《原著》あたらしい眼科40(9):1238.1243,2023c原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する水晶体再建術の影響北村優佳力石洋平澤口翔太新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CEvaluationofRetinalVascularDensityafterCataractSurgeryinPrimaryAngleClosureGlaucomaYukaKitamura,YoheiChikaraishi,ShotaSawaguchi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:原発閉塞隅角病(PACD)における水晶体再建術後の視神経乳頭周囲血管密度(p-VD)および黄斑部血管密度(m-VD)の変化を評価すること.対象および方法:2020年C6.12月に琉球大学病院にて水晶体再建術を行ったPACD症例C13例C21眼を対象とした.疾患の内訳は原発閉塞隅角症(PAC)がC10眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)が11眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)がC0眼であった.術前,術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月の眼圧,前眼部形状変化,網膜血管密度を評価した.光干渉血管断層撮影を用いて視神経乳頭を中心としたC4.5×4.5Cmmの上方,耳側,下方,鼻側部位の網膜血管密度をCp-VDとして測定し,中心窩を中心としたC6×6Cmmの上方,耳側,下方,鼻側,中央部位の網膜血管密度をCm-VDとして測定した.結果:水晶体再建術後,眼圧は術後C1カ月で有意に下降した.p-VDは術後C1週で下方において有意に増加した.その後,上方・下方では術後C1週から術後C1カ月で有意に減少したが,術後C6カ月ではその変化は消失した.m-VDは術前後で一貫して変化しなかった.結論:PACおよびCPACSにおける水晶体再建術後の網膜血管密度変化は一過性かつ限局的であり網膜への影響が小さいことが示唆された.CPurpose:ToCevaluateCchangesCinCperipapillaryCvasculardensity(pVD)andCmacularCvasculardensity(mVD)CafterCcataractCsurgeryCinCprimaryCangle-closuredisease(PACD).CSubjectsandMethods:Twenty-oneCeyesCofC13CPACDpatientswereincluded.Teneyeshadprimaryangleclosure(PAC),11eyeshadprimaryangleclosuresus-pect(PACS),and0eyeshadprimaryangle-closureglaucoma(PACG).Usingopticalcoherencetomographyangi-ography,pVDandmVDweremeasuredina4.5×4.5Cmmareacenteredontheopticdiscanda6×6Cmmareacen-teredConCtheCcentralCfovea.CEvaluationCwasCperformedCpreoperativelyCandCatC1Cweek,C1Cmonth,C3Cmonths,CandC6CmonthsCpostoperatively.CResults:AtC1-weekCpostoperative,CpVDCincreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCarea,CandCthenCdecreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCandCsuperiorCareasCfromC1-weekCtoC1-monthCpostoperative.CHowever,CthoseCchangesCdisappearedCatC6-monthsCpostoperative.CNoCchangeCinCmVDCwasCobservedCbetweenCtheCpre-andCpostoperativeCperiods.CConclusions:TheCchangesCinCretinalCvascularCdensityCafterCcataractCsurgeryCinCPACCandCPACSweretemporaryandlimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1238.1243,C2023〕Keywords:原発閉塞隅角症,水晶体再建術,血管密度,光干渉断層血管撮影,眼圧.primaryangleclosure,cata-ractsurgery,vesseldensity,opticalcoherencetomographyangiography,intraocularpressure.Cはじめにい(primaryCangleCclosuresuspect:PACS)などのCPACG緑内障診療ガイドライン(第C5版)では原発閉塞隅角緑内の前駆病変のすべてを包括する呼称として,新たに原発閉塞障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と,原発閉塞隅角病(primaryangleclosuredisease:PACD)という用語隅角症(primaryCangleclosure:PAC)や原発閉塞隅角症疑が定義された1).PACDの治療