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経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1194.1197,2019c経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進引間知広井上茉莉九州工業大学情報工学部生命化学情報工学科治療システム研究室CTrans-scleralIontophoreticDeliveryofHighMolecularWeightCompoundintothePosteriorSegmentoftheEyeTomohiroHikimaandMariInoueCDepartmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnologyC後眼部へ高分子薬物を送達させる方法として,経強膜イオントフォレシス(IP)の可能性をCinvitro実験で検討するとともに,促進メカニズムについて考察した.ブタ眼球から強膜,ならびに強膜・脈絡膜・網膜からなるCSCR膜を切り出し,眼球用水平拡散セルに取りつけた.電場は電流密度C0.8.6CmA/cm2,適用時間はC10.30分間として,平均分子量C10,000のイソチオシアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10)の累積透過量を測定した.その結果,IP適用によりCFD-10の透過速度は,最大C6.3倍まで増加した.促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加が大きな要因であり,また網膜色素上皮における損傷の可能性が示唆された.CWeconductedanexperimentoninvitrodrugdeliveryintotheposteriorsegmentthroughthesclera/choroid/retina(SCR)byCiontophoresis(IP)andCevaluatedCtheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIP.CScleraCorCSCRCwasCmountedCbetweenCsphericalCside-by-sideCpenetrationCcellsCandIP(currentdensity:0-8.6CmA/cm2)wasCappliedtothetissuefor10-30Cmin.Fluoresceinisothiocyanatedextran(averagemolecularweight:10,000,FD-10)Cwasusedasthemodeldrugofhighmolecularweight.ThepenetrationrateofFD-10withIPapplicationwas6.3timesChigherCthanCthatCwithoutCIPCapplication.CTheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIPCincreasedCFD-10Cconcentrationinthesclera,accompaniedbytheelectroosmoticwater.owofIPapplication,andmightpresentthepossibilityofdamagetoretinalpigmentepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1194.1197,C2019〕Keywords:後眼部,強膜,イオントフォレシス,電気浸透.posterior,sclera,iontophoresis,electroosmosis.はじめに社会の高齢化が進行するにつれて,加齢黄斑変性や糖尿病網膜症といった後眼部疾患の患者数が増加している1).これらは先進国においておもな失明原因疾患となっており,生活の質(qualityoflife)を大きく損なう原因となっている.治療薬は血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)阻害薬などの高分子化合物であり,治療薬投与方法はおもに硝子体内への注射である.長期間の繰り返し眼内注射は,感染症,外傷性白内障,そして網膜.離などが起きるといった問題点があげられる.そのため,非侵襲的な新規の後眼部組織への治療薬投与方法の確立が望まれている.そこで本研究では,後眼部疾患部位へ高分子薬物を送達させる方法として,電場を用いた経強膜イオントフォレシス(IP)に注目した.電場による高分子薬物の透過促進条件の検討,さらに経強膜CIPにおける透過促進メカニズムの検討を行った.CI実.験.方.法1.眼組織および試薬実験当日に屠殺されたブタ(月齢C6カ月前後の三元豚あるいは四元豚,メスまたは去勢済みのオス)の眼球を,福岡食肉販売株式会社より購入した.