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ぶどう膜炎で再発した節外性NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型の1 例

2023年5月31日 水曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(5):678.684,2023cぶどう膜炎で再発した節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型の1例案浦加奈子*1,2渡辺芽里*1川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2古河赤十字病院眼科CACaseofNasal-typeNK/T-CellLymphomathatRecurredwithUveitisKanakoAnnoura1,2),MeriWatanabe1)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KogaRedCrossHospitalC症例は妊娠C35週のC39歳,女性.全身倦怠感と歩行困難を主訴に前医受診.前医CMRIで右鼻腔から上咽頭の占拠性病変を認め,自治医科大学附属病院産科へ救急搬送された.緊急帝王切開後,鼻腫瘍の生検を行い,節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型の診断となり,抗癌剤治療,自家末消血幹細胞移植が行われた.自家移植C2カ月後,左眼の霧視を主訴に当院眼科を受診.左眼に微細な角膜後面沈着物を伴う前房炎症を認め,ステロイド点眼で治療された.前房水検査はCEBV-DNA陽性であった.同時期に,全身に紅斑が出現し,皮膚生検でリンパ腫浸潤を認めた.翌週,虹彩浸潤を疑う所見を認め,超音波CBモード検査では脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた.前房水細胞診はCclassVで,全脳・全脊椎・左眼の放射線治療,DeVIC療法が開始された.治療開始後,眼所見は改善したが,初診からC11カ月後に永眠された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCnasal-typeCNK/T-cellClymphomaCthatCrecurredCwithCuveitis.CCasereport:A39-year-oldfemalewhowas35-weekspregnantvisitedanoutsidecliniccomplainingofgeneralmalaiseandwalk-ingdi.culty.MRIshowedspace-occupyinglesionsintherightnasalcavityandnasopharynx,andshewassubse-quentlytransferredtoourhospitalfortreatment.Caesareansectionandbiopsyofthetumorwereconducted,lead-ingCtoCtheCdiagnosisCofCnasal-typeCNK/T-cellClymphoma.CAfterC2CmonthsCofCanti-cancerCtherapy,CsheCnoticedCblurredvisioninherlefteye,andwasreferredtooureyeclinic.In.ammationintheanteriorchamber(AC)wasnoted,andtreatedwithcorticosteroideyedrops.PCRrevealedthatthecellsintheACwereEBV-DNApositive,andCaCskinCbiopsyCrevealedClymphomaCinvasion.COneCweekClater,CsheCdevelopedCirisCin.ltration,CandCB-modeCultra-soundCimagingCshowedCchoroidalCinvasion.CCytologyCofCtheCcellsCinCtheCACCwasCclassCV,CandCradiotherapyCofCtheCwholeCbrain,Cspine,CandCleftCeyeCwasCstartedCwithCDeVICCtherapy.CConclusions:AlthoughCtheCocularC.ndingsCinCthiscaseimproved,thepatientsubsequentlypassedaway11monthsaftertheinitialvisit.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(5):678.684,C2023〕Keywords:NK/T細胞リンパ腫,ぶどう膜炎,悪性リンパ腫,脈絡膜浸潤,前房水検査.NK/T-celllymphoma,uveitis,malignantlymphoma,choroidalinvasion,cytologyofthecellsinAC.CはじめにNK/T細胞リンパ腫は,Epstein-Barrウイルス(Epstein-Barrvirus:EBV)との関連が特徴的とされ,東アジアに多いまれなリンパ系腫瘍である.全悪性リンパ腫に占める割合は,欧米諸国でC1%未満,東アジアでC3.10%,わが国では約C3%とされる.鼻咽頭などのほか,皮膚,消化管,精巣,中枢神経系などの節外部位に好発するのも特徴とされる1).眼内悪性のなかでCNK/Tリンパ腫と診断された報告は少なく,今回,筆者らは経過中ぶどう膜炎を発症したCNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:39歳,女性.主訴:左眼霧視.〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke-City,Tochigi329-0498,JAPANC678(100)図1b眼科初診時に開始された点眼治療21日後の左前眼部結膜毛様充血は消退したが,角膜後面沈着物は増えていた.図1a初診時の左前眼部所見結膜充血と微細な角膜後面沈着物を認めた.図2a眼科初診から45日後の頭部造影MRI左眼の虹彩・毛様体の造影効果が右眼と比較して目立つ(.).図2b眼科初診から49日後の左眼前眼部少量の前房出血を伴っている.図2c眼科初診から49日後の左後眼部前房出血の影響で透見性が悪いものの,明らかな網膜・脈絡膜病変はない.既往歴:15歳時にCBasedow病を発症,29歳でアイソトープ治療後,甲状腺機能低下に対してチラージン内服中,妊娠35週.家族歴:父:皮膚癌.現病歴:20XX年C2月,全身倦怠感と歩行困難を主訴に前医を受診し,MRI検査で右鼻腔から上咽頭の占拠性病変を認め,当院産科へ救急搬送された.緊急帝王切開後,鼻腫瘍の生検を行い,NK/T細胞リンパ腫鼻型の診断となった.免疫染色はCEBER1陽性であった.血液検査でCEBV-DNA値はC4.53CLogIU/mlであった.授乳は断念する方針となり,カベルゴリン内服のうえ断乳となった.当院血液科に転科し,SMILE療法(steroid,methotrexate,ifosfamide,L-asparaginase,etoposide)をC3クール行った.初診C5カ月後,血液中のCEBV-DNAは検出されなかったが,髄液細胞診でCclassVが判明し,自家末消血幹細胞移植が行われた.自家移植後C2カ月(初診C6カ月)で左眼霧視を主訴に当科を受診した.図3a眼科初診から56日後の左前眼部増量した前房出血と虹彩浸潤を疑う所見があり,眼底は透見できなかった.図3c細胞診N/C比の高い核形不整な異型リンパ球様細胞が多数みられる.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.8).眼圧は右眼C9.0CmmHg,左眼C6.0CmmHgであった.左眼に結膜充血と微細な角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP),cellC1+,.areC2+の前房炎症を認めた.中間透光体,後眼部には特記所見を認めなかった(図1a).右眼の前眼部および中間透光体には異常所見は認めなかった.眼科初診C3日前の内科の血液検査では,EBV抗CVCAIgG:160,EBV抗CVCAIgM:10倍未満,EB抗CEBNAFA:20,EBV-DNAは検出されなかったが,眼での局所再発を考え,左眼前房水を採取し,リアルタイムCPCR法でCEBV-DNA陽性が判明(2.9C×105cop-ies/ml)した.前房水サイトカイン検査の結果は,IL-10/IL-6はC20Cpg未満/35,800Cpg/mlであった.眼症状に対しては,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼投与を開始した.眼科初診からC17日後,血液科で採取した血液図3b眼科初診から56日後の左眼超音波Bモード網膜.離および脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた.検査で移植後陰性だったCEBV-DNA値がC2.25CLogIU/mlとなり再上昇を認めたが,汎血球減少が続き,髄液検査および抗癌剤髄注ができない状態であった.眼所見は初診からC21日後には左眼視力は(1.2)と改善し,左眼結膜充血も消退したが,KPは徐々に拡大した(図1b).眼科初診からC45日後の頭部造影CMRIでは頭部,鼻腔に再燃は認めなかったが,左眼の虹彩・毛様体の造影増強効果が右眼と比較して目立った(図2a).眼科初診からC47日後,血液科で髄液検査を施行したところCclassVであった.同時期に全身に硬結を伴う紅斑が多発したため,皮膚科を受診したところ,皮膚生検でEBER-ISH陽性のリンパ腫浸潤を認めた.眼科初診からC49日後,左眼視力(0.2)となり,前房炎症の急激な悪化と,前房出血が出現した.後眼部に明らかな網膜・脈絡膜病変は認めなかった(図2b,c).眼科初診からC63日後には左眼(m.m.)となり,拡大した前房出血に加えて虹彩浸潤を疑う所見を認め,超音波CBモード検査では網膜.離と脈絡膜浸潤を疑う所見を認めた(図3a,b).前房水細胞診を提出したところCclassVであった(図3c).なお,採取検体が少量だったため,フローサイトメトリーや遺伝子再構成検査は行わなかった.以上より自家移植後の再発と診断され,MTX/AraC/PSL髄液注射(methotrexate,cytosinearabinoside,predniso-lone)を施行後,全脳,全脊椎へ放射線治療(30.6CGy/17Cfr)が開始された.左眼へのCNK/Tリンパ腫浸潤に対し放射線治療を行う方針とした.DeVIC療法(carboplatin,etopo-side,ifosfamide,dexamethasone)も開始された.眼科初診からC74日後には虹彩浸潤は消退し,前房炎症も軽減した.超音波CBモードの網脈絡膜所見も改善傾向であった(図4a,b).皮膚所見はいったん改善していたが数日で再燃・悪化して図4a左前眼部前房所見は改善をみた.図4b左眼超音波Bモード脈絡膜浸潤も消退した.図5a左前眼部前房炎症などの再燃は認めなかった.図5c左前眼部フルオレセイン染色角膜上皮障害が高度であった.図5b左前眼部後.下白内障をきたしていた.おり,再度生検を試みようとしたが,やはり血球減少が強く,一度断念された.眼科初診からC94日後に皮膚生検を行ったところ,classVとなり,皮膚所見の再燃と判断された.皮疹出現後C12日後に鼻閉感も出現し,CT検査で鼻粘膜の肥厚が指摘された.血球減少は継続して化学療法への反応もなく,同種移植などは適応外となった.追加治療困難となり,在宅での緩和治療へ移行となった.最終眼科受診時は,左眼視力(0.02)で,眼所見の再発は認めなかったが,放射線治療による角膜上皮障害が強く,後.下白内障をきたしていた(図5a,b,c).その後,当院初診からおよそC11カ月後(眼科初診からC157日後)に永眠された(経過をまとめて図5dに示す).6EBV-DNA(LogIU/ml)視力(左)0.81.20.2m.m.0.02眼所見角膜後面沈着物,cell1+,.are2+角膜後面沈着物拡大cell4+,.are4+前房出血cell4+,.are4+前房出血増加+虹彩浸潤網膜.離,脈絡膜浸潤前房水細脆診classVcell0,.are0虹彩浸潤消退,脈絡膜浸澗,網膜.離消退角膜上皮障害,後.下白内障図5d内科経過と眼科経過のまとめII考按節外性CNK/T細胞リンパ腫は,EBVとの関連が特徴の,アジアや中南米に多く,欧米に少ない腫瘍である.日本ではリンパ腫のなかで約C3%を占め1),2000年からC2013年に日本のC31施設で行われた多施設研究では,診断時年齢中央値はC40.58歳で,5年生存率は,限局性がC68%,進行性がC24%であった2).鼻腔のほか,皮膚,消化管,肝脾,中枢神経系などに発生しうるが,まれに眼症状原発の報告もある.眼症状としては,眼窩内浸潤に伴う眼球突出,眼瞼腫脹4,5),眼瞼下垂4),眼球運動障害3),ぶどう膜炎(硝子体混濁など)5.8),網膜周辺部の白色腫瘤8),視神経萎縮・腫脹3)などがある.初発症状が虹彩腫瘍だった報告もある10).NK/T細胞リンパ腫の診断は,前房水でCEBV-DNA測定や,前房水もしくは硝子体の細胞診でCEBER-ISH陽性,CD3陽性,CD56陽性で診断する4.9).ただし,前房水へのリンパ腫浸潤は節外性リンパ腫鼻型では非常にまれであるとされる9).今回の症例では,初回の前房水検査にてCEBV-DNA陽性であること,IL-10/IL-6<1であることが判明したが,この時点では,EBV関連ぶどう膜炎との鑑別ができなかった.また,EBVは正常な眼組織からも検出されるとの報告もあり13),NK/T細胞リンパ腫との関連は確定できなかった.しかし,その後の前房水検査で細胞診CclassVが判明しCIL-10上昇がなかったことより,NK/T細胞リンパ腫の眼内浸潤と診断した.今回は検体量の不足によりフローサイトメトリーや遺伝子再構成検査は施行できなかったが,那須らは,少量の検体でも液状化検体細胞診(liquidCbasedcytology:LBC法)を用いることで検査可能となることを示唆した9).また,既報では前房水のサザンブロット法によるCEBV-DNAの検出と細胞診との組み合わせで節外性CNK/Tリンパ腫の眼内浸潤を証明した報告もある14).検査可能な施設であれば前房水のサザンブロット解析も診断を行ううえで有用であったと考えられる.