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小児の網膜電図記録用に新しく試作した極小LED 内蔵コン タクトレンズ電極の使用経験

2021年7月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科38(7):835.838,2021c小児の網膜電図記録用に新しく試作した極小LED内蔵コンタクトレンズ電極の使用経験永濵皆美奥一真近藤寛之産業医科大学眼科学教室CANewlyDeveloped,ExtremelySmallContactLensElectrodewithBuilt-InLight-EmittingDiodesforRecordingElectroretinogramsinChildrenMinamiNagahama,KazumaOkuandHiroyukiKondoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthC目的:網膜電図(electroretinogram:ERG)使用の際,現在臨床で広く用いられているCERG電極は白色CLEDが内蔵された光源一体型コンタクトレンズ電極である.一般的に大人用,小児用とされる型式の電極があるが,乳児などで小眼球や瞼裂狭小の症例に実際に使用することは困難である.筆者らは,従来のものよりレンズ直径の小さい,極小LED内蔵コンタクトレンズ電極の試作を依頼し(薬事認証範囲内),使用したので報告する.方法:ERGの刺激,記録にはCLE-3000(トーメーコーポレーション)を用いた.全身麻酔の状態でC20分暗順応させた後に,試作した極小コンタクトレンズ電極を使用し手術室で測定を行った.結果:乳児や小眼球を伴うC2症例に対し試作した極小コンタクトレンズ電極を使用し,ERGを記録し波形を得ることができた.結論:ERGはコンタクトレンズ電極の選択を誤ると,電極と角膜の接触が悪くなり正しく測定できない.乳幼児や小眼球など瞼裂の狭い症例の場合,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は有用である.CPurpose:Contactlens(CL)electrodesincorporatingalightstimulatorarewidelyusedforelectroretinogram(ERG)measurementsinJapaneseclinics.Althoughspeci.ctypesofelectrodesareavailableforbothchildrenandadults,CtheyCareCunsuitableCforCpatientsCwithCaCsmallCpalpebralC.ssureCand/orCmicrophthalmia.CHereCweCtestedCaCnewlyCdesignedCsmallerCCLCelectrode.CMethods:TwoCpatientsCwithCanCextremelyCsmallCpalpebralC.ssureCandCmicrophthalmiaunderwentERGmeasurementwiththenewlydesignedCLelectrode.TheERGswereexcitedbyuseCofCaClightstimulator(LE-3000;Tomey)underCgeneralCanesthesiaCafterC20CminutesCofCdark-adaptation.CResults:ERGsweresuccessfullyrecordedinthemicrophthalmiceyeswithincontinentiapigmentiandcongenitalaphakia.Conclusion:ThesmallCLelectrodewasfounde.ectiveformeasuringERGsinpatientswithanextreme-lysmallpalpebral.ssureandmicrophthalmia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(7):835.838,C2021〕Keywords:LED内蔵型コンタクトレンズ電極,網膜電図,小眼球,瞼裂狭小.contactlenselectrode,electroret-inogram,microphthalmos,smallpalpebral.ssure.Cはじめに網膜電図(electroretinogram:ERG)は他覚的に網膜の機能を評価でき,多くの遺伝性網膜疾患の診断に有用であるため,小児に検査を行うことも少なくない.現在臨床で広く用いられているCERG電極は,白色CLEDが内蔵された光源一体型コンタクトレンズ電極である1).一般的に大人用,小児用がある.国内でもっとも広く使用されているのは,メイヨー社製の型式CLW-103(大人用)とLW-203(小児用)のC2タイプである.