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遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher 症候群の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):404.409,2023c遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher症候群の1例篠原大輔*1林孝彰*1須田真千子*2鈴木正彦*2中野匡*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター脳神経内科*3東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofMillerFisherSyndromeComplicatedbyDelayedFacialNervePalsyDaisukeShinohara1),TakaakiHayashi1),MachikoSuda2),MasahikoSuzuki2)andTadashiNakano3)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofNeurology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:遅発性に顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例について報告する.症例:患者はC26歳,男性.両眼性複視を自覚し,近医眼科を受診,両眼の外転障害を指摘された.頭部CMRIでは原因となる異常を認めず,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科受診となった.初診時所見は両眼の外転障害であったが,第C7病日に両眼の全方向性の眼球運動障害を認めた.神経学的診察で深部腱反射消失と失調を認め,Fisher症候群が強く疑われたが,上下肢の運動・感覚神経障害を疑う自覚症状もあり,Guillain-Barre症候群も否定できないため,入院後(第C12病日)に免疫グロブリン大量静注療法を行った.同日より遅発性に左末梢性顔面神経麻痺を認めた.眼球運動障害や四肢症状の改善がみられた後,ステロイドなどの追加治療を要さず,第C54病日に顔面神経麻痺の改善を認めた.結論:免疫グロブリン大量静注療法後に遅発性顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例を報告した.遅発性顔面神経麻痺に対しては,必ずしも追加治療を必要としない症例も存在する.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCMillerCFishersyndrome(MFS)complicatedCbyCdelayedCfacialCnerveCparalysis.CCasereport:A26-year-oldmalecomplainedofbinoculardiplopiaandvisitedanophthalmologyclinic,andexami-nationrevealedbilateralabductionde.ciency.At3dayspostonset,thepatientwasreferredtoourophthalmologydepartmentforfurtherexaminationandtreatment,althoughabrainMRIshowednocausativeabnormality.Uponexamination,bilateralabductionde.ciencywasfound,andbilateralomnidirectionalophthalmoplegiawasobserved4dayslater.Neurologicalexaminationrevealedalossofdeeptendonre.exandataxia,andMFSwasstronglysus-pected.Sincethereweresubjectivesymptomssuggestingmotorandsensoryneuropathyoftheupperandlowerlimbs,CandCsinceCGuillain-BarreCsyndromeCcouldCnotCbeCruledCout,Chigh-doseCintravenousimmunoglobulin(IVIG)Ctherapywasinitiated5dayslater.Onthatsameday,delayedleftperipheralfacialnerveparalysisdeveloped