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増殖糖尿病網膜症の硝子体手術術後に発生した 後発白内障に前部硝子体切除を行い眼内炎を発症した1 例

2024年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(4):449.451,2024c増殖糖尿病網膜症の硝子体手術術後に発生した後発白内障に前部硝子体切除を行い眼内炎を発症した1例齋藤了一高松赤十字病院眼科CACaseofEndophthalmitisfollowingAnteriorVitrectomytoTreataDenseCataractafterVitrectomyandCataractSurgeryinaProliferativeDiabeticRetinopathyPatientAkiraSaitohCTakamatsuRedCrossHospitalC背景:混濁が非常に強い後発白内障に対し,前部硝子体切除(anteriorvitrectmy:Avit)を行い眼内炎を発症した非常にまれなC1例を経験したので報告する.症例:52歳,女性.増殖糖尿病網膜症に対する硝子体・白内障同時手術後に混濁が非常に強い後発白内障が発症した.後発白内障に対してCAvitを行ったところ術後に眼内炎を発症した.即時に抗菌薬灌流下で硝子体切除術を行い良好な予後が得られた.本例は手術施行時の血糖コントロールは比較的不良であった.結論:後発白内障の混濁が非常に強い症例でCAvitを施行する場合には感染のリスクを考慮して血糖コントロールを含めた慎重な対応が必要であると考えられた.CPurpose:Toreportararecaseofpostoperativeendophthalmitisfollowinganteriorvitrectomyforalate-onsetposteriorcataractwithsevereopacity.Case:Thisstudyinvolveda52-year-oldfemaleinwhomaposteriorcata-ractwithsevereopacitydevelopedaftersimultaneousvitreousandcataractsurgeryforproliferativediabeticreti-nopathy.Sinceendophthalmitisdevelopedafewdaysafteranteriorvitrectomyforthesecondarycataract,vitrecto-myCwasCimmediatelyCperformedCunderCantibioticCirrigation,CandCtheCpatientChadCaCgoodCprognosis,CalthoughCtheCpatienthadrelativelypoorglycemiccontrolatthetimeofsurgery.Conclusion:Whenanteriorvitrectomyisper-formedinapatientwithasecondarycataractwithverysevereopacity,carefulmeasures,includingbloodglucosecontrol,arenecessaryduetotheriskofinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(4):449.451,C2024〕Keywords:眼内炎,後発白内障,前部硝子体切除,血糖コントロール.endophthalmitis,aftercataract,anteriorvitrctomy,bloodsugarcontrol.Cはじめに糖尿病患者は,多核好中球の遊走能,接着能,貪食能,殺菌能が低下しており,とくに血糖コントロールが不良の場合は感染を惹起しやすい.硝子体手術後の眼内炎の発生頻度はC0.03.0.05%で比較的まれな疾患である.一方CNd:YAGlaser後.切開術後の眼内炎発生率は症例報告が散見するだけの非常にまれな疾患である1.5).今回筆者らは増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に硝子体・白内障同時手術(vitrectomy+PEA+IOL)施行後に発生した後発白内障に対し,前部硝子体切除(anteriorvitrectomy:Avit)を行い眼内炎を発症したC1例を経験したので報告する.CI症例52歳,女性,持病はC2型糖尿病.PDRにて視力低下をきたしC2008年C6月髙松赤十字病院眼科紹介となる.初診時所見:視力は右眼(0.7),左眼(0.4).右眼眼底に多数の網膜新生血管を認め,さらに硝子体出血(vitreoushemorrhage:VH)がみられた.左眼眼底には視神経乳頭鼻〔別刷請求先〕齋藤了一:〒760-0017香川県高松市番町C4-1-3高松赤十字病院眼科Reprintrequests:AkiraSaitoh,M.D.,TakamatsuRedCrossHospital,4-1-3Ban-cho,Takamatsu-shi,Kagawa-ken760-0017,CJAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(83)C449図1後発白内障に前部硝子体切除を施行する直前の前眼部水晶体上皮細胞の増殖を伴う液状後発白内障を認めた.側に牽引性網膜.離が,後極部に増殖膜が,下方にCVHがみられた.2008年C4.6月に両眼に汎網膜光凝固を施行.その後両眼のCVH増加し右眼視力(0.01),左眼視力(指数弁)に低下した.2008年C11月,右眼CPEA+IOL+vitrectomy+レーザー追加を施行した.このときCHbA1cはC5.6%と良好であった.また,2011年C6月,左眼CPEA+IOL+vitrectomy+レーザー追加を施行.このときもCHbA1cはC6.4%と良好であった.2013年C12月時点で右眼(1.5),左眼(1.2)と経過良好であった.術C10年後のC2018年C8月に右眼視力低下自覚し,矯正視力(0.7)と低下し水晶体上皮細胞の増殖を伴う液状後発白内障を認めた.通常のCNd:YAGレーザーでは治療困難であると判断したため,2018年C8月右眼CAvitを施行した(図1).術後点眼にモキシフロキサシンとベタメサゾンを使用した.このときCHbA1cはC7.2%で食後C3時間血糖C252Cmg/dlと血糖(BS)コントロールは不良であった.術C4日後から右眼の視力低下,眼痛を自覚.術後C5日目に当科受診.右眼に毛様充血,Descemet膜皺襞,前房蓄膿とフィブリン析出がみられて眼底透見不能であった.術後眼内炎と診断した.香川大学眼科に加療をお願いした.同日右眼前房洗浄+vitrectomy(セフタジムとバンコマイシン灌流下で施行).なお,術中採取した硝子体の培養結果では菌は検出されなかった.この際硝子体内の混濁は強かったが網膜所見は大きな異常は認められなかった.術後点眼はバンコマイシン・モキシフロキサシン・ベタメサゾン・セフメノキシムを用いた.術後経過良好でC2022年C11月現在で矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.2)であった.II考按糖尿病患者は,多核好中球の遊走能,接着能,貪食能,殺菌能が低下しており,とくに血糖コントロールが不良の場合は感染を惹起しやすい(易感染性).今回両眼の初回手術ではCHbA1c(5.6%,6.3%)は比較的良好であった.感染の発端となった右眼CAvit施行時はCHbA1c7.2%で食後C3時間CBS252Cmg/dlと血糖コントロールは不良であった.周術期CBSコントロールについて文献的に下記のような記載がみられる.1)長期間のCBSを反映するCHbA1cは単独では術後感染症の予測因子とはならない.より重要なのは手術前後の比較的短期間のCBS管理である(谷岡ら)6).2)術前コントロールの目標としては空腹時CBS100.140Cmg/dlもしくは食後CBS160.200Cmg/dl.HbA1cは術直前のCBSコントロールを正確に反映しないと留意する.空腹時CBS200Cmg/dl以上,食後CBS300Cmg/dl以上,尿ケトン体+なら延期すべき.(「糖尿病専門医研修ガイドブック」第C8版)7)後発白内障の場合手術の緊急性はないため,内分泌内科に依頼しより厳密なコントロール下で行うべきであると考えられた.硝子体手術後眼内炎の疫学に関する文献ではCParkJCら8)がCUKでC2年間に行われたC8,443例のCprospectivestudyがあり.このうちC28例に眼内炎の発症(0.033%)がみられた.さらにさまざまなリスクファクターについてCcontrolと比較している.単変量解析で有意差(危険率C0.05未満)があったのはCimmunosuppression(p=0.023),ステロイド点眼投与(p<0.001,ステロイド全身投与(p=0.043),眼科濾過手術(p=0.008),糖尿病網膜症によるCVH(p=0.011)などであった.なお非糖尿病性のCVHは有意でなかった(p=0.37).有意差なしのおもなものとしては糖尿病の罹患(p=0.078),Surgeongrade(p=0.25).さらに多変量解析の結果では有意差があったのはCimmu-nosuppression(p=0.001),ステロイド点眼投与(p<0.001)のみであった.糖尿病の罹患の有無も血糖コントロールが好であればリスクファクターとはいえない結果となった.Nd:YAGlaser後.切開でおきた眼内炎は症例報告が散見されるがまれである.レーザー施行から発症までの期間はC1日.2週と報告されており起炎菌としてはCP.acnes,Strep-tococcusintermedius,Canditaalbicansなどの弱毒菌があげられている.