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多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差

2010年10月29日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(127)1449《原著》あたらしい眼科27(10):1449.1453,2010cはじめに現在,国内で年間約100万件以上行われている白内障手術は,単に視力の改善を目的とするだけでなく,より優れた視機能(qualityofvision:QOV)を求めるようになっている.その背景には手術手技の向上や機器の改良などの要因のほかに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の進歩があげられる1).すなわちIOLに着色化や非球面化などの付加価値をつけ,網膜保護や高いコントラスト効果を期待するものである.近年登場した多焦点IOLは,従来の単焦点IOL挿入後に生じる調節機能喪失に対し,老視矯正の側面をもつ付加価値IOLである.この多焦点IOLを使用した白内障手術は2008年7月に先進医療として認可された.多焦点IOL挿入眼の視機能に関する報告2,3)は数多くされているが,高次収差について検討した国内での報告は少ない.今回筆者らは,2種類の多焦点IOLと単焦点IOL挿入眼の高次収差について比較検討した.I対象および方法2007年8月.2008年10月にバプテスト眼科クリニックにて白内障手術を施行し,その際に挿入した多焦点IOLのNXG1(ReZoomR,屈折型,AMO社)とSA60D3(ReSTORR,〔別刷請求先〕山村陽:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KiyoshiYamamura,M.D,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPAN多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差山村陽*1稗田牧*2中井義典*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学PostoperativeWavefrontAnalysisofMultifocalIntraocularLensKiyoshiYamamura1),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:多焦点眼内レンズ(IOL)挿入眼の高次収差について検討した.方法:多焦点IOLのNXG1(ReZoomR)とSA60D3(ReSTORR)および単焦点IOLのSN60ATを白内障手術によって6眼ずつ挿入した.術後3カ月の視力,コントラスト感度,高次収差(全高次収差,コマ様収差,球面様収差,球面収差,解析径:3,4,5,6mm)を測定した.結果:全症例で術後遠方矯正視力は1.0以上であり,遠方矯正下近方視力は多焦点IOLが有意に良好であった.コントラスト感度はSN60ATで高い傾向があった.全高次収差,コマ様収差,球面様収差は解析径に関係なくIOL間に有意な差はなかった.球面収差はSA60D3とSN60ATでは解析径が増えるにつれて増加したが,NXG1では解析径5,6mmでは減少した.結論:3種類のIOL挿入眼において,解析径5,6mmでは球面収差に違いがみられた.Wereporttheclinicalresultsofmultifocalintraocularlens(IOL)implantation.MultifocalrefractiveIOL(NXG1:ReZoomR),multifocaldiffractiveIOL(SA60D3:ReSTORR)andmonofocalIOL(SN60AT)wereimplantedin6eyeseach.At3monthspostoperatively,distanceandnearvisualacuity(VA)andcontrastsensitivityweretested,andwavefrontanalysiswasperformedwith3,4,5and6mmopticalzones.AlleyesachievedcorrecteddistanceVAof≧1.0,butshowedastatisticallysignificantdifferenceinuncorrectednearVAbetweenmultifocalandmonofocalIOL.TheSN60AThadatendencytowardhighercontrastsensitivityvaluethanthemultifocalIOLs.ThesphericalaberrationofSA60D3andSN60ATshowedincreasewhileincreasingopticalzones,butthatofNXG1waslesswiththe5and6mmzonesthanwiththe3and4mmzones.ThesedifferentIOLtypesresultedinmeasurablydifferentpostoperativesphericalaberrationpatterns.