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医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1299.1306,2018c医薬品副作用データベースを用いた全身投与薬による眼障害の調査解析有山智博田中博之石井敏浩東邦大学薬学部実践医療薬学研究室CAnalysisofEyeDisordersInducedbySystemicDrugs,UsingtheJapaneseAdverseDrugEventReportDatabaseTomohiroAriyama,HiroyukiTanakaandToshihiroIshiiCDepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversityわが国の全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにする目的で,日本の医薬品副作用データベース(JADER)を用いて調査・解析を行った.JADERに登録された症例のうち,「眼障害」が報告された症例を対象とし,患者背景,使用薬剤,および転帰を解析した.全身投与薬を被疑薬として報告された眼障害の総件数はC7,678件であり,その被疑薬はC1,001品目であった.報告件数が多い眼障害は,「眼部感染,刺激症状および炎症」や「視覚障害」であった.報告された被疑薬はリバビリンがもっとも多く,ついでペグインターフェロンCa-2b,プレガバリンであった.性別や年齢の分布は,疾患や使用薬剤により大きく影響を受けていた.眼障害の多くは,被疑薬の中止により回復または軽快するが,一部の症例においては未回復・後遺症などが確認された.本調査より,全身投与薬による眼障害の発症状況を明らかにすることができた.CToclarifythecurrentsituationofeyedisorderscausedbysystemicdruguseinJapan,theJapaneseAdverseDrugCEventCReportCdatabaseCwasCsurveyedCtoCidentifyCsuchCcases.CSpeci.cally,CtheCterm“eyeCdisorders”wasCsearched,andinformationonpatientbackground,drugsused,andoutcomewasextracted.Intotal,7,678reportedcasesand1,001suspectdrugswereidenti.ed.Ocularinfections,irritationsandin.ammations,aswellasvisiondis-orders,CwereCtheCmostCcommonCocularCadverseCe.ects.CTheCmostCfrequentlyCreportedCsuspectCdrugCwasCribavirin,Cfollowedbypeginterferonalfa-2bandpregabalin.Patientgenderandagedistributionswerea.ectedbytheunder-lyingCdiseasesCandCtheCmedicationsCused.CMostCocularCadverseCeventsCwereCrelievedCbyCdiscontinuingCtheCsuspectCdrug,CexceptingCinConeCcaseCinCwhichCtheCdamageCwasCirreversible.CInCsummary,CourCsurveyCrevealedCaCclearCpic-tureofthecurrentsituationofadverseoculareventscausedbysystemicdrugsinJapanesepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(9):1299.1306,C2018〕Keywords:眼障害,全身投与薬,副作用データベース,被疑薬,有害事象.eyedisorder,systemicdrug,Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase,suspectdrug,adversee.ects.Cはじめに薬剤投与による眼障害は,眼科用剤の局所投与に起因する副作用と眼科用剤以外の全身投与に起因する副作用がある.全身投与薬による眼障害は,古くはエタンブトール1),インターフェロン2)で報告され,最近ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)をはじめとする抗がん薬において報告がなされているが3,4),その多くが施設単位の報告に限られており,わが国での発症状況の全体像については明らかにされていない.