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シンガポールから日本に一時帰国中に認められたMicrosporidiaによる角膜炎の1例

2020年3月31日 火曜日

《第56回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科37(3):332?335,2020?シンガポールから日本に一時帰国中に認められたMicrosporidiaによる角膜炎の1例鈴木崇*1,2岡野喜一朗*3鈴木厚*1宇田高広*1堀裕一*2*1いしづち眼科*2東邦大学医療センター大森病院眼科*3シンガポールラッフルズジャパニーズクリニック眼科ACaseofMicrosporidialKeratitisObservedinaJapanesePatientDuringaTemporaryReturnTriptoJapanfromSingaporeTakashiSuzuki1,2),KiichiroOkano3),AtsushiSuzuki1),TakahiroUda1)andYuichiHori2)1)IshizuchiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,Ra?esJapaneseClinicMicrosporidia(微胞子虫)による角膜炎は,東南アジアにおいて,土壌などが眼に混入することで発症する角膜炎であるが,わが国での報告は少ない.今回,シンガポールから一時帰国中に受診し,Microsporidiaによる角膜炎と診断できた1例を経験したので報告する.患者はシンガポール在住の11歳の日本人の男児.日本に一時帰国中に左眼の充血,疼痛を自覚し受診した.左眼結膜充血,角膜上皮内の顆粒状浸潤を数個認めた.患児の親から,シンガポールで所属しているサッカーチームでMicrosporidiaによる角膜炎が流行していることを聴取できたことから,本疾患を疑い,角膜擦過を施行した.擦過物の塗抹標本のグラム染色において2?3?mの無染色の卵型像を認めたため,Microsporid-iaによる角膜炎と診断した.抗菌点眼薬を投与し,3日後には改善傾向を確認した.直後にシンガポールに戻ることとなったため,点眼継続を指示した.その後,顆粒状浸潤,充血は消失した.今回,東南アジア在住の日本人の一時帰国中に診断できたMicrosporidiaによる角膜炎を経験した.東南アジアからの旅行者や一時帰国中の邦人などに顆粒状の上皮内浸潤を示す角膜炎を認めた場合,本疾患も考慮する必要がある.InSoutheastAsia,therearereportedcasesofmicrosporidialkeratitis(MK)duetosoilcontamination,yettherehavebeenfewreportsofMKinJapan.HerewereportthecaseofaJapanesepatientinwhomMKwasobservedduringatemporaryreturntriptoJapanfromSingapore.An11-year-oldJapaneseboylivinginSinga-porepresentedatourhospitalwiththeprimarycomplaintofpaininhislefteyeduringatemporaryreturntriptoJapan.Conjunctivalhyperemiainthelefteyeandseveralgranularin?ltrationsinthecornealepitheliumwereobserved.Amedicalinterviewofthesubjectrevealedthatseveralmembersofthehisa?liatedsoccerteaminSin-gaporewerediagnosedandtreatedasMK.SinceMKwassuspected,cornealabrasionwasperformed.TheGramstainofadirectsmearusingcornealscrapingshowed2-3?munstainedovoidimages,sohewasdiagnosedasMK.Hewastreatedwithantibacterialeyedropsandhisconditionappearedtoimprove,andhesubsequentlyreturnedtoSingapore.Afterreturninghome,thegranularin?ltrationandhyperemiadisappeared.WeexperiencedacaseofMKinaJapanesepatientresidinginSoutheast-AsiawhowasdiagnosedduringatemporaryreturntriptoJapan.Ifkeratitiswithgranularintraepithelialin?ltrationisobservedintravelersfromSoutheastAsia,orinJapanesereturningtoJapanfromSoutheastAsia,MKshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(3):332?335,2020〕Keywords:微胞子虫,角膜炎,顆粒状細胞浸潤,塗抹標本,輸入感染症.Microsporidia,keratitis,granularin?ltration,directsmear,importedinfectiousdisease.〔別刷請求先〕鈴木崇:〒792-0811愛媛県新居浜市庄内町1-8-30いしづち眼科Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,Ph.D.,IshizuchiEyeClinic,1-8-30Shonai,Niihama,Ehime792-0811,JAPAN332(84)0910-1810/20/\100/頁/JCOPYはじめにMicrosporidia(微胞子虫)はさまざまな動物や人の細胞内に寄生する単細胞真核生物の真菌に分類されており,胞子は1?40?m程度の卵形をしている.これまでに1,200種以上が知られており,昆虫,甲殻類,魚類,ヒトを含む哺乳類などに感染する病原体が多く含まれている.おもに免疫不全患者に多臓器疾患を引き起こす日和見病原体であるが,免疫正常者への感染報告もある1).一方,Microsporidiaによる角膜炎(microsporidialkeratitis)は健常者においても認められ,インド,シンガポール,台湾において報告されている2?9).Microsporidiaは水・土・家畜・昆虫などを介して人に感染するため,農業従事者,スポーツ選手,温泉利用者での報告例が多い2?9).また,季節の影響もあり,夏に発症頻度が高いといわれている.リスクファクターとして,上記以外にも免疫抑制薬の使用歴,屈折矯正手術があげられる3).臨床所見では軽度?中等度の充血が認められ,角膜像は多発性で斑状の上皮障害から角膜膿瘍までさまざまである.診断には塗抹標本の鏡検が有用といわれている3).培養検査では増殖しないため検出できないが,PCR検査や生体共焦点顕微鏡検査は補助診断として利用されている5,10).