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1449.1453,2010〕Keywords:多焦点眼内レンズ,単焦点眼内レンズ,コントラスト感度,高次収差,球面収差.multifocalintraocularlens,monofocalintraocularlens,contrastsensitivity,higher-orderaberration,sphericalaberration.1450あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(128)回折型,Alcon社)および単焦点IOLのSN60AT(Alcon社)のそれぞれ6眼ずつを対象とした.採用基準は,年齢60歳以下で白内障以外に眼疾患がなく,角膜乱視1.0D以下の症例とした.術式は,上方強角膜2.4.3.0mm小切開にて超音波水晶体乳化吸引術を施行し,IOLを.内固定した.IOL度数は,眼軸長をIOLMaster(ZEISS社)で測定し,目標屈折度を多焦点IOLは遠方正視に,単焦点IOLはやや近視寄り(.0.5.1.0D)としてSanders-Retzlaff-Kraff/theoretical(SRK-T)式を用いて算出した.明所と暗所における瞳孔径はOPDscan(NIDEK社)で測定した.患者背景についてはIOL間に差は認められなかった(表1).検討項目は,術後3カ月の遠方と近方視力,コントラスト感度,高次収差とした.コントラスト感度はCSV-1000(VectorVision社)を用いて明所にて測定し,各周波数における対数コントラスト感度値とAULCF(areaunderthelogcontrastsensitivityfunction)値を調べた.高次収差はOPDscanを用いて術後の角膜と眼球の高次収差を暗所散瞳下にて測定した.測定項目は全高次収差(S3+S4+S5+S6),コマ様収差(S3),球面様収差(S4),球面収差とし,解析径を3,4,5,6mmとした.統計学的検討はOne-factorANOVA,Tukey-Kramer検定を用い,有意確率5%未満を有意とした.II結果1.視力遠方矯正視力は各IOL挿入眼で1.0以上であった.近方裸眼視力はNXG1,SA60D3,SN60ATでそれぞれ0.61,0.62,0.21であり,遠方矯正下近方視力はそれぞれ順に0.61,0.64,0.26であり,近方視力はNXG1とSA60D3がSN60ATに比べ有意に良好であった(p<0.01).術後屈折度数(自覚的等価球面度数)は,IOL間に有意差はなかった(表2).2.コントラスト感度すべての空間周波数でIOL間に有意差はなかったが,SN60ATの感度が高く,高周波数領域ではSA60D3の感度低下の傾向がみられた(図1).AULSF値を比較するとSN60AT(1.10±0.06),NXG1(1.07±0.14),SA60D3(1.02±0.23)の順に小さかったが,IOL間に有意差はなかった.表1患者背景NXG1SA60D3SN60ATp値症例数3例6眼4例6眼4例6眼性別(男/女)2/11/32/2年齢(歳)44.3±20.5(18.60)53.0±3.7(49.57)57.0±6.9(43.60)0.24眼軸長(mm)25.02±2.0726.23±1.3924.61±0.810.19明所瞳孔径(mm)3.72±0.583.62±0.474.04±0.820.51暗所瞳孔径(mm)5.89±0.925.40±0.765.54±1.010.63表2視力NXG1SA60D3SN60ATp値遠方裸眼視力1.221.080.63p<0.05遠方矯正視力1.341.181.170.29近方裸眼視力0.610.620.21p<0.01遠方矯正下近方視力0.610.640.26p<0.01近方矯正視力0.660.710.85p<0.01術後屈折度数(D).0.17±0.26.0.27±0.30.0.54±0.430.1700.20.40.60.811.21.41.61.82空間周波数(cycles/degree)361218対数コントラスト感度NXG1SA60D3SN60ATp=0.45p=0.11p=0.07p=0.06図1コントラスト感度すべての空間周波数でIOL間に有意差はなかったが,SN60ATの感度が高く,高周波数領域ではSA60D3の感度低下の傾向がみられた.(129)あたらしい眼科Vol.27,No.10,201014513.高次収差角膜については,各成分で解析径にかかわらずIOL間に有意差はなかった(図2).眼球については,全高次収差,コマ様収差,球面様収差は解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた(図3.5).