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既知の誘因なく両眼同時発症した急性原発閉塞隅角緑内障の1例

2020年7月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科37(7):878.882,2020c既知の誘因なく両眼同時発症した急性原発閉塞隅角緑内障の1例塚本倫子*1,2福岡秀記*2上野盛夫*2外園千恵*2*1京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CBilateralAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomawithNoIdenti.ableCauseMichikoTsukamoto1,2)CHidekiFukuoka2)CMorioUeno2)andChieSotozono2),,1)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:急性原発閉塞隅角緑内障(APACG)は,通常片眼性の発症である.両眼性CAPACGの誘因としてCVogt-小柳-原田病を代表とするぶどう膜炎や抗精神薬の内服などがあげられる.既知の誘因のない両眼同時発症のCAPACG症例を経験したので報告する.症例:63歳の女性.10年以上前にCFuchs角膜内皮ジストロフィと診断された.持続する頭痛と眼痛を主訴に休日急病診療所を受診.ピロカルピン点眼およびマンニトールの経静脈投与されたが眼圧下降が得られず,精査加療目的に京都府立医科大学附属病院救急外来を紹介受診した.受診時,視力は右眼(0.5),左眼(0.3)で眼圧は右眼C54CmmHg,左眼C55CmmHg,角膜浮腫,毛様充血,中等度散瞳,浅前房と前房内炎症細胞を認め,両眼性CAPACGと診断した.前医の治療を継続したが瞳孔ブロックは解除しなかった.周辺前房深度が極度に浅かったため,レーザー周辺虹彩切開術ではなく両眼周辺虹彩切除術を施行した.術翌日,眼圧右眼C12CmmHg,左眼C10CmmHgに下降し症状も軽快した.HLAタイピング検査にてCDR4,B51は陰性であった.発症時に認めなかった毛様体脈絡膜.離を術翌日から認めたが,術C25日後には消失した.術C18カ月後の現在,眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C12CmmHg,矯正視力は右眼C0.9,左眼C1.2と経過良好である.結論:誘因となる内服歴やぶどう膜炎がなくてもCAPACGを両眼に同時発症することがあり,注意を要する.CBackground:BilateralCacuteprimaryCangle-closureCglaucoma(APACG)isCtypicallyChemilateral.CHowever,CitCcanbecausedbyuveitissuchasVogt-Koyanagi-Haradadisease,orfromtheoraladministrationofantipsychoticdrugs.CHereCweCreportCaCcaseCofCbilateralCAPACGCdueCtoCunknownCcauses.CCaseReport:AC63-year-oldCfemaleCdiagnosed10-yearspreviouslywithFuchscornealendothelialdystrophywasreferredtoourhospitalafterunsuc-cessfultreatmentatanotherclinicwithpilocarpineeye-dropsandmannitolforthetreatmentofheadacheandele-vatedintraocularpressure(IOP).Examinationrevealedacorrectedvisualacuity(VA)of0.5ODand0.3OS,IOPof54CmmHgCODCandC55CmmHgCOS,CcornealCedema,CciliaryChyperemia,CmoderateCmydriasis,CandCin.ammatoryCcellsCinCtheanteriorchambers,andshewasdiagnosedasbilateralAPACG.Additionaltreatmentwasine.ective.Bilateralperipheraliridectomywasperformedduetoshallowperipheralanterior-chamberdepths.At1-daypostoperative,herCIOPCdecreasedCtoC12CmmHgCODCandC10CmmHgCOS,CsymptomsCimproved,CandCHLACtypingCtestsCDR4CandCB51Cwerenegative.Ciliary-bodychoroidaldetachmentnotobservedatonsetwasobservedat1-daypostoperative,yetdisappearedCatC25-daysCpostoperative.CAtC18-monthsCpostoperative,CherCIOPCremainedCatC11CmmHgCODCandC12CmmHgCOS,CandCVACimprovedCtoC0.9ODCandC1.2OS.CConclusions:EvenCifCnoChistoryCofCuveitisCorCmedications,Cbilateral-onsetAPACGcanoccur.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(7):878.882,C2020〕Keywords:両眼性,急性原発閉塞隅角緑内障,周辺虹彩切除術.bilateral,acuteprimaryangleclosureglaucoma,peripheraliridectomy.C〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC878(104)はじめに急性原発閉塞隅角緑内障(acuteCprimaryCangleCclosureglaucoma:APACG)は,瞳孔ブロックによる隅角閉塞により高眼圧を引き起こす疾患で眼科救急疾患である.元来眼軸長が短い眼において加齢による水晶体の膨化が加わり,相対的瞳孔ブロックが引き起こされる場合と,先天的に虹彩が特徴的な形状をしているプラトー虹彩が原因となる場合が多いといわれている.血液眼関門の破壊と脈絡膜および毛様体液により間接的に瞳孔ブロックが生じることもある1).いずれの場合も治療が遅れると失明につながるため,速やかに保存的あるいは観血的に眼圧を下げる治療を行う.通常CAPACGは,片眼性の発症である.抗うつ薬・抗精神病薬・抗CPar-kinson病・抗けいれん薬のような脳神経作動薬の服用歴がある者,またCVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)などのぶどう膜炎,全身麻酔,未熟児網膜症・Marfan症候群といった疾患の罹患歴のある者は,両眼性CAPACGを引き起こすことがある1.7).両眼同時CAACGの発症率の報告は筆者らが知る限りない.片眼CAPACGの発症率は,40歳以上では約C0.4%で8),両眼発症はそのC10%で9.11),既報はないものの両眼同時発症はまれであると考えられる.今回,既知の誘因のない両眼同時発症のCAPACG症例を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:頭痛,眼痛.既往歴:10年以上前にCFuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchs’endothelialcornealdystrophy:FECD).家族歴:特記すべき事項なし.内服歴:高脂血症に対しロスバスタチンC2.5Cmg内服(内服期間は不明).現病歴:2016年C9月初旬,深夜C3時頃から持続する頭痛と両眼の眼痛を主訴とし同日午前に休日急病診療所を受診,両眼CAPACGの疑いのためC2%ピロカルピン点眼およびC20%CD-マンニトール点滴を投与されたが瞳孔ブロックが解除せず眼圧下降しないため,精査加療目的にC14時頃,京都府立医科大学附属病院眼科へ紹介となった.当院救急外来受診時所見:視力は右眼(0.5C×sph+4.75D(cyl.1.25DCAx90°),左眼(0.3C×sph+3.00D(cyl.2.00DAx90°),Goldmann圧平眼圧計(以下,GAT)による眼圧は右眼C54CmmHg,左眼C55CmmHgであった.両眼の角膜浮腫,毛様充血,対光反応消失,中等度散瞳,浅前房と前房内炎症を認めた.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認められなかった(図1).角膜浮腫が強いため角膜内皮スペキュラーマイクロスコープによる内皮細胞密度測定は不能であった.眼軸長は,光学的眼軸長検査により右眼C21.08mm,左眼C21.58mmであった.治療経過:両眼CAPACGと診断し前医の治療を継続し,2%ピロカルピン頻回点眼およびC20%CD-マンニトールをC2度経静脈投与するも両眼急性緑内障発作は解除せず,眼圧は右眼C42CmmHg,左眼C48CmmHg(GAT)で眼圧の低下が得られなかった.そこで同日,両眼同時に観血的レーザー周辺虹彩切除術を施行した.結膜切開,止血を行った後,一片C3Cmmの強膜三角一面フラップ弁をダイアモンドナイフとゴルフ刀にて作製した.