,yetafterCimprovementCofCtheComnidirectionalCophthalmoplegiaCandClimbCsymptoms,CtheCfacialCnerveCparalysisCalsoCimproved42dayslaterwithoutadditionaltreatment,suchassteroids.Conclusion:Our.ndingsrevealedacaseofMFSCcomplicatedCbyCdelayedCperipheralCfacialCnerveCparalysisCafterChigh-doseCIVIGCtherapyCinCwhichCadditionalCtreatmentfortheperipheralfacialnerveparalysiswasnotrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):404.409,C2023〕Keywords:Fisher症候群,遅発性顔面神経麻痺,外眼筋麻痺,免疫グロブリン大量静注療法.MillerCFisherCsyn-drome,delayedfacialnerveparalysis,ophthalmoplegia,high-doseintravenousimmunoglobulintherapy.Cはじめに性末梢神経障害とは,自己免疫性機序により,末梢神経の髄Fisher症候群(MillerCFishersyndrome:MFS)は,急性鞘あるいは軸索の障害をきたす疾患群をさす.MFSは,に発症する外眼筋麻痺,運動失調,深部腱反射の低下・消失Guillain-Barre症候群(Guillain-Barresyndrome:GBS)のを三徴とする免疫介在性末梢神経障害である1,2).免疫介在臨床亜型と考えられているが,数カ月でほとんどの症状が自〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC404(122)然軽快し予後良好な疾患である3).外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める症例もあり,MFSではC32%に顔面神経麻痺を合併すると報告されている4).多くはCMFS発症早期での合併例であるが,まれに外眼筋麻痺や運動失調症状のピーク直後,もしくは改善傾向を示したのち,遅発性に顔面神経麻痺を発症するケースがあり,追加治療を行った報告が散見される5,6).今回,遅発性に顔面神経麻痺を合併したが追加治療を必要とせずに改善したCMFSのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:26歳,男性.主訴:両眼性複視.現病歴:3日前に焦点の合いづらさを自覚した.2日前,右眼で見た際に物が左に傾いて見え,歩きづらくなった.前日起床時に複視を自覚し,近医眼科を受診した.両眼外転障害を指摘され,近医内科で頭部CMRI検査を施行したが,明らかな異常を認めなかった.洗髪時の両手指の動かしづらさ,両手関節以遠の異常感覚,歩行時の左下肢脱力の自覚もあり,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:健康診断で高血圧,肝機能障害,尿蛋白の指摘はあったが,治療歴はなし.初診時眼所見:矯正視力は右眼(1.2C×sph-6.25D(cylC.0.75DCAx180°),左眼(1.5C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx180°)であった.眼圧は正常範囲内であった.両眼の外転障害を認め,正面視では左眼固視,右眼は内斜していた.Hess赤緑試験でも内斜と外転制限の所見を認めた(図1).前眼部,中間透光体ならびに眼底に特記すべき所見はみられなかった.血液検査所見:白血球C9,800/μl,CRP0.64Cmg/dl,血沈(1時間値)43Cmm,赤血球数,血小板数,凝固系,腎機能,電解質値に異常なし,AST50CU/l,ALT88CU/l,LDH229U/l,T-Bil0.9mg/dl,ALP83U/l,Cc-GTP111U/l,CHbA1c6.2%,リウマチ因子陰性,抗アセチルコリン受容体抗体陰性,TSH刺激性レセプター抗体陰性,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性で,炎症反応,肝胆道系酵素の軽度上昇,軽度の耐糖能異常以外に明らかな異常所見はなかった.頭部・眼窩CMRI検査所見:頭蓋内・眼窩内に眼球運動障害の原因となる明らかな異常所見を認めなかった.経過:第C7病日,頭痛とふらつき,手指の異常感覚の増悪を自覚し再受診となった.診察上,両眼とも下転は比較的保たれていたが,両眼の全方向性の眼球運動制限を認めた.