小児用コンタクト電極でもレンズ直径はC16.0Cmmであるため,乳児などで小眼〔別刷請求先〕永濵皆美:〒807-8555福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:MinamiNagahama,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,1-1Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyushu-shi,Fukuoka807-8555,JAPANC図1各電極の外観左より大人用,小児用,試作した極小コンタクトレンズ電極.球や瞼裂狭小の症例に使用することは困難である.そこで筆者らは,従来のものよりレンズ直径の小さい,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の試作をメイヨー社に依頼し(薬事認証範囲内),使用した.極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は,レンズ直径C11.3mm,角膜部直径を11.3Cmm,関電極内径C7.2Cmm,円筒部直径はC9.6Cmmという仕様である.レンズ直径と角膜部直径が同径となることにより,従来のような強角膜を想定した鍔が付いた形状ではないのが特徴である(図1,表1).この極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の使用経験を報告する.CI方法小児患者C2名(症例C1,2)を対象とし,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極を用いてCERGを測定した.どちらも手術室で全身麻酔導入後,20分暗順応させたあとに測定を行った.ERGの刺激,記録には全例ともCLE-3000(トーメーコーポレーション)を用いた.さらに,大人用コンタクトレンズ電極と極小コンタクトレンズ電極を比較するために,健常成人C1名に対してシールドルームにて測定を行った.大人用コンタクトレンズ電極(型式CLW-103)使用時のみCLE-2000(トーメーコーポレーション)で記録した.CII結果〔症例1〕生後C3カ月,女児.小眼球を伴う色素失調症.出生時より皮疹を認め,色素失調症疑いで他院新生児科,皮膚科,眼科でフォロー中,左眼血管走行異常を認めたため,精査加療目的で当院を受診した.両眼とも前眼部,中間透光体に異常なし.右眼眼底に血管走行異常はなかったが,左眼は血管の蛇行,耳側網膜の途絶,蛍光濾出があり,新生表1大人用と小児用,極小のコンタクトレンズ電極のサイズ型式極小(CW421,CW422)小児用(LW-203)大人用(LW-103)レンズ直径C11.3CmmC16.0CmmC20.0Cmm角膜部曲率半径C7.8CmmC7.8CmmC7.8Cmm角膜部直径C11.3CmmC12.0CmmC12.2Cmm強角膜曲率半径なしC11.5CmmC12.0Cmm関電極内径C7.2CmmC10.5CmmC12.6Cmm円箇部直径C9.6CmmC13.3CmmC15.4Cmm内蔵CLED数量C4発光色白色レンズ直径のみに着目すると,小児用がC16.0Cmmに対して,極小コンタクトレンズ電極はC11.3Cmmと,小児用よりC4.7Cmm小さく作られている.血管を認めた.眼瞼瞼裂横径はC13Cmm,角膜径はC10Cmmであった.小児用コンタクト電極を装着し測定したが,振幅が異常に低い波形となった.装着部を確認すると,小児用コンタクトレンズ電極が角膜から浮き,適切に装着できていなかった.そこで極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用しCERGを測定したところ,どの応答も全体的に振幅は低いが,生後3カ月としては正常レベルに近い反応が得られた(図2).〔症例2〕2歳,男児.両強膜化角膜,先天無水晶体,小眼球.右眼は牛眼であり,瞳孔形成術後眼球癆となった症例.両眼とも角膜混濁を認め,眼底が透見できなかった.右眼は失明していたが,左眼は測定距離C38CcmでC20/1,000に相当するカードを眼前C10Ccmにて識別でき,光源の色の識別が可能であったため,ERGにて網膜機能を評価した.ERGを測定したところ,全体的に低振幅であり,杆体応答,錐体応答,フリッカ応答はごくわずかに振幅が得られた程度であった(図3).最大応答では右眼ははっきりと波形は認めず,左眼はわずかにCa,b波の波形を認めた.成人の同一健常者に大人用コンタクトレンズ電極と極小LEDコンタクトレンズ電極を用いてCERGの測定を行った.極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用してもノイズが入ることなく測定可能であった(図4)が,大人用コンタクトレンズ電極と比較し,振幅が小さい波形となった.CIII考察今回,乳児や眼底が透見できない小眼球を伴う小児に対して,試作した極小CLEDコンタクトレンズ電極を使用して網膜機能を評価できた.