‘原発開放隅角緑内障’ タグのついている投稿

緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析

2012年7月31日 火曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(7):984.987,2012c緑内障眼・視神経乳頭血流の波形変化:LSFG-NAVITMによる解析杉山哲也柴田真帆小嶌祥太植木麻理池田恒彦大阪医科大学眼科学教室AnalysisofWaveformsObtainedfromPeriodicChangeinOpticNerveHeadBloodFlowofGlaucomaPatientsUsingLaserSpeckleFlowgraphy-NAVITMTetsuyaSugiyama,MahoShibata,ShotaKojima,MariUekiandTsunehikoIkedaDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege目的:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)によって視神経乳頭血流の波形解析を行い,緑内障性視野障害との関連を検討した.対象および方法:対象は広義・原発開放隅角緑内障(POAG)34例と正常対照20例,各1眼を用いた.LSFG-NAVITMによって血流波形パラメータを算出し,再現性やHumphrey視野meandeviation(MD)値,MDslopeとの間の関連を検討した.結果:変動係数はPOAG,正常対照ともにおおむね10%未満で良好な再現性を示した.Skew,Blowouttime(BOT)はMD値との間に有意な相関を認めた.また,局所虚血型乳頭において,MDslopeとBOT,Fallingrateとの間には有意な相関を認めた.結論:視神経乳頭血流の波形解析によるパラメータがPOAGの進展に関与している可能性が示唆された.Purpose:Toinvestigatethecorrelationbetweenglaucomatousvisualfielddefectandwaveformsobtainedfromperiodicchangeinopticnervehead(ONH)bloodflow,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised34patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and20normalvolunteers.SeveralindiceswerecalculatedfromthebloodflowwaveformsusingLSFG-NAVITM;reproducibility,relationshipbetweentheseindicesandmeandeviation(MD)valuesorMDslopesobtainedbyHumphreyvisualfieldanalyzerwereevaluated.Results:Coefficientsofvariationweremostlyunder10%inPOAGpatientsandnormalvolunteers.Skewandblowouttime(BOT)showedsignificantrelationshipswithMDvalues.BOTandfallingrateshowedsignificantrelationshipwithMDslopeinfocalischemictype,asassignedtoONHappearance.Conclusion:TheseresultssuggestthatsomeindicesobtainedfromtheONHbloodflowwaveformmightberelatedtothedevelopmentofPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):984.987,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ,視神経乳頭血流,波形解析,原発開放隅角緑内障,MD値.laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,analysisofwaveform,primaryopenangleglaucoma,meandeviation.はじめにパルスドップラ法などによる頸動脈,冠動脈などの血流波形解析は従来から臨床的に行われているが,眼血流についても最近,レーザースペックル法によって可能になり,動脈硬化や網膜静脈閉塞症などとの関連が検討され始めている1,2).一方,緑内障性視神経障害への眼循環障害の関与を示唆する報告はこれまでも多くなされているが,緑内障と動脈硬化との関連の有無については有るとするもの3.6)と無いとするもの7,8)の両者がある.今回,筆者らは視神経乳頭血流の波形解析を緑内障患者において行い,緑内障病期や視野障害進行との関連について検討した.I対象および方法対象は大阪医科大学附属病院眼科外来通院中の広義・原発〔別刷請求先〕杉山哲也:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaSugiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN984984984あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(108)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 開放隅角緑内障(POAG)患者および正常対照者のうち本研究参加に同意を得られた例である.POAGは乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の狭小化,網膜神経線維層欠損など緑内障性視神経障害があり,隅角検査で正常開放隅角であり,Humphrey自動視野検査(プログラム中心30-2SITAスタンダード)で以下の基準(1)(2)のいずれかを連続する2回の検査で認める者とした.(1)(,)緑内障半視野検査で正常範囲外もしくはパターン標準偏差でp<5%であること,(2)パターン偏差確率プロットでp<5%の点が最周辺部でない検査点に3つ以上連なって存在し,かつそのうち1点がp<1%であること.POAGのうち他の眼疾患の合併,手術歴を有する者は除外した.正常対照者は正常眼圧・正常開放隅角であり,精密眼底検査にて緑内障性視神経障害を認めず,軽度.中等度近視(.7D以下の近視),軽度白内障(Grade1以下の白内障)以外の眼疾患を認めない者とした.いずれの群からも糖尿病,高血圧,治療を要する高脂血症を合併する例や喫煙者は除外した(問診を主としたが,内科での血液検査結果も参考にした).POAGは34例で,緑内障病期(Anderson分類9))の内訳は初期群16例,中期群10例,後期群8例,また正常対照は20例であった.POAG各群および正常対照群の年齢,性別,眼圧,Humphrey視野meandeviation(MD)値,MDslope,緑内障点眼の内訳は表1のごとくであるが,MD値以外は群間に有意差は認めなかった.POAG群では本研究期間中を通して同様の点眼治療を継続していたが,表1のごとく治療点眼薬に偏りはなかった(c2検定).また,POAGは全例両眼性であり,すべての対象において解析眼を無作為に選択し,1例1眼としてデータを使用した.血流測定・解析には,レーザースペックルフローグラフィ(LAFG-NAVITM,ソフトケア,福岡)を用いた.0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後,同一検者が視神経乳頭血流の測定を同一眼について3回ずつ行い,その後,波形解析を行った.LSFG測定ソフト(ソフトケア,福岡)で記録したスペックル画像からLSFG解析ソフト,プラグインlayerviewer(いずれもソフトケア)を用いて,視神経乳頭全体を選択し,血流波形の特徴を示すパラメータ(Fluctuation,Skew,Blowoutscore,Blowouttime,Risingrate,Fallingrate)を算出した〔ソフトケア.LSFGAnalyzerInstructionManual(Rev.1.16),2011〕.これらはこの解析ソフト用に独自に開発されたパラメータであり,それぞれ以下の意義をもつと考えられている.1)Fluctuation:分散に相当する血流の変動率であり,血流の不安定さを表す指標である.2)Skew:分布の非対称性(歪度)を表し,確立密度関数の偏りの違いを示す統計量,確立変数の三次モーメントで定義されている.3)Blowoutscore:次式によって算出され,血流の通り抜けやすさ(血管抵抗の逆数)を表す指標とされる.(1.AC/2DC)×100(%).ただし,AC:血流の最大値.最小値,DC:血流の平均値.4)Blowouttime(BOT):次式によって算出され,高い血流値が維持されている時間の割合(末梢への血流供給の十分さ)を表すとされ,CW/Fから算出された.ただし,C:比例定数W:半値(最大値.最小値)以上を呈した時間,F:1心拍の時間.5)Risingrate:波形の上昇領域のAreaundercurveの面表1対象の背景正常対照初期群POAG中期群後期群例数2016108年齢(歳)59.0±12.259.8±11.860.3±11.964.9±5.8性別(男/女)8/126/104/64/4眼圧(mmHg)13.4±2.112.0±2.513.2±2.612.9±2.6MD(dB).0.03±0.87.3.02±1.39.8.78±2.48.13.32±3.25MDslope(dB/year).0.18±0.64.0.11±1.26.1.02±1.58緑内障点眼の内訳(例数)PG剤865b遮断薬532その他422なし430POAG:広義・原発開放隅角緑内障,PG:プロスタグランジン.(平均±標準偏差)(109)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012985 積比から算出され,急速に上昇するほど大きい値となる.6)Fallingrate:波形の下降領域のAreaovercurveの面積比から算出され,急速に下降するほど大きい値となる.各々3回の血流測定の再現性を表す指標として変動係数を下記の式によって算出した.変動係数=(標準偏差/平均値)×100(%)視野障害進行の指標としてMDslopeを用いた.すなわち,血流測定以後,2年以上(平均±標準偏差:28.7±5.2カ月)にわたり5回以上(平均±標準偏差:5.09±0.29回)のHumphrey視野MD値を測定し,MDslopeを求めた.血流波形パラメータと年齢,眼圧,平均血圧,眼灌流圧との間の関連性の有無についてPearsonの相関係数を求め,有意性を検定した.POAG群においては同様に血流波形パラメータと視野MD値,MDslopeとの間の相関の有無を検討し,また乳頭形態分類(Nicolelaら10))によって局所虚血型,加齢性硬化型,近視型,全体的拡大型の4群に分けたうえ,これらの関連性の有無を検討した.II結果血流波形の各パラメータの変動係数は表2のごとくで,最20-2y=3.302-0.90xr=0.37,p=0.032-4-6-8-10-12MD値(dB)-14-16-1867891011121314151617も大きいSkewが約11%であったが,他のパラメータはいずれも10%未満であり,またPOAG群と正常対照群の間に有意差は認めなかった.POAGにおいて視野MD値と各パラメータの間の関連を検討した結果,有意な相関を認めたのはSkewとBOTで,前者は負の,後者は正の相関を認めた(図1,2).眼圧,平均血圧,眼灌流圧と各パラメータの間の関連性を検討した結果,いずれも有意な相関は認めなかった.つぎに,POAGにおいてMDslopeと各パラメータの間の関連性を検討した結果,POAG全体では有意な相関はみら表2血流波形パラメータの変動係数正常対照POAGFluctuation6.39±3.645.46±5.40Skew11.30±9.3711.06±11.71Blowoutscore1.83±1.061.84±2.81Blowouttime6.75±4.985.95±6.95Risingrate5.90±3.314.98±3.36Fallingrate6.05±5.214.49±4.29POAG:広義・原発開放隅角緑内障.(%,平均±標準偏差)20-2y=-26.469+0.386xr=0.34,p=0.046MD値(dB)-4-6-8-10-12-14-16-184244464850525456586062SkewBlowouttime図1視野MD値とSkewの相関図2視野MD値とBlowouttimeの相関視野MD値はSkewとの間に有意な負の相関を認めた.視野MD値はBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.1.21.2MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4y=13.352-1.016xr=0.80,p=0.009y=-5.874+0.121xr=0.61,p=0.049MDslope(dB/year)10.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.6-0.8-0.81212.212.412.612.81313.213.413.6424446485052545658FallingrateBlowoutTime図3局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとFllingrate図4局所虚血型POAG眼におけるMDslopeとBlowoutの相関timeの相関MDslopeはFallingrateとの間に有意な負の相関を認めた.MDslopeはBlowouttimeとの間に有意な正の相関を認めた.986あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(110) れなかった.乳頭形態分類では局所虚血型9例,加齢性硬化以上,視神経乳頭の血流波形解析によって,動脈硬化性変型7例,近視型11例,全体的拡大型7例であったが,局所化を含む血流動態の変化がPOAGの病態や進展に関与して虚血型においてのみ,MDslopeとFallingrateとの間に負いることが示唆されたが,臨床的意義をより明らかにするたの,BOTとの間に正の有意な相関をそれぞれ認めた(図3,めにはさらなる検討が必要であると考える.4).III考按利益相反:利益相反公表基準に該当なし今回の検討の結果,POAGおよび正常対照の視神経乳頭血流波形パラメータは変動係数が1.8%から11.3%であった.文献視神経乳頭において同様の血流波形パラメータの変動係数を1)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgra検討した報告はこれまでになく,直接比較はできないが,同phyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科じレーザースペックル法で正常者・視神経乳頭血流〔NB26:269-275,2009(normalblur)値〕を測定した再現性指数は11.7%と報告さ2)小暮朗子,田村明子,三田覚ほか:網膜静脈分枝閉塞症れており11),筆者らは今回と同じLAFG-NAVITMで正常者における静脈血流速度と黄斑浮腫.臨眼65:1609-1614,2011とPOAGの視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値〕を3)OmotiAE,EdemaOT:Areviewoftheriskfactorsin測定した際の変動係数がいずれも10%未満であったと報告primaryopenangleglaucoma.NigerJClinPract10:している12).また,laserDopplerflowmetryによって正常79-82,2007者と緑内障患者(高血圧なし)の視神経乳頭血流(Flow)を4)Pavljasevi.S,As.eri.M:Primaryopen-angleglaucomaandserumlipids.BosJBasicMedSci9:85-88,2009測定した際の変動係数は各々21%,13%であったと報告さ5)GungorIU,GungorL,OzarslanYetal:Issymptomaticれている13).これらと比較しても今回測定した視神経乳頭血atheroscleroticcerebrovasculardiseaseariskfactorfor流波形パラメータは再現性が良好であり,各種の解析に適しnormal-tensionglaucoma?MedPrincPract20:220-224,たものと考えられた.なお,今回は病期ごとに年齢を合致さ20116)SiasosG,TousoulisD,SiasosGetal:Theassociationせ,かつ特別な全身疾患を有する例を除外したPOAGにつbetweenglaucoma,vascularfunctionandinflammatoryいての検討なので,加齢や他疾患の影響を受けず,緑内障のprocess.IntJCardiol146:113-115,2011病態と血流波形パラメータとの関連の検討ができたと考えら7)deVoogdS,WolfsRC,JansoniusNMetal:Atheroscleroれる.sis,C-reactiveprotein,andriskforopen-angleglaucoma:theRotterdamstudy.InvestOphthalmolVisSci47:POAGにおいて視野MD値とSkew,BOTとの間に有意3772-3776,2006な相関を認めたことより,緑内障性視野障害と血流波形との8)ChibaT,ChibaN,KashiwagiK:Systemicarterial間に何らかの関連があることが推察された.Skewは動脈硬stiffnessinglaucomapatients.JGlaucoma17:15-18,化度を反映すると考えられており1),緑内障の病態に動脈硬20089)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry,化が関連している可能性が示唆された.BOTは末梢への血2ndedition,p121-190,Mosby,StLouis,1999流維持の十分さを示す値であることから,末梢血流の維持が10)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousoptic保たれているかどうかも緑内障の病態に関連していることがnerveappearances:clinicalcorrelations.Ophthalmology示唆された.103:640-649,199611)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasureまた,血流波形解析後(約2年間)のMDslopeとBOTmentofhumanopticnerveheadandchoroidcirculation,やFallingrateが局所虚血型の症例において有意に相関してusingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmolいたことより,POAGの少なくとも一部では血流波形が緑41:49-54,1997内障進行の予測因子となり得る可能性が示唆された.BOT12)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしいに関しては緑内障病期との関連のみならず,進行との関連も眼科27:1279-1285,2010認めたことより,末梢血流の維持が緑内障の病態に深く関わ13)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnerveっている可能性が示唆された.また,Fallingrateは血流波bloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.形の下降領域の急峻さを反映するものであり,動脈硬化性変AmJOphthalmol127:516-522,1999化が緑内障の進行と関わる一因子であると考えられた.***(111)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012987

