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2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上におけるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロール®PF点眼液2%)の安全性

2015年7月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科32(7):1047.1051,2015c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用上におけるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumCromoglicateOphthalmicSolution(CUMOROLPFOphthalmicSolution2%)in2-WeekFrequent-ReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinicアレルギー性結膜炎治療用点眼剤のクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%,以下,クモロールRPF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響がベンザルコニウム塩化物を防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,健常者のボランティア5名を対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスR,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にクモロールRPF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,クモロールRPF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてクモロールRPF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumCromoglicateOphthalmicSolution(CUMOROLPFOphthalmicSolution2%),whichisusedfortreatingallergicconjunctivitis,containsnopreservatives.Itsinfluenceonproducingkeratoconjunctivaldisordersandchangesinsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.Inthisstudy,5healthyadultvolunteersubjectswereinvestigatinginregardtothesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inCUMOROLPFOphthalmicSolution2%instilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCLs(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSR,andBiofinityR).TheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedinthefitoftheSCL.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Thefindingsofthisstudyshowthatwithsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofCUMOROLPFOphthalmicSolution2%inthepresenceofanSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1047.1051,2015〕Keywords:クロモグリク酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumcromoglicateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservatives,boricacid,adverseeffect.はじめに結膜障害が生じないか,防腐剤がCLに沈着することによっコンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するてさらにその障害が重篤なものにならないかなどの心配があことについては,CL自体が変形しないか,防腐剤による角り,これまでに多くの研究がなされている1.13).とくにアレ〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitisaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(125)1047 ルギー性結膜炎やドライアイなどの患者では,CLを装用したまま点眼薬を使用することを希望する症例が多く認められる14).筆者は過去に抗アレルギー点眼薬であるアシタザノラスト水和物点眼液,防腐剤フリーのヒアルロン酸ナトリウム点眼液の各種使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびに添加物の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した15.18).今回は防腐剤フリーの抗アレルギー点眼薬であるクロモグリク酸ナトリウム点眼液(クモロールRPF点眼液2%,以下,クモロールRPF点眼液)の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能な健常者のボランティア5名(年齢30.48歳,平均37歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLの中から含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスR,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,クモロールRPF点眼液を1回1滴,1日4回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた19).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分のクロモグリク酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.回収したSCLは乾燥した蓋付きガラス容器に各1枚を入れ保管して郵送した.試験室に届いたSCLはコンタクトレンズ上の細菌や真菌などの繁殖を防ぐため35℃にて乾燥させた後,5℃の冷蔵庫内に保管した.全SCLが揃った時点で冷蔵庫から取り出して定量試験を開始した.a.クロモグリク酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLに吸着したクロモグリク酸を抽出し,高速液体クロマトグラフ法により定量した.高速液体クロマトグラフ法の直線性用標準溶液はクロモグリク酸ナトリウムを用いて,水/アセトニトリル溶液(85:15)で調製し,100,50,10,5,1,0.5μg/mlのものを使用した.サンプルのSCLは冷蔵庫から取り出し室温に戻した後,蓋付きガラス容器に精製水1mlを分注密栓し,60秒間ボルテックスミキサーで撹拌した.その後,1晩静置しクロモグリク酸を抽出した.検出には紫外吸光光度計(島津LC-2010)を使用した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをMilli-Q水で洗浄した後,6.8%硝酸10mlで溶解・抽出した液を検体とした.ICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析(島津ICPS8000)によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測とフェノールレッド綿糸法を実施した.BUTは1%フルオレセインナトリウムを硝子棒で滴下し,数回の瞬目を指示し,完全な瞬目後の角膜上涙液層が破綻するまでの時間を計測した.ドライアイの際には,ほとんどの症例で3秒以下となる.フェノールレッド綿糸法はゾーンクイックRという製品を用いて,下眼瞼外側にフェノールレッド綿糸法を挿入する.15秒後に取り出して,赤変した部分を測定する.正常では20mm以上で10mm以下をドライアイの疑いと考える.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.表1使用レンズ使用レンズ酸素透過係数含水率中心厚(.3.00D)直径FDA(米国食品・医薬品局)分類se/2(cm.1110×値:〔Dkc)・(mlO2/ml×mmHg)〕(%)mmmm2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスRグループIバイオフィニティRグループI2822103128585938480.0840.140.070.0814.014.214.014.01048あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(126) 5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,点眼開始前と比較して掻痒感,異物感,眼脂について問診するとともに装用感,乾燥感,見え方などについても問診した.その結果,とくに異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法,BUTともに正常領域であった.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着したクロモグリク酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.SCLのフィッティングについては静止位置,瞬目によるレンズの動き,下眼瞼越しに親指を用いてレンズを押し上げてレンズの動きをみる方法を用いて判定した.点眼前と比較して,ルーズフィッティングになったり,タイトフィティングになった症例は認められなかった.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は0.8±0.6μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中1検体が検出限界以下,検出された4検体の吸着量の平均は11.3±2.3μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中1眼に点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められていた.試験終了時には10眼中3眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は5.8±2.3μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.1±5.7μg/SCLであった.(127)表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)クロモグリク酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SD0.52.00.60.40.30.8±0.62.6(14.9)1.8(10.3)2.0(11.4)ND1.5(8.6)2.0±0.4(11.3±2.3)メダリストRII平均値±SD3.98.04.59.13.65.8±2.32.3(13.2)3.6(20.6)3.6(20.6)1.7(9.7)1.1(6.3)2.5±1.0(14.1±5.7)アキュビューRオアシスR平均値±SD1.22.21.51.60.41.4±0.6ND1.1(6.3)NDNDND1.1(6.3)バイオフィニティR平均値±SD2.96.03.43.02.33.5±1.31.9(10.9)2.0(11.4)1.6(9.2)1.2(6.9)ND1.7±0.3(9.6±1.8)検出限界(μg/SCL)0.10.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.試験開始前には10眼中7眼にSPKが認められていた.試験終了時には10眼中1眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.3.アキュビューRオアシスRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は1.4±0.6μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中4検体が検出限界以下,検出された1検体の吸着量は6.3μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中3眼にSPKが認められあたらしい眼科Vol.32,No.7,20151049 た.試験終了時には10眼中2眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のクロモグリク酸ナトリウムは5検体とも検出され,吸着量の平均は3.5±1.3μg/SCLであった.ホウ酸は5検体中1検体が検出限界以下,検出された4検体の吸着量の平均は9.6±1.8μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.試験開始前には10眼中2眼にSPKが認められた.試験終了時には10眼中9眼にSPKが認められたが,その程度はいずれも軽度でドライアイによるものと推察された.III考按CL装用上において点眼液を使用させるか否かは議論の尽きないところである.しかし,CL装用を余儀なくされる患者において,点眼液を使用する際,その都度CLを外すのは手間もかかるし感染の機会が増加する危険性を孕んでいる.現在市販されている点眼液の60%には防腐剤としてベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)が含まれているといわれている20).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがあり,これらの防腐剤が角膜上皮障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている5.11).筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している14.16).また,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,防腐剤フリーの点眼液においても等張化剤や緩衝剤として配合されているホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことをこれまでに報告している17,18).今回は防腐剤フリーの抗アレルギー点眼液であるクモロールRPF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.シリコーンハイドロゲルSCLはハイドロゲル素材のSCLの欠点であった酸素透過性を大幅に改善しているとともにその低含水性によって乾燥感を軽減できることが期待されている.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLはハイドロゲル素材のSCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる1050あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015可能性が考えられる.今回の実験ではハイドロゲル素材のSCL2種類とシリコーンハイドロゲルSCL2種類を選択した.その結果,主成分であるクロモグリク酸ナトリウムはすべてのSCLから検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,ハイドロゲル素材のSCLとシリコーンハイドロゲルSCL間で検出量に差は認められなかった.もっとも多く吸着を認めたメダリストRIIにおいても,1回1滴,4回点眼における1日投与総量から考えると吸着したクロモグリク酸ナトリウムの量は1%以下であった.ホウ酸はSCL6検体においては検出域以下であり14検体から検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,吸着を認めたメダリストRII,バイオフィニティRにおいても,1日投与総量から考えると吸着したホウ酸の量は1%以下であった.主成分と同様にハイドロゲル素材のSCLとシリコーンハイドロゲルSCL間で検出量に差は認められなかった.SCL装用者において瞳孔領下方の角膜に局在し,笑った人形の口の形状に似ているためスマイルマークパターンとよばれるSPKが認められることがよくある.この症状はSCL装用に伴う涙液の分布障害が関連していると考えられている.SCLは吸水性のため,SCLの表面にある涙液水層は薄く,この涙液水層上の涙液油層の伸展が妨げられることから,SCL表面にある涙液が蒸発しやすくなる22).この結果,CL内の水分だけでなく,CL下の涙液も少なくなる.瞬目が不完全となると,スマイルマークパターンSPKが生じやすくなると考えられているが,自覚症状がない場合,治療は必要ではなく軽度のドライアイとして経過観察のみでよいとされている.また,CL装用中の点眼使用によるSPKやCLフィッティング状態については,SPKにおいて症例数の増減は認められたものの,その程度はいずれも軽度でその形状から全症例とも前述したようなSCLを装用したことから生じるものと推察され,CLフィッティングにおいても点眼液使用による影響を受けた症例は認められなかった.以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてクモロールRPF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザ(128) ルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinNL:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,200015)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,200316)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,200917)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665-668,201218)小玉裕司:2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:1549-1553,201219)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201120)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199421)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200822)MaruyamaK,YokoiN,TakamataAetal:Effectofenvironmentalconditionsonteardynamicsinsoftcontactlenswearers.InvestOphthalmolVisSci45:2563-2568,2004***(129)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151051

ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果

2014年10月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(10):1531.1534,2014cドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬併用症例におけるラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への切り替え効果井上賢治*1方倉聖基*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科EfficacyofChangingfromLatanoprosttoBimatoprostEyedrops,inPatientsConcomitantlyUsingDorzolamide/TimololFixed-CombinationEyedropsandLatanoprostKenjiInoue1),SeikiKatakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ラタノプロストとドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を併用中でラタノプロストを変更することでさらなる眼圧下降が期待され,今回検討した.対象および方法:ラタノプロストとDTFCを併用中で,眼圧下降が不十分な開放隅角緑内障32例32眼を対象とした.ラタノプロストを中止し,ビマトプロストに切り替えた.DTFCは継続とした.眼圧を変更前,変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更後の副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgに比べて有意に下降した(p<0.05).脱落例は3例(9.4%)で,副作用(下眼瞼腫脹),緑内障手術施行,転医の各1例だった.結論:ラタノプロストとDTFC併用患者において,ラタノプロストをビマトプロストへ変更することで眼圧下降が得られ,安全性も良好だった.Purpose:Inpatientsusingdorzolamide/timololfixed-combinationeyedrops(DTFC)andlatanoprost,furtherdecreaseinintraocularpressure(IOP)isexpectedwithchangeoflatanoprost.Subjectsandmethods:Subjectswere32open-angleglaucomapatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprost,inwhomIOP-decreasingefficacywasinsufficient.Thelatanoprostwaschangedtobimatoprost;DTFCwascontinued.IOPbeforeandat1and3monthsafterthechangewerecompared;adversereactionswereexamined.Results:IOPat1month(16.9±3.5mmHg)and3months(16.3±3.2mmHg)afterthechangeshowedsignificantdecreasefromthepre-changelevel(17.6±2.5mmHg).Threecases(9.4%)werediscontinuedduerespectivelytoadversereaction(swellingoflowereyelid),glaucomasurgeryandchangeofphysician.Conclusion:InpatientsconcomitantlyusingDTFCandlatanoprostwhochangefromlatanoprosttobimatoprost,IOPdecreaseandsafetyaresatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(10):1531.1534,2014〕Keywords:ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬,切り替え,眼圧,副作用.dorzolamide/timololfixedcombinationeyedrops,latanoprosteyedrops,bimatoprosteyedrops,change,intraocularpressure,adversereactions.はじめに緑内障患者において視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療が第一選択である.点眼薬治療は単剤から行うが,眼圧下降効果が不十分な場合は点眼薬の変更や追加が推奨されている3).これを繰り返すと多剤併用となる.しかし,点眼回数が増える多剤併用症例ではアドヒアランスの低下が問題となり4),アドヒアランス向上を目的として配合点眼薬が開発された.日本ではラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(109)1531 合点眼薬,ドルゾラミド点眼薬あるいはブリンゾラミド点眼薬とマレイン酸チモロール点眼薬の配合点眼薬が使用可能である.臨床現場では,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬,プロスタグランジン点眼薬+炭酸脱水酵素阻害薬/チモロール配合点眼薬の組み合わせが多く使用されている.点眼薬の変更に関しては,プロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬へ変更することで眼圧が下降するという報告5.16)が多くみられるが,配合点眼薬との併用症例におけるプロスタグランジン点眼薬の変更を検討した報告はない.今回,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬を併用中の患者を対象にして,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性を検討した.I対象および方法2011年7月から2012年9月までの間に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬のみを使用中で,眼圧下降効果が不十分な開放隅角緑内障32例32眼(男性13例13眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を行った.平均年齢は73.0±6.9歳(平均±標準偏差)(60.85歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)30例,落屑緑内障2例であった.Humphrey視野のmeandeviation(MD)値は.10.3±6.2dB(.23.11.0.63dB)であった.ビマトプロスト点眼薬へ変更前の眼圧は17.6±2.5mmHg(12.23mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしでビマトプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)に変更した.ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬は継続使用とした.点眼変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻に眼圧(mmHg)22.0**20.018.016.014.012.010.08.06.04.0*p<0.052.00.0変更前変更1カ月後変更3カ月後図1点眼薬変更前後の眼圧(ANOVAおよびBonfferoni/Dunn検定,*p<0.05)Goldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunn検定).変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降幅を調査した.変更1,3カ月後の変更前と比べた眼圧下降率を算出し,比較した(Friedman検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は変更1カ月後16.9±3.5mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前17.6±2.5mmHgと比べて有意に下降した(p<0.05)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後では2mmHg以上下降した症例は11例(35.5%),±1mmHg以内の症例は17例(54.8%),2mmHg以上上昇した症例は3例(9.7%)だった(図2).変更3カ月後では2mmHg以上下降した症例は14例(48.3%),±1mmHg以内の症例は12例(41.4%),2mmHg以上上昇した症例は3例(10.3%)だった.眼圧下降率は,変更1カ月後4.1±10.8%,3カ月後6.7±10.8%で同等だった(p=0.4521).変更3カ月後までの脱落例は3例(9.4%)だった.内訳は変更1カ月後に下眼瞼腫脹が出現した1例,変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した1例,変更2カ月後に転居に伴い転医した1例だった.下眼瞼腫脹が出現した症例ではビマトプロスト点眼薬をラタノプロスト点眼薬に戻したところ症状は消失した.III考按プロスタグランジン点眼薬の変更による眼圧下降効果の報告のなかでラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬に変更した報告5.16)が多い.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更では眼圧は有意に下降し,その眼圧下降幅は0.51.6.0mmHg,眼圧下降率は3.0.24.9%であ2mmHg以上2mmHg以上上昇上昇3例,9.7%3例,10.3%2mmHg以上下降11例,35.5%±1mmHg以内17例,54.8%2mmHg以上下降14例,48.3%±1mmHg以内12例,41.4%変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更1,3カ月後の眼圧下降幅1532あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(110) る5.16).プロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,プロスタグランジン点眼薬に対するノンレスポンダーの存在があげられる.ノンレスポンダーのプロスタグランジン点眼薬を他のプロスタグランジン点眼薬に変更することで眼圧が下降するのは妥当で,ラタノプロスト点眼薬に対するノンレスポンダー症例でビマトプロスト点眼薬に変更したところ眼圧が下降したと報告されている5.8).さらに,その眼圧下降幅は1.9.6.0mmHg,眼圧下降率は11.9.24.9%と良好である.しかし,ノンレスポンダーの定義は定まっておらず,ラタノプロスト点眼薬単剤2カ月間投与で眼圧下降率が10%未満の症例5),ラタノプロスト点眼薬単剤8週間投与で眼圧下降幅が3mmHg以下の症例6),ラタノプロスト点眼薬単剤12週間投与で眼圧下降率が20%以下の症例7),ラタノプロスト点眼薬を含む治療を4週間以上行い眼圧下降率が20%未満の症例8)と報告により異なる.その他にプロスタグランジン点眼薬の変更により眼圧が下降する理由として,アドヒアランスの向上があげられる.変更により眼圧下降の必要性を再認識した症例や副作用が軽減する症例が考えられる.変更後のプロスタグランジン点眼薬のほうが変更前のプロスタグランジン点眼薬よりも眼圧下降効果が強力である可能性もある.プロスタグランジン点眼薬の化学構造は各薬剤で異なり,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストはイソプロピルエステル型で,ビマトプロストはエチルアミド型である.エチルアミド型では加水分解されて酸型となると他の3剤と同様にプロスタノイド受容体に結合する.Liangら17)は,ビマトプロストはエチルアミド型でもプロスタノイド受容体とそのスプライスバリアントの複合体に直接結合することができ,眼圧下降機序が他のプロスタグランジン点眼薬と異なると報告した.今回は変更1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.対象のなかにラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーが含まれていた可能性はあるが,ラタノプロスト点眼薬投与前の眼圧がわからないので詳細は不明である.また,眼圧下降効果が不十分な症例を対象としたため,点眼薬変更によりアドヒアランスが向上した可能性も考えられる.一方,ラタノプロスト点眼薬の副作用が出現したためにビマトプロスト点眼薬へ変更した症例はなく,副作用の軽減によるアドヒアランスの向上は今回の症例では考えづらい.しかし,変更後に眼圧が2mmHg以上上昇した症例が,変更1カ月後に9.7%,変更3カ月後には10.3%存在し,さらに変更2カ月後に眼圧が上昇したために緑内障手術を施行した症例もあり,それらの症例はビマトプロスト点眼薬に対するノンレスポンダーの可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬へ変更した報告において,ラタノプロスト点眼薬単剤症例での変更5.15),ラタノプロスト点眼薬を含む多剤併用症例での変更8.12,16)がある.Lawら9)は,多剤併用症例では変更により(111)眼圧が変化なかったと報告した.広田ら10)は,ラタノプロスト点眼薬とb遮断点眼薬併用症例では眼圧は変更2週間後には差がなかったが,変更4.24週間後には有意に下降したと報告した.南野ら11)は,ラタノプロスト点眼薬あるいはトラボプロスト点眼薬を含む多剤併用症例では変更後に眼圧は有意に下降し,その眼圧下降率は変更4.24週間後で13.3.19.7%だったと報告した.仲ら16)は,プロスタグランジン点眼薬およびb遮断薬点眼薬を含む2種類以上の点眼薬併用症例では眼圧は変更3カ月後に有意に下降し,眼圧下降率は10%だったと報告した.今回は全症例がラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬併用症例であり,多剤併用症例においても過去の報告10,11,16)と同様にビマトプロスト点眼薬への変更により眼圧が有意に下降する可能性がある.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による副作用の頻度は0.9.5%と報告されている5.16).その内訳は結膜充血,点状表層角膜炎,アレルギー性結膜炎,眼痛,掻痒感,刺激感,霧視,異物感,眼瞼色素沈着,睫毛延長である.今回は副作用は3.1%で出現し,下眼瞼腫脹1例だった.ラタノプロスト点眼薬からビマトプロスト点眼薬への変更による安全性は良好である.結論としてラタノプロスト点眼薬とドルゾラミド/チモロール配合点眼薬を併用中の開放隅角緑内障症例において,ラタノプロスト点眼薬をビマトプロスト点眼薬へ変更することで,3カ月間にわたり眼圧は下降し,安全性も良好だった.配合点眼薬との併用症例においてもプロスタグランジン点眼薬の変更は眼圧下降治療における選択肢となりうる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20036)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.Advあたらしい眼科Vol.31,No.10,20141533 Ther19:275-281,20027)SatoS,HirookaK,BabaTetal:Efficacyandsafetyofswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.JOculPharmacolTher27:499-502,20118)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)LawSK,SongBJ,FangEetal:Feasibilityandefficacyofamassswitchfromlatanoprosttobimatoprostinglaucomapatientsinaprepaidhealthmaintenanceorganization.Ophthalmology112:2123-2130,200510)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201211)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201112)松原彩来,徳田直人,金成真由ほか:プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度.あたらしい眼科30:1165-1170,201313)KammerJA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicenterstudy.BrJOphthalmol94:74-79,201014)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200315)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,200916)仲昌彦,山本麻梨亜,金学海ほか:原発開放隅角緑内障患者に対する0.03%ビマトプロスト切り替えによる眼圧下降効果と安全性の検討.臨眼68:219-224,201417)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***1534あたらしい眼科Vol.31,No.10,2014(112)

ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討

2014年7月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科31(7):1063.1066,2014cブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討俣木直美*1,2齋藤瞳*2岩瀬愛子*1*1たじみ岩瀬眼科*2公立学校共済組合関東中央病院AdjunctiveEffectonIntraocularPressureandOcularandSystemicSideEffectsofTopical0.1%BrimonidineinOpen-AngleGlaucomaNaomiMataki1,2),HitomiSaito2)andAikoIwase1)1)TajimiIwaseEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachersブリモニジン点眼液を60例60眼の多剤併用薬使用中の開放隅角緑内障(広義)に追加処方し3カ月後までの眼圧下降作用と安全性を検討した.追加前眼圧,1週目,1カ月,3カ月の順に15.2±4.1,12.6±3.5,12.7±3.7,12.8±3.0mmHgと有意に眼圧は下降していた.治療前ベースライン眼圧が15mmHg以下の症例は,16mmHg以上の症例より眼圧下降効果は少なかった.経過中の副作用は,眠気3例,充血2例,結膜蒼白1例,ふらつき・倦怠感1例,肩の圧迫感1例,蕁麻疹1例,顔面皮疹1例であった.皮疹出現の2例は両例ともに皮内テストによる確定診断を希望しなかったため,臨床的診断として全身性接触皮膚炎の可能性があると考えた.欧米では全身に起こる皮疹の副作用報告はないが重篤な副作用につながる可能性もあり,ブリモニジン使用にあたっては既往歴の問診と使用開始後の注意深い観察が必要と考える.Theintraocularpressure(IOP)reductionofadjunctiveuseof0.1%brimonidineeyedropswithotherglaucomaeyedropswasretrospectivelystudiedin60open-angleglaucomapatientsduringa3-monthperiod.IOPbeforeandat1week,1monthand3monthsafterbrimonidineadditionwas15.2±4.1,12.6±3.5,12.7±3.7and12.8±3.0mmHg,respectively,withsignificantIOPreductionatalltimeperiods.(p<0.01,n=60).InthegroupwithbaselineIOP.15mmHg,IOPreductionat3monthswasnotsignificant.Side-effectsobservedduringthefollow-upperiodwasdrowsiness(3/60),conjunctivalhyperemia(2/60),conjuctivalpaleness(1/60),systemicfatigue(1/60),oppressionoftheshoulders(1/60),andurticaria(2/60).Urticariaaftertopicaluseofbrimonidinehasnotbeenreportedpreviously,andmaydeservespecialattention.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(7):1063.1066,2014〕Keywords:ブリモニジン点眼液,眼圧下降効果,副作用,全身性接触皮膚炎,蕁麻疹.brimonidineeyedrops,adjunctiveeffect,sideeffect,systemiccontactdermatitis,Urticaria.はじめに緑内障は日本の失明原因の上位疾患と報告されており1),早期発見,早期治療,治療継続が重要である.緑内障の治療では眼圧下降治療に唯一エビデンスがあり,薬物治療においては目標眼圧を設定し視野異常の経過を確認しながら,必要に応じて加療(薬剤の変更・追加)が行われる.一方,眼圧下降薬に対する反応に個人差があることや,既存の薬剤で可能な限り眼圧を下降させても視野障害が進行する症例も存在するため,新たな作用機序の薬剤が望まれている.ブリモニジン酒石酸塩点眼液はアドレナリンa2受容体作動薬で米国では緑内障・高眼圧症治療薬として1996年に米国食品・医薬品局(FDA)に承認され,現在まで多くの国と地域で使用されている2.4).日本では2012年5月に0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液(製品名:アイファガンR点眼液0.1%,以下,ブリモニジン点眼液)が発売された.本剤の眼圧下降効果はb遮断薬と比較して最少効果時には劣るものの最高効〔別刷請求先〕岩瀬愛子:〒507-0033多治見市本町3-101-1クリスタルプラザ多治見4Fたじみ岩瀬眼科Reprintrequests:AikoIwase,M.D.,Ph.D.,TajimiIwaseEyeClinic,Crystal-PlazaTajimi4F,3-101-1Honmachi,Tajimi,Gifu507-0033,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(137)1063 果時にはチモプトールとは有意差がなく2),既存の緑内障治療薬と作用機序が異なることから,他剤との併用による眼圧下降効果が期待されている.筆者らは,日本の緑内障患者における本剤の有効性と安全性を臨床使用の実態下で確認することを目的にレトロスペクティブに評価を行った.I対象および方法2012年5月から2013年5月までの間に,たじみ岩瀬眼科および関東中央病院を受診した正常眼圧緑内障(NTG)または原発開放隅角緑内障(POAG)患者のうち,医師がさらなる眼圧下降が必要と判断しブリモニジン点眼液を追加投与された症例を今回のレトロスペクティブな研究対象とした.対象患者には本試験について十分に説明を行い,文書にて同リックな比較を実施し,有意水準は5%とした.II結果対象となった60例で有効性と安全性を評価した.その背景因子として性別は男性27例,女性33例,年齢は67.0歳±9.9歳(41.84歳),緑内障病型はNTG30例,POAG30例であった(表1).ブリモニジン点眼液追加前の使用薬剤数は1剤:3例,2剤:19例,3剤:32例,4剤:6例であった(配合剤は2剤とした)(表2).ブリモニジン点眼液追加前,1週後,1カ月後,3カ月後の眼圧(平均値±標準偏差)は追加前眼圧値15.2±4.1mmHgから12.6±3.5mmHg(眼圧下降率:.15.7±15.0%),12.7意を得た.25投与期間3カ月での有効性と安全性を以下のように評価した.有効性評価眼は点眼追加前の眼圧が高いほうの眼とし,同じ場合は右眼を対象とした.対象としたのは多剤併用例への追加症例のみとし,評価期間中変更のないものとした.眼圧降下解析にあたっては,経過中副作用による投与中止例については投与している期間を解析の対象とした.また,レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術の既往を有する眼は対象から除外した.有効性評価としてブリモニジン点眼液追加投与前と点眼1週後,1カ月後,3カ月後の眼圧値を比較した.安全性評価として前眼部所見ならびに医師による問診・診察により副作用の有無を確認した.統計解析は多重比較Steel検定を用いて投与開始前とのノンパラメト表1背景因子年齢67.0±9.9歳(41.84歳)性別男性27例女性33例緑内障病型POAG30例NTG30例眼圧値(mmHg)眼圧値(mmHg)201510512.6(n=60)p=0.0010**15.2(n=60)12.7(n=56)p=0.0019**12.8(n=53)p=0.0043**0投与1W1M3M開始前投与期間**:p<0.01(Steel検定)図1平均眼圧推移グラフ(全例,n=60)252015105011.1(n=28)p=0.135410.6(n=30)p=0.0494*10.4(n=32)p=0.0116*12.1(n=32)投与1W1M3M開始前投与期間*:p<0.05(Steel検定)薬剤数(例数)成分内訳1剤(3例)PGb-blocker2例1例2剤(19例)PG+b-blockerPG+CAIb-blocker+CAI12例3例4例3剤(32例)PG+b-blocker+CAI32例4剤(6例)PG+b-blocker+CAI+a1-blockerPG+b-blocker+CAI+交感神経刺激薬PG+b-blocker+CAI+副交感神経刺激薬1例4例1例図2平均眼圧推移グラフ(追加前眼圧15mmHg以下,表2ブリモニジン点眼液追加前の使用薬剤n=32)眼圧値(mmHg)252015105014.8(n=25)p<0.0001**15.1(n=26)p<0.0001**15.1(n=28)p=0.0001**18.7(n=28)投与1W1M3M開始前投与期間**:p<0.01(Steel検定)PG:プロスタグランジン関連薬,b-blocker:b受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水素酵素阻害薬,a1-blocker:a1受容体遮断薬.図3平均眼圧推移グラフ(追加前眼圧16mmHg以上,※配合剤は2剤とした.n=28)1064あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(138) ±3.7mmHg(.14.8±16.5%),12.8±3.0mmHg(.13.1±14.9%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降した(p=0.0010,0.0019,0.0043)(図1).また,病型別ではNTG群では追加前眼圧値12.9±3.2mmHgから10.8±2.5mmHg(.14.3±18.1%),10.9±2.5mmHg(.13.8±18.8%),11.4±2.3mmHg(.9.8±16.5%)と1週後,1カ月後で眼圧は有意に下降し(p=0.0279,0.0377),POAG群では追加前眼圧値17.4±3.6mmHgから14.4±3.6mmHg(.17.2±11.0%),14.7±3.8mmHg(.16.0±13.9%),14.3±2.9mmHg(.16.6±12.3%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降した(p=0.0049,0.0042,0.0082).また,ブリモニジン点眼液追加前眼圧が15mmHg以下の症例(32例)では追加前眼圧値12.1±2.3mmHgから10.4±2.1mmHg(.12.6±16.9%),10.6±2.4mmHg(.10.3±18.3%),11.1±2.1mmHg(.6.7±14.8%)と,1週後,1カ月後に眼圧は有意に下降し(p=0.0116,0.0494),3カ月後は有意ではなかったものの(p=0.1354),眼圧変化値は.1mmHgであった(図2).ブリモニジン点眼液追加投与前眼圧が16mmHg以上の症例(28例)では追加前眼圧値18.7±2.5mmHgから15.1±3.2mmHg(.19.3±11.7%),15.1±3.6mmHg(.20.0±12.6%),14.8±2.4mmHg(.20.2±11.6%)とすべての観察日で眼圧は有意に下降し(p=0.0001,p<0.0001,p<0.0001),3カ月後の眼圧変化値は.3.9mmHgであった(図3).副作用は60例中10例に認められ,内訳は眠気3例,充血2例,結膜蒼白1例,ふらつき・倦怠感1例,肩の圧迫感1例,蕁麻疹1例,顔面皮疹1例であった.10例のうち,眠気を訴えた症例のうち2例はブリモニジン点眼液の投与を継続したが症状は軽快した.その他の副作用症例8例は症状出現直後に投与を中止し,全例症状は回復した.また,点眼開始後に1例が転院した.III考按緑内障では点眼薬を使用しても視野障害が進行している症例には手術を検討するが,さまざまな理由により手術を実施できない症例もある.そのような場合は既存治療に点眼薬をさらに追加または既存薬を変更し,さらなる眼圧下降を試みるが,すでに多剤併用中の患者では追加可能な薬剤が少なく,治療薬の選択に苦慮することがある.今回,既存薬複数剤ですでに治療中の患者にブリモニジン点眼液を追加することにより,さらなる眼圧下降が得られることが確認できた.対象となった全例の平均眼圧下降幅は2.3.2.6mmHgであり,病型別ではNTG群で1.6.2.1mmHg,POAG群では2.9.3.1mmHgであった.また,追加前眼圧が16mmHg以上の症例では3.6.3.9mmHgと大きな眼圧下降が得られ,追加前眼圧が15mmHg以下の患者では追加の眼圧下降が得られにくい場合が多いが,今回の検討では1.0.1.7mmHg(139)の眼圧下降が得られた.対象となった症例のうちすでに3剤以上使用していた症例が38例(63%)あり,このような患者に追加する薬剤の選択肢が少ないなか,今回のように眼圧下降効果が得られたことで,緑内障治療薬を追加もしくは変更する際にブリモニジン点眼液は有力な選択肢となりうることが確認できた.ブリモニジン点眼液の国内臨床試験での特徴的な副作用としては,眼アレルギー,めまい,眠気などが報告されており4),今回経験した副作用はすでに報告されているものがほとんどであった.一方,皮疹については海外での使用実績が長いにもかかわらず,海外の添付文書には記載されていない副作用で,海外での臨床報告,国内臨床試験でも報告がない副作用である.今回の評価期間中に生じた症例は2例で,いずれも眼局所の充血・掻痒感などはなく眼周囲以外の皮膚の掻痒感と皮疹出現のみであった.この皮疹例は,1例目は投与開始後1週間目の診察時の問診から発見し,患者からの自発的な訴えはなかった.この症例では投与2日目の夜間就寝時から全身のかゆみが出現し,その後数時間で消失する「蕁麻疹様皮疹」が継続することに気づいたが,点眼との因果関係に思い至らず1週間目の受診時まで点眼を継続した.医師の問診・診察により初めて因果関係を疑い点眼を中止したところ,皮疹の出現が止まり以後再発をしていない.この症例には過去に薬剤内服による薬疹(降圧薬と鎮痛薬)・寒冷蕁麻疹などの既往歴があるとのことであったが,点眼開始から1週間の期間内にそれらの薬剤の使用はなかった.2例目は点眼開始後3カ月間は無症状で経過したが,3カ月目の眼圧測定日の直後より顔面から頸部に生じた発赤を伴う皮疹を主訴に受診した.眼局所には充血・掻痒感などの症状はなかった.点眼は中止し,ただちに皮膚科受診し治療が行われた.ブリモニジン点眼液によるこうした皮疹の報告は過去にはない.しかし,明らかに両例ともに点眼開始以降に症状が出現し中止したことで皮疹の再発はなく,その間に他の薬剤などの変更がないことから,ブリモニジン点眼液との関連が強く疑われる.皮疹出現時期の症状で眼局所のアレルギー症状がほとんどないことから,点眼による感作が原因の「全身性接触皮膚炎」の可能性が考えられる5,6).「全身性接触皮膚炎」はこれまでにも他の点眼薬での報告があり7),局所からの感作が成立した後に全身に症状が出て投与部位には症状が出ないこともあることから,点眼薬の使用が原因であると気づかれにくいこともあるため点眼投与部位以外にも有害事象が出ていないかを確認することが必要であると考えられた.ただし,今回の症例では患者の同意を得られずパッチテストなどでのブリモニジン点眼液との因果関係を十分に確認できていないことから,あくまでも筆者らの臨床判断によるものである.2例の既往歴に共通するものは「寒冷蕁麻疹」「蕁麻疹」であった.こうした既往歴のある患者への投与では,(,)慎重なあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141065 投与が必要かもしれない.また,ブリモニジン点眼液では神経保護作用を有することが基礎研究で多数報告されており8.10),2011年に米国にて0.2%ブリモニジン点眼液で眼圧下降効果に依存しない視野維持効果の報告がある3).視野障害がかなり進行しておりすでに眼圧下降が十分得られていると考えられる症例で,ブリモニジン点眼液追加でさらなる眼圧下降効果が得られなくても副作用の発現や眼圧の上昇がない場合は,眼圧下降を介さない神経保護効果の可能性があることも考慮に入れ,ブリモニジン点眼液を継続して経過観察するという選択肢もあるかもしれない.今後,本剤の神経保護作用に関しては,さらなる臨床試験での評価が待たれる.IV結論ブリモニジン点眼液は他の緑内障治療薬と作用機序が異なり,既存治療薬との併用によりさらなる眼圧下降効果が期待できる.また,眼アレルギーなどのすでに報告されている副作用のほかに眼局所以外の副作用にも注意が必要であると考える.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:TheTajimiStudy.Ophthalmology113:13541362,20062)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Low-PressureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,20114)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20125)池澤優子,相原美智子,池澤善郎:医薬品による接触皮膚炎の臨床と原因抗原.アレルギー・免疫16:1748-1755,20096)日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会:接触皮膚診療ガイドライン.日皮会誌119:1757-1793,20097)KlugerN,GuillotB,Raison-PeyronN:Systemiccontactdermatitistodorzolamideeyedrops.ContactDermatitis58:167-168,20088)AhmedFA,HegazyK,ChaudharyPetal:Neuroprotectiveeffectofa2agonist(brimonidine)onadultratretinalganglioncellsafterincreasedintraocularpressure.BrainRes913:133-139,20019)Vidal-SanzM,LafuenteMP,Mayor-TorroglosaSetal:Brimonidine’sneuroprotectiveeffectsagainsttransientischaemia-inducedretinalganglioncelldeath.EurJOphthalmol11:36-40,200110)WoldeMussieE,RuizG,WijonoMetal:Neuroprotectionofretinalganglioncellsbybrimonidineinratswithlaser-inducedchronicocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci42:2849-2855,2001***1066あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(140)

