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塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼による眼局所副作用の検討

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)1429《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1429.1434,2010c〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼による眼局所副作用の検討塩川美菜子*1井上賢治*1比嘉利沙子*1増本美枝子*1菅原道孝*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座AdverseReactionafterUseofBenzalkoniumChloride-freeTravoprost0.004%inJapaneseGlaucomaorOcularHypertensionPatientsMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),RisakoHiga1),MiekoMasumoto1),MichitakaSugawara1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロスト点眼の長期点眼による副作用出現頻度を検討した.さらに患者のアンケート調査を行い患者の副作用に対する認容性を検討した.対象および方法:トラボプロストを新規,追加処方し,6カ月以上経過観察が可能であった緑内障あるいは高眼圧症患者62例を対象とした.トラボプロスト点眼前と点眼6カ月後に開瞼時,閉瞼時,虹彩を前眼部フォトスリットで撮影した.眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,睫毛変化(睫毛延長,剛毛化),眼瞼多毛の有無を写真から他覚的に判定し副作用出現頻度を検討した.アンケート調査により自覚的評価も検討した.結果:写真判定では睫毛延長が34.5%,睫毛剛毛化が17.2%,眼瞼多毛が58.6%,眼瞼色素沈着が3.5%,虹彩色素沈着が37.9%に出現した.眼瞼色素沈着の頻度は他の副作用と比較して有意に低い値であった.他覚的評価と自覚的評価は必ずしも一致しなかった.結論:BAC非含有トラボプロストにより副作用出現がみられたが,点眼中断例はなく患者の認容性は比較的良好であった.Purpose:Weprospectivelyinvestigatedadversereactionstotheuseoftravoprostbenzalkoniumchloride-free0.004%inJapaneseglaucomaorocularhypertensionpatients.Wealsoexaminedpatientacceptanceofadversereactionsviaquestionnaire.SubjectsandMethods:Subjectscomprised62Japanesepatientswithglaucomaorocularhypertension.Iridial,eyelidandeyelashphotographsweretakenbeforeandat6monthsafterbenzalkoniumchloride-freetravoprost0.004%treatment.Increaseineyelidpigmentation,iridialpigmentation,eyelashpigmentation,vellushairoflid,andhypertrichosiswereassessedfromthephotographs.Thecorrelationswereassessedbetweentheincidenceoftheseadversereactionsandthetimeofinstillation.Questionnairesweresenttoandfilledoutbypatients,theconsciousnesswereexamined.Results:Increasewasfoundineyelidpigmentation(3.5%),irispigmentation(37.9%),eyelashpigmentation(34.5%),vellushairoflid(17.2%),andhypertrichosis(58.6%).Increasedeyelidpigmentationwasnotfrequentlyobserved(p<0.0001).Conclusions:Adversereactionscausedbybenzalkoniumchloride-freetravoprost0.004%appeardineyelids,eyelashes,andiris.Thepatients’acceptanceoftheadversereactionswasgood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1429.1434,2010〕Keywords:塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト,副作用,眼瞼色素沈着,眼瞼多毛,睫毛延長・剛毛,虹彩色素沈着.travoprostbenzalkoniumchloride-free,adversereaction,lidpigmentation,lidhypertrichosis,irispigmentation.1430あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(108)はじめにプロスト系プロスタグランジン関連薬としてわが国において初めて1999年にラタノプロストが認可を受けて以来10年以上が経過した.この間にラタノプロストはその強力な眼圧下降効果と全身への副作用がないことから日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン1)においてbブロッカーとならび緑内障薬物治療における第一選択薬と記載されている.2008年に中井,塩川らが行った多施設における緑内障患者実態調査においてもラタノプロスト使用患者が最も多かったとの報告がなされている2,3).しかし,ここ数年新たなプロスタグランジン関連薬が相次ぎわが国においても使用可能となり,これによりわれわれの緑内障点眼治療における選択肢は増加したが,選択肢が増加するほど薬剤の選択には副作用や使用感などの薬剤の独自性も含めて,十分な根拠をもった判断が要求される.トラボプロスト(トラバタンズR)はわが国ではラタノプロストに次いで2007年に認可されたプロスト系プロスタグランジン関連薬である.ラタノプロストと同様にプロスタノイド受容体の一種であるFP受容体に対して選択的に結合することによりぶどう膜強膜流出経路から房水を流出させ眼圧を下降させる.特徴としては従来の防腐剤である塩化ベンザルコニウム(BAC)に代わり,保存剤としてホウ酸/ソルビトール(緩衝剤)存在下で亜鉛イオンが保存効果を示す新しい保存システム「sofZiaTM(ソフジアTM)」を用いたことであり,これにより角結膜への影響を軽減することを意図している4).眼圧下降効果についてはすでに2001年から海外において発売されていたBAC含有トラボプロストとラタノプロストでは同等とされており5,6),トラボプロストのBAC含有と非含有薬の眼圧下降効果も同等であるとされている7).また,日本人を対象に行った研究においてもBAC非含有トラボプロストは十分な眼圧下降効果を有することが報告されている4,8~12).トラボプロストの眼局所副作用としてはラタノプロストと同様に結膜充血,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着,眼周囲の多毛,角膜上皮障害などがあり4,10),わが国においては角膜への影響については多数報告されている9,11,12)が,長期投与による副作用である眼瞼・虹彩色素沈着,眼瞼多毛,睫毛変化について十分に検討した報告はない.本研究ではBAC非含有トラボスロストを処方し,6カ月間点眼継続した緑内障および高眼圧症患者における睫毛変化(延長・剛毛化),眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着の発現頻度について自覚的・他覚的に評価を行った.I対象および方法本研究は井上眼科病院における倫理委員会の承認を得て実施した.対象は井上眼科病院に通院中で,2008年10月から2009年4月までに同意を取得のうえ,トラボプロスト点眼を新規あるいは追加投与した緑内障および高眼圧症患者62例62眼(男性26例,女性36例)である.年齢28~84歳,平均年齢は58.3±14.6歳(平均値±標準偏差)であった.新規投与症例は60眼,追加投与症例は2眼であり,追加投与された症例のトラボプロスト点眼追加前に使用されていた点眼はb遮断薬であった.両眼に点眼を行った場合は右眼を解析の対象とした.同意取得時に対象患者に本研究内容と睫毛変化(延長・剛毛化),眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着など,トラボプロスト点眼により出現の可能性がある副作用について十分に説明した.点眼方法については1日1回,夕方以降の点眼および点眼後の洗顔(眼瞼)を指導した.1.写真撮影トラボプロスト点眼開始前と点眼6カ月後に眼瞼を含む前眼部の写真撮影を行った.