0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(135)135《原著》あたらしい眼科28(1):135.138,2011cはじめに現在,水晶体再建術は視力の改善のみでなく,より優れた視機能を得られることが望まれている.そのためにより安全で迅速な手術実績とともに,従来の眼内レンズ(IOL)から付加価値を有したIOLも開発されている.近年,他覚的評価方法として波面解析が導入されたことにより,屈折異常を波面収差という概念で捉えることが可能になった.すなわち,波面収差成分が視機能へ与える影響が着目されるようになり,特に高次収差の補正に関する重要性が認識されるようになった.諸家の報告によれば,正常な若年者の角膜は正の球面収差を有し,水晶体は負の球面収差をもつ.加齢により角膜の球面収差はほとんど変わらないが,水晶体の球面収差は正方向へ増加するため眼球全体の球面収差は増加し,その結果,視機能は低下していくことが示唆されている1,2).従来の球面IOLではその形状から加齢した水晶体同様,正の球面収差を有するため,埋植により眼球全体の球面収差を増加させる.このように従来の球面IOLでは高次収差を補正することは不十分であったが,波面収差を考慮して開発され〔別刷請求先〕太田一郎:〒462-0825名古屋市北区大曽根三丁目15-68眼科三宅病院Reprintrequests:IchiroOta,M.D.,MiyakeEyeHospital,3-15-68Ozone,Kita-ku,Nagoya-shi462-0825,JAPAN非球面眼内レンズ(Nex-AcriAAAktisN4-18YG)挿入眼の視機能太田一郎三宅謙作三宅三平武田純子眼科三宅病院VisualFunctionafterImplantationofNex-AcriAAAktisN4-18YGAsphericalIntraocularLensIchiroOta,KensakuMiyake,SampeiMiyakeandJunkoTakedaMiyakeEyeHospital目的:非球面眼内レンズ(IOL)挿入眼と球面IOL挿入眼の視機能について比較した.方法:白内障手術に続き片眼に非球面IOL(N4-18YG),僚眼に球面IOL(N4-11YB)を無作為に挿入した.術後6カ月で裸眼視力,矯正視力,高次収差〔解析領域5mmf,ゼルニケ(Zernike)6次〕,コントラスト感度,後発白内障,IOLの位置異常(偏位,傾斜)について観察した.結果:対象とした21名42眼では,非球面IOLにおける球面収差は球面IOLに比較して有意に少なかった(p<0.05).暗所でのコントラスト感度は非球面IOLが高かった(p<0.05).結語:非球面IOL(N4-18YG)は球面IOLに比較し,より高い光学性能および視機能を供する.Purpose:Tocomparethevisualfunctionofeyesthatunderwentasphericalorsphericalintraocularlens(IOL)implantation.Methods:Inthisprospective,randomizedstudy,patientsscheduledtoundergocataractsurgeryreceivedtheNex-AcriAAAktis(N4-18YG)asphericalIOLinoneeyeandtheN4-11YBsphericalIOLinthefelloweye.At6monthspostoperatively,uncorrectedvision,best-correctedvisualacuity,higherorderaberration(5mmzone,6thZernikeorder),contrastsensitivity,posteriorlenscapsuleopacity,IOLtiltanddecentrationwerecompared.Results:Enrolledinthisstudywere42eyesof21subjects.Postoperativery,sphericalaberrationwassignificantlylowerineyeswithasphericalIOLthanineyeswithsphericalIOL(p<0.05).TheeyeswithasphericalIOLhadsignificantlyhighercontrastsensitivityunderlow-mesopicconditions(p<0.05).Conclusion:TheNex-AcriAAAktisasphericalIOLprovidesbetteropticalandvisualqualitythandoesthesphericalIOL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(1):135.138,2011〕Keywords:非球面眼内レンズ,視機能,収差,コントラスト感度,偏位.asphericalintraocularlens,visualfunction,aberration,contrastsensitivity,tiltanddecentration.136あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(136)た非球面IOLNex-AcriAAAktisN4-18YG(NIDEK社)(以下,Aktis)は角膜の球面収差を補正し,眼球全体での球面収差を減少させるように設計されている.また,Aktisは従来の非球面IOLの光軸上での球面収差補正ではなく視軸上での補正という新しいコンセプトで開発され,従来の非球面IOLで危惧されていた偏位した場合の結像力の低下をより軽減するように設計されている.