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メラノーマに対するEncorafenib/Binimetinib 併用療法 直後に中心窩網膜外層異常をきたした1 例

2022年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(11):1554.1560,2022cメラノーマに対するEncorafenib/Binimetinib併用療法直後に中心窩網膜外層異常をきたした1例後藤真依*1林孝彰*1,2脇裕磨*3延山嘉眞*3中野匡*1*1東京慈恵会医科大学眼科学講座*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*3東京慈恵会医科大学皮膚科学講座CACaseofFovealOuterRetinalAbnormalitiesImmediatelyPostEncorafenib/BinimetinibCombinationTherapyforMalignantMelanomaMaiGoto1),TakaakiHayashi1,2),YumaWaki3),YoshimasaNobeyama3)andTadashiNakano1)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofDermatology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:メラノーマに対するCBRAF阻害薬(encorafenib)とCMEK阻害薬(binimetinib)の併用療法直後に中心窩網膜外層異常をきたしたC1例を報告する.症例:41歳,男性.BRAF遺伝子変異陽性の転移性メラノーマに対して,encorafenib/binimetinib併用療法が施行され,翌日に両眼の歪視と視力障害を訴え眼科を受診した.矯正視力は右眼1.2,左眼C1.0であった.眼底に異常はなかったが,光干渉断層計(OCT)検査で,右眼は中心窩網膜のCellipsoidCzoneからCinterdigitationzone(IZ)にかけてやや肥厚しその部位が低反射となっており,左眼は中心窩網膜のCIZが不明瞭となっていた.MEK網膜症と診断後,encorafenib/binimetinib併用療法を中止・休薬し,休薬後COCT所見は改善した.休薬C3週後,全視野刺激網膜電図ならびに多局所網膜電図が施行され,両眼ともに正常範囲内の振幅を示し,網膜機能障害はみられなかった.結論:encorafenib/binimetinib併用療法直後にCMEK網膜症は起こりうる.CPurpose:ToreportacaseoffovealouterretinalabnormalitiesimmediatelypostBRAF-inhibitor(encorafenib)CandMEK-inhibitor(binimetinib)combinationCtherapyCforCmalignantCmelanoma.CCase:AC41-year-oldCmaleCpre-sentedCwithCbilateralCblurredCvisionCandCdecreasedCvisualacuity(VA)atC1CdayCafterCundergoingCencorafenib/bin-imetinibCcombinationCtherapyCforCBRAFCmutation-positiveCmetastaticCmelanoma.CHisCbest-correctedCVACwasC1.2CODCandC1.0COS.CFunduscopyC.ndingsCrevealedCnoCabnormality,CyetCopticalCcoherencetomography(OCT)imagingCrevealedCaCslightCthickeningCfromCtheCellipsoidCzoneCtoCtheCinterdigitationzone(IZ),CwhoseCpartsCalsoCshowedChypore.ectivity,CatCtheCfoveaCinCtheCrightCeye,CandCblurredCIZCatCtheCfoveaCinCtheCleftCeye.CThus,CtheCpatientCwasCdiagnosedCwithCMEKCretinopathy,CandCtheCencorafenib/binimetinibCcombinationCtherapyCwasCdiscontinued.CTheCOCTC.ndingsCimprovedCafterCdiscontinuation.CAtC3-weeksCpostCdiscontinuation,Cfull-.eldCelectroretinographyCandCmultifocalelectroretinographywereperformedandshowedthattheamplitudeswerewithinnormallimitsinbotheyes,CthusCindicatingCnoCretinalCdysfunction.CConclusion:MEKCretinopathyCcanCoccurCimmediatelyCpostCencorafenib/binimetinibcombinationtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(11):1554.1560,C2022〕Keywords:悪性黒色腫,BRAF遺伝子変異,BRAF阻害薬,MEK阻害薬,MEK網膜症,光干渉断層計,漿液性網膜.離.malignantmelanoma,BRAFCmutation,BRAFinhibitor,MEKinhibitor,MEKretinopathy,opticalcoher-encetomography,serousretinaldetachment.Cはじめにその進行期メラノーマに対して,殺細胞性抗腫瘍薬である悪性黒色腫(以下,メラノーマ)は,年間1,500人からdacarbazineが近年まで第一選択薬であったが,有効性は限2,000人が発症するが,欧米人に比べその発症率は低い1).定的であった.2014年以降,免疫チェックポイント阻害剤メラノーマはしばしば遠隔転移を起こしてから診断される.