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低加入度数分節型眼内レンズの囊内回旋が視機能に及ぼす影響

2020年3月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科37(3):358?362,2020?低加入度数分節型眼内レンズの?内回旋が視機能に及ぼす影響竹下哲二川下晶橋本真佑蕪龍大上天草市立上天草総合病院眼科TheIn?uenceoftheDegreeofRotationofanAsymmetricBifocalIntraocularLensonVisualFunctionafterSurgeryTetsujiTakeshita,HikariKawashita,MayuuHashimotoandRyotaKaburaDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospitalはじめにレンティスコンフォート(以下,LS-313MF15,参天製薬)は光学部上方が遠用部,下方に+1.5Dを加入して中間用部とした低加入度数分節型眼内レンズである.ループを持たない,プレート型の形状をしている.添付文書には挿入方向を指定する記載はないが,同心円状ではなく分節型という特殊な形状のため挿入の角度によって視機能に差が出るのではないかという疑問がある.上天草総合病院眼科(以下,当科)では遠用部が上方,中間用部が下方となるように挿入しているが,手術翌日の診察時に鉛直方向に対してレンズが回旋している症例がよくみられる.レンズの回旋量によって視機能に差があるか,また挿入後にどの程度回旋したのかについてレトロスペクティブに検討した.I対象および方法1.対象2018年12月?2019年5月に当科で白内障手術を行い,片眼もしくは両眼にLS-313MF15を挿入した症例.トーリックレンズの適応がない,角膜乱視の少ない症例を適応とした.前眼部解析装置(OPD-ScanIII,NIDEK)の徹照像で〔別刷請求先〕竹下哲二:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:TetsujiTakeshita,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa-shiKumamoto866-0293,JAPAN358(110)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYレンズの長辺が確認できて線を引くことができたのは32例A39眼(70.3±4.9歳;平均±標準偏差,以下同様),右眼18眼,左眼21眼だった.角膜疾患や眼底疾患がある症例は除外した.2.手術手術は上方の強角膜を2.2mmスリットナイフで1面切開し,超音波乳化吸引を行ったのち,インジェクター(アキュ図1回旋量の計測方法ジェクトユニフィットWJ-60MII,参天製薬)を用いて眼内に挿入した.レンズフックを用いて4方向すべての角を?内に挿入したのち,遠用部が上方に来るよう角度を調整した.粘弾性物質にはオペリード(千寿製薬)を使用した.レンズ挿入後にI/Aチップを挿入し,光学部を左右にタッピングする方法で粘弾性物質を除去した.当科で使用しているI/Aチップでは光学部の裏側に挿入することができないためbehindthelens法1)での除去はできなかった.手術はすべて一人の術者が行った.手術の様子は顕微鏡に取り付けたビデオカメラを2)用いて撮影(解像度1,920×1,080)し,SDカードに保存した.3.鉛直方向からの回旋の計測手術翌日散瞳し,座位でOPD-ScanIIIを用いて前眼部を撮影,徹照像表示した画像と明所視像表示した画像をUSBメモリーに保存した.徹照像でレンズの長辺が写っているものを選び,パソコンソフトウェアPowerPoint(Microsoft社)に取り込み,画面上で長辺に沿って線を引き鉛直方向からなす角(A)をパソコンソフトウェア分度器で測りましょ(フリーウェア)で計測した(図1左).4.?内回旋量の計測手術終了時から1日でどの程度?内回旋するか計測した.手術時は仰臥位のため眼球は外方回旋しており,頭の傾きも座位のときとは異なっているため手術時とOPD-ScanIII撮影時で眼球回旋を補正する必要がある.既報3)をアレンジして補正を行い回旋量を計測した.まず先述のOPD-ScanIIIの明所視像をPowerPointの別スライドに取り込む.OPD-ScanIIIの徹照像と明所視像は同じ画像の表示方法が違うだけなので眼球回旋は同じである.徹照像に引いたレンズ長辺に沿った線をコピーして明所視像に張り付ける.Power-Pointでは線をコピーして移動しても角度は変化しない.つぎに色素斑や虹彩紋理などの目印を2カ所見つけ線を引く.この2本の線のなす角を測定しBとする(図1中).そして手術時のビデオより終了時点の映像を静止画として保存し,これをPowerPointの3スライド目に取り込みレンズの長辺に沿って線を引く.OPD-ScanIIIの明所視像で見つけた色素斑や虹彩紋理と同じ目印を見つけて線を引く.この2本の線のなす角を計測しCとする(図1右).BとCの差の絶対値を?内回旋量とした.PowerPointにOPD-ScanIIIの徹照像と明所視像,手術終了時の画像を別々のスライドに取り込む.徹照像でレンズの長辺に沿って線を引く.これと鉛直線のなす角(A)を測定する(左).