《原著》あたらしい眼科38(3):346.351,2021c漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病の1例平島昂太石川桂二郎中尾新太郎園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CACaseofAcuteLymphoblasticLeukemiawithSerousRetinalDetachmentasaPrimarySymptomKotaHirashima,KeijiroIshikawa,ShintaroNakaoandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversityC背景:漿液性網膜.離を初発症状とした急性リンパ性白血病のC1例を報告する.症例:59歳,女性.右眼視力低下,発熱,頭痛が出現し,近医眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力C0.3,左眼矯正視力C1.0で,両漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚(右眼C662Cμm,左眼C562Cμm),フルオレセイン蛍光眼底造影検査で黄斑部の蛍光漏出・蛍光貯留,インドシアニン蛍光眼底造影で同部位に一致したCdarkspotと点状の過蛍光を認め,Vogt-小柳-原田病が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,血液疾患が疑われ,九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,急性リンパ性白血病と診断され,血液アフェレーシス,メトトレキサートとステロイドの髄液腔内注射,全身化学療法を施行された.治療開始後,白血球数は正常化した.それに伴い両眼の漿液性網膜.離は消退し,脈絡膜厚は右眼285Cμm,左眼C328Cμmまで改善し,両眼矯正視力はC1.2まで改善した.結論:白血病の眼合併症としてはCRoth斑,綿花状白斑,網膜出血などが知られているが,漿液性網膜.離による視力障害を初発症状とする白血病の報告は少ない.両眼性の脈絡膜肥厚を伴う漿液性網膜.離を認めた際は,白血病に伴う眼合併症の可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteClymphoblasticleukemia(ALL)withCbilateralCserousCretinalCdetachment(SRD)astheinitialsign.Casereport:A59-year-oldfemalepresentedwithdecreasedvisualacuity(VA)inherrighteye.Uponexamination,thebest-correctedVA(BCVA)inherrighteyeandlefteyewas0.3and1.0,respec-tively,CandCfundusCexaminationCrevealedCbilateralCSRD.CBasedConC.uoresceinCangiography,CindocyanineCgreenC.uoresceinangiography,andopticalcoherencetomography.ndings,Vogt-Koyanagi-Haradadiseasewassuspected.CBloodexaminationshowedelevatedwhitebloodcellsandthrombocytopenia.Basedonthehematology.ndings,shewasdiagnosedwithPhiladelphiachromosome-positiveALLandunderwenthaemapheresis,intraspinalinjectionofmethotrexateCandCsteroid,CandCsystemicCchemotherapy.CPostCtreatment,CherCwhiteCbloodCcellCcountCnormalized,CBCVACimprovedCtoC1.2CinCbothCeyes,CandCthereCwasCcompleteCresolutionCofCtheCbilateralCSRD.CConclusions:TheappearanceofSRDshouldraisesuspicionforleukemia.Promptrecognitionofthisdiseaseisimportantforinduc-tionofsystemictreatmentandvisualfunctionrestoration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(3):346.351,C2021〕Keywords:急性リンパ性白血病,漿液性網膜.離,Vogt-小柳-原田病.acutelymphoblasticleukemia,serousretinaldetachment,Vogt-Koyanagi-Haradadisease.Cはじめに液性網膜.離を眼部の初発症状とした急性リンパ性白血病白血病の代表的な眼所見にはCRoth斑,綿花状白斑,網膜(acuteClymphoblasticleukemia:ALL)のC1例を経験したの出血などが知られている1).視力障害が白血病の眼部の初発で報告する.症状であったわが国での報告は少なく,筆者らが探す限り吉CI症例田らと井上らによる報告のC2例のみであった2,3).また,白血病に漿液性網膜.離を合併した報告も少ない3).今回,漿患者:59歳,女性.〔別刷請求先〕平島昂太:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KotaHirashima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC346(108)主訴:右眼視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C7月に右眼視力低下,発熱,頭痛を自覚し,近医眼科を受診した.