である抗CCTLA-4抗体製剤(ipilimumab)や抗CPD-1抗体製〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC1554(114)剤(nivolumab,pembrolizumab),および,BRAF阻害薬であるCvemurafenibがわが国で承認され,ついでC2016年に,分子標的薬であるCBRAF阻害薬(dabrafenib)とCMEK(mitogen-activatedCproteinkinase)阻害薬(trametinib)の併用療法が承認された.2019年C1月,BRAF阻害薬(encorafenib)とCMEK阻害薬(binimetinib)の併用療法2)が,BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能なメラノーマに対して新たに保険収載され,注目を浴びている.BRAF阻害薬とCMEK阻害薬の併用療法における眼有害事象として,黄斑部を含む漿液性網膜.離の発症が海外で報告された3.5).とくにCMEK阻害薬が網膜色素上皮(RPE)に対し毒性を示すことから,MEK網膜症(MEKretinopathyもしくはCMEKCinhibitor-associatedretinopathy)とよばれている6.8).今回,筆者らは,BRAF遺伝子変異陽性のメラノーマと診断されCencorafenib/binimetinib併用療法直後に視力障害を訴え,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査で,中心窩網膜外層障害をきたしたC1例を報告する.CI症例患者:41歳,男性.主訴:両眼の歪視と視力低下.現病歴:右前腕原発CBRAF遺伝子変異(p.V600E)陽性の転移性メラノーマ(pT4bN3M1b,pStageIV)に対して,東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)皮膚科で,これまでCnivolumab単剤療法,ipilimumab/nivolumab併用療法,およびCdabrafenib/trametinibの併用療法が施行された.しかし,免疫関連有害事象(immune-relatedCAdverseEvents:irAE)である肺障害や腫瘍の進行を認めたため中止となった.つぎにCencorafenib/binimetinib併用療法が予定され,治療前に当院眼科初診となった.自覚症状はなく,視力は右眼(1.5C×sph.5.50D(.0.50DAx150°),左眼(1.2C×sph.4.50D(.1.00DAx15°)であった.両眼ともに強膜炎や虹彩炎などの前眼部炎症所見はなく,中間透光体および眼底に異常所見はなかった.共焦点走査レーザー検眼鏡装置(SpectralisCHRA,CHeidelberg社)を用いた眼底自発蛍光写真においても,異常自発蛍光はみられなかった.黄斑部のCOCT(CirrusCHD-OCT5000,カールツァイス社)検査で,網膜外層異常を示す所見はなかった(図1).20日後,Cencorafenib450Cmg/日とCbinimetinib90Cmg/日の併用療法が開始された.翌日,両眼の歪視と視力障害を訴え,併用療法開始C5日後に当院眼科再初診となった.既往歴:右前腕の黒色結節を主訴にC4年前に当院皮膚科を図1黄斑部OCTの水平方向・垂直方向Bスキャン画像(encorafenib/binimetinib併用療法前)両眼ともに網膜外層異常を示す所見はみられない.図2黄斑部OCTの水平方向・垂直方向Bスキャン画像(併用療法開始5日後)右眼は中心窩網膜のCellipsoidzoneからCinterdigitationzone(IZ)にかけてやや肥厚しその部位が低反射となっており,左眼は中心窩網膜のCIZが不明瞭となっている.また,併用療法前と比べ,部分的にCIZから網膜色素上皮のラインが肥厚する所見(.)が両眼で観察されている.図3黄斑部OCTの水平方向・垂直方向Bスキャン画像(併用療法休薬1週後)黄斑部COCTにおいて中心窩Cinterdigitationzoneの不明瞭化が両眼にみられる.正常例症例杆体応答100μV25ms最大応答100μV10ms50μV錐体応答10ms30-Hzフリッカ10ms50μV図4全視野刺激網膜電図両眼ともに杆体応答,最大応答,錐体応答,30-Hzフリッカ,いずれも正常例と比較し正常範囲内の振幅を示している.受診し,今回の原発メラノーマの最初の診断を受けている.その他,特記すべき事項なし.初診時眼所見:視力は右眼C0.1(1.2C×sph.5.50D(.0.25DCAx150°),左眼C0.1(1.0C×sph.3.75D(.0.75DCAx30°),眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C20CmmHgであった.併用療法前に比べ,左眼はわずかに遠視化していた.強膜炎,虹彩炎,硝子体混濁はみられず,眼底にも明らかな異常所見はみられなかったが,黄斑部COCTで,右眼は中心窩網膜のCellipsoidzone(EZ)からCinterdigitationCzone(IZ)にかけてやや肥厚しその部位が低反射となっており,左眼は中心窩網膜のCIZが不明瞭となっていた(図2).また,併用療法前と比べ,部分的にIZから網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)のラインが肥厚する所見が両眼で観察された(図2).経過:両眼の中心窩に網膜外層障害を認めたため,メラノーマの進行がみられないことを確認し,皮膚科医の最終判断でCencorafenib/binimetinib併用療法を中止・休薬した.休薬C1週後の視力は右眼(1.0),左眼(1.0)であった.黄斑部OCTにおいて中心窩CIZの不明瞭化が両眼にみられたものの改善していた(図3).休薬C3週後,歪視の自覚症状は残っていたため,網膜機能評価として,全視野刺激網膜電図(LE-4000,トーメーコーポレーション),ならびに多局所網膜電図(LE-4100,トーメーコーポレーション)を国際臨床視覚電気生理学会の推奨する条件で記録した9.11).全視野刺激網膜電図(図4)および多局所網膜電図(図5)においていずれの反応も,両眼ともに正常範囲内の振幅を示した.Hum-図5多局所網膜電図両眼ともに正常範囲内の振幅(応答密度)を示している.phrey静的視野(SITA-standard,プログラム中心C10-2)検査を施行し,中心窩閾値は右眼C37dB,左眼C39CdBと良好で,明らかな感度低下はみられなかった.今後,encorafenib/binimetinib薬を減量したうえで,併用療法再開を検討している.CII考按Encorafenib/binimetinib併用療法における眼有害事象のなかで,網膜下液が貯留する漿液性網膜.離は,中心性漿液性脈絡網膜症のCOCT所見に類似し,欧米ではCMEK網膜症として報告されている6,7).しかし,欧米に比べ,日本ではメラノーマの有病率が低いこと1),さらにCBRAF遺伝子変異陽性メラノーマの割合が低いこと1)もあり,日本から網膜障害に関連する有害事象の報告はほとんどない.