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糖尿病既往患者に対する小切開硝子体手術における術直前HbA1cの影響

2021年4月30日 金曜日

《第25回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科38(4):449.453,2021c糖尿病既往患者に対する小切開硝子体手術における術直前HbA1cの影響佐藤孝樹大須賀翔河本良輔福本雅格小林崇俊喜田照代池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CE.ectofPreoperativeHbA1cValueontheOutcomeofMicro-IncisionVitreousSurgeryinDiabeticPatientsTakakiSato,ShouOosuka,RyohsukeKohmoto,MasanoriFukumoto,TakatoshiKobayashi,TeruyoKidaandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC緒言:糖尿病患者に対する小切開硝子体手術(MIVS)における術直前HbA1cの影響について後ろ向きに検討した.対象および方法:2014年C1月.2016年C12月に大阪医科大学附属病院にてCMIVSを施行した患者のうち,糖尿病を有するC289例C347眼を対象とした.MIVSの原因疾患が黄斑上膜など糖尿病網膜症(DR)以外であったC100例C104眼をDR以外群,原因疾患がCDRであったC189例C243眼をCDR群とした.さらに各群を術前のCHbA1c値により,HbA1c8%以上を不良群,8%未満を良好群に分けた.検討項目は視力変化,術後感染性眼内炎発症の有無に加えてCDR群については,再手術の割合,両眼手術の割合,血管新生緑内障(NVG)手術の有無も検討した.結果:視力はCDR群,DR以外群,良好群,不良群とも有意に改善を認めた.DR群の術前後の視力,再手術の割合,両眼手術の割合,NVG手術の有無は,不良群,良好群で有意差はなかった.術後感染性眼内炎発症は全例で認めなかった.考察:糖尿病患者に対するCMIVSにおいて,術直前のCHbA1c高値は術後成績に大きく影響しないと考えられる.CPurpose:ToCinvestigateCtheCe.ectsCofCHbA1cCimmediatelyCbeforeCmicroCincisionCvitreoussurgery(MIVS)inCdiabeticmellitus(DM)patients.Subjectsandmethods:Thisstudyinvolved347eyesof289patientswithahisto-ryofDMwhounderwentMIVSatOsakaMedicalCollegeHospitalbetweenJanuary2014andDecember2016.Inthose289cases,thecausativediseaseleadingtosurgerywasdiabeticretinopathy(DR)(189cases,243eyes)andnon-DR,CsuchCasCepiretinalmembrane(100Ccases,C104eyes)C,CandCtheCpreoperativeCHbA1cvalue[i.e.,CanCHbA1cCvalueCof8%Cormore(badgroup)C,CandCanCHbA1cCvalueCofClessCthan8%(goodgroup)]wasCretrospectivelyCcom-pared.WeexaminedtherelationshipbetweenpreoperativeHbA1cvalueandvisualacuity(VA)C,andtheincidenceofCpostoperativeCinfectiousCendophthalmitis.CWeCalsoCexaminedCtheCrelationshipCbetweenCtheCpreoperativeCHbA1cCandCtheCrateCofCreoperation,CtheCrateCofCsurgeryCinCbothCeyes,CandCrelationshipCwithCneovascularglaucoma(NVG)CsurgeryCinCDRCcases.CResults:PostCsurgery,CtheCVACimprovedCsigni.cantlyCinCbothCtheCDRCandCnon-DRCcasesCinCbothgroups.Therewasnosigni.cantdi.erencebetweenthetwogroupsinpre-andpostoperativevisualacuity,rateofreoperation,rateofsurgeryinbotheyes,andrelationshipwithNVGsurgeryinbothproliferativediabeticretinopathyCandCdiabeticCmacularCedema.CNoCpostoperativeCinfectiousCendophthalmitisCdevelopedCinCallCcases.CCon-clusion:InMIVS,ahighpreoperativeHbA1cvaluedidnotappeartosigni.cantlya.ectthepostoperativeresults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(4):449.453,C2021〕Keywords:HbA1c,糖尿病合併,術前血糖コントロール,小切開硝子体手術.HbA1c,diabetescomplications,preoperativeglycemiccorrection,microincisionvitreoussurgery(MIVS)〔別刷請求先〕佐藤孝樹:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakakiSato,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANCはじめに近年,小切開硝子体手術(microCincisionCvitreousCsur-gery:MIVS)の普及により手術侵襲は減少し,硝子体手術適応も拡大している.また,厚生労働省の平成C29年「国民健康・栄養調査」によると,わが国の成人で「糖尿病が強く疑われる者」の割合はC13.6%(男性C18.1%,女性C10.5%)であり,平成C9年以降増加傾向である1).そのため,糖尿病患者に対し,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)以外の疾患で硝子体手術を施行する機会は増えていると考えられる.しかし,現在のところ糖尿病患者に対する硝子体手術における術前CHbA1c値の基準は確立されていない.今回,筆者らは,DRおよびCDR以外の疾患でCMIVSを施行した糖尿病患者における術直前CHbA1cの影響について検討したので報告する.CI対象および方法2014年C1月.2016年C12月に,大阪医科大学附属病院眼科(以下,当院)にて硝子体手術を施行した患者のうち,半年以上経過観察可能であった糖尿病を有する患者C289例C347眼(男性C173例,女性C116例)を対象とした.手術は硝子体手術を専門とする熟達した術者が,25ゲージまたはC23ゲージのCMIVSで,シャンデリア照明を使用したC4ポートシステムで行った.検討項目は,全症例に対して術前C1カ月以内のCHbA1cと,血糖値高値に伴う合併症として術後感染性眼内炎発症の有無,術前後の視力,術前血糖コントロール入院の有無,DR以外の疾患で手術をした患者(DR以外群)については,DRの病期進行の有無,DRで手術をした患者(DR群)については,再手術の割合,両眼手術の割合,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)に対する緑内障手術の有無とした.さらに術前のCHbA1c値C8%以上をコントロール不良群(不良群),8%未満をコントロール良好群(良好群)とし,2群に分けてレトロスペクティブに検討を行った.DR以外群の原因疾患は,網膜静脈閉塞症がC9例C9眼(良好群C8例C8眼,不良群C1例C1眼),網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)がC21例C22眼(すべて良好群),水晶体および偽水晶体脱臼がC15例C16眼(良好群C14例C15眼,不良例C1例C1眼),裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinaldetachment:RRD)および黄斑円孔網膜.離がC21例C21眼(良好群C15例C15眼,不良群C6例C6眼),黄斑円孔(macularhole:MH)がC9例C9眼(すべて良好群),その他疾患がC25例27眼(良好群23例25眼,不良群2例2眼)であった.DR群では,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)が33例44眼(良好群28例39眼,不良群5例5眼),増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)がC156例C199眼(良好群C111例C135眼,不良群C45例64眼)だった(表1).