タフルプロスト点眼薬併用下でのβ遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果

2013年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(4):551.554,2013cタフルプロスト点眼薬併用下でのb遮断点眼薬から1%ドルゾラミド/0.5%チモロール配合点眼薬への切り替え効果石橋真吾田原昭彦永田竜朗宮本理恵宮本直哉藤紀彦原田行規近藤寛之産業医科大学眼科学教室EffectofSwitchingfromBeta-BlockertoDorzolamideandTimololFixed-CombinationEyedropsinGlaucomaPatientsTreatedwithTafluprostandBeta-BlockerShingoIshibashi,AkihikoTawara,TatsuoNagata,RieMiyamoto,NaoyaMiyamoto,NorihikoTou,YukinoriHaradaandHiroyukiKondouDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japanタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行っても臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例を対象に,b遮断点眼薬を1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)へ変更し,変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の眼圧,血圧,脈拍数を測定した.また,結膜充血,角膜上皮障害についても観察した.その結果,平均眼圧は変更1カ月後,3カ月後ともに有意に下降した.一方,平均血圧,平均脈拍数は変更前・後で有意な差はなかった.また,結膜充血,角膜上皮障害の程度にも有意な変化はなかった.タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬の併用療法をしている症例に対して,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧が下降しかつ安全であることから,有用である.In20eyesof20glaucomapatientsbeingtreatedwithtafluprost(TAF)andbeta-blockereyedrops,theeffectsonintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP)andpulseofswitchingtodorzolamideandtimololfixed-combination(DTFC)eyedropswerestudiedatmonth0(baseline),month1andmonth3aftertheswitch.Atmonths1and3afterDTFCinitiation,meanIOPdecreasedsignificantly,ascomparedtobeforeswitching.TherewerenosignificantdifferencesinBPorpulsebetweenbeforeandaftertheswitch.SinceglaucomapatientsbeingtreatedwithTAFandbeta-blockerwhoswitchedtoDTFCexhibitedsignificantdecreaseinIOPwithoutincreasingthenumberofeyedropsorsafety,itisconcludedfromthisstudythatDTFCisausefulagentforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):551.554,2013〕Keywords:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬,緑内障,眼圧,副作用.dorzolamideandtimololfixed-combination,glaucoma,intraocularpressure,sideeffects.はじめに緑内障に対する唯一確実な治療法は眼圧を下降させることである.初期の開放隅角緑内障では眼圧を1mmHg下降させると緑内障進行の危険性が約10%低下するとの報告1)がある.また,正常眼圧緑内障では眼圧を30%下降させた治療群では,無治療群に比べて視野障害の進行が有意に抑制されたとの報告2)や,眼圧を12mmHgに抑えないと視野障害が進行する可能性が高いとの報告3)がある.以前,筆者らは正常眼圧緑内障に対するプロスタグランジン関連薬(PG)単剤使用での眼圧下降率を調査した4).その結果,眼圧が30%以上下降した症例,あるいは12mmHg以下であったものは54.1%であった.したがって,第一選択薬として使用されているPG単剤では,視野障害進行の抑制に十分であるとは考えられない.日本緑内障学会が作成した緑内障診療ガイドライン5)では,「単剤で視神経障害の進行を阻止しうると考える目標眼圧に達しない場合は,まず薬剤(単剤)の変更を考〔別刷請求先〕石橋真吾:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShingoIshibashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,Japan,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyusyu-shi807-8555,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(123)551 慮し,それでも効果が不十分であるときには多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行う」と記載されている.1.0%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(dorzolamideandtimololfixed-combination:DTFC)は,緑内障治療薬として有用であると報告6)されている.ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩の併用療法と比較して,DTFCの眼圧下降効果は同等であるとの報告6)がある.しかし,抗緑内障点眼薬2剤使用症例に1剤を配合点眼薬へ切り替えることによる有用性と安全性については不明な点が多い.そこで,今回タフルプロスト点眼薬(tafluprost:TAF)とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧下降効果および安全性について検討した.I対象および方法対象は,2011年3月から2012年8月までの期間,産業医科大学病院でタフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが臨床的に効果が不十分と判断した緑内障患者20例20眼である.産業医科大学病院倫理委員会の承認を事前に受け,書面による同意を得た.角膜屈折矯正手術,角膜疾患,ぶどう膜炎,6カ月以内に緑内障手術などの内眼手術の既往のある症例,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患や副腎皮質ステロイド薬で治療中の症例は対象から除外した.内訳は,男性6例,女性14例,年齢は70.9±10.9(平均値±標準偏差)歳である.病型は,原発開放隅角緑内障12例,正常眼圧緑内障6例,落屑緑内障2例である.なお,b遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬11例,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬2例,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬7例である.方法は,タフルプロスト点眼薬とb遮断点眼薬による併用療法を8週間以上行ったが,目標眼圧に達しない,もしくは視野障害の進行が認められるため,さらなる眼圧下降が必要と判断した場合,b遮断点眼薬を中止し,washout期間を置かずに1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(コソプトR)の1日2回点眼を開始した.DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に眼圧,血圧,脈拍数を測定した.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で,血圧と脈拍数は電動式血圧計で各1回ずつ測定した.また,DTFCへの変更前,変更1カ月後,変更3カ月後に結膜充血と角膜上皮障害について,細隙灯顕微鏡で観察した.結膜充血は,充血なしをスコア0,重度の充血をスコア4とし,充血の程度を5段階に分類してスコア化した.また,角膜上皮障害については,フルオレセイン染色法を用いてAD(area/density)分類7)で評価し,AとDの合計をスコアとした.全症例の眼圧,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数の平均値を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ552あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013月後とで比較した.同時に,全症例の結膜充血スコア,角膜上皮障害スコアの平均値も治療前後で比較した.解析には,全症例の片眼を用いて(両眼の場合は左眼を採用),右眼6例,左眼14例とした.統計学的解析は,眼圧と血圧と脈拍数については対応のあるt-検定を使用し,結膜充血と角膜上皮障害についてはWilcoxon符号順位検定を用いて,危険率5%以下を有意な差ありと判断した.II結果全症例の眼圧の平均値は,変更前15.8±2.9mmHg(平均値±標準偏差),変更1カ月後14.0±2.8mmHg,変更3カ月後14.0±2.7mmHgで,変更前と後の差は変更1カ月後1.8mmHg,変更3カ月後も1.8mmHgで,変更前と比較して変更後いずれも有意に下降していた(p<0.0001,p<0.005,図1).全症例の平均眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であった.全症例の収縮期血圧の平均値は,変更前138.2±14.6mmHg,変更1カ月後140.0±16.9mmHg,変更3カ月後140.3±13.8mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.7,p=0.5).全症例の拡張期血圧の平均値は,変更前77.5±11.6mmHg,変更1カ月後80.6±11.9mmHg,変更3カ月後81.2±11.1mmHgで,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.2,p=0.2).全症例の脈拍数の平均値は,変更前66.7±11.6回/分,変更1カ月後66.6±9.0回/分,変更3カ月後67.8±8.5回/分と,変更前・後で有意な差はなかった(p=1.0,p=0.6).眼圧(mmHg)変更3カ月後変更前変更1カ月後***15.8±2.914.0±2.814.0±2.72520151050図1変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の平均眼圧(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均眼圧は,いずれも変更前に比較して変更後有意に下降している.変更前からの眼圧下降幅は,変更1カ月後は1.8mmHg,変更3カ月後は1.8mmHgで,変更前からの眼圧下降率は,変更1カ月後は11.6±10.2%,変更3カ月後は10.2±13.8%でいずれも変更前に比較して有意に下降している.*:p<0.0001,**:p<0.005,n=20.(124) :角膜:充血##2.521.510.51.7±0.91.5±0.91.4±1.00.4±0.80.4±0.80.4±0.8スコ##変更前変更1カ月後変更3カ月後図2変更前,変更1カ月後,変更3カ月後の結膜充血,角膜上皮障害(平均値±標準偏差)の変化全症例の平均結膜充血,平均角膜上皮障害スコアは,いずれも変更前と比較して変更1カ月後,変更3カ月後で有意な変化はない.♯:有意差なし,n=20.全症例の結膜充血スコアの平均値は,変更前0.4±0.8,変更1カ月後,3カ月後も0.4±0.8で,変更前・後で有意な差はなかった(p=検定不能,図2).全症例の角膜上皮障害スコアの平均値は,変更前1.7±0.9,変更1カ月後1.5±0.9,変更3カ月後1.4±1.0で,変更前・後で有意な差はなかった(p=0.4,p=0.2,図2).III考按現時点で緑内障による視野障害の進行を完全に阻止する方法はないが,眼圧を十分下降させることで進行を鈍化できることが報告2,3,8)されている.1%ドルゾラミド塩酸塩と0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬であるDTFCは緑内障治療薬として広く使用され,ドルゾラミド塩酸塩は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素を阻害し,チモロールマレイン酸塩は毛様体無色素上皮に存在するb受容体を阻害し,房水産生を抑制することで眼圧が下降すると考えられている9).今回,TAFとb遮断点眼薬の2剤使用症例に対して,b遮断点眼薬をDTFCへ変更し,眼圧,血圧,脈拍数の変化と同時に結膜充血,角膜上皮障害の変化を変更前(ベースライン)と,変更1カ月後,変更3カ月後とで比較し,その結果を検討した.その結果は,全症例の平均眼圧は,変更1カ月後,変更3カ月後ともに有意に下降し,平均眼圧の眼圧下降率は,変更1カ月後11.6±10.2%,変更3カ月後10.2±13.8%であった.PG製剤とb遮断点眼薬の2剤使用症例に対してb遮断点眼薬をDTFCへ切り替えることによる眼圧への効果を調べた報告はないが,ラタノプロストとb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障眼に対して1%ドルゾラミド塩酸塩点眼薬(125)を追加した場合の眼圧への効果を調べた丹羽らの報告10)では,平均眼圧は追加1カ月後有意に下降し眼圧下降率は11%であった.また,Tsukamotoら11)は追加2カ月後の眼圧下降率は9.8%であった.本研究では,切り替え前に使用しているb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,DTFCへの切り替えによる眼圧下降効果は,カルテオロール塩酸塩からチモロールマレイン酸塩への切り替えによる眼圧下降効果と1%ドルゾラミド塩酸塩の1日2回点眼による追加効果であり,一概に1%ドルゾラミド塩酸塩の1日3回点眼の追加による眼圧下降効果と比較はできないが,今回の結果では,DTFCへの変更後の眼圧下降率は約10.11%であり,眼圧下降効果は1%ドルゾラミド塩酸塩を追加した場合とほぼ同等であった.このことから,DTFCはPG製剤とb遮断点眼薬の2剤を使用している緑内障の眼圧下降治療において優れた薬剤であるといえる.また,アドヒアランスの低下は緑内障性視野障害の悪化に関与するとの報告12)があり,アドヒアランスの向上は緑内障治療上重要である.高橋らの点眼薬数が増加するとアドヒアランスが低下するとの報告13)や,木内らの多剤併用療法から配合剤への切り替え後のアドヒアランスは向上したとの報告14)がある.今回,アドヒアランスについて調査はしていないが,DTFCへの切り替えは点眼薬数を増やすことなく眼圧下降作用を示したことからも,緑内障の治療薬として優れた薬剤であるといえる.b遮断点眼薬は全身的副作用があり心拍数と血圧の低下を生じるが,今回筆者らの研究では,b遮断点眼薬からDTFCへの切り替えで,血圧,脈拍数に有意な変化はなかった.このことは,DTFCにはチモロールマレイン酸塩が含まれているためと考えられる.また,今回の結果で,結膜充血の程度にも有意な変化はなかった.PG製剤は,結膜充血をひき起こし,ラタノプロストよりビマトプロストのほうが充血が強いと報告15)されている.本研究ではPG製剤であるTAFはそのまま使用を継続しているため,結膜充血の程度に変化がなかったと考えられる.角膜上皮障害については,角膜上皮細胞や結膜上皮細胞への有害性がある塩化ベンザルコニウムを含む点眼薬の頻回点眼や,b遮断薬などの主薬による細胞毒性により生じると考えられ,角膜上皮障害の発生頻度は抗緑内障点眼薬の回数と点眼薬数に相関すると報告16)されている.今回の研究では,切り替え前後で角膜上皮障害に有意な変化はなかった.切り替え前のb遮断点眼薬は,0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼薬,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬,2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼薬であり,塩化ベンザルコニウムの使用の有無や頻度,主薬が異なっているため,角膜上皮障害の程度に有意な変化がなかあたらしい眼科Vol.30,No.4,2013553 ったことへの考察はむずかしいが,DTFCの添加物であるD-マンニトールが塩化ベンザルコニウムの影響を減少させている作用があること17)が影響している可能性がある.また,0.5%チモロールマレイン酸塩点眼薬と0.5%チモロールマレイン酸塩持続点眼薬とで,角膜上皮障害への影響に差はなかったとの報告18)も角膜上皮障害に差がなかった結果を支持する.これらのことから,本研究のb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,安全な緑内障の治療法と考えられる.本研究では,b遮断点眼薬が0.5%チモロールマレイン酸塩だけではないことから,各々のb遮断点眼薬からのDTFCへの切り替えによる眼圧下降効果や副作用について,さらなる調査の必要があると考える.また,緑内障診療ガイドライン5)では,無治療時から20%,30%の眼圧下降率を目標眼圧として設定することが推奨され,視神経障害の進行を阻止できた時点ではじめて目標眼圧が適切であると確認できる.本研究では,変更前と比較して切り替え後に20%以上の眼圧下降率を示した症例は20例中5例(24%)であったが,PG製剤とb遮断点眼薬を使用していない無治療時の眼圧が不明な症例があり,無治療時からの眼圧下降率は調査できなかった.DTFCへ切り替えることで視野障害が抑制できたかについては,今後調査の必要があると考える.さらには,臨床試験に参加することで点眼改善効果による眼圧下降効果が起こりうるため,バイアスがかかっている可能性も否定できない.以上,TAFとb遮断点眼薬の併用療法で眼圧下降効果が不十分な症例に対してb遮断点眼薬からDTFCへの切り替えは,点眼薬数を増やすことなく有意に眼圧を下降させ,血圧,脈拍数に影響がなく,さらに結膜充血,角膜上皮障害の程度を変化させないことから,有効かつ安全な緑内障治療の一つと考えられる.文献1)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,20032)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallypressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)TheAGISInvestigators:Theadvancedglaucomaintervensionstudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraoculardeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)石橋真吾,廣瀬直文,田原昭彦:正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動に対するラタノプロストの効果.あたらしい眼科21:1693-1696,20045)日本緑内障学会緑内障ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,20126)北澤克明,新家眞,MK-0507A研究会:緑内障および高眼圧症患者を対象とした1%ドルゾラミド塩酸塩/0.5%チモロールマレイン酸塩の配合点眼薬(MK-0507A)の第Ⅲ相二重盲検比較試験.日眼会誌115:495-507,20117)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19948)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldperformanceincentral30°fieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology104:197-201,19979)中谷雄介,大久保真司:知っておきたい配合剤(炭酸脱水酵素阻害薬+b遮断薬).あたらしい眼科29:479-485,201210)丹羽義明,山本哲也:各種緑内障眼に対する塩酸ドルゾラミドの効果.あたらしい眼科19:1501-1506,200211)TsukamotoH,NomaH,MatsuyamaSetal:Theefficacyandsafetyoftopicalbrinzolamideanddorzolamidewhenaddedtothecombinationtherapyoflatanoprostandabeta-blockerinpatientswithglaucoma.JOculPharmacolTher21:170-173,200512)RossiGC,PasinettiGM,ScudellerLetal:Doadherenceratesandglaucomatousvisualfieldprogressioncorrelate?EurJOphthalmol21:410-414,201113)高橋真紀子,内藤智子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,201214)木内貴博,井上隆史,高林南緒子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩2剤併用から配合剤への切り替え効果に関する長期的検討.あたらしい眼科29:831-834,201215)相原一:プロスタグランジン関連薬.あたらしい眼科29:443-450,201216)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729732,201017)長井紀章,村尾卓俊,大江恭平ほか:不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用いた緑内障治療配合剤のinvitro角膜細胞障害性評価.薬学雑誌131:985-991,201118)北澤克明,東郁夫,塚原重雄ほか:1日1回点眼製剤TimololGS点眼液─チモロール点眼液1日2回点眼との臨床第Ⅲ相比較試験─.あたらしい眼科13:143-154,1996***554あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(126)