早期の硝子体手術で予後は良好とされている.発生機序としては水晶体.内には抗生物質・免疫能が届きにくいため手術後に嫌気性菌が眼内レンズ周囲の.内に長期間にわたり生息しており,レーザー照射時に水晶体.内に生息していた弱毒菌が前房内や硝子体中に散乱して発症すると考450あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(84)えられている.今回術前に培養がなされておらず,術中検体の培養結果も陰性であったが,発症がCNd:YAGlaserに準ずるものか,術中の術創からの感染なのかは培養では不明であった.本症例では後発白内障の混濁が強く通常のCNd:YAGlaserでは混濁の除去が困難であると考え硝子体手術で除去を行った.今回起炎菌は不明であったが.手術操作時に前房内,硝子体内に水晶体.内の菌を拡散させ眼内炎を発症し,また,無硝子体眼であるため硝子体混濁は強いが網膜の病変が軽微であった可能性が考えられた.とくに術前後のCBSコントロールに留意し内分泌内科と密に連携すべきであると考えられた.CIII結語後発白内障の混濁が非常に強い症例ではCAvit時にCNd:CYAGlaser施行時と同様の機序で眼内炎を発症する可能性があると考えられた.Nd:YAGlaserを行う場合もCAvitを施行する場合でも感染のCriskを考慮して血糖コントロール,インフォームド・コンセントを含めた慎重な対応が必要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CarlsonCAN,CKochDD:EndophthalmitisCfollowingNd:CYAGClaserCposteriorCcapsulotomy.COphthalmicCSurgC19:C168-170,C19882)TetzCMR,CAppleCDJ,CPriceCFWCJrCetal:ACnewlyCde-scribedCcomplicationCofCneodymium-YAGClaserCcapsuloto-my:exacerbationCofCanCintraocularCinfection.CArchCOph-thalmolC105:1324-1325,C19873)板谷慶子,船田雅之,飴谷有紀子ほか:YAGレーザー後発白内障切開後に眼内炎がみられたC1例.臨眼C53:1008-1012,C19994)江島哲至,菅井滋,高木郁江ほか:後発白内障を契機に発症した両眼の細菌性眼内炎のC1例.臨眼C51:957-959,C19975)西悠太郎:Nd:YAGレーザーを用いた後.混濁の後.切開術.あたらしい眼科34:167-171,C20176)谷岡信寿:総論糖尿病と外科手術.臨床外科C77:30-33,C20227)日本糖尿病学会:周術期管理の実際.糖尿病専門医研修ガイドブック第C8版,p411-414,C20208)ParkCJC,CRamasamyCB,CShawCSCetal:ACprospectveCandCnationwideCstudyCinvestingCendoophthalmitisCfollowingCparsplanaCvitrctomy:incidenceCandCriskCfactors.CBrJOphthalmolC98:529-533,C2014***(85)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C451

Soemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1054.1059,2017cSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例福武慈坂上悠太栂野哲哉五十嵐遼子長谷部日福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野TwoCasesofSecondaryAngleClosurewithSoemmerring’sRingMegumiFukutake,YutaSakaue,TetsuyaTogano,RyoukoIkarashi,HirumaHasebeandTakeoFukuchiDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversitySoemmerring輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.症例1は78歳,男性.10年前に両眼に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を受けた.左眼に浅前房と眼圧上昇(25mmHg)を生じ,細隙灯顕微鏡検査,および超音波生体顕微鏡(以下,UBM)所見から,本症と診断した.Soem-merring輪の手術的除去と周辺部前後.切開術を行い,前房深度は改善,隅角は開大し,眼圧は下降した.症例2は77歳,女性.11年前に左眼にPEA+IOLを受けた.左眼霧視と頭痛を主訴に受診した.左眼眼圧は77mmHgで浅前房と全周に周辺虹彩前癒着を認めた.同様に細隙灯顕微鏡検査,UBM所見から本症と診断し,Soemmerring輪の手術的除去と隅角癒着解離術を行った.術後,前房深度は改善し,眼圧は下降した.結論:まれではあるがPEA+IOL後の長期合併症の一つとしてSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症がある.本症にはさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性が考えられる.診断にはUBMが有用で,正確に本症と診断された場合には,Soemmerring輪を手術的に除去することで眼内レンズを温存したまま治療できる可能性がある.Purpose:ToreporttwocasesofsecondaryangleclosurewithSoemmerring’sring.Case1:A78-year-oldmalehadshallowanteriorchamberandintraocularpressureof25mmHginhislefteye.Hehadahistoryofcata-ractphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)inbotheyes10yearsbefore.Despitetopicalantiglaucomamedications,theshallowanteriorchamberremained.Ultrasoundbiomicroscopy(UBM)showedlensmaterialsroundlybehindtheirisinthelefteye.WediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclo-sureandperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringande.ectperipheralcapsulotomy.Aportionofthematerialsremained,buttheanteriorchamberbecamedeeperandtheanglewasopened.Case2:A77-year-oldfemalehadahistoryofPEA+IOLinherlefteye11yearspreviously.Shehadblurredvisionandheadache.Herlefteyehadshallowanteriorchamber,totalperipheralanteriorsynechiaandelevatedintraocularpressureof77mmHgdespitetopical,oralandintravenoustreatment.UBMshowedlensmaterialsroundlybehindtheiris;wediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclosure.WeperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringandcarryoutgoniosynechiolysisforaportionoftheangle.Theanteriorchamberbecamedeeperandtheintraocularpressuredecreasedto12mmHg.Conclusions:SecondaryangleclosurewithSoemmerring’sringmayoccurbydi.erentmechanismsinrespectivecases.UBMisveryusefulindiagnosingit.SurgicalremovalofSoemmering’sringmaterialscanresolvesecondaryangleclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1054.1059,2017〕Keywords:白内障手術術後合併症,後発白内障,Soemmerring輪,超音波生体顕微鏡,続発閉塞隅角症,眼内レンズ.complicationofcataractsurgery,aftercataract,Soemmerring’sring,ultrasoundbiomicroscopy(UBM),sec-ondaryangleclosure,intraocularlens.