日本では現在のところ,2例報告されているのみである11?13).今回,筆者らはシンガポールから一時帰国中に受診し,Microsporid-iaによる角膜炎と診断できた1例を経験したので報告する.I症例患者:11歳,男性.主訴:右眼充血,疼痛.現病歴:シンガポール在住で,サッカーチームに所属しており,土壌が眼に入った既往があった.シンガポールから日本(愛媛県新居浜市)に一時帰国中に左眼の充血,疼痛を自図1初診時細隙灯顕微鏡検査角膜のやや上方に散在する角膜上皮内の顆粒状の細胞浸潤を認める(?).図2初診時細隙灯顕微鏡検査(フルオレセイン染色)細胞浸潤に一致して染色されている(?).図3角膜病巣擦過物の塗抹検査(グラム染色)直径2?3?m卵形の無染色もしくはグラム陽性の卵型像(?)を認める.図4角膜擦過3日後の細隙灯顕微鏡検査顆粒状の細胞浸潤の減少を認める.覚し,いしづち眼科を受診した.患児の母親からシンガポールで所属しているサッカーチーム内でMicrosporidiaによる角膜炎が流行しているということを問診で聴取した.初診時所見:細隙灯顕微鏡検査で軽度の結膜充血に加えて,左眼の角膜上皮内にびまん性に散在する顆粒状の細胞浸潤を認め,細胞浸潤に一致して,フルオレセイン染色像を認めた(図1,2).右眼には異常所見は認めなかった.経過:問診・前眼部所見より,Microsporidiaによる角膜炎を疑い,診断と治療の目的で病巣部角膜擦過を行い,治療用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用を行った.角膜擦過物の塗抹標本を作製し,グラム染色を行い,検鏡を行ったところ,無染色からグラム陽性の直径2?3?m大の卵形の像を認めた(図3).臨床所見と塗抹検査所見よりMicrosporidiaによる角膜炎と診断した.感染予防のため,0.5%モキシフロキサシンを1日4回点眼した.3日後受診時,浸潤病巣は減少していた(図4).SCL装用と点眼を継続し,シンガポールラッフルズジャパニーズクリニック眼科へ紹介した.シンガポールに戻って受診したところ,角膜上皮内の浸潤は消失していたため,SCL装用・点眼は中止した.II考察Microsporidiaによる角膜炎は,非常にまれな角膜炎で,わが国では2例のみ報告されている11?13).1例は,関節リウマチに合併した周辺部角膜潰瘍に対して長期間ステロイドを点眼していた後に,真菌性角膜炎とMicrosporidiaによる角膜炎が合併した症例で,日和見感染が疑われた.臨床所見は,角膜実質内に顆粒状の細胞浸潤を認めたが,抗真菌薬・消毒薬の点眼は効果がなく,表層角膜移植を行った.摘出した角膜を透過型電子顕微鏡で確認したところ,角膜実質内にMicrosporidiaの像を多数認めた12).一方,別の症例では,角膜内皮移植術後に認めた角膜内にクリスタリン様の混濁を呈した症例で,戻し電顕でMicrosporidiaによる角膜炎と診断した13).2症例とも角膜実質内に病変を認めた.海外での報告では,Microsporidiaによる角膜炎の臨床病型には,結膜炎を伴い角膜上皮内に斑状から顆粒状の病変がある上皮型と,角膜実質に細胞浸潤や膿瘍を示す実質型に分けられる.上皮型,実質型とも,結膜充血は軽度から中等度であると報告されている3,9,11).Dasらは,インドにおいて277例のMicrosporidiaによる角膜炎を報告しているが,すべての症例が結膜炎とともに角膜上皮に斑状の上皮欠損を伴う上皮病変であり,診断はcalco?uorwhitestainとグラム染色によって行われていた3).一方,角膜実質炎の病型として発症する症例も存在しているが,円板状角膜実質炎の病型を示している症例が多かった9).本症例では,角膜上皮内に顆粒状の細胞浸潤を認めており,角膜上皮に病変がある上皮型であると考えられる.わが国では,海外でよく報告されているMicrosporidiaによる角膜炎の上皮型は,筆者らが調べた限り,報告例がない.海外では,ラグビーチーム内での発症など,土壌が眼に混入したのちに,上皮型のMicrosporidiaによる角膜炎が発症していることが多い7,8).上皮型の鑑別疾患として,アデノウイルス結膜炎後の角膜上皮下浸潤やThygeson表層点状角膜炎が考えられる.上皮型のmicro-sporidialkeratitisでは,境界明瞭でかつ辺縁が整な小さな円状の細胞浸潤を示すため,アデノウイルス結膜炎後の淡くて境界不明瞭な角膜上皮下浸潤やThygeson表層点状角膜炎における不整形の細胞浸潤とは異なるため,細胞浸潤の状態で鑑別することが重要である.Microsporidialkeratitisの病態については,上皮型は上皮内に病原体が限局している状態で,実質型は病原体が角膜実質まで存在する状態と推測できる.Microsporidiaの増殖スピードがかなり遅いため,上皮型・実質型のいずれも慢性的な炎症を引き起こし,組織融解などの強い障害はないと思われる.近年,アジアでのmicrosporidialkeratitisの報告が増加している.現在,シンガポール,タイなどのアジア諸国に多くの日本人が居住しており,Microsporidiaによる角膜炎に罹患することも考えられる.そのため,アジアの在留日本人が,今回のように一時帰国中に本疾患を呈することも考えられる.さらに,アジアからの訪日外国人も増加しており,輸入感染症としても認められる可能性もあり,日本における本疾患の認知度を上げる必要があると思われる.Microsporidiaによる角膜炎の診断には,海外住居歴,渡航歴,土壌の混入などの問診や特徴的な臨床所見に加えて,角膜擦過物の塗抹標本検査が有用である3).グラム染色では,染色性が不良で,無染色もしくは薄く青(陽性)か赤(陰性)に染まる.また,好酸性染色では真菌は染色されないのにMicrosporidiaは陽性に赤く染まることが特徴である.さらにファンギフローラ染色にも染まるため,カンジダなどの真菌との鑑別が重要であるが,カンジダは大きさが5?mで,菌糸から酵母形を示すが,Microsporidaの形は,卵型で大きさが2?3?mと細菌よりは大きく,カンジダよりは小さい.本症例の塗抹標本の観察では,好酸性染色やファンギフローラ染色は行っていないが,グラム染色で染まらない卵型像を呈し,Microsporidiaの特徴に一致した.本疾患を疑った場合は,積極的に塗抹標本検査を行う必要がある.Microsporidiaによる角膜炎の治療法はいまだに確立されていないのが現状である.軽度な症例の場合,自然治癒もありうると報告されているが2),症例によっては自然治癒しないこともあり,対処療法としては,アカントアメーバ角膜炎同様に擦過除去がもっとも有効といわれている3).薬物治療では,駆虫薬であるアルベンダゾールやイトラコナゾールの全身投与,フルオロキノロン,ボリコナゾール,クロルヘキシジンの局所投与が有効という報告があるが,実際の効果は不明である3).本症例では角膜擦過を行い,所見が消失した.とくに上皮型では,角膜擦過でMicrosporidiaを除去することが重要と思われる.Microsporidialkeratitisにおけるステロイドの使用については一定の見解が得られていないが,炎症自体が慢性的であり,また病原体の存在自体が臨床所見に反映していると思われるため,ステロイドによる所見の改善は少ないと思われる.