輻湊も不能であった.同日,全身症状を含めた精査目的に当院脳神経内科へ紹介した.神経学的所見として,膝蓋腱・アキレス腱・上腕二頭筋・上腕三頭筋で腱反射の消失を認め,Mann試験は陽性であった.そのほか,眼球運動障害以外の脳神経の異常や,上下肢の運動障害,温痛覚・触覚・位置覚・振動覚の異常は認めなかった.脳神経内科で追加施行した血液検査所見は,白血球10,300/μl,白血球分画は,好中球C76.4%,リンパ球C15.0%,単球7.3%,好酸球1.0%,好塩基球0.3%,Alb4.8g/dl,空腹時血糖C120Cmg/dl,IgG2,148Cmg/dl,IgA408Cmg/dl,CIgM229Cmg/dl,C3155Cmg/dl,C421Cmg/dl,CH50C69.5U/ml,ACE10.2CU/l,PR3-ANCA1.0CU/ml未満,MPO-ANCA1.0CU/ml未満,可溶性CIL-2レセプターC319CU/ml,抗ds-DNAIgG抗体10IU/ml未満,抗Sm抗体陰性,抗SS-A抗体陰性,抗CSS-B抗体陰性,梅毒CRPR陰性,梅毒TP抗体陰性,T-SPOT.TB陰性,Cb-D-グルカンC6.0Cpg/ml未満,ビタミンCB12681Cpg/ml,葉酸C7.4Cng/ml,ビタミンCB141Cng/mlであった.脳脊髄液検査所見は,細胞数C1個/μl,糖C81Cmg/dl,蛋白C24.8Cmg/dl,Alb159.9Cμg/ml,IgG2.7Cmg/dl,ミエリン塩基性蛋白C40.0Cpg/mlであり,蛋白細胞解離やCIgGindexの上昇を認めなかった.脳脊髄液の墨汁染色検査は陰性で,オリゴクローナルバンドも陰性であった.臨床経過から,外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失の三徴を満たし,MFSが強く疑われた.詳細な問診で,当院眼科初診のC1カ月前に下痢症状があったことが判明し,先行感染のエピソードが確認された.しかし,上下肢の運動・感覚障害の自覚症状もあり,GBSの可能性も考慮され,精査加療目的で第C9病日,脳神経内科に入院となった.入院時の瞳孔所見として,瞳孔径に左右差はなく,直接対光反応は迅速で左右差はなかった.同日施行した頭部造影MRI検査で,明らかな頭蓋内の異常や眼球運動障害の原因となる所見を認めなかった.神経伝導速度検査は,右正中神経・尺骨神経,左脛骨神経・腓腹神経で測定し,運動・感覚ともに遠位潜時・振幅・伝導速度・F波の出現率に異常を認めなかった.入院後も両眼の全方向性眼球運動障害を認め改善はみられなかった.このときのC9方向眼位写真を示す(図2).第C12病日から免疫グロブリン大量静注療法(intrave-nousimmunoglobulin:IVIg)として献血ヴェノグロブリンCIH400mg/kg/日を5日間施行した.身長171cm,体重118Ckg,BMIC40.4Ckg/m2と肥満があり,IVIgに伴う血栓症リスクが大きいと考え,ヘパリンナトリウム製剤を併用した.IVIg開始直後(第C12病日),左眼の睫毛徴候に加え,飲みものが口から漏れる,口笛が吹けないなどの訴えもあり左末梢性顔面神経麻痺と診断された.左眼の異物感や眼痛などの訴えはなかった.第C13病日,脳神経内科で追加施行した血清学的検査から抗ガングリオシド抗体のなかで,抗CGQ1bIgG抗体および抗CGT1aIgG抗体が陽性であることが判明し,MFSと確定診断された.その後は増悪なく経過し,両眼外転障害は改善傾向を認め,第C26病日に退院した.経図1眼科初診時(発症第3病日)のHess赤緑試験両眼の外転制限を認める.図2脳神経内科入院時(発症第9病日)の9方向眼位写真両眼とも下転は比較的保たれているが,両眼の全方向性の眼球運動障害を認める.過中,一過性に軽度の肝酵素上昇や尿蛋白を認めたが,その後改善した.IVIg前後の血清中CIgGの変化はC2,148Cmg/dl(治療前)からC5,628Cmg/dl(治療C6日後)であった.第C54病日,左眼睫毛徴候陽性も,口角の左右差は消失し,顔面神経麻痺の回復傾向を認めた.治療開始約C6週後(第C56病日),水平複視は残存していたが,Hess赤緑試験全方向の眼球運動障害の改善を認めた(図3).また,軽度の左眼閉瞼不全はみられたものの明らかな角膜上皮障害はみられなかった.治療開始C10週後(第C82病日)には左末梢性顔面神経麻痺(睫毛徴候)は消失した.その後再燃なく経過し,治療開始C4.5カ月後(第C147病日)の眼科最終受診には複視は消失し,Hess赤緑試験でも明らかな眼球運動制限はみられなかった(図4).経過中,両眼ともに視力障害はなかった.II考按本症例の診断に関して,外眼筋麻痺に伴う複視で発症し,運動失調と深部腱反射の消失を認め,MFSの三徴を呈しており,当初は典型的なCMFSと考えられた.MFSでは多くのケースで複視またはふらつきで発症し,三徴のみの場合もあるが,三徴の揃わない不全型CMFSも報告されている.