運搬中は氷を用いて冷やし,〔別刷請求先〕引間知広:〒820-8502飯塚市川津C680-4九州工業大学大学院情報工学研究院生命化学情報工学研究系Reprintrequests:TomohiroHikima,Ph.D.,DepartmmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnology,680-4Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-8502,JAPANC1194(92)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(92)C1194C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYa3.0)2.52.01.51.00.500.0累積透過量(μg/cm2図1眼科用球面型水平拡散セルの模式図0.00.501.01.52.02.53.03.5時間(h)実験は屠殺からC4時間以内に開始した.解剖用メスを使用しCb60て硝子体,水晶体,虹彩,毛様体を取り除き,強膜(sclera),50脈絡膜(choroid)/網膜(retina)からなるCSCR膜,ならびにピンセットにより脈絡膜と網膜(CR膜)を除去した強膜を単離した.モデル薬物として平均分子量C10,000のイソチオ)累積透過量(μg/cm24030シアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10,Sigma-Aldrich社)を用い,その他の試薬はすべて特級グレードを20用いた.2.SCR膜および強膜を用いたinvitro透過実験SCR膜あるいは強膜を球面型水平拡散セル(図1)の間に取り付け,レセプターセル(接続部分が凸型)にC5CmlのC120mMリン酸緩衝液(PB)を入れ,ドナーセル(接続部分が凹型)にC5CmlのC0.1%FD-10溶液を入れて透過実験を開始した.両セルに白金電極(ドナー側を陽極)を挿入し,実験開始C30分後から電場(電流密度はC0.43.8.6CmA/cmC2,通電時間はC10.30分間)を適用した.経時的にレセプターからC500μlサンプリングし,サンプル中のCFD-10濃度を蛍光分光光度計により定量した.C3.強膜における含水率およびFD.10含有量の測定電場を適用しない場合(control)とCIP適用(電流密度C4.3CmA/cm2)の場合における強膜内含水率,およびCFD-10含有量の変化を測定した.レセプターセルおよびドナーセルにPBを5Cml入れ,30分間実験を行った.ただちに強膜のCPBに接した部分を切り出し,湿重量を測定した.その後,約70℃の乾燥器内でC15時間以上乾燥させ,乾燥重量を測定して含水率を求めた.同様にして強膜を切り出し,強膜表面をPBで洗浄したあとに,試薬瓶に入れた.試薬瓶に抽出溶媒としてC50Cμg/mlゲンタマイシン硫酸塩含有CPBをC2Cml入れてCFD-10の抽出を行った.この操作をCFD-10が検出できなくなるまで繰り返した.CII結果1.IP適用による透過促進効果図2に適用時間をC30分間としたCFD-10累積透過量を示100時間(h)図2SCR膜(a)および強膜(b)透過に及ぼす電流密度の影響○:control(0CmA/cmC2),◆:0.43CmA/cmC2,■:4.3CmA/cmC2,●:8.6CmA/cmC2.した.SCR膜における累積透過量は,IP適用を止めたC30分後(実験開始からC1.5時間後)から増加した.一方,強膜においては,IP適用C20分後から透過量が増大し,IP停止後30分程度で,曲線の傾きである透過速度はCcontrolとほぼ同じになった.SCR膜と強膜では,IP促進効果が現れる時間帯が大きく異なるが,IP適用により増大した透過速度を最大透過速度とした.さまざまなCIP適用条件下での最大透過速度を表1にまとめた.SCR膜における最大透過速度はC129CmA/cm2・minのIP適用条件で頭打ちの傾向を示した(図3a)が,強膜では適用時間ならびに電流密度の増大に伴い,増大した(図3b).C2.IP適用による強膜含水率およびFD.10含有量の変化表2に強膜における含水率とCFD-10含有量をまとめて示した.実験前における強膜含水率はC71.1C±1.66%であったが,30分間CPBに浸してもCIPを適用してもほぼ変化がなく,有意差が生じなかった.FD-10含有量はCIP適用により,有意に増大した.(93)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1195C表1FD.10のSCR膜および強膜における最大透過速度(μg/cm2/h)電流密度(mA/cm2)IP適用時間10分20分30分SCR膜0(Control)C0.210±0.252C0.43C4.3C8.6C.C0.491±0.586C0.658±0.514C.C0.715±0.189C0.856±0.347C0.0907±0.0684C1.06±0.737C1.33±0.7640(Control)C10.2±7.07C強膜0.43C4.3C8.6C.C17.1±1.05C26.9±11.9C.C20.4±6.45C50.3±3.11C19.6±5.21C28.8±7.07C53.9±14.1それぞれのデータは平均値±標準偏差(nC≧3)を表す.C表230分間のIP適用後における強膜内含水率およびFD.10含a2有量含水率(%)FD-10含有量(μg)最大透過速度(μg/cm21.510.50050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)80ControlC69.8±5.83C8.31±3.01CIPC75.4±2.08C12.6±3.00*それぞれのデータは含水率(n=4)とCFD-10含有量(n=8)の平均値C±標準偏差を表す.*controlと有意差あり(p<0.05).