今回の症例には,SMILE療法やCDeVIC療法といった治療方法が選択されているが,節外性CNK/Tリンパ腫は,腫瘍細胞が多剤耐性(multidrugresistance:MDR)に関与するCP糖蛋白が高率に発現しているため,MDR関連薬剤であるドキソルビシンとビンクリスチンを含むCCHOP(cyclo-phosphamide,doxorubicinhydrochloride,oncovin,pred-nisolone)療法の治療効果は乏しいとされている1).近年では,MDR非関連薬剤と,EBV関連血球貪食症候群のCkeydrugであるエトポシドを組み合わせた化学療法,DeVICが標準的な治療とされており,進行期や再発・難治の症例に対してCL-asparaginaseを含むCSMILE療法の効果が期待されている.なお,放射線治療単独では局所制御・全身病変制御において不十分であるとされ,限局期においては単独での治療はなく化学療法と放射線治療も併用したCRT-2/3DeVIC療法を行うことにより,約C70%のC5年全生存割合が期待できる1).眼科領域への発症も,化学療法と放射線治療にMTX硝子体注射を併用した報告もある6,7).ただ,今井らは,硝子体液中でCEBV-DNAが高容量検出されるも,末梢血中のCEBV-DNA量が陰性であることから,節外性CNK/T細胞リンパ腫の診断がつかず,MTX硝子体注射単独治療を施行した症例を報告7)しているが,注射によって眼所見の改善は得られるも,治療後C2年後に僚眼のぶどう膜炎が急速に進行し,眼球内容除去術が余儀なくされた症例が報告されている.MTX硝子体注射単独での治療は一時的に症状の改善は得られるものの,リンパ腫の進行を完全に抑制することは困難であることが示唆される.しかし,HattaらはCNK/T細胞リンパ腫のC7例(87.5%)がC13カ月以内に死亡しており,従来の治療を積極的に行っても転移を起こしやすいと報告している15).治療前の血漿中CEBV-DNA量は,そのものが独立した予後因子となり,血中のCEBV-DNA量が高い患者群では,局所療法だけではコントロールがむずかしい可能性があることも示唆されており11),血中CEBV-DNAは病勢を示すマーカーとして,全身再発の可能性を検索するうえで非常に重要であると考えられる.今回の症例では,眼所見の悪化,皮膚症状の再発をきたす前に,血中CEBV-DNAの再上昇を認めていた.今回,前房水でCEBV-DNA陽性により眼局所再発が疑われたが,移植後の全身状態から追加の検査や治療が進められなかった.その時点で細胞診を行い腫瘍再発と認識された場合,内科の検査を積極的に進める理由になった可能性がある.本症例では放射線+DeVIC療法後すぐ皮膚所見が再発したことから,生命予後は変わらなかったと予想されるが,全身状態によっては早期に治療介入を行うことができる症例もある.よって,NK/T細胞リンパ腫に罹患している患者において,ぶどう膜炎様所見を認めた際には,積極的に前房水を採取してCEBV-DNA検査や組織細胞診などによる確定診断をめざすことが,生命予後改善の可能性を拡大するために重要と思われた.今回の症例のようなCNK/Tリンパ腫と妊娠の同時発生はまれであり,既報でも少数である16,17).妊娠後期に悪性腫瘍と診断された場合は,患者のリスクを考慮して出産後まで治療を延期する18).今回も緊急帝王切開を行い,ただちに妊娠を終了して治療を開始した.なお,抗悪性腫瘍薬は授乳婦への投与は禁忌であるので,今回も断乳を余儀なくされていた19).以上,妊娠の扱い,授乳,治療方針の決定など,全科的な連携を緊密に要する症例であった.今後も,集学的治療をさらに改善する努力が重要と思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山口素子:NK/T細胞リンパ腫に対するCSMILE療法.最新医学C68:118-123,C20132)YamaguchiCM,CSuzukiCR,COguchiCMCetal:TreatmentsCandCoutcomesCofCpatientsCwithCextranodalCnaturalCkiller/CT-cellClymphomaCdiagnosedCbetweenC2000Cand2013:ACCooperativeStudyinJapan.JClinOncolC35:32-39,C20173)HonC,KwokAKH,ShekTWHetal:VisionthreateningcomplicationsofnasalNK/Tlymphoma.AmJOphthalmolC134:406-410,C20024)濱岡祥子,高比良雅之,杉森尚美ほか:眼窩に生じた節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC2症例.あたらしい眼科C31:459-463,C20145)花田有紀子,識名崇,前田陽平ほか:眼症状を契機に発見されたCNK/T細胞性リンパ腫の一症例.耳鼻免疫アレルギーC30:285-291,C20126)MaruyamaCK,CKunikataCH,CSugitaCSCetal:FirstCcaseCofCprimaryCintraocularCnaturalCkillerCt-cellClymphoma.CBMCCOphthalmolC15:169,C20157)ImaiCA,CTakaseCH,CImadomeCKCetal:DevelopmentCofCextranodalCNK/T-cellClymphomaCnasalCtypeCinCcerebrumCfollwingCEpstein-BarrCvirus-positiveCuveitis.CInternCMedC56:1409-1414,C20178)TagawaCY,CNambaCK,COgasawaraCRCetal:ACcaseCofCmatureCnaturalCkiller-cellCneoplasmCmanifestingCmultipleCchoroidallesions:primaryCintraocularCnaturalCkiller-cellClymphoma.CaseRepOphthalmolC6:380-384,C20159)那須篤子,市村浩一,畠榮ほか:前眼房水に浸潤した節外性CNK/T細胞リンパ腫,鼻型のC1例.日本臨床細胞学会雑誌C55:89-93,C201610)相馬実穂,清武良子,平田憲ほか:ぶどう膜炎症状で発症したCNK/T細胞リンパ腫のC1例.臨眼C64:967-972,C201011)磯部泰司:各臓器別の最新治療と新薬の動向.241-252,C201212)RamonL,OsarJ,NursingA:Tumoroftheeyeandocu-larCadnexa.CWashington,CD.C.,CArmedCForcesCInstituteCofPathology:30-31,200613)薄井紀夫,坂井潤一,白井正彦ほか:正常眼内組織におけるCEpstein-Barrvirus(EBV)レセプターの発現.あたらしい眼科C10:435-440,C199314)KaseCS,CNambaCK,CKitaichiCNCetal:Epstein-BarrCvirusCinfectedCcellsCinCtheCaqueousChumourCoriginatedCfromCnasalCNK/TCcellClymphoma.CBrCJCOphthalmolC90:244-245,C200615)HattaCC,COgasawaraCH,COkitaCJCetal:NonCHodgkin’sCmalignantClymphomaCofCtheCsinonasalCtractC─CtreatmentCoutcomeCforC53CpatientsCaccordingCtoCREALCclassi.cation.CAurisNasusLarynxC28:55-60,C200116)MelgarCMoleroCV,CRedondoCRG,CMesoneroCRPCetal:CExtranodalNK/Tcelllymphomanasaltypeinapregnantwoman.JAADCaseReports,June01,201717)HeM,JingJ,ZhangJetal:Pregnancy-associatedhemo-phagocyticClymphohistiocytosisCsecondaryCtoCNK/TCcellslymphoma:Acasereportandliteraturereview.MedicineC(Baltimore)96:e8628,C201718)ZaidiCA,CJohnsonCLM,CChurchCCLCetal:ManagementCofCconcurrentCpregnancyCandCacuteClymphoblasticCmalignan-cyCinteenagedCpatients:TwoCIllustrativeCcasesCandCreviewoftheliterature.JAdolescYoungAdultOncolC3:C160-175,C201419)藤森敬也,経塚標:医薬品副作用学(第C3版)上─薬剤の安全使用アップデート─特に注意すべき患者・病態への対応妊産婦・授乳婦.日本臨床C77医薬品副作用学(上):C385-390,C2019C***

片眼性に眼窩先端症候群をきたし,後に十二指腸原発びまん性 大細胞型B 細胞性悪性リンパ腫と診断された1 例

2022年9月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科39(9):1266.1271,2022c片眼性に眼窩先端症候群をきたし,後に十二指腸原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫と診断された1例伊藤裕紀*1後藤健介*2平岩二郎*2*1中部ろうさい病院眼科*2江南厚生病院眼科CACaseofDuodenalDi.useLargeB-CellLymphomainwhichtheInitialSymptomwasOrbitalApexSyndromeHirokiIto1),KensukeGoto2)andJiroHiraiwa2)1)DepartmentofOphthalmology,ChubuRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KonanKoseiHospitalC目的:眼窩部への圧迫と浸潤により症状が出現し,眼窩先端症候群を呈した転移性十二指腸原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)のC1例を報告する.症例:61歳,男性.2カ月前に右眼瞼腫脹が出現し,いったん改善するもその後再燃,さらに右眼球突出も出現したため,近医眼科より中部ろうさい病院紹介となった.初診時矯正小数視力は右眼光覚なし,左眼C1.5.右眼は眼球突出,眼球運動障害のほか,眼底には脈絡膜ひだがみられ,磁気共鳴画像診断にて右眼窩に腫瘤性病変がみられた.後日,腹痛にて近医内科を受診したところ,腹部にコンピュータ断層撮影にて軟部影がみられ,当院内科紹介となった.生検にて十二指腸原発CDLBCLと診断され,眼窩内腫瘍が転移巣であることが確認された.化学療法により腫瘍は縮小したが,失明に至った.結論:眼窩にCDLBCLが確認された場合,たとえ症状がなくとも原発巣の同定のためには腹部の腫瘍性病変の精査が必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCmetastaticCdi.useClargeCB-celllymphoma(DLBCL)ofCtheCorbitCthatCcausedCorbitalapexsyndromeandoptic-nervedysfunction.Casereport:A61-year-oldmalewasreferredtoourdepart-mentwithexophthalmosandeyelidswellinginhisrighteye.Uponexamination,therewasnolightperceptionintheCrightCeyeCandCoculomotorCparalysisCwasCobserved.CMagneticCresonanceCimagingCrevealedCaCmassCinCtheCorbit,CthusCsupportingCorbitalCapexCsyndrome.CAfterCbeingCdiagnosedCasCmetastaticCDLBCLCviaCpathologicalCexaminationCofCtheCduodenum,CsystemicCchemotherapyCwasCinitiated.CTheCtumorCsizeCdecreased,CyetCvisualCacuityCdidCnotCimprove.CConclusion:ForCorbitalCDLBCLCpatients,CsearchingCforCneoplasticClesionsCinCtheCabdomenCmayCbeCanCimportantfactorforidenti.cationoftheprimarylesion,eveniftherearenoabdominalsymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(9):1266.1271,C2022〕Keywords:眼窩先端症候群,悪性リンパ腫,化学療法.orbitalapexsyndrome,malignantlymphoma,chemo-therapy.Cはじめに眼付属器悪性リンパ腫は眼窩における発生例が多く,眼付属器に原発する場合と,隣接臓器や他臓器の悪性リンパ腫が眼付属器に浸潤,転移する続発性の場合がみられる.眼窩では筋円錐内外を満たすほどの腫瘤を形成する場合があり,眼球突出や眼球運動制限は診断のきっかけとなる.今回,右眼球突出,右眼瞼腫脹をきたし,後日腹部症状の出現により診断に至った十二指腸原発びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(diffuseClargeCB-celllymphoma:DLBCL)のC1例を経験したので報告する.CI症例61歳,男性.右眼瞼腫脹のため近医眼科を受診.