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北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1579.1585,2012c北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査一色佳彦森哲大久保朋美宮原晋介小倉記念病院眼科SurveyofTransscleralSutureFixationofIntraocularLensinKitakyushuCityYoshihikoIsshiki,SatoshiMori,TomomiOkuboandShinsukeMiyaharaDepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital目的:北九州市における眼内レンズ(IOL)縫着術の実態調査.対象および方法:北九州市の眼科医に対し,IOL縫着術に関するアンケート調査を行い,27名から回答を得た.結果:眼内レンズ縫着糸通糸法は,abexterno法が多く(17名,63.0%),右眼手術時の縫着糸の通糸方向は,2-8時(11名,40.7%),4-10時(9名,33.3%)が多かった.縫着糸の輪部からの通糸位置は,2mm(12名,44.4%),1.5mm(11名,40.7%)が大半を占めた.IOLへの縫合糸結紮方法は,カウヒッチ縫合(10名,37.0%)が最も多く,3-1-1縫合(9名,33.3%)と続いた.縫着糸の強膜結紮固定方法は,三角フラップ(12名,44.4%)が最も多かった.創口の幅が4mm以下で施行する術者は10名,37.0%であった.結論:IOL縫着術は,使用IOLや手術器具などが施設によりさまざまであった.また,小切開手術を選択する術者もみられた.Purpose:Tosurveytransscleralsuturefixationofintraocularlenses(IOL)inKitakyushuCity.Methods:OftheophthalmologistsinKitakyushuCity,27respondedtoourquestionnaireregardingtransscleralsuturefixationofIOL.Result:TheabexternomethodwasmostcommonlyusedintransscleralsuturefixationofIOLby17surgeons(63.0%).Thetransscleralsuturewasmadeatthe2and8o’clockpositionsby11surgeons(40.7%),andthe4and10o’clockpositionsby9surgeons(33.3%).Thetransscleralsuturewasfixedat2mmfromthesurgicallimbusby12surgeons(44.4%),and1.5mmfromthesurgicallimbusby11surgeons(40.7%).Themostcommonlyusedtransscleralsuturewoundwasthetriangularflap,usedby12surgeons(44.4%).ThesuturemethodsateachIOLhapticscomprisedthecowhitchmethod,usedby10surgeons(37.0%),andthe3-1-1suture,usedby9surgeons(33.3%).ThesizeoftheIOLimplantationincisionwas4mmorsmallerfor10surgeons(37.0%).Conclusions:RegardingtransscleralsuturefixationofIOL,varioussurgicalmethods,IOLtypesandsurgicalinstrumentswereselectedbythesurgeons.TransscleralsuturefixationofIOLviathesmall-incisionapproachisincreasinglyused.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1579.1585,2012〕Keywords:眼内レンズ縫着術,アンケート調査,白内障手術,小切開手術,北九州市.transscleralsuturefixationofintraocularlens,questionnaire,cataractsurgery,smallincisionsurgery,KitakyushuCity.はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術が一般的な術式となったのは1980年代であり,それ以後白内障手術時には可能な限りIOLが.内もしくは.外固定で挿入されている.しかしZinn小帯脆弱例や破.