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ブリンゾラミドからブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬 への変更1 年間の効果,安全性

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):439.443,2024cブリンゾラミドからブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更1年間の効果,安全性井上賢治*1朝比奈裕美*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSafetyandE.cacyOveraOne-YearPeriodafterSwitchingfromBrinzolamidetoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationKenjiInoue1),YumiAsahina1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合剤(BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに検討する.対象および方法:ブリンゾラミド点眼薬(BRZ)からCBBFCへ変更した緑内障,高眼圧症C128例を対象とした.変更前後の眼圧と視野を比較し,副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更前(15.4C±3.5CmmHg)より変更3,6,9,12カ月後(13.1C±2.7,13.8C±3.2,13.8C±3.8,13.7C±2.7CmmHg)に有意に下降した.視野のCMD値は変更前C.9.79±4.59CdBと変更C12カ月後.9.18±4.70CdBで同等だった.副作用はC34例(26.6%)で出現し,結膜炎C12例,眼瞼炎C7例などだった.中止例はC50例(39.1%)で,副作用C29例,薬剤追加変更C20例などだった.結論:BRZからCBBFCへの変更ではC1年間にわたり眼圧は下降し,視野は維持できたが,中止例も約C40%と多かった.CPurpose:ToCinvestigateCbothCsafetyCandCe.cacyCoverCaC1-yearCperiodCafterCswitchingCfromCbrinzolamide(BRZ)toCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC128CpatientswhowereswitchedfromBRZtoBBFC.Thecomparisonofintraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)valueatbeforeandatafterswitching,adversereactions,anddropoutswereinvestigated.Results:At3,6,9,and12monthsafterswitching,meanIOPhadsigni.cantlydecreasedto13.1±2.7,C13.8±3.2,C13.8±3.8,CandC13.7C±2.7CmmHg,Crespectively,CcomparedCtoCatbaseline(15.4C±3.5CmmHg)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMDCvalueCbetweenCthatCatbaseline(C.9.79±4.59dB)andCatCafterC12months(C.9.18±4.70dB)C.COfCtheCtotalC128Cpatients,adversereactionsoccurredin34(26.6%)C,i.e.,conjunctivitis(n=12patients),blepharitis(n=7patients),andother(n=15patients),and50patients(39.1%)discontinuedtheadministrationduetoadversereactions(n=29patients),switching/addingmedications(n=20patients),andother(n=1patient)C.Conclusions:AlthoughIOPdecreasedandvisualacuitywasmaintainedfor1-yearafterswitchingfromBRZtoBBFC,approximately40%ofthepatientsdiscontinuedtheadministration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(4):439.443,C2024〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,安全性,変更.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,safety,switching.Cはじめに緑内障治療における配合点眼薬は通常のC1成分の点眼薬よりも眼圧下降効果の面で,またC2剤併用よりもアドヒアランスの面で優れており,近年実臨床での使用が増加している1).日本で従来から使用可能な配合点眼薬はすべてにCb遮断薬が含有されており,全身性の副作用の問題からCb遮断薬が含有しない配合点眼薬の開発が望まれていた.ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬を配合したブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が海外ではC2013年より,日本でもC2020年C6月に使用可能となった.日本で実〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(73)C439表1患者背景項目症例128例性別男性67例,女性61例平均年齢C67.3±11.4歳(29.91歳)病型POAG84例CNTG43例COH1例変更前薬剤数C2.9±0.7剤(1.5剤)変更前点眼瓶数C2.3±0.6本(1.4本)変更前使用薬剤CPG/b配合点眼薬C66例(ブリンゾラミドPG点眼薬C29例との併用)CPG/b配合点眼薬+ROCK阻害薬C9例CPG/b配合点眼薬+a1遮断薬6例Cb遮断薬C3例PG点眼薬+b遮断薬C3例PG点眼薬+a1遮断薬+ROCK阻害薬C2例その他C10例変更前眼圧C15.4±3.5CmmHg(8.26mmHg)変更前CMD値C.9.79±4.59CdB(C.25.92.1.11CdB)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,OH:高眼圧症.施された治験においてもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている2,3).しかし,これらの治験2,3)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の投与期間はC4週間と短期だった.点眼薬の使用は長期に及ぶため,眼圧下降効果と安全性の評価では長期間の経過観察が理想である.上市後にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果と安全性については数多く報告されている4.8).しかし,これらの報告の経過観察期間は12週間4),3カ月間5),6カ月間6.8)で,長期ではない.海外ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の開放隅角緑内障,高眼圧症に対するC6カ月間9),正常眼圧緑内障に対するC18カ月間の眼圧下降効果と安全性の報告10)がある.国内でのブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の長期間の眼圧下降効果と安全性の報告はなく,不明である.筆者らはブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の変更C6カ月間の眼圧下降効果と安全性を評価した6).具体的にはブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例,ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例,ブリモニジン点眼薬からの変更症例を後ろ向きに調査した.今回ブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例を対象として,経過観察期間をC1年間に延長し,さらに症例数を増加して,その長期的な効果と安全性を評価した.20*******1816141215.4±3.510128例13.1±2.713.8±3.213.8±3.813.7±2.7118例97例70例67例648**p<0.0001,*p<0.00012(ANOVA,BonferroniandDunn検定)0図1変更前後の眼圧I対象および方法2020年C6月.2021年C6月に井上眼科病院に通院中で,ブリンゾラミド点眼薬を中止してCwashout期間なしでブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド配合点眼薬,1日C2回点眼)が新規に投与された原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障を含む),高眼圧症患者C128例C128眼を対象とした.男性C67例,女性C61例,平均年齢はC67.3C±11.4歳(平均±標準偏差,29.91歳だった)(表1).変更したブリンゾラミド点眼薬以外の緑内障点眼薬は継続とした.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更前と比べた変更C3,6,9,12カ月後の眼圧下降幅を調査した.変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査C30-2CSITAstandardのCmeandeviation(MD)値を調査し比較した.変更後の副作用と中止症例を調査した.変更前後の薬剤数と点眼瓶数を調査した.配合点眼薬は薬剤C2剤,点眼瓶数C1瓶として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は変更前眼圧が高いほうの眼,変更前眼圧が左右同値の症例では右眼を対象とした.眼圧変化の解析にはANOVA,BonferroniandDunn検定を用いた.MD値の比較にはCWilcoxonの符号順位検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保障した.CII結果薬剤数は変更前C2.9C±0.7剤,1.5剤,変更後C3.9C±0.7剤,2.6剤だった.点眼瓶数は変更前C2.3C±0.6本,1.4本,変更後C2.3C±0.6本,1.4本だった.眼圧は変更前C15.4C±3.5C眼圧(mmHg)表2副作用内訳症例数期間結膜炎/アレルギー性結膜炎C122週間後,C1カ月後,C3カ月後,C4カ月後,C5カ月後(C3例),C8カ月後,9カ月後,1C0カ月後(2例),1C1カ月後眼瞼炎C710日後,1カ月後,5カ月後(2例),6カ月後,1C1カ月後,1C2カ月後結膜充血C62カ月後,3カ月後(3例),6カ月後,1C0カ月後掻痒感C51カ月後,3カ月後,4カ月後,6カ月後,1C0カ月後刺激感C28カ月後,1C0カ月後眠気C21カ月後,7カ月後めまいC110日後眼痛C22週間後,3カ月後霧視C14カ月後重複あり表3中止症例内訳症例数副作用29例結膜炎C/アレルギー性結膜炎C10例,眼瞼炎C5例,結膜充血C4例,掻痒感C2例,刺激感C2例,めまいC1例,眼痛C1例,眼痛+結膜充血C1例,掻痒感+霧視C1例,結膜炎+眼瞼炎C1例,結膜充血+掻痒感1例薬剤追加変更20例眼圧上昇C9例,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C3例SLT施行1例SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術mmHg(平均C±標準偏差),8.26mmHg(128例),変更C3カ月後C13.1C±2.7CmmHg(118例),6カ月後C13.8C±3.2CmmHg(97例),9カ月後C13.8C±3.8mmHg(70例),12カ月後C13.7C±2.7mmHg(67例)で,変更3,6,9,12カ月後すべてで変更前に比べて有意に下降した(変更C3,6,9カ月後Cp<0.0001,変更C12カ月後Cp<0.001)(図1).眼圧下降幅は変更3カ月後C2.1C±2.2CmmHg,6カ月後C1.5C±2.7CmmHg,9カ月後C1.6C±3.1CmmHg,12カ月後C1.3C±2.5CmmHgだった.変更6カ月後に点状表層角膜炎を発症し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した症例と変更C8カ月後にリパスジル点眼薬のアレルギーでリパスジル点眼薬が中止となった症例は眼圧の解析から除外した.また,変更C6カ月後に転医した症例と変更8カ月後に白内障手術を施行した症例は眼圧の解析からは除外した.視野のCMD値は変更前C.9.79±4.59CdB,C.25.92.1.11dBだった.MD値は変更前と変更C12カ月後C.9.18±4.70CdB,C.19.86.C.0.33CdBで同等だった(p=0.8556).副作用はC34例(26.6%)で出現した(表2).内訳は結膜炎/アレルギー性結膜炎C12例(9.4%),眼瞼炎C7例(5.5%),結膜充血C6例(4.7%),掻痒感C5例(3.9%),刺激感C2例(1.6%),眠気C2例(1.6%)などだった(重複含む).重複した副作用は眼痛+結膜充血(変更C3カ月後),掻痒感+霧視(変更4カ月後),結膜炎+眼瞼炎(変更C5カ月後),結膜充血+掻痒感(変更C10カ月後)が各C1例だった.中止例はC50例(39.1%)だった(表3).中止の理由は,副作用C29例(22.7%)(結膜炎/アレルギー性結膜炎C10例,眼瞼炎C5例,結膜充血C4例,掻痒感C2例,刺激感C2例,めまい1例,眼痛C1例,眼痛+結膜充血C1例,掻痒感+霧視1例,結膜炎+眼瞼炎C1例,結膜充血+掻痒感C1例),薬剤追加や変更C20例(15.6%)(眼圧上昇C9例,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C3例),選択的レーザー線維柱帯形成術(selec-tivelasertrabeculoplasty:SLT)施行C1例(0.8%)だった.これらの副作用は点眼薬中止後に軽快,あるいは消失した.眼圧上昇C9例のうちC8例はリパスジル点眼薬,1例はブナゾシン点眼薬が各々追加された.視野障害進行C8例のうち,6例はリパスジル点眼薬が追加,1例はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬を中止してリパスジル点眼薬に変更,1例はレボブノロール点眼薬とラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更し,さらにリパスジル点眼薬が追加された.眼圧下降不十分C3例では,3例ともリパスジル点眼薬が追加された.CIII考按今回のブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更では,眼圧は変更後に有意に下降した.眼圧下降幅はC1.3.2.1mmHg,眼圧下降率はC6.7.12.9%だった.今回と同様の点眼薬変更を行った報告がある2,6,7,9,10).日本の第CIII相臨床試験では,眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅は3.7C±2.1mmHg,眼圧下降率はC18.1C±10.3%であった2).山田らのC2例C4眼での報告では変更C6カ月後の眼圧下降率はC22.9%だった7).海外での正常眼圧緑内障に対するブリンゾラミド点眼薬単剤からの変更では,眼圧は変更後C18カ月間にわたり有意に下降した10).その眼圧下降幅はC0.8.1.1CmmHg,眼圧下降率は4.9.6.8%であった.ブリンゾラミド点眼薬とCPG/Cb遮断配合点眼薬併用症例でブリンゾラミド点眼薬をブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更したC20例の眼圧下降幅は変更C1カ月後C4.0C±2.9CmmHg,3カ月後C4.5C±3.9CmmHg,6カ月後C4.8C±3.7CmmHgだった9).その眼圧下降率は変更C1カ月後C18.4%,3カ月後C20.7%,6カ月後C22.1%だった.今回の調査では日本の第CIII相臨床試験2)より眼圧下降は不良であったが,日本の第CIII相臨床試験では変更前眼圧がC20.7C±2.0CmmHg2)と高値だったため,また変更前の使用薬剤数が今回の調査がC2.9C±0.7剤と多剤併用であったためと考えられる.海外での正常眼圧緑内障に対するブリンゾラミド点眼薬単剤からの変更では,変更前眼圧はC13.4C±1.6CmmHg10)で,今回のほうがやや高値だった.そのため今回のほうが眼圧下降幅はやや良好だった.開放隅角緑内障,高眼圧症に対するブリンゾラミド点眼薬からの変更では,変更前眼圧はC21.7C±3.2CmmHg9)と今回の調査より高値だった.そのため眼圧下降幅(4.0.4.8CmmHg)は今回の調査より強力だったと考えられる.ただし,海外で使用されているブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬に含有されているブリモニジンは0.2%製剤で,日本のC0.1%製剤とは異なる.今回の調査では変更前と変更C12カ月後の平均CMD値に変化はなかった.しかし,視野障害進行により投与中止となった症例もC8例存在したので,変更後の視野変化には注意する必要がある.また,視野障害の進行についてはさらに長期の経過観察を行い評価すべきである.今回の調査での副作用はC34例(26.6%)に出現した.副作用の内訳は多岐にわたっていた.日本の第CIII相臨床試験のブリンゾラミド点眼薬からの変更では副作用はC8.8%に出現した2).その内訳は霧視C3.3%,点状角膜炎C2.7%などであった.今回のほうが副作用出現が多かったが,経過観察期間が1年間と長期だったためと考えられる.副作用はC34例で出現したがそのうちC29例(85.3%)で投与中止となった.また,筆者らは今回と同様の点眼薬変更についてC6カ月間の効果,安全性を報告した6)が,そのときの副作用出現はC18.3%だった.今回の調査で変更C6カ月後以降に出現した副作用は結膜炎/アレルギー性結膜炎C5例,眼瞼炎C2例,刺激感C2例,眠気C1例,結膜充血+掻痒感C1例だった.新たに成分として加わったブリモニジンによるアレルギー性結膜炎,眼瞼炎が長期投与した後に出現しやすいこと11)が関与していると考えられる.その他にもブリモニジン点眼薬に対するアレルギー反応はC2週間以内にC13.5%12),投与中止値C204.7日でC25.7%13),投与C1年でC15.7%14),2年でC27.1%14)と報告されている.すべての報告12.14)で点眼アレルギーの既往がリスク因子だった.変更C6カ月後以降もアレルギー反応を含めた副作用出現には注意する必要がある.また,投与時には点眼アレルギーの既往を確認したほうがよい.今回の中止症例はC39.1%であったが,日本の第CIII相臨床試験では,有害事象による中止例はなかった2,3).しかし,この臨床試験はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の投与期間がC4週間と短かったことが原因と考えられる.筆者らのC6カ月間の経過観察での中止症例はC16.3%だった6).さらに長期の経過観察を行った今回の症例では,副作用,眼圧上昇,視野障害進行による中止例が変更C6カ月以降にも多数出現しており,点眼後の注意深い経過観察は必要である.また,今回の症例は眼圧が目標眼圧に達していない,あるいは視野障害が進行した症例が含まれている.そのため点眼薬を変更しても眼圧が十分に下がらない,または上昇する症例や視野障害進行が抑えられない症例が存在し,中止症例となった可能性もある.中止症例ではリパスジル点眼薬が投与された症例が多かったが,ブリモニジン点眼薬とリパスジル点眼薬の使用により高い交差性から副作用が多く出現する可能性が高まる.しかし,多剤併用症例のため使用していない点眼薬が少なく,リパスジル点眼薬が使用されたと考える.今回の臨床研究の問題点として以下があげられる.一つめはブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更するあるいは変更後に中止する,あるいは他剤を追加する基準がなく,主治医の判断にまかされていた点である.二つめは各症例のアドヒアランスが明確でない点である.三つめは眼圧測定時間が症例ごとに異なるため,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の眼圧下降効果が正確に判定できなかった可能性がある.しかし,今回は後ろ向き研究であり,実際の臨床現場における状況をありのままに解析すればよいと考え,このような研究内容とした.今回,ブリンゾラミド点眼薬を中止してブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬に変更した症例のC1年間にわたる効果と安全性を調査した.この変更では点眼瓶数,1日の点眼回数は変化せずアドヒアランス維持が期待できる.眼圧は変更後に有意に下降し,視野のCMD値は変更前後で同等だった.副作用はC26.6%に出現したが,配合点眼薬の中止により改善したため重篤ではなかった.中止症例はC39.1%と多く,副作用出現や眼圧上昇などが理由であった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はブリンゾラミド点眼薬からの変更症例においてC1年間にわたり良好な眼圧下降効果と視野維持効果を示したが,副作用出現や中止例は多く,慎重な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InoueK,KomoriR,Kunimatsu-SanukiSetal:FrequencyofCuseCofC.xed-combinationCeyeCdropsCbyCpatientsCwithCglaucomaatmultipleprivatepracticesinJapan.ClinOph-thalmolC16:557-565,C20222)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C20203)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科C37:1289-1298,C20204)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfromCbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationofbrinzolamide1%andbrimonidine0.1%inglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20215)髙田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C20226)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-446,C20227)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C20228)丸山悠子,池田陽子,吉井健悟ほか:ブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討.あたらしい眼科C39:974-977,C20229)TekeliCO,CKoseHC:EvaluationCofCtheCuseCofCbrinzol-amide-brimonidineC.xedCcombinationCinCmaximumCmedi-caltherapy.TurkJOphthalmolC52:262-269,C202210)JinCSW,CLeeSM:TheCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationofbrinzolamide1%andbrimonidine0.2%innormalCtensionglaucoma:anC18-monthCretrospectiveCstudy.JOculPharmacolTherC34:274-279,C201811)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201212)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C200413)BlundeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C200214)永山幹夫,永山順子,本池庸一ほか:ブリモニジン点眼によるアレルギー性結膜炎発症の頻度と傾向.臨眼C70:C1135-1140,C2016C***

ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1085.1088,2023cブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過塩川美菜子*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyofSwitchingtoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationfromConcomitantUseMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに調査する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からCBBFCへ変更した原発開放隅角緑内障,高眼圧症C116例を対象とした.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を比較した.副作用と脱落例を調査した.結果:眼圧は変更前C14.3C±2.9CmmHg,変更3,6,9,12カ月後がC14.0C±3.1,C14.0±3.1,14.2C±3.2,14.1C±3.2CmmHgで維持された.MD値は変更前C.10.12±6.11CdB,12カ月後C.9.63±6.13CdBで同等だった.副作用はC8例(6.9%)で出現し,掻痒感,結膜充血などだった.脱落例はC32例(27.6%)あった.結論:BBFCは,1年間にわたり併用治療と同等の眼圧,視野を維持でき,安全性もほぼ良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheC1-yearCoutcomesCandCsafetyCofCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhypertension.PatientsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved116patientswithPOAGorocularhypertensionwhosetreatmentwasswitchedCfromCtheCconcomitantCuseCofCbrimonidineCandCbrinzolamideCtoCBBFC.CIntraocularpressure(IOP)andCmeandeviation(MD)IOPvaluesusingtheHumphreyvisual.eldtestprogramwerecomparedatbaselineanduptoC12CmonthsCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCalsoCinvestigated.CResults:IOPCwasCfoundCtoCbeCmaintainedat3,6,9,and12monthspostswitch(i.e.,14.0±3.1,C14.0±3.1,C14.2±3.2,CandC14.1±3.2CmmHg,respec-tively)comparedwithatbaseline(14.3C±2.9mmHg)C.TheMDIOPvalueatbaselineandat12monthspostswitchwere.10.12±6.11CdBand.9.63±6.13CdB,respectively,thusillustratingnosigni.cantdi.erencebetweenthetwo.In8(6.9%)ofthe116patients,adversereactionssuchasitching,conjunctivalhyperemia,andotherdidoccur,andin32(27.6%)ofthe116patients,administrationwasdiscontinued.Conclusion:BBFCe.ectivelymaintainedIOPandvisual.eldsequivalenttothoseofconcomitanttherapyovera1-yearperiod,andtheoverallsafetywassatis-factory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1085.1088,C2023〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,副作用,変更,長期.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,switching,long-term.CはじめにsiveCglaucomasurgery:MIGS),チューブシャント手術な緑内障は進行性,非可逆性の視神経症で,現在のところエどが普及してきているものの,緑内障の主たる治療が薬物治ビデンスのある唯一の治療は眼圧下降である1).近年,レー療であることは現時点では変わらない.内服薬であれば多剤ザー線維柱帯形成術や低侵襲緑内障手術(minimallyCinva-を一度に服用することが可能であるが,点眼薬の場合はC5分〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC以上の点眼間隔をあけなければならず,薬剤数が多いほど時間がかかり日常生活に大きな負担を強いることとなる.緑内障診療においては点眼治療の継続率が悪いことが課題である2)が,多剤併用症例では使用点眼薬剤数が増加するに従ってアドヒアランスが低下することも報告されている3).点眼指導,アドヒアランスの向上が疾患の進行抑制に重要であることが緑内障診療ガイドラインにも記されている1).アドヒアランス向上をめざして配合点眼薬が開発され,わが国では現在C9種類の配合点眼薬が使用可能となった.なかでもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)はC2020年C6月に発売されたCb遮断薬を含まない数少ない配合点眼薬の一つで,心疾患,慢性閉塞性呼吸器疾患,高齢者などCb遮断薬使用が禁忌または望ましくない患者への有用性が期待される.井上眼科病院(以下,当院)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬をC3.6カ月使用時の効果と安全性について検討し報告した4,5).今回はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後C1年間の眼圧下降効果と安全性を検討したので報告する.CI対象および方法対象は当院に通院中の原発開放隅角緑内障と高眼圧症で,2020年C6月.2021年C6月にC0.1%ブリモニジン点眼薬とC0.1%ブリンゾラミド点眼薬の併用治療からC0.1%ブリモニジン/0.1%ブリンゾラミド配合点眼薬に変更したC116例C116眼とした.方法はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用治療からCwashout期間を設けずにブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例について,診療録より後ろ向きに調査した.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化,変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査(30-2SITAstandardプログラム)のCmeandeviation値(MD値)の変化,副作用と脱落例を検討項目とした.眼圧については眼圧変化量をC2mmHg以上下降,2mmHg未満の変化,2mmHg以上上昇に分けた調査も行った.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化の解析にはCANOVAとCBonferroniCandDunn検定を用いた.変更前と変更C12カ月後のCMD値の比較にはCWil-coxonの符号順位検定を用いた.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認を得た.研究情報は院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果1.患者背景116例中,男性はC62例,女性はC54例,平均年齢はC65.5C±11.8歳(33.89歳)であった.病型は狭義原発開放隅角緑内障C96例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C3例であった.平均使用薬剤数はC4.3C±0.7剤(3.6剤)だった.配合剤はC2剤とカウントした.C2.眼圧変化眼圧変化を図1に示す.変更前平均眼圧はC14.3C±2.9mmHg,変更C3カ月後C14.0C±3.1CmmHg,6カ月後C14.0C±3.1mmHg,9カ月後C14.2C±3.2CmmHg,12カ月後C14.1C±3.2mmHgで,変化なく維持された.12カ月後の眼圧変化量は,変更前と比べてC2CmmHg以上下降C25例(29.4%),2CmmHg未満C37例(43.5%),2CmmHg以上上昇C23例(27.1%)だった(図2).2CmmHg未満C37例の内訳はC2CmmHg未満の上昇がC12例,不変C9例,2CmmHg未満の下降がC16例だった.C3.MD値MD値の変化を図3に示す.変更前CMD値はC.10.12±6.11dB,変更C12カ月後C.9.63±6.13CdBで変化はみられなかった(p=0.2895).C4.副作用・脱落副作用はC116例中C8例(6.9%)で出現した.内訳は掻痒感がC2例で変更C1カ月後,3カ月後に出現,結膜充血がC2例で変更C3カ月後,5カ月後に出現した.霧視が変更C3カ月後に,角膜障害が変更C4カ月後に,アレルギー性結膜炎が変更C6カ月後に,眼瞼炎が変更C9カ月後に各C1例出現した.8例中C6例は投与を中止した.中止により症状は改善した(表1).脱落はC116例中C32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇が9例,薬剤追加がC8例,副作用がC6例,併用薬による副作用がC5例,白内障手術がC2例,転院がC2例だった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はわが国で行われた臨床試験において良好な眼圧下降と安全性が報告された6,7).市販後のブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果については,当院だけでなく他施設からも報告されている8.10).短期的検討としてCOnoeらは,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更したC22例を対象に行った研究で,眼圧は変更前がC15.0C±4.1CmmHg,変更C3カ月後がC14.8CmmHgで同等で,3カ月後の角膜上皮障害の軽度の悪化がみられたものの結膜充血に変化はなかったと報告した8).高田らは併用治療から配合点眼薬へ変更したC33例を対象とし,眼圧は変更前がC13.5C±2.3CmmHg,変更C3カ月後がC12.9C±3.1CmmHgで有意差はなく,副作用はなかったと報告した9).当院で行20NS18162mmHg以上下降眼圧(mmHg)25例,29.4%121014.3±2.914.0±3.114.0±3.114.2±3.214.1±3.28n=116n=115n=99n=92n=85642n=850変更前変更変更変更変更3カ月後6カ月後9カ月後12カ月後図1変更前後の眼圧眼圧は変更前後で変化はなかった(NS).C図2変更12カ月後の眼圧変化量2CmmHg未満(3C7例)の内訳は,2CmmHg未満上昇12例,不変9例,C2CmmHg未満下降16例だった.0NS副作用表1変更後の副作用発現時期継続・中止MD値(dB)-53カ月後継続1例-10結膜充血2例3カ月後継続1例5カ月後中止1例霧視1例3カ月後中止-20変更前変更12カ月後角膜障害1例4カ月後中止図3変更前後のMD値アレルギー性結膜炎1例6カ月後中止MD値は変更前後で変化はみられなかった(p=眼瞼炎1例9カ月後中止-15-10.12±6.11(n=80)-9.63±6.13(n=52)0.2895).った併用治療から配合点眼薬への変更後C3カ月の調査でも,眼圧は変更前はC14.2C±3.0mmHg,変更C3カ月後はC14.9C±4.4CmmHgで変化はなかった4).長期的効果で山田らは併用治療から配合点眼薬に変更した8例C15眼を対象として,眼圧は変更前C12.9C±2.1CmmHg,変更C3カ月後C13.6C±2.3mmHg,変更C6カ月後C12.6C±1.7CmmHgで有意差はなく,副作用として霧視がC2例,眼瞼皮膚炎がC1例出現したと報告した10).当院ではC102例を対象にブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更C6カ月後の調査を行い,眼圧は変更前がC14.4C±3.0mmHg,変更C6カ月後がC13.9C±2.8CmmHgと同等,副作用はC7例,6.9%に出現し,結膜充血がC3例,掻痒感がC2例,霧視がC1例,アレルギー性結膜炎を伴う眼瞼炎がC1例あったと報告した5).今回はC1年間の調査でわが国における既報はないものの,3カ月,6カ月後と同様にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後も眼圧は変わらず維持され,併用治療と同等副作用はC8例(6.9%)で出現したが,6例は投与中止により症状が改善した.の効果を得られた.変更C12カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg以上下降がC29.4%,2CmmHg未満がC43.5%,2CmmHg以上上昇がC27.1%であった.併用治療よりも眼圧下降が得られた症例のなかには,点眼本数が減ったことにより点眼遵守が良好となった症例がある可能性が示唆された.一方,配合剤のデメリットとして,1剤の点眼忘れがC2成分の眼圧下降効果減少を招くことがあげられる.眼圧が上昇した症例のなかにはもともとアドヒアランスが不良で,点眼本数が減っても点眼遵守につながらなかった症例も含まれている可能性がある.今後は点眼状況の聴取などアドヒアランスに重点をおいた前向き調査も検討の必要があると考えた.MD値はC1年間では変更前後に変化はなかった.さらに長期的な経過観察が必要であるが,緑内障は疾患の性質上,治療により目標眼圧に達していても視野障害が悪化する症例は存在するため11),長期になるほど点眼薬との関連を考察することは困難となることも予想される.副作用はC8例(6.9%)に出現し,内訳は掻痒感,結膜充血,霧視,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎であった.わが国で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の臨床試験では,ブリモニジンからの変更で副作用の出現が12.9%6),ブリンゾラミドからの変更でC8.8%7),内訳はいずれも霧視,結膜充血,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼刺激などで,重篤な副作用はなかったと報告されている.当院で行ったC6カ月の調査における副作用の出現はC6.9%5)で,今回はC1年の調査であったが副作用の発現頻度の増加はなく内訳も既知のものだった.長期使用による新たな事象もみられず比較的安全に使用できる点眼薬であることが示唆された.脱落がC32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇,薬剤追加,副作用,併用薬による副作用,白内障手術,転院だった.眼圧上昇のC9例中C6例は他の薬剤を追加,3例は患者の希望によりブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻した.薬剤追加したC8例は眼圧に変化はないものの,さらなる眼圧下降を期待して他の点眼薬を追加していた.副作用による脱落6例はブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻し,ブリモニジンかブリンゾラミドを中止した症例だった.併用薬による副作用C5例は結膜充血,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎で併用していたリパスジルの副作用を疑い,リパスジルを中止した症例だった.配合点眼薬のデメリットとして含有する2成分のどちらの成分の副作用か不明になることがある.利便性やアドヒアランスの問題はあるものの,最初にブリモニジンとブリンゾラミド併用治療を行い,十分に効果と安全性を確認してから配合点眼薬へ変更するほうが患者の理解も得やすいかもしれない.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はC1年間にわたり併用治療と同等の眼圧下降効果が得られ安全性も良好で,とくにCb遮断薬の使用が望ましくない患者に対する緑内障治療に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20143)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20094)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-441,C20226)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20207)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20208)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfrombrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationCofbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CinCglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20219)高田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C202210)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C202211)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C1998***