右眼瞼炎を疑われガチフロキサシン点眼液,フルオロメトロン点眼液を処方されいったん改善したが,その後発症時期は不明であるが右眼瞼下垂が出現し,前医受診のC2カ月後に再度右眼〔別刷請求先〕伊藤裕紀:〒455-8530愛知県名古屋市港区港明C1-10-6中部ろうさい病院眼科Reprintrequests:HirokiIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ChubuRosaiHospital,1-10-6Komei,Minato,Nagoya,Aichi455-8530,JAPANC1266(108)図1初診時の眼底写真,超音波画像とMRI画像右眼眼底に脈絡膜ひだ(Ca)を,超音波画像矢状断にて右眼眼窩部に眼球を圧迫する腫瘤性病変(Cb)を,MRI画像にて.の先端に円周状にCT1強調画像にて等信号(Cc),T2強調画像にて等信号.高信号(Cd),DWIにて高信号(Ce),ADCにてやや高信号(Cf)な所見があり,右眼球を圧排,眼窩尖部から眼窩内を占拠するC31C×25C×28Cmm大の腫瘤を認める.内部は腫瘍内出血をきたしているためCDWIにて信号の低下,ADCにて高信号を認める.図2病理画像の結果核腫大したCN/C比の高い異型細胞が密に増殖し,間質に浸潤する像(Ca)をみる.異型細胞は免疫染色にてCD20(Cb),MUM1(Cc),bcl-6(Cd)陽性であった.スケールバー:20Cμm.瞼腫脹が出現したため前医を受診,同点眼で症状改善がみられなかった.さらにC10日後,右眼眼球突出もみられたため中部ろうさい病院(以下,当院)眼科紹介となった.既往歴として高血圧,高脂血症,糖尿病があるが眼科既往はなかった.当院初診時,矯正小数視力は右眼光覚なし,左眼C1.5であった.右眼視力低下の自覚はあったとのことだが発症時期は不明であった.眼圧は右眼C13.0CmmHg,左眼C11.5CmmHg.相対的瞳孔求心路障害(relativeCafferentCpupillarydefect:RAPD)は右眼陽性.右眼は眼瞼下垂のため閉瞼しており,開瞼時上斜視のほか外転障害,上転障害,下転障害がみられた.眼球突出度は右眼C26.0mm,左眼C15.0mmであった.両眼の前眼部,中間透光体に特記すべき異常はみられなかったが,右眼眼底には脈絡膜ひだがみられ(図1a),超音波画像検査では右眼の眼球形態の変化を認め,眼窩部からの圧迫性病変が疑われた(図1b).そのため当日に緊急で磁気共鳴画像(magneticCresonancetomography:MRI)検査を行ったところ,右眼窩に腫瘤性病変がみられ,T1強調画像にて等信号,T2強調画像にて等信号.高信号,拡散強調画像(diffusionweightedCimage:DWI)にて高信号,apparentCdi.usioncoe.cient(ADC)マップにてやや高信号(図1c~f)を呈し,眼窩先端症候群の診断に至った.血液検査にて可溶性インターロイキン(interleukin:IL)-2受容体1,520CU/mlであり,眼窩悪性リンパ腫が疑われた.また,同じ週に腹部中心に鈍痛症状の持続があり,近医内科を受診し,コンピュータ断層撮影(computedtomography:CT)にて腹部大動脈右側にC50Cmm大の軟部影がみられたため当院内科紹介となった.内科にて透視下胃十二指腸ファイバー検査を施行し,十二指腸病変の病理検査を施行したところ,核腫大した核・細胞質比(nucleo-cytoplasmicratio:N/C比)の高い異型細胞が密に増殖し,間質に浸潤する像がみられた.免疫染色にて異型細胞はCAE1/AE3陰性,CD20,MUM1,bcl-6陽性で,CD3,CD5,CD10,Cyclin-D1陰性,Ki-67陽性率はC90%以上だった(図2)ため,Hansらの分類法により非胚中心CB細胞型CB細胞リンパ腫と診断された.転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影(positronCemissionCtomogra-phy:PET)を施行,右眼窩内腫瘤,心臓に接する軟部腫瘤,膵尾部腹側の軟部腫瘤,下腸管膜動脈分岐レベル腹部大動脈右側の腫瘤,左外腸骨動脈腹側腫瘤に集積がみられた(図3).以上から,AnnArbor病期分類CIV期の多発転移性の十二指腸原発CDLBCLと当院血液内科で診断された.DLBCLに対して同科でリツキシマブ・シクロホスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチン・プレドニゾロンからなるR-CHOP療法をC6クール施行されたところ,腹腔内浸潤の縮小とともに眼窩病変も縮小(図4)し,眼球運動障害・眼瞼下垂は改善したが視力は改善しなかった.また,脈絡膜ひだは改善したが残存している.治療開始からC13カ月経過しているが,同科で化学療法継続中である.CII考按今回,片眼性の眼症状とほぼ同時期に腹部症状が出現し,十二指腸を原発とする眼窩転移性のCDLBCLのC1例を経験した.本症例は十二指腸に病変がみられ,十二指腸病変の生検に(111)d図3PETの結果転移性悪性リンパ腫を疑いCPETを施行したところ,右眼窩内腫瘤(Ca),心臓に接する軟部腫瘤(Cb),膵尾部腹側の軟部腫瘤(Cc),下腸管膜動脈分岐レベル腹部大動脈右側の腫瘤(Cd),左外腸骨動脈腹側腫瘤(Ce)に集積がみられた.よってCDLBCLと診断された.多発する悪性リンパ腫においてCLewinの基準1)では,病変の主体が十二指腸,小腸,大腸に存在すれば他臓器やリンパ節浸潤の有無にかかわらず腸管原発とみなされる.眼窩腫瘍に対しても生検による病理学的診断が望ましいが,眼窩腫瘍の扱いに慣れない一般眼科医にとっては生検にて眼窩病変を採取することは困難であることが多い.眼窩内悪性リンパ腫は一般的にCDWI高信号,ADC低信号2)であり,本症例はCADC高信号ではあるところは典型例からはずれているが,腫瘍内出血により灌流の影響を受けてCADC信号の上昇が起きたものと考えられる.また,眼窩病変と同時期に十二指腸や腹腔内に病変を認めたことを踏まえると,十二指腸を原発とした眼窩転移性のCDLBCLであると考えられた.本症例では腹部症状が強く,腹腔内多発転移がみられ,速やかに治療を開始する必要があったため,あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1269図4治療前後のMRI画像初診時に右眼窩尖部から眼窩内を占拠し,眼球を圧排していた腫瘤(Ca)は,治療後には縮小(Cb)しているのが確認された.眼窩病変の生検は行わずに化学療法を開始した.眼付属器病変も合わせるとCAnnArbor病期分類ではCIV期に該当しており,日本血液学会造血器腫瘍診療ガイドラインに沿ってCR-CHOP療法が施行された.施行後すべての腫瘤に対し縮小傾向がみられ,治療効果が確認された.同様に眼窩病変の縮小も認め,眼球運動や眼球突出,眼瞼下垂は改善したが光覚の回復はみられなかった.視力低下をきたした時期は不明だが,当院受診C2カ月前に眼瞼腫脹を認めており,同時期から眼窩病変が存在していた可能性が高いと思われる.十二指腸には濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma:FL)やCMALT(mucosaCassociatedClymphoidtissue)リンパ腫といった低悪性度リンパ腫の発生頻度が高く,十二指腸にDLBCLなどの中悪性度リンパ腫を認めることはまれである3).一方,原発性眼窩悪性リンパ腫としてはCMALTリンパ腫が一番多く,DLBCLやCFLがC2番目に多いといった報告がある4,5).さらに眼窩が原発の悪性リンパ腫は眼窩悪性腫瘍のC43%6)を占めると報告されている.したがって,本症例のように十二指腸を原発とする眼窩転移性のCDLBCLの症例は少ないと考えられる.悪性リンパ腫は病変部によって症状の出現頻度は異なり,十二指腸におけるCDLBCLの場合,潰瘍型の病変であることが多く腸管壁の伸展性が比較的保たれ,管腔が狭小化していても腹部症状が出現することは少ない3).一方で,眼窩悪性リンパ腫が眼窩先端部に浸潤した場合は,視神経や動眼神経,外転神経,三叉神経などのさまざまな神経障害をきたすことが報告されている7.13).そのため本症例のように眼窩と十二指腸に病巣がある場合,原発巣の腹部症状よりも転移巣の眼窩病変による症状のほうが早期に出現することがある.したがって,眼窩悪性リンパ腫を疑った場合,症状の有無にかかわらず,十二指腸などの消化管を含めて早期に全身検査を行うことが重要である.眼窩後方に腫瘍が限局している場合,当院のように腫瘍の生検が困難な施設もあるため,大学病院などに紹介する前に消化管内視鏡検査を含めた全身精査を行うことで早期診断,早期加療につながるケースがあると思われる.CIII結論今回,片眼性の眼球突出・眼瞼腫脹で発見され,眼窩先端症候群により失明に至った転移性十二指腸原発CDLBCLのC1例を経験した.初診時に腹部症状がみられなくとも,消化管悪性リンパ腫の転移巣の可能性があるため,随伴症状の有無にかかわらず腹部を含め全身の腫瘍性病変を精査することが,原発巣の早期発見につながる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewinCKJ,CRanchodCM,CDorfmanRF:LymphomasCofCtheCgastrointestinaltract;ACstudyCofC117CcasesCpresentingCwithgastrointestinaldisease.CancerC42:693-707,C19782)HaradomeK,HaradomeH,UsuiYetal:Orbitallympho-proliferativedisorders(OLPDs):valueofMRimagingfordi.erentiatingorbitallymphomafrombenignOPLDs.AmJNeuroradiolC35:1976-1982,C20143)赤松泰次,下平和久,野沢祐一ほか:十二指腸悪性リンパ腫の診断と治療.消化管内視鏡27:1142-1147,C20154)FerryJA,FungCY,ZukelbergLetal:Lymphomaoftheocularadnexa;ACstudyCofC353Ccases.CAmCJCSurgCPatholC31:170-184,C20075)瀧澤淳,尾山徳秀:節外リンパ腫の臓器別特徴と治療眼・眼付属器リンパ腫.日本臨牀C73(増刊号C8):614-618,C20156)後藤浩:眼部悪性腫瘍の診断と治療.東京医科大学雑誌C65:350-358,C20077)後藤理恵子,米崎雅史:三叉神経の単神経障害を初発症状とした悪性リンパ腫例.日本鼻科学会会誌C56:103-109,C2017C8)高橋ありさ,川田浩克,錦織奈美ほか:眼症状を伴った小児の副鼻腔原発CBurkittリンパ腫のC1例.眼臨紀C11:349-352,C20189)山本一宏,神田智子,中井麻佐子:Tolosa-Hunt症候群様症状を呈し,篩骨洞病変で診断された悪性リンパ腫のC1症例.日本鼻科学会会誌41:19-22,C200210)浅香力,三戸聡:外転神経麻痺で発症した蝶形骨洞悪性リンパ腫例.耳鼻咽喉科臨床補冊:48-52,201011)米澤淳子,安東えい子,手島倫子ほか:急速な増大を示した眼窩悪性リンパ腫のC1例.眼臨97:107-109,C200312)野澤祐輔,佐藤多嘉之,十亀淳史ほか:非ホジキンリンパ腫の一症例.北海道農村医学会雑誌41:100-102,C200913)三浦弘規,鎌田信悦,多田雄一郎ほか:当院における鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍の検討.頭頸部癌39:21-26,C2013***

後天性免疫不全症候群以外の患者に発症したサイトメガロウィルス網膜炎5例の臨床的検討

2020年5月31日 日曜日

《第56回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科37(5):609.614,2020c後天性免疫不全症候群以外の患者に発症したサイトメガロウィルス網膜炎5例の臨床的検討島崎晴菜高山圭菅岡晋平竹内大防衛医科大学校眼科学教室CClinicalAnalysisofFiveCasesofCytomegalovirusRetinitisComplicatedwithImmunosuppressiveDiseaseExceptAcquiredImmunode.ciencySyndromeHarunaShimazaki,KeiTakayama,ShinpeiSugaokaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:後天性免疫不全症候群(AIDS)以外の原疾患を有するサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の臨床所見と特徴を検討した.対象および方法:2010年C4月.2019年C2月に防衛医科大学校病院眼科を受診し,AIDS以外の原疾患がありCCMV網膜炎と診断したC5例C8眼(全例男性)の発症時年齢,原因疾患,CMV網膜炎のタイプ,白血球数,好中球数,発症時と寛解期の矯正視力,視神経乳頭炎の有無,網膜.離の有無,硝子体手術の実施,転帰について後ろ向きに調査した.結果:発症時平均年齢はC59.8C±10.1歳,平均観察期間はC20.9C±32.2カ月,4例が悪性リンパ腫でC1例が糖尿病だった.平均視力は炎症寛解後も改善せず,視力予後が良好だったのはC1例C2眼のみで,2例C3眼はCCMV網膜炎が再発し,2例は原疾患(ともに悪性リンパ腫)により死亡した.結論:AIDS以外の免疫能低下状態の患者に生じたCCMV網膜炎は視力予後が不良である可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatetheclinical.ndingsandcharacteristicsofcytomegalovirus(CMV)retinitiscomplicatedwithbasicimmunosuppressivediseaseexceptacquiredimmunode.ciencysyndrome(AIDS)C.CasesandMethods:Thisretrospectivereviewstudyinvolved8eyesof5consecutivemalepatients(meanage:59.8C±10.1years)diag-nosedwithCMVretinitisbetweenApril2010andFebruary2019attheNationalDefenseMedicalCollegeHospital.Ageatonset,sex,basicdisease,typeofCMVretinitis,visualacuity(VA)intheacutephaseandremissionphase,presenceofretinaldetachmentandopticdiscedema,implementationofvitreoussurgery,andprognosiswereeval-uated.CResults:MeanCLogMARCVACwasC0.64±1.03CinCtheCacuteCphaseCandC0.83±1.38CinCtheCremissionCphase.CRelapseoccurredin3eyesof2cases,andVAimprovedinonly2eyesof1case.Twopatientsdiedduetobasicdisease.CConclusion:CMVCretinitisCcomplicatedCwithCbasicCimmunosuppressiveCdisease,CexceptCAIDS,CisCaCpoorCprognosisofVAandlife.