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術後囊内残存粘弾性物質と前囊収縮・後発白内障

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):277.280,2014c術後.内残存粘弾性物質と前.収縮・後発白内障松島博之向井公一郎勝木陽子綿引聡寺内渉永田万由美後藤憲仁青瀬雅資妹尾正獨協医科大学眼科学教室EffectofRemnantOphthalmicViscoelasticDeviceonAnteriorCapsuleContractionandPosteriorCapsularOpacificationHiroyukiMatsushima,KoichiroMukai,YokoKatsuki,SatoshiWatabiki,WataruTerauchi,MayumiNagata,NorihitoGotoh,MasamotoAoseandTadashiSenooDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity白内障手術後.内に残存した粘弾性物質が,前.収縮,後発白内障の発生に関与するか実験的に検討した.日本白色家兎を5羽用意し,全身麻酔後白内障手術を施行した.片眼は粘弾性物質を使用して.内に眼内レンズ(IOL)を挿入後,I/Aを使用して粘弾性物質を完全に吸引除去し,僚眼はIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像を撮影し,後発白内障は術後3週で眼球を摘出し組織学的に解析した.結果,粘弾性物質残存群では前.収縮と後発白内障が統計学的有意に進行した.前.収縮と後発白内障の抑制に術中粘弾性物質を十分に除去し,術後早期より水晶体.とIOLの接着を進めることが重要である.Theaimofthisstudywastoexaminetheeffectsonanteriorcapsulecontractionandposteriorcapsularopacification(PCO)ofleavingtheophthalmicviscoelasticdevice(OVD)inthecapsule.Fivejapanesealbinorabbitswereprepared;aftertheindicationofgeneralanesthesia,phacoemulsificationandaspirationwereperformed.Inoneeye,anintraocularlens(IOL)wasimplantedandtheOVDwasaspirated;inthefelloweye,theOVDwasaspiratedfromtheanteriorchamberonly,notfromthecapsule.Tocompareanteriorcapsulecontraction,diaphanoscopicimagesoftheanterioreyeweretakenat1and3weeksaftersurgeryandquantified.Eyeswereremovedinpostoperativeweek3andhistologicallystudiedtoevaluatePCO.AnteriorcapsulecontractionandPCOhadprogressedsignificantlyintheremnantOVDgroupbypostoperativeweek3.OurresultssuggesttheimportanceofadhesionbetweenlenscapsuleandIOLininhibitinganteriorcapsulecontractionandPCO.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):277.280,2014〕Keywords:前.収縮,後発白内障,粘弾性物質,水晶体.,.屈曲.anteriorcapsulecontraction,posteriorcapsularopacification(PCO),ophthalmicviscoelasticdevice(OVD),lenscapsule,capsularbendformation.はじめに前.収縮,後発白内障は主要な白内障術後合併症である.光学部エッジ形状がシャープな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を水晶体.内に挿入すると,創傷治癒過程に水晶体.とIOLが接着し.屈曲を形成し,後発白内障の発生を抑制することが知られている1.4).また,水晶体.とIOLが早期に接着するようIOLの表面を改質すると,前.収縮と後発白内障の発生を抑制できる5.8).したがって,術後にIOLと水晶体.の接着を促し,術後早期に.屈曲を形成することが前.収縮と後発白内障発生抑制に重要であると考えられる.他方,白内障手術時に使用する粘弾性物質は,安全に手術を施行するために重要であるが,.内に満たされた粘弾性物質をすべて除去することは困難で術後水晶体.内に残存することがあり9),IOLと.の接着への影響が懸念される.今回,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残存させ,術後早期のIOLと水晶体.の接着を抑制したとき,前〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiMatsushima,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga,Tochigi321-0293,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)277 a:コントロール群b:.内粘弾性物質残存群図1実験方法概要a:右眼はIOLを.内に挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロールとした.b:左眼はビスコートRを.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内の粘弾性物質は残存させた.ab図2前.切開窓面積解析(a)と後発白内障解析(b)a:前.