例などIOL固定に水晶体.を使用することができない症例にIOLを挿入する場合は,IOL縫着術が選択されることが多い.このように重要な術式であるIOL縫着術だが,手術手技や使用器具は施設あるいは術者によって異なる.筆者らが調べた限りでは,これまでにそのような多様性についての報告はなされていない.今回筆者らは,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査するためアンケートを行い,使用IOL,IOL縫着創作製方法,硝子体処理方法など18項目を調査し検討したので報告する.〔別刷請求先〕一色佳彦:〒802-8555北九州市小倉北区浅野3丁目2番1号小倉記念病院眼科Reprintrequests:YoshihikoIsshiki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,3-2-1Asano,Kokurakita-ku,KitakyushuCity,Fukuoka802-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(129)1579 I対象および方法IOL縫着術を行っている福岡県北九州市の眼科医を調査対象とした.方法は,2011年1月初旬に21項目の設問からなるアンケート調査表を郵送した.取得した情報を集計・分析し,個人が特定できない統計データに加工し集計データのみを第三者に開示(学会発表・論文投稿)すること,学会発表・論文投稿を除き収集した情報を第三者に開示・提供することはないことを注記した.上記に同意し2011年3月末までに回答があった15施設27名の眼科医からの回答を有効対象とした(アンケート発送数34,回収率79.4%).有効対象とした27名の眼科医の背景は,日本眼科学会専門医取得者は24名,指導者が必要な術者は4名(3名は眼科専門医未取得者)であった.なお,本調査は,水晶体脱臼やZinn小帯脆弱,過去の白内障.内摘出術による人工無水晶体眼など,白内障手術で水晶体を除去したもののIOLを.内・.外固定することが不能であった場合のみのIOL縫着術を対象とし,水晶体核落下した場合やIOL摘出が必要な場合(IOL亜脱臼,IOL脱臼など),また.内もしくは.外に固定されていたIOLをそのまま使用した場合のIOL縫着術は除外した.II結果(表1,2)1.過去3年間のIOL縫着術件数術者あたりの過去3年間のIOL縫着術件数は,1.5例が10名(37.0%),6.10例が7名(25.9%),10.20例,20例以上がそれぞれ5名(18.5%)ずつであった.【眼内レンズ縫着術】2.IOL縫着糸の通糸法IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法が17名(63.0%),abinterno法が7名(25.9%),abexterno変法(abinternowithabexterno法)3名(11.1%)であった.3.使用するIOL縫着糸使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸(直・曲)(ペアパック含む)が16名(52.3%),10-0ポリプロピレン表1IOL縫着術のアンケート結果(単位:人)①[過去3年間の眼内レンズ縫着手術件数]④[縫着糸の通糸位置方向(右眼)]⑤[縫着糸の輪部からの通糸位置(距離)]1.5例102-8時112mm126.10例74-10時91.5mm1110.20例53-9時52.2.5mm120例以上55-11時11mm14-10時もしくは2-8時12mm以上1②[眼内レンズ縫着糸の通糸法]その他1Abexterno法17(Abexterno法)Abinterno法72-8時6(Abexterno法)Abexterno変法34-10時82mm63-9時21.5mm9③[使用する眼内レンズ縫着糸]5-11時12.2.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)164-10時もしくは2-8時11mm110-0ポリプロピレン(両端ループ)102mm以上19-0ポリプロピレン(直・曲)1(Abinterno法)その他02-8時4(abexterno法)4-10時1(Abinterno法)10-0ポリプロピレン(直・曲)163-9時22mm410-0ポリプロピレン(両端ループ)05-11時01.5mm39-0ポリプロピレン(直・曲)14-10時もしくは2-8時02.2.5mm11mm0(Abinterno法)(Abexterno変法)2mm以上010-0ポリプロピレン(直・曲)02-8時0その他010-0ポリプロピレン(両端ループ)74-10時29-0ポリプロピレン(直・曲)03-9時1(Abexterno変法)5-11時02mm2(Abexterno変法)4-10時もしくは2-8時01.5mm010-0ポリプロピレン(直・曲)02.2.5mm010-0ポリプロピレン(両端ループ)31mm09-0ポリプロピレン(直・曲)02mm以上0その他11580あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(130) 糸(両端ループ針)が10名(37.0%),9-0ポリプロピレン糸(直・曲)が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別に検討すると,「abexterno法」は,すべてポリプロピレン糸(直・曲)であったが,「abinterno法」「abexterno変法」は,すべてポリプロピレン糸(両端ループ針)であった.4.