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濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologen® Collagen Matrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):981.986,2018c濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対して,ologenRCollagenMatrixを用いた濾過胞再建術が奏効した1例根元栄美佳*1,2植木麻理*2前田美智子*2河本良輔*2小嶌祥太*2杉山哲也*3池田恒彦*2*1)高槻赤十字病院眼科*2)大阪医科大学眼科学教室*3)京都医療生活協同組合・中野眼科医院CCaseReportofBlebRevisionwithologenRCollagenMatrixforProlongedBlebLeakageafterBleb-relatedInfectionEmikaNemoto1,2)C,MariUeki2),MichikoMaeda2),RyohsukeKohmoto2),ShotaKojima2),TetsuyaSugiyama3)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedcrossHospital,2)C3)NakanoEyeClinicofKyotoMedicalCo-operationDepartmentofOpthalmology,OsakaMedicalCollege,目的:濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対しCologenCRCollagenCMatrix(以下,ologenCR)を用いた濾過胞再建術を施行し,治癒過程を前眼部COCTにて確認できた症例を報告する.症例:80歳,女性.10年前に両眼原発開放隅角緑内障にて両眼線維柱帯切除術を施行された.2016年C3月左眼濾過胞感染を発症し大阪医科大学眼科紹介.初診時,左眼に房水漏出を伴う無血管濾過胞とCStageIIの濾過胞感染を認めた.抗菌薬加療にて感染は軽快したが濾過胞漏出は遷延し,ologenCRを結膜下移植する濾過胞再建術を施行した.術後,濾過胞漏出は消失した.前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜がCologenCRに裏打ちされ,徐々に厚くなり,厚い濾過胞壁の形成に至った過程が確認できた.術後約C1年半で有血管濾過胞が維持されている.結論:無血管濾過胞の房水漏出にCologenCRを用いた濾過胞再建術は有効であった.CPurpose:ACcaseCreportCofCblebCrevisionCwithCologenCRCollagenCMatrix(ologenCR)forCprolongedCblebCleakageafterCbleb-relatedCinfection.CWeCobservedCtheCprocessCofCblebChealingCwithCopticalCcoherenceCtomography(OCT)C.CCase:An80-year-oldfemalewhohadundergonetrabeculectomyonbotheyesforopen-angleglaucoma10yearspreviouslyCwasCreferredCtoCusCbecauseCtheCpreviousCdoctorCsuspectedCaCbleb-relatedCinfection.CAtCtheC.rstCvisit,CStageIIbleb-relatedinfection,aswellasleakagefromavascularbleb,wasobservedinthelefteye.Theblebleak-agepersisted,althoughshewascuredofthebleb-relatedinfectionthroughantibiotictherapies.AfterblebrevisionwithologenRCwasperformed,blebleakagedisappeared.WeobservedwithOCTthatthethinnedconjunctivaoftheblebwaslinedwithologenRCandgraduallyrepaired.Theblebhasbeenmaintainedforabout18monthsaftersur-gery.Conclusion:BlebrevisionwithologenCRCwase.ectiveforleakagefromavascularbleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):981.986,C2018〕Keywords:ologenR,濾過胞再建術,濾過胞漏出,濾過胞感染,前眼部光干渉断層法.ologenR,blebrevision,blebleakage,bleb-relatedinfection,opticalcoherencetomography.Cはじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)は,術後に低い眼圧の維持が可能な術式であり,現在はマイトマイシンCC(MMC)を併用したCTLEが標準となっている.