れている.IPを適用しないCcontrol実験において,FD-10の透過速度はCSCR膜でC0.210C±0.252Cμg/cm2/h,強膜でC10.2C±7.07Cμg/cm2/hであり,CR膜をほとんど透過しないことがわかった.ところがCIPを適用すると,FD-10の最大透過200250300b706050403020100050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)200250300速度はCSCR膜で最大C6.3倍(電流密度C8.6CmA/cmC2,適用時間C30分間),強膜で最大C5.3倍(SCR膜と同じ適用条件)となった.また図3より,最大透過速度は電流密度と適用時間の積に比例することがわかった.したがって,IPによる高分子薬物の後眼部への送達量は,電流密度と適用時間により制御可能であることが示唆された.つぎに後眼部組織におけるCFD-10の透過促進メカニズムについて検討した.IPの透過促進メカニズムは,電荷をもつ薬物と電極との電気反発,電位差勾配による陽極から陰極へ向かう水の動きに伴う薬物の動きである電気浸透である4).FD-10は負電荷をもっているが,高分子のため実質的/h)最大透過速度(μg/cm2図3SCR膜(a)および強膜(b)透過速度と電流密度×適用時間の関係III考察強膜はコラーゲンに富んだ微多孔質膜構造であり2),CR膜は外側血管網膜関門(網膜色素上皮におけるバリア機能)の存在により,親水性薬物に比べ脂溶性薬物が透過しやすく,さらに高分子薬物が透過しにくい構造である3)と報告さに電気的中性の分子と考えられている5).ドナーを陽極とした本実験で,FD-10の透過速度が増大した.したがって,FD-10の透過促進効果は,電気反発よりも電気浸透が大きく寄与していることがわかった.さらに促進メカニズムとして,1)IP適用により起きる眼組織の損傷,2)眼組織内の含水率の上昇,3)FD-10の眼組織内での溶解量の増加,が考えられる.強膜においてCIP適用時に増大した透過速度は,IP適用を止めるとCcontrolとほぼ等しくなるまで減少した(図2).また,強膜では電流密度をC50CmA/cmC2まで上げても組(94)織損傷がないとの報告がある6).これらの結果からCIP適用による強膜損傷はない.しかし,図2aにおいて,FD-10のSCR膜透過量が増加し続けている.この結果から,IPによる網膜色素上皮のバリア機能が損傷している可能性が考えられた.さらに表2より強膜内の含水率は増加しなかったが,FD-10の含有量は増大することがわかった.IP適用により強膜内のCFD-10濃度が急激に上昇するため,IP適用から20分程度で強膜を透過する累積透過量が増大する(図2b)が,CR膜には高分子薬物に対するバリア機能があるため,IPによる促進効果が遅く現れる(図2a)と予想できた.IPによるバリア機能への影響は,IPの臨床応用に向けて明らかにしなければならない課題である.本研究結果からバリア機能の損傷の可能性が示されたが,可逆的な損傷であることも示唆された.タイトジャンクションによるバリア機能の頑強性は,電気抵抗により評価できる3).さらなる検討を行い,バリア機能の損傷について明らかにする.以上の結果から,IP適用による促進メカニズムとして,FD-10は電流密度と適用時間に比例する電気浸透により強膜内に押し込まれ,強膜内CFD-10濃度が増大することによる透過促進であることが予想できた.CIV結論高分子薬物の後眼部組織への送達方法として,経強膜CIPの有効性を示すことができた.そして後眼部組織への薬物送達量ならびに透過速度は,電流密度と適用時間により制御可能であることを示した.また,経強膜CIPによる透過促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加によることを明らかにした.経強膜薬物送達による薬物眼内動態を明らかにするためには,脈絡膜循環による薬物回収やメラニン色素との薬物結合の影響も考察しなければならない課題である.しかし,本研究では,これらの課題が検討できていない.本研究で考察したバリア機能の損傷可能性と同様に,IPの経強膜薬物送達での基礎的な検討を行うことにより,IPの臨床応用が可能になると期待している.文献1)小椋祐一郎:網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究:3年計画のC2年目.平成C24年度総括・分担研究報告書:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業2)GeroskiCDH,CEdelhauserHF:DrugCdeliveryCforCposteriorCsegmenteyedisease.InvestOphthalVisSciC41:961-964,C20003)PitkanenL,RantaV-P,MoilanenHetal:Permeabilityofretinalpigmentepithelium:E.ectsofpermeantmolecularweightCandClipophilicity.CInvestCOphthalCVisCSciC46:641-646,C20054)GuyRH,KaliaYN,Delgado-CharroMBetal:IontophoreC-sis:electrorepulsionCandCelectroosmosis.CJCControlCRelC64:129-132,C20005)NicoliCS,CFerrariCG,CQuartaCMCetal:InCvitroCtransscleralCiontophoresisofhighmolecularweightneutralcompounds.EurJPharmSciC36:486-492,C20006)Behar-CohenCFF,CElCAouniCA,CGautierCSCetal:Trans-scleralcoulomb-controllediontophoresisofmethylprednis-oloneCintoCtheCrabbiteye:in.uenceCofCdurationCofCtreat-ment,CcurrentCintensityCandCdrugCconcentrationConCocularCtissueand.uidlevels.ExpEyeResC74:51-59,C2002***(95)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1197C

強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術

2018年7月31日 火曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(7):957.961,2018c強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術藤尾有希*1中倉俊祐*1野口明日香*1松谷香奈恵*1小林由依*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)ScleralRotating:ASurgicalTechniqueforCoveringGlaucomaDrainageImplantTubesYukiFujio1),ShunsukeNakakura1),AsukaNoguchi1),KanaeMatsuya1),YuiKobayashi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity目的:緑内障インプラント手術後,結膜からのチューブ露出が問題となる.今回パッチ素材を用いず,自己強膜を反転する方法でチューブ被覆を行ったので報告する.対象および方法:初回緑内障インプラント手術を強膜反転法で施行した,難治性緑内障患者C14例C15眼を後ろ向きに調べた.全例術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2歳,平均観察期間はC12.0カ月であった.強膜反転法はチューブを眼内に挿入し固定後,チューブ横,左右どちらかに四角形の強膜半層切開を行い,それを反転させてチューブを覆う方法である.結果:眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHgから最終診察時C16.8C±11.5CmmHgへ有意に低下していた.強膜反転法ではプレート近くまでチューブを覆うことが可能であった.観察期間中結膜乖離やチューブの露出はC1例もなかった.結論:強膜反転法は簡便で大きさも任意に決定でき有用であった.CPurpose:Wereportontheshort-terme.ectsof“ScleralRotating,”asurgicaltechniqueforcoveringglauco-madrainageimplanttubes.Methods:Thiswasaretrospective,consecutivecaseseriesof15refractoryglaucomaeyesthatunderwentinitialglaucomatubeimplantationusingtheScleralRotatingtechnique.Meanpatientagewas61.2Cyrs;meanCobservationCperiodCwasC12.0Cmo.CTheCScleralCRotatingCtechniqueCwrapsCtheCimplantCtubeCwithCaCself-sclera,CformedCbesideCtheC.xedCtubeCbyCcuttingCaChalf-layerCofCscleraCtoCtheCpreferredClengthCandCsize.CResults:IntraocularCpressureCreducedCfromC39.4C±10.1CmmHgCtoC16.8±11.5CmmHgConCfollow-up.CUsingCthisCtech-nique,CweCcoveredCtheCtubeCnearCtheCplate,CwithCnoCtubeCexposureCinCallCpatients.CConclusion:ScleralCRotatingCisCaneasyandusefultechniquethatdoesnotrequirepatchgraftmaterial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(7):957.961,C2018〕Keywords:強膜,緑内障,インプラント手術,パッチグラフト,チューブ露出.sclera,glaucoma,implant,patchgraft,tubeexposure.Cはじめに緑内障インプラント手術後のチューブ露出は,術後いつでも起こりうる.臨床的特徴は,結膜充血,異物感,光視症,虹彩炎や低眼圧でありチューブ露出は眼内炎につながる1).