線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果

2012年2月29日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(2):267.271,2012c線維柱帯切開術後の選択的レーザー線維柱帯形成術の効果森村浩之伊藤暁高橋愛池田絵梨子公立学校共済組合近畿中央病院眼科E.ectofSelectiveLaserTrabeculoplastyforPrimaryOpen-AngleGlaucomawithPriorHistoryofTrabeculotomyHiroyukiMorimura,SatoruItoh,AiTakahashiandErikoIkedaDepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital目的:線維柱帯切開術(LOT)既往の原発開放隅角緑内障(POAG)症例での選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の眼圧下降効果をレトロスペクティブに検討した.対象および方法:過去にPOAGに対してLOTが行われ,2008年から2010年までにSLTを施行した15例15眼を対象とした.平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳)で平均経過観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月)であった.眼圧,眼圧下降率(ΔIOP)について検討した.LOTは白内障同時手術8例8眼,LOT単独手術が7例7眼であり,そのうち3例3眼はすでに眼内レンズ挿入眼であった.SLTは全例全周に照射した.結果:SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT後1カ月で15.4±3.1mmHg,3カ月で13.7±3.2mmHg,6カ月で14.1±2.7mmHg,12カ月で16.1±4.0mmHgとなり,眼圧下降率はSLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月がそれぞれ18.5±15.6%,26.9±17.7%,24.4±18.9%,17.3±17.3%となり有意に下降した(p<0.05).SLTの眼圧下降率10%とした有効率は80%,20%では53.3%,3mmHg以上下降では60%であった.2回連続で眼圧下降率が10%未満となったときの最初の時点をendpointと定義したKaplan-Meier法による12カ月後の生存率は,58.2%であった.重回帰分析で,SLT後の眼圧に関与する有意な因子は,SLT治療前の眼圧値であった.結論:SLTはLOT後であっても有意に眼圧を下降させる効果があった.LOT後に眼圧上昇をきたした場合,線維柱帯切除術を行う前に一度試みてよいと考えられた.Weretrospectivelyevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringe.ectsofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)whohadpreviouslyundergonetrabeculotomy(LOT).Includedinthisstudywere15eyesof15patientswithPOAGwhounderwentLOTandhadundergoneSLTbetween2008and2010.Meanpatientagewas62.3±12.0years(mean±standarddeviation),rangingfrom42to81years.Followupperiodwas18.3±8.1months,rangingfrom1to33months.Ofthe15eyes,8hadundergoneLOTwithphacoemulsi.cationandaspiration+intraocularlensimplantation(PEA+IOL);theother7eyeshadundergonesingleLOT,3ofthosealsoreceivingPEA+IOL.SLTwasappliedover360degreesofthetrabecularmeshwork.MeanIOPdecreasedfrom19.2±3.4mmHgto15.4±3.1mmHgat1month,13.7±3.2mmHgat3months,14.1±2.7mmHgat6months,and16.1±4.0mmHgat12months.IOPreductionratewas18.5±15.6%at1month,26.9±17.7%at3months,24.4±18.9%at6months,and17.3±17.3%at12months,signi.cantlydi.erentvalues(p<0.05).Theresponderratefor10%,20%orover3mmHgpressurereductionwas80%,53.3%,or60.0%respectively.Kaplan-Meiersurvivalanalysisshowedthatthesuccessratesfortwoconsecutive10%IOPreductionat12monthsafterSLTwas58.2%.Pre-SLTIOPandpost-SLTIOPshowedcorrelationonmultipleregressionanalysis.SLTsigni.cantlydecreasedIOPinpatientswithPOAGwhohadundergoneLOT.SLTappearstobeane.ectivetreatmentforuncontrolledPOAGwithpriorhistoryofLOT,before.lteringsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(2):267.271,2012〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,線維柱帯切開術,原発開放隅角緑内障,眼圧.selectivelasertrabe-culoplasty,trabeculotomy,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure.〔別刷請求先〕森村浩之:〒664-8533伊丹市車塚3-1公立学校共済組合近畿中央病院眼科Reprintrequests:HiroyukiMorimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KinkiCentralHospital,3-1Kurumazuka,Itami,Hyogo664-8533,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(119)267はじめに原発開放隅角緑内障(POAG)に対して線維柱帯切開術(LOT)を行った後の眼圧は,15mmHg以上のhighteensになることが多いと報告されている1).緑内障の病期が早期あるいは,高齢であれば,この眼圧値でも許容されると考えられるが,経過観察中,視野進行がみられたり,眼圧上昇をきたし,さらに追加処置が必要になることもある.この場合,線維柱帯切除術が行われることが一般的である2).しかし,線維柱帯切除術には濾過胞への細菌感染をはじめとした少なくない合併症が知られており,患者の年齢,意思を考えた場合,レーザーなど他の方法も考慮される場合がある3).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は1995年にLatinaらによりメラニン吸収率の高い半波長Nd:YAGレーザー(波長532nm)をごく短時間照射することにより隅角色素上皮のみに選択的に作用し,眼圧を下降させる基礎実験が報告された4).その後,1998年にヒトでの応用が初めて報告され,以降数多くの眼圧下降の報告がされている5.10).これまで,無治療のPOAGあるいは,抗緑内障点眼薬使用中でのSLTの検討が多く,緑内障手術後のSLTの効果についての報告は少ない.今回,筆者らはLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降が必要になり,その方法としてSLTを行い,その眼圧下降効果についてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法対象は,2008年1月から2010年5月までに当科でLOT後に眼圧コントロール不良,視野進行により,さらに眼圧下降のためSLTが必要になったPOAG症例15例15眼で,LOTは1回行われており,初めてSLTを施行し,1カ月以上経過観察できた症例とした.眼圧測定は,Goldmanntonometerで行った.LOTはLOT単独で行った症例が7眼,そのうち3眼ではLOT以前に超音波乳化吸引白内障手術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)が行われており,IOL挿入眼であった.8眼はLOT+PEA+IOLが行われていた.男性7例7眼,女性8例8眼,平均年齢は62.3±12.0歳(42.81歳),平均観察期間は18.3±8.1カ月(1.33カ月),LOTからSLTまでの期間は平均44.1±44.2カ月(3.192カ月),術前眼圧19.2±3.4mmHg(14.26mmHg),緑内障治療薬は平均2.3±0.6剤(1.3剤)であった.SLT後,経過観察期間中は点眼薬の変更は1眼で,SLT後6カ月でラタノプロスト1剤からラタノプロスト+チモロール合剤とブリンゾラミド点眼に増量していた.この1眼は点眼増量の時点で打ち切りとした.観血的治療をSLT後に行った症例は,今回の経過観察中にはなかった.SLTは術前に十分説明し,患者から同意を得たうえで,ellex社製TangoRを使用し,波長532nm,spotsize400μm,パルス幅3ns,照射範囲は360°全周行った.Powerは気泡が生じる程度の最小エネルギーで0.6.0.9mJで,平均103発(80.120発)照射した.総照射エネルギーは平均85.3±15.5mJ(64.0.132.0mJ)であった.全症例でSLT前後に1%アプラクロニジン(アイオピジンR)を点眼し,ステロイド点眼は使用しなかった.SLT前とSLT後の平均眼圧を比較して,pairedt-testで検定した.同時期に行った観血的治療既往のないSLT単独治療を行った15例15眼と比較し,pairedt-testで検定した.SLTの有効率を眼圧10%,20%,3mmHg以上下降に分類し,検討した.緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上の症例に分けて,眼圧下降率を比較検討した.眼圧下降率が2回連続で10%未満となったときの最初の時点,緑内障点眼薬が増加したときをendpointと定義して,Kaplan-Meier生命表解析を行った.さらに眼圧に影響する因子を重回帰分析により検討した.検討した因子は,性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギー,SLT前の眼圧である.統計解析ソフトはJMPver8.0を使用した.II結果症例全体の眼圧経過を図1に示す.SLT前の眼圧は19.2±3.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±3.1mmHg,3カ月後13.7±3.2mmHg,6カ月後14.1±2.7mmHg,12カ月後16.1±4.0mmHg,最終診察時14.9±3.7mmHgとなり,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月でSLT前に比べすべての時期で,有意に眼圧は下降した(p<0.05).図2に眼圧下降率を示す.SLT後1カ月で18.5±15.6%,3カ月で26.9±17.7%,6カ月で24.4±18.9%,12カ月で17.3±17.3%,最終診察時20.0±21.7%となった.当院で同時期に行った緑内障点眼使用症例でSLTのみを行った15例15眼では,SLT前の眼圧は18.6±4.4mmHgで,SLT1カ月後15.4±4.0mmHg,3カ月後14.8±3.5mmHg,6カ月後15.4±3.9mmHg,12カ月後15.5±2.8mmHg,最終診察時(平均観察期間23.7±6.7カ月)15.3±2.6mmHgであった.各時期ともLOT後のSLT症例の眼圧値と有意な差はみられなかった(p>0.05).最終診察時(平均観察期間18.3カ月)での,SLTの有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60%となった.また,SLT後6カ月での有効率は10%以上下降した場合64.3%,20%以上下降とした場合57.1%,3mmHg以上下降とした場合64.3%となった.SLT前の緑内障点眼薬数を2剤以下と3剤以上に分けて,SLTによる眼圧下降値を検討した.2剤以下の群ではSLT前19.1±4.2mmHgであったが,SLT後最終診察時は14.3268あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(120)017.318.520.024.426.920406080眼圧下降率(%)100観察期間(眼数)図1LOT後のSLTの眼圧経過Pairedt-test*:p<0.05.1009080706050403020100123456789101112観察期間(月)図3眼圧下降率10%未満が2回連続した最初の時点をend累積生存率(%)観察期間(眼数)図2LOT後のSLTによる眼圧下降率表1重回帰分析によるSLTの眼圧下降に影響を与える因子についてF値p値性別4.20230.0745年齢0.00340.9547LOT-SLT期間0.85510.3822点眼数0.91470.3669SLT総エネルギー4.44220.0681SLT前の眼圧値11.65290.0092**:p<0.05.内障に対してSLTを行った結果を検討した.これまで,未治療のPOAGに対するSLTの効果については,McIlraithpointと定義したKaplan-Meier生命表解析±3.6mmHgとなり,眼圧下降率は25.1%であった.3剤以上の群ではSLT前19.3±1.1mmHgであったが,SLT後最終診察時は15.8±3.8mmHgとなり,眼圧下降率は18.1%であった.両群間のSLT前,SLT後の眼圧,眼圧下降率に有意差はみられなかった.眼圧下降率が2回連続10%未満となったときの最初の時点あるいは緑内障点眼薬が増量となった時点をendpointと定義したKaplan-Meier生命表解析結果を図3に示す.SLT後1カ月で80.0%,3カ月で80.0%,6カ月で65.5%,12カ月で58.2%の生存率となった.SLT後の眼圧下降率に影響を与える因子を重回帰分析により検討した(表1).SLT前の眼圧値が高い症例ほど眼圧下降率が高く,有意に相関していた(p<0.05).性別,年齢,LOTからSLTまでの期間,緑内障点眼薬数,SLT総エネルギーにおいては,有意な相関はみられなかった.III考按今回は,すでに線維柱帯切開術が行われている開放隅角緑ら,Nagarらにより,SLT後1年で30%以上の眼圧下降効果があると報告されている6,7).緑内障点眼薬使用下でのSLTの成績についても数多くの報告がある10.14).有効性については,各報告により異なり,また対象症例の病型,背景も異なるため,単純な比較は困難であるが,緑内障点眼下では,眼圧下降率は10%台となり,未治療のPOAGに対する効果より小さくなっていた.さらに緑内障手術が行われている症例に対するSLTの報告では,これまでは濾過手術と流出路再建術をまとめて緑内障手術歴として検討されていることが多い.緑内障手術のSLTの眼圧下降に与える影響については,報告により異なる.真鍋らはLOTと線維柱帯切除術(LEC)を合わせて8眼で検討しており,手術既往眼のほうが,有意に眼圧下降していたと報告している15).南野らも症例数は少ないが,LEC3眼(2眼は非穿孔性線維柱帯切除術,1眼が線維柱帯切除術)で,それぞれSLTが有効であったと報告している16).一方,望月らは眼圧下降幅3mmHg以上または眼圧下降率20%以上を有効とした場合,LEC4眼ではすべて無効で,LOT1眼も3カ月までは有効であったが6カ月目に無効になったと,LEC既往眼で成績が悪かったと報告している17).(121)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012269上野らは,濾過手術5眼,流出路再建術4眼でSLT後3カ月で有意な眼圧下降がみられなかったと報告している18).今回筆者らの検討では,SLT360°照射で,SLT後1カ月,3カ月,6カ月,12カ月において,有意な眼圧下降が得られ,有効率は10%以上下降とした場合80%,20%以上下降とした場合53.3%,3mmHg以上下降とした場合60.0%となった.これは,未治療のPOAGに対するSLTの効果より弱いが,緑内障点眼薬使用下でのSLTの効果と同程度と考えられ,LOT後のSLTは,今回の検討では有効であった.今回の検討でも緑内障点眼薬は2.3±0.5剤使用されており,緑内障点眼薬使用のうえにさらにLOTを行っている症例であった.緑内障点眼薬の薬剤数とSLTの効果については,点眼薬数が多いほうがSLTの効果が弱いという報告9,10,19)がある一方,緑内障点眼薬が処方されている症例ではSLTの効果はSLT前の点眼数の量には影響されないという報告8,17,20)もあり,報告により差がみられる.LOT後のSLTの効果についても,緑内障点眼薬2剤以下と3剤以上使用例に分けて眼圧下降率を検討したが,2剤以下の症例群では25.1%,3剤以上でも18.1%と両群間に有意な差はみられなかった.まったく緑内障点眼薬が使用されていない未治療例と比べると緑内障点眼薬使用群はSLTの効果が減弱する可能性があるが,複数の緑内障点眼薬が使用されている場合には,SLTとの相互作用を判断するのはむずかしいと考えられた.今回,SLTの効果に影響を与える因子として,SLT前の眼圧があげられたが,これはSLT前の眼圧が16mmHg以上の群で成績がよかったという報告17)やSLT1年後の眼圧下降率が大きい症例は有意にSLT前眼圧が高かったという報告21),術前眼圧が低い症例では有意にSLTが不成功になりやすかったという報告9),SLT前眼圧とSLT後1カ月の眼圧下降率の単回帰分析で,術前眼圧が低いほど眼圧下降率が小さくなったという報告10)に一致する結果であった.今回のLOT後のPOAGに対してSLTを行った検討では,SLT後12カ月まで有意な眼圧下降が得られ,その程度はこれまでの緑内障点眼を行っている症例に対するSLTの効果と同程度であった.そのなかでもSLT後3カ月,6カ月では20%以上の眼圧下降率が得られたが,これはLOT後のPOAGで,さらに眼圧下降が必要になった症例に絞られたため,SLT前の眼圧がいわゆるlowteensの眼圧の症例がなく,比較的SLT前の眼圧が高い症例になったことが関連していると考えられる.SLTは比較的合併症の少ない治療で,LOT後であっても有意な眼圧下降が得られたので,LECを行う前に一度試みられてもよいと考えられた.しかし,本検討はレトロスペクティブな検討であり,症例数も少ないため,今後さらに症例数を増やし,長期間の検討を行うとともに,プロスペクティブな検討も必要と考えられた.本論文の要旨は,第21回日本緑内障学会(2010年)にて発表した.文献1)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20002)稲谷大:緑内障Now!緑内障の治療レーザー治療・手術治療線維柱帯切開術の術後管理のポイントは?あたらしい眼科25(臨増):172-174,20083)東出朋巳:緑内障手術の限界術中・術後合併症からみた安全性の限界.眼科手術17:9-14,20044)LatinaMA,ParkC:Selectivetargetingoftrabecularmeshworkcells:invitrostudiesofpulsedandCWlaserinteractions.ExpEyeRes60:359-371,19955)LatinaMA,SibayanSA,ShinDHetal:Q-switched532-nmNd:YAGlasertrabeculoplasty(selectivelasertrabeculoplasty):amulticenter,pilot,clinicalstudy.Ophthalmology105:2082-2088,19986)McIlraithI,StrasfeldM,ColevGetal:Selectivelasertrabeculoplastyasinitialandadjunctivetreatmentforopen-angleglaucoma.JGlaucoma15:124-130,20067)NagarM,OgunyomadeA,O’BrartDPetal:Arando-mised,prospectivestudycomparingselectivelasertrabe-culoplastywithlatanoprostforthecontrolofintraocularpressureinocularhypertensionandopenangleglaucoma.BrJOphthalmol89:1413-1417,20058)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19999)SongJ,LeePP,EpsteinDLetal:Highfailurerateassoci-atedwith180degreesselectivelasertrabeculoplasty.JGlaucoma14:400-408,200510)齋藤代志明,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,200711)JuzychMS,ChopraV,BanittMRetal:Comparisonoflong-termoutcomesofselectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplastyinopen-angleglauco-ma.Ophthalmology111:1853-1859,200412)DamjiKF,BovellAM,HodgeWGetal:Selectivelasertrabeculoplastyversusargonlasertrabeculoplasty:resultsfroma1-yearrandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol90:1490-1494,200613)Martinez-de-la-CasaJM,Garcia-FeijooJ,CastilloAetal:Selectivevsargonlasertrabeculoplasty:hypotensivee.cacy,anteriorchamberin.ammation,andpostoperativepain.Eye18:498-502,200414)DamjiKF,ShahKC,RockWJetal:Selectivelasertrabeculoplastyvargonlasertrabeculoplasty:aprospec-tiverandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol83:718-722,199915)真鍋伸一,網野憲太郎,高島保之ほか:SelectiveLaserTrabeculoplastyの治療成績.眼科手術12:535-538,199916)南野桂三,松岡雅人,安藤彰ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科26:1249-1252,2009270あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(122)17)望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率.あたらしい眼科25:693-696,200818)上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科25:1439-1442,200819)松葉卓郎,豊田恵理子,大浦淳史ほか:全周照射による選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.眼科手術22:401-405,200920)山崎裕子,三木篤也,大鳥安正ほか:大阪大学眼科における選択的レーザー線維柱帯形成術の成績.眼紀58:493-498,200721)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,2005***(123)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012271