球面収差は,解析径3,4mmではIOL間に有意差はなかったが,5mmではNXG1,SA60D3,SN60ATでそれぞれ0.02±0.08μm,0.11±0.12μm,0.14±0.05μmとなり,NXG1はSN60ATよりも有意に球面収差が少なかっ□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT10.80.60.40.203456全高次収差解析径(mm)3456解析径(mm)収差量(μm)10.80.60.40.20収差量(μm)10.80.60.40.20収差量(μm)10.80.60.40.20収差量(μm)0.070.050.070.150.120.180.310.250.340.540.490.60コマ様収差0.060.040.060.400.390.500.240.200.310.130.100.163456解析径(mm)球面様収差0.030.030.030.070.070.070.340.270.240.180.140.133456球面収差解析径(mm)0.020.010.010.060.040.030.300.210.160.160.110.08図2高次収差(角膜)平均値を記載.各成分で解析径にかかわらずIOL間に有意差はなかった.0.170.150.140.270.270.240.430.450.380.840.690.561.41.210.80.60.40.203456解析径(mm)収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT図3全高次収差(眼球)平均値を記載.解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた.1.41.210.80.60.40.203456解析径(mm)収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT0.140.130.130.180.220.210.360.370.320.700.550.45図4コマ様収差(眼球)平均値を記載.解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた.10.80.60.40.203456解析径(mm)収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT0.080.050.040.150.090.070.130.160.160.330.270.28図5眼球様収差(眼球)平均値を記載.解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた.1452あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(130)た(p<0.01).解析径6mmでは,それぞれ順に.0.24±0.28μm,0.19±0.16μm,0.25±0.06μmとなり,NXG1はSA60D3とSN60ATよりも有意に球面収差が少なかった(p<0.01).SA60D3とSN60ATでは解析径が増加するにつれ球面収差は増加していたが,NXG1では解析径5,6mmで球面収差が減少し,6mmでは負の球面収差を生じていた(図6).III考按近年,白内障術後のQOVが大きく問われるようになり,視力だけでなくコントラスト感度や高次収差などを用いた視機能評価が重要になっている.高次収差については,核白内障や非球面IOL,素材・デザインの異なるIOLに関する報告4.6)があるが,多焦点IOL挿入眼7.10)に関する国内での報告は少ない.今回,2007年に医療材料としての承認を受けたNXG1とSA60D3を使用して術後の視力,コントラスト感度,高次収差について検討した.視力については,近方裸眼視力と遠方矯正下近方視力ともに,NXG1とSA60D3がSN60ATに比べ有意に良好であり,多焦点IOLの挿入効果が現れていると考えられた.コントラスト感度は視覚系の空間周波数特性を測定し,通常の視力検査では不十分とされる見え方の質が評価できる自覚的検査である.SA60D3では,光量の分配と光の損失によるコントラスト感度低下が生じるとされ,瞳孔径が大きくなる夜間に遠方への入射光の配分を多くしてこの欠点を補っている11).一般に多焦点IOLでは単焦点IOLよりもコントラスト感度が低下し,特に回折型は高周波数領域で低下しや10.80.60.40.20-0.2-0.434******56解析径(mm)**:p<0.01収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT0.050.020.010.120.050.050.020.110.14-0.240.190.25図6球面収差(眼球)平均値を記載.解析径3,4mmではIOL間に有意差はなかったが,5,6mmではNXG1とそれ以外のIOL間に有意差を認めた.NXG1では解析径5,6mmで球面収差が減少し,6mmでは負の収差を生じていた.432Zone1234553.5D3.5D3.5D3.5D432Zone1234552.1mm4.3mm4.6mm3.45mm図8NXG1光学部の表面構造Zone2,4では近方視用に3.5Dの屈折力を加入した設計になっている.