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(5):609.614,C2020〕Keywords:網膜炎,サイトメガロウイルス,悪性リンパ腫.retinitis,cytomegalovirus,malignantlymphoma.はじめにサイトメガロウィルス(cytomegalovirus:CMV)は日和見感染をきたすウイルスとして知られ,CMVの再活性化により免疫抑制状態の患者でCCMV網膜炎を発症させることがある1).CMV網膜炎は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見が乏しいが,眼底病変は特徴的な所見があり,臨床的には周辺部顆粒型,後極部劇症型,樹氷状血管炎型のC3病型に分類される.周辺部顆粒型は網膜周辺部に出血をほとんど伴わず,白色顆粒状の病変が扇形に集積する.病巣は次第に癒合・拡大しながら進行し,活動性病巣の周辺には白色の顆粒状病変が散在するのが特徴であり,進行はC3病変のなかでは一番緩徐である.後極部劇症型は後極部の血管に沿って網膜出血と浮腫を伴う黄白色滲出斑が出現し,病巣部の網膜は壊死しており出血を伴い速やかに進行し,黄斑浮腫や視神経へ〔別刷請求先〕高山圭:〒C359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANCの炎症進展により急激な視力低下が起きる.樹氷状血管炎型は血管壁の顕著な白鞘化と閉塞性血管炎をきたす2).CMV網膜炎は後天性免疫不全症候群(acquiredimmuno-de.ciencysyndrome:AIDS)患者に発症することが多いが,化学療法中の血液疾患の患者,コントロール不良の糖尿病患者にも発症する3).近年,医療の進歩・社会の超高齢化・糖尿病患者の増加などによりCAIDS以外の患者におけるCCMV網膜炎の発症が増加傾向と報告されているが4,5),それらの眼底所見や視力予後の報告は少ない.今回,AIDS以外の原疾患を有する患者に発症したCCMV網膜炎の臨床所見や予後を比較し,その特徴について検討した.CI対象および方法2010年C4月.2019年C2月に防衛医科大学校病院眼科(以下,当科)を受診し,CMV網膜炎と診断された症例の診療録を後ろ向きに調べた.CMV網膜炎の診断は既報と同様に,採血検査によるCCMVIgG,CMVIgM,特徴的な眼底所見,前房水か硝子体液からのCpolymeraseCchainreaction(PCR)testによるCCMVDNAの検出をもって確定診断とした.3病型(周辺部顆粒型,後極部劇症型,樹氷状血管炎型)の分類と病変部位(Zone1:視神経乳頭周囲C1,500Cμmまたは中心窩周囲C3,000Cμm,Zone2:Zone1の外側から赤道部までの領域,Zone3:赤道部から鋸状縁までの領域)の分類および視神経炎の有無についてはぶどう膜炎専門医C2名(竹内,高山)がそれぞれ検眼鏡的所見より判断した.CMV網膜炎と診断した後,入院しガンシクロビルの経静脈投与による治療を開始し,必要と判断した際には硝子体手術を施行した.炎症が寛解したのち,バルガンシクロビルの内服に切り替えて退院,外来で経過観察した.発症時年齢,性別,原疾患,白血球数,好中球数,CMV網膜炎の病型と病変部位,発症時と寛解期の矯正視力(統計処理のためClogMARに変換した),視神経乳頭炎の有無,網膜.離の有無,硝子体手術の有無,転帰を調べた.〔症例1〕67歳,男性.左眼に霧視が出現し近医を受診したところ,左眼に網膜浮腫と周辺部血管炎があり当科に紹介となった.既往歴として,Cdi.useClargeCBCcelllymphoma(DLBCL)と診断されて当院血液内科で化学療法中だった.初診時,矯正視力は右眼C1.2・左眼C0.9,眼圧は右眼C12.0CmmHg・左眼C10.0CmmHg,左眼は前房内に炎症細胞の浸潤,両眼に軽度の白内障,星状硝子体症,眼底は下方の網膜血管炎とその周囲に網膜浮腫と点状出血があり,周辺部に顆粒状の小滲出斑があった(図1a).同日施行した光干渉断層撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査で黄斑部網膜に浮腫があった(図1b).血液検査では可溶性CIL-2レセプターがC735CU/mlと高値であり,IgGC277Cmg/dl,CIgAC13Cmg/dl,CIgM4Cmg/dlと低下し,白血球数はC4,300/ul(好中球数C2,021/ul,リンパ球C1,785/ul,好塩基球C494/ul)と低下していた.CMV抗体(CF法)は陰性だった.眼底所見およびCDLBCLに対する化学療法中であることからCCMV網膜炎・周辺部顆粒型と診断し,ガンシクロビル点滴C600Cmg/日を開始した.治療開始後,左眼矯正視力は初診日をCDay0としてCDay13にC1.0と改善し,眼内の炎症が寛解したため点滴を終了し,バルガンシクロビル塩酸塩C1,800mg/日の内服治療に切り替えた.Day17には左眼矯正視力1.2,中心窩下方の網膜下浮腫と視細胞内節/外節ラインの欠損は残存するが(図1c),白色病変は縮小して中心部の出血が減少した(図1d).Day53には左眼矯正視力はC1.5,眼底の白色病変は消失し血管炎も消炎したため内服加療を終了した.しかしながら,Day96に左眼歪視が出現して矯正視力はC0.3に低下し,左眼の黄斑部下方に白色病変と周辺部耳側に点状出血が再度出現した.CMV網膜炎の再発と診断し,点滴加療・内服加療を再開した.Day133にて左眼の炎症は寛解したが矯正視力はC0.5だった(図1e,f).〔症例2〕76歳,男性.近医眼科で増殖糖尿病網膜症にて経過観察をしていたが,糖尿病はCHbA1cがC9.11%と管理不良だった.左眼視力低下で近医を受診したところ,左眼の高眼圧と前房内炎症があり当科に紹介となった.初診時,矯正視力は右眼C1.2・左眼指数弁,眼圧は右眼C14.0CmmHg・左眼C36.0CmmHg,左眼は前房内の炎症細胞浸潤と虹彩および隅角に新生血管があり,眼底は硝子体出血のため透見不能だった.血液検査ではCHbA1c9.6%,血糖C411Cmg/dlと高値であり,白血球数は8,500/ul(好中球数C5,049/ul,リンパ球C2,839/ul,好塩基球612/ul)だった.ベバシズマブC0.05Cmlを術前に硝子体内投与して硝子体手術を施行したが,黄斑部に黄白色滲出斑と周辺部の点状出血があった(図2).また,術中採取した硝子体検体からCCMV-DNAが検出され(4.37C×104copy),眼底所見と合わせてCCMV網膜炎・後極部劇症型と診断した.初診日をCDay0としてCDay8よりガンシクロビル点滴C600Cmg/日を開始したところ網膜血管炎とフィブリンが改善し,Day41にバルガンシクロビル塩酸塩C900Cmg/日内服治療に切り替えてCDay46に治療終了とした.Day100に右眼の歪視が出現し,右眼眼底に網膜血管の白線化と黄斑部耳側の黄白色病変があった(図3).右眼の前房水からもCPCRにてCCMV-DNAが検出(4.20C×104copy)されたため,右眼にもCCMV網膜炎・後極部劇症型が発症したと診断した.バルガンシクロビル塩酸塩の内服加療で炎症が寛解し,網膜病変が消失したので内服加療を終了して経過観察とした.しかし,Day284に右眼に再度炎症が出現したため内服加療を再開したが,病変周囲の網膜色調が悪化して網膜.離が出現したため,Day317に右硝子体手術・網膜復位術を施行した.経過中も血糖図1症例1の左眼の眼底所見と光干渉断層計(OCT)所見初診時,左眼底に血管炎および周囲の網膜浮腫と点状出血,および周辺部に顆粒状の小滲出斑,星状硝子体症があり(Ca),OCTで黄斑部に網膜浮腫があった(Cb).Day17にて,白色病変中心および周辺部に認めていた出血が改善し病変も縮小した(Cc).OCTでは視神経細胞内節/外節ラインの障害は残存するものの,黄斑部の網膜浮腫は改善した(Cd).最終受診時(Day133),血管炎は寛解し点状出血が消失,黄斑部網膜浮腫は消失した(Ce)が視神経細胞内節/外節ラインは欠損したままであった(Cf).管理は9.11%と管理不良のままだった.あった.CMV抗原陽性がC5例中C2例,CMV抗体測定は検CII結果査を実施したのはC5例中C2例であり,IgG陽性がC1例,IgM陽性がC1例であった(表2).5例の発症時平均年齢はC59.8C±10.1歳,全例男性で平均経CMV網膜炎の病型は後極部劇症型がC6眼,周辺部顆粒型過観察期間はC20.9C±32.2カ月だった.原疾患は化学療法中が2眼だった.病変部位はZone1が3眼,Zone2が3眼,の悪性リンパ腫C4例,コントロール不良の糖尿病C1例であっCZone3がC2眼だった.視神経乳頭炎は後極部劇症型の病巣た.平均白血球数はC4,460C±2,399/ul,平均好中球数はC2,532部位がCZone1のC1例C1眼を除いたC5例C7眼で生じており,C±1,390/ul,平均リンパ球数はC1,832C±1,171/ulだった(表網膜.離は後極部劇症型の病巣部位がCZone3だったC1例C1C1).眼だった(表3).血液検査結果はCCD4Tリンパ球を測定したのはC5例中C3寛解期に視力が改善したのはC2例C3眼のみであり,視力が例であり,そのうちリンパ球数まで測定したのはC1例のみで不変だったのはC2例C2眼,悪化した症例はC3例C3眼だった.図2症例2の左眼の眼底写真図3症例2の右眼の眼底写真黄斑部に黄白色滲出斑と周辺部の点状出血があった.網膜血管の白線化と黄斑部耳側に黄白色病変があった表1各症例の年齢・性別・経過観察期間・原疾患および免疫状態症例年齢(歳)性別経過観察期間(月)原疾患白血球数(/uCl)好中球数(/uCl)リンパ球数(/uCl)C1C75男C5マントル細胞リンパ腫C4,400C2,700C1,800C2C76男C36糖尿病C8,500C5,000C3,600C3C50男C84悪性リンパ腫C1,800C930C580C4C67男C11濾胞性リンパ腫C2,300C1,700C2,600C5C57男C3濾胞性リンパ腫C5,300C2,200C580表2各症例の血液検査および前房水PCR検査結果症例CD4T細胞(%/ul)CMV抗原CCMVIgGCCMVIgG前房水中のCCMV-DNAPCR結果1C7.5/.陽性C.C.陽性(左C.右C2.91C×106)C2C22.4/.陰性陰性陽性陽性(左C4.27C×104右C4.20C×104)C3C./.陰性C.C.陰性C4C5.9/120陰性C.C.C.C5C./.陽性陽性陰性C.C表3各眼の病型・病変部位と所見・小数視力症例病眼病型病変部位視神経乳頭炎網膜.離発症時視力寛解期視力1右後極部劇症型CZone3有有C0.1C0.2左後極部劇症型CZone2有無C0.4C0.8C2右後極部劇症型CZone2有有C0.9C0.05左後極部劇症型CZone1有無指数弁光覚弁なしC3右後極部劇症型CZone1無無C0.5C1.2左後極部劇症型CZone2有無C1.0C1.0C4右周辺部顆粒型CZone1有無C0.9C0.2C5左周辺部顆粒型CZone3有無C0.5C0.5C表4増悪時・寛解時の平均logMAR全体CZone1CZone2CZone3発症時C0.64±1.03C0.50±0.96C0.15±0.18C0.65±0.35寛解時C0.83±1.38C0.76±1.55C0.47±0.59C0.50±0.20表5硝子体手術の有無と転帰症例病眼硝子体手術転帰1右実施せずDay190原疾患で死亡左実施せずC2右再発後実施CMV網膜炎が再発し,急性網膜壊死に近い状態となったため硝子体手術を施行した左実施せず炎症は寛解するが視力改善せずC3右実施せず経過良好左実施せず経過良好C4右実施せずDay96CMV網膜炎が再発したC5左実施せずDay261原疾患で死亡した発症時平均ClogMARはC0.64C±1.03,寛解期平均ClogMARでC0.83±1.38と有意な変化はなかった.病型別にみると,後極部型の発症時平均ClogMARはC0.02C±0.88で,寛解期ClogMARはC0.15C±1.32であり,周辺部顆粒型の発症時平均ClogMARはC0.17C±0.13,寛解期ClogMARはC0.06C±0.24だった.部位別にみると,Zone1の発症時平均ClogMARはC0.50C±0.96,寛解期ClogMARはC0.76C±1.55,Zone2の発症時平均ClogMARはC0.15C±0.18,寛解期ClogMARはC0.47C±0.59,Zone3の発症時平均ClogMARはC0.65C±0.35,寛解期ClogMARはC0.50C±0.20だった(表4).2例は原疾患により死亡し,2例C3眼のCCMV網膜炎はいったん治療によって寛解したが治療を終了すると平均C1.8カ月(1.1.3.2カ月)で再発し,そのうちC1例C1眼は再発時に網膜.離が生じたため硝子体手術を施行した.寛解期視力および生命予後が良好だったのはC1例C2眼だった(表5).CIII考按今回,AIDS以外の原疾患による免疫能低下でCCMV網膜炎をきたしたC5例C8眼の臨床所見や予後をまとめた.全例男性で病型は後極部劇症型がC3例C6眼,周辺部顆粒型がC2例C2眼であり,視力改善例はC1例C2眼(原疾患はCDLBCL)のみでC5眼中C3眼はCCMV網膜炎の治療が終了すると炎症が再燃して視力は不良となり,2例は原疾患により死亡した.AIDS患者でのCCMV網膜炎は主要な合併症であり,1996年に登場した多剤併用療法(highlyCactiveCantiretroviraltherapy:HAART)導入以前にはCAIDS患者のC37%に発症し6),AIDS患者最大の失明原因とされた7).HAARTにより,AIDS患者におけるCCMV網膜炎の発症率は導入前のC10.20%になったと報告されている8).濱本らは,HAARTを(111)施行したCAIDS患者C261例のうちCHAART導入前にC23例,導入後にC16例にCCMV網膜炎をきたし,最終視力C0.2以下はC7眼(15%)であったこと,HAART導入後に発症した症例のほうが導入前発症例に比べて軽症例が多く視力予後が良かったことを報告している9).