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BCG 膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):978.981,2023cBCG膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1例多田愛*1川野健一*2大池東*1中村将一朗*1平田朝彦*3西口康二*3*1碧南市民病院眼科*2名古屋大学医学部附属病院眼科*3碧南市民病院泌尿器科CACaseofUnilateralUveitisafterBCGIntravesicalInjectionTherapyAiTada1),KenichiKawano2),AzumaOike1),ShouichiroNakamura1),AsahikoHirata3)andKojiNishiguchi3)1)DepartmentofOphthalmology,HekinanCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUnivercityHospital,3)DepartmentofUrology,HekinanCityHospitalC緒言:昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは膀胱癌に対して,BCG膀胱内注入療法中に片眼の急性前眼部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.症例:70歳,女性.既往歴:膀胱癌(66歳.,BCG膀胱内注入療法中),大腸癌.現病歴:5日前に左眼結膜充血出現,前日より左眼の圧迫感,疼痛,眼球運動痛が出現したため碧南市民病院眼科を受診した.前眼部に炎症細胞と虹彩後癒着が認められ,特発性急性前部ぶどう膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その翌日C4回目のCBCG膀胱内注入療法を施行した.翌朝,背部痛が出現し,5日後に手足関節痛も出現,CRP,WBCの炎症反応の上昇を認め,反応性関節炎(Reiter症候群)と診断された.NSAIDs,プレドニン内服治療を開始した.4カ月後に内服を終了し,9カ月後に点眼治療を終了した.結論:ぶどう膜炎を発症した時点で薬剤性ぶどう膜炎を疑い,BCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群の可能性を考えることができれば,症状の悪化を未然に防ぐことができたかもしれない.ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容の聴取および他科との連携が必要である.CBackground:Recently,withtheever-evolvingdevelopmentofmedicalscience,therehasbeenanincreaseintheCintroductionCofCnewCtherapeuticCagentsCandCtheCadditionCofCnewCindicationsCforCexistingCtherapeuticCagents.CSimultaneously,CaCvarietyCofCocularCsideCe.ectsChaveCbeenCreported.CInCthisCarticle,CweCreportCaCcaseCofCunilateralCacuteCanteriorCuveitisCduringCBCGCintravesicalCinjectionCtherapyCforCbladderCcancer.CCasereport:ThisCstudyCinvolveda70-year-oldfemalewithamedicalhistoryofbladdercancer(sinceage66,andduringtheBCGintra-vesicalCinfusiontherapy)andCcolorectalCcancer.CFiveCdaysCpriorCtoCpresentation,CconjunctivalChyperemiaCappearedCinCherCleftCeye,CfollowedCbyCaCpressureCfeelingCandCocularCandCeyeCmovementCpainCinCthatCeyeC1CdayClater.CUponCexamination,in.ammatorycellsandposteriorsynechiawereobservedintheanteriorsegmentofthateye.Adiag-nosisofidiopathicacuteanterioruveitiswasmade,andophthalmictreatmentwasinitiated.Thefollowingday,thefourthintravesicalBCGinjectionwasperformed.Thenextmorning,backpainoccurred,and5dayslater,limbandfootCjointCpainCalsoCoccurred,CandCtheCin.ammatoryCresponseCofCC-reactiveCproteinCandCwhiteCbloodCcellCcountCincreased.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsCandCprednisone,CwhichCwereCcom-pletedCafterC4CandC9Cmonths,Crespectively.CConclusions:IfCweChadCsuspectedCdrug-inducedCuveitisCwhenCtheCpatientdevelopeduveitisandhadconsideredthepossibilityofReiter’ssyndromecausedbyBCGintravesicalinfu-siontherapy,wemighthavebeenabletopreventtheworseningofthesymptoms.Thus,inpatientswithuveitisundergoingCtreatmentCforCbladderCcancer,CitCisCvitalCtoCknowCtheCtreatmentCdetailsCinCcollaborationCwithCotherCdepartments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):978.981,C2023〕Keywords:前部ぶどう膜炎,膀胱癌,BCG膀胱内注入療法,反応性関節炎,Reiter症候群.anterioruveitis,bladdercancer,BCGintravesicaltherapy,reactivearthritis,Reitersyndrome.C〔別刷請求先〕多田愛:〒507-8522岐阜県多治見市前畑町C5-161岐阜県立多治見病院眼科Reprintrequests:AiTada,DepartmentofOphthalmology,GifuPrefectualTajimiHospital,5-161MaehataTown,TajimiCity,GifuPrefecture507-8522,JAPANC978(130)図1初診時の左眼前眼部写真前房内炎症細胞,虹彩後癒着認めた.