0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(117)1439《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(10):1439.1443,2010cはじめに日本人においては開放隅角緑内障の約90%が正常眼圧緑内障であり1),その早期発見にはこれまでの眼圧測定に代わって視神経乳頭や乳頭周囲網膜を中心とした眼底検査が重要である.しかし小乳頭や視神経乳頭低形成では,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない.一方近年,眼底画像診断装置の発展は著しく,緑内障領域においても視神経乳頭形状や網膜神経線維層の定量的,客観的な測定が可能になってきている.代表的なものとして走査レーザーポラリメーター(LaserDiagnosticTechnologies,SanDiego,CA,USA,以下GDxVCC)や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),共焦点走査レーザー眼底鏡(Heidelbergretinatomography:HRT)などがあり,緑内障診療における有用性が多数報告されている2~4).そこで今回はGDxVCCを用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけ〔別刷請求先〕高橋浩子:〒285-8765佐倉市江原台2-36-2聖隷佐倉市民病院眼科Reprintrequests:HirokoTakahashi,M.D.,SeireiSakuraCitizenHospital,2-36-2Eharadai,Sakura-shi,Chiba285-8765,JAPAN小乳頭眼における網膜神経線維層厚と視野障害の相関高橋浩子*1藤本尚也*2渡辺絵美*1田中梨詠子*1今井哲也*1山本修一*3*1聖隷佐倉市民病院眼科*2井上記念病院眼科*3千葉大学大学院医学研究院眼科学CorrelationbetweenRetinalNerveFiberLayerThicknessandVisualFieldLossinEyeswithSmallOpticDiscHirokoTakahashi1),NaoyaFujimoto2),EmiWatanabe1),RiekoTanaka1),TetsuyaImai1)andShuichiYamamoto3)1)DepartmentofOphthalmology,SeireiSakuraCitizenHospital,DepartmentofOphthalmology,2)InoueMemorialHospital,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine走査レーザーポラリメーター(GDxVCC)を用いて小乳頭眼における網膜神経線維層厚(RNFLT)と視野障害の相関を解析し,緑内障診断におけるその有用性を検討した.対象は緑内障精査を施行した小乳頭眼23例23眼.GDxVCCの乳頭周囲リング上のRNFLTの平均(TSNIT平均),その標準偏差(TSNIT標準偏差),nervefiberindicator(NFI)とHumphrey自動視野計中心30-2のmeandeviation(MD)値とpatternstandarddeviation(PSD)値との相関を検討した.またRNFLTの上・下の平均値と下・上半視野平均閾値との相関も解析した.TSNIT平均とMD値(r=0.441,p=0.035),PSD値(r=.0.606,p=0.0021)はそれぞれ有意な相関を示した.NFIとMD値,PSD値,および上・下RNFLT平均値と対応する半視野平均閾値も相関を認めた.23例中8例を原発開放隅角緑内障と診断した.RNFLT測定は眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において緑内障の診断・鑑別に補助的な判断情報となりうることが示唆された.WeusedGDxVCCtoinvestigatethecorrelationbetweenretinalnervefiberlayerthickness(RNFLT)andvisualfieldlossin23patients(23eyes)withsmallopticdisc.ThefollowingRNFLTparametersweremeasuredandevaluated:TSNITaverage,TSNITstandarddeviation,nervefiberindicator(NFI),superioraverageandinferioraverage.UsingPearson’scorrelationcoefficientstest,westudiedthecorrelationbetweenGDxparametersandmeandeviation(MD),andthepatternstandarddeviation(PSD)oftheHumphrey30-2program.Wealsostudiedthecorrelationbetweensuperioraverageandlowervisualfields,andbetweeninferioraverageanduppervisualfields.AllexceptTSNITstandarddeviation,MDandPSDshowedsignificantcorrelation.Ofthe23eyeswithsmallopticdisc,glaucomawasdiagnosedin8eyesbyGDxVCC.RNFLTmeasurementsobtainedbyGDxVCCmightbeusefulfordiagnosingglaucomainpatientswithsmallopticdisc.