フラップ下のCSchlemm管を露出させたのち,2時方向の周辺虹彩切除を行った(図2).その後強膜フラップ弁を元の場所へC10-0ナイロン糸にてC3糸縫合し,9-0バイクリル糸にて結膜縫合して手術を終了した.術翌日の眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C10CmmHg(GAT)と正常化し,術C2日後にはCSeidel陰性であるものの両眼眼圧C5CmmHg(GAT)と一時的な低眼圧となった.その際行った前眼部光干渉断層像で両眼の毛様体脈絡膜.離の出現を確認できた(図3).その後は術後眼圧下降薬を使用せずに経過し,徐々に眼圧C10.17CmmHg(GAT)へと安定した.両眼の毛様体脈絡膜.離はC1カ月後自然消退し一過性のものであった.発作時の炎症と虚血によると考えられる虹彩後癒着と虹彩萎縮所見が術後しばらくして徐々に出現した(図4).また,隅角開大度は図1初診時前眼部所見両側の瞳孔は中等度散瞳固定であり,毛様充血・角膜浮腫を認める(Ca:右眼,b:左眼).明らかな毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認めない(Cc:超音波生体顕微鏡,右眼C3時方向).図2両眼周辺虹彩切除術(術中所見)スプリング剪刀にて結膜切開(Ca)した後,バイポーラにて止血(Cb).その後,一片C3Cmmの強膜三角一面フラップ弁をダイアモンドナイフとゴルフ刀にて作製した(Cc).フラップ下のCSchlemm管を露出させたのちC2時方向の周辺虹彩切除を行った(Cd).その後強膜フラップ弁を元の場所へC10-0ナイロン糸にてC3糸縫合(Ce),9-0バイクリル糸にて結膜縫合し(Cf)終了した.図3術2日後前眼部所見毛様充血・角膜浮腫は認めず,前房深度も深くなっている(Ca:右眼,Cb:左眼).毛様体脈絡膜.離を認める(Cc:前眼部光干渉断層像矢印,右眼C3時方向).図4最終診察時前眼部所見(術18カ月後)両側の虹彩萎縮がみられる.角膜は浮腫を認めない.両眼虹彩上部に虹彩切除部(黄色点線)が確認できる(Ca:右眼,Cb:左眼).隅角はやや開大,周辺虹彩前癒着の範囲は鼻側中心に残存している(Cc:前眼部光干渉断層像,右眼C3時方向).やや開大(Sha.er分類でC0からC1へ開大),周辺虹彩前癒着の範囲は全周から縮小したものの鼻側中心C90°程度残存した.角膜は経過観察中透明性を維持していたが,FECDで多く観察される滴状病変(guttata)を接触型角膜内皮スペキュラーでは術後に確認できた.後日行ったヒト白血球型抗原(humanleukocyteCantigen:HLA)タイピング検査にてDR4,B51は陰性と判明した.術後C18カ月経過し,視力は右眼(1.0C×sph+4.5D),左眼(1.0C×sph+4.0D(cyl.1.75DAx65°)と良好である.CII考按両眼同時発症のCAPACGの報告には,各種脳神経作動薬による瞳孔散大作用やCVKHなどのぶどう膜炎による毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離などによる浅前房に続発する続発性APACGなどがある.ムスカリン受容体拮抗薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬,ゾルミトリプタン(zolmitriptan)などの偏頭痛薬,トピラマート(topiramate)の抗てんかん薬の使用後に急性閉塞隅角緑内障が両眼に同時発症することが報告されている1.7).上記の脳神経作動薬による瞳孔散大作用が誘因となり,虹彩と水晶体の間で房水流出抵抗が上昇することにより後房圧が上昇し,結果虹彩が前方に膨隆して隅角閉塞をきたす相対的瞳孔ブロックの状態となり急激な眼圧上昇をきたしCAPACGを発症する.しかし,今回の症例では,高脂血症薬の内服しかなく,既報にあるような誘因歴がないにもかかわらず,APACGを両眼同時発症したまれな症例と考える.光学的眼軸長検査では,両眼ともにC22Cmm未満であり眼軸長が短いのに加え加齢による水晶体の膨化が加わり,相対的瞳孔ブロックが引き起こされたと推測される.1996年にCKawanoらは浅前房を呈したCVKHのC2症例の前眼部をCUBMで観察し,通常の眼底検査では発見が困難な毛様体脈絡膜.離を両眼の全周に認め,さらに副腎皮質ステロイド全身療法により前房深度の改善と毛様体脈絡膜.離の消失を認めたことを報告し,VKH発病初期の浅前房は毛様体脈絡膜.離がおもな原因であると推測した12).今回の症例では,術前CUBMでは毛様体浮腫,毛様体脈絡膜.離は認めなかったこと,HLAタイピング検査にてCDR4陰性,B51陰性であったことを考慮して,ぶどう膜炎に続発するCAPACGは否定的であった.また,術後のCUBMにて発作時には認めなかった毛様体脈絡膜.離を約C1カ月程度認めた.赤木らは,開放隅角緑内障に対する線維柱帯切開術後の一過性毛様体脈絡膜.離が術後低眼圧と関係することを報告している13).本症例も術後の一過性毛様体機能不全により術後の一過性の低眼圧をきたし,副経路(経ぶどう膜強膜流出路)を介した房水流出が関与した可能性が高い.したがって,ぶどう膜炎による毛様体脈絡膜乖離とは異なっていると考えられた.APACG解除方法には,レーザー周辺虹彩切開術(laserperipheralCiridotomy:LPI),観血的周辺虹彩切除術および水晶体摘出が広く施行されているが,今回は両眼同時周辺虹彩切除術を選択した.瞳孔ブロックを原因とする緑内障に対して,周辺部虹彩を切除し前後房の間の圧差を解消する術式である14).LPIの普及により,観血的周辺虹彩切除術を施行することはまれとなった.しかし,LPI後に晩期に水疱性角膜症が生じ,角膜内皮移植が必要となる症例が数多くある15).LPIを選択しなかった理由としては,ピロカルピン頻回点眼およびC20%CD-マンニトール点滴などの保存的治療により緑内障発解除および眼圧下降が得られず角膜浮腫が存在したこと,角膜周辺の前房深度が極端に浅く角膜内皮との間にCLPIを行うための十分なスペースがなかったこと,過去にCFECDの診断歴があり角膜内皮細胞数のさらなる減少が危惧されたためである.観血的手術である周辺虹彩切除術を両眼同時に施行したが,合併症を生じず良好に経過した.本症例においては,術直後と比較し,視神経の明らかな乳頭陥凹は認めないものの,時間経過により緩やかな網膜神経節細胞複合体厚の菲薄化をきたした.筆者らは,術後C1年以上経過したCAPACG発症症例において,黄斑を中心とする直径C9Cmmの範囲での網膜神経節細胞複合体厚が僚眼と比較し菲薄化し,とくに鼻下側での菲薄化がもっとも顕著であることを過去に報告した16).本症例も同様の変化と考えられた.APACG後の視野変化は上方の欠損が生じることが多いとの報告17)があり,引き続き今後も注意深く経過を観察していく.眼科領域の救急疾患であるCAPACGは,通常片眼性に発症する.しかし,今回の症例のような既知の誘引がなくても両眼CAPACGを同時発症することがあり,注意を要する.文献1)RazeghinejadCMR,CMyersCJS,CKatzLJ:IatrogenicCglauco-masecondarytomedications.AmJMedC124:20-25,C20112)SeeJL,AquinoMC,AduanJetal:Managementofangle-closureglaucoma.IndianJOphthalmolC59(Suppl1):S82-S87,C20113)多田明日美,三浦聡子,植松聡ほか:抗CParkinson病治療薬内服により発症したと推測される両眼性急性閉塞隅角緑内障のC1症例.眼臨紀C9:5-10,C20164)HaddadCA,CArwaniCM,CSabbaghO:ACnovelCassociationCbetweenoxybutyninuseandbilateralacuteangleclosureglaucoma:ACcaseCreportCandCliteratureCreview.CCureusC10:e2732,C20185)LeeCJTL,CSkalickyCSE,CLinML:Drug-inducedCmyopiaCandCbilateralCangleCclosureCsecondaryCtoCzolmitriptan.CJGlaucomaC26:954-956,C20176)JoshiAK,PathakAH,PatwardhanSDetal:Ararecaseoftopiramateinducedsecondaryacuteangleclosureglau-coma.JClinDiagnResC11:ND01-ND03,C20177)ChengMA,TodorovA,Tempelho.Retal:Thee.ectofproneCpositioningConCintraocularCpressureCinCanesthetizedCpatients.AnesthesiologyC95:1351-1355,C20018)DayAC,BaioG,GazzardGetal:Theprevalenceofpri-maryangleclosureglaucomainEuropeanderivedpopula-tions.BrJOphthalmolC96:1162-1167,C20129)HillmanJS:Acuteclosed-angleCglaucoma:anCinvestiga-toinintothee.ectofdelayintreatment.BrJOphthalmolC63:817-821,C197910)BainWE.Thefelloweyeinacuteclosed-angleglaucoma.BrJOphthalmolC41:193-199,C195711)LoweRF.Acuteangle-closureglaucoma:Thesecondeye:CAnCanalysisCofC200CCases.CBrCJCOphthalmolC46:641-650,C196212)KawanoCY,CTawaraCA,CNishiokaCYCetal:UltrasoundCbio-microscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberCinCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC121:720-723,C199613)AkagiT,NakanoE,NakanishiHetal:Transientciliocho-roidaldetachmentafterabinternotrabeculotomyforopen-angleCglaucoma:ACprospectiveCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CJAMACOphthalmolC134:C304-311,C201614)谷原秀信,相原一,稲谷大ほか:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:53-56,C201815)OkumuraCN,CKusakabeCA,CKoizumiCNCetal:EndothelialCcellClossCandCgraftCsurvivalCafterCpenetratingCkeratoplastyCforClaserCiridotomy-inducedCbullousCkeratopathy.CJpnJOphthalmologyC62:438-442,C201816)福岡秀記,山中行人:急性原発閉塞隅角緑内障後眼の網膜神経節細胞複合体厚と僚眼との比較:眼科手術C28:280-284,C201517)BonomiL,Marra.aM,MarchiniGetal:PerimetricdefectsafterCaCsingleCacuteCangle-closureCglaucomaCattack.CGrae-fesArchClinExpOphthalmolC237:908-914,C1999***

急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):397.400,2013c急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較高井祐輔佐藤里奈久保田綾恵松原明久野崎実穂安川力小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学ComparativeStudyofPhacoemulsificationandAspirationorLaserIridotomyforAcutePrimaryAngleClosureGlaucomaYusukeTakai,RinaSato,AyaeKubota,AkihisaMatsubara,MihoNozaki,TsutomuYasukawaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences急性原発閉塞隅角症を含む急性原発閉塞隅角緑内障に対する初回治療として,超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)あるいは虹彩切開術を施行した症例について検討した.対象は,平成15年1月から平成20年7月までに当院を受診し,該当する21例23眼.内訳は,PEAを施行した群(PEA群)8例9眼,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行した群(LI/PI群)13例14眼であった.これらの症例において,年齢,術前術後の視力,術前および術後の最終眼圧,術後使用した眼圧下降薬数,眼軸長,手術までの日数,追加手術を必要とした症例数について,PEA群とLI/PI群で比較検討した.平均年齢はPEA群では74.9±8.1歳,LI/PI群では72.5±4.5歳であった.術後に使用した眼圧下降薬の本数,追加手術を必要とした症例数に関しては,ともにLI/PI群のほうが多く,有意な差を認めた(p<0.05).年齢,術前と術後の平均視力および眼圧,眼軸長,手術に至るまでの日数には有意な差を認めなかった.Weevaluatedthefirsttreatmentof23eyes(21patients)withacuteprimaryangleclosureoracuteprimaryangleclosureglaucomathatunderwentphacoemulsificationandaspiration(PEA)orlaseriridotomy(LI/PI)duringa5-yearperiod(PEAgroup:9eyes;LI/PIgroup:14eyes).Weanalyzedage,visualacuity,intraocularpressure,axiallength,dateofoperationandcasesundergoingadditionalsurgery.Averageagewas74.9±8.1yearsinthePEAgroupand72.5±4.5yearsintheLI/PIgroup.Thereweresignificantdifferencesbetweenthegroupsintermsofnumbersofeyedropsandcasesundergoingadditionalsurgery(p<0.05).Nocorrelationwasfoundwithage,visualacuity,intraocularpressure,axiallengthordateofoperation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):397.400,2013〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,超音波乳化吸引術,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術.acuteprimaryangleclosure,acuteprimaryangleclosureglaucoma,phacoemulsificationandaspiration,laseriridotomy,peripheraliridectomy.はじめに緑内障診療ガイドライン1)における急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)を含む急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangleclosureglaucoma:APACG)の治療方針は,まず薬物治療による処置後,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を,LIが不可能な場合は周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行するとなっている.しかし,近年ではLIを施行しても眼圧が下降しない症例に超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsificationandaspiration+intraocularlens:PEA+IOL)を施行したところ眼圧下降を得たという報告2)や,LIやPIを施行せずに,PEAを第一選択として施行し,眼圧下降を得たという報告もみられる3.5).さらに,LIを施行した群とPEAを施行した群での手術成績を比較したとこ〔別刷請求先〕高井祐輔:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YusukeTakai,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)397 ろ,PEA施行群のほうがLI施行群よりも眼圧下降にすぐれ,再手術例も少ないとの報告もある6,7).今回,筆者らは,当院でAPACあるいはAPACGと診断され,D-マンニトール(マンニットールR)点滴,アセタゾラミド(ダイアモックスR)内服,ピロカルピン塩酸塩(サンピロR)点眼の薬物治療を行った後に初回手術としてLIあるいはPIを施行した群とPEAを施行した群について,その治療効果をレトロスペクティブに比較検討したので報告する.I対象および方法平成15年1月から平成20年7月までに名古屋市立大学病院眼科を受診し,APACあるいはAPACGと診断された21例23眼(2例の両眼同時発症を含む)について検討した.男性4例,女性17例,平均年齢は73.4±6.1歳(63.87歳)であった.内訳は,PEAを施行した群(PEA群)8例9眼,LIまたはPIを施行した群(LI/PI群)13例14眼であった(表1,2).また,術者による偏りはみられたが,レトロスペクティブに検討したため,術式に関する明確な振り分け方はなかった.これらの症例において,年齢,術前術後の視力,術前および術後の最終眼圧,術後使用した眼圧下降薬数,眼軸長,手術までの日数,追加手術を必要とした症例数について,PEA群とLI/PI群で比較検討し(unpairedt-test),p<0.05をもって有意差ありとした.II結果比較検討項目を表3に示す.経過観察期間はPEA群では7.5±1.0カ月(0.5.42カ月),LI/PI群では22.2±1.5カ月(0.5.83カ月)と若干の違いはみられたものの,有意な差を認めなかった.