縫着糸の通糸方向右眼手術を想定し回答を得た.「2-8時方向」が11名(40.7〔表1つづき〕%)「4-10時方向」が9名(33.3%)「3-9時方向」が5名(18「5-11時方向」が1名(3「4-10時もしく.5%)(,).7%),(,)は2-8時方(,)向」が1名(3.7%)であった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,「abexterno変法」以外は「2-8時方向」が多かった.5.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置(距離)縫着糸の輪部からの通糸位置は,「2mm」が12名(44.4(単位:人)⑥[縫着糸の強膜結紮固定方法]⑨[眼内レンズ挿入創の幅]三角フラップ122mm以上3mm未満7強膜ポケット作製63mm以上4mm未満22本の縦切開作製24mm以上6mm未満61本の縦切開作製26mm以上7縫合糸を長くし結膜下に置く26mm以上もしくは3mm以上4mm未満22本の縦切開もしくはポケット作製26mm以上もしくは2mm以上3mm未満2三角フラップもしくはポケット作製13mm以上4mm未満もしくは2mm以上3mm未満1⑦[眼内レンズへの縫着糸結紮方法]⑩[縫着時使用の眼内レンズ](複数回答あり)カウヒッチ縫合(2重縫合:内2名)10VA70AD(HOYA株式会社,東京)123-1-1縫合9P366UV(Bausch&Lombジャパン,東京)102-1-1縫合3YA65BB(HOYA株式会社,東京)83-1-1-1縫合2CZ70BD(AlconLaboratories,Inc.,USA)53-2-1-1縫合1VA65BB(HOYA株式会社,東京)33-3縫合1NR-81K(株式会社NIDEK,愛知)13-1-1縫合もしくはカウヒッチ縫合1⑪[IOL.内固定時と比較した縫着IOLの屈折度数]⑧[眼内レンズ挿入創の作製方法].1.0D14強角膜三面切開法21同じ7強角膜一面切開法6.0.5D5+1.0D1⑫[周辺虹彩切除もしくは周辺虹彩切開術の有無]施行しない23症例による4表2IOL縫着術(硝子体処理)のアンケート結果(単位:人)⑬[IOL縫着手術を一次的に行うか]⑯[硝子体処理を行う機器]原則一次10硝子体手術機器22原則二次10白内障手術機器5症例による7⑰[硝子体切除範囲]⑭[インフュージョンポートの設置位置]Anteriorvitrectomyのみ23毛様体扁平部から12Subtotalvitrectomy2角膜サイドポートから9Totalvitrectomy2つけない5バイマニュアルinfusin/aspirationを灌流に使用1⑱[硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ]23ゲージ9⑮[硝子体カッター挿入位置]25ゲージ9角膜サイドポート1920ゲージ1毛様体扁平部325ゲージもしくは23ゲージ3角膜サイドポートもしくは毛様体扁平部3強角膜創(眼内レンズ挿入創)2(131)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121581 %)「1.5mm」が11名(40.7%),「2.2.5mm」が1名(3.7%)「(,)1mm」が1名(3.7%),「2mm以上」が1名(3.7%),「その(,)他」1名(3.7%)であった.「その他」と回答した術者は,abexterno変法で内視鏡で眼内より毛様溝を確認し通糸しているため,輪部からの距離は症例により異なるとのことであった.IOL縫着糸の通糸法別でも検討したが,すべての方法で2mmの位置が多かった.6.縫着糸の強膜結紮固定方法縫着糸の強膜結紮固定方法は,「三角フラップ」が12名(44.4%)「強膜ポケット」が6名(22.2%)「2本の縦切開線」が27.4%)「1本の縦切開線」が2(7.4%),「縫合糸を長くして結に置く」が2名(7.4%),「2本の縦切開作製もしくは強膜ポケット」が2名(7.4%),「三角フラップもしくは強膜ポケット」が1名(3.7%)であった.片側は名((,)名(,)膜下(,)上記だが,対側の固定方法は,IOL挿入創内に縫合するという回答(1名)もあった.7.IOLへの縫合糸結紮方法IOLへの縫合糸結紮方法は,「カウヒッチ縫合」が10名(37.0%)「3-1-1縫合」が9名(33.3%)「2-1-1縫合」が3名(11「3-1-1-1縫合」が2名4%)「3-2-1-1縫合」が1.7%)「3-3縫合」が1名(3.7「3-1-1.1%)(,)(7.