全身投与薬による眼障害は,その主とする薬理作用からは予想がつきにくく,発生機序も不明なことが多い.したがって,投与する医師がこれら眼障害を的確に診断・治療することは困難な場合がある.また,眼科医にとっても専門外の薬剤での副作用については認識が遅れる可能性がある.そのため,全身投与薬による眼障害の実態を〔別刷請求先〕有山智博:〒274-8510千葉県船橋市三山C2-2-1東邦大学薬学部実践医療薬学研究室Reprintrequests:TomohiroAriyama,DepartmentofPracticalPharmacy,FacultyofPharmaceuticalScience,TohoUniversity,2-2-1Miyama,Funabashi,Chiba274-8510,JAPAN表1対象のHLGTとPT,報告件数HLGTCPT報告件数眼前方部構造変化,沈着および変性白内障,後天性涙道狭窄,角膜びらんなどC40語C562眼部障害角膜障害,眼痛,Sjogren症候群などC26語C353緑内障および高眼圧症緑内障,閉塞隅角緑内障,高眼圧症などC6語C317眼部感染,刺激症状および炎症皮膚粘膜眼症候群,眼瞼浮腫,眼充血などC81語C2,511眼球新生物視神経膠腫,結膜.胞,結膜新生物などC10語C14眼神経筋障害眼瞼下垂,注視麻痺,眼振などC34語C577眼球感覚神経障害羞明,眼の異常感,眼精疲労などC5語C107眼部構造変化,沈着および変性CNEC網膜.離,網膜色素上皮裂孔,Basedow病などC32語C452網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害網膜出血,網膜症,硝子体出血などC27語C1,107眼部出血および血管障害CNEC結膜出血,眼出血,虚血性視神経症などC16語C215視覚障害視力低下,視力障害,霧視などC40語C1,463NEC:notelsewhereclassi.ed「他に分類されない」.明らかにし,早期発見および治療の一助につなげることを目的に独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuti-calsandMedicalDevicesAgency:PMDA)がC2004年C4月より収集・公開している医薬品副作用データベース(Japa-neseAdverseDrugEventReportdatabase:JADER)を用いて調査・解析を行った.CI対象および方法PMDAのCwebサイト(http://www.info.pmda.go.jp/fukusayoudb/CsvDownload.jsp,2016年C10月C7日)より入手したJADERの2004年4月.2016年3月のデータを用いた.対象とする副作用名は,医薬規制用語集CMedicalDictionaryforCRegulatoryCActivities(MedDRA)ver.20.0の基本語(PreferredCTerm:PT)を使用し,MedDRA階層レベルで器官別大分類(SystemOrganClass:SOC)「眼障害」のうち高位グループ語(HighCLevelCGroupCTerm:HLGT)でまとめて集計した.HLGTのうち「先天性眼部障害」「眼球外傷」は除外した.JADERに登録されている全症例のなかから報告年度,性別,年齢および転帰について解析した.薬剤は「被疑薬」の報告のみとし,投与経路が「眼」「眼内」「眼球後」「結膜下」と報告されているもの,および投与経路が明確でない「非経口」「その他」「不明」で報告されているものはすべて除外した.さらに眼科用光線力学的療法用レーザーによる光照射と併用するベルテポルフィンおよび眼瞼痙攣に用いるCA型ボツリヌス毒素は,直接眼部に作用する薬剤であるため眼科用剤として除外した.本研究では,データの欠損は「不明」として集計した.年齢区分を「新生児.20歳代」「30.40歳代」「50.60歳代」「70歳代.」として解析を行い,報告データに「青少年」「成人」といったこれらの年齢区分に分類できない年齢群のものは「不明」として扱った.また,各種薬剤の添付文書における眼部副作用に関する記載状況(2017年C9月時点)を併せて調査した.CII結果対象期間の副作用報告総数は,627,062件(重複を除く)であった.眼障害の報告は,10,961件あり,そこからHLGT「先天性眼部障害(19件)」「眼球外傷(51件)」を除外し,眼科用剤に起因する眼障害(3,213件)を除くと,対象薬剤における眼障害の報告件数はC7,678件,症例数は7,135人であった.各CHLGTとそれに含まれるCPTおよび件数を表1に示す.各CHLGTのなかでもっとも報告件数が多かったものは,「眼部感染,刺激症状および炎症」がC2,511件であり,「視覚障害」1,463件,「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」1,107件の順であった.