しかし,MMC併用CTLEの晩期合併症として房水漏出,低眼圧黄斑症,無血管濾過胞からの漏出,濾過胞感染があり,とくに濾過胞感染は失明につながる重篤なものである.日本緑内障学会による濾過胞感染多施設共同研究(TheCCollaborativeBleb-relatedCInfectionCIncidenceC&CTreatmentCStudy:CBIITS)が実施され,手術C5年後での濾過胞感染の発生率〔別刷請求先〕根元栄美佳:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:EmikaNemoto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7,Daigaku-cho,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANはC2.2%であり,その危険因子として濾過胞漏出既往と若年者であることがあげられている1).一方,近年,MMCに代わる濾過手術後癒着防止剤を求め,さまざまな検討がなされている.これまで,Gel.rm2),CSepra.lm3),Gore-Tex4),ハニカムフィルム5)などを用いた報告があり,欧米で緑内障手術への使用認可を得ているものとしてCologenCRCollagenMatrix(以下,ologenCR)がある6,7).また,ologenCRは濾過胞漏出に対する濾過胞再建術にも用いられ,有効であったとの報告がある8,9).今回,濾過胞感染治療後の遷延する濾過胞漏出に対してCologenRを用いた濾過胞再建術が奏効し,結膜の修復過程が前眼部光干渉断層法(opticalCcoherenceCtomography:OCT)にて確認できたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼の流涙,視力低下.現病歴:両眼原発開放隅角緑内障に対し,10年前に他院にて両眼CTLE+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術が施行されていた.術後は,両眼圧のコントロールは良好で,左眼には鼻上側に無血管濾過胞が形成されていた.2016年C3月中頃に左眼の流涙を自覚し,その翌日より左眼の視力低下,眼痛,眼脂が出現した.前医を受診したところ,左眼濾過胞感染が疑われ,大阪医科大学眼科(以下,当科)へ紹介初診となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.07C×sph+1.25D(cyl─1.75DCAx105°),眼圧は右眼11mmHg,左眼6mmHgであった.左眼前眼部所見で,鼻上側に壁の薄い無血管濾過胞があり,濾過胞周囲の結膜は充血していた.濾過胞からの房水漏出を認め,前房内の炎症細胞はC2+であった.左眼眼底所見では,硝子体への炎症波及はなく,眼底は透見可能であった(図1).経過:左眼濾過胞感染CStageIIと診断し,同日入院のうえ,CBIITSのガイドラインに沿って治療を開始した1).塩酸バンコマイシンとセフタジジムの結膜下注射を行い,レボフロキサシンとセフメノキシムをC1時間ごとに頻回点眼することにより濾過胞感染は軽快した.一方,濾過胞漏出に対して自己血清点眼,抗菌薬眼軟膏塗布と眼帯を行ったが遷延した.そこで,大阪医科大学倫理委員会の承認(受付番号C2015-115)を得て,ologenCRを用いた濾過胞再建術を施行した(図2).使用したCologenRは,直径C12Cmm,厚さC1Cmmの円形シートである.まずCologenCR大のC12C×12Cmmを計測,濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.そして作製した濾過胞下のスペースへColo-genRの挿入を試みたが,出血でCologenCRがふやけたため困難であった.そこで,ologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入し,その後展開した.結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.前房洗浄時,濾過胞より漏出を認めたがそのまま手術は終了した.術翌日,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞内に出血がありColo-genRは確認できず,房水漏出は継続していた(図3a).術後C2日目,左眼眼圧C3CmmHg,濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した(図3b).術後C3週間,左眼視力(0.35),左眼眼圧C12CmmHg,無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.(図3c).前眼部COCTにて菲薄化した濾過胞結膜を裏打ちするCologenCRが確認できた(図4a).