視力は,既報2,3)を参考にして,指数弁はClogMAR換算1.85,手動弁はClogMAR換算C2.30,光覚ありはClogMAR換算C2.80,光覚なしはClogMAR換算C2.90として統計学的処理を行った.対応のないC2群間での比較はCt-testを用いて検定し,群間での頻度の比較はCChi-squaretestもしくはCFisherCexacttestを用いて検定した.p<0.05で有意差ありと判定した.CII結果全例において術後感染性眼内炎の発症は認めなかった.DR以外群におけるCDRの病期は,糖尿病網膜症なし(noCdiabeticretinopathy:NDR)がC84例C87眼(良好群C77例C80眼,不良群C7例C7眼),単純糖尿病網膜症(simpleCdiabeticretinopathy:SDR)8例C8眼(全例良好例),増殖前糖尿病網膜症(pre-proliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)8例C9眼(良好群C5例C5眼,不良例C3例C4眼)であった.logMAR視力は,不良群において術前C1.00,術後C0.32(p=0.047),良好群において術前C0.84,術後C0.40(p<0.001)と両群とも有意に視力改善を認めた.術前後においてCDRの病期が進行したものは認めなかった.術前血糖コントロール入院については,コントロール入院を行った症例はすべてCDR群の症例で,不良群の症例であった.術前血糖コントロールの方法としては,手術前にC2週間程度内科血糖コントロール入院を行った.コントロールに一定の基準はなく,内科より必要といわれ,硝子体手術に緊急性がない場合に施行された.DR群の不良群C50例C69眼のうち,術前血糖コントロール入院が行われたのはC17例C24眼(DME1例C1眼,PDR16例C23眼)であった.logMAR視力は,コントロール入院あり群で術前C1.31,術後C0.45,コントロール入院なし群で術前C1.40,術後C0.54とコントロール入院の有無に関係なく,両群とも有意(p<0.001)に視力は改善し,術前(p=0.607)術後(p=0.548)の視力はC2群間に有意差を認めなかった.DR群の患者背景(表2)は,年齢,インスリンの使用の有無,DME,PDRの割合について,不良群,良好群で,有意差を認めた.不良群は良好群に比べ,より若年であり,インスリンの使用が多く,硝子体手術となった状況はCDMEよりPDRによるものが有意に多かった.両眼手術となった割合は,良好群でC139例中C35例(25.1%),不良群でC50例中C19例(38%)と有意差は認めなかった(p=0.09).logMAR視力は,PDRは不良群で術前C1.40,術後C0.51,良好群で術前1.34,術後C0.55と術前(p=0.55),術後(p=0.68)とも2群間に有意差なかった.DMEでも不良群は術前C0.91,術後0.45,良好群で術前C0.76,術後C0.52で術前(p=0.41),術後(p=0.82)ともC2群間に有意差は認めなかった.複数回硝子体手術を要した割合は不良群でC69眼中C13眼(18.8%),良表1MIVSの原因疾患疾患全体良好群不良群網膜静脈閉塞症9(9)8(8)1(1)網膜前膜21(22)21(22)C0(偽)水晶体(亜)脱臼15(16)14(15)1(1)網膜.離21(21)15(15)6(6)(裂孔原性,黄斑円孔)黄斑円孔9(9)9(9)C0その他25(27)23(25)2(2)糖尿病黄斑浮腫33(44)28(39)5(5)増殖糖尿病網膜症156(199)111(135)45(64)計289(347)229(268)60(79)症例数(眼数)表3DR群のうち再手術を要した割合複数回手術を手術回数2回以上1回要した割合(%)不良群(69眼中)C13C56C18.8良好群(174眼中)C21C153C12.1C不良群C18.8%,良好群C12.1%とC2群間に有意差を認めなかった.好群C174眼中C21眼(12.1%)と有意差を認めなかった(p=0.17)(表3).NVGで緑内障手術を要した割合は,243眼中17眼(7.0%)だった.良好群でC174眼中C11眼(6.3%),不良群でC69眼中C6眼(8.7%)とC2群間に有意差を認めなかった(p=0.18)(表4).CIII考按血糖コントロール不良例では創傷治癒遅延や易感染性が懸念されるが,術後眼内炎の危険因子であるかどうかは不明である.須藤ら4)は,白内障手術症例においてCHbA1c9%以上とC9%以下で術前結膜.細菌検出率に差がなかったが,糖尿病患者は非糖尿病患者よりメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の検出率は有意に高かったとしている.MIVSの場合,結膜上からトロッカールを刺入して手術創を作製するため,結膜.からの菌検出率の高い糖尿病患者では,感染のリスクが高くなる可能性は否定できないと考える.今回の検討では,全症例において術後感染性眼内炎の発症は認めなかったが,硝子体術後感染性眼内炎の発症率はCShimadaら5)の報告ではC25ゲージでC0.0299%であることを考慮すると,より多数例での検討が必要であると考える.また,硝子体手術は,2002年頃よりCMIVSが普及したことで手術時間は短縮し,侵襲は著明に低下したと考えられる.それに伴い,手術適応も変化してきている.硝子体手術病変の対象となった原疾患の内訳について,1993年に鬼怒表2DR群の患者背景良好群不良群(139例174眼)(50例69眼)p値男女比(男:女)79:6027:230.73年齢(歳)C59.53C54.280.003血液透析あり11例(7.9%)3例(6%)0.66インスリン使用53例(38.1%)34例(68%)<0.001CDME39眼(22.4%)5眼(7.2%)CPDR135眼(77.6%)64眼(92.8%)0.006不良群は良好群に比べて,平均年齢が若く,インスリンの使用が多く,MIVSの原因疾患はCDMEよりCPDRが有意に多かった.表4DR群のうちNVGで緑内障手術を要した割合NVG手術例(%)不良群(6C9眼中)C6C8.7良好群(1C74眼中)C11C6.3計C17C7.0良好群C6.3%,不良群C8.7%とC2群間に有意差を認めなかった.川ら6)は,増殖硝子体網膜症C34.7%,PDR19.1%,ERM7.5%,MH4.5%,その他C34.2%と報告している.2015年には田中ら7)は,RRD33.3%,ERM21.4%,DR(DME含む)13.8%,MH12.7%,その他C18.8%と重症例の比率が減少し硝子体手術適応が拡大していると報告している.糖尿病患者において硝子体手術の対象となった原疾患の内訳について,堀ら8)は,DRがC48.9%(DME6.2%,PDR35.7%),RRD15.4%,ERM9.7%,MH6.2%,その他C19.8%としている.今回の検討では,DRがC65.3%(DME11.4%,PDR53.9%)であり,過去の報告よりCDR症例が多く,とくにCPDR症例が多かった.理由としては,既報の施設は眼科専門病院であり,当院のような大学病院との特性の違いが要因であると考えられる.このように,硝子体手術における重症例の比率が減少し硝子体手術適応が拡大しているという報告がある一方で,糖尿病患者がCDR以外の疾患で硝子体手術を受けた場合に,術前のCHbA1cが手術成績に及ぼす影響を検討した報告は,調べた限り認めない.糖尿病患者における白内障手術前のCHbA1cについての検討は多数報告がある.岩瀬ら9)はCHbA1c9%以上であることが白内障手術後のCDRの増悪因子の一つであるとしている.森脇ら10)は,DRの悪化を避けるためにはCHbA1c7%台が理想であるとしている.中西ら11)は,罹病期間の長いものは有意にCDRの悪化がみられ,HbA1cとCDRの進行には有意に相関がみられ,HbA1cはC7.9%以下に保つことが望ましいとしている.以上のデータから,旧来より当院で白内障手術において基準としていたCHbA1c8%を,今回はC2群に分ける基準として検討を行った.しかし,これらの報告はC1992年以前の報告である.現在,MIVSは切開幅約C3Cmmから,さらに切開幅の小さいC1.8.2.4Cmmの極小切開白内障手術となった.加えて手術器械の進歩もあり,白内障手術はより安全に侵襲の少ない手術が可能となってきているため,白内障手術基準も変化してきていると考える.最近の報告では,須藤らは,血糖不良例で施行しても術後CDRの悪化は認めなかった12)とし,10%未満であれば手術可能であるだろうとしている.しかし,DR病期が前増殖期であると,術前C3カ月間に急速に血糖コントロールし,HbA1cがC3%以上低くなった群において,有意にCDRおよびCDMEの悪化率が高い13)とし,術前の急激な血糖コントロールには注意を要すると報告している.今回の硝子体手術症例では,白内障手術と違い手術を待てないものもあり,術直前に厳格な血糖コントロールがなされた症例はなかった.また,入院による術前血糖コントロールをされた症例も,術直前にC2週間程度の入院によるコントロールであり,HbA1cをC3%以上急激にコントロールされた症例はなかった.DR以外群にもCSDR,PPDR眼が含まれていたが,術後に明らかなCDR病期の進行を認めなかった.また,術前血糖コントロール入院は行われていなかったが,両群とも有意に視力の回復を認めた.DR群は,DRやCDMEの術後悪化がCHbA1cによるものかどうかを評価するのは困難ではあるが,術前血糖コントロール入院の有無に関係なく有意に視力回復を認めており,少なくとも術前血糖コントロール入院は視力回復には影響は認めないと考えられた.DRに対する硝子体手術後の予後因子についてはさまざまな報告があるが,全身的な因子としては,松本ら14)は,若年,罹病期間がC20年以上,インスリンによる治療を必要とし腎症や神経症を合併している症例では術後視力不良であるとしている.