0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(109)109《原著》あたらしい眼科29(1):109?112,2012cはじめに巨大乳頭を形成する結膜炎には大きく春季カタル(VKC)と巨大乳頭結膜炎(GPC)があり,GPCは機械的刺激により上眼瞼結膜に増殖性変化を伴う結膜炎と定義されている.一般臨床においてGPCの大部分はコンタクトレンズ(CL)装用者にみられ,アレルギー炎症の症状や所見に加え,瞬目に伴うCLの上方移動が問題となる.結膜巨大乳頭の治療には抗アレルギー薬以外に,ステロイド薬の使用(点眼・内服・徐放性ステロイドの注射など),VKCに対する乳頭切除,GPCに対するCL装用の中止が行われる.ステロイド薬は効果的であるが対症療法であり,副作用出現の観点から若年者には安易に処方されるべきではない.GPC,VKCともに若年者に多いことから,ステロイドに代わる治療薬が望ましい.シクロスポリン(CyA)は強力な免疫抑制薬として臓器移植拒絶反応予防薬として用いられてきた.CyAは細胞内の〔別刷請求先〕山田潤:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6番地1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:JunYamada,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1HonodaHinotani,Hiyoshi-cho,Nantan-city,Kyoto629-0392,JAPANソフトコンタクトレンズ装用眼にみられた巨大乳頭結膜炎に対する0.1%シクロスポリン点眼液の臨床効果寺井和都山田潤明治国際医療大学眼科学教室Efficacyof0.1%CyclosporineOphthalmicSolutionforTreatingContactLens-InducedGiantPapillaryConjunctivitisKazutoTeraiandJunYamadaDepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine目的:コンタクトレンズ装用による巨大乳頭結膜炎(GPC)に対する0.1%シクロスポリン点眼の効果につき検討した.対象および方法:倫理委員会の承認を得たのち臨床研究を承諾したGPC症例20例を対象とし,二重盲検2群比較試験を行った.被験者はコンタクトレンズ装用を継続したまま2週間,実薬眼側に0.1%シクロスポリン点眼液を,プラセボ薬眼に人工涙液を1日2回点眼した.点眼開始後1週間,2週間の時点で自覚症状,他覚所見につきスコア化した.結果:自覚症状はいずれの項目も両群間に有意差を認めなかったが,他覚所見においては,眼瞼結膜充血・眼瞼結膜腫脹・眼瞼結膜濾胞・眼瞼結膜乳頭に関してプラセボ薬眼と比較して有意な改善を認めた.結論:0.1%シクロスポリン点眼がコンタクトレンズ装用眼におけるGPCに対しても有効な治療法として提供できる可能性が示された.Purpose:Thepurposeofthisstudywastoexaminewhethertopicallyapplied0.1%cyclosporineeyedropswouldalleviatecontactlens-inducedgiantpapillaryconjunctivitis(GPC),andtoevaluateanyallergicsymptoms.Methods:In20GPCpatients,0.1%cyclosporineeyedropswereinstilledtooneeyeandartificialtearstothefelloweyetwicedailyfortwoweeks,withcontinuationofcontactlenswear.Allergicsymptomsandobjectivefindingswereassessedclinicallyandscoredinadouble-blindplacebo-controlledstudy.Results:Thoughanysignificantdifferencewasalleviatedinsubjectivesymptoms,objectivefindings,includingpalpebralconjunctivalhyperemia,palpebralconjunctivalswelling,palpebralconjunctivalfolliclesandpalpebralconjunctivalpapillae,weresignificantlyimprovedinthecyclosporine-treatedeyes,ascomparedwiththecontroleyes.Conclusions:Thefindingsofthisstudysuggestthattheuseofcyclosporineeyedropsmightgreatlycontributetothetreatmentofcontactlens-inducedGPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(1):109?112,2012〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,巨大乳頭結膜炎,シクロスポリン.softcontactlens,giantpapillaryconjunctivitis,cyclosporin.110あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(110)シクロフィリンと複合体を形成し,nuclearfactorofactivatedT-cells(NFAT)の脱リン酸化阻害により,IL(インターロイキン)-2やIFN(インターフェロン)-gなどのサイトカイン産生を抑制するだけでなく,IL-3,IL-4,IL-5などの産生も抑制することでTh(Thelper)1応答もTh2応答も双方ともに抑制する.同時にTNF(腫瘍壊死因子)-a,IL-1b,IL-6の産生も抑制し,抗炎症の効果も併せ持つ.現在,CyAはBehcet病,全身型重症筋無力症,再生不良性貧血,ネフローゼ症候群,乾癬,アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患やアレルギー疾患にも幅広く応用されている.近年,VKCの治療薬として防腐剤を含まないCyA点眼薬(パピロックRミニ点眼液0.1%)が上市され,良好な治療効果が得られている.VKCに類似した病態であるGPCにおいてもCyA点眼薬が治療効果を認めるかどうかについて,二重盲検試験を用いて検証した.I対象および方法1.