片眼投与によるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果の検討

2010年9月30日 木曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(107)1273《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(9):1273.1278,2010c〔別刷請求先〕山林茂樹:〒464-0075名古屋市千種区内山3丁目31-23医療法人碧樹会山林眼科Reprintrequests:ShigekiYamabayashi,M.D.,Ph.D.,YamabayashiEyeClinic,31-23,Uchiyama-3,Chigusa-ku,Nagoya464-0075,JAPAN片眼投与によるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果の検討山林茂樹*1石垣純子*2加藤基寛*3近藤順子*4杉田元太郎*4冨田直樹*5三宅三平*2安間正子*6*1山林眼科*2眼科三宅病院*3かとう眼科クリニック*4眼科杉田病院*5尾張眼科*6安間眼科OcularHypotensiveEffectandSafetyofTafluprostvs.LatanoprostinOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionwithUnilateralSwitchtoTafluprost:12-WeekMulticenterParallel-GroupComparativeTrialShigekiYamabayashi1),JunkoIshigaki2),MotohiroKato3),JunkoKondo4),GentaroSugita4),NaokiTomida5),SampeiMiyake2)andMasakoYasuma6)1)YamabayashiEyeClinic,2)MiyakeEyeHospital,3)KatoEyeClinic,4)SUGITAEYEHOSPITAL,5)OwariGanka,6)YasumaEyeClinic原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者におけるラタノプロストからタフルプロストへの切り替え効果を片眼投与による多施設共同並行群間比較試験にて検討した.両眼ラタノプロスト単剤使用例で,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下かつ3回の眼圧左右差の平均が2mmHg以下の患者48例を対象とした.無作為に片眼をタフルプロスト切り替え眼,僚眼をラタノプロスト継続眼へ割り付け,休薬期間を設けずに切り替えを行い,12週間にわたって眼圧下降効果および安全性を検討した.眼瞼色素沈着,睫毛変化および充血については,写真撮影し比較検討した.タフルプロスト切り替え群およびラタノプロスト継続群の開始時眼圧はそれぞれ16.7±3.1mmHg,16.4±3.0mmHg,点眼12週間後の眼圧はそれぞれ15.9±2.9mmHg,15.3±2.8mmHgであった.点眼12週間後の眼圧と安全性について両群間に有意な差を認めなかったが,タフルプロスト切り替え群で2例の眼瞼色素沈着の軽減例がみられた.タフルプロストはラタノプロストと同等の眼圧下降効果および安全性を有することが確認された.Theobjectiveofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyof0.0015%tafluprostophthalmicsolutiontothatoflatanoprostophthalmicsolutioninprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionviaunilateralswitchingtrialinamulticenterparallel-groupstudy.Studysubjectscomprised48patientswhoreceivedlatanoprostophthalmicsolutiononlybeforethestudyandwhoseinter-eyeintraocularpressure(IOP)differentialwaswithin3mmHg-andremainedwithin2mmHgoftheaverage-in3examinations.TheIOPatbaselineaveraged16.7±3.1mmHginthetafluprostgroupand16.4±3.0mmHginthelatanoprostgroup.AverageIOPat12weekswas15.9±2.9mmHgand15.3±2.8mmHg,respectively.Adverseeventswererecordedandocularsafetywasevaluated.Twocasesinthetafluprostgroupshoweddecreasedlidhyperpigmentation.TheIOP-loweringeffectoftafluprostwasequivalenttothatoflatanoprost.Thepresentdataindicatethattafluprostisclinicallyusefulinthetreatmentofprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(9):1273.1278,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,高眼圧症,正常眼圧緑内障,タフルプロスト,眼瞼色素沈着.primaryopenangleglaucoma,ocularhypertension,normal-tensionglaucoma,tafluprost,eyelidpigmentation.1274あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(108)はじめにb遮断点眼液は1980年代に登場して以来,緑内障治療薬の主流であったが,1990年代の終わりに強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬であるラタノプロスト点眼液が登場し,現在ではPG系眼圧下降薬が緑内障の薬物療法の主たる治療薬となった.2010年2月までにトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストが市場に加わり,ラタノプロストを含め4種類のプロスト系のPG製剤が第一選択薬の座を占めるようになった.しかし,日常診療上の選択肢は増えたものの,各点眼薬の薬理学的特徴ならびに臨床的特徴などは,治験のデータをみる限り大きな差を見いだせず,薬剤選択における指標が定まっていないのが実情である.今回の研究の対象となるタフルプロストは他のプロスト系の点眼薬と異なり,C-15の位置にフッ素原子を2つ有することが特徴のPGF2a誘導体である1).フッ素の数と付加位置に関する研究の結果,この構造が分子の安定性,角膜移行性に寄与していることが示唆された2,3).新薬開発における臨床試験では,安全性の面から高齢者や併用薬使用者が治験対象から除外されることや,眼圧下降作用を限られた例数で統計学的に検出する目的で対象者の眼圧が比較的高めに設定される傾向があり1),それらの結果を実際の日常診療にそのまま適用することには慎重になるべきと考える.ゆえに,市販後の臨床研究の果たす責任は重大と考える.本研究の目的は,新しく開発されたタフルプロストの有効性と安全性について市販後臨床研究により比較検討することである.I対象および方法1.実施医療機関本試験は,2009年2月から2009年8月の間に実施した.本試験に先立ち,医療法人湘山会眼科三宅病院内倫理審査委員会で上記6参加施設の本研究の倫理的および科学的妥当性が審議され承認を得た.2.対象対象は,両眼ともラタノプロスト単剤を4週間以上使用継続し,直近3回の眼圧左右差がいずれも3mmHg以下で,3回の眼圧左右差の平均が,2mmHg以下であった広義の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者とした.試験開始前に,すべての患者に対して研究内容およびタフルプロストに関する情報を十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1観察・測定スケジュール同意取得開始日(0週)4週8週12週来院許容範囲──±2週±2週±2週文書同意(開始日までに取得)←●→───患者背景─●───自覚症状─●●●●他覚所見─●●●●角膜所見(AD分類)─●●●●視力検査(矯正)─●──●点眼遵守状況──●●●眼圧測定(Goldmann圧平式眼圧計)*右眼から測定─●●●●眼底検査─●●●●写真撮影(充血)─●●●●写真撮影(眼瞼色素沈着,睫毛変化)─●──●有害事象─●●(発症時)同意取得1日1回夜点眼ラタノプロスト(両眼)(片眼)ラタノプロスト(片眼)タフルプロスト多施設共同平行群間比較試験4週以上12週0週4週8週12週図1試験デザイン(109)あたらしい眼科Vol.27,No.9,201012753.試験方法と観察評価項目本研究のデザインを図1に,観察・測定スケジュールを表1に示す.本研究は多施設共同並行群間比較試験として実施した.両眼とも4週間以上ラタノプロスト単剤を使用継続している患者に対し,片眼をラタノプロスト継続眼,もう片眼をタフルプロスト切り替え眼に乱数表にて無作為に割りつけた.各薬剤とも1日1回夜に1滴,12週間の点眼とし,開始後4,8および12週時点の来院で観察した.ラタノプロスト使用時に洗顔などの処置を行っている症例は,処置を変更せずそのまま続けさせた.眼圧は,Goldmann型圧平式眼圧計で右眼から測定し,試験期間を通して同一症例に対しては同一検者がほぼ同じ時間帯に測定した.自覚症状は問診にて確認し,眼科検査として視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を実施した.角膜所見については,フルオレセイン染色を行い,宮田ら4)の報告に基づきAD分類を行った.すなわち点状表層角膜症(SPK)の重症度を範囲(area)と密度(density)に分け,それぞれをA0(正常)からA3(角膜全体の面積の2/3以上に点状のフルオレセインの染色を認める),D0(正常)からD3(点状のフルオレセイン染色のほとんどが隣接している)の4段階で評価し,A+Dのスコアの推移について検討した.充血,眼瞼色素沈着,睫毛変化については,各施設で撮影条件を一定にして両眼同時にデジタルカメラで撮影した.充血所見については,充血の程度を「(.)なし」,「(+)軽度充血」,「(++)顕著な充血」の3段階で判定した.眼瞼色素沈着および睫毛変化については,0週と12週の写真を比較し,左右眼の差を「(.)なし」,「(+)わずかに左右差あり」,「(++)顕著な左右差あり」の3段階で判定した.写真判定は割り付け薬剤をマスクした状態で,2人の検者が判定し,2人の意見が一致したものを最終判定とした.試験期間中に観察された患者にとって好ましくない,あるいは有害・不快な症状や所見については薬剤との因果関係を問わず有害事象として収集した.有効性の評価は,各薬剤の点眼12週後の点眼0週眼圧に対する眼圧下降値とした.また,各薬剤の点眼12週後の実測値および点眼0週眼圧に対する眼圧下降率についても検討した.本試験結果の統計解析として,点眼12週の眼圧値,点眼12週の点眼0週眼圧に対する下降値および下降率に対し,各薬剤間のStudent-t検定を行った.また,点眼12週での両眼の眼圧下降率の回帰分析を行った.角膜所見ではA+Dのスコアについて,各薬剤の0週と12週の比較をWilcoxonの符号付順位検定,12週の各薬剤間の比較をWilcoxonの順位和検定で検定した.各薬剤の有害事象発現件数について,c2検定を実施した.有意水準は,両側5%とした.II結果1.症例の内訳本試験には49例(男性20例,女性29例)が参加した.うち1例が,文書同意後,投与開始までに「新しい薬は心配なため」脱落し,投与開始した症例は48例であった.うち4例が有害事象の発現のため中止,1例が脱落,1例が12週時の来院が許容範囲外(17週+3日)であったため,12週のデータが得られた症例は42例であった.2.患者背景患者背景は,表2に示すとおりであり,年齢65.8±12.6歳(平均±標準偏差),ラタノプロスト使用期間29.2±26.8月(平均±標準偏差),原発開放隅角緑内障22例(44.9%),正常眼圧緑内障20例(40.8%)および高眼圧症7例(14.3%)であった.3.有効性眼圧値は点眼0週(開始時)において,ラタノプロスト継続群16.4±3.0mmHg,タフルプロスト切り替え群16.7±3.1mmHgであった.点眼12週での眼圧値は,ラタノプロスト継続群15.0±3.0mmHg(p<0.0001),タフルプロスト切り表2患者背景ラタノプロストタフルプロスト年齢(歳)65.8±12.6性別男性(%)20(40.8)女性(%)29(59.2)ラタノプロスト使用期間(月)29.2±26.8診断名原発開放隅角緑内障(%)22(44.9)正常眼圧緑内障(%)20(40.8)高眼圧症(%)7(14.3)0週視力1.1±0.21.0±0.30週眼圧(mmHg)16.4±3.016.7±3.10週角膜スコア(mmHg)0.7±1.00.7±1.10W(49)4W(46)8W(47)12W(42)22201816141210(病例数):ラタノプロスト:タフルプロスト眼圧値(mmHg)図2眼圧(実測値)1276あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(110)替え群15.6±3.4mmHg(p=0.0028)で有意差があった(図2).点眼0週から点眼12週にかけての眼圧変化値は,ラタノプロスト継続群.1.57±2.1mmHg,タフルプロスト切り替え群.1.24±2.5mmHgで,眼圧変化率は,ラタノプロスト継続群.8.8±13.5%,タフルプロスト切り替え群.6.8±15.7%であった.試験期間中を通して両薬剤間の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率に有意差はなかった.また,個々の症例の点眼12週における眼圧下降率について,ラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼との間に強い相関がみられた(r=0.74,p<0.001)(図3).4.安全性試験期間中に認められた有害事象は,ラタノプロスト継続群20例(41.7%)およびタフルプロスト切り替え群25例(52.1%)であった.両群間の有害事象発現例数に有意差は認められなかった.おもな有害事象は,ラタノプロスト継続群で刺激感9例(18.8%),掻痒感7例(14.6%),タフルプロスト切り替え群で,掻痒感11例(22.9%),刺激感8例(16.7%)であった.試験中止に至った症例は,タフルプロスト切り替え群の4例(8.2%)であり,刺激感,異物感,掻痒感,眼痛,頭痛,鈍痛,眼脂などが認められたが,すべて軽度であり,問題となる他覚所見は認めなかった.眼瞼色素沈着について,タフルプロスト切り替え群の4例(9.8%)の患者から点眼液の切り替えで軽減が認められたとの申告があった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間の左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の眼瞼色素沈着が薄かった.眼瞼色素沈着の左右差について,自覚症状のみが3例,他覚所見のみが1例,自覚症状と他覚所見の一致が認められたのは1例であった.他覚所見で左右差が認められた2症例の写真を図4に示す.睫毛変化について,患者からの訴えはなかった.点眼0週と点眼12週とで写真の比較が可能であった症例は41例であり,うち2例(4.9%)でラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼の間に左右差が認められ,いずれもタフルプロスト点眼眼の睫毛が長い傾向が認められたが,顕著な差とはいえなかった.充血について写真判定を行った結果,点眼0週よりラタノプロスト点眼眼とタフルプロスト点眼眼で同様のスコア推移を示し,片眼のみスコアの悪化もしくは改善が認められた症例はなかった.角膜所見について,A+Dスコアの推移を検討した結果,両薬剤とも点眼0週と点眼12週の間に有意な差はなかった.また,点眼0週および点眼12週において,両薬剤間に有意な差を認めなかった.その他,眼科検査において変動を認めなかった.-40-20020406080806040200-20-4012週眼圧下降率(%)ラタノプロストタフルプロスト図3点眼12週における眼圧下降率にみるラタノプロストとタフルプロストの相関ラタノプロストとタフルプロストの眼圧下降率は強く相関している.相関係数0.74,p<0.001.12週症例A症例Bラタノプロストタフルプロストラタノプロストタフルプロスト0週図4眼瞼色素沈着に左右差がみられた2例(111)あたらしい眼科Vol.27,No.9,20101277III考察本研究において,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降を示した.タフルプロスト点眼薬の第III相臨床試験におけるキサラタンRとの比較でも両点眼薬とも同等の有効性を示していた1).さらに,個々の症例に注目すると,点眼12週におけるタフルプロスト点眼眼とラタノプロスト点眼眼の眼圧下降率が強く相関したことから,多くの症例では両点眼薬がともに有効であることが示唆された.その一方で,タフルプロスト点眼がラタノプロスト点眼よりも有効な眼圧下降作用を示した症例があり,逆に,ラタノプロスト点眼がタフルプロスト点眼よりも有効性を示した症例もみられた(図3).このことからPG関連点眼薬における有効性にはノンレスポンダーを含めて個人差があると考えられる.PG系の点眼薬が緑内障薬物治療における第一選択薬になってから久しく,現在でも効果不十分な場合は,異なる機序の緑内障治療薬を2剤目,3剤目と加えていくことが治療戦略としてよく採られている.しかし,本研究の結果から,1剤目で効果不十分な場合に,まず他のPG関連点眼薬に変更する意義はあると考えられた.本研究では,少なくとも1カ月以上のラタノプロスト単剤使用例が対象であり,ラタノプロスト継続群においては研究開始以前と比較して眼圧下降は認められないと予想したにもかかわらず有意な眼圧下降が認められた.この原因としては,「新たな研究への参加」ということで患者のコンプライアンスが向上したためと考えられた.本研究では片眼投与を採用した.その理由として,対象がすでにラタノプロスト点眼液を使用していることから,タフルプロスト点眼液に変更することによる眼圧変化がほとんどないか,非常に小さいことが予想されたために,眼圧日内変動や日日変動などの要因を除く必要があったためである.また,b遮断点眼薬の場合は,片眼投与により他眼にも影響を与える可能性があるが,少なくともラタノプロスト点眼薬が他眼には影響を与えないとされている6)ため,他眼への影響はないと考えた.ラタノプロスト点眼薬は防腐剤として塩化ベンザルコニウムが含有されており,緑内障治療薬が非常に長期に使用されることも相まって角膜上皮障害の発現が危惧される.今回の研究では両薬剤群ともに,点眼0週と点眼12週との間には有意な差がなく,角膜への影響はラタノプロスト点眼薬と同等と考えた.タフルプロスト点眼薬については,2010年より点眼液中の塩化ベンザルコニウム含有量が大幅に低減されていることから,防腐剤による角膜への影響はさらに減少するものと考える.睫毛の伸長については,すでにラタノプロスト点眼薬の使用によって両眼とも変化をきたしており,新たにタフルプロスト点眼薬に変更しても変化は認められなかった.今回は点眼0週と点眼12週時点の写真の比較判定により変化を検討したが,両眼とも同じ条件での撮影ではあるものの,睫毛の本来の長さや伸びる角度にばらつきがあって正確な判定が困難であった.睫毛への影響に関する詳細な評価については今後の研究を待ちたい.緑内障点眼薬においてPG関連製剤は強力な眼圧下降作用を有しており,b遮断点眼薬でみられるような全身性の副作用は少ないが,眼瞼色素沈着は頻度の高い副作用と考えなければならない.日本人においては虹彩色素沈着が発症しても細隙灯顕微鏡での観察以外では判別しにくいが,下眼瞼の色素沈着は美容的な見地から見逃すことができず,患者によっては精神的なダメージを与える可能性がある.臨床試験の結果を考慮すると,当初,本研究ではタフルプロスト点眼薬への切り替えによっても,眼瞼色素の変化はまず変わらないものと予想したが,患者からの「眼瞼の黒さが減少した」という自覚の訴えが4例あった.そのなかの1例と自覚がなかった1例の計2例について,2人の医師による写真判定の結果,明らかにタフルプロスト点眼眼でラタノプロスト点眼眼と比較して色素沈着が少ないことが判明した.培養メラノーマ細胞を使用したinvitro試験の結果,タフルプロストのメラニン合成能をラタノプロストと比較した結果,ラタノプロストが用量依存性にメラニン合成を増加させるのに対して,タフルプロストではほとんど変化がみられなかったこと2)から,タフルプロストのメラニン合成能が臨床でも低い可能性は十分考えられた.臨床では,ラタノプロスト中止により約7週間で消失するか減弱し8),ラタノプロストから他の薬剤に変更後6カ月で約30%の症例で眼瞼色素沈着が軽減したという報告9)や,またラタノプロストによる眼瞼色素沈着がワセリン塗布後の点眼指導によって3カ月後に色素軽減を認めた報告6)から,本研究においても,タフルプロスト点眼液へ変更して12週間が経過することによりラタノプロスト点眼薬の影響が減少したことも考えられる.しかし一方で,タフルプロスト点眼薬単剤使用例でも眼瞼色素沈着がみられた文献報告がある7).また,タフルプロスト点眼薬の眼内移行に関する研究はすでに行われているが,眼瞼皮膚への移行や皮膚での代謝に関する研究は存在しないことから,薬物動態面を含めて考察するに際しては,今後の研究成果を待たなければならないと考える.なお,PG系緑内障点眼薬の色素沈着の研究調査としては,24カ月の長期使用によるタフルプロストとラタノプロストの無作為割り付け二重盲検比較試験においては,写真による判定で,虹彩色素沈着についてタフルプロストのほうが若干少ない傾向を示したものの統計学的有意差はなかったという報告7)や,皮膚科領域で使用されている装置を使用して皮膚の色素量を定量化して検討したところ,ウノプロストン,ラ1278あたらしい眼科Vol.27,No.9,2010(112)タノプロスト,チモロールのいずれの点眼液の使用によっても下眼瞼の色素沈着は同等であったという報告10)があり,対象とする組織や色素沈着の判定方法などによって結果が異なる.本研究においても他の報告と同様に写真判定を採用しているが,同じ条件で両眼を同一写真で撮影することによって片眼のみの切り替え効果を観察したために,眼瞼色素沈着の非常に小さい変化を左右差として示した症例を検出することができたと考える.以上より,タフルプロスト点眼液では眼瞼色素沈着が少ない可能性があるものの,いまだ症例数が少ないため,眼圧下降作用でも明らかになったように個体差による可能性があり,今後の研究成果を待ちたい.今回の研究によって,タフルプロスト点眼液はラタノプロスト点眼液と同等の眼圧下降効果ならびに安全性を有することが確認された.眼圧下降効果においてはラタノプロスト点眼液と同様に効果不十分の症例が少数みられた.安全性は同等であったが,眼瞼色素沈着はラタノプロスト点眼剤よりも少ない可能性も示唆された.タフルプロストはラタノプロストと同等に臨床使用できる有用性のある薬剤と考えられる.文献1)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第III相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20082)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:NewfluoroprostaglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20033)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:PharmacologicalcharacteristicsofAFP-168(tafluprost),anewprostanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20044)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19945)ZiaiN,DolanJW,KacereRDetal:TheeffectsonaqueousdynamicsofPhXA41,anewprostaglandinF2aanalogue,aftertopicalapplicationinnormalandocularhypertensivehumaneyes.ArchOphthalmol111:1351-1358,19936)大友孝昭,貴田岡マチ子:プロスタグランジン系点眼薬の眼瞼色素沈着の発現を少なくするための一工夫.あたらしい眼科24:367-369,20077)UsitaloH,PillunatLE,RopoA:Efficacyandsafetyoftafluprost0.0015%versuslatanoprost0.005%eyedropsinopen-angleglaucomaandocularhypertension:24-monthresultsofarandomized,double-maskedphaseIIIstudy.ActaOphthalmol88:12-19,20108)WandM,RitchR,IsbeyEKetal:Latanoprostandperiocularskincolorchanges.ArchOphthalmol119:614-615,20019)泉雅子,井上賢治,若倉雅登ほか:ラタノプロストからウノプロストンへの変更による眼瞼と睫毛の変化.臨眼60:837-841,200610)井上賢治,若倉雅登,井上次郎ほか:プロスタグランジン関連薬点眼薬およびチモロール点眼薬による眼瞼色素沈着頻度の比較検討.あたらしい眼科24:349-353,2007***

マイトマイシンC 併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(103)963《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):963.966,2010cはじめに緑内障においてエビデンスのある治療は眼圧下降のみである1).しかし一方で,眼圧を十分に下降させても視野障害進行を抑制できない例が存在するという事実もある2).近年,眼圧日内変動幅3)および仰臥位眼圧上昇幅4,5)が,緑内障視野障害進行と関係していることを示唆する報告が散見される.眼圧日内変動幅に関しては,薬物治療でもある程度小さくすることができる6)が,仰臥位眼圧上昇幅は,薬物治療7)およびレーザー線維柱帯形成術8)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術はマイトマイシンC(MMC)の併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となっているが,仰臥位眼圧上昇幅に対する抑制効果に関しては現時点では明らかではない.今回,MMC併用線維柱帯切除術後眼の体位変換による眼圧変化を測定し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は,平成21年4月20日から8月31日に東京警察病〔別刷請求先〕小川俊平:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:ShumpeiOgawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPANマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化小川俊平中元兼二福田匠里誠安田典子東京警察病院眼科PosturalChangeinIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomafollowingTrabeculectomywithMitomycinCShumpeiOgawa,KenjiNakamoto,TakumiFukuda,MakotoSatoandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital初回マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察できた広義の原発開放隅角緑内障20例32眼を対象に,Pneumatonometerを用いて座位と仰臥位の眼圧を測定した.眼圧は,座位から仰臥位へ体位変換直後有意に上昇し,仰臥位10分後も有意に上昇した(p<0.05).また,再度,座位へ体位変換後,眼圧は速やかに下降した(p<0.05).仰臥位眼圧上昇幅は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg,仰臥位10分後で3.43±1.8mmHgであった.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅には有意な正の相関があった(仰臥位直後:r2=0.41,r=0.64,p<0.0001,仰臥位10分後:r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).In32untreatedeyesof20patientswithprimaryopen-angleglaucomaornormal-tensionglaucoma,weevaluatedtheposturalchangeinintraocularpressure(IOP)followingtrabeculectomywithmitomycinC.UsingaPneumatonometer,IOPwasmeasuredafter5minutesinthesittingposition,andat0and10minutesinthesupineposition.SittingIOP,and0and10minutessupineIOPwere10.2±3.3mmHg,12.2±4.2mmHgand13.7±4.5mmHg,respectively.Thedifferencebetweensupine0minIOPandsittingIOP(ΔIOP0min)was1.95±1.4mmHg(p<0.05);thedifferencebetween10minsupineIOPandsittingIOP(ΔIOP10min)was3.43±1.8mmHg(p<0.05).ThereweresignificantcorrelationsbetweensittingIOP,ΔIOP0min(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)andΔIOP10min(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):963.966,2010〕Keywords:仰臥位,体位変換,眼圧,正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,線維柱帯切除術.supineposition,posturalchange,intraocularpressure,normal-tensionglaucoma,primaryopen-angleglaucoma,trabeculectomy.964あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(104)院眼科外来に受診した原発開放隅角緑内障(広義)20例32眼である.年齢は57.6±10.8(平均値±標準偏差)歳,男性5例8眼,女性15例24眼,病型は原発開放隅角緑内障(狭義)22眼,正常眼圧緑内障10眼である.選択基準は,熟練した2人の術者による初回のMMC併用線維柱帯切除術後6カ月以上無治療で観察されたものである.除外基準は,術後6カ月以内のもの,初回手術以外にレーザー治療を含む内眼手術既往のあるもの,白内障同時手術例,僚眼へb遮断点眼薬を使用しているもの,Seidel試験で濾過胞に明らかな漏出点があるもの,高血圧・糖尿病の既往のあるものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.線維柱帯切除術の方法を以下に記す.まず,輪部基底の結膜弁を作製し,4×3mmの強膜半層三角弁作製後,0.04%MMC0.25mlを浸した小片状スポンジェルRを4分間結膜下に塗布した.その後400mlの生理食塩水で洗浄し,線維柱帯切除,周辺虹彩切除後,強膜半層弁を10-0ナイロン糸で房水がわずかに漏出する程度に5針縫合した.最後に結膜を連続縫合した.眼圧測定は,Pneumatonometer:PT(MODEL30CLASSICTMPneumatonometer,Reichert社)とGoldmann圧平式眼圧計(GAT)を用いて行った.眼圧測定は,外来ベッド上でPTを用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位へ体位変換した直後に眼圧を測定した.同時に,各測定時に自動眼圧計で右上腕の血圧および脈拍数を測定した.その後,診察室へ移動し,細隙灯顕微鏡検査およびSeidel試験を行った.最後に座位安静5分後にGATを用いて眼圧を測定した(図1).すべての眼圧測定は,同一検者(S.O.)が午後2時から4時の間に行った.眼圧測定は,すべて右眼より行い,仰臥位眼圧測定時は枕を使用しなかった.まず,PT測定値とGAT測定値の一致度を調べるため,GAT眼圧と座位安静5分後および再座位直後の眼圧をBland-Altman分析を用いて比較した.さらに,体位変換により眼圧および血圧が変動するかを検討するため,全対象の座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再座位直後の眼圧を,ボンフェローニ(Bonferroni)補正pairedt-testを用いて比較した.また,座位安静5分後の眼圧と座位安静5分後から仰臥位直後の眼圧上昇幅(ΔIOP直後)および仰臥位10分後の眼圧上昇幅(ΔIOP10分後)の関係について回帰分析を用いて検討した.有意水準はp<0.05(両側検定)とした.II結果手術日から本試験眼圧測定日までの期間は,2,385±1,646(214.5,604)日であった.Bland-Altman分析ではGATと座位安静5分後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35〕および再座位直後の眼圧〔95%信頼区間(mmHg):.1.2.GAT-再座位直後眼圧(GAT+座位安静5分後眼圧)/2(GAT+再座位直後眼圧)/2GAT-座位安静5分後眼圧05101520531-1-3-505101520531-1-3-5図2GATとPTの一致度Bland-Altman分析では,GATと座位安静5分後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.0..2.1,r2=0.030,p=0.35]および再座位直後の眼圧[95%信頼区間(mmHg):.1.2..2.2,r2=0.005,p=0.69]の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった.座位安静5分後仰臥位直後仰臥位10分後再座位直後ベッド上PT診察室GAT図1眼圧測定順序眼圧は,Pneumatonometer(PT)を用いて,座位安静5分後,仰臥位直後,仰臥位10分後,再度座位直後に測定した.最後にGoldmann圧平式眼圧計(GAT)で眼圧を測定した.(105)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010965.2.2,r2=0.005,p=0.69〕の間に比例誤差はなかったが,座位安静5分後の眼圧はGAT眼圧より1.5±1.4mmHg,再座位直後の眼圧は1.7±1.5mmHg高かった(図2).各体位の全症例の眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHg,GAT:9.2±3.9mmHgであった.仰臥位直後および仰臥位10分後の眼圧は,いずれも座位安静5分後,再座位直後より有意に高かった(p<0.05).また,仰臥位10分後の眼圧が他の測定値のなかで最も有意に高かった(p<0.05)(図3).体位変換による仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)は,仰臥位直後で1.95±1.4mmHg(ΔIOP直後),仰臥位10分後で3.43±1.8mmHg(ΔIOP10分後)であった.座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった(図4).血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後が最も高かった(p<0.05).また,脈拍数は,座位安静5分で最も多かった(p<0.05)(表1).血圧および脈拍数は,ΔIOP直後およびΔIOP10分後のいずれとも有意な相関はなかった.III考按緑内障における確実な治療法は,眼圧下降治療のみであり,薬物治療やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない場合は観血的手術を行う必要がある.線維柱帯切除術はMMCの併用により眼圧を長期に低くコントロールできるようになったため,緑内障の観血的手術として最も一般的な術式となった1).しかし,手術治療で十分な眼圧下降効果が得られても,視野障害が進行する症例が少なくないことはよく知られている.近年,外来眼圧2)や眼圧日内変動幅3)のみならず仰臥位眼圧上昇幅も,緑内障視野障害進行と関与している可能性が指摘されている4,5).Hirookaら5)は,原発開放隅角緑内障患者11例を対象にして,同一症例の左右眼のうち視野障害がより高度な眼と軽度な眼の仰臥位眼圧上昇幅を比較したところ,視野障害がより高度な眼が軽度な眼より仰臥位眼圧上昇幅が有意に大きかったと報告している.Kiuchiら4)は,正常眼圧緑内障患者を対象に,座位眼圧,仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅とMDslopeとの関係を調べたところ,MDslopeと座位眼圧には有意な相関はなかったが,MDslope表1体位変動と血圧,脈拍数の変化座位仰臥位直後仰臥位10分再座位直後収縮期血圧(mmHg)129.7±15.0129.8±21.0126.1±16.1137.8±19.5*拡張期血圧(mmHg)80.7±9.675.8±12.174.6±10.984.7±9.6*脈拍数(回/分)73.4±15.0*68.7±14.267.0±13.270.9±13.9*:他の3体位との比較(p<0.05,Bonferroni補正pairedt-test).平均値±標準偏差.血圧は,収縮期,拡張期ともに再座位直後で最も高かった.脈拍数は,座位安静5分で最も多かった.6543210-1-205101576543210-1051015ΔIOP直後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)ΔIOP10分後(mmHg)座位安静5分後の眼圧(mmHg)図4座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅座位安静5分後の眼圧とΔIOP直後(ΔIOP直後=.0.26+0.23×GAT,r2=0.41,r=0.64,p<0.0001)およびΔIOP10分後(ΔIOP10分後=0.59+0.30×GAT,r2=0.43,r=0.66,p<0.0001)の間には有意な正の相関があった.0510152025仰臥位直後座位安静5分後再座位直後仰臥位10分後n=32Mean±SE眼圧(mmHg)*****図3体位変換による眼圧変化各体位の平均眼圧は,座位安静5分後:10.8±3.7mmHg,仰臥位直後:12.6±4.9mmHg,仰臥位10分後:14.1±5.1mmHg,再座位直後:10.9±4.1mmHgであった.PTで測定された体位変換後の眼圧は仰臥位10分後が最も高かった(*p<0.05).966あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(106)と仰臥位眼圧および仰臥位眼圧上昇幅との間には有意な負の相関を認めたと報告している.眼圧下降治療の質を向上させるためには,仰臥位眼圧上昇幅も可能な限り小さくすることが望まれる.線維柱帯切除術により,仰臥位眼圧上昇幅が抑制できるかは,Parsleyらによりすでに報告されている9).Parsleyらは,座位から仰臥位への体位変換により,眼圧が対照群では1.08mmHgの上昇であったのに対して,片眼手術群では3.31mmHg,両眼手術群では5.49mmHgと大きく上昇したことから,線維柱帯切除術の仰臥位眼圧上昇抑制効果はほとんどなかったと述べている.しかし,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6.17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,今回筆者らは,原発開放隅角緑内障(広義)患者を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧が体位変換によりどの程度変化するかについて検討したところ,座位から仰臥位への体位変換により,仰臥位直後平均1.90mmHg,仰臥位10分後平均3.40mmHg有意に上昇した.その後,再度座位へ体位変換すると,眼圧は速やかに有意に下降した.仰臥位眼圧上昇のおもな機序の一つとして,上強膜静脈圧の上昇が考えられている10.12).体位変換による上強膜静脈圧の上昇とともに,眼圧も1.3分で速やかに上昇することが知られている13,14).Fribergら11)によれば,健常人において,眼圧は体位変換後10.15秒以内に上昇幅の80%が上昇し,30.45秒で最大となり体位を保持するかぎり上昇幅は保たれていた.また,体位変換1分後と5分後では差がなく,座位に戻ると2.3分でベースラインへ戻ったと報告している.Tsukaharaら15)は,健常人と手術既往のない緑内障患者のいずれも,仰臥位直後より仰臥位30分後のほうが眼圧は高かったと報告している.今回の結果とあわせ,MMC併用線維柱帯切除術後も体位変換により,眼圧は速やかに変動することが確認できた.座位眼圧と仰臥位眼圧上昇幅(ΔIOP)の間には有意な正の相関があり,術後座位眼圧が低いほど,仰臥位眼圧上昇幅がより小さかった.仮にMMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅が抑制されるとすると,その機序は座位から仰臥位への体位変換後,房水が濾過胞へ速やかに流出するためと推測される.これは術後座位眼圧が低い症例ほど,術後の濾過機能がより良好であった可能性が高いためと考えられる.このことから,できるだけ座位眼圧が低い,良好な濾過機能をもった濾過胞を形成することで,仰臥位眼圧上昇幅をより小さくできる可能性が示唆された.今回の検討では,術前の仰臥位眼圧上昇幅を測定していないため,MMC併用線維柱帯切除術により仰臥位眼圧上昇幅を,術前より術後で抑制できたかについては明らかでない.この点に関して検証するためには,今後,MMC併用線維柱帯切除術前後に仰臥位眼圧上昇幅を前向きに測定し比較する必要があると考える.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20004)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,20075)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,20036)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,20047)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,19908)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,19929)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198710)KrieglsteinGK,WallerWK,LeydheckerW:Thevascularbasisofthepositionalinfluenceontheintraocularpressure.AlbrechtvonGraefesArchklinexpOphthalmol206:99-106,197811)FribergTR,SanbornG,WeinrebRN:Intraocularandepiscleralvenouspressureincreaseduringinvertedposture.AmJOphthalmol103:523-526,198712)BlondeauP,TetraultJP,PapamarkakisC:Diurnalvariationofepiscleralpressureinhealthypatients:apilotstudy.JGlaucoma10:18-24,200113)WeinrebR,CookJ,FribergT:Effectofinvertedbodypositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol98:784-787,198414)GalinMA,McIvorJW,MagruderGB:Influenceofpositiononintraocularpressure.AmJOphthalmol55:720-723,196315)TsukaharaS,SasakiT:PosturalchangeofIOPinnormalpersonsandinpatientswithprimarywideopen-angleglaucomaandlow-tensionglaucoma.BrJOphthalmol68:389-392,1984