笹野ら15)は,高度腎性貧血症例では,貧血治療が視力予後改善に有効であるとしている.NVG発症については,小田ら16)は,血中ヘモグロビン低値,BUN高値,蛋白尿といった腎機能障害が強くかかわっているとし,臼井ら17)は,NVGを合併するCPDRでは視力予後に腎機能障害が影響している可能性があるとしている.このように,DRには多因子が影響しており,一元的には評価が困難であるが,術前のCHbA1cは少なくともCDRの悪化および視力回復には影響しないと思われた.また,疫学研究18,19)では,血糖コントロールを厳格に行った群において,DRの進展,DMEの発生,汎網膜光凝固の必要性が有意に抑制されたと報告されるなど,糖尿病罹病期間および血糖コントロールがDRの発症発展には大きく影響すると考える.しかし,今回の検討では後ろ向き検討のため罹病期間が不明のものが多く,罹病期間の影響を検討することが困難であった.今回,HbA1c8%以上と未満のC2群に分けて検討を行い,すべての症例において,術直前のCHbA1c高値は,術後感染性眼内炎発症に影響せず,術後の視力回復への影響も認めなかった.DR以外群の疾患において,術後CDR病期の進行を認めなかった.DRにおいては,HbA1c高値は再手術のリスク,緑内障手術が必要となるコントロール不良なCNVGの発症のリスクとはならないと考えられた.また,DR群においてCDME,PDRに分けて検討を行い,硝子体手術となった状況は不良群においてCDMEよりCPDRによるものが有意に多いが,視力はCPDR,DMEとも術前後に有意差を認めず,有意に視力回復を認めた.以上を考慮すると,術直前に手術のための血糖コントロールは必ずしも必要ではないように思われる.しかし,硝子体術直前の血糖コントロールは不要という訳ではなく,長期的にCDRを安定させるためには血糖コントロールは不可欠であると考える.硝子体手術はCMIVSとなり,手術時間も短縮し,術後炎症も軽減していることから,術直前のCHbA1cのコントロールは白内障手術と同程度の基準で考えてもよいのではないかと思われた.本要旨は,第C25回日本糖尿病眼学会にて報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:平成C29年国民健康・栄養調査報告.厚生労働省,2018(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/h29-houkoku.html)2)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handCmotion”and“countingC.ngers”canCbeCquan-ti.edCwithCtheCfreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20063)GroverS,FishmanGA,AndersonRJetal:Visualacuityimpairmentinpatientswithretinitispigmentosaatage45yearsorolder.OphthalmologyC106:1780-1785,C19994)SutoCC,CMorinagaCM,CYagiCTCetal:ConjunctivalCsacCbac-terialC.oraCisolatedCpriorCtoCcataractCsurgery.CInfectCDrugCResistC5:37-41,C20125)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:Incidenceofendophthalmitisafter20and25gaugevitrectomy:causesandprevention.OphthalmologyC115:2215-2220,C20086)鬼怒川雄一,志村雅彦,小林直樹ほか:東北大学眼科における硝子体手術件数の年次的推移.眼臨90:10-13,C19967)田中宏樹,堀貞夫,小林一博ほか:地域の眼科単科病院における硝子体手術を施行した網膜硝子体疾患の頻度と特性.2015年の横断面調査.眼臨紀10:989-992,C20178)堀貞夫,井上順治,川添賢志ほか:硝子体手術を受けた糖尿病患者の手術適応となった網膜硝子体病変.臨眼C71:C545-550,C20179)岩瀬光:糖尿病網膜症におけるCIOL挿入術,眼科手術3:195-200,C199010)森脇裕平,能美俊典:糖尿病患者に対する人工水晶体手術,眼臨医86:1-4,C199211)中西堯朗,尾﨏雅博:糖尿病に併発した白内障手術成績.眼臨医86:2412-2417,C199212)SutoC,HoriS:RapidpreoperativeglycemiccorrectiontopreventCprogressionCofCretinopathyCafterCphacoemulsi.ca-tionindiabeticpatientwithpoorglycemiccontrol.JCata-ractRefractSurgC29:2034-2035,C200313)SutoC,HoriS:E.ectofperioperativeglycemiccontrolinprogressionofdiabeticretinopathyandmaculopathy.ArchOphthalmolC90:e237-e239,C201214)松本年弘,佐伯宏三,内尾英一ほか:糖尿病網膜症に対する硝子体手術予後の検討.臨眼48:1527-1531,C199415)笹野久美子,安藤文隆,鳥居良彦ほか:増殖糖尿病網膜症硝子体手術の視力予後への全身的因子の関与について.眼紀47:306-311,C199616)小田仁,今野公士,三井恭子ほか:糖尿病網膜症に対する硝子体手術─最近C5年間の検討.日眼会誌C109:603-612,C200517)臼井亜由美,木村至,清川正敏ほか:血管新生緑内障を合併する重症増殖糖尿病網膜症の治療成績と予後不良因子についての検討.眼臨紀7:928-933,C201418)TheCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial/Epidemiol-ogyCofCDiabetesCInterventionsCandCComplicationsCReserchGroup:RetinopathyCandCnephropathyCinCpatientsCwithCtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivethera-py.NEnglJMedC342:381-389,C200019)WhiteCNH,CSunCW,CClearyCPACetal:ProlongedCe.ectCofCintensiveCtherapyConCtheCriskCofCretinopathyCcomplicationCinCpatientsCwithCtypeC1Cdiabetesmellitus:10CyearsCafterCtheCDiabetesCControlCandCComplicationsCTrial.CArchCOph-thalmolC126:1707-1715,C2008***

小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討

2014年11月30日 日曜日

1706あたらしい眼科Vol.4101,211,No.3(00)1706(140)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1706.1710,2014cはじめに眼科領域においては硝子体手術の適応となる網膜・硝子体疾患は多様であり,わが国では年間に10万件以上もの硝子体手術が行われている1).かつて硝子体手術は20ゲージ(20G)硝子体手術が主流であったが2),2002年以降,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)である25ゲージ(25G)硝子体手術システムが確立され3),また,2005年には23ゲージ(23G)硝子体手術システムなど〔別刷請求先〕兼子裕規:〒466-8550愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65番地名古屋大学大学院医学系研究科眼科学Reprintrequests:HirokiKaneko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,65Tsuruma-cho,Showa-ku,Nagoya466-8550,JAPAN小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討黒川幸延*1,2兼子裕規*1浅見哲*1岩瀬剛*1寺崎浩子*1*1名古屋大学大学院医学系研究科眼科学講座*2市立四日市病院眼科AssessmentforCollectingVitreoretinalTissuesinMicroincisionVitrectomySurgeryYukinobuKurokawa1,2),HirokiKaneko1),TetsuAsami1),TakeshiIwase1)andHirokoTerasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiMunicipalHospital目的:クロージャーバルブ付きトロカールを使用した小切開硝子体手術時(MIVS)における網膜硝子体組織採取の方法について検討する.