収縮を定量化するために,眼内レンズ光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した.b:後発白内障の定量には,組織切片を作製し,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測して平均値を算出し比較した..収縮と後発白内障の発生にどのように影響するか実験的に検証した.I方法日本白色家兎5羽(体重約2.5kg)を用意した.家兎実験に関しては,実験動物の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuideforontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisualResearch)に基づいて行った.家兎をケタラールR(塩酸ケタミン:三共)7対セラクタールR(キシラジン塩酸塩:バイエル)1混合液を体重1ml/kgの割合で大腿部に筋肉注射することで全身麻酔した.約5mmのcontinuouscircularcapsulorhexis(CCC)を行い,超音波乳化吸引術(UniversalII,Alcon)を施行し,インジェクターを使用して疎水性アクリルIOL(VA-60BBR,HOYA)を挿入した.片眼は粘弾性物質(オペガンハイR,参天)を使用して.内にIOLを挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロール群とした(図1a).僚眼は残存しやすいビスコートR(Alcon)10)を.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした(図1b).術後ステロイド,抗生物質,非ステロイド系消炎薬の点眼を実験経過中1日2回継続した.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像(EAS-1000,NIDEK)を撮影した.前.収縮を定量化するために,IOL光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2a).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.後発白内障の程度を組織学的に解析するため,術後3週で眼球を摘出し,カルノア固定(無水エタノール6,クロロホル3,酢酸1)後,パラフィン切片を作製した.組織切片を作製後,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色し,光学顕微鏡(OLYMPUS,BX-51)にて観察した.撮影した組織写真より,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測し,平均値を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2b).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.278あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(118) II結果術後前.収縮の結果を図3に示す.コントロール群の前.切開窓面積は術後1週,3週でそれぞれ13.3±2.9,15.7±4.9mm2に対して,.内粘弾性物質残存群ではそれぞれ14.6±4.0,7.3±5.2mm2であり,術後3週で.内粘弾性物質残存群において統計学的有意(p=0.050)に前.収縮が進行した.後発白内障の発生を比較した後.中央部の組織像を図4に示す.コントロール群と比べて後.・IOL接着抑制群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚していて,特に上段の2例で増殖が高度であった.後.中央部の組織厚を定量すると,コトインヒビション)となって後.側へ伸展しにくくなり,後発白内障の発生を抑制できると考えられている.また,.屈曲が生じる速度はIOLによって異なり,疎水性アクリルIOLとシリコーンIOLはPMMA-IOLに比べ.屈曲の形成が速やかに行われる11)ことも知られている.これは,臨床:コントロール群■:.内粘弾性物質残存群*p=0.0502520ントロール群では15.8±3.8μmに対し,.内粘弾性物質残存群では55.5±67.0μmであり統計学的有意(p=0.039)に後発白内障が発生した(図5).III考按前.収縮,後発白内障は現在も主要な白内障術後合併症として知られている.後発白内障の発生を抑制するために,IOL光学部エッジ形状をシャープにすることが重要で,術後水晶体.とIOL光学部エッジが接着すると,.屈曲とよばれる状態が形成される1,2)..屈曲が形成されると,残存した水晶体上皮細胞が増殖してもIOLエッジが障害(コンタク*前.切開窓面積(mm2)0図3前.切開窓面積の比較術後1週では両群に差はないが,術後3週で後.・IOL接着抑制群の前.切開窓面積が統計学的有意に小さく,前.収縮が生じている.1W3W15105200μm50μm200μm50μmコントロール群.内粘弾性物質残存群図4後.中央部の組織像上段が低倍率(Bar=200μm),下段が高倍率(Bar=50μm)の後.中央部組織像を示す.コントロール群と比べて.内粘弾性物質残存群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚している.特に上段の2例で細胞増殖が高度になっている.(119)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014279 *後.中央部の組織厚(μm)020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039として.接着以外にも粘弾性物質残存による炎症なども原因になりうるため,今後は粘弾性物質の種類や量による相違などさらなる解析が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし図5後発白内障の比較後.中央部の組織厚を比較すると.内粘弾性物質残存群のほうが統計学的有意に肥厚している.においてPMMA-IOLに比べ疎水性アクリルIOLやシリコーンIOLのYAGレーザーによる後.切開施行率が低いこと12)と一致しており,IOL光学部のエッジ形状だけでなく,IOL光学部材質による.屈曲の形成速度も後発白内障の発生に影響することがわかる..とIOLが接着するメカニズムについてLinnolaは白内障術後に水晶体上皮細胞を介してIOL後面と後.