《原著》あたらしい眼科34(8):1196.1200,2017c当院におけるサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の短期的術後成績本田紘嗣*1野本洋平*1戸塚清人*2高田幸子*1曽我拓嗣*1杉本宏一郎*1中川卓*1*1総合病院国保旭中央病院眼科*2東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科Short-termResultsofCombinedPhacoemulsi.cation,IntraocularLensandTrabeculotomywithSinusotomyatAsahiGeneralHospitalKojihonda1),YouheiNomoto1),KiyohitoTotsuka2),SachikoTakada1),HirotsuguSoga1),KouichirouSugimoto1)andSuguruNakagawa1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoSchoolofMedicine目的:当院で術後1年間フォロー可能であったサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術について検討を行った.対象および方法:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を施行した症例のうち,術後1年間フォロー可能であった症例39症例50眼を対象とした.病型,術前後眼圧,術前後点眼スコア,合併症および生存率について検討を行った.結果:眼圧に関しては,術前平均18.0±4.9mmHgから術後1年で13.0±3.3mmHgと下降していた.また,点眼スコアに関しても,術前4.3±1.8から術後1年で2.1±1.6と下降していた.合併症に関しては重篤なものはなかった.生存率に関して,原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に有意差は認めなかった.結論:サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術は重篤な合併症なく,術後眼圧および点眼スコアにおいて下降が得られた.Purpose:Toevaluatethesurgicaloutcomeoftrabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomy(LOT+PEA+IOL+SIN).Methods:Weconductedaretrospectivestudy,1yearpostoperatively,ofpatientswhohadundergoneLOT+PEA+IOL+SIN.Analysisincludedtypeofglaucoma,preop-erativeandpostoperativeintraocularpressure(IOP),preoperativeandpostoperativeeyedropscore,postoperativecomplicationsandsurvivalrate.Results:IOPdecreasedfrom18.0±4.9mmHgpreoperativeaverageto13.0±3.3mmHgpostoperativeaverage.Eyedropscoredecreasedfrom4.3±1.8preoperativeaverageto2.1±1.6postop-erativeaverage.Therewasnoseriouspostoperativecomplication,norwasthereanysigni.cantdi.erencebetweenprimaryopen-angleglaucomaandexfoliationglaucomaasregardssurvivalrate.Conclusions:IOPandeyedropscoredecreasedafterLOT+PEA+IOL+SINwithoutseriouscomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(8):1196.1200,2017〕Keywords:緑内障,線維柱帯切開術,サイヌソトミー,同時手術,超音波乳化吸引術,glaucoma,trabeculotomy,sinusotomy,combinedsurgery,phacoemulsi.cation.はじめに緑内障手術はさまざまな術式があるが,その中で線維柱帯切開術は緑内障手術のなかで流出路再建術として濾過胞を作らないため,術中および術後に重篤な合併症が少ない手術である.また,近年になってサイヌソトミーを併用することで術後の一過性眼圧上昇を予防するとともに,さらなる眼圧低下が報告されている1,2).既報では術前平均眼圧が19.8.26.1mmHgでの報告がなされている.今回当院での手術では緑内障や薬物治療を行ったうえで,平均術前眼圧18.0mmHgの緑内障症例で検討を行った.