの変更ではC2.7%,リパスジル点眼薬からの変更では2.9%でほぼ同等だった.今回,ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬が新規に処方された症例の特徴を調査した.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリモニジン点眼薬,リパスジル点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬+リパスジル点眼薬からの変更,ブリモニジン点眼薬からの変更では変更後に眼圧に変化はなかった.副作用は変更群ではC3.3%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20092)TaniharaH,YamamotoT,AiharaMetal:Ripasudil-bri-monidineC.xed-doseCcombinationCvsCripasudilCorCbrimoni-dine:twoCphaseC3CrandomizedCclinicalCtrials.CAmCJCOph-thalmolC248:35-44,C20233)TaniharaCH,CYamamotoCT,CAiharaCMCetal:CrossoverCrandomizedCstudyCofCpharmacologicCe.ectsCofCripasudil-brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCripasudilCorCbrimonidine.AdvTherC40:3559-3573,C20234)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C2021C***836あたらしい眼科Vol.41,No.7,2024(90)