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正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果

2010年6月30日 水曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(113)827《原著》あたらしい眼科27(6):827.830,2010cはじめに正常眼圧緑内障(NTG)の治療方法については,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy(CNTGS)1,2)の大規模臨床試験結果によっても眼圧下降が有効であると報告されている.日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン3)においても,原発開放隅角緑内障と同様に眼圧下降がエビデンスに基〔別刷請求先〕湖.淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Abeno-ku,OsakaCity545-0021,JAPAN正常眼圧緑内障に対するラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果湖.淳*1鵜木一彦*2安達京*3稲本裕一*4岩崎直樹*5尾上晋吾*6杉浦寅男*7平山容子*8大谷伸一郎*9宮田和典*9*1湖崎眼科*2うのき眼科*3アイ・ローズクリニック*4稲本眼科医院*5イワサキ眼科医院*6尾上眼科*7杉浦眼科*8平山眼科*9宮田眼科病院EfficacyofSwitchingfromLatanoprosttoTafluprostinPatientswithNormal-TensionGlaucomaJunKozaki1),KazuhikoUnoki2),MisatoAdachi3),YuichiInamoto4),NaokiIwasaki5),ShingoOnoue6),ToraoSugiura7),YokoHirayama8),ShinichiroOhtani9)andKazunoriMiyata9)1)KozakiEyeClinic,2)UnokiEyeClinic,3)EyeroseClinic,4)InamotoEyeClinic,5)IwasakiEyeClinic,6)OnoueEyeClinic,7)SugiuraEyeClinic,8)HirayamaEyeClinic,9)MiyataEyeHospital目的:正常眼圧緑内障(NTG)眼における,ラタノプロスト(LAT)点眼からタフルプロスト(TAF)点眼への変更による効果を検討する.対象および方法:対象は,9施設においてLAT単剤点眼治療で3カ月以上眼圧が安定していたNTG眼で,TAFに変更し3カ月間経過観察できた101例である.眼圧,点状表層角膜症(SPK)の程度を,変更前と,変更後1,3カ月で比較した.検討は1症例1眼に対して行った.結果:眼圧は,変更前14.7±2.6mmHgから,1カ月14.2±2.5mmHg(p=0.003),3カ月14.0±2.6mmHg(p<0.001)と有意に下降した.変更時16mmHg以上の症例では17.5±1.6mmHgから,1カ月16.4±1.8mmHg,3カ月16.0±2.3mmHgと有意に眼圧下降効果がみられた(p<0.001).SPKの程度は,A1D1は,34眼から,1,3カ月で25眼,18眼に減少した.A1D1を超える症例数はほぼ変化はなかった.結論:正常眼圧緑内障において,LATからTAFへの変更により眼圧下降効果は維持し,角膜障害は減少した.Purpose:Toassesstheefficacyofswitchingfromlatanoprosttotafluprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG).SubjectsandMethods:Thisstudy,conductedat9affiliates,comprised101NTGpatientswhohadhadstableintraocularpressure(IOP)forover3monthswithlatanoprostmonotherapy,andwerethenswitchedtotafluprost.WeinvestigatedtheeffectonIOPandcorneaat3monthsaftertheswitch.Results:MeanIOPbeforeswitching(14.7±2.6mmHg)wassignificantlyreducedto14.0±2.6mmHgat3monthsafterswitching(p<0.001).InpatientswithIOP≧16mmHgbeforeswitching,themeanIOP(17.5±1.6mmHg)wassignificantlyreducedto16.0±2.3mmHgat3monthsafterswitching(p<0.001).Beforeswitching,therewere34patientswithA1D1superficialpunctuatekeratopathy(SPK)scores;thisnumberhaddecreased18patientsat3monthsafterswitching.TherewasnochangeinthenumberofpatientswithSPKscoreshigherthanA1D1.Conclusion:TafluprostmaintainedtheefficacyoflatanoprostandimprovedSPKinNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(6):827.830,2010〕Keywords:正常眼圧緑内障,ラタノプロスト,タフルプロスト,単剤点眼治療,点状表層角膜症.normal-tensionglaucoma,latanoprost,tafluprost,monotherapy,superficialpunctuatekeratopathy.828あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(114)づいた唯一の治療法であると推奨されている.NTGを含む緑内障治療薬としては,現在,プロスタグランジン(PG)関連薬が第一選択薬として使用されることが多い.