はじめに昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは,BCG膀胱内注入療法中に反応性関節炎を生じ,片眼の急性前部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:70歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛.現病歴:7日前から左眼結膜充血が出現し,眼科受診せずに様子をみていたが,2日前より左眼の圧迫感と疼痛が出現,症状が悪化したため碧南市民病院(以下,当院)眼科を受診した.既往歴:当院泌尿器科にて,4年前に経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行後,膀胱癌と診断された.3年前に再発性・多発性膀胱腫瘍を認め,化学療法が開始された.その後,膀胱癌は落ち着いていたが,47日前より膀胱癌の再発病変に対してCBCG膀胱内注入療法が開始され,眼科受診までにC3回施行されていた.初診時初見:右眼視力C0.4(1.0C×sph.0.25D(cyl.1.50DCAx110°),左眼視力0.4(1.2C×sph+0.00D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼11mmHgであった.左眼の前眼部所見として,前房内に炎症細胞および虹彩後癒着を認めた(図1).中間透光体と眼底には明らかな異常所見は認めなかった.光干渉断層計でも異常所見は認められなかった.初診時の血液検査ではCCRP(C反応性蛋白):0.71mg/dl,WBC(白血球):10.5C×103/μlで軽度の炎症反応の上昇を認めた.CH50(血清補体価):>60.0,C3:152で補体価の上昇を認めた.Ig(免疫グロブリン)G:1,256Cmg/図2左眼点眼治療後50日後虹彩後癒着は解除された.dl,IgA:312Cmg/dl,IgM:44Cmg/dlは正常範囲内,ACE(アンギオテンシン変換酵素):15.6CU/lは特定の疾患を疑う上昇とは考えなかった.また,VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)M0.20(C.),VZVG17.5(+),CMV(サイトメガロウイルス)M0.29(C.),CMVG18.7(+)は幼児期に感染したことによる不頸性感染と考えられた.リウマチ因子,HLA-B27はともに陰性で,HLA-B13,B67陽性であった.胸部CX線でもとくに異常所見は認められなかった.この時点では全身症状はみられなかった.経過:初診時に血液検査でとくに異常を認めなかったため,特発性前部ぶどう膜炎と診断し,抗菌薬点眼(レボフロキサシン)左眼C4回/日,ステロイド点眼(1%ベタメタゾン)左眼C6回/日,散瞳点眼薬(トロピカミド配合)左眼C1回/日を開始した.点眼開始C2日後に当院泌尿器科にてCBCG膀胱内注入療法C4回目が施行された.その翌日より背部痛が出現し,5日後に手足関節痛が出現した.点眼開始後C8日で前房内炎症は消失したが,虹彩後癒着は残存した.点眼開始C10日後の血液検査でCCRP9.67Cmg/dl,WBCC10.5×103/μlで大幅な炎症反応の上昇を認めたため,関節痛に対し非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)(ロキソプロフェン)の内服を開始され,炎症反応は低下したが,膝や手首の部分的な関節痛が残存した.初診よりC29日後,CRP2.27Cmg/dl,WBCC12.0×103/μlで,新たな左眼の虹彩後癒着が出現したため,トロピカミド配合薬の点眼回数を左眼C4回/日に増量した.泌尿器科より反応性関節炎を疑われプレドニンC5Cmg/日の内服を開始した.そのC2週間後に虹彩後癒着は解除された(図2).ぶどう膜炎の原因として当初は特発性と考えていたが,3回目のCBCG膀胱内注入療法からC19日後に左眼のぶどう膜炎を発症したことと,そのほかに原因となる所見は認められなかったこと,一連の症状から泌尿器科でも反応性関節炎が疑われていることから,本症例のぶどう膜炎はCBCG膀胱内注入療法が原因となった可能性が高いと考えた.また,初診よりC29日後にプレドニゾロンC5Cmg/日の内服を開始後,膝や手首の痛みは軽度改善し,スムーズな歩行ができるようになったが,3週間経過しても関節痛は残存し,炎症反応上昇の持続(CRP2.15Cmg/dl,WBC9.8C×103/μl)を認めたため,プレドニゾロンC20Cmg/日に増量したところ,炎症反応は低下(CRP0.35Cmg/dl,WBC7.8×103/μl)し,関節痛も改善した.徐々に点眼とステロイド内服を減量し,プレドニゾロン増量後よりC70日後にプレドニゾロン内服中止,点眼開始後からC270日後に点眼中止とし,その後再発なく経過している.膀胱内の再発性の腫瘍も消失したままである.CII考按BCG膀胱内注入療法は,筋層非浸潤膀胱癌の治療および再発予防のための標準治療である.明確な作用機序は未解明であるが,BCG(弱毒化したCMycobacteriumbovis)を膀胱内に注入し,BCGはフィブロネクチンを介して腫瘍細胞内に取り込まれ(invitro),BCGを取り込んだ腫瘍細胞は直接的に抗原提示細胞として,あるいは間接的にマクロファージに貪食されることにより,BCG抗原または腫瘍特異抗原をTリンパ球に提示し,Tリンパ球の感作が成立する.細胞傷害性CTリンパ球は標的腫瘍細胞を直接に傷害し,Tリンパ球の産生する種々のサイトカインもまた,腫瘍細胞に傷害的に作用する.また,サイトカインの一部はマクロファージを活性化し,腫瘍細胞の貪食,破壊を効果的に行うようになると考えられる1).投与頻度は週にC1回で計C8週間繰り返すが,用量や回数は症状に応じて適宜増減し,また投与間隔も必要に応じて延長できる.おもな副作用として,排尿痛(32.9%),頻尿(29.2%),血尿(15.7%)が出現するが,重症な副作用として,BCG感染,間質性肺炎,反応性関節炎(わが国C2.0%2),国外C0.5%3))があげられる.反応性関節炎は,関節炎・尿道炎・結膜炎の三徴を示す疾患で,胃腸炎または性感染症の数週間後に発生することが多い.HLA-B27遺伝子保有者に多い4)との報告があるが,正確な関連は不明である.本症例でもCHLA-B27は陰性であった.