視力は右眼C0.3(矯正不能),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C11CmmHg,右漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)で蛍光漏出を認め,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)が疑われた.血液検査で白血球異常高値,血小板減少を認め,近医初診後C4日目に精査加療目的に九州大学病院血液腫瘍内科へ紹介となった.精査の結果,ALLと診断された.6日目に眼科的精査目的に九州大学病院眼科へ紹介受診となった.初診時眼所見と経過:視力は右眼C0.2(矯正不能),左眼0.8(矯正不能),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHg,平均中心フリッカー値は右眼C19CHz,左眼C19CHzであった.両眼球結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体,前部硝子体に明らかな異常を認めなかった.右眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,黄斑外上方の脱色素斑を認めた(図1a).左眼は視神経乳頭の辺縁不整,黄斑部の漿液性網膜.離,網膜出血を認めた(図1b).波長掃引光源光干渉断層計(swept-sourceCopticalCcoher-encetomography:SS-OCT)では両眼の漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚を認め,また,脈絡膜に点状の高輝度領域が多発していた(図1c,1d).右眼の脱色素斑はCOCTにおいて,網膜色素上皮の軽度隆起を伴った(図1e).眼底自発蛍光では右眼の脱色素斑と同部位に高輝度領域,黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認めた(図2).FAでは造影初期より右眼に脱色素斑に一致した過蛍光,後期では両眼に黄斑部の蛍光貯留を認めた(図3).インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)では,造影初期より両眼後極内にCdarkspotが散在し,後期では同部位に点状の過蛍光を認めた(図4).血液検査では,白血球C222,600/μl,芽球C96.4%,赤血球C331万/μl,ヘモグロビンC10.1Cg/dl,血小板C6.2万/μlと,白血球異常高値,貧血,血小板減少を認めた.血中クレアチニンC0.68mg/dlと,腎機能異常は認めなかった.髄液検査では髄液の細胞数上昇はなく,蛋白質も正常範囲内であった.骨髄フローサイトメトリーでは,CD10(+),CD19(+),CD20(+),HLADR(+),MPO(C.),TdT(+),CD79a(+)と,リンパ性白血病のマーカーが陽性であった.染色体はCt(9;22)(q34;q11.2)で,フィラデルフィア染色体陽性であった.頸部.骨盤部CCTでは明らかな異常を認めなかった.以上からCALLと診断した.血液腫瘍内科で血液アフェレーシス,メトトレキサートC15CmgとデキサメタゾンC3.3Cmgの髄注をC14日間,プレドニンC100Cmgの点滴静注をC14日間行った.分子標的薬としてチロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブの内服を開始したが,ダサチニブが原因と疑われる慢性硬膜下血腫を発症し,脳血管外科で手術を施行したため,ダサチニブの内服は中止し,BCR-ABL転座を標的としてチロシンキナーゼ阻害薬としてイマチニブの内服を開始した.治療開始後,漿液性網膜.離は徐々に改善し,両視力は矯正視力C1.2まで改善した.脈絡膜肥厚に関しては右眼の中心窩下脈絡膜厚がC662Cμmから治療後C14日目でC285Cμmまで改善し,左眼の中心窩下脈絡膜厚がC562Cμmから治療後C14日目C328Cμmまで改善した(図5).その後,初発からC2年後の受診時には,漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚の再発を認めずに経過している(最終受診時の右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力C1.2,右眼中心窩下脈絡膜肥厚C306Cμm,左眼中心窩下脈絡膜肥厚C340Cμm).CII考按本症例では,視力低下を初発症状として漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚を認め,VKHを疑われたが,各種検査でCALLと診断された.化学療法後,速やかに眼症状は改善した.ALLに関連する漿液性網膜.離の病態として,白血病剖検眼のC29.65%に白血病細胞の脈絡膜浸潤を認め,網膜色素上皮細胞は萎縮,肥厚,過形成を呈し,続発性に.胞状黄斑浮腫や漿液性網膜.離をきたすとされている4,5).したがって,本症例の漿液性網膜.離は白血病細胞の脈絡膜浸潤に伴うものであることが考えられた.また,白血病患者ではレーザースペックルフローグラフィーによる解析で脈絡膜血流速度の低下と脈絡膜肥厚を認めるという報告がある6).本症例は,脈絡膜血管内壁への白血病細胞の接着や血管外への白血病細胞浸潤に伴う脈絡膜血管の圧迫により,脈絡膜血流が障害されたことによる網膜色素上皮障害と,血流うっ滞による脈絡膜間質組織への滲出液の増加が,漿液性網膜.離と脈絡膜肥厚の病態として考えられた.さらに,白血病細胞の脈絡膜浸潤も脈絡膜肥厚の一因と推察された7).右眼黄斑外上方の脱色素班部位に一致したことは,OCTでの網膜色素上皮の軽度隆起とCFAでの過蛍光を認めたことから,網膜色素上皮の障害を反映しているものと考えられた.これらのことを踏まえると,脈絡膜肥厚は白血病の脈絡膜浸潤や脈絡膜循環障害を反映しており,IAで同部位に一致してCdarkspotの所見を呈していると考えられた.