タフルプロスト点眼液(タプロスR点眼液0.0015%)(以下TAF)は,2008年に発売された新しいPG関連薬,タフルプロストを有効成分とした眼圧下降点眼薬である4).タフルプロストのプロスタノイドFP受容体親和性は,同じPGF2a誘導体であるラタノプロスト点眼液(キサラタンR点眼液)(以下LAT)より約12倍高いことが確認されている5).また,TAFは,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたLATとの第III相比較試験6)において,眼圧下降効果と安全性がLATと同等であることが確認された.しかし,NTGに対するLATとTAFの眼圧下降効果の比較に関する報告はない.今回,筆者らは,LATによる単剤治療を3カ月以上継続しているNTGに対し,TAFに変更し眼圧下降効果を検討したので報告する.I対象および方法1.対象参加9施設で通院中の,眼圧変動がおおむね2mmHg以内と眼圧が安定しているNTG患者で,3カ月以上LATを単剤で投与されている101例(年齢64.4±13.5歳),男性42例,女性59例を対象とした.評価対象眼は,両眼点眼の場合,TAFに変更時の眼圧の高いほうの眼とし,同じ場合は右眼を対象とした.本試験はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,共同設置の倫理委員会の承認を得,患者から文書による同意を取得したうえで実施した.2.方法エントリー時にLATをTAFに変更し,変更前および変更1カ月後,3カ月後に,視力検査と眼圧測定を行い,角結膜所見を観察した.眼圧は,Goldmann圧平眼圧計により同一被検者に対して同一検者が測定した.角膜所見は,フルオレセイン染色による点状表層角膜症(SPK)をAD分類7)を用いて評価した.結膜所見は,日本眼科学会アレルギー性結膜炎ガイドライン8)に準じ,眼球結膜充血を,正常範囲,軽度,中等度,重度の4段階で評価した.また,変更後3カ月時に患者アンケート調査を行った.注し心地に関しては,刺激感,ゴロゴロ感,掻痒感,霧視,乾燥感,充血を,使いやすさに関しては,保存性,持ちやすさ,点眼しやすさ,開封しやすさ,デザイン性を,変更前の点眼液と比較して質問した.II結果眼圧は,変更前14.7±2.6mmHgに対し,変更1カ月後14.2±2.5mmHg,3カ月後14.0±2.6mmHg,と有意に眼圧が下降した(いずれもp<0.005,対応のあるt検定).変更時眼圧を15mmHg以下(65例)と16mmHg以上(36例)に分けても集計した.その結果,変更前15mmHg以下では,変更前13.2±1.5mmHgに対し,変更1カ月後12.9±1.9mmHg,3カ月後12.9±2.2mmHgとTAF点眼液への変更によって眼圧はほとんど変わらなかった.一方,変更前16mmHg以上では,変更前17.5±1.6mmHgに対し,変更1カ月後16.4±1.8mmHg,3カ月後16.0±2.3mmHgと有p=0.003a:全体での眼圧変化(n=101)眼圧(mmHg)1816141210p<0.001変更前~3カ月後の眼圧変化10(10%)59(58%)32(32%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降b:変更時16mmHg以上症例の眼圧変化(n=36)眼圧(mmHg)2018161412p<0.001p<0.001変更前~3カ月後の眼圧変化1(3%)18(50%)17(47%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降NS変更前1カ月後3カ月後NS例数(%)眼圧(mmHg)161412108変更前~3カ月後の眼圧変化9(14%)41(63%)15(23%)2mmHg以上上昇±2mmHg未満2mmHg以上下降c:変更時15mmHg以下症例の眼圧変化(n=65)図1点眼変更前後の眼圧変化(115)あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010829意に下降した(いずれもp<0.005,対応のあるt検定).また,変更前から変更3カ月後への眼圧変化値を,2mmHg以上上昇,±2mmHg未満,2mmHg以上下降の3つに分類し,症例全体,変更時16mmHg以上の症例および変更時15mmHg以下の症例について集計した.その結果,症例全体と変更時15mmHg以下の症例では,2mmHg以上上昇が各々10,14%,±2mmHg未満が各々58,63%,2mmHg以上下降が各々23,32%とほぼ同様の割合であったが,変更前16mmHg以上の症例では,それぞれ3%,50%,47%と眼圧下降の割合が高かった(図1).結膜充血は,変更前:軽度5例,5.0%であった.変更後は1カ月:軽度6例,5.9%,3カ月:軽度7例,6.9%であり,変化はなかった(表1).SPKは,変更前にA1D1:34例,A1D2:1例,A2D1:2例と36.6%にみられた.変更後には,1カ月にA1D1:25例,A1D2:3例と27.7%にみられた.3カ月にはA1D1:18例,A1D2:1例,A2D1:1例,A3D2:1例と20.8%にみられた(表2).結膜充血およびSPKで問題となる所見は認められず,これら副作用による中止例はなかった.