撮影にはフォトスリットランプ(RS-1000,ライト製作所)を使用し,撮影ユニットはNikonD200(有効1,000万画素)を用いた.耳側30度方向からの照明で,1)虹彩全体をDiffuse光で撮影(10倍,フラッシュ光量はマニュアル,光量3),2)開瞼時・閉瞼時眼瞼をDiffuse光で撮影(7.5倍,フラッシュ光量はマニュアル,光量1)した.画像は電子ファイリングシステム(VK-2server,Kowa社)にて記録し,昇華型プリンタ(CP900D,三菱電機)を使用して出力した.写真撮影は4名の熟練した写真撮影技師が行った.2.自記式アンケート調査(自覚的評価)点眼6カ月後に患者の自覚症状について自記式アンケート調査を行った.質問項目は1)睫毛が伸びていませんか,2)睫毛が太くなっていませんか,3)目の周りの産毛が増えていませんか,4)目の周りが黒くなっていませんか,5)茶目が黒くなっていませんか,6)他になにか変わったことはありますか,の6項目であり,いずれも1)はい,2)いいえ,3)どちらとも,の3つから回答する形式をとった.3.副作用出現判定(他覚的評価)副作用出現判定は,3名の眼科専門医が個別に患者情報をマスクしたうえでトラボプロスト点眼前後の写真を比較することにより行った.判定者は通し番号のみで呈示された62症例の点眼前後の写真を比較し,睫毛延長・剛毛化,眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着の5項目について出現の有無について判定した.3名のうち2名以上の一致により副作用出現ありと定義した.4.統計学的解析割合の差の検定については,Fisher直接確率あるいはc2検定を行い,平均値の差の検定には,群間では対応のないt(109)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101431検定を行い,群内の比較には対応のあるt検定を行った.有意水準は,p<0.05とした.II結果62例中4例(6.5%)が投与中止となった.中止理由は疼痛1例,異物感1例,副作用出現を恐れたものが2例であった.睫毛変化(延長・剛毛化),眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着による中止例はなかった.その結果,副作用出現判定対象は58例となった.さらに自記式アンケート調査については2症例が未回収となり対象は56例となった.トラボプロスト投与開始前眼圧は17.5±3.0mmHg,投与6カ月後の眼圧は13.6±2.3mmHgであり,有意に下降していた(p<0.0001対応のあるt検定).それぞれの副作用の典型例を図1に示す.1.副作用出現頻度(他覚的評価)睫毛変化(延長・剛毛化),眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着のうちいずれか一つでも副作用が出現した症例は58例中42例(72.4%)であった.男性は42.9%,女性は点眼開始前点眼6カ月後abc図1トラボプロストによる眼局所副作用a:虹彩色素沈着.点眼6カ月に同心円状の色素沈着がみられる.b:眼瞼多毛・色素沈着.点眼6カ月後に下眼瞼産毛の増加と眼瞼色素沈着がみられる.c:睫毛延長・剛毛化.点眼6カ月後に睫毛の延長および剛毛化がみられる.1432あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(110)57.1%であった.平均年齢は60.2±13.9歳であった.副作用出現がみられなかった症例は58例中16例で男性は43.8%,女性は56.3%であった.平均年齢は53.4±15.4歳であった.副作用が出現した群と出現しなかった群を比較すると有意な性差,年齢差はみられなかった(男女比:p>0.9999Fisher直接確率,平均年齢:p=0.11対応のないt検定)(図2).副作用出現頻度を図3に示す.睫毛延長は20例(34.5%),睫毛剛毛化10例(17.2%),眼瞼多毛32例(58.6%),眼瞼色素沈着2例(3.5%),虹彩色素沈着21例(37.9%)であった.副作用の出現頻度に有意に差があり,頻度としては眼瞼色素沈着が他の4つの副作用に比べて低かった(p<0.0001c2検定).2.自記式アンケート調査(自覚的評価)(図4)睫毛が伸びていませんか(睫毛延長)が22例(39.3%),睫毛が太くなっていませんか(睫毛剛毛化)15例(26.8%),表1自覚的評価と他覚的評価の照合自覚的評価他覚的評価はい(+)いいえ(.)どちらとも合計睫毛が伸びていませんか(睫毛延長)有(+)69520無(.)1612836合計22211356睫毛が太くなっていませんか(睫毛剛毛化)有(+)44210無(.)11191646合計15231856目の周りの産毛が増えていませんか(眼瞼多毛)有(+)9111232無(.)411924合計13222156目の周りが黒くなっていませんか(眼瞼色素沈着)有(+)1102無(.)19211454合計20221456茶目が黒くなっていませんか(虹彩色素沈着)有(+)0101121無(.)0161935合計0263056n=56(人)34.5%17.2%58.6%3.5%0%20%40%60%80%100%37.9%睫毛延長睫毛剛毛化眼瞼多毛眼瞼色素沈着虹彩色素沈着■:有■:無p<0.0001(c2検定)図3他覚的評価における副作用出現率平均年齢60.2±13.9(歳)■:男性■:女性平均年齢:NS(対応のないt検定)男女比:NS(Fisher直接確率)42.9%0%20%40%60%80%100%57.1%平均年齢53.4±43.8%15.4(歳)副作用出現あり副作用出現なし56.2%図2他覚的評価における副作用出現状況・年齢・男女差0%39.3%26.8%23.2%35.7%23.2%20%40%60%80%100%睫毛が伸びていませんか睫毛が太くなっていませんか目の周りの産毛が増えていませんか目の周りが黒くなっていませんか茶目が黒くなっていませんか他になにか変わったことはありますか■:はい■:いいえ■:どちらともNS(c2検定)図4自覚的評価における副作用出現率(111)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101433目の周りの産毛が増えていませんか(眼瞼多毛)13例(23.2%),目の周りが黒くなっていませんか(眼瞼色素沈着)20例(35.7%)であった.これら4つの副作用についての自覚的評価に差はなかった(p=0.47c2検定).茶目が黒くなっていませんか(虹彩色素沈着)を自覚した症例はなかった.3.他覚的評価と自覚的評価の照合他覚的評価と自覚的評価の照合した結果を表1に示す.他覚的評価において睫毛延長が出現した20例中,自覚的評価においても「はい」と回答し自覚的評価と他覚的評価が一致したのは6例であった.同様に,睫毛剛毛化は10例中4例,眼瞼多毛は32例中9例,眼瞼色素沈着は2例中1例で一致がみられた.虹彩色素沈着は他覚的評価では21例出現したが自覚していた例がなかった.一方,他覚的評価において睫毛延長が出現しなかった36例中,自覚的評価においても「いいえ」と回答し自覚的評価と他覚的評価が一致したのは12例であった.同様に,睫毛剛毛化は46例中19例,眼瞼多毛は24例中11例,眼瞼色素沈着は54例中21例で一致した.「どちらとも」と回答した症例を除外し,①一致:自覚的評価(+)・他覚的評価(+),②一致:自覚的評価(.)・他覚的評価(.),③不一致:自覚的評価(+)・他覚的評価(.),④不一致:自覚的評価(.)・他覚的評価(+)とし①~④の割合を比較すると,自覚がみられなかった虹彩色素沈着を除き睫毛延長,睫毛剛毛化,眼瞼多毛,眼瞼色素沈着いずれの副作用においても有意差はなかった(c2検定).①~④の割合について虹彩色素沈着を除いた各副作用間での比較も有意差はなかった(c2検定).III考按トラボプロスト(BAC含有製剤)の承認時までに日本人を対象に実施された臨床試験においてのおもな副作用は,結膜充血(22.0%),眼瞼色調変化(7.1%),.痒感(6.3%),眼周囲の多毛化(3.9%),虹彩色調変化(3.1%)であった4,10).海外ではトラボプロスト(BAC含有製剤)とラタノプロストにおいてNetlandらは12カ月間の投与でそれぞれの副作用として充血38.0%と27.6%,視力低下5.9%と4.6%,疼痛2.9%と3.6%,不快感5.4%と2.6%,.痒感3.9%と6.1%,異物感2.4%と3.1%,ドライアイ2.4%と1.0%,角膜炎2.4%と2.0%,眼瞼炎1.0%と3.6%,虹彩色調変化4.9%と5.1%と報告した5).Parrishらは3カ月間の投与でトラボプロスト(BAC含有製剤)で充血58.0%(ラタノプロスト47.1%),眼の刺激症状4.3%(ラタノプロスト6.6%),かすみ1.4%,疼痛2.9%(ラタノプロスト1.5%),睫毛変化0.7%,眼瞼色調変化2.9%(ラタノプロスト1.5%),ドライアイ1.4%(ラタノプロスト1.5%),視力低下2.2%(ラタノプロスト1.5%),.痒感2.2%と報告している6).また,Ashayeらはトラボプロスト点眼(BAC含有製剤)の健常アフリカ人を対象に行った72時間投与で充血75.0%,刺激感20.0%,ドライアイ15.0%,異物感30.0%,かすみ5.0%,.痒感25.0%で13),Huangらは中国人を対象とした3カ月の投与で虹彩色素沈着が35.6%に出現したと報告した14).