〔別刷請求先〕福武慈:〒951-8510新潟県新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:MegumiFukutake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidoori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN1054(138)bはじめに白内障手術後の後発白内障は,残存した水晶体上皮細胞が増殖・分化して生じる.病型として,Soemmerring輪,Elschnigpearls,前.切開縁を中心に生じる線維性混濁,液状物が眼内レンズと後.の間に貯留する液状後発白内障がある1.5).このうちSoemmerring輪は,水晶体.周辺部の前後.が接着し房水から遮断された閉鎖腔内で,赤道部に存在する水晶体上皮細胞が増殖したものである2,5).閉鎖腔内での上皮細胞増殖が容量を超えると,接着部分がはずれ,後.に沿って上皮細胞が遊走し,Elschnigpearlsを形成するといわれている1,3,5).Soemmerring輪に伴う合併症として.内固定した眼内レンズの亜脱臼6,7),.外固定した眼内レンズの偏位8),人工無水晶体眼での瞳孔まで及ぶ増殖による視力低下9),続発閉塞隅角症10.12)の報告がある.今回,筆者らはSoemmerring輪に伴って発症したと考えられる続発閉塞隅角症の2例を経験した.これらの症例から,本症の診断と治療,隅角閉塞メカニズムについて知見を得たので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:なし.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:急性膵炎,高血圧.2002年(68歳)左眼,2003年(69歳)右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL).挿入眼内レンズは,左眼AMOSI40NB20.5D,右眼AMOCLRFLXB22.0D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2012年11月に近医を受診した際に,左眼が浅前房であり眼圧は25mmHgと上昇していた.タフルプロスト,0.5%チモロールマレイン酸塩による点眼治療を開始し眼圧は下降したが,浅前房が改善しないため12月に当科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.2(n.c.),眼圧は右眼11mmHg,左眼17mmHg(Goldmann圧平眼圧計:GAT)であった.左眼の前房は右眼に比べとくに周辺が浅く,炎症所見はなく角膜清明であった(図1a).左眼眼内レンズは前方に偏位し,前.と虹彩後面が接触していた.後.は眼内レンズのすぐ後方にあり,液性後発白内障の所見はなかった.また,後.と前部硝子体膜の間にはスペースがあった.眼内レンズの前方偏位はあるものの,硝子体後方への房水流入,aqueousmisdirectionを示す明らかな所見はなかった.隅角鏡検査では左眼の上方10.1時,下方5.8時,全体では半周に相当する範囲に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では,中心前房深度は右眼3.2mm,左眼2.4mmで,左眼の眼内レンズは前方に偏位していた(図1b).眼軸長は右眼22.3mm,左眼22.1mmであった.後日精査目的に入院のうえ,散瞳診察を行った.散瞳は不良であったが,視神経乳頭陥凹拡大はなく,検眼鏡的に確認できる範囲で眼底に異常所見はなかった.Humphrey静的視野検査では緑内障性視野異常はなかった.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)では,水晶体.周辺部に全周にわたって高輝度の充実性組織があり,虹彩根部を前方に圧排して図1症例1:左眼a:初診時前眼部写真.右眼に比べ浅前房であった.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は2.4mmで眼内レンズの前方偏位と虹彩接触がみられる.c:術後前眼部写真.術前に比べ,前房は深化した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.5mmと改善した.6時ab図2症例1:左眼UBMa:術前UBM.プラトー虹彩様に虹彩根部が前方へ偏位し隅角閉塞をきたしている.虹彩後方には全周性に高輝度の充実組織を認め,Soemmerring輪と考えられる.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に輝度や容積は低下し,虹彩根部への圧排所見や水晶体.前方偏位は改善している.図3症例1:手術所見散瞳不良だったため虹彩リトラクターで術野を確保した.水晶体.内にSoemmerring輪を確認した.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどで掻爬,水流で洗い流した.その後レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作った.虹彩根部は隆起していて隅角は確認できなかった.いて,Soemmerring輪と考えられた(図2a).虹彩の前方弯曲や,毛様体突起の扁平化は認めなかった.経過:Soemmering輪が本症の発症に関与していると考え,除去することを目的に観血的治療を行った.散瞳不良のため虹彩リトラクターで瞳孔を拡大すると,虹彩後方に全周性にSoemmering輪を認めた.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどを用いて掻把し,軟化した組織を水流によって除去した(図3).全周の4分の3程度の組織を除去できた.眼内レンズの前方偏位から,房水が眼内レンズより後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じている可能性を否定できないと考え,レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作って手術を終了した.術翌日から前房は深くなり(図1c),前眼部OCTで中心前房深度は3.5mmと改善,隅角は開大した(図1d).UBMでは,充実性組織は残存するものの,全周で容積は低下し,虹彩根部の前方圧排所見は改善するとともに隅角は開大していた(図2b).その後の眼圧は11.14mmHgで経過し,再発はない.〔症例2〕77歳,女性.主訴:左眼の霧視,眼痛,頭痛.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:心房細動でピルジカイニド塩酸塩水和物を内服している.2002年(66歳)左眼PEA+IOL.挿入眼内レンズは,AMOSI40NB23.5D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2013年11月に左眼霧視と頭痛を主訴に近医眼科を受診した.左眼眼圧は66mmHgで,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド内服,ドルゾラミド・チモロール,ピロカルピン塩酸塩点眼によっても,翌日も77mmHgと改善がみられないため,紹介され当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.8p(n.c.),左眼0.06(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼77mmHg(GAT)であった.左眼b図4症例2:左眼a:初診時前眼部写真.浅前房,角膜浮腫,眼内レンズ前方偏位がみられる.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は1.6mmで眼内レンズは前方偏位している.c:術後前眼部写真.前房は深化し,角膜浮腫も改善した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.0mmとなった.ab図5症例2:左眼UBMa:初診時UBM.虹彩後方に全周性にSoemmerring輪を認め,虹彩根部を圧排し隅角閉塞をきたしている.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に容積は低下し,虹彩根部への圧排は改善している.前房は著しく浅く,角膜は浮腫状で,眼内レンズは前方に偏鼻側の充実性組織は大きかったため,灌流・吸引(I/A)ハ位していた(図4a).隅角鏡検査では右眼はappositionalンドピースを用いて.内から摘出した.その直後に前房が深closureで,低いPASが5カ所あり,左眼は全周のPASが化した.視認性不良であり嘔気が強かったため,上方,下方あった.前眼部OCTでは中心前房深度は右眼1.7mm,左の可能な範囲のみ隅角癒着解離術を行った.術後,隅角鏡検眼1.6mmで左眼の眼内レンズは前方偏位していた(図4b).査で左眼PASは10.2時方向は残存したが半周以下となっ眼軸長は右眼21.9mm,左眼22.0mmであった.UBMではた.前房深度は3.0mmとなり(図4c,d),UBMでは充実水晶体.周辺部の高輝度の充実性組織,Soemmerring輪が性組織の容積は低下し,隅角は開大していた(図5b).その全周に虹彩に接し,虹彩根部を圧排していた(図5a).虹彩後の左眼矯正視力は1.2,左眼眼圧は12.14mmHgで経過の前方弯曲や毛様体突起の扁平化は認めなかった.し再発はない.右眼は原発閉塞隅角症と診断し,後日PEA経過:受診当日に水流によるSoemmering輪除去を行っ+IOLを行い前房は深化した.