平均年齢はPEA群では74.9±8.1歳(63.87歳),LI/PI群では72.5±4.5歳(64.80歳)で有意差はなかった.術前の平均logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はPEA群では0.56±0.64(.0.08.1.70),LI/PI群では1.39±1.04(0.22.2.70),術後の平均表1PEA群症例一覧症例年齢(歳)性別薬物治療後眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術式術後眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)術後使用薬剤数1右眼85女性3643PEA+IOL1211─2右眼69女性3464PEA+IOL1111─3右眼63男性2056PEA+IOL1915─4右眼71女性1738PEA+IOL1814─4左眼71女性1557PEA+IOL1412─5右眼72女性4042PEA+IOL+GSL911─6右眼78女性966PEA+IOL811─7左眼87女性N/A59PEA+IOL168─8左眼74女性N/A36PEA+IOL10152GSL:隅角癒着解離術,N/A:notavailable(データなし).表2LI/PI群症例一覧症例年齢(歳)性別薬物治療後眼圧(mmHg)術前眼圧(mmHg)術式術後眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)術後使用薬剤数追加手術1右眼72女性1557LI1515─2右眼79男性N/A40LI111113右眼75男性2455LI1529─4右眼80女性3055LI1213─5左眼73男性2854LI242416右眼69女性1442LI99─7右眼74女性N/A56LI4418左眼73女性N/A46LIN/A143ECCE+Vit+GSL+IOL(*1)毛様体光凝固術9左眼76女性1846PI18182PEA+IOL10左眼64女性N/A62PI41151PEA+IOL11右眼70女性2060LI1016─PEA+IOL11左眼70女性3160LI21132PEA+IOL12左眼70女性3053LI1110─ECCE(*2)13左眼67女性5868PI10101PEA+IOLECCE:水晶体.外摘出術,N/A:notavailable(データなし).*1:後.破損,水晶体亜脱臼を認めた.*2:毛様小体断裂を認めた.398あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(112) 表3PEA群とLI/PI群間の比較検討項目第一選択としてLIあるいはPIを施行していたが,PEAをPEA群LI/PI群p値施行した症例もみられた.観察期間(月)7.5±1.022.2±1.5NS今回の筆者らの結果においても,レトロスペクティブの検年齢(歳)74.9±8.172.5±4.5NS討ではあるが,術後に使用した眼圧下降薬の本数,追加手術術前視力(logMAR)0.56±0.641.39±1.04NSを必要とした症例数において有意な差を認め,眼圧下降には術後視力(logMAR)0.29±0.300.18±0.21NS24.4±12.027.1±14.1NSPEAのほうが有用であるとの結果を得た.薬物治療後(mmHg)術前眼圧(mmHg)51.2±11.553.9±7.9NS今回の検討において,LI/PI施行後にも,なお眼圧コント最終眼圧(mmHg)12.0±2.314.7±6.4NSロールが不良な症例が50%に認められた.これらは,隅角術後使用した眼圧下降0.2±0.70.9±0.90.048閉塞が残存しており,PEAが必要となった症例と考えられ薬数(本)眼軸長(mm)21.6±0.9021.8±1.07NSる.PEAは,水晶体の容積を減らし,瞳孔ブロックを解除手術までの日数4.6±5.31.8±2.0NSする他に,毛様突起の前方移動を改善させるため8),閉塞隅追加手術を必要とした070.0032角を解除するために有効であり9),著明な高眼圧をきたすよ眼数うな隅角閉塞をきたしている症例にはより適していると考えNS:notsignificant(有意差なし).られる.しかし,このような症例には,縮瞳薬やLI/PI術後の炎症による散瞳不良症例や,LI/PI後の術後の房水経路のlogMAR視力はPEA群では0.29±0.30(0.10.0.39),LI/PI変化による水晶体核硬化の急激な進行10)の他にも,水晶体群では0.18±0.21(.0.08.0.70)で,術前術後ともLI/PI亜脱臼,毛様小体断裂などを合併している例もあり,手術手群でやや不良であったが,統計学的有意差はみられなかっ技には注意を要する.一方で,急性緑内障発作後の初回手術た.初期の薬物治療後の眼圧はPEA群では24.4±12.0としてPEAをする際も,前房が非常に浅い,瞳孔ブロックmmHg(15.40mmHg),LI/PI群では27.1±14.1mmHgが残存し眼圧が高いため角膜混濁が強い,毛様小体の脆弱を(14.58mmHg),術前眼圧はPEA群では51.2±11.5認める,散瞳不良などの症例も多く,手術方法を選択するうmmHg(36.66mmHg),LI/PI群では53.9±7.9mmHg(40えで,術者の技量も十分考慮する必要がある..68mmHg),最終診察時における眼圧はPEA群では12.0また,LI後に角膜内皮細胞障害による水疱性角膜症11)の±2.3mmHg(8.15mmHg),LI/PI群では14.7±6.4mmHg発症が報告されており,初回手術にPEAを行うほうが,こ(4.29mmHg)で眼圧に関して有意差はなかった.眼軸長のような合併症を減らすことができる可能性が考えられる.はPEA群では21.6±0.90mm(20.47.22.90mm),LI/PI今回,角膜内皮細胞密度の経過を追うことはできなかった群では21.8±1.07mm(20.44.23.38mm),手術に至るまでが,急性緑内障発作によっても角膜内皮細胞密度は減少するの日数はPEA群では4.6±5.3日(0.14日),LI/PI群ではうえに,PEAを施行することによってさらに減少し,術後1.8±2.0日(0.6日)で,これらの項目も有意な差はみられの炎症も強いため12),一長一短があると思われ,今後角膜内なかった.PEA群,LI/PI群ともに術施行時の合併症はな皮細胞密度の長期経過については検討を要すると思われる.かった.術後に使用した眼圧下降薬の本数は,PEA群ではPI後の合併症には,白内障の進行や瞳孔領虹彩後癒着の発0.2±0.7本(0.2本),LI/PI群では0.9±0.9本(0.3本)で生がある.そのため,すでに白内障を認める場合は,PI同あり統計学的に有意な差を認めた(p<0.05).PEA群では様観血的な処置としてPEAを選択するほうがよいと考えら追加手術を必要とした症例は認められなかったのに対して,れることもある13).LI/PI群では7眼で追加手術を施行しており,有意な差を認今回の筆者らの検討では,APACあるいはAPACGに対めた(p<0.05).LI/PI群において14眼中7眼(50%)が術する初回手術として,PEAのほうが,LI/PIよりも眼圧下後の眼圧コントロール不良のため,追加でPEAあるいは水降には有用であるという結果であった.瞳孔ブロック解除を晶体.外摘出術を施行した.その際,合併症として,1眼に目的としたPEAにはいまだ賛否両論があるが,LI後に後.破損と水晶体亜脱臼,1眼に毛様小体断裂を認めた.PEAを施行された症例では,角膜内皮細胞密度は有意に減III考按少しているとの報告もあり14),近い将来に白内障手術を要する症例では,初回からPEAを選択したほうが侵襲も少なく,近年,APACあるいはAPACGに対する初回手術法とし適していると考えられた.てLIまたはPIと比較してPEAが有効であるという報告がみられるようになってきた2.7).当院においてもAPACある文献いはAPACGのうち,高眼圧による角膜浮腫で視認性が悪い症例や,極度の浅前房のため手術操作が困難な症例では,1)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障診療ガイドラ(113)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013399 イン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)YoonJY,HongYJ,KimCY:Cataractsurgeryinpatientswithacuteprimaryangle-closureglaucoma.KoreanJOphthalmol17:122-126,20033)家木良彰,三浦真二,鈴木美都子ほか:急性緑内障発作に対する初回手術としての超音波白内障手術成績.臨眼59:289-293,20054)ImaizumiM,TakakiY,YamashitaH:Phacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangleclosurenottreatedorpreviouslytreatedbylaseriridotomy.JCataractRefractSurg32:85-90,20065)SuWW,ChenPY,HsiaoCHetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteprimaryangle-closure.PLoSOne6:e20056,20116)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)LamDS,LeungDY,ThamCCetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20088)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,20069)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,200510)LimLS,HusainR,GazzardGetal:Cataractprogressionafterprophylacticlaserperipheraliridotomy:potentialimplicationsforthepreventionofglaucomablindness.Ophthalmology112:1355-1359,200511)森和彦:レーザー虹彩切開術と角膜障害.