トラボプロスト点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への変更

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1559.1562,2012cトラボプロスト点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への変更青木寧子*1南雲はるか*2井上賢治*2富田剛司*3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科OcularHypotensiveEffectandSafetyofTravoprost0.004%/TimololMaleate0.5%FixedCombination,SwitchedfromTravoprost0.004%Alonefor3MonthsYasukoAoki1),HarukaNagumo2),KenjiInoue2)andGojiTomita3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の眼圧下降効果と安全性を前向きに検討する.対象および方法:トラボプロスト点眼液を単剤使用し,眼圧下降が不十分な原発開放隅角緑内障患者33例33眼を対象とした.トラボプロスト点眼液を中止し,washout期間なしでトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更した.変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した.副作用を来院時ごとに調査した.結果:眼圧は変更前16.9±3.3mmHg,変更1カ月後15.2±3.0mmHg,変更3カ月後14.8±3.0mmHgで,変更後に有意に下降した.4例(12.1%)で副作用が出現した.結論:トラボプロスト点眼液をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更することで,点眼回数を増やすことなく眼圧が下降し,安全性も良好であった.Purpose:Weprospectivelyinvestigatedtheintraocularpressure(IOP)-decreasingeffectandsafetyoftravoprost/timololmaleatefixed-combinationeyedrops.SubjectsandMethods:Subjectscomprised33patients(33eyes)diagnosedwithprimaryopenangleglaucoma,forwhomtheIOP-decreasingefficacyoftravoprosteyedropmonotherapywasinsufficient.Thetravoprosteyedropswerediscontinued,withnowashoutperiod,andreplacedbytravoprost/timololmaleatefixed-combinationeyedrops.IOPat1and3monthsafterthechangewascompared.Adversereactionswereinvestigatedateachcheck-up.Results:IOPwas16.9±3.3mmHgatthetimeofthechange,15.2±3.0mmHgat1monthafterthechangeand14.8±3.0mmHgat3monthsafterthechange,thepost-changedecreasebeingsignificant.Adversereactionsappearedin4cases(12.1%).Conclusion:Afterswitchingfromtravoprosteyedropstotravoprost/timololmaleatefixed-combinationeyedrops,IOPdecreasedwithoutincreasingadministrationfrequency,andsafetywassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1559.1562,2012〕Keywords:トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液,トラボプロスト点眼液,眼圧,副作用,変更.travoprost/timololmaleatefixedcombination,travoprosteyedrops,intraocularpressure,adversereaction,switch.はじめに緑内障治療の最終目標は残存する視野の維持である.視野維持効果が高いエビデンスで示されているのは眼圧下降療法のみである1,2).眼圧下降のために通常は点眼液治療が第一選択である.プロスタグランジン関連点眼液はその強力な眼圧下降作用,全身性副作用が少ない点,および1日1回点眼の利便性により近年緑内障点眼液治療の第一選択薬となっている3).緑内障診療ガイドラインでは,眼圧下降が不十分な症例では点眼液を変更するか,他の点眼液の追加投与を行うことを推奨している4).しかし,多剤併用症例では点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である5).そのため同じ1日1回点眼の配合点眼液への変更が最適と考えられる.日本では2010年6月にトラボプロスト点眼液とマレイン酸チモロール点眼液の配合点眼液(デュオト〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)1559 ラバR)が発売された.25.0そこで今回,トラボプロスト点眼液を単剤使用中の原発開20.0放隅角緑内障患者を対象に,トラボプロスト・チモロールマ**眼圧(mmHg)15.010.05.00.0レイン酸塩配合点眼液に変更した際の眼圧下降効果と安全性を前向きに検討した.I対象および方法2010年7月から2012年5月までの間に井上眼科病院に変更前変更1カ月後変更3カ月後通院中で,トラボプロスト点眼液を単剤使用中で眼圧下降効図1トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液果が不十分な原発開放隅角緑内障(広義)33例33眼(男性変更前後の眼圧14例14眼,女性19例19眼)を対象とし,前向きに研究を(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet検定,*p<0.0001)行った.平均年齢は63.2±12.9歳(平均±標準偏差)(26.82歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)5.0右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のトラボプロスト点眼液(1日1回夜点眼)を中止0.0NS変更1カ月後変更3カ月後し,washout期間なしでトラボプロスト・チモロールマレ図2トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液イン酸塩配合点眼液(1日1回夜点眼)に変更した.点眼液変更後の眼圧下降幅(NS:nonsiginificant)変更前と変更1,3カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にGold14例,正常眼圧緑内障19例であった.Humphrey視野の4.0眼圧(mmHg)meandeviation値(MD値)は.8.6±6.5dB(.22.1.0.2dB)3.0であった.トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点2.0眼液変更前の眼圧は16.9±3.3mmHg(12.25mmHg)であった.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は1.0mann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定し,比較した25.0NS(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet検定).変更後に来院時ごとに副作用を調査した.有意水準はいずれも,p<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.眼圧下降率(%)20.015.010.05.0II結果眼圧は変更1カ月後15.2±3.0mmHg,3カ月後14.8±3.0mmHgで,変更前16.9±3.3mmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001)(図1).眼圧下降幅は変更1カ月後1.9±1.7mmHg,3カ月後2.1±1.7mmHgで同等であった(図2).眼圧下降率は変更1カ月後10.5±9.9%,3カ月後11.9±9.6%で同等であった(図3).副作用は4例(12.1%)で出現し,変更1カ月後に霧視が2例,光視症が1例,変更3カ月後に角膜上皮障害の悪化が1例であった(表1).霧視の1例で患者の希望によりトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を中止した.III考按トラボプロスト点眼液単剤で眼圧下降効果が不十分な場合にはb遮断点眼液あるいは炭酸脱水酵素阻害点眼液の追加,他のプロスタグランジン関連点眼液あるいはプロスタグラン1560あたらしい眼科Vol.29,No.11,20120.0変更1カ月後変更3カ月後図3トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液変更後の眼圧下降率(NS:nonsiginificant)表1トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液変更後の副作用副作用発症時期転帰霧視霧視光視症角膜上皮障害悪化1カ月後1カ月後1カ月後3カ月後中止継続継続継続ジン関連薬/チモロール配合点眼液への変更が考えられる.他のプロスタグランジン関連点眼液への変更は,トラボプロスト点眼液に対するノンレスポンダーの症例では効果が期待できる.配合点眼液は併用療法に比べて点眼回数が減り,ア(110) ドヒアランスが向上し,眼圧がさらに下降することが期待される.しかし,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の点眼回数は1日1回で,本来チモロール点眼液は1日2回点眼なので,眼圧下降効果の減弱が懸念される.つまり,トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液単剤とトラボプロスト点眼液+チモロール点眼液併用との眼圧下降効果が同等なのかが懸念される.筆者らはプロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液を併用中の原発開放隅角緑内障43例に対してトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更し,6カ月間投与した6).眼圧は変更前15.7±2.9mmHgと変更1カ月後15.5±2.7mmHg,3カ月後15.3±3.6mmHg,6カ月後15.8±3.2mmHgで同等であった.大橋らはトラボプロスト点眼液とb遮断点眼液(チモロール点眼液あるいはカルテオロール点眼液)を併用中の原発開放隅角緑内障17例32眼をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更し,3カ月間投与した7).眼圧は変更前13.8±2.5mmHgと変更1カ月後13.6±2.7mmHg,2カ月後14.0±2.7mmHg,3カ月後13.9±2.4mmHgで同等であった.佐藤らはプロスタグランジン関連点眼液とb遮断点眼液を併用中の原発開放隅角緑内障40例78眼をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更し,6カ月間投与した8).炭酸脱水酵素阻害点眼液使用症例は継続使用とした.眼圧は,変更前は15.2±3.7mmHg,変更2カ月後は14.3±3.4mmHg,4カ月後は15.0±3.4mmHg,6カ月後は14.1±3.4mmHgで,変更2,6カ月後は変更前に比べて有意に下降した.Hughesらは開放隅角緑内障,高眼圧症,色素性緑内障,落屑緑内障患者をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(朝点眼)151例とトラボプロスト点眼液(夜点眼)+チモロール点眼液(朝点眼)142例に振り分けた9).投与3カ月後の眼圧下降率はトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液が32.37%,トラボプロスト点眼液+チモロール点眼液が36.38%で同等であった.トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の副作用は充血(12.4%),不快感(5.6%),掻痒感(3.7%),乾燥感(2.5%),角膜炎(2.5%)で,その頻度はトラボプロスト点眼液+チモロール点眼液と同等であった.Schumanらは開放隅角緑内障,高眼圧症,色素性緑内障,落屑緑内障患者をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(朝点眼)155例とトラボプロスト点眼液(夜点眼)+チモロール点眼液(朝点眼)148例に振り分けた10).投与3カ月後の眼圧下降率はトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液が29.1.33.2%,トラボプロスト点眼液+チモロール点眼液が31.5.34.8%で同等であった.トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の副作用は充血(14.3%),不快感(9.9%),異物感(6.2%),掻痒感(4.3%),乾燥感(3.1%)で,その頻度はトラボプロスト点眼液+チモロール点眼液と同等であった.Grossらは開放隅角緑内障,高眼圧症,色素性緑内障,落屑緑内障患者をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(朝点眼)322例とトラボプロスト点眼液(夜点眼)+チモロール点眼液(朝点眼)313例に振り分けた11).投与3カ月後の眼圧下降率はトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液が32.37%,トラボプロスト点眼液+チモロール点眼液が36.38%で同等であった.トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の副作用は充血(13.7%),不快感(9.3%),乾燥感(4.3%),異物感(4.0%),掻痒感(4.0%),視力低下(3.1%),霧視(2.5%),角膜炎(2.2%)で,その頻度はトラボプロスト点眼液+チモロール点眼液と同等であった.これらの切り替え試験6.8)や二重盲検並行試験9.11)よりトラボプロスト点眼液+チモロール点眼液の併用とトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の単剤との眼圧下降効果と安全性は同等と考えられる.つぎに,今回の研究と同様にトラボプロスト点眼液をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更した際の眼圧下降効果についても報告がある12).Pfeifferらは原発開放隅角緑内障,高眼圧症,色素性緑内障51例に対してトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更し,12週間投与した12).眼圧は変更前22.1±2.7mmHgに比べて変更4週間後16.2±2.6mmHg,12週間後15.8±2.4mmHgに有意に下降した.変更12週間後の眼圧下降幅は6.3±2.5mmHgであった.副作用は9例(18%)に出現した.今回の眼圧下降幅と眼圧下降率は1.9.2.1mmHgと10.5.11.9%で,過去の報告12)に比べて低値であったが,変更前眼圧が今回(16.9±3.3mmHg)のほうが過去の報告(22.1±2.7mmHg)に比べて低値であったためと考えられる.一方,トラボプロスト点眼液にチモロール点眼液(1日2回点眼)を追加投与した際の眼圧下降効果についても報告されている13,14).Holloらは高眼圧症,原発開放隅角緑内障,色素性緑内障95例に対してチモロール点眼液を12週間追加した13).眼圧下降幅は3.2±2.4mmHgであった.副作用は28.4%で出現し,睫毛伸長7.4%,充血6.3%,睫毛剛毛5.3%などであった.重篤な副作用として肺炎,丹毒が出現した.Pfeifferらは高眼圧症,原発開放隅角緑内障,色素性緑内障90例に対してチモロール点眼液を12週間追加した14).眼圧下降幅は4.2±2.8mmHg,眼圧下降率は19.6±12.7%であった.副作用は12.9%に出現し,充血5.4%,掻痒感2.2%などであった.今回の研究と過去の報告13,14)を比較すると,眼圧下降幅は今回(1.9.2.1mmHg)のほうが過去の報告(3.2.4.2mmHg)より低値であった.これは今回の変更前眼圧(16.9±3.5mmHg)が過去の報告の追加前眼圧(21.2.21.3mmHg)に比べて低値であった,あるいはチモ(111)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121561 ロール点眼液の点眼回数が異なっていたためと考えられる.トラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の副作用として充血,不快感,異物感,掻痒感,乾燥感,角膜炎,視力低下,霧視などが報告されている6.14).また,重篤な副作用は出現しなかったという報告6.12,14)が多く,今回も同様であった.しかし,今回はトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に含まれるb遮断点眼液による血圧や脈拍の変化は評価しておらず,b遮断点眼液による循環器系や呼吸器系の全身性副作用を考慮する必要がある.結論として,日本人の原発開放隅角緑内障に対してトラボプロスト点眼液をトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液に変更することで,点眼回数を増やすことなく眼圧を下降させることができ,安全性も良好であった.しかし,b遮断点眼液が追加されることから循環器系や呼吸器系の全身性副作用の出現に注意する必要がある.本稿の要旨は第23回日本緑内障学会(2012)にて発表した.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)TheAGISInvestigators.TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版─薬物治療─.あたらしい眼科28:874-878,20114)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20125)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20096)InoueK,SetogawaA,HigaRetal:Ocularhypotensiveeffectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%fixedcombinationafterchangeoftreatmentregimenfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthalmol6:231-235,20127)大橋秀記,嶋村慎太郎:2剤併用緑内障治療患者に対するトラボプロスト/チモロールマレイン酸点眼剤への切り替え効果の検討.臨眼66:871-874,20128)佐藤出,北市伸義,広瀬茂樹ほか:プロスタグランジン製剤・b遮断薬からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合液への切替え効果.臨眼66:675-678,20129)HughesBA,BacharachJ,CravenRetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200510)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyofafixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200511)GrossRL,SullivanEK,WellsDTetal:Pooledresultsoftworandomizedclinicaltrialscomparingtheefficacyandsafetyoftravoprost0.004%/timolol0.5%infixedcombinationversusconcomitanttravoprost0.004%andtimolol0.5%.ClinOphthalmol1:317-322,200712)PfeifferN,ScherzerML,MaierHetal:Safetyandefficacyofchangingtothetravoprost/timololmaleatefixedcombination(DuoTrav)frompriormono-oradjunctivetherapy.ClinOphthalmol4:459-466,201013)HolloG,ChiselitaD,PetkovaNetal:Theefficacyandsafetyoftimololmaleateversusbrizolamideeachgiventwicedailyaddedtotravoprostinpatientswithocularhypertensionorprimaryopen-angleglaucoma.EurJOphthalmol16:816-823,200614)PfeifferN:Timololversusbrizolamideaddedtotravoprostinglaucomaorocularhypertension.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1065-1071,2011***1562あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(112)