た.散瞳不良のため虹彩リトラクターを留置した.上方からII考按今回,筆者らはSoemmering輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.この2例の隅角閉塞のメカニズムとしては,全周にみられたSoemmering輪が後方から虹彩根部を圧排し,直接,隅角を閉塞したことが主体と考えられた.治療として手術的にSoemmering輪を除去すること,少なくとも容積を減らすことが有効と考え,水晶体.を開放し,水流による灌流とスパーテルなどによる掻爬といった比較的容易な方法によって,眼内レンズを温存したまま,病態を改善させることができた.これまでにもSoemmering輪によって生じた閉塞隅角緑内障の報告10.12)が,いくつかみられる.Kobayashiら10)は,3年前に両眼にPEA+IOL,1年前に右眼にNd:YAGレーザー後.切開術を受け,右眼に発症した本症に対し,レーザー虹彩切開術,さらにその切開部からNd:YAGレーザーを照射してSoemmerring輪を破砕し改善した1例を報告した.松山ら11)は,10年以上前に両眼白内障手術を受け,右眼に発症した本症に対し硝子体切除術を行ったが改善せず,Soemmerring輪を眼内レンズ,水晶体.ごと摘出することによって改善した1例を報告した.また,Kungら12)は,両眼PEA+IOLを受け,9年後に左眼に発症した本症に対しレーザー虹彩切開術を施行したものの,2年後に眼圧上昇とSoemmerring輪の増大を認め,保存的治療で眼圧が改善した1例を報告している.Soemmerring輪を伴う眼圧上昇には開放隅角の症例報告13)もある.白内障手術後に眼圧上昇をきたした症例で,細隙灯顕微鏡検査で閉塞隅角を疑った場合には,隅角鏡検査,UBM,前眼部OCTを施行し,PAS,虹彩の形態異常,毛様体の形態異常,虹彩後方の腫瘤性病変,眼内レンズの位置異常などがないか観察を行う.本症をきたす鑑別疾患として,瞳孔ブロック,眼内レンズ脱臼などによる水晶体ブロック,毛様体ブロック,脈絡膜出血,毛様体脈絡膜滲出,PASをきたすような血管新生緑内障,ぶどう膜炎などがある.UBMは,前眼部OCTに比べ,より虹彩後方を全周に観察することが可能で,閉塞隅角の鑑別に有用である.本症は全周性に虹彩後方に水晶体組織を疑う充実性組織を認めることから,UBMを用いれば診断は比較的容易であると考える.本症例では,虹彩はプラトー虹彩様に根部が前方へ偏位して隅角と接していた.虹彩根部の後方,つまり水晶体.周辺部には全周性にSoemmerring輪があり,これが虹彩を圧排していると考えられた.一方,眼内レンズと水晶体.が前方に移動していた点について,房水が眼内レンズよりも後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じていた可能性があり,症例1ではその可能性を考慮し前後.の穿破を行った.しかし両症例ともUBMでは毛様体突起の扁平化はみられず,症例1では細隙灯顕微鏡検査で水晶体後.と前部硝子体膜との間に十分なスペースが保たれていたことから,房水が硝子体後方へ回りこみ硝子体が前方移動することにより生じる毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えた.また,症例2では前後.の穿破をせずにSoemmerring輪の摘出のみで眼内レンズ前方偏位が改善したことからも,毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えられる.また,UBMではSoemmerring輪と毛様体が接する所見もみられ,Soemmer-ring輪の赤道方向への増殖により毛様体とSoemmerring輪間での房水通過障害が生じる可能性もあるかもしれないが,本症例では近接するものの全周性の接触はなく,やはり本症の主体ではないと考えた.また,いずれも虹彩の前方弯曲はないことから瞳孔ブロックの所見はなく,毛様体.胞や腫瘍性病変,脈絡膜出血,脈絡膜滲出などの所見,PASをきたす新生血管,ぶどう膜炎などの所見はなかった.以上から,少なくともこの2症例における浅前房と隅角閉塞のメカニズムとしては,Soemmerring輪が全周で増大したことによって虹彩根部が前方に偏位し,直接的に隅角を閉塞したことが主体ではないかと考えた.一方,いずれの症例もUBMでSoemmerring輪が全周性に虹彩後方に近接または接していることから,Soemmer-ring輪・虹彩間で房水の通過障害をきたした可能性も考えられる.それにより眼内レンズ後方へのaqueousmisdirec-tionが生じて房水が貯留し,これらが一塊として前方へ偏位していた可能性も考えられた.既報における本症のメカニズムとしては以下が推測されている.Kobayashiら10)は,虹彩の前方弯曲を伴うことから瞳孔ブロックが主因としているが,瞳孔ブロックに効果的なレーザー虹彩切開術のみでは治癒しなかったことは,Soem-merring輪の存在自体が房水の前房への流れを妨げていた可能性があるとしている.松山ら11)は,虹彩根部の圧迫による直接的な隅角閉塞とともに,Soemmerring輪により水晶体.と毛様体の間隙が狭小化しているところに毛様体の前方移動が合併して毛様体ブロックが生じた可能性を示している.UBMでは毛様体の前方移動は認めているが,毛様体扁平化は認めておらず,硝子体腔と前後房の圧較差は高度でない可能性と,毛様体扁平化の所見はなくともaqueousmisdi-rectionの関与する可能性を指摘している.治療としては毛様体ブロックを考慮し,硝子体切除術を行ったが所見の改善が得られず,Soemmerring輪を眼内レンズとともに水晶体.ごと摘出する再手術を行い,改善を得ている.Kungらの報告12)では,虹彩の前方弯曲や眼内レンズの位置異常は認めていない.眼圧は正常であるが,PASが210°あり,UBMで同部位に一致して虹彩後方のSoemmerring輪を認めている.予防的にレーザー虹彩切開術を行っているが2年後に眼圧上昇,全周のPASをきたしていることから,レーザー虹彩切開術では再発の可能性がある.以上から考えると,Soemmerring輪の拡大に伴って,瞳孔ブロック,虹彩根部の後方からの圧排による直接閉塞,毛様体ブロックなど,症例ごとにさまざまなメカニズムによって閉塞隅角が生ずる可能性があり,また混在している可能性を考えることが必要である.したがって,本症に対する治療は,個々の症例におけるメカニズムの差を考慮して選択されることが必要と考えられる.しかし,本症ではSoemmerring輪の容積が増大することが,いずれのメカニズムにもかかわっていると考えられることから,もっとも有効な治療方法はSoemmerring輪を除去,少なくとも容積を減らすことである.一方,今回の2症例ではいずれも眼内レンズと水晶体.は温存されており,Soemmerring輪も容積は減少したとはいえ残存している.水晶体上皮細胞が増殖することで再度,容積が増大し,本症が再発する可能性はあり,今後も慎重に経過観察することが必要である.Soemmering輪を伴う続発閉塞隅角症の2例を報告した.まれではあるが,通常に行われているPEA+IOLであっても,長期経過後に浅前房と閉塞隅角を発症した場合には,本症の可能性を考慮することが必要である.Soemmering輪の容積が増大することが本症の主因と考えられるが,付随してさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性がある.細隙顕微鏡検査による所見とともに,前眼部OCT,UBMといった画像解析装置による詳細な観察が,各症例におけるメカニズムの判定と治療方法の選択に有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)黒坂大次郎:後発白内障(総説).日眼会誌115:659-671,20112)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:TheringofSoemmerringinman:anultrastructuralstudy.GraefesArchClinExpOphthalmol225:77-83,19873)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:Anultra-structuralstudyofElschnig’spearlsinthepseudophakiceye.AmJOphthalmol101:58-69,19864)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Lique.edaftercataract:acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.AmJOphthalmol125:429-435,19985)綾木雅彦,邱信男:眼内レンズ挿入家兎眼にみられる後発白内障の病理組織学的研究.日眼会誌94:514-515,19906)LiuE,ColeS,WernerLetal:Pathologicevidenceofpseudoexfoliationincasesofin-the-bagintraocularlenssubluxationordislocateion.JCataractRefractSurg41:929-935,20157)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20088)矢船伊那子,植木麻里,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20079)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.IntOphthalmol34:121-124,201310)KobayashiH,HiroseM,KobayashiK:Ultrasoundbiomi-croscopicanalysisofpseudophakicpupillaryblockglauco-mainducedbySoemmering’sring.BrJOphthalmol84:1142-1146,200011)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmering輪による続発閉塞隅角緑内障の1例.あたらしい眼科27:1603-1606,201012)KungY,ParkSC,LiebmannJMetal:Progressivesyn-echialangleclosurefromanenlargingSoemmeringring.ArchOphthalmol129:1631-1632,201113)石澤聡子,黒岩真友美,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたSoemmering輪を伴う液性後発白内障の1例.眼臨紀8:657-660,2015***