対象および方法:23ゲージ(23G)もしくは25ゲージ(25G)クロージャーバルブ付きトロカールを用いてMIVSを行った26眼に対し,以下の3種類の組織採取方法を用いて組織採取の可否を検討した.①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.結果:①の方法で25GMIVSを行うと全例で組織採取が困難であった.②の方法では比較的組織採取が可能であったが,手術途中でトロカールを抜去することによる合併症などが懸念された.③の方法では25GMIVSでも組織を採取することが可能であったが,増殖膜など比較的固い組織の採取は困難であった.結論:増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.内境界膜など柔らかい組織の採取には,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置したうえでVitSweeperTMを用いた組織採取が可能である.Purpose:Toassessappropriatemethodsofcollectingvitreoretinaltissuesduring23-gauge(23G)or25-gauge(25G)closurevalve-equippedmicroincisionvitrectomysurgery(MIVS).Methods:Weassessedthreedifferentmethodsofcollectingtissuesduring23Gor25Gclosurevalve-equippedMIVS.Subjectswere26eyeswithvariousvitreoretinaldiseases,fromwhichtissueswereremovedduringsurgery.Results:Inclosurevalve-equipped23GMIVS,withdrawalofthetrocar,followedbyforcepsremovalthroughthescleralincision,enabledcollectionofvitreoretinaltissues.In25GMIVS,vitreoretinaltissueswerenotsuccessfullycollectedwhenpulledthroughatrocarwithaclosurevalve.UseofaVitSweeperTMenabledsuccessfulcollectionoftissuesinclosurevalve-equipped25GMIVSonlywhenthetissueswererelativelysoft.Conclusions:Thenewtechnique,usingaVitSweeperTMtocollecttissuesduring25Gclosurevalve-equippedMIVS,isusefulonlywhenremovingrelativelysoftvitreoretinaltissues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1706.1710,2014〕Keywords:小切開硝子体手術,クロージャーバルブ付きトロカール,VitSweeperTM,網膜硝子体組織採取.mi-cro-incisionvitrectomysurgery(MIVS),closurevalve-featuredtrocar,VitSweeperTM,collectingvitreoretinaltis-sues.(00)1706(140)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY《原著》あたらしい眼科31(11):1706.1710,2014cはじめに眼科領域においては硝子体手術の適応となる網膜・硝子体疾患は多様であり,わが国では年間に10万件以上もの硝子体手術が行われている1).かつて硝子体手術は20ゲージ(20G)硝子体手術が主流であったが2),2002年以降,小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)である25ゲージ(25G)硝子体手術システムが確立され3),また,2005年には23ゲージ(23G)硝子体手術システムなど〔別刷請求先〕兼子裕規:〒466-8550愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65番地名古屋大学大学院医学系研究科眼科学Reprintrequests:HirokiKaneko,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,65Tsuruma-cho,Showa-ku,Nagoya466-8550,JAPAN小切開硝子体手術における術中サンプル収集方法の検討黒川幸延*1,2兼子裕規*1浅見哲*1岩瀬剛*1寺崎浩子*1*1名古屋大学大学院医学系研究科眼科学講座*2市立四日市病院眼科AssessmentforCollectingVitreoretinalTissuesinMicroincisionVitrectomySurgeryYukinobuKurokawa1,2),HirokiKaneko1),TetsuAsami1),TakeshiIwase1)andHirokoTerasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YokkaichiMunicipalHospital目的:クロージャーバルブ付きトロカールを使用した小切開硝子体手術時(MIVS)における網膜硝子体組織採取の方法について検討する.対象および方法:23ゲージ(23G)もしくは25ゲージ(25G)クロージャーバルブ付きトロカールを用いてMIVSを行った26眼に対し,以下の3種類の組織採取方法を用いて組織採取の可否を検討した.①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.結果:①の方法で25GMIVSを行うと全例で組織採取が困難であった.②の方法では比較的組織採取が可能であったが,手術途中でトロカールを抜去することによる合併症などが懸念された.③の方法では25GMIVSでも組織を採取することが可能であったが,増殖膜など比較的固い組織の採取は困難であった.結論:増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.内境界膜など柔らかい組織の採取には,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置したうえでVitSweeperTMを用いた組織採取が可能である.Purpose:Toassessappropriatemethodsofcollectingvitreoretinaltissuesduring23-gauge(23G)or25-gauge(25G)closurevalve-equippedmicroincisionvitrectomysurgery(MIVS).Methods:Weassessedthreedifferentmethodsofcollectingtissuesduring23Gor25Gclosurevalve-equippedMIVS.Subjectswere26eyeswithvariousvitreoretinaldiseases,fromwhichtissueswereremovedduringsurgery.Results:Inclosurevalve-equipped23GMIVS,withdrawalofthetrocar,followedbyforcepsremovalthroughthescleralincision,enabledcollectionofvitreoretinaltissues.In25GMIVS,vitreoretinaltissueswerenotsuccessfullycollectedwhenpulledthroughatrocarwithaclosurevalve.UseofaVitSweeperTMenabledsuccessfulcollectionoftissuesinclosurevalve-equipped25GMIVSonlywhenthetissueswererelativelysoft.Conclusions:Thenewtechnique,usingaVitSweeperTMtocollecttissuesduring25Gclosurevalve-equippedMIVS,isusefulonlywhenremovingrelativelysoftvitreoretinaltissues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1706.1710,2014〕Keywords:小切開硝子体手術,クロージャーバルブ付きトロカール,VitSweeperTM,網膜硝子体組織採取.mi-cro-incisionvitrectomysurgery(MIVS),closurevalve-featuredtrocar,VitSweeperTM,collectingvitreoretinaltis-sues. あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141707(141)の確立もなされた4).