今回,長期投与によるBAC非含有トラボプロストの眼局所副作用として睫毛変化,眼瞼多毛,眼瞼色素沈着,虹彩色素沈着を調査した結果,副作用出現は全体で72.4%であり,睫毛延長は34.5%,睫毛剛毛化17.2%,眼瞼多毛58.6%,眼瞼色素沈着3.5%,虹彩色素沈着37.9%であった.Netlandらの報告5)と比較すると虹彩色素沈着が多くみられ,Parrishらの報告6)と比較すると睫毛変化は多く,眼瞼色素沈着はほぼ同等であった.Huangらの報告14)と比較すると虹彩色素沈着はほぼ同等であった.わが国においては他のプロスト系プロスタグランジン関連薬であるラタノプロストの眼局所副作用については多数報告がある15~18).井上らは本研究とほぼ同様の方法を用いて101例を対象にラタノプロストの眼局所副作用の評価を行い,睫毛延長50.5%,睫毛剛毛化28.7%,眼瞼多毛37.6%,眼瞼色素沈着5.9%,虹彩色素沈着31.7%であったと報告した18).症例数が異なるために一概に比較はできないが本研究の結果と副作用出現頻度は類似していた.本研究では写真判定において点眼前後のマスクは行わなかった.前後マスクの有無により結果が異なる可能性があるが,本研究では判定の方法をラタノプロストで研究を行った井上ら18)の報告と同様にし,比較するために前後のマスクを行わなかった.今後の課題となった.さらに今回はトラボプロストの副作用出現に対する患者側の認容性を把握するため自記式アンケート調査もあわせて実施した.自覚的評価と他覚的評価を照合するといずれの副作用においても自覚的評価と他覚的評価が一致したのは30~40%,「どちらとも」と回答した症例を除外すると50~60%であった.トラボプロストの長期点眼による副作用は日本人においては睫毛や産毛の色素が濃いことから,睫毛変化,眼瞼の多毛や色調変化は目立ち,一方,虹彩色素が濃いことにより虹彩色素沈着は目立ちにくい傾向となる.他覚的評価において副作用出現がないにもかかわらず副作用出現を自覚し,自覚的評価と他覚的評価が不一致であった症例が睫毛延長で36例中16例,睫毛剛毛化で46例中11例,眼瞼多毛で24例中4例,眼瞼色素沈着で54例中19例みられたのは調査開始前に出現が予測される副作用についての説明と副作用出現の予防のための洗顔指導を行ったために副作用出現に過敏になった症例があったためと推察された.治療を開始するにあたり点眼薬の副作用についての説明は必要であるが,強調して説明することは患者の過度の不安を招く可能性があり症例により説明方法を選ぶ必要がある.他覚的評価で副作用出現がみられたにもかかわらず自覚がなく自覚的評価と他1434あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(112)覚的評価が不一致であった症例は,睫毛延長で20例中9例,睫毛剛毛化で10例中4例,眼瞼多毛で32例中11例,眼瞼色素沈着で2例中1例みられた.睫毛延長・剛毛化,眼瞼多毛,眼瞼色素沈着などにより顔面において眼周囲が強調されることは,充血や眼表面への影響と比較すると患者にとって軽微な副作用であることが示唆された.虹彩色素沈着については,色素の濃い日本人においては自覚困難な所見と考えた.本研究において副作用自覚の有無にかかわらず点眼開始後6カ月までにおいては点眼中止となった症例はなく,これら副作用に対する患者の認容性は比較的良好であった可能性が示唆された.また,今回のアンケート調査では選択肢を「はい」「いいえ」「どちらとも」の3つとした結果,各質問項目によっても異なるが,アンケート回収が可能であった56例中23.2~53.5%が「どちらとも」を回答したため自覚的評価判定の精度に限界があったことは否めない.今後は患者側の副作用出現に対する認容性についてより正確に把握するためアンケート回答の選択肢を増やすなどの課題が残った.以上,BAC非含有トラボプロストの長期投与による眼局所副作用を調査したところ,眼瞼多毛,虹彩色素沈着,睫毛延長,睫毛剛毛化,眼瞼色素沈着の順に出現し,患者も多かれ少なかれ副作用を自覚していることを確認した.これらの出現頻度は,報告されている他のプロスト系プロスタグランジン関連薬のそれとほぼ同等と考えられた.また,点眼6カ月間ではこれらの副作用により点眼中止となった症例はなかったため,副作用としては比較的軽微であり患者の認容性も良好であることが示唆された.しかしながら使用にあたり十分な説明と長期的な経過観察が必要である.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-157,20032)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科25:1581-1585,20083)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─.臨眼62:1699-1704,20084)大林珠子,河嶋浩明,森君枝ほか:緑内障・高眼圧症治療剤プロスタグランジンF2a誘導体『トラバタンズ点眼液0.004%』の有効性と安全性.眼薬理22:15-20,20085)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientwithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20016)ParrishRK,PalmbergP,SheuW-Petal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20037)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandefficacy.JGlaucoma16:98-103,20078)大島博美,新卓也,相原一ほか:日本人健常眼に対する塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト無作為単盲単回点眼試験による眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科26:966-968,20099)中原久恵,清水聡子,鈴木康之ほか:ラタノプロスト点眼薬からトラボプロスト点眼薬への切り替え効果.臨眼63:1911-1916,200910)佐伯忠賜朗,相原一:プロスタグランジン関連薬の特徴─増える選択肢.あたらしい眼科25:755-763,200811)湖﨑淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200912)岡田二葉,井上賢治,若倉雅登ほか:トラボプロスト点眼薬の角膜上皮への影響.臨眼63:923-926,200913)AshayeAO,AdedapoADA,OlusanyaBAetal:ConjunctivalhyperaemiaandotheradverseeffectsonhealthyAfricansubjectsaftersingledosingwith0.004%travoprost.AfrJMedSci36:37-42,200714)HuangP,ZhongZ,WuLetal:IncreasediridialpigmentationinChineseeyeafteruseoftravoprost0.004%.JGlaucoma18:153-156,200915)小川一郎,今井一美:ラタノプロスト点眼による眼瞼虹彩色素沈着眼瞼多毛:1年後の成績.あたらしい眼科17:1559-1563,200016)原岳,小島孚允:ラタノプロスト点眼で生じる睫毛変化の評価.あたらしい眼科17:1567-1570,200017)原岳:ラタノプロスト点眼で生じた単色茶色の日本人の虹彩における色素増加.日眼会誌105:314-321,200218)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:ラタノプロスト使用患者の眼局所副作用.日眼会誌110:581-587,2006***

ラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼追加療法

2010年8月31日 火曜日

1112(10あ0)たらしい眼科Vol.27,No.8,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1112.1114,2010cはじめにラタノプロスト点眼薬は,緑内障点眼薬のなかで眼圧下降効果の点で第一選択薬になることが多い1,2).しかし,眼圧下降が不十分なために2剤併用療法が必要となることがあり,アドヒアランスの点からは1日1回の点眼薬の追加が望ましい.過去に井上ら3)はレボブノロール点眼薬がゲル化剤添加チモロール点眼薬と比べ,眼圧下降効果は同等で,使用感ではより好まれる傾向にあることを報告した.これまでプロスタグランジン関連点眼薬への追加併用2剤目としてのb遮断薬の眼圧下降効果については数多く報告がある4~8)が,ラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼薬の追加効果を検討した報告はない.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の症例に2剤目としてレボブノロールを追加投与した際の眼圧下降効果を前向きに検討した.I対象および方法2009年1月~11月までの間に,井上眼科病院でラタノプロスト点眼薬を単剤で3カ月以上使用した結果,目標眼圧に達しない緑内障患者に0.5%レボブノロール点眼薬(1日1回朝点眼)の追加を勧め,同意の得られた連続した症例19例19眼を対象とした.既往歴に喘息や心疾患のある患者は除外した.平均年齢は61.8±14.1歳(平均±標準偏差)(21~82歳),性別は男性6例,女性13例であった.