被疑薬は,10,270件(1,001品目)の報告があり,各CHLGTの報告件数の多い薬剤を表2に示した.2004年度.2015年度の報告年度別の副作用件数を図1に示した.「眼部感染,刺激症状および炎症」「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」「視覚障害」の報告が多く,いずれもC2012年度をピークに増加したが,その後は減少傾向であった.2004年度.2015年度の報告年度別の薬剤の推移を図2に示した.2011年にラモトリギンがピークとなり,2012年はリバビリン,ペグインターフェロンCa-2b,テラプレビル,プレガバリンがピークとなり,その後減少した.各CHLGTで発症の性差を比較すると「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」が女性に多くみられた(図3).年代でみると「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い年代に多く「眼部出血および血管障害CNEC(nonelsewhereclassi.ed)」はC70歳代以上に多い傾向であった(図4).副作用の転帰は,「回復・軽快」がC3,736件,「未回復・後遺症あり」がC1,331件,「死亡」がC51件,「不明」がC2,560件であった.「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼部感染,刺激症状および炎症」「眼球新生物」「眼神経(件)350300250200150100500200420052006200720082009201020112012201320142015(年度)①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪図1年度別の副作用報告件数①眼前方部構造変化,沈着および変性,②眼部障害,③緑内障および高眼圧症,④眼部感染,刺激症状および炎症,⑤眼球新生物,⑥眼神経筋障害,⑦眼球感覚神経障害,⑧眼部構造変化,沈着および変性CNEC,⑨網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害,⑩眼部出血および血管障害CNEC,⑪視覚障害.C(件)160140120100806040200200420052006200720082009201020112012201320142015J(年度)ABCDEFGHI図2副作用報告上位10薬剤の年度別報告件数A:リバビリン(447件),B:ペグインターフェロンCa-2b(341件),C:プレガバリン(235件),CD:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(223件),E:ラモトリギン(222件),F:プレドニゾロン(217件),G:エタンブトール塩酸塩(170件),H:テラプレビル(158件),I:アセトアミノフェン(139件),J:カルバマゼピン(136件).C表2各HLGTと被疑薬リスト(上位15品目)合計リバビリンC447眼神経筋障害組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子(1,001品目)ペグインターフェロンCa-2bC341(314品目)ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C26プレガバリンC235CリスペリドンC23S-1C223カルバマゼピンC22ラモトリギンC222エチゾラムC20プレドニゾロンC217プレガバリンC16エタンブトール塩酸塩C170ブロチゾラムC16テラプレビルC158パロキセチン塩酸塩水和物C14アセトアミノフェンC139ラモトリギンC13カルバマゼピンC136インフルエンザCHAワクチンC13バゼドキシフェン酢酸塩C135クエチアピンフマル酸塩C12ペグインターフェロンCa-2aC128パリペリドンC11組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ドネペジル塩酸塩C11ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C106アルプラゾラムC10ロキソプロフェンナトリウム水和物C96ジスチグミン臭化物C10アロプリノールC96トリアゾラムC10眼前方部構造変化,沈着および変性(222品目)CS-1Cプレドニゾロンラモトリギンタムスロシン塩酸塩フルチカゾンプロピオン酸エステルプレガバリンカルバマゼピンエタネルセプトタクロリムス水和物アロプリノールシクロスポリンエルロチニブ塩酸塩ドセタキセル水和物デキサメタゾンアミオダロン塩酸塩C145眼球感覚神経障害45(69品目)26141313121010998877組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