原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(95)955《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):955.958,2010cはじめにラタノプロストおよびトラボプロストはいずれもプロスタグランジン関連薬の一つであり,1日1回で強力な眼圧下降効果を示し,また,全身副作用がないことから第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン関連薬の眼圧下降機序はいまだ明らかではないが,おもに毛様体および強膜のmatrixmetalloproteinase(MMP)の活性化に伴うコラーゲンの減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングと考えられている1).しかし,FP受容体は角膜にもあるため2),同様の機序が角膜においてもみられる可能性がある.近年,プロスタグランジン関連薬治療前後の中心角膜厚の変化に関する報告が散見されるが,治療後,中心角膜厚は減少する3.5),変わらない6),増加する7)報告があり,プロスタグランジン関連薬の中心角〔別刷請求先〕里誠:〒164-8541東京都中野区中野4-22-1東京警察病院眼科Reprintrequests:MakotoSato,M.D.,TokyoMetropolitanPoliceHospital,4-22-1Nakano,Nakano-ku,Tokyo164-8541,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム非含有トラボプロスト点眼前後の角膜厚および眼圧変化里誠中元兼二小川俊平安田典子東京警察病院眼科EffectofLatanoprostandTravoprostwithoutBenzalkoniumChlorideonCornealThicknessandIntraocularPressureinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMakotoSato,KenjiNakamoto,ShunpeiOgawaandNorikoYasudaDepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital広義の原発開放隅角緑内障30例57眼においてラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,周辺角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.対象を無作為にラタノプロスト治療群,BAC非含有トラボプロスト治療群に割付け,ラタノプロスト0.005%(キサラタンR),BAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させて,治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.眼圧は両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001).眼圧下降率は,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前後で有意な変化はなかった(p=0.20)が,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療後有意に減少した(p=0.007).周辺角膜厚は両治療群とも治療後有意に減少した(ラタノプロスト治療群:p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:p=0.002).Weinvestigatedtheeffectoflatanoprostandtravoprostwithoutbenzalkoniumchloride(BAC-freetravoprost)oncornealthickness(CT),paracentralCTandintraocularpressure(IOP).Subjectscomprised30patients(57eyes)withprimaryopen-angleglaucomawhowererandomlyassignedtoreceivelatanoprost(16patients,30eyes)orBAC-freetravoprost(14patients,27eyes)for8weeks.CTandIOPweremeasuredbeforeandaftertreatment.StatisticallysignificantIOPreductionwasobservedinbothgroups(p<0.001),withnosignificantdifferencebetweentheirpercentreductions(p=0.72).CentralCTdecreasedsignificantlyonlyintheBAC-freetravoprostgroup(p=0.007);peripheralCTdecreasedsignificantlyinbothgroups(latanoprostgroup:p=0.03,BAC-freetravoprostgroup:p=0.002).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):955.958,2010〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,トラボプロスト,角膜厚,眼圧.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,travoprost,cornealthickness,intraocularpressure.956あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(96)膜厚に及ぼす効果に関してもいまだ明らかでない.また,プロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関しては,筆者らの調べる限り,いまだ報告されていない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障におけるラタノプロストと塩化ベンザルコニウム(BAC)非含有トラボプロストの中心角膜厚,傍中心角膜厚および眼圧に及ぼす効果について検討した.I対象および方法対象は2008年4月から12月までに東京警察病院を受診した,治療歴のない広義の原発開放隅角緑内障患者30例57眼で,年齢は56.3±13.0(31.80)歳,性別は男性20例,女性10例である.原発開放隅角緑内障(狭義)は3例6眼,正常眼圧緑内障は27例51眼であった.除外基準は,重篤な角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のあるもの,内眼手術の既往のあるもの,角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下のもの,コンタクトレンズ装用者,担当医が不適切と判断したものである.本試験は東京警察病院治験審査委員会にて承認されており,本試験開始前に全例に試験の内容などを口頭および文書を用いて十分に説明し同意を得た.対象を無作為にラタノプロスト治療群16例30眼,BAC非含有トラボプロスト治療群14例27眼に割付けた.ラタノプロスト治療群はラタノプロスト0.005%(キサラタンR)を,また,BAC非含有トラボプロスト治療群はBAC非含有トラボプロスト0.004%(トラバタンズR)を1日1回夜片眼または両眼に点眼させた.1滴点眼後5分以上涙.圧迫および眼瞼を閉瞼させた.治療前および治療後8週に,角膜厚および眼圧を測定した.角膜厚は,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscan(スキャン方向8方向)で1回測定し,角膜中心から0.2mm(中心角膜)の平均値と2.5mm(傍中心角膜)の平均値を用いてそれぞれ検討した.なお,ビサンテ前眼部光干渉断層計のPachymetryscanでの中心角膜厚測定の再現性は良好であることはすでに報告されている8).眼圧は,Goldmann圧平眼圧計で治療前後ともに同一医師が1回測定した.測定は,角膜厚から行い,直後に眼圧を測定した.まず,両群の背景因子を比較した.つぎに,各治療群において治療前後の中心角膜厚,傍中心角膜厚,眼圧を比較した.また,各治療群において治療前中心角膜厚と眼圧下降率[((治療前眼圧.治療後眼圧)/治療前眼圧)×100(%)]との関係を回帰分析を用いて検討した.さらに,各群において中心角膜厚変化率[((治療前中心角膜厚.治療後中心角膜厚)/治療前中心角膜厚)×100(%)]と眼圧下降率との関係を回帰分析を用いて検討した.統計解析は,群内比較にはWilcoxonsigned-rankstest,群間比較には,Mann-WhitneyUtestを用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果経過中,全例重篤な副作用はなく,中止・脱落したものはなかった.両治療群の背景因子には有意差はなかった(表1).眼圧は,ラタノプロスト治療群では治療前15.5±3.2mmHg,治療後13.4±2.5mmHg,BAC非含有トラボプロスト治療群では治療前16.3±3.2mmHg,治療後13.9±2.9mmHgであり,両治療群とも治療後有意に下降した(p<0.001)(表1).眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であったが,両治療群間に有意な差は認めなかった(p=0.72)(図1).中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前527.5±25.8μm,治療後526.3±26.7μmであり,治療前後で有意差表1背景因子治療群ラタノプロストp値(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)年齢(歳)58.5±12.153.9±13.90.17性別(男/女)11/59/50.20等価球面度数(D).2.5±2.4.3.7±4.30.45角膜厚(μm)中心(0.2mm)527.5±25.8528.9±43.00.94傍中心(2.5mm)544.3±26.3547.1±42.40.77眼圧(mmHg)15.5±3.216.3±3.20.39MD(dB).4.6±6.1.4.8±4.70.55両治療群の背景因子には有意差はなかった.MD:meandeviation.平均値±標準偏差.0481216ラタノプロスト治療群(n=30)BAC非含有トラボプロスト治療群(n=27)眼圧下降率(%)Mean±SE図1眼圧下降率比較眼圧下降率はラタノプロスト治療群で11.6±16.4%,BAC非含有トラボプロスト治療群で13.6±16.5%であり,両治療群間に有意な差はなかった(p=0.72).(97)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010957はなかった(p=0.20).BAC非含有トラボプロスト治療群では,中心角膜厚は治療前528.9±43.1μm,治療後525.3±44.7μmであり,治療後中心角膜厚は有意に減少した(p=0.007)(表2).傍中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では治療前544.3±26.3μm,治療後542.0±28.1μm(p=0.03),BAC非含有トラボプロスト治療群は治療前547.1±42.4μm,治療後543.0±43.4μmであり(p=0.002),両群とも治療後有意に減少した(表2).治療前中心角膜厚と眼圧下降率の関係を回帰分析で検討したところ,両群とも治療前中心角膜厚と眼圧下降率の間に有意な相関はなかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=.35.3+0.09×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.14,p=0.46,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=.13.6+0.05×治療前中心角膜厚,r2=0.02,r=0.13,p=0.50).中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03)(図2).III考按ラタノプロストとトラボプロストの眼圧下降効果を比較した海外の報告によると,夕方9)または点眼24時間後のトラフ時刻10)で,トラボプロストのほうがラタノプロストより眼圧下降効果が大きいとするものがあるが,点眼12時間後のピーク時刻においては両者の眼圧下降効果には差がないとする報告が多い9.11).今回筆者らは,日本人を対象にピーク時刻でのラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果を比較したところ,両者の眼圧下降率には有意な差がなかった.このことから,日本人の原発開放隅角緑内障(広義)においてもラタノプロストとBAC非含有トラボプロストの眼圧下降効果はピーク時刻では差がないといえる.プロスタグランジン関連薬の中心角膜厚への影響に関しては,近年いくつかの報告が散見されるが,いまだ明らかではない.Arcieriら6)によると,原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象にして,ラタノプロスト,トラボプロストおよびビマトプロストの血液房水柵および中心角膜厚へ及ぼす影響を調べたところ,ビマトプロストのみが中心角膜厚を有意に減少させ,ラタノプロストおよびトラボプロストでは中心角膜厚は有意に変化しなかった.一方,Hatanakaら4)は,開放隅角緑内障患者52例52眼をビマトプロスト,トラボプロストまたはラタノプロストで8週治療したところ,中心角膜厚はすべての群において有意に減少したと報告している.また,逆に治療後中心角膜厚が増加したとする報告も表2治療前後の眼圧および角膜厚変化治療群ラタノプロスト(n=30)BAC非含有トラボプロスト(n=27)眼圧(mmHg)治療前15.5±3.2p<0.001*16.3±3.2p<0.001*後13.4±2.513.9±2.9角膜厚(μm)中心(0.2mm)治療前527.5±25.8p=0.20528.9±43.0p=0.007*後526.3±26.7525.3±44.7傍中心(2.5mm)治療前544.3±26.3p=0.03*547.1±42.4p=0.002*後542.0±28.1543.0±43.4*:有意差あり.平均値±標準偏差.ラタノプロスト治療群非含有トラボプロスト治療群402000-20-2-1012-3-2-10123眼圧下降率(%)4020-20眼圧下降率(%)中心角膜厚変化率(%)中心角膜厚変化率(%)図2中心角膜厚変化率と眼圧下降率との関係中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間には,両治療群ともに有意な正の相関があり,両群とも中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きかった(ラタノプロスト治療群:眼圧下降率=10.2+6.2×中心角膜厚変化率,r2=0.16,r=0.41,p=0.03,BAC非含有トラボプロスト治療群:眼圧下降率=9.9+5.3×中心角膜厚変化率,r2=0.17,r=0.41,p=0.03).958あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(98)ある7).Bafaら7)は,開放隅角緑内障患者108眼を無作為にラタノプロスト,トラボプロストまたはビマトプロストで2年間治療したところ,ラタノプロストとビマトプロストでは,中心角膜厚は治療後有意に増加したが,トラボプロスト治療群では有意な変化はなかったと報告している.このように,現時点では,両薬剤の中心角膜厚に与える影響については,明らかではない.また,傍中心角膜厚も,中心角膜厚と同様に眼圧と有意な正の相関を示すことがHamilton12)により報告されているが,これまでプロスタグランジン関連薬の傍中心角膜厚に及ぼす効果に関する報告はない.そこで今回,広義の原発開放隅角緑内障患者を対象に,ラタノプロスト,BAC非含有トラボプロストの中心角膜厚および傍中心角膜厚への影響を調べた.治療後の中心角膜厚は,ラタノプロスト治療群では,平均1.2μm,BAC非含有トラボプロスト治療群では平均3.7μm減少していたが,有意な変化はBAC非含有トラボプロスト治療群のみにみられた.また,傍中心角膜厚はラタノプロスト治療群では,平均5.0μm,BAC非含有トラボプロスト治療群は平均6.0μm減少しており,これらは両治療群とも有意な変化であった.しかし,中心角膜厚変化値の範囲はラタノプロスト治療群で.12.+10μm,BAC非含有トラボプロスト治療群で.14.+14μmと小さく,また,Goldmann圧平眼圧計の測定誤差も併せて考慮すると,両薬剤による中心角膜厚の変化が眼圧測定値に与える影響は,臨床上ほとんど問題にならないと考えられる13).今回の検討では,両治療群ともに中心角膜厚変化率と眼圧下降率の間に有意な正の相関があり,両治療群ともに中心角膜厚変化率が大きいほど眼圧下降率が大きいという結果であった.仮に,プロスタグランジン関連薬による角膜厚減少の機序が,眼圧下降機序と同様にMMPの活性化によるコラーゲン減少を含む細胞外マトリックスのリモデリングであるとすると1,14),毛様体や強膜における薬理作用が強い症例ほど,角膜での作用もより強い可能性が考えられる.あるいは,この中心角膜厚減少による見かけ上の眼圧下降効果のために真の眼圧下降効果が過大評価されている可能性も否定できない.しかし,今回の中心角膜厚変化率と眼圧下降率の相関はいずれの治療群においても弱く,また,本試験は少数例,短期間での検討であるため,より多数例,長期間で検討する必要があると考える.文献1)TorisCB,GabeltBT,KaufmannPL:Updateonmechanismofactionoftopicalprostaglandinsforintraocularpressurereduction.SurvOphthalmol53:S107-S120,20082)Schlotzer-SchrehardtU,ZenkelM,NusingRM:ExpressionandlocalizationofFPandEPprostanoidreceptorsubtypesinhumanoculartissues.InvestOphthalmolVisSci43:1475-1487,20023)SenE,NalcaciogluP,YaziciAetal:Comparisonoftheeffectoflatanoprostandbimatoprostoncentralcornealthickness.JGlaucoma17:398-402,20084)HatanakaM,VessaniRM,EliasIRetal:Theeffectofprostaglandinanalogsandprostamideoncentralcornealthickness.JOculPharmacolTher25:51-53,20095)HarasymowyczPJ,PapamatheakisDG,EnnisMetal:Relationshipbetweentravoprostandcentralcornealthicknessinocularhypertensionandopen-angleglaucoma.Cornea26:34-41,20076)ArcieriES,PierreFilhoPT,WakamatsuTHetal:Theeffectsofprostaglandinanaloguesonthebloodaqueousbarrierandcornealthicknessofphakicpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.Eye22:179-83,20087)BafaM,GeorgopoulosG,MihasCetal:Theeffectofprostaglandinanaloguesoncentralcornealthicknessofpatientswithchronicopen-angleglaucoma:a2-yearstudyon129eyes.ActaOphthalmol,2009,Epubaheadofprint8)大貫和徳,前田征宏,伊藤恵里子ほか:検者間および同一検者での前眼部OpticalCoherenceTomographyの測定再現性.視覚の科学29:103-106,20089)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,200110)DubinerHB,SircyMD,LandryTetal:Comparisonofthediurnalocularhypotensiveefficacyoftravoprostandlatanoprostovera44-hourperiodinpatientswithelevateintraocularpressure.ClinicalTher26:84-91,200411)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,200512)HamiltonK:Midperipheralcornealthicknessaffectsnoncontacttonometry.JGlaucoma18:623-627,200913)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,200014)WuKY,WangHZ,HongSJ:Effectoflatanoprostonculturedporcinecornealstromalcells.CurrEyeRes30:871-879,2005***