また,原発開放隅角緑内障お〔別刷請求先〕本田紘嗣:〒289-2511千葉県旭市イ1326総合病院国保旭中央病院眼科ReprintAdress:KojiHonda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,1326I,Asahicity,Chiba289-2511,JAPAN1196(122)よび落屑緑内障を中心に緑内障病型による術後眼圧の成績について検討を行った.I方法2013年7月23日.2015年10月28日に,当院でサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術を行い,術後1年フォロー可能であった39症例50眼について,病型,術前および術後眼圧,術前および術後点眼スコア,合併症,生存率について検討を行った(表1).平均年齢は72.0±8.8歳,術眼は右眼27眼,左眼23眼であった.対象眼は緑内障として診断されたもので,術前に緑内障の薬物治療を行った症例とした.除外基準は,線維柱帯切除術,線維柱帯切開術,レーザー線維柱帯形成術,毛様体光凝固術などの眼圧降下目的の手術を施行されていた症例とした.病型としては,原発開放隅角緑内障がもっとも多く28眼,ついで落屑緑内障が15眼,ステロイド緑内障が3眼,正常眼圧緑内障が1眼,その他が3眼であった.視野としては,湖崎分類IV期までの緑内障を対象とした.1.術.後.評.価眼圧はGoldmann圧平眼圧測定を行い,細隙灯顕微鏡検査および眼底検査により合併症の評価を行った.2.手.術.方.法当院のサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術式は,耳側角膜切開による超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行する.その後,下耳側を基本に二重強膜弁を作製し,Schlemm管を剖出して深層強膜弁は切除する.プローブをSchlemm管に挿入してOcularPosnerGonioprismでSchlemm管への留置を確認した後,プローブを回旋させて線維柱帯切開を行う.強膜弁を10-0ナイロン角針で縫合して,サイヌソトミーを輪部に2カ所作製,結膜を10-0ナイロン丸針で縫合する.前房洗浄を行い,眼圧調整を行い終刀とする.3.術.後.管.理術後点眼はベタメタゾン,レボフロキサシン,ピロカルピ表1対象症例内訳対象眼数39症例50眼性別男性30眼女性20眼手術時平均年齢72.0±8.8歳術眼右眼27眼左眼23眼緑内障病型原発開放隅角緑内障(POAG)28眼(56%)落屑緑内障(PEgla)15眼(30%)ステロイド緑内障(Steroidgla)3眼(6%)正常眼圧緑内障(NTG)1眼(2%)その他(高眼圧症1眼,慢性閉塞隅角緑内障2眼)3眼(6%)ン,ジクロフェナクナトリウムを基本処方とした.術後の目標眼圧は術前眼圧または20mmHg以下とし,眼圧上昇を認めた場合は内服または点眼による薬物療法を行った.術直後の30mmHg以上の眼圧上昇に対しては,サイドポートからの前房穿刺を行った.4.データ解析手術成績判定は,Kaplan-Meier生命表法を用いて,眼圧18mmHg以下および15mmHg以下の生存率を検討した.一過性眼圧上昇も考慮し,術後は1カ月後より生存率の検討を行った.各眼圧が2回連続で規定眼圧を超えた最初の時期をエンドポイントとした.なお,点眼スコアについては,合剤およびアセタゾラミド内服については2として換算した.II結果術前平均眼圧は18.0±4.9mmHgで,術後1年での平均眼圧は13.0±3.3mmHgと下降を認めた.病型別では,原発開放隅角緑内障では術前平均眼圧17.5±4.6mmHgから術後1年での平均眼圧は13.1±3.9mmHgに,落屑緑内障では術前平均眼圧18.0±4.5mmHgから術後1年での平均眼圧は13.3±2.4mmHgに,ステロイド緑内障では術前平均眼圧20.7±9.8mmHgから術後1年での平均眼圧は13.7±2.5mmHgに,正常眼圧緑内障では術前眼圧11.0mmHgから術後1年での眼圧は8.0mmHgに,その他では術前平均眼圧21.1±4.5mmHgから術後1年での眼圧は12.2±2.7mmHgに下降を認めた.眼圧推移としては術翌日および1週間後に眼圧は上昇傾向にあり,2週間で眼圧は安定していた(図1).病型別ではどの病型においても全体と比較してほぼ同様の推移を記録した(図2~5).原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に眼圧の低下を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05).点眼スコアに関しては,術前4.3±1.8から1年後は2.1±1.6と改善を認めた(図6).点眼スコア推移に関しては,2日目より点眼スコアの上昇を認め,その後は安定していた.病型別でみても,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障ともに術前と比べて有意に点眼スコアの改善を認めた(Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05)(図7).