筆者らがPubmedと医中誌を調べた限り,過去にCencorafenib/bin-imetinibの併用療法後に漿液性網膜.離をきたした報告はC1例のみであった12).筆者らの症例のように中心窩の網膜外層障害(図1)をきたした報告例はなかった.しかし,2022年2月C14日に小野薬品工業株式会社(URL:https://www.ono-oncology.jp/medical/products/braftovi-mektovi#)が公表したCMEK阻害薬・binimetinibの副作用発現情報のなかで,426件のうち眼障害はC105件に発現し,網膜障害や漿液性網膜.離などの有害事象も多数報告されている.また,encorafenib/binimetinibの併用療法に関する適正使用ガイド(https://www.ono-oncology.jp>BRA+MEK_guide_1)のなかで,眼関連副作用発現時のフローチャートが作製されており,投与継続か休薬すべきかの判断の参考となる.本症例は,encorafenib/binimetinib併用療法開始前に,免疫チェックポイント阻害剤(抗CPD-1抗体および抗CTLA-4抗体製剤)が使用されていた.本症例のように,転移性メラノーマに対して,encorafenib/binimetinib併用療法施行前に,免疫チェックポイント阻害薬が投与されていることは多い.免疫チェックポイント阻害薬投与後にさまざまなCirAEが発生することがあり,grade1(軽微な副作用),grade2(中等度の副作用),grade3(重度の副作用),grade4(生命を脅かす副作用)に分類される.irAEが出現する頻度は抗CPD-1抗体単剤療法でC10.20%(grade1からC4まで)と報告されている13).一方,ipilimumab/nivolumab併用療法に関してはCgrade3以上に限ってもC30.60%に生じるとされ,注意すべき有害事象である14).眼関連CirAEの出現頻度は高くないものの,強膜炎,ぶどう膜炎,Vogt-小柳-原田病類似病態が発症しうることが報告されている15).本症例では,encorafenib/binimetinib併用療法直前に眼科的検査が施行され,過去に使用されていた免疫チェックポイント阻害薬による眼関連CirAEは観察されなかった.しかし,encorafenib/binimetinib併用療法翌日に歪視と視力障害を訴えたことから,本併用療法による眼有害事象として両眼の中心窩網膜外層障害が引き起こされたと考えられた.過去のencorafenib/binimetinib併用療法後に漿液性網膜.離を認めたCOCT所見4,6,7)と照らし合わせると,本症例のCOCT所見でみられた中心窩網膜のCEZからCIZにかけてやや肥厚する所見(図1)ならびに部分的にCIZからCRPEのラインが肥厚する所見(図1)は,漿液性網膜.離出現の前段階で生じた所見・MEK網膜症である可能性が考えられた.Urner-Blochら16)は,binimetinibによる漿液性網膜.離などのMEK網膜症の病因として,アレルギー反応や自己免疫応答によるものではなく,活動性の高いCRPEに直接的な毒性を示すことによる可能性を指摘している.筆者らが調べた限り,過去にCMEK網膜症に対して電気生理学的に網膜機能を評価した報告は少ない.vanLintら17)は,転移性メラノーマに対してCMEK阻害薬(trametinib)投与後に視機能障害を訴えた症例に全視野刺激網膜電図を施行したところ,杆体応答が著しく低下し,錐体応答も低下していたことを報告している.この症例は,MEK阻害薬休薬1カ月後に再度全視野刺激網膜電図が施行され,杆体応答ならびに錐体応答が改善したものの,休薬C2カ月後に病状悪化により死亡している17).筆者らの症例は,encorafenib/bin-imetinib併用療法の休薬C3週後に全視野刺激網膜電図(図4)および多局所網膜電図(図5)を記録し,両眼ともに正常範囲内の振幅を示したことから,MEK網膜症の急性期(併用療法直後)にたとえ振幅が低下していたとしても,不可逆的な変化は生じていなかったと考えられた.また,同時に全視野刺激網膜電図を記録することにより,転移性メラノーマによってまれに起こるメラノーマ関連網膜症の除外診断に繋がった.メラノーマ関連網膜症では,メラノーマが網膜COn型双極細胞に発現しているCTRPM1蛋白と同一の抗原性を有する蛋白を産生し,それに対する自己抗体の出現によって,網膜COn型双極細胞が選択的に障害され,完全型停在性夜盲類似の網膜電図所見を呈することがわが国から報告されている18,19).本症例では実際,視力障害を自覚した直後すなわち,網膜外層障害の出現直後に多局所網膜電図を記録していれば振幅が低下していた可能性が考えられる.今回,MEK網膜症を発症したため,encorafenib/binimetinib併用療法を休薬したが,生命予後を考慮した場合,実際は非常にむずかしい判断であった.今後は転移性メラノーマの病状進行に対して,どの程度のCMEK網膜症の病態を許容していけるかが重要なポイントであり,可能であればCMEK網膜症急性期に多数例で網膜電図による視機能評価を行う必要があると考えられるが,まれな病態であることから現実的には困難である.本症例を経験し,薬剤による眼有害事象を正確に評価するうえで,encorafenib/binimetinib併用療法施行前に,視力やCOCT検査を含む眼科的評価が重要であると考えられた.また,encorafenib/binimetinib併用療法開始後は,MEK網膜症の発症に留意し,眼症状を訴えた場合,速やかに眼科的精査を行う必要がある.利益相反:林孝彰(経済的支援:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(AMO),株式会社リィツメディカル,株式会社ユニハイト,バイエル薬品株式会社,日本アルコン株式会社,千寿製薬株式会社,第一三共株式会社,株式会社オグラ,ノバルティスファーマ株式会社,株式会社栗原医療器械店,中外製薬株式会社,田辺三菱製薬株式会社,わかもと製薬株式会社,講演料・その他:参天製薬株式会社,千寿製薬株式会社,第一三共株式会社,ヤンセンファーマ株式会社,中外製薬株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,日産化学株式会社),延山嘉眞(経済的支援:中外製薬株式会社,田辺三菱製薬株式会社,アッヴィ合同会社,サノフィ株式会社,講演料・その他:中外製薬株式会社,田辺三菱製薬株式会社,ヤンセンファーマ株式会社,科研製薬株式会社,一般社団法人日本血液製剤機構,MSD株式会社),中野匡(経済的支援:参天製薬株式会社,エイエムオージャパン株式会社,株式会社クリュートメディカルシステムズ,協和医科器械株式会社,バイエル薬品株式会社,大塚製薬株式会社,株式会社アイオーエルメディカル,株式会社栗原医療器械店,千寿製薬株式会社)文献1)藤澤康:【皮膚悪性腫瘍(第C2版)上─基礎と臨床の最新研究動向─】メラノーマメラノーマの疫学.