パッチ材料としては,保存された強膜や角膜,自己または加工処理された強膜などさまざまな材料が使用されている.前向き研究ではチューブ露出はC5年間の経過観察でC1.5%と報告されている2.4).しかし,後向き研究ではC5.8.8.3%の高い発生率がパッチ素材にかかわらず報告されている5.7).明白なチューブ露出の原因は今のところ不明だが,機械的な刺激や8)異物に対する免疫反応など9)とされている.また,パッチ素材はその費用や感染症のリスク,ならびに外見上の問題点がつきまとう.その問題を克服するためにCAslanidesらはC1999年に最初に自己強膜の反転によるチューブ被覆術を報告した10).この方法は非自己パッチ素材を用いず,採取したフリーの自己強膜をパッチする方法よりも簡便で,チューブ露出の可能性が低いことが報告されている11).今回筆者らは日本でなじみのないこの方法を修正し,チューブの根元まで覆うように工夫した(図1)緑内障インプラント手術を施行したので,その結果を報告する.〔別刷請求先〕藤尾有希:〒671-1227兵庫県姫路市網干和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YukiFujio,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPAN図1強膜半転法のシェーマAslanidesらの方法(3C×3Cmm)を変法し,強膜を半層切開しできるだけプレート付近まで覆うようにした.I対象および方法この研究はツカザキ病院(以下,当院)倫理委員会の承認を得て行われ,UMIN(大学病院医療情報ネットワーク)臨床試験登録され(登録番号;UMIN000025504),ヘルシンキ宣言に準じて行われた.強膜反転法を初回の緑内障インプラント手術で施行した連続患者C14例C15眼を後ろ向きに調査した.術後C6カ月以上経過した症例を選択した.平均年齢はC61.2C±19.7歳(範囲34.89歳),男性C12名,女性C2名,右眼C9眼,左眼C6眼であった.原疾患は血管新生緑内障C11眼,落屑緑内障C2眼,開放隅角緑内障C1眼,続発緑内障C1眼であった.インプラント手術前の内眼手術歴(施行合計数)は抗CVEGF硝子体注射(25),眼内レンズ挿入術(15),硝子体手術(15),トラベクレクトミー(3),トラベクロトミー(3),全層角膜移植(2)であった.バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCRCGlaucomaImplant)(エイエムオー・ジャパン社):BG101-350をC9眼,アーメド緑内障バルブ(AhmedCTMGlaucomaCValve)(New-WorldCMedical社):ModelCFP7をC6眼に用いた.インプラントの設置部位は耳上側がC14例,鼻下側がC1例であった.鼻下側に挿入したC1例は全層角膜移植術症例で,耳下側にトラベクロトミー手術痕,上方結膜の菲薄化があったために同部位に設置した.硝子体腔内チューブ挿入例はC12例,前房内チューブ挿入例はC3例であった.硝子体手術施行例は角膜内皮障害を考慮し12),基本的に硝子体腔内に挿入した.強膜反転法術式手術は全例CTenon.麻酔で行った.従来の方法どおり,イニシエーションを行い輪部からC9.10Cmmの外直筋間にBG101-350とCModelCFP7のプレートを固定した.BG101-350はC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC2.3カ所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.前房内固定の場合:輪部から約C2CmmのところでC23CGCVランスで穿刺後,前房内に長さC2.3Cmm挿入できる程度にカットしたチューブ先端を挿入し,先に固定する(図2a).次にチューブの長さや方向を考慮しながら,両側の空いている強膜に四角形の反転用強膜をデザインする.このときなるべくプレート近くのチューブまで覆えるようにデザインした.予定切開範囲が決まれば強膜を半層切開し(図2b),チューブぎりぎりまで切開し対側に折り返せるようにする(図2c).折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜に固定し終了する(図2d).その後,なるべくCTenon.を前転してチューブの部位を覆い隠すようにし,結膜を縫合して終了した.硝子体腔固定の場合:輪部から約C4CmmのところでC23CGVランスで穿刺後,硝子体腔に約C4Cmmでるように長さを調節したチューブ先端を挿入,先に固定する(図3a).バルベルトタイプの場合,本来,毛様体扁平部挿入タイプとされるBG102-350があるが,Ho.mannCelbowは大きく強膜反転法にはむかない.Ho.mannelbowは脱出する頻度が高いことが知られており13),当院では前房内挿入用であるCBG101-350の先端の長さを調節し挿入した.その後,方法は前房内固定の場合と同じである(図3b~d).手術はすべて単一の術者が行い,術中,術後代謝拮抗薬は使用しなかった.眼圧はすべてCGoldmann眼圧計にて測定した.術後点眼はベタメタゾンC0.1%とレボフロキサシンC1.5%をC1日C4回約1カ月間投与した.CII結果眼圧は術前C39.4C±10.1CmmHg(22.59CmmHg)から最終診察時C16.8C±11.5CmmHg(2.51CmmHg)へと有意に低下していた(p<0.001,対応あるCt検定).