その結果,MIVSは広く一般的な術式として受け入れられるに至った.わが国では2012年までにMIVSが全体の50%以上を占めるようになり,器具や技術の進歩に伴いMIVSは従来の20G硝子体手術と比較しても遜色なく使用できると考えられるようになってきている5,6).さらには近年,わが国ではクロージャーバルブ付きトロカールが普及し,手術の安全性,効率性が向上するとともに手術操作の簡略化および手術時間の短縮が可能となった7).しかし,MIVSが普及し器具の口径が縮小することにより手術の安全性・効率性が向上した一方で,硝子体手術中に網膜硝子体組織を採取する操作はむしろ困難となってしまった可能性がある.そこで今回筆者らは,従来のMIVSのままで適切に網膜硝子体組織を採取する方法について検討した.I対象および方法1.対象2012年11月.2013年11月に名古屋大学医学部附属病院にて増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)・黄斑円孔(macularhole:MH)・黄斑上膜(epireti-nalmembrane:ERM)など硝子体手術中に眼内組織の切除・.離を必要とする症例を対象とした.いずれも25Gもしくは23G硝子体手術を施行し,網膜硝子体組織を採取した26眼(男性14眼,女性12眼)である.いずれの症例においても通常の25G・23GMIVSを採用し,手術装置はConstellationVitrectomySystem(Alcon社),手術顕微鏡はOPMILumera(CarlZeiss社)を使用した.また,トロカールはクロージャーバルブ付きトロカール(Alcon社製24例,DORC社製2例)を使用した.手術は5名の術者によって施行された.2.網膜硝子体組織の採取方法まず硝子体カッターで十分にcorevitrectomyを行った後,硝子体鑷子(Alcon社)で切離した増殖膜・内境界膜(inter-nallimitingmembrane:ILM)・ERMなどの網膜硝子体組織の採取方法を検討した.検体の採取方法は①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する,のいずれかの方法を用いた.今回の検討は名古屋大学医学部附属病院の生命倫理委員会の承認を受け,患者に十分なinformedconsentを行った後に図1VitSweeperTMの先端部位図a:本体にdisposableのブラシ部分を取り付けて使用する.b:プランジャーを進めると先端のブラシも伸展する.c:逆にプランジャーを戻すと先端のブラシも収納される.眼内ではbの状態で組織をブラシ内に埋没させ,cの状態(組織が管腔内に収納された状態)にした後にVitSweeperTMをトロカールから抜去する.abc図2VitSweeperTMによる網膜硝子体組織摘出方法a:硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持したまま(黒矢印),先端を収納した状態のVitSweeperTMを挿入する(白矢印).b:VitSweeperTMの先端ブラシを眼内で伸展させ,ブラシの中に網膜硝子体組織(黒矢印)を埋没させる.c:硝子体鑷子でサポートしながら,網膜硝子体組織ごとVitSweeperTMのブラシを収納する(黒矢印).abcあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141707(141)の確立もなされた4).その結果,MIVSは広く一般的な術式として受け入れられるに至った.わが国では2012年までにMIVSが全体の50%以上を占めるようになり,器具や技術の進歩に伴いMIVSは従来の20G硝子体手術と比較しても遜色なく使用できると考えられるようになってきている5,6).さらには近年,わが国ではクロージャーバルブ付きトロカールが普及し,手術の安全性,効率性が向上するとともに手術操作の簡略化および手術時間の短縮が可能となった7).しかし,MIVSが普及し器具の口径が縮小することにより手術の安全性・効率性が向上した一方で,硝子体手術中に網膜硝子体組織を採取する操作はむしろ困難となってしまった可能性がある.そこで今回筆者らは,従来のMIVSのままで適切に網膜硝子体組織を採取する方法について検討した.I対象および方法1.対象2012年11月.2013年11月に名古屋大学医学部附属病院にて増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)・黄斑円孔(macularhole:MH)・黄斑上膜(epireti-nalmembrane:ERM)など硝子体手術中に眼内組織の切除・.離を必要とする症例を対象とした.いずれも25Gもしくは23G硝子体手術を施行し,網膜硝子体組織を採取した26眼(男性14眼,女性12眼)である.いずれの症例においても通常の25G・23GMIVSを採用し,手術装置はConstellationVitrectomySystem(Alcon社),手術顕微鏡はOPMILumera(CarlZeiss社)を使用した.また,トロカールはクロージャーバルブ付きトロカール(Alcon社製24例,DORC社製2例)を使用した.手術は5名の術者によって施行された.2.網膜硝子体組織の採取方法まず硝子体カッターで十分にcorevitrectomyを行った後,硝子体鑷子(Alcon社)で切離した増殖膜・内境界膜(inter-nallimitingmembrane:ILM)・ERMなどの網膜硝子体組織の採取方法を検討した.検体の採取方法は①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを介さない状態で眼外に摘出する,③収納可能なVitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する,のいずれかの方法を用いた.今回の検討は名古屋大学医学部附属病院の生命倫理委員会の承認を受け,患者に十分なinformedconsentを行った後に図1VitSweeperTMの先端部位図a:本体にdisposableのブラシ部分を取り付けて使用する.b:プランジャーを進めると先端のブラシも伸展する.c:逆にプランジャーを戻すと先端のブラシも収納される.眼内ではbの状態で組織をブラシ内に埋没させ,cの状態(組織が管腔内に収納された状態)にした後にVitSweeperTMをトロカールから抜去する.abc図2VitSweeperTMによる網膜硝子体組織摘出方法a:硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持したまま(黒矢印),先端を収納した状態のVitSweeperTMを挿入する(白矢印).b:VitSweeperTMの先端ブラシを眼内で伸展させ,ブラシの中に網膜硝子体組織(黒矢印)を埋没させる.c:硝子体鑷子でサポートしながら,網膜硝子体組織ごとVitSweeperTMのブラシを収納する(黒矢印).abc 施行された.3.VitSweeperTM使用方法VitSweeperTMは,そもそも残存硝子体を除去することを目的とした器具である.今回筆者らは,この器具の内腔にブラシが収納可能である特徴に着目し(図1),このブラシの中に網膜硝子体組織を収納した状態で眼外に運ぶ方法を検討した.具体的には,右ポートの硝子体鑷子で網膜硝子体組織を把持した後,左ポートからVitSweeperTMを眼内に挿入し(図2a),顕微鏡下でVitSweeperTMのブラシを伸ばす.延長したブラシの中に網膜硝子体組織を埋没した状態(図2b)で,ブラシと組織をまとめて管腔内に収納する(図2c).ブラシと組織が収納された状態でVitSweeperTMを眼外へ抜去した後,眼外で再びブラシを伸展すれば,中に埋没されていた組織を失うことなく採取することができる.この手技を使用することで,クロージャーバルブに組織が挟まる心配がなくなり,確実に組織を眼外に運ぶことが可能と考えられた.II結果今回の検討で行った採取方法と疾患名の内訳を表1に示す.疾患別ではPVRおよび増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)が8眼,MHが4眼,ERMおよび黄斑皺襞が9眼,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)もしくは糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)が6例(うち1例はERMと重複)であった.各採取方法の結果として,①硝子体鑷子に把持したまま摘出する方法では,25GMIVSでは5例中5例(100%)で組織の一部がトロカールに挟まり眼外へ摘出されなかった(図3a).一方で23Gシステムでは,鑷子の先端で包む込みように組織を把持できれば,網膜硝子体組織のような比較的硬い表1症例と組織採取方法の一覧疾患名年齢性別採取組織採取方法摘出可否コメント20GILM鑷子Pucker70FPucker②○25GMIVSに20G創追加23GILM鑷子DME55MILM①×PDR53M増殖膜①○PDR49F増殖膜①×PDR47F増殖膜②×灌流液の結膜下流入PDR42F増殖膜②○Trocarごと抜去PVR48M増殖膜②○25GILM鑷子ERM53MILM①×ERM75FILM①×DORCTrocar使用ERM80FILM①×ERM82MILM①×RD+PVR71MSRM①×ERM64MERM②○灌流液の結膜下流入ERM82MERM②×ERM82MERM②×DORCTrocar使用DME+ERM69FERM②×MH72MILM②○CME80FILM③○CME65MILM③○CME73MILM③○DME70FILM③○MH75MILM③○MH63FILM③×MH66FILM③○PDR47F増殖膜③×組織が固くて入らないPDR69M増殖膜③×組織が固くて入らない採取方法:①25Gもしくは23G硝子体鑷子で把持し,組織を把持したままトロカールを通過させ眼外に摘出する.