緑内障病〔別刷請求先〕森山涼:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RyoMoriyama,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロスト点眼薬へのレボブノロール点眼追加療法森山涼*1野口圭*1河本ひろ美*1塩川美菜子*1井上賢治*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科OcularHypotensiveEffectofLevobunololSolutionAddedtoLatanoprostRyoMoriyama1),KeiNoguchi1),HiromiKoumoto1),MinakoShiokawa1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1)andGojiTomita1)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障患者19例19眼に対して0.5%レボブノロール追加投与を行い,3カ月間の眼圧下降効果および副作用を前向きに調査した.レボブノロール追加投与時の平均眼圧は17.0±3.2mmHg,追加投与3カ月後14.3±2.3mmHgで投与前に比べ有意に下降した(p<0.0001).追加投与3カ月間の平均眼圧下降幅は1.7~2.9mmHg,平均眼圧下降率は10.1~16.0%であった.副作用は2例に出現し,異物感1例,頭痛1例であった.レボブノロール点眼薬はラタノプロスト点眼薬に追加投与した際,過去に報告されている他のb遮断薬追加投与とほぼ同等の眼圧下降が得られた.また,安全性においても重大な副作用を認めなかった.In19patientswithprimaryopen-angleglaucomawhowerebeingtreatedwithlatanoprostsolution,levobunololwasadministeredasasecondtherapy,toinvestigateadditiveocularhypotensiveeffects.Intraocularpressure(IOP),IOPreduction,IOPreductionrateandsideeffectswereprospectivelycheckedmonthlyfor3months.At3monthafteraddictivetherapythemeanIOPhaddecreasedsignificantly,from17.0±3.2mmHgbeforeadditionto14.3±2.3mmHg(p<0.0001).ThemeanIOPreductionwas1.7~2.9mmHg,andthemeanIOPreductionratewas10.1~16.0%,Therewerenoserioussideeffects,includingforeign-bodysensationandheadache.Asasecondtherapyinadditiontolatanoprostsolution,levobunololiseffectiveforIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1112.1114,2010〕Keywords:塩酸レボブノロール点眼薬,ラタノプロスト点眼薬,眼圧下降効果,副作用.levobunolol,prostaglandin-relatedsolution,ocularhypotensiveeffects,sideeffect.(101)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101113型の内訳は原発開放隅角緑内障13眼,正常眼圧緑内障6眼であった.眼圧は,レボブノロール追加投与時,追加1カ月後,3カ月後にGoldmann圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一の検者がほぼ同時刻に測定した.両眼に投与した症例では追加投与時に眼圧の高いほうの眼を,眼圧が同値の場合は右眼を対象眼とした.追加投与前後の眼圧はANOVA(analysisofvariance,分散分析)を用いて比較した.追加投与後の眼圧下降幅および下降率を算出し,それぞれ1カ月後,3カ月後の間で対応のあるt検定を用いて比較した.有意水準(危険率)はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認され,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧はレボブノロール追加時には17.0±3.2mmHg(19眼),追加1カ月後は15.3±3.7mmHg(18眼),3カ月後は14.3±2.3mmHg(17眼)であった(図1).追加1カ月後,3カ月後でそれぞれ投与前に比べ有意に下降していた(p<0.0001,Bonferroni/Dunn).眼圧下降幅は追加1カ月後1.7±2.4mmHg,3カ月後2.9±2.0mmHgで,追加1カ月後,3カ月後の眼圧下降幅には差はなかった(p=0.2).眼圧下降率は追加1カ月後10.1±12.3%,3カ月後16.0±9.9%で,追加1カ月後,3カ月後の眼圧下降率には差はなかった(p=0.2).副作用は19例中2例(10.5%)に出現し,異物感1例,頭痛1例であった.うち,異物感を訴えた1例は角膜所見には異常を認めなかったが,追加投与後1カ月の時点で患者の申し出により中止となった.頭痛を訴えた1例は,経過中に症状が軽快し,投与継続が可能であった.III考按プロスタグランジン関連点眼薬への追加併用2剤目としてのb遮断薬の眼圧下降効果についてはこれまでに数多くの報告がある4~8).b遮断点眼薬のラタノプロストへの追加効果について,水谷ら4)はラタノプロスト点眼薬単剤投与で12週以上経過している正常眼圧緑内障患者7例にニプラジロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は1.7mmHg,眼圧下降率は11.0%であった.河合ら5)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で3カ月以上経過している広義の原発開放隅角緑内障患者8例にカルテオロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は2.06mmHg,眼圧下降率は11.8%であった.本田ら6)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で12週間治療した広義の原発開放隅角緑内障患者37例にチモロールまたはカルテオロールを2剤目として4週間投与した.眼圧は,追加投与後に有意ではないが下降し,4週後の眼圧下降幅はチモロール群が1.6mmHg,カルテオロールが2.1mmHg,眼圧下降率はチモロールが10.1%,カルテオロールが12.9%であった.橋本ら7)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で3カ月以上経過している広義の原発開放隅角緑内障患者8例にカルテオロールを2剤目として24週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,24週後の眼圧下降幅は2.06mmHg,眼圧下降率は11.8%であった.塩川ら8)は,ラタノプロスト点眼薬単剤投与で2カ月以上経過している緑内障および高眼圧症患者21例にゲル化チモロールを2剤目として12週間投与した.眼圧は,追加投与後有意に下降し,12週後の眼圧下降幅は3.3mmHg,眼圧下降率は18.3%であった.今回の結果では,ラタノプロスト点眼薬に対するレボブノロール点眼薬追加投与後の眼圧下降幅(1.7~2.9mmHg)と眼圧下降率(10.1~16.0%)は,過去の報告と追加投与前の眼圧が異なるので単純に数値を比較することはできないが,他のb遮断点眼薬追加投与時の眼圧下降幅や眼圧下降率とほぼ同等であった.また今回の結果は,ゲル化チモロールからレボブノロールへの切り替えにおいて眼圧には変化がなかったとする井上ら3)の報告からも妥当であることが推察される.副作用,使用感について,水谷ら4)はラタノプロストにニプラジロールを追加した際に眼瞼炎や充血を13.3%に認めたと報告している.河合ら5)はラタノプロストにカルテオロールを追加した際にBUT(涙液層破壊時間)悪化を37.5%に,角膜上皮障害を25%に認めたと報告している.塩川ら8)はラタノプロストにゲル化チモロールを追加した際に咳,痰,違和感,点状表層角膜炎を12.5%に認めたと報告している.今回は,異物感,頭痛を各1例(10.5%)に認め,うち1例では投与中止となっているが,これは過去の報告と比べて同等かやや少ないと思われる.また,井上ら3)はレボブノロールがゲル化チモロールと比べて,「しみる」「べとつく」追加投与前眼圧(mmHg)1カ月後**3カ月後24222018161412100図1レボブノロール追加前後の眼圧(*p<0.0001,ANOVA)1114あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(102)といった使用感での訴えが少なく,レボブノロールのほうがより好まれることを報告している.今回は短期間の検討だが,レボブノロールを2剤目として追加した際,副作用や使用感でのマイナス面が少ないことは長期的なアドヒアランスの向上にも寄与する可能性がある.結論として,レボブノロール点眼薬はラタノプロスト点眼薬に3カ月間追加投与した際,過去に報告されている他のb遮断薬追加投与とほぼ同等の眼圧下降が得られ,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ただし,本研究はcaseseriesで症例数も少ないため,結果にバイアスがかかりやすいことが考えられる.