医学のあゆみ234:278-281,201012)西野和明,吉田富士子,齋藤三恵子ほか:超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障.あたらしい眼科26:689-697,200913)北澤克明,白土城照:緑内障手術の合併症とその対策周辺虹彩切除術,アルゴンレーザー虹彩切開術の合併症とその対策.眼科25:1423-1430,198314)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科28:553-557,2011***400あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(114)

Reverse Pupillary Block を合併した中心前房深度が深い閉塞隅角緑内障眼の1例

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)719《原著》あたらしい眼科28(5):719.722,2011cはじめにReversepupillaryblockとは瞳孔領を介する前房から後房に流れる房水抵抗が増加し虹彩が後方に突出し,周辺で虹彩がZinn小帯,毛様体を圧迫して閉塞隅角の状態を形成したものである.Karickhoff1)により仮説が提唱され,近年超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)により画像上でも立証されてきている2,3).色素性緑内障にみられることがあり,色素性緑内障の発症原因とも考えられている4,5)が,わが国での報告は少ない.治療法としてはレーザー周辺虹彩切開術(LPI)や濾過手術が報告されている.今回筆者らは,中心前房が深いために当初開放隅角緑内障と考えられ治療を受けていたreversepupillaryblockを合〔別刷請求先〕小倉拓:〒409-3898中央市下河東1110山梨大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuOgura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,Chuo,Yamanashi409-3898,JAPANReversePupillaryBlockを合併した中心前房深度が深い閉塞隅角緑内障眼の1例小倉拓*1間渕文彦*2柏木賢治*2*1飯田病院眼科*2山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座ACaseofAngle-ClosureGlaucomawithDeepAnteriorChamberComplicatedwithReversePupillaryBlockTakuOgura1),FumihikoMabuchi2)andKenjiKashiwagi2)1)DepartmentofOphthalmology,IidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,UniversityofYamanashi目的:中心前房深度が深いために当初開放隅角緑内障と考えていたがreversepupillaryblockを合併した閉塞隅角緑内障が原因と思われた1例を報告する.症例:63歳,男性.近医より右眼眼圧上昇に対する点眼治療の反応が不安定なため紹介となった.中心前房深度は両眼とも3.0mmと深く,transilluminationsign,Krukenbergspindle,前房内炎症は認めなかった.超音波生体顕微鏡検査にて,両眼とも上方隅角の周辺虹彩前癒着(PAS)と他部位の狭窄を認めた.PASの範囲は右眼のほうが広かった.虹彩は菲薄化し,特に右眼の虹彩は強い陥凹形状を示し水晶体と虹彩は広範囲で接し毛様体は前方に圧排されていた.レーザー周辺虹彩切開術は無効で水晶体摘出と隅角解離術を施行した結果,眼圧は正常化した.結論:Reversepupillaryblockを合併した閉塞隅角緑内障を経験した.水晶体摘出術ならびに隅角解離術も治療法として検討する必要がある.Purpose:Toreportacaseofangle-closureglaucomafirstthoughttobeopen-angleglaucomabecauseofthedeepanteriorchambercomplicatedreversepupillaryblock.Case:A63-year-old-malewasreferredtousforinstabilityofintraocularpressureinhisrighteye,despiteinstillationtherapy.Centralanteriorchamberdepthwas3mminbotheyes.Therewasnotransilluminationsign,noKrukenbergspindleandnoanteriorchamberinflammation.Ultrasoundbiomicroscopyconfirmedthepresenceofperipheralanteriorsynechiaintheupwardangleandstrictureoftheotherangle.Theiriswasthinand,intherighteye,shapedconvexitybelow.Theciliarybodywasnoteffective;intraocularpressurewasnormalizedbylensextractionandgoniosynechialysis.Conclusion:Weexperiencedacaseofangle-closureglaucomawithdeepanteriorchambercomplicatedwithreversepupillaryblock.Itisnecessaryconsiderlensextractionandgoniosynechialysisastreatmentinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):719.722,2011〕Keywords:reversepupillaryblock,中心前房深度,レーザー周辺虹彩切開術,周辺虹彩切除術,超音波生体顕微鏡.reversepupillaryblock,centralanteriorchamberdepth,laserperipheraliridotomy,peripheraliridectomy,ultrasoundbiomicroscope.720あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(118)併した閉塞隅角緑内障眼の1例を報告する.I症例63歳,男性.2008年6月右眼のかすみを自覚し近医を受診した.右眼の眼圧上昇を指摘され点眼薬による眼圧下降治療が行われたが,眼圧コントロールが不安定のため同年10月山梨大学附属病院へ紹介となった.現病歴,既往歴に特記すべきことはなく,ステロイドや塩酸タムスロシンの投薬歴はなく外傷の既往もなかった.初診時眼圧はトラボプロストを両眼1日1回,ニプラジロールを右眼1日2回使用して,両眼とも9mmHgであった.視力はVD=0.7(n.c.),VS=0.6(0.9×+1.5D)であった.右眼は軽度の緑内障性視神経障害を認めた(図1).両眼とも老人性白内障を認め,黄斑部に異常所見はなく,矯正視力の低下は白内障によるものと考えられた.TransilluminationsignとKrukenbergspindleは陰性で眼内炎症所見は認めなかった.瞳孔はroundで中心前房深度は両眼とも3.0mmと深かったが,上方の隅角にはSchlemm’scanalの高さに連続する周辺虹彩前癒着(PAS)左眼右眼図1両眼Humphrey30.2グレースケール右眼に緑内障性の視野変化を認める.左眼は正常範囲内.耳側上方下方鼻側図2右眼UBM所見右眼の虹彩が平坦か下に凸であることがわかる.また耳側から下方にかけて水晶体と虹彩が広く接触している.耳側上方下方鼻側図3左眼UBM所見上方隅角の閉塞を認める.他には大きな異常は認められない.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011721が右眼9時から1時,左眼11時から1時に認められた.他の部位の隅角の開放度はShaffer2程度で線維柱帯の色素沈着は中等度であった.閉塞隅角緑内障が疑われたために後日負荷試験を施行した.11月に施行されたうつ伏せ負荷試験では右眼28mmHgから35mmHg,左眼16mmHgから23mmHgと右眼で境界程度の眼圧上昇であった.12月に施行された散瞳負荷試験では右眼20mmHgから23mmHg,左眼17mmHgから16mmHgと陰性であった.その間も右眼の眼圧は安定せず10mmHgから30mmHgの間で変動を認めた.UBMにての観察では両眼とも上方隅角の器質的閉塞が疑われた.