《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):506.509,2022c増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術石黒聖奈桑山創一郎野崎実穂森田裕小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalOutcomesofTube-ShuntSurgeryinCasesofProliferativeDiabeticRetinopathy-AssociatedNeovascularGlaucomaKiyonaIshiguro,SoichiroKuwayama,MihoNozaki,HiroshiMoritaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesC目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した緑内障チューブシャント手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:緑内障チューブシャント手術を施行しC12カ月以上経過を追えたC21例C23眼を対象とし,術前後の眼圧,点眼スコア,合併症を評価項目とした.結果:術後平均観察期間はC40.5±27.1カ月であった.術前平均眼圧はC27.8±10.6CmmHg,術後C12カ月平均眼圧はC14.6±4.9CmmHgと有意に低下(p<0.01)し,平均点眼スコアも術前C3.6±1.3,術後C1.6±1.7と有意に減少した(p<0.01).術後C1カ月以内の早期合併症は高眼圧(7眼),硝子体出血(4眼),脈絡膜.離(1眼),後期合併症は眼圧再上昇(5眼),硝子体出血(4眼)であった.結論:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheCoutcomesCofCtube-shuntCsurgeryCinCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy-associatedCneovascularglaucoma(NVG).CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC23CeyesCofC21CNVGpatientswhounderwenttube-shuntsurgeryfromDecember2012toJune2019,andwhowerefollowedformorethan12-monthspostoperative.Mainoutcomemeasuresincludedintraocularpressure(IOP),numberofglau-comaCmedicationsCused,CandCsurgicalCcomplications.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC40.5±27.1Cmonths.CMeanCIOPCdecreasedCfromC27.8±10.6CmmHgCtoC14.6±4.9CmmHg(p<0.05),CandCtheCnumberCofCglaucomaCmedica-tionsCusedCdecreasedCfromC3.6±1.3CtoC1.6±1.7(p<0.01).CComplicationsCobservedCwithinC1-monthCpostoperativeCwereChighIOP(n=7eyes),Cvitreoushemorrhage(n=4eyes),CandCchoroidaldetachment(n=1eye),CandCthoseCobservedCbetweenC1-andC12-monthsCpostoperativeCwereChighIOP(n=5eyes)andCvitreoushemorrhage(n=4eyes).CConclusion:Tube-shuntCsurgeryCwasCfoundCrelativelyCe.ectiveCforCIOPCreduction,CdecreaseCofCglaucomaCmedicationsused,andcontrolofIOPinNVGpatientsfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):506.509,C2022〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve,neovascularglaucoma,proliferativedia-beticretinopathy,postoperativecomplications,numberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障の閉塞隅角緑内障期には,従来,線維柱帯切除術が行われていたが,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,線維柱帯切除術の手術成績がとくに不良であることが知られている1).糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴として,比較的年齢が若く,硝子体手術をはじめとした手術既往を有している場合が多いため,線維柱帯切除術の術後の炎症や瘢痕形成に影響を与え,眼圧下降が得られにくいと考えられている2).わが国では,緑内障チューブシャント術がC2012年に保険〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Kawasumi1,Mizuho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC506(114)適用収載となり,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった場合や,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な場合,線維柱帯切除術の成功が見込めない場合,また他の濾過手術が技術的に施行困難な場合が適応とされている3).さらに,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の有効性も報告されている4,5).