今回筆者らは,Aktisを使用し,非球面IOLによる波面収差とコントラスト感度,および偏位と視機能の関係について検討した.I対象および方法対象は2008年12月から2009年3月の間に眼科三宅病院にて白内障以外に視力低下の原因がない症例で,超音波乳化吸引術(PEA)および眼内レンズ挿入術を施行し,術後6カ月以上の経過観察が行いえた21名42眼である.性別は男性7名14眼,女性14名28眼で平均年齢は71.5±5.6歳であった.対象患者には術前に十分なインフォームド・コンセントを行い,同一患者の片眼に非球面IOLAktis(以下,非球面群),僚眼に球面IOLNex-AcriAAN4-11YB(NIDEK社)(以下,球面群)を左右ランダムに振り分けて挿入した.手術は全例CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成させ,2.8mmの上方強角膜切開創よりPEAを施行後,専用インジェクターによりIOLを.内固定した.術中にIOLの中心固定性,前.によるcompletecoverを確認した.術後6カ月における裸眼視力,矯正視力,術後屈折度数誤差量(術後等価球面度数.目標等価球面度数),波面収差,コントラスト感度,後.混濁濃度および術後偏位量を測定し両群を比較した.波面収差の測定,解析は波面センサーOPD-Scan(NIDEK社)を用いて行った.解析領域は3mm,5mmとし,角膜成分,全眼球成分についてそれぞれ4次の球面収差(C04)を測定した.コントラスト感度はVCTS6500(Vistech社)を用いて測定した.測定時の照度条件を150lux(明室),50lux(中間),10lux(暗室)となるように調整し,完全矯正下で測定した.コントラスト感度の比較は,各空間周波数におけるコントラスト感度の対数値と,AULCSF(areaunderthelogcontrastsensitivityfunction)の値を算出して用いた3).後.混濁濃度および術後偏位の測定は,前眼部画像解析装置EAS-1000(NIDEK社)を用いて行った.後.混濁濃度は撮影条件をスリット長10mm,光源を200Wとし,散瞳下でスリットモードを使い,0°,45°,90°,135°の4方向のScheimpflug像を撮影した.解析は3×0.25mmのエリアの後.混濁値(単位CCT:computercompatibletaps)を定量し,4方向の平均値を後.混濁濃度とした.術後偏位の測定は,IOLモードを使い解析した.統計解析にはWilcoxonの符号付順位和検定を用い,有意水準(p)は0.05未満とした.II結果術後,非球面群と球面群間で裸眼視力,矯正視力で有意差を認めなかった.屈折誤差は等価球面度数で表すと,非球面群が.0.21±0.52D,球面群が.0.92±0.55Dで非球面群が有意に少なかった(表1).収差は,角膜成分における球面収差において非球面群と球面群間で有意差を認めなかった.全眼球成分では解析領域3mmにおいて球面収差で非球面群が0.01±0.01μm,球面群が0.02±0.01μmで非球面群のほうが有意に少なかった(p表1術後視力および術後屈折度数誤差量の比較非球面群(n=21)球面群(n=21)p値裸眼視力0.65(0.40,1.05)*0.54(0.27,1.07)*p=0.090矯正視力1.09(0.85,1.39)*1.03(0.79,1.33)*p=0.074屈折誤差量(D).0.21±0.52.0.92±0.55p<0.001*:()は散布度を表す.非球面群と球面群間で術後の裸眼視力,矯正視力,屈折誤差を比較した.屈折誤差において非球面群が球面群に対して有意に少なかった.*角膜収差(μm)全眼球*3.0mm(n=10)5.0mm(n=8)3.0mm(n=10)5.0mm(n=10)□:球面群■:非球面群*p<0.010.40.30.20.10図1術後球面収差量非球面群と球面群の術後の球面収差を比較した.角膜成分は球面群,非球面群に有意差はないが,全眼球成分においては非球面群が球面群に対して有意に少ない.高照度(150lux)(n=21)中照度(50lux)(n=21)低照度(10lux)(n=21)2.001.501.000.500.001.53612181.536空間周波数(c/d)対数コントラスト感度**12181.5361218*p<0.05:球面群:非球面群図2術後のコントラスト感度の比較照度別に非球面群と球面群のコントラスト感度を比較した.低照度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.(137)あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011137<0.01).解析領域5mmにおいて非球面群が0.01±0.07μm,球面群が0.17±0.17μmで非球面群が有意に少なかった(p<0.01)(図1).コントラスト感度は,明室(150lux),中間(50lux)においてすべての空間周波数帯で非球面群,球面群間の有意差を認めなかったが,暗室(10lux)では,3,12cycles/degreeにて非球面群が有意に高値を示した(p<0.05)(図2).AULCSF値を比較すると,明所,中間では非球面群と球面群間で有意差を認めなかったが,暗所では非球面群が有意に高い値を示した(p<0.01)(図3).後.混濁濃度,術後偏位量は非球面群と球面群間に有意差を認められなかった(表2).III考按今回の結果では,球面収差において角膜成分では非球面群と球面群間で有意差を認めなかったのに対し,全眼球成分では非球面群のほうが球面群に比べて有意に少ない結果となった.その傾向は解析領域が3mmの場合よりも5mmで顕著にみられた.