術後囊内残存粘弾性物質と前囊収縮・後発白内障

2014年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(2):277.280,2014c術後.内残存粘弾性物質と前.収縮・後発白内障松島博之向井公一郎勝木陽子綿引聡寺内渉永田万由美後藤憲仁青瀬雅資妹尾正獨協医科大学眼科学教室EffectofRemnantOphthalmicViscoelasticDeviceonAnteriorCapsuleContractionandPosteriorCapsularOpacificationHiroyukiMatsushima,KoichiroMukai,YokoKatsuki,SatoshiWatabiki,WataruTerauchi,MayumiNagata,NorihitoGotoh,MasamotoAoseandTadashiSenooDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity白内障手術後.内に残存した粘弾性物質が,前.収縮,後発白内障の発生に関与するか実験的に検討した.日本白色家兎を5羽用意し,全身麻酔後白内障手術を施行した.片眼は粘弾性物質を使用して.内に眼内レンズ(IOL)を挿入後,I/Aを使用して粘弾性物質を完全に吸引除去し,僚眼はIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像を撮影し,後発白内障は術後3週で眼球を摘出し組織学的に解析した.結果,粘弾性物質残存群では前.収縮と後発白内障が統計学的有意に進行した.前.収縮と後発白内障の抑制に術中粘弾性物質を十分に除去し,術後早期より水晶体.とIOLの接着を進めることが重要である.Theaimofthisstudywastoexaminetheeffectsonanteriorcapsulecontractionandposteriorcapsularopacification(PCO)ofleavingtheophthalmicviscoelasticdevice(OVD)inthecapsule.Fivejapanesealbinorabbitswereprepared;aftertheindicationofgeneralanesthesia,phacoemulsificationandaspirationwereperformed.Inoneeye,anintraocularlens(IOL)wasimplantedandtheOVDwasaspirated;inthefelloweye,theOVDwasaspiratedfromtheanteriorchamberonly,notfromthecapsule.Tocompareanteriorcapsulecontraction,diaphanoscopicimagesoftheanterioreyeweretakenat1and3weeksaftersurgeryandquantified.Eyeswereremovedinpostoperativeweek3andhistologicallystudiedtoevaluatePCO.AnteriorcapsulecontractionandPCOhadprogressedsignificantlyintheremnantOVDgroupbypostoperativeweek3.OurresultssuggesttheimportanceofadhesionbetweenlenscapsuleandIOLininhibitinganteriorcapsulecontractionandPCO.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(2):277.280,2014〕Keywords:前.収縮,後発白内障,粘弾性物質,水晶体.,.屈曲.anteriorcapsulecontraction,posteriorcapsularopacification(PCO),ophthalmicviscoelasticdevice(OVD),lenscapsule,capsularbendformation.はじめに前.収縮,後発白内障は主要な白内障術後合併症である.光学部エッジ形状がシャープな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を水晶体.内に挿入すると,創傷治癒過程に水晶体.とIOLが接着し.屈曲を形成し,後発白内障の発生を抑制することが知られている1.4).また,水晶体.とIOLが早期に接着するようIOLの表面を改質すると,前.収縮と後発白内障の発生を抑制できる5.8).したがって,術後にIOLと水晶体.の接着を促し,術後早期に.屈曲を形成することが前.収縮と後発白内障発生抑制に重要であると考えられる.他方,白内障手術時に使用する粘弾性物質は,安全に手術を施行するために重要であるが,.内に満たされた粘弾性物質をすべて除去することは困難で術後水晶体.内に残存することがあり9),IOLと.の接着への影響が懸念される.今回,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残存させ,術後早期のIOLと水晶体.の接着を抑制したとき,前〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiMatsushima,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga,Tochigi321-0293,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(117)277 a:コントロール群b:.内粘弾性物質残存群図1実験方法概要a:右眼はIOLを.内に挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロールとした.b:左眼はビスコートRを.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内の粘弾性物質は残存させた.ab図2前.切開窓面積解析(a)と後発白内障解析(b)a:前.収縮を定量化するために,眼内レンズ光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した.b:後発白内障の定量には,組織切片を作製し,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測して平均値を算出し比較した..収縮と後発白内障の発生にどのように影響するか実験的に検証した.I方法日本白色家兎5羽(体重約2.5kg)を用意した.家兎実験に関しては,実験動物の飼養および保管に対する基準(NationalInstitutesofHealthGuideforontheCareandUseofLaboratoryAnimalsinResearchおよびARVOStatementfortheUseofAnimalsinOphthalmicandVisualResearch)に基づいて行った.家兎をケタラールR(塩酸ケタミン:三共)7対セラクタールR(キシラジン塩酸塩:バイエル)1混合液を体重1ml/kgの割合で大腿部に筋肉注射することで全身麻酔した.約5mmのcontinuouscircularcapsulorhexis(CCC)を行い,超音波乳化吸引術(UniversalII,Alcon)を施行し,インジェクターを使用して疎水性アクリルIOL(VA-60BBR,HOYA)を挿入した.片眼は粘弾性物質(オペガンハイR,参天)を使用して.内にIOLを挿入後,I/Aを使用して.内および前房中の粘弾性物質を完全に吸引除去し,コントロール群とした(図1a).僚眼は残存しやすいビスコートR(Alcon)10)を.内,オペガンハイRを前房に注入しIOLを.内に挿入後,.内の粘弾性物質は残存させて前房中の粘弾性物質のみ吸引除去し,.内粘弾性物質残存群とした(図1b).術後ステロイド,抗生物質,非ステロイド系消炎薬の点眼を実験経過中1日2回継続した.前.収縮を比較するために,術後1週間,3週間に前眼部徹照像(EAS-1000,NIDEK)を撮影した.前.収縮を定量化するために,IOL光学部面積(28.26mm2)を100%とした比率から前.切開窓面積を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2a).