図7OPDmapNXG1ではZone2(白矢印)に一致して眼屈折力の高い円環状の部位がみられる.NXG1SA60D3SN60AT(131)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101453すいが,本研究ではIOL間に有意差はみられなかった.高次収差については,術後の角膜高次収差が各IOL挿入眼で差がないことを確認したうえで,眼球の高次収差を評価した.OPDscanは,検影法の原理で測定した眼屈折度数誤差分布(OPDmap)をZernike解析して収差成分を定量し,解析径を任意に設定できる波面センサーである12).本研究では,眼球の全高次収差,コマ様収差,球面様収差は解析径にかかわらずIOL間に有意差はなかったが,球面収差については,解析径5,6mmではNXG1と他のIOL間に有意差を認め,SN60ATとSA60D3では解析径が増えるにつれ増加していたが,NXG1では解析径5,6mmで減少していた.今回使用したIOLの光学部直径はすべて6.0mmとなっており,SN60ATは球面レンズ,SA60D3は中央3.6mmがアポダイズ回折構造,周辺が単焦点構造となっている球面レンズであるために,解析径の増加につれ球面収差は増加したものと考えられた.一方,NXG1は中央より同心円状の5つのゾーンを設け,Zone1,3,5は遠方視用として,Zone2,4は3.5Dの屈折力が加入された設計になっており近方視に用いられる(図7,8).このZone2,4によって,NXG1は光学部表面が球面ではなく非球面効果をもつような構造になり,結果的に解析径の増加につれ球面収差が減少したのではないかと考えられた.Hartmann-Shack型の波面センサーを用いて解析径5mmで球面収差を検討した海外の報告によると,Ortizら8)はReZoomR(0.17±0.07μm)とReSTORR(0.06±0.04μm)で有意差があり,Zelichowskaら9)もReZoomR(0.15±0.01μm)とReSTORR(0.09±0.00μm)で有意差があったとしている.また,Rochaら7)やTotoら10)は,ReSTORRのアポダイズ回折構造が非球面効果をもたらしている可能性があると報告している.しかし,Gatinel13)やCharmanら14,15)は,回折型の多焦点IOL挿入眼の高次収差測定に関して,解析に必要な測定ポイント数が少ないことや測定光源として近赤外光を用いると可視光に比べて回折効率が低下することなどを理由に,測定結果が不正確であると報告している.本研究では解析径5mmにおける球面収差はNXG1,SA60D3それぞれ0.02±0.08μm,0.11±0.12μmで,Ortizら8)やZelichowskaら9)の報告とは異なりNXG1のほうが球面収差が少なかったが,その後も経過観察可能であったNXG1挿入眼2例4眼の球面収差について,新たにHartmann-Shack型の波面センサーKR-1W(TOPCON社)を用いて検討した結果,解析径4mmでは0.07±0.02μm,6mmでは.0.10±0.04μmとなり,解析径6mmではOPDscanの測定結果と同様にNXG1では負の球面収差が生じていることが確認できた.今回,多焦点IOLのNXG1とSA60D3および単焦点IOLのSN60AT挿入眼の高次収差を比較検討した結果,解析径5,6mmにおいて球面収差に違いがあった.本論文の要旨は第32回日本眼科手術学会総会にて発表した.文献1)松島博之:眼内レンズ─最近の進歩.臨眼61:697-704,20072)中村邦彦,ビッセン宮島弘子,大木伸一ほか:アクリル製屈折型多焦点眼内レンズ(ReZoomR)の挿入成績.あたらしい眼科25:103-107,20083)ビッセン宮島弘子,林研,平容子:アクリソフRApodized回折型多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズ挿入成績の比較.あたらしい眼科24:1099-1103,20074)FujikadoT,KurodaT,MaedaNetal:Wavefrontanalysisofaneyewithmonoculartriplopiaandnuclearcataract.AmJOphthalmol137:361-363,20045)比嘉利沙子,清水公也,魚里博ほか:非球面および球面IOL挿入眼の高次波面収差の比較.臨眼59:1089-1093,20056)渕端睦,二宮欣彦,前田直之ほか:光学部および支持部の素材,デザイン,光学特性の異なる眼内レンズ挿入眼の高次収差の比較.