ステロイド緑内障に関しては,一過性眼圧上昇に対し使用していた点眼を中止しても眼圧が維持されたため,点眼スコアが低下していったものと考えられる.生存率に関して,18mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には43眼が生存となった.15mmHg以下を生存とした場合は,術前50眼から1年後には28眼が生存となった(図8,10).病型別では原発開放隅角緑内障と落屑緑内障に差は認めなかった(図9,11).眼圧の上限設定や観察期間が既報によって違うところがあるので,一概に比30眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)252015105観察期間(月)観察期間(月)図1術後眼圧推移:全群(n=50)図2病型別の術後眼圧推移:原発開放隅角緑内障(n=28)35353030眼圧(mmHg)25201510252015105500観察期間(月)観察期間(月)図3病型別の術後眼圧推移:落屑緑内障(n=15)図4病型別の術後眼圧推移:ステロイド緑内障(n=3)35730術前123612術前1236126点眼スコア(点)25520415310250観察期間(月)図5病型別の術後眼圧推移:正常眼圧緑内障(n=1)較はできないが,20mmHg以下でおおむね1年の生存率は90%弱とほぼ同等の生存率であった5,7,10).合併症に関しては,1週間以上続くような前房出血が4眼,Niveauを形成するような前房出血が23眼,フィブリンの析出が6眼,Descemet膜.離が2眼,1週間以内の21mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は26眼であった.Descemet膜.離に関して,1眼は前房内に空気を入れたが,もう1眼は経過観察となっていた.いずれも視機能に影響するような10観察期間(月)図6点眼スコア:全群(n=50)*:Wilcoxonsignedranktestp<0.05.重篤な後遺症は残っていなかった.病型別では,原発開放隅角緑内障に術後のフィブリンやDescemet膜.離が生じる場合が多く,前房出血や一過性眼圧上昇は落屑緑内障に多い傾向となった(表2).III考按本研究では,進行性緑内障であることに加えて,将来的な薬物治療の継続やさらなる薬物治療の強化,それに伴う副作術前1236120.90.8POAGPEglaSteroidgla***************生存率点眼スコア(点)0.70.60.50.40.3観察期間(月)観察期間(月)図7点眼スコア比較:病型別(n=50)図8生存率:全群18mmHg(n=50)*:Wilcoxonsigned-ranktest:p<0.05.10.910.90.80.70.8(n=28)(n=15)生存率生存率0.20.10.70.60.60.50.50.40.40.30.30.20.20.10.100024681012024681012観察期間(月)観察期間(月)図9生存率:病型別18mmHg図10生存率:全群15mmHg(n=50)10.90.80.70.60.50.40.30.20.1生存率0024681012観察期間(月)図11生存率:病型別15mmHg表2術中術後合併症(n=50)全群(n=50)POAG群(n=28)PEgla群(n=15)Steroidgla群(n=3)Descemet膜.離2(4%)2(7.1%)0(0%)0(0%)1週間以上続く前房出血4(8%)2(7.1%)2(13.3%)0(0%)Niveauを形成した前房出血23(46%)10(35.7%)10(66.7%)1(33.3%)Fibrin析出6(12%)5(17.9%)0(0%)0(0%)一過性眼圧上昇(>21mmHg,1週間以内)26(52%)14(50%)9(32.1%)1(33.3%)一過性眼圧上昇(>30mmHg,1週間以内)4(8%)1(3.6%)2(13.3%)1(33.3%)用を念頭に手術適応を判断した.また,薬物治療で正常眼圧が達成されていても,年齢,視野障害の程度,他眼の状態,全身状態,生活環境などを加味して手術適応を判断した.当院でのサイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の術前平均眼圧は18.0±4.9mmHg,術後1年での眼圧は13.0±3.3mmHgの結果となった.既報では術前眼圧が19.8.26.1mmHg,術後1年での眼圧が12.3.18.1mmHgと報告1.9)されており,今回の研究では術後眼圧は既報と同等であった.今回の研究では既報に比べると術前眼圧は低値であり,眼圧下降率としては27.8%と既報の29.7%.48.0%とほぼ同等であった.点眼スコアについて,既報では術前1.9±1.4から6年後1.0±1.0と半分に改善を認めたとの報告があり,本研究でも半分に改善しており,ほぼ同様の結果が得られた5).今回の研究でも緑内障合剤であれば1種類でのコントロールも可能であり,患者のアドヒアランスの向上にも寄与できると考えられた.術中・術後合併症では,全体として1週間以内の21mmHgを超える眼圧上昇は26眼(52%),30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は4眼(8%),前房穿刺の処置を行ったのは1眼であった.