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前嚢切開形状と後発白内障

2013年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科30(5):689.693,2013c前.切開形状と後発白内障永田万由美松島博之妹尾正獨協医科大学医学部眼科学講座RelationbetweenAnteriorCapsulorrhexisShapeandDevelopmentofPosteriorCapsularOpacificationMayumiNagata,HiroyukiMatsushimaandTadashiSenooDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity目的:前.切開形状と後.混濁程度の検討.対象および方法:対象は当院にて超音波乳化吸引術,眼内レンズ(IOL)挿入術を施行した20例36眼.IOLはNY-60(HOYA社)を使用した.術後1カ月,3カ月,6カ月にEAS1000(NIDEK社)を用いて前眼部徹照像を撮影した.症例を前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っているCC(completecover)群,前.切開縁の一部がIOL光学部外にあるNCC(noncompletecover)群に分類し,瞳孔中央部の後.混濁値を解析した.また,NCC群においてはCC部位とNCC部位に分けて解析を行った.結果:瞳孔中央4mm部の後.混濁値は,NCC群がCC群より大きく,有意差を認めた(p<0.05).NCC群では,NCC部位の後.混濁値がCC部位のそれより有意に大きく(p<0.05),NCC部位から後.混濁が進行していた.結論:後発白内障の抑制には,IOL光学部全周を覆うような前.切開を作製することが重要である.Purpose:Toinvestigatetherelationbetweenofanteriorcapsulorrhexis(AC)shapeandthedevelopmentofposteriorcapsularopacification(PCO)aftercataractsurgery.Methods:Subjectscomprised36eyesthatunderwentphacoemulsificationwithintraocularlens(IOL,NY-60,HOYA)implantation.ImagesweretakenusinganEAS-1000(NIDEK)at1,3and6monthspostoperatively.PatientsweredividedintotheAC-completely-insideIOL-opticgroup(CCgroup),andAC-partially-outside-IOL-opticgroup(NCCgroup).PCOwasquantitativelyanalyzedusingimaginganalysissoftware.IntheNCCgroup,CCandNCCareaswereanalyzedseparatelytodeterminewherePCOoccurred.Results:DevelopmentofPCOinNCCgroupwassignificantlygreaterthanintheCCgroup.AlsointheNCCgroup,PCOintheNCCareawassignificantlygreaterthanintheCCarea;PCOprimarilydevelopedintheNCCarea.Conclusion:TopreventPCO,itisimportanttocreatetheACcompletelywithintheperimeteroftheIOL.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(5):689.693,2013〕Keywords:後発白内障,前.切開,後.混濁の定量,眼内レンズ,超音波乳化吸引術.posteriorcapsularopacification,anteriorcapsulorrhexis,quantificationofposteriorcapsularopacification,intraocularlens,phacoemulsification.はじめに近年,フェイコマシンをはじめとする白内障手術手技や眼内レンズ(IOL)の進歩により,小切開手術が一般的となり,術後早期より良好な視機能が得られるようになった.しかし,術後合併症である後発白内障は,術後数年で発生し,術後視機能を低下させる1).これまでの研究により後発白内障の発生にIOLの材質2),IOLエッジ形状3,4)などが影響することが報告されているが,現在も後発白内障は完全に抑制できていない.また手術手技も後発白内障の発生に関与することが示唆され,continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)がIOLを完全に覆っていないと後発白内障の発生率が上昇することも報告5,6)されているが,そのメカニズムについてはいまだに不明な点も多い.今回筆者らは,前.切開の手技と後発白内障の関連性に着目し,前.切開形状と後.混濁程度および後.混濁の発生部位に着目し解析を行ったので報告する.〔別刷請求先〕永田万由美:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MayumiNagata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversity,880Kitakobayashi,Mibu,Shimotsuga-gun,Tochigi321-0293,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)689 I対象および方法1.対象と分類方法対象は当院にて超音波乳化吸引術およびIOL挿入術を施行した術中・術後全身および眼合併症のない20例36眼(平均年齢72.4±8.3歳)とし,術後レトロスペクティブに解析を行った.IOLは,疎水性アクリル製シングルピースIOLであるNY-60(HOYA社)7)を使用した.