原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeep Sclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績

2009年6月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(97)8210910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(6):821824,2009cはじめに流出路再建術である線維柱帯切開術(trabeculotomy:LOT)は,濾過胞を形成しないため,術後感染症などの重篤な合併症が少ない安全な手術である反面,期待眼圧が1618mmHgであり,眼圧下降は十分とはいえなかった13).しかし,術後短期間での一過性高眼圧を抑制する目的でsinusotomy(SIN)を併施することで,一過性高眼圧の頻度が低下しただけでなく,期待眼圧も1516mmHgに下降し,適応の範囲が広がった37).さらに,LOTと白内障手術(phacoemulsicationandaspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)の同時手術では単独手術よりも術後眼圧が低いという報告8)もあり,LOT+SINとPEA+IOLの同時手術では,約1415mmHgの術後眼圧が期待できるとされている911).〔別刷請求先〕後藤恭孝:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:YasutakaGoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi631-0844,JAPAN原発開放隅角緑内障におけるSinusotomyおよびDeepSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績後藤恭孝黒田真一郎永田誠永田眼科Long-TermResultsofTrabeculotomyCombinedwithSinusotomyandDeepSclerectomyinEyeswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaYasutakaGoto,ShinichiroKurodaandMakotoNagataNagataEyeClinic線維柱帯切開術(LOT)にsinusotomy(SIN)とdeepsclerectomy(DS)を併施し,術後の長期成績について検討した.対象は永田眼科でLOT+SIN+DSを施行した原発開放隅角緑内障40眼である.白内障手術を同時に施行した同時群は13眼,単独群は27眼であった.術前平均眼圧は同時群18.8±2.7mmHg,単独群19.9±4.3mmHg,術後5年での平均眼圧は同時群15.1±1.6mmHg,単独群13.9±2.2mmHg,Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,同時群が53.8%,単独群が36.0%であった.術後の視野障害進行速度の平均値は0.15dB/Yであり,経過観察可能であった27眼中15眼で進行は停止していた.LOT+SIN+DSはLOT+SINとほぼ同等かより良好な眼圧下降効果が得られ,LOT+SIN+DSは,視野障害の進行を予防できる症例があることが示された.Weevaluatedthelong-termresultsoftrabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepsclerectomyin40eyeswithprimaryopen-angleglaucoma.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomycombinedwithcataractsurgerywasperformedin13eyes.Trabeculotomywithsinusotomyanddeepsclerectomywasperformedin27eyes.Postoperativeintraocularpressure(IOP)during5yearsaftersurgeryaveraged15.1±1.6mmHgintheformergroupand13.9±2.2mmHginthelatter.WhenthesuccessfulpostoperativeIOPlevelwasdenedas14mmHgandtheKaplan-Meierlifetablemethodwasapplied,thesuccessratewas53.8%intheformergroupand36.0%inthelatter.Thepostoperativevisualelddefectworseningrateaveraged0.15dB/Y;visualelddefectworseningceasedin15of27eyes.Trabeculotomywithsinusotomycombinedwithdeepsclerectomyseemstohaveasomewhathighersuccessratethantrabeculotomywithsinusotomyonly,andalleviatesworseningofvisualelddefect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(6):821824,2009〕Keywords:原発開放隅角緑内障,線維柱帯切開術,深部切除術,Schlemm管外壁開放術,視野進行速度.prima-ryopen-angleglaucoma(POAG),trabeculotomy,deepsclerectomy,sinusotomy,meandeviationslope.———————————————————————-Page2822あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(98)また,deepsclerectomy(DS)では術後DS単独で約15mmHgへ,PEA+IOLとの同時手術で約13mmHgへの眼圧下降が期待できる12)とされており,現在当施設では,さらなる眼圧下降を期待し,DSも併施している.今回は,LOT+SINにDSを追加しその長期成績を検討したので報告する.I対象および方法対象は,永田眼科において2001年4月から2002年3月までの間に,原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)に初回手術としてLOT+SIN+DSを行い,5年間以上経過観察できた32例40眼,術前の平均眼圧は19.5±3.8mmHg,術前の点眼数は2.4±1.1剤である.手術時の平均年齢は63.4±16.4歳であった.そのうち,白内障手術を併施しなかった単独群は21例27眼,術前の平均眼圧は19.9±4.3mmHg,術前の点眼数は2.9±0.8剤,手術時の平均年齢は57.7±16.1歳であり,白内障手術を併施した同時群は11例13眼,術前の平均眼圧は18.8±2.7mmHg,術前の点眼数は1.4±1.0剤,手術時の平均年齢は75.2±8.0であった.眼圧測定にはすべてGoldmannの圧平式眼圧計を用いた.術前の眼圧値は点眼治療下の眼圧で手術直前3回の平均とし,術後5年間の眼圧経過を検討した.眼圧コントロール率に関しては,眼圧値が14mmHg以下であれば,Goldmann視野では,経過年数にかかわらず視野障害の進行が停止したと報告されている13)ことを考慮して,術後6カ月以降に,眼圧が2回続けて14mmHgを超えた時点,眼圧下降剤の数が術前より増加した時点,アセタゾラミドの内服および追加手術を行った時点をコントロール不良とし,Kaplan-Meier生命表法を用いて検討した.視野障害は静的視野計としてHumphrey自動視野計(HFA:ZEISS社)を用い,そのmeandeviation(MD)で評価した.また,視野障害の進行度は,HFAlesR(B-line社)上で5回以上視野測定を行ったMDslopeによる視野進行速度で評価した.II結果1.眼圧経過単独群,同時群ともに術後6カ月目から有意(p<0.05)に眼圧下降し,術後5年目での眼圧は単独群13.9±2.2mmHg,同時群15.1±1.6mmHg,眼圧下降率は単独群27.5±17.9%,同時群18.8±10.9%であった(図1).2.眼圧コントロール率Kaplan-Meier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後5年で,単独群が34.5%,同時群が47.4%であった(図2).Logrank検定にて両群間に有意差(p<0.05)は認めなかった.3.点眼数術前の平均点眼数は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であった.術後5年目での点眼数は単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と単独群,同時群とも有意(p<0.05)に減少していた.4.術後併発症術後の平均前房出血持続期間は,単独群が2.5±2.4日,同時群が2.77±3.1日とほぼ同等であった.術後1週間以内の30mmHg以上の一過性高眼圧は単独群で1例に認められただけであった.持続性低眼圧,網脈絡膜離,低眼圧黄斑症は認めなかった.経過観察中に術後感染症も認めなかった.5.視野経過視野に関しては,術後5年経過時まで,Humphrey自動視野計のSITAstandard30-2プログラムで経過観察可能であった27眼(単独群20眼,同時群7眼)について検討した.視野進行速度に関しては,0dB/Y以上の場合,すべて0dB/Yとし,進行停止として評価した.術前の平均のMDは11.29±7.3dB(2.5724.79),術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.31dB/Y(1.370)であり,27眼中15眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.術前の視野0510152025061224364860観察期間(M)眼圧(mmHg):Student-ttestp<0.05************図1術後眼圧経過に術後以に眼圧下生率図2KaplanMeier生命表法による14mmHg以下への術後眼圧コントロール成績にめ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009823(99)障害の程度で,MD>6dBを初期群として,MD≦6dBを中期以降群として分類した場合,初期群では術前の平均のMDは3.13±2.1dB(5.910)で,術後の視野進行速度の平均値は0.17±0.27dB/Y(0.820)であり,9眼中5眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた.中期以降は術前の平均のMDは15.50±4.8dB(24.797.85)で,術後の視野進行速度の平均値は0.15±0.33dB/Y(1.370)であり,18眼中10眼(56%)は0dB/Y以上で進行停止していた(表1).また,術前後でMDslopeの評価が可能であった9眼では,視野進行速度は,術前が0.77±0.71dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.20±0.44dB/Y(1.370)になっていた.術前の視野障害の程度で分類すると,初期群では術前が0.18±0.09dB/Y(0.260.08)であったものが,術後は0.06±0.11dB/Y(0.20)に,中期以降群では術前が0.94±0.76dB/Y(2.290)であったものが,術後は0.27±0.54dB/Y(1.370)となっていた(表2).III考按術後期待眼圧はLOT単独では術後3年で18.4mmHg3),術後5年で16.1mmHg2),10年で16.7mmHg1)という報告があり,また,SINの併施によって術後2年で13.5mmHg4),術後35年で約15mmHg3,57)まで下降したと報告されている.LOT+SINにPEA+IOLを併施した場合,術後1年で14.6mmHg10),術後5年で13.6mmHg11)という報告もある.DSは非穿孔手術であり,その作用機序は,前房内から強膜内のlakeに染み出した房水が,DSの強膜床を通って,経ぶどう膜強膜路から吸収されるか,強膜創を通って結膜下に濾過されるかによるものであるとの報告14)があり,DS単独では約15mmHg,PEA+IOLとの併施で約13mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている12).さらに,LOTにDSを併施した場合,眼圧が術後1年で14.4mmHgに下降したと報告されている15).また,LOTに内皮網除去のみを併施した場合の短期成績では,約15mmHgへの眼圧下降が期待できるとされている16).今回の結果では,術後5年目の平均眼圧は単独群においては13.9mmHgであり,以前のLOT+SIN,DS,LOT+DS,LOT+内皮網除去とほぼ同等かやや低い結果となった.同時群においては15.1mmHgとなっており,LOT+SIN+PEA+IOLおよびDS+PEA+IOLとほぼ同等かやや高い結果となった.この結果から,期待眼圧においてはLOT+SINにDSを併施することによる効果は少ない可能性が考えられた.しかし,14mmHg以下への眼圧コントロール率においては,LOT単独では術後10年で12%1),LOT+SINでは術後5年で26%11),LOT+SIN+PEA+IOLでは術後5年で31%という報告11)があるが,今回は単独群で34.5%,同時群で47.4%と,以前のLOTおよびLOT+SINの報告よりもやや良好な結果であった.今回の結果とは観察期間,死亡の定義が異なるため直接比較はできないが,LOTに内皮網除去を併施した場合,術後1年での21mmHg未満へのコントロール率は,単独で約60%,PEA+IOL併施だと約95%であり,LOT+内皮網除去ではLOTの効果を減弱させる可能性があるという報告16)がある一方で,DSにSkGelを使用した場合,術後5年で16mmHg以下へのコントロール率が89.7%であったという報告17),あるいは,DSにPEA+IOLを併施した場合の術後1年の18mmHg以下へのコントロール率は50%であったという報告15)がある.内皮網除去の併施だけでは眼圧コントロールは向上しなかったのかもしれないが,今回はDSも併施したため,DSの眼圧下降効果が相乗的に作用した結果,LOTおよびLOT+SINより長期に眼圧コントロールが維持できた可能性があると考えられた.点眼数は,LOT3),LOT+SIN35,7),LOT+PEA+IOL8),LOT+SIN+PEA+IOL9,11)の報告と同様の傾向を示し,術前は単独群で2.9±0.8剤,同時群で1.4±1.0剤であったものが,術後5年で,単独群が1.5±1.1剤,同時群が0.5±0.8剤と有意に減少していた.前房出血持続期間は以前のLOT+SIN10)の報告と同様であり,DSを併施することで,前房出血が増加していないことが確認された.今回術後一過性高眼圧の発生率が低かったことは,内皮網除去は一過性眼圧上昇を減少させる可能性が表1術後の視野障害進行速度(MDslope)術前平均MD術後視野進行度進行停止11.29±7.3dB(2.5724.79)0.15±0.31dB/Y(1.370)15/27眼(56%)術前MD術前平均MD術後視野進行度進行停止≧6.0dB3.13dB±2.1dB(5.910)0.17±0.27dB/Y(0.820)5/9眼(56%)6.0dB>15.50±4.8dB(7.8524.79)0.15±0.33dB/Y(1.370)10/18眼(56%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.表2術前後の視野障害進行速度の変化(MDslope)術前術後進行停止0.77±0.71dB/Y(2.290)0.20±0.44dB/Y(1.370)5/9眼(56%)術前MD術前術後進行停止≧6.0dB0.18±0.09dB/Y(0.260.08)0.06±0.11dB/Y(0.20)2/3眼(67%)6.0dB>0.94±0.76dB/Y(2.290)0.27±0.54dB/Y(1.370)3/6眼(50%)上段:観察可能であった全症例,下段:視野障害の程度で分類.———————————————————————-Page4824あたらしい眼科Vol.26,No.6,2009(100)ある16)とされていることから,内皮網除去を併施したことも影響していると思われた.緑内障ガイドラインでは,緑内障は眼圧を十分下降させれば,視神経障害を改善もしくは抑制しうる疾患であると定義されている.ということは,視神経障害つまり視野障害の進行が抑制されているかどうかが重要であり,眼圧下降が十分であったかどうかの評価となると考えられる.LOT単独では初回手術で眼圧コントロールが良好であった症例の32%で1),LOT+SINでは術後23%で3,5),LOT+SIN+PEA+IOLでは18%で11)視野障害が進行していたとの報告があるが,すべてGoldmann視野検査での評価であった.Goldmann視野では,視野障害の進行の細かな評価が困難であると考えられ,今回は,視野進行速度について静的視野計のMDslopeで評価することとした.今回視野障害が評価可能であった症例の,術後の視野進行速度の平均は0.15dB/Yであった.手術時の平均年齢63.4歳から推定すると平均余命は約20年であり,平均余命中には3.0dBしか進行せず,術前の平均のMD値11.29dBを考慮すると,十分視機能は保持できると考えられた.手術時のMD値を6dBで分け,MD≧6dBを初期群,MD<6dBを中期以降群としても,術後の視野障害の進行速度の平均はそれぞれ0.17dB/Yおよび0.15dB/Yであり,術前の平均のMD値がそれぞれ3.13dBおよび15.50dBであったことを考慮すれば,やはり十分視機能,あるいは視力が保持できる可能性が高いと考えられた.また,視野障害の程度に関係なく,全例中約半数で視野障害の進行が停止しており,LOT+SIN+DSで眼圧を1415mmHgに下降させることで,十分管理可能な症例も存在することが示唆された.さらに,術前の視野進行速度が評価可能であった9症例について検討すると,術後の平均の進行速度は術前より低く,視野障害の進行は術後に抑えられていることが確認された.初期群では,術後,平均でもほぼ0dB/Yとなっており,早期手術を行う意義があることが示された.また,中期以降群でも,術後,進行速度が抑制されており,1415mmHgに眼圧を下降させることで,視野障害の進行を抑えることができることが示唆された.今回の検討から,LOT+SIN+DSはLOT+SINと比較し,期待眼圧を大きく低下させることはできなかったが,LOT+SINより眼圧コントロール率が向上する可能性があり,LOT+SIN+DSの効果が持続している間は,十分視野障害の進行が抑えられていることが示された.LOT+SIN+DSは重篤な術後併発症の発生頻度が低いことから考えると,早期手術として,眼圧が高値の視野障害が中期以降の症例に対しても,十分適応があると考えられた.文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicalefectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,19932)寺内博夫,永田誠,松村美代ほか:Trabeculotomypro-spectivestudy(術後10年の成績).あたらしい眼科17:679-682,20003)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,19964)青山裕美子,上野聡:ジヌソトミー併用トラベクロトミーの術後中期眼圧推移.あたらしい眼科12:1297-1303,19955)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19966)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicalefectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmolScand78:191-195,20007)安藤雅子,黒田真一郎,寺内博夫ほか:原発開放隅角緑内障に対するサイヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.臨眼57:1609-1613,20038)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Phacoemulsica-tion,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurg24:781-786,19989)溝口尚則,松村美代,門脇弘之ほか:眼内レンズ手術がシヌソトミー併用トラベクロトミーの術後眼圧におよぼす効果.臨眼52:1705-1709,199810)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科18:813-815,200111)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,200212)D’EliseoD,PastenaB,LonganesiLetal:ComparisonofdeepsclerectomywithimplantandCombinedglaucomasurgery.Ophthalmologica217:208-211,200313)岩田和雄:低眼圧緑内障および開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)MarchiniG,MarrafaM,BrunelliCetal:Ultrasoundbio-microscopyandintraocular-pressureloweringmecha-nismsofdeepsclerectomywithreticulatedhyaluronicacidimplant.JCartaractRefractSurg27:507-517,200115)LukeC,DietleinTS,LukeMetal:Prospectivetrialofphaco-trabeculotomycombinedwithdeepsclerectomyversusphaco-trabeculectomy.GraefesClinExpOphthal-mol246:1163-1168,200816)塩田伸子,岡田丈,稲見達也ほか:内皮網除去を併用したトラベクロトミーの手術成績.あたらしい眼科22:1693-1696,200517)GalassiF,GiambeneB:DeepsclerectomywithSkGelimplant:5-yearresults.JGlaucoma17:52-56,2008