臨眼61:1255-1259,20077)RochaKM,ChalitaMR,SouzaCEetal:WavefrontanalysisandcontrastsensitivityofamultifocalapodizeddiffractiveIOL(ReSTOR)andthreemonofocalIOLs.JRefractSurg21:808-812,20058)OrtizD,AlioJL,BernabeuGetal:Opticalperformanceofmonofocalandmultifocalintraocularlensesinthehumaneye.JCataractRefractSurg34:755-762,20089)ZelichowskaB,RekasM,StankiewiczAetal:Apodizeddiffractiveversusrefractivemultifocalintraocularlenses:opticalandvisualevaluation.JCataractRefractSurg34:2036-2042,200810)TotoL,FalconioG,VecchiarinoLetal:Visualperformanceandbiocompatibilityof2multifocaldiffractiveIOLs.JCataractRefractSurg33:1419-1425,200711)茨木信博:多焦点眼内レンズの最近の進歩.臨眼62:1035-1039,200812)鈴木厚,大橋裕一:OPDスキャンの臨床応用.あたらしい眼科18:1363-1367,200113)GatinelD:LimitedaccuracyofHartmann-ShackwavefrontsensingineyeswithdiffractivemultifocalIOLs.JCataractRefractSurg34:528-529,200814)CharmanWN,Montes-MicoR,RadhakrishnanH:CanwemeasurewaveaberrationinpatientswithdiffractiveIOLs?.JRefractSurg33:1997,200715)CharmanWN,Montes-MicoR,RadhakrishnanH:Problemsinthemeasurementofwavefrontaberrationforeyesimplantedwithdiffractivebifocalandmultifocalintraocularlenses.JRefractSurg24:280-286,2008***

SA40N とクラリフレックスの術後比較

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1(129)5610910-1810/09/\100/頁/JCLSあたらしい眼科26(4):561563,2009cはじめにわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らはクラリフレックスRにおけるNEIVFQ-25(The25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire)の実施に伴い,SA40NでのNEIVFQ-25を比較検討した.NEIVFQ-25Ver1.3は国際的に広く認められたQOL(qualityoflife)尺度であり,その日本語版は計量心理学的な手法に則り,信頼性と妥当性が確認されたものである1).VFQ-25は視覚関連QOLを測定する25項目からなる.I対象および方法フォルダブル眼内レンズはAMO社製クラリフレックスRで,2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCS(水晶体混濁分類法)III分類にて核16,ASC(前下混濁)とPSC(後下混濁)15の150例(平均年齢68.3±11.4歳,男性70例,女性80例)を対象とした.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引術,内固定とした.予測屈折値は優位眼は-0.25D-0.75D,僚眼は-1.75D-2.00Dとした.多焦点レンズでは2006年4月2007年4月の期間に術前視力0.7以下,術後視力1.0以上で,白内障の程度はLOCSIII分類にて核16,PSC15の15例(5976歳,平均年齢67歳,男性7例,女性8例)を対象とした.観察期間は90365日(平均290日)であった.術式は同一術者により3.0mm上方角膜切開,超音波乳化吸引,内固定とした.予測屈折値は0+0.50Dとした.使用したレンズはAMO社製フォルダブル屈折型多焦点眼内レンズ(SA40N:2007年12月にわが国での販売は終了している)で近方加入度は+3.50Dであり,適応基準は,角膜乱視-2.00D以内であること,夜間の運転を職業としないこと,明室で瞳孔径〔別刷請求先〕佐藤功:〒253-8558茅ヶ崎市幸町14-1茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科Reprintrequests:IsaoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenter,14-1Saiwaicho,ChigasakiCity,Kanagawa253-8558,JAPANSA40NとクラリフレックスRの術後比較佐藤功石原兵治高梠智彰吉田正至茅ヶ崎徳洲会総合病院眼科PostoperativeComparison:SA40Nvs.CLARIFLEXRIsaoSato,HeijiIshihara,TomoakiKourokiandTadashiYoshidaDepartmentofOphthalmology,ChigasakiTokushukaiMedicalCenterわが国では画一的な診療報酬点数のなかで,種々の眼内レンズが使用されている.