手術は熟練した同一術者が施行した.術後1カ月,3カ月,6カ月にScheimpflug画像解析システムEAS-1000(NIDEK社)を用いて,前眼部徹照像を撮影した.撮影画像から,前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っている症例をcompletecover群(以下,CC群:10例18眼),前.切開縁がIOL光学部を覆っているが切開縁の一部がIOL光学部外にある症例をnoncompletecover群(以下,NCC群:10例18眼)の2つの群に分類した(図1).また,NCC群における混濁値を部位別に詳細に解析するために,図1に示すように前.切開縁がIOL光学部を覆っている部位をcompletecover部位(以下,CC部位),前.切開縁がIOL光学部から外れている部位をnoncompletecover部位(以下,NCC部位)とした.2.瞳孔中央部後.混濁度の解析(図2)EAS-1000で撮影した徹照像を解析に用いた.混濁値の解析に,画像解析ソフトScionimage(Scion社)を使用し,瞳孔中央部より直径4mm(256pixels)の範囲を瞳孔中央部後.混濁解析領域とした.まず範囲内から50×50pixel四方の混濁のない任意の5点を選択し,密度平均値を求めて閾値とし,範囲内をthresholdすることで瞳孔中央部後.混濁解析領域を2値化して後.混濁面積を計算した8).CC群,NCC群で混濁値の平均値を算出し,比較した.統計学的検討はunpaired-t検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.CC(completecover)群NCC(noncompletecover)群図1Completecover(CC)群とnoncompletecover(NCC)群点線が前.切開を示す.前.切開縁がIOL光学部を全周に覆っている症例(CC群)と前.切開縁がIOL光学部を覆っているが切開縁の一部がIOL光学部外にある症例(NCC群)に分類した.NCC群において,前.切開縁がIOL光学部を覆っている部位(▲)をcompletecover(CC)部位,前.切開縁がIOL光学部から外れている部位(△)をnoncompletecover(NCC)部位とした.図2瞳孔中央部後.混濁度の解析瞳孔中央部より直径4mmの範囲を解析領域とした.690あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(112) 3.NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析(図3)前.切開形状の変化が後.混濁形態にどのような影響を及ぼすか解析するために,術後6カ月のNCC群を選び,CC部位とNCC部位の後.混濁領域を部分的に解析した.各部位を部分的に解析するために,瞳孔中央部後.混濁解析よりも解析面積を縮小し,直径2mm(128pixels)として,CC部位とNCC部位各々の混濁値を算出し比較した.統計学的①②①CC②NCC図3NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析NCC群の後.混濁度が高いことから,前.切開が後.混濁形態にどのような影響を及ぼすかCC部位(①)とNCC部位(②)とに分けて,後.混濁領域を部分的に解析した.検討はunpaired-t検定を用いてp<0.05を有意差ありとした.II結果1.瞳孔中央部後.混濁度の解析CC群の瞳孔中央部後.混濁値は術後1,3,6カ月でそれぞれ5,687±2,082,6,456±2,731,7,279±2,373pixel,同時期のNCC群の瞳孔中央部後.混濁値は8,730±1,966,10,323±2,595,11,581±2,982pixelであった.2群とも後.混濁値は経時的に増加していたが,すべての時期でNCC群がCC群より大きい傾向にあり,有意差を認めた(表1).2.NCC群における前.切開部位別後.混濁度の解析NCC群におけるCC部位とNCC部位の混濁程度を比較すると,肉眼的にNCC部位の混濁領域が明らかに多い(図4).実際に混濁値を算出すると,CC部位の部位別後.混濁値は術後6カ月で3,970±508pixel,NCC部位の部位別後.混濁値は4,893±1,272pixelであり,CC部位に比べてNCC部位での混濁値が有意に大きかった(表2).表1瞳孔中央部後.混濁値の解析結果術後1カ月術後3カ月術後6カ月CC群5,687±2,0826,456±2,7317,279±2,373NCC群8,730±1,966*10,322±2,595*11,581±2,982**p<0.05.pixel.表2前.切開部位別後.混濁度の解析結果CC部位NCC部位術後6カ月3,970±5084,892±1,272**p<0.05.pixel.②①②①②①①CC②NCC①CC②NCC①CC②NCC図4前.切開部位別後.混濁解析結果(代表3症例)すべての症例においてCC部位(①)に比べて,NCC部位(②)の黒色領域が多く,後.混濁が高い.(113)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013691 CC部位NCC部位図5仮説:どうしてNCC部位で後.混濁が進行するかCC部位では前.切開縁がIOL前面を覆うことで水晶体.がIOLエッジ部分を包み込み,.屈曲が形成されてシャープエッジの効果が発生するが,NCC部位では前.切開縁がIOL前面を覆うことができないために.屈曲を形成することができない.そのためコンタクトインヒビションが機能せず,シャープエッジでも水晶体上皮細胞が後.へ伸展しやすく,後.混濁が進行する.III考按後発白内障は,白内障術後に水晶体.内に残存した水晶体上皮細胞(LEC)が術後創傷治癒反応によって放出されたサイトカインにより細胞増殖,および線維化生することにより生じ9),術後視力低下の原因となる白内障術後合併症である.後発白内障の発生にはIOL素材や形状が関連し,アクリル素材のIOL2,10,11)やシャープエッジ形状のIOLは後発白内障の発生が少ないことが知られている3,4).光学部エッジ形状がシャープであると,術後に水晶体.が収縮し創傷治癒が形成される過程で水晶体.