日本臨床(臨増)79:13-18,C20212)上原治:【皮膚悪性腫瘍(第C2版)上─基礎と臨床の最新研究動向─】メラノーマメラノーマの治療分子標的薬CEncorafenib+Binimetinib.日本臨床(臨増)C79:376-381,C20213)SchoenbergerCSD,CKimSJ:BilateralCmultifocalCcentralCserous-likeCchorioretinopathyCdueCtoCMEKCInhibitionCforCmetastaticCcutaneousCmelanoma.CCaseCRepCOphthalmolCMedC2013:673796,C20134)Urner-BlochU,UrnerM,StiegerPetal:TransientMEKinhibitor-associatedCretinopathyCinCmetastaticCmelanoma.CAnnOncolC25:1437-1441,C20145)WeberML,LiangMC,FlahertyKTetal:Subretinal.uidassociatedCwithCMEKCinhibitorCuseCinCtheCtreatmentCofCsystemiccancer.JAMAOphthalmolC134:855-862,C20166)vanCDijkCEH,CvanCHerpenCCM,CMarinkovicCMCetal:CSerousCretinopathyCassociatedCwithCmitogen-activatedCproteinCkinaseCkinaseinhibition(Binimetinib)forCmeta-staticCcutaneousCandCuvealCmelanoma.COphthalmologyC122:1907-1916,C20157)TyagiCP,CSantiagoC:NewCfeaturesCinCMEKCretinopathy.CBMCOphthalmolC18:221,C20188)MettlerCC,CMonnetCD,CKramkimelCNCetal:OcularCsafetyCpro.leCofCBRAFCandCMEKinhibitors:DataCfromCtheCWorldCHealthCOrganizationCPharmacovigilanceCDatabase.COphthalmologyC128:1748-1755,C20219)McCullochCDL,CMarmorCMF,CBrigellCMGCetal:ISCEVCStandardCforCfull-.eldCclinicalelectroret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悪性黒色腫治療中に生じたぶどう膜炎の1例

2020年2月29日 土曜日

《原著》あたらしい眼科37(2):235?238,2020c悪性黒色腫治療中に生じたぶどう膜炎の1例望月結希乃渡部大介静岡県立総合病院眼科ACaseofUveitisDuringMelanomaTreatmentYukinoMochizukiandDaisukeWatanabeDepartmentofOphthalmology,ShizuokaGeneralHospitalはじめにわが国における皮膚悪性黒色腫の罹患率は10万人あたり1?2人程度であり,比較的まれな悪性腫瘍である1).早期には単純切除が行われるが,切除不能な場合は,近年,免疫チェックポイント阻害薬や,分子標的薬を用いた新しい薬物療法が行われるようになった.そのなかの一つであるダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,2種類の分子標的薬を組み合わせた,BRAF遺伝子変異陽性の切除不能な悪性黒色腫に対する治療法である.従来の抗癌剤治療と比較し生存期間は大幅に改善されたが,その一方で副作用として心障害や肝障害,深部静脈血栓症などが知られている.眼科領域の副作用としては,ぶどう膜炎や網膜静脈閉塞症が報告されている2).今回,ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法によるVogt-小柳-原田病(原田病)様のぶどう膜炎を認め,併用療法中止とステロイド療法により改善したが,その後併用療法再開に伴いぶどう膜炎が再燃した1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕望月結希乃:〒420-8527静岡市葵区北安東4-27-1静岡県立総合病院眼科Reprintrequests:YukinoMochizuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShizuokaGeneralHospital,4-27-1Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka-City420-8527,JAPANI症例患者:64歳,女性.主訴:両眼飛蚊症,霧視.既往歴:皮膚悪性黒色腫.現病歴:平成26年7月に右大腿内側の腫瘤で近医皮膚科を受診した.市内の総合病院皮膚科へ紹介され,11月に切除術を施行,悪性黒色腫と診断された.平成28年1月に再発および多発転移を指摘され化学療法目的で当院皮膚科へ紹介された.BRAF遺伝子変異の有無について検査した結果,陽性であることが判明した.当院皮膚科では同年3月からベムラフェニブを投与したものの,皮膚障害が出現し,治療意欲の減退により中止した.8月からはニボルマブを投与したが,原発巣の増大を認めたため,11月からダブラフェニブ300mg/日とトラメチニブ2mg/日の併用療法を開始した.平成29年1月から両眼の飛蚊症,および2月から霧視を自覚し近医眼科を受診した.両ぶどう膜炎を指摘され,同年3月6日当科に紹介された.初診時所見:視力は右眼0.03(0.2×sph+4.75D(cyl?0.5DAx40°),左眼0.04(0.4×sph+4.75D)であった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房細胞,浅前房など前部ぶどう膜炎の所見を認めた.両眼の眼底には視神経乳頭の発赤および多胞性漿液性網膜?離を認めた(図1).光干渉断層計検査では両眼の黄斑部に隔壁を伴う漿液性網膜?離と脈絡膜肥厚,脈絡膜の波打ち所見を認めた(図2).同日施行したフルオレセイン蛍光眼底造影検査では,視神経乳頭からの色素漏出や網膜下の多胞性の蛍光色素の貯留が認められた(図3).