今回シンガポール在留邦人の一時帰国中に診断できたMicrosporidiaによる角膜炎を経験した.東南アジアからの旅行者や同地域から帰国した邦人などにおいて,土壌の混入などの既往歴に加えて,角膜上皮内の顆粒状の浸潤を示す角膜炎を認めた場合,本疾患も考慮する必要がある.文献1)DidierES,WeissLM:Microsporidiosis:notjustinAIDSpatients.CurrOpinInfectDis24:490-495,20112)SharmaS,DasS,JosephJetal:Microsporidialkerati-tis:needforincreasedawareness.SurvOphthalmol56:1-22,20113)DasS,SharmaS,SahuSKetal:Diagnosis,clinicalfea-turesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratocon-junctivitis.BrJOphthalmol96:793-795,20124)AgasheR,RadhakrishnanN,PradhanSetal:Clinicalanddemographicstudyofmicrosporidialkeratoconjuncti-vitisinSouthIndia:a3-yearstudy(2013-2015).BrJOphthalmol101:1436-1439,20175)FanNW,WuCC,ChenTLetal:Microsporidialkeratitisinpatientswithhotspringsexposure.JClinMicrobiol50:414-418,20126)ThanathaneeO,AthikulwongseR,AnutarapongpanOetal:Clinicalfeatures,riskfactors,andtreatmentsofmicro-sporidialepithelialkeratitis.SeminOphthalmol31:266-270,20167)TanJ,LeeP,LaiYetal:Microsporidialkeratoconjuncti-vitisafterrugbytournament,Singapore.EmergInfectDis19:1484-1486,20138)KwokAK,TongJM,TangBSetal:Outbreakofmicro-sporidialkeratoconjunctivitiswithrugbysportduetosoilexposure.Eye(Lond)27:747-754,20139)SabhapanditS,MurthySI,GargPetal:Microsporidialstromalkeratitis:Clinicalfeatures,uniquediagnosticcri-teria,andtreatmentoutcomesinalargecaseseries.Cor-nea35:1569-1574,201610)MalhotraC,JainAK,KaurSetal:Invivoconfocalmicro-scopiccharacteristicsofmicrosporidialkeratoconjunctivitisinimmunocompetentadults.BrJOphthalmol101:1217-1222,201711)友岡真美,鈴木崇,鳥山浩二ほか:真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科31:737-741,201412)川口秀樹,鈴木崇,宇野敏彦ほか:透過型電子顕微鏡にて病理像を観察したMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科33:1218-1221,201613)UenoS,EguchiH,HottaFetal:Microsporidialkeratitisretrospectivelydiagnosedbyultrastructuralstudyofformalin-?xedpara?n-embeddedcornealtissue:acasereport.AnnClinMicrobiolAntimicrob18:17,2019◆**

透過型電子顕微鏡にて病理像を観察したMicrosporidiaによる角膜炎の1例

2016年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科33(8):1218?1221,2016c透過型電子顕微鏡にて病理像を観察したMicrosporidiaによる角膜炎の1例川口秀樹*1鈴木崇*1宇野敏彦*2宮本仁志*3首藤政親*4大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2白井病院*3愛媛大学医学部附属病院診療支援部*4愛媛大学総合科学研究支援センターTransmittingElectronMicroscopyFindingsinaCaseofMicrosporidialKeratitisHidekiKawaguchi1),TakashiSuzuki1),ToshihikoUno2),HitoshiMiyamoto3),MasachikaShudo4)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)ShiraiHospital,3)DepartmentofClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospital,4)EhimeUniversity,IntegratedCenterforSciences今回,Microsporidiaによる角膜炎と思われる1例に対して,治療的にdeepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK)を施行し,得られた角膜片を透過型電子顕微鏡にて観察したので報告する.症例は71歳,男性,角膜擦過物の微生物学的検査にて真菌性角膜炎に合併したMicrosporidiaによる角膜炎と診断され,抗真菌薬を用いた治療を受け,真菌性角膜炎は治癒した.しかしながら,顆粒状の角膜細胞浸潤は軽快しなかったため,治療的にDALKを施行した.切除した角膜片を透過型電子顕微鏡にて観察したところ,角膜実質内に散在的に直径約1?2μmの胞子を認めた.胞子内には極管(polartube)とよばれる臓器を認め,所見より,Microsporidiaと考えられた.術後,角膜が透明化し視力は向上した.