また,OCTでの網膜色素上皮の不整は網膜色素上皮の障害を反映していると推察され,血液網膜バリアの破綻も漿液性網膜.離発症のさらなる病態として考えられた.本症例は初診時にCVKHを疑われた.VKHの病態はメラノサイトに対する自己抗体の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害であり,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,IAでの早期のCdarkspotと後期の過蛍光所見を認める点において本症例と類似図1初診時の眼底写真(a,b)および波長掃引光源OCT(SS.OCT)像(c,d,e)a:右眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,黄斑外上方に脱色素班(C.)を認める.Cb:左眼眼底.視神経乳頭の辺縁はやや不整で,黄斑部漿液性網膜.離,視神経乳頭耳下側に網膜出血を認める.Cc,d:漿液性網膜.離,網膜色素上皮の不整,脈絡膜の肥厚,脈絡膜に多発する点状の高輝度領域を認める.Ce:右眼底.黄斑外上方の脱色素班部位は網膜色素上皮の軽度隆起を伴う.図2初診時の眼底自発蛍光写真右眼(Ca)の脱色素斑と同部位に高輝度領域(C.),両眼(Ca,b)の黄斑周囲に点状に散在する高輝度領域を認める.図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).脱色素斑に一致した過蛍光(C.)を認める.Cb:後期(右眼,18分C54秒).黄斑部の蛍光貯留(C→)を認める.している.しかし,VKHでは,眼内炎症や,フィブリンと考えられる隔壁を伴う漿液性網膜.離を認める点で臨床像が異なる.また,VKHでは皮膚,神経,感冒様症状を認めることが多く,髄液検査では単球優位の細胞増多を認め,血液検査で特異的な所見がないことが本症例と異なる.また,本症例は眼底所見,FA所見,OCT所見より中心性紫液性脈絡網膜症(centralCsereouschorioretinopathy:CSC)との鑑別も重要である.本症例とCCSCでは,OCTでの漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,FAでの点状過蛍光と後期の蛍光貯留の所見が一致する.一方,本症例はCIA早期から徐々に明瞭化する後極内のCdarkspotを認めるが,CSCではCIA中期に拡張した脈絡膜血管,後期に異常組織染を認める点が鑑別に重要である.また,白血球増多に伴う過粘稠症候群も鑑別に考慮すべきであるが,過粘稠症候群はマクログロブリン血症と多発性骨髄腫に代表されるCM蛋白増多が病因のことが多く,過粘稠症候群でみられる静脈ソーセージ様怒張,乳頭浮腫,網膜多発出血などの典型的な所見を本症例では伴わず,過粘稠症候群による循環障害としては非典型的図4初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査a:初期(右眼,30秒).後極内にCdarkspotが散在している.Cb:後期(右眼,18分C54秒).後極内に点状の過蛍光(C.)を認める.治療前治療後6日目治療後14日目右眼視力(0.2)(1.2)中心窩下脈絡膜厚662μm480μm285μm左眼視力図5治療開始後の経過治療後,両眼の漿液性網膜.離と中心窩下脈絡膜(C.)肥厚は改善を認めた.であると考えられた.後に大きく影響するため,早期診断が重要であると考えられ漿液性網膜.離を初発症状としたCALLの本症例は,白血る.病細胞の脈絡膜浸潤と脈絡膜循環障害が病因として考えら利益相反:利益相反公表基準に該当なしれ,視力低下の原因となる.また,脈絡膜悪性リンパ腫でも同様に漿液性網膜.離をまれにきたすことが報告されている7).以上より,血液疾患では漿液性.離を初発症状とすることがあり2,3,7),全身化学療法が患者の視機能維持や生命予(0.8)(1.2)562μm475μm328μm文献1)毛塚剛司:白血病眼浸潤.あたらしい眼科29:19-24,C20122)YoshidaA,KawanoY,EtoTetal:Serousretinaldetach-mentCinCanCelderlyCpatientCwithCPhiladelphia-chromo-some-positiveCacuteClymphoblasticCleukemia.CAmCJCOph-thalmolC139:348-349,C20053)井上順治,設楽幸治,平塚義宗ほか:漿液性網膜.離を呈した急性リンパ性白血病のC1例.臨眼医報C98:141,C20044)KincaidCMC,CGreenCWR,CKelleyJS:OcularCandCorbitalCinvolvementCinCleukemia.CSurvCOphthalmolC27:211-232,C1983C5)LeonardyCNJ,CRupaniCM,CDentCGCetal:AnalysisCofC135CautopsyCeyesCforCocularCinvolvementCinCleukemia.CAmJOphthalmolC109:436-444,C19906)TakitaCA,CHashimotoCY,CSaitoCWCetal:ChangesCinCbloodC.owCvelocityCandCthicknessCofCtheCchoroidCinCaCpatientCwithCTCleukemicCretinopathy.CAmCJCOphthalmologyCCaseCReportsC12:68-72,C20187)FukutsuK,NambaK,IwataDetal:Pseudo-in.ammato-rymanifestationsofchoroidallymphomaresemblingVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmulti-modalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C2020***