また,暗所におけるコントラスト感度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.非球面IOLの収差補正効果は瞳孔径に依存し,瞳孔径が大きいほど非球面IOLの効果が大きくなることがいわれている4)が,今回の結果においても同様の結果が得られ,Aktisのもつ非球面性によるものと考えられた.偏位(decentration)や傾斜(tilt)を起こした場合,IOLの空間周波数特性(modulationtransferfunction:MTF)は低下するが,非球面IOLはその影響を大きく受け,偏位や傾斜の値が一定以上になれば球面IOLよりもMTFが低下するといわれ5),HolladayはTecnisRZ9000(AMO社)を用いたシミュレーションの結果として,0.4mm以上の偏位,もしくは7°以上の傾斜で非球面IOLのMTFは球面IOLよりも低下すると報告している6).今回偏位量については,平均で非球面群が0.25±0.19mm,球面群が0.24±0.15mmであったが,対象のなかに非球面IOLと球面IOLのMTFが逆転するとされる0.4mm以上のIOL偏位を認めた症例を3例経験したので別に検討を行った.当該例の平均偏位量は,非球面群が0.58±0.18mm,球面群が0.48±0.09mmであったが,視力,コントラスト感度とも非球面群が球面群に比べて明らかに低下するようなことはなく(表3),視軸上での球面収差補正というAktisの設計によりMTFの低下が抑えられた可能性がある.前眼部画像解析装置を用いた調査によると,.内固定されたIOLは一般的に0.2~0.4mmの偏位が生じるといわれており7~9),これら偏位が種々の術後不定愁訴の原因となっている可能性がある10).Aktisは,0.5mm以上の偏位を示した症例においても視力,コントラスト感度の低下はみられなかった.当該症例において観察期間中,特筆すべき不定愁訴もなかった.以上を総括し,Aktisは臨床上有用性があると考えられた.文献1)AmanoS,AmanoY,YamagamiS:Age-relatedchanges高照度(150lux)(n=21)中照度(50lux)(n=21)低照度(10lux)(n=21)*p<0.01*□:球面群■:非球面群2.001.501.000.500.00AULCSF図3AULCSF(areaunderthelogcontrastsensitivityfunction)照度別に非球面群と球面群のコントラスト感度のAULCSFを比較した.低照度において非球面群が球面群に対して有意に良好な値を示した.表3偏位を認めた症例の視力およびAULCSFの比較非球面群(n=3)球面群(n=3)視力裸眼0.77(0.71,0.83)*0.80(0.80,0.80)*矯正1.20(1.20,1.20)*1.13(1.02,1.25)*AULCSF高照度1.81±0.261.73±0.20中照度1.82±0.241.61±0.16低照度1.56±0.261.52±0.21*:()は散布度を表す.非球面群と球面群について術後0.4mm以上偏位を認めた症例の視力およびAULCSFを比較した.両群間に有意差はみられなかった.表2後.混濁濃度および偏位量の比較非球面群球面群p値後.混濁濃度(CCT)17.24±7.8(n=20)16.80±4.8(n=19)p=0.728Tilt量(°)2.70±1.70(n=19)2.08±1.51(n=20)p=0.244Decentration量(mm)0.25±0.19(n=19)0.24±0.15(n=20)p=0.989非球面群と球面群について術後の後.混濁および偏位量を比較した.両群間に有意差はみられなかった.138あたらしい眼科Vol.28,No.1,2011(138)incornealandocularhigher-orderwavefrontaberrations.AmJOphthalmol137:988-992,20042)FujikadoT,KurodaT,NinomiyaSetal:Aged-relatedchangesinocularandcornealaberrations.AmJOphthalmol138:143-146,20043)ApplegateRA,HowlandHCetal:Cornealaberrationsandvisualperformanceafterradialkeratotomy.JRefractSurg14:397-407,19984)大谷伸一郎,宮田和典:非球面眼内レンズ.眼科手術21:303-307,20085)大谷伸一郎,宮田和典:非球面眼内レンズ.IOL&RS22:460-466,20086)HolladayJT,PiersPA,KoranyiGetal:Anewintraocularlensdesigntoreducesphericalaberrationofpseudophakiceyes.JRefractSurg18:683-691,20027)HayashiK,HaradaM,HayashiH:Decentrationandtiltofpolymethylmethacrylate,silicone,andacrylicsoftintraocularlenses.Ophthalmology104:793-798,19978)吉田伸一郎,西尾正哉,小原喜隆ほか:Foldable眼内レンズの術後成績.臨眼50:831-835,19969)麻生宏樹,林研,林英之:同一デザインのアクリルレンズとシリコーン眼内レンズの固定状態の比較.臨眼61:237-242,200710)佐藤昭一:foldable眼内レンズの術後合併症と対策─偏位.眼科診療プラクティス40,foldable眼内レンズを用いる白内障手術(臼井正彦編),p68-71,文光堂,1998***