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.後発白内障の程度を組織学的に解析するため,術後3週で眼球を摘出し,カルノア固定(無水エタノール6,クロロホル3,酢酸1)後,パラフィン切片を作製した.組織切片を作製後,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色し,光学顕微鏡(OLYMPUS,BX-51)にて観察した.撮影した組織写真より,後.中央部に増殖した上皮細胞層の厚さを計測し,平均値を算出した(ScionImage,ScionCorp.,図2b).統計学的解析はunpairedt-検定を使用した.278あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(118) II結果術後前.収縮の結果を図3に示す.コントロール群の前.切開窓面積は術後1週,3週でそれぞれ13.3±2.9,15.7±4.9mm2に対して,.内粘弾性物質残存群ではそれぞれ14.6±4.0,7.3±5.2mm2であり,術後3週で.内粘弾性物質残存群において統計学的有意(p=0.050)に前.収縮が進行した.後発白内障の発生を比較した後.中央部の組織像を図4に示す.コントロール群と比べて後.・IOL接着抑制群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚していて,特に上段の2例で増殖が高度であった.後.中央部の組織厚を定量すると,コトインヒビション)となって後.側へ伸展しにくくなり,後発白内障の発生を抑制できると考えられている.また,.屈曲が生じる速度はIOLによって異なり,疎水性アクリルIOLとシリコーンIOLはPMMA-IOLに比べ.屈曲の形成が速やかに行われる11)ことも知られている.これは,臨床:コントロール群■:.内粘弾性物質残存群*p=0.0502520ントロール群では15.8±3.8μmに対し,.内粘弾性物質残存群では55.5±67.0μmであり統計学的有意(p=0.039)に後発白内障が発生した(図5).III考按前.収縮,後発白内障は現在も主要な白内障術後合併症として知られている.後発白内障の発生を抑制するために,IOL光学部エッジ形状をシャープにすることが重要で,術後水晶体.とIOL光学部エッジが接着すると,.屈曲とよばれる状態が形成される1,2)..屈曲が形成されると,残存した水晶体上皮細胞が増殖してもIOLエッジが障害(コンタク*前.切開窓面積(mm2)0図3前.切開窓面積の比較術後1週では両群に差はないが,術後3週で後.・IOL接着抑制群の前.切開窓面積が統計学的有意に小さく,前.収縮が生じている.1W3W15105200μm50μm200μm50μmコントロール群.内粘弾性物質残存群図4後.中央部の組織像上段が低倍率(Bar=200μm),下段が高倍率(Bar=50μm)の後.中央部組織像を示す.コントロール群と比べて.内粘弾性物質残存群では増殖した水晶体上皮細胞層が肥厚している.特に上段の2例で細胞増殖が高度になっている.(119)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014279 *後.中央部の組織厚(μm)020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039020406080100120140.内粘弾性物質残存群コントロール群*p=0.039として.接着以外にも粘弾性物質残存による炎症なども原因になりうるため,今後は粘弾性物質の種類や量による相違などさらなる解析が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし図5後発白内障の比較後.中央部の組織厚を比較すると.内粘弾性物質残存群のほうが統計学的有意に肥厚している.においてPMMA-IOLに比べ疎水性アクリルIOLやシリコーンIOLのYAGレーザーによる後.切開施行率が低いこと12)と一致しており,IOL光学部のエッジ形状だけでなく,IOL光学部材質による.屈曲の形成速度も後発白内障の発生に影響することがわかる..とIOLが接着するメカニズムについてLinnolaは白内障術後に水晶体上皮細胞を介してIOL後面と後.が接着すること13)を示している.過去に筆者らも,水晶体上皮細胞の接着性を向上させた表面改質IOLを使用すると水晶体.とIOLの接着性が向上し,後発白内障を抑制できること5.7)を示した.さらに,IOLと水晶体.の接着は後発白内障だけでなく前.収縮にも影響することがわかってきている.細胞接着性の低いIOLでは前.収縮が生じやすいデータもあり7,8),IOLが水晶体上皮細胞を介して水晶体.と接着することが前.収縮や後発白内障の抑制に重要であると考えられる.今回筆者らは,手術手技も.の接着に影響すると考えた.粘弾性物質は白内障手術に有効なデバイスであるが,IOL後面に残存した粘弾性物質を吸引除去することは煩雑な操作であり,術後に残存してしまうこともある.今回の実験的検討により,IOL挿入時に使用される粘弾性物質を.内に残すと前.収縮と後発白内障が発生しやすくなることがわかった.組織学的に観察するとIOL後面に水晶体上皮細胞が増殖している様子がわかり,水晶体.内に残存した粘弾性物質により水晶体.とIOLの密着が物理的に妨げられ,水晶体上皮細胞の伸展・増殖が進んだと予測できる.また,後発白内障同様に前.収縮も同様の結果が得られ,術後早期の水晶体.とIOLの接着が後発白内障と前.収縮の抑制に重要であることがわかった.粘弾性物質を残存しても後発白内障の程度が少ない症例もあり,今後粘弾性物質の動態などを検証していく必要があるが,白内障術後合併症である前.収縮,後発白内障を抑制するために,術中に粘弾性物質を.内からできるだけ吸引除去することが必要であると思われた.発生原因280あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014文献1)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:comparisonofeffectsonposteriorcapsularopacification.JpnJOphthalmol40:397-403,19962)NishiO,NishiK:Preventingposteriorcapsuleopacificationbycreatingadiscontinuoussharpbendinthecapsule.JCataractRefractSurg25:521-526,19993)HayashiK,HayashiH,NakaoF:Changesinposteriorcapsuleopacificationafterpoly(methylmethacrylate),silicone,andacrylicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg27:817-824,20014)HollickEJ,SpaltonDJ,UrsellPGetal:Theeffectofpolymethylmethacrylate,silicone,andpolyacrylicintraocularlensesonposteriorcapsularopacification3yearsaftercataractsurgery.Ophthalmology106:49-55,19995)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Activeoxygenprocessingforacrylicintraocularlensestopreventposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg32:1035-1040,20066)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:Preventionofposteriorcapsularopacificationusinground-edgedPMMAIOL.JCataractRefractSurg33:1133-1134,20077)MatsushimaH,IwamotoH,MukaiKetal:PossibilityofpreventingposteriorcapsularopacificationandCCC(continuouscurvilinearcapsulorhexis)contractionbysurfacemodificationofintraocularlenses.ExpertRevMedDevices5:197-207,20088)NagataM,MatsushimaH,MukaiKetal:Comparisonofanteriorcontinuouscurvilinearcapsulorhexis(CCC)contractionbetween5foldableintraocularlensmodels.JCataractRefractSurg34:1495-1498,20089)松浦一貴,三好輝行,吉田博則:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,201310)枝美奈子,松島博之,寺内渉:各種粘弾性物質の前房内滞留性と角膜内皮保護作用.日眼会誌110:31-36,200511)NishiO,NishiK,AkuraJ:Speedofcapsularbendformationattheopticedgeofacrylic,silicone,andpoly(methylmethacrylate)lenses.JCataractRefractSurg28:431437,200212)ChengJW:Efficacyofdifferentintraocularlensmaterialsandopticedgedesignsinpreventingposteriorcapsularopacification:ameta-analysis.AmJOphthalmol143:428-436,200713)LinnolaRJ:Sandwichtheory:Bioactivity-basedexplantationforposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg23:1539-1542,1997(120)