使用感アンケートについて,注し心地は,刺激感,ゴロゴロ感,掻痒感,霧視,乾燥感,充血の項目に関する質問の結果,LATに比べTAFが良い事例もみられるが,大きな違いはなかった.使いやすさは,保存性,持ちやすさ,点眼しやすさ,開封しやすさ,デザイン性のよさの項目に関する質問の結果,総じてTAFのほうが使いやすかった(表3).特にTAFの便利な点の問い(複数回答可)に対し,保存のしやすさ,点眼しやすさ,持ちやすさ,開封しやすさ,デザイン性の順に印象が良かった.III考按LATから他のPG関連薬への切り替えによる報告はいくつかある9.13)が,今回のようにLATからTAFへ切り替えた場合の報告はない.本試験は,正常眼圧緑内障を対象としたLATからTAFへの切り替え試験である.本試験の結果,眼圧は,変更前に対し,変更1カ月後および3カ月後に有意に下降した.変更前眼圧が15mmHg以下と16mmHg以上に分けた場合,15mmHg以下では眼圧はほとんど変わらなかったのに対し,16mmHg以上では眼圧は,変更前に比べ有意に下降した.変更前の眼圧が15mmHg以下の場合,LATにより十分な眼圧下降が得られている患者が多いと考えられ,その結果,TAFに変更しても眼圧下降が得られなかった可能性が推察される.一方,変更前の眼圧が16mmHg以上の場合,LATによる眼圧下降が十分でない,あるいはさらに眼圧が下降する患者が含まれる可能性があり,その結果,TAFへの変更によって眼圧が下降した可能性が考えられる.安全性として,結膜充血およびSPKについて評価したが,SPKの認める症例が減少傾向であった以外に変化はなかった.SPKの減少が認められた理由として,LATに比べて主薬の濃度が低いことや,ベンザルコニウム塩化物の濃度がLATは0.02%,TAFが0.01%と低いことなどが考えられる.使用感について,注し心地はTAFとLATで大きな違いはなかったが,TAFの保存性の良さが患者にとって最も印象が良く,ついで点眼しやすさや容器の持ちやすさが良かった.昨今,アドヒアランスに配慮した治療の必要性が求められているが,長期管理を必要とする緑内障治療においても例外ではない.患者の点眼液に対する使用感は,緑内障治療への表3注し心地と利便性のアンケート結果(変更後3カ月時)(LATと比べたTAFについての結果)注し心地少ない同じ多い刺激感41%49%11%ゴロゴロ感40%55%5%掻痒感33%63%4%霧視31%59%10%乾燥感26%70%4%充血29%64%7%利便性そう思うわからない思わない保存しやすい83%6%11%持ちやすい68%18%14%点眼しやすい69%17%14%開封しやすい81%11%8%デザインが良い53%30%17%表1変更前から変更後1,3カ月での視力,角結膜所見(n=101)変更前1カ月3カ月矯正視力1.101.111.06点状表層角膜炎(SPK)37例37%28例28%21例21%結膜充血なし96例95%95例94%94例93%軽度5例5%6例6%7例7%中等度から重度0例0例0例表2点状表層角膜症(SPK)の変化(変更前→変更後1カ月→3カ月)A0A1A2A3D064→73→80D134→25→182→0→10→0→0D21→3→10→0→00→0→1D30→0→00→0→00→0→0(数値:各時期の例数)830あたらしい眼科Vol.27,No.6,2010(116)患者の積極的な参加が重要な要素と考えられることから,TAFの使用感の良さがアドヒアランスの向上や維持に期待できるものと考えられる.今回の検討は,TAFの点眼期間が3カ月と短期間の成績であるが,その眼圧下降効果は,LATと同等かそれ以上であることが確認できたと思われる.今後,長期的な経過観察やTAFとLATとの直接比較,LATで効果不十分例へのTAFの効果などの検討が必要である.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第2版):日眼会誌110:777-814,20064)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20035)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20046)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20087)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,20038)日本眼科学会アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン.日眼会誌110:100-140,20069)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,200310)KumarRS,IstiantoroVW,HohSTetal:Efficacyandsafetyofasystematicswitchfromlatanoprosttotravoprostinpatientswithglaucoma.JGlaucoma16:606-609,200711)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200812)湖.淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響─.あたらしい眼科26:101-104,200913)McKinleySH,SinghR,ChangPTetal:IntraocularpressurecontrolamongpatientstransitionedfromlatanoprosttotravoprostataVeteransAffairsMedicalCenterEyeClinic.JOculPharmacolTher25:153-157,2009***