当院でもC2012年から血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント術を施行しており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI)の術後C6カ月における良好な眼圧下降効果を報告している6).今回,アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を加えC12カ月以上経過を追えた増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2012年C12月.2019年C6月に名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過を追えたC21例23眼(男性C15例,女性C6例,平均年齢C54.9C±12.4歳)について検討した.術前,術後の視力・眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)合併症について検討した.今回使用したCBGIは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manElbowをもつCBG102-350,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250である.術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で結紮していたが,術後低眼圧の症例がみられたことから,その後は3-0ナイロン糸をステントとして留置する方法に変更した.術前に炭酸脱水酵素阻害薬内服下でも眼圧がC20CmmHg以上の場合では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.AGVはプレート面積がC184CmmC2のCFP7を使用し,全例毛様体扁平部に留置した.既報5)に基づき手術成功率(生存率)をCKaplan-Meier法で解析した.生存(手術成功)の定義は既報5)と同様に,①視力が光覚弁以上,②眼圧がC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.II結果BGIを18例20眼,AGVを3例3眼に施行した.BGIは前房タイプがC2眼,毛様体扁平部留置タイプがC18眼であった.AGVはC3眼とも毛様体扁平部に留置した.前房タイプを挿入したC1例C2眼を除き,硝子体手術未施行眼には,硝子体手術を併用し,チューブを毛様体扁平部に留置した.治療歴として,汎網膜光凝固および白内障手術は全例で施行されており,硝子体手術はC17眼(BGIではC15眼,AGVではC2眼)に行われ,術前に血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が投与されていたのはC8眼(BGI5眼,AGV3眼)であった.BGIを施行されたC4眼で線維柱帯切除術の既往があり,うちC2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行であった.術後経過観察期間はC12.91カ月(40.5C±27.1カ月)であった.平均眼圧の推移は術前C27.8C±10.6CmmHg,1週間後C12.9±9.3CmmHg,1カ月後C14.5C±5.1CmmHg,3カ月後C14.9C±3.2CmmHg,12カ月後にはC14.6C±4.9CmmHgと,術前眼圧と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.01).また,最終受診時もC12.7C±4.7CmmHgと有意に低下していた(p<0.01)(図1).また,logMAR視力はC0.2以上の変化を改善あるいは悪化としたとき,改善C10眼(43.5%),不変C6眼(26.0%),悪化C7眼(30.5%)で,logMAR視力は術前C1.40C±0.88,最終受診時はC1.36C±1.18と有意差は認めなかった.しかしながら,光覚弁消失となった症例がC2眼あり,どちらも術後眼圧再上昇に対し毛様体レーザーを施行した症例であった.点眼スコアは,術前のC3.6C±1.3から最終受診時C1.6C±1.7と有意な減少を認めた(p<0.01)(図2).術後C1カ月以内の早期合併症は,高眼圧をC7眼に認めた.3眼は薬物治療を開始した(表1).2眼は術後にCSherwoodslitを追加し,さらにチューブ結紮糸を抜糸したが,うちC1眼はそれでも眼圧コントロールがつかず,最終的に光覚弁消失となった.1眼はCSherwoodslitを追加,1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.硝子体出血はC4眼でみられ,3眼で硝子体手術を行い,1眼は自然消退した.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられたが,脈絡膜.離は自然消退した.術後C1カ月以降の後期の合併症(表2)は,眼圧が再上昇しコントロール不良となったものがC5眼あった.3眼はMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除したが,1眼はそれでも眼圧下降が得られず硝子体手術を併用しCBGIを毛様体扁平部に挿入,もうC1眼も眼圧下降が得られず毛様体レーザーをC3回施行したが視力は光覚弁消失となった.MMC併用プレート周囲被膜切除を施行しなかったC2眼中C1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射および汎網膜光凝固の追加を行い,その後眼圧上昇は認めていな654平均眼圧(mmHg)点眼スコア3210100図2術前・術後での点眼スコア緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠図1術前・術後での平均眼圧の推移内服をC2点とした.点眼部は術前のC3.6から最終受診時の時点で術前最終受診時Wilcoxonsignedranktest,*p<0.01術前1週1カ月3カ月6カ月1年最終受診時平均眼圧は術前と比較してC1週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後,最終受診時の時点で有意に下降していた(p<0.01).