緑内障点眼薬の本数は,配合剤をC2,アセタゾラミド内服をC1とすると,術前C3.2±1.4本(0.6本)から最終観察時C0.8C±1.3本(0.4本)と有意に減少していた(p<0.001,対応あるCt検定).平均観察期間はC12.0カ月(7.19カ月)で,その期間中チューブの露出はC1例もなかった.血管新生緑内障患者のうちC2例は術後硝子体出血を発症した,1例は硝子体手術を施行し最終眼圧はC15CmmHgと落ち着いた.もうC1例は硝子体手術が困難なほどの硝子体出血と前房出血を術後C6カ月目で発症し,眼圧は上昇し失明に至った.最終診察時眼圧はC51mmHgであった.術後早期の脈絡膜.離や,感染症などは図2前房内固定の場合a:チューブ先端を輪部からC2Cmmのところで前房内にチューブを固定後(.),チューブの両サイドの強膜で,できれば厚いほうを選んで切開デザインを作成する.Cb:強膜を半層切開しチューブぎりぎりまで切開を進める.Cc:強膜を反転しチューブを覆えるか確認する.できれば少しチューブと強膜の間にスペースがあるほうがいい.Cd:折り返した強膜はC8-0バイクリル糸で対側強膜固定する.C認めなかった.最終観察時の前房内固定タイプと硝子体内固定タイプの前眼部写真と前眼部三次元画像解析(SS-1000(TomeyCorp,Nagoya,Japan)を提示する(図4,5).図4はC68歳,男性,落屑緑内障(左眼)でバルベルト(BG101-350)を前房内挿入した.術後C8カ月目の前眼部写真と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真を提示する.反転した強膜に覆われたチューブは白い隆起として観察され(図4a),前眼部三次元画像解析では反転した強膜と結膜の境目を高反射として観察された(図4b).図5はC79歳,男性,血管新生緑内障(右眼)で隅角はC360°完全閉塞していた.硝子体手術の既往があったため,バルベルト(BG101-350)を輪部からC4Cmmで硝子体腔に挿入した.術後C4カ月目の前眼部写真(図5a)と前眼部三次元画像解析によるチューブ挿入部位の断層写真(図5b)を提示する.反転した強膜に覆われたチューブを観察できる.前眼部三次元画像解析では硝子体腔に滑らかに挿入されていることが確認できた.CIII考察今回筆者らは,Aslanidesらが報告した強膜反転法を用いた緑内障チューブインプラント手術を施行し,短期間ではあるが経過観察期間において良好な成績を得られた.原法ではC1/3層の強膜切開で3C×3mmの長さであり,チューブ全体を覆うことができない.一般的に前房内固定の場合では挿入部位からプレート根部までの距離は約C7.8mm,硝子体腔固定の場合,約C5.6Cmmもある.そのためこの方法を修正し,パッチした強膜が薄くならないように半層切開して,なるべくプレート近くまで長方形に反転強膜をデザインしチューブを覆った(図1~3).Wolfらは,自己強膜を使うメリットは免疫反応がない(異物でない)ことと,パッチ素材の色が本人の強膜と同じ色であるため外見上よいこととしている11).さらに自己遊離強膜パッチ法と比べた強図3硝子体腔固定の場合a:チューブ先端を輪部からC4Cmmで硝子体腔に固定する.Cb~d:以後前房型と同じ手技だが,硝子体固定のほうが前方に強膜が広範囲にありデザインしやすい.C図4前房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C8カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブは明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.内腔もよく視認できる.C膜反転法のメリットとして,強膜への血流が保たれるため,ーブの形に沿って隆起した強膜反転フラップが観察され,美より強膜が溶けにくくチューブの露出の可能性が低いとして容上の問題は良好であった(図4,5).大きなパッチ素材でいる.術後筆者らの症例でチューブ露出を生じた症例はC1例覆うとチューブの走行が不明で,術後に硝子体手術が必要なもないが,Wolfらはチューブ露出が術後C55カ月で,強膜反場合はポートの作製部位に注意が必要であるが,強膜反転法転法ではC2.1%(推定),自己遊離強膜パッチ法でC8.9%であではその必要はないと思われる.ったと報告している11).最終観察時での前眼部写真ではチュチューブ露出の危険因子はさまざま報告されており,たば図5後房型チューブ挿入部位の術後写真a:術後C4カ月目の前眼部写真.反転した強膜は隆起して確認できる.Cb:前眼部三次元画像解析では,チューブ内腔は明瞭に確認でき,反転した強膜は白いラインとして確認できた.こ7),ドライアイ7),落屑緑内障7),マイトマイシンCCの利用13),同時手術7,14),白人6),女性6)などがある.一方で糖尿病や高血圧など全身の合併症は危険因子でないとされている6,7,13,14).今回筆者らの症例は血管新生緑内障が多かった.血管新生緑内障を危険因子とする報告もある15)ため,今後の注意は必要である.移植したパッチ素材の違い(強膜,硬膜,心膜)はチューブ露出に関係ないとされている9).強膜反転法以外に自己強膜を利用する方法としては,長い強膜トンネルを作製し,その中にチューブを通す方法や16,17)C6×6Cmmの半層強膜下に設置する方法がある.筆者らの方法では全層の強膜を通してチューブを挿入するので,チューブの変位が生じにくいと予想されるのもメリットである.