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(10):1439.1443,2010〕Keywords:GDxVCC,網膜神経線維層厚,小乳頭,緑内障,診断.GDxVCC,retinalnervefiberlayerthickness(RNFLT),smallopticdisc,glaucoma,diagnosis.1440あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(118)る有用性を検討した.I対象および方法1.対象2006年9月から2009年6月に聖隷佐倉市民病院眼科で緑内障精査を施行した症例のなかで小乳頭を有した23例23眼(男性15例,女性8例)を対象とした.年齢は41~87歳(平均62.7歳),等価球面度数は.12Dから+2.5D(平均.4.8D)であった.視神経乳頭径に対する視神経乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離の比(distancebetweenthecentersofthediscandthemacula/discdiameter:DM/DD比)をとり,DM/DD比が3.0以上を小乳頭と診断した5).DM/DD比の計測は散瞳下眼底撮影で得られた眼底写真をもとに算出した.対象23眼のDM/DD比の平均値は3.69±0.39(3.18~4.57)であった.内眼手術の既往,他の網膜疾患を有するものは除外した.緑内障の診断は緑内障診療ガイドライン6)に準じ,正常開放隅角かつ視神経乳頭と網膜神経線維層に緑内障性形態的変化を有し,それに対応した視野異常(Anderson基準)を伴う症例のうち他の疾患や先天異常を認めないものを原発開放隅角緑内障(広義)とした.また本研究ではGDxVCCによる網膜神経線維層厚の菲薄化を網膜神経線維層の障害とみなした.視神経乳頭所見と網膜神経線維層に特徴的な変化を有するものの,それに対応した視野欠損が認められない症例を緑内障疑いとした.上部視神経低形成(SSOH)は,上方乳頭辺縁部の菲薄化および上方網膜神経線維層欠損とそれに対応した下方視野欠損を呈する場合に診断した.鼻側視神経低形成は鼻側乳頭辺縁部および鼻側RNFLTの菲薄化とそれに対応した耳側視野欠損を呈する場合に診断した.傾斜乳頭は,乳頭の耳側および下方に傾斜がみられ,明らかな網膜神経線維層の菲薄化なしに上方に視野異常をきたした場合に診断した.2.方法GDxVCC,Humphrey自動視野計(HFA),散瞳下眼底撮影のすべての検査を6カ月以内に行った.GDxVCCの測定は,2人の検者が無散瞳下に直径3.2mmの乳頭周囲リング部のRNFLTを測定した,付属のソフトウェア(version5.5.0)にて測定スコア7以上のデータを採用し,標準的なパラメータであるTSNITaverage(乳頭周囲リング上のRNFLTの平均:以下TSNIT平均),superioraverage(上側120°象限内のRNFLTの平均),inferioraverage(下側120°象限内のRNFLTの平均),TSNITStd.Dev.(TSNIT平均の標準偏差),nervefiberindicator(NFI)を解析した.視野検査はHFA中心閾値30-2SITA-Standardを行い,視野指標のMD値,PSD値を解析対象とした.固視不良,偽陰性・偽陽性20%未満を採用した.各測定点の閾値を上下に分けてそれぞれの測定ポイントの合計を算出し,その合計値を測定ポイント(上下ともに38ポイント)で割った値をそれぞれ上半視野平均閾値,下半視野平均閾値として解析した.両眼のうち検査結果の信頼性の高いほうを解析対象とした.GDxVCCによるTSNIT平均とHFAのMD値,PSD値とのそれぞれの相関,TSNITStd.Dev.,NFIとHFAのMD,PSDとの相関,GDxVCCでのsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関,GDxVCCのinferioraverageとHFAによる上半視野平均閾値との相関解析をそれぞれ行った.相関解析には,Pearsonの相関係数を求め危険率5%未満を統計学的有意とした.