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安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液への切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果

2012年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科29(10):1401.1404,2012c安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液への切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果南泰明*1星最智*1近藤衣里*1岩部利津子*2森和彦*2*1藤枝市立総合病院眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学ImprovementofDrugInducedCornealEpithelialDisturbanceuponSwitchingtoLatanoprostOphthalmicSolutionContainingSodiumBenzoateYasuakiMinami1),SaichiHoshi1),EriKondoh1),RitsukoIwabe2)andKazuhikoMori2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的,対象および方法:先発医薬品から防腐剤として塩化ベンザルコニウムではなく安息香酸ナトリウムを含有するラタノプロスト点眼液に切替え,1および3カ月後の眼圧と角膜上皮障害の程度(AD分類)を検討して切替えによる薬剤性角膜上皮障害の改善効果の評価を行った.対象は先発医薬品ラタノプロスト点眼液を3カ月以上使用している広義原発開放隅角緑内障または高眼圧症66例97眼(男性31例46眼,女性35例51眼)とした.結果:切替え前と1カ月後,3カ月後では眼圧に有意差を認めなかった(各々p=0.355,p=0.244).AスコアとDスコアは切替え1カ月後,3カ月後に有意に改善した(各々p<0.010).結論:先発医薬品ラタノプロスト点眼液を安息香酸ナトリウム含有の後発医薬品へ変更することで,眼圧下降効果を維持しつつ角膜上皮障害の改善効果が期待できる.Purpose:Toreporttheimprovementofcornealepithelialdisturbanceuponswitchingfromalatanoprostophthalmicsolutioncontainingbenzalkoniumchloride(BAC)toalatanoprostophthalmicsolutioncontainingsodiumbenzoate.Cases:PrimaryopenangleglaucomaorocularhypertensionpatientswhohadbeentreatedwithlatanoprostophthalmicsolutioncontainingBAC(XalatanReyedrops0.005%)forlongerthan3months(66cases,97eyes).Method:Superficialpunctatekeratopathy,gradedonthebasisofarea-densityclassificationandintraocularpressure(IOP),wasevaluatedat1and3monthsafterswitchingfromXalatanRtoa0.005%latanoprostophthalmicsolution「Nitten」RcontainingsodiumbenzoateinsteadofBAC.ResultandConclusion:At1and3monthsafterswitching,therewasnosignificantchangeinIOP(p=0.355,p=0.244,respectively),thoughareascoreanddensityscoreimprovedsignificantly(p<0.010).SwitchingtolatanoprostcontainingsodiumbenzoatecouldimprovecornealepithelialdisturbanceduetoBAC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(10):1401.1404,2012〕Keywords:ラタノプロスト,塩化ベンザルコニウム,安息香酸ナトリウム,角膜上皮障害,薬剤毒性.latanoprost,benzalkoniumchloride,sodiumbenzoate,cornealepithelialdisturbance,drugtoxicity.はじめにプロスタグランジンF2a誘導体であるラタノプロストは優れた眼圧下降作用をもつ薬剤であるが,その先発医薬品であるキサラタンR点眼液0.005%(ファイザー株式会社)(以下,Xal)は塩化ベンザルコニウム(benzalkoniumchloride:以下,BAC)による角膜上皮障害が生じやすいことが指摘されており1.3),過去の報告では単剤使用症例でも頻度として約15.40%に認められるといわれている4,5).Xalを処方中に薬剤性角膜上皮障害をきたした場合は,主剤の異なる点眼液へ切替えるなどの方法で対処していた6,7)が,2010年にラタノプロスト点眼液の後発医薬品が多数市場に出ることにより,添加物の異なる種々のラタノプロスト点眼液から選択することが可能となった.