前嚢切開形状と後発白内障

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):689.693,2013c前.切開形状と後発白内障永田万由美松島博之妹尾正獨協医科大学医学部眼科学講座RelationbetweenAnteriorCapsulorrhexisShapeandDevelopmentofPosteriorCapsularOpacificationMayumiNagata,HiroyukiMatsushimaandTadashiSenooDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity目的:前.切開形状と後.混濁程度の検討.対象および方法:対象は当院にて超音波乳化吸引術,眼内レンズ(IOL)挿入術を施行した20例36眼.IOLはNY-60(HOYA社)を使用した.術後1カ月,3カ月,6カ月にEAS1000(NIDEK社)を用いて前眼部徹照像を撮影した.症例を前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っているCC(completecover)群,前.切開縁の一部がIOL光学部外にあるNCC(noncompletecover)群に分類し,瞳孔中央部の後.混濁値を解析した.また,NCC群においてはCC部位とNCC部位に分けて解析を行った.結果:瞳孔中央4mm部の後.混濁値は,NCC群がCC群より大きく,有意差を認めた(p<0.05).NCC群では,NCC部位の後.混濁値がCC部位のそれより有意に大きく(p<0.05),NCC部位から後.混濁が進行していた.結論:後発白内障の抑制には,IOL光学部全周を覆うような前.切開を作製することが重要である.Purpose:Toinvestigatetherelationbetweenofanteriorcapsulorrhexis(AC)shapeandthedevelopmentofposteriorcapsularopacification(PCO)aftercataractsurgery.Methods:Subjectscomprised36eyesthatunderwentphacoemulsificationwithintraocularlens(IOL,NY-60,HOYA)implantation.ImagesweretakenusinganEAS-1000(NIDEK)at1,3and6monthspostoperatively.PatientsweredividedintotheAC-completely-insideIOL-opticgroup(CCgroup),andAC-partially-outside-IOL-opticgroup(NCCgroup).PCOwasquantitativelyanalyzedusingimaginganalysissoftware.IntheNCCgroup,CCandNCCareaswereanalyzedseparatelytodeterminewherePCOoccurred.Results:DevelopmentofPCOinNCCgroupwassignificantlygreaterthanintheCCgroup.AlsointheNCCgroup,PCOintheNCCareawassignificantlygreaterthanintheCCarea;PCOprimarilydevelopedintheNCCarea.Conclusion:TopreventPCO,itisimportanttocreatetheACcompletelywithintheperimeteroftheIOL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):689.693,2013〕Keywords:後発白内障,前.切開,後.混濁の定量,眼内レンズ,超音波乳化吸引術.posteriorcapsularopacification,anteriorcapsulorrhexis,quantificationofposteriorcapsularopacification,intraocularlens,phacoemulsification.はじめに近年,フェイコマシンをはじめとする白内障手術手技や眼内レンズ(IOL)の進歩により,小切開手術が一般的となり,術後早期より良好な視機能が得られるようになった.しかし,術後合併症である後発白内障は,術後数年で発生し,術後視機能を低下させる1).これまでの研究により後発白内障の発生にIOLの材質2),IOLエッジ形状3,4)などが影響することが報告されているが,現在も後発白内障は完全に抑制できていない.また手術手技も後発白内障の発生に関与することが示唆され,continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)がIOLを完全に覆っていないと後発白内障の発生率が上昇することも報告5,6)されているが,そのメカニズムについてはいまだに不明な点も多い.今回筆者らは,前.切開の手技と後発白内障の関連性に着目し,前.切開形状と後.混濁程度および後.混濁の発生部位に着目し解析を行ったので報告する.〔別刷請求先〕永田万由美:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MayumiNagata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga-gun,Tochigi321-0293,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)689 I対象および方法1.対象と分類方法対象は当院にて超音波乳化吸引術およびIOL挿入術を施行した術中・術後全身および眼合併症のない20例36眼(平均年齢72.4±8.3歳)とし,術後レトロスペクティブに解析を行った.IOLは,疎水性アクリル製シングルピースIOLであるNY-60(HOYA社)7)を使用した.手術は熟練した同一術者が施行した.術後1カ月,3カ月,6カ月にScheimpflug画像解析システムEAS-1000(NIDEK社)を用いて,前眼部徹照像を撮影した.撮影画像から,前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っている症例をcompletecover群(以下,CC群:10例18眼),前.切開縁がIOL光学部を覆っているが切開縁の一部がIOL光学部外にある症例をnoncompletecover群(以下,NCC群:10例18眼)の2つの群に分類した(図1).また,NCC群における混濁値を部位別に詳細に解析するために,図1に示すように前.切開縁がIOL光学部を覆っている部位をcompletecover部位(以下,CC部位),前.切開縁がIOL光学部から外れている部位をnoncompletecover部位(以下,NCC部位)とした.2.瞳孔中央部後.混濁度の解析(図2)EAS-1000で撮影した徹照像を解析に用いた.混濁値の解析に,画像解析ソフトScionimage(Scion社)を使用し,瞳孔中央部より直径4mm(256pixels)の範囲を瞳孔中央部後.混濁解析領域とした.まず範囲内から50×50pixel四方の混濁のない任意の5点を選択し,密度平均値を求めて閾値とし,範囲内をthresholdすることで瞳孔中央部後.混濁解析領域を2値化して後.混濁面積を計算した8).CC群,NCC群で混濁値の平均値を算出し,比較した.統計学的検討はunpaired-t検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.CC(completecover)群NCC(noncompletecover)群図1Completecover(CC)群とnoncompletecover(NCC)群点線が前.切開を示す.前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っている症例(CC群)と前.切開縁がIOL光学部を覆っているが切開縁の一部がIOL光学部外にある症例(NCC群)に分類した.NCC群において,前.切開縁がIOL光学部を覆っている部位(▲)をcompletecover(CC)部位,前.切開縁がIOL光学部から外れている部位(△)をnoncompletecover(NCC)部位とした.図2瞳孔中央部後.混濁度の解析瞳孔中央部より直径4mmの範囲を解析領域とした.690あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(112) 3.NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析(図3)前.切開形状の変化が後.混濁形態にどのような影響を及ぼすか解析するために,術後6カ月のNCC群を選び,CC部位とNCC部位の後.混濁領域を部分的に解析した.各部位を部分的に解析するために,瞳孔中央部後.