レンズの長辺に沿って引いた線を明所視像にコピーして貼り付ける.色素斑や虹彩紋理などの目印を2カ所見つけ線を引き,2本の線のなす角をBとする(中).手術終了時の画像でレンズの長辺に沿って線を引く.OPD-ScanIIIの明所視像と同じ目印を見つけ線を引き,2本の線のなす角をCとする(右).BとCの差が術後1日の?内回旋量となる.5.視機能の評価術後1週間の遠方裸眼および矯正視力,他覚的および自覚的屈折値を測定した.遠方視力を完全矯正した状態で70cmおよび50cm視力を片眼ずつ測定した.これらの値と回旋量の間に相関があるか検討した.また,レンズが内方回旋した(中間用部が耳側下方)群と外方回旋した(中間用部が鼻側下方)群で差があるか検討した.6.統計学的処理鉛直方向からの回旋量と各項目との相関の検定にはSpearmanの順位相関(使用ソフトウェア:EasyR)を用いた.極端に回旋の大きい症例があったため,外れ値をSmirnovgrubbs検定(使用ソフトウェア:EasyR)で検出した.内方回旋群と外方回旋群間の検定にはWelchのt検定(使用ソフトウェア:MicrosoftExcel)を用いた.本研究は上天草総合病院倫理委員会の承認を得て実施した.II結果1.鉛直方向からの回旋量と視機能への影響手術翌日の鉛直方向からの回旋量は6.7±5.6°だった.内方回旋23眼,外方回旋13眼,回旋のなかったもの3眼だった.術後1週間での遠方視力は裸眼がlogMAR値0.07±0.22(小数視力換算0.86,以下同様),矯正が?0.06±0.06(1.13)だった.自覚的な球面度数は?0.24±0.42D,円柱度数は?0.17±0.35Dだった.OPD-ScanIIIを使用した他覚的な球面度数は?0.84±0.54D,円柱度数は?0.51±0.33Dだった.遠方視力を完全矯正した状態での片眼ずつの70cm視力は0.01±0.11(0.98),50cm視力は0.12±0.15(0.75)だった.これらの値とレンズの回旋との関係を図2~5に示す.いずれの項目も相関がなくレンズの回旋量は視機能に影0.90.80.70.60.50.40.30.20.10-0.10.250.20.150.10.050-0.05-0.205101520253035-0.105101520253035傾き(°)傾き(°)図2鉛直方向からのレンズの傾きと遠方視力の相関左:裸眼視力.p=0.487,r2=0.005.右:矯正視力.p=0.308,r=0.061.いずれも相関なし.0.250.20.150.10.050-0.05-0.1051015202530350.60.50.40.30.20.10-0.1-0.205101520253035傾き(°)傾き(°)図3鉛直方向からのレンズの傾きと中間視力の相関左:70cm視力.p=0.525,r2=0.072.右:50cm視力.p=0.532,r=0.008.いずれも相関なし.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.4-1.6051015202530350.50-0.5-1-1.5-205101520253035傾き(°)傾き(°)図4鉛直方向からのレンズの傾きと球面度数の相関左:自覚球面度数.p=0.640,r2=0.001.右:他覚球面度数.p=0.461,r=0.024.いずれも相関なし.響していなかった.内方に32°回旋していた症例があり外れ値と判定されたが,遠方視力1.0×IOL(n.c.),70cm視力0.6,50cm視力0.5と良好だった.手術翌日レンズが内方回旋した群と外方回旋した群の間には,裸眼・矯正視力,70cm・50cm視力,自覚・他覚球面度数,自覚・他覚円柱度数のいずれにおいても有意差はなかった(裸眼視力p=0.24,矯正視力p=0.55,70cm視力p=0.27,50cm視力p=0.75,自覚球面度数p=0.90,他覚球面度数p=0.76,自覚円柱度数p=0.24,他覚円柱度数p=0.28).2.手術後1日の?内回旋量症例中,OPD-ScanIIIの明所視像と手術終了時の映像の両方で目印2カ所を選定できたのは24例31眼だった.術後1日での?内回旋は4.5±3.7°(0?17°)だった.内方回旋したもの17眼,外方回旋したもの11眼,回旋のなかった0-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.4-1.6051015202530350-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.4-1.605101520253035傾き(°)傾き(°)図5鉛直方向からのレンズの傾きと円柱度数の相関左:自覚円柱度数.p=0.975,r2=0.001.右:他覚円柱度数.p=0.912,r=0.033.いずれも相関なし.もの3眼だった.III考察LS-313MF15の4.5°はこれらの報告に比べると大きい.また,Garzonら7)はLS-313MF15と同じ形状のLU-313(Oculentis)の術後1日での回旋は3.78°でAcrySofIQLS-313MF15は直径6mmの光学部の上方60%が遠用部,下方40%にはそれに1.5Dを加入して眼鏡面で+1.0D程度とし,中間部まで見えるようにしたレンズである.国内でこのような形状のレンズが保険適用となったのは初であり,使用成績報告がほとんどない.