本研究では寛解期視力がC0.2以上だったのはC1例C2眼(25%)であり,4例C6眼(75%)は最終視力がC0.2未満だった.AIDSは治療によって免疫能が改善するが,AIDS以外の原疾患は治療自体がむずかしく免疫能賦活化が困難なために,CMV網膜炎が悪化・再燃しやすい可能性が示唆される.病巣と正常網膜の境界部分にみられる顆粒状の病変はCgranularborderとよばれる.滲出斑は徐々に拡大するが病巣の中心部は萎縮傾向を示し,約C20%の症例で網膜.離を併発する4).また,CMV網膜炎の視力障害は,Zone1では黄斑部と視神経の障害,Zone3では網膜.離が生じることが原因であると報告されている10).今回,Zone1のC3眼中C1眼は視力が改善して治療後も炎症の再燃がなく経過良好だったが,2眼は治療後に炎症が再燃して視力予後が不良だった.CZone2のC3眼中C2眼は視力が改善したがC1例は原疾患により死亡した.Zone3のC2眼中C2眼はC2例とも治療後も視力が改善せず原疾患により死亡した.5例C8眼中,Zone3のC1眼(12.5%)でのみ網膜.離が生じたが,この結果はCStew-artの報告6)と矛盾しなかった.5例中C1例は内服加療を終了すると患眼だけでなく健眼にもCCMV網膜炎が発症した.CMV網膜炎は通常片眼性で発症するが,未治療または治療が奏効しないと両眼に発症すると報告がある10).AIDSではCHAARTにより白血球数が回復して免疫能も改善するが1,6,7),今回のようにCAIDS以外の原疾患による免疫能低下状態でCCMV網膜炎が発症した症例あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C613は免疫状態が初発時も再発時も抑制状態であり,原疾患の治療を中断すると健眼も含めCCMV網膜炎が再燃する可能性がある.症例C2は,一般的には免疫能が改善しやすい糖尿病が原疾患であるが,経過中の血糖管理がCHbA1cがC9.11%台と一貫して不良であり,そのため免疫能が改善しなかったことが再燃の原因と考えられる.しかしながら本研究の症例数は少なく,今後多くの症例数を対象とした検討が必要と考えられる.CIV結論AIDS以外の原疾患に合併したCCMV網膜炎C5例C8眼の臨床所見と特徴について検討した.AIDS以外の免疫能低下状態の患者に生じたCCMV網膜炎は治療後も再燃が多く,生命予後のみならず視力予後も不良である可能性が示唆された.文献1)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20152)園田康平,川島秀俊,大黒伸行ほか:ヘルペス感染によるぶどう膜炎,所見から考えるぶどう膜炎(園田康平,後藤浩),p175-202,医学書院,20133)関本慎一郎,村上昌,今村周ほか:後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併したサイトメガロウイルス網膜炎のC1例.あたらしい眼科19:1359-1362,C20024)TakayamaK,OgawaM,MochizukiMetal:Cytomegalo-virusretinitisinapatientwithproliferativediabetesreti-nopathy.OcularImmunolIn.ammC21:225-226,C20135)YamasakiCS,CKohnoCK,CKadowakiCMCetal:Cytomegalovi-rusretinitisinrelapsedorrefractorylow-gradeBcelllym-phomaCpatientsCtreatedCwithCbendamustine.CAnnCHematolC96:1215-1217,C20176)VrabecTR:PosteriorsegmentmanifestationsofHIV/AIDS.SurvOphthalmolC49:131-157,C20047)Foscarnet-GanciclovirCCytomegalovirusCRetinitisTrial:5.CClinicalCfeaturesCofCcytomegalovirusCretinitisCatCdiagnosis.CStudiesCofCocularCcomplicationsCofCAIDSCResearchCGroupCinCcollaborationCwithCtheCAIDSCClinicalCTrialsCGroup.CAmJOphthalmolC124:141-157,C19978)JabsCDA,CAhujaCA,CVanCNattaCMCetal:CourseCofCcyto-megalovirusretinitisintheeraofhighlyactiveantiretro-viraltherapy:.ve-yearCoutcomes.COphthalmologyC117:C2152-2161,C20109)濱本亜裕美,建林美佐子,上平朝子ほか:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)患者のCHAART導入前後の眼合併症.日眼会誌116:721-729,C201210)StewartMW:OptimalCmanagementCofCcytomegalovirusCretinitisCinCpatientsCwithCAIDS.CClinCOphthalmolC4:285-299,C2010C***

両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1330.1334,2019c両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例阿部竜大佐藤智人高山圭竹内大防衛医科大学校眼科学教室CACaseofPrimaryDi.useLargeBCellLymphomaoftheEthmoidSinusIn.ltratingtheOpticCanalTatsuhiroAbe,TomohitoSato,KeiTakayamaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(DLBCL)のC1例を報告する.症例:68歳,男性.数週間前より徐々に進行する右眼視力低下で近医眼科を受診し,右眼視神経炎疑いで当院紹介となった.初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2.相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は右眼陽性.限界フリッカ値(CFF)は右眼C10CHz,左眼C27CHzであり,前眼部と眼底に特記すべき異常はなかった.複視もなく,眼球突出・眼位も異常なく,眼球運動も正常で眼球運動時痛もなかった.コンピュータ断層撮影で右側が大きい篩骨洞内の腫瘤性病変と右眼視神経管内浸潤があり,生検でCDLBCLと診断された.左眼も同様に視神経管に浸潤し矯正小数視力は右眼光覚弁・左眼C0.3まで低下し視野障害も悪化したが,化学療法による腫瘍の縮小と視神経管浸潤の消失に合わせて改善し,RAPDは右眼陽性が残存したが矯正視力は右眼C0.8,左眼C1.5,CFFは右眼C23CHz,左眼35CHzに回復した.結論:視神経管に浸潤した篩骨洞原発CDLBCLを経験した.視神経障害のみでも腫瘍性病変を検索することが重要である.CPurpose:Toreportacaseofprimarydi.uselargeBcelllymphoma(DLBCL)oftheethmoidsinusin.ltratingtheopticcanalanddefectingbilateralopticnerves.Casereport:A68-year-oldmalewasreferredtoourdepart-mentwithsubacutevisualacuitydefectandvisual.elddefectinhisrighteye.At.rstpresentation,visualacuitywas20/30intherighteyeandrelativea.erentpupillarydefectwaspositiveintherighteye.Duringthecourse,visualCacuitiesCinCbothCeyesCworsened.CComputerizedCtomographyCdisclosedCaCmassCinCtheCethmoidCsinus,CwithCin.ltrationtotherightopticcanal.AfterdiagnosisasprimaryDLBCLbypathologicalexamination,systemicche-motherapyCwasCinitiatedCandCvisualCacuityCimproved.CConclusion:ItCisCimportantCtoCsearchCforCneoplasticClesionsCwithopticnervedisorder.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1330.1334,C2019〕Keywords:視神経障害,視神経管,悪性リンパ腫,化学療法.opticnervedisorder,opticcanal,malignantlym-phoma,chemotherapy.Cはじめに悪性リンパ腫は通常リンパ節ないしは生理的にリンパ組織をもつ臓器に発生し,頭頸部悪性腫瘍における悪性リンパ腫の占める比率は約C10%とされる1,2).頭頸部領域の悪性リンパ腫の好発部位は頸部リンパ節3)やCWaldeyer輪4)だが典型的なリンパ節組織を欠く鼻副鼻腔にも悪性リンパ腫は発生する可能性があり,副鼻腔悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.そのなかで,篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).今回,両眼の視神経管に浸潤したことによって視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん〔別刷請求先〕高山圭:〒359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANC1330(108)abcd図1初診時の眼底写真とCT画像両眼底・視神経乳頭に異常はなかった(Ca,b)が,CT検査にて両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右視神経管浸潤(.)と右眼眼窩内浸潤があった(Cc).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(C.,d).性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(di.uselargeBcelllym-phoma:DLBCL)のC1例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.1カ月前から右眼の視力低下が出現し徐々に増悪するため近医を受診した.矯正小数視力が右眼C0.8・左眼C1.0,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が右眼陽性,限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)が右眼低下していたとのことで,右眼視神経炎疑いで当院に紹介となった.既往歴として,62歳時に脳梗塞の既往があるが副鼻腔炎はなかった.当院初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2,眼圧は右眼11.0CmmHg,左眼C10.5CmmHg,RAPDは右眼陽性,対座法で右眼耳側の視野狭窄があり,CFFは右眼C10CHz,左眼C27Hzと右眼が優位に低下していた.眼瞼腫脹はなく,眼位は正位,眼球運動は正常で眼球運動痛はなかった.両眼の前眼部・中間透光体・眼底に特記すべき異常なく,視神経乳頭も色調正常・境界明瞭で腫脹はなかった(図1a,b).右眼の球後視神経障害を疑い,占拠性病変の除外診断のために当日に緊急でコンピュータ断層撮影(CT)を施行したところ,両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右眼視神経管浸潤,右眼眼窩内浸潤があった(図1c).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(図1d).右視力障害・視野障害の原因として篩骨洞悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑い,耳鼻咽喉科にて内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行し病理検査を施行したところ,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型で核/細胞質(N/C)比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し,免疫染色にてCCD20,CD10,bcl-2が陽性だった(図2a.d).転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外の有意な集積はなかった(図2e,f).以上から,篩骨洞原発のCDLBCLと診断した.上記精査中のC10日間で視力ef図2病理画像と陽電子放射断層撮影の結果強拡大像(400倍)にて,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型でCN/C比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し(Ca),免疫染色にてCCD20(b),CD10(Cc),bcl-2(Cd)が陽性だった.転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外(Ce)の有意な集積はなかった(Cf).スケールバー:50Cμm.障害・視野障害が増悪し,矯正小数視力が右眼光覚弁,左眼に対してシクロフォスファミド・ドキソルビシン・ビンクリ0.3,CFFは右眼測定不可,左眼C25CHzと減少,CT検査にスチン・プレドニゾロンからなるCCHOP療法を施行したとて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視ころ,眼窩内浸潤と視神経管浸潤の縮小(図3c)に伴い視神経管への浸潤がみられ(図3a),Goldmann視野検査にて力・視野障害が改善した.