1022(11あ8)たらしい眼科Vol.28,No.7,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1022?1024,2011cはじめにラタノプロストをはじめとするプロスタグランジン製剤は,ぶどう膜強膜流出路からの房水の排泄を促進することで眼圧を下降させ,1日1回点眼という利便性,全身副作用がほとんどみられないこと,さらに強力な眼圧下降効果から,現在,緑内障患者に第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン製剤の副作用として,結膜充血,虹彩や眼瞼の色素沈着,睫毛多毛のほか,前部ぶどう膜炎,?胞様黄斑浮腫(CME)などが今までに報告されている1?5).今回,筆者らは,ラタノプロストを点眼中の加齢黄斑変性の患者で,僚眼にCMEを認めた1症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕長谷川典生:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:NorioHasegawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN加齢黄斑変性の僚眼にみられたラタノプロストによる?胞様黄斑浮腫の1症例長谷川典生高瀬綾恵野崎実穂安川力小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Latanoprost-AssociatedCystoidMacularEdemaDetectedbyChanceinaFellowEyeduringExaminationforAge-RelatedMacularDegeneraionNorioHasegawa,AyaeTakase,MihoNozaki,TsutomuYasukawaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences緑内障治療薬であるプロスタグランジン製剤点眼の副作用として?胞様黄斑浮腫(CME)が知られている.今回,筆者らはラタノプロストを使用中の加齢黄斑変性の患者の僚眼に無症状のCMEを認めた症例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,緑内障を合併しており,10年以上ラタノプロスト点眼を継続していた.当院初診時に,光干渉断層計(OCT)検査および蛍光眼底造影で左眼ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.右眼にはCMEを認めた.経過観察中に右眼のCME悪化と漿液性網膜?離の併発を認めたため,ラタノプロストを中止したところ,CMEは消失した.今回,白内障術後数年が経過している症例であったが,ラタノプロストの点眼により自覚症状がなくCMEさらには漿液性網膜?離を発症している症例を経験した.プロスタグランジン製剤を点眼している症例では,慎重な経過観察が重要であり,非侵襲的なOCT検査が有用であると考えられた.Topicalprostaglandinanaloguesareknowntoinducecystoidmacularedema(CME)asasideeffect.Weexperiencedcaseoflatanoprost-associatedCMEthatwasdetectedduringexaminationforexudativeage-relatedmaculardegeneration.Thepatient,a71-year-oldman,presentedatourhospitalduetovisionlossinhislefteye.Hehasusedlatanoprostcontinuouslyoveraperiodof10yearsfortreatmentofglaucoma.Botheyesarepseudophakic.Therighteyehasundergoneposteriorcapsulotomy.Fluoresceinangiographyandopticalcoherencetomography(OCT)revealednotonlypolypoidalchoroidalvasculopathyinthelefteye,butalsoCMEintherighteye.Whileintravitrealranibizumabwasadministeredinthelefteye,CMEworsenedintherighteye.Latanoprostwasthereforediscontinued,andtheCMEresolved.ThiscasesuggeststhatprostaglandinanaloguesmightinduceasymptomaticCME.Carefulregularfundusobservationshouldbeperformedineyesusingprostaglandinanalogues.NoninvasiveOCTmaybeusefulindetectingasymptomaticCME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1022?1024,2011〕Keywords:プロスタグランジン製剤,ラタノプロスト,?胞様黄斑浮腫(CME),加齢黄斑変性,漿液性網膜?離.prostaglandinanalogue,latanoprost,cystoidmacularedema(CME),age-relatedmaculardegeneration,serousretinaldetachment.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111023I症例患者:71歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1999年から近医で両眼?性緑内障のため,点眼(チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト)で経過観察されていた.左眼の視力低下を自覚し,近医で左眼黄斑下出血を指摘され,2009年7月7日当院紹介受診となった.既往歴・家族歴:特になし.初診時所見:視力は右眼0.2(1.2×sph?2.00D(cyl?1.50DAx100°),左眼0.1(0.3×sph?1.00D(cyl?1.25DAx100°)で,眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHgであった.両眼とも眼内レンズ挿入眼(1995年両眼白内障手術)であり,右眼は後発白内障に対してYAG後?切開術後であった.視神経乳頭/陥凹比は右眼0.8,左眼は0.9であった.蛍光眼底造影および光干渉断層計(OCT)検査にて,左眼眼底には橙赤色隆起病変と網膜下の小出血,漿液性網膜?離を認め,滲出型加齢黄斑変性(ポリープ状脈絡膜血管症)と診断した.一方,自覚症状のない右眼眼底にはCMEを認めた(図1).