通常,MFSと診断された場合,無治療で経過観察となる.しかし,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBickersta.型脳幹脳炎(Bickersta.Cbrainstemencephalitis:BBE)への移行例の報告や,MFSと咽頭・頸部・上腕型CGBS(pharyngeal-cervi-cal-brachialCvariantCofGBS:PCB-GBS)とのオーバーラップ例などの臨床病型も報告されている2,4,7).本症例も経過中,上肢優位に四肢運動・感覚障害の自覚症状があり,MFS単図3治療開始約6週後(発症第56病日)のHess赤緑試験水平複視は残存している,全方向の眼球運動障害の改善を認める.図4治療開始4.5カ月後(発症第147病日)のHess赤緑試験軽度の内斜は残存しているものの,明らかな眼球運動制限はみられない.独ではなく外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例であった可能性は否定できない.神経伝導速度検査では明らかな異常を認めなかったが,発症早期には異常がみられない報告例もあり3,8),PCB-GBSとのオーバーラップ例を疑う場合には検査を複数回行うことが重要と考えられている.MFSの原因に関してはCCampylobacterCjejuniやCHae-mophilusin.uenzaなどの先行感染の関与が示唆されており,急性期のCMFS患者の約C80.90%でガングリオシドGQ1bに対するCIgG抗体が血清中に検出される2,9).本症例でも先行感染を確認した.先行感染病原体の抗原刺激により抗体が産生され,それが神経組織の共通構造を有する糖鎖抗原に作用して神経障害が発症すると考えられている2).また,神経組織における抗原の局在が臨床病型を規定していると考えられており,GQ1b糖鎖抗原が外眼筋を支配する脳神経の傍絞輪部や後根神経節の一部の大型細胞,筋紡錘のなかのIa感覚線維に富んだ領域に多く存在することが三徴を引き起こす原因と考えられている2).GQ1bはガングリオシドGT1aとも交差反応を示し,抗CGT1a抗体陽性例のC94%で抗CGQ1b抗体も検出される10).また,抗CGT1a抗体はCPCB-表1遅発性顔面神経麻痺を認めたFisher症候群の過去の報告例との比較渡邊ら5)本症例症例1症例2症例3年齢26歳35歳46歳46歳性別男性男性女性女性抗ガングリオシド抗体CGQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgGCGT1aIgGCGT1aIgGCGM1IgM初期治療CIVIg免疫吸着CIVIgなし顔面神経麻痺発症日16病日(左側)12病日(右側)9病日(左側)8病日(両側)顔面神経麻痺に対する治療なしステロイド(パルス,ステロイド(パルス,CIVIg内服),免疫吸着内服)顔面神経麻痺回復開始日21病日20病日20病日顔面神経麻痺消失日82病日24病日31病日175病日以降抗CGD抗体:抗ガングリオシド抗体,IVIg:intravenousimmunoglobulin(免疫グロブリン大量静注療法).GBSとの関連性が指摘されている10).本症例では抗CGQ1b抗体,抗CGT1a抗体ともに陽性であり,純粋なCMFSの病態だけでなく,MFSにCPCB-GBSがオーバーラップしていたとしても矛盾はないと考えられる.一方でCMFSのC24.50%に四肢の異常感覚を合併したとの報告もあるが4,9),抗GT1a抗体の関与については言及されていない.抗CGQ1b抗体陽性のCMFSは,無治療でも自然軽快し比較的予後良好と考えられており,無治療で経過観察されることが多い2).四肢脱力や中枢神経障害を合併した場合には,GBSに準じて免疫療法(IVIgや血漿交換療法)を行うことが推奨されている11).IVIgは血漿交換療法に比べ患者負担が少ないことや小児の川崎病に対しても施行されていることから,現在CGBSの第一選択薬となっている.本症例も当初は典型的なCMFSと思われたが,四肢の運動・感覚障害のエピソードや,急速な外眼筋麻痺の増悪もあり,早期にCIVIgを行った.IVIgの作用機序としては,IgGが結合するCFcCc受容体を介したマクロファージの活性化の阻害,補体を介する免疫反応の抑制,抗イディオタイプ抗体による自己抗体の制御,炎症性サイトカインの制御などが考えられている12).免疫療法を実施するのであれば,早い段階で行うことが望ましく,発症早期の段階で外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBBEへの移行の可能性を評価することが重要で,神経症状悪化の進行が速いCMFS症例では免疫療法の実施を積極的に検討する必要がある.MFSの多数例を検討した臨床研究で,MoriらのC50例の検討では,発症からC6カ月の時点で運動失調と外眼筋麻痺は50例全例で消失したと報告されている4).