眼症状としては,結膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎・角膜炎などがあげられる.約C7割の症例で眼症状が関節炎に先行したという報告5)もある.本症例においても眼症状が最初の症状で,左眼結膜充血が出現したC10日後に背部痛出現,15日後に手足関節痛が出現した.また,眼症状は両眼よりも片眼に出現する頻度のほうが高く(両眼C32%,片眼C68%)6),本症例においても片眼の眼症状のみであった.ぶどう膜炎の原因はさまざまであり,2016年に日本眼炎症学会が行った疫学調査7)によると,もっとも頻度の高い疾患はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt-小柳-原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,分類不能は36.6%であった.本症例は薬剤性のぶどう膜炎(drug-inducedUveitis:DIU)に分類される.DIUを引き起こす薬剤はシドフォビル,リファブチン,パビドロネート,アレンドロネート,スルホンアミド,エタナーセプト,インフリキシマブ,アダリムマブ,フルオロキノロン,ブリモニジン,ラニビズマブ,BCGワクチン,MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の三種混合ワクチン)ワクチン,インフルエンザワクチン,B型肝炎ウイルスワクチンなどがこれまで報告されている8).DIUはまれであるが,ワクチン,内服薬,静注薬など多種多様な薬剤で発症する可能性がある.原因薬剤を特定することにより,ぶどう膜炎の再発のリスクを減少できる可能性が高いため,初診時に患者の詳細な薬剤歴も把握する必要がある.反応性関節炎の治療法は確立されていないが,NSAIDs内服が第一選択で,効果不十分の場合はステロイドを使用する.通常はC6カ月以内に症状は改善する.本症例でも反応性関節炎出現後から,NSAIDs内服,ステロイド内服,増量を経て,約C4カ月で関節痛は改善した.膀胱癌もCBCG膀胱内注入療法が奏効し,寛解した.本症例では反応性関節炎も改善がみられ,ぶどう膜炎も改善した.再発の所見もなく,膀胱癌も寛解し経過良好ではあるが,左眼ぶどう膜炎を発症した際にCBCG膀胱内注入療法を中止していれば,反応性関節炎の発症を予防もしくは症状軽減できた可能性がある.BCG膀胱内注入療法中に副作用として反応性関節炎が出現するのはわが国ではC2.0%,ぶどう膜炎の報告はC0.7%2)と頻度は低いが,ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容を聴取するべきであり,他科との連携が必要である.利益相反:【F】JCRファーマ文献1)Ratli.TL:MechanismsCofCactionCofCintravesicalCBCGCforCbladdercancer.ProgClinBiolResC10:107-122,C19892)TaniguchiY,NishikawaH,KarashimaTetal:Frequencyofreactivearthritis,uveiris,andconjunctivitisinJapanesepatientsCwithCbladderCcancerCfollowingCintravesicalCBCGtherapy:AC20Cyear,Ctwo-centreCretrospectiveCstudy.CJtBoneSpineC84:637-638,C20173)LammCDL,CStogdillCVD,CCrispenCRGCetal:ComplicationsCofCbacillusCCalmette-GuerinCimmunotherapyCinC1,278CpatientsCwithCbladderCcancer.CJCUrologyC135:272-274,19864)PennisiCM,CPerdueCJ,CRoulstonCTCetal:AnCoverviewCofCreactivearthritis.JAAPAC32:25-28,C20195)小池繭美,夏山隆夫,松崎香奈子ほか:尿路上皮癌CBCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群による自験例を加えた本邦過去C13年間のまとめ.日本泌尿器学会雑誌C106:238-242,C20156)KissCS,CLetkoCE,CQamruddinCSCetal:Long-termCprogres-sion,Cprognosis,CandCtreatmentCocularCmanifestationsCofCReiter’ssyndrome.OphthalmologyC110:1764-1769,C20037)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20218)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:Drug-indiceduveitis:Areview.IndianJOphthalmolC68:1799-1807,C2020C***

特発性虹彩毛様体炎と診断されていた糖尿病虹彩炎の臨床経過

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):605.609,2014c特発性虹彩毛様体炎と診断されていた糖尿病虹彩炎の臨床経過村岡督高山圭田口万蔵石川聖竹内大防衛医科大学校眼科学教室ClinicalFeaturesofDiabeticIritisPatientsDiagnosedwithIdiopathicIridocyclitisTadashiMuraoka,KeiTakayama,ManzoTaguchi,ShoIshikawaandMasaruTakeuchiDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege原因不明のぶどう膜炎あるいは特発性虹彩毛様体炎の診断にて防衛医科大学校病院眼科を紹介受診し,糖尿病虹彩炎と診断された6例8眼(47.71歳)を診療録より後ろ向きに調査した.全例が無治療糖尿病患者であり,空腹時血糖値は301±58(230.376)mg/dl,HbA1C(ヘモグロビンA1C)は12.5±1.1(10.7.13.7)%であり,尿定性試験で尿糖および尿蛋白が全例陽性であった.前房内浸潤細胞が全眼で認められ,フィブリン析出が6眼,角膜後面沈着物が4眼,虹彩後癒着が6眼,前房蓄膿が2眼にみられた.糖尿病網膜症なしは1眼,単純糖尿病網膜症は4眼,増殖前糖尿病網膜症は3眼であった.全例でステロイド薬および散瞳薬の点眼,血糖コントロールを開始し,23.1±21.5日(3.60日)で軽快した.受診を自己中断した2例を除き血糖コントロールが継続され,その後虹彩毛様体炎の再発を認めなかった.