角膜実質内に侵入したMicrosporidiaによる角膜炎は,有効な治療薬が少なく,治療的角膜移植を選択する必要がある.Wereportacaseofmicrosporidialkeratitistreatedwiththerapeuticlamellarkeratoplasty,inwhichtransmissionelectronmicrographs(TEM)revealedmicrosporidiainremovedcornea.Thepatient,a71-year-oldmalediagnosedasfungalkeratitiswithmicrosporidialkeratitisviamicrobiologicaltestingofcornealscrapings,wastreatedwithantifungaldrugs.Althoughthecornealinfiltrationoffungalkeratitissubsided,thegranularinfiltrationcausedbymicrosporidiagraduallyincreased.Wethereforeperformedlamellarkeratoplastytoremovetheinfectiousfocus.TEMshoweddiffusemicrosporidialspores1-2μmdiameterinthestromaoftheremovedcornea,andillustratedthepolartubeinthesporecytoplasmthatischaracteristicofmicrosporidia.Aftersurgery,thecornearecoveredtransparencyandcorrectedvisualacuityincreased.Sincetherearefeweffectivemedicaltreatmentsformicrosporidialkeratitiswithstromalinfiltration,itmaybenecessarytoperformtherapeutickeratoplasty.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(8):1218?1221,2016〕Keywords:微胞子虫,角膜炎,透過型電子顕微鏡.Mircospordia,keratitis,transmittingelectronmicroscopy.はじめにMicrosporidia(微胞子虫)はさまざまな動物や人の細胞内に寄生する偏性細胞内寄生体であり,ミトコンドリアを欠く単細胞真核生物である.その胞子は1?10μmの卵形をしており,胞子内には極管(polartube)および極帽(polarcap)が存在し,1つまたは2つの核をもつ.おもに免疫不全患者に下痢や気管支炎,筋炎などを引き起こす日和見病原体であるが,これまでに判明している1,300以上の種うち,人への感染を起こす病原体は14種程度といわれている1).Microsporidiaは,流行性角膜結膜炎に類似した結膜炎を引き起こすのみならず,角膜炎の原因にもなりうる.Microsporidiaによる角結膜炎が初めて報告されたのは1973年であり,以来インド,シンガポール,台湾を中心に報告がなされている2,3).発症のリスクファクターとして,角膜外傷の既往や免疫抑制薬の使用歴などがあげられ,臨床所見では多くは軽度から中等度の充血が認められ,角膜における臨床所見として多発性,斑状の上皮細胞浸潤や角膜膿瘍などさまざま認められる.Microsporidiaの存在を確認する検査としては,光学顕微鏡,透過電子顕微鏡(transmittedelectronmicroscopy:TEM),間接蛍光抗体法(immunofluorescenceassays:IFA)などがある4).なかでも,光学顕微鏡を用いた塗抹標本の確認が,Microsporidiaによる角膜炎を診断するうえでもっとも重要であり,とくに好酸性染色によって赤く染色される胞子を確認することによって検出する3).通常の培養検査ではMicrosporidiaは増殖しないため検出できないが,PCR検査や生体共焦点顕微鏡検査も診断として利用されている5,6).現在のところ,わが国では筆者らが報告した真菌性角膜炎に合併したMicrosporidiaによる角膜炎の1例のみである7).この症例において,残存した角膜実質内の浸潤病巣に対しては,1%ボリコナゾール点眼で経過観察していたが,浸潤病巣が増加し視力低下をきたしたため,治療的deepanteriorlamellarkeratoplasty(DALK)を施行した.今回,筆者らは得られた角膜片をTEMにて病理像を観察したので報告する.I症例患者:71歳,男性.主訴:右眼視力低下.職業:農業従事者.現病歴:昭和52年より関節リウマチに伴う右眼の周辺部角膜潰瘍に対して,長期間抗菌薬,ステロイド点眼を投与されていた.平成22年頃から右眼の角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認め,さらに平成24年には角膜細胞浸潤が増悪し,角膜擦過物の微生物検査より,Candida角膜炎に合併したMicrosporidiaによる角膜炎と診断した7).抗真菌薬の使用により,真菌性角膜炎による病巣は消失したが,Microsporidiaによる角膜炎の所見(顆粒状浸潤)は残存していたため,1%ボリコナゾールに加えて,レバミピド,0.1%フルオロメトロン,0.3%ガチフロキサシン,0.3%ヒアルロン酸,プレドニゾロン2mg内服にて経過観察していた.平成27年3月より,角膜実質内の細胞浸潤の増悪を認め,視力低下が進行してきたため,再度入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼0.01,左眼0.02(左眼は緑内障による視神経萎縮による視力低下).右眼眼圧は測定不能であった.細隙灯顕微鏡検査において右眼角膜は周辺部潰瘍を繰り返しているため混濁しており,鼻側から結膜侵入を伴っていた.中央部角膜実質内にはびまん性淡い顆粒状の細胞浸潤を認めた(図1).さらに,前眼部OCT検査では角膜の菲薄化と実質の深層までの混濁が観察された(図2).経過:病巣擦過物の塗抹検査を行ったところ,好酸性染色であるKinyoun染色にて,陽性に染色される直径1?4μmの卵形の像を認めた.塗抹検査所見からMicrosporidiaによる角膜炎が進行した状態と診断し,頻回の角膜擦過,0.5%モキシフロキサシン点眼,8倍PAヨード点眼を行った.しかし,角膜実質内細胞浸潤は改善せず,さらに角膜混濁が増悪したため,内科的治療の継続は困難と考え,治療的にDALKを施行した.術中,可能な限り,Descemet膜付近まで角膜を切除し,ドナー角膜を端々縫合し,手術を終了した.術後は0.3%ガチフロキサシン点眼,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼を行い,角膜は徐々に透明化し(図3),右眼矯正視力も0.2pまで向上したため,退院となった.TEM所見:摘出角膜を2.5%グルタルアルデヒドで2時間固定し,洗浄後,さらに2%酸化オスミウムにて2時間固定した.洗浄,脱水後,樹脂であるEpon812に包埋した.角膜を垂直に60nmの切片で切断した後に酢酸ウラニル水溶液,硝酸鉛溶液による2重染色を行い,JEM1230(JOEL)のTEMを用いて観察した.弱拡大(5,000倍)での観察では,角膜実質繊維層の構造が破壊され,乱れた角膜実質繊維層間に散在する厚い細胞壁を有する直径1?2μmの卵型の胞子を複数認めた(図4).さらに,厚い細胞壁を認めるも,細胞内が破壊,変性し,長径2?4μmの楕円形に膨張した変性した胞子も複数認めた.さらに強拡大(50,000倍)では胞子内にMicrosporidiaに認められる極管(polartube)と核(nucleus)を確認できた(図5).II考察Microsporidiaによる角結膜炎は非常にまれな眼感染症であり,わが国では筆者らがすでに報告した本症例のみである.