今回筆者らは国内での使用が少ない多焦点眼内レンズが,満足度を十分得られているか検討した.対象は3.0mmの上方角膜切開よりSA40Nを挿入した5976歳までの15例で,患者満足度の評価方法はVFQ-25Ver1.3を用いた.検討項目に対して,ほぼ全項でポイントの上昇を認めた.SA40Nでの評価は,当院におけるVFQ-25Ver1.3を用いたクラリフレックスR(CLARI-FLEXR)での評価を上回った.VariousintraocularlensesareusedinuniformmedicaltreatmentfeepointsinJapan.WeinvestigatedwhetherornottherewasacorrespondinghighlevelofsatisfactionwithamultifocalintraocularlensthatisnotwidelyusedinJapan.TheSA40Nwasinsertedinto15patients,from59to76yearsofage,viaa3.0mmuppercornealincision.VFQ-25Ver1.3wasusedasanecacymeasure,forpatientsatisfaction.Thescoreofallpatientsincreasedinalmostallscales.ThescoreforSA40NexceededthatforCLARIFLEXRinthehospitalusingVFQ-25Ver1.3.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):561563,2009〕Keywords:多焦点眼内レンズ,単焦点眼内レンズ,VFQ-25Ver1.3.multifocalintraocularlens,monofocalin-traocularlens,VFQ-25Ver1.3.———————————————————————-Page2562あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(130)3.5mm以上であること2),白内障以外に視力に影響を及ぼす眼疾患がないこと,両眼挿入可能であること,多焦点機能について理解し十分なインフォームド・コンセントの得られたものであった3).検討項目は術後1年において5mの遠方視力,遠方視時の等価球面度数,近方視力(任意距離),近点距離,VFQ-25の測定(12項目),多焦点レンズに関連した項目として遠方,近方視時の満足度,眼鏡装用状況,グレア・ハローの有無とした.II結果術後視力(図1,多焦点レンズ)は,遠方視では裸眼視力1.0以上は74%だが,矯正視力で1.0以上出なかったものは1眼のみであった.近方視力では裸眼視力0.6以上が50%だが,矯正視力では全症例において1.0以上であった.等価球面度数と近点距離(図2,多焦点レンズ)では2カ月後にやや一時的に遠視化するものの3カ月後以降では予測どおり近点距離が平均32cmであった.白内障術前後のVFQ-25スコア(図3)では,大鹿ら4),当院でのフォルダブル眼内レンズ,当院での多焦点レンズの3グループにてスコアをそれぞ0102030405060708090100:大鹿ら術前:大鹿ら術後:フォルダブルIOL術前:フォルダブルIOL術後:多焦点IOL術前:多焦点IOL術後VFQ-25スコア総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図3白内障手術前後のVFQ25スコア(手術前後で3グループとも改善):大鹿ら:フォルダブルIOL:多焦点眼内レンズVFQ-25スコア051015202530総合得点心の健康役割制限自立社会生活機能色覚周辺視野運転遠見視力行動近見視力行動目の痛み全体的見え方図4VFQ25スコア改善度0.5-0.2500.250.50.7511.251.51.751週間1カ月2カ月3カ月1週間1カ月2カ月3カ月24262830323436384042(cm)(D)術後観察期間術後観察期間近点距離等価球面度数図2等価球面度数と近点距離(多焦点レンズ)1.0以上15眼(50%)30眼(100%)1.0以上遠方近方裸眼矯正0.7~1.07眼(23%)0.7未満1眼(3%)0.91眼(3%)1.0以上22眼(74%)0.4~0.613眼(43%)0.4~0.613眼(43%)0.4未満2眼(7%)0.6以上15眼(50%)1.0以上30眼(100%)1.0以上29眼(97%)図1術後視力(多焦点レンズ)(n=30)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009563(131)れ表示した.白内障によって患者の術前のQOLは著しく障害されているが,術後のQOLは大鹿らと同様に改善した.