(,)名(3(,)%),(,)縫合もしくはカウヒッチ(,)縫合」が1名(3.7%)であった.カウヒッチ縫合10名のうち,2名は2重縫合であった.8.IOL挿入創の作製方法IOL挿入創の作製方法は,「強角膜三面切開法」が21名(77.7%),「強角膜一面切開法」が6名(22.2%)であった.角膜切開法を選択する術者はいなかった.9.IOL挿入創の幅IOL挿入創の幅は,「6mm以上」が7名(25.9%),「4mm以上6mm未満」が6名(22.2%)「3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「2mm以上3mm未(,)満」が7名(25.9%)であった.使用するIOLによって創を調整している術者もおり,「6mm以上,もしくは3mm以上4mm未満」が2名(7.4%),「6mm以上,もしくは2mm以上3mm未満」がZinn小帯離断など一期的にコンバートする緊急時に用いるIOLが異なる術者(2名)もいた.11.縫着IOLの屈折度数の決定縫着IOLの屈折度数は,「.内固定時より.1.0D」が14名(51.9%),「.内固定時と同じ」が7名(25.9%),「.内固定時より.0.5D」が5名(18.5%),「.内固定時より+1.0D」が1名(3.7%)であった.12.周辺虹彩切除もしくは周辺レーザー虹彩切開術の施行の有無手術時周辺虹彩切除もしくは術後周辺レーザー虹彩切開術を施行するか否かは,「施行しない」が23名(85.2%),「症例によっては施行する」が4名(14.8%)であった.【硝子体処理】13.IOL縫着術を一次的に行うか白内障手術時起こった破.・Zinn小帯離断時などに,IOL縫着術を一次的に行うか,二次的に行うかは,「原則一次」「原則二次」が各10名(37.0%)「症例による」が7名(25.9%)であった.「症例による」と答した術者は,破.の範囲,眼底疾患の有無,手術経過時間,患者の状態などにより決定(1名),硝子体処理終了後の患者の状態による(2回(,)名),術前にIOL縫着を予測できる場合は一次的に施行(2名)とのことであった.14.インフュージョンポートの設置位置インフュージョンポートの設置位置は,「毛様体扁平部」が12名(44.4%)「角膜サイドポート」が9名(33.3%)「インフュージョン(,)ポートは設置しない」が5名(18.5%),(,)「バイマニュアル灌流を使用」が1名(3.7%)であった.15.硝子体カッター挿入位置硝子体カッター挿入位置は,「角膜サイドポート」19名(70.3%)「毛様体扁平部」3名(11.1%)「角膜サイドポー毛様体扁平部」3名(11.1%「IOL挿入創」2トもしくは(,))(,)名(7.4%)であった.「毛様体扁平部」を選(,)択した術者で,縫着用の強膜ポケット部に硝子体カッターポートを作製する.7名(24%),「3mm以上4mm未満,もしくは2mm以上3mm未満」が1名(3.7%)であった.10.縫着時使用するIOLの種類術者が1名いた.16.硝子体処理を行う機器硝子体処理を行う機器は,「硝子体手術機器」22名(81.5縫着時使用するIOLの種類は,眼状態などによって選択するIOLを変更している施設・術者もおり複数の回答があった.最も多かったのが「VA70ADR(HOYA株式会社,東京)」で12名(44.4%),続いて「P366UVR(Bausch&Lombジャパン株式会社,東京)」で10名(37.0%),ほか「YA65BBR(HOYA株式会社,東京)」8名(29.6%)「CZ70BDR(AlconLaboratories,Inc.,USA)」5名(18.5%)(,),「VA65BBR(HOYA株式会社,東京)」3名(11.1%),「NR-81KR(株式会社NIDEK,愛知)」1名(3.7%)であった.予定縫着時と,1582あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012%),「白内障手術機器」5名(18.5%)であった.17.硝子体切除範囲硝子体切除範囲は,「anteriorvitrectomyのみ」23名(85.2%),「subtotalvitrectomy」2名(7.4%),「totalvitrectomy」2名(7.4%)であった.18.硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージ硝子体手術機器を使用する場合のカッターのゲージは,「23ゲージ」9名(33.3%),「25ゲージ」9名(33.3%),「20ゲージ」1名(3.7%),「25ゲージもしくは23ゲージ」3名(132) (11.1%)であった.III考按白内障手術や,屈折矯正手術などの前眼部手術については,米国では,1985年以降AmericanSocietyofCataractSurgery(ASCRS)の学会員を対象に調査が毎年行われており1,2),2004年以降は米国会員を対象に継続調査され報告されている.