しかしながら,海外ではアジアを中心に報告例が増加しており,さらにMicrosporidiaが環境中に存在していることから,わが国においても今後の発生には注意が必要である.診断として,角膜擦過の塗抹検査が重要であるが,好酸性染色やファンギフローラ染色などの特殊染色が必要であり,また,一般的な検査室における認知度も低いため,検出が困難な場合も想定される.さらに,光学顕微鏡を用いた検査では,胞子の染色性,大きさ,形のみで診断するため,確実にMicrosporidiaを確認するためには,TEMによって,細胞内の構造を確認することが必要である8).Microsporidiaの胞子の内部には特徴的なコイル状の構造があり,極管とよばれている.本症例のTEMにおいても,コイル状の構造の断面が確認でき,極管を観察できたため,確実にMicrosporidiaであると考えられた.極管は,宿主細胞を突き刺すことで感染を成立させると考えられており,Microsporidia感染症の病態においても重要な器官である.また,TEMによって観察された胞子の大きさは,細胞が損傷していないものは1?2μm,細胞が損傷されているものは2?4μmと大きくなっていた.この現象は,細胞が損傷されると細胞内外の浸透圧の影響で細胞壁がダメージを受けるために大きくなっていると推測できる.今回,角膜擦過物の塗抹標本の観察では1?4μmの胞子を確認したが,そのなかでも直径が大きく楕円形の胞子は損傷されている可能性が高いことが考えられる.そのため,塗抹標本の胞子の大きさを確認することは,病態や治療効果を考えるうえで重要な情報である可能性が高い.前述のようにMicrosporidiaによる角結膜炎の診断には,塗抹標本検査が必須であるが,近年,PCR法によるMicrosporidiaの遺伝子の検出も期待されている.PCR法と塗抹標本検査の診断を比較した検討では,トリクロム染色は感度64%・特異度100%,カルコフロール染色では感度80%・特異度82%であるのに対して,PCR法は感度100%で特異度97.9%であり,PCR法の有用性が報告されている9).今回はPCR法を施行していないが,診断の向上には,塗抹標本検査のみならずPCR法の併用も今後検討する必要がある.Microsporidiaのなかでも,角膜炎や結膜炎をおこすものに,Encephalitozoonintestinalis,Encephalitozoonhellemがある.しかしながら,TEMによる形態の観察では,両者の鑑別はむずかしい.Microsporidiaの種の同定に一般的に用いられるのは遺伝子の塩基配列を用いた方法である.さらに間接蛍光抗体法においてモノクローナル抗体がEncephalitozoonspp.やE.bieneusiの同定に有用であったという報告もある10).今回は摘出角膜をTEMの観察にのみ使用したため行っておらず,原因となったMicrosporidiaの種は不明である.わが国でのMicrosporidiaによる角結膜炎の病態を考察するにも,今後は,TEMや遺伝子学的検査を用いた検討が必要と思われる.今回,内科的な治療には反応せず,角膜実質内の細胞浸潤が増悪した.TEM所見では,実質繊維の構造の変化は認めるものの,好中球などの炎症細胞の存在は少なかった.このことは,実質の混濁は炎症に起因するものではなく,実質の構造が変化したことで生じている可能性を示唆している.さらに,Microsporidiaの胞子は損傷を受けた後にも自己融解せず,角膜実質内に存在していることより,たとえ治療によって細胞が障害されても,細胞が長期間存在し,そのことによって角膜実質の構造を変化させていることも考えられる.そのため,実質浸潤を認めた症例では,内科的治療は困難である可能性も高く,外科的には胞子を除去することが望ましい.上皮や実質浅層に病巣がある場合は,掻爬が有効であり11),実質全体に病巣がある場合は角膜移植が必要である.DALKが治療に有効であった症例も報告されており12),移植の術式については,細隙灯顕微鏡所見に加えて,前眼部OCT検査によって混濁の部位を確認し選択することが重要であると思われた.本症例においても,前眼部OCT検査において,角膜実質全体が混濁しており,術前に全層角膜移植もしくはDALKを考慮したが,関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍を繰り返していることで,移植後拒絶反応の可能性も高いため,DALKを選択した.術後,角膜は透明化したが,緑内障手術の既往や長期間の角膜疾患を罹患しており,内皮機能の減少による水疱性角膜症の出現には十分注意する必要があると思われる.わが国においてMicrosporidiaによる角膜炎は非常にまれではあるが,局所的に免疫状態が低下している場合は発症する可能性がある.本症例では農業従事者であること,関節リウマチからの周辺部潰瘍,またステロイド点眼などが発症の契機となったと推測される.また,本疾患のわが国における認知度は決して高くないため,原因不明の角膜炎として治療されている可能性も少なくないと思われる.そのため,原因不明の角膜炎において本疾患を鑑別疾患の一つにあげ,塗抹標本検査のみならず,治療的角膜移植をする場合は,切除角膜をTEMで観察することで,本疾患の可能性を検索することも重要であると思われる.文献1)DidierES,WeissLM:Microsporidiosiscurrentstatus.CurrOpinInfectDis19:485-492,20062)AshtonN,WirasinhaPA:Encephalitozoonosis(nosematosis)ofthecornea.BrJOphthalmol57:669-674,19733)SharmaS,DasS,JosephJetal:Microsporidialkeratitis:needforincreasedawareness.SurvOphthalmol56:1-22,20114)YazarS,KoruO,HamamciBetal:Microsporidiaandmicrosporidiosis.TurkiyeParazitolDerg37:123-134,20135)FanNW,WuCC,ChenTLetal:Microsporidialkeratitisinpatientswithhotspringsexposure.JClinMicrobiol50:414-418,20126)DasS,SharmaS,SahuSKetal:Diagnosis,clinicalfeaturesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol96:793-795,20127)友岡真美,鈴木崇,鳥山浩二ほか:真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例.