《原著》あたらしい眼科36(11):1451.1455,2019c増殖糖尿病網膜症患者への周術期管理としての医療福祉支援の介入間瀬陽子*1杉本昌彦*1,3板橋大介*1一尾享史*1松原央*1近藤峰生*1濱岡和弥*2鈴木志保子*2内田恵一*2*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2三重大学医学部附属病院医療福祉支援センターCMedicalWelfareInterventionasPreoperativeCareforProliferativeDiabeticRetinopathyYokoMase1),MasahikoSugimoto1,3)C,DaisukeItabashi1),AtsushiIchio1),HisashiMatsubara1),MineoKondo1),KazuyaHamaoka2),ShihokoSuzuki2)andKeiichiUchida2)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MedicalWelfareSupportCenter,MieUniversityHospitalC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)において,周術期治療の一環として術前早期から医療福祉支援の介入を行うことの重要性を検討する.症例:症例1)50歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である左眼に対して硝子体手術を施行した.退院後の自宅療養を念頭に術前より支援介入し,身体障害認定と介護保険取得などの公的支援の申請を行った.症例2)56歳,男性.両眼CPDRに対して硝子体手術を施行した.術前より,退院後の自立生活への復帰が困難と予想されたため,公的支援の申請とともに施設入所に向けた支援の介入を行った.症例3)54歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である右眼に対して硝子体手術を施行した.退院後早期の自立生活は困難と考え,術前より支援介入を行った.公的支援の申請とともに施設入所を検討し,本人の希望する就労支援も並行して行った.結論:PDRに対する周術期治療の一環として,医療福祉支援の介入を術前早期から積極的に行うことでスムーズに退院後の生活に移行可能となることが示された.CPurpose:Toinvestigatetheimportanceofmedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforproliferativediabeticretinopathy(PDR)C.CaseReports:Case1involveda50-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Sincehewasblindinhisrighteye,weperformedvitreoussurgeryonhislefteye.Postsurgery,weappliedfornursing-careinsuranceandacquiredadisabilitycerti.cateforhishomecare.Case2involveda56-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Weperformedvitreoussurgeryonbotheyes.Sincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wearrangedforhimtomovetoanursinghome.Case3involveda54-year-oldmalea.ictedCwithCbilateralCPDR.CSinceCheCwasCblindCinChisCleftCeye,CweCperformedCvitreousCsurgeryConChisCrightCeye.CSincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wesuggestedthatheshouldbemovedtoanursinghomewhilewewereprovidingreinstatementsupport.Conclusion:ThemedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforPDRcontributestoasmoothtransitiontolifeafterleavingthehospital.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1451.1455,C2019〕Keywords:医療社会福祉士,医療福祉支援,早期介入,増殖糖尿病網膜症.medicalsocialworker,medicalwel-faresupport,earlyintervention,proliferativediabeticretinopathy.Cはじめに降下薬などによる治療の進歩,そして眼科受診への患者啓発糖尿病は永らくわが国における失明原因の上位であったが一般的になってきたことがこれに寄与する3).また,眼科が1),直近の報告では第C3位となり,遺伝性疾患である網膜的には,光干渉断層計に代表される画像診断と小切開硝子体色素変性よりも低い順位となった2).内科的には,新規血糖手術などの治療の革新が寄与している4,5).