糖尿病虹彩炎は特発性として見逃される症例があり,虹彩毛様体炎をみたときには血糖値検査や尿検査を行う必要があると考えられた.Weretrospectivelyreviewed6patients(8eyes)diagnosedwithdiabeticiritisatNationalDefenseMedicalCollegeHospitalfromMarch2011toSeptember2012.Allhadbeenreferredtoourhospitalashavingidiopathiciridocyclitis.Meanagewas58.0±10.1years.Allhaduntreateddiabetesmellitus;fastingplasmaglucoselevelswas301±58mg/dlandhemoglobinA1C(HbA1C)was12.5±1.1%atpresentation.Urinalysisshowedpositiveforglucoseandproteininallpatients.Oneeyehadnodiabeticretinopathy,4eyeshadsimplediabeticretinopathyand3eyeshadpreproliferativediabeticretinopathy.Iridocyclitisremissionwasachievedinallpatientsbycorticosteroideye-dropsandmedicaltreatmentfordiabetesmellituswithameandurationof23.1±21.5days(3.60days).Sincediabeticiritisisoftenmisdiagnosedasidiopathiciridocyclitis,plasmaglucoselevelandurineglucoseshouldbeexaminedinpatientswithiridocyclitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):605.609,2014〕Keywords:糖尿病虹彩炎,糖尿病性ぶどう膜炎,特発性虹彩毛様体炎,無治療糖尿病,前部ぶどう膜炎.diabeticiritis,uveitisassociatedwithdiabetesmellitus,idiopathiciridocyclitis,untreateddiabetesmellitus,anterioruveitis.はじめに1868年にNoyes1)が糖尿病患者における虹彩毛様体炎を報告後,糖尿病以外に原因が考えられない虹彩毛様体炎の報告2.6)が数多くされてきた.いずれも血糖コントロールの不良な患者において急性で強い炎症を伴う漿液性線維素性虹彩毛様体炎を呈するなどの共通した特徴が認められ,糖尿病虹彩炎として知られている.1935年にWaiteとBeetham7)は,糖尿病患者と非糖尿病患者でぶどう膜炎の発生頻度に有意差を認めなかったことを報告したが,これまで国内外を問わず,糖尿病患者は非糖尿病患者よりもぶどう膜炎の合併が多く,特に前部ぶどう膜炎の合併が多いことが多数報告2,8.10)されている.わが国では,糖尿病患者の0.3%11).6.8%2)が虹彩毛様体炎を発症し,ぶどう膜炎疫学調査の多施設共同研究ではぶどう膜炎患者の〔別刷請求先〕村岡督:〒359-8513埼玉県所沢市並木3.2防衛医科大学校眼科学教室Reprintrequests:TadashiMuraoka,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2,Namiki,Tokorozawacity,Saitama,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(127)605 1.6%12)に,首都圏の診療所を受診したぶどう膜炎患者ではその16.4%13)に糖尿病虹彩炎がみられることが報告されている.今回筆者らは,原因不明のぶどう膜炎あるいは特発性虹彩毛様体炎として紹介され,糖尿病虹彩炎の診断に至った症例を複数例経験したので報告する.I対象および方法平成23年3月から平成24年9月までの1年6カ月の間に,原因不明のぶどう膜炎あるいは特発性虹彩毛様体炎の診断で防衛医科大学校病院眼科を受診し,糖尿病虹彩炎と診断された6例8眼を診療録より後ろ向きに検討した.本研究は,防衛医科大学校病院倫理委員会の承認を得て施行された.II結果男性4例4眼,女性2例4眼,発症時の平均年齢は58.0±10.1歳(47.71歳)で,右眼のみの発症が3例(50.0%)左眼のみの発症が1例(16.7%),両眼発症が2例(33.3%)(,)であった.過去に虹彩毛様体炎の既往が4例(66.7%),高血圧症の既往が2例(33.3%),脂質異常症の既往が2例(33.3%),喫煙習慣および飲酒習慣が2例(33.3%)であった.全6例(100%)が無治療の2型糖尿病であり,2例(33.3%)は眼科受診を契機に初めて糖尿病が発見された(表1).初診時の主訴は,視力低下,霧視,充血がそれぞれ7眼(87.5%),眼痛が6眼(75.0%),流涙が1眼(12.5%)であった(表2).全身症状として,口腔内アフタ性潰瘍,陰部潰瘍,皮膚症状,腰背部痛を有するものはなかった.検査所見は,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力0.88±0.77,眼圧17.0±3.5mmHg,BMI(体重指数)24.5±2.9kg/m2,空腹時血糖値301±58(230.表1糖尿病虹彩炎患者(全6例8眼)性別男性4例4眼女性2例2眼平均年齢58.0±10.1歳(47.71歳)発症眼右眼のみ左眼のみ3例(50.0%)1例(16.7%)両眼発症2例(33.3%)既往歴過去に虹彩炎の既往高血圧症の既往4例(66.7%)2例(33.3%)脂質異常症の既往喫煙習慣および飲酒習慣2例(33.3%)2例(33.3%)糖尿病歴無治療の2型糖尿病6例(100%)うち,2例は眼科受診を契機に発見された.376)mg/dl,HbA1C(ヘモグロビンA1C)12.5±1.1(10.7.13.7)%,BUN(血中尿素窒素)13.3±3.3mg/dl,クレアチニン0.63±0.16mg/dl,eGFR(推算糸球体濾過量)97.1±22.5ml/min/1.73m2,尿定性検査で尿糖および尿蛋白が全6例(100%)で陽性,尿ケトン体が2例(33.3%)で陽性であった.その他の検査結果を合わせて表3に示す.前眼部所見として,前房微塵が全8眼(100%)で認められ,フィブリン析出が6眼(75.0%),角膜後面沈着物が4眼(50.0%),虹彩後癒着が6眼(75.0%),前房蓄膿が2眼(25.0%)にみられた(表4).糖尿病網膜症を認めなかったのは1眼(12.5%),単純糖尿病網膜症が4眼(50.0%),増殖前糖尿病網膜症が3眼(37.5%)に認められた(表5).全例で副腎皮質ステロイド薬の点眼および散瞳薬の点眼を開始し,内科管理下で血糖値をコントロールした.