あたらしい眼科31:737-741,20148)WalkerM,KublinJG,ZuntJR:Parasiticcentralnervoussysteminfectionsinimmunocompromisedhosts:malaria,microsporidiosis,leishmaniasis,andAfricantrypanosomiasis.ClinInfectDis42:115-125,20069)SaigalK,KhuranaS,SharmaAetal:ComparisonofstainingtechniquesandmultiplexnestedPCRfordiagnosisofintestinalmicrosporidiosis.DiagnMicrobiolInfectDis77:248-249,201310)Al-MekhlafiMA,FatmahMS,AnisahNetal:Speciesidentificationofintestinalmicrosporidiausingimmunofluorescenceantibodyassays.SoutheastAsianJTropMedPublicHealth42:19-24,201111)DasS,WallangBS,SharmaSetal:Theefficacyofcornealdebridementinthetreatmentofmicrosporidialkeratoconjunctivitis:aprospectiverandomizedclinicaltrial.AmJOphthalmol157:1151-1155,201412)AngM,MehtaJS,MantooSetal:Deepanteriorlamellarkeratoplastytotreatmicrosporidialstromalkeratitis.Cornea28:832-835,2009〔別刷請求先〕川口秀樹:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:HidekiKawaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN12181220あたらしい眼科Vol.33,No.8,2016(139)あたらしい眼科Vol.33,No.8,20161221図1入院時前眼部写真角膜中央部に淡い顆粒状の細胞浸潤,角膜周辺部の鼻側からの結膜侵入を認める.図2前眼部OCT検査所見角膜全体の混濁,周辺部の菲薄化を認める.図3退院時前眼部所見角膜混濁の改善を認める.図4切除角膜のTEM所見(×5,000倍)角膜実質内に2重の細胞壁を認める直径1?2μmの胞子(?)を複数認める.また,変性したと思われる胞子像も観察される(?).図5切除角膜のTEM所見(×50,000倍)胞子の内部に極管(polartube)(?),核(nucleus)(?)を認める.

真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例

2014年5月31日 土曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(5):737.741,2014c真菌感染症を併発したMicrosporidiaによる角膜炎の1例友岡真美*1鈴木崇*1鳥山浩二*1井上智之*1原祐子*1山口昌彦*1林康人*1鄭暁東*1白石敦*1宇野敏彦*2宮本仁志*3大橋裕一*1*1愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*2明世社白井病院*3愛媛大学医学部附属病院診療支援部ACaseofMicrosporidialKeratitisAccompaniedwithFungalKeratitisMamiTomooka1),TakashiSuzuki1),KojiToriyama1),TomoyukiInoue1),YukoHara1),MasahikoYamaguchi1),YasuhitoHayashi1),ZhengXiaodong1),AtsushiShiraishi1),ToshihikoUno2),HitoshiMiyamoto3)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,2)ShiraiHospital,3)DepartmentofClinicalLaboratory,EhimeUniversityHospitalMicrosporidia(微胞子虫)による角膜炎は,インドやシンガポールなどに認められるが,わが国では報告例はない.今回,microsporidiaによる角膜炎と思われる1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の既往があり,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より,角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認めていたが,抗菌薬点眼とステロイド点眼にて軽快と増悪を繰り返していた.さらに,顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜中央部に強い細胞浸潤が出現してきたため,病巣部を擦過した.直接鏡検を行ったところ,酵母様真菌を認め,培養においてもCandidaalbicansが分離されたため,ミカファンギン・ボリコナゾール点眼を開始した.治療開始後,強い細胞浸潤は消失するも,角膜全体に存在する淡い顆粒状の細胞浸潤は軽快せず,再度角膜擦過を行い,鏡検をしたところ,ファンギフローラ染色で直径2.3μmの卵形に染色される像を認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色においても,赤色に染色される卵形の像を多数認めた.染色所見よりmicrosporidiaによる角膜炎を考慮し,ガチフロキサシン点眼,PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼を開始したところ,徐々にではあるが,細胞浸潤は軽快している.筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎を経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性が考えられた.AlthoughcasesofmicrosporidialkeratitishavebeenreportedinIndiaorSingapore,therehavebeennoreportsoftheconditioninJapan.Weexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitis.Thepatient,a71-year-oldmalewhohaddevelopedperipheralulcerativekeratitisinassociationwithrheumatoidarthritis,hadbeengiventopicalantimicrobialagentsandsteroidsoveralongterm.For2years,hehadshowngranularinfiltrationoveralargeareaofthecornealstroma,oftenrelapsingafterinstillationofantimicrobialagentsandsteroid.Alongwithgranularinfiltration,stronginfiltrationappearedinthecentralcornea.Directmicroscopyofscrapedspecimensdisclosedthepresenceofyeast-likefungus;theculturereportsconfirmedthepresenceofCandidaalbicans.Weconsideredfungalkeratitis,andbegantreatmentwithtopicalmicafunginandvoriconazol.Althoughthestronginfiltrationdisappearedaftertherapyinitiation,thegranularinfiltrationremained;microbialexaminationofscrapedspecimenswasthereforeperformedagain.Directmicroscopyrevealednumerous2-3μmsporesstainedbyfungifloraYandmodifiedKinyoun’sacid-faststain.Sincemicrosporidialkeratitiswasdiagnosedbydirectmicroscopyfindings,weinitiatedinstillationoftopicalgatifloxacinandpolyhexamethylenebiguanide.Thegranularcellinfiltrationgraduallydecreased.WeexperiencedacaseofmicrosporidialkeratitisaccompaniedbyC.albicanskeratitis.Microsporidialkeratitiscouldbecausedinpatientswhohavelocalimmunesuppressionduetotopicalsteroids.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(5):737.741,2014〕Keywords:角膜炎,真菌,微胞子虫,鏡検,生体共焦点顕微鏡.keratitis,fungi,microspordia,smear,invivoconfocalmicroscopy.〔別刷請求先〕友岡真美:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座Reprintrequests:MamiTomooka,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversity,GraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon-shi,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(111)737 はじめにMicrosporidia(微胞子虫)はさまざまな動物やヒトの細胞内に寄生する単細胞真核生物の寄生原虫の一群で,胞子は1.40μm程度の卵形をしている.これまでに1,200種以上が知られており,昆虫,甲殻類,魚類,ヒトを含む哺乳類などに感染する病原体が多く含まれている.おもに免疫不全患者に多臓器疾患を引き起こす日和見病原体であるが,免疫正常者への感染報告もある1).一方,microsporidiaによる角膜炎は,健常者においても認められ,インド,シンガポール,台湾において報告されている2).Microsporidiaは水・家畜・昆虫などを介してヒトに感染するため,土壌汚染の可能性のある農業従事者や温泉利用者での報告例が多い3,4).また季節性の影響もあり,夏に発症頻度が高いといわれている5).リスクファクターとして,角膜外傷の既往や免疫抑制薬の使用歴,屈折矯正手術が挙げられる5).臨床所見では軽度.中等度の充血が認められ,角膜像は多発性で斑状の上皮障害から角膜膿瘍までさまざまである.診断には塗抹標本鏡検の像が用いられ,なかでも胞子が赤く染色される抗酸性染色が特に有用といわれている2).培養では増殖せず,PCR(polymerasechainreaction)検査や生体共焦点顕微鏡検査は補助診断として利用されている3,5).今回筆者らは,真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が疑われた1例を経験したので,その臨床経過について報告する.なお本投稿は,本人の自由意思による同意を得ているものである.I症例患者:71歳,男性.主訴:右眼視力低下.職業:農業従事者.現病歴:昭和52年より,右眼の関節リウマチに伴う周辺部角膜潰瘍に対して,長期間抗菌薬点眼とステロイド点眼を投与されていた.2年前より右眼の角膜実質の淡い顆粒状の細胞浸潤を広範囲に認め,種々の抗菌点眼薬や,ステロイド点眼の治療により寛解と増悪を繰り返していた.しかし,平成24年12月に顆粒状細胞浸潤の再燃とともに角膜下方に比較的強い細胞浸潤が出現してきたため,12月18日加療目的にて愛媛大学病院眼科へ紹介受診となり,同日入院となった.入院時所見:矯正視力は右眼0.06,左眼0.02.眼圧は右眼5mmHg,左眼17mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査において右眼角膜は周辺部潰瘍を繰り返しているため混濁しており,鼻側からの結膜侵入を伴っていた.混濁のない角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤を認め,下方に上皮欠損を伴う比較的強い浸潤病巣を認めた(図1).生体共焦点顕微鏡検査では,角膜実質表層に分節状の菌糸様の像が観察された(図2).眼底検査では,右眼において視神経乳頭陥凹の拡大を認め,左眼においては視神経乳頭の蒼白を認めた.経過:前眼部検査および生体共焦点顕微鏡検査において,真菌による角膜炎を疑い,病巣擦過物の塗抹検査を行ったところ,発芽した酵母様真菌を認め(図3),培養検査ではCandidaalbicans(C.albicans)が多数検出された.酵母真菌薬剤感受性キット(ASTY)を用いて,分離真菌に対する薬剤感受性検査では抗真菌薬に対する感受性が良好であった(表1).これらよりC.albicansによる角膜炎と診断し,0.1%ボリコナゾール・0.25%ミカファンギン点眼,イトラコナゾール(150mg/day)内服を開始した.しかし治療開始1カ月後,下方の浸潤病巣は軽快するも顆粒状の細胞浸潤は改善AB図1入院時細隙灯顕微鏡検査A:角膜中央部にはびまん性に淡い顆粒状の細胞浸潤(黒矢印)と,下方には比較的強い浸潤病巣を認める(白矢印).B:角膜下方に上皮欠損を認める.738あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(112) 5μmAB5μmAB図2生体共焦点顕微鏡検査A:入院時.角膜表層に分節状の菌糸様の像(黒矢印)と円形の高輝度像(白矢印)を認める.B:治療後.菌糸様の像が消失してもなお,円形の高輝度像(白矢印)は残存している.5μm図3病巣擦過物の塗抹検査発芽した酵母様真菌像(黒矢印)と直径2.3μm卵形のグラム陰性.陽性の像(白矢印)を認める.