広義原発開放隅角緑内障におけるカルテオロール/ラタノプロスト 配合点眼剤単独への変更による1 年間の長期眼圧下降効果

2022年6月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科39(6):830.834,2022c広義原発開放隅角緑内障におけるカルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤単独への変更による1年間の長期眼圧下降効果杉本識央白鳥宙中元兼二西尾侑祐飛田悠太朗中野優治山崎将志大石典子武田彩佳高野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室COne-YearClinicalE.cacyofCarteolol/LatanoprostFixedCombinationinPrimaryOpenAngleGlaucomaandNormalTensionGlaucomaShioSugimoto,NakaShiratori,KenjiNakamoto,YusukeNishio,YutaroTobita,YujiNakano,MasashiYamazaki,NorikoOhishi,AyakaTakeda,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC目的:広義原発開放隅角緑内障(POAG)におけるカルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤(以下,CAR/LAT)単独への変更によるC1年間の眼圧下降効果を後ろ向きに検討する.対象および方法:プロスタグランジン関連薬(以下,PG)単剤または異種のCPG/b遮断薬配合剤(以下,PG/b)単独からの切り替えで,CAR/LATを新規に処方した広義POAG患者のうち,緑内障手術歴のない連続C65例を対象とした.変更前と変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の眼圧をそれぞれ比較した.結果:PGからの変更では,眼圧(平均±標準偏差)は,変更前C14.9±3.2CmmHgに対して変更C12カ月後C12.8±2.1CmmHgで,変更前と比べて変更後のすべての時点で有意な眼圧下降を認めた(p<0.05).異種のCPG/bからの変更では,有意な変化はなかった(p=0.30).結論:広義CPOAGにおいて,PG単剤からCCAR/LATへの変更では,1年間有意な眼圧下降が得られ,また,異種のCPG/b単独からの変更では有意な眼圧変化はない.CPurpose:ToCinvestigateCtheClong-termCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.ectCofCswitchingCtoCcarteolol/Clatanoprost.xedcombination(CAR/LAT)onlyinpatientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)ornormaltensionglaucoma(NTG).Methods:Inthisretrospectivestudy,themedicalrecordsof65patients(65eyes)withPOAGorNTGwhowerenewlyprescribedCAR/LATafterswitchingfromprostaglandinanalogue(PG)orpros-taglandinanalogue/beta-blocker(PG/b)timolol.xedcombination.IOPwascomparedbetweenatbaselineandat1-,3-,6-,CandC12-monthsCpostCswitch.CResults:IOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCatC12-monthsCpostswitch(12.8±2.1mmHg)inCcomparisonCwithCthatCatCbeforeCswitchingCfromPG(14.9±3.2mmHg)(p<0.05).CHowever,CnoCsigni.cantdi.erenceinIOPwasfoundbetweenpreandpostswitchfromPG/b(p=0.30).CConclusion:IOPwassigni.cantlydecreasedafterswitchingfromPGtoCAR/LATandwasmaintainedafterswitchingfromPG/bfor1year.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):830.834,C2022〕Keywords:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤,眼圧,変更,原発開放隅角緑内障.carteolol/latanoprost.xedcombination,intraocularpressure,switching,primaryopenangleglaucoma.Cはじめに現在,緑内障治療における視野維持効果についてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降であり,薬物治療が第一選択となる1).開放隅角緑内障の薬物治療においては,プロスタグランジン関連薬(以下,PG)が眼圧下降効果と点眼回数,副作用の面で良好な忍容性により第一選択薬としてもっとも使用されており,続いてCb遮断薬も第一選択になりうるとされる1).単剤での効果が不十分であるときには併用療法を検討するが,併用療法の際には患者のアドヒアランスやCQOLも考慮すべきであるため,配合点眼の使用がすす〔別刷請求先〕杉本識央:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShioSugimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC830(134)められる1,2).カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼剤(以下,CAR/LAT)はCPGとCb遮断薬の配合点眼剤(以下,PG/Cb)の一つであり,また,Cb遮断薬としてカルテオロールを含有する唯一のCPG/Cbである.他のCPG/Cbに含有されるCb遮断薬であるチモロールと比較して,カルテオロールには眼表面の麻酔作用がほとんどないためにドライアイを生じにくく3),呼吸器系および循環器系の副作用を引き起こしにくい4,5)などのメリットがあり,実臨床において広く使用されているが,1年以上の眼圧下降効果に関する報告は少ない.そこで今回,広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)を対象に,CAR/LAT単独への変更によるC1年間の眼圧下降効果を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2017年C1月.2018年C12月に日本医科大学付属病院緑内障外来で,PG単独または異種のCPG/Cbからの切り替えでCAR/LATを新規に処方した広義CPOAG患者のうち,緑内障手術歴のない連続C65例を対象とし,カルテレビューにより後ろ向きに調査した.前投薬(PGまたは異種のCPG/Cb)からCCAR/LATに切り替えた際の,変更前の眼圧と,変更C1カ月後(C±1週間),3カ月後(C±1カ月),6カ月後(C±1カ月),12カ月後(C±1カ月)の眼圧をそれぞれ比較した.眼圧測定は全例CGoldmann圧平式眼圧計を用い,測定時間が同じ時間帯(C±2時間)の眼圧値を採用した.眼圧の比較は,全対象での検討,前投薬がCPGまたはCPG/Cbでの種類別の検討および前投薬がCPGの症例のなかで病型分類別の検討を行った.なお,前投薬からCCAR/LATへの切り替えの際,原則として夜点眼を指示した.解析はC1例C1眼とし,両眼点眼症例は,乱数表を用いて対象眼をランダムに選択した.眼圧比較には反復測定分散分析,HsuのCMCB検定を用いた.有意確率はCp<0.05(両側検定)とした.眼圧下降率は欠損値がある場合には当該症例を除いて計算した.副作用で脱落した症例はC4例で,脱落した時点で眼圧の解析からは除外した.なお,本研究は日本医科大学付属病院の倫理委員会で承認を得た(受付番号CR1-05-1135).CII結果対象はC65例C65眼で,患者背景を表1に示す.広義CPOAGにおいて,PG単剤からの変更例(n=40)では,CAR/LATへの変更前の眼圧C14.9C±3.2CmmHg(n=40)に対して,変更C1カ月後C12.9C±2.1CmmHg(n=21),3カ月後C13.2C±2.6CmmHg(n=36),6カ月後C13.1C±2.0CmmHg(n=35),12カ月後C12.8C±2.1CmmHg(n=32)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.2.1±2.1CmmHg(14.0%),C.1.9±2.8CmmHg(12.8%),.1.5±2.7CmmHg(10.3%),.1.9±3.1CmmHg(12.8%)であり,変更前と比較して変更後のすべての時点で眼圧は有意に下降していた(図1).PG単剤からの変更例のうち病型分類が狭義CPOAGの症例(n=17)では,CAR/LATへの変更前C17.6C±2.3CmmHg(n=17)に対して,変更C1カ月後C14.0C±2.1CmmHg(n=9),3カ月後C14.6C±2.5CmmHg(n=17),6カ月後C13.8C±2.1CmmHg(n=14),12カ月後C13.6C±1.7CmmHg(n=13)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.2.9±1.8CmmHg(17.2%),C.3.0±3.1CmmHg(17.1%),3.4C±2.6CmmHg(19.9%),.3.6C±3.3CmmHg(20.9%)であり,すべての時点において有意な眼圧下降効果を認めた(p<0.05).一方で,病型分類が正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)の症例での眼圧の推移は,CAR/LATへの変更前C12.8C±2.0CmmHg(n=23)に対して,変更C1カ月後C12.0C±2.4CmmHg(n=12)で,3カ月後C11.9C±2.1CmmHg(n=19),6カ月後C12.6C±1.8CmmHg(n=21),12カ月後C12.3C±2.2CmmHg(n=19)であり,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.1.6±2.4CmmHg(11.0%),C.1.0±2.2CmmHg(7.8%),.0.2±1.9CmmHg(2.3%),C.0.7±2.5CmmHg(5.3%)であり,変更C1カ月後の時点では眼圧は有意に下降していた(図2).広義CPOAGにおける異種のCPG/Cbからの変更例(n=25)では,CAR/LATへの変更前C14.5C±2.5CmmHg(n=25)に対して,変更C1カ月後C13.8C±2.9CmmHg(n=10),3カ月後C13.3±3.2CmmHg(n=22),6カ月後C13.4C±3.0CmmHg(n=23),12カ月後C14.4C±3.1CmmHg(n=20)で,変更前に対する変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後の平均眼圧変化値(下降率)はそれぞれC.0.3±2.1CmmHg(2.1%),.1.3C±2.6CmmHg(8.9%),.1.4±2.4CmmHg(9.5%),.0.7±2.3CmmHg(4.0%)であり,すべての時点で眼圧変化は有意ではなかったが(p=0.30),1年間にわたって同程度の眼圧下降効果を維持した(図3).中止・脱落した症例は,副作用があったC4例(6.2%)のみであった.その内訳は,変更後C1カ月までに喘鳴,眼瞼色素沈着,眼瞼炎がそれぞれC1例ずつ,変更C9カ月後に結膜充血がC1例あり,それぞれ投薬中止となった.喘鳴の症例はトラボプロストからの変更例であり,トラボプロストに戻したところ症状は消失した.眼瞼色素沈着の症例はラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更例であり,変更後C1カ月の時点で症状の進行の訴えがあり,ドルゾラミド/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へ変更したところ症状は軽快した.眼瞼炎の症例はラタノプロスト/チモロール表1患者背景(平均値±標準偏差)C2014.9±3.2***p<*0.05年齢C61.7±12.5歳C18*13.2±2.612.9±2.113.1±2.0眼圧(mmHg)男性/女性30例/35例病型原発開放隅角緑内障(狭義):20例108n=40n=21n=36n=35n=32正常眼圧緑内障:45例6前投薬PG:40例42平均偏差+標準偏差ラタノプロスト35眼タフルプロスト3眼トラポプロスト2眼CPG/b:25例ラタノプロスト・チモロール12眼タフルプロスト・チモロール10眼トラポプロスト・チモロール3眼CMDC.3.9±5.3CdB中心角膜厚C559.1±47.6CμmCPG:PG関連薬.PG/Cb:PG/Cb遮断薬.MD:Humphrey視野プログラム中心C30-2SITA-standardによる平均偏差0変更前1M3M6M12M図1広義POAGにおけるPG単剤からCAR/LATへの変更例の眼圧の推移広義CPOAGにおいてCCAR/LATに変更後,眼圧はすべての時点で変更前より有意に下降していた(反復測定分散分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05).CNS14.4±3.11816眼圧(mmHg)141210864*p<0.05(n=17)20181620眼圧(mmHg)141210図3異種のPG/bからCAR/LATへの変更例の眼圧の推移8CAR/LATに変更後,すべての時点で有意な眼圧変化はなく,1C64年間にわたって同程度の眼圧下降効果を維持した(反復測定分散C2分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05)C0図2PG単剤からCAR/LATへの変更例の病型分類別眼圧の変更は同程度の眼圧下降効果を維持した.変更前1M3M6M12M推移CAR/LATに変更後,NTG群では変更C1カ月後で,狭義CPOAG群ではすべての時点で,眼圧は変更前より有意に下降していた(反復測定分散分析およびCHsuのCMCB検定,p<0.05).マレイン酸塩配合点眼薬で,眼瞼炎がありCCAR/LATに変更した症例であり,変更後も症状継続したため,投薬中止したところ症状は消失した.結膜充血の症例はラタノプロストからの変更例であり,タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へ変更したところ症状は軽快した.CIII考按今回の研究では,広義CPOAGにおいてCPG単剤からCAR/LAT単独への変更はC1年間有意な眼圧下降が得られていた.NTGでは変更後C1カ月,狭義CPOAGではすべての時点で有意な眼圧下降があった.また,異種のCPG/CbからのPG単剤からCCAR/LATへの変更による眼圧下降効果に関する既報によると,広義CPOAG,高眼圧症を対象にした国内第CIII相試験6)ではラタノプロストからの変更前眼圧C20.1C±1.9CmmHgに対して眼圧下降幅は4週間後2.7C±0.2mmHg,8週間後C2.9CmmHgC±0.2CmmHgであった.中牟田らの広義POAG,続発緑内障を対象にした報告7)ではラタノプロストからの変更前眼圧C16.0C±2.8CmmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.5C±1.4CmmHg,3カ月後C2.5C±1.7CmmHg,松村らの広義CPOAGを対象にした報告8)ではラタノプロストからの変更前眼圧C15.9C±2.9CmmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.4±1.4mmHg,3カ月後C2.6C±1.7mmHg,6カ月後C2.3C±1.8CmmHg,12カ月後C2.3C±1.8CmmHgであった.本研究の広義CPOAGでの検討では,PG単剤からの変更で,変更前C14.9±3.2mmHgに対して眼圧下降幅はC1カ月後C2.1C±2.1mmHg,3カ月後C1.9C±2.8mmHg,6カ月後C1.5C±2.7mmHg,12カ月後C1.9C±3.1CmmHgであり,本研究の結果は既報に比(136)べやや眼圧下降が劣っていた.その原因として,まず既報と試験デザインおよび病型が異なることに加え,本研究では変更前眼圧が既報より低かったことが考えられる.また,本研究においても,NTGでは効果が弱いものの広義CPOAGとしては,その短期で得られた眼圧下降効果は変更C1年後まで維持されていた.このように,広義CPOAGにおいてCPG単剤からCCAR/LATへの変更は眼圧下降作用において少なくともC1年間にわたって有効といえる.ベースライン眼圧別のCCAR/LATの眼圧下降効果の検討に関して,国内第CIII相試験6)においてラタノプロストからの変更ではベースライン眼圧が高いほうが眼圧下降幅も大きかったことが報告されている.本研究においても,PG単剤からCCAR/LATへ変更後の病型分類別の眼圧下降幅は,狭義CPOAG(変更前C17.6C±2.3mmHg)では,変更C1カ月後2.9CmmHg,3カ月後C3.0CmmHg,6カ月後C3.4CmmHg,12カ月後C3.6CmmHgで,いずれも統計学的に有意な下降であったのに対し,NTG(変更前C12.8C±2.0CmmHg)では,変更C1カ月後C1.6mmHg,3カ月後C1.0mmHg,6カ月後C0.2mmHg,12カ月後C0.7CmmHgであり,変更C1カ月後を除き有意な下降はなかった.本研究のCNTG症例の変更前眼圧平均12.8CmmHgはかなり低い眼圧であるため,変更C1カ月後を除き有意な眼圧下降効果が得られなかった原因であると考えた.異種のCPG/CbからCCAR/LATへ変更による眼圧下降効果に関する既報は,髙田ら9)のトラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更でC3カ月後まで同等の眼圧下降効果であったとの報告,Inoueら10)のラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更でC3カ月後まで同等の眼圧下降効果であったとの報告などがある一方で,勝部ら11)のラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼薬からの変更C6カ月後に平均C1.6CmmHgの有意な眼圧下降を認めたという報告もある.本研究では異種CPG/Cbからの変更C1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後のすべての時点で変更前から有意な眼圧変化はなく,1年間にわたって同様の眼圧下降効果を維持した.本研究でのCCAR/LATの副作用は,喘鳴,眼瞼色素沈着,眼瞼炎,結膜充血がそれぞれC1例ずつで,副作用出現率は6.2%であり,国内第CIII相試験6)でのC6.8%とほぼ同等であった.喘鳴の症例はCb遮断薬であるカルテオロールによる副作用と考えられ,トラボプロストへ変更したところ症状は消失した.当該患者は処方前の問診で喘息の既往歴はなかった.山野ら12)は,カルテオロールを開始後の喘息症状の出現率は,既往に喘息がある症例でC61.9%,既往に喘息がない症例でC1.2%であったと報告しており,問診で喘息の既往歴が確認されない場合にもCb遮断薬の全身性副作用にはあらためて留意する必要がある.眼瞼色素沈着はラタノプロストの副作用と考えられ,眼瞼炎や結膜充血もそれぞれCCAR/LATの既知の副作用である.CAR/LATはカルテオロールとラタノプロストの配合点眼剤であるため,点眼回数やアドヒアランスの面でのメリットがある反面,使用時にはC2成分の副作用への注意が必要である.本研究におけるC1年間での脱落例はわずかC4例(6.2%)であり,CAR/LAT単独治療は高い継続率であった.本研究の限界は,後ろ向きな調査であるため,評価期間に眼圧が測定されていない欠測値が少なからずあることである.しかし,本研究は後ろ向きではあるものの連続症例での検討で,変更C1カ月後を除けばその他の測定時点ではC80%以上の症例数があった.また,中止・脱落症例はわずかC4例でいずれもCCAR/LATの副作用による中止で,眼圧下降効果が不良と判断されて中止となった症例はなかったことから,解析結果に大きな影響はなかったと考える.結論として,広義CPOAG患者において,PG単剤または異種のCPG/CbからCCAR/LAT単独治療への変更は,1年間有意な眼圧下降あるいは同程度の眼圧下降効果が得られ有用であった.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)Oltho.CCM,CSchoutenCJS,CvanCdeCBorneCBWCetal:Non-compliancewithocularhypotensivetreatmentinpatientswithCglaucomaCorCocularChypertensionCanCevidence-basedCreview.OphthalmologyC112:953-961,C20053)YabuuchiY,HashimotoK,NakagiriNetal:Antiarrhyth-micCpropertiesCofC5-(3-tert-butylamino-2-hydroxy)pro-poxy-3,4-dihydrocarbostyrilhydrochloride(OPC-1085)C,anewlysynthesized,potentbeta-adrenoreceptorantagonist.CClinExpPharmacolPhysiolC4:545-559,C19774)NetlandPA,WeissHS,StewartWCetal:Cardiovasculare.ectsoftopicalcarteololhydrochlorideandtimololmale-ateCinCpatientsCwithCocularChypertensionCandCprimaryCopen-angleCglaucoma.CNightCStudyCGroup.CAmCJCOphthal-molC123:465-477,C19975)佐野靖之,村上新也,工藤宏一郎:気管支喘息患者に及ぼすCb-遮断薬点眼薬の影響:CarteololとCTimololとの比較.現代医療C16:1259-1263,C19846)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteolol/latanoprostC.xedCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20167)中牟田爽史,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼液への変更.臨眼C73:729-735,C20198)松村理世,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与.あたらしい眼科C37:467-470,C20209)髙田幸尚,宮本武,岩西宏樹ほか:他剤配合点眼からカルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼薬へ変更後の角膜上皮障害の変化.臨眼C72:1579-1584,C2018モロールマレイン酸塩配合点眼液からカルテオロール塩酸10)InoueCK,CPiaoCH,CIwasaCMCetal:Short-termCe.cacyCand塩/ラタノプロスト配合点眼液への切替え効果.臨眼C73:CsafetyCofCswitchingCfromCaClatanoprost/timololC.xedCcom-777-785,C2019Cbinationtoalatanoprost/carteolol.xedcombination.Clin12)山野千春,小林秀之,古田英司ほか:ミケランCR(カルテオCOphthalmolC14:1207-1214,C2020ロール塩酸塩)点眼液使用患者の既往と喘息関連事象の発11)勝部志郎,添田尚一,大越貴志子ほか:ラタノプロスト/チ生に関する検討.あたらしい眼科C34:445-449,C2017***

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと 短期効果

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):226.229,2022cブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CExaminationofthePrescriptionsandShort-TermE.cacyofBrinzolamide/BrimonidineFixedCombinationEyeDropsforGlaucomaKenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)処方症例の特徴と短期効果を後向きに調査する.対象および方法:2020年C6.9月にCBBFCが新規に処方されたC138例の患者背景と処方パターンを調査した.変更症例では変更前後の眼圧を比較した.結果:原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,その他C18例だった.眼圧はC15.3±5.0CmmHg,使用薬剤数はC3.6±1.3剤だった.BBFC変更C121例,追加C4例,変更追加C13例だった.変更薬剤はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例,ブリンゾラミド点眼薬C29例などだった.眼圧はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例では変更前C14.2±3.0CmmHgと変更後C14.9±4.4CmmHgで同等だった.中止例はC14例(10.1%)で眼圧上昇C5例,掻痒感C3例などだった.結論:BBFC処方は同成分同士,含有薬剤からの変更が多かった.眼圧は同成分同士の変更では変化なく,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCpatientCcharacteristicsCandCshort-termCe.cacyCofCbrinzolamide/brimonidineC.xedcombination(BBFC)eyeCdropsCforCglaucoma.CSubjectsandmethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC138patientsnewlyprescribedwithBBFCinwhomintraocularpressure(IOP)beforeandafterswitchingwereinvesti-gatedandcompared.Results:Inthe138patients,thediagnosiswasprimaryopen-angleglaucomain85,normal-tensionglaucomain35,andotherin18.ThemeanIOPvaluewas15.3±5.0CmmHg,andthemeannumberofmedi-cationsCusedCwasC3.6±1.3.CPrescriptionCpatternsCwereswitching(121patients),adding(4patients),CandCadding/switching(13patients).CInCtheCswitchingCgroup,C62CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidineCandC29CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamideCalone.CInCtheCpatientsCwhoCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidine,CnoCsigni.cantCdi.erenceCofCmeanCIOPCwasCobservedCbetweenCpreCandpostCswitching(i.e.,C14.2±3.0CandC14.9±4.4CmmHg,Crespectively).CPostCadministration,C14patients(10.1%)wereCdiscontinued.CConclusions:BBFCCwasCusedasswitchingfromallorpartofthesameingredients.Therewasnosigni.cantdi.erenceinIOPpostswitch-ingbetweenthesameingredients,andthesafetywassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):226.229,C2022〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,処方パターン,眼圧,安全性,変更.brimonidine/brinzol-amide.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,safety,switching.Cはじめに低下が問題となる2).そこでアドヒアランス向上のために配緑内障点眼薬治療においてはアドヒアランス維持,向上が合点眼薬が開発された.わが国ではC2010年にラタノプロス重要である.アドヒアランス低下は緑内障性視野障害の進行ト/チモロール配合点眼薬が使用可能になり,2019年C12月に関与している1).また,多剤併用治療ではアドヒアランスまでにC7種類が上市された.このC7種類の配合点眼薬の特徴〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC226(94)は,すべての配合点眼薬にCb遮断点眼薬が配合されていることである.Cb遮断点眼薬の眼圧下降効果は強力である3).しかし,循環器系や呼吸器系の全身性副作用が出現することがあり,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者では使用禁忌である.そのためCb遮断点眼薬を配合しない配合点眼薬の開発が望まれていた.2020年C6月にブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬を配合したブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)が使用可能となり,日本で実施された治験において良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告された4,5).しかし,臨床現場でどのような患者にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された患者について,その処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2020年C6.9月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者C138例C138眼(男性70例,女性C68例)を対象とした.平均年齢はC68.2C±10.5歳(平均C±標準偏差)(33.87歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,続発緑内障14例(ぶどう膜炎C7例,落屑緑内障C6例,血管新生緑内障C1例),原発閉塞隅角緑内障C1例であった.投与前眼圧は投与時の眼圧,投与後眼圧は投与後初めての来院時,2.3C±0.9カ月後,1.4カ月後に測定した.投与前眼圧はC15.3C±5.0mmHg,8.43CmmHgであった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.変更群では変更した点眼薬を調査した.変更群ではブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬から変更した症例についてはおのおの投与前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.図1変更症例の変更前薬剤II結果全症例のうち追加群はC4例(2.9%),変更群はC121例(87.7%),変更追加群はC13例(9.4%)であった.追加群は正常眼圧緑内障C2例,原発開放隅角緑内障C1例,続発緑内障(血管新生緑内障)1例であった.追加前眼圧はC19.5C±9.7CmmHg(14.34CmmHg),追加後眼圧はC13.3C±4.7CmmHg(9.20CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.100).使用薬剤はなしがC3例,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がC1例であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C9例,正常眼圧緑内障C2例,続発緑内障(ぶどう膜炎)2例であった.変更追加前眼圧はC20.5C±9.6CmmHg(10.43CmmHg),変更追加後眼圧はC15.0C±3.7CmmHg(10.20CmmHg)で,眼圧は変更追加前後で同等であった(p=0.051).使用薬剤数はC3.0C±1.8剤であった.変更追加後の副作用はC1例(眼刺激)で出現した.中止症例は眼圧下降不十分C1例,眼刺激C1例,眼圧が下降したため追加C1カ月以内に中止C1例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例(51.2%)(以下,A群),ブリンゾラミド点眼薬C29例(24.0%)(以下,B群),ブリモニジン点眼薬C14例(11.6%)(以下,C群),その他C16例(13.2%)(以下,その他群)であった(図1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群C4.3C±0.8剤,B群C3.1C±0.8剤,C群C2.8C±0.9剤,その他群C3.5C±1.1剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C3.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本,変更後CA群C2.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C6.2C±1.2回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回,変更後CA群C4.2C±0.7回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回であった.薬剤変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.その他群の変更理由は,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C4例,アドヒアランス向上C3例,副作用発現A群(ブリモニジン点眼薬+B群(ブリンゾラミド点眼薬からの変更)30ブリンゾラミド点眼薬からの変更)**p<0.00013025252015105201510500C群(ブリモニジン点眼薬からの変更)NS30変更前変更後変更前変更後眼圧(mmHg)16.12514.420151050変更前変更後図2変更症例の眼圧変化(*p<0.05,対応のあるCt検定)(不整脈)1例であった.眼圧はCA群では変更前C14.2C±3.0mmHg,変更後C14.9C±4.4CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.119)(図2).B群では変更前C15.0C±3.6CmmHg,変更後C12.6C±2.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).C群では変更前C16.1±5.6CmmHg,変更後C14.4C±4.3CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.150).投与後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は変更追加群では眼刺激C1例,変更群ではCA群で掻痒感C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,掻痒感+結膜充血C1例,B群で掻痒感C2例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例であった.中止症例はC14例(10.1%)であった.その内訳は変更追加群で眼圧下降C1例,眼刺激C1例,眼圧下降不十分C1例,変更群ではCA群で眼圧上昇C3例,視力低下1例,掻痒感C1例,B群で掻痒感C1例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例,眼圧上昇C1例,その他群で眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したが,さまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告6)では,変更群がC93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった.ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告7)では,変更群がC85.1%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬C43.4%,Cb遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬C34.9%,Cb遮断点眼薬16.9%,炭酸脱水酵素阻害点眼薬C4.2%などであった.同成分同士の変更がブリモニジン/チモロール配合点眼薬C53.3%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(51.2%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.海外で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬とブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬併用の比較試験において眼圧下降は同等であった8).ただし海外のブリモニジン点眼薬の濃度はC0.2%で,日本のC0.1%製剤とは異なる.A群では平均使用薬剤数はC1剤,1日の平均点眼回数はC2.0回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.一方,今回のブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更後に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.7C±4.2mmHg,眼圧下降率はC7.6C±20.2%であった.日本で行われた治験では,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC3.7C±2.1CmmHg,眼圧下降率はC18.1±10.3%であった4).今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(C群)では眼圧は変更前後で同等だった.日本で行われた治験ではブリモニジン点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC2.9C±2.0CmmHg,眼圧下降率はC14.8C±10.3%であった5).今回の調査では日本で行われた治験5)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がC2.8C±0.9剤と多剤併用であったためと考えられる.また日本で行われた治験においても眼圧下降幅はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更した薬剤としてブリンゾラミド点眼薬症例(3.7C±2.1CmmHg)のほうがブリモニジン点眼薬症例(2.9C±2.0CmmHg)よりも大きかった.つまりブリモニジン点眼薬のほうがブリンゾラミド点眼薬よりも眼圧下降効果が強い可能性がある.メタアナリシスにおいても眼圧下降のピーク値はブリモニジン点眼薬(6.1CmmHg)はブリンゾラミド点眼薬(4.4mmHg)より強力であった9).今回変更後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は掻痒感C4例,眼刺激C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,めまいC1例,掻痒感+結膜充血C1例,掻痒感+眼瞼発赤1例であった.日本で行われたブリンゾラミド点眼薬からの変更の治験では副作用はC8.8%に出現した4).その内訳は霧眼C8.2%,点状角膜炎C2.7%,結膜充血C0.5%,眼脂C0.5%,眼の異物感C0.5%,眼刺激C0.5%,眼瞼炎C0.5%,眼乾燥C0.5%,硝子体浮遊物C0.5%などであった.日本で行われたブリモニジン点眼薬からの変更の治験では副作用はC12.9%に出現した5).その内訳は霧視C6.7%,眼刺激C2.8%,結膜充血C1.1%,眼の異常感C1.1%,結膜炎C1.1%,アレルギー性結膜炎0.6%,結膜浮腫C0.6%,眼脂C0.6%,点状角膜炎C0.6%などであった.副作用に関して今回調査と治験4,5)の結果を比較すると今回調査では掻痒感が多かったが,それ以外はほぼ同等だった.中止症例は今回はC10.1%であったが,治験では有害事象による中止症例はなかった4,5).今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に処方された患者を調査した.ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からの変更とブリモニジン点眼薬からの変更では投与後に眼圧に変化はなく,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では投与後に眼圧は有意に下降した.副作用はC8.0%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleglaucoma:Asystematicreviewandnetworkmeta-analy-sis.OphthalmologyC123:129-140,C20164)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C20205)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科C37:1289-1298,C20206)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C20217)井上賢治,藤本隆志,石田恭子ほか:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン.あたらしい眼科C32:C1218-1222,C20158)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20149)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:aCmeta-analysisCofCrandomizedCclinicalCtrials.COphthalmologyC112:1177-1185,C2005***

ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与

2020年4月30日 木曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(4):467.470,2020cラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与松村理世*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyandSafetyofSwitchingfromLatanoprostOphthalmicSolutiontoLatanoprost/CarteololFixedCombinationEyeDropsRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)の長期的効果と安全性を前向きに検討した.対象および方法:ラタノプロスト点眼薬(LAT)使用中の原発開放隅角緑内障(広義)25例C25眼を対象とした.LATを中止し,LCFCに変更した.変更前と変更1,3,6,12カ月後の眼圧,涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT),点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),充血,血圧,脈拍数を比較した.Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を変更前と変更6,12カ月後で比較した.副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更C12カ月後C14.0±1.8CmmHgで,変更前C15.9C±2.9CmmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001).BUT,SPK,MD値は変更前後で同等だった.血圧と脈拍数は変更後に有意に下降した.副作用はC2例(8.0%)出現し(圧迫感,霧視+流涙),投与中止となった.結論:LATからCLCFCへの変更により,12カ月間にわたり眼圧は下降し,視野を維持した.血圧と脈拍数の下降には注意が必要である.CPurpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-terme.cacyandsafetyofswitchingfromlatanoprost(LAT)Ctolatanoprost/carteolol.xedcombination(LCFC)eyedrops.Methods:Thisstudyinvolved25eyesof25patientswithCprimaryCopen-angleCglaucomaCincludingCnormal-tensionCglaucomaCwhoCwereCusingCLATCeyeCdropsCandCwhoCwereCswitchedCfromCLATCtoCLCFC.CIntraocularpressure(IOP)C,CtearC.lmCbreak-uptime(BUT)C,CcornealCepithelialdefects[super.cialCpunctatekeratitis(SPK)]C,CconjunctivalChyperemia,CbloodCpressure,CandCpulseCrateCwereCcom-paredbetweenatbaselineandat1-,3-,6-,and12-monthspostswitch.Themeandeviation(MD)valuewascom-paredCpreCandCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:IOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCatC12-monthsCpostswitch(14.0C±1.8CmmHg)inCcomparisonCwithCthatCatCbeforeswitching(15.9C±2.9mmHg)(p<0.0001)C.Nodi.erencesinBUT,SPK,andMDvaluewereobserved.However,bloodpressureandpulserateweresigni.cantlydecreased.Twopatients(8.0%)droppedoutduetoadversereactions.Conclusions:CAfterCswitchingCfromCLATCtoCLCFC,CIOPCwasCdecreasedCandCvisualC.eldCwasCmaintainedCforC12Cmonths.CStrictCattentionshouldbepaidtofallingbloodpressureandpulseratepostswitchingfromLATtoLCFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):467.470,C2020〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,変更.latanoprost/carteolol.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visual.elddefects,switching.Cはじめに用の少なさ,1日C1回点眼の利便性より第一選択薬である1).緑内障治療は通常点眼薬の単剤投与から始める1).プロス多施設での緑内障患者実態調査においても単剤使用患者タグランジン関連点眼薬は強力な眼圧下降作用,全身性副作(1,914例)ではプロスタグランジン関連点眼薬の使用がC73.9〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C467表1患者背景緑内障病型原発開放隅角緑内障(狭義):7例C7眼正常眼圧緑内障:1C8例C18眼男性:女性12例:1C3例年齢C69.1±10.3歳(C47.C84歳)眼圧C15.9±2.9CmmHg(1C1.C23mmHg)Humphrey視野CMD値C.5.63±4.68CdB(C.13.05.2.18CdB)%でもっとも多かった2).プロスタグランジン関連点眼薬単剤で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更,あるいは他の点眼薬を追加する1).アドヒアランスの観点からはC1日1回点眼のプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬への変更が最良である.プロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬は日本ではC2010年より使用可能となった.しかし,最近までプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬に含まれるCb遮断薬はチモロールのみであった.チモロールはカルテオロールよりも角膜上皮障害の出現頻度が高い3)ため,チモロールではなくカルテオロールを含有する配合点眼薬の開発が望まれていた.2017年にCb遮断薬としてカルテオロールを含有するラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった.しかし,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の効果と副作用については十分に検討が行われていない4.6).そこで筆者らは,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中の原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,続発緑内障患者を対象に,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の短期間(3カ月間)の眼圧下降効果と安全性を報告した4).今回対象を原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障患者に限定し,経過観察期間をC12カ月まで延長して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼圧下降効果,視野維持効果,安全性を前向きに検討した.I対象および方法2017年C2月.2018年C5月に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中で眼圧下降が不十分な原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障C25例C25眼を対象とし,前向きに研究を行った.患者背景を表1に示す.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬(1日C1回夜点眼,キサラタン,ファイザー)を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(1日C1回夜点眼,ミケルナ,大塚製薬)に変更した.変更前と変更C1,3,6,12カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にCGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定した.ベースライン眼圧も含めて眼圧は2回測定し,2回の眼圧値の平均値を解析に用いた.結膜充血,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT)を計測,評価した.血圧,脈拍数はデジタル自動血圧計(UDEXsuperTYPE,エルクエスト)で測定した.SPKはCNEI分類7)を,結膜充血はアレルギー性結膜疾患ガイドライン第C2版8)を用いて評価した.変更前と変更C6,12カ月後にCHum-phrey視野検査プログラムC30-2SITA-Standardを施行しCmeandeviation(MD)値を比較した.来院時ごとに副作用と中止症例を調査した.眼圧,BUT,血圧,脈拍数,MD値の比較にはCtwo-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定を,SPKの比較にはCFriedman検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.臨床試験登録システムCUMIN-CTRに登録し,UMIN試験CIDとしてCUMIN000026230を取得した.研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得たのちに検査などを行った.CII結果眼圧は変更前C15.9C±2.9CmmHg(平均C±標準偏差),変更C1カ月後C13.5C±2.3CmmHg,3カ月後C13.7C±1.9CmmHg,6カ月後C14.0C±1.8CmmHg,12カ月後C14.0C±1.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図1).視野のCMD値は変更前(C.5.63±4.68dB)と変更C6カ月後(C.4.81±4.26CdB),変更C12カ月後(C.5.34±4.63CdB)で同等だった(p=0.19).変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.SPK(図2)とCBUT(図3)は変更前後で同等だった(p=0.32,Cp=0.18).血圧は,収縮期,拡張期ともに変更前に比べて変更後に有意に下降した(p<0.001)(表2).脈拍数は変更前C72.4C±9.1拍/分,変更C1カ月後C71.2C±11.1拍/分,3カ月後C69.7C±12.1拍/分,6カ月後C66.0C±11.2拍/分,12カ月後C67.0C±11.7拍/分だった.変更C6カ月後,12カ月後では変更前に比べて,変更C6カ月後では変更C1カ月後に比べて有意に減少した(p<0.001).副作用はC2例(8.0%)に出現し,変更C1カ月後に圧迫感が1例,変更C1カ月後に霧視・流涙がC1例で,それぞれ投与中止となった.圧迫感の症例ではラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更したところ速やかに症状が消失した.霧視・流涙の症例ではラタノプロスト点眼薬へ戻したところ速やかに症状が消失した.経過観察中の投与中止例は上述した2例(8.0%)のみだった.CIII考按ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロー468あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(92)N.S.20********3.00.6p=0.3151±2.31816142.5眼圧(mmHg)12n=2510n=23n=23n=23SPK(点)2.0n=258641.51.020変更前変更変更変更変更0.51カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0.0変更変更変更図1ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の眼1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後圧(two-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定,**Cn=25n=25n=23n=23n=23p<0.0001)図2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のSPK(NEI分類)CN.S.p=0.17649.8表2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の血圧BUT(秒)14121086420収縮期(mmHg)p値拡張期(mmHg)p値変更前(n=25)C136.4±17.4C76.7±9.6変更C1カ月後(n=23)C120.4±16.7**C68.3±8.4*変更C3カ月後(n=23)C119.8±14.6**C68.4±9.9*変更C6カ月後(n=23)C121.9±16.2*C69.3±9.2*変更C12カ月後(n=23)C117.7±15.3**C66.4±7.7**<C0.0001<C0.001変更前変更変更変更変更1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後n=25n=25n=23n=23n=23図3ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のBUT(two-wayANOVA)(two-wayANOVAおよびBonferroni/Dunn検定,*p<0.001,**p<0.0001)ル配合点眼薬への変更は国内臨床第CIII相優越性検証試験で検討された5).眼圧下降幅は変更C4週間後C2.7C±0.2CmmHg,8週間後C2.9C±0.2CmmHgだった.また,プロスタグランジン関連点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更したC32例の報告では,眼圧は変更前(14.6C±2.4CmmHg)に比べて変更C3カ月後(13.3C±2.1CmmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.3CmmHgだった6).今回の症例での眼圧下降幅は変更C1カ月後C2.4C±1.4CmmHg,3カ月後C2.6±1.7CmmHg,6カ月後C2.3C±1.8CmmHg,12カ月後C2.3C±1.8CmmHgで,過去の報告5,6)とほぼ同等だった.国内臨床第III相優越性検証試験での副作用はC6.8%に出現し,内訳は睫毛乱生,霧視などだった5).今回の副作用出現率はC8.0%で,内訳は圧迫感と霧視・流涙が各C1例だった.これらのC2症例の副作用は重篤ではなく,点眼薬を変更したところ速やかに症状が消失した.点眼薬の副作用としてCSPKがあげられる.今回のラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更では基剤がC1剤からC2剤へ増加するためCSPKの悪化が予想された.一方,防腐剤としてラタノプロスト点眼薬では塩化ベンザルコニウム,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬ではエチレンジアミン四酢酸(ethylenedi-aminetetraaceticacid:EDTA)とホウ酸が含有されている.EDTAとホウ酸は塩化ベンザルコニウムと比較して細胞毒性が低いと報告9)されている.この両者の影響で,SPKやBUTが変更前後で変化なかったと考えられる.変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.これらの症例の結膜充血も重篤ではなく,自覚症状や訴えもなかった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼局所への安全性は良好と考えられる.今回,変更後に血圧は収縮期,拡張期ともに有意に下降した.脈拍数も変更C6,12カ月後には有意に減少した.Cb遮断薬であるカルテオロールが追加された影響が考えられる.しかし,ふらつきなどの自覚症状を訴える症例はなかった.Yamamoto(93)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C469らの報告ではラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更後に脈拍数は変更C4カ月後4.3拍/分,変更C8カ月後C6.1拍/分減少した5).同様に収縮期血圧は変更C4カ月後C3.0CmmHg,変更C8カ月後C4.2CmmHg,拡張期血圧は変更C4カ月後C1.4mmHg,変更C8カ月後C2.5CmmHg下降した.今回の症例の変更C12カ月後の下降幅は脈拍数C5.5拍/分,収縮期血圧C17.7CmmHg,拡張期血圧C10.3CmmHgで,Yamamotoらの報告5)と比べて脈拍数はほぼ同等,血圧は収縮期,拡張期ともに下降幅が大きかったが,その原因は不明である.ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更後には,とくに血圧下降に注意する必要がある.トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更しC24カ月間経過観察した報告がある10).眼圧下降幅は変更C24カ月後まででC2.0.2.9CmmHgで,今回の2.3.2.6CmmHgとほぼ同等だった.また,Humphrey視野検査のCMD値は,トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬への変更では,変更前と変更C6,12,18,24カ月後で有意な悪化はなく10),今回も変更前と変更C6,12カ月後で有意な悪化はなかった.しかし,視野障害は緩徐に進行するために今回の症例においても今後も長期的な経過観察が必要である.結論として開放隅角緑内障患者に対してラタノプロスト点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更することで,点眼回数を増やすことなくC12カ月間にわたり眼圧を下降させ,視野を維持することができた.安全性に関しては血圧や脈拍数の下降に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20173)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C20104)中牟田爽史,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼薬への変更.臨眼73:729-735,C20195)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteololC/ClatanoprostC.xesCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20166)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科36:1083-1086,C20197)LempMA:ReportCofCtheCnationalCeyeCinstitute/industryCworkshopConCclinicalCtrialsinCdryCeyes.CCLAOCJC21:221-232,C19958)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20109)UematsuCM,CKumagamiCT,CShimodaCKCetal:PolyoxyethC-yleneChydrogenatedCcastorCoilCmodulatesCbenzalkoniumCchloridetoxicity:ComparisonCofCacuteCcornealCbarrierCdysfunctionCinducedCbyCtravoprostCZCandCtravoprost.CJOculPharmacolTherC27:437-444,C201110)村木剛,井上賢治,石田恭子ほか:トラボプロストからトラボプロスト・チモロール配合剤へ変更した症例の長期効果.臨眼69:1493-1498,C2015***470あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(94)

ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1031.1034,2017cブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更井上賢治*1塩川美菜子*1比嘉利沙子*1永井瑞希*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科E.cacyandSafetyofSwitchingfromBrimonidinetoRipasudilKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),RisakoHiga1),MizukiNagai1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬を中止してwashout期間なしでリパスジル点眼薬に変更した原発開放隅角緑内障38例38眼を対象とした.変更理由から眼圧下降不十分群と副作用出現群に分けて,変更前と変更1.2,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.また,変更後の副作用,中止例を調査した.結果:眼圧は眼圧下降不十分群(19例),副作用出現群(19例)ともに,変更後に有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅と眼圧下降率は眼圧下降不十分群1.1.1.4mmHgと6.1.7.7%,副作用出現群1.7.2.3mmHgと8.4.11.8%だった.変更後の副作用は4例(10.5%),中止例は3例(7.9%)で,鼻出血,咽頭痛,レーザー治療施行各1例だった.結論:ブリモニジン点眼薬投与で眼圧下降が不十分であった患者および副作用が出現した患者に対しては,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthesafetyande.cacyofswitchingfrombrimonidinetoripasudil.Methods:Thirty-eighteyeswithprimaryopen-angleglaucomathatdiscontinuedbrimonidineandimmediatelybeganusingripasudilwereincluded.Intraocularpressure(IOP)at1-2monthsand3-4monthsafterswitchingwascomparedwithbaselineIOP.Patientsweredividedintotwogroupsbasedonreasonsforswitching:insu.cientIOPreductionoradversereactions.Adversereactionsandpatientswhodroppedoutofthestudywerealsoexamined.Results:Atotalof19patientshadinsu.cientIOPreductionand19patientsexperiencedadversereactions.IOPwassigni.cantlylowerinallpatientsafterswitching(p<0.05).Fourpatients(10.5%)hadadversereactionsand3patients(7.9%)droppedoutofthestudybecauseofnasalbleeding,sorethroatorlasersurgery.Conclusion:Incaseswithinsu.cientIOPreductionoradversereactions,switchingfrombrimonidinetoripasudilmaybeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1031.1034,2017〕Keywords:ブリモニジン,リパスジル,眼圧,副作用,変更.brimonidine,ripasudil,intraocularpressure,ad-versereactions,switching.はじめに線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水流出促進作用を有する1)リパスジル点眼薬が使用可能となった.リパスジル点眼薬の治験では,単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果と安全性が示されている2.6).また,臨床現場においても多剤併用症例でのリパスジル点眼薬の追加投与による良好な眼圧下降効果と安全性が報告されている7.10).緑内障治療では点眼薬を使用しても眼圧下降が不十分な(目標眼圧に達しない)症例では他の点眼薬の追加,あるいは他の点眼薬への変更が推奨されている.また,点眼薬で副作用が出現した症例では,その点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更する.筆者らはリパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景を調査し報告した11).リパスジル点眼薬が他の点眼薬から変更された21症例の前治療薬は,ブリモニジン点眼薬〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)103110例(47.6%)が最多だった.リパスジル点眼薬を他の点眼薬から変更した際の眼圧下降効果,安全性の報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年12月.2016年3月に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障患者で,ブリモニジン点眼薬がリパスジル点眼薬へ変更となった38例38眼を対象とした.男性15例,女性23例,年齢は66.7±11.9歳(平均値±標準偏差),42.87歳だった.変更理由は眼圧下降不十分群19例,副作用出現群19例だった.副作用の内訳はアレルギー性結膜炎11例,結膜充血3例,眼痛3例,傾眠2例だった.変更前使用点眼薬数は3.4±0.9剤だった.1剤が1例(2.6%),2剤が5例(13.2%),3剤が12例(31.6%),4剤が18例(47.4%),5剤が2例(5.3%)だった(表1).配合点眼薬は2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわらず1剤として解析した.変更前眼圧は17.1±3.3mmHg,11.28mmHgだった.変更前のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITAStan-dardのmeandeviation値は.9.66±6.37dB,.26.92..1.97dBだった.ブリモニジン点眼薬の使用期間は8.2±8.1カ月間,1.32カ月間だった.ブリモニジン点眼薬を中止して,washout期間なしでリパスジル点眼薬(0.4%グラナテックR,1日2回点眼)に変更した.変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定している症例ではその値を,変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定していない症例では各々変更2カ月後あるいは,4カ月後の眼圧を解析に用いた.変更後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出した.変更前と変表1変更前使用点眼薬使用薬剤数使用薬剤症例数1剤ブリモニジン1例2剤ブリモニジン+PG5例3剤ブリモニジン+PG/b配合剤4例ブリモニジン+PG+b3例ブリモニジン+PG+CAI3例ブリモニジン+b+CAI1例ブリモニジン+PG+/CAI/b配合剤1例4剤ブリモニジン+PG+CAI/b配合剤14例ブリモニジン+CAI点眼+PG/b配合剤1例ブリモニジン+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+PG+b+a11例ブリモニジン+a1+PG/b配合剤1例5剤ブリモニジン+PG+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+CAI点眼+a1+PG/b配合剤1例更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を比較するためにスキャッタープロット/散布図を用いて解析した.変更後の眼圧下降幅を2mmHg以上下降,±1mmHg以内,2mmHg以上上昇の3群に分けた.変更理由をもとに対象を眼圧下降不十分群と副作用出現群の2群に分け,各々で変更前後の眼圧を比較した.変更後の副作用,中止例を調査した.両眼該当症例は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前後の眼圧の比較にはANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果全症例(38例)の眼圧は変更前17.1±3.3mmHg,変更1.2カ月後15.7±2.7mmHg,変更3.4カ月後15.6±3.3mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.2±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降14例(37.8%),±1mmHg以内21例(56.8%),2mmHg以上上昇2例(5.4%),変更3.4カ月後は1.8±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降15例(53.5%),±1mmHg以内12例(42.9%),2mmHg以上上昇1例(3.6%)だった(図1).眼圧下降不十分群(19例)の眼圧は変更前18.2±3.1mmHg,変更1.2カ月後16.5±2.4mmHg,変更3.4カ月後16.7±3.4mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.01).変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧分布を図2に示す.眼圧が変更1.2カ月後に変更前と比べて上昇したのは4例(10.7%),不変だったのは8例(21.7%),下降したのは25例(67.6%)だった.眼圧が変更3.4カ月後に変更前に比べて上昇したのは4例(14.3%),不変だったのは4例(14.3%),下降したのは20例(71.4%)だった.眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.4±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降9例(50.0%),±1mmHg以内7例(38.9%),2mmHg以上上昇2例(11.1%),変更3.4カ月後は2.2±2.6mmHgで,内訳は2mmHg以上下降8例(66.7%),±1mmHg以変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,2例,5.4%1例,3.6%図1眼圧下降幅(全症例)1032あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(116)変更前と変更1~2カ月後変更前と変更3~4カ月後変更1~2カ月後眼圧(mmHg)0051015202530変更前眼圧(mmHg)図2変更前後の眼圧変更1~2カ月後変更3~4カ月後変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,0051015202530変更前眼圧(mmHg)2例,11.1%1例,8.3%図3眼圧下降幅(眼圧下降不十分群)内3例(25.0%),2mmHg以上上昇1例(8.3%)だった(図3).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.8±12.1%,変更3.4カ月後11.0±12.7%だった.副作用出現群(19例)の眼圧は変更前16.1±3.2mmHg,変更1.2カ月後15.0±2.8mmHg,変更3.4カ月後14.9±3.0mmHgで,変更後は有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.1±1.3mmHgで,内訳は2mmHg以上下降5例(26.3%),±1mmHg以内14例(73.7%),変更3.4カ月後は1.4±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降7例(43.8%),±1mmHg以内9例(56.2%)だった(図4).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.1±7.6%,変更3.4カ月後8.1±10.4%だった.変更前にブリモニジン点眼薬により出現していた副作用は変更後に全症例で軽快あるいは消失した.変更後の副作用は4例(10.5%)で出現した.内訳は変更1カ月後に掻痒感,変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にアレルギー性結膜炎が各1例だった.変更後の中止例は3例(7.9%)だった.内訳は変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にレー図4眼圧下降幅(副作用出現群)ザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)施行が各1例だった.III考按ブリモニジン点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では20.9.23.6%12),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では11.8.18.2%12.14),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では6.9.14.3%15,16)と報告されている.一方,リパスジル点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では7.5.29.0%2.5),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では8.0.18.4%5,6),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では15.5.21.5%7.10)と報告されている.緑内障病型,症例数,薬剤投与期間,投与前眼圧などが異なるので両剤を単純には比較できないが,両剤の眼圧下降効果はほぼ同等と考えられる.今回ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更で眼圧下降不十分群,副作用出現群ともに眼圧が有意に下降した.変更前眼圧が高い症例のほうが眼圧下降が良好な場合が多いが,今回は図2に示すように,変更前眼圧の高低にかかわらず,良好な眼圧下降を示した.その理由として点眼薬の変更によりアドヒアランスが向上した,副作用が軽減したためにアドヒアランスが向上した,ブリモニジ(117)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171033ン点眼薬のノンレスポンダーの症例だった,あるいはリパスジル点眼薬の眼圧下降の作用機序がブリモニジン点眼薬と異なることなどが考えらえる.しかし,今回は前治療薬であるブリモニジン点眼薬の点眼アドヒアランスや眼圧下降効果は後ろ向き研究のため不明である.さらに眼圧測定時間は,患者ごとにはリパスジル点眼薬変更前後で同時刻としたが,リパスジル点眼薬の投与時間は患者ごとに一定ではなく,眼圧値がピーク値なのかトラフ値なのかは不明である.今後,前向き研究が必要と考える.リパスジル点眼薬の副作用は10.5%,中止例は7.9%で出現した.リパスジル点眼薬の治験では副作用として結膜充血,眼瞼炎,アレルギー性結膜炎,眼刺激感,結膜炎,掻痒感,角膜炎が出現し,また,中止例は0.35.8%だった2.6).副作用のうち,とくに結膜充血は55.9.96.4%と高頻度に出現した1,3.5)が,今回は出現しなかった.結膜充血は点眼後に一過性に出現するために診察時には出現していなかった,あるいは結膜充血が点眼後にほとんどの症例で一過性に出現すると説明したために患者が気にしなかった可能性がある.また,出現した副作用のアレルギー性結膜炎,掻痒感は治験や臨床報告にもみられたが,鼻出血と咽頭痛は報告がなく,リパスジル点眼薬との因果関係は不明である.しかし,両症例ともにリパスジル点眼薬の継続使用を望まず,点眼中止となり,その後症状は消失した.ブリモニジン点眼薬による副作用(アレルギー性結膜炎,結膜充血,眼痛,傾眠)はブリモニジン点眼薬中止後に全例で軽快,あるいは消失した.副作用出現症例ではその原因となる点眼薬を中止することが基本であり今回も効果的だった.また,リパスジル点眼薬使用後にアレルギー性結膜炎が出現した1例は,眼圧下降効果不十分群だった.両点眼薬でのアレルギー性結膜炎の発症機序は異なると考えられる.しかし,リパスジル点眼薬によるアレルギー性結膜炎は通常数カ月間使用後に出現するので,今回の3.4カ月間の短期の経過観察期間では過小評価された可能性がある.ブリモニジン点眼薬を使用中で眼圧下降不十分症例やブリモニジン点眼薬による副作用出現群では,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.しかし今回は3.4カ月間という短期の経過観察期間であったので,今後も長期的な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20133)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2ran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringe.ectsofaRhokinaseinhibitor,ripa-sudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOph-thalmol94:e26-e34,20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintra-ocularpressure-loweringe.ectsoftheRhokinaseinhibi-torripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatano-prost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20137)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,20168)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,20169)SatoS,HirookaK,NittaEetal:Additiveintraocularpressureloweringe.ectsoftheRhokinaseinhibitor,ripa-sudilinglaucomapatientsnotabletoobtainadequatecontrolafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,201610)InazakiH,KobayashiS,AnzaiYetal:E.cacyoftheadditionaluseofripasudil,aRho-kinaseinhibitor,inpatientswithglaucomainadequatelycontrolledundermaximummedicaltherapy.JGlaucoma26:96-100,201711)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科33:1774-1778,201612)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,201414)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.あたらしい眼科69:499-503,201515)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,201416)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20141034あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(118)

リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果

2016年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(12):1774?1778,2016cリパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果井上賢治*1瀬戸川章*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科IntraocularPressureReductionwithandPrescriptionPatternsofRipasudil,aRhoKinaseInhibitorKenjiInoue1),AkiraSetogawa1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:リパスジル点眼薬の処方パターンと眼圧下降効果を後ろ向きに調査した.対象および方法:2014年12月?2015年3月に新規にリパスジル点眼薬が投与された161例161眼を対象とした.リパスジル点眼薬が追加された症例(追加群),他の点眼薬から変更された症例(変更群),変更と追加が同時に行われた症例(変更追加群)に分けて,リパスジル点眼薬の処方パターン,投与された理由,投与前後の眼圧などを調査した.結果:全症例の投与前薬剤数は3.9±0.9剤だった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障119例(73.9%),続発緑内障30例(18.6%)などだった.追加群は124例(77.0%),変更群は21例(13.0%),変更追加群は16例(10.0%)だった.投与された理由は追加群と変更追加群は全例が,変更群は14例(66.7%)が眼圧下降効果不十分,7例(33.3%)が副作用出現だった.追加群では投与後に眼圧が有意に下降した(p<0.01).結論:リパスジル点眼薬は多剤併用で眼圧下降効果が不十分な原発開放隅角緑内障症例に追加投与されることが多く,眼圧下降は良好である.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedintraocularpressurereductionwithandprescriptionpatternsof0.4%ripasudil.Methods:Atotalof161eyesof161patientswereincluded.Participantsweredividedinto3groups:ripasudilwasaddedtoexistingtreatment(addedgroup),existingtreatmentwaschangedtoripasudil(changedgroup),orripasudilwasaddedandreplacedanothermedication(changed/addedgroup).Intraocularpressure(IOP)wascomparedbeforeandafteradministrationofripasudil.Results:Thenumberofmedicationsusedwas3.9±0.9.Diseasetypeswereopen-angleglaucoma(119cases,73.9%),secondaryglaucoma(30cases,18.6%),etal.Atotalof124(77.0%),21(13.0%),and16(10.0%)caseswereintheadded,changedandchanged/addedgroups,respectively.Allsubjectsintheaddedandchanged/addedgroupsbeganusingripasudilbecauseofinsufficientIOPreduction.Inthechangedgroup,14(66.7%)and7(33.3%)patientsbeganusingripasudilbecauseofinsufficientIOPreductionandadversereactions.Intheaddedgroup,IOPdecreasedsignificantlyafteradministrationofripasudil(p<0.01).Conclusion:WhenmultiplemedicationsdonotproperlymanageIOP,ripasudilmaybeaddedineyeswithopen-angleglaucoma.TheadditionofripasudilwaseffectiveinreducingIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1774?1778,2016〕Keywords:リパスジル,処方,追加,変更.ripasudil,prescription,add,change.はじめに緑内障点眼薬治療は単剤から始めて,目標眼圧に達成しない場合は点眼薬の変更あるいは追加が行われる.点眼薬の追加の際には,今まで使用していた点眼薬とは眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬を使用することになる.また,点眼薬には副作用もあり,たとえばb遮断点眼薬は呼吸器系や循環器系疾患を有する症例には使用しづらい.そのような理由から従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬の開発が望まれていた.線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水排出の促進作用を有するRhoキナーゼ阻害薬のリパスジル点眼薬(グラナテックR,興和創薬)1)が開発され,2014年12月より日本で使用可能となった.Rhoキナーゼ阻害薬の作用機序は巨大空胞の増加2),細胞接着への作用2),細胞-細胞外マトリクス間関係の変化3),短期的な細胞骨格と細胞の収縮性の変化1),細胞外マトリクス産生抑制4),線維柱帯間隙への作用5)が想定されている.リパスジル点眼薬は,日本で行われた臨床治験においては良好な眼圧下降効果が報告されている6?10).それらの治験ではリパスジル点眼薬の単剤投与6?9),b遮断点眼薬への追加投与9,10),プロスタグランジン関連点眼薬への追加投与9,10),プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与9)が行われた.しかしこの新しいリパスジル点眼薬が実際に臨床診療の現場でどのような症例に使用されているのかを調査した報告はない.そこで今回,リパスジル点眼薬が使用可能となってから初期の4カ月間に投与された症例のデータを後ろ向きに調査した.I方法2014年12月?2015年3月に,井上眼科病院に通院中で新規にリパスジル点眼薬(1日2回点眼)が処方された連続した161例161眼を対象とした.眼科医師24名が処方していた.両眼にリパスジル点眼薬が処方された症例は眼圧の高い眼を,眼圧が同値の症例は右眼を解析に用いた.対象を以下の3群に分けた.リパスジル点眼薬が他の点眼薬に追加投与された症例(追加群),他の点眼薬がリパスジル点眼薬に変更された症例(変更群),他の点眼薬の変更とリパスジル点眼薬の追加投与が同時に行われた症例,あるいは他の点眼薬とリパスジル点眼薬が同時に追加投与された症例(変更追加群)とした.3群の患者背景〔年齢,投与前眼圧,投与前視野検査のmeandeviation(MD)値,使用薬剤数〕を比較した.なお配合点眼薬は2剤として,アセタゾラミド内服は錠数にかかわらず1剤として解析した.視野検査はHumphrey視野計(カール・ツァイス社)プログラム30-2SITA-Standardを使用した.変更群では変更された点眼薬を調査した.追加群では使用薬剤を調査した.リパスジル点眼薬投与1,3カ月後の眼圧を調査し,投与前と比較した.リパスジル点眼薬投与後の中止例を調査した.各群のリパスジル点眼薬が投与された理由を診療録から調査した.統計学的検討は3群の患者背景の比較にはKruskal-Wallis検定,投与前後の眼圧の比較にはANOVABonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果全症例161例のうち男性76例,女性85例,年齢は64.8±13.1歳(平均±標準偏差),22?92歳だった(図1).投与前眼圧は21.6±6.2mmHg,8?44mmHgだった.投与前視野検査のMD値は?10.7±8.0dB,?31.2?2.1dBだった.投与前薬剤数は3.9±1.0剤,1?7剤だった.病型は原発開放隅角緑内障119例(73.9%),続発緑内障30例(18.6%),高眼圧症5例(3.1%),原発閉塞隅角緑内障4例(2.5%),先天緑内障3例(1.9%)だった.追加群は124例(77.0%),変更群は21例(13.0%),変更追加群は16例(10.0%)だった.年齢は追加群64.9±14.2歳,変更群63.3±10.5歳,変更追加群66.0±6.2歳で同等だった(p=0.619).投与前眼圧は追加群22.0±6.6mmHg,変更群19.2±3.2mmHg,変更追加群21.3±5.8mmHgで同等だった(p=0.243).投与前視野検査のMD値は追加群?10.9±8.5dB,変更群?11.1±6.9dB,変更追加群8.3±5.7dBで同等だった(p=0.688).使用薬剤数は追加群3.9±1.0剤,変更群3.9±0.8剤,変更追加群3.7±1.1剤で同等だった(p=0.872).追加群の使用薬剤数は1剤2例(1.6%),2剤9例(8.9%),3剤19例(13.7%),4剤67例(54.9%),5剤24例(18.5%),6剤2例(1.6%),7剤1例(0.8%)だった.追加群の使用薬剤を表1に示す.4剤がもっとも多く,そのうちもっとも多い組み合わせはプロスタグランジン関連点眼薬+a2刺激点眼薬+炭酸脱水酵素阻害/b配合点眼薬だった.変更群の変更前点眼薬はブリモニジン点眼薬10例(47.6%),ブナゾシン点眼薬7例(33.3%),0.5%チモロール点眼薬2例(9.5%),ラタノプロスト点眼薬1例(4.8%),1%ドルゾラミド点眼薬1例(4.8%)だった.リパスジル点眼薬が投与された理由は,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分で,変更群では眼圧下降効果不十分14例(66.7%),副作用出現7例(33.3%)だった(図1).副作用の内訳は結膜充血1例,アレルギー性結膜炎3例,結膜充血+アレルギー性結膜炎1例,眼掻痒感1例,流涙1例だった.眼圧は追加群では投与前(22.0±6.6mmHg)と比べて投与1カ月後(19.4±5.4mmHg),投与3カ月後(18.6±5.7mmHg)には有意に下降した(p<0.01)(図2).変更群では投与前(19.2±3.2mmHg)と投与1カ月後(18.0±3.7mmHg)には同等だったが,投与3カ月後(17.5±4.2mmHg)には投与前と比べて有意に下降した(p<0.01).変更追加群では投与前(21.3±5.8mmHg)と投与1カ月後(19.4±4.7mmHg),投与3カ月後(18.5±4.8mmHg)は同等だった(p=0.206).中止例は追加群9例(7.3%)で,内訳は来院中断3例,他剤追加2例,緑内障手術施行2例,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)施行1例,希望により転医1例だった.変更群は1例(4.8%)で,来院中断だった.変更追加例は1例(6.3%)で,他剤追加だった.III考按今回の症例ではリパスジル点眼薬は多剤併用(平均3.9剤)に追加投与される症例が多かった.配合点眼薬は2剤として解析したが,配合点眼薬を1剤として解析した場合も使用薬剤数は平均3.3±0.9剤だった.リパスジル点眼薬は,線維柱帯-Schlemm管を介した主経路からの房水排出促進作用という従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる薬である1).今回の結果からは,多剤併用をしても従来の点眼薬では眼圧下降効果が不十分,言い換えればもう少し眼圧を下降させたい症例に投与されたと考えられる.リパスジル点眼薬が投与された理由も,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分であった.点眼薬を3剤以上使用している患者ではアドヒアランスが低下するという報告もあり11),4剤目,5剤目などに処方することに疑問もある.多剤併用でも眼圧下降効果不十分な症例では本来手術を施行すべきであるが,線維柱帯切除術では浅前房,脈絡膜?離,低眼圧黄班症,濾過胞炎,眼内炎などの合併症が出現することもあり,患者の視機能を低下させる危険もある.とくに眼内炎では硝子体手術を施行しても失明する危険もある.濾過胞関連感染症は平均2.5年の観察期間で1.5±0.6%と高率に報告されている12).そのため余命が短いと考えられる高齢者では,手術ではなく点眼薬や内服薬の多剤併用が行われることが多いと考えられる.点眼薬による副作用が出現した症例では,その点眼薬を中止する必要がある.その際に眼圧下降を考慮すると,他の眼圧下降機序を有する点眼薬を投与することになる.なぜならば眼圧下降の作用機序が異なる点眼薬のほうが同じ副作用が出現しづらいからである.リパスジル点眼薬は眼圧下降の作用機序が他の点眼薬と異なるために,点眼薬の変更の際に使用されやすいと考えられる.多剤併用例では他の点眼薬の選択肢が少ないので新規に使用可能となったリパスジル点眼薬が使用されたと考えられる.今回の症例においても副作用出現によりリパスジル点眼薬へ変更された症例の使用前薬剤数は3.7±0.8剤と多剤併用症例だった.リパスジル点眼薬の眼圧下降幅は単剤投与では2.7?4.0mmHg6),3.5mmHg7),ピーク時6.4?7.3mmHgとトラフ時1.6?4.3mmHg8),ピーク時3.7mmHgとトラフ時2.6mmHg9)と報告されている.b遮断点眼薬への追加投与ではピーク時2.9mmHgとトラフ時2.4mmHg10),ピーク時3.0mmHgとトラフ時2.2mmHg9)と報告されている.プロスタグランジン関連点眼薬への追加投与ではピーク時2.4mmHgとトラフ時1.4mmHg9),ピーク時3.2mmHgとトラフ時2.2mmHg10)と報告されている.プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与ではピーク時1.7mmHgとトラフ時1.7mmHgと報告されている9).今回の追加群での眼圧下降幅は2.6?3.4mmHgで,追加投与の報告9,10)とほぼ同等だった.しかし今回の症例には眼圧をピーク値と思われる午前中に測定した症例やトラフ値と思われる夕方に測定した症例も含まれており,今後さらなる解析が必要である.今回は眼圧が上昇した際にリパスジル点眼薬が投与された症例もあり,眼圧下降効果の評価としては考慮する必要があったかもしれない.また症例のエントリー期間が冬から春であったために,眼圧が上昇していた可能性もある.リパスジル点眼薬の投与中止例は,単剤投与では7日間投与で0%6),8週間投与で0%7),52週間投与で35.8%9),b遮断点眼薬への追加投与では8週間投与で1.9%10),52週間投与で30.0%9),プロスタグランジン関連点眼薬への追加投与では8週間投与で2.9%10),52週間投与で25.8%9),プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与では52週間投与で27.1%9)と報告されている.今回のリパスジル点眼薬の投与中止例は追加群7.3%,変更群4.8%,変更追加群6.3%と過去の短期投与の報告6,7,10)より多く,長期投与の報告9)より少なかった.その原因として治験と臨床現場の症例の違い,今回は多剤併用症例が多かったこと,今回は投与期間が短期投与と長期投与の間である3カ月間だったことなどが考えられる.いずれにせよリパスジル点眼薬の安全性は良好と考えられる.交感神経a2受容体刺激薬であるブリモニジン点眼薬が2012年5月に日本で使用可能になった.ブリモニジン点眼薬も従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる薬だった.ブリモニジン点眼薬が使用可能となった初期の処方例,とくに追加投与では,追加投与前の使用薬剤数は1剤12.7%,2剤21.8%,3剤以上65.5%と多剤併用例が多いと報告13)されており,今回もほぼ同等だった.今回のリパスジル点眼薬を追加投与した症例の眼圧下降効果と安全性は良好であったので,リパスジル点眼薬は,今後は2剤目,3剤目など早い段階で使用される可能性がある.リパスジル点眼薬は多剤併用で眼圧下降効果が不十分な原発開放隅角緑内障症例に対して追加投与されることが多い.3剤目,4剤目,5剤目に投与されたリパスジル点眼薬の眼圧下降効果とアドヒアランスに疑問は残るが,実際の臨床現場では多剤併用症例への追加投与が多かった.追加投与された症例の眼圧下降効果と安全性は短期的には良好だった.今後は長期的にリパスジル点眼薬の眼圧下降効果と安全性を検討する必要がある.文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:EffectsofRhoassociatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandoutflowfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)KamedaT,InoueT,InataniMetal:TheeffectofRhoassociatedproteinkinaseinhibitoronmonkeySchlemm’scanalendothelialcells.InvestOphthalmolVisSci53:3092-3103,20123)KogaT,KogaT,AwaiMetal:Rho-associatedproteinkinaseinhibitor,Y-27632,inducesalterationsinadhesion,contractionandmotilityinculturedhumantrabecularmeshworkcells.ExpEyeRes82:362-370,20064)FujimotoT,InoueT,KamedaTetal:InvolvementofRhoA/Rho-associatedkinasesignaltransductionpathwayindexamethasone-inducedalterationsinaqueousoutflow.InvestOphthalmolVisSci53:7097-7108,20125)RaoPV,DengPF,KumarJetal:ModulationofaqueoushumoroutflowfacilitybytheRhokinase-specificinhibitorY-27632.InvestOphthalmolVisSci42:1029-1037,20016)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20137)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2randomizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,k-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20138)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringeffectsofaRhokinaseinhibitor,ripasudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclinicalevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOphthalmol94:e26-e34,201610)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintraocularpressure-loweringeffectsoftheRhokinaseinhibitorripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatanoprost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,201511)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalongtermpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,200912)YamamotoT,KuwayamaY,CollaborativeBleb-relatedInfectionIncidenceandTreatmentStudyGroup:Interimclinicaloutcomesinthecollaborativebleb-relatedinfectionincidenceandtreatmentstudy.Ophthalmology118:453-458,201113)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,2014〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-kuTokyo101-0062,JAPAN0197170-41810/あ160910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1追加群,変更群,変更追加群の背景とリパスジル点眼薬投与理由(97)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161775表1追加群における投与前薬剤1剤(2例,1.6%)CAI2例(100%)2剤(9例,8.9%)PG+CAI3例(3.3%)b+CAI2例(22.2%)CAI/b配合剤2例(22.2%)PG+b1例(11.1%)PG+a21例(11.1%)3剤(19例,13.7%)PG+b+CAI5例(26.3%)a2+CAI/b配合剤3例(26.3%)PG+CAI+a23例(15.8%)a2+PG/b配合剤2例(10.5%)PG+CAI/b配合剤2例(10.5%)CAI内服+CAI/b配合剤1例(10.5%)PG+b+a11例(5.3%)CAI+CAI内服+a21例(5.3%)CAI+PG/b配合剤1例(5.3%)4剤(67例,54.9%)PG+a2+CAI/b配合剤39例(58.2%)CAI+a2+PG/b配合剤6例(13.4%)PG+b+CAI+a27例(10.4%)CAI内服+a2+CAI/b配合剤3例(4.5%)PG+b+CAI+a12例(3.0%)PG+CAI+a1+a22例(3.0%)PG+CAI+CAI内服+a22例(3.0%)PG+a1+CAI/b配合剤2例(3.0%)PG+CAI+ab+a21例(1.5%)CAI+a1+PG/b配合剤1例(1.5%)a1+a2+PG/b配合剤1例(1.5%)PG+CAI内服+CAI/b配合剤1例(1.5%)5剤(24例,18.5%)PG+CAI内服+a2+CAI/b配合剤7例(29.2%)PG+b+CAI+CAI内服+a26例(29.2%)PG+a1+a2+CAI/b配合剤4例(12.5%)PG+a2+ピロカルピン+CAI/b配合剤1例(4.2%)PG+b+CAI+a1+ピロカルピン1例(4.2%)PG+CAI+CAI内服+ab+a21例(4.2%)PG+b+CAI+a1+a21例(4.2%)CAI+a2+ピバレフリン+PG/b配合剤1例(4.2%)PG+CAI+CAI内服+a1+a21例(4.2%)PG+b+CAI+CAI内服+a11例(4.2%)6剤(2例,1.6%)PG+CAI内服+a1+a2+CAI/b配合剤2例(100%)7剤(1例,0.8%)PG+b+CAI+CAI内服+a1+a2+ピロカルピン1例(100%)b:b遮断点眼薬,PG:プロスタグランジン関連点眼薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害点眼薬,a1:a1遮断点眼薬,a2:a2刺激点眼薬1776あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(98)図2リパスジル点眼薬投与前後の眼圧(99)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617771778あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(100)

ブリモニジンの処方パターンと眼圧下降効果

2016年7月31日 日曜日

《第26回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科33(7):1049〜1052,2016©ブリモニジンの処方パターンと眼圧下降効果砂川広海*1井上賢治*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院PrescribingPatternandEfficacyonIntraocularPressureofBrimonidineHiromiSunagawa1),KenjiInoue1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬が処方された患者の背景や眼圧下降効果の検討.対象および方法:新規にブリモニジン点眼薬を投与した緑内障および高眼圧症患者237例237眼を対象とした.ブリモニジン点眼薬を追加した症例(追加群),1剤をブリモニジン点眼薬に変更した症例(変更群),変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例(変更追加群)に分けた.3群間で,年齢・投与前眼圧・投与前薬剤数・投与理由,および投与6カ月間の眼圧下降効果を比較検討した.結果:緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.投与前眼圧は変更追加群が有意に高値だった.投与前薬剤数は3群で差がなく,全症例では平均2.3剤だった.投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多だった.3群とも投与後に有意に眼圧が下降した.結論:ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.その眼圧下降効果は良好である.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofbrimonidineandpatientbackground.Subjectsandmethod:Thesubjects,237open-angleglaucomaorocularhypertensionpatientsnewlyreceivingbrimonidine,wereclassifiedintothefollowingthreegroups:addbrimonidine(Addgroup);discontinueotherdrugandaddbrimonidine(Switchgroup);switchandaddordiscontinuetwodrugs(Addandswitchgroup).Weinvestigatedage,intraocularpressure(IOP),numberofprescribeddrugsbeforeadministrationandreasonforbrimonidineadministrationamongthethreegroups.Caseswerefollowedupfor6months.Results:Therewasnodifferenceinageornumberofdrugsamongthethreegroups.IOPbeforeadministrationinAddandswitchgroupwassignificantlyhigh.Themeannumberofdrugsbeforeadministrationinallgroupswas2.3.ThemainreasonforadministrationwasinsufficientIOP-decreasingefficacyinallgroups.Inallgroups,IOPdecreasewassignificant.Conclusion:BrimonidinewasoftenusedasadjunctivetherapyforPOAGpatientswithmultiplemedications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(7):1049〜1052,2016〕Keywords:プリモジン,眼圧,追加,変更.brimonidine,intraocularpressure,add,switch.はじめにブリモニジン酒石酸塩点眼薬(以下,ブリモニジン点眼薬)は交感神経a2受容体作動薬で,眼圧下降機序として,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路を介した房水流出促進の両者を併せもっている1,2).わが国では2012年5月から使用可能となった.従来からの抗緑内障点眼薬と作用機序が異なることから,他剤との併用効果が期待されている.これまで,プロスタグランジン関連点眼薬単剤投与例や多剤併用例に,ブリモニジン点眼薬を追加した報告が行われてきた3〜8).しかし,ブリモニジン点眼薬がどのような症例に使用されているかを調査した報告はない.今回,ブリモニジン点眼薬が処方された症例の患者背景やその眼圧下降効果を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年4〜9月に井上眼科病院に通院中の緑内障および高眼圧症患者で,新規にブリモニジン点眼薬が投与された237例237眼を対象とした.男性101例,女性136例,年齢は65.6±13.9歳(平均値±標準偏差),21〜91歳だった.井上眼科病院勤務の眼科医13名が処方した.緑内障病型は原発開放隅角緑内障188例(80%),続発緑内障41例(17%),高眼圧症5例(2%),原発閉塞隅角緑内障3例(1%)だった.ブリモニジン点眼薬を追加した症例を追加群,1剤を中止しブリモニジン点眼薬に変更した症例を変更群,変更と追加あるいは2剤の追加を行った症例を変更追加群とした.年齢,投与前眼圧,投与前薬剤数,投与理由を3群間で比較し,さらに投与3カ月後,投与6カ月後の眼圧を投与前後で比較した.配合点眼薬は2剤として集計した.各群で,投与前,投与6カ月後までの脱落例を調査した.両眼該当例では右眼を解析に用いた.統計学的検討は3群間の年齢,投与前薬剤数,投与前眼圧の比較にはKruskal-Wallis検定,投与理由の比較にはc2検定,投与前後の眼圧の比較にはBonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果各群の症例数は追加群159例(67%),変更群50例(21%),変更追加群28例(12%)だった.年齢は平均65.6歳,投与前薬剤数は平均2.3剤であった.年齢,投与前薬剤数は3群間に差がなかった.投与前眼圧は変更追加群が追加群,変更群に比べて有意に高値だった(p<0.01)(表1).追加群におけるブリモニジン点眼薬投与前の薬剤数は,3剤が67例と最多で全体の42%を占めていた(表2).変更群において,ブリモニジン点眼薬に変更した点眼薬は,配合点眼薬16例(トラボプロスト/チモロール配合点眼薬14例,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬1例,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬1例),炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(ブリンゾラミド9例,ドルゾラミド5例),b遮断点眼薬11例(持続性カルテオロール6例,イオン応答ゲル化チモロール4例,カルテオロール1例),プロスタグランジン関連点眼薬8例(イソプロピルウノプロストン2例,タフルプロスト2例,ラタノプロスト2例,トラボプロスト1例,ビマトプロスト1例),非選択制交感神経刺激点眼薬1例(ジピベフリン1例)だった(表3).ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分が最多で,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行が多く,変更群で副作用出現が多かった(表4).追加群の眼圧は,投与前18.2±5.0mmHg,投与3カ月後15.2±3.7mmHg,投与6カ月後15.6±3.7mmHgだった(図1).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更群の眼圧は,投与前眼圧16.3±4.1mmHg,投与3カ月後15.2±4.2mmHg,投与6カ月後15.9±4.1mmHgだった(図2).投与前と比較して,投与3カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).変更追加群の眼圧は,投与前眼圧24.3±11.6mmHg,投与3カ月後17.8±9.3mmHg,投与6カ月後17.1±6.6mmHgだった(図3).投与前と比較して,投与3カ月と6カ月後に眼圧が有意に下降した(p<0.0001).脱落例は27例(11.4%)だった.副作用出現が10例で,その内訳は,追加群でめまい4例,充血1例,変更群で搔痒感(アレルギー性結膜炎)2例,めまい1例,傾眠1例,変更追加群で霧視1例だった.副作用出現以外の脱落例は,来院中断3例,転医4例,対象期間内に白内障手術施行した1例,眼圧が下がらず途中で薬剤変更を行った9例(追加群7例,変更群2例)だった.III考按今回ブリモニジン点眼薬の処方パターンを後ろ向きに調査した.投与前薬剤数は平均2.3剤だったが,投与前薬剤数が2剤以上の症例が125例(79%),0剤や1例の症例も34例(21%)存在した.過去の多剤併用例にブリモニジン点眼薬を追加した報告6〜8)では投与前薬剤数は2.7〜3.0剤と今回よりも多かった.ブリモニジン点眼薬の投与理由は,3群とも眼圧下降効果不十分がもっとも多く,次に多かったのは追加群,追加変更群では視野障害進行,変更群では副作用出現であった.治療中に副作用が出現した際には,点眼薬の変更を行わざるをえないためと思われた.原発開放隅角緑内障における多剤併用療法に対するブリモニジン点眼薬追加投与による眼圧下降率は,Schwartzenbergら6)が7カ月間投与で16.7%,俣木ら7)が3カ月間投与で13.1%,森山ら8)が6カ月間投与で8.2%と報告している.今回の眼圧下降率は,追加群において投与3カ月後で14.4±17.6%,6カ月後で11.8±17.3%と過去の報告6〜8)と同様だった.対象症例のうち3剤以上使用していた症例が50%と半数を占め,多剤併用中の症例においても,ブリモニジン点眼薬の投与は眼圧下降効果が期待できる.林らはブリンゾラミド点眼薬をブリモニジン点眼薬へと変更した症例で,変更6カ月後の眼圧下降幅は2.3±3.0mmHgと報告した9).今回の変更例(50例)の眼圧下降幅は変更3カ月後1.2±2.0mmHg,変更6カ月後0.4±2.9mmHgだった.変更群では,追加群,変更追加群と比較し眼圧下降効果が低く,ブリモニジン点眼薬は変更投与するよりも,追加投与することでより眼圧下降が得られると思われた.ブリモニジン点眼薬の特徴的な副作用としては,アレルギー性結膜炎,めまい,傾眠などが報告されている3〜9).今回出現した副作用は,充血,めまい,搔痒感(アレルギー性結膜炎),傾眠,霧視で,これらは過去の報告3〜9)と同様だった.過去の,多剤併用療法へのブリモニジン点眼薬追加投与症例における副作用発現頻度は5.2%6),7.5%8),16.7%7)と報告されている.今回の副作用発現頻度は4.2%とやや低値だった.今回は後ろ向き調査のため,軽度の副作用が診療録に記載されていない可能性も考えられる.IV結論ブリモニジン点眼薬は多剤併用の眼圧下降効果不十分な原発開放隅角緑内障に追加投与されることが多い.多剤併用症例においても,追加投与や変更により,さらなる眼圧下降効果が期待できる.文献1)和田智之,BurkeJA,WheelerLA:ブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液0.1%)の特徴.医学と薬学67:547-555,20122)川瀬和秀:交感神経a1遮断薬,交感神経刺激薬,副交感神経作動薬.あたらしい眼科29:487-491,20123)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,20124)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.臨眼69:499-503,20155)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,20146)SchwartzenbergGWS,BuysYM:Efficacyofbrimonidine0.2%asadjunctivetherapyforpatientswithglaucomainadequatelycontrolledwithotherwisemaximalmedicaltherapy.Ophthalmology106:1616-1620,19997)俣木直美,齋藤瞳,岩瀬愛子:ブリモニジン点眼液の追加による眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科31:1063-1066,20148)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20149)林泰博,林福子:ブリンゾラミド点眼よりブリモニジン点眼への変更後6カ月間における有効性と安全性.臨眼68:1307-1311,2014表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景全症例追加群変更群変更追加群p値症例数2371595028─年齢(歳)65.6±13.965.0±14.667.0±12.666.5±12.60.7258投与前薬剤数2.3±1.02.3±1.02.4±1.02.0±1.30.5738投与前眼圧(mmHg)18.5±6.418.2±5.016.3±4.124.3±11.6*<0.01(Kruskal-Wallis検定)**表2追加群の投与前薬剤数(n=159)0剤5例(3%)1剤29例(18%)2剤46例(29%)3剤67例(42%)4剤10例(7%)5剤2例(1%)表3変更群の変更した点眼薬(n=50)配合点眼薬16例(32%)炭酸脱水酵素阻害点眼薬14例(28%)b遮断点眼薬11例(22%)PG関連点眼薬8例(16%)非選択性交感神経刺激薬1例(2%)表4投与理由追加群(n=159)変更群(n=50)変更追加群(n=28)眼圧下降効果不十分116例(73%)31例(62%)17例(61%)視野障害進行43例(27%)2例(4%)7例(25%)副作用出現0例(0%)17例(34%)4例(14%)図1追加群の眼圧図2変更群の眼圧図3変更追加群の眼圧〔別刷請求先〕砂川広海:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:HiromiSunagawa,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(123)10491050あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(124)(125)あたらしい眼科Vol.33,No.7,201610511052あたらしい眼科Vol.33,No.7,2016(126)