経過:所見から原田病を疑い,採血や髄液検査を施行したものの,異常所見は認められなかった.しかし,臨床的には原田病の可能性が高いと考え,同日プレドニゾロン200mg/日から点滴投与を開始した.翌日,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法によるぶどう膜炎と判断され,併用療法を中止した.当科ではプレドニゾロン点滴を200mg/日を2日間,150mg/日を2日間,100mg/日を2日間施行し,その後はプレドニン内服60mg/日より内服漸減療法を開始した.治療経過は順調であり,漿液性網膜?離や脈絡膜肥厚などの所見は消失,視力は右眼0.2(0.9×sph+2.0D),左眼0.2(1.0×sph+3.0D)まで改善した.経過改善のため,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法を再開する方針となり,ダブラフェニブ150mg/日,トラメチニブ1mg/日に減量し再開となった.しかし,5月31日には視力は右眼0.15(1.2×sph+3.0D),左眼0.3(1.0×sph+3.5D)と良好で,自覚症状はないものの,両眼に角膜後面沈着物,前房細胞が出現し,脈絡膜の肥厚・波打ち所見(図4),左眼に漿液性網膜?離が出現した.当科では,自覚症状がないもののぶどう膜炎の再燃と考え,プレドニゾロン20mg/日を継続し,経過をみる方針としたが,皮膚科の判断でダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は中止となった.6月14日,脈絡膜の肥厚,波打ち所見と漿液性網膜?離は消失した.その後,腫瘍の肝転移を認め病勢が進行したた右眼左眼図1初診時の眼底写真両眼に漿液性網膜?離と視神経乳頭の発赤,腫脹を認める.右眼左眼図2初診時の光干渉断層像(黄斑部)両眼の脈絡膜の肥厚と波打ち所見を認める.また,隔壁を伴う漿液性網膜?離を認める.右眼左眼図3初診時のフルオレセイン蛍光眼底造影の後期両眼とも神経乳頭からの蛍光漏出を認め,網膜には多房性に蛍光色素が貯留している.右眼左眼図4ダブラフェニブ/トラメチニブ再開後の光干渉断層像(黄斑部)両眼に脈絡膜の肥厚,波打ち所見を認める.め,皮膚科ではダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法の再開を検討した.7月12日,腫瘍の小腸転移と急速な肝転移の増大を認めたため,皮膚科へ緊急入院しダブラフェニブ200mg/日,トラメチニブ1.5mg/日として併用療法を再開し,プレドニゾロン60mg/日の点滴投与が開始された.7月13日,小腸穿孔が指摘されたため併用療法を中止し,外科で小腸切除術を施行した.その後ぶどう膜炎の再発は認めなかったが,全身状態が悪化し,8月3日に死亡した.II考按ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,腫瘍増殖にかかわるRAS-RAF-MEK-ERKシグナル伝達経路のセリン・トレオニンキナーゼファミリーのBRAFおよびMEKをそれぞれ阻害する働きをもつ分子標的薬を組み合わせた治療法である.副作用としてぶどう膜炎があるが,その形態は前眼部ぶどう膜炎,後眼部ぶどう膜炎,あるいは汎ぶどう膜炎というように,さまざまである.また既報では,BRAF阻害薬単独,あるいはMEK阻害薬単独でぶどう膜炎が起きた症例もある3?5).以上から,実際のメカニズムは不明であるが,眼内でこのシグナル伝達経路が阻害されると,ぶどう膜炎を発症する可能性がある.治療方法も報告によりさまざまである.併用療法は多くの症例で中止されており,ステロイド療法に関しては点眼のみ,内服のみ,ステロイドTenon?下注射と点眼を組み合わせた例,また本症例のように点滴および内服漸減療法を行った例のほか,ステロイドを使用せずに改善した例もある3,4,6?9).また,併用療法の再開に関しては,本症例のように再開すると,ぶどう膜炎再燃をみた例10)もあれば,再燃せずに併用療法を継続できた例5,7,8)もある.ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法は,もともとは切除不能な悪性黒色腫が適応疾患であったが,平成30年3月に切除不能な非小細胞肺癌に対する化学療法,8月にBRAF遺伝子変異陽性の悪性黒色腫の外科的手術後の補助化学療法として適応が拡大された.今後も適応疾患が拡大していく可能性があり,眼科医が診察する機会が増えると考えられる.併用療法によるぶどう膜炎に対しては,主科と連携を取り,併用療法の中止やステロイド療法を検討する必要がある.以上,ダブラフェニブ/トラメチニブ併用療法を行っている患者では,ぶどう膜炎を起こす可能性があり,ぶどう膜炎を発症し併用療法を中止した場合の併用療法再開にあたっては,症状再燃の可能性があり定期診察が必要である.文献1)宇原久:メラノーマの新しい治療とがん免疫療法の新展開.信州医誌64:63-73,20162)WelshSJ,CorriePG:ManagementofBRAFandMEKinhibitortoxicitiesinpatientswithmetastaticmelanoma.TherAdvMedOncol7:122-136,20153)DraganovaD,KergerJ,CaspersLetal:Severebilateralpanuveitisduringmelanomatreatmentbydabrafenibandtrametinib.JOphthalmicIn?ammInfect5:17,20154)McCannelTA,ChmielowskiB,FinnRSetal:BilateralsubfovealneurosensoryretinaldetachmentassociatedwithMEKinhibitoruseformetastaticcancer.JAMAOph-thalmol132:1005-1009,20145)GuedjM,QueantA,Funck-BrentanoEetal:Uveitisinpatientswithlate-stagecutaneousmelanomatreatedwithvemurafenib.JAMAOphthalmol132:1421-1425,20146)JoshiL,KarydisA,GemenetziMetal:UveitisasaresultofMAPkinasepathwayinhibition.CaseRepOphthalmol4:279-282,20137)LimJ,LomaxAJ,McNeilCetal:Uveitisandpapillitisinthesettingofdabrafenibandtrametinibtherapyformeta-staticmelanoma:Acasereport.OculImmunolIn?amm26:628-631,20188)SarnyS,NeumayerM,Ko?erJetal:Oculartoxicityduetotrametinibanddabrafenib.BMCOphthalmol17:146,20179)Rueda-RuedaT,Sanchez-VicenteJL,Moruno-RodriguezAetal:Uveitisandserousretinaldetachmentsecondarytosystemicdabrafenibandtrametinib.ArchSocEspOftal-mol93:458-462,201810)NiroA,StrippoliS,AlessioGetal:Oculartoxicityinmetastaticmelanomapatientstreatedwithmitogen-acti-vatedproteinkinasekinaseinhibitors:Acaseseries.AmJOphthalmol160:959-967,2015◆**

免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):957.961,2019c免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎立花亮祐水戸毅上甲武志白石敦愛媛大学医学部付属病院眼科CACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDisease-likeUveitisthatOccurredandProlongedduringAdministrationofImmuneCheckpointInhibitorsandTargetedAgentsRyosukeTachibana,TsuyoshiMito,TakeshiJokoandAtsushiShiraishiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversityC悪性黒色腫に対する新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬の投与中に原田病様ぶどう膜炎を発症し遷延化した症例を報告する.64歳,男性,悪性黒色腫の加療中にベムラフェニブの投与から間もなく漿液性網膜.離を発症した.ステロイド薬全身投与量に応じて漿液性網膜.離の増減を認めベムラフェニブの中止により漿液性網膜.離は消失した.その後のニボルマブとイピリムマブによる治療中に皮膚白斑と白髪化,さらに脈絡膜の脱色素斑が出現した.ペムブロリズマブによる治療に変更後,両眼性の前房内炎症と硝子体混濁が出現し,ステロイド薬の全身投与と局所投与により速やかに所見の消失を得た.これらの新規癌治療薬は原田病様のぶどう膜炎を発症することがあるとされており,薬剤を変更しても遷延化することがあり留意する必要がある.CWereportapatientwhodevelopedVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitisthatwasprolongedwithahis-toryCofCmetastaticCmelanomaCtreatedCbyCsequentialCimmuneCcheckpointCinhibitorsCandCtargetedCagents.CThisC64-year-oldmalehaddevelopedunilateralsubretinalC.uidsoonafterinitiatingvemurafenib.Thoughsystemiccor-ticosteroidCtherapiesCwereCe.ectiveCagainstCthisCsymptom,CrecurrenceCwasCseenCduringCtheCtaperingCofCcorticoste-roiddosage.Finally,clinicalimprovementoccurredwhenvemurafenibtherapywasdiscontinued.Afteradministra-tionCofCnivolumabCandCtheCfollowingCipilimumabChadCcommenced,Cvitiligo,CpoliosisCandCchoroidalCdepigmentationCoccurred.CSubsequentCtoChisCswitchingCfromCtheseCdrugsCtoCpembrolizumab,CbilateralCin.ammationCcellsCwereCobservedintheanteriorchamberandvitreous.Visualsymptomsimprovedrapidlywithoralandtopicalcorticoste-roidtherapy.PhysiciansshouldkeepinmindthepossibilityofdevelopingVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuve-itisassociatedwithimmunecheckpointinhibitorsandtargetedagents,whichconditionmaybecomeprolongedintheeventofchangetootherdrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(7):957.961,C2019〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,ペムブロリズマブ,ベムラフェニブ,原田病様ぶどう膜炎,悪性黒色腫.immunecheckpointinhibitor,pembrolizumab,vemurafenib,Vogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitis,malig-nantmelanoma.Cはじめに悪性黒色腫は生命予後不良の疾患であるが,近年は薬物療法のパラダイムシフトによってその治療成績は大幅に向上している.その中心となるのは新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬でありわが国においては前者では抗CPD-1抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)と抗CCTLA-4抗体(イピリムマブ)が,後者ではCBRAF阻害薬(ベムラフェニブ,ダブラフェニブ)とCMEK阻害薬(トラメチニブ)が承認されている1).以前から海外ではこれらの薬剤の影響によると思われるぶどう膜炎の発症の報告が相ついでおり,とくに原田病様ぶどう膜炎の報告が散見される2,3).