術後C2カ月,左眼視力(0.4),左眼眼圧C13mmHg(図4b).前眼部COCTにて,結膜組織修復過程において結膜下組織と置き換わりつつあるCologenRが濾過胞結膜内壁全体に付着していた(図4b).術後C10カ月,左眼矯正視力(0.4),左眼眼圧C12CmmHg,有血管濾過胞が形成されている(図3d).前眼部COCTにてColo-genRは消失しており,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して形成された厚い濾過胞壁が確認できた(図4c).術C1年C6カ月後の現在,眼圧コントロールは良好であり,視力・視野ともに維持できている.CII考按TLE後の濾過胞漏出に対するこれまでの濾過胞再建術としては,結膜前転術10),遊離結膜移植11),羊膜移植12)があげられ,それぞれに長所と短所がある.結膜前転術は小さな濾過胞が適応となり自己結膜にて施行できるが,大きな濾過胞には対応困難である.遊離結膜移植は自己結膜にて比較的大きな濾過胞にも対応は可能であるが,大きな結膜片を作製することはむずかしい.羊膜移植は大きな濾過胞にも対応が可能であり,羊膜そのものに抗炎症作用や結膜の修復作用があるため結膜前転術よりも良好な成績が報告されている12).当科でもこれまでは大きな濾過胞の再建術に羊膜を使用していたが,平成C26年C4月に羊膜取扱いガイドライン13)が作成され,濾過胞再建術に適応がないため使用が困難になった.そこで,大きな濾過胞の濾過胞漏出に対してCologenCRを濾過胞結膜下へ移植する濾過胞再建術に着目した.CologenRは,豚由来のコラーゲンを拒絶反応を起こさないようにCtelo側鎖をペプシンにて切断処理したCI型アテロコラーゲンとグリコサミノグリカンの架橋構造からなる,直径10.300Cμmの多孔構造をとる移植用細胞外基質類似素材である.ologenCRは眼上皮結合組織の組織修復をサポートする働きがあり,海外では緑内障,翼状片や斜視の手術が適応となっている.ologenCRを用いたCTLEに関する既報では,TLE時にCologenCRを結膜下に挿入することで結膜下組織の図1初診時の左眼細隙灯顕微鏡所見a:鼻上側の壁の薄い無血管濾過胞,濾過胞周囲の結膜は充血している.Cb:濾過胞からの房水の漏出を認める(.).C図2ologenRを用いた濾過胞再建術の術中写真a:濾過胞から少し離れた結膜を垂直切開し,そこからポケット状に結膜を.離した.Cb:濾過胞下のスペースへCologenCRの挿入を試みたが,出血でふやけ困難であった.Cc:眼内レンズのようにCologenCRを半分に折りたたみ結膜下へ挿入,その後展開した.Cd:結膜垂直切開部をC9-0シルク糸にて端々縫合し,10-0ナイロン糸にて垂直のCcompressionsutureを設置した.図3術後経過(前眼部細隙灯顕微鏡所見)Ca:術翌日.濾過胞内に出血がありCologenCRは確認できず,房水漏出は継続していた.Cb:術後C2日.濾過胞結膜下にCologenCRが透見可能となり,房水漏出は消失した.Cc:術後C3週間無血管濾過胞部に周囲から結膜血管新生が侵入し,濾過胞壁が厚く,平坦となった.Cd:10カ月後,扁平な有血管濾過胞を認める.癒着を防止し,MMCを用いたときと同様の効果があると報告されている6,7).一方で,MMCを用いたCTLEよりも,手術成功率や眼圧下降率が劣るとの報告もある14).手術効果について相反する報告があるが,形成される濾過胞についてはMMCよりCologenCRを用いたほうが無血管濾過胞となる割合が低いとされている15).また,TLE術後の過剰濾過や濾過胞漏出に対する報告では,低眼圧をきたしたC12例にColo-genRの結膜下移植は有効であった8)という報告や,日本人においても,TLE術後やCEX-PRESS術後の濾過胞漏出を含む低眼圧をきたしたC9眼においてCologenCRの結膜下移植は有効であったとの報告がある9).これまでに濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入することにより,多孔構造内まで結膜の線維芽細胞や筋線維芽細胞が集簇し,結合組織が形成されることで組織修復がなされると報告されており16,17),今回の症例でも同様の組織修復にて濾過胞が厚く形成されたと考える.そして,今回の症例では前眼部COCTにてその過程を観察できており,術後早期に菲薄化した濾過胞結膜をCologenCRが裏打ちし,徐々にCologenCRを足場にした組織修復がなされて結膜下組織が形成され,厚い濾過胞壁となったことが確認できた.また,今回の症例で特徴的なのは無血管濾過胞に結膜血管新生を認めたことである.動物実験においてであるが,無血管濾過胞の結膜欠損部下へ多孔コラーゲンシートを挿入すると,血管内皮細胞が結膜円蓋部方向から多孔構造内に集簇することにより無血管濾過胞への結膜血管新生を認めたと報告されている17).今回の症例でも同様の機序により徐々に血管を有する濾過胞が形成されたと考える.濾過胞感染後の遷延性濾過胞漏出に対してCologenCRの結膜下移植による濾過胞再建術が有効であった.無血管濾過胞壁を有する濾過胞漏出例において,ologenCRの結膜下移植は有効な術式となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なしC図4術後経過(前眼部OCT所見)Ca:術後C3週間.