虹彩は菲薄化し,特に右眼の虹彩は陥凹を強く示し水晶体と虹彩は広く接触していた(図2,3).その後も経過中の右眼眼圧は変動が大きく時に40mmHgを超えた.閉塞隅角緑内障による眼圧上昇機序を考え,2009年3月LPIを右眼に対し施行した.角膜内皮細胞密度は右眼2,347/mm3,左眼2,445/mm3であった.六角形細胞比率は右眼44%,左眼48%で一部にdarkareaを認めた.UBMではLPI後の虹彩と水晶体の広い接触は軽度改善し,一旦眼圧は下降したが再度上昇した.LI孔の大きさ,位置ともに問題はなく,外科的治療が必要と判断したが,視神経障害が軽度であること,白内障による視力低下があることから,8月27日右眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+隅角解離術+周辺虹彩切除術(PEA+IOL+GSL+PI)を施行した.術後炎症がやや強く軽度の眼圧上昇を認めたものの,退院前には右眼眼圧は10mmHg前半となった.虹彩の後方への突出程度は軽減し眼内レンズと虹彩の広範囲な接触は認められていない.その後外来にて2010年12月24日まで経過観察を続けているが,眼圧は12~16mmHgにてコントロールされている.II考按今回筆者らが経験した症例はUBMの所見や,一旦閉塞が解除されるとしばらく正常眼圧が維持された経過などから,reversepupillaryblockを合併した閉塞隅角による眼圧上昇をきたしたと考えられた.Reversepupillaryblockは正常眼でも調節時にみられるほか,色素性緑内障に発症すると報告されている1,5)が,本症例では色素性緑内障に認められるtransilluminationsign,Krukenbergspindle,線維柱帯の強い色素沈着などの三主徴のうち,少なくともtransilluminationsignとKrukenbergspindleは認められず色素性緑内障とは確定できない.色素性緑内障はreversepupillaryblockに伴う虹彩裏面とZinn小帯の接触(irido-zonularcontact)や虹彩裏面と毛様体突起の接触(irido-ciliarycontact)による続発開放隅角緑内障であるとされている.Reversepupillaryblockでは一般的にPASは起こらないとされているが,今回の症例では他に続発性にPASを形成する因子は認められなかった.虹彩も薄く,薬剤歴はないものの,もともとfloppyirissyndrome様の所見があり,虹彩と水晶体の形状からreversepupillaryblockと診断されたものの眼圧上昇機序の中心は閉塞隅角によるものと思われた.これまでわが国ではreversepupillaryblockに閉塞隅角緑内障を合併した報告はみられない.Reversepupillaryblockの治療としてはLPIが選択されることが多いが,本症例では一過性に眼圧が改善したものの再上昇をすぐにきたしたためLPIの有用性に関しては疑問がある.実際reversepupillaryblockに対するLPIの長期有用性に関しては最近否定的な論文も散見される6).これはおそらく隅角閉塞機序による眼圧上昇だけではなく線維柱帯の流出障害もあるためと考えられる.しかしながら本症例ではLPIによっても水晶体と虹彩の接触が広く残っていたために閉塞隅角の解消には至らず眼圧が再上昇したものと考えられる.今回reversepupillaryblockの要因が考えられ虹彩形状が容易に変形する可能性もあったため,手術の際にPIを追加した.手術後は虹彩の陥凹形状が平坦化し,虹彩と水晶体の接触面が減少し,術後眼圧が安定した.本症例と鑑別を要する疾患としてはPosner-Schlossman症候群や他の続発緑内障があげられるが,既往や経過を通して角膜,隅角を含めた炎症性の変化など他の続発緑内障の存在を示す証拠を認めないことから否定的である.また,UBM所見よりプラトー虹彩症候群とも異なり,隅角所見は両眼とも同様であり外傷などによるものも考えにくい.さらに63歳と高齢で視神経障害も軽度のことから発達緑内障などの可能性は低いと考えられる.Reversepupillaryblockに対する治療としてはLPIや濾過手術の報告がある6~8).水晶体摘出術やGSLはみられないが,本症例ではreversepupillaryblockに対する治療法の一つとして水晶体摘出により濾過手術を行わずに眼圧コントロールを得ることができた.PAS範囲が少ないことから今回のGSLの有効性に関しては不明であるが,reversepupillaryblockが疑われる症例ではUBMなどを使用し,十分に眼圧上昇機序を検討した後,LPIや濾過手術のほかに水晶体摘出術も選択肢として検討する必要があると思われた.文献1)KarickhoffJR:Pigmentarydispersionsyndromeandpigmentaryglaucoma:anewmechanismconcept,anewtreatment,andanewtechnique.OphthalmicSurg23:269-277,19922)PotashSD,TelloC,LiebmannJetal:Ultrasoundbiomicroscopyinpigmentdispersionsyndrome.Ophthalmology101:332-339,19943)上田潤,沢口昭一,渡辺穣爾ほか:調節に伴う虹彩の後方湾曲色素散乱症候群の病態解明に向けて.日眼会誌722あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(120)101:187-191,19974)LaemmerR,MardinCY,JuenemannAG:Visualizationofchangesoftheirisconfigurationafterperipherallaseriridotomyinprimarymelanindispersionsyndromeusingopticalcoherencetomography.JGlaucoma17:569-570,20085)CampbellDG:Pigmentarydispersionandglaucoma.Anewtheory.ArchOphthalmol97:1667-1672,19796)ReistadCE,ShieldsMB,CampbellDGetal:Theinfluenceofperipheraliridotomyontheintraocularpressurecourseinpatientswithpigmentaryglaucoma.JGlaucoma14:255-259,20057)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)MigliazzoCV,ShafferRN,NykinRetal:Long-termanalysisofpigmentarydispersionsyndromeandpigmentaryglaucoma.Ophthalmology93:1528-1536,1986***

Blau 症候群同胞例の長期経過

2009年4月30日 木曜日

———————————————————————-Page1542あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(00)542(110)0910-1810/09/\100/頁/JCLS42回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科26(4):542546,2009cはじめにブラウ症候群(Blausyndrome)は家族性全身性肉芽腫性炎症であり,主として眼・関節・皮膚に病変を認める.1985年にBlau1)らが報告したまれな疾患で,ぶどう膜炎による失明,関節炎による関節拘縮が高頻度でみられ,予後不良な疾患である.わが国での報告は数家系のみであり25),眼科領域からの臨床報告はさらにまれである2,5).臨床病型は4歳以下で発症し,発疹・関節炎・ぶどう膜炎を3症状とする若年性サルコイドーシスと酷似しており,鑑別は家族集積の有無のみである3,4).多くの症例で当初は若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)として経過観察されやすく,本疾患は潜在的には多いことが予想される.ブラウ症候群は常染色体優性遺伝で,16番染色体(16p21-q21)に責任遺伝子が存在し,2001年にNOD2(nucleotideoligomerizationdomain2)遺伝子変異が報告された6).筆者らは,わが国で初めて,遺伝子検査にて確定診断に至ったブラウ症候群の一家系を報告した2).難治性ぶどう膜炎とされるが,長期経過に関する詳細な治療報告はほとんどない.今〔別刷請求先〕太田浩一:〒399-0781塩尻市広丘郷原1780松本歯科大学眼科Reprintrequests:KouichiOhta,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsumotoDentalUniversity,1780Gobara,Hirooka,Shiojiri399-0781,JAPANBlau症候群同胞例の長期経過太田浩一*1,2黒川徹*1今井弘毅*1朱さゆり*1菊池孝信*3*1信州大学医学部眼科学教室*2松本歯科大学眼科*3信州大学ヒト環境科学研究支援センターLong-TermFollow-upforSiblingswithBlauSyndromeKouichiOhta1,2),ToruKurokawa1),HirokiImai1),SayuriShu1)andTakanobuKikuchi3)1)DepartmentofOphthalmolgy,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MatsumotoDentalUniversity,3)DepartmentofInstrumentalAnalysisResearchCenterforHumanandEnvironmentalScience,ShinshuUniversityブラウ症候群(Blausyndrome)は発疹・関節炎・ぶどう膜炎を3主徴とする家族性全身性肉芽腫性疾患である.