———————————————————————- Page 1(121) 16970910-1810/09/\100/頁/JCOPY あたらしい眼科 26(12):1697 1701,2009cはじめに強度近視性斜視は,経過とともに徐々に下内斜視を呈し,上ひき,外ひき障害を合併する特殊な斜視である.進行すると著明な眼球運動制限により,固定内斜視となる.その病態には眼軸の病的な伸長が大きく関与しており,眼窩画像診断の発達により,その病態が明確になった.1995年太田ら1)は,眼窩 X 線 CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い,眼軸が延長し,眼窩外側骨壁と眼球に外直筋が圧迫され,外直筋が下方偏位することを述べている.さらに,2000 年 Yokoyama ら2)は,眼窩 MRI(磁気共鳴画像)により伸長した眼球後極部が外直筋と上直筋の間から上耳側の方向に筋円錐外へ脱臼することを明らかにした.本所見が強度近視性斜視の原因とされている.その後,筆者らを含む他施設でも,横山の説を支持する報告3 6)がなされている.本斜視の治療法として外直筋と上直筋の筋腹を互いに縫着する上外直筋縫着術(以下,横山法)が横山により考案され,本術式の有用性を示す報告もなされている6 8).今回筆者らは,片眼のみの強度近視性斜視の手術症例で,斜視眼と健眼の眼窩 MRI 所見の比較,斜視眼の術前後のMRI 所見の比較,術中の斜視眼の外眼筋の走行偏位を計測したので報告する.I症例患者:58 歳,女性.〔別刷請求先〕中島智子:〒520-2192 大津市瀬田月輪町滋賀医科大学眼科学講座Reprint requests:Tomoko Nakashima, M.D., Department of Ophthalmology, Shiga University of Medical Science, Seta, Tsukinowa, Otsu 520-2192, JAPAN片眼の強度近視性斜視の MRI 所見と術中外眼筋所見中島智子西田保裕村木早苗大路正人滋賀医科大学眼科学講座Clinical Findings in a Case of Monocular Acquired Esotropia with High MyopiaTomoko Nakashima, Yasuhiro Nishida, Sanae Muraki and Masahito OhjiDepartment of Ophthalmology, Shiga University of Medical Science58 歳,女性.左眼に 60Δの内斜視と 14Δの下斜視を呈し,眼球運動制限を認めた.右眼の眼軸長は 23.7 mm に対し,左眼の眼軸長は 31.2 mm であった.眼窩 MRI(磁気共鳴画像)では,右眼に比べ,左眼球後極部は上耳側の筋円錐外に脱臼し,左上直筋は鼻側へ,左外直筋は下方へ偏位していた.左眼に横山法を実施した.術中,外直筋は 39° 下方を,上直筋は 25° 鼻側を走行していた.術後 MRI では,左眼球後極部の脱臼とともに,上直筋と外直筋の偏位は改善していた.眼位も 6Δの内斜視と 4Δの下斜視に改善した.本症例は横山が提唱した強度近視性斜視の発症機序を支持するものであり,また,横山法の有用性を再確認した.A 58-year-old female had 60 prism diopters(PD)of esotropia and 14 PD of hypotropia with restricted ocular motility, in her left eye. The left axial length was 31.2 mm, whereas the right axial length was 23.7 mm. Magnetic resonance imaging(MRI)demonstrated superotemporal dislocation of the left posterior globe from the muscle cone, with shifts of the left superior rectus muscle(SR)nasally and the left lateral rectus muscle(LR)inferiorly. The Yokoyama procedure was performed on the eye. Intraoperatively, the LR belly was running 39 degrees inferi-orly, and the SR was running 25 degrees nasally. Postoperative MRI demonstrated that the left posterior globe dis-location and the muscle shifts were improved. Eye position improved to 6 PD of esotropia and 4 PD of hypotropia. These clinical ndings support Yokoyama’s proposed etiology of acquired esotopia with high myopia, and the use-fulness of the Yokoyama procedure.