結膜を裏打ちするCologenCRが認められた(.).b:術後C2カ月.結膜組織修復過程で結膜下組織と置き換わりつつあるCologenCRが濾過胞内壁全体に付着している(.).c:術後C10カ月.olo-genRは消失し,ologenCRが付着していた部位の結膜下組織が増殖して濾過胞壁が厚く形成されている(.).文献1)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetCal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinCC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20142)LavalCJ:TheCuseCofCabsorbableCgelatinC.rm(gel.rm)inCglaucomaC.ltrationCsurgery.CAMACArchCOphthalmolC54:C677-682,C19553)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:セプラフィルムCR併用線維柱体切除術を施行したC1例.臨眼C64:1891-1895,C20104)CillinoS,ZeppaL,DiPaceFetal:E-PTFE(Gore-Tex)CimplantCwithCorCwithoutClowdosageCmitomycinCCCasCanadjuvantCinCpenetratingCglaucomaCsurgery:2CyearCran-domizedCclinicalCtrial.CActaCOphthalmolCScandC86:314-321,C20085)OkudaCT,CHigashideCT,CFukuhiraCYCetCal:ACthinChoney-comb-patterned.rmasanadhesionbarrierinananimalmodelCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CJCGlaucomaC18:C220-226,C20096)CillinoS,CasuccioA,PaceFDetal:Biodegradablecolla-genCmatrixCimplantCversusCmitomycin-CCinCtrabeculecto-my:.ve-yearCfollow-up.CBMCCOphthalmolC16:24,2016.doi:10.1186/s12886-016-0198-07)HeCM,CWangCW,CZhangCXCetCal:OlogenCimplantCversusmitomycinCCCforCtrabeculectomy:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis.PLoSOneC9:e85782,C20148)DietleinTS,LappasA,RosentreterA:Secondarysubcon-junctivalCimplantationCofCaCbiodegradableCcollagen-glycos-aminoglycanCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCfollowingCtrabeculectomyCwithCmitomycinCC.CBrCJCOphthalmolC97:C985-988,C20139)TanitoCM,COkadaCA,CMoriCYCetCal:SubconjunctivalCimplan-tationCofCologenCcollagenCmatrixCtoCtreatCocularChypotonyCafterC.ltrationCglaucomaCsurgery.CEyeC31:1475-1479,C201710)TannenbaumCDP,CHo.manCD,CGreaneyCMFCetCal:Out-comesCofCblebCexcisionCandCconjunctivalCadvancementCforCleakingCorChypotonousCeyesCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.BrJOphthalmolC88:99-103,C200411)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:OutcomesofblebexcisionCwithCfreeCautologousCconjunctivalCpatchCgraftingCforCblebCleakCandChypotonyCafterCglaucomaC.lteringCsur-gery.JGlaucomaC20:392-397,C201112)RauscherFM,BartonK,FeuerWJetal:Long-termout-comesofamnioticmembranetransplantationforrepairofleakingCglaucomaC.lteringCblebs.CAmCJCOphthalmolC143:C1052-1054,C200713)西田幸二,天野史郎,木下茂ほか;羊膜移植に関する委員会:羊膜移植術ガイドライン.