症例C1では,眼瞼瞼裂横径がC13.0Cmmと狭く,小児用コンタクトレンズ電極のレンズ直径が大きすぎたため正常に測図2極小LED内蔵コンタクトレンズ電極を用いて計測した小眼球を伴う色素失調症(症例1,生後3カ月)の網膜電図所見LE-3000で記録した.どの応答も全体的に振幅は低かった.図3極小コンタクトレンズ電極を用いて計測した小眼球を伴う先天無水晶体(症例2,2歳)の網膜電図所見LE-3000で記録した.全体的に低振幅であり,杆体応答,錐体応答,フリッカ応答はごくわずかに振幅が得られた程度であった.わずかに左眼でCa,b波の波形を認めた.定できなかった.極小CLEDコンタクトレンズ電極では鍔が径はC12.0Cmm,垂直径はC12.5Cmmとされるが2),極小CLEDないため,装用後の偏位が生じず波形を得ることができたとコンタクトレンズ電極のレンズ直径はC11.3mm,関電極内径考える.はC7.2Cmmと成人角膜径より小さく,測定した健常者の目に一方,健常成人では,大人用コンタクトレンズ電極を用いは光が入りにくかった可能性がある.また,極小CLEDコンた結果に比べて極小CLEDコンタクトレンズ電極を用いた結タクトレンズ電極は鍔をもたないため,健常者の成人の眼球果は振幅が小さい波形となった.成人の角膜の平均的な水平では電極単体で電極の位置が角膜中央に保てず,テープで固図4大人用と極小のコンタクトレンズ電極を用いて測定したERGの波形の比較成人の同一健常者を被験者にした.極小コンタクトレンズ電極を使用してもノイズが入ることなく測定可能であった.定しても電極の位置が安定しにくかった.角膜頂点から関電極部分がずれると振幅が減少する3)ことが知られている.これらの要因が重なり,健常成人では極小CLEDコンタクトレンズ電極使用時の振幅が小さくなったと考える.極小CLEDコンタクトレンズ電極は小眼球や,眼瞼の狭い症例に対しては電極が小さく,鍔がないことが利点となるが,一方で成人や健常者に対しては電極の選択を間違うと電極の固定に安定性が欠け低振幅となると思われた.今回提示したような,小児用コンタクトレンズ電極の装着が困難な小眼球や眼瞼が狭い症例では,非侵襲的な皮膚電極ERGも選択肢の一つと考えられるが,皮膚電極で得られる振幅は角膜電極の約C1/4.1/5である4)ため,角膜電極より皮膚電極で得られる結果のほうが眼球運動ノイズによる振幅変動の影響が顕著に出ると考えられる.極小CLEDコンタクトレンズ電極があれば,測定時に使用する電極の選択に幅が生まれ,診断に有用である.ただし,固視が不十分な症例では振幅が低下する5)ことが知られており,ERG検査に麻酔下や鎮静下が必要な症例では意識的に正面固視をすることが困難なため固視できず,結果振幅が低下することに留意する必要がある.CIV結論ERGは多くの網膜疾患に対して有用であり,小児の網膜機能を他覚的に判断する際に重要な役目を担う.しかし,コンタクトレンズ電極の選択を誤ると,電極と角膜の接触が悪くなり,正しく測定できない.また,電極がうまく装用されていなくても波形が取れるため,注意が必要である.乳幼児や小眼球など瞼裂の狭い症例の場合,極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極は有用であると考える.謝辞:極小CLED内蔵コンタクトレンズ電極の試作品の提供,助言をいただいたメイヨー社吉川眞男氏に感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)貝田智子,松永美絵,花谷淳子ほか:サブトラクション法を用いた皮膚電極による網膜電図とCLED内蔵コンタクトレンズ電極を用いた網膜電図の比較.日眼会誌C117:5-11,C20132)澤田麻友:眼球と視覚の発達.子どもの眼と疾患(仁科幸子編),専門医のための眼科診療クオリファイ,9,p7-10,中山書店,20123)新井三樹:基本のCERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,近藤峰生ほか編),p36-57,メジカルビュー社,20154)近藤峰生:基本のCERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一,新井三樹,近藤峰生ほか編),p58-61,メジカルビュー社,20155)櫻井寛子,上野真治,近藤峰生ほか:網膜疾患を有する小児に対するCLE-2000の有用性.眼臨7:605-608,C2004***

小眼球症かつ近視であった閉塞隅角緑内障の1例