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン

2015年8月31日 月曜日

12185108,22,No.3《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer.《原著》あたらしい眼科32(8):1218.1222,2015cはじめに緑内障治療の目標は視野障害進行を停止あるいは緩徐にすることで,そのために眼圧を下降させる1,2).眼圧を下降させるために点眼薬の単剤投与から始めるが,単剤投与で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更するか,他の点眼薬を追加投与する3).追加投与を繰り返すと多剤併用となり,点眼回数が増えるに伴ってアドヒアランスが低下することが問題である4).アドヒアランスの観点からは2つの薬剤成分を含有する配合点眼薬の使用がすすめられる.2013年11月にブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬の配合点眼薬(アゾルガR)が新たに使用可能となった.このBTFCの日本人緑内障患者に対するチモロール点眼薬からの変更5,6),単剤投与7)については良好な眼圧下降効果が報告されている.しかし,臨床の現場でどのような症例にBTFCが使用1218(152)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン井上賢治*1藤本隆志*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科PrescriptionPatternofBrinzolamide1.0%/TimololMaleate0.5%FixedCombinationEyeDropsKenjiInoue1),TakayukiFujimoto1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,BTFC)が新規に処方された症例の特徴を後ろ向きに調査する.対象および方法:BTFCが新規に投与された117例195眼を対象とした.追加症例,変更症例,変更+他剤追加症例に分けて,投与3カ月後までの眼圧を調査した.結果:BTFC追加症例は7例9眼,変更症例は100例166眼,変更+他剤追加症例は10例20眼だった.変更症例はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬(以下,DTFC)からが43例72眼,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(以下,CAI)からが36例58眼,b遮断薬からが16例28眼などだった.DTFC,b遮断薬からの変更では眼圧は変更後に有意に下降した.b遮断薬+CAIからの変更では眼圧は変更前後で同等だった.結論:BTFCはDTFCからの変更,b遮断薬+CAIからの変更として多く使用されていた.BTFCの眼圧下降効果は良好だった.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthecharacteristicsinpatientswhowerenewlyadministeredbrinzo-lamide1.0%/timololmaleate0.5%fixedcombination(BTFC)eyedrops.Patientsandmethods:Thisstudyinvolved198eyesof117patientswhowerenewlyadministeredBTFCandwhoweredividedinto3groups.TheinstillationofBTFCwasaddedinthefirstgroup,whilethesecondgroupswitchedfromtheprevioustreatment,andthethirdgroupinvolvedswitchingplusaddingconcomitantly.Inallthreegroups,intraocularpressure(IOP)wascomparedfor3monthsafteradministration.Results:Nineeyeswereinthefirstgroup,166eyeswereinthesecondgroup,and20eyeswereinthethirdgroup.Inthesecondgroup,72eyeswereswitchingfromdorzol-amide/timololmaleatefixedcombination(DTFC),58eyesswitchingfromb-blockerspluscarbonicanhydraseinhibitor(CAI),and28eyesswitchingfromb-blockers.InthepatientsswitchingfromDTFCorb-blockers,IOPsignificantlydecreased.Inthepatientsswitchingfromb-blockersplusCAI,IOPwasequivalent.Conclusion:InthepatientsinwhomBTFCwasadministeredfrequentlywhileswitchingfromDTFCorb-blockersplusCAI,asignificantlybetterIOPreductioneffectwasobserved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1218.1222,2015〕Keywords:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,眼圧,変更,追加,処方.brinzolamide/timololfixedcombi-nation,intraocularpressure,switch,addition,administer. されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,BTFCが新規に投与された症例についてその処方パターンと眼圧下降効果を検討した.I対象および方法2013年11月.2014年7月に井上眼科病院に通院中で,BTFC(1日2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者117例195眼(男性45例72眼,女性72例123眼)を対象とした.平均年齢は66.8±13.1歳(平均±標準偏差)(26.94歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(狭義)140眼,正常眼圧緑内障30眼,続発緑内障16眼(ぶどう膜炎6眼,落屑緑内障4眼,血管新生緑内障4眼,Posner-Schlossman症候群2眼),原発閉塞隅角緑内障6眼,高眼圧症3眼であった.診療録から後向きに調査を行った.BTFCが新規に投与された症例を,BTFCが追加投与された症例(追加群),前投薬が中止となりBTFCが投与された症例(変更群),前投薬が中止となりBTFCが投与されるのと同時にさらに他の点眼薬が追加あるいは変更された症例(変更追加群)に分けた.BTFCが投与された理由について追加群,変更群,変更追加群各々で調査した.3群間で性別,年齢,緑内障病型,眼圧,前投薬数を比較した(c2検定,Kruskal-Wallis検定,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).前投薬数の解析では配合点眼薬は2剤とした.変更群では,DTFCからの変更,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更に分けて,変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらにDTFCからの変更では変更理由を眼圧下降効果不十分と副作用出現に分けて変更前と変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).有意水準はいずれもp<0.05とした.II結果追加群は7例9眼,変更群は100例166眼,変更追加群は10例20眼だった(図1).BTFCが投与された理由は,追加群と変更追加群では全例が眼圧下降効果不十分だった.変更群では眼圧下降効果不十分が90例150眼,副作用出現が10例16眼だった.性別は3群間に差がなかった(p=0.1739,c2検定)(表1).年齢は変更群が追加群に比べて有意に高齢だった(p=0.007,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).病型は原発開放隅角緑内障が変更群で追加群に比べて有意に多かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).眼圧は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に高かった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).前投薬は追加群で変更群と変更追加群に比べて有意に少なかった(p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).(153)変更群の内訳は,DTFCからの変更が43例72眼,b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が36例58眼,b遮断点眼薬からの変更が16例28眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が4例7眼などだった(図2).BTFCが投与された理由は,DTFCからの変更では眼圧下降効果不十分が33例56眼,副作用出現が10例16眼だった.副作用の内訳は掻痒感3例5眼,結膜充血2例4眼,刺激感2例3眼,霧視1例2眼,アレルギー性結膜炎1例1眼,めまい1例1眼だった.他の変更群は全例眼圧下降効果不十分だった.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の各々の点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬はイオン応答ゲル化チモロール点眼薬23眼,水溶性チモロール点眼薬9眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬8眼,カルテオロール点眼薬8眼,持続性カルテオロール点眼薬8眼,レボブノロール点眼薬2眼,炭酸脱水酵素阻害点眼薬はブリンゾラミド点眼薬44眼,ドルゾラミド点眼薬14眼だった.組み合わせとしてはイオン応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬19眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬8眼,持続性カルテオロール+ブリンゾラミド点眼薬7眼などだった.b遮断点眼薬からの変更症例の点眼薬の内訳は持続性カルテオロール点眼薬15眼,イオン応答ゲル化チモロール点眼薬7眼,熱応答ゲル化チモロール点眼薬4眼,カルテオロール点眼薬2眼だった.炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例の内訳はドルゾラミド点眼薬6眼,ブリンゾラミド点眼薬1眼だった.眼圧はDTFCからの変更では,変更前17.9±2.9mmHg,変更1カ月後17.2±3.7mmHg,3カ月後16.4±3.5mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図3).投与された理由別では,眼圧下降効果不十分例では変更前18.2±2.9mmHg,変更1カ月後17.9±3.6mmHg,3カ月後16.8±3.4mmHgで,変更前に比べて変更3カ月後に有意に下降した(p<0.001).副作用出現例では変更前16.5±2.6mmHg,変更1カ月後14.2±3.1mmHg,3カ月後14.8±3.7mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.001).b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では,変更前15.8±3.3mmHgと変更1カ月後15.7±3.5mmHg,3カ月後15.2±3.4mmHgで同等だった(p=0.16).b遮断点眼薬からの変更では,変更前18.0±5.4mmHg,変更1カ月後14.9±3.9mmHg,3カ月後14.9±3.8mmHgで変更後に有意に下降した(p<0.001).III考按BTFCが新規に投与された症例を検討したがさまざまな処方パターンがみられた.緑内障点眼薬治療の第一選択薬は強力な眼圧下降効果,全身性の副作用が少ない点,1日1回あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151219 表1追加群,変更群,変更追加群の患者背景追加群変更群変更追加群p値点眼の利便性よりプロスタグランジン関連点眼薬が使用されることが多い.今回の195眼のうち前投薬としてプロスタグランジン関連点眼薬が使用されていた症例は170眼(87.2%)であった.プロスタグランジン関連点眼薬で眼圧下降効果が不十分な症例では点眼薬の追加が行われる.追加投与の場合は,b遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬の追加,プロスタグランジン関連点眼薬を中止してプロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への変更が考えられる.今回の症例のうちb遮断点眼薬や炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更症例はプロスタグランジン関連点眼薬との併用が35眼中32眼(94.3%)と多かった.DTFCからの変更,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更でも,プロスタグランジン関連点眼薬との併用症例が130眼中120眼(92.3%)と多かった.配合点眼薬が使用可能となる前は,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬の併用が多かったと思われる.DTFCの登場により,プロスタグランジン関連点眼薬+DTFCの使用症例が増えたと考えられる.今後はプロスタグランジン関連点眼薬+b遮断点眼薬あるいはプロスタグランジン関連点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更が増加すると予想される.変更追加群,変更群,166眼,85.1%追加群,20眼,10.3%9眼,4.6%図1追加群,変更群,変更追加群の割合症例性別年齢病型(眼)眼圧(眼)前投薬数(眼)7例9眼100例166眼男性4例,女性3例男性35例,女性65例*54.9±23.5歳68.4±11.3歳(26.82歳)(40.90歳)**続発緑内障:5原発開放隅角緑内障(狭義):120正常眼圧緑内障:28正常眼圧緑内障:2続発緑内障:10原発開放隅角緑内障(狭義):1高眼圧症:1原発閉塞隅角緑内障:6高眼圧症:2****27.3±5.5mmHg(20.35mmHg)17.1±3.7mmHg(7.34mmHg)16.2±2.7mmHg(10.22mmHg)<0.0001****0.1±0.3剤3.1±0.9剤3.0±0.4剤(0.1剤)(1.5剤)(2.4剤)<0.000110例20眼男性6例,女性4例0.173959.2±15.5歳(41.77歳)0.007原発開放隅角緑内障(狭義):19続発緑内障:1<0.0001炭酸脱水酵素その他,257眼,4.2%20151050ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬,72眼,43.4%b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬,58眼,34.9%b遮断点眼薬,28眼,16.9%阻害点眼薬,1眼,0.6%図2変更群の内訳眼圧(mmHg)(*p<0.01,**p<0.0001)******ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬b遮断薬変更前変更1カ月後変更3カ月後図3変更群の変更前後の眼圧(*p<0.001,**p<0.0001,ANOVA,Bonferroni/Dunn検定)1220あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(154) 今回はDTFCからの変更がもっとも多かったが,DTFCからBTFCへ変更した症例の眼圧下降効果が報告されている8).Lanzlらは,各種点眼薬からBTFCへの変更症例を報告した8).ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬単剤からの変更症例(2,937例)では,眼圧は変更前18.5±4.1mmHgに比べて変更後16.5±3.2mmHgに有意に下降した.一方,プロスタグランジン関連点眼薬+ドルゾラミド2%/チモロール配合点眼薬からプロスタグランジン関連点眼薬+BTFCへの変更症例(823例)では,眼圧は変更前18.3±5.0mmHgに比べて変更後16.4±3.9mmHgに有意に下降した.今回の調査でも変更により眼圧は有意に下降したが,眼圧下降幅は0.7.1.5mmHgでLanzlらの報告8)(1.9.2.0mmHg)よりやや低値を示した.一方,DTFCとBTFCを別々に投与した際の眼圧下降効果は同等と報告されている9).副作用の比較では刺激感はDTFCに多く8,10),霧視はBTFCに多い10),あるいは同等だった9)と報告されている.一方,プロスタグランジン関連点眼薬/チモロール配合点眼薬においても,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬11.13)あるいはビマトプロスト/チモロール配合点眼薬13)への変更で眼圧が有意に下降したと報告されている.今回,変更により眼圧が下降した理由としてとくに副作用が出現した症例ではアドヒアランスが向上したことや,ドルゾラミドとブリンゾラミドの眼圧下降効果の差が考えられる.b遮断点眼薬と炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では変更前後で眼圧は変化なかった.Lanzlらは,ブリンゾラミド点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(252例)では眼圧が変更前18.4±3.4mmHgに比べて変更後16.6±2.9mmHgに有意に下降し,ドルゾラミド(2%)点眼薬+チモロール点眼薬からの変更症例(73例)では眼圧が変更前18.7±3.5mmHgに比べて変更後16.5±2.9mmHgに有意に下降したと報告した8).変更により点眼ボトル数や点眼回数が減るためにアドヒアランスが向上し,眼圧が下降することが考えられる.今回は変更前後で眼圧に変化がなかったが,元来アドヒアランスが良好な症例が多数含まれていた可能性がある.b遮断点眼薬からの変更では,炭酸脱水酵素阻害点眼薬が追加されたことと同様のため眼圧は有意に下降した.その眼圧下降幅は2.5.3.4mmHg6),3.2mmHg5),4.8mmHg8)と報告されており,今回(3.1mmHg)と同等だった.今回,BTFCの追加群は7例9眼だった.そのなかで前投薬でプロスタグランジン関連点眼薬を使用していた症例は1眼(11.1%)と少なかった.続発緑内障が9眼中5眼(55.6%)と多く,内訳としてぶどう膜炎が3眼,Posner-Schlossman症候群が2眼だった.ぶどう膜炎を発症している症例では,炎症を惹起するプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが使用されたと考えられる.また,白内(155)障手術後の眼圧上昇に対しても.胞様黄斑浮腫を惹起する可能性のあるプロスタグランジン関連点眼薬は使用しづらく,BTFCが今後使用されると考えられる.BTFCが投与された理由は,眼圧下降効果不十分と副作用出現だった.今回の後ろ向き研究の問題点として,投与を行った眼科医師は10名以上で,眼圧下降効果不十分の判定基準が定められておらず,個々の医師の判断によるものであった.今回,BTFCが新規に処方された症例の特徴を調査した.DTFCからの変更がもっとも多く,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更,b遮断点眼薬からの変更が続いた.DTFCからの変更,b遮断点眼薬からの変更では眼圧は有意に下降し,b遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬からの変更では眼圧は変化なかったことから,BTFCは良好な眼圧下降効果を有することが示された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19982)VanVeldhuisenPC,EdererF,GaasterlandDEetal;TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):7.Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20124)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-242,20095)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:389-399,20146)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20147)NakajimaM,IwasakiN,AdachiM:PhaseIIIsafetyandefficacystudyoflong-termbrinzolamide/timololfixedcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:149-156,20148)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,2011あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151221 9)ManniG,DenisP,ChewPetal:Thesafetyandefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedcombinationversusdorzolamide2%/timolol0.5%inpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma18:293300,200910)AugerGA,RaynorM,LongstaffS:PatientperspectiveswhenswitchingfromCosoptR(dorzolamide-timolol)toAzargaTM(brinzolamide-timolol)forglaucomarequiringmultipledrugtherapy.ClinOphthalmol6:2059-2062,11)添田尚一,宮永嘉隆,佐野英子ほか:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液への切替え.あたらしい眼科30:861-864,201312)林泰博,檀之上和彦:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼からトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼への切り替えによる眼圧下降効果.臨眼66:865-869,201213)CentofantiM,OddoneF,GandolfiS:Comparisonoftravoprostandbimatoprostplustimololfixedcombinationsinopen-angleglaucomapatientspreviouslytreatedwithlatanoprostplustimololfixedcombination.AmJOphthalmol150:575-580,2010***(156)

ブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3 カ月間投与の効果

2015年7月31日 金曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(7):1017.1021,2015cブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬3カ月間投与の効果新井ゆりあ*1塩川美菜子*1石田恭子*2井上賢治*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科Efficacyofa3-MonthAdministrationofBrinzolamide/TimololMaleateFixedCombinationYuriaArai1),MinakoShiokawa1),KyokoIshida2),KenjiInoue1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:炭酸脱水酵素阻害点眼薬(CAI)とb遮断薬を,ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した症例を検討する.対象および方法:CAIとb遮断薬を使用中の原発開放隅角緑内障37例37眼を対象とした.CAIとb遮断薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更した.眼圧を変更前と変更1,3カ月後に測定し,比較した.変更1カ月後にアドヒアランスのアンケートを施行した.結果:眼圧は変更前(17.1±2.5mmHg)と変更1カ月後(17.2±4.1mmHg),3カ月後(16.1±3.0mmHg)で同等だった(p=0.143).3例で投与中止となった.変更前後で点眼忘れに差はなく,60%が配合点眼薬を使い続けたいと答えた.結論:CAIとb遮断薬をブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬に変更したところ,3カ月間にわたり眼圧が維持でき,アドヒアランスや患者の満足感も良好だった.Purpose:Toinvestigatetheefficacyofswitchingfromcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)plusb-blockerstobrinzolamide/timololfixedcombination(BTFC)inopen-angleglaucomapatients.PatientsandMethods:Inthisstudy,37eyesof37open-angleglaucomapatientsusingCAIplusb-blockerswereinvestigated.EachparticipantwasinstructedtodiscontinueuseoftheCAIplusb-blockersandbeginusingBTFCwithoutawashingperiod.Intraocularpressure(IOP)at1-and3-monthspostswitchingmedicationswascomparedwiththatofatbaseline.At1-monthpostswitching,anevaluationofparticipantadherencewasconducted.Results:At1-and3-monthspostswitching,themeanIOPwas17.2±4.1mmHgand16.1±3.0mmHg,respectively,andwasequivalenttothatofatbaseline(17.1±2.5mmHg)(p=0.143).Threepatientsultimatelydroppedoutofthestudy.Thefrequencyofomissionofocularinstillationpostswitchingwasfoundtobeequivalenttothatofbeforetheswitch.Ofthepatientswhocompletedthestudy,60%preferredthecontinuoususeofBTFCoverCAIplusb-blockers.Conclusions:Inopen-angleglaucomapatientswhoswitchedtoBTFCfromCAIplusb-blockers,IOPwaseffectivelymaintainedandocularinstillationwaswell-tolerated,morestronglyadheredto,andpreferredoverthepreviousmedication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1017.1021,2015〕Keywords:ブリンゾラミド・チモロール配合点眼薬,炭酸脱水酵素阻害点眼薬,b遮断点眼薬,眼圧,変更.brinzolamide/timololfixedcombination,carbonicanhydraseinhibitor,b-blockers,intraocularpressure,switching.はじめにブリンゾラミドとマレイン酸チモロールの配合点眼薬がわが国で発売されてから約1年が経過した.治療の選択肢が増えた一方,逆に選択に難渋することも少なくない.選択の一助として,それぞれの点眼薬の特性を知っておくことは,治療に際して有用である.海外においては,既存の緑内障点眼薬からブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更,あるいは追加投与した際の有効性が報告されている1.3)が,日本人を対象とした報告は少ない4,5).今回,炭酸脱水酵素阻害点眼薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)とb遮断点眼薬を使用中の症例に対して,〔別刷請求先〕新井ゆりあ:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:YuriaArai,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(95)1017 ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更を行い,短期間(3カ月間)の眼圧下降効果,アドヒアランスを前向きに検討した.I対象および方法2013年11月.2014年9月に井上眼科病院を受診した原発開放隅角緑内障で,CAIとb遮断点眼薬を使用中の37例37眼(男性13例,女性24例)を対象とした.CAIとb遮断点眼薬は各々3カ月間以上継続して使用している症例としたが,平均使用期間は66.8±41.9カ月(平均値±標準偏差)(15.173カ月)であった.平均年齢は71.1±10.4歳(40.88歳)であった.片眼該当症例は患眼を,両眼該当症例は右眼を対象とした.白内障手術以外の内眼手術を過去に施行した症例は除外した.白内障手術は11例で施行していたが,全例で手術後12カ月間以上経過していた.緑内障のレーザー治療は2例で施行していたが,全例でレーザー後12カ月間以上経過していた.その他に眼圧測定が正確に行うことができないと考えられる角膜疾患を有する症例やステロイド使用症例は除外した.CAIとb遮断点眼薬を,washout期間なしでブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬(1日2回朝・夜点眼)に変更した.CAIとb遮断点眼薬以外の点眼薬は継続使用とした.眼圧を点眼薬変更前と変更1カ月後,3カ月後にGoldmann圧平眼圧計で測定した.眼圧測定時間は症例ごとにほぼ同一の時間とした.変更前2回の平均眼圧と,変更1,3カ月後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).さらに点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下と4剤以上に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬の1日の点眼回数により1回群(イオン応答ゲル化チモロール,熱応答ゲル化チモロール,持続性カルテオロール,レボブノロール)と2回群(カルテオロール,水溶性チモロール,ニプラジロール)に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).なお,1日1回点眼のb遮断点眼薬の点眼時間は朝で統一した.眼圧測定時間は午前と午後に分けて各々変更前後の眼圧を比較した(ANOVA,Bonferroni/Dunn検定).眼圧測定日の点眼は通常どおりに問1.①変更後に点眼を忘れたことはありますか?②変更前の点眼薬(どれか1つでも)を忘れたことはありますか?問2.①変更前の点眼薬と比較してどちらが良いですか?②その理由を聞かせてください。(複数回答可)図1点眼変更1カ月後のアンケート調査決められた時間に行ってもらった.変更1カ月後に,アドヒアランスについてのアンケートを施行し,点眼変更前後で比較した(Fisherの直接法検定)(図1).アンケートは検査員が文書を患者に渡し,記載してもらった.点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬変更前後の点眼忘れに関連があるかを調査した(Spearmanの順位相関係数).また,眼圧下降幅(2mmHg以上の下降,2mmHg未満の下降あるいは上昇,2mmHg以上の上昇)とアンケート結果の関連を調査した(c2検定).有意水準はいずれも,p<0.05とした.副作用,脱落例を来院時ごとに調査した.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認され研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に行った.なお,本研究はオープンラベル,盲検なしの前向き研究である.II結果1.点眼変更前の使用薬剤数点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬数は,2剤1例(2.7%),3剤19例(51.4%),4剤14例(37.8%),5剤3例(8.1%)で平均3.5±0.7剤であった.2.点眼変更前の使用薬剤点眼薬変更前に使用していた緑内障点眼薬の内訳は,b遮断点眼薬では,イオン応答ゲル化チモロール(0.5%)13例(35.1%),持続性カルテオロール(2%)6例(16.2%),熱応答ゲル化チモロール(0.5%)6例(16.2%),カルテオロール(2%)5例(13.5%),水溶性チモロール(0.5%)5例(13.5%),ニプラジロール1例(2.7%),レボブノロール1例(2.7%)であった.CAIでは,ブリンゾラミド28例(75.7%),ドルゾラミド(1%)9例(24.3%)であった.3.眼圧(全症例)変更前2回の平均眼圧は17.1±2.5mmHgであった.変更1カ月後は17.2±4.1mmHg,3カ月後は16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3835)(図2).眼圧変化の内訳は,変更1カ月後では2mmHg以上の下降が10例(27.8%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が20例(55.6%),2mmHg以上の上昇が6例(16.7%)であった(図3).変更3カ月後では,2mmHg以上の下降が12例(35.3%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が19例(55.9%),2mmHg以上の上昇が3例(8.8%)であった.なお,1例は変更直後に眼瞼浮腫が出現し,点眼が中止となったため変更1カ月後の眼圧はこの症例を除外した36例で検討した.さらに2例は変更1カ月後に眼圧が上昇し,点眼が中止となったため変更3カ月後の眼圧はこれら2例を除外した34例で検討した.4.眼圧(サブ解析)点眼薬変更前の使用薬剤数が3剤以下の20症例では,眼圧は変更前16.3±2.1mmHg,変更1カ月後15.7±2.7mmHg,1018あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(96) 眼圧(mmHg)25201510NS50点眼変更眼変更1カ月後変更3カ月後図2点眼薬変更前後の眼圧あり,3例,8.1%あり,8例,21.6%なし,なし,34例,91.9%78.4%29例,変更前変更後図4アンケート結果(点眼忘れ)3カ月後15.7±2.9mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.4393).一方,4剤以上の17症例では,眼圧は変更前18.0±2.7mmHg,変更1カ月後18.9±4.8mmHg,3カ月後16.7±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.1002).点眼薬変更前に使用していたb遮断点眼薬が1日1回製剤の26症例では,眼圧は変更前17.4±2.3mmHg,変更1カ月後17.2±4.1mmHg,3カ月後16.5±2.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.2020).1日2回製剤の11症例では,眼圧は変更前16.4±3.1mmHg,変更1カ月後17.2±4.4mmHg,3カ月後15.2±3.7mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3598).眼圧測定時間が午前の9症例では,眼圧は変更前17.3±2.1mmHg,変更1カ月後17.2±5.2mmHg,3カ月後16.3±3.2mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.3898).午後の28症例では,眼圧は変更前17.0±2.7mmHg,変更1カ月後17.2±3.8mmHg,3カ月後16.1±3.0mmHgで,変更前後で変化はなかった(p=0.0906).5.中止症例中止症例は3例(8.1%)であった.変更直後に眼瞼浮腫が出現した1例と変更1カ月後に眼圧が上昇した2例であった.眼瞼浮腫が出現した症例は,従来のイオン応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ眼瞼浮腫は速やかに消退した.眼圧が上昇した症例は,1例は点眼変更前眼圧2mmHg以上下降,12例,35.3%2mmHg以上下降,10例,27.8%2mmHg以上上昇,3例,8.8%2mmHg以上上昇,6例,16.7%2mmHg未満の下降あるいは上昇,19例,55.9%2mmHg未満の下降あるいは上昇,20例,55.6%変更1カ月後変更3カ月後図3点眼薬変更後の眼圧変化無回答,1例,2.7%変更前,5例,13.5%変更後,21例,56.8%どちらでも良い,10例,27.0%図5アンケート結果(どちらの点眼薬を続けたいか)は21.5mmHgだったが,変更1カ月後に30mmHgに上昇し,従来の熱応答ゲル化チモロールとブリンゾラミドに戻したところ,その1カ月後に21mmHgに下降した.もう1例は,点眼変更前眼圧は20.5mmHgだったが,変更1カ月後に26mmHgに上昇し,従来の水溶性チモロールとドルゾラミドに戻したところ,その2カ月後に22mmHgに下降した.6.アンケート(変更1カ月後に施行,全症例)a.点眼変更前後で点眼忘れの有無(図4)「点眼忘れがあった」と回答したのは,変更前は8例(21.6%),変更後は3例(8.1%)で,変更前後で同等だった(p=0.1898).b.点眼変更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいか(図5)変更前の点眼薬(b遮断点眼薬とCAIの併用)を続けたい5例(13.5%),変更後の配合点眼薬を続けたい21例(56.8%),どちらでも良い10例(27.0%),無回答1例(2.7%)であった.変更前後で薬剤を比較し,変更後の点眼薬の良かった点は,点眼回数の少なさ17例,かすみの軽減1例,目の刺激感が少ない3例,点眼時の不快感が軽減された1例,価格面での負担が減った1例だった.一方,気になる点は,充血2例,眩しく見える1例,他の点眼薬とキャップの色が同じで紛らわしい1例であった.(97)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151019 c.CAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼忘れチモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は変更点眼薬変更前のCAIとb遮断点眼薬の使用期間と点眼薬前18.7±3.5mmHgから変更後16.5±2.9mmHgと,いずれ変更前後の点眼忘れは点眼薬変更前(p=0.4338,r=.も有意に下降したと報告した.今回は,CAIとb遮断点眼0.133),点眼薬変更後(p=0.6206,r=0.085)ともに関連が薬からブリンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へなかった.の変更で,変更1カ月後では83.3%,3カ月後では91.2%のd.変更後の眼圧下降幅とアンケート結果症例で眼圧は維持,あるいは2mmHg以上の下降を示した.変更1カ月後の眼圧下降幅とアンケート結果の関連は,点配合点眼薬への変更により大多数の症例で眼圧下降効果を保眼忘れありでは変更前は2mmHg以上の下降が2例(25.0つことができると考えられる.%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が5例(62.5%),2アンケート調査によれば,変更前後で点眼忘れの有無に関mmHg以上の上昇が1例(12.5%)だった.3群で点眼忘れして有意差を認めなかったものの,「変更して良かった点」に差はなかった(p=0.8936,c2検定).変更後は2mmHgにはまず点眼回数の少なさがあげられた.また,今後も配合以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下降あるいは上昇点眼薬を使い続けたいと答えた患者が56.8%であった.患が2例(66.7%),2mmHg以上の上昇が1例(33.3%)だっ者の満足感が高く,アドヒアランスの向上に繋がることを期た.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).待したい.今回点眼薬変更後にどのような症例で眼圧が下降一方,点眼忘れなしでは変更前は2mmHg以上の下降が8するかを各々の因子別(点眼薬変更前の使用薬剤数,点眼薬例(27.6%),2mmHg未満の下降あるいは上昇が15例(51.7変更前に使用していたb遮断点眼薬の点眼回数,眼圧測定%),2mmHg以上の上昇が5例(17.2%),中止が1例(3.4時間)に検討したが差はなかった.また,アンケート調査に%)だった.3群で点眼忘れに差はなかった(p=0.8936,c2よる点眼忘れやどちらの点眼薬を今後続けたいかの項目と眼検定).変更後は2mmHg以上の下降が10例(29.4%),2圧下降幅の関連を検討したが関連はなかった.つまり点眼薬mmHg未満の下降あるいは上昇が18例(52.9%),2mmHgの変更により全体では眼圧を維持できるが,個々の症例にお以上の上昇が5例(14.7%),中止が1例(2.9%)だった.3いては上昇したり,維持したり,下降したりする.しかし,群で点眼忘れに差はなかった(p=0.4660,c2検定).点眼変どのような症例で眼圧が下降するかについては明確な因子を更前後のどちらの点眼薬を今後続けたいかは,変更前の点眼検出することはできなかった.薬では2mmHg以上の下降が0例(0%),2mmHg未満の下Nagayamaら4)は,副作用として,点状表層角膜炎(1%),降あるいは上昇が1例(20.0%),2mmHg以上の上昇が3霧視(1%),眼刺激感(1%),眼掻痒感(1%),味覚異常(1例(60.0%),中止例が1例(20.0%)だった.変更後の配合%)を報告している.ブリンゾラミドおよびチモロールをそ点眼薬では2mmHg以上の下降が5例(23.8%),2mmHgれぞれ単剤で併用した際には霧視は3%,眼刺激感は2%で未満の下降あるいは上昇が15例(71.4%),2mmHg以上の出現した.今回の調査では,眼瞼浮腫,充血,羞明,眼掻痒上昇が1例(4.8%)だった.どちらでも良いでは2mmHg感などが副作用として出現した.CAIやb遮断点眼薬で報以上の下降が4例(40.0%),2mmHg未満の下降あるいは告されている徐脈や血圧の変動,眩暈などの全身性の副作用上昇が4例(40.0%),2mmHg以上の上昇が2例(20.0%)は出現しなかったが,変更により薬剤成分が変化していないだった.2mmHg以上の上昇が変更前点眼薬を有意に好んだためと考えられる.(p=0.0088,c2検定).以上より,CAIとb遮断点眼薬の併用症例に対してブリIII考按ンゾラミド・マレイン酸チモロール配合点眼薬へ変更することで,眼圧下降は維持され,全身性の副作用はみられなかっブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬の追た.しかし,今回は3カ月間と短期間の調査であった.引き加・変更による眼圧下降効果については国内外で報告されて続き,長期継続使用時における安全性や,眼圧下降効果の継いる1.5).続的な検討が必要であろう.Kaback,Syedら1,2)によると,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬は,ベースラインから8.0.8.7mmHgの眼圧下降を示し,ブリンゾラミドまたはチモロー利益相反:利益相反公表基準に該当なしル単独投与に対して優越性が認められた.Lanzlら3)は,ブリンゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミ文献ド・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬への変更で,眼圧は1)KabackM,ScoperSV,ArzenoG:Intraocularpressure変更前18.4±3.4mmHgから変更後16.6±2.9mmHg,ドルloweringefficacyofbrinzolamide1%/timolol0.5%fixedゾラミドおよびチモロールの単剤併用からブリンゾラミド・combinationcomparedwithbrinzolamide1%andtimolol1020あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(98) 0.5%.Ophthalmology115:1728-1734,20082)SyedMF,LoucksEK:Updateandoptimaluseofabrinzolamide-timololfixedcombinationinopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol5:1291-1296,20113)LanzlI,RaberT:Efficacyandtolerabilityofthefixedcombinationofbrinzolamide1%andtimolol0.5%indailypractice.ClinOphthalmol5:291-298,20114)NagayamaM,NakajimaT,OnoJ:Safetyandefficacyofafixedversusunfixedbrinzolamide/timololcombinationinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinOphthalmol8:219-228,20145)YoshikawaK,KozakiJ,MaedaH:Efficacyandsafetyofbrinzolamide/timololfixedcombinationcomparedwithtimololinJapanesepatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertention.ClinOphthalmol8:389-399,2014***(99)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151021