日本角膜学会ホームページ:2014http://cornea.gr.jp/amnion/14)RosentreterCA,CGakiCS,CCursiefenCCCetCal:TrabeclectomyCusingmitomycinCversusanatelocollagenimplant:clini-16)HsuCWC,CRitchCR,CKrupinCTCetCal:TissueCbioengineeringcalCresultsCofCaCrandomizedCtrialCandChistopathologicCforCsurgicalCblebCdefect:anCanimalCstudy.CGraefesCArchC.ndings.OphthalmologicaC231:133-140,C2014ClinExpOphthalmolC246:709-791,C200815)RosentreterA,SchildAM,JordanJFetal:Aprospective17)PengYJ,PanCY,HsiehYTetal:Theapplicationoftis-randomisedCtrialCofCtrabeclectomyCusingCmitomycinCCCvsCsueCengineeringCinCreversingCmitomycinCC-inducedCisch-anologenimplantinopenangleglaucoma.EyeC24:1449-emicconjunctiva.JBiomedMaterResAC100:1126-1135,C1457,C20102012***

中心角膜厚測定値の測定方法による違い

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):541.544,2012c中心角膜厚測定値の測定方法による違い古橋未帆福地健郎市村美香栂野哲哉樺沢優長谷川真理小林美穂本間友里恵阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)CentralCornealThicknessMeasuredby3DifferentInstrumentsMihoFuruhashi,TakeoFukuchi,MikaIchimura,TetsuyaTogano,YuuKabasawa,MariHasegawa,MihoKobayashi,YurieHonmaandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity目的:3種類の異なった測定方法による中心角膜厚測定値の差について検討した.対象および方法:対象は明らかな眼疾患をもたない正常眼62例124眼である.平均年齢は33.6±10.5歳で,男性60眼,女性64眼である.各眼の中心角膜厚を超音波法,スペキュラーマイクロスコープ(スペキュラー)法,前眼部光干渉断層(OCT)法の3種類の方法で測定した.すべての症例について同一機会に3種類の方法による測定を連続して行った.いずれの測定値も3回の平均値とした.結果:各方法による中心角膜厚測定値は,超音波法558.1±34.8μm,スペキュラー法553.8±33.7μm,OCT法538.2±32.0μmであった.OCT法では超音波法,スペキュラー法よりも薄く計測され有意な差がみられた(p=0.001および<0.001,Tukey法による多重比較検定).各測定方法間の相関に関する決定係数は0.5195,0.4532,0.7054と高度から中等度の相関を示した.角膜が厚いほど各測定方法間の差が大きくなる傾向がみられた.各方法の測定再現性は,変動係数でみると超音波法1.8%,スペキュラー法4.2%,OCT法2.4%と良好であった.結論:中心角膜厚測定値には3種類の測定方法で差がみられた.各測定方法の特徴を理解し,その測定値を評価する際には,それがいずれの方法を用いたものなのかという点にも留意する必要がある.Purpose:Tomeasureandcomparecentralcornealthickness(CCT)using3differentinstruments.Patientsandmethods:Subjectsofthisstudycomprised124eyesof62normalvolunteers(60males,64females)withnooculardiseases.Meanagewas33.6±10.5years.CCTwasmeasuredviaultrasoundpachymeter(UP),specularmicroscope(SP)andanteriorsegmentopticalcoherencetomograph(OCT)inrandomturnsatthesameexamination.Eachmeasurementwasrepeated3timesandaveraged.Results:CCTmeasurementwas558.1±34.8μmwithUP,553.8±33.7μmwithSPand538