今回筆者らは低分子性分子〔別刷請求先〕立花亮祐:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:RyosukeTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPANC標的薬の副作用により発症した原田病様ぶどう膜炎が免疫チェックポイント阻害薬への薬剤変更後により遷延・悪化をきたしたと考えられるC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,男性.主訴:なし(ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的).既往歴:糖尿病,糖尿病性腎症,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術後,眼内レンズ挿入眼.現病歴:2015年C3月頃,右耳介後部の黒色結節を指摘され増大傾向であったことから,9月上旬に近医皮膚科を受診した.悪性黒色腫が疑われたため愛媛大学病院皮膚科を紹介され,精査の結果,悪性黒色腫と診断された.病変部外科的切除および頸部リンパ節郭清後,後療法としてインターフェロンCb局所投与を施行された.しかしC2016年C2月にCPET-CTで新たに肝転移,右肺門部リンパ節転移がみつかり,BRAF変異陽性であったことから,ベムラフェニブでの治療に変更となった.ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的で当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.5(0.7C×sph.1.25D),左眼C0.4(1.2C×sph.1.0D(cyl.1.75DAx80°),眼圧は右眼20mmHg,左眼C18CmmHg.光干渉断層計(opticalCcoherentCtomogra-phy:OCT)では右眼に黄斑前膜を認めた.経過:2016年C2月中旬よりベムラフェニブ内服加療を開始したが,3月初旬に発熱・発疹が出現,腎機能の悪化から投与を一時中断し,ステロイド薬全身投与による全身状態の改善後,4月よりベムラフェニブを再開した.ベムラフェニブ投与中の眼科所見としては開始C2.3週間で右眼漿液性網膜.離が出現し約C1カ月間で消失が認められた(図1).その後C9月に右眼視力低下を主訴に受診した際,右眼漿液性網膜.離の再発を認めた.10月上旬にCCTで転移巣の拡大,増悪を認めたことからベムラフェニブ内服を中止.10月下旬のCOCTでは漿液性網膜.離は改善を認め,2017年C1月には完全に消失した.ベムラフェニブ中止後のC10月中旬よりニボルマブ投与を開始し,10クール投与するもCCTで転移巣の拡大を認めたことから,2017年C4月よりイピリムマブに変更となった.しかしイピリムマブC2クール終了後より肝障害が出現したことから中止となり経過をみていたが,8月中旬より全身に白斑が出現した(図2).8月下旬よりペムブロリズマブ投与が開始となったが,その後も白斑の拡大および白髪化を認めた.またペムブロリズマブ投与開始時点で脈絡膜の脱色素斑を認め,以後拡大傾向を示した(図3).ペムブロリズマブ投与開始からC4カ月が経過したC2018年1月下旬に右眼に軽度硝子体混濁が出現した.当初糖尿病網膜症からの硝子体出血と考えていたため経過をみていたが,前房内浮遊細胞も出現し両眼性の硝子体混濁となったことから原因検索目的に血液検査を実施した.可溶性CIL-2レセプターがC966CU/mlと高値であったが,内科的にはサルコイドーシスは否定的であった.同時にCHLA抗原を調べたところHLA-DR4が陽性であった.またフルオレセイン蛍光眼底造影検査を実施したところ,網膜血管炎および視神経乳頭炎の所見を認めた(図4).原因としてペムブロリズマブによる薬剤性の副作用が考えられたことから,ペムブロリズマブの中止とプレドニゾロン(predonisolone:PSL)10Cmg内服を開始し,両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を施行した.直後より硝子体混濁は改善傾向を示しCPSL5Cmgの投与を継続しペムブロリズマブを再開した.その後は硝子体混濁の再燃なく経過している(図5).CII考按初発の原田病では前眼部炎症は認めないこともあるが,遷延化すると前眼部炎症は強くなり眼底は夕焼け状,視神経乳図2白斑および白髪の経過a:2017年C9月.Cb:2018年C1月.Cc:2018年C5月.Cd:2018年C7月上肢写真.ペムブロリズマブ投与開始後より全身に白斑が出現し,投与後白斑の拡大および白髪化の進行を認めた.図3脈絡膜の脱色素斑の経過眼底写真a,b:2017年C1月(ベムラフェニブ投与後).c,d:2017年C8月(ニボルマブ,イピリムマブ投与後).e,f:2018年C9月(ペムブロリズマブ投与後).薬剤変更によっても脈絡膜斑状萎縮巣の進行,および拡大傾向を認めた.頭周囲の網脈絡膜萎縮,黄斑部の色素脱失と集積,周辺部には網脈絡膜萎縮による白斑がみられるようになり,さらに網膜血管炎,硝子体混濁を呈することもある.本症例は最初に投与されたベムラフェニブにより原田病様ぶどう膜炎を生じ,ステロイド薬全身投与,ベムラフェニブからニボルマブ,イピリムマブへの薬剤変更により漿液性網膜.離は消失するも,白斑の出現・白髪化,脈絡膜萎縮巣の拡大といった臨床所見から遷延化が示唆され,その後のペムブロリズマブへの薬剤変更により前房内炎症と硝子体混濁の出現など悪化をきたしたと考えられる症例である.低分子性分子標的薬は細胞の増殖・分化・生存にかかわるMAPKシグナル伝達経路(RAS-RAF-MEK-ERK)においてCBRAF遺伝子変異により異常増殖が生じている癌細胞の癌促進的なシグナルを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である.BRAF阻害薬は副作用としてのぶどう膜炎の報告があるため,本症例は皮膚科から薬剤投与前のスクリーニング目的で紹介され,初診時には漿液性網膜.離や他のぶどう膜炎症状を疑う所見はみられなかったが,ベムラフェニブ投与後C1カ月経過して片眼の漿液性網膜.離を発症した.ほぼ同時期に慢性腎不全の増悪からステロイドミニパルス療法が開始され,結果的に一度は漿液性網膜.離は消失するもステロイド内服漸減中に漿液性網膜.離が再発し,ベムラフェニブの中止後C2.3カ月で漿液性網膜.離は再度消失した.以上の経緯より漿液性網膜.離はベムラフェニブによる副作用と考えられた.Choeら4)によるとベムラフェニブ投与中にぶどう膜炎がC4%に生じるとされており,その発症までの期間は薬剤投与後C19日.7カ月であったとしている.