ラタノプロスト後発医薬品にはBACを低減させたものや防腐剤不要の容器を〔別刷請求先〕南泰明:〒426-8677藤枝市駿河台4丁目1番11号藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:YasuakiMinami,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)1401 表1先発医薬品との組成比較主剤防腐剤その他の基剤キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト(1ml中に50μg)塩化ベンザルコニウム無水リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム一水和物,等張化剤ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」Rラタノプロスト(1ml中に50μg)安息香酸ナトリウムホウ酸,トロメタモール,ポリオキシエチレンヒマシ油,エデト酸ナトリウム水和物,pH調節剤用いたものなど製剤によって工夫がみられるが,そのなかでラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」R(日本点眼薬研究所)(以下,LatNT)はBACの代わりに食品添加物としても使用されている安息香酸ナトリウムを防腐剤として用いており,他のラタノプロスト後発医薬品にない特徴を有している(表1).本剤はBACを含まないためにXalよりも角膜上皮細胞に対する毒性が低いことが予想されるが,多数の緑内障症例における眼圧下降効果や眼表面への影響については十分な検討がなされていないのが現状である.今回筆者らは,XalからLatNTへ変更することによる眼圧と角膜への影響について比較検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は2010年9月から2011年3月までに藤枝市立総合病院眼科を受診した広義原発開放隅角緑内障または高眼圧症で,眼圧下降薬としてXalを3カ月以上単剤使用している症例とした.①コンタクトレンズ装用者,②慢性あるいは再発性のぶどう膜炎・強膜炎・角膜ヘルペスを合併しているもの,③6カ月以内に眼外傷・内眼手術・レーザー手術の既往のあるもの,④炭酸脱水酵素阻害薬の全身投与を受けているもの,⑤Sjogren症候群を含むドライアイの患者については対象より除外した.XalからLatNTへの切替え前,1および3カ月後の眼圧をGoldmann圧平眼圧計を使用して,眼圧日内変動に配慮して測定した.角膜上皮障害の程度は切替え前,1および3カ月後にAD分類8)を用いて評価した.切替え前後の眼圧,AスコアおよびDスコアについて,解析にはSPSSStatisticsVersion19(IBM)を用いて統計学的に比較検討した.統計学的解析はWilcoxon符号付順位検定を用い,有意水準は5%とした.II結果1.対象者の特徴対象は66例97眼(男性31例46眼,女性35例51眼)であり,平均年齢は71.3±10.2(平均値±標準偏差)歳であった.病型の内訳は,正常眼圧緑内障が50例72眼,原発開放隅角緑内障が11例15眼,高眼圧症が5例10眼であった.表2脱落症例の詳細症例年齢(歳)性別病型対象眼ベースラインの角膜上皮障害脱落理由切替え1カ月までの離脱症例157女NTG右A1D2コンプライアンス不良左A1D2284女NTG右A0D0通院自己中断左A0D0385男NTG右A2D3コンプライアンス不良左A1D2473男NTG右A0D0コンプライアンス不良左A0D0切替え1カ月後から3カ月までの脱落症例591男NTG左A0D0通院自己中断684男NTG左A0D0通院自己中断770男NTG右A0D0点眼後不快感左A0D0NTG:正常眼圧緑内障.1402あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(86) AスコアDスコア***0.60.7**00切替え前1カ月後3カ月後切替え前1カ月後3カ月後***:p<0.01**:p<0.001図1ADスコアの平均値の推移切替え前切替え1カ月後切替え3カ月後Dスコアの平均値0.50.60.50.4Aスコアの平均値0.40.30.30.20.20.10.1A0A1A2A3D043D13230D2520D3000→A0A1A2A3D065D12000D2000D3000→A0A1A2A3D062D12100D2200D3000図2角膜上皮障害の変化脱落症例は,切替え1カ月後まででは通院自己中断が1例2眼,コンプライアンス不良が3例6眼であり,切替え1カ月以降3カ月まででは通院自己中断が2例2眼,点眼後不快感による投薬変更が1例2眼であった(表2).調査期間中に重篤な有害事象は認めなかった.2.眼圧変化3カ月後までに脱落した症例を除いた59例85眼について,眼圧は切替え前の12.8±2.7(平均値±標準偏差)mmHgから切替え1カ月後に12.6±2.7mmHgとなり,有意な変化は認めず(p=0.355),切替え3カ月後には12.9±2.8mmHgであり,切替え前との比較で有意な変化は認めなかった(p=0.244).3.角膜上皮障害の変化3カ月後までの脱落症例を除いた59例85眼について,切替え前と切替え1カ月後のAスコアとDスコアを比較すると,Aスコアは0.59±0.66(平均値±標準偏差)から0.24±0.43へと有意に改善し(p<0.001),Dスコアも0.54±0.59から0.24±0.43へと有意に改善した(p<0.001).同様に切替え前と切替え3カ月後のAスコアとDスコアを比較すると,Aスコアは0.27±0.45へと有意に改善し(p<0.001),Dスコアも0.29±0.51へと有意に改善した(p=0.003)(図1).切替え前,切替え1カ月後と3カ月後のAスコアとDスコアの推移は図2のとおりであった.III考按ラタノプロストの先発医薬品であるXalはその優れた眼圧下降効果により1999年の発売以降,わが国でも広く用いられてきた.そのなかでXal使用患者において薬剤性と考えられる角膜上皮障害についての報告1,2)が散見されるようになり,原因の一つとしてBACの細胞毒性が指摘されるようになった2,9.11).