が接着すること13)を示している.過去に筆者らも,水晶体上皮細胞の接着性を向上させた表面改質IOLを使用すると水晶体.とIOLの接着性が向上し,後発白内障を抑制できること5.7)を示した.さらに,IOLと水晶体.の接着は後発白内障だけでなく前.収縮にも影響することがわかってきている.細胞接着性の低いIOLでは前.収縮が生じやすいデータもあり7,8),IOLが水晶体上皮細胞を介して水晶体.と接着することが前.収縮や後発白内障の抑制に重要であると考えられる.今回筆者らは,手術手技も.の接着に影響すると考えた.粘弾性物質は白内障手術に有効なデバイスであるが,IOL後面に残存した粘弾性物質を吸引除去することは煩雑な操作であり,術後に残存してしまうこともある.今回の実験的検討により,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残すと前.収縮と後発白内障が発生しやすくなることがわかった.組織学的に観察するとIOL後面に水晶体上皮細胞が増殖している様子がわかり,水晶体.内に残存した粘弾性物質により水晶体.とIOLの密着が物理的に妨げられ,水晶体上皮細胞の伸展・増殖が進んだと予測できる.また,後発白内障同様に前.収縮も同様の結果が得られ,術後早期の水晶体.とIOLの接着が後発白内障と前.収縮の抑制に重要であることがわかった.粘弾性物質を残存しても後発白内障の程度が少ない症例もあり,今後粘弾性物質の動態などを検証していく必要があるが,白内障術後合併症である前.収縮,後発白内障を抑制するために,術中に粘弾性物質を.内からできるだけ吸引除去することが必要であると思われた.発生原因280あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014文献1)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:comparisonofeffectsonposteriorcapsularopacification.JpnJOphthalmol40:397-403,19962)NishiO,NishiK:Preventingposteriorcapsuleopacificationbycreatingadiscontinuoussharpbendinthecapsule.JCataractRefractSurg25:521-526,19993)HayashiK,HayashiH,NakaoF:Changesinposteriorcapsuleopacificationafterpoly(methylmethacrylate),silicone,andacrylicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg27:817-824,20014)HollickEJ,SpaltonDJ,UrsellPGetal:Theeffectofpolymethylmethacrylate,silicone,andpolyacrylicintraocularlensesonposteriorcapsularopacification3yearsaftercataractsurgery.Ophthalmology106:49-55,19995)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Activeoxygenprocessingforacrylicintraocularlensestopreventposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg32:1035-1040,20066)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Preventionofposteriorcapsularopacificationusinground-edgedPMMAIOL.JCataractRefractSurg33:1133-1134,20077)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:PossibilityofpreventingposteriorcapsularopacificationandCCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)contractionbysurfacemodificationofintraocularlenses.ExpertRevMedDevices5:197-207,20088)NagataM,MatsushimaH,MukaiKetal:Comparisonofanteriorcontinuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)contractionbetween5foldableintraocularlensmodels.JCataractRefractSurg34:1495-1498,20089)松浦一貴,三好輝行,吉田博則:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,201310)枝美奈子,松島博之,寺内渉:各種粘弾性物質の前房内滞留性と角膜内皮保護作用.日眼会誌110:31-36,200511)NishiO,NishiK,AkuraJ:Speedofcapsularbendformationattheopticedgeofacrylic,silicone,andpoly(methylmethacrylate)lenses.JCataractRefractSurg28:431437,200212)ChengJW:Efficacyofdifferentintraocularlensmaterialsandopticedgedesignsinpreventingposteriorcapsularopacification:ameta-analysis.AmJOphthalmol143:428-436,200713)LinnolaRJ:Sandwichtheory:Bioactivity-basedexplantationforposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg23:1539-1542,1997(120)