)C27組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子9ワクチン(酵母由来)CボリコナゾールC9パロキセチン塩酸塩水和物C5ラモトリギンC5バルサルタンC4プレドニゾロンC2ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルC2イオベルソールC2ロサルタンカリウムC2エピルビシン塩酸塩C2プレガバリンC2アリピプラゾールC2(146)眼部障害S-1C53眼部構造変化,沈着およびリバビリンC57(200品目)CラモトリギンC21変性CNECペグインターフェロンCa-2bC38リバビリンC13(242品目)プレドニゾロンC32ペグインターフェロンCa-2bC10ペグインターフェロンCa-2aC25パロキセチン塩酸塩水和物C10プレガバリンC13組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子9ベバシズマブC13ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)Cヨウ化ナトリウム(C131I)C11プレガバリンC9エポエチンベータC9組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子シクロスポリンC8ワクチン(酵母由来)C8エタネルセプトC7バゼドキシフェン酢酸塩C8インターフェロンCa-2bC7アマンタジン塩酸塩C7アミオダロン塩酸塩C7アロプリノールC6タクロリムス水和物C7カルバマゼピンC6エポプロステノールナトリウムC6ドセタキセル水和物C6バルサルタンC6ジクロフェナクナトリウムC5イマチニブメシル酸塩C6CカペシタビンC5バラシクロビル塩酸塩C5プレドニゾロンC5緑内障および高眼圧症プレドニゾロンC25網膜,脈絡膜および硝子体リバビリンC311および血管障害プレガバリンC16の出血ペグインターフェロンCa-2bC245(208品目)フルチカゾンプロピオン酸エステルC12(272品目)テラプレビルC146パロキセチン塩酸塩水和物C11ペグインターフェロンCa-2aC81ブロチゾラムC11クロピドグレル硫酸塩C53メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムC8シメプレビルナトリウムC41コハク酸ソリフェナシンC8アスピリンC40チオトロピウム臭化物水和物C8ラロキシフェン塩酸塩C38サルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオインターフェロンCa-2bC30ン酸エステルC7リバーロキサバンC25エチゾラムC7プレガバリンC18アモキサピンC6インターフェロンCb18シベンゾリンコハク酸塩C6ワルファリンカリウムC17アトロピン硫酸塩水和物C6ベバシズマブC15ゾルピデム酒石酸塩C6プレドニゾロンC13ジフルプレドナートC6眼部感染,刺激症状および炎症(635品目)ラモトリギンアセトアミノフェンロキソプロフェンナトリウム水和物カルボシステインアロプリノールカルバマゼピンクラリスロマイシンプレドニゾロンリバビリンメシル酸ガレノキサシン水和物ジクロフェナクナトリウムシクロスポリンS-1Cアモキシシリン水和物リファブチンC180眼部出血および血管障害127NEC79(115品目)777665555147464240393836リバーロキサバンC40クロピドグレル硫酸塩C18ワルファリンカリウムC17アスピリンC13プレガバリンC12イマチニブメシル酸塩C12アピキサバンC9リバビリンC7シルデナフィルクエン酸塩C5ペグインターフェロンCa-2bC4スニチニブリンゴ酸塩C3イコサペント酸エチルC3ソラフェニブトシル酸塩C3セレコキシブC3エタネルセプトC3インターフェロンCa-2bC3アムロジピンベシル酸塩C3レトロゾールC3プラバスタチンナトリウムC3眼球新生物ソマトロピンC3視覚障害プレガバリンC149(16品目)エタネルセプトC2(449品目)エタンブトール塩酸塩C142プレドニゾロンC2バゼドキシフェン酢酸塩C120非ピリン系感冒剤(4)C2組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチ38ン(イラクサギンウワバ細胞由来)CボリコナゾールC26リファンピシンC25ザナミビル水和物C22カルバマゼピンC22パクリタキセルC18リネゾリドC17ラロキシフェン塩酸塩C17パロキセチン塩酸塩水和物C17イソニアジドC16組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)C15シクロスポリンC15ペグインターフェロンCa-2bC15リバビリンC15C眼前方部構造変化,2.8沈着および変性眼部障害2.6緑内障および高眼圧症眼部感染,0.9刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