.2±32.0μmwithOCT.MeasurementswithOCTweresmallerstatisticallysignificantlythanthosewithSP(p=0.001,Tukey’smethod)andUP(p<0.001).Coefficientsofdeterminationforthemethodswere0.5195,0.4532and0.7054,respectively,showinghighormiddlecorrelationamongthe3methods.Differencestendedtobecomegreaterasthecorneabecamethicker.Reproducibilitywas1.8%withUP,4.2%withSPand2.4%withOCT.Conclusions:CCTmeasurementsdifferedamongthe3instruments.WemustunderstandthecharacteristicsofeachmethodandtakecareastowhichinstrumentisusedformeasurementinCCTevaluation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):541.544,2012〕Keywords:中心角膜厚,超音波法,スぺキュラーマイクロスコープ法,前眼部光干渉断層法.centralcornealthickness,ultrasoundpachymeter,specularmicroscope,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.はじめに価,角膜内皮細胞機能の評価などの点で臨床的に重要であ中心角膜厚は角膜屈折矯正手術時の手術適応の決定,る1).緑内障に関しては,眼圧測定値のずれにかかわるだけGoldmann型圧平式眼圧計を用いた眼圧測定値のずれの評でなく,薄い中心角膜厚が開放隅角緑内障の発症や進行のリ〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)Reprintrequests:TakeoFukuchi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduatedSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachi-dori,Chuo-ku,Niigata951-8510,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(107)541 スクファクターの一つである,との報告2,3)が散見され,その測定は緑内障診療の標準検査の一つとなっている.当初は中心角膜厚の測定に関して,超音波パキメータを標準として測定された.その後Scheimpflug法によるペンタカムR(OCULUSOptikgerateGmbH.,Wetzlar,Deutschland)やスリットスキャン方式を用いたオーブスキャンR(Bausch&LombTechnolasGmbH,Feldkirchen,Deutschland)などの新規の測定方法・機器が紹介され,これらによる測定値は超音波パキメータの測定値とほぼ一致し,中心角膜厚の測定方法として適している,という多数の報告がみられた4.8).しかし,最近では同一被検者の中心角膜厚を測定すると,測定方法によって測定値が異なる,という報告がされている9).そこで,今回,筆者らは,同一被検者の中心角膜厚を,3種類の異なった測定方法で測定し,測定値の差,およびその傾向について検討した.I対象および方法対象は正常被検者62例で,男性30例,女性32例である.平均年齢33.6±10.5(21.64歳),他覚的屈折値(等価球面値).3.8±3.2(+1.25..12.0)ジオプトリーである.いずれの被検者も視力は矯正1.2以上で,眼圧測定に影響を及ぼす角膜疾患,およびその既往はない.また,白内障などの中間透光体の混濁や,視神経乳頭,黄斑部を含む眼底の異常は認められなかった.同一被検者に対し,1)超音波法,2)スペキュラーマイクロスコープ法(以下,スペキュラー法),3)前眼部光干渉断層法(以下,OCT法)の3種類の測定方法により,中心角膜厚の測定を行った.同一検者が同一機会にそれぞれ3回以上測定し,全測定値のなかから無作為に選択した3種類の測定値の平均値を測定値とした.3種類の方法による測定の順番は,まず,非接触検査であるスペキュラー法もしくはOCT法による測定を行い,最後に接触検査である超音波法で計測を行った.スペキュラー法とOCT法の順番は症例によって異なり,ランダムに行われた.超音波法にはTOMEYPACHYMETER-2000R(トーメー社,日本)を,スペキュラー法にはTOMEYEM-3000R(トーメー社,日本)を,OCT法にはSL-OCT(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Deutschland)を用いた.超音波法は点眼麻酔を行ったうえでプローブを角膜表面に対し垂直に当て測定し,スペキュラー法は撮影光の涙液層の反射と角膜内皮層の反射との距離で測定し,OCT法は計測光と参照光の干渉現象によって測定している.