対象本検討は明治国際医療大学の研究倫理委員会の承認を得て開始した.2008年11月から2009年1月の間に明治国際医療大学附属病院眼科で眼の健診を行ったソフトCL(ディスポーザブルソフトCL含む)装用者のうちで乳頭所見がみられ,かつ,無治療で経過している症例をエントリーした.十分な説明を行い,本試験への参加について患者本人より自由意志による同意を書面にて得られた20例(男性15名,女性5名,平均年齢25.4±8.9歳)40眼を対象とした.除外基準として,(1)肝・腎・心・呼吸器疾患,糖尿病,アトピー疾患,その他重篤な疾患を有する症例,(2)妊婦または妊娠している可能性のある症例,および授乳中の症例,(3)現在,抗アレルギー薬,ステロイド薬で治療中の症例,(4)担当医師が試験対象として不適当と判断した症例,を設けた.2.方法二重盲検2群比較試験を行った.実薬にはパピロックRミニ点眼液0.1%を,プラセボ薬にはティアーレRCLを用いた.被験者は右眼,左眼各々に実薬かプラセボ薬かのいずれかを診察後2週間,1日3回,1回1滴,CLを装用したまま点眼した.左右眼の点眼内容はコントローラーにより選定され,被験者,験者ともに知らされなかった.検査項目および観察項目と時期は,(1)患者背景として性別,生年月日,CLの種類,合併症の有無,疾患眼,既往歴を聴取,(2)投与開始前(初回診断時)と投与1週後,2週後に自覚症状の程度と細隙灯顕微鏡所見による他覚所見の程度を評価し(表1),スコア化して集計した.結膜の評価においては,上眼瞼結膜における充血・腫脹・乳頭と下眼瞼結膜における濾胞とを観察した.乳頭径の測定にはフルオレセイン染色を行い,細隙灯顕微鏡を用いて計測した.すべての項目において,集計時に前眼部写真による他覚所見の再確認を行った.(3)投与期間中に悪化した症状・所見を含む,副作用に関する評価を行った.統計学的検討にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.表1自覚症状・他覚所見の目安自覚症状の目安?++++++?痒感かゆくない少しかゆいががまんできるかゆいかゆくてがまんできない眼脂ない目やには出るが困らない目やにが多くて困る目やにが多くて目が開けられない異物感ないときどきゴロゴロするゴロゴロするが努力すれば目が開くたえずゴロゴロして目が開けられない羞明感まぶしくない少しまぶしいまぶしい大変まぶしくて目が開けられない流涙気にならない少し目が潤む涙が出る涙が溢れてとまらない点眼刺激しみない少ししみるしみるが我慢できる大変しみて我慢できない角結膜所見の目安?++++++眼瞼結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張個々の血管の識別不能腫脹所見なしわずかな腫脹びまん性の薄い腫脹びまん性混濁を伴う腫脹濾胞所見なし1?9個10?19個20個以上認める乳頭所見なし直径0.1?0.2mm直径0.3?0.5mm直径0.6mm以上眼球結膜充血所見なし数本の血管拡張多数の血管拡張全体の血管拡張浮腫所見なし部分的腫脹びまん性の薄い腫脹胞状腫脹(111)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012111II結果エントリーした20例すべてがディスポーザブルソフトCL装用者であり,点眼状況・ソフトCL使用状況・受診状況に問題なく,副作用も認められず,脱落例なしと判断した.1.自覚症状(図1)各症状の比較では実薬群とプラセボ群と有意差はなかった.各群における,点眼前後での症状改善について記載する.掻痒感ではCyA点眼を2週間点眼した実薬群のみで,投与前と比較して有意なスコア改善がみられた(前0.80±0.70,後0.30±0.57,p<0.037).眼脂に関しては,実薬群とプラセボ群の双方ともに有意な改善がみられた(実薬群:前0.75±0.55,後0.35±0.49,p<0.016)が,実薬群とプラセボ群とに違いは認められなかった.異物感に関しては実薬群とプラセボ群の双方ともに有意なスコア改善がみられた.羞明感,流涙,眼痛に関してはいずれの群も統計学的に有意な変化を認めなかった.2.他覚所見(図2)眼瞼結膜充血に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週の時点でスコアの有意な低下を認め(p<0.020),投与後1週(p<0.009)および2週(p<0.018)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜腫脹に関しては投与後1週(p<0.008)および2週(p<0.016)の時点で両群間に有意差を認めた.眼瞼結膜濾胞に関しては実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.016)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.010)および2週(p<0.004)の時点で両群間に有意差を認めた.実薬群で投与前と比較して投与後1週(p<0.004)および2週(p<0.0005)の時点でスコアの有意な低下を認め,投与後1週(p<0.012)および2週(p<0.0007)の時点で両群間に有意差を認めた.眼球結膜充血,眼球結膜浮腫に関してはいずれの時点でも,また群間にも有意差を認めなかった.角膜輪部トランタス斑,角膜輪部腫脹,角膜上皮障害に関しては経過中に所見を認めた症例はなかった.III考察VKCに対するCyAの効果に関しては多数の報告があるのに対し1),CL装用によるGPCに対する免疫抑制薬投与の効果に関する報告は乏しい.今回,ヒト二重盲検試験によってGPCに対するCyA点眼の効果が立証された.GPCはCL装用年齢と関連して若年者から成人に多く,ステロイド薬使用による副作用に注意が必要である.この点,CyA点眼は若年者に対する長期投与の安全性が種々報告されており2),また,重症AKC(アトピー角結膜炎)に対してはステロイド点眼より症状・病態が改善したとも報告されている3).すなわち,GPC治療に適した薬剤と考えている.GPCはVKCと同様,免疫グロブリン(Ig)EによるTh2応答だけが原因ではなく,サイトカインやケモカインを介した各種免疫系細胞と常在細胞間の相互作用,つまりエオタキシン,Mcellの関与,T型肥満細胞(MCT)とTC型肥満細胞(MCTC)の双方の増加や脱顆粒,好酸球,eosinophilcationicprotein(ECP)などのケミカルメディエーターなどが深く絡んで病態を形成している4,5).CyAは抗原特異的なT細胞を抑制するだけでなく,肥満細胞の脱顆粒抑制作用を有しており,ベタメタゾンや抗アレルギー薬よりも血管透過性を制御して急性アレルギー応答を制御できるとの報告がある6).結膜の線維化やコラーゲン含有,およびT細胞や好酸球の炎症性細胞浸潤をも抑制し,遅発層にも効果が示されている7,8).