しかし,増殖糖〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-175Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPANC尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対する手術を受けた患者のなかでも,内科無治療例や治療コンプライアンス不良例,眼科受診がなかった例などでは術後視力改善が不良であったとする報告もあるように6),治療診断技術の進歩した現在でも,これら糖尿病放置例などに併発する重篤なCPDRの治療には難渋する.また,2014年の失明原因調査では,身体障害認定時の年齢層についても言及されている1).加齢黄斑変性による失明は高齢者層に多いが,糖尿病を原因とするものはより年齢の低い中壮年層に多いとされている.このことから,糖尿病網膜症により視力障害に至った患者は,より長期にわたり視機能低下と向き合っていかなければならないことが推察される.中途視覚障害者が日常生活に復帰するためには,身体障害者福祉支援法に基づく支援などのさまざまな社会的支援が必要である.しかし,眼科手術は低侵襲となり,医学的に必要な入院期間は短くなってきている.保険診療上も在院日数の短縮化が求められ,入院期間内に今後の支援計画を立案・実施することは困難である.このため,術前の外来通院時から術後の社会復帰に向けての調整を開始する機会が増えてきた.その計画を実施する過程は複雑であるため,眼科医のみでは対応困難であり,医療社会福祉士(medicalsocialwork-er:MSW)などの専任スタッフによる介入が必要である.今回筆者は,PDRによる視機能低下患者の社会生活への復帰に向けて,周術期管理の一環として早期からCMSWらと連携して医療福祉支援の介入を行い,退院後の日常生活へ移行できたC3症例を経験した.これらの症例から,眼科手術加療のみではなく,治療の一環としての支援介入を行っていくことの重要性について検討する.CI症例〔症例1〕患者:50歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病,うつ病.現病歴:20年前に糖尿病を指摘されたが無治療のまま放置.右眼はC2.3年前に視機能を喪失.2017年C11月,唯一眼である左眼の視力低下を主訴に近医を受診した.両眼のPDRを認め,加療目的に当院紹介受診となった.内科的には未治療糖尿病を認め,HbA1cはC11.8%であった.初診時眼科検査所見:視力は右眼光覚なし,左眼C0.01(矯正不能),眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHgであった.前眼部には両眼白内障(右眼核硬度CIV度,左眼CII度)を認めた.右眼底は白内障のため透見不能で,超音波CBモード上,網膜全.離を認めた.左眼底はCPDRを認めた(国際分類,図1a).眼科治療経過:右眼は,視機能喪失から長期経過後であり,すでに光覚弁消失しており,加療適応はなかった.当院糖尿病内分泌内科にて血糖コントロールの後,左眼に対して白内障手術と硝子体手術(シリコーンオイル留置)を施行した.術後経過良好で,オイル抜去も実施し網膜症は鎮静化した(図1b).術後C1年を経過し,左眼視力C0.08(矯正不能)に回復している.医療福祉支援介入:本症例は自宅から失踪後,路上生活者となっており,その課題は生活拠点がない点であった.外来初診当初から,視機能低下による当科ならびに内科での継続療養や経済面などの背景から,今後の独居生活が困難と判断した.以上の点を踏まえ,入院前より当院医療福祉支援センターに依頼し,家人とも連絡を取りCMSW,患者家族,医療スタッフ,市役所生活保護担当者など複数の職種を交えた面談を複数回実施した.具体的な内容としては,生活保護や障害年金などの受給による金銭面での負担軽減,介護保険制度の利用,身体障害認定の申請などである.これらを準備しながら在宅療養のサポートや長期療養施設への入所などの退院後の生活拠点を模索した.最終的には配食,送迎サービス,ヘルパーの利用などで家族の負担を最小限としたうえでの自宅療養となった.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.〔症例2〕56歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:糖尿病.現病歴:生活保護受給中で独居.以前,糖尿病を近医内科で指摘されていたが無治療のまま放置していた.2014年C2月,1カ月前から続く両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを認め,手術加療目的に当院紹介となった.HbA1cはC7.4%,空腹時血糖値はC176Cmg/dlであり,糖尿病性腎症〔糖尿病性腎症病期分類(改訂)3期〕による腎機能低下(血中クレアチニンC1.35Cmg/dl,eGFR44.0Cml/Cmin/1.73Cm2)とそれに伴う貧血(ヘモグロビンC12.1Cg/dl)を認めた.初診時眼科検査所見:矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.4,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部には,両眼白内障(右眼核硬度CII度)を認めた.眼底は両眼でPDR,とくに右眼では硝子体出血も認めた(国際分類,図2a).眼科治療経過:眼底は透見可能であり,外来で両眼の汎網膜光凝固(pan-retinalphotocoagulation:PRP)を開始した.経過中に両眼の硝子体出血と増殖性変化が増悪し,矯正視力も右眼C0.1,左眼C0.1と低下したため,両眼に対して白内障手術と硝子体手術を施行した.術後,網膜症は沈静化したが黄斑部障害も遷延したため矯正視力は右眼C0.06,左眼C0.05にとどまった(図2b).また,経過中に腎機能の悪化のため透析導入となった.医療福祉支援介入:本症例での課題点としては,身寄りが図1症例1の左眼眼底写真a:術前所見.遷延した硝子体出血に伴う硝子体混濁と増殖膜(.)