また,筆者らが用いたように,手術中にできるだけCTenon.を前転しておくことは結膜と強膜もしくはパッチ素材が直接触れ合うことを避けチューブ露出の防止に有効である17).今後長期的な経過観察が必要であるが,強膜反転法はパッチ素材を用いずに施行でき,簡便で大きさも任意に決定でき有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindJT,ShuteTS,SheybaniA:Patchgraftmaterialsforglaucomatubeimplants.CurrOpinOphthalmol28:194-198,C20172)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetCal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)BudenzDL,FeuerWJ,BartonKetal:Postoperativecom-plicationsCintheAhmedBaerveldtComparisonStudydur-ing.veyearsoffollow-up.AmJOphthalmol163:75-82,C2016(111)4)ChristakisCPG,CKalenakCJW,CTsaiCJCCetCal:TheCAhmedversusCBaerveldtCstudy:.ve-yearCtreatmentCoutcomes.COphthalmologyC123:2093-2102,C20165)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetCal:GlaucomadrainageCdevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20156)MuirKW,LimA,StinnettSetal:Riskfactorsforexpo-sureofglaucomadrainagedevices:aretrospectiveobser-vationalstudy.BMJOpenC4:e00456,C20147)TrubnikCV,CZangalliCC,CMosterCMRCetCal:EvaluationCofCriskCfactorsCforCglaucomaCdrainageCdevice-relatedCero-sions:ACretrospectiveCcase-controlCstudy.CJCGlaucomaC24:498-502,C20158)HeuerCDK,CBudenzCD,CColemanCA:AqueousCshuntCtubeCerosion.JGlaucomaC10:493-496,C20019)SmithCMF,CDoyleCJW,CTicrneyCJWCJr:ACcomparisonCofCglaucomaCdrainageCimplantCtubeCcoverage.CJCGlaucomaC11:143-147,C200210)AslanidesCIM,CSpaethCGL,CSchmidtCCMCetCal:AutologousCpatchCgraftCinCtubeCshuntCsurgery.CJCGlaucomaC8:306-309,C199911)WolfA,HodY,BuckmanGetal:Useofautologousscleralgraftinahmedglaucomavalvesurgery.JGlaucomaC25:C365-370,C201612)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:Preservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheahmedglaucomavalve.JpnCJOphthalmolC56:119-127,C201213)ZaltaCAH:Long-termCexperienceCofCpatchCgraftCfailureCafterCAhmedCGlaucomaCValveRCsurgeryCusingCdonorCduraCandCscleraCallografts.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:408-415,C201214)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetCal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C201615)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetCal:RiskCfactorsCfortubeCshuntCexposure:aCmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201316)OllilaCM,CFalckCA,CAiraksinenCPJ:PlacingCtheCMoltenoCimplantCinCaClongCscleralCtunnelCtoCpreventCpostoperativeCtubeexposure.ActaOphthalmolScandC83:302-305,C2005Cあたらしい眼科Vol.35,No.7,2018C961