欧州3.5)ならびに最近ではアジア,豪州など諸外国においても同様な調査が開始され,国際比較を検討する試みもされている6,7).日本でも,日本眼内レンズ屈折手術学会会員を対象とした同様なアンケート調査が18年間行われている8)が,IOL縫着術についての調査報告はされていない.平成24年6月現在,北九州市で白内障手術を行っている術者は約82名であり,またIOL縫着術を行っている術者は約30名である.今回,福岡県北九州市という一地域におけるIOL縫着術についての実態を調査した.IOL縫着糸の通糸法は,abexterno法(Lewis法)9),abinterno法10),さらに眼外から強膜にお迎え針を挿入し,強膜切開創や角膜サイドポートから弱弯針を入れお迎え針に挿入するabexterno変法11)がある.Abexterno法は,眼内操作や創口を通した操作が少なく,縫着部位を眼外から設定できる.眼内操作が多くなると糸が絡んだり,眼内組織を損傷したりする危険性が高くなり,また創口を通した操作が多くなると,眼内圧の急激な変動により重篤な合併症をひき起こす危険性があるため,abexterno法は,安全性の高い手術方法といわれている.Abinterno法は,強膜固定時に2本の糸が使用できる,IOLの支持部への結紮に断端が発生しないカウヒッチ縫合を容易に行えるという利点があるが,眼内から非直視下で針をさす手技上の問題がある.Abexterno変法は,両者の利点を取り入れた方法である.本調査では,abexterno法を選択する術者が2/3を占めた.Abexterno変法を選択している術者で,眼内内視鏡を用い,毛様溝を確認して通糸する術者がいたが,眼内内視鏡を用いることにより,安全かつ正確に毛様溝に通糸でき,またブラインド操作を少なくすることが可能となる12,13).使用するIOL縫着糸は,10-0ポリプロピレン糸が多かった.最近は,糸の強度などから9-0ポリプロピレン糸を使用する報告もある14).IOL縫着糸は,生体内劣化を防止するためポリプロピレン糸もしくはマーシリン糸が使用される.これらの糸は非常に硬く,縫着糸を強膜創に埋没しないと結膜を突き破る可能性が高い.縫着糸が結膜を突き破ると糸を伝って眼内まで細菌が侵入する可能性があり,ときに眼内炎を起こす原因にもなる15).このように縫着糸縫合はIOL縫着手術のなかでも重要なポイントといえる.本調査では,強膜フラップ作製が最も多く,強膜ポケット作製,強膜溝作製,埋没させず縫着糸を長く残し結膜下に置くなどさまざまな方(133)法が選択されていた.近年強膜創を作製せず,ジグザグに5回強膜を通糸することにより結び目を作らないZ-sutureの報告16)もあり,現在も縫着糸縫合の研究がなされている.縫着糸の通糸方向は,2-8時方向,4-10時方向が多かった.前毛様動脈眼筋枝は3,6,9,12時,長後毛様動脈は3,9時に位置するため,3-9時方向への通糸は硝子体出血17)などの出血の危険性が高くなる.本調査でも3-9時を選択している術者も散見したが,合併症を考えると避けるべきと考えている.縫着糸の外科的輪部からの通糸位置は,毛様溝固定9.11),毛様体扁平部固定18,19)のどちらを目的とするかにより変わる.本調査では,毛様溝縫着を目的とする術者が大半を占めた.毛様溝固定は,毛様体皺襞による支えがあるためIOLの術後安定性が優れており,輪部後端から強膜に垂直に穿刺する場合で0.5.1.0mm20),虹彩に平行に穿刺する場合で1.5mmが目安といわれている9).しかし,前述のとおり盲目的であり,症例により毛様溝の位置に差があるため,実際は目的の部位への穿刺成功率は高くないとの報告がなされている12).内視鏡を用いて毛様溝を確認し穿刺する報告もある13)が,高度な技術が必要であり器具を所持しない施設も多い.一方,毛様体扁平部固定の場合は,輪部後端から約3.5mmと幅広く位置するため盲目的操作でも穿刺成功率はほぼ100%である.IOLの虹彩への接触による炎症も少なく,それによるぶどう膜炎の発症も少ない19,21).しかし,IOLを支える組織がないため縫着糸のみでIOLを支えることになり,また毛様体扁平部の長径は通常使用するIOLより大きいため,特に眼球が大きい場合などはIOLの位置移動や傾斜が起こりやすい19).縫着用IOLは,縫着糸を通すアイレット付きタイプ(CZ70BDR,P366UVRなど),縫着糸の結び目のズレを防止するディンプルタイプ(NR-81KRなど),支持部端を太くして縫着糸が抜けないタイプ(VA-70ADR,VA/YA-65BBR22)など)がある.IOL挿入創の切開幅は,使用するIOLによって決定されるのでIOLの選択は重要である.近年IOLの多様化が進み,日本では2008年から7.0mm光学径のアクリル製フォーダブルIOLが発売された.このIOLは,インジェクターを用いると切開幅2.4.3.0mm,折りたたみ法を用いると約3.75.4.0mmで挿入できるため,IOL縫着手術時に使用する術者もいる23.25).小切開法でのIOL縫着術はさまざまな利点がある.第1の利点は,術後惹起乱視が少ない25,26)ことである.