を認める.網膜光凝固は未実施である.Cb:術後所見.硝子体混濁と増殖膜は除去され,網膜症の沈静化を認める.図2症例2の右眼眼底写真a:術前所見.再発と寛解を繰り返す硝子体出血に伴う硝子体混濁を認める.Cb:上方網膜に網膜光凝固が実施されている.術後所見.硝子体出血は除去され,汎網膜光凝固が全周に実施されている.網膜症の沈静化を認めるが矯正視力は0.05にとどまる.なく独居であること,経済的問題から継続治療に問題があることであった.このため外来通院時より,医療福祉支援センターの介入を依頼した.また,当科入院中にC2度の自殺企図もあり,退院後に自宅での日常生活が困難であることが予想された.すでに生活保護を受給し,介護保険の認定と透析導入に伴う身体障害の認定も受けていた.当科入院後には,これら利用中の支援内容の見直しをまず行い,生活拠点の立ち上げを中心に支援を継続した.医療スタッフや市役所の生活保護担当者と連携し,施設への入所支援や,透析施設への送迎について計画した.この結果,患者は入所費用が保護費内に収まる住宅型有料老人ホームへの入所となり,同時に介護保険を利用することで透析施設への通院介助サービスが利用可能となった.〔症例3〕54歳,男性.主訴:両眼視力障害.患者背景:生活保護受給中で独居.20年前に健診で糖尿病を指摘されたが放置していた.2年前から内科加療開始となり,継続加療していたものの通院期間が空くなどコンプライアンスが悪く,血糖コントロールは不良であった.既往歴:糖尿病,高血圧症,心不全,糖尿病性腎症,気管支喘息.現病歴:2016年C6月,両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを指摘され,右眼にはCPRPを施行された.左眼には白内障手術と硝子体手術を他院で施行されたが,白内障手術終了時に急性心不全を生じたため手術中断し,内科転科加療となった.経過中に左眼は再度の硝子体出図3症例3の右眼眼底写真a:術前所見.硝子体出血と網膜大血管に沿って伸展した増殖膜(.)を認める.Cb:術後所見.血管の白線化と一部増殖膜の残存(.)を認めるが,網膜症は沈静化している.血と血管新生緑内障を発症し,眼圧上昇に伴う角膜混濁を生じた.右眼は経過中に硝子体出血を繰り返し,両眼の手術加療目的に当院紹介受診となった.当院初診時のCHbA1cは10.8%であった.初診時眼科検査所見:右眼矯正視力はC0.4,左眼は眼前手動弁であり,眼圧は右眼C18CmmHg,左眼C53CmmHgであった.前眼部所見は,右眼に白内障(核硬度CII度)を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.また,左眼角膜浮腫と虹彩新生血管を認めた.眼底所見は両眼にCPDRを認めた(国際分類,図3a).眼科治療経過:左眼は初回硝子体手術後に増悪したCPDRと血管新生緑内障と診断し,2017年C2月に硝子体手術を施行した.術後は降圧点眼C3種(ビマトプロスト,ドルゾラミド塩酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)によりC20CmmHgに降圧したが,その後光覚は消失した.優位眼である右眼は経過中のC2017年C3月に硝子体再出血を生じ,視力は眼前手動弁に低下した.このため,当科入院となり,右眼に対し白内障+硝子体手術を施行した.術後,矯正視力は右眼C1.2に改善した(図3b).医療福祉支援介入:本例の課題点としては身寄りがないことに加え,当院紹介以前から優位眼である右眼は硝子体出血を繰り返し,両眼の視機能低下による行動制限を認めた点である.このため,今後の自立した生活が困難となる可能性が高く,外来の時点で医療支援介入が必要と判断した.MSWとともに現在の状態で追加利用可能な制度について検討し,生活保護の申請を行った.しかし,右眼の視機能改善に伴い,身体障害認定はきびしく,介護保険申請もむずかしいと判断した.この優位眼の再出血は術後も繰り返し,しばしば生活に支障をきたした.経過中に,救護施設などへの入居も検討したC1454あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019が,本人の希望もあり,配食サービスを利用する形で自宅療養を継続することになった.また,復職希望が強く,上記に並行して就労支援も継続している.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.CII考按外来通院時から,PDRの入院手術加療を念頭に治療の一環として医療福祉支援の介入を行い,スムーズに退院後の生活に移行できたC3症例を経験した.PDRに対する手術成績は向上してきているが,糖尿病患者は複雑な背景事情をもつ場合が多く,必ずしも眼科治療を行ったのみでは日常生活に復帰できないことがある.3症例で共通した問題点は,就労困難による金銭面の負担軽減と,退院後の受け入れ先の調整を要した点であった.これらに対し,①生活保護受給,②介護保険の利用,③身体障害認定,④生活拠点の候補策定,に分けて計画した.まず①や②により金銭負担を軽減し,その後に退院後の生活拠点決定に向けて調整する,という方針で対応した.金銭負担の軽減という見地では,生活保護を申請することが重要である.厚生労働省が行った生活保護受給者に関する調査では,受給者には糖尿病や肝炎など重症化すると完治がむずかしくなる疾患の割合が高いとされ(厚生労働省:生活保護受給者の健康管理支援等について.https://www.mhlw.Cgo.jp/.le/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-SoumukaC/0000052441_1.pdf),糖尿病と貧困が密接に関連していることが推察される.今回のC3症例はいずれもC50歳代であり生産年齢層だが,全例で生活保護の受給を要した.