糖尿病虹彩炎は全例で軽快し,発症から軽快までの期間は3.60日(23.1±21.5日)であった.軽快時のlogMAR視力は0.37±0.50であり,発症時に視力低下を認めなかった1眼を除き改善を認め(図1),有意な眼圧下降もみられた(図2),(p<0.01,Wilcoxonsigned-ranktest).虹彩毛様体炎軽快時には全例で尿定性試験における尿糖,尿蛋白,尿ケトン体は陰性であった.単純糖尿病網膜症から網膜症が進行した1眼および増殖前糖尿病網膜症を生じた2眼に対しては糖尿病虹彩炎軽快後に網膜光凝固治療が開始された.増殖前糖尿病網膜症であった1眼においては光凝固が施行されず硝子体出血に至った.軽快後は,受診を全科で自己中断した2例を除いて血糖コントロールが継続され,その後虹彩毛様体炎の再発を認めなかった(平均観察期間5.6±1.9カ月).III代表症例患者:62歳,女性.主訴:両眼充血,霧視.現病歴:過去2年間に虹彩毛様体炎の発症とステロイド点眼治療による軽快を繰り返していた.8度目の虹彩毛様体炎を発症し,左眼に前房蓄膿が認められたため,特発性虹彩毛様体炎の診断で防衛医科大学校病院眼科を紹介受診した.表2主訴(全8眼)主訴視力低下霧視充血眼痛流涙眼数(割合)7眼(87.5%)7眼(87.5%)7眼(87.5%)6眼(75.0%)1眼(12.5%)*重複含む.606あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(128) 表3検査所見(全6例8眼)検査項目検査結果検査項目検査結果検査項目検査結果視力(logMAR)0.88±0.77眼圧(mmHg)17.0±3.5空腹時血糖(mg/dl)301±58HbA1C(%)12.5±1.1BMI(kg/m2)24.5±2.9BUN(mg/dl)13.3±3.3クレアチニン(mg/dl)0.63±0.16eGFR(ml/min/1.73m2)97.1±22.5尿糖定性陽性6例尿蛋白定性陽性6例尿ケトン体定性検査陽性2例AST(IU/l)21.3±9.3ALT(IU/l)26.3±17.2LD(IU/l)216±22Na(mEq/l)137±2K(mEq/l)4.2±0.3Cl(mEq/l)98±3WBC(/μl)7050±2350CRP(>0.3mg/dl)陽性2例Hb(g/dl)15.1±0.8Hct(%)43.6±2.8Plt(×104/μl)20.7±4.8PRP・TPHA定性陽性0例HBs-Ag定性陽性0例抗HCV-Ab陽性0例Mean±SD.logMAR:logarithmicminimumangleofresolution,BUN:血中尿素窒素,AST:アスパラギン酸・アミノ基転移酵素,Na:ナトリウム,WBC:白血球,Hb:ヘモグロビン,PRP:血小板浮遊血漿,TPHA:梅毒トレポネマ血球凝集反応,ALT:アラニン・アミノ転移酵素,K:カリウム,CRP:C反応性蛋白,Hct:ヘマトクリット,HBs-Ag:B型肝炎表面抗原,BMI:体重指数,eGFR:推算糸球体濾過量,LD:乳酸脱水素酵素,Cl:塩素,Plt:血小板,HCV-Ab:C型肝炎ウィルス抗原.表4前眼部所見(全8眼)所見眼数(割合)前房微塵8眼(100%)フィブリン析出6眼(75.0%)角膜後面沈着物4眼(50.0%)虹彩後癒着6眼(75.0%)前房蓄膿2眼(25.0%)*重複含む.p<0.010.53±0.56少数視力0.75±0.5310.10.01発症時軽快時(n=8)図1糖尿病虹彩炎発症時と軽快時のlogMAR視力の比較糖尿病虹彩炎発症時のlogMAR視力は0.88±0.77(少数視力平均0.53±0.56),軽快時のlogMAR視力は0.37±0.50(少数視力平均0.75±0.53)であり,発症時に視力低下を認めなかった1眼を除いて視力改善を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest).既往歴:60歳頃に糖尿病と診断されていたが,通院を自己中断していた.初診時所見:矯正視力は右眼(0.01),左眼15cm指数弁,右眼眼圧14mmHg,左眼眼圧17mmHgであった.前眼部表5当科初診時における糖尿病網膜症の病期(全8眼)糖尿病網膜眼数(割合)なし1眼(12.5%)単純糖尿病網膜症4眼(50.0%)増殖前糖尿病網膜症3眼(37.5%)p<0.0117.0±3.513.9±3.624222018161412108発症時軽快時(n=8)図2糖尿病虹彩炎発症時と軽快時の眼圧の比較糖尿病虹彩炎発症時の眼圧は17.0±3.5mmHg,軽快時眼圧は13.9±3.6mmHgであり,全例で眼圧の低下を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest).は両眼ともに毛様充血と前房内に細胞浸潤とフィブリン析出を呈し,左眼には虹彩後癒着と前房蓄膿を認めた.両眼に白内障があり,前部硝子体中の炎症性細胞や硝子体混濁は不明瞭であった.眼底は点状出血と軟性白斑を呈し,福田分類(129)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014607 BIに相当する増殖前糖尿病網膜症と考えられた.全身検査所見:口腔内アフタ,陰部潰瘍,皮膚病変は認めなかった.空腹時血糖値300mg/dl,HbA1C13.5%,尿定性試験で尿糖,尿蛋白,尿ケトン体いずれも陽性であった.各種ウイルス抗体価にも異常は認めなかった.治療開始前に採取した前房水のmultiplexPCR(polymerasechainreaction)の結果は,16SrRNA,28SrRNAともに陰性であり,ヘルペス属ウイルスDNAも検出されなかった.HLA(ヒト白血球抗体)検査ではBW51,B27抗原は検出されなかった.X線検査および心電図検査では明らかな異常を認めなかった.経過:以上の眼所見および全身検査結果から,糖尿病虹彩炎と診断した.ステロイド点眼と散瞳薬点眼による治療を開始し,内科で無治療糖尿病に対する血糖コントロールを入院管理下で開始した.治療開始後に眼炎症所見は消失傾向を呈し,治療開始3週間後には軽快し退院した.軽快時矯正視力は右眼(0.08),左眼(0.08)であった.退院後は再発なく経過し,両眼の白内障に対して水晶体再建術を施行し矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.9)となり,汎網膜光凝固術を開始した.糖尿病虹彩炎が軽快して半年後以降は全科で受診が途絶えた.IV考按糖尿病虹彩炎は男性に多いという報告5)もあれば,女性に多いという報告2)もある.発症時平均年齢については40.50歳代が多いとする報告3.6)が多く,片眼性にも両眼性にも発症する.筆者らの症例も過去の報告に合致していた.自覚症状については,半数以上で視力低下,霧視,充血,眼痛を訴えていた.92.3%で眼痛を訴えるとする報告6)があり,虹彩毛様体炎に伴う眼痛も糖尿病虹彩炎に特徴的な症状であると考えられた.