今後はより多くの症例数で無作為化するなどして結果のバイアスを減らし,長期間の眼圧下降効果や副作用,アドヒアランスについて検討する必要がある.文献1)ZhangWY,PoAL,DuaHSetal:Meta-analysisofrandomizedcontrolledtrialscomparinglatanoprostwithtimololinthetreatmentofpatientswithopenangleglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol85:983-990,20012)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOphthalmol114:929-932,19963)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:チモロールゲルからレボブノロールへの切り替えによる効果.臨眼60:263-267,20064)水谷匡宏,竹内篤,小池伸子ほか:プロスタグランディン系点眼単独使用の正常眼圧緑内障に対する追加点眼としてのニプラジロール.臨眼56:799-803,20025)河合裕美,林良子,庄司信行ほか:カルテオロールとラタノプロストの併用による眼圧下降効果.臨眼57:709-713,20036)本田恭子,植木麻理,廣辻徳彦ほか:ラタノプロストと2種のb遮断薬による眼圧下降効果の比較検討.眼紀54:801-805,20037)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,20038)塩川美菜子,井上賢治,若倉雅登ほか:熱応答ゲル化チモロールおよびブリンゾラミド点眼薬のラタノプロスト点眼薬の追加効果.あたらしい眼科25:1143-1147,2008***

リネゾリドによる視神経症の1 例

2010年4月30日 金曜日

———————————————————————-Page1564あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(00)564(148)0910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(4):564567,2010cはじめにリネゾリド(ザイボックスR)は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症やバンコマイシン耐性腸球菌に適応のある薬剤である.臨床の場では関節炎や骨髄炎,皮膚感染症,肺炎などに使われるが,副作用として骨髄抑制や視神経症などが知られている.特に長期投与で副作用が多く報告され,眼科領域では視神経症の報告がこれまでに散見される14).視神経障害の機序としてはニューロン内に豊富とされるミトコンドリアの障害が原因と推定されている1,5).今回筆者らはリネゾリドによる視神経症の1例を経験したので,これまでの報告例と比較検討して報告する.I症例患者:61歳,男性.初診日:平成19年4月11日.主訴:霧視.現病歴:平成16年より慢性関節リウマチにて治療中であった.平成17年6月,MRSAによる股関節炎・膝関節症・頸椎炎にて某大学整形外科でバンコマイシンによる治療を開始したが,直後より骨髄抑制による汎血球減少が生じたため中止して硫酸アルベカシン(ハベカシンR)とトシル酸スルタミシリン(ユナシンR)に変更した.洗浄や骨移植術などの治療も併用された.平成18年6月リハビリテーション目的にて当科関連病院の整形外科に転院となった.その後,関〔別刷請求先〕椎葉義人:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:YoshitoShiiba,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minami-Koshigaya,Koshigaya-shi,Saitama343-8555,JAPANリネゾリドによる視神経症の1例椎葉義人門屋講司鈴木利根筑田眞獨協医科大学越谷病院眼科ACaseofLinezolid-inducedOpticNeuropathyYoshitoShiiba,KojiKadoya,ToneSuzukiandMakotoChikudaDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospitalリネゾリドの長期投与後に視神経症をきたした61歳,男性例を経験した.本患者はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による膝関節炎,股関節炎などにてバンコマイシンなどの薬剤投与を開始したが,副作用発現や効果不十分のため中止となり,平成18年12月にリネゾリドの投与を開始した.その後増減をくり返しながら持続投与となり,平成19年4月に霧視感を主訴に当科を紹介受診となったが,両眼視力は1.0であった.同年6月には右眼0.3,左眼0.03に低下した.当初は視力低下の原因が白内障進行によるものと診断したが,白内障手術後にも視力回復がみられず,さらに右眼0.1,左眼0.04となり,リネゾリドによる視神経症が疑われた.投与中止後9日目に視機能の改善がみられたが,股関節炎などは悪化した.1年後には両眼1.2に回復した.Weexperienceda61-year-oldmalewithlinezolid-inducedopticneuropathyafterprolongeduseoftheantibi-otic.Vancomycinandothermedicationshadbeeninitiatedforthetreatmentofmethecillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)infectionsofhiskneeandhipjoints,butwerenoteective.LinezolidtreatmentwasinitiatedinJuly2005.By23monthslater,visualacuityhaddecreasedto0.3ODand0.03OS,fromthe1.0OUnoted2monthsearlier.Routineocularexaminationrevealedonlycataracts;cataractsurgerywasperformedonbotheyes.However,visualacuitydidnotimprove(0.1OD,0.04OS),solinezolid-inducedopticneuropathywassuspected.Linezolidwasdiscontinuedandvisualacuityimproved9dayslater,whileinfectionofthejointsworsened.Visualacuityrecoveredfully(1.2OU)afteroneyearwithouttheantibiotic.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(4):564567,2010〕Keywords:リネゾリド,視神経症,副作用.linezolid,opticneuropathy,sideeect.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010565(149)節炎などが悪化したため平成18年12月9日よりリネゾリドの投与が開始され,平成19年8月18日まで継続された.投与量は1日600mgを標準とし,総量159g(600mg錠換算で265錠)であった.この間平成18年12月31日より平成19年1月26日まで一時休薬し,4月14日より5月13日まで3001,200mgの増減があった.この間の併用薬はプレドニゾロン(プレドニンR)1日5mg内服と糖尿病経口薬であった.平成19年4月に軽度の霧視感があったため,眼科的精査目的で当科を紹介された.既往歴:平成16年より糖尿病.初診時所見:視力は右眼0.15(1.0×2.5D(cyl0.75DAx95°),左眼0.08(1.0×3.0D(cyl1.0DAx65°),眼圧は右眼15mmHg,左眼17mmHgであった.前眼部および眼底に異常はないが,中間透光体は白内障を認め,Emery分類で核硬度度,後下に軽度の混濁を認めた.白内障および糖尿病のため定期的検査を続けることとした.経過:初診2カ月後の平成19年6月に視力低下を訴え,視力は右眼0.06(0.3),左眼0.02(0.03)と低下,グレアは測定不能であった.前眼部,眼底に異常を認めないものの,白内障が核度,後下の混濁が進行していた.これらより白内障進行による視力低下と判断し,白内障手術を施行した.術中・術後合併症は認めなかった.しかし,術後の視力改善はわずかで,2週間後の所見は,視力は右眼0.08(0.4),左眼0.07(n.c.)であった.眼底その他に異常はみられず視力不良の原因は不明であった.さらに,術後1カ月に視力低下の進行と視野狭窄を自覚した.このときの視力は右眼0.08(0.1),左眼0.04(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼15mmHgで,限界フリッカ値は両眼とも19Hzであった.前眼部,中間透光体は異常なかった.眼底は検眼鏡でも異常なくフラッシュERG(網膜電図)も正常で,蛍光眼底造影でも図1症例の蛍光眼底造影写真(左:右眼,右:左眼)両眼とも視神経乳頭に過蛍光などはみられなかった.