経過:左眼滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射による治療を開始した.2009年11月10日,OCTで,右眼黄斑浮腫の増悪と中心窩下に漿液性網膜?離を併発したため,右眼のラタノプロスト点眼を中止したところ,黄斑浮腫,漿液性網膜?離の改善が認められた(図2).その後,2010年6月22日受診の時点で,右眼CMEの再燃は認められなかった.また,経過観察期間中にラタノプロスト中止に伴う眼圧上昇は認めず,右眼矯正視力は1.2?1.5と良好であった.II考按プロスタグランジン製剤によるCME発症のリスクファクターとしては,内眼手術後,後?破損の症例,無水晶体眼,ぶどう膜炎の既往のある症例,糖尿病網膜症のある症例などがあげられている6).今回の症例は,白内障手術が数年前に施行してあり,CMEを発症した眼では白内障手術の合併症はなかったが後発白内障に対して後?切開術が数年前に施行されていた.CMEを認めた右眼は,視力も良好で,患者の自覚症状もなかったが,滲出型加齢黄斑変性に対する蛍光眼底造影およ右眼左眼abc図1症例1の初診時所見a:眼底写真.b:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.c:OCT所見.右眼に?胞様黄斑浮腫および花弁状の蛍光貯留を認める.左眼には橙赤色隆起病変と網膜下小出血と漿液性網膜?離を認める.1024あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(120)びOCT検査で僚眼にCMEが見つかった症例である.このことから,ラタノプロストを初めとするプロスタグランジン製剤を長期点眼している症例では,患者が自覚することなく,黄斑浮腫を発症している可能性が示唆された.したがって,プロスタグランジン製剤を使用している症例,特に白内障手術後の症例では,手術合併症を認めなくても,術後経過年数によらず注意深い眼底の観察が必要であると考えられる.右眼は経過観察中にCMEの悪化に加え漿液性網膜?離の併発を認めた.滲出型加齢黄斑変性の僚眼であることから,漿液性網膜?離発生の成因として網膜色素上皮の加齢変化に伴う外側血液網膜関門の破綻の影響も否定できないが,Ozkanら7)が,ラタノプロスト点眼症例に,漿液性網膜?離のみを認め,ラタノプロストの中止により消失した症例を報告していることや,本症例の右眼には黄斑下に脈絡膜異常血管網や網膜色素上皮の不整を認めないことから,ラタノプロスト点眼の影響が示唆される.実際,ラタノプロスト点眼の中止により,CMEだけでなく漿液性網膜?離も消失した.本症例は両眼にラタノプロスト点眼されていたが,プロスタグランジン製剤の加齢黄斑変性への影響は今後の検討が必要である.白内障術後のCMEの発生にはプロスタグランジンの影響が考えられている3)が,白内障術後に加齢黄斑変性の増悪を認める症例をしばしば経験することや,眼内レンズ挿入眼で加齢黄斑変性の発症率が上昇する事実から8?10),プロスタグランジンが滲出型加齢黄斑変性の病態に関与している可能性も考えられる.実際,最近,滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射とプロスタグランジンの生成抑制作用をもつ非ステロイド性抗炎症薬であるブロムフェナク点眼薬(ブロナック点眼液R?:千寿製薬)を併用することにより,ラニビズマブの総投与数が減らせるかどうか国内でも無作為化二重盲検試験が実施されている.最近のOCTの普及により,自覚症状のない時点でも,網膜上膜,黄斑円孔,黄斑浮腫などの検出率が増加していると思われる.プロスタグランジン製剤によるCMEの発生率も,本症例のような無自覚のものを含めると以前の報告よりも頻度が高い可能性が予想される.プロスタグランジン製剤点眼中の緑内障患者のCMEの早期発見に無散瞳でも測定可能で非侵襲的なOCTによる黄斑部の観察が有用であると考えられた.文献1)WarmarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19982)RoweJA,HattenhauerMG,HermanDC:Adversesideeffectsassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol124:683-685,19973)MiyakeK,IbarakiM:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmol47:203-218,20024)AyyalaR,CruzD,MargoCetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprostinaphakicandpseudophakiceyes.AmJOphthalmol126:602-604,19985)CallananD,FellmanR,SavageJ:Latanoprost-associatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol126:134-135,19986)WandM,GaudioA:Cystoidmacularedemaassociatedwithocularhypotensivelipids.AmJOphthalmol133:403-405,20027)OzkanB,Karaba?VL,YukselNetal:Serousretinaldetachmentinthemacularelatedtolatanoprostuse.IntOphthalmol28:363-365,20078)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcataractandcataractsurgerywiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.ArchOphthalmol120:1551-1558,20029)FreemanEE,MunozB,WestSKetal:Isthereanassociationbetweencataractsurgeryandage-relatedmaculardegeneration?Datafromthreepopulation-basedstudies.AmJOphthalmol135:849-856,200310)CugatiS,MitchellP,RochtchinaEetal:Cataractsurgeryandthe10-yearincidenceofage-relatedmaculopathy:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology113:2020-2025,2006***図2症例1の右眼のOCT所見a:2009年11月10日,b:2010年6月22日(最終受診日).右眼CMEの増悪および中心窩下にわずかだが漿液性網膜?離を認めたため(a),ラタノプロスト点眼を中止したところ,改善した(b).ab