治療開始C1カ月にてCRAPDは右右眼測定不能,左眼多数の暗点が出現した(図3b).DLBCL眼陽性と残存したが,矯正小数視力が右眼C0.8,左眼C1.5,図3治療前後でのCT画像とGoldmann視野検査結果CTにて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視神経管への浸潤がみられ(Ca),Goldmann視野検査にて右眼は検査不能,左眼に多数の暗点が出現した(Cb).化学療法で腫瘍が縮小し視神経管浸潤が消失すると(Cc),Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(Cd,e)CFFが右眼C22CHz,左眼C35CHzに改善し,治療C2カ月にて,矯正小数視力が右眼C1.0,左眼C1.0,CFFが右眼C20CHz,左眼C36CHz,Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(図3d,e).現在,血液内科で化学療法を継続している.CII考按今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見された,視神経管に浸潤し視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLの1例を経験した.頭頸部悪性腫瘍全体のなかで悪性リンパ腫は約C10%とされ1,2),副鼻腔原発悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.以上から,頭頸部悪性腫瘍のうちで副鼻腔原発悪性リンパ腫は1.3%(10%×10.25%)と予想される.金田らはC36例の副鼻腔原発悪性リンパ腫の症例検討を行い,DLBCLとCNK/Tcelllym-phomaがそれぞれ半数を占め,さらにCCT検査にて悪性リンパ腫に特徴的とされる浸透性進展像はあまり示さずに非特異的所見が多いことを報告した13).本症例では病理検査でDLBCLと確定診断されたが,CT検査にて浸透性進展像を示した点と両眼に進展したために両眼に症状が出現した点が既報とは違う点だった.浸透性進展がみられたため,視神経への圧迫による症状が出現するとともに急速に増悪したと考えられる.篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).本症例では,視神経障害のみが出現,増悪し,その他の神経症状や眼窩部症状は出現しなかった.CT検査でCDLBCLが両視神経管を経由して眼窩先端部に浸潤していたことを確認したが,眼窩先端部に浸潤すると多数の神経症状や血流圧迫による眼窩部腫脹が出現すると考えられる.しかしながら,解剖学的に視神経と非常に密に接している関係にある視神経管への浸潤による視神経圧迫か視神経への浸潤によって,眼窩先端部症候群の症状が出現する前に視神経障害が出現したと考えられる.CHOP療法が奏効したため視神経障害による症状が改善し他の症状は出現しなかったが,もし同療法の効果が不十分な場合には他の神経症状・眼瞼腫脹も出現したと予測される.一般的に視神経症の鑑別診断には造影CMRIが必要とされている14).本症例では,まず占拠性病変の除外のために緊急で検査を行う必要があった.当院では緊急で核磁気共鳴画像検査(MRI)を撮影できないため,CT検査を選択して副鼻腔内腫瘍を発見した.後日,耳鼻科での腫瘍生検前にCMRIを施行して,篩骨洞原発CDLBCLの視神経管への浸潤を確認するとともに視神経を確認している.CIII結論今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見され,両眼の視神経管に浸潤することによって視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLのC1例を経験した.視神経障害のみ場合でも悪性リンパ腫によるものの可能性があるため,球後視神経炎が疑われる場合も画像検査にて腫瘍性病変を検索することが重要である.文献1)久保田修,榎本仁美,善浪弘善ほか:症例をどうみるか鼻副鼻腔悪性リンパ腫のCCT画像の検討.JOHNSC17:C1407-1411,C20012)丹生健一:頭頸部がん.日本癌治療学会誌C50:335-336,C20153)若杉哲郎,三箇敏昭,武永芙美子ほか:頸部リンパ節生検術C114例の臨床的検討.頭頸部外科24:101-107,C20144)長谷川昌宏,古謝静男,松村純ほか:当科におけるワルダイエル輪リンパ腫型CATLのC15症例の検討.日本耳鼻咽喉科学会会報103:1101,C20005)古謝静男,糸数哲郎,新濱明彦ほか:当科における鼻・副鼻腔悪性リンパ腫症例の検討.耳鼻と臨床46:37-40,C20006)後藤理恵子,米崎雅史:三叉神経の単神経障害を初発症状とした悪性リンパ腫例.日本鼻科学会会誌56:103-109,C20177)高橋ありさ,川田浩克,錦織奈美ほか:眼症状を伴った小児の副鼻腔原発CBurkittリンパ腫のC1例.眼臨紀C11:349-352,C20188)山本一宏,神田智子,中井麻佐子:Tolosa-Hunt症候群様症状を呈し,篩骨洞病変で診断された悪性リンパ腫のC1症例.日本鼻科学会会誌41:19-22,C20029)浅香力,三戸聡:外転神経麻痺で発症した蝶形骨洞悪性リンパ腫例.耳鼻咽喉科臨床補冊:48-52,201010)米澤淳子,安東えい子,手島倫子ほか:急速な増大を示した眼窩悪性リンパ腫のC1例.眼臨C97:107-109,C200311)野澤祐輔,佐藤多嘉之,十亀淳史ほか:非ホジキンリンパ腫の一症例.北海道農村医学会雑誌41:100-102,C200912)三浦弘規,鎌田信悦,多田雄一郎ほか:当院における鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍の検討.頭頸部癌39:21-26,C201313)金田将治,関根基樹,山本光ほか:鼻副鼻腔原発悪性リンパ腫の検討下鼻甲介腫大を呈する症例の紹介.日本耳鼻咽喉科学会会報121:210-214,C201814)毛塚剛司:【多発性硬化症最前線】視神経炎の鑑別と治療について.神経眼科35:33-40,C2018***

悪性リンパ腫患者に発症した前眼部炎症を伴うサイトメガロウイルス網膜炎の1例

2017年6月30日 金曜日

《第53回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科34(6):875.879,2017c悪性リンパ腫患者に発症した前眼部炎症を伴うサイトメガロウイルス網膜炎の1例谷口行恵佐々木慎一矢倉慶子宮﨑大山﨑厚志井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学分野ACaseofCytomegalovirusRetinitiswithAnteriorChamberIn.ammationinaPatientwithMalignantLymphomaYukieTaniguchi,Shin-ichiSasaki,KeikoYakura,DaiMiyazaki,AtsushiYamasaki,YoshitsuguInoueDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)網膜炎は免疫不全状態の患者に発症し,通常は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しい.今回,前眼部炎症を伴うCMV網膜炎の1例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.悪性リンパ腫に対する化学療法中に両眼の霧視にて受診.両眼に前眼部炎症と眼底に出血を伴う白色病変を認めた.Real-timepolymerasechainreaction(PCR)法で前房水中1.4×106コピー/mlのCMV-DNAを認め,CMV網膜炎と診断.ガンシクロビル点滴および硝子体内注射により治療を開始し,前眼部炎症は速やかに消退.網膜病変も3カ月半後には鎮静化した.経過中real-timePCR法にて前房水中のCMV-DNAを測定した.発症時に強い前眼部炎症を伴っていたことは,本症例が後天性免疫不全症候群のように重篤な免疫抑制状態になかったため,免疫回復ぶどう膜炎と類似した反応が起こった可能性が推測された.鑑別診断と治療効果のモニタリングにreal-timePCR法が有用と思われた.Cytomegalovirus(CMV)retinitisoccursinimmunocompromisedpatientsandusuallydoesnothavesigni.cantin.ammatoryreactionssuchasanteriorchamberin.ammationorvitritis.WereportacaseofCMVretinitiswithanteriorchamberin.ammation.An80-year-oldman,whohadunderwentchemotherapyformalignantlymphoma,wasreferredtouswiththecomplaintofbilateralblurredvision.Botheyesshowedanteriorchamberin.ammationandwhiteretinallesionwithhemorrhage.HewasdiagnosedasCMVretinitis,because1.4×106copies/mlofCMV-DNAwasdetectedintheaqueoushumorbyreal-timepolymerasechainreaction(PCR)method.Treatmentwithsystemicandintraocularganciclovirwasstarted,andanteriorchamberin.ammationhadbecomeregressedpromptly,andretinitishadbecomesubsidedwithin3andahalfmonths.Duringthecourse,CMV-DNAamountinaqueoushumorhadbeenmonitoredbyreal-timePCRmethod.Theanteriorchamberin.ammationwasobservedbecausethiscasewasnotsoseverelyimmunocompromisedlikeacquiredimmunode.ciencysyndrome.Thismani-festationispresumedtobesimilartoimmunerecoveryuveitis.Real-timePCRwasusefulfordiagnosingCMVret-initisandmonitoringthee.ectofthetherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):875.879,2017〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,悪性リンパ腫,前眼部炎症,real-timepolymerasechainreaction(PCR)法.cytomegalovirusretinitis,malignantlymphoma,anteriorchamberin.ammation,real-timepolymerasechainreaction(PCR)method.はじめに症候群(acquiredimmunode.ciencysyndrome:AIDS)患サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus:CMV)網膜炎者においては主たる眼合併症である.CMV網膜炎はウイルは免疫不全状態にあるものに発症し,とくに後天性免疫不全スの直接的な網膜での増殖による病変であり,通常は前眼部〔別刷請求先〕谷口行恵:〒683-0826鳥取県米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学分野Reprintrequests:YukieTaniguchi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishicho,Yonago-shi,Tottori683-8504,JAPAN炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しいといわれている1).しかし,近年ではAIDS患者のみならず,血液腫瘍性疾患や臓器移植,抗癌剤治療による免疫不全に伴うものや,明らかな免疫不全のない健常者といった,非AIDS患者におけるCMV網膜炎の報告も多数ある2.9).さらに,非AIDS患者におけるCMV網膜炎では,眼内炎症などの多様な臨床所見が認められている2,4,6.8).今回,筆者らは悪性リンパ腫に対する化学療法中に前眼部炎症を伴うCMV網膜炎を発症した1例を経験したので報告する.I症例患者:80歳.男性.主訴:両眼の霧視.既往歴:60歳代,両眼白内障手術.79歳,悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫).現病歴:近医血液内科で悪性リンパ腫に対し,2015年4月下旬よりリツキシマブ,エトポシド,プレドニゾロン,ビンクリスチン,シクロフォスファミド,ドキソルビシンを用いた化学療法(R-EPOCH療法)を施行中.著明な骨髄抑制を認め,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colonystimulatingfactor:G-CSF)の投与および輸血を施行しながら化学療法を継続していた.2015年6月下旬より両眼の霧視あり.10日後に近医眼科受診.両眼とも前眼部に角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を伴う前房内炎症所見を認め,眼底にはCMV網膜炎を強く疑わせる白色病変が著明であった.翌日当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼0.07(0.8),左眼0.09(1.2).眼圧は右眼16mmHg,左眼12mmHgであった.角膜内皮細胞密度は右眼1,610/mm2,左眼1,988/mm2.両眼に右眼優位に小さな豚脂様KPと前房内細胞を認めた(図1).右眼眼底には,下方アーケード血管に沿って出血を伴う白色病変を認めた.