表1分離真菌に対する薬剤感受性検査薬剤ミカファンギンアムホテリシンBフルコナゾールイトラコナゾールボリコナゾールミコナゾールピマリシンMICμg/ml(判定)0.03(S)0.5(S)0.5(S)0.06(S)0.03(S)0.12(S)8しておらず(図4),診断再考の必要性があった.治療に使用したボリコナゾールやミカファンギンに対する感受性が良好であること,角膜下方の細胞浸潤は瘢痕化していること,長期ステロイド点眼投与による局所的免疫不全があることより,真菌以外の病原体による角膜炎または非感染性の角膜炎の可能性が考えられた.そこで再度入院時に施行した塗抹検査を見直してみると,酵母様真菌以外に直径2.3μm大の卵形の像を認めた(図3).また生体共焦点顕微鏡検査においても,入院時,菌糸様の像以外に円形の高輝度像を認め,真菌治療後には菌糸様の像が消失してもなお円形の高輝度像が残存していた(図2).そこで再度角膜全体の擦過を行い,擦過物に対して塗抹検査を行ったところ,ファンギフローラ染色において直径2.3μm大の卵形の像を多数認め,さらに抗酸性染色であるKinyoun染色では陽性に染色される卵形の像を認めた(図5).塗抹検査所見から角膜擦過物内野にmicrosporidiaが存在している可能性が高いことから,microsporidiaによる角膜炎の合併が考えられたため,0.02%PHMB(polyhexamethylenebiguanide)点眼,0.3%ガチフロキサシン点眼を追加し,ゆっくりではあるが角膜中央部の顆粒状の細胞浸潤は改善した.しかし遷延性上皮欠損が出現したため,薬剤毒性を考慮しボリコナゾールを中止,低濃度ステロイド点眼とレバミピド点眼を追加して上皮は修復さ(113)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014739 れた.残存した浸潤病巣に対しては,現在1%ボリコナゾールを点眼し外来で経過観察している.II考察Microsporidiaによる角膜炎は,非常にまれな角膜炎で筆者らが調べた限り,わが国では報告例がない.しかしながら,海外での報告例が増加していることやmicrosporidiaが環境中に存在していることより,わが国においても今後の発生には注意が必要と思われる.Microsporidiaによる角膜炎の臨床病型は,結膜炎を伴い角膜上皮に病変があるタイプと角膜実質に炎症を引き起こすタイプに分けられる.Dasらは,インドにおいて277症例のmicrosporidiaによる角膜炎を報告しているが,その誘因として外傷が21.2%,ステロ図4治療開始1カ月後の細隙灯顕微鏡検査淡い顆粒状の細胞浸潤は改善していない.5μm5μmAB図5再度施行した病巣擦過物の塗抹検査A:ファンギフローラ染色.丸.卵形の直径2.3μmの像を認める.B:Kinyoun染色.赤く染まる卵形の像を認める.イド点眼の使用が11.9%であった5).さらに,多くの症例で初期診断が困難で,41.4%で局所抗菌薬治療,23%で局所抗ウイルス薬治療が行われていた5).同報告ではすべての症例が結膜炎とともに角膜上皮に斑状の上皮欠損を伴う上皮病変であり,診断にはcalcofluorwhitestainとグラム染色によって行われていた5).一方,角膜実質炎の病型として発症する症例も存在しているが,円板状の角膜実質炎の病型を示している症例が多かった3).本症例は真菌性角膜炎との合併に加えて,関節リウマチによる周辺部角膜潰瘍の罹患歴が長いことから,臨床所見を読み取ることが困難であった.しかし抗真菌薬治療後にも残存していた角膜実質内の点状もしくは顆粒状の細胞浸潤がmicrosporidiaによる角膜炎の臨床所見と一致することから筆者らは鑑別診断として考慮した.本病原体が培養検査では検出不能であるために塗抹検査が必要であり,本症例においてはmicrosporidiaと真菌の塗抹像の違いを見きわめることが重要であった.グラム染色において真菌は陽性に染色されるが,microsporidiaは陽性だけでなく陰性の像も認められることがあり,また,抗酸性染色では真菌は染色されないのにmicrosporidiaは陽性に赤く染まることが特徴である.本症例の塗抹標本でも前述したmicrosporidiaに一致する像が認められており,本症例はC.albicans感染症だけでなくmicrosporidiaによる角膜炎の合併が最も疑わしいと考えた.Microsporidiaによる角膜炎の報告数は近年増加しているが,治療法はいまだに確立されていないのが現状である.対処療法としては,アカントアメーバ角膜炎同様に擦過除去が最も有効といわれている5).薬物治療では,駆虫薬であるアルベンダゾールやイトラコナゾールの全身投与,フルオロキノロン,ボリコナゾール,PHMB,クロルヘキシジンの局所投与が有効という報告がある4).本症例では薬物治療に加え740あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014(114) て角膜擦過も頻回に行ったが,遷延性上皮欠損となったため,積極的治療を継続できなくなった.過去には薬物治療抵抗例に全層角膜移植(PKP)や深層層状角膜移植(DALK)を行い奏効した例が報告されている6).しかし本症例は残された唯一の眼であり,外科的治療の適応を慎重に検討しなければならない.今回真菌感染症を併発したmicrosporidiaによる角膜炎が強く疑われた症例をわが国では初めて経験した.ステロイド点眼中など,免疫状態が局所的に低下した場合,本疾患が発症する可能性があると考えられた.さらに抗酸性染色などの塗抹標本検査が診断に有用であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DidierES,WeissLM:Microsporidiosis:notjustinAIDSpatients.CurrOpinInfectDis24:490-495,20112)SharmaS,DasS,JosephJetal:Microsporidialkeratitis:needforincreasedawareness.SurvOphthalmol56:1-22,20113)FanNW,WuCC,ChenTLetal:Microsporidialkeratitisinpatientswithhotspringsexposure.JClinMicrobiol50:414-418,20124)Tung-LienQuekD,PanJC,KrishnanPUetal:Microsporidialkeratoconjunctivitisinthetropics:acaseseries.OpenOphthalmolJ5:42-47,20115)DasS,SharmaS,SahuSKetal:Diagnosis,clinicalfeaturesandtreatmentoutcomeofmicrosporidialkeratoconjunctivitis.BrJOphthalmol96:793-795,20126)MurthySI,SangitVA,RathiVMetal:MicrosporidialsporescancrosstheintactDescemetmembraneindeepstromalinfection.MiddleEastAfrJOphthalmol20:80-82,2013***(115)あたらしい眼科Vol.31,No.5,2014741