ただ,ベタメタゾンと異なり,トランスホーミング成長因子(TGF)-b1は抑制されないこと,上皮-間葉形質?痒感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼脂0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0異物感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0羞明感0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0流涙0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼痛0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0*CyAのみCyA点眼プラセボ点眼***図1CyA点眼前後の自覚所見変化(*p<0.05)眼瞼結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜腫脹0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜濾胞0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼瞼結膜乳頭0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜充血0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0眼球結膜浮腫0714(日)3.02.52.01.51.00.50.0CyA点眼プラセボ点眼*CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*CyAのみ**CyAのみ*************図2CyA点眼前後の他覚所見変化(*p<0.05,**p<0.01)112あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(112)転換(EMT)から産生されるprofibroticfactorsによる線維化が危惧されること9),サイトカインが誘導するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9を抑制すること10)なども知られており,GPCに対する長期投与の成績などに関しては今後の検討が必要である.近年,CyAより効果が得られるタクロリムスが検討されているが,CyAより分子量が小さいため,高い組織移行が期待できる反面,薬剤効果が眼表面にとどまらない可能性があることに注意が必要である.GPCは角膜上皮障害が生じにくく,CL装用による角膜知覚の鈍麻もあるため,自覚症状が軽度であり有意な効果を示すことができなかった.実際には,CyA点眼側ではCLずれの軽減や装用感向上を述べる被験者が多く,CLフィッティングの改善の検討など,新たな比較検討を行う意義はある.今回,CL装用下でもCyA点眼の効果が得られるほど著明な効果がみられたが,CL装用下の点眼治療を推奨する報告ではないことを付記したい.文献1)UtineCA,SternM,AkpekEK:Clinicalreview:topicalophthalmicuseofcyclosporinA.OculImmunolInflamm18:352-361,20102)PucciN,CaputoR,MoriFetal:Long-termsafetyandefficacyoftopicalcyclosporinein156childrenwithvernalkeratoconjunctivitis.IntJImmunopatholPharmacol23:865-871,20103)AkpekEK,DartJK,WatsonSetal:Arandomizedtrialoftopicalcyclosporin0.05%intopicalsteroid-resistantatopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology111:476-482,20044)MoschosMM,EperonS,Guex-CrosierY:Increasedeotaxinintearsofpatientswearingcontactlenses.Cornea23:771-775,20045)ZhongX,LiuH,PuAetal:Mcellsareinvolvedinpathogenesisofhumancontactlens-associatedgiantpapillaryconjunctivitis.ArchImmunolTherExp55:173-177,20076)ShiiD,OdaT,ShinomiyaKetal:CyclosporineAeyedropsinhibittheearly-phasereactioninatype-Iallergicconjunctivitismodelinmice.OculPharmacolTher25:321-328,20097)ShiiD,NakagawaS,ShinomiyaKetal:CyclosporinAeyedropsinhibitfibrosisandinflammatorycellinfiltrationinmurinetypeIallergicconjunctivitiswithoutaffectingtheearly-phasereaction.CurrEyeRes34:426-437,20098)ShiiD,NakagawaS,YoshimiMetal:Inhibitoryeffectsofcyclosporineaeyedropsonsymptomsinlatephaseanddelayed-typereactionsinallergicconjunctivitismodels.BiolPharmBull33:1314-1318,20109)SlatteryC,CampbellE,McMorrowTetal:CyclosporineA-inducedrenalfibrosis:aroleforepithelial-mesenchymaltransition.AmJPathol167:395-407,200510)DollerA,Akoolel-S,MullerRetal:MolecularmechanismsofcyclosporinAinhibitionofthecytokine-inducedmatrixmetalloproteinase-9inglomerularmesangialcells.JAmSocNephrol18:581-592,2007***