また,鼻側上方には顆粒状の白色病変を認め,病型としては後極部劇症型と周辺部顆粒型であった(図2a).左眼眼底には,上方アーケード外にわずかに出血斑を伴う白色病変を認め,病型としては周辺部顆粒型であった(図2b).両眼ともに硝子体中に細胞を認めた.右眼の前房水よりreal-図1初診時前眼部写真a:右眼.小さな豚脂様角膜後面沈着物を認める.b:左眼.小さな豚脂様角膜後面沈着物を軽度認める.図2初診時眼底写真a:右眼.後極部劇症型+周辺部顆粒型病変.b:左眼.周辺部顆粒型病変.ab右眼左眼図3治療中の眼底写真a:治療6日目.出血性変化が目立つ.b:治療112日目.病変部位の網膜は極度の菲薄化を残し鎮静化した.timepolymerasechainreaction(PCR)法で1.4×106コピー/mlのCMV-DNAを認めた.なお,前房水中の単純ヘルペスウイルスDNA,水痘帯状疱疹ウイルスDNAは陰性であった.血液検査では白血球数41.7×103/μl,分画は好中球97%,リンパ球1%,単球0%,好酸球1%,好塩基球1%とリンパ球数の低下を認めた.CD4陽性Tリンパ球数は未測定.白血球の著明な増多はG-CSF投与による一時的なものと考えられた.CMV抗原血症検査(CMVアンチゲネミア)は陰性であった.II治療および経過眼底所見および前房水real-timePCRの結果よりCMV網膜炎と診断.全身投与としてガンシクロビル点滴600mg/日(5mg/kg,1日2回)を3週間継続の後,300mg/日(5mg/kg,1日1回)に減量し1週間,その後バルガンシクロビル内服900mg/日に切り替えた.なお,ガンシクロビル投与開始より5日目,6日目の2日間は化学療法による著明な骨髄抑制を認めたため,ガンシクロビルは半量投与とした.局所投与としては,ガンシクロビル750μg/0.15mlの硝子体内注射を両眼に週1回(合計12回)行い,硝子体注射時に前房水を0.1ml採取しreal-timePCRにてCMV-DNA量をモニタした.また,前眼部炎症も伴っていたことより0.5%ガンシクロビル点眼を両眼に1日6回,0.1%ベタメタゾン点眼を両眼に1日4回行った.治療開始2日目より両眼底の出血性変化が目立ち,右眼の後極部劇症型部位はかなりの範囲が出血で覆われ,黄斑下方は網膜下出血となった.治療20日目には両眼ともに白色病変は徐々に消退し,同部位の網膜の菲薄化を認めた.右眼後極の出血も吸収傾向となった.治療112日目には病変部位の網膜は極度の菲薄化を残し鎮静化した(図3).また,化学療法による骨髄抑制のため,治療開始5日目より末梢血中リンパ球数が100/μl台まで一時低下したが,その後のリンパ球数の回復と同時期に硝子体混濁の増強を認めた.なお,前眼部炎症は約1カ月をかけて徐々に軽快し,経過中に眼圧上昇や角膜内皮細胞密度の減少は認めなかった.前房水中CMV-DNA量は,眼底の出血性変化が目立っていた治療開始後8日目時点では右眼が6.8×106コピー/ml,左眼が3.9×106コピー/mlと一時的に増加を認めたが,その後は低下を認め,治療開始91日目の最終の硝子体注射時点では両眼とも1.1×102コピー/mlであった(図4).↑↑入院退院図4治療経過と前房水中CMV.DNA量の推移III考按本症例は悪性リンパ腫に対し化学療法中であり,著明な骨髄抑制が認められていた.2015年6月末の自覚症状が現れた時点での白血球数は,前医のデータより0.8×103/μl(リンパ球26.2%)と低下しており,免疫抑制状態であったことが推察された.眼底所見とreal-timePCRにて前房水中のCMV-DNA高値を認めたため,CMV網膜炎と診断した.CMV網膜炎では,通常は前眼部炎症や硝子体炎などの炎症所見に乏しいといわれているが,本症例では前眼部炎症と硝子体混濁を伴っていた.近年では,非AIDS患者におけるCMV網膜炎の報告も多数あり,重要性を増している4,5,9).柳田らは,2003.2013年の10年間に東京大学医学部附属病院眼科を受診したCMV網膜炎の症例36例53眼につき,臨床像および視力予後の検討をしているが,基礎疾患は36例中22例(61%)を血液腫瘍性疾患,8例(22%)をAIDSが占め,AIDSと血液腫瘍性疾患が大半を占めた.また,36例中糖尿病を有する症例は9例あり,そのうち1例はHbA1c5.9%と血糖コントロール良好で,他に明らかな全身疾患のない患者であったと報告している3).非AIDS患者においては眼内炎症などの多様な臨床所見が認められるとの報告もある.Pathanapitoonらは,非AIDS患者でCMVによる後部ぶどう膜炎あるいは汎ぶどう膜炎を起こした18例22眼の臨床像を検討しているが,18例中13例17眼は免疫抑制状態の患者で,17眼中10眼で汎ぶどう膜炎を認めている.18例中5例5眼は糖尿病または明らかな基礎疾患のない患者であったが,5眼中4眼で汎ぶどう膜炎が認められ,全体としては22眼中14眼(64%)に汎ぶどう膜炎を認めていた.免疫抑制状態の患者の中に非ホジキンリンパ腫は5例含まれていた2).このように明らかな免疫不全が認められない患者を含む非AIDS患者におけるCMV網膜炎では,眼内炎症を認めるなど,典型的なCMV網膜炎とは異なり,より多様な臨床所見を呈する可能性が示唆される.わが国において健常成人に発症したCMV網膜炎の報告でも,前眼部炎症や高眼圧などが認められている6).近年,AIDS患者に対して多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)導入後にCMV網膜炎罹患眼の眼内炎症が悪化することが知られ,免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis:IRU)とよばれる.IRUの発症機序は明確に解明されていないが,HAARTによりCMV特異的T細胞の反応が回復すると,すでに鎮静化したCMV網膜炎病巣辺縁の細胞内でわずかに複製される残存CMV抗原が,免疫反応によりぶどう膜炎を顕在化させるとの説が有力である10).AIDS以外の疾患では免疫機能障害の程度がAIDSと異なっており,IRU様の反応が同時に起きているために眼内炎症が随伴すると推測される7).本症例は悪性リンパ腫に対する化学療法を契機に発症したCMV網膜炎であり,化学療法により一時的に著明な骨髄抑制を生じていた一方で,その後のリンパ球増加もあり,免疫状態は不安定であった.AIDSのように重篤な免疫抑制状態でなかったために,前述のIRUに類似した病態により前眼部炎症と硝子体混濁が生じた可能性が考えられる.治療経過において硝子体混濁が増強した時期と末梢血中リンパ球が増加した時期が一致していたことも矛盾しないと考えられる.なお,治療開始後の一時的な前房水中CMV-DNA量の増加と眼底出血の増加は,眼底の壊死性変化を反映したものと思われたが,治療との関連性は不明である.ただ,緑膿菌による細菌性角膜炎では,治療開始後に免疫反応により一時的に所見が悪化するケースがあることが知られており,免疫不全によるCMV網膜炎と異なり,今回のように免疫が関与しているCMV網膜炎では治療への反応性が単純ではないケースがありうると推測された.以上より,非AIDS患者におけるCMV網膜炎では典型的なCMV網膜炎とは異なり,より多様な臨床所見を呈する可能性を念頭に診療を行う必要があると考えられる.また,完全な免疫不全によるCMV網膜炎では,眼底の所見がそのままCMVの量を反映していると考えられるが,今回の症例のように同時に免疫反応が生じていると,臨床所見がウイルス増殖によるものか,免疫反応によるものか判断することがむずかしい.そのような場合,ウイルスの有無だけでなく量的評価のできるreal-timePCR法が診断および治療効果の評価において有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)竹内大:ウイルス性内眼炎(ぶどう膜炎).あたらしい眼科28:363-370,20112)PathanapitoonK,TesabibulN,ChoopongPetal:Clinicalmanifestationsofcytomegalovirus-associatedposterioruveitisandpanuveitisinpatientswithouthumanimmuno-de.ciencyvirusinfection.JAMAOphthalmol131:638-645,20133)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科32:699-703,20154)上田浩平,南川裕香,杉崎顕史ほか:非Hodgkinリンパ腫患者に発症した虹彩炎と高眼圧を併発したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科31:1067-1069,20145)相馬実穂,清武良子,野村慶子ほか:サイトメガロウイルス網膜炎を発症した成人T細胞白血病の1例.あたらしい眼科26:529-531,20096)堀由起子,望月清文:緑内障を伴って健常成人に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科25:1315-1318,20087)吉永和歌子,水島由佳,棈松徳子ほか:免疫能正常者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎.日眼会誌112:684-687,20088)北善幸,藤野雄次郎,石田政弘ほか:健常人に発症した著明な高眼圧と前眼部炎症を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の1例.あたらしい眼科22:845-849,20059)多々良礼音,森政樹,藤原慎一郎ほか:骨髄非破壊的同種骨髄移植後にサイトメガロウイルス網膜炎を発症した成人T細胞白血病.自治医科大学紀要30:81-86,200710)八代成子:HIV感染症に関連した眼合併症.医学と薬学71:2281-2286,2014***

涙囊悪性腫瘍6例の診断と治療

2015年7月31日 金曜日

《第3回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科32(7):1041.1045,2015c涙.悪性腫瘍6例の診断と治療有田量一吉川洋田邉美香大西陽子高木健一石橋達朗九州大学医学研究院眼科学講座DiagnosisandManagementin6CasesofLacrimal-SacMalignantTumorRyoichiArita,HiroshiYoshikawa,MikaTanabe,YokoOhnishi,Ken-ichiTakagiandTatsuroIshibashiDepartmentofOphthalmology,KyushuUniversity涙.悪性腫瘍は比較的まれな疾患ではあるが,高悪性度な場合もあり原発性鼻涙管閉塞症との鑑別が重要となる.本稿では平成8年2月.平成25年8月に当院で涙.悪性腫瘍と診断された6例について,初発症状(主訴),診断,治療,予後を検討した.主訴は流涙3例,涙.部の発赤腫脹2例,涙.部痛1例であった.視診,触診および皮膚所見から疑ったものが2例,涙.鼻腔吻合術時に発見されたものが1例,血性流涙1例,CTで偶然発見されたものが2例であった.診断は涙.部悪性リンパ腫3例,涙.扁平上皮癌1例,涙.部乳頭腫から悪性転化した粘表皮癌2例であった.リンパ腫は放射線単独療法もしくは化学療法との併用療法,扁平上皮癌は術前,術後に放射線と眼窩内容除去術,粘表皮癌は腫瘍全摘を行った.粘表皮癌の1例のみで頸部リンパ節に転移を認めた.鼻涙管閉塞症を診断,治療する際には,涙.悪性腫瘍の可能性に留意が必要である.Lacrimal-sacmalignanttumorsarerelativelyrarediseases.Itisdifficulttodifferentiatebetweenalacrimal-sacmalignanttumorandprimarynasolacrimalobstruction.Inthisstudy,weinvestigatedtheinitialsymptoms(primarycomplaint),diagnosis,treatment,andprognosisin6casesoflacrimal-sacmalignanttumorseeninourhospitalfromFebruary1996toAugust2013.Primarycomplaintsincludedepiphora(3cases),rednessandswelling(2cases),andpainaroundthelacrimalsac(1case).Indicatorsusedfortumordiagnosiswereskinfindings(2cases),anintraoperativefindingofdacryocystorhinostomy(1case),abloodyepiphora(1case),andcomputedtomographyfindings(2cases).Diagnosesincludedmalignantlymphomain3cases,squamouscellcarcinomain1case,andmucoepidermoidcarcinomain2cases.Treatmentofthelacrimal-sacmalignanttumorincludedradiationonly,combinedradiation/chemotherapy,andwideresection.Onecaseofmucoepidermoidcarcinomametastasizedtothecervicallymphnode.Thefindingsofthisstudyshowthatspecialattentionshouldbeplacedonthepossibilityofalacrimal-sacmalignanttumorwhentreatingnasolacrimalobstruction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(7):1041.1045,2015〕Keywords:涙.悪性腫瘍,悪性リンパ腫,粘表皮癌,扁平上皮癌,治療.lacrimalsacmalignanttumor,malignantlymphoma,mucoepidermoidcarcinoma,squamouscellcarcinoma,treatment.はじめに涙.腫瘍は比較的まれであるが,55.72%が悪性腫瘍であり,好発年齢は中高年に多い1,2).涙.悪性腫瘍は上皮性と非上皮性に大きく分けられ,上皮性では扁平上皮癌・粘表皮癌,非上皮性では悪性リンパ腫や悪性黒色腫などが報告されている1,2).