害0.9眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体2.3の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害1.80%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■男性■女性■不明図3各性別の報告割合眼前方部構造変化,41.614.60.243.615.351.333.428.120.851.154.69.61.434.414.357.128.659.813.21.425.643.932.723.422.30.445.631.648.226.50.225.157.730.211.60.540.924.30.134.7沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■回復・軽快■未回復・後遺症あり■死亡■不明図5各副作用の転帰筋障害」「眼部出血および血管障害CNEC」の「未回復・後遺症あり」の割合はC1割程度であったが,それ以外ではC2.3割を占めた.とくに「眼球感覚神経障害」の「未回復・後遺症あり」の割合はもっとも高く,32.7%であった(図5).被疑薬として報告されている薬剤のうち,各CHLGTの報告件数がC5件以上の薬剤はC405品目であった.このうち現在販売中止になっている薬剤C4剤(セラペプターゼ,リゾチーム塩酸塩,テリスロマイシン,ガチフロキサシン水和物)と一般薬C5品目を除いたC396品目の添付文書について,眼障害に関する副作用の記載状況を調べたところ,記載がある薬剤はC327品目(82.6%)であった.そのなかで,重大な副作用の項目にあるものがC164品目(「皮膚粘膜眼症候群」156品目,それ以外の眼障害はC80品目),その他の副作用に記眼前方部構造変化,7.814.235.630.711.715.014.734.424.711.27.614.627.330.819.717.822.934.321.23.742.97.114.328.67.128.215.223.822.510.329.916.819.616.816.816.721.737.715.58.43.311.551.426.17.811.432.943.810.511.513.129.534.611.3沈着および変性眼部障害緑内障および高眼圧症眼部感染,刺激症状および炎症眼球新生物眼神経筋障害眼球感覚神経障害眼部構造変化,沈着および変性NEC網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害眼部出血および1.4血管障害NEC視覚障害0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%■新生児~20歳代■30~40歳代■50~60歳代■70歳代~不明図4各年代の報告割合載があるものがC267品目であった.その他の副作用に記載されている項目の内訳は,「眼」107品目,「眼障害」24品目,「精神神経系」23品目,「感覚器」29品目,「過敏症」9品目,「抗コリン作用」3品目,「頭蓋内圧上昇」1品目,「中枢神経系」1品目,「出血傾向」1品目,「自律神経系」1品目,「その他」68品目と薬剤によって異なる記載がなされていた.48品目は,眼部に関連する副作用の記載が「皮膚粘膜眼症候群」のみであった.CIII考按JADERの解析より,全身投与薬による眼障害の実態を明らかにすることを試みた.これまでに眼障害の報告件数は7,678件,症例数はC7,135人あり,報告件数が多いCHLGTは「眼部感染,刺激症状および炎症」であることがわかった.一つの症例で複数の眼障害が報告されることがあり,報告件数と症例数に差がみられた.被疑薬として報告されている薬剤は,1,001品目と多岐にわたっていた.リバビリン,インターフェロン製剤,エタンブトール塩酸塩,S-1が上位を占めることがわかった.インターフェロン製剤やエタンブトール塩酸塩は古くから報告があるが,S-1については近年報告が集積しており,関心が高まっている.S-1による眼障害の発生頻度は,約C10%5)や約18%6)と報告されている.涙道障害や角膜障害の報告が多く,その発生機序は,涙液中のC5-フルオロウラシルによるものと考えられている7.9).一方で,プレガバリン,ラモトリギン,バゼドキシフェン酢酸塩など,販売されてC10年以内の比較的新しい薬剤も上位を占めていた.本解析から,プレガバリンは多くのCHLGTの上位にあがっていることが確認されたが,臨床上の報告は限られており,投与中に発症した視覚異常の症例報告が散見される程度である10).プレガバリンの添付文書では,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼障害」の欄に,「霧視・複視・視力低下(1%以上)」「視覚障害・網膜出血(0.3%以上,1%未満)」の記載があるのみであった.