また,大野らはMFSのC19例を解析し,経過を追跡することができたC18例において複視消失までの期間は平均C70日,無治療で経過観察を行ったC17例の複視消失までの期間も平均約C70日で,最長でもC180日であったと報告している9).本症例ではCIVIgを施行したものの,複視の発症から消失までに約C150日を要しており,IVIgによって症状改善までの期間が短縮されたかは不明である.しかし,IVIg開始後に顔面神経麻痺以外の症状は早期に改善傾向を示しており,自然経過による改善も否定はできないが,IVIgによる一定の効果はあった可能性が考えられる.前述のとおり,MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める場合もあり,眼瞼下垂(58%),瞳孔異常(42%),顔面神経麻痺・球麻痺(30%)の順に合併しやすい11).Moriらは,MFSのC32%(16/50例)に顔面神経麻痺を合併し,12%(6/50例)が他の症状が回復したあとに顔面神経麻痺が出現したと報告している4).ほかにも外眼筋麻痺や運動失調の症状がピークに達した,もしくは改善後に遅発性に顔面神経麻痺をきたした症例の報告も散見され,Bell麻痺やCRam-say-Hunt症候群も鑑別となり,ステロイド,IVIgもしくはバラシクロビルが使用されていた5,6).渡邊ら5)が報告した遅発性顔面神経麻痺を合併したCMFSのC3例と本症例を比較した(表1).MFSに対する初期治療はC2例で施行され,遅発性顔面神経麻痺の発症は第C8病日から第C12病日でみられ,全例でステロイド治療もしくはCIVIg治療が施行されていた.遅発性顔面神経麻痺の回復は,3例いずれも第C20.21病日で始まり,本症例の第C54病日に比べ短縮していた.一方,遅発性顔面神経麻痺の消失日に関して,MFSの初期治療が施行されなかったC1例で第C175病日でも閉瞼不全が残存していたが,他のC2例では第C24からC31病日で消失し,本症例に比べ短縮していた.Tatsumotoらは,GBS(195例)とMFS(68例)における遅発性顔面神経麻痺について検討しており,GBSのC28%(55/195例)そしてCMFSのC18%(12/68例)で顔面神経麻痺を合併し,GBSのC12例(6%)がそしてMFSのC4例(6%)が遅発性に生じたと報告している13).また,遅発性顔面神経麻痺合併例のC16例全例でステロイドなどの追加治療を必要とせず,遅発性顔面神経麻痺発症からC3週以内に改善したと報告している13).本症例も他症状がピークに達したのちに顔面神経麻痺を発症しており,遅発性の定義に当てはまると考えられ,初回のCIVIgのみで,追加治療を必要とせずに回復しており,Tatsumotoらの既報13)と同様の結果であった.以上まとめると,MFSに対する初期治療の有無にかかわらず,遅発性顔面神経麻痺は発症しうること,遅発性顔面神経麻痺に対する治療の有無にかかわらずほとんどの症例で短期的に消失する可能性があるものの,遷延化した場合,追加治療を検討する必要があると考えられた.MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害の合併例が報告されていること,また,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例などの臨床病型も存在することから,MFSに対しては,眼科医と脳神経内科医が連携し診療にあたることが重要であると考えられた.文献1)FisherM:AnCunusualCvariantCofCacuteCidiopathicCpoly-neuritis(syndromeCofCophthalmoplegia,CataxiaCandare.exia).NEnglJMedC255:57-65,C19562)千葉厚郎:Fisher症候群と抗CGQ1b抗体.神経眼科C33:C161-170,C20163)山岸裕子,楠進:Guillain-Barre症候群および関連疾患の診断と治療.診断と治療C105:89-92,C20174)MoriM,KuwabaraS,FukutakeTetal:ClinicalfeaturesandCprognosisCofCMillerCFisherCsyndrome.CNeurologyC56:C1104-1106,C20015)渡邊将平,山崎博充,山本麻未ほか:Fisher症候群における遅発性顔面神経麻痺.末梢神経C22:353-354,C20116)佐藤萌美,森悠,赤塚和寛ほか:遅発性に顔面神経麻痺を呈したCFi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