———————————————————————-Page1(93)3710910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):371374,2010c〔別刷請求先〕郷右近博康:〒228-8555相模原市北里1丁目15番地1号北里大学病院眼科Reprintrequests:HiroyasuGoukon,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Sagamihara-shi,Kanagawa228-8555,JAPANHumphrey視野計のVisualFieldIndexの有用性郷右近博康*1田中久美*1庄司信行*1,2清水公也*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学UsefulnessofVisualFieldIndexinHumphreyFieldAnalyzerHiroyasuGoukon1),KumiTanaka1),NobuyukiShoji1,2)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity目的:Humphrey視野計に内蔵された新しい視機能評価の指標であるvisualeldindex(VFI)とmeandeviation(MD)の関連を検討する.対象および方法:対象は100例200眼(男性57名,女性43名),年齢2383歳(平均62.0±15.0歳)であり,Humphrey視野計を用いて中心視野障害の有無,視野障害の病期別に分け,VFIとMDの相関をそれぞれ比較検討した.結果:VFIとMDは有意に相関した(p<0.0001).MDが同程度でも,中心10°以内に視野障害が存在すると,存在しない場合に比べてVFIはより悪く算出された.病期別にみると,初期に比べ,中期の回帰直線の傾きが大きくなった.中心10°以内に視野障害がある症例での病期別検討では,初期,中期とも有意に相関した(p<0.0001,p<0.001)が,全症例での回帰直線に比べて,初期では傾きがやや急に,中期ではやや緩やかになった.中心10°以内に視野障害がない症例での病期別検討では,初期においては有意に相関した(p<0.0001)が,中期では有意な相関を示さなかった(p=0.0595).回帰直線の傾きも,中心10°に視野障害が及んでいる群と比べると緩やかな結果となった.結論:全症例,各病期ともVFIとMDの間には高い相関が認められたが,病期が進んだ症例ほど,また中心視野障害が存在する症例ほどVFIの変化は大きかった.VFIは新しい視機能評価の方法として,特に進行例で有用である可能性が示唆された.Weinvestigatedtherelationshipbetweenvisualeldindex(VFI)andmeandeviation(MD)inHumphreyeldanalyzerinpatientswithglaucoma.Enrolledinthisstudywere100patients(200eyes;57male,43female).Meanagewas62.0±15.0years(range:23to83years).Thepatientsweredividedintotwogroupsbasedonthepres-enceorabsenceofvisualelddefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld,oraccordingtoglaucomastage.TherelationshipbetweenVFIandMDwasinvestigatedineachgroup;signicantcorrelationwasfound(p<0.0001).Whenthevisualelddefectwaswithinthecentral10degreeofthevisualeld,VFIwasworsethanincaseswithoutcentralelddefect,eveniftheMDwassimilar.Theslopeoflinearregressioninmiddle-stageglau-comaissteeperthanintheearlystage.SignicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMDinearlyandmid-dle-stageglaucomawithdefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld(p<0.0001,p<0.001).However,theslopeoflinearregressionofVFIwasslightlysteepinearlystageglaucomaandslightlymildmiddle-stageglaucoma,incomparisonwithallpatients.Inthegroupwithnodefectwithinthecentral10degreesofthevisualeld,signicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMDinearlystageglaucoma(p<0.0001);however,nosignicantcorrelationwasfoundinthemiddle-stagegroup.Theslopeoflinearregressioninthegroupwithoutcentralvisualelddefectwasmildcomparedwiththatinthegroupwithcentralvisualelddefect.StatisticallysignicantcorrelationwasfoundbetweenVFIandMD;however,theworsetheglaucomastage-andincaseswithdefectwithin10degreesofthecentralvisualeld-thegreaterthechangeintheVFI.TheseresultssuggestthattheVFIisusefulinassessingnewvisualfunction,especiallyinprogressivecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):371374,2010〕Keywords:視機能率,平均網膜感度,緑内障,Humphrey視野計.visualeldindex(VFI),meandeviation(MD),glaucoma,Humphreyeldanalyzer.