大光学径のIOLをそのまま挿入するためには6mm以上の強膜切開が必要となるので,術後惹起乱視が大きくなり早期の視力回復が期待できにくい.第2の利点は,より安定したclosedeyesurgeryが可能なことである.無水晶体眼や無硝子体眼では,切開創からの出し入れが多いIOL縫着術においてはあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121583 容易に眼球虚脱に陥りやすい.しかし,小切開法では,切開創が小さいため眼内灌流をつけると硝子体切除などの眼内操作時も眼球が虚脱することは少なくなる.6mm以上の大きな切開創では,眼内灌流の流れにより切開創からの虹彩脱出,それによる瞳孔偏位や虹彩損傷,術後炎症の増大をきたすこともあるが,3mm以内の小切開法ではそのような合併症を起こすことはほぼない.IOL縫着が必要な症例は,硝子体脱出を伴っている場合が多く,IOLの固定位置に水晶体遺残物や前部硝子体が残存していると,術後にIOLの位置異常や偏位をきたしやすくなる27).IOL縫着術の術後合併症として硝子体出血や網膜.離もあるが,それらも眼内で縫着糸を通糸する際に硝子体が絡み,術後の硝子体牽引によってひき起こされることが多いと考えられている28).そのため,最周辺部まで硝子体切除している術者もいる.近年硝子体の処理法は,23ゲージや25ゲージの小切開硝子体手術が普及してきており,IOL縫着術でも使用されている24).本調査でも前部硝子体切除のみ行う術者が多いが,小切開硝子体手術にて容易に周辺部まで硝子体処理ができるようになった現在,合併症予防として最周辺部まで硝子体処理をしたほうがいいのかもしれない.急速な高齢化社会によるqualityoflifeを重要視する傾向であるなか,眼科領域でもqualityofvisionを軽視できない環境となっており,IOL縫着術においてもより良い術後視力が期待されるようになってきた.小切開法から挿入できる縫着用IOLが開発され,術後惹起乱視は大幅に解決されてきた.白内障手術は現在までいくつもの時代の波によって変化してきた.IOL縫着術もさらなる発展により,低侵襲で合併症が少なく早期の視機能回復を得られる手術にならなければならないと考えている.今回の調査は,北九州市という一地域の小規模な調査であった.今後さらなる大規模な調査が望まれる.本論文の要旨は,第65回日本臨床眼科学会にて発表した.文献1)KraffMC,SandersDR,KarcherDetal:Changingpracticepatterninrefractivesurgery:resultsofasurveyoftheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery.JCataractRefractSurg20:172-178,19942)LeamingDV:PracticestylesandpreferencesofASCRSmembers-2003survey.JCataractRefractSurg30:892900,20043)WongD,SteeleADM:AsurveyofintraocularlensimplantationintheUnitedKingdom.TransOphthalmolSocUK104:760-765,19854)Ninn-PedersonK,SteneviU:CataractsurgeryinaSwedishpopuration:Observationsandcomplications.JCataractRefractSurg22:1498-1505,19961584あたらしい眼科Vol.29,No.11,20125)SchmackI,AuffarthGU,EpsteinDetal:RefractivesurgerytrendsandpracticestylechangesinGermanyovera3-yearperiod.JRefractSurg26:202-208,20106)NorregaadJC,ScheinOD,AndersonGF:Internationalvariationinophthalmologicmanagementofpatientswithcataracts.ArchOphthalmol115:399-403,19977)NorregaardJC,Bernth-PetersonP,BellanLetal:IntraoperativeclinicalpracticeandriskofearlycomplicationsaftercataractextractionintheUnitedStates,Canada,Denmark,andSpain.Ophthalmology106:42-48,19998)佐藤正樹,大鹿哲郎:2009年日本眼内レンズ屈折手術学会会員アンケート.IOL&RS24:462-485,20109)LewisJS:Abexternosulcusfixation.OphthalmicSurg22:692-695,199110)StarkWJ,GoodmanG,GoodmanDetal:Posteriorchamberintraocularlensimplantationintheabsenceofposteriorcapsularsupport.OphthalmicSurg19:240-243,198811)德田芳浩:毛様体溝固定3)通糸法の工夫─対面通糸法変法.