②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製し,トロカールを経ない状態で硝子体鑷子を眼外に摘出する.③VitSweeperTM(RB-700,イナミ社)を用いて眼外に摘出する.ERM:網膜前膜,DME:糖尿病黄斑浮腫,MH:黄斑円孔,RD:網膜.離,PVR:増殖硝子体網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症,Pucker:黄斑パッ力ー,CME:.胞様黄斑浮腫,ILM:内境界膜,SRM:網膜下増殖膜.(142) あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141709(143)膜でも眼外に摘出できる症例があった(3例中1例).また,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製した後に硝子体鑷子を抜去する方法を採用した症例では,非常に大きな網膜硝子体組織を摘出する際に組織摘出専用に20Gの強膜創を新たに作製し,20G硝子体鑷子を用いて組織を採取する(図3b)か,もしくは網膜硝子体組織を把持した状態でトロカールを抜去し(図3c),その後に組織を摘出する(図3d)ことで,確実に硬い組織を摘出できた.しかし,経結膜的に穿刺したトロカールを手術途中で抜去することで灌流液の結膜下流入を招き,手術途中で結膜の異常な膨隆を伴うことによる視認性の低下と手術効率の低下が懸念された(図3e,f).また,手術途中の経結膜トロカールの抜去は,灌流液だけでなく硝子体線維の脱出を誘発する可能性があり,術後網膜.離など合併症の増加が懸念された.20G強膜創作製による摘出方法も,眼球に余分な侵襲を与えることが懸念された.一方でVitSweeperTMを使用した場合,ILMなど柔らかな組織であればそれらを容易に内腔内に格納することが可能であった(7例中6例).しかし,増殖膜など比較的硬い組織や巨大な組織を摘出する状況では,組織を適切にVitSweeperTM内腔内に収納できず,VitSweeperTM使用による利点はないと考えられた(2例中2例).III考按硝子体手術は疾患の治療だけでなく,眼内の組織を採取することによる診断目的に行われる場合があり,採取組織は硝子体・網膜・網膜下液・脈絡膜・増殖膜など多岐にわたる.具体例として,眼内から採取した組織に対しての病理学的染色やpolymerasechainreaction(PCR)法による遺伝子解析が眼内悪性リンパ腫の診断に有効であった報告や8),原因不明であったぶどう膜炎に対し組織生検により確定診断が行われた報告などがあり,眼内組織の採取は疾患の診断に重要な役割を果たしている9).組織採取の目的は科学的な意味から図3クロージャーバルブを使用したMIVSにおける網膜硝子体組織摘出例a:25Gクロージャーバルブ越しに網膜硝子体組織の眼外への摘出を試みると,クロージャーバルブ部位で組織が挟まり(矢印),摘出が困難になる.b:巨大な増殖膜を摘出する際は,トロカール越しに増殖膜を摘出することを断念し,新規の20G用強膜創を作製し(矢印),そこから20G硝子体鑷子を用いて組織摘出を試みる.c,d:もしくは,硝子体鑷子を支柱としてトロカールを抜去し(c,矢印),強膜創から組織を抜去する(d,矢印).e,f:経結膜的にトロカールを留置している場合,組織採取目的でトロカールを抜去してしまうと硝子体灌流液の結膜下流入を招くことがあり(e,矢印),トロカールの再留置は隆起した結膜越しに行う必要が出てくる(f,矢印).abcdefあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141709(143)膜でも眼外に摘出できる症例があった(3例中1例).また,②トロカールを抜去,もしくは新規の強膜創を作製した後に硝子体鑷子を抜去する方法を採用した症例では,非常に大きな網膜硝子体組織を摘出する際に組織摘出専用に20Gの強膜創を新たに作製し,20G硝子体鑷子を用いて組織を採取する(図3b)か,もしくは網膜硝子体組織を把持した状態でトロカールを抜去し(図3c),その後に組織を摘出する(図3d)ことで,確実に硬い組織を摘出できた.しかし,経結膜的に穿刺したトロカールを手術途中で抜去することで灌流液の結膜下流入を招き,手術途中で結膜の異常な膨隆を伴うことによる視認性の低下と手術効率の低下が懸念された(図3e,f).また,手術途中の経結膜トロカールの抜去は,灌流液だけでなく硝子体線維の脱出を誘発する可能性があり,術後網膜.離など合併症の増加が懸念された.20G強膜創作製による摘出方法も,眼球に余分な侵襲を与えることが懸念された.一方でVitSweeperTMを使用した場合,ILMなど柔らかな組織であればそれらを容易に内腔内に格納することが可能であった(7例中6例).しかし,増殖膜など比較的硬い組織や巨大な組織を摘出する状況では,組織を適切にVitSweeperTM内腔内に収納できず,VitSweeperTM使用による利点はないと考えられた(2例中2例).III考按硝子体手術は疾患の治療だけでなく,眼内の組織を採取することによる診断目的に行われる場合があり,採取組織は硝子体・網膜・網膜下液・脈絡膜・増殖膜など多岐にわたる.具体例として,眼内から採取した組織に対しての病理学的染色やpolymerasechainreaction(PCR)法による遺伝子解析が眼内悪性リンパ腫の診断に有効であった報告や8),原因不明であったぶどう膜炎に対し組織生検により確定診断が行われた報告などがあり,眼内組織の採取は疾患の診断に重要な役割を果たしている9).組織採取の目的は科学的な意味から図3クロージャーバルブを使用したMIVSにおける網膜硝子体組織摘出例a:25Gクロージャーバルブ越しに網膜硝子体組織の眼外への摘出を試みると,クロージャーバルブ部位で組織が挟まり(矢印),摘出が困難になる.b:巨大な増殖膜を摘出する際は,トロカール越しに増殖膜を摘出することを断念し,新規の20G用強膜創を作製し(矢印),そこから20G硝子体鑷子を用いて組織摘出を試みる.c,d:もしくは,硝子体鑷子を支柱としてトロカールを抜去し(c,矢印),強膜創から組織を抜去する(d,矢印).e,f:経結膜的にトロカールを留置している場合,組織採取目的でトロカールを抜去してしまうと硝子体灌流液の結膜下流入を招くことがあり(e,矢印),トロカールの再留置は隆起した結膜越しに行う必要が出てくる(f,矢印).abcdef 考えると上述したのみではない.たとえば過去には採取したILMを利用してliquidchromatography-tandemmassspectrometry(LC-MS-MS)法を行い,ILM中に含まれる蛋白の組成を調べた報告もある10).他にも,PDRの手術中に増殖組織を採取し,半定量PCR法やenzyme-linkedimmunosorbentassay(ELISA)法などを用い増殖組織内で重要な蛋白が発現していることを明らかにした報告もある11).このように,診断目的のみならず眼内組織の分析・研究による眼科学の発展のためには今後も組織採取は非常に需要な手技といえる.蛋白やRNAを採取する目的であればかならずしも組織構造を正常に保つ必要はなく,バックフラッシュニードルや硝子体カッターの管内に高圧力で吸引し,眼外で採取することも可能である.しかし,組織学的検討を必要とする際は,組織をいかに傷めずに採取するかが重要となる.しかしながら,組織を採取することにこだわりすぎ,手術合併症のリスクを高めることは望ましくない.筆者らは今回,クロージャーバルブ付きトロカールを用いたMIVSでの組織採取をいくつかの症例で試みた結果,以下のような手技が適切と考えられた.すなわち,増殖膜など比較的強固な組織を摘出する場合は,結膜を計画的に切開したうえで23GMIVSを用い,把持したまま組織の摘出を試みるか,仮に摘出できなくてもトロカールごと抜いて摘出する手技が有効である.つぎに,ERM・ILMなど柔らかい組織であれば,25GMIVSを通常どおり採用し,トロカールは経結膜的に留置して問題ない.組織採取にはVitSweeperTMを用いた採取が安全で確実である.硝子体手術は今や27G手術に向かおうとしている12).手術の安全性・効率性が向上する一方,管口径は確実に小さくなっていく傾向にある.それに伴い,小さな眼内の組織を採取する方法はますます困難になっていくことが予想される.今回の検討では一部の25GMIVS症例で組織採取する際に,イナミ社のVitSweeperTMを用いることの有効性が示唆されたが,この手技によってすべての症例で確実に組織採取できるわけではなかった.組織が強固でトロカールから直接摘出することが物理的に困難な場合にはより太いゲージ(大口径の)のMIVSを用い,安全性・視認性の確保のために計画的な結膜切開を行ったうえでトロカールの抜去や新たな強膜創作製といった手技を行うことが望ましいと考えられる.今後ますます手術器具のスモールゲージ化が進むにつれ,より安全・確実な組織の採取を可能にするためにもさらに工夫された器具の開発や採取方法の検討が必要になると考えられた.文献1)門之園一明:【硝子体手術の現状と展望】わかりやすい臨床講座小切開硝子体手術の現状と展望.