図2症例のGoldmann視野検査(左:左眼,右:右眼)右眼の中心暗点と左眼のラケット状暗点を認めた.———————————————————————-Page3566あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(150)視神経に過蛍光などの異常を認めなかった(図1).Gold-mann視野検査では右眼は中心暗点,左眼はラケット状暗点を認めた(図2).これらより,視神経症と診断し,リネゾリドの長期投与との関連が疑われた.そのため,整形外科主治医および患者,家族と相談のうえ,リネゾリド投与を中止することとなった.投与中止9日後には,視力は右眼0.1(0.6),左眼0.04(0.05)と改善したが,限界フリッカ値は19Hzと不変であった.視野検査の結果も中心暗点の改善を認めた(図3).しかし,股関節炎,膝関節炎などの原疾患が再発し,手術目的にて某大学整形外科に転院となった.このため当院での経過観察がその後一時中止となった.約1年後の平成20年8月11日の再診時には,リネゾリドは投与されておらず,視力は右眼1.0(1.2),左眼0.8(1.2)に回復していた.II考按リネゾリドはMRSA感染症などに非常に有用な薬剤で2000年4月に米国FDA(食品医薬品局)の承認を受けていて3),28日間以内の安全性は十分に確かめられている.しかし,骨髄炎などの疾患に長期投与を余儀なくされる場合に副作用が報告されている.本例ではリネゾリドの長期投与があり,しかも本剤の投与中止により視機能が回復したことから本剤の副作用による視神経症と診断した.他の報告例の診断も,リネゾリドの長期使用および臨床症状,投与中止による回復が決め手となっている.本例では2年間の投与期間があり,これまでのJavaheriらのまとめでも,13症例の平均投薬期間が280日間となっている1).Ruckerらも511カ月(平均9カ月)としている4).今回の症例のように他の薬剤が無効で,増減しながらもリネゾリドの長期投与を避けられない場合は,特に副作用の発現に注意すべきである.本剤の抗菌作用はリボゾームRNAに結合することによるとされる3).視神経の障害の機序としてはニューロン内のミトコンドリアリボゾームの障害が推定されている1,5).ミトコンドリア障害による視神経症としてはLeber視神経萎縮がよく知られているが,ある種の中毒性視神経症や,タバコ・アルコール視神経症,薬物による視神経障害や近年は正常眼圧緑内障との関連が推定されている5).臨床症状に注目すると,発症は本症例も含め数週数カ月間かけて視力障害が進行する亜急性が多い.視力障害の程度は重度で0.1以下が多く,ほとんどが両眼性である.視野障害の種類は本症例でも呈していた中心暗点あるいはMariotte盲点の拡大が多く,他の視神経疾患との差異はない.既報では視神経乳頭は浮腫所見を示すことは少なく1),本例のように正常あるいは軽度の蒼白のみを示す場合が多い.ミトコンドリアの分布は視神経乳頭板より前方に多いことからすると,浮腫所見を示すことが多いはずであるが,実際の報告例ではさまざまであった.蛍光眼底写真ではLeber視神経萎縮と同様に正常なことが多い1).中尾は,視神経乳頭に異常がない“球後視神経炎”類似の所見で,眼球運動時の球後部痛がないことなどが薬剤の副作用による視神経症の特徴としている6).治療については,診断がつき次第に投薬を中止することで視機能は短期間で回復の兆しがみられ1,2),本例でも9日目で回復がはじまった.その後は数カ月間かけて回復することが多い可逆性である.視力回復の程度は本例では1.2まで完全に回復したが,他の報告でも39カ月の経過観察での最終視力は全例0.5以上と比較的良好である1).本例で視力が完全回復した理由として,発症からリネゾリド中止までの期間が80日と短かったことが考えられる.既報でも150200日で中止した場合は1.0以上に回復しており,中止まで300日以上を要した症例では視力障害が残った1).したがって本剤の投与患者では視覚症状に十分注意して,発症した場合は早期に中止することで良好な視力回復が期待できる.また,図3リネゾリド投与中止後9日目のGoldmann視野検査(左:左眼,右:右眼)両眼とも中心暗点の改善を認めた.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010567(151)副腎皮質ステロイド薬投与は無効であり,むしろ悪化の危険も指摘されていて現時点では勧められていない1,2).文献1)JavaheriM,KhuranaRN,O’HearnTMetal:Linezolid-inducedopticneuropathy:amitochondrialdisorderBrJOphthalmol91:111-115,20072)SaijoT,HayashiK,YamadaHetal:Linezolid-inducedopticneuropathy.AmJOphthalmol139:1114-1116,20053)McKinleySH,ForoozanR:Opticneuropathyassociatedwithlinezolidtreatment.JNeuro-Ophthalmol25:18-21,20054)RuckerJC,HamiltonSR,BardensteinDetal:Linezolid-associatedtoxicopticneuropathy.Neurology66:595-598,20065)CarelliV,Ross-CisnerosFN,SadunAA:Mitochondrialdysfunctionasacauseofopticneuropathies.ProgRetinEyeRes23:53-89,20046)中尾雄三:視路障害をきたす全身薬.あたらしい眼科25:455-460,2008***

ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(105)3830910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):383386,2010cはじめに緑内障は慢性に視野障害が進行する疾患である.視野障害進行抑制のエビデンスが得られている唯一の治療が眼圧下降療法である1,2).眼圧下降のために通常点眼薬治療がまず行われる.眼圧下降効果の点からファーストチョイスはプロスタグランジン関連薬が用いられることが多い.わが国におけるプロスタグランジン関連薬は1994年にイソプロピルウノプロストン点眼薬,1999年にラタノプロスト点眼薬,2007年にトラボプロスト点眼薬,2008年にタフルプロスト点眼薬が発売された.このなかでプロスト系の点眼薬(ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬)は特に眼圧下降効果が強力である.これらの薬剤の単剤投与における眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対して投与期間はさまざまであるが多数報告されている311).その眼圧下降率はラタノプロスト点眼薬が25.132%39),トラボプロスト点眼薬が26.131.1%10,11),タフルプロスト点眼薬が25.927.5%3)である.しかしこれら3剤を互いに比較した報告はまだない.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果井上賢治*1増本美枝子*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEfectsofLatanoprost,TravoprostandTaluprostKenjiInoue1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,UniversityofToho目的:ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬の単剤投与における眼圧下降効果と安全性をレトロスペクティブに検討した.方法:ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬のいずれかを新規に単剤投与された原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者128例128眼を対象とした.投与前と投与1,3カ月後の眼圧を比較した.投与1,3カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,各薬剤間で比較した.さらに副作用の出現を調査した.結果:眼圧は3剤ともに投与1,3カ月後に有意に下降した.眼圧下降幅,眼圧下降率は投与1,3カ月後で3剤間に差はなかった.副作用による中止症例の頻度は3剤間で同等であった.