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東京都A小学校における屈折分布調査

2015年7月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(7):1057~1060,2015c東京都A小学校における屈折分布調査榊原七重*1石川均*1赤崎麻衣*2三井義久*2*1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚療法学専攻*2駒込みつい眼科DistributionofRefractioninStudentsAttendingElementarySchoolAinTokyo,JapanNanaeSakakibara1),HitoshiIshikawa1),MaiAkasaki2)andYoshihisaMitsui2)1)FacultyofRehabilitationOrthopticsandVisualScienceCourseSchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,2)KomagomeMitsuiEyeClinic目的:小学生の屈折分布についての調査を行い,過去の報告との比較を行った.対象・方法:東京都内のA小学校の全児童699名を対象に,2013年4月に屈折検査を実施した.視力は,1.0,0.7,0.3,の3視標を用い,1.0以上をA,0.7以上をB,0.3以上をC,0.3未満をDと判定した.屈折はオートレフラクトメータを用い,非調節麻痺下他覚的屈折検査を行った.結果:1~5年生まではA判定の者がもっとも多かったが,6年生ではA判定の者が減少し,D判定の者が増加した.屈折は,高学年になるにつれ,正視の割合が減少し,近視の割合が増加した.屈折分布は,1年生で正視に集中化した分布を示し,2~4年生では正視にピークをもつがその割合は1年生より小さく,5年生では正視と.1D,6年生では.1Dにピークをもち,高学年ほど分布が近視に広がった.全児童では正視から.1Dに集中した近視よりの分布を示した.視力判定ごとの中央値は,判定Aが.0.17D,Bが.0.33D,Cが.1.00D,Dが.2.92Dであった.結論:A小学校の児童は,過去の報告と比較し,屈折に近視化の傾向がみられた.Purpose:ToinvestigatethedistributionofrefractioninstudentsattendingElementarySchoolAinTokyo,Japan.SubjectsandMethods:Arefractiontestwasadministeredtoall699studentsofElementarySchoolAinTokyo,Japaninadditiontoavisualacuity(VA)examinationwithnakedeyes,whichiscommonlyconductedduringstandardschoolphysicalexaminations.VAwasassessedwiththreevisualtargetsof1.0,0.7and0.3,andratedonascaleofA,B,CandDdenoting1.0diopter(D)orhigher,0.7Dorhigher,0.3Dorhigher,andlowerthan0.3D,respectively.Refractionwasmeasuredbynon-cycloplegicobjectiverefractiontestingwithanautomaticrefractometer.Results:StudentsratedasAaccountedforthegreatestproportionofstudentsingrades1through5,butdecreasedinthegrade6students,inwhichtheproportionofstudentsratedasDincreased.Inregardtorefraction,theproportionofstudentswithemmetropiadecreasedandtheproportionofmyopicstudentsincreasedasthegradesadvanced.Thedistributionofrefractioninthegrade1studentsfocusedonemmetropia.Thedistributionpatternsinthegrade2tograde4studentsalsoshowedtheemmetropiapeak,butthepeakaccountedforasmallerproportionineachgradecomparedwiththatingrade1.Thedistributioninthegrade5studentshadtwopeaksofemmetropiaand.1D,andthedistributioninthegrade6studentsshowedthe.1Dpeakonly.Conclusions:Thefindingsofthisstudyindicatethatthedistributionofrefractionshiftsmoretowardmyopiaasthegradeadvances.Whenallstudentswereanalyzedasawhole,thedistributionofrefractionhadaclusterinarangebetweenemmetropiaand.1D,andwasskewedtowardmyopia.ThemedianrefractionvaluesinstudentswiththeVAscoresofA,B,C,andDwere.0.17D,.0.33D,.1.00D,and.2.92D,respectively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1057~1060,2015〕Keywords:視力,屈折分布,分布変化.visualacuity,distributionofreflection,distributionshifts.はじめに正視と.3.00Dに集中化4)した分布であると報告されてい小児の屈折分布については,新生児では+1.001,2)~2.00D3)る.