日本の眼科83:1192-1195,20122)O’MalleyC,HeintzRMSr:Vitrectomywithanalternativeinstrumentsystem.AnnOphthalmol7:585-588,591-594,19753)FujiiGY,DeJuanE,Jr,HumayunMSetal:Initialexperienceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20024)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrectomy.Retina25:208-211,20055)IbarraMS,HermelM,PrennerJLetal:Longer-termoutcomesoftransconjunctivalsutureless25-gaugevitrectomy.AmJOphthalmol139:831-836,20056)LakhanpalRR,HumayunMS,deJuanEJretal:Outcomesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunctivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.Ophthalmology112:817-824,20057)LafetaAP,ClaesC:Twenty-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomytrocarsystem.Retina27:11361141,20078)CouplandSE,BechrakisNE,AnastassiouGetal:EvaluationofvitrectomyspecimensandchorioretinalbiopsiesinthediagnosisofprimaryintraocularlymphomainpatientswithMasqueradesyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol241:860-870,20039)LimLL,SuhlerEB,RosenbaumJTetal:Theroleofchoroidalandretinalbiopsiesinthediagnosisandmanagementofatypicalpresentationsofuveitis.TransAmOphthalmolSoc103:84-91;discussion-2,200510)UemuraA,NakamuraM,KachiSetal:Effectofplasminonlamininandfibronectinduringplasmin-assistedvitrectomy.ArchOphthalmol123:209-213,200511)YoshidaS,IshikawaK,AsatoRetal:Increasedexpressionofperiostininvitreousandfibrovascularmembranesobtainedfrompatientswithproliferativediabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci52:5670-5678,201112)OshimaY,WakabayashiT,SatoTetal:A27-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionvitrectomysurgery.Ophthalmology117:93-102e2,2010***(144)

硝子体黄斑牽引症候群を合併した網膜色素変性の1 例

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(137)593《原著》あたらしい眼科28(4):593.596,2011cはじめに網膜色素変性は「視細胞と網膜色素上皮細胞の機能を原発性,びまん性に障害する遺伝性かつ進行性の疾患群」と定義され1),視細胞と網膜色素上皮細胞の疾患であるが,硝子体変性と硝子体牽引を伴い,.胞様黄斑浮腫,網膜前膜,黄斑円孔などの黄斑病変を合併する2.12).網膜硝子体変性に合併した黄斑疾患の手術症例報告が散見されるが,硝子体手術による変性網膜への影響や長期予後は不明な点が多く12),今回筆者らは,網膜色素変性に硝子体黄斑牽引症候群を合併した手術症例の1例を経験したので報告する.I症例症例は57歳,女性.右眼の視力低下のため2007年1月8日に近医を受診し,両眼の網膜色素変性と右眼の網膜前膜と診断された.同年1月15日,手術加療目的にて当院へ紹介受診された.既往歴,家族歴には特記すべき事項は認めなかった.初診時,視力は右眼0.2(0.3×sph+0.75D(cyl.1.25DAx150°),左眼0.3(0.4×sph+0.50D(cyl.0.75DAx30°)〔別刷請求先〕平原修一郎:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:ShuichiroHirahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya-shi,Aichi467-8601,JAPAN硝子体黄斑牽引症候群を合併した網膜色素変性の1例平原修一郎平野佳男安川力吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学ACaseofVitreomacularTractionSyndromeAssociatedwithRetinitisPigmentosaShuichiroHirahara,YoshioHirano,TsutomuYasukawa,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences目的:網膜色素変性に硝子体黄斑牽引症候群を合併した症例を経験したので報告する.症例:症例は57歳,女性で,右眼視力低下を主訴で近医を受診し,両眼網膜色素変性および右眼網膜前膜を指摘された.初診時視力は右眼(0.3),左眼(0.4)で,右眼には網膜前膜,硝子体黄斑牽引症候群を認めた.白内障手術併用25ゲージ硝子体手術を行い,網膜前膜を.離した.術後,黄斑部の牽引は解除され,網膜前膜の再発は認められず,術後最高視力は右眼(0.5)であった.結論:網膜色素変性にはさまざまな黄斑病変を伴うが,硝子体黄斑牽引症候群を合併することはまれである.本症例では,小切開硝子体手術により良好な術後経過を得ているが,硝子体手術後の再増殖や視野狭窄の進展などの報告もあるため,今後の長期的な経過観察が必要である.Background:Acaseofvitreoretinaltractionsyndromeinaneyewithretinitispigmentosaisreported.Casereport:A57-year-oldfemalewhoconsultedaneyedoctorforvisualacuitylossinherrighteyewasdiagnosedwithretinitispigmentosainbotheyesandvitreomaculartractionassociatedwithepiretinalmembraneintherighteye.Best-correctedvisualacuitywas0.3and0.4intherightandlefteyes,respectively.Cataractsurgery-combined25-gaugetransconjunctivalsuturelessvitrectomywasperfomedtoremovetheepiretinalmembranefromtherighteye.Vitreomaculartractionwasreleasedandnorecurrencewasobservedthroughouttheobservationperiod.Visualacuityoftherighteyeimprovedto0.5.Conclusion:Weexperiencedararecaseofvitreomaculartractionsyndromeineyeswithretinitispigmentosa.Inthiscase,25-gaugevitrectomysurgerysuccessfullyrepairedthevitreomaculartractionbyremovingtheepiretinalmembrane,withnorecurrenceandnoworseningofvisualfielddefectpostoperatively.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(4):593.596,2011〕Keywords:網膜色素変性,硝子体黄斑牽引症候群,小切開硝子体手術,網膜前膜,硝子体変性.retinitispigmentosa,vitreomaculartractionsyndrome,smallincisionvitrectomy,epiretinalmembrane,vitreousdegeneration.594あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(138)で,眼圧は右眼15mmHg,左眼13mmHgであった.角膜は両眼とも角膜後面沈着物を認め,前房は透明かつ浮遊細胞を認めず,水晶体は両眼とも核白内障および後.