涙.悪性腫瘍は予後不良な場合もあり,正確な診断と早期治療が重要となる.今回,筆者らは,当院で診断された涙.悪性腫瘍について鑑別点や治療予後について検討を行ったので報告する.I症例対象は1996年2月.2013年8月に涙.悪性腫瘍と診断された6例.男性3例,女性3例,年齢は41.90歳で,病名は乳頭腫から悪性転化した粘表皮癌2例,悪性リンパ腫3例〔粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)2例,びまん性大細胞リンパ腫(DLBCL)1例〕,〔別刷請求先〕有田量一:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学医学部眼科医局Reprintrequests:RyoichiArita,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-Ku,Fukuoka812-8582,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(119)1041 DD扁平上皮癌1例であった.各疾患の症例を呈示する.〔症例1〕90歳,男性.現病歴:2004年より右)流涙症状があり,2008年近医にて流涙症状に対して涙.鼻腔吻合術鼻外法が予定された.鼻外法は術中直視下に涙.を観察することでき,涙.部に腫瘍性病変が確認された.涙.全体を周囲組織から.離し,可及的に亜全摘が行われた.術中採取した病理組織では悪性所見なく乳頭腫の所見であった(図1A).2011年3月腫瘍再発を認め,当院初診.腫瘍は鼻涙管を経由し,下鼻道.上顎洞内側壁付近へ進展を認めた.鼻腔からの生検にて扁平上皮癌様の組織に粘液細胞を有する組織であり(図1B),「粘表皮癌」と診断した.2011年8月鼻涙管を含めた拡大切除を行い,その後再発を認めていない.〔症例2〕41歳,男性.現病歴:主訴は涙.部痛であり,1996年2月初診時左内眼角に涙丘と連続する腫瘍を認め(図1C),手術で切除した.病理組織は乳頭腫の所見であった.腫瘍は涙.原発と考えられ,全摘すると篩骨洞がみえる状態であった.その後3回再発を繰り返し,眼窩深部に浸潤する像が認められたので(図1D,E),拡大切除を施行した.組織は異形が強くなっており,おもに扁平上皮癌様の組織に粘液細胞を有する組織であり(図1F)「粘表皮癌」と診断した.その1年半後に頸部リンパ節転移(,)をきたし,左顎下腺摘出ならびに頸部リンパ節ABECF図1涙.部乳頭腫から悪性転化した粘表皮癌症例1A:悪性所見なく乳頭腫の所見.B:扁平上皮癌様の組織に粘液細胞を有する.症例2C:左涙.部に涙丘と連続する腫瘤.D,E:左涙.部腫瘤のCT画像(水平断,冠状断).F:扁平上皮癌様の組織に粘液細胞を有する.ABCDEF図2涙.部乳頭腫から悪性転化した粘表皮癌におけるp53およびMIB.1免疫染色p53免疫染色A:1996年乳頭腫.p53陽性率6%(発症時).B:2005年乳頭腫.p53陽性率6%(1回目再発時).C:2012年悪性転化した粘表皮癌の頸部転移.p53陽性率35%(頸部リンパ節転移).MIB.1免疫染色D:1996年乳頭腫.MIB-1index17%(発症時).E:2005年乳頭腫.MIB-1index18%(1回目再発時).F:2012年,悪性転化した表皮癌の頸部転移MIB-1index53%(頸部リンパ節転移).1042あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015(120) 郭清を行った.摘出したリンパ節の病理組織は涙.部粘表皮癌と同様の組織像であった.免疫染色において癌抑制遺伝子p53陽性率は1996年(発症時:図2A)6%,2005年(1回目再発時:図2B)6%,2012年(悪性転化後の頸部リンパ節転移:図2C)35%であり,細胞増殖能を示すMIB-1index陽性率は1996年(発症時:図2D)17%,2005年(1回目再発時:図2E)18%,2012年(悪性転化後の頸部リンパ節転移:図2F)53%と,p53およびMIB-1index陽性率が悪性転化後に増加していた.頸部リンパ節郭清後,腫瘍の再発は認めていない.〔症例3〕88歳,男性.現病歴:主訴は流涙であり,CTで涙.部腫瘍が発見され,2013年8月当院初診.涙.部に腫瘍を認め(図3A),CTでは腫瘍は涙.部から鼻涙管を経由し(図3B),鼻内視鏡では下鼻道から鼻腔内に進展,下鼻道前方を充満していた.鼻腔より腫瘍生検を行い,病理組織では小型.中型の異形B細胞のびまん性浸潤を認め(図3C),MALTリンパ腫と診断し,放射線治療後,再発なく経過している.〔症例4〕70歳,女性.現病歴:2001年2月左)涙.部腫脹を自覚し,近医から当院に紹介となった.CTで涙.部腫瘍が発見され,同年6月涙.部から生検を行った.病理組織では小型.中型の異形B細胞のびまん性浸潤を認め,MALTリンパ腫と診断した.放射線治療後,再発なく経過している.〔症例5〕66歳,女性.現病歴:2003年より右)涙.部皮膚の発赤を認めていた.その後増悪し(図3D),涙.部腫瘍を疑われ2011年に当院初診.MRIにて涙.部腫瘤を認め(図3E),経皮的に腫瘍生検を行った.病理組織で大型異型B細胞のびまん性浸潤を認め(図3F),DLBCLと診断し,放射線と化学療法の併用療法を施行した.〔症例6〕69歳,女性.現病歴:主訴は血性流涙であり,2006年CTで涙.部腫瘍が発見され,当院初診.涙.部に腫瘤を認め(図4A),腫瘍は鼻涙管を介して鼻腔内に進展しており(図4B),鼻腔より生検を行った.病理組織では,角化傾向の強い異形細胞の増殖を認め(図4C),扁平上皮癌と診断し,拡大切除および放射線治療を施行した.症例のまとめを表1に示す.6例中3例の主訴は流涙であり,それ以外に涙.部の発赤腫脹2例,涙.部痛1例であった.診断のきっかけは,視診触診および皮膚所見から疑ったものが2例,涙.鼻腔吻合術時に発見されたものが1例,血性流涙1例,CTで発見されたものが2例であった.病理診断は涙.部乳頭腫から悪性転化した粘表皮癌2例,涙.部悪性リンパ腫3例(MALTリンパ腫2例,DLBCL1例),扁平上皮癌1例であった.粘表皮癌は拡大切除,MALTリンパ(121)ADBECF図3涙.部悪性リンパ腫症例3涙.部MALTリンパ腫A:左涙.部腫瘤.B:左涙.部腫瘤のCT画像.C:小型.中型の異形細胞のびまん性浸潤.症例5涙.部びまん性大細胞リンパ腫DLBCLD:右涙.部腫瘤の増悪(当科初診時).E:右涙.部腫瘤の造影MRI画像.F:大型異型B細胞のびまん性浸潤.腫は放射線単独療法,びまん性大細胞B細胞性リンパ腫は放射線と化学療法の併用療法,扁平上皮癌は拡大切除と放射線治療の併用療法を行った.再発は2例でみられ,粘表皮癌の1例のみで頸部リンパ節に転移を認めた.II考按涙.悪性腫瘍は比較的まれであるが,予後不良な場合もあり正確な診断と早期治療が重要となる.とくに症例1と2では最初の病理組織で涙.部乳頭腫と診断されたにもかかわらず粘表皮癌に悪性転化しており,一度良性乳頭腫と診断されても,その後の悪性転化に注意が必要である.このような乳頭腫から悪性転化したという報告はこれまでに涙.部で2報3,4),結膜で2報5,6)が報告されている.涙.部乳頭腫にはhumanpapillomavirus(HPV)6型と11型7)の関与が示唆されているが,涙.部悪性腫瘍に関連するHPVの遺伝子型は18型8)が示唆されている.また,悪性転化のメカニズムには癌抑制遺伝子p53の変異9)が報告されている.症例2における免疫染色においても,p53および細胞増殖能を示すMIB-1index陽性率が悪性転化後に増加しており,p53の変異が腫瘍の悪性化に影響している可能性が考えられた.涙.悪性腫瘍は流涙や涙.部腫瘤といった原発性鼻涙管閉あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151043 ABCABC図4涙.部扁平上皮癌症例6扁平上皮癌A:左涙.部腫瘤.B:左涙.部腫瘤のCT画像.C:角化傾向の強い異形細胞の増殖.表1各症例のまとめ年齢性側性症状診断のきっかけ病理組織治療観察期間(月)再発転移190男右流涙涙.鼻腔吻合術時乳頭腫粘表皮癌拡大切除(全摘)26+1回.241男左涙.部痛視診・触診乳頭腫粘表皮癌拡大切除(全摘)204+3回+388男左流涙CT画像MALTリンパ腫放射線11..470女左涙.部膨張CT画像MALTリンパ腫放射線156..566女右涙.部発赤視診・触診DLBCL放射線化学療法35..669女左流涙血性流涙扁平上皮癌拡大切除(全摘)放射線86..塞症と類似の臨床症状をきたすことから,鑑別が困難な場合がある.涙.悪性腫瘍の症状を検討した多数例の報告では,血性流涙や鼻出血などはまれで,流涙がもっとも多く,ついで涙.部腫瘤など原発性鼻涙管閉塞症に伴う症状と類似している10,11).筆者らの症例でも6例中3例で主訴は流涙であり,涙.悪性腫瘍と原発性鼻涙管閉塞症を臨床症状から鑑別することはむずかしい.本症例では視診触診・血性流涙・CTで6例中5例が発見されているが,1例は涙.鼻腔吻合術時に偶然発見されたものである.既報においても涙.悪性腫瘍の20.43%は涙.鼻腔吻合術時に偶然発見されている11,12).涙.悪性腫瘍の診断は,画像的,内視鏡的,組織学的に行う.CTおよびMRI画像では,腫瘍の進展・浸潤の評価に有用であり,とくにCTでは骨破壊像,造影MRIは涙.炎との鑑別に有用である.涙道内視鏡検査は涙.内の腫瘍を直接観察可能であり,涙.腫瘍を鑑別するのに有用なツールとなるが,すべての症例で涙道内視鏡で腫瘍が同定できるわけではないので,内視鏡所見だけで腫瘍の存在を完全に否定するべきではない.鼻内視鏡では鼻腔内に進展した腫瘍を同定でき,ときに鼻腔内から生検が可能な場合もあり,行っておくべき検査の一つである.腫瘍の診断や病型は,経皮的に行った生検組織で病理組織学的に決定し,腫瘍の進展や浸潤範囲なども考えながら治療1044あたらしい眼科Vol.32,No.7,2015法を決定していくのが一般的である.涙.腫瘍は上皮性と非上皮性に大きく分けられ,上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍で治療方針が異なる.既報では,上皮性が非上皮性より多く,上皮性では扁平上皮癌が,非上皮性ではMALTリンパ腫がもっとも多く認められている.上皮性悪性腫瘍の治療は鼻涙管へ進展していることが多く,涙.のみの切除では再発率44%と高率に再発をきたすため,涙小管と鼻涙管を含めた拡大切除と放射線治療の併用が推奨されているが,それでも再発率は13%・死亡率は13.50%と高い1,13).非上皮性悪性腫瘍は悪性リンパ腫が多く,その治療は組織型や年齢,全身病巣の有無によって異なるが,涙.部悪性リンパ腫は高悪性度であることが多く,再発率は33%,5年生存率は65%と報告されている13).本症例では6例中2例で再発をきたしており,既報からも今後の再発や転移に注意しながら経過観察する必要がある.近年,内視鏡の普及などによって原発性鼻涙管閉塞症に対して涙.鼻腔吻合術が普及しつつあるが,鼻涙管閉塞症を診断治療するうえで涙.悪性腫瘍の可能性に留意が必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(122) 文献1)HeindlLM,JunemannAG,KruseFEetal:Tumorsofthelacrimaldrainagesystem.Orbit29:298-306,20102)MontalbanA,LietinB,LouvrierCetal:Malignantlacrimalsactumors.EurAnnOtorhinolaryngolHeadNeckDis127:165-172,20103)ElnerVM,BurnstineMA,GoodmanMLetal:Invertedpapillomasthatinvadetheorbit.ArchOphthalmol113:1178-1183,19954)LeeSB1,KimKN,LeeSRetal:Mucoepidermoidcarcinomaofthelacrimalsacafterdacryocystectomyforsquamouspapilloma.OphthalPlastReconstrSurg27:44-46,20115)HeuringAH,HutzWW,EckhardtHBetal:Invertedtransitionalcellpapillomaoftheconjunctivawithperipheralcarcinomatoustransformation.KlinMonblAugenheilkd212:61-63,19986)StreetenBW,CarrilloR,JamisonR:Invertedpapillomaoftheconjunctiva.AmJOphthalmol88:1062-1066,19797)SjoNC,vonBuchwaldC,CassonnetPetal:Humanpap-illomavirus:causeofepitheliallacrimalsacneoplasia?ActaOphthalmolScand85:551-556,20078)MadreperlaSA,GreenWR,DanielRetal:Humanpapillomavirusinprimaryepithelialtumorsofthelacrimalsac.Ophthalmology100:569-573,19939)YoonBN,ChonKM,HongSLetal:Inflammationandapoptosisinmalignanttransformationofsinonasalinvertedpapilloma:theroleofthebridgemolecules,cyclooxygenase-2,andnuclearfactorkB.AmJOtolaryngol34:22-30,201310)StefanyszynMA,HidayatAA,Pe’erJJetal:Lacrimalsactumors.OphthalPlastReconstrSurg10:169-184,199411)ParmarDN,RoseGE:Managementoflacrimalsactumours.Eye17:599-606,200312)FlanaganJC,StokesDP:Lacrimalsactumors.Ophthalmology85:1282-1287,197813)BiYW,ChenRJ,LiXP:Clinicalandpathologicalanalysisofprimarylacrimalsactumors.ZhonghuaYanKeZaZhi43:499-504,2007***(123)あたらしい眼科Vol.32,No.7,20151045