さらに,これらの屈折変化には,世代間での違いがあにピークをもち,小学生では正視に集中化4)し,中学生ではる5)とも報告されており,これらの屈折変化に影響する因子〔別刷請求先〕榊原七重:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚療法学専攻Reprintrequests:NanaeSakakibara,C.O.,FacultyofRehabilitationOrthopticsandVisualScienceCourseSchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara-shi,Kanagawa252-0373,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(135)1057 16724860201195616161264131484891825321813371年生2年生3年生4年生5年生6年生図1視力判定分類視力判定A(1.0以上),B(0.7以上),C(0.3以上),D(0.3未満)を,各学年中の割合(%)で示す.として遺伝6),環境因子6,7)が考えられることからも,屈折分布が報告されていた年代と現代とではおもに環境因子に大きな変化があることを考慮すると,現代小児の屈折分布は過去の報告とは異なる可能性があると考えられる.そこで,小学生の屈折分布についての調査を行い,過去の報告との比較を行った.I方法1.対象東京都のA小学校で全児童699名1,398眼を対象とした.各学年の内訳は,1年生114名,2年生107名,3年生121名,4年生111名,5年生124名,6年生122名であった.なお,本研究への参加については,A小学校眼科校医より,保護者会で保護者に説明し,同意を得た.2.方法2013年4月に,例年A小学校で4月に実施されている学校検診(以下,通常検診)として身長,体重,座高,裸眼視力,矯正視力(矯正具使用者のみ)の測定を行った.これらに加え,本研究のために,非調節麻痺下他覚的屈折検査を行った.このうち,視力と本研究のために追加した屈折検査についての検討を行った.3.検査条件本研究のための追加検査項目については,視能訓練士が測定し,それ以外の通常検診は小学校教諭により実施した.a.裸眼視力検査(通常検診実施項目)小学校教諭2名が測定を行い,視標は,1.0,0.7,0.3の3視標を使用し,片眼遮閉は児童の掌で行った.視力は,眼科学校保健ガイドライン8)に則り,1.0以上はA判定,0.9~0.7はB判定,0.6~0.3はC判定,0.3未満はD判定とした.b.屈折検査(本研究のための追加検査項目)非調節麻痺下において他覚的屈折検査を行った.オートレフケラトメータは,1回の雲霧刺激後に3回の連続測定をする方法を用いた.原則として3回測定の平均を用いたが,屈折のばらつきが大きい場合,3回測定のばらつきが±0.50D以内になるまで繰り返し測定を行い,ばらつきのもっとも少表1屈折分類と屈折平均学年屈折分類(%)屈折平均(D)(平均±標準偏差)遠視正視近視1245818.0.20±0.912173746.0.60±1.383184537.0.49±1.304134741.0.85±1.81583458.1.28±1.68652372.1.79±1.91全児童144046.0.88±1.62なかった3測定値の平均を用いた.視力と矛盾すると考えられる値についても,本調査内では上記条件の測定値を除外条件なしに用いた.4.装置視力表は,Landolt環字ひとつ視力表とし,遠見視力表はモニター式,近見視力表は近距離単独視標R(半田屋商店製)を用いた.屈折測定には,オートレフケラトメータRARK.730A(NIDEK)を使用した.II結果全児童の視力,屈折平均に左右差がなかった(t-test,p=0.31)ため,以下の結果は右眼(669眼)について述べる.1.視力遠見裸眼視力測定の結果は,A判定54%,B判定17%,C判定13%,D判定16%であった.学年ごとの比率(図1)では,2・3年生を除いては高学年ほどD判定の割合が増加し,6年生では37%に増加し,A判定の割合を上回った.2.屈折オートレフラクトメータによる屈折値の等価球面度数を用い,+0.49D~.0.50Dを正視,+0.50D以上を遠視,.0.50D未満を近視8)とし,屈折分類を行った.各学年の屈折分類の割合(表1)は,1年生で,遠視24%,正視58%,近視18%と,正視がもっとも多かったが,2年生以上では,1058あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(136) 近視がもっとも多く,ついで正視,遠視の順であった.屈折平均(表1)は,2年生と3・4年生の屈折平均に有意差はなかったが,それ以外の学年において,高学年のほうが有意に近視化した(t-test,p<0.001).屈折度の級間を1Dとし中央値を用いた分布(図2)は,1年生では正視に集中化した分布を示した.1~4年生は正視にピークをもつが,高学年ほど次第に近視に分布が広がり,5年生は正視と.1Dの近視の2点に同程度のピークをもち,6年生では.1Dの近視にピークをもつ,近視側に大きく広がる分布を示した.全児童では,.1~0Dに集中し,やや近視側に広がる分布となった.3.視力と屈折視力の各判定の屈折の中央値(最小値~最大値)は,判定Aが.0.17(.5.67~+2.50)D,Bが.0.33(.5.00~+4.41)D,Cが.1.00(.3.757~+3.50)D,Dが.2.92(.10.65~+4.50)Dであった.III考按1.視力高学年ほど低視力者が多く,阿部らの報告10)と一致した.とくに,A判定は,4年生までは60%前後であったが,5年生で48%,6年生で32%と5年生以降で減少した.B・C判定は全学年を通してあまり比率に変化がないが,D判定が4年生までは10%程度であったのが,5年生で25%,6年生で37%と増加した.これらのことから,視力は,5年生以上での変化が大きいと考えられた.2.屈折屈折分類(表1)は,1年生においては,正視58%と半数以上を占めたが,2年生以上では半数に満たず,5年生で340102030405060-11-10-9-8-7-6-5-4-3-2-10123456分布率(%)123456屈折度(D)図2屈折分布屈折度を級間を1Dとした中央値で表し(例:+0.49~.0.50Dを屈折度0D),各級の頻度(人数)を各学年または全児童を100%とした比率(%)で示す.