表1GDxVCC測定値とHFA測定値の相関(n=23)rpTSNIT平均vsMD値0.4410.035TSNIT平均vsPSD値.0.6060.0021NFIvsMD値.0.4890.018NFIvsPSD値0.5520.063Superioraveragevs下半視野平均閾値0.5610.0053Inferioraveragevs上半視野平均閾値0.4760.021TSNITStdDevvsMD値0.1370.53TSNITStdDevvsPSD値0.1830.40GDxTSNIT平均(μm)GDxTSNIT平均(μm)MD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520806040200806040200図1GDxTSNIT平均とHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxTSNIT平均とHFAMD値は有意の相関が認められた(r=0.441,p=0.035).b:GDxTSNIT平均とHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=.0.606,p=0.0021).(119)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101441II結果表1および図1~3に示すように,TSNIT平均とMD値の間,TSNIT平均とPSD値との間(図1a,b),NFIとMD値の間,NFIとPSD値の間(図2a,b),superioraverageと下半視野平均閾値の間,inferioraverageと上半視野平均閾値の間(図3a,b)にそれぞれ有意な相関を認めた.TSNITStd.Dev.とMD値,PSD値の間には相関を認めなかった.前述の診断基準に従って23例のうち,8例が開放隅角緑内障(広義)(図4),2例が緑内障疑い,2例がSSOH,1例が鼻側視神経低形成,4例が傾斜乳頭と診断された.その他の6例は高眼圧症1例,明らかな緑内障性視野変化を認めなかった3例,視野異常を認めるものの確定診断には至らなかった2例であった.III考按緑内障眼においては,HFAのMD値,PSD値とGDxVCCのすべてのパラメータで統計学的に有意な相関を示すことがすでに報告されている2,3).今回,緑内障性の変化の同定が困難で診断に苦慮することも少なくない小乳頭眼を対象に,GDxVCCの各パラメータと視野障害の相関を検討した結果,TSNIT平均およびNFIとHFAのMD値,PSD値の間で緑内障眼と同様に有意な相関が認められた.また徳田ら4)はGDxVCCとspectraldomainOCTによるRNFLTの解析の際に上下視野別の相関についても検討し,GDxVCCにおいてはsuperioraverageとHFAの下半視野平均閾値との相関がinferioraverageと上半視野平均閾値との相関に比べより有意であったとしている.その理由の一つとして乳頭周囲脈絡膜萎縮(parapapillaryatrophy:PPA)の存在をあげている.GDxVCCによるRNFLTの測定において,近視型乳頭では乳頭周囲リングがPPAにかかることがあり,この場合非典型的複屈折パターン(atypicalretardationpattern:ARP)が起こり,RNFLTの測定値が不正確になる可能性がある.このPPAは耳側,下耳側に高頻度で観察される7)ためinferioraverageと上半視野平均閾値との相関結果に影響した可能性があるとしている.今回の症例においても23例中7例で乳頭周囲リングがPPAにかかっていたためARPを認め,また上下RNFLTと視野との相関ではsuperioraverageとHFAの下半視野閾値のほうがより高い相関を示した.視神経低形成には,乳頭全体の低形成である小乳頭と部分低形成が知られている.一般に小乳頭は陥凹も小さく緑内障GDxNFIGDxNFIMD値(dB)PSD値(dB)ab-15-10-5-005101520120100806040200120100806040200図2GDxNFIとHFAMD・PSD値の相関(n=23)a:GDxNFIとHFAMD値は有意の相関が認められた(r=.0.489,p=0.018).b:GDxNFIとHFAPSD値は有意の相関が認められた(r=0.552,p=0.0063).GDxSuperioraverage(μm)GDxInferioraverage(μm)HFA下半視野平均閾値(dB)HFA上半視野平均閾値(dB)ab0510152025303505101520253035100806040200100806040200図3半視野における相関(n=23)a:GDxSuperioraverageとHFA下半視野平均閾値の相関(r=0.561,p=0.0053).b:GDxInferioraverageとHFA上半視野平均閾値の相関(r=0.476,p=0.021).1442あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010(120)性の特徴的な所見がわかりにくく,乳頭変化が軽度に見えても広範な視野異常を伴っていることも多い.また,部分低形成には上方の視神経の低形成であるSSOHや鼻側視神経低形成などがあるが,これら低形成による視野異常と緑内障との鑑別は必ずしも容易ではなく,診断に苦慮することも多い8).Unokiら9)や高田ら10)は視神経低形成の診断においてOCTによるRNFLTの測定がその診断に非常に有用であったと報告している.