混濁解析よりも解析面積を縮小し,直径2mm(128pixels)として,CC部位とNCC部位各々の混濁値を算出し比較した.統計学的①②①CC②NCC図3NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析NCC群の後.混濁度が高いことから,前.切開が後.混濁形態にどのような影響を及ぼすかCC部位(①)とNCC部位(②)とに分けて,後.混濁領域を部分的に解析した.検討はunpaired-t検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.II結果1.瞳孔中央部後.混濁度の解析CC群の瞳孔中央部後.混濁値は術後1,3,6カ月でそれぞれ5,687±2,082,6,456±2,731,7,279±2,373pixel,同時期のNCC群の瞳孔中央部後.混濁値は8,730±1,966,10,323±2,595,11,581±2,982pixelであった.2群とも後.混濁値は経時的に増加していたが,すべての時期でNCC群がCC群より大きい傾向にあり,有意差を認めた(表1).2.NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析NCC群におけるCC部位とNCC部位の混濁程度を比較すると,肉眼的にNCC部位の混濁領域が明らかに多い(図4).実際に混濁値を算出すると,CC部位の部位別後.混濁値は術後6カ月で3,970±508pixel,NCC部位の部位別後.混濁値は4,893±1,272pixelであり,CC部位に比べてNCC部位での混濁値が有意に大きかった(表2).表1瞳孔中央部後.混濁値の解析結果術後1カ月術後3カ月術後6カ月CC群5,687±2,0826,456±2,7317,279±2,373NCC群8,730±1,966*10,322±2,595*11,581±2,982**p<0.05.pixel.表2前.切開部位別後.混濁度の解析結果CC部位NCC部位術後6カ月3,970±5084,892±1,272**p<0.05.pixel.②①②①②①①CC②NCC①CC②NCC①CC②NCC図4前.切開部位別後.混濁解析結果(代表3症例)すべての症例においてCC部位(①)に比べて,NCC部位(②)の黒色領域が多く,後.混濁が高い.(113)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013691 CC部位NCC部位図5仮説:どうしてNCC部位で後.混濁が進行するかCC部位では前.切開縁がIOL前面を覆うことで水晶体.がIOLエッジ部分を包み込み,.屈曲が形成されてシャープエッジの効果が発生するが,NCC部位では前.切開縁がIOL前面を覆うことができないために.屈曲を形成することができない.そのためコンタクトインヒビションが機能せず,シャープエッジでも水晶体上皮細胞が後.へ伸展しやすく,後.混濁が進行する.III考按後発白内障は,白内障術後に水晶体.内に残存した水晶体上皮細胞(LEC)が術後創傷治癒反応によって放出されたサイトカインにより細胞増殖,および線維化生することにより生じ9),術後視力低下の原因となる白内障術後合併症である.後発白内障の発生にはIOL素材や形状が関連し,アクリル素材のIOL2,10,11)やシャープエッジ形状のIOLは後発白内障の発生が少ないことが知られている3,4).光学部エッジ形状がシャープであると,術後に水晶体.が収縮し創傷治癒が形成される過程で水晶体.がIOL光学部のエッジで.屈曲を作製する.この.屈曲部によりコンタクトインヒビションが生じて,水晶体.周辺部に残存したLECが後.側に伸展するのを防ぐために後発白内障の発生が減少すると考えられている.他方,スリーピース形状のIOLのほうがシングルピース形状のIOLよりも後発白内障が少ないと考えられている.筆者らは,シングルピース形状では支持部が厚いために,支持部と光学部の付着部位では,シャープエッジ形状を形成できないためにこの部位から後発白内障が始まることを同様の画像解析方法を用いて報告した12).IOL素材や形状が後発白内障の発生に関与するように,手術手技も後発白内障と密接な関連がある可能性がある.今回筆者らは,白内障手術時の前.切開形状と後発白内障発生に着目し,解析を行った.白内障手術手技と後発白内障発生に着目した過去の報告では,can-openercapsulotomyで前.切開を行うよりも,continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)で前.切開を行うほうが後発白内障の発生が少なくなるとしている13).近年の白内障手術ではCCCが主流となっているが,CCCが大きすぎたり中心から外れたりすると,前.が部分的にIOLを覆うことができない部位が生じて.屈曲の形成が不十分となり,後発白内障が進行する5,6).しかし,そのメカニズムに関してはまだ完全に明らかにされていない.筆者らはCCCが不完全な場合にどの部位から後.混濁が進行するかという点に着目した.まずCC群とNCC群を比較すると過去の報告同様にCC群に比べNCC群において後.混濁値は有意に大きくなった.後.混濁値が高値であったNCC群においてさらに部位別に混濁形状を解析したところ,NCC部位の後.混濁が明らかに進行していることが肉眼的に確認できた.混濁値を算出するとCC部位に比べてNCC部位で混濁値は有意に大きくなり,前.切開がIOL光学部を全周覆わなくなった場合,覆っていない部分より後.混濁が進行することがわかった.今回の結果から,前.切開がIOL光学部を全周覆わなくなると,前.切開が覆っていない光学部位では支えとなる前.がないためにIOLを水晶体.で挟み込むことができず,シャープエッジであっても.屈曲を形成することができないために,この部位から後.混濁が進行していくことが推察できた(図5).後発白内障を抑制するためには,IOLの素材や形状に着目するだけでなく,丁寧な手術手技を行うことでIOL光学部全周を覆うような適切な大きさの前.切開を作製することが重要である.文献1)SchaumbergDA,DanaMR,ChristenWGetal:Asystematicoverviewoftheincidenceofposteriorcapsuleopacification.Ophthalmology105:1213-1221,19982)ChengJW,WeiRL,CaiJIetal:Efficacyofdifferentintraocularlensmaterialsandopticedgedesignsinpreventingposteriorcapsularopacification:ameta-analysis.AmJOphthalmol143:428-436,20073)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:Comparisonofeffectsonposteriorcapsularopacification.JpnJOphthalmol40:397-403,1996692あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(114) 4)NishiO,NishiK:Preventingposteriorcapsuleopacificationbycreatingadiscontinuoussharpbendinthecapsule.JCataractRefractSurg25:521-526,19995)永本敏之:アクリルFoldable眼内レンズの最新情報.あたらしい眼科20:577-583,20036)WejdeG,KugelbergM,ZetterstormC:Positionofanteriorcapsulorrhexisandposteriorcapsuleopacification.ActaOphthalmolScand82:531-534,20047)松島博之:シングルピースIOLTECNIS1-PieceとiMics1.IOL&RS24:118-121,20108)吉田紳一郎,吉田登茂子,松島博之ほか:新しい後発白内障解析システムを用いた後.混濁の評価.あたらしい眼科21:661-666,20049)MeacockWR,SpaltonDJ,StanfordMR:Roleofcytokinesinthepathogenesisofposteriorcapsuleopacification.BrJOphthalmol84:332-336,200010)NagataT,MinakataA,WatanabeI:AdhesivenessofAcrySoftocollagenfilm.JCataractRefractSurg24:367370,199811)OshikaT,NagataT,IshiiY:Adhesionoflenscapsuletointraocularlensesofpolymethylmethacrylate,silicone,andacrylicfoldablematerials:anexperimentalstudy.BrJOphthalmol82:549-553,199812)永田万由美,松島博之,寺内渉ほか:眼内レンズ形状が後.混濁に及ぼす影響.IOL&RS24:79-83,201013)BrinciH,KuruogluS,OgeIetal:Effectofintraocularlensandanteriorcapsuleopeningtypeonposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg25:1140-1146,1999***(115)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013693