は根本的には閉塞隅角の解除〔別刷請求先〕北村優佳:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YukaKitamura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1238(116)表1患者背景(平均値±標準偏差)症例13例21眼年齢(歳)C63.85±7.56C性別男性3例C5眼(2C3.8%)女性10例C16眼(C76.2%)病型PAC11眼(52.4%)PACS10眼(47.6%)PACG0眼(0%)術前眼圧(mmHg)C15.57±3.22緑内障・高眼圧症治療薬の使用14眼(66.7%)術前屈折値(D)C0.41±3.26C前眼部COCT所見ACD(mm)C2.08±0.26TISAC500(mmC2)C0.08±0.03PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,PACG:原発閉塞隅角緑内障,ACD:前房深度,TISA:trabecularCirusCspacearea.が必要であり,Azuara-Blancoら2)が瞳孔ブロック機序の存在するCPACDに対し水晶体再建術の有効性を報告し,わが国でも水晶体再建術が第一選択になりつつある.しかし,水晶体再建術は,術後合併症として.胞様黄斑浮腫や糖尿病網膜症の進行,加齢黄斑変性の発症など,手術侵襲による網膜への影響が示唆されている3).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)を用いた検討では,水晶体再建術後に黄斑部の網膜厚や脈絡膜厚,体積が増加し,加齢黄斑変性が発症する可能性が報告されており4,5),網脈絡膜変化の原因として,手術侵襲による血液網膜関門の破綻,網膜血管密度の増加,硝子体牽引,術中術後の低眼圧,炎症による機序などが提唱されているが3),水晶体再建術後における眼底変化の正確な病態や機序はいまだ不明である.網膜血流を測定する方法として非侵襲的に網脈絡膜循環を描出する光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)があり,近年,網脈絡膜疾患だけでなく,緑内障においても網膜血流との関連が報告されている6).2018年にCInら7)はOCTAを用いて開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)患者の線維柱帯切除術後に,視神経乳頭周囲の網膜血管密度を測定し,眼圧下降により網膜血管密度が増加したことを報告した.一方で,PACD眼では水晶体再建術後に眼圧が下降することが示されている8.10)が,これまでPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の評価はされていない.本研究ではCOCTAを用いてCPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を後ろ向きに評価した.図1TISA500AOD500,角膜後面,AOD500と平行に強膜岬(SS)から引いた線および虹彩表面で囲まれた面積I対象および方法2020年C6.12月に,琉球大学病院にて水晶体再建術を行った患者のうち,術後C6カ月まで経過観察が可能であり,かつCOCTAで評価が可能であったCPACD患者C13例C21眼(男性C3例C5眼,女性C10例C16眼,年齢C63.85C±7.56歳)を対象とした.PACDは,前眼部所見および隅角所見から,Inter-nationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOpthal-mology(ISGEO)分類11)に従い定義した.PACGに関しては,MD(meandeviation)値C.6CdB未満を対象とした.疾患の内訳はPACが10眼,PACSが11眼,PACGが0眼であった.水晶体再建術は緑内障専門医C3人が全症例でC2.4Cmm耳側角膜切開にて行った.屈折値は等価球面度数を用いて求めた.症例の詳細を表1に示す.検討項目は眼圧,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角形状および網膜血管密度とした.眼圧はノンコンタクトトノメーターを用いて,3回測定した平均値を採用した.ACDと隅角形状は前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定し,角膜後面から水晶体前面または眼内レンズ前面までの距離をCACDと定義した.また,角膜後面の強膜岬(scleralspur:SS)からC500Cμmの点から垂直に下した虹彩までの距離であるCAOD(angleopen-ingdistance)500,角膜後面,AOD500と平行にCSSから引いた線および虹彩表面で囲まれた面積のCtrabecularCirisCspacearea(TISA)500を隅角形状として評価した(図1).網膜血管密度はスウェプトソースCOCTA(SS-OCTA)(DRI-OCTTriton,トプコン)を用いて,網膜表層の視神経乳頭周囲血管密度(peripapillaryCvesseldensity:p-VD)および黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:m-VD)を評価した.p-VDは視神経乳頭周囲を中心とした4.5C×4.5CmmC図2OCTAを用いた網膜血管密度の測定a:視神経乳頭周囲血管密度(p-VD).b:黄斑部血管密度(m-VD).平方をスキャンしCETDRS(EarlyCTreatmentCDiabeticCReti-nopathyStudy)サークル内の直径C3Cmmの範囲を上方,耳側,下方,鼻側の部位で測定(図2a),m-VDは黄斑部中心窩を中心としたC6C×6Cmm平方をスキャンしCETDRSサークル内の直径C3Cmmの範囲を,上方,耳側,下方,鼻側,中央の部位で測定した(図2b).