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(12):1697 1701, 2009〕Key words:強度近視性斜視,眼窩 MRI,横山法,眼球後部脱臼.acqured esotropia with high myopia, orbital MRI, Yokoyama procedure, posterior globe dislocation.———————————————————————- Page 21698あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(122)初診:2007 年 7 月 6 日.主訴:左眼の内斜視.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:小児期より左眼に近視があった.55 歳頃より,徐々に左眼の内斜視が出現し,その後外ひきも不能となった.今回眼位矯正目的で他院から当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は,VD=0.06(1.5×sph 1.25 D),VS=0.03(0.06×sph 13.0 D(cyl 2.0 D Ax180°).前眼部,中間透光体に特記すべきことなく,左眼底後極部に網脈絡膜萎縮を認めた.眼位は 60Δの左内斜視とともに 14Δの左下斜視で,全方向に著しい眼球運動制限があり,眼位は内下斜視で固定し,固定内斜視の状態であった(図 1).右眼の眼球運動は正常であった.MRI の眼窩冠状断では,左眼の眼球後極部が外直筋と上直筋の間から上耳側の方向に筋円錐外へ脱臼し,左眼の上直筋が鼻側に,外直筋が下方に偏位していた(図 2).右眼の眼球後極部と各外眼筋に明らかな異常は認められなかった.軸位断 MRI では,右眼と比較して左眼は長眼軸で内斜視を呈していた(図 3).超音波 A モードによる眼軸長計測図 1術前9方向眼位写真左眼は内下斜視の眼位で固定し,外ひき,上ひきはまったく不能であった.図 2術前冠状断MRIa: 左眼球後部が外直筋と上直筋の間から上耳側の方向に筋円錐外へ脱臼していた.SR:上直筋,LR:外直筋,IR:下直筋,MR:内直筋,SO:上斜筋,ON:視神経.b:aよりさらに後方スライスでは,左外直筋が下方に偏位し,上直筋も鼻側に偏位していた.ab———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091699(123)では,右眼 23.7 mm,左眼 31.2 mmであった .経過:2007 年 11 月 12 日,眼位矯正目的で全身麻酔下にて横山法を左眼に実施した.外直筋の付着部から 15 m m後方の筋腹上縁に通糸し,同じく上直筋の付着部から 15 m m後方の筋腹耳側縁にも通糸した.糸を結紮して外直筋上縁と上直筋耳側縁を互いに縫着し,上耳側の眼球後極部の脱臼を整復した.術中,左眼瞼の内嘴と外嘴を結んだ線を基準線として,外直筋は 39° 下方を走行し,上直筋は基準線に対する垂直線から 25° 鼻側を走行していた(図 4).なお,この基準線は両眼の外嘴を結んだ顔面の水平線に対してわずか 3°,反時計方向に回旋しているのみであった.術後 2 カ月後,眼位は 6Δの内斜視,4Δの下斜視となり,眼球運動は著しく改善し,外ひき,上ひきとも可能となった(図 5).冠状断 MRI では,左眼の上直筋,外直筋は,上耳側の眼球後極部を囲むようにやや引き延ばされ,両筋の走行は改善していた.左眼球後極部の脱臼は右眼に比べるとまだ残存しているものの,術前に比べ明らかに整復されていた(図 6).図 3術前軸位断MRI右眼に比べ,左眼が内斜視とともに長眼軸であった.図 5術後9方向眼位写真術後左斜視に改善し,眼球運動も良好となった.