《原著》あたらしい眼科30(4):558.560,2013c著しい高眼圧の治療に選択的レーザー線維柱帯形成術が短期的に有効であった緑内障の4例野々村咲子菅原岳史木本龍太三浦玄白戸勝上原淳太郎藤本尚也山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学SelectiveLaserTrabeculoplastyTemporarilyReducedHighIntraocularPressurein4GlaucomaPatientsSakikoNonomura,TakeshiSugawara,RyutaKimoto,GenMiura,SuguruShirato,JuntaroUehara,NaoyaFujimotoandShuichiYamamotoDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine眼圧30mmHg以上となった4例の緑内障患者に対し,姑息的治療として選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)を施行し,短期的ながら眼圧下降を得た.症例は原発開放隅角緑内障1眼,落屑緑内障3眼である.術前眼圧は30.49mmHgであり,SLT施行4日後には12.21mmHg,7日後には20.25mmHgとなった.その後,2眼では眼圧の再上昇のため,10日後と14日後に線維柱帯切除術を施行した.他の2眼では,1カ月後の眼圧は16mmHgであった.一時的ではあるが,線維柱帯切除術を要するような高眼圧の緑内障に対する姑息的治療としてのSLTの有用性が示唆された.In4glaucomapatientswithintraocularpressure(IOP)higherthan30mmHg,weperformedselectivelasertrabeculoplasty(SLT)andobtainedtemporarilyreductionofIOP.Subjectswere1eyewithprimaryopenangleglaucoma(POAG)and3eyeswithexfoliationglaucoma(EXG).IOP,rangingfrom30.49mmHgbeforetreatment,decreasedmarkedlyatday4afterSLT(range:12.21mmHg)andatday7afterSLT(range:20.25mmHg).Weperformedtrabeculectomyat10daysandat14daysafterSLTin2eyes,duetore-elevationofIOP.Intheother2eyes,IOPwasmaintainedat16mmHgat1monthafterSLT.ThesefindingssuggestthatSLTmaybetemporarilyeffectiveinhigh-IOPglaucomapatientswhorequiredtrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(4):558.560,2013〕Keywords:選択的レーザー線維柱帯形成術,姑息的治療,レーザー治療.selectivelasertrabeculoplasty,palliativetreatment,lasertreatment.はじめに緑内障に対するレーザー治療は,1979年にWiseらがアルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)の有効性を報告し1),その後の調査では原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)に対する眼圧下降率は薬物治療より高いと報告された2).ALTは線維柱帯の有色素細胞・無色素細胞やコラーゲン線維の結合を凝固熱により破壊するため侵襲が大きく3),周辺虹彩前癒着や眼圧上昇などの合併症を伴うことがある4).それに対し選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)は,低エネルギーで選択的に線維柱帯の有色素細胞を破壊するため,ALTと比べると侵襲が小さいといわれている5)が,その作用機序や有効因子など不明な点が多く,適応の基準も定まっていない.SLTをPOAG,落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に使用した治療成績は数多く報告されており5.10),ある程度の有効性が確認されている.文献を渉猟する限り,眼圧が20.30mmHgのPOAGやEXGに対してSLTを施行した〔別刷請求先〕野々村咲子:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprintrequests:SakikoNonomura,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba-city260-8670,JAPAN558558558あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY治療成績が多くみられている.今回,筆者らは眼圧が30mmHg以上と高値を示したPOAGの1眼とEXGの3眼に対してSLTを施行し,その後の経過を検討した.I対象および方法対象は2008年10月から11月までの間に,千葉大学医学部附属病院眼科でSLTを施行した緑内障3例4眼で,SLT施行時の眼圧が30mmHg以上の症例である.表1に示すように,POAG1眼,EXG3眼であり,全例男性で年齢は64.65歳,術前眼圧は30.49mmHgであった.術前の眼圧下降点眼薬の投薬数は2.4剤であり,1眼では眼圧下降薬の内服も行われていた.また,症例1と2では僚眼の線維柱帯切除術の既往があった.2眼は当科受診時,眼圧が高値を示し,視野障害も高度であったため,早急に線維柱帯切除術が必要と考えられたが,仕事や家庭の諸事情によりすぐには手術が施行できなかったため,インフォームド・コンセントを得た後にSLTを施行した.他2眼は視野障害は軽度であったが,投薬数が多いにもかかわらず高眼圧であったため,いずれ線維柱帯切除術が必要になる可能性があることを説明した後にSLTを施行した.使用器械はSelectaDuet(㈱日本ルミナス)で,専用コンタクトレンズLatinaSLTLensを用いた.照射条件は波長532nm,スポットサイズ400μm,持続時間3nsec,エネルギー0.7.1.0mJで,全周に約80発照射した.施行前後に1%アプラクロニジンを点眼した.