0.0015% DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(125)15950910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15951602,2008cはじめにDE-085(一般名:タフルプロスト)は参天製薬株式会社(参天製薬)および旭硝子株式会社で創製された図1の構造式をもつプロスタグランジン(PG)系眼圧下降薬である1).DE-085は,その活性代謝物であるタフルプロストカルボン酸体の各種プロスタノイド受容体に対する結合活性をinvitroで検討した結果,プロスタノイドFP受容体に対する高い親和性を有することを確認した2).また,正常眼圧サルを対象とした点眼試験で,眼圧下降作用を有することを確認した2).DE-085点眼液は,室温で安定な薬剤である.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島4-2-78大阪厚生年金病院眼科Reprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,4-2-78Fukushima,Fukushima-ku,Osaka553-0003,JAPAN0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験桑山泰明*1米虫節夫*2*1大阪厚生年金病院眼科*2近畿大学農学部PhaseIIIConirmatoryStudyof0.0015%DE-085(Taluprost)OphthalmicSolutionasComparedto0.005%LatanoprostOphthalmicSolutioninPatientswithOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionYasuakiKuwayama1)andSadaoKomemushi2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaKoseinenkinHospital,2)SchoolofAgriculture,KinkiUniversity原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者125例を対象に0.0015%タフルプロスト点眼液(DE-085群)の有効性および安全性について,0.005%ラタノプロスト点眼液(ラタノプロスト群)を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験を実施した.治療期4週の眼圧は治療期0週に比べて,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHg下降した.治療期4週の治療期0週からの眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は,非劣性基準の上限を超えず,DE-085群はラタノプロスト群と同等(非劣性)であることが検証された.副作用発現率は,DE-085群で40.0%,ラタノプロスト群で48.1%であった.DE-085は,ラタノプロストと同様に原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者に対して,臨床的に有用性の高い薬剤である.Tocomparetheecacyandsafetyof0.0015%tauprostophthalmicsolution(DE-085group)tothatoflatanoprostophthalmicsolution(latanoprostgroup)inprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhyperten-sion(OH)inarandomized,single-masked,parallel-groupandmulticenterstudy,125patientswithPOAGorOHwereassignedtoeitheraDE-085grouporalatanoprostgroup.Inbothgroupsthedrugwasinstilledfor4weeks.Meanintraocularpressure(IOP)reductionfrombaselinewas6.6±2.5mmHgintheDE-085groupand6.2±2.5mmHginthelatanoprostgroup.The95%condenceintervalofbetween-groupdierenceinIOPchangesat4weeksoftreatmentwaswithinthenon-inferioritymargin.TheIOP-loweringeectofDE-085fortheprimaryendpointwassimilartothatoflatanoprost.Atotalof40.0%ofpatientsintheDE-085groupand48.1%inthelatanoprostgroupreportedadversereactions.TheseresultsindicatethatbothDE-085andlatanoprostareclinical-lyusefulinthetreatmentofPOAGandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15951602,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,タフルプロスト,DE-085,プロスタグランジン誘導体,臨床試験.primaryopen-angleglaucoma(POAG),tauprost,DE-085,prostaglandinanalogue,clinicalstudy.———————————————————————-Page21596あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(126)第Ⅰ相試験では,日本人および非日本人の健康成人男性を対象に,0.005%までの認容性が確認された.第Ⅱ相試験(用量反応試験)では,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として,プラセボ点眼液を対照に0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液(1日1回,1回1滴,4週間点眼)の眼圧下降作用の用量反応性および安全性を多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験により検討した.その結果,0.0003,0.0015および0.0025%DE-085点眼液はプラセボ点眼液に比して有意な眼圧下降作用がみられ,眼圧下降作用に用量依存性がみられた.また,0.0003および0.0015%DE-085点眼液は安全性に問題はなかったが,0.0025%は副作用による中止例がみられ,安全性と効果のバランスから0.0015%が至適用量として選定された.今回,DE-085点眼液の第Ⅲ相試験,すなわちラタノプロスト点眼液(キサラタンR)を対照薬として臨床的非劣性および安全性を検証することを目的に,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象として行われた多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験の結果を報告する.本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および試験方法1.実施医療機関および試験責任医師本試験は,平成16年5月16日から平成17年5月6日の間に全国30医療機関において,各々の試験責任医師(表1)のもとに実施された.試験実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.対象対象は,両眼性の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者であり,選択基準は年齢20歳以上の性別を問わない外来患者で,観察期終了時(治療期0週)の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上,かつ両眼とも35mmHg未満の症例とした(表2).除外基準は表2に示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.HOHOCO2CH(CH3)2OFF図1タフルプロストの構造式表1試験実施医療機関一覧医療機関名試験責任医師名*北海道大学病院眼科陳進輝弘前大学医学部附属病院眼科大黒浩秋田大学医学部附属病院眼科吉冨健志新潟大学医歯学総合病院眼科白柏基宏自治医科大学附属病院眼科原岳,水流忠彦山梨大学医学部附属病院眼科柏木賢治筑波大学附属病院眼科大鹿哲郎東京厚生年金病院眼科藤野雄次郎東邦大学医療センター大森病院眼科杤久保哲男順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科平塚義宗北里大学病院眼科庄司信行岐阜大学医学部附属病院眼科山本哲也小牧市民病院眼科冨田直樹西尾市民病院眼科松崎園子京都府立医科大学附属病院眼科森和彦大阪大学医学部附属病院眼科大鳥安正関西医科大学附属病院眼科南部裕之大阪医科大学附属病院眼科杉山哲也神戸大学医学部附属病院眼科中村誠広島大学病院眼科三嶋弘山口大学医学部附属病院眼科相良健香川大学医学部附属病院眼科馬場哲也徳島大学病院感覚・皮膚・運動機能科塩田洋愛媛大学医学部附属病院眼科大橋裕一研英会林眼科病院林研産業医科大学病院眼科廣瀬直文,久保田敏昭佐賀大学医学部附属病院眼科小林博熊本大学医学部附属病院眼科有村和枝,古賀貴久熊本市立熊本市民病院眼科宮川真一慶明会宮崎中央眼科病院大浦福市*試験期間中の試験責任医師をすべて記載した.(順不同)表2選択基準および除外基準1)選択基準(1)20歳以上である(2)性別は問わない(3)入院・外来の別:外来(4)治療期0週の眼圧が少なくとも片眼で22mmHg以上であり,両眼とも35mmHg未満である2)除外基準(1)同意取得前3カ月以内に内眼手術(緑内障に対するレーザー治療を含む)の既往を有する(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)虹彩炎の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤および本剤の類薬に対し,薬物アレルギーの既往を有する(5)心,肝,腎,血液疾患,その他の中等度以上の合併症をもち,薬効評価上不適当と考えられる(6)コンタクトレンズの装用が必要である(7)血液検査・尿検査で臨床的に問題がある(8)試験責任医師・分担医師が本試験の対象として不適格と判断する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081597(127)3.試験方法a.試験薬剤被験薬であるDE-085点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mg含有する無色澄明の水性点眼液であり,対照薬は1ml中にラタノプロストを0.05mg含有する無色澄明の水性点眼液である.被験薬は参天製薬にて充されたもの,対照薬はファイザー株式会社にて充されたものを使用した.両薬剤は容器の外観が異なることから単盲検法とし,試験薬の包装は1本ずつを両群同一の小箱に収め,小箱の状態においては外観上識別不能にした.試験薬の割り付けは,試験薬割付責任者(米虫節夫)が置換ブロック法による無作為化により行った.キーコードは,開鍵時まで試験薬割付責任者が保管していた.b.試験デザイン・投与方法本試験は,多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,観察期(前治療薬のwashout期間)を設け,抗緑内障薬の投与を受けていた被験者については,その薬剤の投与を中止しwashoutした.Washout期間は,交感神経a遮断薬,b遮断薬,ab遮断薬,プロスタグランジン系点眼薬では4週間以上,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経作動薬,副交感神経作動薬では2週間以上に設定した.観察期終了後,登録センターへ症例登録し,治療期に移行した.被験者は0.0015%DE-085点眼液投与群(DE-085群)と0.005%ラタノプロスト点眼液投与群(ラタノプロスト群)のいずれかに無作為に割り付けられ,両群とも1日1回,1回1滴の点眼を朝10時(±1時間)に4週間行った.治療期には2週および4週に,表3のごとく検査,観察を行った.4.観察項目a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼,眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査し記載した.b.自覚症状・点眼遵守状況痒感,刺激感,流涙,羞明感,異物感,眼痛などの自覚症状や点眼遵守状況については,試験期間中の来院時に問診し,その程度を記載した.c.眼圧測定治療期0週,2週および4週の眼圧を午前911時の間に測定し記載した.測定にはGoldmann圧平眼圧計を用いた.d.眼科検査角膜,前房,水晶体,結膜,眼瞼などの他覚所見は,試験期間中の来院時に細隙灯顕微鏡などを用いて観察し,その所見を「」から「3+」の4段階に程度分類し記載した.たとえば,球結膜の充血については,「:球結膜の血管が容易に観察できる.毛様充血もみられない」,「+:球結膜に限局した発赤がみられる」,「2+:球結膜に鮮赤色がみられる」,「3+:球結膜に明らかな充血がみられる」の基準に従い判定した.視力検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.e.血圧・脈拍数,臨床検査血圧・脈拍数,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査は,試験開始時および試験終了時に実施した.f.有害事象試験期間中に観察された自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見の発現・悪化を有害事象(あらゆる医療上の好ましくない,あるいは意図しない疾病または徴候:被験者にとって有害・不快な症状・所見)とし,すべて収集し記載した.5.評価項目a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期4週(中止時を含む)における治療期0週からの眼圧変化値とした.また,副次的評価項目は,治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値,および治療期2週・4週の治療期0週からの眼圧変化率とした.b.安全性の評価副作用および眼科検査結果,血圧・脈拍数,臨床検査値をもとに安全性を評価した.6.解析方法a.解析対象集団本試験の統計解析には下記の3つのデータセットを用いた.①試験実施計画書に適合した対象集団:PerProtocolSet(PPS)選択基準を満たし,除外基準に抵触しない被験者であ表3検査・観察項目観察期治療期観察期開始時0週2週4週被験者背景●点眼遵守状況●●自覚症状●●●●眼圧測定●●●●眼科検査●●●血圧・脈拍数測定●●臨床(血液・尿)検査●●有害事象●●●———————————————————————-Page41598あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(128)り,治療期間を通じて点眼状況が75%以上で,治療期終了時の眼圧が測定されたすべての症例.②最大の解析対象集団:FullAnalysisSet(FAS)無作為化された被験者のうち,治療期の眼圧が測定されたすべての症例.③安全性評価のための対象集団:SafetyAnalysisSet(SaAS)試験薬を1回でも点眼した症例.有効性はおもにPPSを用い,安全性はSaASを用いて解析を行った.b.データの取り扱い検査前日の点眼を適切に実施していない場合は,当該検査日の眼圧データをPPSおよびFASから除外した.c.解析方法非劣性の検証は,主要評価項目である治療期4週の眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間を算出し,その上限が2mmHgを超えなければDE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないこととした.DE-085群とラタノプロスト群の副作用・臨床検査値異常変動の発現率の群間比較には,Fisherの直接確率法を用いた.眼科検査,血圧・脈拍数,臨床検査の変動は,DE-085群とラタノプロスト群それぞれの群内で,対応のあるt検定またはWilcoxon1標本検定を用いて比較した.有意水準は,両側5%とした.解析ソフトはStatisticalAnaly-sisSystemversion8.02(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II試験成績1.被験者の構成被験者の構成を図2に示す.本試験には,125例が参加し,観察期中および症例登録時までに「選択基準を満たさない」,「除外基準に抵触する」,「有害事象(アレルギー性結膜炎)の発現」および「同意の撤回」などの理由で16例が中止した.登録症例は109例で,全例治療期に移行した.内訳は,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例であった.うち4例(DE-085群4例)が試験の継続が不可能な有害事象の発現により試験を中止したため,投与完了例はDE-085群51例,ラタノプロスト群54例の計105例であった.2.被験者背景PPSは97例であり,DE-085群は46例,ラタノプロスト群は51例であった.PPSにおける被験者背景を表4に示す.性別,年齢,診断名,外来・入院,眼以外の合併症,緑内障前治療薬,治療期0週時眼圧に関して,両群間に偏りはみられなかった.眼の合併症の有無について両群間に偏りがみられた(p<0.15).3.有効性PPSにおける両群の眼圧実測値の推移を図3および表5に,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表6に,群間比較の結果を表7に示した.眼圧は両群とも治療期2週および4週において治療期0週と比べ有意な下降を示した(p<0.001).主要評価項目である治療期4週における治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgであった.眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えず,DE-085群の眼圧下降作用はラタノプロスト群に劣らないものと判断できた.副次的評価項目である治療期2週の治療期0週からの眼圧変化値は,DE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で5.9±2.3mmHgであった.治療期2週の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間についても,1.600.33mmHgであった.試験薬投与前の被験者背景において,眼の合併症の有無にDE-085群とラタノプロスト群に偏りがみられたので,各群を合併症の有無によって細分化し,眼圧変化値を比較したが,両群間に偏りはみられなかった.また,FASにおいても同様に解析を行ったが,FASにおける結果はPPSの結果と同様であった.以上のことから,DE-085群の眼圧下降作用は,ラタノプロスト群と同等であることが検証された.治療期4週の眼圧下降率が,20%以上あるいは30%以上であった症例の割合を図4に示した.30%以上の眼圧下降が得られた症例は,DE-085群で39.1%,ラタノプロスト群で31.4%であった.また,20%以上の眼圧下降が得られた症例はDE-085群で80.4%,ラタノプロスト群で70.6%であった.なお,いずれの割合においても両群間に有意差は認められなかった.観察期中止脱例16例治療期開始例109例(症例登録)同意取得症例125例観察期終了例109例ラタノプロスト54例DE-08555例完了例51例中止例4例完了例54例中止例0例図2被験者の構成———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081599(129)4.安全性a.有害事象SaASは,DE-085群55例,ラタノプロスト群54例,計109例であった.治療期に発現した有害事象および副作用発現率を表8に示す.有害事象は,DE-085群の47.3%,ラタノプロスト群の57.4%にみられ,そのうち,試験薬との因果関係が否定できない有害事象と判断された副作用は,DE-085群の40.0%,ラタノプロスト群の48.1%であった(表8,9).両群間の有害事象および副作用発現率に有意差はみられなかった(p=0.340およびp=0.443).すべての有害事象名は,医薬品規制用語集(MedDRA/JV8.1)に準じて分類した.DE-085群のおもな副作用は,結膜充血・眼充血(16.4%および10.9%,計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3表4被験者背景分類DE-085ラタノプロストp値検定症例数4651性別男性女性28(60.9)18(39.1)27(52.9)24(47.1)0.539(a)年齢(歳)202930394049505960697079802(4.3)3(6.5)5(10.9)9(19.6)15(32.6)10(21.7)2(4.3)1(2.0)4(7.8)6(11.8)15(29.4)12(23.5)9(17.6)4(7.8)0.734(b)64(非高齢者)65(高齢者)29(63.0)17(37.0)34(66.7)17(33.3)0.832(a)最小最大平均値±標準偏差228459.0±13.9228659.0±14.20.983(c)診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症18(39.1)28(60.9)25(49.0)26(51.0)0.414(a)外来・入院外来入院46(100)0(0)51(100)0(0)眼の合併症なしあり13(28.3)33(71.7)22(43.1)29(56.9)0.144(a)眼以外の合併症なしあり12(26.1)34(73.9)19(37.3)32(62.7)0.280(a)緑内障前治療薬なしあり18(39.1)28(60.9)21(41.2)30(58.8)1.000(a)治療期0週時眼圧(評価眼)(mmHg)最小最大平均値±標準偏差223123.8±2.3223423.7±2.30.904(c)(a):Fisher直接確率法,(b):Wilcoxonの2標本検定,(c):t検定.表5眼圧実測値の推移DE-085ラタノプロスト治療期0週23.8±2.3(46)23.7±2.3(51)治療期2週17.2±2.6(45)17.7±2.8(50)治療期4週17.2±2.8(46)17.5±2.7(51)平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.30252015100週2週治療期4週眼圧(mmHg)********:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差**:p<0.01検定:対応のある?検定(0週との比較)図3眼圧実測値の推移———————————————————————-Page61600あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(130)%)であった.ラタノプロスト群のおもな副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(13.0%および5.6%,計18.6%),眼痒症(11.1%)であった.副作用の程度は,DE-085群の2例(3.6%)で中等度であったが,それ以外は両群ともすべて軽度であった.この中等度の副作用は紅斑および眼瞼紅斑であり,いずれの例も試験中止に至った.また,試験中止に至った症例は,この2例を含めてDE-085群の4例(7.3%)にみられ,ラタノプロスト群ではみられなかった.他の試験中止例2例のうち1例は軽度の副作用発現例であり,試験継続に問題ない程度と判断されたが,被験者の希望により中止した.他の1例は試験薬との因果関係が否定された有害事象により中止した.いずれの症例も試験中止後,臨床的に問題ない程度に回復した.眼以外の副作用は,DE-085群に下痢,紅斑,頭痛が各1例(各1.8%),ラタノプロスト群に好酸球数増加が1例(1.9%)みられた.80.470.631.40102030405060708090症例割合(%)39.1眼圧下降率30%以上眼圧下降率20%以上DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト図4治療期4週に眼圧下降率20%以上および30%以上であった症例の割合表6眼圧変化値および眼圧変化率の推移眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)DE-085ラタノプロストDE-085ラタノプロスト治療期2週6.6±2.5**(45)5.9±2.3**(50)27.5±9.5**(45)25.9±9.7**(50)治療期4週6.6±2.5**(46)6.2±2.5**(51)27.6±9.6**(46)25.9±9.7**(51)平均値±標準偏差(例数).検定:対応のあるt検定(0週との比較)**:p<0.01.表7眼圧変化値の群間比較DE-085ラタノプロスト平均値の差(DE-085ラタノプロスト)平均値の差の95%信頼区間治療期2週6.6±2.5(45)5.9±2.3(50)0.641.600.33治療期4週6.6±2.5(46)6.2±2.5(51)0.411.420.60平均値±標準偏差(例数),単位mmHg.表8治療期にみられた有害事象発現例数および発現率DE-085ラタノプロスト検定※SaAS例数5554有害事象発現例数(%)26(47.3)31(57.4)p=0.340副作用発現例数(%)22(40.0)26(48.1)p=0.443※Fisherの直接確率法.表9副作用一覧DE-085ラタノプロストSaAS例数5522(40.0)5426(48.1)副作用発現例数(%)眼角膜上皮障害眼痒症眼の異常感眼の異物感眼刺激5(9.1)1(1.8)1(1.8)4(7.3)2(3.7)6(11.1)2(3.7)4(7.4)10(18.5)眼脂眼充血*眼精疲労眼痛眼瞼紅斑1(1.8)6(10.9)1(1.8)2(3.6)3(5.5)1(1.9)3(5.6)2(3.7)1(1.9)眼瞼浮腫結膜充血*結膜出血結膜浮腫点状角膜炎1(1.8)9(16.4)1(1.8)2(3.6)7(13.0)1(1.9)霧視羞明2(3.6)2(3.7)眼以外下痢好酸球数増加紅斑頭痛1(1.8)1(1.8)1(1.8)1(1.9)*眼充血:自覚症状のみ確認された事象,():%結膜充血:他覚所見にて確認された事象.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081601b.眼科検査細隙灯顕微鏡検査所見の球結膜充血において,DE-085群およびラタノプロスト群の両群で治療期0週と比べ有意な変動がみられた.他の所見に問題となる変動はみられなかった.矯正視力も各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.球結膜充血スコアの推移を図5に示す.両群とも来院時のスコアは「」から「+」の間で推移し,「2+」以上を示した症例はみられなかった.点眼後のスコアは,両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に差はみられなかった.c.臨床検査DE-085群では,臨床検査値のいずれの検査項目においても,観察期に比して有意な変動はみられなかった.ラタノプロスト群では,白血球数,好酸球比,アルブミン,カリウムに観察期からの有意な変動がみられたが,変動幅は小さく臨床的に問題となるものではなかった.個々の症例で検討すると臨床検査値異常変動は,DE-085群の10.9%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%の症例にみられた.DE-085群の1例は好酸球上昇であり,ラタノプロスト群の6例は,それぞれ単球上昇,LDH(乳酸脱水素酵素)上昇,好酸球上昇および尿糖上昇,好酸球上昇,g-GTP上昇および尿蛋白上昇,尿白血球上昇であった.これらは,いずれも他の症状を伴わず,試験終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.d.血圧・脈拍数拡張期血圧,収縮期血圧および脈拍数のいずれも,各群において観察期からの有意な変動はみられなかった.III考察緑内障,特に原発開放隅角緑内障(広義)の治療においては,薬物治療などによる眼圧下降が第一選択である3).眼圧下降薬としての第一選択薬は,優れた眼圧下降作用からマレイン酸チモロールなどのb遮断薬が長らく主役の地位を占めており,緑内障点眼薬の臨床試験において対照薬として使用されることが多かった.しかし,近年プロスタグランジン(PG)関連薬の登場に伴い,その強力で持続的な眼圧下降作用により第一選択薬として使用される機会が増えている.現在わが国で発売されているPG関連眼圧下降薬には,イソプロピルウノプロストン(レスキュラR),ラタノプロスト,トラボプロスト(トラバタンズR)がある.そのなかでもラタノプロストは1999年からわが国にて発売され,最もよく使用されている薬剤であるので,本試験では対照薬をラタノプロスト点眼液と選定し,第Ⅲ相試験を実施することとした.本試験は,DE-085点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象としラタノプロスト点眼液を対照とした多施設共同無作為化単盲検並行群間比較試験である.両群の治療期4週の眼圧変化値はDE-085群で6.6±2.5mmHg,ラタノプロスト群で6.2±2.5mmHgと,治療期0週と比べて有意に下降した(p<0.001).眼圧変化値の群間差(DE-085群─ラタノプロスト群)の95%信頼区間は1.420.60mmHgであり,非劣性検証の上限とした2mmHgを超えなかった.したがって,DE-085点眼液の眼圧下降作用がラタノプロスト点眼液に劣らないと結論できる.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験において,ラタノプロスト点眼液の眼圧下降作用は点眼12週後に6.2mmHgを示した4).この値は,今回の試験結果におけるラタノプロスト群の眼圧下降作用と同等であることから,本試験で得られた眼圧下降値は過去の臨床試験結果と大きな差はなく,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等であると考えられる.また,眼圧変化率も治療期2週および4週において治療期0週と比べ両群とも有意な下降を示した(p<0.001).治療期4週における眼圧変化率は,DE-085群で27.6±9.6%,ラタノプロスト群で25.9±9.7%であった.日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン3)には,無治療時眼圧から20%の眼圧下降,30%の眼圧下降というように,無治療時眼圧からの眼圧下降率を目標として設定することが推奨されている.本試験において,眼圧下降率が20%以上,30%以上であった症例の各群の割合は,それぞれDE-085群で80.4%,39.1%,ラタノプロスト群で70.6%,31.4%であり,両群間に有意差はなかったが,いずれもDE-085群に高い数値であった.目標眼圧に1剤投与のみで達成できる例が多いこと(131)2.01.51.00.50.0充血スコア0週2週治療期4週:DE-085:ラタノプロスト平均値±標準偏差図5球結膜充血スコアの推移———————————————————————-Page81602あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008は,コンプライアンスの点からも重要であると考えられる.安全性については,両群ともに試験期間を通じて,重篤な有害事象はみられなかった.眼以外の全身的副作用には,下痢,紅斑,頭痛,好酸球数増加がみられたが,いずれも1例ずつの発現であり特徴的な事象はなかった.眼における局所的副作用には,DE-085群では,40.0%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血・眼充血(計27.3%),眼痒症(9.1%),眼刺激(7.3%)であった.ラタノプロスト群では,48.1%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,眼刺激(18.5%),結膜充血・眼充血(計18.5%),眼痒症(11.1%)であり,DE-085群と大きな差はなかった.ラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験4,5)では,25.3%に副作用がみられ,高頻度にみられた副作用は,結膜充血(14.9%),眼局所刺激症状(眼痛,眼局所の違和感,痒感など)(11.5%)であった.本試験とラタノプロスト点眼液の第Ⅲ相試験におけるラタノプロスト点眼液の副作用発現率では,本試験のほうがより高かったが,副作用の種類に大きな差はないと考えられた.本試験では中止に至った副作用発現例は,DE-085群の3例にみられたが,いずれの症例も試験中止により回復した.それ以外の副作用はすべて軽度であり,両群に大きな差はないと考えられた.細隙灯顕微鏡検査所見では,DE-085群およびラタノプロスト群において,球結膜充血スコアに治療期0週と比べ有意な変動がみられたが,点眼後のスコアは両群ともに治療期2週よりも4週のほうがやや低く,程度も両群に大きな差はみられなかった.その他の細隙灯顕微鏡検査所見,臨床検査値,収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数,矯正視力については,両群とも,臨床的な問題はみられなかった.試験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は,DE-085群の1.8%,ラタノプロスト群の11.1%にみられたが,いずれも他の症状を伴わず,試験薬点眼終了後に臨床的に問題ない程度に回復した.これらのことから,DE-085群およびラタノプロスト群の副作用発現率は同程度であり,両群に発現する副作用も結膜充血・眼充血,眼刺激,眼痒症が特徴的に発現し,程度も大きく違わないことから,安全性においても両群に大きな差はないと考えられた.以上より,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者において,DE-085点眼液の眼圧下降作用はラタノプロスト点眼液と同等(非劣性)であり,安全性についても明確な差はみられなかったことから,DE-085点眼液は,ラタノプロスト点眼液と同様に緑内障治療の第一選択薬となりうる有用性の高い薬剤である.文献1)NakajimaT,MatsugiT,GotoWetal:Newuoropro-staglandinF2aderivativeswithprostanoidFP-receptoragonisticactivityaspotentocular-hypotensiveagents.BiolPharmBull26:1691-1695,20032)TakagiY,NakajimaT,ShimazakiAetal:Pharmacologi-calcharacteristicsofAFP-168(tauprost),anewpros-tanoidFPreceptoragonist,asanocularhypotensivedrug.ExpEyeRes78:767-776,20043)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)三嶋弘,増田寛次郎,新家眞ほか:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とするPhXA41点眼液の臨床第Ⅲ相試験─0.5%マレイン酸チモロールとの多施設二重盲検試験─.眼臨90:607-615,19965)MishimaHK,MasudaK,KitazawaYetal:Acomparisonoflatanoprostandtimololinprimaryopen-angleglauco-maandocularhypertension.A12-weekstudy.ArchOph-thalmol114:929-932,1996(132)***

ラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(103)15730910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15731576,2008cはじめにブリンゾラミド点眼薬は,懸濁性点眼液で緑内障および高眼圧症の治療薬として1日2回点眼で使用する炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)で,わが国では2002年に承認された.眼圧下降のメカニズムは,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)のアイソザイムII型に対する選択的な阻害作用によって房水産生を抑制することである1).ラタノプロスト点眼薬はその強力な眼圧下降作用により近年緑内障治療の第一選択薬となっている.しかし,眼圧下降が不十分な症例では他の点眼薬の追加投与が必要となる.眼圧下降の機序を考慮すると,房水産生を抑制するb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害薬点眼薬があげられる.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の報告はある26)が,投与期間が8週間3カ月間と短期間の報告が多く25),1年間以上の長期間の報告は少ない6).さらに原発開放隅角緑内障(広義)や高眼圧症に対する報告は多い36)が,正常眼圧緑内障に対する報告は少なく7),投与期間も3カ月間と短い.今回,ラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障(広義)患者に,ブリンゾラミド点眼薬を12カ月間追加投与した際の眼圧下降と視野維持効果,副作用を検討した.さらに,緑内障の病型〔原発開放隅角緑内障(狭義)と正常眼圧緑内障〕による眼圧下降効果の違いを検討した.〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANラタノプロストへのブリンゾラミド点眼追加療法井上賢治*1小尾明子*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEectandSafetyofBrinzolamideAddedtoLatanoprostKenjiInoue1),AkikoKoh1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicineラタノプロスト点眼薬を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障22例22眼に1%ブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧下降効果および副作用を検討した.ブリンゾラミド追加投与前の眼圧は17.0±2.2mmHg,投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで投与前に比べ有意に眼圧が下降した(p<0.0001).Humphrey視野計のmeandeviation(MD)値は,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時(10.6±6.7dB)と同等であった.副作用は20.8%で出現し,霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬は,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.Overaperiodof12months,weevaluatedthesafetyandhypotensiveeectof1%brinzolamidetherapyaddedtolatanoprostin22eyesof22cases.Glaucomatypesexaminedcomprisedprimaryopen-angleglaucomain9eyesandnormal-tensionglaucomain13eyes.Inalleyes,thebaselineintraocularpressure(IOP)averaged17.0±2.2mmHg;IOPafter1monthoftreatmentaveraged15.0±2.6mmHg,after3months14.8±2.4mmHg,after6months14.8±2.2andafter12months14.8±1.7mmHg(p<0.0001).TheHumphreyvisualeldtestmeandevia-tionat12monthsaftertreatmentwassimilartothatbeforetreatment.Theoccurrenceofadverseeventsin5cases(20.8%)shouldbenoted.Inconclusion,thesendingsshowthatbrinzolamideissafeandeectiveforopen-angleglaucomaasanadditionaltherapytolatanoprostfor12months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15731576,2008〕Keywords:ラタノプロスト点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬,原発開放隅角緑内障,眼圧,視野.latanoprost,brinzolamide,primaryopen-angleglaucoma,intraocularpressure,visualeld.———————————————————————-Page21574あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(104)I対象および方法2003年3月から2006年6月の間に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障(広義)患者で,ラタノプロスト点眼薬を単剤で2カ月間以上使用(平均使用期間26.7±20.8カ月,264カ月)(平均±標準偏差)しているが,緑内障病期に応じた目標眼圧に到達していない症例に対して,1%ブリンゾラミド点眼薬を追加投与し,12カ月間以上の経過観察ができた22例22眼(男性7例,女性15例)を対象とした.年齢は66.5±9.5歳(4782歳)であった.緑内障の病型は,原発開放隅角緑内障(狭義)9例,正常眼圧緑内障13例であった.点眼薬追加投与前の眼圧(追加投与1カ月前と追加投与時の平均)は17.0±2.2mmHg(1321.5mmHg),Humph-rey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は9.7±6.7dB(23.60.9dB)であった.Humphrey視野は追加投与前3カ月以内に行った検査での値を用いた.固視不良が20%を超える,あるいは偽陽性や偽陰性が30%を超える症例は除外した.ブリンゾラミド点眼は1日2回で,原則として朝夕12時間ごとの点眼とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例(5例)は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧は,原則として1カ月ごと12カ月間にわたりGold-mann圧平眼圧計で同一の検者が測定した.患者ごとにほぼ同一の時間に毎月来院してもらい,眼圧を測定した.全症例(22例),原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例),正常眼圧緑内障症例(13例)に分けて,ベースライン(ブリンゾラミド点眼追加投与時と投与1カ月前の平均)とブリンゾラミド点眼薬追加投与1,3,6,12カ月後の眼圧をANOVA(analy-sisofvariance)およびBonferroni/Dunnet法で比較した.投与12カ月後の眼圧とベースラインとの差から眼圧下降率を算出した.Humphrey自動視野計のプログラム中心30-2SITA-STANDARDを,追加投与前と投与6,12カ月後に行い,そのMD値をANOVAで比較した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.有意水準は,p<0.05とした.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果眼圧は,全症例(22例)ではベースライン17.0±2.2mmHg,追加投与1カ月後15.0±2.6mmHg,3カ月後14.8±2.4mmHg,6カ月後14.8±2.2mmHg,12カ月後14.8±1.7mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1a).病型別では,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では,ベースライン18.7±1.8mmHg,追加投与1カ月後16.8±1.9mmHg,3カ月後16.4±2.4mmHg,6カ月後15.8±1.9mmHg,12カ月後15.6±1.4mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1b).正常眼圧緑内障症例(13例)では,ベースライン15.8±1.5mmHg,追加投与1カ月後13.8±2.3mmHg,3カ月後13.6±1.7mmHg,6カ月後14.1±2.2mmHg,12カ月後14.3±1.8mmHgで,ベースラインに比べ各観察時で有意に下降していた(p<0.0001)(図1c).全症例での投与12カ月後の眼圧下降幅は1.5±1.6mmHg(1.53.5mmHg),眼圧下降率は12.0±10.2%(10.330.0%)で,眼圧下降率10%未満が9例(40.9%),10%以上20%未満が8例(36.4%),20%以上が5例(22.7%)であった.Humphrey視野計のMD値は全症例では,追加投与6カ月後9.7±6.7dB,12カ月後10.3±5.5dBで追加投与時追加投与前b.原発開放隅角緑内障(狭義)症例c.正常眼圧緑内障症例a.全症例1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後追加投与前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0101214161820************眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)0101214161820220101214161820図1ブリンゾラミド追加投与前後の眼圧(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法;*p<0.0001)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081575(105)(10.6±6.7dB)と同等であった(p=0.87)(図2).副作用は20.8%(5例/24例)で出現した.その内訳は霧視2例,頭痛1例,異物感1例,眼の鈍痛1例であった.ブリンゾラミド点眼薬が中止になったのは,異物感と眼の鈍痛が追加投与1カ月後に出現した各1例であった.これら2症例は眼圧下降効果の解析からは除外した.III考按0.5%チモロール点眼薬やラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による眼圧下降効果が報告されている28).0.5%チモロール点眼薬にブリンゾラミド点眼薬を追加投与した原発開放隅角緑内障および高眼圧症118例では,3カ月間投与で眼圧がベースライン(24.125.5mmHg)から3.65.3mmHg(眼圧下降率14.122.0%)有意に下降した2).ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症に対して多数報告されている36).8週間投与(11例)でベースライン(20.6±2.9mmHg)から2.42.5mmHg(眼圧下降率11.612.1%)3),3カ月間投与(14例)でベースライン(21.1±4.8mmHg)から4.25.2mmHg(眼圧下降率19.924.6%)4),12週間投与(15例)でベースライン(17.8±1.7mmHg)から1.92.0mmHg(眼圧下降率10.711.2%)5),12カ月間投与(10例)でベースライン(19.8±5.3mmHg)から4.05.7mmHg(眼圧下降率18.223.0%)6)それぞれ有意に眼圧が下降した.一方,正常眼圧緑内障に対しては3カ月間投与(20例)で眼圧がベースライン(14.6±1.0mmHg)から1.6mmHg(眼圧下降率10.1%)7)有意に下降した.ラタノプロスト点眼薬あるいはb遮断点眼薬に6カ月間投与(18例)で眼圧がベースライン(16.3±2.5mmHg)から0.91.4mmHg(眼圧下降率5.58.6%)有意に下降した8).今回の12カ月間の追加投与の眼圧下降幅と眼圧下降率は,全症例(22例)では2.2mmHgと12.0%,原発開放隅角緑内障(狭義)症例(9例)では3.1mmHgと16.6%,正常眼圧緑内障症例(13例)では1.5mmHgと9.5%で,過去の報告38)とほぼ同等であった.ラタノプロスト点眼薬へのブリンゾラミド点眼薬の追加投与による視野の変化についての報告は過去になく,今回の12カ月間投与においては視野が悪化した症例はなかった.しかし,視野に関してはさらに長期的に評価する必要があり,今後も経過観察を続ける予定である.ラタノプロスト点眼薬への追加投与によるブリンゾラミド点眼薬の副作用は,12週間投与では,角膜上皮障害1例(6.3%),顔面紅潮1例(6.3%)で,顔面紅潮症例が投与中止になった5).3カ月間投与では,角膜上皮障害2例(14.3%),結膜充血2例(14.3%),眼脂増加1例(7.1%)で,投与中止となった症例はなかった4).12カ月間投与では,角膜上皮障害2例(11.8%),結膜充血1例(5.9%),頭痛1例(5.9%)で,結膜充血と頭痛の症例が投与中止になった6).0.5%チモロール点眼薬への追加投与では副作用が3カ月間投与で14.7%(17例/116例)出現した2).そのうち1%以上の症例で発現した副作用は,気分不快感2例(1.7%),霧視2例(1.7%),味覚倒錯3例(2.6%)であった.報告により副作用発現の頻度は違うが,これは副作用をどのように定義するかによっても異なるためと思われる.今回は,過去の報告2,4,5)と同様あるいはそれ以上の20.8%に副作用が出現したが,重大な副作用は認められず,ブリンゾラミド点眼薬は比較的安全に使用できると考えられる.ブリンゾラミド点眼薬は,原発開放隅角緑内障(広義)症例に対して,ラタノプロスト点眼薬に12カ月間追加投与した際に強力な眼圧下降作用を示し,視野が悪化した症例はなく,安全性においても重大な副作用を認めなかった.ラタノプロスト点眼薬につぐ緑内障治療薬の第二選択薬として期待できる薬剤である.文献1)DeSantisL:Preclinicaloverviewofbrinzolamide.SurvOphthalmol44(Suppl2):S119-S129,20002)MichaudJ-E,FrirenB,TheInternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzol-amide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol132:235-243,20013)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)ShojiN,OgataH,SuyamaHetal:Intraocularpressurelowingeectofbrinzolamide1.0%asadjunctivetherapytolatanoprost0.005%inpatientswithopenangleglauco-MD値(dB)追加投与前6カ月後12カ月後0.0-2.0-4.0-6.0-8.0-10.0-12.0-14.0-16.0-18.0-20.0図2全症例でのブリンゾラミド追加投与前後のmeandeviation値(ANOVA)———————————————————————-Page41576あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(106)maorocularhypertension:anuncontrolled,open-labelstudy.CurrMedResOpin21:503-508,20055)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,20086)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20067)江見和雄:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストとブリンゾラミド併用効果.あたらしい眼科24:1085-1089,20078)新田進人,湯川英一,森下仁子ほか:正常眼圧緑内障に対する1%ブリンゾラミド点眼液と1%ドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果.臨眼60:193-196,2006***