———————————————————————-Page2372あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(94)はじめに緑内障診療において視野進行の評価は治療方針を決定するうえで最も重要な要素といえる14).現在,視野障害進行の評価方法は,トレンド解析とイベント解析に大きく分けられている2,46).トレンド解析は経過中の検査結果を時系列に並べてパラメータの,回帰直線の傾きに注目するもので,おもに平均偏差(meandeviation:MD)やパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)を用いるMDslope5),PSDslope7)がある.イベント解析は設定したベースライン視野と選択したフォローアップ視野とを比較するもので,2004年からHumphrey視野計に搭載されたGlaucomaPro-gressionAnalysis(GPA)が一般化されつつある1,2,4,810).GPAはSITAプログラムを用い,パターン偏差を基にした視野変化解析プログラムであり,2008年GuidedProgres-sionAnalysis(GPA2)としてバージョンアップされ,SITAと全点閾値が混在していても解析ができるようになった11).このGPA2において,visualeldindex(VFI)とよばれる新しい視野指標が提唱された1).VFIは,Humphrey視野計のプログラムSITAを使用し,パターン偏差確率プロットによる感度から残存視機能を算出し,正常視野を100%,視野消失で0%となるように%表示され,視機能率ともよばれる.臨床上最も重要な視野中心部に重みづけを加えている1,12).しかし,従来から視機能評価に用いられてきたMDとどのような関連があるか,あるいは違いがあるかに関しては,まだあまり調べられていない.そこで今回筆者らは,緑内障患者において,新しいパラメータであるVFIとMDの相関を,病期や視野障害部位の違いに分けて検討した.I対象および方法対象は北里大学病院眼科緑内障外来にて経過観察中の緑内障患者100名200眼(男性57名,女性43名),年齢2383歳(平均62.0±15.0歳),屈折値11.00D+2.00D(平均2.00±2.91D)であり,中心10°以内の視野欠損の有無と病期で分けた眼数,平均年齢,平均屈折度の内訳を表1に示す.視野測定にはHumphrey視野計(カール・ツァイス社)の中心30-2または24-2の2つのプログラムを用い,SITA-Standardまたは全点閾値のどちらかのストラテジーを用い,視野測定2回目以降の信頼性の高い結果,すなわち固視不良20%未満,偽陽性33%未満(SITAでは15%未満),偽陰性33%未満の結果を検討に用いた.検討においては,全症例,中心視野障害別,視野障害の病期別に分けVFIとMDの相関をそれぞれ比較した.今回,中心視野障害の定義は視野の最中心4点(中心より上下左右それぞれ3°離れた点)に1点でもトータル偏差確率プロットの5%未満のシンボルマークが存在するものを中心視野10°以内に視野障害ありとした.また視野障害の病期については,病期分類にAnderson-Patellaの基準13,14)に準じ,初期をMD値6dBより良好なもの,中期を6dBより悪く,12dBより良いもの,後期を12dBより悪いものに分けた.両者の相関にはSpearman’srankcorrelationcoecientを用い,有意水準5%未満を有意な相関ありと判断した.II結果まず,全症例におけるVFIとMDは高い相関を示し(r2=0.886p<0.0001),MDの悪化に伴ってVFIは悪く評価される結果となった(図1).中心10°以内の視野障害の有無で分けた場合も,ともに高い相関を示した(r2=0.894p<0.0001,r2=0.826p<0.0001)が,中心10°以内に視野障害がある群のほうがない群よりも,回帰直線の傾きが急峻であった(図2).緑内障の病期別においては,今回症例数の関係から,初期49眼と中期24眼についてのみ検討した(図3).各病期とも高い相関が認められた(r2=0.442p<0.0001,r2=0.283p<0.0001)が,初期の傾きに比べ,中期の回帰直線の傾きが大きく,中期には,初期に比べてMDの変化に対するVFIの変化が大きいという結果となった.中心10°以内に視野障害がある症例に限った病期別検討では,各病期とも高い相関が認められた(r2=0.500p<0.0001,r2=0.283p<0.001)が,図3の全症例での検討結果3に比べて,初期では傾きがやや急に,中期ではやや緩やかになるという結果表1対象緑内障病期Anderson-Patellaの基準改変初期(MD>6dB)中期(6dB≧MD≧12dB)後期(12dB>MD)中心10°以内視野欠損あり眼数(眼)平均年齢(歳)平均屈折度(D)4967.1±11.92.00±2.442465.7±12.81.80±2.802857.6±15.93.67±3.02中心10°以内視野欠損なし眼数(眼)平均年齢(歳)平均屈折度(D)8258.9±15.11.54±2.781267.6±9.681.82±3.50558.0±15.63.78±4.86———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010373(95)となった(図4).中心10°以内に視野障害がない症例に限った病期別検討では,初期においては有意な相関が認められた(r2=0.459p<0.0001)が,中期では有意な相関を示さなかった(r2=0.485p=0.0595).回帰直線の傾きも,中心10°に視野障害が及んでいる群と比べると緩やかな結果となった(図5).III考按VFIは従来用いられてきたMDと同様に視野障害の程度を表すパラメータであるが,VFIとMDの間には表2に示すような単位,中心加重のかけ方,算出式による違いなどがある.特に,MDはTD値から算出されるため中間透光体の混濁の影響を受けるが,VFIではPD確率プロットから算出しているため影響が少ないと報告されている12).