2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1% 「日点」)の安全性

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《原著》あたらしい眼科29(11):1549.1553,2012c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)for2-WeekFrequentReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼剤のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼液よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスTM,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCL(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSTM,BiofinityR).ResultsshowedthatactiveingredientandboricaidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1549.1553,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにいかという検討に関してはこれまでに多くの報告がある1.13).コンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するしかし,点眼液には防腐剤以外にも主薬剤のほかに,等張化ことによって,点眼液に含まれる防腐剤が眼障害をきたさな剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤などが含まれて〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)1549 いる.そのなかで,防腐剤フリーの点眼液にも等張化剤あるいは緩衝剤として含まれているホウ酸による眼障害の検討も必要と考え,筆者はこれまでにヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLのなかから従来素材の含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスTM,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた15).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,5人10眼中3人4眼にドライアイと推察される下方に局在する微小な点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められた.経過観察中,試験前に認められたSPKと同様なドライアイによると推察される下方に局在した微小なSPKが認められる症例は散見されたものの,点眼などによる副作用で認められるようなびまん性のSPKは認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスTMグループIバイオフィニティRグループI酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕2822103128含水率(%)58593848中心厚(.3.00D)(mm)0.0840.140.070.08直径(mm)14.014.214.014.01550あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(100) 表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─5.8(33.2)NDNDNDND5.8(33.2)メダリストRII平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─アキュビューRオアシスTM平均値±SDNDNDNDND15152.6(14.9)1.6(9.2)3.6(20.6)3.1(17.7)1.8(10.3)2.5±0.8(14.3±4.6)バイオフィニティR平均値±SD1411NDNDND12.5NDNDNDNDND.検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中1検体から検出され,吸着量は33.2μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中2眼(いずれも試験開始前にSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が(101)悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中すべてにSPKは認められなかった.3.アキュビューRオアシスTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中1検体から検出され,吸着量は15μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.3±4.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中3検体が検出限界以下,1検体が14μg/SCL,1検体が11μg/SCLであった.ホウ酸は5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.III考按現在市販されている点眼液の60%には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)が含まれているといわれている16).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがある.筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している17.19).しかし,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は防腐剤フリーの点眼液においても等張剤や緩衝剤として配合されているため,CLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.前回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を加えた.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCLを4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121551 トコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会のモーニングセミナー,2010.神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものである.しかし,前回の1日使い捨てSCLを使用した試験と同様に,今回の2週間頻回交換SCLを使用した試験においても,1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.これまでにもCLを点眼液に浸漬してCL内における防腐剤の吸着量を測定した実験報告12)がなされているが,このような過酷な状況下における実験系と実際にCLを装用させて点眼液を使用させて行う臨床的な実験系では,後者は涙液動態による点眼液の希釈が経時的に行われているという点で,結果がかなり異なってくるものと推察する.実際,点眼した防腐剤の涙液中濃度は15分以内で1/10以下になるという報告がある16).日本におけるCLの市場においては,現在1日使い捨てSCLや2週間頻回交換SCLが増加傾向にありSCL市場の大半を占めるまでになった.また,1日使い捨てSCLや2週間交換SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材であるシリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルSCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる20).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはアキュビューRオアシスTMにおいて1検体に,バイオフィニティRにおいて2検体に吸着を認めた.1日6回点眼におけるヒアルロン酸ナトリウムの総量から考えると吸着したヒアルロン酸ナトリウムの量は5%以下であった.ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,1日6回点眼におけるホウ酸の総量から考えると吸着したホウ酸およびホウ素量は1%以下であった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接CLを試験に供した.また,CL装用中の点眼使用によるSPKの悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.1552あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665668,201215)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201116)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199417)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,(102) 2000上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼18)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラ液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,2009スト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい20)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクト眼科20:373-377,2003レンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたら19)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用しい眼科25:923-930,2008***(103)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121553

ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):665.668,2012cソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司*小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)forSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼薬のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類のSCL(ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分は検出されず,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Therefore,itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlens(SCL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesofonedaydisposableSCL(1-DAYACUVUERTruEyeTM,MedalistR1-DAYPLUS,DAILIESRAQUAand1-DAYACUVUER).ResultsshowedthattheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):665.668,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,softcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにかという質問は,患者からのみならず医師(眼科医を含む)点眼液には有効となる主薬剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,からもよく投げかけられる.特にソフトコンタクトレンズ可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤,防腐剤などが含まれている.(SCL)においては,防腐剤のSCL内への貯留や蓄積の可能コンタクトレンズ(CL)装用上,点眼液を使用してもよいの性があり,SCL上の点眼液使用は禁忌であるという考え方〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)665 が一般的である.しかし,臨床の場においてはCLを装用したまま点眼液を使用することが望ましい症例がアレルギー性結膜炎やドライアイの患者などを中心として少なからず認められる1).CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによってCLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も汎用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAK)であるが,BAKは角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている4.6).筆者は過去にBAKおよびBAK以外の防腐剤であるクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した点眼液のCL装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7,8).しかし,主成分や防腐剤以外の添加物のCLへの吸着が問題となる可能性も考えられる.特にホウ酸は等張化剤あるいは緩衝剤として多くの点眼液(防腐剤フリーの点眼液も含む)に配合されており,そのCL装用上の使用による眼障害の可能性の検討が必要と考えられる.今回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種ワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.ワンデータイプのSCLの中からワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューRの4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.最終点眼後5分以内に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査点眼開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,SCL装用中(2時間おき),SCL装脱直後に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前とSCL装脱直後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,SCL装脱直前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始前,SCL装用中,SCL装脱後において,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,全例に軽度の角結膜上皮表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMグループIメダリストRワンデープラスグループIIデイリーズRアクアグループIIワンデーアキュビューRグループIV酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕100222628含水率(%)46596958中心厚(mm)(.3.00D)直径(mm)0.08514.00.0914.20.1013.80.08414.2666あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(86) 障害が認められた.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.1.ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量結果を表2に示す.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界(10μg/SCL)に近い測定値であった.ホウ酸は1.1μg/SCLを超えるものは5検体中2検体から検出され,検出量はそれぞれ17.7μg/SCLおよび16.6μg/SCLであった.残りの3検体は検出限界(1.1μg/SCL)に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中5眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM平均値±SD141612131514±1.60.3(1.7)3.1(17.7)0.3(1.7)2.9(16.6)0.4(2.3)1.4±1.5(8.0±8.4)メダリストRワンデープラス平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─デイリーズRアクア平均値±SD──────3.7(21.2)3.4(19.4)2.3(13.2)2.1(12.0)1.3(7.4)2.6±1.0(14.6±5.6)ワンデーアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─0.3(1.7)0.5(2.9)NDNDND0.4±0.1(2.3±0.8)検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.(87)2.メダリストRワンデープラスa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.3.デイリーズRアクアa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは本定量法では測定できなかった.ホウ酸は5検体すべてから検出され,平均検出量は14.6±5.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.4.ワンデーアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中3検体が検出限界以下,2検体が検出限界に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中6眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAK,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されており,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている9.15).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,16.19).筆者はBAKよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用した点眼液の従来型SCL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,点眼薬には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は等張化剤や緩衝剤として多くの点眼液に配合されているため,SCLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCL(O2オプティクス,エアオプティクスTM,2Wプレミオ,アキュビューRオアシス,ワンデーピュア,ワンデーアキュビューR,デイリーズRアクアコンフォートプラス,デイリーズRアクア)を4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフトコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会モーニングセミナー,2010,神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012667 である.しかし,今回の実験のような1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.点眼した防腐剤の涙液中濃度は比較的速やかに涙液により希釈され,15分以内で1/10以下になるという報告がある21).どのくらいの頻回点眼でレンズサイズへの影響が認められるのかは今後の検討を待たねばならないが,少なくとも15分以上の間隔を空ければ問題ないと考えられる.日本におけるCLの市場は1日交換終日装用SCLが増加傾向にあり,筆者自身の症例では約30%を占める.また,1日交換終日装用SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したSCLである.これにより,従来型SCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や添加物のSCLへの吸着が異なる可能性が考えられる19).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類のワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはSCLへの吸着が認められなかった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接SCLを試験に供したが,デイリーズRアクアにおいてはSCL中の色素がカルバゾールと化学反応して発色定量を妨害したと思われ測定不能であった.そこで,新たにSCLをヒアルロン酸PF点眼液に24時間浸漬した試験を追加した.SCLを浸漬した後のヒアルロン酸PF点眼液を試料として測定し,吸着量を算出した.その結果,試料液中の精製ヒアルロン酸ナトリウムは減少せず,SCLへの吸着は認められなかった.このことから,今回測定不能であったデイリーズアクアへの精製ヒアルロン酸ナトリウムの吸着はないと考えられる.また,SCL装用中の点眼使用による症状の悪化やSCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.668あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:13871397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,20098)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,197710)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197611)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198012)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198713)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199114)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199115)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199316)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199217)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199218)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199319)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200820)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,1994(88)

ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):259.265,2012cラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討広田篤*1井上康*2永山幹夫*3相良健*4岡田康志*5古本淳士*6木内良明*7*1広田眼科*2井上眼科*3永山眼科クリニック*4さがら眼科クリニック*5おかだ眼科*6ふるもと眼科*7広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学E.cacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforLatanoprostAtsushiHirota1),YasushiInoue2),MikioNagayama3),TakeshiSagara4),KojiOkada5),AtsuhitoFurumoto6)YoshiakiKiuchi7)and1)HirotaEyeClinic,2)InoueEyeClinic,3)NagayamaEyeClinic,4)SagaraEyeClinic,5)OkadaEyeClinic,6)FurumotoEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalSciences目的:ビマトプロスト(bimatoprost:BIM)点眼薬の眼圧下降効果と安全性を比較検討した.方法:24週間以上ラタノプロスト(latanoprost:LAT)単独または併用療法を行っても眼圧下降が不十分な広義原発開放隅角緑内障65例65眼を対象とした.LATをBIMに切替えて24週間観察した.結果:眼圧は切替え前17.5±4.1mmHgで,BIM切替え2週後15.7±3.6mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも有意に下降した(p<0.0001).切替え前からの眼圧下降率が20%以上の症例は53%であった.結膜充血スコアは切替え前より2週後で有意に高かった(p<0.05).副作用出現(5例)は角膜上皮障害5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度であった.中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用2例,手術施行1例,患者希望4例であった.結論:BIMはLATで効果不十分な症例に対し,さらなる眼圧下降効果が期待できる.Object:Toevaluatethesafetyandocularhypotensivee.ectofbimatoprost(BIM)asareplacementforlatanoprost(LAT).Method:BIMwasadministeredfor24weeksto65eyesof65primaryopen-angleglaucomapatientswhowereintolerantofLATtherapyexceeding24-weeks.Results:Intraocularpressure(IOP)was17.5±4.1mmHgatbaseline,15.7±3.6mmHgat2weeksand14.1±3.4mmHgat24weeksaftertheswitch(p<0.0001).IOPchangewas≧20%in53%ofpatients.Conjunctivalhyperemiascoreincreasedsigni.cantlyat2weeks(p<0.05).Adverseeventsobservedin5patientscomprisedcornealepitheliumdisorders:5;conjunctivalhyperemia:1andocularpain:1.Withdrawalsfromthestudytotaled8patients:1forine.ectivenessorincreasedIOP;2foradverseevent;1forsurgeryand4forceasedparticipation.Conclusion:BIMise.ectiveasareplacementforLATinpatientswhoareintolerantofLATtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):259.265,2012〕Keywords:緑内障,ラタノプロスト,ビマトプロスト,眼圧,副作用.glaucoma,latanoprost,bimatoprost,intraocularpressure,sidee.ect.はじめに緑内障治療でevidence-basedmedicine(EBM)が確認された唯一の治療は眼圧下降であり,その治療法の主体は薬物療法である.薬物療法は点眼薬が主で,交感神経作動薬,副交感神経作動薬に加え,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhy-draseinhibitor:CAI)およびプロスタグランジン(prosta-glandin:PG)系薬などの多種の薬剤が市販されている.現在,緑内障治療薬のなかで最も汎用されているのはPG系点眼薬で,2011年3月の時点でわが国では5種類の市販薬が〔別刷請求先〕広田篤:〒745-0017山口県周南市新町1-25-1広田眼科Reprintrequests:AtsushiHirota,M.D.,HirotaEyeClinic,1-25-1Shinmachi,Shunan-city,Yamaguchi745-0017,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)259ある.イソプロピルウノプロストンを除くPG系薬は他の薬剤に比べ,眼圧下降効果は強いが,全身副作用が少なく,点眼回数は1回/日で使いやすい.しかし,結膜充血,虹彩色素沈着などの局所の副作用の頻度が高いことも指摘されている1).2009年11月から使用可能になったPG系点眼薬のビマトプロスト(bimatoprost:BIM)はプロスタマイド系,ラタノプロスト(latanoprost:LAT),トラボプロスト,タフルプロストはプロスタノイド系に分類されている.LAT,トラボプロスト,タフルプロストはプロドラッグで,アシッド体に変化してからプロスタノイド受容体に結合してぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進する.一方,BIMは未変化体として直接プロスタマイド受容体に結合して房水流出を促進する2).そのため患者によってPG系薬の効果に差がある可能性があり,海外では原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)あるいは高眼圧症(ocularhypertension:OH)の患者に対しBIMはLATと比較して眼圧下降効果は高いが,結膜充血も強いとの臨床結果がクロスオーバー試験3)あるいは多施設二重盲検試験4,5)により報告されている.わが国におけるBIMとLATの多施設二重盲検比較試験の報告6)でも同様の結果であった.また,LATで眼圧下降が認められない症例が,BIMで有意に下降したとの報告もある3).LATで治療されているが眼圧下降が不十分な緑内障患者に対しては,他剤との併用が試みられることが多かったが,副作用の増加や患者の利便性を考えると,安易な薬剤の追加は避けるべきである.筆者らは以前,LATからトラボプロスト(保存剤:sofZiaTM)への切替えの有効性と安全性を評価し,眼圧は不変であったが,角膜上皮障害は減少することを報告した7).今回,LAT単独,あるいはLATと他剤との併用で治療されていて眼圧下降が不十分な症例について,LATをBIMに変更したときの眼圧下降効果と安全性について比較検討したので報告する.I対象および方法1.対象2009年12月から2010年5月の間に6施設を受診した広義POAG患者で,LAT単剤またはLATと他の緑内障治療表1除外基準1)評価対象眼において,角膜屈折矯正手術,濾過手術の既往を有する者2)評価対象眼においてLAT投与前6カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者および治療薬を変更した者3)緑内障以外の活動性の眼科疾患を有する患者4)重症の角結膜疾患を有する者5)観察期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する患者6)観察期間中コンタクトレンズ装用が必要な患者7)その他,担当医師が適切でないと判断した患者薬を併用して24週間以上治療を継続したが眼圧が目標値に達せず,眼圧下降が不十分と判断された症例を対象とした.評価対象は1患者について1眼とし,点眼治療のみで眼圧コントロールが可能で矯正視力が0.7以上の眼を評価対象眼とした.両眼ともに選択基準を満たす場合は,原則として切替え前の眼圧が高い眼を評価対象眼とし,眼圧が同じ場合は右眼を採用した.症例の除外基準を表1に示した.2.方法a.投与方法0.005%LATを休薬期間を置かずに0.03%BIMに変更して24週間点眼した.他の緑内障治療薬は切替え前後で用法を含めて変更しないこととした.全身および局所のステロイド薬は併用禁忌とした.ただし皮膚局所投与は併用可とした.試験期間中,眼圧に影響を及ぼす新たな薬剤投与は行わないものとし,試験期間中に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)や濾過手術の必要のある症例は中止例とした.b.観察項目①患者背景因子年齢,性別,病歴,矯正視力,視野,緑内障併用薬,内眼手術の既往について検討した.②眼圧検査点眼切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に測定した.測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いて,2回測定し,平均値を測定値とした.切替え後の各観察日の表2結膜充血判定基準0:充血(.)0.5:軽微な充血1:軽度の充血2:中等度の充血3:高度の充血260あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(112)測定時間は切替え前の測定時間の前後2時間以内とした.③視野検査Humphrey視野計プログラム30-2を用いて,切替え前と観察終了時(24週後)に測定した.なお,切替え前6カ月以内の視野および観察終了後3カ月以内の視野をもって,切替え前と観察終了時のものに充てることができることとした.④他覚所見結膜充血と角膜上皮障害は,切替え前(0日),切替え2,4,8,12,16,20,24週後に判定した.結膜充血は表2の判定基準に従い,角膜上皮障害はMiyataら8)のArea-Density(AD)分類により判定した.⑤患者アンケート切替え前,切替え12,24週後に実施した.自覚症状は結膜充血,異物感(目がゴロゴロする),刺激感(点眼時しみる)についてVAS(visualanaloguescale)で確認した.また,「眼圧の気になり方」,「点眼忘れの頻度」,「容器の点眼のしやすさ」,「その他気になること」について質問表を用いて調査した.c.評価項目と統計解析評価項目は眼圧,視野,視力(logMAR),他覚所見(結膜充血,角膜上皮障害),およびアンケートによるVAS(結膜充血,異物感,刺激感)とした.解析は,眼圧,視野,視力(logMAR)およびアンケートのVAS(充血,異物感,点眼刺激感)についてはpairedt-test,他覚所見についてはWilcoxonsigned-ranktestを用いて検定した.有意水準は5%未満とした.なお,本試験は倫理審査委員会の承認後,同意を取得できた患者を対象に通常の診療範囲内にて実施した.II結果1.対象および患者背景選択基準を満たした65例65眼を評価対象とした.年齢は平均74.4±8.0歳(53.93歳),男性32例(49.2%),女性33例(50.8%)であった.緑内障の病歴は5年以内が41例(63.1%)であった.症例選択時の緑内障治療薬は,LAT単剤が34例(52.3%),LAT+b遮断薬が12例(18.5%),LAT+CAIが8例(12.3%),LAT+b遮断薬+CAIが6例(9.2%),LAT+その他が5例(7.7%)であった(表3).中止例は8例で,無効または眼圧上昇1例,副作用発現2例,患者希望4例,1例は対象眼の手術施行により中止した.各症例の内訳を表4に示す.無効または眼圧上昇により中止した1例は0日眼圧17.5mmHg,2週後16.5mmHg,4週後14.5mmHg,8週後16.5mmHg,12週後17.5mmHg,16週後14.0mmHg,20週後15.0mmHg,24週後14.5mmHgと変動があり,主治医の判断で中止した.(113)表3患者背景性別男性32(49.2%)女性33(50.8%)74.4±8.0歳年齢〔平均±SD(範囲)〕(53.93歳)視野〔MD:平均±SD(.)(範囲)〕.6.61±4.82(.25.3..0.1)LogMAR視力〔平均±SD(範囲)〕.0.06±0.08(.0.2.0.2)病歴<1年5(7.7%)<5年36(55.4%)<10年15(23.1%)10年≧9(13.8%)緑内障併用薬34(52.3%)31(47.7%)変更前の使用薬剤分類LATのみ34(52.3%)LAT+b遮断薬12(18.5%)LAT+CAI8(12.3%)LAT+b遮断薬+CAI6(9.2%)LAT+a1遮断薬2(3.2%)LAT+b遮断薬+a1遮断薬1(1.5%)LAT+CAI+a1遮断薬1(1.5%)LAT+b遮断薬+CAI+a1遮断薬1(1.5%)内眼手術の既往(評価対象眼)34(52.3%)31(47.7%)白内障手術29(93.5%)Argonlasertrabeculoplasty5(16.1%)その他1(3.2%)無有無有表4中止例(8例)内訳BIM投与中止理由BIM投与期間無効または眼圧上昇24週間角膜上皮障害発現16週間角膜上皮障害発現・結膜充血24週間頭重ありとの患者希望によりLATに戻す2週間刺激感ありとの患者希望によりLATに戻す4週間右眼ぼやけるとの患者希望により他剤に変更16週間点眼忘れあるため,点眼数を減らしたいとの患者希望により配合剤に変更20週間対象眼手術施行のため(除外基準)4週間2.眼圧についてa.眼圧の推移全眼の眼圧は,0日17.5±4.1mmHg,切替え2週後15.7±3.6mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後15.2±3.2mmHg,12週後15.3±3.0mmHg,16週後14.7±3.4mmHg,20週後14.8±3.4mmHg,24週後14.1±3.4mmHgで,いずれも切替え後に有意に低下していた(いずれもp<0.0001,あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122610日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(65)(59)(60)(58)(59)(52)(54)(56)(34)(32)(33)(31)(32)(28)(29)(31)()は眼数()は眼数図1眼圧の推移(全眼)図2眼圧推移(LAT単剤からBIM単剤)0日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後(12)(11)(11)(11)(11)(11)(10)(11)()は眼数p値vs0日─0.07020.00000.00290.00670.00220.00330.0009pairedt-test図3眼圧の推移(LAT+b遮断薬からBIM+b遮断薬)p値vs2週後,pairedt-test図4眼圧下降率と症例分布pairedt-test)(図1).LAT単剤投与眼では,0日16.8±4.0mmHg,切替え2週100*後15.3±3.2mmHg,4週後14.6±3.0mmHg,8週後14.9±803.3mmHg,12週後14.7±3.2mmHg,16週後15.3±3.3mmスコア症例(%)Hg,20週後14.5±3.3mmHg,24週後,14.1±3.8mmHg60と,いずれも有意に低下していた(いずれもp<0.0001,40pairedt-test)(図2).LATとb遮断薬併用眼では,0日17.4±2.7mmHg,切替え2週後15.7±2.5mmHgと有意差はなかった(p=0.0702)が,4週後13.7±2.9mmHg,8週後14.6±2.0mmHg,12週後15.3±1.4mmHg,16週後13.6±3.0mmHg,20週後14.2±2.3mmHg,24週後13.8±2.4mmHgで有意に低下していた(4週後:p<0.0001,8,12,16,20週後:p<0.01,24週後:p<0.001,pairedt-test)(図3).b.眼圧下降率の推移眼圧下降率は,切替え2週後10.4%,4週後14.5%,8週後11.8%,12週後10.4%,16週後17.1%,20週後15.1%,24週後18.0%であり,2週後の眼圧下降率に比べ4,16,20,24週後では有意に増加した(4,20週後:p<0.05,16,24週後:p<0.01,pairedt-test)(図4).262あたらしい眼科Vol.29,No.2,201220:000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後*:p<0.05vs0日Wilcoxonsigned-ranktest図5結膜充血スコアの分布3.結膜充血BIM切替え前の結膜充血発現症例は67.3%で,スコア1が44.6%を占めていた.BIM切替え2週後では有意に充血が強くなり(p<0.05,Wilcoxonsigned-ranktest),切替え前になかったスコア2の発現もあった.4週後は充血が強い傾向がみられた(p=0.0522)が,8週以降に有意差はなかっ(114)■:充血:異物感■:しみる**スコア症例(%)■:4■:3■:2:02000日2週後4週後8週後12週後16週後20週後24週後Wilcoxonsigned-ranktest12週後24週後図6AD分類スコア(A+D)の分布た(図5).4.角膜上皮障害性BIM切替え24週後までのいずれの観察時点でもスコアの分布に差はなかった(図6).BIM切替え前に角膜上皮障害が認められた11例のうち,BIM切替え後,7例は軽減あるいは消失し,4例は変化がなかった.5.視野と視力BIM切替え前meandeviation(MD値)は.6.61±4.82dB,切替え24週後では.6.16±4.42dBで有意差はなかった.LogMAR視力は,BIM切替え前.0.06±0.08,切替え12週後.0.05±0.09,24週後.0.05±0.08といずれの観察時点でも有意差はなかった.6.患者アンケート(VASスコアと回答)「結膜充血」「異物感」のVASスコアは切替え前,切替え12週後,24週,後のいずれでも差はなかった.「刺激感」のVASスコアは切替え前の0.77±1.41,切替え24週後0.33±0.82と有意に小さかった(図7)(p<0.01,pairedt-test).BIMに切替え前で『眼圧が気にならない』患者は28例(43.1%)で,『ときどき気になる』『いつも気になる』は37例(56.9%)であった.『点眼後に眼からあふれた液を拭きとったり,洗い流している』患者は51例(78.5%)であった.「点眼忘れの頻度」はBIM切替え前,切替え12週後,24週後で『めったに忘れない(多くても2.3回/月くらいしか忘れない)』がそれぞれ95.4%(62/65),96.7%(58/60),94.5%(52/55)であった.「その他気になること」では,『目のまわりが黒くなる』がそれぞれ16.9%(11/65),23.3%(14/60),25.5%(14/55)『睫毛が長くなる』はそれぞれ3.1%(2/65),0%,9.1%/55)であった.24週後で『瞼(5,がくぼんだような気がする』が5.5%(3/55)あった.「点眼のしやすさ」では,切替え前は『点眼しやすい』が18.0%(11/61)『点眼しにくい』が4.9%(3/61)であったが,切替え12週,後では『LATと同じ』66.1%(37/56),『BIMのほうがよい』16.1%(9/56)『LATのほうがよい』17.9%(10/56)であった.切替え12後および24週後に週,図7自覚症状(VAS)の推移『BIMを継続する』はそれぞれ100%(57/57)および94.6%(53/56)であった.7.副作用副作用として報告されたのは5例7眼であった.内容は角膜上皮障害が5眼,結膜充血1眼,眼痛1眼で,いずれも軽度で処置を必要とするものはなかった.III考按LAT単剤またはLATと他剤併用で24週間以上点眼治療を実施し,目標眼圧に達せず眼圧下降が不十分と判断されたPOAG患者で,LATをBIMに切替えた65例65眼について検討した.眼圧下降効果については,BIMに切替えた結果,単剤(34眼)あるいはb遮断薬併用(12眼)のいずれの群も眼圧は有意に低下した.vanderValkら9)のPOAGおよびOH患者を対象とした27の無作為二重盲検比較試験のメタアナリシスでは,LATの眼圧下降率はトラフが.28%,ピークが.31%,BIMはトラフが.28%,ピークが.33%であり,BIMのほうがピーク時では眼圧下降率は大きかった.同様にAptelら10)のPOAGおよびOH患者1,610人を対象としたメタアナリシスでは,BIMの眼圧下降値はLATより8:00,12:00,16:00,20:00のいずれの測定時刻でも有意に高かった.今回の試験はこれらの試験と異なり,LAT効果不十分例に対しての切替えであるが,各観察時点で有意な眼圧下降を得られた.これはLATがプロスタノイド受容体に作用するのに対し,BIMはプロスタマイド受容体に作用していることが要因の一つと推測される2).このことからLAT効果不十分例においてLATからBIMへの切替えは有効な選択肢の一つと考えられる.また,本試験ではBIMに切替え後,眼圧下降率は時間の経過とともに増加し,16週以降で安定すると考えられた.以上の結果は,BIM切替えの効果は,切替え早期では判定できないことを示唆している.結膜充血は,BIMに切替え前に0%であったスコア2が2(115)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012263週後では6.8%と増加した.切替え前32.3%であったスコア0が2週後では18.6%と減少した.その結果,2週後の結膜充血スコアは切替え前に比べ有意に増加した.しかし,4週後から24週後までは切替え前と有意差はなく,長期投与に伴って結膜充血が重症化することはなかった.VASスコアでもBIM投与12週後および24週後で,いずれも切替え前と差はなかったことから,BIMは点眼2週前後は結膜充血の程度が強いが,4週以降はLATと同程度と考えられた.PG系点眼薬の結膜充血は,いずれの薬剤も使用早期に発現し,長期使用による増加または増悪は少ないことから11.13),BIMも他剤と同様の推移を示したものと推測される.角膜上皮障害はBIM切替え前と切替え24週後までいずれの時点でも差はなかった.BIM投与中に5眼で副作用として角膜上皮障害が発現したが,いずれも軽度で中止した症例はなかった.BIMに切替え前に角膜上皮障害が発現していた11眼中4眼はBIM切替え24週後も変化がなかったが,7眼は角膜上皮障害が軽減あるいは消失した.これについて福田らは家兎角膜障害性の基礎的な検討14)で,BIMの角膜上皮障害性はLATより低く,その要因は添加剤によるものではないかと推測している.また,「刺激感」のVASスコアは切替え24週後で有意に低かった.これらのことから,BIMの角膜障害性や刺激性はLATより低いと考えられ,両剤のpH(LAT:6.5.6.9,BIM:6.9.7.5)やベンザルコニウム塩化物の濃度(LAT:0.02%,BIM:0.005%)の違いが反映されたものである可能性が考えられる.試験期間中のコンプライアンスは,患者のアンケートにおいて「点眼忘れの頻度」は試験を通じてほとんどが『めったに忘れない』と回答し,『週1,2回忘れる』が数例であったことから,良好であると考えられた.「点眼のしやすさ」では『LATのほうが良い』が17.9%,『BIMのほうが良い』は16.1%であったが,切替え24週後でBIMから他の薬剤に変えたいとの回答は3例(5.3%)だけであった.変更希望の理由は『LATのほうが良い』,『薬剤数を減らしたい』『眼のまわりが黒くなる』であった.継続希望例(94.6%)では,『,点眼瓶が使いやすい』,『しみない』など積極的な理由もあったが,『切替えにより特に問題はなかった』との理由が最も多く,患者使用感については両剤に差はないものと考えられた.副作用として角膜上皮障害や結膜充血が5例7眼に認められたが,いずれも軽微であった.以上の結果から,LATで眼圧下降が不十分な緑内障患者には,PG系薬以外の薬剤の追加をする前にまずはBIMに切替える方法が患者の利便性や医療経済の面から勧められる.さらに,今回の試験の患者にも含まれていると思われるLATのノンレスポンダーに対し,結膜充血や角膜障害性などの安全性を考慮しても眼圧下降効果がより強いBIMを第一選択薬にしても問題ないと考えられた.ただし,今回の試験では発現は認められなかったが,色素沈着,睫毛伸長,眼瞼陥凹などの副作用も報告されていることから15.18),患者にも本剤のメリットとデメリットを十分理解させてアドヒアランスを高めていく必要がある.本稿の要旨は,第21回日本緑内障学会において発表した.文献1)LeeAJ,McCluskeyP:Clinicalutilityanddi.erentiale.ectsofprostaglandinanalogsinthemanagementofraisedintraocularpressureandocularhypertension.ClinOphthalmol4:741-764,20102)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:Identi.cationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,20083)Gandol.SA,CiminoL:E.ectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,20034)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20065)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpres-sure-loweringe.cacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOph-thalmol135:55-63,20036)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20107)KanamotoT,KiuchiY,SuehiroT:E.cacyandsafetyoftopicaltravoprostwithsofZiapreservativeforJapaneseglaucomapatients.HiroshimaJMedSci59:71-75,20108)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuper.cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20039)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200510)AptelF,CucheratM,DenisPetal:E.cacyandtolera-bilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofran-domizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200811)AlagozG,BayerA,BoranCetal:Comparisonofocularsurfacesidee.ectsoftopicaltravoprostandbimatoprost.Ophthalmologica222:161-167,2008264あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(116)12)AbelsonMB,MrozM,RosnerSAetal:Multicenter,open-labelevaluationofhyperemiaassociatedwithuseofbimatoprostinadultswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTher20:1-13,200313)相原一:プロスタグランジン関連眼圧下降薬の選択.日本の眼科81:1025-1026,201014)福田正道,佐々木洋,高橋信夫ほか:角膜抵抗測定装置によるプロスタグランジン関連点眼薬の角膜障害の評価.あたらしい眼科27:1581-1585,201015)CentofantiM,OddoneF,ChimentiSetal:Preventionofdermatologicsidee.ectsofbimatoprost0.03%topicaltherapy.AmJOphthalmol142:1059-1060,200616)SharpeED,ReynoldsAC,SkutaGLetal:Theclinicalimpactandincidenceofperiocularpigmentationassociat-edwitheitherlatanoprostorbimatoprosttherapy.CurrEyeRes32:1037-1043,200717)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200918)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy─anunfamiliarsidee.ectofprostaglandinanalogues.Orbit29:357-359,2010***(117)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012265