原発開放隅角緑内障(広義)患者における持続型カルテオロール点眼薬の短期効果

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(103)12910910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12911294,2008cはじめにカルテオロール点眼薬は緑内障治療に頻用されているb遮断薬の一つであるが,内因性交感神経刺激様作用(intrin-sicsympathomimeticactivity:ISA)を有する点で他のb遮断薬と異なる1).ISAを有するb遮断薬は血管拡張作用あるいは血管収縮抑制作用を介して末梢血管抵抗を減弱させ,眼循環を改善させる2).また心血管系や呼吸器系への作用に関してもISAを有さないb遮断薬に比べ有利であると考えられている2).緑内障点眼薬には副作用もあり,その出現により中止を余儀なくされることもある.緑内障点眼薬による治療は生涯にわたり継続される場合も多い.そこで副作用の出現や点眼コンプライアンスを考慮すると点眼回数の少ない薬剤が望まれる.平成19年7月にフランスに続いて日本でもアルギン酸添加塩酸カルテオロール点眼薬(以下,持続型カルテオロール点眼薬)が発売された.この薬剤は従来の塩酸カルテオロール点眼薬(以下,標準型カルテオロール点眼薬)にアルギン酸を添加し,粘性を高め,眼表面での滞留を延長させた3).その結果1日1回点眼が可能となった.持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降効果については,原発開放隅角緑内障や高眼圧症例では標準型カルテオロール点眼薬との比較で差がないと報告されている46).しかし日本に多い正常眼圧緑内〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN原発開放隅角緑内障(広義)患者における持続型カルテオロール点眼薬の短期効果井上賢治*1野口圭*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座EfectofLong-ActingCarteololinPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaKenjiInoue1),KeiNoguchi1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)SecondDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine原発開放隅角緑内障(広義)患者(92例92眼)へのアルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬(1日1回点眼)の短期の眼圧下降効果を検討した.無治療の正常眼圧緑内障患者に単剤投与した群と,標準型2%カルテオロール点眼薬(1日2回点眼)から切り替えた群,ラタノプロスト点眼薬単剤に追加投与した群に分け,投与3カ月後までの眼圧,副作用を調査した.眼圧下降幅は正常眼圧緑内障群では2.4mmHg,切り替え群では0.30.4mmHg,追加投与群では2.02.1mmHgで,すべての群で眼圧は有意に下降した.副作用により点眼薬投与を中止した症例は2例(2.1%)で,約98%の症例でアルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬は安全に使用できた.アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬は良好な眼圧下降効果と高い安全性を有する点眼薬と思われる.Westudiedthehypotensiveeectsoflong-actingcarteolol(2%)in92eyesofopen-angleglaucomapatientsfor3months.Thepatientsweredividedinto3groups:monotherapyfornormal-tensionglaucoma,changeinther-apyfromstandardcarteololtolong-actingcarteolol,andadditivetherapytolatanoprost.Intraocularpressureandadverseeectsweremonitoredbeforeandat1and3monthsafteradministration.Meanintraocularpressuredecreasedsignicantly,by2.4mmHginthemonotherapygroup,0.30.4mmHginthechangegroupand2.02.1mmHgintheadditivegroup.Twopatients(2.1%)discontinuedtherapyduetoadverseeects.Long-actingcarte-ololhasgoodhypotensiveeectsandtolerability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12911294,2008〕Keywords:アルギン酸添加塩酸カルテオロール点眼薬,眼圧,原発開放隅角緑内障.long-actingcarteolol,intraocularpressure,primaryopen-angleglaucoma.———————————————————————-Page21292あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(104)障(normal-tensionglaucoma:NTG)症例,標準型カルテオロール点眼薬から持続型カルテオロール点眼薬へ切り替えた症例,あるいは追加投与した症例に対する効果などは不明である.そこで今回,原発開放隅角緑内障(広義)患者に対して,持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降効果をNTG症例,標準型カルテオロール点眼薬から持続型カルテオロール点眼薬へ切り替えた症例,ラタノプロスト点眼薬に追加投与した症例に分けて検討した.I対象および方法平成19年7月から11月までの間に井上眼科病院に通院中で,持続型2%カルテオロール点眼薬(1日1回朝点眼)を処方され,3カ月間以上の経過観察が可能であった連続した原発開放隅角緑内障あるいはNTG92例92眼を対象とした.今回,持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降効果を3群に分けて検討した.それらはNTGに新規で持続型カルテオロール点眼薬を投与した群(NTG群),原発開放隅角緑内障あるいはNTGで標準型2%カルテオロール点眼薬(1日2回朝夜点眼)を持続型カルテオロール点眼薬にwashout期間なしで切り替えた群(切り替え群),ラタノプロスト点眼薬(1日1回夜点眼)を単剤で使用中の原発開放隅角緑内障あるいはNTGで持続型カルテオロール点眼薬を追加した群(追加投与群)であった.NTG群は24例24眼,男性8例,女性16例,年齢は2577歳,51.3±13.3歳(平均±標準偏差)であった.Humphrey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのmeandeviation(MD)値は3.4±3.9dB(13.81.1dB),点眼薬投与前の眼圧は16.9±2.0mmHg(1421mmHg)であった.切り替え群は48例48眼,原発開放隅角緑内障26眼,NTG22眼,男性18例,女性30例,年齢は2183歳,64.1±11.6歳であった.Humphrey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのMD値は7.3±6.5dB(22.51.3dB),点眼薬切り替え前の眼圧は15.0±1.9mmHg(1120mmHg)であった.切り替え時に使用していた標準型カルテオロール点眼薬以外の点眼薬の種類は,なしが11眼,1剤が13眼,2剤が19眼,3剤が5眼であった.その内訳はラタノプロスト点眼薬35眼,ブリンゾラミド点眼薬11眼,ドルゾラミド点眼薬10眼,ブナゾシン点眼薬9眼,イソプロピルウノプロストン点眼薬1眼であった.追加投与群は20例20眼,原発開放隅角緑内障11眼,NTG9眼,男性7例,女性13例,年齢は3488歳,66.6±12.7歳であった.Humphrey視野中心30-2SITA-STANDARDプログラムのMD値は8.3±5.8dB(18.90.8dB),点眼薬追加投与前の眼圧は18.2±2.9mmHg(1526mmHg)であった.追加投与群において持続型カルテオロール点眼薬を追加投与する基準は,目標眼圧に比べて眼圧が2回以上高値を示し,さらなる降圧が必要な症例とした.アセタゾラミド内服中の症例,白内障以外の内眼手術やレーザー手術の既往例は除外した.白内障手術既往例は術後3カ月以内の症例は除外した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,患者ごとに同一の検者が外来診察時(午前9時から午後6時の間)にほぼ同一の時間に,12カ月ごとに測定した.NTG群と追加投与群では,投与前と投与1カ月後,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法).切り替え群では投与前と投与12カ月後,34カ月後の眼圧を比較した(ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法).有意水準は,p<0.05とした.統計解析にはStatView4.0(AbacusCon-cepts社)を用いた.副作用は来院時ごとに調査した.持続型カルテオロール点眼薬を3カ月間以上使用できなかった症例(脱落例)では,その原因を調査した.両眼投与例では右眼を,片眼投与例では患眼を解析眼とした.持続型カルテオロール点眼薬投与開始時にNTG群と追加投与群では持続型カルテオロール点眼薬使用の必要性,効果,副作用を,切り替え群では切り替えによる点眼回数の減少の利点を説明し,患者の同意を得た.II結果NTG群の眼圧は,投与1カ月後は14.5±2.1mmHg,投与3カ月後は14.5±1.7mmHgで,投与後は投与前(16.9±2.0mmHg)に比べ有意に下降していた(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図1).切り替え群の眼圧は,切り替え12カ月後は14.7±1.8mmHg,切り替え34カ月後は14.6±1.9mmHgで,切り替え後は切り替え前(15.0±1.9mmHg)に比べ有意に下降していた(p<0.001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図2).眼圧は,切り替え前と比べて切り替え12カ月後は上昇(1mmHg以上)が3眼,不変が32眼,下降(1mmHg以上)が13眼,切り替え34カ月後は上昇が4眼,不変が26眼,下降が18眼であった.追加投与群の眼圧は,投与1カ月後は16.1±2.8mmHg,投与3カ月後は16.2±3.7mmHgで,投与後は投与前(18.2±2.9mmHg)に比べ有意に下降していた(p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)(図3).点眼薬投与の脱落例は,2例(2.1%,2例/94例)であり,これらの症例は眼圧の解析からは除外した.1例はNTG群で点眼開始直後より眼瞼腫脹が,1例は切り替え群で切り替え2カ月後より点眼後の違和感が出現し,両症例ともに投与中止となった.NTG群の症例では点眼薬を使用せずに経過観察を行い,切り替え群の症例では標準型カルテオロール点眼薬に戻したところ,その後の経過は問題がなかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081293(105)III考按持続型カルテオロール点眼薬の眼圧下降効果は,原発開放隅角緑内障ならびに高眼圧症患者で報告されている46).Demaillyら4)は,235例に対して標準型2%カルテオロール点眼薬(午前9時と午後9時の2回点眼)と持続型2%カルテオロール点眼薬(午前9時に1回点眼,午後9時にプラセボ点眼)を120日間投与したところ,両薬剤とも有意に眼圧を下降させたと報告した.眼圧下降幅は,それぞれ午前9時(推定トラフ時)は5.586.25mmHgと5.506.09mmHg,午前11時(推定ピーク時)は6.076.51mmHgと6.066.47mmHgで,両薬剤間に差はなかった.副作用出現頻度も標準型2%カルテオロール点眼薬(9.916.5%)と持続型2%カルテオロール点眼薬(9.611.7%)で差がなかった.Trinquandら5)は,151例に対して標準型1%カルテオロール点眼薬(午前9時と午後9時の2回点眼)と持続型1%カルテオロール点眼薬(午前9時に1回点眼,午後9時にプラセボ点眼)を60日間投与したところ,両薬剤とも有意に眼圧を下降させたと報告した.眼圧下降幅は,それぞれ午前9時(推定トラフ時)は5.67mmHgと5.936.32mmHg,午前11時(推定ピーク時)は6.126.55mmHgと6.606.70mmHgで,両薬剤間に差はなかった.副作用出現頻度も標準型1%カルテオロール点眼薬(57%)と持続型1%カルテオロール点眼薬(45%)で差がなかった.山本ら6)は,146例に対して標準型1%カルテオロール点眼薬(1日2回朝夜点眼)と持続型1%カルテオロール点眼薬(朝1回点眼,夜プラセボ点眼)を8週間投与したところ,両薬剤とも有意に眼圧を下降させたと報告した.眼圧下降幅は,それぞれ午前911時(当日の点眼は検査終了後に行ったので推定トラフ時)は4.14.6mmHgと3.54.6mmHgで,両薬剤間に差はなかった.副作用出現頻度も標準型1%カルテオロール点眼薬(13.9%)と持続型1%カルテオロール点眼薬(12.2%)で差がなかった.今回のNTG群での眼圧下降幅および眼圧下降率は2.4mmHgと14.2%で,過去の報告(3.56.70mmHgと15.227.6%)46)より低値であったが,緑内障病型が異なり,投与前眼圧が過去の報告より低かったことが一因と考えられる.一方,NTG症例に対する単剤でのb遮断薬の眼圧下降率は,ゲル化剤添加チモロール点眼薬では11.316.7%7),レボブノロール点眼薬では15.718.0%8),ニプラジロール点眼薬では16.018.3%9),標準型2%カルテオロール点眼薬では5.412.2%10)と報告されており,今回の14.2%はこれらとほぼ同等であった.今回,標準型2%カルテオロール点眼薬から持続型2%カルテオロール点眼薬へwashout期間なしで切り替えた群で眼圧は有意に下降した.この原因として点眼回数が減ったことによる点眼コンプライアンスの改善が考えられる.チモロール点眼薬(1日2回点眼)においてもゲル化剤添加チモロール点眼薬(1日1回点眼)への変更で眼圧が有意に下降し,その原因として点眼コンプライアンスが改善したためと報告されている11).一方,今回の眼圧測定は患者個人個人ではほぼ同一の時間に行ったが,すべての患者で時間帯は統一されておらず,ピーク時に測定した患者もいればそれ以外の患者も混在しており,そのことが眼圧下降に関与していた可能性も考えられる.さらに,切り替え群において統計学的には眼投与1カ月後投与3カ月後投与前2220181614121086420眼圧(mmHg)****図1NTG群の点眼薬投与前後の眼圧(**p<0.0001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)切り替え12カ月後切り替え34カ月後切り替え2220181614121086420眼圧(mmHg)**図2切り替え群の点眼薬切り替え前後の眼圧(*p<0.001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)図3追加投与群の点眼薬投与前後の眼圧(**p<0.0001:ANOVAおよびBonferroni/Dunnet法)投与1カ月後投与3カ月後投与前2220181614121086420眼圧(mmHg)****———————————————————————-Page41294あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(106)圧の有意な下降がみられたが,眼圧変動が1mmHg以内の症例が投与12カ月後は97.9%(47例/48例),34カ月後は91.7%(44例/48例)であった.眼圧測定の誤差,日日変動,季節変動などを考慮すると,臨床的には切り替え前後で眼圧は変化しなかったと考えられる.原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対するb遮断薬のラタノプロスト点眼薬への追加投与の眼圧下降効果が報告されている7,1215).それらの眼圧下降率は,チモロール点眼薬では9.9%12),ゲル化剤添加チモロール点眼薬では9.1%7),ニプラジロール点眼薬では4.711.0%13,14),標準型2%カルテオロール点眼薬では7.113.5%12,13,15)で,今回の11.011.5%とほぼ同等であった.副作用の出現により点眼薬を中止した症例は2.1%(2例/94例)であった.過去には1.4%(1例/74例)6),重篤な副作用はなかった4,5)と報告されている.副作用の内訳は,今回の症例では眼瞼腫脹と違和感で,山本ら6)の症例は頭痛であった.これらの結果より持続型カルテオロール点眼薬は高い安全性を有していると考えられる.原発開放隅角緑内障(広義)患者へのアルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬の短期の眼圧下降効果を検討した.無治療のNTG患者に単剤投与,標準型2%カルテオロール点眼薬からの切り替え,ラタノプロスト点眼薬単剤に追加投与したすべての群で眼圧は有意に下降し,約98%の症例で安全に使用できた.アルギン酸添加塩酸カルテオロール2%点眼薬は良好な眼圧下降効果と高い安全性を有する点眼薬と思われる.今後はさらに長期的な調査が必要である.文献1)SorensenSJ,AbelSR:Comparisonoftheocularbeta-blockers.AnnPharmacother30:43-54,19962)FrishmanWH,KowalskiM,NagnurSetal:Cardiovascu-larconsiderationsinusingtopical,oral,andintravenousdrugsforthetreatmentofglaucomaandocularhyperten-sion:focusonb-adrenergicblockade.HeartDis3:386-397,20013)TissieG,SebastianC,ElenaPPetal:Alginicacideectoncarteololocularpharmacokineticsinthepigmentedrabbit.JOculPharmacolTher18:65-73,20024)DemaillyP,AllaireC,TrinquandC,fortheOnce-dailyCarteololStudyGroup:Ocularhypotensiveecacyandsafetyofoncedailycarteololalginate.BrJOphthalmol85:962-968,20015)TrinquandC,RomanetJ-P,NordmannJ-Petal:Ecacyandsafetyoflong-actingcarteolol1%oncedaily:adou-ble-masked,randomizedstudy.JFrOphtalmol26:131-136,20036)山本哲也,カルテオロール持続性点眼液研究会:塩酸カルテオロール1%持続性点眼液の眼圧下降効果の検討─塩酸カルテオロール1%点眼液を比較対照とした高眼圧患者における無作為化二重盲検第III相臨床試験─.日眼会誌111:462-472,20077)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,20038)InoueK,EzureT,WakakuraMetal:Theeectofonce-dailylevobunololonintraocularpressureinnormal-ten-sionglaucoma.JpnJOphthalmol49:58-59,20059)井上賢治,若倉雅登,井上治郎ほか:正常眼圧緑内障患者におけるニプラジロール点眼3年間投与の効果.臨眼62:323-327,200810)前田秀高,田中佳秋,山本節ほか:塩酸カルテオロールの正常眼圧緑内障の視機能に対する影響.日眼会誌101:227-231,199711)徳川英樹,大鳥安正,森村浩之ほか:チモロールからチモロールゲル製剤への変更でのアンケート調査結果の検討.眼紀54:724-728,200312)本田恭子,杉山哲也,植木麻里ほか:ラタノプロストと2種のb遮断薬併用による眼圧下降効果の比較検討.眼紀54:801-805,200313)HanedaM,ShiratoS,MaruyamaKetal:Comparisonoftheadditiveeectsofnipradilolandcarteololtolatano-prostinopen-angleglaucoma.JpnJOphthalmol50:33-37,200614)水谷匡宏,竹内篤,小池伸子ほか:プロスタグランディン系点眼単独使用の正常眼圧緑内障に対する追加点眼としてのニプラジロール.臨眼56:799-803,200215)河合裕美,林良子,庄司信行ほか:カルテオロールとラタノプロストの併用による眼圧下降効果.臨眼57:709-713,2003***

ラタノプロスト点眼薬へのb 遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(95)9990910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):9991001,2008cはじめにラタノプロストは,プロスタグランジンF2a誘導体で,良好な眼圧下降効果を有し,全身性副作用の報告が少ないことからも1,2),緑内障点眼薬の第一選択として用いられることが多くなっているが,ラタノプロストのみでは十分な眼圧下降が得られない症例も存在し,2剤目の薬剤の併用が必要となることがある.以前筆者らは,ラタノプロスト単独使用例に対し,0.5%チモロール,ブリンゾラミドを追加投与した症例において,投与後2カ月で検討した結果,チモロール追加群・ブリンゾラミド追加群で有意な眼圧下降を示し,両群間で眼圧下降幅・下降率については有意差を認めなかったと報告した3).しかしこれは2カ月間と比較的短期間での解析〔別刷請求先〕佐藤志乃:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShinoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki,Kita,Kagawa761-0793,JAPANラタノプロスト点眼薬へのb遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果佐藤志乃廣岡一行高岸麻衣溝手雅宣馬場哲也白神史雄香川大学医学部眼科学講座Long-TermAdditiveIntraocularPressure-loweringEectofTimololorBrinzolamidewithLatanoprostShinoSato,KazuyukiHirooka,MaiTakagishi,MasanoriMizote,TetsuyaBabaandFumioShiragaDepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine原発開放隅角緑内障におけるラタノプロスト点眼への0.5%チモロールあるいはブリンゾラミド追加の長期効果についてレトロスペクティブに検討した.対象は原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロスト単独点眼加療を受けている患者のうち,2剤目として0.5%チモロールを追加した10例,ブリンゾラミドを追加した17例で,追加投与前と投与後2カ月ごとに12カ月までの眼圧を比較検討した.12カ月間継続投与できたのは,チモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.眼圧はチモロール追加群で投与4カ月後に最も大きな眼圧下降を示したが,その後効果は減弱した.ブリンゾラミド追加群では12カ月にわたって眼圧下降効果がみられた.無効による中止はチモロール追加群0例,ブリンゾラミド追加群4例(c2検定,p=0.26),副作用による中止はチモロール追加群3例,ブリンゾラミド追加群2例(c2検定,p>0.99)であった.Weretrospectivelystudiedthelong-termadditiveintraocularpressure(IOP)-loweringeectoftimololorbrinzolamideusedadjunctivelywithlatanoprost.Weevaluated27eyesof27patientswithprimaryopen-angleglaucomawhohadbeentreatedwithlatanoprostaloneformorethanthreemonths.Eachpatientreceivedadjunc-tivetreatmentwitheithertimolol(n=10)orbrinzolamide(n=17).IOPwasmeasuredatthebaselineandat2,4,6,8,10and12monthsafteradditiontolatanoprost.In7ofthe10patientstreatedadjunctivelywithtimololand11ofthe17patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamide,IOPwaswellcontrolledfor12months.Long-termdriftinIOPwasseenineyestreatedadjunctivelywithtimolol,whereasbrinzolamideloweredIOPfromthelatanoprostbaselinefor12months.Nopatientstreatedadjunctivelywithtimolol,and4patientstreatedadjunctivelywithbrin-zolamide,discontinuedtreatmentbecauseofinsucientecacy(p=0.26).Threepatientstreatedadjunctivelywithtimololand2patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamidediscontinuedtreatmentbecauseofmedicationintoler-ance(p>0.99).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):9991001,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,チモロール,ブリンゾラミド,眼圧,長期効果.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,timolol,brinzolamide,intraocularpressure,long-termeect.———————————————————————-Page21000あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(96)降率についてはStudentのpairedt検定およびunpairedt検定を,無効症例・副作用の出現率についてはc2検定を用い,危険率5%を有意水準とした.II結果12カ月間継続投与でき,解析の対象となった症例はチモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.両群の性別,年齢,ベースライン眼圧には,いずれも両群間で有意差はみられなかった(表1).ベースライン眼圧と比較してブリンゾラミド追加群では,2,4,8,10カ月後で有意な眼圧下降がみられ,1年間効果が持続した.一方,チモロール追加群では,4カ月後に眼圧下降効果が最大となり,その後は効果の減弱がみられた(図1).眼圧下降幅には,両群間で有意差はみられなかった(図2).眼圧下降率では,追加後2カ月目にブリンゾラミド追加群で有意に大きかったものの,それ以降は差を認めなかった(図3).であり,長期間での両群の眼圧下降効果を検討した報告はない.そこで今回,追加投与後1年間の効果について比較検討した.I対象および方法1.対象香川大学医学部附属病院眼科外来に通院中の原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロストを単独で使用している症例のうち,眼圧コントロールが不十分な症例に対し,0.5%チモロールを追加した10例と,ブリンゾラミドを追加した17例を対象とした.ぶどう膜炎,強膜炎,角膜疾患の合併例,1年以内に内眼手術およびレーザー治療の既往があるもの,炭酸脱水酵素阻害薬,副腎皮質ステロイド薬を投与されているものは除外した.2.方法ラタノプロストを3カ月以上投与した症例のうち,眼圧下降が不十分な症例に対してチモロール,またはブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧の経過について検討した.追加投与前の眼圧をベースライン眼圧とし,ベースライン,その後2カ月ごとに12カ月までの眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.測定時刻は午前912時までとした.検討項目は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率,無効症例・副作用の出現率とし,統計学的解析は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下図1眼圧の経過眼圧経過表1患者背景チモロール追加群ブリンゾラミド追加群p値性別(男/女)5/24/70.33*年齢(歳)62.4±10.564.21±11.50.75**ベースライン眼圧(mmHg)17.5±4.518.9±3.80.45***c2検定.**対応のないt検定.図2眼圧下降幅012345672468:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降幅(mmHg)期間(月)10120510152025302412:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降率(%)期間(月)**:p<0.056810図3眼圧下降率———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081001(97)経過観察中,ブリンゾラミド追加群において無効であった症例が4例あった.これらは追加投与後2カ月目,4カ月目の時点での眼圧がベースライン時と比較し不変もしくは上昇したものであり,無効症例はベースライン眼圧が1415mmHgと低い症例であった.単剤投与の場合と同様,治療開始前眼圧の低い症例については,眼圧下降が得られにくいものと思われる.一方,チモロール追加群では無効症例はなく,眼圧下降に対する感受性については本剤のほうが高いことが推測された.今回の結果から,ブリンゾラミドおよびチモロールは,ラタノプロスト単剤使用時よりもさらなる眼圧下降を示したが,長期的にみるとその眼圧下降効果に異なった傾向がみられた.臨床においては,両点眼薬のそれぞれの傾向を考慮したうえでの選択・投与が必要と思われる.文献1)WillisAM,DiehltKA,RobbinTE:Advancesintopicalglaucomatherapy.VeteOphthalmol5:9-17,20022)WaldockA,SnapeJ,GrahamCM:Eectofglaucomamedicationsonthecardiorespiratoryandintraocularpres-surestatusofnewlydiagnosedglaucomapatients.BrJOphthalmol84:710-713,20003)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)O’ConnorDJ,MartoneJ,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1%(Azopt)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,20007)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20068)BogerWP:Shortterm“Escape”andLongterm“Drift.”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28(Supple1):235-240,1983今回の経過観察中に中止となった症例については,無効による中止がチモロール追加群0例(0%),ブリンゾラミド追加群4例(23.5%)で,両群間で有意差はなかったものの,ブリンゾラミド追加群で多い傾向にあった(p=0.26).副作用による中止は,チモロール追加群で3例(30.0%)あり,原因として息切れ・動悸,角膜上皮障害,眼瞼炎があげられ,ブリンゾラミド追加群では2例(11.8%)で,原因は充血,眼瞼炎であった(p>0.99).III考按現在,国内においても多数の緑内障治療薬が認可されているが,薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることであり,それぞれの薬理効果,副作用を考慮したうえでの選択が必要である4).併用療法においては異なった薬理作用の薬剤の併用が望ましく,ぶどう膜強膜流出を促進するラタノプロストを第一選択薬として使用した場合,房水産生抑制効果のあるb遮断薬または炭酸脱水酵素阻害薬の併用は効果が期待できる.実際,ラタノプロストへの併用薬として,炭酸脱水酵素阻害薬の一つであるドルゾラミド,もしくはb遮断薬を用いた場合に有意な眼圧下降効果が得られることが報告されている5).筆者らが追加薬剤としてチモロールとブリンゾラミドを選択し,追加投与2カ月で検討した報告では,両群ともにラタノプロスト単剤投与時よりもさらなる眼圧下降が得られ,かつ両群間で眼圧下降幅・下降率に有意差を認めなかった3).しかし,今回12カ月の長期投与ではブリンゾラミド追加群については12カ月間の長期にわたり効果が持続したが,チモロール追加群については効果の減弱がみられた.Marchらは,ブリンゾラミドの単剤投与における長期効果の検討で,18カ月間にわたって有意な眼圧下降効果が持続したと報告しており6),緒方らは,ラタノプロストへのブリンゾラミド追加投与による眼圧下降効果は1年以上減弱することなく持続したと報告している7)が,今回の検討でも同様に,ブリンゾラミド追加群では12カ月間の長期にわたり効果が持続した.一方,以前からチモロールの長期間投与において効果が減弱する症例があること,他剤への併用薬として用いた場合にもその傾向が多くみられることが報告されている8)が,筆者らの結果においてもチモロール追加群において効果の減弱がみられた.***