糖尿病の重症化に伴い視機能低下に至り,就労困難となったことが受給の理由であり,前述の統計結果を如実に裏付けている.今回のC3症例ではいずれも介護保険制度の利用を計画し(112)た.介護保険制度は高齢者対象という印象があるが,65歳未満の非高齢者であっても規定された特定疾病であれば申請可能である(厚生労働省:特定疾病の選択基準の考え方.https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html).眼科領域では糖尿病網膜症が適応疾患である.申請を行えば認定前であっても暫定でサービスを利用できるため,加療開始時から申請することで,今後の生活の骨格を早期から組み立てることが可能となる.今回のC3症例はC65歳未満であったが,特定疾病である背景事情を加味しながら申請した.非高齢者であるため,今後長期の介護支援が必要となることが予想され,とくに手術前の早期からその利用について検討するべきである.身体障害は視機能によっては認定されないこともあるが,一般に認定までC1.2カ月を要し,取得後の障害福祉サービスの利用にはさらに時間を要するため,外来通院中の早い時期から申請を検討する必要がある.円滑に利用していくためには術前の視機能をもとに申請を行わざるをえない場面もある.この場合,治療後に視機能改善が得られれば,再認定申請を行うことが必要である.症例C3では出血消退時の優位眼の視力が良好であったため取得しなかったが,再認定を前提とした一時的な取得を試みることも可能であったと考えられた.また,今回の症例C1やC2のように網膜症が沈静化し,眼底所見の改善が得られても視機能の改善が得られなかった症例もあった.これらに対しては,今後視機能を有効に活用していくためにロービジョンケアにつないで,拡大鏡などの補装具や拡大読書器をはじめとする日常生活用具の使用を勧めていく必要がある.これらは概して高額であるが,身体障害に該当すれば補装具意見書を提出することで費用負担が軽減される.患者の生活の質の向上につながり,この点においても身体障害の申請は有用である.以上の観点から,身体障害認定に該当するか否かを適切に判断し,可能な範囲で積極的に利用していく必要がある.退院後の療養先の選定は患者自身がどの程度自立しているか,また家族などの支援者からどの程度の協力を得られるかが重要である.これは患者の背景事情に依存するため,個別対応が必要となる.患者や家族の意向を確認しながら療養先を選定するが,自宅療養となった場合には介護者の身体的・金銭的負担が発生する.介護保険制度によるヘルパー,配食サービス,送迎,往診などの利用を組み合わせることで,負担の軽減を念頭に計画しなければならない.また,独居者や介護困難な環境である場合には,本人の意向や自立レベルにより,施設入所も検討する.入所施設としては慢性期施設と救護施設があげられる.慢性期施設としては,介護施設・身体障害者関連入所施設(訓練施設)・療養型病床などがあるが,入所期間が限定され,一定期間後に再度療養先を選定する必要がある点が問題である.救護施設とは,身体や精神の障害や何らかの課題を抱えており,日常生活を営むことが困難な人が利用する福祉施設であり,長期入所が可能であるが,現在の住居を完全に引き払う必要がある.就労などその後の自立した社会復帰を考える際には再度居住先を探す必要があり,これが退所を妨げてしまうことが問題である.また,インスリン自己管理ができないなど,継続した医療介助が必要となる症例もあり,療養先選定に影響を与える.今回の症例C2では,施設入所に抵抗感が強く,市役所の生活保護担当者とともに繰り返し面談を行い,救護施設への入所に至った.しかし,症例C3は生活保護を受給しているものの,再就労を含めた自立を希望していた.再就労に障壁となる施設入所は受け入れず,自宅療養となっている.このように患者背景事情に応じ,療養先を選定し,その決定には医療スタッフやCMSWのみならず,退院後も継続的に患者とかかわる地域担当者との連携が重要である.医療技術の発展に伴い,PDRの治療成績は向上してきたが,今回のC3症例では必ずしも良好な視機能改善を得たとはいえず,失明を防止し,進行を食い止めたにすぎない.幸い,いずれも今回の介入をきっかけに生活基盤も整い,その後の眼科・内科治療を継続できている.このように本疾患は治療のみならず社会的な背景を踏まえた対応が必要であり,手術をすることで治療が終了するわけではない.治療後のより早期の社会復帰をめざして向き合うことが重要である.これには時間をかけた対応が必要であるため,長期的な視点で術前の外来通院の時点から今後の療養を想定し,専門領域の治療のみならず医療福祉支援の介入を治療の一環として積極的に行う必要がある.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20142)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,C20193)中野早紀子,山本禎子,山下英俊ほか:増殖糖尿病網膜症手術後の良好な視力予後に関連する因子の検討.臨眼C61:C1747-1753,C20074)山下英俊,阿部さち,後藤早紀子ほか:糖尿病網膜症の予防と新しい治療.学術の動向15:26-32,C20105)花井徹,小柴裕介,渋木宏人ほか:50歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績.臨眼C55:1195-1198,C2001.6)Itoh-TanimuraCM,CHirakataCA,CItohCYCetal:RelationshipCbetweencompliancewithophthalmicexaminationspreop-erativelyandvisualoutcomeaftervitrectomyforprolifer-ativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:481-487,C2012.C