遠近両用眼鏡だと下方が近用部で瞳孔間距離もやや狭くなることから,LS-313MF15も中間用部を鼻側下方に向けて挿入したほうが見やすいのではないかというイメージがあり,製造元のOculentis社のガイドラインではその向きでの挿入を推奨している.しかしWitら4)やMcNeelyら5)は形状や加入度数は違うが分節型のLentisMplusMF30(Oculentis)について,近用部を鼻側下方へ挿入した群と耳側上方へ挿入した群で視機能には差がなかったとしている.そしてMcNeelyらは光視症を含む見え方の質は近用部を耳側上方に入れた群のほうがよかったとしている.今回LS-313MF15についても鉛直方向からの回旋と視機能には相関がなく,挿入時に回旋を気にする必要はないという結果となった.内方回旋群と外方回旋群の間にも有意差がなかった.内方に32°回旋していた症例でも視力は良好だった.今回,中間用部が上方にあった症例はなかったが,少なくとも中間用部が下方になる向きになるよう挿入した場合,レンズの回旋は視機能に影響しないと考えられた.レンズ挿入後の?内回旋についての報告は多数あるが,その多くはトーリック眼内レンズの軸が目標軸からどの程度ずれたかに言及したもので,手術終了時点から1日でレンズ自体がどの程度回旋したか調べたものは少ない.以前,筆者はループのあるデザインの1ピース眼内レンズW60(参天製薬)の術後1日の回旋量は1.52°だと報告した3).また,同様の手法で測定された報告として,Schartmullerら6)はXY1(HOYA)の術後1時間での回旋は1.5°だとしている.ToricIOL(Alcon)の0.96°より大きいとしている.しかし,この論文では時計回りを正の値,反時計回りを負の値として回旋量の平均値を求めており,時計回りと反時計回りに同等に回旋するレンズだと平均値は小さくなってしまうため単純比較はできない.とはいえ回旋の範囲がAcrySofIQToricIOLでは?5.00°から13.00°だったのに対しLU-313Tの回旋の範囲は?8.00°から18.00°だったということから,LU-313TのほうがAcrySofIQToricより回旋しやすい可能性はある.一方で古藪ら8)はZCT(JohnsonandJohnsonVision)における術後1日での回旋量は6.23°だったと報告している.LS-313MF15の全長は11mm,ZCTの全長は13mmであることを考えると必ずしも全長が短いほうが回旋しやすいということではない.また,Sethら9)はプレート型のAT-TORBI(CarlZeissMeditec)とAcrySofIQToricIOLは術後3カ月で回旋の程度に有意差がなかったとしており,レンズ形状が回旋に影響するとも言いがたい.LS-313MF15の?内回旋量は視機能に影響せず,術後1日での回旋量は他のレンズと比較して大きいとはいえなかった.文献1)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体?と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,20132)竹下哲二:家庭用ハイビジョンカメラによる手術ビデオ撮影.あたらしい眼科26:1383-1385,20093)竹下哲二:1ピース非球面眼内レンズW60の挿入後?内回旋.眼科手術29:328-331,20164)WitDW,DiazJ,MooreTCetal:E?ectofpositionofnearadditioninanasymmetricrefractivemultifocalintra-ocularlensonqualityofvision.JCataractRefractSurg41:945-955,20155)McNeelyRN,PazoE,SpenceAetal:Comparisonofthevisualperformanceandqualityofvisionwithcombinedsymmetricalinferonasalnearadditionversusinferonasalandsuperotemporalplacementofrotationallyasymmetricrefractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg42:1721-1729,20166)SchartmullerD,Schrie?S,SchwarzenbacherLetal:Truerotationalstabilityofasingle-piecehydrophobicintraocularlens.BrJOphthalmol103:186-190,20197)GarzonN,PoyalesF,ZarateBetal:Evaluationofrota-tionandvisualoutcomesafterimplantationofmonofocalandmultifocaltoricintraocularlenses.JRefractSurg31:90-97,20158)古藪幸貴子,松島博之,向井公一郎ほか:トーリック眼内レンズの術後回旋評価.IOL&RS32:473-479,20189)SethS,BansalR,IchhpujaniPetal:Comparativeevalua-tionoftwotoricintraocularlensesforcorrectingastigma-tisminpatientsundergoingphacoemulsi?cation.IndianJOphthalmol66:1423-1428,2018◆**