正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)1043《原著》あたらしい眼科28(7):1043?1046,2011cはじめに2000年?2001年にかけて岐阜県多治見市で行われた緑内障疫学調査(多治見スタディ)では,日本においては正常眼圧緑内障の頻度が高いことが判明した1).現在緑内障治療として唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降で,正常眼圧緑内障に対しても有用性が示されている2).眼圧下降のために通常は緑内障点眼薬による治療が第一選択であり,近年は眼圧下降作用の強力なプロスタグランジン関連薬が緑内障点眼薬の主流となっている.2008年12月に新たなプロスタグランジン関連点眼薬0.0015%タフルプロスト点眼薬(タプロスR)が発売された.原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対してタフルプロスト点眼薬の良好な眼圧下降効果が報告されている3?6).しかし,日本人に多い正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果については十分な調査が行われていない7,8).今回,この新しいタフルプロスト点眼薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧下降効果と安全性を検討した.〔別刷請求先〕岡田二葉:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:FutabaOkada,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性岡田二葉*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEffectsandSafetyofTafluprostinNormal-TensionGlaucomaFutabaOkada1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性を調べた.対象および方法:2009年1月?11月に井上眼科病院を受診した正常眼圧緑内障患者44例44眼を対象とした.タフルプロスト点眼薬(夜1回点眼)を処方し,点眼前,点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧を測定し比較した.さらに点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出し比較した.また,副作用を来院ごとに調査した.結果:眼圧は点眼前15.9±2.2mmHg,点眼1カ月後13.5±2.0mmHg,3カ月後13.2±1.6mmHg,6カ月後13.3±1.5mmHgで,点眼後有意に下降した(p<0.01).眼圧下降幅,眼圧下降率は点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後で同等であった.充血・乾燥感で1例,掻痒感で1例が点眼中止となった.結論:タフルプロスト点眼薬は正常眼圧緑内障に対して6カ月間にわたり眼圧を有意に下降させ,95%の症例で安全に使用できた.Purpose:Toinvestigatetheocularhypotensiveeffectsandsafetyoftafluprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.Methods:Tafluprostwasadministeredto44patientswithnormal-tensionglaucoma.Intraocularpressure(IOP),differenceinIOPreduction,IOPreductionrateandadversereactionswereprospectivelycheckedandcomparedmonthlyfor6months.Results:TheaverageIOPwas15.9±2.2mmHgbeforeadministration,13.5±2.0mmHgat1monthofuse,13.2±1.6mmHgat3monthsand13.3±1.5mmHgat6months.TheseresultsshowedsignificantlydecreasedIOPat1,3and6monthsaftertherapy.Twopatients(5%)discontinuedtreatmentbecauseofadverseevents;oneshowedconjunctivalhyperemiaandfeltdryness,andonefeltslightitching.Conclusion:Inpatientswithnormal-tensionglaucoma,tafluprostexhibitsstrongocularhypotensiveeffectsandsafetyfor6months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1043?1046,2011〕Keywords:タフルプロスト,正常眼圧緑内障,眼圧,副作用.tafluprost,normal-tensionglaucoma,intraocularpressure,adversereaction.1044あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(140)I対象および方法2009年1月?11月に井上眼科病院を受診し,タフルプロスト点眼薬を処方し,6カ月間以上の経過観察が可能であった正常眼圧緑内障患者44例44眼(男性24例,女性20例)を対象とした.年齢は56.7±11.6歳(平均±標準偏差)(32?81歳),等価球面度数は?4.8±4.7D(?19.0?+1.25D),Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Standardのmeandeviation値は?6.7±6.0dB(?20.4?1.6dB)であった.タフルプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)を単剤で処方し,点眼前,点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後に眼圧を同一検者がGoldmann圧平眼圧計で症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した〔ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)解析〕.点眼1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,比較した(対応のあるt検定).片眼のみ点眼例はその片眼を,両眼点眼例は点眼前の眼圧が高い眼を選択した.来院時ごとに副作用を調査した.副作用出現により点眼中止となった症例は眼圧の解析からは除外した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得て,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.II結果眼圧は点眼前15.9±2.2mmHg(n=42),点眼1カ月後13.5±2.0mmHg(n=42),3カ月後13.2±1.6mmHg(n=42),6カ月後13.3±1.5mmHg(n=42)であった(図1).点眼前と比較して点眼6カ月後まで有意に下降した(p<0.01).眼圧下降幅は点眼1カ月後2.4±1.6mmHg,3カ月後2.6±1.9mmHg,6カ月後2.6±2.9mmHgで同等であった(図2).眼圧下降率は点眼1カ月後14.8±9.3%,3カ月後15.7±11.1%,6カ月後13.3±10.6%で同等であった(図3).さらに点眼6カ月後における眼圧下降率が30%以上の症例は4例(9.0%),20%以上30%未満の症例は6例(13.6%)であった.逆に,点眼開始後に眼圧下降率が10%未満であったノンレスポンダーは1カ月後13例(29.5%),3カ月後9例(20.5%),6カ月後13例(29.5%)であった.副作用により2例(4.5%)が点眼1カ月後に点眼中止となった.その内訳は,充血・乾燥感が1例,掻痒感が1例であった.点眼中止後にこれらの症状は消失した.この2例は眼圧の解析からは除外した.III考按筆者らはタフルプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,ラタノプロスト点眼薬を原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者に投与した際の眼圧下降効果をレトロスペクティブに調査した3).タフルプロスト点眼薬の点眼1カ月後,3カ月後の眼圧下降幅および眼圧下降率はそれぞれ4.2±3.1mmHg,4.3±2.5mmHgと21.4±10.2%,22.8±9.9%で,トラボプロスト点眼薬,ラタノプロスト点眼薬と同等であった.Traversoらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,高眼圧症にタフルプロスト点眼薬を6週間投与したところ,点眼前眼圧24.79?26.66mmHgに対して眼圧下降幅は7.53?9.69mmHg,眼圧下降率は29.2?35.9%であったと報告した4).Hommerらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,高眼圧症などにタフルプロスト点眼薬を12週間投与したところ,点眼前眼圧22.1±4.0mmHgに対して12週間後は15.0±2.9mmHgで,平均眼圧下降率は32.1%であったと報告した5).Uusitaloらは原発開放隅角緑内障,落屑緑内障,色素緑内障,高眼圧症にタフルプロスト点眼薬を24カ月間投与したところ,眼圧下降幅は7.1mmHg,眼圧下降率は29.1%であ20181614121086420点眼前点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧(mmHg)***図1点眼前後の眼圧(*p<0.01,ANOVA)6543210点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧下降幅(mmHg)図2眼圧下降幅302520151050点眼1カ月後点眼3カ月後点眼6カ月後眼圧下降率(%)図3眼圧下降率(141)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111045ったと報告した6).これらの報告3?6)の眼圧下降幅および眼圧下降率は今回より強力であったが,その理由として今回は正常眼圧緑内障が対象で点眼前眼圧が低かったためと考えられる.一方,Mochizukiらは点眼前眼圧11.8±2.2mmHgの健常人にタフルプロスト点眼薬を7日間投与したところ,眼圧下降幅は1.9mmHg,眼圧下降率は16.3%であったと報告した9).タフルプロスト点眼薬の国内での第III相臨床試験では,正常眼圧緑内障に4週間投与したところ,眼圧下降幅は4.0±1.7mmHg,眼圧下降率は22.4±9.9%であった7).今回より眼圧下降幅および眼圧下降率が強力であったが,その理由として点眼前眼圧が16mmHg以上の症例が対象で,点眼前眼圧(17.7±1.3mmHg)が今回(15.9±2.2mmHg)より高かったためと考えられる.宮川らは正常眼圧緑内障にタフルプロスト点眼薬を12週間投与したところ,点眼前眼圧15.2±1.8mmHgから2.7±1.7mmHg下降し,眼圧下降率は18.6%であったと報告した8).正常眼圧緑内障に対して眼圧下降率20%以上の症例の割合は50.0%8),62.5%7),30%以上の症例は6.7%8),25.0%7)と報告されており,今回のそれぞれ22.6%と9.0%はやや不良だったが,その原因は不明である.他のプロスタグランジン関連薬の正常眼圧緑内障に対する眼圧下降率はラタノプロスト点眼薬は10.6%10),20%11),ビマトプロスト点眼薬は19.9%12),トラボプロスト点眼薬は15.5?18.4%13),25.1%14)と報告されている.今回のタフルプロスト点眼薬(13.3?15.7%)とラタノプロスト点眼薬10,11)とはほぼ同等だが,ビマトプロスト点眼薬12),トラボプロスト点眼薬13,14)のほうが強力であった.その理由として点眼薬の眼圧下降力の差,点眼前眼圧の差,人種の違い,盲検化されていないこと,対照群がないこと,コンプライアンスが評価できなかったことなどが考えられる.点眼薬に眼圧下降を得られないノンレスポンダーが存在する.正常眼圧緑内障患者を対象としたラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度は約30%であり16,17),今回のタフルプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度(20.5?29.5%)とほぼ同等であった.今回,副作用により点眼を中止した症例は4.5%(2例/44例)で,いずれも点眼中止により症状は消失し,後遺症もなかった.国内の第III相臨床試験における副作用による点眼中止例は充血・眼瞼炎による1例/49例(2%)のみで,この1例は点眼を中止し,副腎皮質ステロイド薬を投与したところ症状が消失した7).副作用により点眼中止となった症例は,ラタノプロスト点眼薬では0%12),12.4%15),ビマトプロスト点眼薬では15%12),25%15),トラボプロスト点眼薬では6.1%13),11.1%14),16.3%15)と報告されている.過去の報告12?15)と比較するとタフルプロスト点眼薬は他のプロスタグランジン関連薬と比べて同等,あるいはそれ以上の安全性を有する可能性がある.タフルプロスト点眼薬は正常眼圧緑内障患者に対して,6カ月間にわたり強力な眼圧下降効果を示し,安全性もほぼ良好であった.しかし今回の調査は6カ月間投与という短期間であり,今後はさらに長期的な調査が必要と考える.文献1)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20082)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19983)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科27:383-386,20104)TraversoCE,RopoA,PapadiaMetal:AphaseIIstudyonthedurationandstabilityoftheintraocularpressureloweringeffectandtolerabilityoftafluprostcomparedwithlatanoprost.JOculPharmacolTher26:97-104,20105)HommerA,RamezOM,BurchertMetal:IOP-loweringefficacyandtolerabilityofpreservative-freetafluprost0.0015%amongpatientswithocularhypertensionorglaucoma.CurrMedResOpin26:1905-1913,20106)UusitaloH,PillunatLE,RopoAetal:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,20107)桑山泰明,米虫節夫;タフルプロスト共同試験グループ:正常眼圧緑内障を対象とした0.0015%タフルプロストの眼圧下降効果に関するプラセボを対照とした多施設共同無作為化二重盲検第III相臨床試験.日眼会誌114:436-443,20108)宮川靖博,山崎仁志,中澤満:タフルプロスト片眼トライアルによる短期眼圧下降効果.あたらしい眼科27:967-969,20109)MochizukiH,ItakuraH,YokoyamaTetal:Twentyfour-hourocularhypotensiveeffectsof0.0015%tafluprostand0.005%latanoprostinhealthysubjects.JpnJOphthalmol54:286-290,201010)中元兼二,南野麻美,紀平弥生ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト点眼前後の眼圧および視神経乳頭の変化.あたらしい眼科18:1417-1419,200111)ChengJW,CaiJP,WeiRL:Meta-analysisofmedicalinterventionfornormaltensionglaucoma.Ophthalmology116:1243-1249,200912)DirksMS,NoeckerRJ,EarlMetal:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.AdvTher23:385-394,200613)長島佐知子,井上賢治,塩川美奈子ほか:正常眼圧緑内障1046あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(142)におけるトラボプロスト点眼薬の効果.臨眼64:911-914,201014)SuhMH,ParkKH,KimDM:Effectoftravoprostonintraocularpressureduring12monthsoftreatmentfornormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol53:18-23,200915)RahmanMQ,MontgomeryDMI,LazaridouMN:SurveillanceofglaucomamedicaltherapyinaGlasgowteachinghospital:26years’experience.BrJOphthalmol93:1572-1575,200916)中元兼二,安田典子:正常眼圧緑内障のラタノプロスト・ノンレスポンダーにおけるカルテオロールの変更治療薬および併用治療薬としての有用性.臨眼64:61-65,201017)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,2004***

塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)563《原著》あたらしい眼科28(4):563.567,2011cはじめに現在,緑内障の第一選択薬であるプロスタグランジン(PG)関連薬は,強力な眼圧下降効果を示し,かつ全身副作用が少ない1).しかし,結膜充血,虹彩・眼瞼色素沈着,睫毛異常などのPG関連薬特有の眼局所副作用2)が懸念される.トラボプロスト点眼薬は,PG関連薬の一つであり,眼圧下降効果に密接に関連していると考えられるFP受容体に選択的なフルアゴニストである3).日本で承認されたトラボプラスト点眼薬は,ベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)を含まず,防腐剤としてsofZiaTMを含有し〔別刷請求先〕比嘉利沙子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RisakoHiga,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼薬の球結膜充血比嘉利沙子*1井上賢治*1塩川美菜子*1菅原道孝*1増本美枝子*1若倉雅登*1相原一*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*3東邦大学医学部眼科学第二講座ConjunctivalHyperemiaafterTreatmentwithBAC-FreeTravoprostOphthalmicSolutionRisakoHiga1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MichitakaSugahara1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1),MakotoAihara2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAC)非含有トラボプラスト点眼薬を新規処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼を対象とした.BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血について調査した.BAC非含有トラボプロスト点眼薬は,1日1回点眼し,点眼開始前と点眼1カ月後に撮影した耳側球結膜のスリット写真より,結膜充血の発現率と程度を評価した.結膜充血の程度は,独自に作成した基準写真の6段階グレード分類で,変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であり,2段階以上の顕著な充血増強は全体の19%であった.自記式質問調査による自覚的評価では,2週間まで29例(49%)が結膜充血を自覚したが,最終的には19例(32%)が持続して自覚した.6段階評価によるBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血増強は42例(70%)に認めたが,増強例の74%は1段階の軽微な変化であり,点眼継続に支障をきたすことはなかった.Thisstudyinvolved60eyesof60Japanesenormal-tensionglaucomapatientstreatedwithtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC)atInouyeEyeHospitalbetweenApril2008andFebruary2009.Theconjunctivalhyperemiaofeachpatientwasgradedandassessedfromphotographsofthetemporalconjunctivatakenbothbeforeandat1monthaftertreatment.Findingsshowedconjunctivalhyperemiainvariousdegreesofchangebetweenpre-andpost-treatment.Hyperemiawithnochangewasseenin18cases(30%),onedegreeofchangein31cases(51%),twodegreesofchangein10cases(17%)andthreedegreesofchangein1case(2%).Patients’self-assessmentfoundconjunctivalhyperemiain29cases(49%).Althoughconjunctivalhyperemiaincreasewasfoundin42cases(70%),mostofsuchincreasesweremild;nocasesrequireddiscontinuationoftreatmentbytravoprostwithoutBAC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):563.567,2011〕Keywords:トラボプロスト点眼薬,副作用,結膜充血,正常眼圧緑内障,プロスタグランジン関連薬.travoprost,adversereaction,conjunctivalhyperemia,normal-tensionglaucoma,prostaglandinanalogs.564あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(108)ている.結膜充血は,トラボプロスト点眼薬の最も頻度の高い眼局所副作用であり4~10),アドヒアランスを左右する要素である.しかし,これまで,日本人を対象としたBAC非含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率や程度については,十分な検証は行われていない.そこで,筆者らは眼局所作用のなかでも結膜充血に着眼し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬による結膜充血の客観的評価を試みた.I対象および方法2008年4月から2009年2月に,井上眼科病院でBAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液,日本アルコン)を新規に処方した正常眼圧緑内障患者60例60眼(男性23例,女性37例)を対象とした.年齢(平均値±標準偏差値)は55.1±13.2歳(28~83歳),観察期間は31.8±5.8日(22~48日)であった.正常眼圧緑内障の診断基準は,①日内変動を含む複数回の眼圧測定で眼圧が21mmHg以下であり,②視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障に特有な形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,③それに対応する視野異常が高い信頼性と再現性をもって検出され,④視野異常の原因となりうる他の眼疾患や先天異常がなく,⑤さらに隅角鏡検査で両眼正常開放隅角を示すものとした.両眼点眼例では,右眼を解析眼とした.緑内障患者60名に,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を,1日1回,夕方以降就寝前の同一時間帯に点眼し,1カ月後の来院まで継続使用することを指示した.他覚的評価は写真判定とし,点眼開始前に140万画素CCD(KD-140C,興和)を搭載したフォトスリットランプ(SC-1200,興和)で,耳側球結膜を一定照度,30°方向からのスリット照明下で撮影した.1カ月後は,点眼開始前の写真と比較をせずに条件のみを統一し撮影した.写真撮影は,熟練した写真撮影技師3名が行った.写真判定に際しては,点眼前後のペア写真を提示して行った.その際,点眼した事実が認識されるため点眼後の充血スコアが高く評価されるというバイアスがかかることが十分考えられる.そのため,意図的に未点眼群の1カ月おいて撮影した写真2枚をコントロールとして緑内障患者群の点眼前後の写真に混在させることで,点眼の有無にかかわらず充血スコアを正当に評価できるよう努めた.そのためのコントロール群は,井上眼科病院職員よりコンタクトレンズ未使用,点眼薬未使用,眼疾患および眼合併症の可能性のある全身疾患の既往がないことを条件に有志を募り,屈折異常以外に器質的眼疾患がないことが確認された5名5眼(男性2例,女性3例)とした.年齢は40.1±15.1歳(24~64歳),右眼を解析眼とした.結膜充血スコア分類および判定方法結膜充血を評価するために独自に6段階のグレード分類基準写真を作成した(図1).眼疾患を有しない健常人ボランティア30名に対し,BAC非含有トラボプロスト点眼薬を1回点眼することにより惹起される耳側結膜充血をスリットランプにより撮影した.耳側30°方向からの撮影を,9時点眼充血なしグレード1グレード2グレード3グレード4グレード5グレード0図1結膜充血のグレード分類独自に作成した6段階のグレード分類を基準写真として用いた.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011565直前,および点眼後1,2,3,6,12時間にわたり6回撮影し,最も充血が顕著であった症例を基準として採用し,充血スコア0から5までの6段階にスコア化した.この基準写真を元に,写真判定は,該当患者を診察したことのない3名の眼科専門医が個別に行った.判定医には,画像ファイリングシステム(VK-2,興和)より印刷した写真に,症例別に点眼前後のみを表記したペア写真で提示した.さらに判定には,未点眼のコントロール群の1カ月おいて撮影したペア写真をランダムに混入させた.結膜充血の程度は,基準写真を用いたグレード分類によるスコア差(1カ月後.点眼前)が,判定医2名が一致した評価を採用し,一致しなかった場合,第3の判定医の判断により評価を決定した.自記式質問調査方法点眼開始から1カ月後の再来院時に,アドヒアランスに問題がなかったことを問診で確認のうえ,検査員より自記式質問調査表(表1)を患者に配布した.問1の設問に対しては,1時間単位で記載し,問2から4の設問に対しては,回答肢より選択した結果を自己記入後,診察前に検査員が回収した.判定医間のスコア値はKruskal-Wallis検定およびk係数,点眼前と1カ月後のスコア値はWilcoxon符号付順位検定を用い,統計学的解析を行った.有意水準をp<0.05とした.本臨床研究は,井上眼科病院倫理審査委員会で承認後,文書による同意を得て実施した.II結果緑内障患者60名に1カ月間BAC非含有トラボプロスト点眼薬を点眼したところ,副作用や未来院による脱落症例はなかった.1.他覚的評価緑内障患者60名に対する判定医3名の合計充血スコア値は,点眼前は57,51,51(スコア平均値53),点眼1カ月後は合計103,121,105(スコア平均値110)であり,判定医間に有意差を認めなかった(Kruskal-Wallis検定p=0.57,0.21).k係数は,点眼前0.51,点眼1カ月後0.51であった.点眼前と1カ月後のスコア値は,それぞれ有意差を認めた(p<0.0001,Wilcoxon符号付順位検定).結膜充血の程度は,基準写真のグレード分類で変化なし18例(30%),1段階変化31例(51%),2段階変化10例(17%),3段階変化1例(2%)であった.変化のあった42例中31例(74%)は,基準写真を用いたグレード分類で,1段階変化と軽微な変化であった(図2).程度分類については,判定医2名とも不一致な症例はなかった.コントロール症例の結膜充血の変化はなかった.2.自覚的評価点眼薬のアドヒアランスは全例良好で,自記式質問調査の回収率は100%であった.点眼時間は,20時前が10例(17%),20時以降22時前が13例(22%),22時以降24時前が33例(55%),24時以降が4例(6%)であった.表1自記式質問調査表問1:毎日,何時ごろに点眼をしましたか?問2:点眼をはじめてから,今までに充血が気になることはありましたか?①気になることはなかった②はじめは気になったが,今は気にならない③少し気になる④気になる⑤かなり気になる問3:問2の②を選択した方にお伺いします.充血が気になっていた期間は,どれくらいですか?①3日目まで②1週間目まで③2週間まで④1カ月まで問4:問2の③④⑤を選択した方にお伺いします.充血が気になった時間は,点眼後どれくらいですか?①約2時間②翌朝まで③それ以上点眼後の充血について10例(17%)10例(17%)気になる時間2時間まで2例翌朝まで10例それ以上7例気になっていた期間3日まで6例1週間まで2例2週間まで2例気にならない31例(51%)はじめだけ気になったかなり気になる4例(7%)気になる5例(8%)少し気になる図3結膜充血の自覚的評価変化なし30%(18例)1段階変化51%(31例)2段階変化17%(10例)3段階変化2%(1例)図2結膜充血の程度基準写真を用いたグレード分類を基に評価した.566あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(110)自記式質問調査では,結膜充血について,31例(51%)は「気にならない」と回答した(図3).つぎに「はじめだけ気になった」症例が10例(17%)を占めたが,全例2週間までに気にならなくなった.したがって,期間終了時では41例(68%)が「気にならない」と評価した.一方,観察期間終了時点でも「気になる」症例は19例(32%)であった.内訳は図3のとおり,半数以上が「少し気になる」10例(全体の17%)であり,明らかに「気になる」症例は9例(15%)であった.結膜充血の自覚と他覚的評価の対応を表2に示す.自覚的に「気にならない」と回答した31例中6例は他覚的評価では基準写真によるグレード分類で2段階以上の変化であり,「気になる」,「かなり気になる」と回答した9例中5例は他覚的には変化なしであり,自覚と他覚的評価には解離があった(表2).III考按本試験では,BAC非含有トラボプロスト点眼液により1カ月の連続点眼後70%の症例で充血が増強したが,そのうち74%(全体の51%)は1段階の軽微な増強であった.全体の19%で2段階以上の充血スコアの増強を認めた.自覚的には51%が充血を気にならないと評価したが,約半数は充血を気にしていることになった.本調査では,結膜充血を客観的に評価するため,①写真判定,②複数医師による同時判定,③基準スケールには画像採用,④患者背景は非公開,⑤判定には非点眼の正常眼を含むなどの工夫を行った.しかし,最終点眼から写真撮影時間が統一されていないことや,同一眼で異なった日時で評価の再現性を確認していないこと,など評価方法の課題が残ることは否めない.PG関連薬の副作用の大部分は充血である.特に,ラタノプロスト以降発売されたPG関連薬,トラボプロスト,ビマトプロスト,タフルプロストのほうが,充血が強いと報告されている11,12).ところが,結膜表面に及ぼす副作用のメカニズムについては,これまで明らかにされていない.しかも点眼薬製剤では主剤と基剤の両面から副作用を考える必要がある.主剤であるPG関連薬はFP受容体刺激により眼圧下降効果を惹起する13)が,そのFP受容体に対する直接刺激が血管拡張を起こす可能性と,FP受容体刺激により内因性のPGが産生されることで二次的に血管拡張を起こす可能性がある14).眼表面ではPG関連薬は基本的にプロドラッグであるはずであるが,プロドラッグのままのトラボプロストとその代謝されて活性型となったトラボプロスト酸型が,どの程度結膜血管に作用するかは,今後の検討を要する課題である.また,今回BAC非含有トラボプロスト点眼薬(トラバタンズR0.004%点眼液)を用いたが,他のPG関連薬についても,同判定方法で結膜充血の発現率を評価し比較検討する必要がある.一方,点眼薬は基剤としてさまざまな薬剤が混入されている.特に防腐剤であるBACは,易水溶性,室温での長期安定性,広域な抗菌性,強力な抗菌力を有することなどから,点眼薬に広く用いられているが,一方では,細胞毒性による角膜上皮障害やアレルギー反応など眼表面にさまざまな障害をひき起こすことが問題視されてきた15).この主剤と基剤の面からみると,過去の文献ではBAC含有量が等しい0.0015%と0.004%のトラボプロスト点眼薬の結膜充血の発現率は38.0%と49.5%であった4).Lewisら10)は,BAC含有とBAC非含有トラボプロスト点眼薬を比較し,結膜充血は9.0%と6.4%,角膜上皮障害は1.2%と0.3%にみられたことを報告している.安全性については,同等であったと結論付けているが,BAC非含有トラボプロスト点眼薬が結膜充血,角膜上皮障害ともに発現率が少ない傾向にあった.このことから,過去のBAC含有トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は,主剤のトラボプロスト濃度依存性とともにBACの影響と捉えられることができる.トラボプロスト点眼薬の結膜充血発現率は6.3~58.0%と報告4~10)され(表3),対象(人種差,年齢)や研究デザイン(BAC含有の有無,判定方法)などの違いにより単純に比較することはできないが,本試験はBAC非含有トラボプロストにもかかわらず,70%で充血表3トラボプロスト点眼薬による結膜充血の発現率報告者報告年濃度(%)防腐剤(BAC)症例数(眼)発現率(%)Netland4)20010.0015+20538.00.004+20049.5Parrish5)20030.004+13858.0Parmaksiz6)20060.004+1838.9Chen7)20060.004+3713.5Garcia-Feijoo8)20060.004+326.3Konstas9)20070.004+4038.0Lewis10)20070.004+3399.00.004.3226.4表2結膜充血の自覚と他覚的評価の比較自覚的評価他覚的評価変化計なし1段階変化2段階変化3段階変化気にならない9165131はじめのみ280010少し気になる262010気になる40105かなり気になる11204計183110160他覚的評価は基準写真を用いたグレード分類からの変化を示す.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011567スコアが増加した.しかし不変であった例も含めた全体の51%が1段階の変化であり,臨床的に問題となる変化ではないと考える.19%は2段階以上の変化であり,これは明らかな充血増強と捉えることができる.この充血スコア変化と過去の充血の出現率の直接の比較は困難であるが,少なくともBAC非含有トラボプロスト点眼薬であるため,純粋にトラボプロストの副作用として評価できよう.本試験での充血変化が高かった理由としては,基準となるグレード分類を6段階とかなり詳細なものを用いたため,微細な変化も捉えた結果と考えた.他覚的評価と自覚的評価が一致しなかったことについては,処方時に結膜充血を含む眼局所副作用について統一した説明を行ったが,説明を受けたため気にならなかった患者と逆に意識的に自己チェックした患者の個性が反映された結果と考えた.このような臨床試験への参加は患者の意識を過剰にさせる可能性があり,通常臨床投与の際はこの副作用頻度より少ない可能性もある.本試験では1カ月点眼であったが,長期投与での変化については今後の検討を要する.本試験中は,副作用による脱落はなかったが,臨床的には約半数が自覚的に充血を気にすることを考えると,トラボプロストに限らず,PG関連薬の共通の副作用である充血に対して,投与の際には十分留意させるとともに眼圧下降の重要性を指導することで脱落を防ぎ,アドヒアランスを保つことが重要である.本論文の要旨は,第113回日本眼科学会総会で報告した.文献1)WatsonP,StjernschantzJ,theLatanoprostStudyGroup:Asix-month,randomized,double-maskedstudycomparinglatanoprostwithtimololinopen-angleglaucomaandocularhypertension.Ophthalmology103:126-137,19962)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,20063)HellbergMR,SalleeVL,McLaughlinMAetal:Preclinicalefficacyoftravoprost,apotentandselectiveFPprostaglandinreceptoragonist.JOclPharmcolTher17:421-432,20014)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)ParmaksizS,YukselN,KarabasVLetal:Acomparisonoftravoprost,latanoprost,andthefixedcombinationofdorzolamideandtimololinpatientswithpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmol16:73-80,20067)ChenMJ,ChenYC,ChouCKetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprostandtravoprostonintraocularpressureinchronicangle-glaucoma.JOculPharmacolTher22:449-454,20068)Garcia-FeijooJ,delaCasaJM,CastilloAetal:CircatianIOP-loweringefficacyoftravoprost0.004%ophthalmicsolutioncomparedtolatanoprost0.005%.CurrMedResOpin22:1689-1697,20069)KonstasAG,KozobolisVP,KatsimprisIEetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostversustravoprostinexfoliativeglaucomapatients.Ophthalmology114:653-657,200710)LewisRA,KatzGL,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,200711)StewartWC,KolkerAE,StewartJAetal:Conjunctivalhyperemiainhealthysubjectsaftershort-termdosingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprost.AmJOphth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