まず,3種類の測定方法による測定値の再現性を検討した.つぎに各測定方法間の相関と比較を行った.3群の平均の比較はTukey法による多重比較検定によって行った.危険率5%未満を統計学的有意差とした.II結果中心角膜厚測定値は,超音波法で558.1±34.8μm,スペキュラー法で553.8±33.7μm,OCT法で538.2±32.0μmであった(表1).Tukey法による多重比較検定の結果で,スペキュラー法と超音波法の間でp=0.501,超音波法とOCT法の間でp<0.001,OCT法とスペキュラー法との間でp=0.001で,超音波法とOCT法の間,OCT法とスペキュラー法の間で統計学的に有意な差がみられた.各測定方法間の相関に関する決定係数はスペキュラー法と超音波法の間でR2=0.4532,超音波法とOCT法の間でR2=0.7054,OCT法とスペキュラー法の間でR2=0.5195と,超音波法とOCT法の間では高い相関を示したが,スペキュラー法と超音波法,OCT法とスペキュラー法の間の相関は中等度であった(表2).回帰直線は,スペキュラー法と超音波法の間でy=0.6963x+172.52,超音波法とOCT法の間でy=0.915x+65.727,OCT法とスペキュラー法の間でy=0.7592x+145.24であった(図1).いずれの測定方法の間でも中心角膜厚のいわゆる正常範囲内では,角膜厚が厚くなるほど,違いが大きくなる傾向がみられ,その傾向はスペキュラー法と超音波法の間で最も顕著であった.3種類の方法の再現性は,超音波法1.8%,スペキュラー法4.2%,OCT法2.4%と,スペキュラー法が若干低いものの,比較的良好であった(表1).表1各測定方法の結果測定法超音波法スペキュラー法OCT法測定機器PACHYMETER-2000EM-3000SL-OCT測定値(μm)558.1±34.8553.8±33.7538.2±32.0再現性1.8%4.2%2.4%表2各測定方法間の相関・比較測定方法スペキュラー法と超音波法超音波法とOCT法OCT法とスペキュラー法回帰直線y=0.6963x+172.52y=0.915x+65.727y=0.7592x+145.24決定係数0.45320.70540.5195多重比較検定(Tukey法)p=0.501p<0.001p=0.001542あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(108) a:スペキュラー法と超音波法法の間の相関は中等度であった.また,それぞれの間の回帰y=0.6963x+172.52R2=0.4532直線の傾きは0.7592,0.6963,0.915であり,各方法によっ650.0て測定値に差がみられるだけでなく,各測定装置の特性と測超音波法(μm)定原理の違いを考慮する必要を示唆していると考えられた.今回,検討した3種類の測定方法の原理には以下のような600.0550.0違いがある.まず超音波法は,測定プローブの先端から超音波を発信し,角膜後面で反射した超音波エコーを測定してい500.0る.スペキュラー法は,涙液層の反射と角膜内皮層の反射と450.0450.0500.0550.0の距離で測定している.OCT法は,計測光と参照光の干渉現象によって測定される.いずれも角膜厚の測定原理がまったく異なる.超音波法には,プローブを当てる位置によっ600.0650.0スペキュラー法(μm)b:超音波法とOCT法て,周辺部を含めたさまざまな部位での測定ができる,測定y=0.915x+65.727R2=0.7054650.0に可視光を用いないため角膜混濁があっても測定可能であOCT法(μm)600.0550.0500.0450.0450.0500.0550.0c:OCT法とスペキュラー法600.0650.0超音波法(μm)スペキュラー法(μm)る,機器が比較的安価である,などの利点がある.スペキュラー法では,現在では非接触のオート撮影の機種が一般的であり,測定は簡便であるという利点がある.さらに,OCT法は,測定に赤外光を用いているため,羞明を最小限に抑えて測定することができ,混濁の影響を受けにくいことが利点としてあげられる.また,角膜厚だけでなく,前房深度や隅角の角度などの計測が可能な点も利点としてあげられる.一方,欠点としては,超音波法は接触検査であり,点眼薬による麻酔を要し,感染や角膜上皮障害の危険性を考慮する必要がある.正確な測定には角膜に対してプローブを垂直に接触させることが必須で,プローブの接触位置や角度によって測定値が変動する可能性がある.つまり,正確で安定した測定値を得るためには,ある程度の熟練が必要である.スペキュラー法は,角膜全層を透過する必要があり,したがって角膜混濁,浮腫のある症例では測定が不可能,もしくは不正確となることが欠点としてあげられる.また,OCT法は測定角度や位置のずれによって誤差が生ずる可能性がある.特に今回用いたSL-OCTは一般の細隙灯に付属し操作が容易である反面,患者が正面視していること,角膜中央を,かつ垂直に測定していることをモニターする装置は付属しておらず,650.0y=0.7592x+145.24R2=0.5195600.0550.0500.0450.0450.0500.0550.0600.0650.0OCT法(μm)図1各測定方法間の相関と比較相関は各機種間の相関係数を算出し,プロット.