福田らは,BACの培養家兎由来角膜細胞に対する影響について評価し,BACの濃度依存性に細胞毒性が高まることを報告している12).重度の薬剤性角膜上皮障害を認めた場合,これまではXalから他剤への変更を余儀なくされていたが,2011年にラタノプロストの後発医薬品が多数発売されるようになってからは主剤を変更することなく眼表面への毒性がより少ないと考えられる点眼剤を選択できるようになった.しかしながら,後発医薬品ごとに添加物の種類や濃度が異なるため,実際にどの製剤を使用すべきかの医学的根拠が不足している状況である.LatNTは,BACの代わりに安息香酸ナトリウムを防腐剤として用いたラタノプロスト点眼液であり,防腐剤不要の特別な容器を必要としない製剤であるが,その眼圧下降効果と角膜への影響については多数の緑内障患者を対象として評価する必要があると考え,今(87)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121403 回の調査を行った.眼圧に関しては,切替え前と切替え1カ月後および3カ月後の眼圧の比較では有意差を認めなかった(各々p=0.355,p=0.244).したがって,XalからLatNTに変更しても眼圧下降効果は維持できていると考えられた.角膜上皮障害に関しては,切替え前と切替え1カ月後の比較においてAスコアとDスコアともに有意に改善した(各々p<0.001).さらに切替え前と切替え3カ月後の比較においてもAスコアとDスコアともに有意に改善した(各々p<0.001,p=0.003).眼科領域における安息香酸ナトリウムの安全性と細胞毒性に関する研究では,杉浦らがヒト羊膜由来培養細胞を用いて検討しており,生存細胞の減少速度は塩化ベンザルコニウムに比較して安息香酸ナトリウムで少なかったと報告している13).さらに,福田らはXalと後発医薬品ラタノプロスト点眼液の培養家兎由来角膜細胞に対する影響について評価し,Xalに比較してLatNTで細胞障害が少なかったと報告している12).上記のような研究結果は,今回の筆者らの結果と矛盾しないものと考えられ,Xalを使用中に薬剤性と考えられる角膜上皮障害がみられた場合には,LatNTへ切替えることも有用な対処法の一つと考えられた.得られた結果について,LatNtとXalの2剤の防腐剤が異なることが,今回SPK(点状表層角膜症)が改善したおもな理由と考えられるが,他の基剤成分が影響を与えている可能性も考えられる.本研究における問題点としては,まず,切替え3カ月後の眼圧までしか評価していない点である.眼圧の季節性変動までを考慮するならば,さらに長期の眼圧の推移をみる必要がある.つぎに,LatNTと他のラタノプロスト後発医薬品との比較である.ラタノプロストの後発医薬品にはXalよりもBACの濃度が低いものや,防腐剤不要の容器を用いたものが存在する.これらの点眼液とLatNTとの比較も必要と考えられる.また,両眼を解析していることが患者の個別要因による影響を与えている可能性もある.Xalを継続した対照群との比較試験なども今後の追加検討が必要と思われる.結論としては,先発医薬品ラタノプロスト点眼液による薬剤性角膜上皮障害に対して安息香酸ナトリウム含有ラタノプロスト点眼液に変更することで,眼圧下降効果を維持しつつ角膜上皮障害の改善効果が期待できる.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年9月,於秋田)において発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,20002)田聖花,中島正之,植木麻理:ラタノプロストによると考えられる角膜上皮障害.臨眼55:1995-1999,20013)井上順,岡美佳子,井上恵理:プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響.あたらしい眼科28:886890,20114)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼64:729732,20105)北澤克明・ラタノプロスト共同試験グループ:ラタノプロスト点眼液156週間長期投与による有効性および安全性に関する多施設共同オープン試験.臨眼60:2047-2054,20066)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepithelialcellculturesystem.AdvTher23:511-518,20067)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.002%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,20088)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層性角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19949)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討.日本の眼科58:945-950,198710)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,198911)井上順,岡美佳子,井上恵理:プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響.あたらしい眼科28:886-890,201112)福田正道,稲垣伸亮,荻原健太ほか:ラタノプロスト後発品点眼薬の角膜上皮細胞に対する安全性の検討.あたらしい眼科28:849-854,201113)杉浦栄一,今安正樹,岩田修造:コンタクトレンズ用材の生体適合性に関する研究第5報点眼用防腐剤の細胞毒性.日コレ誌26:78-83,1984***1404あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(88)