重症例では失明に至る.同胞例の長期経過につき報告する.症例1:10歳,男児.両眼に強い肉芽腫性ぶどう膜炎を認め,右眼はirisbombe,白内障により視力は右眼指数弁であった.右眼に白内障手術・周辺虹彩切除術および副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)パルス療法,漸減投与を行った.6年に至る現在,右眼視力(0.9)であるが,プレドニゾロン(PSL)10mg/日を要している.症例2:12歳,女児.前房炎症および硝子体混濁が出現し,PSL40mg/日から漸減投与.経過中,両眼のirisbombeが生じ,虹彩切除術を行った.以降,視力は維持されているが,PSL15mg/日以上を必要としている.ブラウ症候群では強い肉芽腫性ぶどう膜炎が継続するため,長期的なステロイド投与が必要であった.Blausyndromeisararefamilialgranulomatoussystemicdiseasecharacterizedbyskinrash,arthritisanduveitis.Somepatientsbecomeblindinseverecases.Wereporttwosiblingswiththisdisease.Theproband,a10-year-oldmale,hadseverepan-uveitisbilaterallyandirisbombeandcataractintherighteye.Cataractsurgeryandperipheraliridectomywereperformedontheeye,andcorticosteroidpulsetherapywasadministered,followedbyoralprednisolone(PSL).Thecorrectedvisualacuityoftherighteyeremainsat0.9after6years,althoughthepatientneedsPSL10mgdaily.Theproband’s12-year-oldsisteralsohadiritisandvitreousopacity.AlthoughoralPSL(startingat1mg/kgbodyweight)wasadministered,shelatersueredfromirisbombebilaterally.Peripheraliridectomywasperformed.Althoughhervisualacuitiesweremaintained,PSLover15mgdailyhasbeenrequired.Long-termadministrationoforalPSLwasrequiredforprolongedseveregranulomatousuveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(4):542546,2009〕Keywords:ブラウ症候群,ステロイド,irisbombe,周辺虹彩切除術.Blausyndrome,corticosteroid,irisbombe,peripheraliridectomy.———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009543(111)回,6年にわたり,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与を必要とした同胞例2)についてその後の経過を含めて報告する.I症例〔症例1〕10歳,男児.主訴:右眼痛および右眼視力低下.現病歴:6歳より,両眼の虹彩炎のため近医にて点眼治療を受けていた.母親は同時期より,手首の腫脹には気がついていた.2日前から主訴を自覚し,平成14年2月23日に近医を再診した.右眼眼圧上昇および虹彩炎の増悪がみられ,精査・加療目的に同年2月25日に信州大学医学部附属病院眼科に紹介.既往歴:上記以外は特になし.家族歴:父親;幼少期より関節変形.14歳で失明.46歳より歩行不能.母親;健康.初診時所見:初診時,視力は右眼指数弁(矯正不能),左眼0.6(矯正不能).眼圧は右眼38mmHg,左眼20mmHg.両眼に毛様充血,角膜実質点状混濁,角膜後面沈着物を認めた.両眼に全周性の虹彩後癒着を認め,右眼は著明な角膜浮腫を伴う浅前房(irisbombe)(図1A)であった.右眼の隅角は閉塞していたが,左眼は広隅角で,3カ所にテント状の周辺虹彩前癒着を認めた.明らかな虹彩結節はみられなかった.左眼前房には3+の炎症細胞を認めた(図1B).右眼に白内障は認めたが,硝子体,眼底の詳細は不明であった.左眼は軽度の硝子体混濁,周辺部網膜に黄白色点状病変を認めた.全身所見:血液・生化学検査では異常なし.血清アンギオテンシン変換酵素(ACE)は正常範囲.胸部X線写真では肺門リンパ節腫脹なし.頬部,前腕に紅斑が認められた2).手関節・足関節には軽度の腫脹を認め,手指関節は軽度の伸展障害も認めた2).経過:リン酸ベタメタゾン(0.1%リンデロンRA),マレイン酸チモロール(0.5%リズモンRTG),塩酸ドルゾラミド(1%トルソプトR),ブナゾシン塩酸塩(0.01%デタントールR),ラタノプロスト(キサラタンR),アトロピン硫酸塩(アトロピンR点眼液1%),トロピカミド・塩酸フェニレフリン(ミAB1初診時の前眼部写真A:右眼.角膜浮腫,角膜実質点状混濁,irisbombe,白内障を認める.B:左眼.角膜後面沈着物および虹彩後癒着を認める.図2右眼の眼底スリット写真(倒像)(白内障術後)視神経乳頭発赤と黄白色網脈絡膜点状病変を認める.———————————————————————-Page3544あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(112)ドリンRP)の点眼およびアセタゾラミド(ダイアモックスR)内服を開始した.眼所見に著明な改善はみられないため,ぶどう膜炎の消炎を目的に,小児科にて,翌日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン600mg/日を3日間)を開始した.炎症軽減は得られたが,右眼のirisbombeの改善は認められず,3月8日右眼超音波白内障手術+眼内レンズ挿入術+隅角癒着離術+周辺虹彩切除術を施行.同日よりパルス療法を行い,以降はプレドニゾロン(PSL)25mg/日より漸減投与とした.炎症の改善がみられたため,さらに漸減(PSL2.55mg/日)したところ再燃し,術後4カ月間に2回の増量(25および30mg/日)を必要とした.以降はPSL1520mg/日の隔日内服として,平成17年からは1015mg/日の連日内服にて炎症は軽度になっている.6年の経過となる平成20年3月の時点での総投与量はPSL換算26,245mgとなった.なお,平成16年6月には右眼の後発白内障切開術を行い,現在まで右眼視力0.2(0.9×6.0D),左眼視力1.0(矯正不能)が維持されている.しかし,両眼眼圧が1540mmHgと変動しており,4剤の眼圧下降薬の点眼に加え,3040mmHgに至る場合にアセタゾラミドを一時的に使用している.右眼は後発白内障,左眼は虹彩後癒着により,十分な眼底の観察が困難だが,視神経乳頭の明らかな陥凹(図2)やGoldmann視野検査上の緑内障性暗点拡大はみられていない.眼圧上昇の原因としてステロイド緑内障も疑われたが,低濃度のステロイド点眼薬に変更後も眼圧下降を得られず,高濃度ステロイド点眼薬をつけても10mmHg台後半の眼圧のこともあり,不明である.初診から6年経過した現在の前眼部写真を示す(図3).長期に及ぶステロイド薬の全身投与により,関節炎の増悪はなく,通常の学生生活を送っている.初期にみられた手関節の腫脹や発疹は消失している.なお,骨密度を含めたステロイド薬の副作用は小児科にて確認をしているが,明らかな副作用は認められない.経過中はステロイド薬内服による副作用の予防のため,フェモチジン(ガスターR),リセドロン酸ナトリウム(アクトネルR)〔初期はアルファカルシドール(アルファロールR)〕の内服を併用した.〔症例2〕12歳,女児(症例1の姉).主訴:自覚症状なし.既往歴:なし.初診時所見:初診時(平成14年3月)視力は右眼1.5(矯正不能),左眼1.5(2.0×0.5D).眼圧は右眼20mmHg,左眼18mmHg.両眼に軽度の睫毛内反症,びまん性表層角膜炎を認めた.両眼とも前房に炎症細胞は認めなかった.両眼とも広隅角で,左眼のみ,小さな周辺虹彩前癒着と虹彩後癒着を認めた.両眼とも水晶体は透明で,硝子体にわずかの細胞がみられた.右眼眼底周辺部に点状の網脈絡膜病変がみられた.全身所見:皮膚病変と関節病変を認めた2).経過:活動性が乏しく,経過観察としていたが,平成14年10月に左眼の霧視を自覚し,受診.両眼視力は矯正1.2にて,左眼に角膜裏面沈着物と前房炎症2+を認め,リン酸ACBD3症例1の現在の前眼部写真A:右眼.上方の虹彩切除部,眼内レンズ,後発白内障を認める.B:左眼.虹彩後癒着を認める.C:右眼.角膜実質点状混濁とわずかの角膜後面沈着物を認める.D:左眼.角膜実質点状混濁とわずかの角膜後面沈着物を認める.