ラモトリギンの添付文書には,「重大な副作用」の項に「皮膚粘膜眼症候群(0.5%)」と「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に「複視(1.5%未満)」「霧視・結膜炎(1%未満)」の記載のみであったが,本解析からは,皮膚粘膜眼症候群を含むCHLGTである「眼部感染,刺激症状および炎症」にラモトリギンの報告が多いことがわかったほか,「眼前方部構造変化,沈着および変性」「眼部障害」「眼球感覚神経障害」の上位にも含まれ眼に多様な影響を及ぼす可能性が示唆された.また,バゼドキシフェン酢酸塩は,「重大な副作用」の項に「網膜静脈血栓症(頻度不明)」「その他の副作用」の項のうち「眼」の欄に,「霧視・視力低下等の視力障害(頻度不明)」が記載されている程度であったが,本解析からは「視覚障害」の上位を占めるなど注意の必要な薬剤であることが明らかとなった.年度別の副作用報告件数と薬剤報告件数の推移より,2008年C12月のラモトリギン販売後に「眼部感染,刺激症状および炎症」は増加がみられ,「視覚障害」はC2010年C6月のプレガバリン発売後に増加がみられた.さらにC2011年C11月のテラプレビル販売開始によるペグインターフェロンCa-2b,リバビリン,テラプレビルのC3剤併用療法の登場後に「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は増加がみられた.それぞれ発売時期と一致して報告の増加が確認されたが,ラモトリギンやプレガバリンは販売開始から約2年後に副作用報告のピークがあったことに対して,テラプレビルは販売開始の翌年に報告のピークがみられた.この期間の差については,テラプレビルはCC型慢性肝炎の治療としてペグインターフェロンCa-2b,リバビリンとのC3剤併用でC12週間のみ服用する薬剤であるために,販売開始後の使用量の増加とともに副作用の報告も急増したと考えられる.一方で,ラモトリギンやプレガバリンはテラプレビルのように一定期間のみの服用ではなく,継続的に服用する薬剤であるため,販売開始からC1年後の長期処方が可能となった後に使用量が増加し,副作用報告の増加につながったと考えられる.各CHLGTで発症の性差や年代別の報告割合をみると,「眼部障害」「眼球新生物」「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」「視覚障害」は女性に高い傾向がみられた.そのなかでも,「眼神経筋障害」「眼球感覚神経障害」は若い世代の女性が多く,その被疑薬の上位は組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来)などであることがわかった.「網膜,脈絡膜および硝子体の出血および血管障害」は,「50.60歳代」にC51.4%と多くを占め,被疑薬は,リバビリン,インターフェロン製剤,テラプレビル,クロピドグレル硫酸塩が多いことが確認された.「眼部出血および血管障害CNEC」は「70歳代.」の高齢者にC43.8%と多く,被疑薬はリバーロキサバン,ワルファリンカリウム,クロピドグレル硫酸塩が上位を占めていた.疾患の特性により使用薬剤が異なり,性別や年齢の分布に反映されていた.転帰については,「未回復・後遺症あり」がいずれの副作用でもC1.3割程度を占め,「眼球感覚神経障害」「視覚障害」「眼部構造変化,沈着および変性CNEC」の順に多いことがわかった.エタンブトール塩酸塩のように発見が遅れ高度に進行すると非可逆的になることがわかっている薬剤もあり注意が必要である.「未回復・後遺症あり」がC32.7%ともっとも高い割合で確認された「眼球感覚神経障害」の被疑薬は,組換え沈降C2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(イラクサギンウワバ細胞由来),組換え沈降C4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)が上位を占めた.これらの薬剤は,若い世代の女性に使用されることから,とくに注意が必要と考える.眼障害の報告があった薬剤のうち,添付文書に記載があった薬剤はC82.6%であり,17.4%では記載がないことがわかった.添付文書の記載項目については,「重大な副作用」の項に,「皮膚粘膜眼症候群」や「網膜症」「網膜静脈血栓症」といった病名で記載がされているほか,「視力障害」「視覚障害」などの記載がみられた.「視力障害」「眼底出血」など同じ副作用名であっても「重大な副作用」の項に記載があるものと「その他の副作用」の項に記載があるものが存在し,薬剤により異なることが確認された.さらに「その他の副作用」に記載される区分で「眼」や「眼障害」の項目を設けて記載されているものもあれば,「精神神経系」や「感覚器」「その他」などの項目に記載されるなど統一されておらず,とくに多数の副作用の記載がある薬剤では見落とす可能性も考えられた.