網膜血管密度の解析はCSS-OCTAに内蔵されている自動解析ソフトで行った.各項目は,水晶体再建術の術前,水晶体再建術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月で測定した.網膜硝子体疾患を有する症例,取得した画像が不鮮明で解析困難な症例は除外した.統計解析は対応のある一元配置分散分析を使用し,すべての時点での比較を行い,最終的にCBonferroni法で補正した.p<0.05の場合に,統計学的に有意と判断した.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:1267).CII結果屈折値は術前でC0.41C±3.26D,術後C1週でC.0.49±0.66Dであり,術前と比較して有意差はみられなかった.眼圧の経過を図3aに示す.眼圧は術前でC15.57C±3.22mmHg,術後C1週でC14.94C±2.80mmHg,術後C1カ月でC14.31±2.65mmHg,術後C3カ月でC14.69C±2.56CmmHg,術後C6カ月でC14.55C±2.51CmmHgであり,術前と比較して術後1カ月のみ有意に眼圧が下降した(p<0.05).全症例のうち,14眼は術前に緑内障・高眼圧症治療薬が投与されていた.また,術後の観察期間中はすべての症例で緑内障・高眼圧症治療薬は使用されなかった.前眼部COCTにおけるCACDとCTISA500の結果を図3bに示す.ACDは術前でC2.08C±0.26mm,術後C1週でC3.56C±0.30Cmm,術後C1カ月でC3.72C±0.21Cmm,術後C3カ月でC3.76C±0.22Cmm,術後C6カ月でC3.79C±0.19Cmmであり,すべての時点で術前と比較して深くなった(p<0.01)(図3b-1).TISA500は術前でC0.08C±0.03Cmm2,術後C1週でC0.14C±0.06Cmm2,術後C1カ月でC0.16C±0.06Cmm2,術後C3カ月でC0.15C±0.05Cmm2,術後C6カ月でC0.15C±0.06Cmm2であり,すべての時点で術前より有意に開大した(p<0.01)(図3b-2).p-VDとCm-VDの経過を図4に示す.p-VDは視神経乳頭上方において,術前でC46.48%,術後C1週でC48.70%,術後C1カ月でC45.35%,術後C3カ月でC45.99%,術後C6カ月で45.33%であった.術後C1週と比較して術後C1カ月,術後C3カ月,術後C6カ月で有意に低下がみられた(p<0.05)が,術前と比較して術後各測定時点での変化はなかった.視神経乳頭下方では,術前でC46.68%,術後C1週でC49.82%,術後C1カ月でC46.07%,術後C3カ月でC46.32%,術後C6カ月でC47.07%であった.術後C1週と比較し術後C1カ月,術後C3カ月で有意に低下した(p<0.05)が,術前との比較では術後C1週で有意に増加した(p<0.05)のみであった.視神経乳頭耳側では,術前でC49.06%,術後C1週でC48.67%,術後C1カ月で48.34%,術後C3カ月でC48.04%,術後C6カ月でC47.94%,視神経乳頭鼻側では,術前でC45.01%,術後1週でC44.61%,術後C1カ月でC44.64%,術後C3カ月でC44.26%,術後C6カ月でC44.43%であり,術前後,および術後の経過中に変化はみられなかった(図4a).m-VDはすべての測定時点,測定部位において有意な変化はなかった(図4b).CIII考按本研究ではCPACD眼における水晶体再建術後の眼圧,前房深度,隅角形状,p-VDおよびCm-VDの変化を術後C6カ月まで評価した.水晶体再建術により前房深度は深くなり,TISAは拡大した.術後C1カ月時点で眼圧は有意に下降したが,その後は有意な変化はみられなかった.また,視神経乳頭周囲において,術後C1週で一部の領域で網膜血管密度の上昇がみられたが,その後,網膜血管密度は低下した.術後C6カ月の時点では,視神経乳頭周囲,黄斑部のいずれの領域においても,網膜血管密度は術前と差がなかった.水晶体再建術後の網膜血管密度の変化は,既報では眼圧のa*眼圧(mmHg)20181614121086420術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差*:p<0.05,Bonferroni法b-1***b-2***4.5*0.25*0.500術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差平均値±標準偏差ACD:前房深度TISA500:TrabecularIrusSpaceArea500*:p<0.01,Bonferroni法*:p<0.01,Bonferroni法4TISA500(mm2)0.23.532.52ACD(mm)0.150.11.510.05図3水晶体再建術前後における眼圧,ACD,TISAの経過a:水晶体再建術前後における眼圧の変化.Cb-1:水晶体再建術前後におけるCACDの経過.Cb-2:水晶体再建術前後におけるCTISAの経過.C*b5550454035a55p-VD(%)50453025201510403530術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月上方耳側下方鼻側上方耳側下方鼻側中央平均値±標準偏差平均値±標準偏差p-VD:視神経乳頭周囲血管密度m-VD:黄斑部血管密度*:p<0.05,Bonferroni法図4水晶体再建術前後における網膜血管密度の経過a:水晶体再建術前後におけるCp-VDの経過.Cb:水晶体再建術前後におけるCm-VDの経過.