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増殖糖尿病網膜症の硝子体手術術後に発生した 後発白内障に前部硝子体切除を行い眼内炎を発症した1 例

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):449.451,2024c増殖糖尿病網膜症の硝子体手術術後に発生した後発白内障に前部硝子体切除を行い眼内炎を発症した1例齋藤了一高松赤十字病院眼科CACaseofEndophthalmitisfollowingAnteriorVitrectomytoTreataDenseCataractafterVitrectomyandCataractSurgeryinaProliferativeDiabeticRetinopathyPatientAkiraSaitohCTakamatsuRedCrossHospitalC背景:混濁が非常に強い後発白内障に対し,前部硝子体切除(anteriorvitrectmy:Avit)を行い眼内炎を発症した非常にまれなC1例を経験したので報告する.症例:52歳,女性.増殖糖尿病網膜症に対する硝子体・白内障同時手術後に混濁が非常に強い後発白内障が発症した.後発白内障に対してCAvitを行ったところ術後に眼内炎を発症した.即時に抗菌薬灌流下で硝子体切除術を行い良好な予後が得られた.本例は手術施行時の血糖コントロールは比較的不良であった.結論:後発白内障の混濁が非常に強い症例でCAvitを施行する場合には感染のリスクを考慮して血糖コントロールを含めた慎重な対応が必要であると考えられた.CPurpose:Toreportararecaseofpostoperativeendophthalmitisfollowinganteriorvitrectomyforalate-onsetposteriorcataractwithsevereopacity.Case:Thisstudyinvolveda52-year-oldfemaleinwhomaposteriorcata-ractwithsevereopacitydevelopedaftersimultaneousvitreousandcataractsurgeryforproliferativediabeticreti-nopathy.Sinceendophthalmitisdevelopedafewdaysafteranteriorvitrectomyforthesecondarycataract,vitrecto-myCwasCimmediatelyCperformedCunderCantibioticCirrigation,CandCtheCpatientChadCaCgoodCprognosis,CalthoughCtheCpatienthadrelativelypoorglycemiccontrolatthetimeofsurgery.Conclusion:Whenanteriorvitrectomyisper-formedinapatientwithasecondarycataractwithverysevereopacity,carefulmeasures,includingbloodglucosecontrol,arenecessaryduetotheriskofinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(4):449.451,C2024〕Keywords:眼内炎,後発白内障,前部硝子体切除,血糖コントロール.endophthalmitis,aftercataract,anteriorvitrctomy,bloodsugarcontrol.Cはじめに糖尿病患者は,多核好中球の遊走能,接着能,貪食能,殺菌能が低下しており,とくに血糖コントロールが不良の場合は感染を惹起しやすい.硝子体手術後の眼内炎の発生頻度はC0.03.0.05%で比較的まれな疾患である.一方CNd:YAGlaser後.切開術後の眼内炎発生率は症例報告が散見するだけの非常にまれな疾患である1.5).今回筆者らは増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に硝子体・白内障同時手術(vitrectomy+PEA+IOL)施行後に発生した後発白内障に対し,前部硝子体切除(anteriorvitrectomy:Avit)を行い眼内炎を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例52歳,女性,持病はC2型糖尿病.PDRにて視力低下をきたしC2008年C6月髙松赤十字病院眼科紹介となる.初診時所見:視力は右眼(0.7),左眼(0.4).右眼眼底に多数の網膜新生血管を認め,さらに硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)がみられた.左眼眼底には視神経乳頭鼻〔別刷請求先〕齋藤了一:〒760-0017香川県高松市番町C4-1-3高松赤十字病院眼科Reprintrequests:AkiraSaitoh,M.D.,TakamatsuRedCrossHospital,4-1-3Ban-cho,Takamatsu-shi,Kagawa-ken760-0017,CJAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(83)C449図1後発白内障に前部硝子体切除を施行する直前の前眼部水晶体上皮細胞の増殖を伴う液状後発白内障を認めた.側に牽引性網膜.離が,後極部に増殖膜が,下方にCVHがみられた.2008年C4.6月に両眼に汎網膜光凝固を施行.その後両眼のCVH増加し右眼視力(0.01),左眼視力(指数弁)に低下した.2008年C11月,右眼CPEA+IOL+vitrectomy+レーザー追加を施行した.このときCHbA1cはC5.6%と良好であった.また,2011年C6月,左眼CPEA+IOL+vitrectomy+レーザー追加を施行.このときもCHbA1cはC6.4%と良好であった.2013年C12月時点で右眼(1.5),左眼(1.2)と経過良好であった.術C10年後のC2018年C8月に右眼視力低下自覚し,矯正視力(0.7)と低下し水晶体上皮細胞の増殖を伴う液状後発白内障を認めた.通常のCNd:YAGレーザーでは治療困難であると判断したため,2018年C8月右眼CAvitを施行した(図1).術後点眼にモキシフロキサシンとベタメサゾンを使用した.このときCHbA1cはC7.2%で食後C3時間血糖C252Cmg/dlと血糖(BS)コントロールは不良であった.術C4日後から右眼の視力低下,眼痛を自覚.術後C5日目に当科受診.