2008年6月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(119)8690910-1810/08/\100/頁/JCLS《第18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(6):869872,2008cはじめに小眼球以外の眼異常や全身異常を伴わない「真性小眼球症1)」は,短眼軸(20mm以下),短眼軸に伴う遠視,ときに小角膜(角膜径10mm以下)を特徴とし,若年時より両眼性の浅前房,3040歳代には相対的に大きな水晶体による閉塞隅角緑内障を合併することが多い2).また真性小眼球症は強膜肥厚による房水静脈の排出障害や渦静脈の圧迫などを伴うため,内眼手術時の大きな眼圧の変化は,高頻度に術後のuvealeusionを誘発し,視力予後は不良といわれていた3).しかし,最近は真性小眼球症に伴った急性緑内障発作に対し水晶体超音波乳化吸引術(PEA)を行い良好な結果を得たとする報告もみられる4).今回,小角膜と短眼軸にもかかわらず近視だった閉塞隅角緑内障の症例に対して,白内障手術と隅角癒着解離術を施行〔別刷請求先〕小嶌祥太:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:ShotaKojima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN小眼球症かつ近視であった閉塞隅角緑内障の1例小嶌祥太*1杉山哲也*1廣辻徳彦*1池田恒彦*1石田理*2小林正人*3*1大阪医科大学眼科学教室*2大阪暁明館病院*3第一東和会病院ACaseofAngle-ClosureGlaucomawithNanophthalmosandMyopiaShotaKojima1),TetsuyaSugiyma1),NorihikoHirotsuji1),TsunehikoIkeda1),OsamuIshida2)andMasatoKobayashi3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)OsakaGyoumeikanHospital,3)DaiichiTowakaiHospital目的:小角膜と短眼軸にもかかわらず近視を呈した閉塞隅角緑内障例に対して,白内障手術と隅角癒着解離術を施行し良好な結果を得たので報告する.症例:52歳,女性.左眼眼圧上昇を指摘されて大阪医科大学附属病院に紹介受診した.初診時左眼視力は(0.8×cyl3.00DAx40°),左眼眼圧は46mmHg,両眼とも浅前房および狭隅角で,左眼は白内障と広範な虹彩前癒着を認めた.左眼は角膜径8mm,平均角膜曲率半径7.14mm,前房深度2.54mm,水晶体厚4.05mm,眼軸長20.55mmであった.眼圧下降薬の点眼と内服では十分な眼圧下降を得られなかったため,水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+隅角癒着解離術を施行した.3日後にレーザー隅角形成術を施行し,現在2剤点眼にて眼圧は20mmHg前後で安定している.結論:小眼球症にもかかわらず近視眼であった原因として,角膜屈折率の高さに加え,相対的に大きな水晶体の前方移動が考えられる.本症例のような続発緑内障に対して白内障手術併用による隅角癒着解離術が有効である.Wereportacaseofangle-closureglaucomawithnanophthalmosandmyopiaina52-year-oldfemalewhoexperiencedelevatedintraocularpressure(IOP)inherlefteyeandwasreferredtous.Hercorrectedvisualacuitywas20/25withcyl3.00DAx40°andIOPof46mmHginherlefteye;shepresentedwithcataractandperipher-alanteriorsynechia.Botheyesshowedshallowanteriorchamber.Cornealdiameter,averageradius,anteriorcham-berdepth,lensthicknessandaxiallengthwere8,7.14,2.54,4.05,and20.55mm,respectively.Sincetopicalandsystemicanti-glaucomamedicationfailedtoachievesucientIOPreduction,weperformedcombinedsurgeryofphacoemulsication,intraocularlensimplantationandgoniosynechialysis.Onthethirdpostoperativeday,lasergonioplastywasperformed.Subsequently,twotopicalanti-glaucomadrugshavemaintainedIOPataround20mmHg.Becausemyopiawithnanophthalmosmightbeattributabletoaforwardshiftoftherelativelylargelens,inadditiontohighcornealrefractivepower,combinedtreatmentofcataractsurgeryandgoniosynechialysiswaseectiveforIOPreduction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(6):869872,2008〕Keywords:小眼球,閉塞隅角緑内障,白内障,隅角癒着解離術,同時手術.nanophthalmos,angle-closureglau-coma,cataract,combinedsurgery.