以上のよう表2VFIとMDの相違点VFIMD指標意義残存視機能の指標視野のびまん性障害を表す指標単位%dB中心加重各ポイントごと中心から5°ずつ同心円状算出式= 100〔(totaldeviation/age-correctednormalthreshold)×100〕実測値年齢補正した正常平均閾値測定点の数1009080706050403020100-21-18-15-12-9-6-303VFI(%)6n=200y=2.8157x+101.4r2=0.8858MD(dB)図1VFIとMDの相関(全症例での検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=132y=1.6148x+99.222r2=0.4415○:中期n=35y=3.7842x+111.94r2=0.4019図3VFIとMDの相関(病期別検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=82y=0.9854x+99.641r2=0.4585○:中期n=12***NS図5VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害のない症例による病期別検討)NS:notsignicantly.p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-21-18-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:中心視野障害ありn=101y=2.8895x+100.14r2=0.8943○:中心視野障害なしn=99y=2.1539x+101.16r2=0.8257図2VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害の有無による検討)p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.1009080706050403020100-15-12-9-6-303VFI(%)6MD(dB)●:初期n=49y=2.1032x+98.13r2=0.4998○:中期n=24y=2.8945x+101.87r2=0.2833*****図4VFIとMDの相関(中心10°以内の視野障害のある症例による病期別検討)**p<0.001,***p<0.0001,Spearmanの順位相関係数の検定.———————————————————————-Page4374あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(96)な違いがあるものの,VFIが臨床的にMDと異なる意味をもつのか,それともほとんど同じように変化し,特別な意味合いをもたないのかなどに関しては,いまだ明らかにされていない.今回の筆者らの結果から,両者の間には有意な相関を認め,VFIはMDとほとんど同様の変化を示したことから,VFIを新たに用いる特別な意味はないようにみえるが,病期別に分類した場合,病期によってVFIの変化が異なる結果が得られ,MDと異なった解釈が必要ではないかと考えられる.たとえば,視野進行の判定基準の一つとして,MD値が3dB減少したら悪化と考えるイベントタイプの判定基準を用いることがあるが,今回の結果では,MDが同じだけ変化したとしてもVFIでは病期の進行した例ほど変化(悪化)しやすく,中心10°以内に視野障害が存在する症例ほど変化(悪化)しやすいため,こうした症例ほど,VFIに注目して経過を観察すると,より鋭敏に悪化を検出できる可能性が考えられる.病期によって進行の判定基準を変える必要があるのかもしれないが,VFIで何%の変化が生じた場合に悪化とするかなどの基準に関しては,今後の検討が必要と考える.国松は,緑内障性視野障害の進行を評価するということは,患者のqualityoflife(QOL)を維持することにもつながると指摘している15).藤田らは,緑内障患者において中心3°以内の2象限以上に絶対暗点が連続した場合に読書困難がみられると報告している16).このように,患者の日常生活上の視機能障害を評価するうえで,中心視野障害を評価することは,今後大きな課題になると考えられる.今回検討したVFIは,このような中心視野障害を評価するうえで重要な新たなパラメータになる可能性があるが,臨床的に中心視野障害の評価に適した指標かどうかは,今後,後期視野障害例での検討や患者の不自由度との対応を調べる必要があると考えられる.文献1)松本長太:緑内障の視野検査研究の最新情報はあたらしい眼科25(臨増):194-196,20082)中野匡:GlaucomaProgressionAnalysis(GPA)による視野進行判定.日眼会誌110(臨増):262,20063)松本行弘,原浩昭,白柏基宏ほか:ハンフリー視野計による正常眼圧緑内障の長期臨床経過.臨眼53:1679-1685,19994)国松志保:どのような視標をもって視野障害が進行したと考えてよいですかFrontiGlaucoma5:254,20045)高田園子:MDslope.日眼会誌110(臨増):261,20066)阿部春樹,奥山幸子,岩瀬愛子ほか:視野検査とその評価.FrontiGlaucoma7:133-142,20067)岩見千丈,妹尾佳平:機種変更に伴うハンフリー視野(30-2)のMD値の変化.眼臨紀1:1121,20088)高橋現一郎:視野進行判定法の展望.FrontiGlaucoma7:210,20069)松本行弘,筑田眞:GlaucomaProgressionAnalysis(緑内障視野進行解析).眼科手術18:59-61,200510)富所敦男:緑内障進行解析(GPA).眼科プラクティス15,視野(根木昭編),p153-157,文光堂,200711)松本行弘:緑内障視野進行解析(GuidedProgressionAnal-ysis:GPA2).眼科手術21:467-470,200812)BengtssonB,HeijlA:Avisualeldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,200813)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199914)KatzJ,SommerA,GasterlandDEetal:Comparisonofanalyticalgorithmsfordetectingglaucomatousvisualeldloss.ArchOphthalmol109:1684-1689,199115)国松志保:視野進行の評価にあたって,注意すべきことは何ですかFrontiGlaucoma5:255,200416)藤田京子,安田典子,小田浩一ほか:緑内障患者による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,2006***