———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009545(113)ベタメタゾンナトリウム(リンデロンRA),トロピカミド・塩酸フェニレフリン(ミドリンRP),アトロピン硫酸塩(アトロピンR点眼液1%)点眼を開始した.しかし,反応が悪く,硝子体混濁が増悪したため,12月よりPSL40mg/日からの漸減投与を追加した.反応がよいことから,漸減したところ,再燃したため,PSL1520mg/日の隔日投与での維持とした.しばらく炎症は軽微であったが,平成16年3月に両眼の前房炎症が増悪したため,ステロイド点眼薬に加え,トロピカミド・塩酸フェニレフリン(ミドリンRP)を両眼に点眼していた.しかし,虹彩後癒着が進行し,左眼のirisbombeが生じた.3月26日に左眼に周辺虹彩切除術,さらには5月30日に右眼に周辺虹彩切除術を施行した.以降平成20年3月までの4年近くの間はPSL1020mg/日の連日内服として,増悪時に2530mg/日に増量(合計2回)し,消炎を目指した(総量;PSL換算20,130mg).この間も前房炎症が残存,ときに増悪した.右眼視力0.5(1.5×1.25D(cyl0.5DAx160°),左眼視力0.4(1.2×1.75D)を保っていたが,平成19年10月より,左眼視力は0.4(0.7×1.75D)(0.9×1.75D)と若干低下した.原因として,全周性の虹彩後癒着にて小瞳孔かつ水晶体前面への炎症産物の沈着が疑われた(図4).両眼の眼圧は1525mmHgと変動し,塩酸カルテオロール(2%ミケランR)の点眼を継続している.視神経乳頭所見およびGoldmann視野検査では明らかな緑内障性変化はみられていない.全身的には発疹および関節障害の進行はなく,ステロイド薬の長期内服による副作用は認めていない.経過中,症例1と同様のステロイド薬による副作用予防薬も投与した.平成20年3月進学のため,他院に紹介となった.なお,両症例とも皮膚生検にて肉芽腫性炎症所見を証明するとともに,末梢血からの遺伝子診断にてNOD2遺伝子変異(R334W)を確認し,父親の臨床経過と併せ,ブラウ症候群の確定診断に至った2).II考按ブラウ症候群はぶどう膜炎・関節炎・皮膚炎を3主徴とする遺伝性の疾患であるが,わが国における眼科からの報告がきわめて少ない2,5).臨床像が若年性サルコイドーシスと酷似しており,家族歴を聴取して遺伝の有無を確認しないと診断はつかないことが一因と考えられる.また,ぶどう膜炎も併発しうる若年性関節リウマチと診断されている症例も多く4),確定診断に至っていないだけで,日常診療のなかで本疾患に遭遇している可能性がある.本症例の臨床的な特徴となるぶどう膜炎・関節炎・皮膚炎であるが,進行性で,失明や関節拘縮に至る例がまれではない110).Kurokawaらが検討したところ,既報告76例中,ぶどう膜炎症状が61%(46例),関節症状が91%(69例),皮膚症状が54%(41例)であった2).若年性サルコイドーシスと併せた17例の検討では最初に皮膚病変,つぎに関節病変,最後に眼病変が出現することが多いとされている4).本ACBD4症例2の現在の前眼部写真A:右眼.上方の虹彩切除部,全周性虹彩後癒着を認める.B:左眼.上方の虹彩切除部,全周性虹彩後癒着を認める.C:右眼.前房炎症は軽微.D:左眼.前房炎症は軽微も,水晶体前面への沈着物が著明.———————————————————————-Page5546あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(114)症例でもぶどう膜炎にて眼科を受診した際にはすでに皮膚症状・関節症状を認めていた.ぶどう膜炎に関しては虹彩毛様体炎,虹彩後癒着,網脈絡膜炎の記載が多く,汎ぶどう膜炎を呈する.白内障および緑内障が合併しやすく,失明原因は緑内障のことが多い.本2症例も同様に白内障および緑内障を合併した汎ぶどう膜炎を認めた.症例1では角膜実質に点状の混濁がみられ,本疾患の特徴である可能性があり,今後の症例の蓄積に期待したい.病理学的には肉芽腫性炎症を呈し,本症例でも皮膚病変からは非乾酪性肉芽腫病変が証明された2).なお,症例1および症例2の虹彩切除術で得られた虹彩組織には明らかな巨細胞や類上皮細胞はみられなかった.病理学的には同様の肉芽腫性病変を呈するサルコイドーシス(成人)とは異なり,本疾患は進行性で予後が不良である.その理由の一つにCARD15(caspase-activatingandrecruitmentdomain15)/NOD2(nucleotide-bindingoligomerizationdomain2)遺伝子異常が考えられる.ブラウ症候群にみられるR334Wなどの遺伝子変異はNOD領域の異常で,リガンド非依存性にNF-kB活性を増強させる3,4).関連して,強い肉芽腫性炎症が生ずると推測されるが,詳細なメカニズムはまだ明らかにはなっていない.文献的にもステロイドの局所治療で改善をみない場合にステロイドの全身投与が行われている3,4,7,8).本症例では小児であり,ステロイドの全身投与から早期に離脱させるために,消炎傾向があった時点で,漸減・中止とした.しかし,再燃をきたし,PSL10mg/日の長期投与に至った.症例2ではさらに,ときに2530mg/日への増量が必要であった.ステロイドの無効例でのメトトレキサートの有効性9),およびメトトレキサート抵抗性の2症例における抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体治療の有効性10)などが報告されている.特に後者の有用性は高いと考えられるが,小児への長期投与の安全性が不明であり,医療費負担の問題もあり,現時点では導入していない.今後は選択肢として検討予定である.もう一つの問題は緑内障である.両症例ともirisbombeをきたしたことはブラウ症候群の強いぶどう膜炎を裏づけている.症例1では初診時より,症例2では炎症の増悪時より,散瞳薬の点眼を使用していたにもかかわらず,虹彩後癒着が進行した.これまで報告された失明例の多くは緑内障とされており,irisbombeに対する加療がうまくいっていなかった可能性がある.両症例に対し,速やかに周辺虹彩切除術を行ったことで,既報のような緑内障による失明が避けられたと考えられる.しかし,症例1ではときどき眼圧が上昇し,4剤の眼圧下降薬を必要としている.現在は明らかな視野障害に至っておらず,濾過胞感染のリスクや日常生活に制限が加わる線維柱帯切除術を施行していないが,将来的には必要となる可能性が高い.なお,ぶどう膜炎のコントロールのために長期にわたり,投与しているステロイド薬は関節病変にも好影響を与えている.両症例とも初診時に認められた手関節の腫脹は消失し,明らかな関節拘縮はなく,学校生活における運動も行えている.成長期に大量のステロイド薬の全身投与を必要としたが,骨粗鬆症など重篤な全身性の副作用は生じなかったことが幸いである.難治性ぶどう膜炎を呈するブラウ症候群同胞例の長期経過を報告した.続発緑内障を伴う強い肉芽腫性ぶどう膜炎が続くことが確認された.抗炎症のため,PSL1015mg/日のステロイド薬の全身投与が6年にわたって必要であった.外科的治療を含めた緑内障の治療も必要であった.小児において難治性の肉芽腫性ぶどう膜炎を診たら本疾患を鑑別にあげ,関節症状・皮膚症状に加え,家族歴を聴取することが診断には不可欠と考えられた.長期的にステロイド薬を全身投与する必要があることを十分理解のうえ,治療にあたる必要がある.文献1)BlauEB:Familialgranulomatousarthritis,iritis,andrash.JPediatr107:689-693,19852)KurokawaT,KikuchiT,OhtaTetal:Ocularmanifesta-tionsinBlausyndromeassociatedwithaCARD15/Nod2mutation.Ophthalmology110:2040-2044,20033)金澤伸雄:若年性サルコイドーシスとNOD2遺伝子変異.日小皮会誌25:47-51,20064)岡藤郁夫,西小森隆太:小児医学最近の進歩.若年性サルコイドーシスの臨床像と遺伝子解析.小児科48:45-51,20075)小豆澤宏明,壽順久,室田浩之ほか:Blausyndromeの母子例.日皮会誌115:2272-2275,20056)Miceli-RichardC,LesageS,RybojadMetal:CARD15mutationsinBlausyndrome.NatGenet29:19-20,20017)PastoresGM,MichelsVV,SticklerGBetal:Autosomaldominantgranulomatousarthritis,uveitis,skinrash,andsynovialcysts.JPediatr117:403-408,19908)ScerriL,CookLJ,JenkinsEAetal:Familialjuvenilesys-temicgranulomatosis(Blau’ssyndrome).ClinExpDerma-tol21:445-448,19969)LatkanyPA,JabsDA,SmithJRetal:Multifocalchoroidi-tisinpatientswithfamilialjuvenilesystemicgranulomato-sis.AmJOphthalmol134:897-904,200210)MilmanN,AndersenCB,vanOvereemHansenTetal:FavourableeectofTNF-alphainhibitor(iniximab)onBlausyndromeinmonozygotictwinsadenovoCARD15mutations.APMIS114:912-919,2006