回帰直線,決定係数を示す.測定精度保証の点で若干の問題がある.これまでにも超音波パキメータを始めとするさまざまな測定方法,測定装置による中心角膜厚に関する報告がみられる.これらの報告のほとんどで,超音波法によって測定した正常眼の中心角膜厚は478.8.545.6μm8.11)で,スペキュラIII考按今回の研究では,正常眼の中心角膜厚を超音波法,スペキュラー法,OCT法の3種類の異なる方法で測定し,その測定値の差について検討した.結果として中心角膜厚測定値は3種類の測定方法によって差がみられ,特に超音波法に対してスペキュラー法では統計学的に明らかに有意に薄く計測された.いずれの方法の測定値の間に,当然,相関がみられるものの,超音波法とOCT法では0.7054と高い相関がみられ,スペキュラー法と超音波法,OCT法とスペキュラー(109)ー法では薄めに測定されるとの報告がある12,13).また,筆者らと類似の研究として,細田らは同様に3種類の測定方法で正常眼の中心角膜厚を測定,比較した.結果,超音波法では526.5±33.9μmに対して,スペキュラー法512.7±38.7μm,Scheimpflug法534.3±35.6μmで,やはりスペキュラー法で薄く測定されていた1).結果として,中心角膜厚測定値は測定方法によって異なると認識する必要がある.その理由としてはどのようなことがあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012543 考えられるだろうか?厳密に考えると,これらの測定装置のいずれを用いたとしても,実際に測定されたポイントや角度のずれの再現性を保証する方法は付属していない.また,測定方法や装置に対する検者の慣れや熟練度が影響する可能性がある.たとえば,説田らは,超音波法はOCT法に比較して再現性が低いと報告している10).しかし,今回の筆者らの結果ではむしろ超音波法で最も再現性が高かった.同じ測定原理,方法でも装置(機種)の違いや検者の熟練度の差によって結果が異なる可能性がある.それぞれの方法の測定原理の特徴についても考慮する必要がある.たとえば,超音波法は測定プローブで涙液層を圧排し,角膜上皮層から角膜内皮層までを測定していると考えられている.それに対してスペキュラー法とOCT法は,涙液層から角膜内皮層までを測定すると考えられている.しかし,スペキュラー法に対して超音波法のほうが厚めに測定されるとの報告が多く,この理由の正否には疑問が残る.おそらく,測定方法や装置ごとの測定原理の差とともに,キャリブレーションの方法の違いなども考慮する必要があるかもしれない.さらに厚い角膜ほど測定値の誤差が大きい傾向がみられた.最後に,臨床の現場においては,中心角膜厚測定値は測定方法によって差があること,各方法の特性に違いがあることについて理解し,意識しながら中心角膜厚の評価を行うことが勧められる.可能ならば自ら用いている測定装置による平均値と正常値を自ら測定し,算出したうえで使用していくことが望ましい.文献1)細田進悟,結城賢弥,佐伯めぐみほか:非接触型前眼部測定装置ペンタカムRと超音波法,スペキュラ法による開放隅角緑内障患者の中心角膜厚測定値の比較.臨眼63:1777-1781,20092)BrandtJD:Centralcornealthicknessasariskfactorforglaucoma.FrontiersinGlaucoma10:198,20103)LinW,AoyamaY,KawaseKetal:Relationshipbetweencentralcornealthicknessandvisualfielddefectinopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol53:477-481,20094)坂西良彦,坂西涼子,坂西三枝子:Scheimpflug式前眼部3D解析装置と超音波測定法による角膜厚の比較.眼臨100:719,20065)田口浩司:各種中心角膜厚測定の比較.あたらしい眼科23:477-478,20066)鈴木茂伸:角膜厚の評価.眼科診療プラクティス89:98-99,20027)本田紀彦,天野史郎:角膜厚測定.眼科49:1307-1311,20078)川名啓介,加治優一,大鹿哲郎ほか:3種類の角膜厚測定方式の比較.眼臨97:1044,20039)相良健,高橋典久,小林泰子ほか:レーザー光線による非接触型角膜厚測定器の精度について.日眼会誌108(臨増):288,200410)説田雅典,吉田有岐,青木喬司ほか:4種類の角膜厚測定機器の比較.眼科52:1721-1725,201011)徳江裕佳,北善幸,北律子ほか:スペクトラルドメイン光干渉断層計と超音波角膜厚測定装置による中心角膜厚の比較.あたらしい眼科27:91-94,201012)藤岡美幸,辰巳泰子,楠原あづさほか:前房深度に対する機種間中心角膜厚の一致性.日眼会誌110(臨増):170,200613)天野由紀,本田紀彦,天野史郎ほか:各種角膜厚測定法の比較.日眼会誌109(臨増):172,2005***544あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(110)