前眼部所見において,前房内浸潤細胞が全例で認められたことは久納ら6)の報告と一致しており,角膜後面沈着物17%5).85%6),虹彩後癒着が6.3%2).50%10),前房蓄膿は3.8%2).56%5)と過去の報告はさまざまだが,筆者らの症例でも前眼部に同様の所見が認められた.藤原ら4)は,糖尿病患者における前房蓄膿性虹彩炎の房水検査によって多数の多核白血球の間に杆菌を認めたことから虹彩毛様体炎の発生に感染症の関与の可能性を報告しているが,筆者らの症例においては房水を用いたmultiplexPCR検査で感染を示唆する結果はみられなかった.病理学的に糖尿病では虹彩血管内皮細胞間接着構造に離開が認められる14,15)こと,糖尿病患者のほうが前房内蛋白濃度やフレア値が高い16.18)ことが知られているが,糖尿病に合併する虹彩毛様体炎の発生機序については現在も明らかになっていない.そのため,糖尿病に合併する虹彩毛様体炎は非特異的な虹彩毛様体炎であるとの説もあるが,いずれの報告608あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014でも血糖コントロール不良の糖尿病患者に発症しているという共通事項がある.筆者らの症例においても,検査所見で最低でも空腹時血糖値が230mg/dl,HbA1Cが10.7%であり,尿糖,尿蛋白および尿ケトン体が陽性となる程度にまで血糖コントロールが不良な状態であった.今回の症例の半数以上に虹彩毛様体炎の既往がある一方,栗原らの報告5)と同様に良好な血糖コントロール管理下では再発を認めていない.また,軽快時には尿糖,尿蛋白も陰転化する程度に腎機能は保たれていた.血糖コントロール不良な状態で発症するが,血糖管理により再発が抑制されること,糖尿病網膜症が進展していない状態であっても発症すること,糖尿病による腎機能障害がそれほど進行していなかったことから,慢性的な血糖コントロール不良よりも高血糖状態そのものが発症機序に関与している可能性が示唆された.Noyes1)による初期の報告でも発症時に尿糖を呈していたことが報告されているが,血糖値測定に加えて,非侵襲的検査でかつ迅速に結果が確認できる尿定性試験の有用性も見出された.糖尿病虹彩炎は,ステロイドの局所治療と血糖コントロールにより比較的短期間で軽快することが知られている6,19).筆者らの症例も全例が無治療の糖尿病患者であり血糖コントロールも悪い状態であったが,ステロイドの局所治療と血糖コントロールにより比較的短期間で軽快し視力も改善している.提示症例のように,ステロイド点眼による治療のみでは発症と軽快を繰り返す場合がある.糖尿病による網膜症変化がない症例にも生じ,ステロイド点眼により比較的早期に軽快するため,原因不明のまま見逃されてしまう症例が少なくないと考えられる.今回の症例は,糖尿病を含めた全身検査を行っていれば早期に診断されていたことから,虹彩毛様体炎を診た際には糖尿病虹彩炎を鑑別疾患として考慮し,血糖測定や尿検査を行う必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NoyesHD:Retinitisinglycosuria.TransAmOphthalmolSoc1:71-75,18682)島川真知子,小暮美津子:糖尿病に合併するぶどう膜炎.日眼会誌11:152-158,19863)OswalKS,SivarajRR,MurrayPIetal:Clinicalcourseandvisualoutcomeinpatientswithdiabetesmellitusanduveitis.BMCResNotes6:167,20134)藤原久,大賀仁,大槻美:糖尿病とぶどう膜炎糖尿病性虹彩炎は存在するか.眼臨87:14-17,19935)栗原千哉,後藤浩,高野繁:糖尿病虹彩炎の18例.眼(130) 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眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例

2012年2月29日 水曜日

《第45回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科29(2):235.238,2012c眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例竹内正樹*1翁長正樹*1樋口亮太郎*1水木信久*2*1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学医学部眼科学教室ACaseofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeDiagnosedbyOphthalmologicConsultationMasakiTakeuchi1),MasakiOnaga1),RyotarouHiguchi1)andNobuhisaMizuki2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine目的:眼科受診を契機に診断に至った間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群:tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)の1症例の報告.症例:27歳,男性.発熱,腹痛,体重減少を自覚し慢性胃炎,熱中症の診断で内科治療が行われたが症状の改善はみられなかった.2カ月後,右眼の充血,眼痛を自覚した.近医眼科でぶどう膜炎と診断され,横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.血清クレアチニン3.0mg/dl,尿中b2ミクログロブリン53.8mg/lであり尿細管障害が指摘された.腎生検で急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併からTINU症候群と診断された.点眼治療,副腎皮質ステロイドパルス療法によりぶどう膜炎,急性間質性腎炎は改善した.