———————————————————————-Page2870あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008(120)主訴:左眼視力低下.現病歴:平成18年8月頃からの左眼視力低下を自覚して近医に受診したところ,左眼眼圧上昇と両眼狭隅角を指摘されて平成18年9月27日に大阪医科大学附属病院に紹介受診した.し経過良好であったので報告する.I症例患者:52歳,女性.初診:平成18年9月27日.図1初診時前眼部写真(平成18年9月27日)両眼とも小角膜,浅前房,左眼には虹彩前癒着と周辺部角膜に混濁があり,中間透光体には両眼に白内障を認め,左眼がより進行していた.右眼左眼図2術前左眼隅角・超音波生体顕微鏡検査(UBM)所見(平成18年9月27日)左眼隅角はSchaer分類grade0-1,上側および耳側に広範で著明な周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.また,左眼の上側および耳側に広範で著明なPASを認めた.UBM隅角上方耳側下方鼻側———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008871(121)視野狭窄は認めなかったが,左眼に緑内障性視野狭窄(湖崎分類III-a)を認めた.II経過9月27日から左眼にラタノプロスト点眼,0.5%マレイン酸チモロール点眼,塩酸ドルゾラミド点眼およびアセタゾラミド1錠,L-アスパラギン酸カリウム2錠内服を開始したところ,眼圧は21mmHg以下にコントロールされていた.ところが11月8日に眼圧が28mmHgと上昇し始め,その後30mmHg以下に下降しなかったため,12月14日入院のうえ,12月15日に隅角癒着解離術+水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入を施行した.術後2日間の眼圧は17mmHg以下であったが,3日目に35mmHgと上昇したためアセタゾラミド内服および0.5%チモロール点眼を開始,レーザー隅角形成術を施行した.眼圧は徐々に下降し点眼のみで20mmHg前後に安定したため12月24日に退院となった.術後の左眼前眼部において,前房は術前と比較して深くな既往歴:A型肝炎(平成2年),高血圧(平成13年から).家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.08(0.1×2.25D(cyl1.50DAx125°),左眼0.6(0.8×cyl3.00DAx40°).眼圧は右眼14mmHg,左眼46mmHg.両眼とも小角膜,浅前房,左眼には虹彩前癒着と周辺部角膜に混濁があり,両眼の白内障は左眼がより進行していた(図1).隅角は右眼Schaer分類grade1-2,左眼Schaer分類0-1で,左眼の上側および耳側に広範で著明な周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた(図2).右眼は狭隅角ではあったが,明らかなPASは認められなかった.眼底は左眼の視神経乳頭に陥凹拡大を認めた.角膜径は右眼9mm,左眼8mm,角膜厚は右眼420μm,左眼498μm,平均角膜曲率半径は右眼6.72mm(50.2ジオプトリーに相当),左眼7.14mm(47.5ジオプトリー),前房深度は右眼2.48mm,左眼2.54mm,水晶体厚は右眼4.38mm,左眼4.05mm,眼軸長は右眼20.08mm,左眼20.52mm,角膜内皮細胞密度は右眼2,457個/mm2,左眼1,485個/mm2であった.また10月4日の視野検査では,右眼に明らかな図3術後左眼隅角・UBM所見(平成19年5月28日)耳側および上方のPASの一部は残存しているようにみえるが,再周辺部の癒着は解除されている.UBM隅角上方耳側下方鼻側———————————————————————-Page4872あたらしい眼科Vol.25,No.6,2008晶体厚も眼軸長に比しやや厚いことや前方偏位が推測されることから,近視の原因はこれらが組み合わさった結果と考えられた.小眼球症に伴う緑内障の治療としてはマイトマイシンC併用線維柱帯切除術11)が有用であったとする報告もあるが,極端な眼圧変動はuvealeusionや駆逐性出血の可能性が高いため,より眼圧変動の少ない手術が望ましい.近年の水晶体超音波乳化吸引術の進歩により小切開で術中眼圧変動が少ない白内障手術が可能となっている.特に今回のように水晶体が相対的に厚いと考えられる症例には閉塞隅角の機序に水晶体が関与していることが考えられ,白内障手術によりその主因が取り除かれると考えられる.