添付文書の副作用の項目に眼障害に関する記載がされていても,これに対する医療者の認識は低く,注意深く管理される抗がん薬投与時でさえ軽視されている現状が報告されている11).このような背景もあり,日本角膜学会は抗腫瘍薬全身投与による角膜障害について実態調査を行っており12),本研究からさらなる認知が広がることが期待される.研究の限界として,JADERは自発報告による副作用のデータベースであるため,このように医療従事者の認識の乏しさから発見されていない,または重篤でない副作用であるため報告がなされていない症例が存在すると考えられる.さらに,副作用として発症した眼障害が片眼性か両眼性かの情報はなく,原疾患や加齢による影響など詳細な追及はできない.しかしながら,今回の調査解析からわかるように眼障害には不可逆的なものもあり,軽視できる副作用ではない.とくに高齢者では,その視覚の変化に気づきにくく,視力異常による転倒などにより,QOLのさらなる低下につながる恐れがあり,より注意が必要である.全身投与薬による眼障害は,発症機序が明確ではないものが多く,その主作用からは予測困難なものがある.さらに,眼科医の下で使用される薬剤以外での報告も多い.すなわち,医療従事者が意識して情報提供することがなければ,患者自身が薬剤の影響と思わず過ごすことや,たとえ訴えがあったとしても処方医が眼科医でなければ,対応を逃す可能性もある.一方で,眼科医であっても眼科領域以外の薬剤である場合,使用薬の副作用として疑わず対応が遅れる可能性が考えられる.添付文書に記載のない薬剤による眼障害の報告もあるため医療従事者は,どのような薬剤でも眼障害が起こる可能性を念頭におき,患者の訴えや症状を注意深く観察するとともに,早期発見および確実な対応が求められる.本研究によって,わが国における全身投与薬による眼障害は多数報告があることがわかった.これらの知見は,薬剤起因性の眼障害の早期発見および早期治療の一助になると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)原田勲:新抗結核剤CEthambutolによる視神経炎のC2症例.眼紀C14:278-284,C19632)池辺徹,中塚和夫,後藤正雄:インターフェロン投与中に視力障害をきたしたC1例.眼紀C41:2291-2296,C19903)柏木広哉:抗がん剤による眼障害―眼部副作用―.JpnJCancerChemotherC37:1639-1644,C20104)細谷友雅:全身用剤による角膜障害.あたらしい眼科C25:C449-453,C20085)MoriyaCK,CShimizuCH,CHandaCSCetCal:IncidenceCofCoph-thalmicdisordersinpatientstreatedwiththeantineoplas-ticagentS-1.JpnJCancerChemotherC44:501-506,C20176)KimN,ParkC,ParkDJetal:Lacrimaldrainageobstruc-tionCinCgastricCcancerCpatientsCreceivingCS-1Cchemothera-py.AnnOncolC23:2065-2071,C20127)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnaso-lacrimalCductCblockage:anCocularCsideCe.ectCassociatedCwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmolC140:C325-327,C20058)坂井譲,井上康,柏木広哉ほか:TS-1による涙道障害の多施設研究.臨眼C66:271-274,C20129)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤CS-1による角膜障害の3例.日眼会誌C110:919-923,C200610)仙田正博,仁熊敬枝,安積さやかほか:プレガバリンが原因と疑われる眼症状が出現したC2症例.日本ペインクリニック会誌C20:518,C201311)NakajimaCH,CMikiCA,CSatohCHCetCal:HealthcareCprofes-sionals’CawarenessCofCAdverseCe.ectsConCeyesCcausedCbyCanticancerCdrugs.CJpnCJCPharmCHealthCCareCSciC40:360-368,C201412)井上幸次,白石敦,杉岡孝二ほか:抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害についての日本角膜学会による実態調査.日眼会誌C121:23-33,C2017***