図 4術中外眼筋所見a:左外直筋(LR)は著しく下方に偏位し,水平に対して 39°下方を走行していた.b:上直筋(SR)は垂直線に対して,25°鼻側を走行していた.ab———————————————————————- Page 41700あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,2009(124)II考按今回筆者らは,片眼が著しい下内斜視とともに高度な眼球運動制限を伴った強度近視性斜視で,他眼は,眼位,眼球運動がまったく正常な症例を経験した.同一症例で両眼の臨床所見を比較できた点で意義深いと考える.まず,眼軸長に関しては,MRI 所見や超音波 A モードの値から,斜視眼は30 mm以上の長眼軸に対して,他眼は正常の眼軸を示していた.冠状断 MRI の所見では,斜視眼は横山が指摘している眼球後極部の上耳側への脱臼と上,外直筋の偏位が認められたが,他眼は眼球後極部や外眼筋に関して解剖学的位置異常は認められなかった.同一個体での両眼の比較からも,眼軸の異常な伸展が強度近視性斜視の発症に最も重要な因子であり,眼球後極部が筋円錐外に脱臼し,外眼筋の偏位が生じるとする横山の説2)を支持するものと考える.強度近視性斜視の術中所見に関する過去の報告9)でも,外直筋の下方偏位が指摘されているが,筆者らは外眼筋の走行偏位を,簡便に角度で定量評価した.本症例では基準線に対して約 40°の著しい下方偏位が認められ,MRI での走行異常を反映していた.上直筋は 25° 鼻側を走行していたが,正常でも上直筋は眼球付着部から眼窩先端部の方向へ鼻側斜めに走行しているため,今回の計測だけではどの程度の走行異常を示しているのかは評価困難である.今回の計測では,左眼瞼の内嘴と外嘴を結んだ線を基準線としたが,本症例での基準線は顔面の水平線と比較しても,わずかの回旋ずれがあるのみで,ほぼ水平の基準線としても問題ないと考えた.横山法により,左眼の術後眼位と眼球運動は著明に改善した.術後の眼窩冠状断 MRI でも,外直筋と上直筋が正常の走行部位に引き延ばされながらも脱臼した眼球後極部を取り囲む所見が確認できた.この所見からも,上下直筋の筋縁を互いに縫着する横山法は,眼球後極部の脱臼を矯正し,両筋の走行を正常化する術式であることが,画像診断的にも再確認された.以上,片眼のみに発症した強度近視性斜視症例で,両眼の眼軸長と眼窩 MRI 所見,術中の外眼筋所見,術前後の MRI所見を検討し,強度近視性斜視の発症機序である横山の説とその治療法である横山法の効果を再確認した.文献 1) 太田道孝,岩重博康,林孝雄ほか:固定内斜視の画像学的研究.日眼会誌 99:980-985, 1995 2) Yokoyama T, Tabuchi H, Ataka S et al:The mechanism of development in progressive esotropia with high myo-pia. Transactions of the 26th Meeting, European Strabis-図 6術後冠状断MRIa:眼球後部の脱臼は改善した.b:aよりさらに後方スライスでは,外直筋,上直筋の偏位は改善した.SR:上直筋, LR:外直筋,IR:下直筋, MR:内直筋, SO:上斜筋,ON:視神経.ab———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 12,20091701(125)mological Association, Swet and Zeitlinger:218-221, 2000 3) Aoki Y, Nishida Y, Hayashi O et al:MRI measurements of extraocular muscle path shift and posterior eyeball pro-lapse from the muscle cone in acquired esotropia with high myopia. Am J Ophthalmol 136:482-489, 2003 4) 秋澤尉子,安澄健次郎,井田正博:強度近視の眼球後部と筋円錐.日眼会誌 108:12-17, 2004 5) 中川たか子,米村隆温,谷原秀信:両眼の固定内斜視(進行性内斜視)の 1 例.眼臨 101:185-187, 2007 6) 須賀美保子,西田保裕,柿木雅志ほか:滋賀医大で施行した強度近視性内斜視の手術治療.眼科手術 22:77-81, 2009 7) 三橋玉絵,山下英俊:固定内斜視の 2 例.眼臨 98:304-306, 2004 8) 高橋麻穂,平石剛宏,林孝雄ほか:固定内斜視に対する上直筋・外直筋筋腹縫合術の効果.眼臨 100:569-572, 2006 9) Krzizok TH, Kaufmann H, Traupe H:New approach in strabismus surgery in high myopia. Br J Ophthalmol 81:625-630, 1997***