%,6年生で23%と減少した.正視の割合が減少し始める2年生以上では,近視が2年生46%,3年生37%,4年生41%,4年,5年生で58%,6年生で72%と増加し,遠視の比率は全学年を通して少なかった.このような,本研究における屈折分類(表1)については,丸尾ら11)の報告と比較し,遠視・正視が減少し近視が増加していた.しかし,丸尾らの報告11)では調節麻痺剤として,トロピカミドを使用しており,トロピカミド点眼前後の他覚的屈折値の差については8~12歳の遠視患者で1.55±1.65D,近視患者で0.23±0.32D9)と報告されており,本研究の屈折値が1D前後近視よりに測定されていた可能性が考えられた.これらのことから,実際の屈折の割合については,本研究の結果よりも遠視と正視が大きいと考えられた.さらに屈折の分布(図2)は,1年生において,屈折度0Dに集中化した分布をみせ,2~4年生は,いずれも0Dにピークをもつが,.1Dに2番目に高いピークをもつ類似した形の分布をみせた.5年生では,0Dと.1Dに同程度のピークをもち,4年生以下よりも近視に多く分布した.6年生では.1Dにピークをもち,全体の分布はさらに近視に広がった.これらの屈折平均は,稲垣5),野原ら12)の2報告と比較(図3)したところ,全体的に本研究のほうが近視化しているが,1年生ではほぼ正視であること,高学年ほど近視化していることが一致し,5年生(10歳)以降の近視化が大きいことが稲垣の報告と一致していた.稲垣の報告においては調節麻痺剤が用いられており,非調節麻痺下の本研究の結果のほうが屈折分布と同様に近視化していたと考えられた.しかし,野原らの報告は本研究同様非調節麻痺下での結果であるが,本研究のほうがより近視化していた.この近視化は,野原らの報告と本研究では調査年度に10年以上の差があることによる世代間差5)の可能性が考えられた.さらに,近視進行の危険因子として,両親または片親が近視であること6)(遺1●本研究■稲垣5)△野原11)0.50-0.5-1-1.5-2-2.5-3-3.5-4学年図3屈折平均本研究の各学年の屈折度平均と過去の文献の屈折平均を,比較のためにグラフ化した.屈折度(D)123456(137)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151059 伝),後天的素因として,都市部で生活していること,IQや学歴が高いこと13),近業の程度(視距離,近業時間,読書量)が強いこと7),屋外活動が乏しいこと6)が報告されている.本研究の調査対象小学校が,東京都内に所在し,野原らの対象とする長野県内の小学校よりも,児童がより都市部で生活しているため近視化の環境因子をもっていた可能性が考えられた.これらのことから,本研究の屈折分布については,10年程度期間をあけて同地域において,あまり年数をあけずに非都市部において,調査を実施し比較する必要があると考えられた.3.視力と屈折視力判定が不良なほど屈折値の中央値がマイナスよりであったことから,小学生の視力低下のおもな原因は,近視によると考えられた.しかし,全判定において近視・遠視ともに大きな屈折をもつ者があり,視力測定方法,調節の介入などにより視力が必ずしも屈折異常の状態を反映しておらず,裸眼視力と屈折度とは必ずしも相関しない14)と考えられた.このような学校検診においては,視力判定B以下の児童に受診勧告を行うこととなるが,受診時には調節麻痺剤を用いた屈折検査を要すると考えられた.IV結論A小学校の児童は,高学年ほど視力不良な者が増加し,過去の報告と比較し,屈折に近視化の傾向がみられた.文献1)CookRC,GlasscockRE:Refractiveandocularfindingsinthenewborn.AmJOphthalmol34:1407-1413,19512)大塚任,小井出寿美,高垣益子:新生児の眼屈折度分布曲線に関する問題.大塚任,鹿野信一(編):臨床眼科全書2.1,視機能II.p124,金原出版,19703)WibautF:UberdieEmmetropizationunddenUrsprungderspharischenRefractions-anomalien.ArchOphthalmolBerlin116:596-612,19264)中島実:学校近視の成因について.日眼会誌45:13781386,19415)稲垣有司:角膜曲率半径の経年変化.日眼会誌91:132139,19876)JpnesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,sportsandoutdooractivities,andfuturemyopia.InvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,20077)RoseKA,MorganIG,IpJetal:Outdooractivityreducestheprevalenceofmyopiainchildren.Ophthalmology115:1279-1285,20088)目の屈折力に関する調査研究委員会報告:平成3年度,日本学校保健会,19929)芝崎玲子,菅野早恵子,佐藤真理ほか:調節麻痺点眼剤効果の年齢群別相関.日本視能訓練士協会誌17:75-79,198910)阿部信博:オートレフラクトメーターによる学童の屈折異常の経年変化について.日本の眼科66:519-523,199511)丸尾敏夫,河鍋楠美,久保田伸枝:小,中学生における屈折検査の方法とその分布状態.眼臨医報63:393-396,196912)野原雅彦,高橋まゆみ:小中学校における屈折検査.日本視能訓練士協会誌29:115-120,200113)MuttiDO,MitchellGL,MoeschbergerMLetal:Parentalmyopia,nearwork,schoolachievement,andchildren’refractiveerror.InvestOphthalmolVisSci43:3633(s)3640,200214)平井宏明,西野純子,西信元嗣ほか:学校眼科検診に屈折検査が望まれる理由と問題点.眼紀46:1172-1175,1995***1060あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(138)