発症の理由としては,悪性黒色腫の潜在性の脈絡膜転移巣に対するベムラフェニブによる直接的な攻撃的作用の結果生じるリンパ球の浸潤,あるいは脈絡膜のメラノサイトへの薬理作用に対する炎症性反応などが関与していると推察している.片眼のみの発症となったのは発症眼に黄斑上膜を認め網膜牽引が影響している可能性や,あるいは発症前後のステロイド加療により反対眼の時間差の発症を予防できた可能性も考えられる.一方,免疫チェックポイント阻害薬はCTリンパ球に発現する免疫チェックポイント分子に結合し抗腫瘍免疫のブレーキを解除・活性化し抗腫瘍効果を得る薬剤であるが,国内ではニボルマブやイピリムマブ投与中の原田病様ぶどう膜炎の報告があり5.7),その発症には注意する必要がある.本症例では当初ニボルマブが約半年間投与されるも転移巣の拡大を認めたためイピリムマブへ変更となったが重篤な肝障害が出現しC1カ月で中止,4カ月間の中断期間の後にペムブロリズマブの投与が開始されている.その休薬期間中に全身の皮膚白斑と白髪が出現し以後進行した.また時期を同じくして眼底の脱色素斑も認められている.免疫チェックポイント阻害薬の投与中の白斑の出現や白髪化はよく知られており8),本症例もメラノサイト由来である悪性黒色腫に対する腫瘍免疫の増強に伴って毛髪や皮膚,網膜色素上皮や脈絡膜など全身のメラノサイトへの攻撃が顕在化したと考えられる.またHLA-DR4陽性であったことも原田病類似の症状を生じやすい素因となったと考えられる9).ペムブロリズマブ投与中のぶどう膜炎発症に関してわが国での報告はない.海外での報告によると両眼性の前房内炎症性細胞と角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜血管炎,視神経乳頭炎,.胞様黄斑浮腫が指摘されている10.12).ペムブロリズマブはニボルマブと同じ抗CPD-1抗体であるが,ニボルマブ投与中に生じなかった前房内炎症や硝子体混濁がペムブロリズマブ投与後に生じたことに関しては薬剤特性や有効性の違いなどが影響したことも考えられるが,その時点での患者の全身状態も関係してくるため一概に評価はできない.今回,汎ぶどう膜炎発症後は主治医と相談のうえ,ペムブロリズマブ国内臨床試験時に規定されていた対処法に則りペムブロリズマブ休薬とステロイド薬全身投与を開始した.ただしステロイド薬大量投与による悪性黒色腫の悪化を懸念し,全身投与は少量にとどめ両眼へのステロイドCTenon.下注射を併用したところ,速やかに前房内炎症と硝子体混濁は改善したため,ステロイド薬局所投与は有効であったと考えられた.これらの新規癌治療薬の休薬やステロイドの使用に関しては原病のこともあり主治医と連携して治療に努めるべきである.悪性黒色腫に対する新規癌治療薬としての免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬は承認薬剤が増えさらに生命予後が改善しているため,眼科医がこれらの薬剤が関与するぶどう膜炎に遭遇する機会は今後増えると予想される.抗腫瘍効果が不十分であったり,あるいは全身性の副作用の発現のため新規癌治療薬の変更が行われることは少なくないが,本症例のように新規癌治療薬の副作用として発症した原田病様ぶどう膜炎は薬剤を変更しても遷延化することがあり,注意深い経過観察や加療が必要である.文献1)山﨑直也,清原祥夫,宇原久ほか:悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引.SkinCancerC32:1-5,C20172)WongRK,LeeJK,HuangJJ:Bilateraldrug(ipilimumab)C-inducedvitritis,choroiditis,andserousretinaldetachmentssuggestiveofVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.RetinCasesBriefRepC6:423-426,C20123)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor),formetastaticcutaneousmalignantmelanoma.ClinicalCCaseReportsC5:694-700,C20174)ChoeCCH,CMcArthurCGA,CCaroCICetal:OcularCtoxicityCinCBRAFmutantcutaneousmelanomapatientstreatedwithvemurafenib.AmJOphthalmolC158:831-837,C20145)水井徹,臼井嘉彦,原田和俊ほか:抗CprogrammedCcelldeath1抗体ニボルマブ投与中にぶどう膜炎と脱色素を生じたC1例.日眼会誌121:712-718,C20176)木下悠十,野田拓志,古川真二郎ほか:ニボルマブ投与後にCVogt-小柳-原田病に類似した汎ぶどう膜炎を発症したC1例.臨眼71:1019-1025,C20177)大西瑞恵,大西英之,堀内義仁ほか:イピリムマブ投与後に発症したCVogt-小柳-原田病の様相を呈する汎ぶどう膜炎の一例.眼臨紀11:819-823,C20188)KadonoT:Immune-relatedCadverseCeventsCbyCimmuneCcheckpointinhibitors.NihonRinshoMenekiGakkaiKaishiC40:83-89,C20179)雪田昌克,阿部俊明,高橋秀肇ほか:Vogt-小柳-原田病におけるCHLA-DRB1040501検出の頻度.あたらしい眼科C27:129-132,C201010)DiemCS,CKellerCF,CRueschCRCetal:Pembrolizumab-trig-gereduveitis:AnCadditionalCsurrogateCmarkerCforCrespond-ersCinmelanomaimmunotherapy?CJImmunotherC39:379-382,C201611)AbuSamraK,Valdes-NavarroM,LeeSetal:AcaseofbilateralCuveitisCandCpapillitisCinCaCpatientCtreatedCwithCpembrolizumab.EurJOphthalmolC26:e46-48,C201612)TaylorSC,HrisomalosF,LinetteGPetal:Acaseofrecur-rentCbilateralCuveitisCindependentlyCassociatedCwithCdab-rafenibCandCpembrolizumabCtherapy.CAmCJCOphthalmolCCaseRepC13:23-25,C2016***