既報では30mmHgを超えるような一過性眼圧上昇は20%と報告があり6),本研究は良好な結果であった.また,前房出血が原因の眼圧上昇に対して観血的手術を要した症例は,本研究では認めなかった.また,Niveauを形成するような前房出血は全体の23眼(46%)が認められ,1週間以上の前房出血が持続したのは4眼(8%)であった.7日以上続くような前房出血は8%,フィブリン析出は8%との報告がなされており,既報と同程度であった6).病型別では,原発開放隅角緑内障にDescemet膜.離が2眼(7.1%)に生じ,他の病型には認められなかった.既報ではDescemet膜.離の症例は0%となっており,本症例では合併症として多い結果となった6).今回,眼軸長を含めた解析は行っていないが,近視などによる前房深度などの多様性があったのかもしれない.落屑緑内障に10眼(66.7%)の前房出血が認められ,1週間以上の前房出血は2眼(13.3%)であり,他の病型より多い結果となった.術後の一過性眼圧上昇は9眼(32.1%)で認め,原発開放隅角緑内障に比べると術後早期の眼圧上昇は比較的少ない結果であった.線維柱帯切開術は房水流失の主経路の大きな抵抗となる傍Schlemm管結合組織からSchlemm管内壁を直接開放する術式であり,落屑緑内障は比較的集合管以降の房水動態が保たれており,集合管からの逆流が多いことが考えられる.これらの結果より,緑内障を有する初期から中期の患者で白内障を手術する際は,点眼スコアの改善も考慮し,線維柱帯切開術を併用することが望ましいと考える.一方,7日以内に30mmHg以上の一過性眼圧上昇を認めたものは16.1.34.8%との報告がある3,6,7,11).サイヌソトミー併用により一過性眼圧上昇が少なくなったとはいえ,術後合併症としてかなりの症例数が存在するため,末期緑内障に対してはやはり線維柱帯切除術などを考慮したほうがよいと思われる.ただ,認知機能低下や易感染性などのリスクを有する患者においては,線維柱帯切開術も念頭においてもよいと考えられる.今後,長期的な成績をまとめ,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術および白内障同時手術の有効性を検討していく必要があると考えられる.文献1)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌100:611-616,19962)MizoguchiT,NagataM,MatsumuraMetal:Surgicale.ectsofcombinedtrabeculotomyandsinusotomycom-paredtotrabeculotomyalone.ActaOphthalmicScand78:191-195,20003)TaniharaH,HonjyoM,InataniMetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cationandimplantationofanintraocularlensforthetreatmentofprimary-openangleglaucomaandcoexistingcataract.OphthalmicSurgLasers28:810-817,19974)畑埜浩子,南部裕之,桑原敦子ほか:PEA+IOL+トラベクロトミー+サイヌソトミーの術後早期成績.あたらしい眼科19:761-765,20025)福本敦子,松村美代,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,20136)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.JJpnGlaucomaSoc12:30-34,20027)野田理恵,山本佳乃,越山健ほか:落屑緑内障に対する線維柱帯切開術と白内障同時手術の成績.眼科手術26:623-627,20138)小野岳志:開放隅角緑内障に対する白内障同時手術(流出路再建術)トラベクロトミー(トラベクトーム,suture-lot-omyabinterno/externo含む).眼科手術29:182-188,20169)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとトラベクロトミー単独との長期成績の比較.臨眼50:1727-1733,199610)落合春幸,落合優子,山田耕輔ほか:シヌソトミー併用トラベクロトミーとPEA+IOL同時手術の長期成績.臨眼61:209-213,200711)加賀郁子,城信雄,南部裕之ほか:下方で行ったサイヌソトミー併用トラベクロトミーの白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科32:583-586,201512)浦野哲,三好和,山本佳乃ほか:白内障手術を併用した上方および下方からの線維柱帯切開術の検討.あたらしい眼科25:1148-1152,200813)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,2011