下白内障を認めた.両眼底には,網膜血管の狭細化,および周辺部網膜に骨小体様色素沈着を認め,右眼には網膜前膜に関連して硝子体黄斑牽引症候群を認めた.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では右眼の網膜上に厚い膜状組織があり癒着した硝子体による黄斑部の牽引を認めた(図1).蛍光眼底造影検査では右眼に網膜色素上皮の萎縮による過蛍光と,網脈絡膜萎縮による低蛍光,黄斑部にはpoolingによる過蛍光が認められた.静的量的視野検査にて,両眼とも求心性視野狭窄を認めた.右眼左眼図1初診時の光干渉断層計所見光干渉断層計では右眼の網膜上に厚い膜状組織があり硝子体が癒着しており,網膜の浮腫や.離は明らかでない.図2術後1カ月の眼底所見と光干渉断層計所見網膜前膜は.離され,網膜皺襞がやや残存している.光干渉断層計では網膜上膜と後部硝子体皮質は消失しているが,網膜内の.胞様腔が残存している.術前術後1カ月術後2カ月断層写真Retinalmap図3光干渉断層計所見の経時変化黄斑厚マップにおいて中心窩網膜厚は術前(上段)396μm,術後1カ月(中段)303μm,2カ月(下段)が267μmと減少しており,術後経過とともに肥厚した部分の面積が縮小している(マップの赤と白表示部位).(139)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011595入院後,白内障手術併用による硝子体手術を施行した.極小切開白内障手術を行い,眼内レンズは着色レンズであるHOYA社のYA60BBRを挿入した.その後,アルコン社製アキュラス25ゲージシステムによる小切開硝子体手術で施行した.硝子体切除を行った後,エッカード(Eckerd)マイクロ鉗子で網膜前膜を.離した.黄斑部に広く強く膜状組織が癒着していた.網膜色素変性に関連して変性した後部硝子体皮質の取り残しを避けるために,トリアムシノロンアセトニド懸濁液(筋注用ケナコルト-AR:ブリストル・マイヤーズをオペガードMARにて溶媒を置換・希釈したもの)で硝子体皮質を可視化し,バックブラッシュニードルで可能な限り除去した.術後,網膜前膜はなくなり,OCTでは,右眼の中心窩網膜厚は術前の396μmから,術後1カ月が303μm,2カ月が267μmと減少の経過をたどった(図2,3).術後の網膜前膜の再発は認めていない.術後の視力は術後3カ月で最高視力0.5(矯正不能)が得られ,術後36カ月以上が経過した現在も同様の視力を維持されている.視野狭窄の悪化も認めていない.II考察今回,網膜色素変性に合併した網膜前膜関連の硝子体黄斑牽引症候群に対して,白内障手術および硝子体手術を施行し,術後の経過も良好で視力や視野の悪化を認めていない症例を経験した.網膜色素変性の黄斑病変には,網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の変性萎縮,色素増殖と脱失,.胞様黄斑浮腫,網膜前膜,黄斑円孔などの報告がある2.12).網膜前膜は網膜色素変性には高頻度(10眼中10眼)にみられたという報告がある4).最近ではHagiwaraらによると黄斑疾患の合併率は7.4%と既報に比べると少ないとも述べている12).Wiseらによると網膜前膜は網膜色素変性のうち,特に進行した症例に多くみられる合併症であると指摘されている5).網膜色素変性では早期に後部硝子体.離が起こるという報告がある13)が,実際に網膜色素変性の患者の硝子体手術を行うと,後部硝子体膜が網膜上に残存し,強固に網膜に付着し,後部硝子体.離を作製するのが困難なことが多いと高橋は報告している3).本症例も黄斑部に広く強く膜状組織が癒着しており,トリアムシノロンを使用し,硝子体を可視化させ,残存硝子体を可能な限り除去しており,網膜前膜の再発を認めていない.網膜色素変性に合併した裂孔原性網膜.離に対し,硝子体手術を行った症例報告があり,術中にトリアムシノロンを併用し,残存硝子体ゲルの観察や網膜硝子体癒着の.離に有用であったとの報告をしている14).中村らは,網膜色素変性に合併した網膜前膜に対し,硝子体手術を施行し,術前矯正視力0.3が術後矯正視力0.9と改善し,興味深いことに,術前記録されなかった網膜電図(ERG)の反応に術後変化を認めたと報告している6).南條ら7)は,網膜前膜と牽引性網膜.離が伴った症例への硝子体手術報告をしており,網膜前膜の併発頻度の高い網膜色素変性では牽引性網膜.離を発症する頻度が高いことが予想されると述べており,牽引性網膜.離が中心窩に進行した場合の硝子体手術の有効性を報告している.このように,網膜色素変性で視機能に影響していると考えられる網膜前膜を合併した症例では手術療法を積極的に選択してもいいかもしれない.しかし,手術後の合併症に関する報告も認められる.鈴木ら8)は,網膜色素変性に伴う黄斑部の牽引性網膜.離に対し硝子体手術で後部硝子体.離の完成と網膜前膜.離を施行したが,術後4カ月目に網膜前膜の再発を認め,7カ月後に網膜.離を伴う増殖硝子体網膜症に進行したと報告している.竹田ら9)は,硝子体手術後に周辺視野の悪化を報告している.当時は,トリアムシノロンによる硝子体を可視化する技術がなかったため,薄い後部硝子体皮質が残存して,再増殖をきたしたものと思われる.最近の小切開硝子体手術に比較して手術侵襲が大きかった可能性も示唆される.ただ,今回の症例では現在のところ経過良好であるが,長期的な硝子体手術の影響については今後の評価が必要である.古田ら10)は,網膜前膜による黄斑部牽引性網膜.離をきたした症例を報告しており,その長期的予後についても言及している.術後視力の改善は認めたものの,約7年間の経過中,瞭眼に対して明らかに術眼の中心視野が悪化し,視力が低下したと報告しており,術後の硝子体腔酸素分圧の上昇による酸化反応の増強など眼内環境変化の影響も否定できないとしている.また,硝子体手術により網膜色素変性が進行し,網膜光凝固をした部位に網膜色素上皮が過剰反応を示し網膜色素上皮細胞の増殖がみられ,これは継続的に起こる反応と考えられ長期的な経過観察が必要であると述べている.中村ら11)の報告では,網膜色素変性の患者の黄斑円孔に対する硝子体術後に,輪状暗点の内方への拡大と視力の悪化が認められ,内境界膜を.離する際の機械的侵襲,眼内照明による光傷害,インドシアニンングリーンによる網膜色素上皮障害の可能性について指摘している.このように,網膜色素変性の眼に対する硝子体手術の長期予後は不明な点があり,手術適応は慎重に検討し,施行する場合,低侵襲な術式を選択する必要があると考えられる.文献1)MarmorMF,AguirreG,ArdenGetal:Retinitispigmentosa,asymposiumonterminologyandmethodsofexamination.Ophthalmology90:126-131,19832)FishmanGA,FishmanM,MaggianoJetal:Macular596あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(140)lesionsassociatedwithretinitispigmentosa.ArchOphthalmol95:798-803,19773)高橋政代:[網膜色素変性症の診療アップデート]網膜色素変性の黄斑病変.眼科44:65-70,20024)HansenRI,FriedmanAH,GartnerS:Theassociationofretinitispigmentosawithpreretinalmaculargliosis.BrJOphthalmol61:597-600,19775)WiseGN,BellhornMB,FriedmanAHetal:Clinicalfeaturesofidiopathicpreretinalmacularfibrosis.AmJOphthalmol79:349-357,19756)中村誠,丹羽敬,朴昌華ほか:硝子体手術により網膜前膜を除去した網膜色素変性症の1例.眼臨97:1017,20037)南條由佳子,池田恒彦,森和彦:網膜色素変性症に黄斑部牽引性網膜.離を合併した1症例.臨眼53:483-487,19998)鈴木幸彦,三上尚子,中沢満ほか:網膜前膜により牽引性網膜.離に至った網膜色素変性症の1例.眼臨95:944-947,20019)竹田洋子,堀田一樹,平形明人ほか:網膜色素変性症に合併した黄斑円孔に対する硝子体手術の経験.眼臨92:286-290,199810)古田実,石龍鉄樹,加藤桂一郎:黄斑部牽引性網膜.離を合併した網膜色素変性症の1例.眼臨96:234-238,200211)中村秀夫,早川和久,我謝猛ほか:網膜色素変性症に合併した黄斑円孔に対する硝子体手術.臨眼59:1367-1369,200512)HagiwaraA,YamamotoS,OgataKetal:Macularabnormalitiesinpatientswithretinitispigmentosa:prevalenceonOCTexaminationandoutcomesofvitreoretinalsurgery.ActaOphthalmol2010Mar8〔Epudaheadofprint〕13)HikichiT,AkibaJ,TrempeCL:Prevalenceofposteriorvitreousdetachmentinretinitispigmentosa.OphthalmicSurg26:34-38,199514)上笹貫太郎,山切啓太,土居範仁:網膜色素変性症の網膜.離に硝子体手術を行った2症例.あたらしい眼科23:1625-1627,2006***