変動,あるいは術後の炎症による影響が指摘されていHiltonら14)は水晶体再建術後の眼圧レベル低下により拍動る3,12,13).PACD眼に対する水晶体再建術は,前房容積の拡性眼血流が改善することを報告した.また,POAG患者に大による眼圧の低下を引き起こすと考えられており10),対する線維柱帯切除術後C3カ月における報告7)では,眼圧は下降し,視神経乳頭周囲血管密度が増加したと報告されている.また,観察期間中,視神経乳頭周囲血管密度は術後C1週でわずかに減少したが,その後は徐々に増加し術後C3カ月で術前と比較して有意な増加がみられた.眼圧下降と視神経乳頭血管密度の増加は有意に関連していたと述べられている.本研究においてもCPACD眼は水晶体再建術後,ACDは深くなり眼圧は術後C1週で不変,1カ月で下降した.本研究ではp-VD,m-VDは術後C1週で一部増加したのみで,眼圧下降がみられた術後C1カ月での増加はなく,眼圧と関連した変化はみられなかった.Zhaoら12)は水晶体再建術後の黄斑部の網膜血管密度増加を報告しており,彼らのコホートでは水晶体再建術後にC2.80C±1.12CmmHgの眼圧下降がみられているが,本研究では術後C1カ月時点でC0.87C±2.09CmmHgと下降幅が小さかった.既報では術前の眼圧が低い症例は水晶体再建術後の眼圧下降が低いことが示唆されており10),本検討の対象眼は,術前に緑内障・高眼圧症治療薬を使用されている症例がC21眼中C14眼あり,眼圧上昇をきたしている症例は少なかったため,眼圧の下降幅が小さく,網膜血管密度に影響をおよぼさなかった可能性がある.水晶体再建術については,Pilottoら15)が術後の局所的な炎症反応により血管系の変化が起こることを示唆している.Zhouら3)は術後の網膜血管密度増加を報告しているが,その原因として,炎症反応によりプロスタグランジンの放出が誘発され,血液-房水関門の崩壊を引き起こし,房水に他の炎症メディエーターが蓄積され,硝子体に拡散することで網膜血管系の一時的な拡張と,網膜毛細血管の開通を引き起こすことを提唱している.また,合併症のない水晶体再建術後の炎症反応は術後C1週からC1カ月の間に最大となり,2.6カ月後にはベースラインに戻ると報告されている5).本研究の結果も術後C1週時点でのCp-VD増加,その後のCp-VD低下という網膜血管密度変化と術後炎症の転機は,既報と合致するものであった.これまで水晶体再建術後にCOCTAにて視神経乳頭周囲血管密度および黄斑部血管密度を測定した既報3)と,黄斑部血管密度のみを測定した既報12,13)では,術後にすべての追跡期間で血管密度の増加がみられている.本研究では,既報3,12,13)と異なり,p-VDの増加は限定的で,m-VDは有意な変化はなかった.原因として本研究の対象がCPACD眼であることや,既報3,12,13)と比較し若年であり,水晶体核硬度が低かった可能性や,手術時の切開幅が本研究ではC2.4Cmmと既報3)のC2.8Cmm切開より小さいことなどから,炎症惹起が少なかったことが考えられる.超音波乳化吸引装置による累積使用エネルギー値と網膜血管密度変化は相関することが報告されており3),柔らかい水晶体核や極小切開水晶体再建術は,網膜血管密度への影響が小さい可能性が示唆される.また,m-VDはCp-VDに比べて血管密度が低く,眼圧変化や炎症の影響を受けにくい可能性があるが,水晶体再建術後に網膜の部位別に血管密度変化の比較を行った報告はなく,まだ十分には検討されていない.最後に,本研究の限界としてつぎの二点があげられる.1点目は対象についてである.今回は,条件を満たす症例がいなかったためCPACGは含まれず,PACSおよびCPACが対象となった.緑内障性視神経症は網膜血管密度へ影響を及ぼすことが推察され,PACGを含む検討では異なる結果となった可能性がある.2点目は術前後の拡大率の違いである.今回はCOCTA測定時に屈折値補正は行っていないが,術前後の屈折値の変化により,OCTA撮像範囲が変化した可能性が考えられる.本研究では術前と比較し術後の屈折値に有意差はなかったものの,対象症例では遠視眼が多く,術前後の拡大率の違いが結果に影響を与えた可能性も推察される.これら二点は本研究の限界であり,今後はさらなる多数例での観察と屈折値を考慮した測定が必要であると考える.今回,PACDにおける水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を検討した.既報3,12,13)と同じく術後C1週時点ではp-VDの増加がみられたが,m-VDの増加はみられず,網膜血管密度の変化は限定的であった.本研究におけるCPACD眼に対する侵襲がきわめて少ない極小切開水晶体再建術は,前房深度増大とCTISA増加の有用性と,網膜血流や網膜血管密度への影響が軽微であることを示す結果となった.水晶体再建術における網脈絡膜血管に対する影響は,OCTAにおける網膜血管の層別解析や脈絡膜血流の解析によるさらなる検討が必要である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)ZhouCY,CZhouCM,CWangCYCetal:Short-termCchangesCinCretinalCvasculatureCandClayerCthicknessCafterCphacoemul-si.cationsurgery.CurrEyeResC45:31-37,C20204)NodaY,OgawaA,ToyamaTetal:Long-termincreaseinCsubfovealCchoroidalCthicknessCafterCsurgeryCforCsenileCcataracts.AmJOphthalmolC158:455-9Ce1,C20145)FalcaoMS,GoncalvesNM,Freitas-CostaP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