臨眼64(増刊号):235-240,201012)ManabeS,OhH,AminoKetal:Ultrasoundbiomicroscopicanalysisofposteriorchamberintraocularlenseswithtransscleralsulcussuture.Ophthalmology107:2172-2178,200013)SasaharaM,KiryuJ,YoshimuraN:Endscope-assistedtransscleralsuturefixationtoreducetheincidenceofintraocularlensdislocation.JCataractRefractSurg31:1777-1780,200514)DickHB,AugustinAJ:Lensimplantselectionwithabsenceofcapsularsupport.CurrOpinOphthalmol12:47-57,200115)HeilskovT,JoondephBC,OlsenKRetal:Lateendophthalmitisaftertransscleralfixationofaposteriorchamberintraocularlens.ArchOphthalmol107:1427,198916)SzurmanP,PetermeierK,AisenbreySetal:Z-suture:anewknotlesstechniquefortransscleralsuturefixationofintraocularimplants.BrJOphthalmol94:167-169,201017)HeidemannDG,DunnSP:Visualresultandcomplicationsoftranssclerallysuturedintraocularlensesinpenetratingkeratoplasty.OphthalmicSurg21:609-614,199018)TeichmannKD:Parsplanafixationofposteriorchamberintraocularlenses.OphthalmicSurg25:549-553,199419)門之園一明:毛様体扁平部縫着術眼内からの刺入による毛様体扁平部縫着.IOL&RS21:323-326,200720)DuffeyRJ,HollandEJ,AgapitosPJetal:Anatomicstudyoftranssclerallysuturedintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol108:300-309,198921)MiyakeK,AsakuraM,KobayashiH:Effectofintraocularlensfixationontheblood-aqueousbarrier.AmJOphthalmol98:451-455,198422)YaguchiS,YaguchiS,NodaYetal:Foldableacrylicintraocularlenswithdistendedhapticsfortransscleralfixation.JCataractRefractSurg35:2047-2050,200923)SzurmanP,PetermeierK,JaissleGBetal:Anewsmallincisiontechniqueforinjectorimplantationoftranssclerallysuturedfodablelenses.OphthalmicSurgLasersImag(134) ing38:76-80,2007術後成績─シリコーン眼内レンズとpolymethyl-methacry24)塙本宰:インジェクターを用いた7.0mmフォーダブル眼late眼内レンズの比較─.日眼会誌98:362-368,1994内レンズの毛様溝縫着術.IOL&RS24:90-94,200927)種田人士,大島佑介,恵美和幸:自己閉鎖創による眼内レ25)金高綾乃,柴琢也,神前賢一ほか:小切開眼内レンズ縫ンズ毛様溝縫着術の手術成績の検討.眼紀49:218-222,着術を施行した水晶体亜脱臼の1例.眼科手術24:339-1998343,201128)安田秀彦,鈴木岳彦,矢部比呂夫:後房レンズ毛様溝縫着26)大鹿哲郎,坪井俊児,谷口重雄ほか:小切開白内障手術の術後に生じた網膜.離の2症例.臨眼50:53-56,1996***(135)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121585