結語:ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮し精査加療する必要があると考えられた.Purpose:Toreportacaseoftubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome(TINUsyndrome)diagnosedbyophthalmologicconsultation.Case:A27-year-oldmaleexperiencedfever,weightlossandabdominalpain.Hewastreatedforheatstrokeandchronicgastritisbyaninternist,butthesymptomswerenotalleviated.Twomonthslater,henoticedpainandrednessinhisrighteye,andhisserumcreatinineandurinarybeta2microglobu-linlevelswerefoundtobeelevated.HewasdiagnosedwithTINUsyndromeonthebasisofocular.ndingsandrenalbiopsy.ndings.Theuveitisandinterstitialnephritiswereimprovedbyeyedroptreatmentandcorticosteroidpulsetherapy.Conclusion:TINUsyndromeshouldbeconsideredinpatientswithuveitisandcompromisedrenalfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):235.238,2012〕Keywords:間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群,TINU症候群,前部ぶどう膜炎,間質性腎炎,腎生検.tubulointer-stitialnephritisanduveitissyndrome,TINUsyndrome,anterioruveitis,tubulointerstitialnephritis,renalbiopsy.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(以下,TINU症候群)は,急性間質性腎炎にぶどう膜炎を合併した症候群である.1975年にDobrinが2症例を報告して以来1),現在までに世界で200例ほどの報告がみられる2).TINU症候群は若年女性に好発し,ぶどう膜炎は両眼性前部ぶどう膜炎が多くみられる3).全身症状には,発熱,体重減少,倦怠感,腹痛などがあり,眼症状としては充血,眼痛,霧視などがある3).急性間質性腎炎はぶどう膜炎に先行して起こることが多いが,ぶどう膜炎が先行した症例の報告もみられる3).TINU症候群の治療には,副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤の全身投与が行われる.TINU症候群の視力予後は一般的に良好であり,腎機能障害についても89%で改善がみられるが,不可逆性の腎機能障害から腎不全に至り,腎移植が必要となることもある3).今回,筆者らは発熱,倦怠感,腹痛などを自覚し内科を受〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0037横浜市金沢区六浦東1-21-1国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院眼科Reprintrequests:MasakiTakeuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyousaiHospital,1-21-1Mutsuura-Higashi,Kanazawa-ku,Yokohama236-0037,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)235診していたが診断に至らずに,眼科受診を契機にTINU症候群の診断に至った症例を経験したので報告する.I症例患者:27歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:特記事項なし.平成22年6月頃より,発熱,全身倦怠感,腹痛,食欲不振を自覚した.近医内科を受診し,熱中症の診断で点滴加療を受けた.その後も症状が続いたため,上部消化管内視鏡検査を施行し慢性胃炎の診断で内服治療を受けていた.8月上旬より右眼の充血および眼痛を自覚し,8月21日,近医眼科を受診した.右眼の虹彩炎の診断でリン酸ベタメタゾン点眼の4回投与を行った.リン酸ベタメタゾン点眼により充血,虹彩炎の改善がみられたが,その後も軽快と増悪を繰り返した.10月4日,右眼虹彩炎の再燃および右眼眼圧28mmHgと上昇を認め,精査加療目的に横浜南共済病院眼科を紹介受診となった.初診時視力は,VD=20cm/m.m.,VS=(1.2),眼圧は右眼21mmHg,左眼16mmHgであった.前眼部所見では,右眼に角膜浮腫,結膜毛様充血,前房内細胞(2+),前房フレア(+),虹彩後癒着を認めた(図1).右眼中間透光体,眼底は角膜浮腫のため透見不良であった.左眼に特記すべき所見はみられなかった.血液生化学検査では,血清クレアチニン3.0mg/dl,尿素窒素24.9mg/dlと高値であった.尿定性検査では蛋白定性2+,糖定性3+であった.アンジオテンシン変換酵素8.4U/lは正常範囲内であり,自己免疫抗体では抗核抗体(.),リウマトイド因子<10IU/ml,好中球細胞質抗体(PR3-ANCA<3.5U/ml,MPO-ANCA<9.0U/ml)は正常範囲内であった.心電図,胸部単純写真に異常所図1初診時右眼前眼部写真角膜浮腫,結膜毛様充血,虹彩後癒着がみられた.図2腎生検病理組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)間質に著明なリンパ球の浸潤を認める.糸球体の炎症はほとんどみられない.見はみられなかった.右眼前部ぶどう膜炎の診断で,リン酸ベタメタゾン点眼を1時間毎に増量し,トロピカミド・フェニレフリン点眼を開始した.腎機能障害の精査目的に,10月6日に腎臓高血圧内科を受診した.尿生化学検査では,尿蛋白定量148mg/dl(基準値20mg/dl以下),尿糖定量594mg/dl(基準値70mg/dl以下),尿中b2ミクログロブリン53.8mg/l(基準値0.3mg/l以下)と著明に高値であった.尿細管障害を主座とした腎機能障害を認め,同日,内科に緊急入院となり,尿細管障害による脱水補正を目的に生理食塩水2,500ml/日の点滴静注が開始された.10月8日に眼科受診時には,眼痛,充血は改善傾向であった.角膜浮腫は軽快し,結膜毛様充血,前房内細胞は改善傾向であり,右眼矯正視力は0.5となった.眼底所見に特記すべき所見はみられなかった.ぶどう膜炎および腎機能障害の合併より,TINU症候群を考慮し,10月12日に腎生検が施行された.病理学的検査では,尿細管間質にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤を認め,尿細管は圧排されていた(図2).以上より,急性間質性腎炎の病理診断となり,ぶどう膜炎の合併よりTINU症候群の診断に至った.10月25日より副腎皮質ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日3日間)を行い,以後内服で漸減した.右眼ぶどう膜炎は点眼により軽快し,角膜浮腫の改善により右眼矯正視力は1.2となった.腎機能障害は安静と副腎皮質ステロイドパルス療法により軽快した(図3).その後,平成23年5月に左眼の前部ぶどう膜炎を認め,リン酸ベタメタゾン点眼を開始した.