がIOL光学部のエッジで.屈曲を作製する.この.屈曲部によりコンタクトインヒビションが生じて,水晶体.周辺部に残存したLECが後.側に伸展するのを防ぐために後発白内障の発生が減少すると考えられている.他方,スリーピース形状のIOLのほうがシングルピース形状のIOLよりも後発白内障が少ないと考えられている.筆者らは,シングルピース形状では支持部が厚いために,支持部と光学部の付着部位では,シャープエッジ形状を形成できないためにこの部位から後発白内障が始まることを同様の画像解析方法を用いて報告した12).IOL素材や形状が後発白内障の発生に関与するように,手術手技も後発白内障と密接な関連がある可能性がある.今回筆者らは,白内障手術時の前.切開形状と後発白内障発生に着目し,解析を行った.白内障手術手技と後発白内障発生に着目した過去の報告では,can-openercapsulotomyで前.切開を行うよりも,continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)で前.切開を行うほうが後発白内障の発生が少なくなるとしている13).近年の白内障手術ではCCCが主流となっているが,CCCが大きすぎたり中心から外れたりすると,前.が部分的にIOLを覆うことができない部位が生じて.屈曲の形成が不十分となり,後発白内障が進行する5,6).しかし,そのメカニズムに関してはまだ完全に明らかにされていない.筆者らはCCCが不完全な場合にどの部位から後.混濁が進行するかという点に着目した.まずCC群とNCC群を比較すると過去の報告同様にCC群に比べNCC群において後.混濁値は有意に大きくなった.後.混濁値が高値であったNCC群においてさらに部位別に混濁形状を解析したところ,NCC部位の後.混濁が明らかに進行していることが肉眼的に確認できた.混濁値を算出するとCC部位に比べてNCC部位で混濁値は有意に大きくなり,前.切開がIOL光学部を全周覆わなくなった場合,覆っていない部分より後.混濁が進行することがわかった.今回の結果から,前.切開がIOL光学部を全周覆わなくなると,前.切開が覆っていない光学部位では支えとなる前.がないためにIOLを水晶体.で挟み込むことができず,シャープエッジであっても.屈曲を形成することができないために,この部位から後.混濁が進行していくことが推察できた(図5).後発白内障を抑制するためには,IOLの素材や形状に着目するだけでなく,丁寧な手術手技を行うことでIOL光学部全周を覆うような適切な大きさの前.切開を作製することが重要である.文献1)SchaumbergDA,DanaMR,ChristenWGetal:Asystematicoverviewoftheincidenceofposteriorcapsuleopacification.Ophthalmology105:1213-1221,19982)ChengJW,WeiRL,CaiJIetal:Efficacyofdifferentintraocularlensmaterialsandopticedgedesignsinpreventingposteriorcapsularopacification:ameta-analysis.AmJOphthalmol143:428-436,20073)NagataT,WatanabeI:Opticsharpedgeorconvexity:Comparisonofeffectsonposteriorcapsularopacification.JpnJOphthalmol40:397-403,1996692あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(114) 4)NishiO,NishiK:Preventingposteriorcapsuleopacificationbycreatingadiscontinuoussharpbendinthecapsule.JCataractRefractSurg25:521-526,19995)永本敏之:アクリルFoldable眼内レンズの最新情報.あたらしい眼科20:577-583,20036)WejdeG,KugelbergM,ZetterstormC:Positionofanteriorcapsulorrhexisandposteriorcapsuleopacification.ActaOphthalmolScand82:531-534,20047)松島博之:シングルピースIOLTECNIS1-PieceとiMics1.IOL&RS24:118-121,20108)吉田紳一郎,吉田登茂子,松島博之ほか:新しい後発白内障解析システムを用いた後.混濁の評価.あたらしい眼科21:661-666,20049)MeacockWR,SpaltonDJ,StanfordMR:Roleofcytokinesinthepathogenesisofposteriorcapsuleopacification.BrJOphthalmol84:332-336,200010)NagataT,MinakataA,WatanabeI:AdhesivenessofAcrySoftocollagenfilm.JCataractRefractSurg24:367370,199811)OshikaT,NagataT,IshiiY:Adhesionoflenscapsuletointraocularlensesofpolymethylmethacrylate,silicone,andacrylicfoldablematerials:anexperimentalstudy.BrJOphthalmol82:549-553,199812)永田万由美,松島博之,寺内渉ほか:眼内レンズ形状が後.混濁に及ぼす影響.IOL&RS24:79-83,201013)BrinciH,KuruogluS,OgeIetal:Effectofintraocularlensandanteriorcapsuleopeningtypeonposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg25:1140-1146,1999***(115)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013693