表1術後早期合併症(術後1カ月以内)高眼圧7眼(C30%)硝子体出血4眼(C17%)脈絡膜.離を伴う低眼圧1眼(C4%)高眼圧を認めたC7眼のうち,3眼に薬物治療を開始し,2眼はCSherwoodslitを追加しチューブ結紮糸を抜糸した.1眼はCSherwoodslit追加した.1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.C1.01.6と有意な減少を認めた(p<0.01).表2術後後期合併症(術後1カ月以降)眼圧再上昇5眼(23%)硝子体出血4眼(17%)眼圧再上昇のC5眼のうち,3眼はCMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除.1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.硝子体出血のC4眼のうち,2眼は硝子体手術,1眼は硝子体手術とCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射のみを行った.CIII考按0.8生存率0.60.40.20.0月数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg036912今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過観察できたC23眼について後ろ向きに検討した.術後C1年の成功率はC78.9%であり,既報でもC1年後におけるCBGI手術の成功率C60.0%,AGV手術の成功率C90.0%と同様に良好な結果を得ている7).今回の検討では,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は,術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.術後後期の眼圧再上昇に対してCMMC併用のプレート周囲被膜切除術を行ったC3眼はすべてCBGI術後であり,うちC2眼は追加手術が必要となった.過去の報告でも,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇例に対しては,プレート被膜切除よりも追加手術を施行したほうがよいことが示唆されている8,9)ため,現在当院ではCMMC併用プレート周囲被膜切除術は行わず,緑内障インプラント追加や毛様体レーザー追加をする方針をとっている.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられ脈絡膜.離は自然消退したが,この症例は術中にチューブの結紮のみを行った症例であった.この症例を経験後,3-0ナイロン糸をステント未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものを生存とした.生存率は術後3カ月後で84.2%,6カ月後でC78.9%,12カ月後もC78.9%であった.い.また,硝子体出血はC4眼に認め,2眼は硝子体手術(うちC1眼はC3回施行),1眼は硝子体手術およびCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.術後C3カ月の生存率はC84.2%,術後C6カ月およびC1年の生存率はC78.9%であった(図3).としてチューブに挿入するようになり,術後の脈絡膜.離は出現しなかったことから,3-0ナイロン糸によるステント留置は術後早期の脈絡膜.離を防ぐのに有効と考えられる.本研究の限界として,21例C23眼と症例数が少ない点,使用した緑内障チューブシャントも,BGI20眼に対しCAGVがC3眼と偏りがある点,硝子体手術の既往や術前のCVEGF阻害薬使用が術後合併症に及ぼす影響を論じるには症例が少ない点があげられる.また,血管新生緑内障も,急激に血管新生を生じた活動性の高いタイプや,新生血管の活動性は低いが周辺虹彩前癒着が高度で眼圧の高いタイプなど,さまざまな違いがある.今後,活動性の同じ血管新生緑内障に対して,術前にCVEGF阻害薬を使用したCBGIおよびCAGV施行症例数を同程度そろえ,その術後成績を検討する必要があると考える.今回の研究からも,緑内障チューブシャント手術は,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し有効な術式と考えられた.今後も,術後の眼圧再上昇を防ぐ治療方針,合併症のより良い対処の確立が,緑内障チューブシャント手術の手術成績をさらに向上させると思われた.文献1)MeganCK,CChelseaCL,CRachaelCPCetal:AngiogenesisCinCglaucoma.ltrationsurgeryandneovascularglaucoma:Areview.SurvOpthalmolC60:524-535,C20152)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版,20184)ShenCCC,CSalimCS,CDuCHCetal:TrabeculectomyCversusCAhmedGlaucomaValveimplantationinneovascularglau-coma.ClinOphthalmolC5:281-286,C20115)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C20176)野崎祐加,富安胤太,野崎実穂ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績.あたらしい眼科35:140-143,C20187)SudaCM,CNakanishiCH,CAkagiCTCetal:BaerveldtCorCAhmedglaucomavalveimplantationwithparsplanatubeinsertionCinCJapaneseCeyesCwithCneovascularglaucoma:C1-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C20188)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C20109)ValimakiCJ,CUusitaloH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014***