結論:原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対してラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬は短期的には同等の眼圧下降効果と安全性を有する.Purpose:Toinvestigatetheocularhypotensiveeectsandsafetyoflatanoprost,travoprostandtauprostinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Methods:Latanoprost,travoprostortauprostwasadministeredto128patientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.Intraocularpressure(IOP),dierenceinIOPreduction,IOPreductionrateandadversereactionswereretrospectivelycheckedmonthlyfor3months.Results:Thelatanoprost,travoprostandtauprostgroupsallshowedsignicantlydecreasedIOPat1and3monthsaftertherapy.DierencesinIOPreductionandreductionrateweresimilaramongthe3groups.Therateofadversereactionswasalsosimilaramongthe3groups.Conclusion:Inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension,latanoprost,travoprostandtauprosthavealmostthesameocularhypotensiveeectsanddegreeofsafety.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):383386,2010〕Keywords:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,眼圧,副作用.latanoprost,travoprost,tauprost,intraocularpressure,adversereaction.———————————————————————-Page2384あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(106)今回,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬を単剤で投与された症例の短期的な眼圧下降効果と安全性をレトロスペクティブに検討した.I対象および方法2009年1月から4月までの間に井上眼科病院に通院中の患者で,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬のいずれかを新規に単剤で投与された原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者128例128眼を対象とした.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)24例,正常眼圧緑内障102例,高眼圧症2例であった.手術既往のある症例は除外した.レトロスペクティブに調査したところ,ラタノプロスト点眼薬群は62例で,平均年齢は60.6±14.6歳(平均±標準偏差)(3183歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)11例,正常眼圧緑内障49例,高眼圧症2例であった(表1).トラボプロスト点眼薬群は52例で,平均年齢は55.8±13.7歳(2883歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障43例であった.タフルプロスト点眼薬群は14例で,平均年齢は60.8±11.9歳(3679歳),緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)4例,正常眼圧緑内障10例であった.投与前の眼圧は,ラタノプロスト点眼薬群は17.4±4.5mmHg(1032mmHg),トラボプロスト点眼薬群は17.0±2.7mmHg(1224mmHg),タフルプロスト点眼薬群は18.3±4.6mmHg(1330mmHg)であった.Hum-phrey視野プログラム中心30-2のmeandeviation(MD)値は,ラタノプロスト点眼薬群は6.8±6.0dB(24.20.4dB),トラボプロスト点眼薬群は5.3±3.8dB(14.50.3dB),タフルプロスト点眼薬群は4.7±7.5dB(25.51.3dB)であった.各群の年齢,緑内障病型,投与前眼圧,Hum-phrey視野のMD値に有意差を認めなかった(ANOVA;analysisofvariance,分散分析).眼圧の測定はGoldmann圧平眼圧計を用いて基本的には1カ月ごとに行った.両眼に投与した症例では眼圧の高いほうの眼を,眼圧が同値の場合は右眼を対象眼とした.各群で投与前と投与1,3カ月後の眼圧を対応のあるt検定を用いて比較した.投与1,3カ月後の眼圧下降幅および眼圧下降率を算出し,3群間でANOVA(Bonferroni/Dunnet法)を用いて比較した.副作用の出現を診療録から抽出した.副作用により点眼薬が中止になった症例の頻度を,3群間でc2検定を用いて比較した.副作用により点眼薬が中止になった症例は眼圧の解析からは除外した.有意水準(危険率)を5%以下とした.II結果眼圧は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は14.4±3.3mmHg,投与3カ月後は13.8±2.9mmHgで投与前(17.4±4.5mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001)(図1).トラボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は13.7±2.4mmHg,投与3カ月後は13.5±2.0mmHgで投与前(17.0±2.7mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001).タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は14.3±2.9mmHg,投与3カ月後は14.0±3.4mmHgで投与前(18.3±4.6mmHg)に比べて有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は3.5±2.7mmHg,投与3カ月後は3.6±3.3mmHg,トラ表1患者背景ラタノプロストトラボプロストタフルプロストp値症例(例)625214NS平均年齢(歳)60.6±14.655.8±13.760.8±11.9NS病型(例)NS原発開放隅角緑内障(狭義)1194正常眼圧緑内障494310高眼圧症200投与前眼圧(mmHg)17.4±4.517.0±2.718.3±4.6NSHumphrey視野MD値(dB)6.8±6.05.3±3.84.7±7.5NSNS:notsignicant.08101214161820222426投与前******投与1カ月後眼圧(mmHg)投与3カ月後図1ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧(*:p<0.0001,対応のあるt検定):ラタノプロスト点眼薬群,:トラボプロスト点眼薬群,:タフルプロスト点眼薬群.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010385(107)ボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は3.4±1.9mmHg,投与3カ月後は3.5±2.3mmHg,タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は4.2±3.1mmHg,投与3カ月後は4.3±2.5mmHgであった(図2).3群ともに眼圧下降幅は,投与1,3カ月後で同等であった.3群の比較では投与1,3カ月後ともに眼圧下降幅は同等であった.眼圧下降率は,ラタノプロスト点眼薬群では投与1カ月後は18.3±10.1%,投与3カ月後は18.3±14.0%,トラボプロスト点眼薬群では投与1カ月後は19.4±9.8%,投与3カ月後は19.6±11.2%,タフルプロスト点眼薬群では投与1カ月後は21.4±10.2%,投与3カ月後は22.8±9.9%であった(図3).3群ともに眼圧下降率は,投与1,3カ月後で同等であった.3群の比較では投与1,3カ月後ともに眼圧下降率は同等であった.副作用による投与中止例は,ラタノプロスト点眼薬群で6.5%(4例/62例),トラボプロスト点眼薬群で3.8%(2例/52例),タフルプロスト点眼薬群で14.3%(2例/14例)で,頻度は同等であった(p=0.36).ラタノプロスト点眼薬群では投与2週間後に充血,投与1カ月後にかすみ,投与2カ月後に違和感,投与3カ月後に眼瞼腫脹で各1例が中止になった.トラボプロスト点眼薬群では投与3週間後に眼瞼色素沈着,投与1カ月後に充血で各1例が中止になった.タフルプロスト点眼薬群では投与2カ月後に眼精疲労,投与2カ月後に違和感で各1例が中止になった.III考按ラタノプロスト点眼薬は発売から10年以上が経過しており,眼圧下降効果と安全性について多数の報告が行われている39,1215).原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対する眼圧下降率は,4週間投与で27.6%3),6週間投与で26.2%4),60日間投与で28.0%5),12週間投与で26.8%6,7),3カ月間投与で29.3%8),12カ月間投与で32%9)と今回の3カ月間投与(18.3%)よりは良好である.今回は正常眼圧緑内障が多数(79.0%)を占め,投与前眼圧(17.4±4.5mmHg)がこれらの報告(22.625.3mmHg)39)より低値であったためと考えられる.