右眼に毛様充血,Descemet膜皺襞,前房蓄膿とフィブリン析出がみられて眼底透見不能であった.術後眼内炎と診断した.香川大学眼科に加療をお願いした.同日右眼前房洗浄+vitrectomy(セフタジムとバンコマイシン灌流下で施行).なお,術中採取した硝子体の培養結果では菌は検出されなかった.この際硝子体内の混濁は強かったが網膜所見は大きな異常は認められなかった.術後点眼はバンコマイシン・モキシフロキサシン・ベタメサゾン・セフメノキシムを用いた.術後経過良好でC2022年C11月現在で矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.2)であった.II考按糖尿病患者は,多核好中球の遊走能,接着能,貪食能,殺菌能が低下しており,とくに血糖コントロールが不良の場合は感染を惹起しやすい(易感染性).今回両眼の初回手術ではCHbA1c(5.6%,6.3%)は比較的良好であった.感染の発端となった右眼CAvit施行時はCHbA1c7.2%で食後C3時間CBS252Cmg/dlと血糖コントロールは不良であった.周術期CBSコントロールについて文献的に下記のような記載がみられる.1)長期間のCBSを反映するCHbA1cは単独では術後感染症の予測因子とはならない.より重要なのは手術前後の比較的短期間のCBS管理である(谷岡ら)6).2)術前コントロールの目標としては空腹時CBS100.140Cmg/dlもしくは食後CBS160.200Cmg/dl.HbA1cは術直前のCBSコントロールを正確に反映しないと留意する.空腹時CBS200Cmg/dl以上,食後CBS300Cmg/dl以上,尿ケトン体+なら延期すべき.(「糖尿病専門医研修ガイドブック」第C8版)7)後発白内障の場合手術の緊急性はないため,内分泌内科に依頼しより厳密なコントロール下で行うべきであると考えられた.硝子体手術後眼内炎の疫学に関する文献ではCParkJCら8)がCUKでC2年間に行われたC8,443例のCprospectivestudyがあり.このうちC28例に眼内炎の発症(0.033%)がみられた.さらにさまざまなリスクファクターについてCcontrolと比較している.単変量解析で有意差(危険率C0.05未満)があったのはCimmunosuppression(p=0.023),ステロイド点眼投与(p<0.001,ステロイド全身投与(p=0.043),眼科濾過手術(p=0.008),糖尿病網膜症によるCVH(p=0.011)などであった.なお非糖尿病性のCVHは有意でなかった(p=0.37).有意差なしのおもなものとしては糖尿病の罹患(p=0.078),Surgeongrade(p=0.25).さらに多変量解析の結果では有意差があったのはCimmu-nosuppression(p=0.001),ステロイド点眼投与(p<0.001)のみであった.糖尿病の罹患の有無も血糖コントロールが好であればリスクファクターとはいえない結果となった.Nd:YAGlaser後.切開でおきた眼内炎は症例報告が散見されるがまれである.レーザー施行から発症までの期間はC1日.2週と報告されており起炎菌としてはCP.acnes,Strep-tococcusintermedius,Canditaalbicansなどの弱毒菌があげられている.早期の硝子体手術で予後は良好とされている.発生機序としては水晶体.内には抗生物質・免疫能が届きにくいため手術後に嫌気性菌が眼内レンズ周囲の.内に長期間にわたり生息しており,レーザー照射時に水晶体.内に生息していた弱毒菌が前房内や硝子体中に散乱して発症すると考450あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(84)えられている.今回術前に培養がなされておらず,術中検体の培養結果も陰性であったが,発症がCNd:YAGlaserに準ずるものか,術中の術創からの感染なのかは培養では不明であった.本症例では後発白内障の混濁が強く通常のCNd:YAGlaserでは混濁の除去が困難であると考え硝子体手術で除去を行った.今回起炎菌は不明であったが.手術操作時に前房内,硝子体内に水晶体.内の菌を拡散させ眼内炎を発症し,また,無硝子体眼であるため硝子体混濁は強いが網膜の病変が軽微であった可能性が考えられた.とくに術前後のCBSコントロールに留意し内分泌内科と密に連携すべきであると考えられた.CIII結語後発白内障の混濁が非常に強い症例ではCAvit時にCNd:CYAGlaser施行時と同様の機序で眼内炎を発症する可能性があると考えられた.Nd:YAGlaserを行う場合もCAvitを施行する場合でも感染のCriskを考慮して血糖コントロール,インフォームド・コンセントを含めた慎重な対応が必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CarlsonCAN,CKochDD:EndophthalmitisCfollowingNd:CYAGClaserCposteriorCcapsulotomy.COphthalmicCSurgC19:C168-170,C19882)TetzCMR,CAppleCDJ,CPriceCFWCJrCetal:ACnewlyCde-scribedCcomplicationCofCneodymium-YAGClaserCcapsuloto-my:exacerbationCofCanCintraocularCinfection.CArchCOph-thalmolC105:1324-1325,C19873)板谷慶子,船田雅之,飴谷有紀子ほか:YAGレーザー後発白内障切開後に眼内炎がみられたC1例.臨眼C53:1008-1012,C19994)江島哲至,菅井滋,高木郁江ほか:後発白内障を契機に発症した両眼の細菌性眼内炎のC1例.臨眼C51:957-959,C19975)西悠太郎:Nd:YAGレーザーを用いた後.混濁の後.切開術.あたらしい眼科34:167-171,C20176)谷岡信寿:総論糖尿病と外科手術.臨床外科C77:30-33,C20227)日本糖尿病学会:周術期管理の実際.糖尿病専門医研修ガイドブック第C8版,p411-414,C20208)ParkCJC,CRamasamyCB,CShawCSCetal:ACprospectveCandCnationwideCstudyCinvestingCendoophthalmitisCfollowingCparsplanaCvitrctomy:incidenceCandCriskCfactors.CBrJOphthalmolC98:529-533,C2014***(85)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C451