現在まで,右眼のぶどう膜炎の再発はみられていない.平成23年8月には血清クレアチニン,尿中b2ミクログロブリンが基準値内となった.236あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(88)副腎皮質ステロイド全身投与ベタメタゾン点眼1時間毎6回4回前房内細胞2+++2+++-1.510.50小数視力10月4日12日25日11月18日初診入院腎生検ステロイドパルス退院図3入院時経過Cr:血清クレアチニン,U-b2II考察今回,筆者らは全身症状を自覚し内科を受診したが診断に至らずに,眼科受診を契機に腎機能障害を指摘され,TINU症候群の診断に至った症例を経験した.TINU症候群では腎機能障害は89%で改善すると報告されている3).しかし,腎不全に至る症例もあり早期発見,早期治療が重要となる.TINU症候群のぶどう膜炎は点眼治療に対する反応も良いため,ぶどう膜炎の治療のみを行うと急性間質性腎炎の診断が遅れる可能性がある.今回の症例においては,全身症状の自覚からTINU症候群の診断に至るまでにおよそ4カ月を要した.他の報告4)でも,発症初期では眼科,内科が独立して治療を行っていることも多く,早期の診断のためには内科との円滑な連携が重要となる.ぶどう膜炎の診察では炎症が軽度であっても全身疾患が隠れていることもあるため,血液尿検査をはじめとした全身検査が必要である.TINU症候群では視力予後は良好である3).症例では初診時に角膜浮腫を伴っており視力は手動弁であった.急性期においても視力低下は比較的軽度であり手動弁にまで低下した報告は過去にない.しかし,治療経過は他の報告と同様に副腎皮質ステロイド点眼により,速やかに視力が改善している.TINU症候群では50%程度の症例でぶどう膜炎が再発するため3),今後も定期的な診察が必要である.症例では現在までぶどう膜炎の再発はみられていないが,7カ月後に副腎皮質ステロイド10mg/日を内服中であるにもかかわらず左眼に初めて前部ぶどう膜炎を認めた.過去の報告でも高用量の副腎皮質ステロイド投与中にぶどう膜炎を発症した症例が報告されている5).CrU-b2MG(mg/dl)(mg/l)3.0602.0401.0200.00MG:尿中b2ミクログロブリン.TINU症候群の診断について標準的な診断基準は確立されていない.腎機能障害とぶどう膜炎を合併する鑑別疾患としては,サルコイドーシス,Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,Wegener肉芽腫症などがあげられる.これらの疾患との鑑別には,腎生検における急性間質性腎炎の病理所見が重要となる.MandevilleらはTINU症候群の診断基準について,急性間質性腎炎の2カ月前から12カ月後以内に発症した両眼性ぶどう膜炎をtypicaluveitisとし,typicaluveitisと急性間質性腎炎の病理診断を合わせた症例をde.niteTINUsyndromeとしている3).症例では,両眼同時発症ではないが両眼性ぶどう膜炎と急性間質性腎炎の病理診断よりde.niteTINUsyndromeとなる.TINU症候群の原因については感染,薬剤,自己免疫との関連が過去に報告されているが,いまだ結論には至っていない3).尿細管と毛様体上皮は炭酸脱水酵素阻害感受性の電解質輸送体に関して同様の機能を有しており,このことは両者に共通の交叉抗原が存在する可能性を示唆している6,7).近年の報告では,Tanらはmodi.edCRPに対する自己抗体がTINU症候群の原因である可能性について報告している8).また,OnyekpeらはTINU症候群で腎不全に至り腎移植を受けた患者で移植腎においても間質性腎炎がみられたことから,TINU症候群の原因は血液中の自己抗体ではないかと推察している9).III結語ぶどう膜炎に腎機能障害を合併した症例では,TINU症候群を考慮して内科との連携を図り精査加療する必要がある.(89)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012237文献1)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanteriorueitis.Anewsyn-drome.AmJMed59:325-333,19752)SinnamonKT,CourtneyAE,HarronC:Tubulointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome:Epidemiology,diagnosisandmanagement.NephrolDialTransplantPlus2:112-116,20083)MandevilleJTH,LevinsonRD,HollandGN:Thetubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthal-mol46:195-208,20014)黛豪恭,秋山英雄,海野朝美ほか:良好な経過をたどった尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群の2例.臨眼63:897-901,20095)LavaSA,BucherO,BucherBSetal:DevelopmentofuveitisduringsystemiccorticosteroidtherapyinTINUsyndrome.PediatrNephrol26:1177-1178,20116)IzzedineH:Tubulointerstitialnephritisanduveitissyn-drome:Astepforwardtounderstandinganelusiveocu-lorenalsyndrome.NephrolDialTransplant23:1095-1097,20087)SugimotoT,TanakaY,MoritaYetal:Istubulointersti-tialnephritisanduveitissyndromeassociatedwithIgG4-relatedsystemicdisease?Nephrology13:89,20088)TanY,YuF,QuZetal:Modi.edC-reactiveproteinmightbeatargetautoantigenofTINUsyndrome.ClinJAmSocNephrol6:93-100,20119)OnyekpeI,ShenoyM,DenleyHetal:Recurrenttubu-lointerstitialnephritisanduveitissyndromeinarenaltransplantpatient.NephrolDialTransplant26:3060-3062,2011***238あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(90)