ただし,PASが存在していたことから,機械的な隅角閉塞も眼圧上昇の一因と考えられたことより,白内障手術後に隅角癒着解離術を施行し,術後良好な結果を得ている.今回のように,小眼球にもかかわらず近視眼である閉塞隅角緑内障は,水晶体が眼圧上昇に大きく関与していると考えられ,初回手術の術式としては,白内障手術と隅角癒着解離術の併用が有用であると考えられた.文献1)Duke-ElderS:SystemofOphthalmology.Vol3,p488-495,HenryKimptom,London,19642)池田陽子,森和彦:12.小眼球に伴う緑内障.眼科プラクティス11,緑内障診療の進め方(根木昭編),p84-85,文光堂,20063)BrockhurstRJ:Cataractsurgeryinnanophthalmiceyes.ArchOphthalmol108:965-967,19904)刈谷麻呂,佐久間亮子,嘉村由美:真性小眼球症に伴った急性緑内障発作に対する白内障手術の一例.眼科42:1839-1843,20005)馬嶋昭生:小眼球症とその発生病理学的分類.日眼会誌98:1180-1200,19946)水流忠彦:角膜疾患に伴う緑内障.新図説臨床眼科講座4巻(新家真編),p178-179,メジカルビュー社,19987)KimT,PalayDA:Developmentalcornealanomaliesofsizeandshape.In:KrachmerJHetal(eds):Cornea.Corneaandexternaldisease:Clinicaldiagnosisandman-agement,p871-883,Mosby,StLouis,19978)福地健郎,上田潤,原浩昭ほか:小角膜に伴う緑内障の生体計測と鑑別診断.日眼会誌102:746-751,19989)YalvacIS,SatanaB,OzkanGetal:Managementofglau-comainpatientswithnanophthalmos.EyeFeb9[Epubaheadofprint],200710)玉置泰裕,桜井真彦,新家真:Nanophthalmosの5症例.眼紀41:1319-1324,199011)住岡孝吉,雑賀司珠也,大西克尚:小眼球症例の緑内障に対してマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行した1例.眼紀56:831-836,2005(122)り,耳側および上方のPASの一部は残存しているようにみえるが,同部位の最周辺部の癒着は解除されていた(図3).7月30日の左眼視力は0.5(0.8×+0.50D(cyl1.00DAx125°),左眼眼圧は18mmHgであり,現在も1%ピロカルピンおよび0.5%チモロール点眼にて眼圧は20mmHg以下で安定している.III考按馬嶋5)は眼軸長が男性20.4mm,女性20.1mm以下を小眼球の定義としている.今回の症例では眼軸が右眼20.08mm,左眼20.52mmであり,この定義によると右眼は小眼球,左眼は境界域であると考えられる.一方,今回の症例では角膜径が右眼9mm,左眼8mmであり,小角膜である.小角膜は虹彩欠損,瞳孔膜遺残などさまざまな眼異常6),全身異常や染色体異常7)に合併するが,まれに明らかな他の眼異常や全身異常を伴わない小角膜の症例があり,nanophthalmos,前部小眼球症(anteriormicro-phthalmos,狭義の小角膜症),扁平角膜(corneaplana),強角膜症(sclerocornea)などがこれにあたる8).いずれの小角膜にも緑内障を併発することがある.福地ら8)はこの小角膜の症例を以下のように鑑別している.まず,角膜径が10mm以下であれば「広義の小角膜」で,これに角膜・強膜境界部異常が存在すれば「強角膜症」となり,なければ角膜曲率が43ジオプトリー未満であれば「扁平角膜」と診断される.今回の症例のように両眼とも45ジオプトリー以上である場合はさらに眼軸長で判断され,眼軸長が20mm未満であればnanophthalmos,20mm以上であれば「前部小眼球症」としている.この定義によると今回の症例では両眼とも厳密には前部小眼球症であるが,右眼は境界域であり,小眼球症とも考えられる.つまり小角膜と小眼球症の混合型,境界型と考えられ,福地らもそのような中間型の症例の存在を指摘8)している.小眼球症は眼軸が短いため遠視眼であることが特徴の一つとなっている.近年,小眼球症20例の生体データを調べたYalvacら9)はその屈折率の範囲が+10.75±2.69(+5+15)ジオプトリーで,すべて遠視眼であったことを報告している.わが国においても玉置ら10)が5例の小眼球症を報告しているが,屈折値が測定できた4例の範囲は+5.09±5.31(0.37+15)ジオプトリーとなっており,1例を除いてすべて遠視眼である.その1例はきわめてまれな症例と考えられるが,混合乱視および近視であったと報告している.この理由として正常より角膜曲率半径が小さく,水晶体の厚さが大きく,その位置が前方に位置していたことを指摘している.今回の症例においても,角膜屈折力がやや強いこと,水***