一方,正常眼圧緑内障に対する眼圧下降率は,3週間投与で21.3%12),4週間投与で16.9%13),8週間以上投与で16.3%14),3カ月間投与で24.4%8),8年間投与で14.6%15)と今回の3カ月間投与(18.3%)とほぼ同等である.トラボプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムが使用されている点眼薬が海外で先行発売された.わが国で発売されたトラボプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムは使用せず,sofZiaRを使用しており,これはホウ酸・ソルビトール・塩化亜鉛などを含み,塩化亜鉛がホウ酸・ソルビトール存在下で陽イオン化して発揮する殺菌効果を利用している.塩化ベンザルコニウムが含有されていないトラボプロスト点眼薬の原発開放隅角緑内障,高眼圧症,性緑内障,色素緑内障に対する眼圧下降率は,2週間投与で26.130.4%10),3カ月間投与で29.831.1%11)で,塩化ベンザルコニウムが含有されているトラボプロスト点眼薬と同等であった.今回の3カ月間投与の眼圧下降率(19.6%)はこれらの報告10,11)より低値であったが,正常眼圧緑内障が多数(82.6%)を占め,投与前眼圧(17.0±2.7mmHg)が過去の報告(23.627.1mmHg)10,11)に比べ低かったことによると考えられる.一方,メタアナリシスの報告ではラタノプロスト点眼薬と(塩化ベンザルコニウム含有)トラボプロスト点眼薬の眼圧下降効果は同等であった16,17).また,ラタノプロスト点眼薬,(塩化ベンザルコニウム含有)トラボプロスト点眼薬,ビマトプロスト点眼薬を12週間投与した際の眼圧下降幅は,各々5.98.6mmHg,5.77.9mmHg,6.58.7mmHgで同等と報告されている18).投与1カ月後8.07.06.05.04.03.02.01.00.0眼圧(mmHg)投与3カ月後図2ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧下降幅(ANOVA検定)■:ラタノプロスト点眼薬群,□:トラボプロスト点眼薬群,■投与1カ月後35.030.025.020.015.010.05.00.0眼圧下降率(%)投与3カ月後図3ラタノプロスト点眼薬群,トラボプロスト点眼薬群,タフルプロスト点眼薬群の眼圧下降率(ANOVA検定)■:ラタノプロスト点眼薬群,□:トラボプロスト点眼薬群,■———————————————————————-Page4386あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(108)タフルプロスト点眼薬の原発開放隅角緑内障,高眼圧症に対する眼圧下降率は,わが国における第III相検証的試験の結果3)しかないが,4週間投与で25.927.5%であった.今回の3カ月間投与の眼圧下降率(22.8%)はこの報告に比べてやや低値であるが,正常眼圧緑内障が多数(71.4%)を占め,投与前眼圧(18.3±2.4mmHg)がこの報告(23.8±2.3mmHg)3)に比べ低かったことによると考えられる.副作用が出現して点眼薬が中止になった症例は,ラタノプロスト点眼薬では0%35,7,8,12,13),2.5%6),11%9),トラボプロスト点眼薬では0%10),1.5%11),タフルプロストでは5.4%3)と報告されている.今回のラタノプロスト点眼薬群6.5%,トラボプロスト点眼薬群3.8%,タフルプロスト点眼薬群14.3%はやや高値であったが,点眼薬を中止する基準がなく,薬剤との因果関係は不明であるが患者の訴えにより中止となった症例が含まれている可能性がある.しかし点眼薬が中止になった症例においても副作用として重篤な症例はなく,後遺症もなかった.今回はレトロスペクティブな調査であり,プロスペクティブな調査とは結果が異なる可能性がある.レトロスペクティブな調査の問題点として,眼圧測定が行われていた経過観察期間中の来院日に一貫性がないこと,対照群がおかれていないこと,盲検化されていないこと,コンプライアンスが評価できなかったことなどがあげられる.また,ラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬の3剤のなかからどの薬剤を選択するかの明確な基準がなかったために症例に偏りがあった可能性が考えられる.以上,結論として,今回のレトロスペクティブの調査結果においては,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対してラタノプロスト点眼薬,トラボプロスト点眼薬,タフルプロスト点眼薬は短期的には同等の眼圧下降効果と安全性を有すると思われる.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy-Group:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20084)SaitoM,TakanoR,ShiratoS:Eectsoflatanoprostandunoprostonewhenusedaloneorincombinationforopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol132:485-489,20015)PavanJ,tambukN,urkoviTetal:Eectivenessoflatanoprost(XalatanTM)monotherapyinnewlydiscoveredandpreviouslymedicamentouslytreatedprimaryopenangleglaucomapatients.CollAntropol29:315-319,20056)三嶋弘,増田寛次郎,新家真ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とするPhXA41点眼液の臨床第III相試験─0.5%マレイン酸チモロールとの多施設二重盲検試験─.眼臨90:607-615,19967)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglauco-maandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOph-thalmol114:929-932,19968)木村英也,野崎美穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,20039)CamrasCB,AlmA,WatsonPetal:Latanoprost,apros-taglandinanalog,forglaucomatherapy.Ecacyandsafe-tyafter1yearoftreatmentin198patients.Ophthalomol-ogy103:1916-1924,199610)GrossRL,PeaceJH,SmithSEetal:DurationofIOPreductionwithtravoprostBAK-freesolution.JGlaucoma17:217-222,200811)LewisRA,KatzGJ,WeissMJetal:Travoprost0.004%withandwithoutbenzalkoniumchloride:acomparisonofsafetyandecacy.JGlaucoma16:98-103,200712)RuloAH,GreveEL,GeijssenHCetal:Reductionofintraocularpressurewithtreatmentoflatanoprostoncedailyinpatientswithnormal-pressureglaucoma.Ophthal-mology103:1276-1282,199613)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲル,ラタノプロスト点眼の短期使用と長期眼圧下降効果.日眼会誌108:477-481,200414)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果.日眼会誌109:530-534,200315)小川一郎,今井一美:正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─3,5,6,8年群の比較─.あたらしい眼科25:1295-1300,200816)AptelF,CucheratM,DenisP:Ecacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ametaanalysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,200817)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Ecacyandsafe-tyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredomi-nantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhyperten-sion:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,200918)ParrishRK,PalmbergP,SheuWPetal:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,2003***