今回対象となった小乳頭23例のうち診断を確定できた症例は開放隅角緑内障(広義)が8例,緑内障疑いが2例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例,傾斜乳頭4例であった.これら診断のついた13例のうち,緑内障3例,SSOH2例,鼻側視神経低形成1例の計6例では,乳頭所見が軽微であったり豹紋状眼底で網膜神経線維層欠損がわかりにくいなどで眼底所見とそれに対応する視野検査結果の同定が困難であったが,GDxVCCでは視野障害と一致するRNFLTの菲薄化を認めており,その測定結果が診断に特に有用であったといえる.Mederiosらは緑内障眼における画像解析の精度と乳頭サイズの影響を検討した結果,OCT,GDxVCCは乳頭解析のHRTに比し,小乳頭ほどその精度が向上し初期緑内障異常検出が優れていたとしている11).今回示した症例(図4)でもごく早期の緑内障性視野障害と一致するRNFLTの菲薄化をGDxVCCで認めた.また,今回の対象群では明らかな視野障害を認めない,またはごく軽度な視野障害のみを認める症例も含まれているが,網膜神経線維層と有意な相関を認めており,GDxVCCがRNFLTの軽微な変化を検出しえた可能性も考えられる.今回筆者らはRNFLTの計測にGDxVCCを用いたが,緑内障眼においてOCT,GDxVCC,HRTによるRNFLT測定値とMD値の相関を比較検討した結果,OCT,GDxVCC,HRTの順に有意な相関を示したとした報告もあり3),近年ではOCTによるRNFLTの計測が一般化してきている.しかしながら,何らかの理由でOCTによる測定が困難な環境下においてはGDxVCCによるRNFLTの計測結果も小乳頭眼における緑内障の補助診断の一助になりうると考えられた.以上,小乳頭眼におけるRNFLTと視野障害の相関を検討した結果,緑内障眼と同様にRNFLTと視野は有意に相関した.眼底検査で診断がむずかしい小乳頭眼において,緑内障やSSOHなどを含む視神経低形成の診断・鑑別の際,網膜神経線維層厚測定は補助的な判断情報となりうることが示唆された.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpriabdecf図4症例:70歳,男性,右眼DM/DD比が3.3の小乳頭であり(a,d),乳頭陥凹は垂直C/D0.6で乳頭耳側下方の辺縁部の菲薄化がみられる.HFA(b,e)では鼻側に3点以上連続した暗点,GDx(c,f)で下耳側に網膜神経線維層厚の菲薄化がみられ緑内障と診断した.(121)あたらしい眼科Vol.27,No.10,20101443maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)今野伸介,西谷直子,大塚賢二:緑内障眼における視野障害と新しいGDxAccessVCCによる網膜神経線維層厚の関係.眼臨98:276-278,20043)早水扶公子,山崎芳夫,中神尚子ほか:緑内障眼における網膜神経線維層厚測定値と緑内障性視神経障害との相関.あたらしい眼科23:791-795,20064)徳田直人,井上順,上野聰樹:GDxVCCRとCirrusHD-OCTRによる網膜神経線維層厚の解析─上下視野別の相関について─.あたらしい眼科26:961-965,20095)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia.Thediscmaculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).ActaOphthalmol65:612-617,19876)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20067)大久保真司:乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)と脈絡膜萎縮の違いと意味は?あたらしい眼科25:84-86,20088)藤本尚也:読影シリーズIVまぎらわしい例その1Discのアノマリーを伴う例.FrontiersinGlaucoma10:59-64,20099)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomographyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.BrJOphthalmol86:910-914,200210)高田祥平,新田耕治,棚橋俊郎ほか:Superiorsegmentaloptichypoplasiaを含む視神経低形成の2家系.日眼会誌113:664-672,200911)MedeirosFA,ZangwillLM,BowdCetal:Influenceofdiseaseseverityandopticdiscsizeonthediagnosticperformanceofimaginginstrumentsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci47:1008-1015,2006***