観察期間は1カ月間とし,SLT施行後の短期的効果について検討した.II結果症例の概要を表1に示す.症例1では,術後も点眼を続行して,SLT実施1カ月まで眼圧14.16mmHgで推移した.症例2では,SLTにより眼圧の下降が得られたため内服を中止したが,眼圧が再度上昇したため,SLT20日後に線維柱帯切除術を施行した.症例3の右眼は,点眼を続行して16mmHg前後の眼圧で推移し,左眼は眼圧が再上昇したため,SLT10日後に左線維柱帯切除術を施行した.全例でSLTによる合併症はみられなかった.III考按今回,30mmHg以上の高眼圧を呈したPOAGとEXGの4眼に対し,諸事情により早急に線維柱帯切除術ができなかったため,姑息的治療としてSLTを施行し,一時的ながらも有効な眼圧下降を得ることができた.SLTの成功因子として眼圧のベースラインがあげられており,術前の眼圧が高いほど,下降率が高いとの報告がある11,12).Hodgeらは,SLT施行1年後の,眼圧下降率20%以上の群の術前平均眼圧が26.05mmHgであったのに対し,眼圧下降率20%未満の群では20.97mmHgと有意な差を認めたと報告している11).今回の症例はどれも術前眼圧が非常に高かったため,眼圧下降率も大きく,一時的に手術の延期が可能であった.症例2と3(左眼)では,術後に20mmHg台後半に再上昇したため,線維柱帯切除術を施行した.症例1と3(右眼)については観察期間が短期間であったためか,期間中は手術を要するほどの眼圧の再上昇がなかったが,長期的に観察すれば,いずれは手術が必要になる可能性は否定できない.一般的にSLTは合併症が少なく(4.5.11%)14),ほとんどが一時的な眼圧上昇や虹彩炎といわれている.今回の症例でもSLTによる合併症はみられなかった.今後,さらなる症例数の増加と検討が必要であるが,線維柱帯切除術が必要な高眼圧に対しても,一時的なSLTの有効性が示唆された.また,SLTの適応についても,POAGやEXGだけでなく,トリアムシノロンアセトニドの硝子体内注入後の眼圧上昇に対しても有効との報告があり13),今後の適応症例の拡大が期待される.文献1)WiseJB,WitterSL:Argonlasertherapyforopen-angleglaucoma:Apilotstudy.ArchOphthalmol97:319-322,19792)TheGlaucomaLaserTrialResearchGroup:TheGlaucomaLaserTrial(GLT)andGlaucomaLaserTrialFollowUpStudy:7.Results.AmJOphthalmol120:718-731,19953)KramerTR,NoeckerRJ:Comparisonofthemorphologic表1症例の術前背景と眼圧の経過症例年齢・性病型左右術前投薬数術前のHumphrey視野検査(30-2)MD値(dB)術前4日後眼圧(mmHg)7日後10日後14日後1カ月後12364・男65・男64・男POAGEXGEXGEXG右左右左点眼2剤点眼2,内服1点眼4剤点眼4剤.4.30.1.52.20.93.25.713035424921121221202527手術14手術1616POAG:primaryopenangleglaucoma,EXG:exfoliationglaucoma,MD:meandeviation.(131)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013559changesafterselectivelasertrabeculoplastyandargonlasertrabeculoplastyinhumaneyebankeyes.Ophthalmology108:773-779,20014)HoskinsHDJr,HetheringtonJJr,MincklerDSetal:Complicationsoflasertrabeculoplasty.Ophthalmology90:796-799,19835)狩野廉,桑山泰明,溝上志朗ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の術後成績.日眼会誌103:612-616,19996)齋藤代志朗,東出朋巳,杉山和久:原発開放隅角緑内障症例への選択的レーザー線維柱帯形成術の追加治療成績.日眼会誌111:953-958,20077)上野豊広,岩脇卓司,湯才勇ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科25:1439-1442,20088)望月英毅,高松倫也,木内良明:選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の術後6カ月の有効率.あたらしい眼科25:693-696,20089)菅原通孝,井上賢治,若倉雅登ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科27:835-838,201010)南野桂三,松岡雅人,安藤彰ほか:選択的レーザー線維柱帯形成術の治療成績.あたらしい眼科26:1249-1252,200911)HodgeWG,DamjiKF,RockWetal:BaselineIOPpredictsselectivelasertrabeculoplastysuccessat1yearpost-treatment:resultsfromarandomisedclinicaltrial.BrJOphthalmol89:1157-1160,200512)AyalaM,ChenE:Predictivefactorsofsuccessinselectivelasertrabeculoplasty(SLT)treatment.ClinOphthalmol5:573-576,201113)RubinB,TaglientiA,RothmanRFetal:Theeffectofselectivelasertrabeculoplastyonintraocularpressureinpatientswithintravitrealsteroid-inducedelevatedintraocularpressure.JGlaucoma17:287-292,200814)LatinaMA,deLeonJM:Selectivelasertrabeculoplasty.OphthalmolClinNorthAm18:409-419,2005***560あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(132)