当院でのフォルダブル眼内レンズを用いたVFQスコアも,大鹿らと類似した結果が得られた.3グループにおける術後スコアから術前スコアをそれぞれ引いたものを改善度(図4)とした.全体的見え方,近見視力行動,遠見視力行動,社会生活機能,心の健康,総合得点の6項目は多焦点レンズにおいて他よりも改善度が上回った.近見視力行動,遠見視力行動,運転,役割制限において,4項目は当院におけるフォルダブル眼内レンズは大鹿らを上回っていたが,これは狙い度数の違いによるものと考えられた.心の健康や総合得点では大鹿らのフォルダブル眼内レンズと当院での多焦点レンズが当院でのフォルダブル眼内レンズを上回った.全体的見え方,心の健康,総合得点では多焦点眼内レンズが最も高い改善度を認めた.III考按多焦点眼内レンズは術後の眼鏡への依存度を軽減するために使用されるもので,それがこのレンズの特徴であり,多焦点眼内レンズを使用した場合,理論上も臨床上も視機能低下が起きることが知られている(コントラスト感度低下,グレア・ハローなど)511).一方,VFQ-25は設問前の患者への注意にあるように,眼鏡(またはコンタクトレンズ)矯正下での視機能や見え方への満足度を調べるものである.患者への説明には,「もし,眼鏡やコンタクトをお使いの方は使っているときのことを答えてください.時々しか使わない場合でも,すべての質問に使っているものとして答えてください.」とあるため,このアンケートでは多焦点眼内レンズの「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは反映されず,「視機能低下」の面のみが反映されることが予想される.実際のスコアにおいて「自立」の改善度が低いことから,「眼鏡依存度の減少」というQOLへのメリットは予想どおり反映されなかった.しかし「視力行動」と「全体的見え方」の改善度が高いことからは,「視機能低下」の面のみが反映される予想とは異なる結果が得られた.これはQOLの改善度において,白内障に対する「水晶体再建術」の効果が高いためと思われた.わが国では画一的な診療報酬点数のなかで,さまざまな眼内レンズが使用されているが,SA40Nの使用によりVFQ-25スコアでの術後総合得点改善率は28.3%が32.8%になる程度であった.しかしSA40Nは新しい多焦点眼内レンズに比べ成績が不良であることも報告されており,新しい回折型多焦点眼内レンズとは評価が異なる.それらを使用することによる満足度を患者が十分得られているかどうかは,屈折矯正手術に使用するアンケート方法12,13)などを用いたQOLの評価に基づき,今後の「水晶体再建術」の眼科診療報酬点数は,術式などによる差別化の必要があることを示唆していると思われた.文献1)大鹿哲郎,杉田元太郎,林研ほか:白内障手術による健康関連qualityoflifeの変化.日眼会誌109:753-760,20052)谷口重雄:多焦点眼内レンズ屈折型多焦点眼内レンズ(HOYASFX-MV1).あたらしい眼科25:1081-1086,20083)江口秀一郎:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズの適応とインフォームド・コンセント.あたらしい眼科25:1049-1054,20084)大鹿哲郎:白内障手術とQOL.日本の眼科76:1399-1402,20055)根岸一乃:眼内レンズ選択多焦点眼内レンズ─屈折型.眼科手術21:293-296,20086)荒井宏幸:多焦点眼内レンズ回折型レンズ(アクリリサ)の術後成績.あたらしい眼科25:1076-1080,20087)藤田善史:多焦点眼内レンズレストアの術後成績.あたらしい眼科25:1071-1075,20088)大木孝太郎:多焦点眼内レンズテクニス回折型多焦点眼内レンズの治療成績.あたらしい眼科25:1066-1070,20089)佐伯めぐみ:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズ挿入術の術前・術後検査.あたらしい眼科25:1061-1065,200810)林研:多焦点眼内レンズ屈折型と回折型レンズの特徴と使い分け.あたらしい眼科25:1087-1091,200811)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズ多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,200812)ScheinOD:Themeasurementofpatient-reportedout-comesofrefractivesurgery:therefractivestatusandvisionprole.TransAmOphthalmolSoc98:439-469,200013)PesudovsK,GaramendiE,ElliottDB:Thequalityoflifeimpactofrefractivecorrection(QIRC)questionnaire:Developmentandvalidation.OptomVisSci81:769-777,2004***